JP7203376B2 - 口腔粘膜上皮細胞培養用の架橋線維化コラーゲンゲル - Google Patents
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[1]気相-液相界面培養を含む口腔粘膜上皮細胞の培養において、細胞培養基材として用いる架橋線維化コラーゲンゲルであって、以下の(i)~(iii)の条件すべてを満たす架橋線維化コラーゲンゲル。
(i)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、損なわれていない(intact)架橋線維化コラーゲンによって構成されている。
(ii)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を含む領域を有している。
(iii)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、未架橋の線維化コラーゲンゲルが、カルボジイミド系架橋剤によって化学架橋された後、水性溶媒の存在下でγ線照射によって架橋されたものである。
[2]以下の工程を含む、[1]に記載の架橋線維化コラーゲンゲルの製造方法。
(1)その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を備えた転写部材を準備し、この転写部材と接触した状態で、可溶化コラーゲン水溶液中のコラーゲンを線維化させて、その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を含む領域を有した線維化コラーゲンゲルを得る第1工程。
(2)上記第1工程で得られた線維化コラーゲンゲルをカルボジイミド系架橋剤によって化学架橋処理する第2工程。
(3)上記第2工程で得られた化学架橋処理された線維化コラーゲンゲルを水性溶媒の存在下でγ線照射によって架橋処理する第3工程。
[3][1]に記載の架橋線維化コラーゲンゲルを細胞培養基材として用いて、口腔粘膜上皮細胞を液相培養し、次いで気相-液相界面培養する細胞培養方法。
[4][1]に記載の架橋線維化コラーゲンゲルを含む口腔粘膜再生用の医用材料。
[5]上記架橋線維化コラーゲンゲルに接着した口腔粘膜上皮細胞及び/又は口腔粘膜上皮様組織を含む[4]に記載の医用材料。
[6][1]に記載の架橋線維化コラーゲンゲルと、この架橋線維化コラーゲンゲルに接着した口腔粘膜上皮細胞及び/又は口腔粘膜上皮様組織を含む薬剤評価用材料。
本発明の架橋線維化コラーゲンゲルは、気相-液相界面培養を含む口腔粘膜上皮細胞の培養において、細胞培養基材として用いることに適したものである。この架橋線維化コラーゲンゲルは、以下の(i)~(iii)の条件すべてを満たすものである。
(i)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、損なわれていない(intact)架橋線維化コラーゲンによって構成されている。
(ii)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を含む領域を有している。
(iii)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、未架橋の線維化コラーゲンゲルが、カルボジイミド系架橋剤によって化学架橋された後、水性溶媒の存在下でγ線照射によって架橋されたものである。
口腔粘膜上皮細胞は、口腔粘膜由来上皮細胞とも呼ばれるものであり、その範疇には、細胞株、iPS細胞、ヒトの口腔粘膜上皮由来の初代培養細胞等が包含される。口腔粘膜上皮細胞は、液相培養のみによる培養も可能であるが、本発明に係る架橋線維化コラーゲンゲルを細胞培養基材として用いる培養方法は、少なくとも気相-液相界面培養を含む口腔粘膜上皮細胞の培養方法である。本発明の効果が阻害されない限り、気相-液相界面培養以外の培養方法、例えば、液相培養も許容される。好ましい実施態様の一例としては、口腔粘膜上皮細胞を液相培養し、次いで気相-液相界面培養する培養方法である。即ち、この培養方法は、液相培養によって口腔粘膜上皮細胞を細胞培養基材に定着させた後、気相-液相界面培養によって角質層の形成を誘導させる方法である。
本発明に係る架橋線維化コラーゲンゲルは、損なわれていない(intact)架橋線維化コラーゲンにより構成されている。本願明細書において「損なわれていない(intact)架橋線維化コラーゲン」は、切削等の加工により傷つけられていない架橋線維化コラーゲンを意味する。換言すれば、この条件(i)は、架橋線維化コラーゲンゲルが、架橋線維化コラーゲンを損傷する切削等の加工を受けていないことを規定するものである。
本発明に係る架橋線維化コラーゲンゲルの表面には、1又は2以上の凹部及び/又は凸部が形成されている。以下、本願明細書において、架橋線維化コラーゲンゲルの表面の1又な2以上の凹部を凹形状と称し、1又は2以上の凸部を凸形状と称する。また、凹形状及び/又は凸形状を「パターン形状」と総称する場合がある。また、架橋線維化コラーゲンゲルの表面とは、外表面を意味する。また、架橋線維化コラーゲンゲルの表面においてパターン形状を有する領域を「パターン領域」と称し、パターン形状が存在しない領域を「非パターン領域」と称する場合がある。なお、本発明における凹形状及び凸形状は、あくまでも、非多孔質である本発明の架橋線維化コラーゲンゲルの表面形状である。従って、後述する凹部の深さ及び凸部の高さは、非多孔質である本発明の架橋線維化コラーゲンゲルの非パターン領域を基準面として計測されるものであり、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載された多孔質体の平均孔径とは、本質的に異なる技術事項である。
更に、好ましくは、次の要件1~要件6のうち少なくとも1つ、より好ましくは2以上、特に好ましくは要件1~要件6の全てを満たすパターン凹形状である。
要件1:複数個の凹部が、規則的に配列されている。
要件2:各凹部の平面視形状が、円、正方形又は角丸正方形である。
要件3:各凹部の断面視形状が、正方形、長方形、台形、底部が角丸の正方形、底部が角丸の長方形、底部が角丸の台形又は乳頭形である。
要件4:各凹部の平面視面積が、1500μm2~250000μm2の範囲である。
要件5:各凹部の深さが、50~300μmの範囲である。
要件6:平面視における隣接する凹部間の最短距離(凹部の周縁同士の最短距離)が、50~500μmの範囲である。
本発明に係る架橋線維化コラーゲンゲルは、未架橋の線維化コラーゲンゲルを所定の方法により架橋処理することにより得られたものである。まず、本発明の架橋線維化コラーゲンゲルを特定するにあたって、架橋処理の規定を設けた理由を説明する。コラーゲンの架橋法として、物理的架橋法と化学的架橋法が知られている。物理的架橋法の代表例として、照射架橋(γ線照射、電子線照射、UV照射、プラズマ照射等による架橋)と熱脱水架橋があり、化学的架橋法の代表例として、水溶性化学架橋剤又は気化能を有する化学架橋剤による架橋がある。以下、架橋法を問わず、架橋された線維化コラーゲンゲルを「架橋体」とも称する。
本発明に係る架橋線維化コラーゲンゲルを細胞培養基材として、少なくとも気相-液相界面培養を含む口腔粘膜上皮細胞の培養に供した場合、培養試験終了後の細胞培養基材の収縮度合いは、小さい。詳細なメカニズムは不明であるが、カルボジイミド系架橋剤による化学処理後にγ線架橋された本発明の線維化コラーゲンゲルによれば、特許文献4の製造例2で得られるγ線照射のみで架橋された線維化コラーゲンゲルと比較して、培養試験中の収縮が大きく抑制される。
面積収縮率(%)=(A-B)/A×100
(ここで、Aは、架橋線維化コラーゲンゲルの細胞培養試験前の平面視面積であり、Bは、架橋線維化コラーゲンゲルの細胞培養試験終了後の平面視面積である。)
〔細胞培養試験〕
手順1:架橋線維化コラーゲンゲルを平面視円形(直径19mm)に成形し、細胞培養基材として、凹形状及び/又は凸形状の領域を含む領域が上向きになるように、12wellプレートのwell内に載置し、これを1μg/μLのIV型コラーゲン水溶液25μLとリン酸緩衝液500μLの混合液でコーティングした後、4℃で一晩静置する。
手順2:EpiLife(登録商標。Thermo Fisher Scientific)にEDGSを添加し1.2mM Ca++(high calcium)とした培地(以下「培地A」という)を準備し、ヒトの口腔粘膜上皮由来初代培養細胞と培地Aとを混合して細胞懸濁液を調製する。当該細胞懸濁液1mLを用いて、1×106cells/wellとなるように手順1の架橋線維化コラーゲンゲルの表面に播種した後、3.8mLの培地Aをwell内に注入し、総培地量を4.8mLとする(培養1日目)。
手順3:手順2の播種細胞を液相培養によって、培養4日目まで毎日培地交換して培養する。
手順4:培養4日目に、気相-液相界面培養に移行し、培養11日目まで1日おきに培地交換して培養する。
手順5:培養11日目に、培養細胞を含む架橋線維化コラーゲンゲルを培地から取り出し、湿潤状態のままでその平面視面積Bを測定する。
本発明の目的が阻害されない限り、使用目的に応じて、本発明の架橋線維化コラーゲンゲルに、その他構成要素として各種添加剤が配合されてもよい。その他構成要素の例として、フィブリン、トロンビン、ゼラチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸等が挙げられる。
本発明の架橋線維化コラーゲンゲルの製造方法は、以下の工程を含むものである。
(1)表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を備えた転写部材と接触した状態で、可溶化コラーゲン水溶液中のコラーゲンを線維化させて、その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を含む領域を有した線維化コラーゲンゲルを得る第1工程。
(2)上記第1工程で得られた線維化コラーゲンゲルをカルボジイミド系架橋剤によって化学架橋処理する第2工程。
(3)上記第2工程で得られた化学架橋処理された線維化コラーゲンゲルを水性溶媒の存在下でγ線照射によって架橋処理する第3工程。
第1工程は、可溶化コラーゲン水溶液から、その表面の少なくとも一部にパターン形状を含む領域を有する未架橋の線維化コラーゲンゲルを得る工程である。
第2工程は、第1工程で得られた未架橋の線維化コラーゲンゲルを、前述したカルボジイミド系架橋剤を用いて化学架橋する工程である。未架橋の線維化コラーゲンゲルをカルボジイミド系架橋剤によって化学架橋処理するための方法は、特に限定されず、既知の手法が適宜採用されうる。好適には、カルボジイミド系架橋剤の溶解液に線維化コラーゲンゲルを浸漬させる方法が用いられる。カルボジイミド系架橋剤溶解液の溶媒の例として、水、水と混合可能な有機溶媒及びこれらの混合物が挙げられる。水と混合可能な有機溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等が例示される。エタノールが好ましい。
第3工程は、化学架橋処理後の線維化コラーゲンゲルを、水性溶媒の存在下でγ線架橋する工程である。水性溶媒の種類は、前記で説明したとおりである。水性溶媒の使用量は、特に限定されず、第2工程で得られた化学架橋処理された線維化コラーゲンゲルの外形や大きさに応じて調整すればよい。例えば、少なくとも上記線維化コラーゲンゲルの表面全体が水性溶媒で覆われる状態となる量であり、好適には、上記線維化コラーゲンゲルが水性溶媒に完全に浸漬した状態となる量である。また、上記線維化コラーゲンゲルが水性溶媒に完全に浸漬していない状態、例えば、その一部が水性溶媒に浸漬していない場合であっても、当該部分における浸潤性が確保できていれば、水性溶媒に浸漬した状態と言える。本願明細書では、以上例示した状態を含めて、「水性溶媒の存在下」と称するものである。
前述したその他構成要素を本発明の架橋線維化コラーゲンゲルに配合する場合は、その他構成要素の種類、目的とする用途等に応じて、その他構成要素の配合タイミングを適切に設定することが好ましい。配合タイミングとして、例えば、第1工程の線維化前、第2工程の化学架橋処理前、第3工程のγ線架橋処理前等が挙げられる。
本発明の架橋線維化コラーゲンゲルの好適な一用途は、医用材料又は薬剤評価用材料である。当該材料の好適な構成は、本発明の架橋線維化コラーゲンゲルを必須構成要素とし、上記架橋線維化コラーゲンゲルに接着した口腔粘膜上皮細胞及び/又は口腔粘膜上皮様組織を任意構成要素として含むものである。
ティラピアの鱗から製造された多木化学(株)製「セルキャンパス FD-08G」(凍結乾燥品)をpH3のHCl溶液に溶解した後、コラーゲン濃度1.1%、pH3に調整して、無色透明の可溶化コラーゲン水溶液を得た。
転写部材A及びBを構成する素材は、いずれもポリジメチルシロキサンである。転写部材A及びBは、Siモールド(平面視1辺30mmの正方形)にポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製の商品名SILPOT 184)を流し込み、既知の条件で硬化させることにより作製した。得られた転写部材A及びBの平面視中央部の1辺10mmの正方形の領域内には、それぞれ、図1に示したパターン形状が形成された。このパターン形状は、平面視正方形の複数の凸部が規則的に配置された凸形状である。
転写部材Aにおいては、L=100μm、D=100μm、H=100μmである。
転写部材Bにおいては、L=200μm、D=200μm、H=200μmである。
転写部材Cは、Siモールド(平面視1辺30mmの正方形)にポリジメチルシロキサンを流し込み、既知の条件で硬化させることにより作製した。転写部材Cは、その表面にいかなるパターン形状も有していない平板状である。
(第1工程)
凸形状を有する領域が上向きとなるように設置した転写部材Aの上に、中央部に穴を設けたシリコン板(厚さ2.5mm)を載置した。この穴は直径19mmの円形であり、穴の中心部分に転写部材Aの凸形状を有した領域が配置されるように、シリコン板を載置した。
次に、シリコン板の穴に対し、可溶化コラーゲン水溶液の9容量部と10倍濃度のダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)の1容量部とを混合した混合液を、0.78mL流し込んだ。上記混合液は、転写部材Aの凸部と凸部との間の窪み部に容易に入り込んだ。その後、25℃で12時間保持して線維化コラーゲンゲル(0.78g、コラーゲン濃度1質量%)を得た。転写部材Aからの線維化コラーゲンゲルの取り外しは容易であり、また、転写部材Aには何らの付着物もなかった。
転写部材Aの凸形状を有した領域と接触していた線維化コラーゲンゲルの表面を確認したところ、転写部材Aの凸形状がほぼそのまま反映された凹形状を含む領域を有していることを確認した。
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)・塩酸塩をエタノールに1w/v%となるように溶解して、EDC溶液を調製した。第1工程で得られた凹形状を付与された線維化コラーゲンゲルを、10mLのEDC溶液中に完全に浸漬させた状態で、室温下24時間回転攪拌して、架橋反応させた。次に、化学架橋処理された線維化コラーゲンゲルをD-PBS中に完全に浸漬させた状態で、室温下3時間回転攪拌して、洗浄を行った。
化学架橋処理された線維化コラーゲンゲルを洗浄用D-PBSから取り出した後、これを新たなD-PBS中に完全に浸漬させた状態で25kGyのγ線を照射することにより、実施例1の架橋線維化コラーゲンゲルを得た。当該架橋線維化コラーゲンゲルは、第1工程で確認した凹形状が保持されたものであることを確認した。
転写部材Aの代わりに転写部材Bを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の架橋線維化コラーゲンゲルを得た。当該架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面に、転写部材Bの凸形状がほぼそのまま反映された凹形状を含む領域を有していることを確認した。
転写部材Aの代わりに転写部材Cを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の架橋線維化コラーゲンゲルを得た。当該架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面にいかなるパターン形状も有していない平板状であることを確認した。
実施例1の第1工程を同様に実施することにより、凹形状を付与された線維化コラーゲンゲルを得た。次に、この線維化コラーゲンゲルをD-PBS中に完全に浸漬させた状態で25kGyのγ線を照射することにより、比較例2の架橋線維化コラーゲンゲルを得た。当該架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面に、転写部材Aの凸形状がほぼそのまま反映された凹形状を含む領域を有していることを確認した。
転写部材Aの代わりに転写部材Bを用いた以外は比較例2と同様にして、比較例3の架橋線維化コラーゲンゲルを得た。当該架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面に、転写部材Bの凸形状がほぼそのまま反映された凹形状を含む領域を有していることを確認した。
平面視円形(直径19mm)に成形した実施例1及び2並びに比較例1~3の各架橋線維化コラーゲンゲルを細胞培養基材として、以下の手順により、細胞培養試験を実施した。なお、各細胞培養基材の厚みは、約2.5mmであった。また、細胞は、新潟大学歯学部倫理委員会の承認を受けて実験に使用している、新潟大学医歯学総合病院の口腔外科を受診した患者の口腔粘膜上皮由来の初代培養細胞を用いた。
12wellプレートに、各細胞培養基材を収容した。なお、実施例1及び2並びに比較例2及び3の各架橋線維化コラーゲンゲルについては、凹形状を有する面を上面とした。これを1 wellあたり1μg/μLのIV型コラーゲン水溶液25μLとリン酸緩衝液500μLの混合液でコーティングした後、4℃で一晩静置した。
(Day 1)
上記口腔粘膜上皮由来初代培養細胞と培地Aとを混合して細胞懸濁液を調製した。当該細胞懸濁液1mLを用いて、1×106 cells/wellとなるように手順1の架橋線維化コラーゲンゲルの表面に播種した後、3.8mLの培地Aをwell内に注入し、総培地量を4.8mLとした。その後、液相培養(Submerged Culture)にて培養4日目(Day 4)まで毎日培地交換した。
(Day 4)
気相-液相界面培養(air-liquid interface culture)に移行し、1日おきに培地交換した。当該培養を培養11日目(Day 11)まで継続した。
(Day 11)
各細胞培養基材を取り出し、4%パラホルムアルデヒドに一晩浸漬(4℃)することにより、得られた培養組織を固定した。
その後、パラフィン包埋したものに常法によるヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施して、光学顕微鏡による形態観察に供した。
図2は、Day 11に取り出した湿潤状態の各培養基材の、4%パラホルムアルデヒドで固定する前の外観写真である。この外観写真から、化学架橋後にγ線架橋して得られた実施例1及び2並びに比較例1では、γ線架橋のみによって得られた比較例2及び3と比較して、その収縮が顕著に抑制されたことがわかる。
図2の外観写真を元に、各細胞培養基材の試験終了後の平面視面積Bを求めた。次いで、細胞培養試験供試前の、平面視円形(直径19mm)の細胞培養基材の平面視面積Aから、面積収縮率(%)=(A-B)/A×100の式により面積収縮率を算出した。これにより算出した各面積収縮率は、実施例1:-0.6%、実施例2:1%、比較例1:-5.3%、比較例2:35.5%、比較例3:60.1%であった。面積収縮率が負の値を示した実施例1及び比較例1の架橋線維化コラーゲンゲルは、膨潤したと考えられる。
図2の外観写真だけでなく、面積収縮率の値によっても、化学架橋後にγ線架橋して得られた実施例1及び2並びに比較例1では収縮が顕著に抑制されたのに対し、γ線架橋のみによって得られた比較例2及び3では顕著な収縮が起きていたことが示された。
実施例1及び実施例2の組織像については、細胞培養基材の凹部において増殖した上皮脚様の細胞も見られ、乳頭様構造を有する生体の口腔粘膜上皮組織に類似した構造と言えるものであった。なお、実施例1の方が生体の口腔粘膜上皮組織により類似していた。
一方、比較例1の組織像については、扁平構造であり、生体の口腔粘膜上皮組織には類似していないものであった。また、形成された培養組織が基材から剥離しやすいものであった。
21・・・基準面
33・・・凸部
Claims (6)
- 気相-液相界面培養を含む口腔粘膜上皮細胞の培養において、細胞培養基材として用いる架橋線維化コラーゲンゲルであって、
以下の(i)~(iii)の条件すべてを満たし、
(i)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、損なわれていない(intact)架橋線維化コラーゲンによって構成されている。
(ii)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を含む領域を有している。
(iii)上記架橋線維化コラーゲンゲルは、未架橋の線維化コラーゲンゲルが、カルボジイミド系架橋剤によって化学架橋された後、水性溶媒の存在下でγ線照射によって架橋されたものである。
上記架橋線維化コラーゲンゲルを細胞培養基材として以下の細胞培養試験に供したとき、この試験終了後の架橋線維化コラーゲンゲルの平面視面積Bの、試験前の平面視面積Aに対する面積収縮率(%)=(A-B)/A×100が、10%以下である、架橋線維化コラーゲンゲル。
〔細胞培養試験〕
手順1:架橋線維化コラーゲンゲルを平面視円形(直径19mm)に成形し、細胞培養基材として、凹形状及び/又は凸形状の領域を含む領域が上向きになるように、12wellプレートのwell内に載置し、これを1μg/μLのIV型コラーゲン水溶液25μLとリン酸緩衝液500μLの混合液でコーティングした後、4℃で一晩静置する。
手順2:EpiLife(登録商標。Thermo Fisher Scientific)にEDGSを添加し1.2mM Ca++(high calcium)とした培地(以下「培地A」という)を準備し、ヒトの口腔粘膜上皮由来初代培養細胞と培地Aとを混合して細胞懸濁液を調製する。当該細胞懸濁液1mLを用いて、1×10 6 cells/wellとなるように手順1の架橋線維化コラーゲンゲルの表面に播種した後、3.8mLの培地Aをwell内に注入し、総培地量を4.8mLとする(培養1日目)。
手順3:手順2の播種細胞を液相培養によって、培養4日目まで毎日培地交換して培養する。
手順4:培養4日目に、気相-液相界面培養に移行し、培養11日目まで1日おきに培地交換して培養する。
手順5:培養11日目に、培養細胞を含む架橋線維化コラーゲンゲルを培地から取り出し、湿潤状態のままでその平面視面積Bを測定する。 - 以下の工程を含む、請求項1に記載の架橋線維化コラーゲンゲルの製造方法。
(1)その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を備えた転写部材を準備し、この転写部材と接触した状態で、可溶化コラーゲン水溶液中のコラーゲンを線維化させて、その表面の少なくとも一部に凹形状及び/又は凸形状を含む領域を有した線維化コラーゲンゲルを得る第1工程。
(2)上記第1工程で得られた線維化コラーゲンゲルをカルボジイミド系架橋剤によって化学架橋処理する第2工程。
(3)上記第2工程で得られた化学架橋処理された線維化コラーゲンゲルを水性溶媒の存在下でγ線照射によって架橋処理する第3工程。 - 請求項1に記載の架橋線維化コラーゲンゲルを細胞培養基材として用いて、口腔粘膜上皮細胞を液相培養し、次いで気相-液相界面培養する細胞培養方法。
- 請求項1に記載の架橋線維化コラーゲンゲルを含む口腔粘膜再生用の医用材料。
- 上記架橋線維化コラーゲンゲルに接着した口腔粘膜上皮細胞及び/又は口腔粘膜上皮様組織を含む請求項4に記載の医用材料。
- 請求項1に記載の架橋線維化コラーゲンゲルと、この架橋線維化コラーゲンゲルに接着した口腔粘膜上皮細胞及び/又は口腔粘膜上皮様組織を含む薬剤評価用材料。
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Biomaterials, 2009, Vol.30, No.32, pp.6418-6425 |
Journal of Materials Science: Materials in Medicine, 2018.05.28,Vol.29, 75 (pp.1-8) |
Also Published As
Publication number | Publication date |
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JP2020105083A (ja) | 2020-07-09 |
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