JP7201092B2 - 真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法 - Google Patents

真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法に関する。なお、本明細書において、浸炭処理された鋼部品を、「浸炭部品」と称する。
高い面疲労強度が求められる鋼部品は、鋼材に対して表面硬化処理を実施して製造される。表面硬化処理方法の一つに、真空浸炭処理方法がある。真空浸炭処理方法は、浸炭工程と拡散工程とを備える。浸炭工程では、炭化水素ガスである浸炭ガスを導入して、浸炭温度に加熱された鋼材の表面の炭素濃度を高める。炭化水素ガスはたとえば、アセチレンやプロパン等である。拡散工程では、浸炭工程後、浸炭ガスの導入を停止して、鋼材の表層の深さ方向に炭素を拡散させる。浸炭工程及び拡散工程の時間等を調整することにより、鋼材の表層の炭素濃度を制御する。
しかしながら、浸炭ガスである炭化水素ガスは熱力学的に不安定である。そのため、浸炭温度が高い場合、浸炭ガスは炭素及び水素等に分解しやすい。浸炭温度が高い場合さらに、浸炭ガス分子は活発に運動する。活発な運動により、浸炭ガス分子同士が高速で衝突し、浸炭ガスが分解する。浸炭ガスの分解により、煤やタールが発生する。この場合、表面炭素濃度及び浸炭深さがばらつく。そのため、浸炭部品の表層を一定の品質に保つことができない。そのため、真空浸炭処理方法には、浸炭部品の表面の炭素濃度のばらつき、及び、表層の浸炭深さのばらつきの抑制が求められる。以降の説明では、浸炭部品における表面の炭素濃度のばらつき、及び、浸炭部品の表層の浸炭深さのばらつきを「浸炭ばらつき」という。
浸炭ばらつきを抑制する技術が、特開平8-325701号公報(特許文献1)、特開2016-148091号公報(特許文献2)、特開2002-173759号公報(特許文献3)、特開2005-350729号公報(特許文献4)、及び、特開2012-7240号公報(特許文献5)に提案されている。
特許文献1に記載された真空浸炭処理方法は、鋼材からなるワークを、真空浸炭炉の加熱室内で真空加熱するとともに、加熱室内に浸炭ガスを供給して浸炭処理を行う。この真空浸炭処理方法では、浸炭ガスとしてガス状の鎖式不飽和炭化水素を使用する。そして、加熱室内を1kPa以下の真空状態として浸炭処理を実施する。これにより、煤の発生を抑えつつ、均一に浸炭できる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に記載された真空浸炭処理方法では、減圧した雰囲気の浸炭室に浸炭ガスを噴射することにより、浸炭室に配置した被処理物を浸炭する。この真空浸炭処理方法では、浸炭室へ噴射する浸炭ガスのガス噴射量を、被処理物の浸炭室における荷姿状態での容積と、浸炭室の体積と、被処理物の総表面積と、浸炭ガスの種類に基づき設定される定数と、に基づいて算出する。そして、算出されたガス噴射量の浸炭ガスを、浸炭室に噴射する。これにより、スポット状の過剰浸炭の発生を防ぐことができる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に記載された真空浸炭雰囲気ガス制御システムでは、プロパンガスを浸炭ガスとする。この制御システムでは、被浸炭処理材がセットされる真空浸炭炉内に浸炭ガスを供給する。そして、浸炭ガスの熱分解反応によって生じるカーボンが被浸炭処理材中へ固溶及び拡散することにより、被浸炭処理材の浸炭処理を行う。この制御システムでは、この熱分解反応により発生する水素ガスの分圧を浸炭処理中常時計測する。そして、その計測値に基づいて炉内に供給される浸炭ガス量をリアルタイムで調整制御する。これにより、高品質の浸炭鋼を安定的に生産できる、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に記載された真空浸炭処理方法では、浸炭処理に必要な浸炭ガスの理論流量Vと浸炭時間tとの関係V=f(t)を、浸炭深さと表面炭素濃度とにより、材料の内部拡散に基づいて算出する。そして、浸炭工程の浸炭前期において、理論流量Vよりも十分多くかつスーティングの発生しない浸炭時流量V1を供給する。さらに、浸炭前期に続く浸炭後期において、理論流量Vよりも少ない拡散時流量V2を供給する。これにより、煤の発生を防止しつつセメンタイトの残存を低減できる、と特許文献4には記載されている。
特許文献5に記載された真空浸炭方法では、被処理品内部への炭素の拡散に基づいて、浸炭処理に必要な浸炭ガスの理論流量の時間変化を求める。そして、理論流量の時間変化に基づいて、理論流量における浸炭反応により生じる水素の処理室内の全圧力に対する分圧比を理論水素分圧比と定義する。理論水素分圧比の時間変化を求め、理論水素分圧比の時間変化と、実際の浸炭処理時における処理室内の全圧力に対する水素分圧比の時間変化とを比較する。これらの近似度合いに基づいて、同一操業バッチ内における浸炭品質のばらつき度合いを判定する。これにより、浸炭部品の品質の再現性を高め、浸炭部品の品質ばらつきを低減できる、と特許文献5には記載されている。
特開平8-325701号公報 特開2016-148091号公報 特開2002-173759号公報 特開2005-350729号公報 特開2012-7240号公報
しかしながら、特許文献1~特許文献5の真空浸炭処理方法と異なる他の方法により、浸炭ばらつきを抑制できてもよい。
本開示の目的は、浸炭ばらつきを抑制可能な真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法を提供することである。
本開示による真空浸炭処理方法は、
真空浸炭炉内で鋼材に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭処理方法であって、
前記鋼材を浸炭温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼材を前記浸炭温度で均熱する均熱工程と、
前記均熱工程後、アセチレンガスである浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する浸炭工程と、
前記浸炭工程後、前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する拡散工程と、
前記拡散工程後の前記鋼材に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、
を備え、
前記浸炭工程において、
前記真空浸炭炉内に供給される前記浸炭ガスの流量を、実際浸炭ガス流量と定義し、
前記鋼材の前記真空浸炭処理に必要な前記浸炭ガスの流量を、理論浸炭ガス流量と定義し、
前記浸炭工程の完了時間をtaと定義し、
前記浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間をt0と定義したとき、
前記浸炭工程は、
前記真空浸炭炉内の雰囲気中の前記水素分圧及び前記アセチレン分圧を継続的に測定して前記時間t0を特定する分圧測定工程と、
前記浸炭工程の開始から時間t0までの前期浸炭工程と、
前記時間t0から時間taまでの後期浸炭工程と、
を含み、
前記前期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を、時間ta/10での前記理論浸炭ガス流量以上、かつ、前記浸炭工程の開始から4秒時点での前記理論浸炭ガス流量以下とし、
前記後期浸炭工程では、
前記前期浸炭工程の前記実際浸炭ガス流量をFAと定義し、前記浸炭工程の開始時からの時間を時間tと定義したとき、
前記時間t0~時間4t0の期間における前記実際浸炭ガス流量を、FA√(t0/t)以上、かつ、FA以下とし、
前記時間4t0~前記時間taまでの前記実際浸炭ガス流量を、FA√(t0/t)以上、かつ、2FA√(t0/t)以下、とする。
本開示による浸炭部品の製造方法は、
前記鋼材に対して、上述の真空浸炭処理方法を実施する工程を備える。
本開示の真空浸炭処理方法は、浸炭ばらつきを抑制できる。本開示の浸炭部品の製造方法は、浸炭ばらつきが抑制された浸炭部品を製造できる。
図1は、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションで得られた鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、理論浸炭ガス流量と時間との関係の一例を示す図である。 図2は、従来の浸炭工程における実際浸炭ガス流量の経時変化と、理論浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図3は、本実施形態による真空浸炭処理方法の浸炭工程における、実際浸炭ガス流量の経時変化(下図)と、浸炭工程における真空浸炭炉の雰囲気中のアセチレン分圧及び水素分圧の経時変化(上図)とを示す図である。 図4は、本実施形態の真空浸炭処理方法のヒートパターンの一例を示す図である。 図5は、本実施形態の真空浸炭処理方法の前期浸炭工程でのガス流量設定値の一例を示す図である。 図6は、本実施形態の真空浸炭処理方法のガス流量設定値の一例を示す図である。 図7は、図6と異なる、本実施形態の真空浸炭処理方法のガス流量設定値の一例を示す図である。 図8は、図6及び図7と異なる、本実施形態の真空浸炭処理方法のガス流量設定値の一例を示す図である。 図9は、試験番号1、試験番号5、試験番号7~試験番号12の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図10は、試験番号2~試験番号4、試験番号6の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図11は試験番号13、試験番号14の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図12は試験番号15~試験番号17の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図13は試験番号18の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図14は試験番号19の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図15は試験番号20の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。 図16は試験番号21の浸炭工程でのガス流量設定値とガス分析値との模式図である。
本発明者らは、真空浸炭処理方法における浸炭部品での浸炭ばらつきを抑制する方法について検討を行った。本発明者らは、初めに、真空浸炭炉内に供給されたにも関わらず浸炭反応を起こさずに排気される浸炭ガスが存在することに着目した。浸炭反応を起こさなかった浸炭ガスの一部は煤となり、真空浸炭処理の対象となる鋼材に付着する。煤は、炭素の供給源となる。そのため、鋼材のうち煤の付着した部分では、炭素が過剰に供給される。そのため、煤の付着により、浸炭ばらつきが生じやすくなる。一方、煤の付着を抑制するために浸炭ガス流量を過剰に少なくすれば、浸炭反応が不十分となる。この場合も、浸炭ばらつきが生じやすくなる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、浸炭工程において真空浸炭炉内の雰囲気から鋼材の表面に侵入する浸炭ガスの流量を理論的に規定することに着想した。本明細書において、「理論浸炭ガス流量」とは、鋼材の表面から所定の深さ位置での炭素濃度を所望の濃度にするために必要な浸炭ガス流量であって、かつ、全ての浸炭ガスが浸炭反応に用いられることを前提とした浸炭ガス流量を意味する。本発明者らは、事前に規定された理論浸炭ガス流量に基づいて実際の真空浸炭処理で真空浸炭炉に供給する浸炭ガスの流量(以下、実際浸炭ガス流量と表現する)を調整することにより、浸炭反応に寄与しない浸炭ガスの量を抑制し、かつ、浸炭反応が不足しないようにすることができ、その結果、浸炭ばらつきを抑制できると考えた。
真空浸炭処理の進行に伴い、炭素濃度の勾配が緩やかになるため、鋼材表面から鋼材内部に侵入する炭素の拡散流束が減少する。炉内雰囲気から鋼材に侵入する浸炭ガス流量は、時間の経過とともに減少する。そこで、理論浸炭ガス流量は、浸炭ガスの供給開始(浸炭工程開始)からの時間の経過に伴い変動する関数となる。理論浸炭ガス流量は、拡散シミュレーションに基づいて求めることもできるし、実験により求めることもできる。以下、理論浸炭ガス流量の決定方法の一例として、拡散シミュレーションに基づく理論浸炭ガス流量の決定について説明する。ただし、理論浸炭ガス流量の決定方法は、上述のとおり、拡散シミュレーションに限定されるものではない。
[理論浸炭ガス流量について]
本実施形態の真空浸炭処理方法では、浸炭ガスとしてアセチレンを用いる。アセチレンの分解は、浸炭対象となる鋼材の表層での炭素の拡散により律速される。つまり、鋼材表面から鋼材内部に侵入する炭素の拡散流束が大きいほど、アセチレンの分解量が多くなる。なお、アセチレン以外の浸炭ガスで浸炭する場合には、後述するように浸炭反応以外の化学反応が想定される。したがって、本実施形態の真空浸炭処理方法に適用することは困難である。
真空浸炭処理では、鋼材中を炭素が拡散する、つまり、Fickの第1法則が成立している。真空浸炭処理により、鋼材の表面から所定の深さ位置での炭素濃度を所望の濃度にするために必要な浸炭ガス(アセチレンガス)の流量であって、全ての浸炭ガスが浸炭反応に用いられることを前提とした浸炭ガス流量を、理論浸炭ガス流量FT(t)と定義する。ここで、tは、浸炭工程の開始時からの時間である。浸炭工程の開始時とは、後述するとおり、浸炭ガスを炉内に供給を開始した時を意味する。FT(t)は、鋼材表面に侵入する炭素流量をアセチレンガス流量に換算した値に対応する。なお、以降の説明では、理論ガス流量を単に「FT」とも表記する。
理論浸炭ガス流量FTは、例えば、鋼材表面から侵入する炭素の拡散流束J(mm・質量%/s)と、単位時間当たりの炭素濃度の変化量(∂C/∂t)とを、拡散方程式を用いた周知の拡散シミュレーションに基づいて計算することにより、算出可能である。具体的には、理論浸炭ガス流量は、次の方法で求めることができる。
拡散が起こる場合(つまり、Fickの第1法則が成立している場合)、鋼材表面から侵入する炭素の拡散流束Jは式(1)で定義され、単位時間当たりの炭素濃度の変化量(∂C/∂t)は式(2)で定義される。
J=-D(∂C/∂z) (1)
∂C/∂t=-∂J/∂z (2)
ここで、Dは鋼材中の炭素の拡散係数(mm/s)である。Cは炭素の質量濃度(質量%)である。zは鋼材表面からの深さ方向への変位(mm)である。tは浸炭工程を開始してからの時間(秒)である。∂は偏微分記号である。
炭素濃度の変化量を化学ポテンシャルの勾配に基づいて計算すれば、炭素の拡散駆動力を厳密に取り扱うことになる。この場合、炭素の拡散流束J(mm・mol%/s)は式(3)で定義され、炭素濃度の時間変化は式(4)で定義される。
J=-mx(∂μ/∂z) (3)
∂x/∂t=-∂J/∂z (4)
ここでmは炭素の易動度(mm・mol/J・s)である。xは炭素のモル濃度(mol%)である。μは炭素の化学ポテンシャル(J/mol)である。zは深さ方向への変位(mm)である。式(4)中のtは浸炭工程を開始してからの時間(s)である。∂は偏微分記号である。
ここで、炭素の拡散の駆動力は式(3)中の(∂μ/∂z)の部分である。また、真空浸炭処理におけるオーステナイト(γ)中の炭素濃度は2%以下と小さく、モル濃度と質量濃度とはほぼ比例関係にある。したがって、式(3)を質量濃度(質量%)で表記してもよい。式(3)を質量%で表記する場合、炭素の拡散流束J(mm・質量%/s)は式(5)で定義され、炭素濃度の時間変化は式(2)で定義される。
J=-mC(∂μ/∂z) (5)
式(5)中のCは、炭素濃度(質量%)である。
上記のFickの第1法則(式(1)、(3)及び式(5))、及び、Fickの第2法則(式(2)及び式(4))を用いて、理論浸炭ガス流量FTを算出するための拡散シミュレーションを、次の方法で行う。
浸炭ガスにアセチレンを用いた真空浸炭処理では、鋼材の表面において、浸炭ガスの分解により、鋼材の表面から鋼材に炭素が侵入する。浸炭工程時の鋼材表面では、黒鉛と平衡するまで鋼材中の炭素濃度が上昇すると仮定する。そこで、真空浸炭処理での鋼材表面の炭素の拡散シミュレーションでの境界条件を、「鋼材表面の炭素濃度が黒鉛と平衡する」と定義する。以上の前提で次のとおり拡散シミュレーションを実施する。
[拡散シミュレーションでの計算方法]
始めに、真空浸炭処理の対象となる鋼材の表層を複数のセルで区分したメッシュデータを作成する。各セルのサイズは周知のサイズで足りる。セルのサイズはたとえば、1~500μmである。セルのサイズは鋼材の表面から深さ方向に徐々に拡大してもよい。その場合、隣り合うセルのサイズの比は0.80~1.25であり、好ましくは0.90~1.10である。ただし、セルのサイズはこれに限定されない。拡散シミュレーションを行う対象は一次元としてよい。鋼材の形状が丸棒又は円筒である場合、メッシュデータを円筒座標系とすることで一次元として取り扱うことができる。さらに、鋼材(丸棒又は円筒)の直径が鋼中の炭素の拡散距離の50倍以上であれば、平面と同じ取扱いをしてよい。ここでいう拡散距離とは√Dtである。拡散係数Dは鋼材の炭素濃度と浸炭温度とから計算する。時間t(秒)は浸炭時間(浸炭工程の実施時間)である。たとえば、JIS G 4053(2008)に規定されたSCM415を鋼材として用い、浸炭温度が950℃で浸炭時間が51分の場合、拡散距離√Dtは0.20mmとなる。この場合、鋼材の直径が10mm以上であれば、平面と同じ取扱いをしてよい。なお、JIS G 4053(2008)に規定されたSCM420を鋼材として用い、浸炭温度が950℃で浸炭時間が51分の場合、拡散距離√Dtは0.21mmとなる。また、拡散シミュレーションの解析時間(ステップ時間)を設定する。ステップ時間は特に限定されないが、たとえば、0.001~1.0秒とする。
真空浸炭処理では、浸炭工程が実施され、その後、拡散工程が実施される。浸炭工程及び拡散工程のセットは、複数回実施する場合もある。たとえば、浸炭工程及び拡散工程のセットを2回実施する場合、1回目の浸炭工程を実施し、1回目の浸炭工程後に1回目の拡散工程を実施する。さらに、1回目の拡散工程後に2回目の浸炭工程を実施し、2回目の浸炭工程後に2回目の拡散工程を実施する。このように浸炭工程及び拡散工程を複数回実施する場合、各浸炭工程ごとに、前回の浸炭工程での理論浸炭ガス流量をリセットし、次の浸炭工程での理論浸炭ガス流量を新たに設定する。
なお、n回目(nは1以上の自然数)の浸炭工程を実施した後、n回目の浸炭工程時間の1/10未満の拡散工程を挟んでn+1回目の浸炭工程を実施した場合、n回目の浸炭工程とn+1回目の浸炭工程とは、1回の浸炭工程と考える。つまり、この場合、n回目の浸炭工程で設定した理論ガス流量をリセットせずにそのままn+1回目の浸炭工程に用いる。換言すれば、n回目の浸炭工程とn+1回目の浸炭工程の間の拡散工程時間が、n回目の浸炭工程時間の1/10以上であれば、n+1回目の浸炭工程では、n回目の浸炭工程の理論浸炭ガス流量をリセットして、新たな理論浸炭ガス流量を設定する。
上述のとおり、鋼材表面の炭素濃度は黒鉛と平衡状態であるとする。そこで、真空浸炭処理の対象となる鋼材の化学組成に基づいて、浸炭温度における、黒鉛と平衡状態での平衡相及び平衡組成を、周知の熱力学計算により求める。真空浸炭処理の対象となる鋼材の化学組成は、C濃度の増加によって希釈されることを考慮した上で、黒鉛が平衡相として現れるまでC濃度を増加させて熱力学計算を行う。たとえば、C濃度が7質量%増加すると、鋼材自体の質量が1.07倍になる。そのため、C以外の他の元素の濃度は1/1.07倍とした化学組成に基づいて熱力学計算を行う。熱力学計算により求めた平衡相及び平衡組成により、鋼材中のC含有量、Cの化学ポテンシャル、及び、オーステナイト中に固溶する固溶C濃度を特定できる。熱力学計算には周知の熱力学計算ソフトを用いることができる。周知の熱力学計算ソフトとはたとえば、商品名Pandat(商標)である。
同様に、鋼材表面以外の鋼材内部においては、真空浸炭の場合、セメンタイト(θ)が析出する場合がある。この場合、鋼材中の炭素(C)が、セメンタイトとオーステナイトとに分配される。そこで、浸炭温度における、鋼材表面以外の鋼材内部の平衡相及び平衡組成を、上述の熱力学計算により求める。鋼材表面と同様に、鋼材内部においても、平衡相、平衡組成、鋼材中のC含有量、Cの化学ポテンシャル、及び、オーステナイト中に固溶する固溶C濃度を特定できる。
鋼材中のオーステナイト中の炭素の拡散係数Dは、真空浸炭処理の対象となる鋼材を用いて予め実験により求めた数値を利用してもよいし、実験データとして報告されているデータを用いてもよい。たとえば、オーステナイト中のCの拡散係数D(m/s)として、Gray G.Tibbettsらにより提唱されたものを参考に、以下の式を用いてもよい。
D=4.7×10-5×exp(-1.6×C-(37000-6600×C)/1.987/T)
ここで、式中の「C」はオーステナイト中の固溶C濃度(質量%)であり、Tは浸炭温度(K)である。
鋼材中のオーステナイト中の炭素の易動度m(m/s)は、拡散係数Dと熱力学計算とから求めることができる。易動度mを定式化したものが以下の式である。
m=1.54×10-15exp(-1.61×C-(17300-2920×C)/T)
ここで、式中の「C」はオーステナイト中の固溶C濃度(質量%)であり、Tは浸炭温度(K)である。
次に、真空浸炭処理により得られる表層のC濃度を設定する。具体的には、最表面のセルでの目標とする炭素濃度と、所定深さでの目標とする炭素濃度とを設定する。さらに、初期値として、全てのセルでの固溶C濃度=鋼材(芯部)の化学組成のC濃度(C)とし、全てのセルにおいてセメンタイト析出量を0とする。
以上の前提条件に基づいて、ステップ時間ごとに、次の計算を実施する。
(A)各セルでの炭素濃度と、熱力学計算結果とに基づいて、浸炭温度での各セルでのオーステナイト中の固溶C濃度(つまり、拡散するCの濃度)を特定する。このとき、セメンタイト中のCは固定され、オーステナイト中の固溶Cのみが拡散すると仮定する。
(B)各セルにおいて、特定した固溶C濃度に基づいて、式(1)、式(3)又は式(5)を用いて、差分法により、各セルでの拡散流束Jを求める。このとき、上述のとおり、鋼材表面の固溶炭素濃度は、黒鉛と平衡状態時の固溶限界の固溶炭素濃度(Csat)とする。鋼材表面からの拡散流束Jに基づいて、浸炭効率を100%として、アセチレン流量を求める。求めたアセチレン流量を、そのステップ時間での理論浸炭ガス流量と定義する。
(C)求めた各セルでの拡散流束Jに基づいて、そのステップ時間経過時点での各セルのC濃度を決定する。
(D)熱力学計算結果に基づいて、平衡相としてセメンタイトが生成するか判断する。なお、セメンタイトの生成に必要な時間は無視する(つまり、次のステップ時間での(A)を決定する)。
(E)浸炭工程を2回以上行う場合、浸炭工程の間の拡散工程のシミュレーションを行い、その後浸炭工程のシミュレーションを行う。拡散工程においては、鋼材表面からの拡散流束Jをゼロとして、(A)~(D)の計算を行う。
以上の計算をステップ時間ごとに求め、浸炭工程時における鋼材の単位表面積あたりの鋼材表面からの炭素の拡散流束J(t)を求める。そして、鋼材の単位表面積あたりの拡散流束J(t)をアセチレンガス流量に換算し、さらに、真空浸炭処理の対象となる鋼材の表面積S(m)を乗じて、時間tでの理論浸炭ガス流量FT(t)を求める。横軸を浸炭開始時からの経過時間(浸炭時間)とし、縦軸を理論浸炭ガス流量FTとする図において、各浸炭時間における理論浸炭ガス流量FTをプロットすることにより、理論浸炭ガス流量FTを理論浸炭ガス流量曲線として表すことができる。図1は、上述の拡散シミュレーションで得られた鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、理論浸炭ガス流量と時間との関係の一例を示す図である。図1中の●は、各時間における理論浸炭ガス流量FTを示す。図1中の曲線C1.00は、理論浸炭ガス流量曲線を示す。
理論浸炭ガス流量曲線C1.00の近似式は、式(6)で表すことができる。
FT=S×A/√t (6)
ここで、FTは理論浸炭ガス流量(NL/分)である。式(6)中のAは、式(7)で表現することができる。式(6)中のtは、浸炭工程開始時からの時間(分)である。
A=a×T+b×T+c (7)
式(7)中のa、b及びcは鋼材の化学組成によって決まる定数であり、Tは浸炭温度(℃)である。たとえば、鋼材がJIS G 4053(2008)に規定されたSCM420である場合、上述の拡散シミュレーションで求めると、a=8.52×10-5であり、b=-0.140であり、c=58.2である。鋼材がJIS G 4053(2008)に規定されたSCM415である場合、上述の拡散シミュレーションで求めると、a=8.64×10-5であり、b=-0.141、c=59.0である。
理論浸炭ガス流量FTの近似式である式(6)も、本明細書では、理論浸炭ガス流量FTとみなす。つまり、式(6)に基づいて、実際の浸炭工程において、各浸炭時間における理論浸炭ガス流量FTを求めてもよい。
上述の説明では、理論浸炭ガス流量の決定方法の一例として、拡散方程式を用いた周知の拡散シミュレーションに基づいて、理論浸炭ガス流量を求めた。しかしながら、他の方法により理論浸炭ガス流量を決定してもよい。たとえば、実験により、理論浸炭ガス流量を決定することもできる。
実験により理論ガス流量を求める方法は、例えば、次のとおりである。実際に真空浸炭処理する鋼材と同等の化学組成の鋼材に対して、真空浸炭処理を実施する。真空浸炭炉に供給する浸炭ガス流量を一定とし、浸炭工程中において、真空浸炭炉内のアセチレン分圧と水素分圧とを継続的に測定する。そして、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間t0が浸炭工程の完了時間である時間ta(つまり、全浸炭工程時間)の1/10以下となる浸炭ガス流量の最小値FAminを求める。求めた浸炭ガス流量FAminに基づいて、理論浸炭ガス流量FT=FAmin√(t0/t)とする。
なお、上述のとおり、理論浸炭ガス流量は、鋼材表面に接触して浸炭反応に用いられる浸炭ガス流量と等しい。したがって、理論浸炭ガス流量は、熱処理炉の大きさや、形状には影響を受けない。
[本実施の形態の真空浸炭処理方法について]
真空浸炭処理時における実際に真空浸炭炉に供給される浸炭ガスの流量を「実際浸炭ガス流量」FRと定義する。本発明者らは、図1に示すような、浸炭時間における理論浸炭ガス流量FTの関係から大きく外れた実際浸炭ガス流量FRを用いた場合に想定される事象について、調査及び検討を行った。
図2は、従来の浸炭工程における実際浸炭ガス流量FRの経時変化と、理論浸炭ガス流量FTの経時変化とを示す図である。図2の縦軸は浸炭ガス流量(NL/分)を示し、横軸は浸炭工程開始からの時間(分)を示す。図2の実線FRは、上述のとおり、従来の浸炭工程における実際浸炭ガス流量FRを示す。図2の破線C1.00は、上述のとおり、理論浸炭ガス流量FTを示す。
図2を参照して、浸炭工程の開始時間を「0」とし、浸炭工程の完了時間を「ta」と定義する。つまり、浸炭工程は時間0から時間taまで行われる。完了時間taは、浸炭処理後の鋼材の所定深さ位置での炭素濃度の設定値に応じてあらかじめ設定される。また、実際浸炭ガス流量FRが最初に理論浸炭ガス流量FTと等しくなる時間を、「te」と定義する。
浸炭工程の開始から時間teまでの期間を期間S100と定義する。時間teから時間taまでの期間を期間S200と定義する。期間S100では、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量FT(曲線C1.00)よりも低い。そのため、従来の真空浸炭処理方法の浸炭工程では、期間S100における実際浸炭ガス流量FRが足りない。この場合、鋼材表面において、浸炭反応が十分な部分と、浸炭反応が不十分な部分とが生じる。そのため、鋼材表面の浸炭ばらつきが大きくなる。また、鋼材表層において、所望の炭素濃度が得られない場合もある。一方、期間S200では、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量FT(曲線C1.00)よりも高い。そのため、期間S200では、実際浸炭ガス流量FRが過剰となり、真空浸炭炉内に残留する。その結果、期間S200では、残留した浸炭ガスにより煤やタールが発生する。この場合、鋼材表面の浸炭ばらつきが大きくなる。
以上の調査結果に基づいて、本発明者らは、浸炭工程中において、理論浸炭ガス流量曲線C1.00に合わせて、実際浸炭ガス流量FRを制御することを考えた。
しかしながら、図2に示すとおり、浸炭工程初期の期間S100では、その後の期間S200と比較して、理論浸炭ガス流量曲線C1.00の傾きが急峻である。そのため、実際の操業の期間S100において、この理論浸炭ガス流量曲線C1.00の傾きに合わせて実際浸炭ガス流量FRを調整することは非常に困難であることがわかった。
さらに、浸炭工程初期の期間S100において、浸炭工程開始時(t=0)では、上記の式(6)を採用した場合、理論浸炭ガス流量FTは無限大になる。そのため、実際の操業において、理論浸炭ガス流量FTと等しい実際浸炭ガス流量FRを、期間S100の初期に導入することは極めて困難である。
そこで、本発明者らは、実際浸炭ガス流量を制御する要素として、理論浸炭ガス流量FTだけを考慮するのではなく、他の要素も検討することを考えた。実際浸炭ガス流量FRに応じて、真空浸炭炉内の雰囲気内のガス成分は変化する。このガス成分の変化が、浸炭ばらつきや煤の発生を引き起こす。そこで、本発明者らは、実際浸炭ガス流量を制御する要素として、理論浸炭ガス流量FTだけでなく、真空浸炭炉の雰囲気内のガス成分にも注目した。
本発明者らは、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧とアセチレン分圧とに注目した。真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧とアセチレン分圧とは、周知の分析器で測定可能である。分析器はたとえば、四重極型質量分析器である。
分析された水素分圧は、以下の式に基づく反応により真空浸炭炉内で発生したものである。
→2C+H
水素分圧は、浸炭工程における浸炭反応量の指標となる。つまり、水素分圧は、浸炭ばらつきの抑制度合いの指標となる。一方、アセチレン分圧は、浸炭反応を起こさなかった余剰ガス量を意味し、煤及びタールの発生量の指標となる。
アセチレンを用いた真空浸炭処理では、浸炭工程開始直後、つまり、アセチレンの炉内への供給を開始した直後の化学反応が極めて速い。つまり、浸炭工程開始直後の鋼材表面への炭素の進入速度が極めて速い。そのため、炉内に供給されるアセチレン流量(浸炭ガス流量)が少なければ、炉内雰囲気のほとんどが水素ガスとなる。その結果、炉内での水素分圧が高くなり、アセチレン分圧が低くなる。一方、炉内に供給されるアセチレンガス流量(真空浸炭ガス流量)が多ければ、浸炭反応を起こさないアセチレンガスが炉内に残留する。この場合、炉内での水素分圧が低くなり、アセチレン分圧が高くなる。したがって、炉内での水素分圧とアセチレン分圧とをモニタリングすることにより、鋼材表面での浸炭反応量を推測することができる。
本発明者らは、理論浸炭ガス流量FTと、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧及びアセチレン分圧とに基づいて、実際浸炭ガス流量FRを制御できれば、真空浸炭処理において、浸炭ばらつきを抑え、かつ、煤の発生も抑制できると考えた。そこで、本発明者らはさらに検討を行い、次の知見を得た。
(a)浸炭工程の初期(期間S100付近)において浸炭ガス流量が少なければ、浸炭反応量が少ない。そのため、アセチレン分圧が上昇する速度が遅い。その結果、浸炭ばらつきが大きくなり、浸炭部品の表層の炭素濃度も低くなる。
(b)浸炭工程の完了時間をtaと定義する。上述のとおり、完了時間taは、浸炭処理後の鋼材の表面炭素濃度及び浸炭深さの設定値に応じてあらかじめ設定される。そして、浸炭工程の開始時間から完了時間taの1/10の時間をta/10と定義する。時間ta/10での理論浸炭ガス流量をFTta/10と定義する。浸炭工程初期での実際浸炭ガス流量FRを、時間ta/10での理論浸炭ガス流量FTta/10以上とすれば、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧が急速に上昇するものの、早期に減少し、アセチレン分圧の上昇速度が速くなる。その結果、浸炭工程初期での浸炭反応量の不足を抑制でき、浸炭ばらつきを低減できる。
(c)一方、浸炭工程の初期での実際浸炭ガス流量FRが多すぎれば、炉内でのアセチレン分圧が過剰に速く上昇する。この場合、炉内にアセチレンガスが過剰に残存する。その結果、煤又はタールが発生し、浸炭ばらつきが発生する。浸炭工程開始から4秒時点での理論浸炭ガス流量をFTと定義する。浸炭工程初期において、実際浸炭ガス流量FRがFT以下であれば、炉内での実際浸炭ガス流量FRが過剰に多くなるのを抑制できる。そのため、浸炭ばらつきを抑制できる。
(d)実際浸炭ガス流量FRを多いまま維持すると、徐々にアセチレン分圧が増加する。そのため、いずれかの時点でアセチレン分圧が水素分圧を大幅に超えてしまう。この場合、真空浸炭炉内の雰囲気中において、浸炭反応を起こさない余剰ガスが過剰に存在することになる。そのため、余剰ガスに起因した煤が発生して浸炭部品の表面に付着する。その結果、浸炭ばらつきが大きくなる。
(e)浸炭工程において、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となったとき、実際浸炭ガス流量FRを維持又は低減すれば、真空浸炭炉内の雰囲気中において、余剰ガスを抑制することができる。そのため、浸炭ばらつきを抑制することができる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは浸炭工程での実際浸炭ガス流量FRを、下記の(I)~(III)のように調整すれば、浸炭工程初期に十分な浸炭反応量を確保でき、かつ、その後において、余剰ガスを抑制して煤やタールの発生を抑制し、浸炭ばらつきを低減できると考えた。
ここで、各用語について、次のとおり定義する。
時間ta:浸炭工程の完了時間
時間t0:浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間
時間ta/10:浸炭工程の開始時間から完了時間taの1/10の時間
時間4t0:浸炭工程の開始後、浸炭工程開始から時間t0までの期間の4倍の期間が経過する時間
前期浸炭工程S1:浸炭工程開始から時間t0までの期間
後期浸炭工程S2:時間t0から時間taまでの期間
実際浸炭ガス流量FR:真空浸炭炉に実際に供給される浸炭ガス(アセチレン)流量
理論浸炭ガス流量FTta/10:時間ta/10での理論浸炭ガス流量
理論浸炭ガス流量FT:浸炭工程開始から4秒時点での理論浸炭ガス流量
上記用語を定義した場合、図3に示すとおり、実際浸炭ガス流量FRを、下記の(I)~(III)のように調整する。
(I)前期浸炭工程S1において、実際浸炭ガス流量FRをFTta/10以上、かつ、FT以下とする。前期浸炭工程S1にて実際浸炭ガス流量FRを一定とした場合には、その値を実際浸炭ガス流量FAとする。
(II)後期浸炭工程S2のうち、時間t0~4t0の期間において、実際浸炭ガス流量FRを、FA×√(t0/t)以上、かつ、FA以下とする。
(III)後期浸炭工程S2のうち、時間4t0~時間taの期間において、実際浸炭ガス流量FRをFA×√(t0/t)以上、かつ、2FA×√(t0/t)以下、とする。
ここで、tは浸炭開始時からの時間である。
図3は、本実施形態による真空浸炭処理方法の浸炭工程における、実際浸炭ガス流量の経時変化(下図)と、浸炭工程における真空浸炭炉の雰囲気中のアセチレン分圧及び水素分圧の経時変化(上図)とを示す図である。図3を参照して、本実施形態では、時間t0~時間taの期間において、実際浸炭ガス流量FRを、図3中のハッチングの領域の範囲内に調整する。ハッチング領域の下限となる曲線は、浸炭ガス流量=FA×√(t0/t)の曲線である。ハッチング領域の上限は、浸炭ガス流量=2FA×√(t0/t)の曲線である。FA×√(t0/t)及び2FA×√(t0/t)はともに、理論浸炭ガス流量FTの式(6)に比例する式である。
なお、上述のとおり、時間t0は、浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間とする。図3に示すとおり、前期浸炭工程S1の初期では、水素分圧がアセチレン分圧よりも急速に上昇する。浸炭反応が活発に発生するからである。水素分圧は急速に上昇した後、アセチレン分圧より先に、降下し始める。そして、水素分圧が降下した結果、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる。この時点、つまり、浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間を、時間t0と定義する。なお、ここでいう「0.8」倍は、アセチレン分圧/水素分圧の比の計算値の小数第2位を切り捨てた値である。
以上の知見に基づいて完成した本実施の形態による真空浸炭処理方法は、次の構成を備える。
[1]
真空浸炭炉内で鋼材に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭処理方法であって、
前記鋼材を浸炭温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼材を前記浸炭温度で均熱する均熱工程と、
前記均熱工程後、アセチレンガスである浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する浸炭工程と、
前記浸炭工程後、前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する拡散工程と、
前記拡散工程後の前記鋼材に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、
を備え、
前記浸炭工程において、
前記真空浸炭炉内に供給される前記浸炭ガスの流量を、実際浸炭ガス流量と定義し、
前記鋼材の前記真空浸炭処理に必要な前記浸炭ガスの流量を、理論浸炭ガス流量と定義し、
前記浸炭工程の完了時間をtaと定義し、
前記浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間をt0と定義したとき、
前記浸炭工程は、
前記真空浸炭炉内の雰囲気中の前記水素分圧及び前記アセチレン分圧を継続的に測定して前記時間t0を特定する分圧測定工程と、
前記浸炭工程の開始から時間t0までの前期浸炭工程と、
前記時間t0から時間taまでの後期浸炭工程と、
を含み、
前記前期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を、時間ta/10での前記理論浸炭ガス流量以上、かつ、前記浸炭工程の開始から4秒時点での前記理論浸炭ガス流量以下とし、
前記後期浸炭工程では、
前記前期浸炭工程の前記実際浸炭ガス流量をFAと定義し、前記浸炭工程の開始時からの時間を時間tと定義したとき、
前記時間t0~時間4t0の期間における前記実際浸炭ガス流量を、FA√(t0/t)以上、かつ、FA以下とし、
前記時間4t0~前記時間taまでの前記実際浸炭ガス流量を、FA√(t0/t)以上、かつ、2FA√(t0/t)以下、とする、
真空浸炭処理方法。
[2]
[1]に記載の真空浸炭処理方法であって、
前記後期浸炭工程では、
前記時間4t0~時間taの期間において、時間の経過とともに、(A)又は(B)の方法で前記実際ガス浸炭流量を低減する、
真空浸炭処理方法。
(A)前記実際浸炭ガス流量の維持と低減とを繰り返し、段階的に前記実際浸炭ガス流量を低減する、
(B)前記実際浸炭ガス流量を、時間の経過とともに漸減する。
[3]
[1]又は[2]に記載の真空浸炭処理方法であって、
前記理論浸炭ガス流量は、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションに基づいて決定される、
真空浸炭処理方法。
[4]
浸炭部品の製造方法であって、
前記鋼材に対して、[1]~[3]のいずれか1項に記載の真空浸炭処理方法を実施する工程を備える、
浸炭部品の製造方法。
以下、本実施形態による真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法について詳述する。
[真空浸炭処理方法]
図4は、本実施形態の真空浸炭処理方法のヒートパターンの一例を示す図である。図4を参照して、本実施形態の真空浸炭処理方法は、加熱工程(S10)と、均熱工程(S20)と、浸炭工程(S30)と、拡散工程(S40)と、焼入れ工程(S50)とを備える。以下、各工程の詳細を説明する。
[加熱工程(S10)]
加熱工程(S10)では、鋼材を浸炭温度に加熱する。真空浸炭処理の対象となる鋼材は、第三者から提供されたものであってもよいし、真空浸炭処理方法を実施する者が製造したものであってもよい。鋼材の化学組成は特に限定されない。浸炭処理が実施される周知の鋼材を用いれば足りる。鋼材はたとえば、JIS G 4053(2008)で規定された、機械構造用合金鋼鋼材である。より具体的には、鋼材はたとえば、JIS G 4053(2008)規定された、SCr415、SCr420及びSCM415等である。
準備される鋼材は熱間加工された鋼材であってもよいし、冷間加工された鋼材であってもよい。熱間加工はたとえば、熱間圧延、熱間押出、熱間鍛造等である。冷間加工はたとえば、冷間圧延、冷間抽伸、冷間鍛造等である。鋼材は、熱間加工又は冷間加工された後、切削加工に代表される機械加工を施されたものであってもよい。
加熱工程(S10)では、真空浸炭炉内に鋼材を装入して、鋼材を浸炭温度Tcまで加熱する。加熱工程(S10)は、真空浸炭処理方法では周知の工程である。浸炭温度Tcは周知の温度で足りる。浸炭温度TcはAc3変態点以上である。浸炭温度Tcの好ましい範囲は、900~1130℃である。浸炭温度Tcが900℃以上であれば、輻射による熱伝達が高くなり、真空浸炭炉内の温度が均一になりやすい。その結果、鋼材の浸炭ばらつきが小さくなりやすい。浸炭温度が1130℃以下であれば、鋼材の結晶粒径が粗大になるのを防ぐことができ、鋼材の強度の低下を抑制できる。浸炭温度Tcのさらに好ましい下限は910℃であり、さらに好ましくは920℃である。浸炭温度Tcのさらに好ましい上限は1100℃であり、さらに好ましくは1080℃である。
[均熱工程(S20)]
均熱工程(S20)では、浸炭温度Tcで鋼材を所定時間保持する。以下、均熱工程(S20)での保持時間を均熱時間ともいう。均熱工程(S20)は、真空浸炭処理方法では周知の工程である。均熱時間は、鋼材の形状及び/又はサイズにより、適宜調整可能である。好ましくは、均熱時間は10分以上である。より具体的には、鋼材の長手方向に垂直な断面を円に換算した場合、好ましい均熱時間は、円相当径25mm当たり30分以上である。たとえば、円相当径が30mmである場合、均熱時間は36分以上が好ましい。均熱時間の好ましい上限は、好ましくは120分であり、さらに好ましくは60分である。
加熱工程(S10)及び均熱工程(S20)における炉内の圧力は、特に限定されない。加熱工程(S10)及び均熱工程(S20)における炉内の圧力は、例えば、100Pa以下であってもよい。加熱工程(S10)及び/又は均熱工程(S20)において、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気とを行って、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよい。均熱工程(S20)において、少なくとも浸炭工程(S30)の開始までに、真空浸炭炉内を低圧又は真空とする。たとえば、均熱工程(S20)において、浸炭工程(S30)の開始までに、真空浸炭炉内を10Pa以下とする。
[浸炭工程(S30)]
本明細書において、浸炭工程(S30)は、減圧下又は真空下の炉内で浸炭ガスを供給する工程を意味する。つまり、均熱工程(S20)後、減圧又は真空下の炉内に浸炭ガスの供給を開始した時が、浸炭工程(S30)の開始時である。浸炭工程(S30)では、炉内を低圧に維持しながら、浸炭ガスを炉内に供給する。炉内が低圧であるため、浸炭ガスの分子同士が衝突する頻度が少なくなる。つまり、炉内の雰囲気で浸炭ガスが分解する頻度が少なくなる。したがって、低圧下において浸炭ガスを鋼材表面に供給することにより、煤やタールの発生を抑制できる。その結果、鋼材の表面炭素濃度を迅速に上昇させることができる。浸炭開始から浸炭終了(時間ta)までの浸炭工程(S30)中においては、例えば、炉内を1~1000Paとする。ただし、浸炭工程(S30)での炉内圧は上記範囲に限定されない。
浸炭工程(S30)では、真空浸炭炉内に浸炭ガスを導入し、浸炭温度Tcで鋼材を所定時間保持する。
[浸炭ガス]
本実施形態では、真空浸炭処理方法の浸炭工程(S30)で使用する浸炭ガスは、アセチレンガスである。
従前の真空浸炭処理においては、プロパンガスが用いられることが多い。しかしながら、プロパンガスは、浸炭反応以外に、メタン、エチレン、アセチレン、水素等への分解反応も起こす。分解反応により生じるメタン及びエチレンの多くは、浸炭反応に寄与せず、真空浸炭炉から排気される。したがって、プロパンガスを用いた場合、拡散方程式により求めた炭素の拡散流束を利用した拡散シミュレーションにより理論浸炭ガス流量FTを計算することができない。一方、アセチレンは、浸炭以外の反応が起こり難い。そのため、拡散方程式により求めた炭素の拡散流束を利用した拡散シミュレーションにより理論浸炭ガス流量FTを算出可能である。
本実施形態において、浸炭ガスであるアセチレンの純度は98%以上であればよい。アセチレンは、たとえば、アセトンに溶解したアセチレンや、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したアセチレンを浸炭ガスとして用いてもよい。好ましくは、浸炭ガスとして、DMFに溶解したアセチレンを用いる。この場合、炉内雰囲気への溶媒の混入を抑制することができる。真空浸炭炉へのアセチレンの供給源をボンベとする場合、ボンベからアセチレンを真空浸炭炉内に供給するときの一次圧は、好ましくは、0.5MPa以上である。真空浸炭炉に供給する場合、好ましくは、減圧弁を用いて、0.20MPa以下に減圧して供給する。
[浸炭工程(S30)の詳細]
浸炭工程(S30)は、分圧測定工程S0と、前期浸炭工程S1と、後期浸炭工程S2とを含む。以下、各工程の詳細を説明する。
[事前準備]
真空浸炭処理方法を実施する前に、事前準備として、対象となる鋼材に応じた理論浸炭ガス流量FTを決定しておき、図1に示すような、浸炭工程(S30)の完了時間taまでの理論浸炭ガス流量FTの経時変化を求めておく。理論浸炭ガス流量FTは、拡散シミュレーションに基づいて決定してもよいし、実験に基づいて決定してもよい。
[分圧測定工程S0]
分圧測定工程S0では、浸炭工程(S30)中において、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧及びアセチレン分圧を測定する。具体的には、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧及びアセチレン分圧を継続的に測定する。ここで、「継続的に」とは、経時的に複数回水素分圧及びアセチレン分圧を測定することを意味する。水素分圧及びアセチレン分圧を連続的に測定してもよいし、所定の時間間隔で測定してもよい。測定は周知の分圧測定器を用いて行う。分圧測定器はたとえば、四重極型質量分析器である。ただし、分圧測定器として、四重極型質量分析器以外の他の分圧測定器を用いてもよい。
分圧測定工程S0では、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧及びアセチレン分圧を経時的に測定する。つまり、真空浸炭炉内の雰囲気中の水素分圧及びアセチレン分圧をモニタリングする。経時的に測定された水素分圧及びアセチレン分圧に基づいて、時間t0(浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間)が決定される。
分圧測定器として四重極型質量分析器を使用する場合、四重極型質量分析器は、各成分ガス(水素、アセチレン)を順に測定する。そのため、水素分圧の測定時間と、アセチレンの測定時間とがずれる。四重極型質量分析器の各成分(水素、アセチレン)の分析時間は0.2秒以上2.0秒以下が好ましく、分析間隔は4.0秒以下が好ましい。
たとえば、分圧測定器として四重極型質量分析器を用いる場合であって、水素を0.5秒で分析した後、アセチレンを0.5秒で分析し、水素の分析開始から2.0秒後に、再び水素を0.5秒で分析し、次いで、アセチレンを0.5秒で分析すると仮定する。この場合、各成分(水素、アセチレン)の分析時間は0.5秒であり、分析間隔は2.0秒である。以降の説明において、各成分の分析期間を「分析ステップ」と定義する。また、測定ステップの開始時間から次の測定ステップの開始時間までの期間を、「分析間隔」と定義する。上述の例の場合、分析ステップは1.0秒(水素の分析時間0.5秒+アセチレンの分析時間0.5秒)であり、分析間隔は2.0秒である。
分圧測定器として四重極型質量分析器を用いる場合、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる時間、つまり、図3における時間t0の判断は、次の方法で行う。ある分析ステップの開始時間をt1とし、その分析ステップの完了時間をt2とする。分析ステップ中において、水素分圧を先に測定してもよいし、アセチレン分圧を先に測定してもよい。さらに、次の分析ステップの開始時間をt3とし、その分析ステップの完了時間をt4と定義する。このとき、分析期間は、時間t1~時間t3の間の時間となる。
この場合、時間t1~時間t2での分析ステップで得られたアセチレン分圧が、同じ分析ステップ(つまり、時間t1~時間t2での分析ステップ)で得られた水素分圧の0.8倍以上であり、かつ、分析間隔経過後の次の時間t3~時間t4での分析ステップで得られた水素分圧が、時間t1~時間t2での分析ステップで得られたアセチレン分圧の1.25倍以下である場合、そのアセチレン分圧を測定した分析ステップの完了時間t2を、時間t0と定義する。
アセチレン分圧が同じ分析ステップで得られた水素分圧の0.8倍以上であるだけでなく、次の分析ステップで得られた水素分圧が、1つ前の分析ステップで得られたアセチレン分圧の1.25倍以下であることも条件とした理由は次のとおりである。仮に、浸炭ガスが炉内に流れ始めたのが、時間t1~時間t2の分析ステップのうち、水素分圧の測定が完了した後であって、アセチレン分圧の測定前であった場合、この分析ステップで得られる水素分圧は0となる。そのため、この分析ステップで得られたアセチレン分圧は必ず水素分圧の0.8倍以上となる。この分析ステップの完了時間を時間t0と認定した場合、実際には、アセチレンガスが炉内に十分に導入されたことにはなっていない。そこで、このようなケースを時間t0と認定しないようにする必要がある。上記ケースの場合、分析間隔経過後の次の分析ステップ(時間t3~時間t4)で測定される水素分圧が、1つ前の分析ステップで得られたアセチレン分圧の1.25倍を大きく超える。アセチレンガスが導入されたことにより、水素分圧が急激に高くなるためである。
一方で、浸炭ガスが炉内に十分に導入された結果、得られたアセチレン分圧が、同じ分析ステップで得られた水素分圧の0.8倍以上となった場合、分析間隔経過後の次の分析ステップで得られた水素分圧は、前回の分析ステップで得られたアセチレン分圧の1.25倍以下となる。図3に示すとおり、浸炭ガスが炉内に十分に導入された場合、水素分圧は時間の経過とともに増加せず、むしろ減少するためである。
そこで、分圧測定器として四重極型質量分析器を用いる場合、得られたアセチレン分圧が、同じ分析ステップで得られた水素分圧の0.8倍以上であり、かつ、分析間隔経過後の次の分析ステップで得られた水素分圧が、1つ前の分析ステップで得られたアセチレン分圧の1.25倍以下である場合、そのアセチレン分圧を測定した分析ステップの完了時間t2を、時間t0と定義する。
なお、炉内ガス(水素、アセチレン)は炉内で分析してもよいし、炉外に抽出して分析してもよい。炉内ガスを炉内で分析する場合、炉内に設置された分圧測定器を用いる。分圧測定器は上述の四重極型質量分析器以外の測定器であってもよい。また、各成分ガスごとに、分圧測定器を使い分けてもよい。例えば、アセチレン分圧を四重極型質量分析器で分析し、水素分圧は他の分圧測定器で分析してもよい。
浸炭工程(S30)は上述の減圧下で浸炭ガスを供給する。そのため、浸炭ガスは炉内全体で速やかに浸炭反応する。そのため、炉内ガスの分圧測定結果は、炉内でばらつきにくい。つまり、炉内ガスの分析結果は、炉内でほぼ均一をみなすことができる。
[前期浸炭工程S1]
図3に示すとおり、浸炭工程(S30)の開始から、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間t0までの期間を、前期浸炭工程S1と定義する。前期浸炭工程S1では、次の条件Iを満たす様に、実際浸炭ガス流量FRを調整する。
(I)前期浸炭工程S1において、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTta/10以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT以下とする。
図5は、本実施形態の真空浸炭処理方法の前期浸炭工程S1でのガス流量設定値の一例を示す図である。前期浸炭工程S1では、実際浸炭ガス流量FRを、図5中のハッチング領域の範囲内(FTta/10以上、かつ、FT以下)とする。
前期浸炭工程S1中の実際浸炭ガス流量FRが、時間ta/10での理論浸炭ガス流量FTta/10未満であれば、前期浸炭工程S1において、浸炭ガスの供給が不足し過ぎている。この場合、真空浸炭処理方法を実施した鋼材(浸炭部品)において、浸炭ばらつきが大きくなる。一方、前期浸炭工程S1中の実際浸炭ガス流量FRが、浸炭工程開始から4秒時点での理論浸炭ガス流量FTを超えれば、実際浸炭ガス流量FRが多すぎる。この場合、時間t0経過後、時間4t0までに、実際浸炭ガス流量FRをFA×√(t0/t)以上、かつ、2FA√(t0/t)以下に調整するのに時間が掛かる。そのため、真空浸炭炉内に余剰ガス(アセチレンガス)が過剰に残存してしまい、煤が発生しやすくなる。その結果、真空浸炭処理方法を実施して製造された浸炭部品(鋼材)において、浸炭ばらつきが大きくなる。
前期浸炭工程S1において実際浸炭ガス流量FRを、時間ta/10での理論浸炭ガス流量FTta/10以上、かつ、浸炭工程開始から4秒時点での理論浸炭ガス流量FT以下とすれば、後述の後期浸炭工程S2での実際浸炭ガス流量FRの条件II及びIIIを満たすことを前提として、真空浸炭処理後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきを十分に抑制できる。前期浸炭工程S1での実際浸炭ガス流量FRの調整は、周知の方法で可能である。たとえば、真空浸炭炉に供給される浸炭ガスの流量を供給弁により調整して、実際浸炭ガス流量FRを調整してもよいし、他の周知の方法により、実際浸炭ガス流量FRを調整してもよい。実際浸炭ガス流量FRの調整は、真空浸炭炉の周知の制御装置により実施してもよい。制御装置はたとえば、上述の供給弁の開度を調整することにより、実際浸炭ガス流量FRを調整する。
前期浸炭工程S1での実際浸炭ガス流量FRは一定であるのが好ましい。実際浸炭ガス流量FRが一定であれば、炉中の水素分圧とアセチレン分圧の変動を精度高く測定できる。前期浸炭工程S1中の実際浸炭ガス流量FRが変動すれば、炉中の水素分圧の変動と、アセチレン分圧の変動とが、実際浸炭ガス流量FRの変動の影響を受ける。前期浸炭工程S1中の実際浸炭ガス流量FRが一定であれば、炉中の水素分圧とアセチレン分圧の変動を精度高く測定できる。したがって、前期浸炭工程S1中の実際浸炭ガス流量FRは一定であるのが好ましい。たとえば、図3に示すとおり、前期浸炭工程S1での実際浸炭ガス流量FRは、一定であるのが好ましい。この場合、前期浸炭工程S1を通じて一定であった実際浸炭ガス流量FRの値が、前期浸炭工程S1での実際浸炭ガス流量FAとなる。しかしながら、実際の操業において、実際浸炭ガス流量は設定値どおりに完全に一定とはならず、設定値からある程度の範囲内に振れることは、当業者に周知の技術常識である。したがって、前期浸炭工程S1での実際浸炭ガス流量FRを一定とする場合、実際浸炭ガス流量FRは設定値の±10%のマージンを許容する。つまり、前期浸炭工程S1を通じて実際浸炭ガス流量FRが特定の設定値の±10%内を推移した場合、当該設定値を前期浸炭工程での実際浸炭ガス流量FAの値とする。つまり、本明細書において、FAは、前期浸炭工程S1での設定値±10%の範囲内の浸炭ガス流量を意味する。好ましくは、FAは、前期浸炭工程S1での設定値±5%の範囲内である。
[後期浸炭工程S2]
図3に示すとおり、時間t0から浸炭工程の完了時間taまでの期間を、後期浸炭工程S2と定義する。後期浸炭工程S2では、次の条件II及びIIIを満たすように、実際浸炭ガス流量FRを調整する。
(II)後期浸炭工程S2のうち、時間t0~4t0の期間において、実際浸炭ガス流量FRを、FA×√(t0/t)以上、かつ、FA以下とする。
(III)後期浸炭工程S2のうち、時間4t0~時間taの期間において、実際浸炭ガス流量FRをFA×√(t0/t)以上、かつ、2FA×√(t0/t)以下、とする。
ここで、tは浸炭開始時からの時間である。
要するに、後期浸炭工程S2では、実際浸炭ガス流量FRを、図3中のハッチングの範囲内になるように調整する。これにより、後期浸炭工程S2において、過剰な浸炭ガスが真空浸炭炉内に残存するのを抑制することができる。その結果、煤やタールの発生を低減でき、真空浸炭処理方法を実施した後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきを抑制できる。
[条件IIについて]
後期浸炭工程S2の時間t0~4t0の期間において、実際浸炭ガス流量がFA×√(t0/t)未満であれば、ガス流量が不足する。この場合、真空浸炭炉内で浸炭ガスの分布にばらつきが生じる。たとえば、浸炭ガスの供給ノズル近傍では、浸炭ガスの濃度が高く、供給ノズルから離れた領域では、浸炭ガスの濃度が低い。その結果、真空浸炭処理工程後の鋼材において、浸炭ばらつきが大きくなる。
一方、後期浸炭工程S2の時間t0~4t0の期間において、実際浸炭ガス流量がFAを超えれば、浸炭ガスが過剰に供給されている。この場合、この余剰ガスにより煤やタールが発生する。その結果、真空浸炭処理後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきが大きくなる。
したがって、後期浸炭工程S2の時間t0~4t0の期間において、実際浸炭ガス流量FRを、FA×√(t0/t)以上、かつ、FA以下とする。この場合、条件I及び条件IIIを満たすことを条件として、浸炭反応に必要な浸炭ガス流量を十分に確保でき、かつ、煤やタールの発生を抑制できる。その結果、浸炭部品の浸炭ばらつきの発生を抑制できる。なお、上述のとおり、実際浸炭ガス流量FRは設定値の±10%のマージンを許容する。そのため、上述のとおり、前期浸炭工程S1での実際浸炭ガス流量FAについても同様のマージンが存在する。つまり、本明細書において、前期浸炭工程での実際浸炭ガス流量FAは、前期浸炭工程S1での実際浸炭ガスFRの設定値±10%の範囲内の浸炭ガス流量を意味する。また、後期浸炭工程S2の時間t0~4t0の期間の途中まで、前期浸炭工程S1に引き続いて実際ガス浸炭流量FRをFAで維持し、その後、実際浸炭ガス流量をFA~FA×√(t0/t)の範囲内に調整してもよい。
[条件IIIについて]
後期浸炭工程S2の時間4t0~taの期間において、実際浸炭ガス流量がFA×√(t0/t)未満であれば、ガス流量が不足する。この場合、真空浸炭炉内で浸炭ガスの分布にばらつきが生じる。たとえば、浸炭ガスの供給ノズル近傍では、浸炭ガスの濃度が高く、供給ノズルから離れた領域では、浸炭ガスの濃度が低い。その結果、真空浸炭処理工程後の鋼材において、浸炭ばらつきが大きくなる。
一方、後期浸炭工程S2の時間4t0~taの期間において、実際浸炭ガス流量が2FA×√(t0/t)を超えれば、浸炭ガスが過剰に供給されている。この場合、この余剰ガスにより煤やタールが発生する。その結果、真空浸炭処理後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきが大きくなる。
したがって、後期浸炭工程S2の時間4t0~taの期間において、実際浸炭ガス流量FRをFA×√(t0/t)以上、かつ、2FA×√(t0/t)以下、とする。この場合、条件I及び条件IIを満たすことを条件として、浸炭反応に必要な浸炭ガス流量を十分に確保でき、かつ、煤やタールの発生を抑制できる。その結果、浸炭部品の浸炭ばらつきの発生を抑制できる。
後期浸炭工程S2において、実際浸炭ガス流量FRが条件II及び条件IIIを満たせば、実際浸炭ガス流量FRの経時変化は特に限定されない。たとえば、図6に示すとおり、後期浸炭工程S2の時間4t0~taの期間内において、実際浸炭ガス流量FRの低減を開始してもよい。
後期浸炭工程S2において、図6に示すとおり、時間の経過とともに、実際浸炭ガス流量FRの維持と低減とを繰り返し、段階的に実際浸炭ガス流量FRを低減してもよい。また、図7に示すとおり、後期浸炭工程S2において、時間の経過とともに、実際浸炭ガス流量FRを漸減してもよい。さらに、図8に示すとおり、時間の経過とともに、実際浸炭ガス流量FRを漸減した後、上昇させてもよい。要するに、後期浸炭工程S2において、条件II及び条件IIIを満たせば、実際浸炭ガス流量FRの経時変動は特に限定されない。
[浸炭工程(S30)における浸炭ガス圧]
浸炭工程(S30)における浸炭ガスの圧力(浸炭ガス圧)は特に限定されない。好ましくは、前期浸炭工程S1での浸炭ガス圧を、後期浸炭工程S2での浸炭ガス圧よりも高くする。この場合、後期浸炭工程S2において、煤の発生がさらに抑制される。さらに好ましくは、後期浸炭工程S2での浸炭ガス圧を、時間の経過にともない低下する。浸炭工程(S30)での好ましい浸炭ガス圧は1kPa以下である。
[浸炭工程(S30)の時間ta]
浸炭工程(S30)の開始(t=0)から完了するまでの時間である時間taは、真空浸炭処理工程後の鋼材の表層の目標とする炭素濃度に応じて、真空浸炭処理の開始前に適宜設定される。時間taは、拡散方程式を用いた上述の拡散シミュレーションにより決定してもよい。時間taは、事前に真空拡散処理試験を実施して、実験データから決定してもよい。時間taは長い方が好ましい。時間taが長い方が、実際浸炭ガス流量FRの調整が容易になる。時間taの好ましい下限は50秒であり、さらに好ましくは1分(60秒)であり、さらに好ましくは3分(180秒)である。時間taの好ましい上限は120分であり、さらに好ましくは60分である。
[拡散工程(S40)]
拡散工程(S40)は、真空浸炭処理方法において周知の工程である。拡散工程(S40)では、真空浸炭炉への浸炭ガスの供給を停止し、浸炭温度Tcで鋼材を所定時間保持する。拡散工程(S40)では、浸炭工程(S30)により鋼材に侵入した炭素を、鋼材内部に拡散させる。これにより、浸炭工程(S30)で高くなった表層の炭素濃度が低下し、所定の深さの炭素濃度が上昇する。拡散工程(S40)では、真空浸炭炉内を窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気とを行って、1000Pa以下の窒素雰囲気とする、又は、真空とする。真空とはたとえば、10Pa以下である。真空浸炭炉内を1000Pa以下の窒素雰囲気又は真空状態とすることにより、鋼材表面からの炭素の侵入かつ脱離を抑制する。
なお、拡散工程(S40)での保持時間は、真空浸炭処理工程後の鋼材の表層の目標とする炭素濃度に応じて適宜設定される。したがって、拡散工程(S40)での保持時間は特に限定されない。
[焼入れ工程(S50)]
焼入れ工程(S50)では、浸炭工程(S30)及び拡散工程(S40)が完了した鋼材を、焼入れ温度(Ts)で所定時間保持し、その後、急冷(焼入れ)する。これにより、C濃度が高まった鋼材表層部分がマルテンサイトに変態して硬化層を形成する。焼入れ工程(S50)は、真空浸炭処理方法で周知の工程である。
図4に示すとおり、焼入れ温度Tsが浸炭温度Tcよりも低い場合、拡散工程(S40)後の鋼材を、焼入れ温度Tsまで冷却する。この場合の冷却速度は特に限定されない。真空浸炭処理工程の処理時間を考慮すれば、冷却速度は速い方が好ましい。好ましい冷却速度は、0.02~30.00℃/秒である。ここでいう冷却速度とは、浸炭温度Tcと焼入れ温度Tsとの温度差を冷却時間で除したものである。
焼入れ温度Tsを浸炭温度Tc未満とする場合の鋼材の冷却方法は、公知の冷却方法を用いれば足りる。たとえば、真空下で鋼材を放冷して冷却してもよいし、ガス冷却により鋼材を冷却してもよい。真空下での鋼材を放冷する場合、100Pa以下の圧力で放冷することが好ましい。冷却においてガス冷却を用いて鋼材を冷却する場合、冷却ガスとして不活性ガスを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、たとえば、窒素ガス及び/又はヘリウムガスを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、特に、安価で入手可能な窒素ガスを用いることが好ましい。冷却ガスとして不活性ガスを用いることで、鋼材の酸化を抑制できる。
焼入れ温度Tsで鋼材を所定時間保持した後、鋼材を急冷する。焼入れ温度TsはA変態点(Ar3変態点)以上であれば特に限定されない。焼入れ温度Tsの好ましい下限は800℃であり、さらに好ましくは820℃であり、さらに好ましくは850℃である。焼入れ温度Tsの好ましい上限は1130℃であり、さらに好ましくは1100℃であり、さらに好ましくは950℃であり、さらに好ましくは900℃であり、さらに好ましくは880℃である。
焼入れ工程(S50)における急冷方法としては、公知の急冷方法を用いる。急冷方法はたとえば、ガス冷、水冷、油冷である。
以上の真空浸炭処理方法を実施して、鋼材を浸炭部品とする。本実施形態の真空浸炭処理方法では、真空浸炭処理の対象となる鋼材に対する、理論浸炭ガス流量FTを用いる。そして、浸炭工程(S30)を、浸炭工程開始後アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間で、前期浸炭工程S1と後期浸炭工程S2とに区分する。そして、前期浸炭工程S1では、条件Iを満たし、かつ、後期浸炭工程S2では条件II及び条件IIIを満たすように、実際浸炭ガス流量FRを調整する。これにより、真空浸炭処理後の鋼材において、浸炭ばらつきが発生するのを抑制することができる。
なお、本実施形態の真空浸炭処理方法はさらに、他の工程を含んでもよい。たとえば、真空浸炭処理方法は、焼入れ工程(S50)後に焼戻し工程を含んでいてもよい。焼戻し工程は、周知の条件で実施すれば足りる。たとえば、焼戻し工程では、Ac1変態点以下の温度で鋼材を所定時間保持し、その後、冷却する。
また、本実施形態の真空浸炭処理方法では、浸炭工程(S30)と拡散工程(S40)とを繰り返し複数回実施してもよい。この場合、上述のとおり、各浸炭工程(S30)ごとに、時間ta及び理論浸炭ガス流量FTが決定される。
[浸炭部品の製造方法]
本実施形態の浸炭部品の製造方法は、鋼材に対して、上述の真空浸炭処理方法を実施して浸炭部品を製造する工程を備える。以上の工程により製造された浸炭部品では、浸炭ばらつきを抑制することができる。
以下、実施例により本実施形態の真空浸炭処理方法の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の真空浸炭処理方法の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の真空浸炭処理方法はこの一条件例に限定されない。
JIS G 4053(2008)に規定されたSCM415に相当する化学組成を有する機械構造用鋼管(以下、鋼管という)、及び、SCM415に相当する丸棒を準備した。各試験番号の鋼管及び丸棒のC含有量はいずれも0.15質量%であった。鋼管の直径は34mmであり、肉厚は4.5mmであり、長さは110mmであった。丸棒の直径は26mmであり、長さは70mmであった。真空浸炭処理の評価は丸棒で行い、鋼管は、丸棒が真空浸炭炉内での配置位置による浸炭ばらつきを調査するための、ダミー材として使用した。
各試験番号で真空浸炭処理された丸棒及び鋼管の総表面積(m)を、鋼材表面積(m)と定義した。鋼材表面積は次の式により求めた。
鋼材表面積=鋼管1個あたりの表面積×鋼管個数+丸棒1個あたりの表面積×丸棒個数
得られた鋼材表面積を表1に示す。試験番号1~5、10~13、15及び16、18~21では、248本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。試験番号6では、496本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。試験番号7~9、14及び17では、124本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。
Figure 0007201092000001
始めに、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションを実施して、理論浸炭ガス流量を求めた。具体的には、丸棒及び鋼管の厚さ方向に2μm以上の複数のセルに区分した。また、拡散シミュレーションでのステップ時間を0.002~0.02秒とした。鋼管及び丸棒の化学組成(SCM415)において、浸炭温度での表面における黒鉛との平衡状態での平衡組成を熱力学計算により求めた。さらに、浸炭温度での鋼材内部の平衡組成、炭素の化学ポテンシャル、及び炭素の易動度を求めた。熱力学計算は商品名Pandat(商標)を用いた。さらに、データベースは商品名PanFe(商標)を用いた。また、炭素の易動度(m/s)には、以下の式を用いた。
m=1.54×10-15exp(-1.61×C-(17300-2920×C)/T)
ここで、式中のCはオーステナイト中の固溶C濃度(質量%)であり、Tは浸炭温度(K)である。
鋼管及び丸棒の表面での炭素濃度の目標値を0.70質量%とし、表面から深さ1.0mmでの炭素濃度の目標値を0.40質量%とした。以上を前提条件として、ステップ時間ごとに、上述の(A)~(D)の拡散シミュレーションを実施して、各ステップ時間ごとの理論浸炭ガス流量FTを求めた。
理論浸炭ガス流量FTを算出した結果、理論浸炭ガス流量FTは次の式に近似可能であった。
FT=S×A/√t (6)
ここで、Aは、式(7)で定義される1mあたりの浸炭ガス流量(NL/分)であり、tは浸炭開始時からの時間(分)を示す。また、Sは鋼材表面積(m)を示す。
A=a×T+b×T+c (7)
本実施例(SCM415)の場合、a=8.64×10-5であり、b=-0.141であり、c=59.0であった。
理論浸炭ガス流量FTを算出した後、実際の真空浸炭処理を次の方法で実施した。初めに、十分に浸炭処理されたステンレス鋼材(JIS G 4303(2012)に規定のSUS316)からなるかごを準備した。かごに上述の本数の鋼管を立てた状態で均等に並べ、さらに、3個の丸棒を、立てた状態で、かご中央、かご左手前、かご右奥に配置した。上述のとおり、丸棒を試験材とし、鋼管は、丸棒の配置場所に起因した浸炭ばらつきの発生を確認するためのダミー材とした。
鋼材(鋼管及び丸棒)を配置したかごを真空浸炭炉に挿入して、真空浸炭処理を実施した。そして、試験番号1~21の浸炭部品を得た。真空浸炭処理での条件は、表1に示すとおりとした。
具体的には、各試験番号において、次のとおり真空浸炭処理を実施した。各試験番号での真空浸炭処理は、炉内の圧力を10Pa以下に保持した。加熱工程では、各試験番号の丸棒を、表1に示す浸炭温度Tcに加熱した。加熱工程後、均熱工程を実施した。均熱工程では、浸炭温度Tcで鋼材(丸棒)を60分保持した。
均熱工程後、浸炭工程を実施した。浸炭工程では、真空浸炭炉内に、浸炭ガスとして、アセチレンを供給した。浸炭工程での浸炭ガス圧は1kPa以下に保持した。浸炭工程の完了時間ta(分)は表1に記載のとおりであった。
上述のとおり、丸棒の1.0mm深さにおける炭素濃度が0.40質量%とすることを目標として、浸炭工程での浸炭時間と拡散工程での拡散時間とを調整した。
なお、浸炭工程において、真空浸炭炉内の雰囲気中のガスを四重極型質量分析器で分析して、水素分圧及びアセチレン分圧を継続的に測定した。水素の質量電荷比(m/z)を2とし、アセチレンの質量電荷比を26とした。分析時間は0.5秒であり、分析間隔は4秒であった。求めた水素分圧及びアセチレン分圧に基づいて、時間t0(アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間)を求めた。
各試験番号の実際浸炭ガス流量の経時変化は、図9~16に示すとおりとした。以下、試験番号1~21の実際浸炭ガス流量FRの設定値について、図9~図16を用いて説明する。
図9は、試験番号1、5、7~12の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図9を参照して、試験番号1、5、7~12では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRを、FAとした。FAは、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。時間t0を超え、かつ、時間4t0に至る前の時間tsまで、実際浸炭ガス流量FRをFAのまま一定とした。時間ts後、実際浸炭ガス流量を曲線C2(=FA×√(ts/t))で漸減した。その結果、実際浸炭ガス流量FRは、前期浸炭工程S1中では、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。また、後期浸炭工程S2のうち、時間t0~時間4t0の期間における実際浸炭ガス流量FRは、FA√(t0/t)以上、かつ、FA以下であった。さらに、時間4t0~時間taまでの実際浸炭ガス流量FRは、FA√(t0/t)以上、かつ、2FA√(t0/t)以下であった。
図10は、試験番号2~4、6の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図10を参照して、試験番号2~4、6では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRを、FAとした。FAは、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。時間t0を超え、かつ、時間4t0に至る前の時間tsまで、実際浸炭ガス流量FRをFAのまま一定とした。なお、図10の時間t0~時間4t0の期間中での時間tsは、図9の時間t0~時間4t0の期間中での時間tsよりも遅いタイミングであった。時間ts後、実際浸炭ガス流量FRを曲線C2(=FA×√(ts/t))で漸減した。その結果、実際浸炭ガス流量FRは、前期浸炭工程S1中では、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。また、後期浸炭工程S2のうち、時間t0~時間4t0の期間における実際浸炭ガス流量FRは、FA√(t0/t)以上、かつ、FA以下であった。さらに、時間4t0~時間taまでの実際浸炭ガス流量FRは、FA√(t0/t)以上、かつ、2FA√(t0/t)以下であった。
図11は、試験番号13及び14の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図11を参照して、試験番号13及び14では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRであるFAが、FTta/10未満であった。そして、時間ta/10よりも遅い時間tsで、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量FTと同様に漸減した。なお、浸炭工程中において、真空浸炭炉内のアセチレン分圧が、水素分圧の0.8倍以上となることはなかった。そのため、真空浸炭処理中に、t0を特定することはなかった。
図12は、試験番号15~17の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図12を参照して、試験番号15~17では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRであるFAが、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。しかしながら、アセチレン分圧が、水素分圧の0.8倍以上となる前の時間tsで、実際浸炭ガス流量FRの漸減を開始して、実際浸炭ガス流量FRがFA×√(ts/t)となるように調整した。したがって、浸炭工程中において、真空浸炭炉内のアセチレン分圧が、水素分圧の0.8倍以上となることはなかった。そのため、真空浸炭処理中に、t0を特定することはなかった。
図13は、試験番号18の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図13を参照して、試験番号18では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRであるFAが、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。そして、時間t0を超え、かつ、時間4t0を超えた時間tsまで、実際浸炭ガス流量FRをFAのまま一定とした。時間ts後、実際浸炭ガス流量FRを曲線C2(=FA×√(ts/t))で漸減した。その結果、実際浸炭ガス流量FRは、前期浸炭工程S1中では、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であり、後期浸炭工程S2のうち、時間t0~時間4t0の期間における実際浸炭ガス流量FRは、FA√(t0/t)以上、かつ、FA以下であった。しかしながら、時間4t0~時間taまでの実際浸炭ガス流量FRは、2FA√(t0/t)を超えた。
図14は、試験番号19の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図14を参照して、試験番号19では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRであるFAが、FTta/10未満であった。さらに、その後の実際浸炭ガス流量FRを、FAで一定とした。試験番号19では、浸炭工程中において、真空浸炭炉内のアセチレン分圧が、水素分圧の0.8倍以上となることはなかった。そのため、真空浸炭処理中に、t0を特定することはなかった。
図15は、試験番号20の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図15を参照して、試験番号20では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRであるFAが、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。そして、時間t0を超え、かつ、時間4ta未満の時間tsまで、実際浸炭ガス流量FRをFAのまま一定とした。時間ts後、実際浸炭ガス流量FRを、時間tsにおける理論浸炭ガス流量FTよりも低いFB(図15参照)を用いて、曲線C2(=FB×√(ts/t))で漸減した。その結果、実際浸炭ガス流量FRは、後期浸炭工程S2では、実際浸炭ガス流量FRがFA√(t0/t)未満であった。
図16は、試験番号21の浸炭工程での、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図16を参照して、試験番号21では、浸炭工程開始時間(t=0)での実際浸炭ガス流量FRであるFAが、FTta/10以上であり、かつ、FT以下であった。そして、時間t0を超え、かつ、時間4ta未満の時間tsまで、実際浸炭ガス流量FRをFAのまま一定とした。時間ts後、実際浸炭ガス流量FRを低減した。しかしながら、時間4taから時間taまでの間において、実際浸炭ガス流量FRは、2FA√(t0/t)を超えた期間が存在した。
なお、実際浸炭ガス流量の調整及び測定は、流量計(コフロック株式会社製、商品名:マスフローコントローラーD3665)を用いて実施した。
浸炭工程後、表1に示す拡散時間(分)で丸棒に対して拡散工程を実施して、丸棒に侵入した炭素を丸棒中に拡散させた。拡散工程は、浸炭温度を維持した状態で10Pa以下の炉内の圧力で実施した。拡散時間(分)は、表1に示すとおりであった。
なお、表1中の「FTta/10」欄には、時間ta/10での理論浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。「FT」欄には、浸炭工程開始から4秒時点での理論浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。「時間t0(分)」欄には、時間t0(分)が記載されている。「時間4t0(分)」欄には、時間4t0(分)が記載されている。「時間ts(分)」欄には、実際浸炭ガス流量FRの漸減を開始した時間ts(分)が記載されている。「FR≧FA×√(t0/t)?」欄には、時間4t0~時間taにおいて、実際浸炭ガス流量がFA×√(t0/t)以上であったか否かを記載している。「YES」である場合、実際浸炭ガス流量FRがFA×√(t0/t)以上であったことを示す。「NO」である場合、実際浸炭ガス流量FRがFA×√(t0/t)未満であったことを示す。「FR≦2FA×√(t0/t)?」欄には、時間4t0~時間taにおいて、実際浸炭ガス流量FRが2FA×√(t0/t)以下であったか否かを記載している。「YES」である場合、実際浸炭ガス流量FRが2FA×√(t0/t)以下であったことを示す。「NO」である場合、実際浸炭ガス流量FRが2FA×√(t0/t)を超えたことを示す。「拡散時間(分)」は、拡散工程での拡散時間(分)を示す。
拡散工程後、丸棒を860℃まで冷却した。そして、焼入れ温度(860℃)で30分保持した。保持した後、丸棒を120℃の油に浸漬して、油焼入れを実施した。焼入れ後の丸棒に対して焼戻しを実施した。焼戻し温度を170℃とし、焼戻し温度での保持時間を2時間とした。
以上の製造工程により、真空浸炭処理を実施して、浸炭部品(丸棒)を製造した。
[評価試験]
各試験番号の浸炭部品(丸棒)の表層の炭素濃度と、炭素濃度が0.40質量%となる深さ(以下、浸炭深さという)とを測定して、浸炭ばらつきを評価した。
[浸炭部品の表層の炭素濃度測定試験]
真空浸炭炉に挿入した状態の各試験番号の浸炭部品(丸棒)において、上端面から浸炭部品の長手方向に20mmの範囲、及び、下端面から浸炭部品の長手方向に5mmの範囲を切断した。以下、上端面から20mmの範囲を「上端面試験片」と称し、下端面から5mm範囲の部分を「下端部分」という。
上端面試験片及び下端部分が切断された残りの部分(以下、本体部分という)の円周面に対して、旋削加工を実施した。旋削加工では、丸棒の表面から0.30mm深さまでの表層部分の切粉を、0.05mm深さピッチごとに採取した。採取された0.05mmピッチの各深さ位置での切粉の炭素濃度を測定した。以上の工程により、各試験番号の3つの浸炭部品(かごの中央位置、かごの左手前位置、及び、かご右奥位置)において、表面から0.30mm深さまでの表層領域において、0.05mmピッチでの炭素濃度を求めた。かご中央位置に配置された浸炭部品の表面から0.30mmまでの6つの炭素濃度を、表面から順に、炭素濃度A1~A6(質量%)と定義した。かご左手前位置に配置された浸炭部品の表面から0.30mmまでの6つの炭素濃度を、表面から順に、炭素濃度B1~B6(質量%)と定義した。かご右奥位置に配置された浸炭部品の表面から0.30mmまでの6つの炭素濃度を、表面から順に、炭素濃度C1~C6(質量%)と定義した。そして、3つの浸炭部品において、同じ深さ位置で得られた炭素濃度の最大値と最小値との差を求めた。具体的には、表面から0.05mm深さ位置まで領域の炭素濃度A1、B1、C1のうち、最大値と最小値を選択し、その炭素濃度の差分値をΔ1と定義した。同様に、表面から0.05mm~0.10mm深さ位置までの領域の炭素濃度A2、B2、C2のうち、最大値と最小値を選択し、その炭素濃度の差分値をΔ2と定義した。以上の工程により、Δ1~Δ6を求め、Δ1~Δ6の算術平均値を、「表層炭素濃度差」(質量%)と定義した。得られた結果を表1の「表層炭素濃度差(質量%)」欄に記載する。
さらに、炭素濃度A1~A6、B1~B6、C1~C6の全ての算術平均値を、表層平均炭素濃度(質量%)と定義した。得られた結果を表1の「表層平均炭素濃度(質量%)」欄に記載する。
[浸炭深さ測定試験]
上述の上端面試験片を用いて、円周面の表層部の炭素濃度を測定した。具体的には、上端面試験片の上端面から20mm位置の横断面(上端面試験片の長手方向に垂直な断面)の炭素濃度を、表面から2mm深さ位置から表面に向かって径方向に測定した。具体的には、EPMA(電子線マイク口アナライザ)による線分析を実施して、径方向(深さ方向)の炭素濃度を測定した。測定結果に基づいて、3つの上端面試験片のそれぞれについて、炭素濃度が0.40質量%以上となる領域の深さ(以下、浸炭深さという)を求めた。各上端面試験片で得られた浸炭深さの最大値と最小値との差の平均を、「0.40質量%深さ差」(mm)と定義した。得られた結果を表1の「0.40質量%深さ差(mm)」欄に記載する。
[評価結果]
表1を参照して、表層炭素濃度差が0.030質量%以下、かつ、0.40質量%深さ差が0.05mm以下であるものを、浸炭ばらつきが小さい真空浸炭処理方法として優れていると評価した。
表1を参照して、試験番号1~試験番号12では、前期浸炭工程S1において、実際浸炭ガス流量FRがFTta/10以上、かつ、FT以下であった。さらに、後期浸炭工程S2のうち、時間t0~4t0の期間において、実際浸炭ガス流量FRが、FA×√(t0/t)以上、かつ、FA以下であった。さらに、後期浸炭工程S2のうち、時間4t0~時間taの期間において、実際浸炭ガス流量FRが、FA×√(t0/t)以上、かつ、2FA×√(t0/t)以下であった。そのため、表層の平均炭素濃度が0.680質量%以上であり、表層炭素濃度差が0.030質量%以下であり、かつ、0.40質量%深さ差が0.05mm以下であった。つまり、浸炭部品の浸炭ばらつきが小さかった。
一方、試験番号13及び14では、図11及び表1に示すとおり、前期浸炭工程での実際浸炭ガス流量(FA)がFTta/10未満であった。そのため、表層平均炭素濃度が0.680質量%未満であり、浸炭が十分に行われなかった。
試験番号15~17では、図12及び表1に示すとおり、浸炭開始時の実際浸炭ガス流量(FA)がFTta/10以上FT以下であったものの、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる前に、実際浸炭ガス流量FRを漸減した。そのため、表層平均炭素濃度が0.680質量%未満であり、浸炭が十分に行われなかった。
試験番号18では、図13及び表1に示すとおり、実際浸炭ガス流量FRを漸減する時間tsが、時間4t0よりも後であった。その結果、漸減後の実際浸炭ガス流量FRが2FA×√(t0/t)を超えた。その結果、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号19では、図14及び表1に示すとおり、実際浸炭ガス流量FRがFTta/10未満の値FAで一定であった。そのため、0.40質量%深さ差が0.05mmを超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号20では、図15及び表1に示すとおり、浸炭開始時の実際浸炭ガス流量の値FAがFTta/10以上FT以下であったものの、時間4t0~時間taの間において、実際浸炭ガス流量FRがFA×√(t0/t)未満となる期間が存在した。そのため、表層平均炭素濃度が0.680質量%未満であり、浸炭が十分に行われなかった。さらに、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、0.40質量%深さ差が0.05mmを超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号21では、図16及び表1に示すとおり、浸炭開始時の実際浸炭ガス流量の値FAがFTta/10以上FT以下であったものの、時間4t0~時間taの間において、実際浸炭ガス流量FRが2FA×√(t0/t)を超える期間が存在した。そのため、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上記した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上記した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上記した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 真空浸炭炉内で鋼材に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭処理方法であって、
    前記鋼材を浸炭温度に加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程後、前記鋼材を前記浸炭温度で均熱する均熱工程と、
    前記均熱工程後、アセチレンガスである浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する浸炭工程と、
    前記浸炭工程後、前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する拡散工程と、
    前記拡散工程後の前記鋼材に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、
    を備え、
    前記浸炭工程において、
    前記真空浸炭炉内に供給される前記浸炭ガスの流量を、実際浸炭ガス流量と定義し、
    前記鋼材の表面から所定の深さ位置での炭素濃度を所望の濃度にするために必要な前記アセチレンガスの流量であって、全ての前記アセチレンガスが浸炭反応に用いられることを前提とした前記アセチレンガスの流量を、理論浸炭ガス流量と定義し、
    前記浸炭工程の完了時間をtaと定義し、
    前記浸炭工程の開始後、アセチレン分圧が水素分圧の0.8倍以上となる最初の時間をt0と定義したとき、
    前記浸炭工程は、
    前記真空浸炭炉内の雰囲気中の前記水素分圧及び前記アセチレン分圧を継続的に測定して前記時間t0を特定する分圧測定工程と、
    前記浸炭工程の開始から時間t0までの前期浸炭工程と、
    前記時間t0から時間taまでの後期浸炭工程と、
    を含み、
    前記前期浸炭工程では、
    前記実際浸炭ガス流量を、時間ta/10での前記理論浸炭ガス流量以上、かつ、前記浸炭工程の開始から4秒時点での前記理論浸炭ガス流量以下とし、
    前記後期浸炭工程では、
    前記前期浸炭工程の前記実際浸炭ガス流量をFAと定義し、前記FAは一定の設定値±10%の範囲内であり、前記浸炭工程の開始時からの時間を時間tと定義したとき、
    前記時間t0~時間4t0の期間における前記実際浸炭ガス流量を、FA√(t0/t)以上、かつ、FA以下とし、
    前記時間4t0~前記時間taまでの前記実際浸炭ガス流量を、FA√(t0/t)以上、かつ、2FA√(t0/t)以下、とする、
    真空浸炭処理方法。
  2. 請求項1に記載の真空浸炭処理方法であって、
    前記後期浸炭工程では、
    前記時間4t0~時間taの期間において、時間の経過とともに、(A)又は(B)の方法で前記実際浸炭ガス流量を低減する、
    真空浸炭処理方法。
    (A)前記実際浸炭ガス流量の維持と低減とを繰り返し、段階的に前記実際浸炭ガス流量を低減する、
    (B)前記実際浸炭ガス流量を、時間の経過とともに漸減する。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の真空浸炭処理方法であって、
    前記理論浸炭ガス流量は、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションに基づいて決定される、
    真空浸炭処理方法。
  4. 浸炭部品の製造方法であって、
    前記鋼材に対して、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の真空浸炭処理方法を実施する工程を備える、
    浸炭部品の製造方法。
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