図1は、本発明の一実施例としての電力変換装置を搭載する駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の駆動装置20は、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載され、図示するように、モータ32と、インバータ34と、バッテリ36と、昇圧コンバータ40と、電子制御ユニット50とを備える。実施例の「電力変換装置」としては、主として昇圧コンバータ40と電子制御ユニット50とが該当する。
モータ32は、同期発電電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを備える。このモータ32の回転子は、駆動輪にデファレンシャルギヤを介して連結された駆動軸に接続されている。
インバータ34は、モータ32の駆動に用いられる。このインバータ34は、高電圧側電力ライン42を介して昇圧コンバータ40に接続されており、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11~T16と、6つのトランジスタT11~T16のそれぞれに並列に接続された6つのダイオードD11~D16とを有する。トランジスタT11~T16は、それぞれ、高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。また、トランジスタT11~T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相のコイル)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11~T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。インバータ34や昇圧コンバータ40は、図示しない冷却装置により冷却される。高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ46が取り付けられている。
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧側電力ライン44を介して昇圧コンバータ40に接続されている。低電圧側電力ライン44の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
昇圧コンバータ40は、高電圧側電力ライン42と低電圧側電力ライン44とに接続されており、2つのスイッチング素子としてのトランジスタT31,T32と、2つのトランジスタT31,T32のそれぞれに並列に接続された2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLとを有する。トランジスタT31は、高電圧側電力ライン42の正極側ラインに接続されている。トランジスタT32は、トランジスタT31と、高電圧側電力ライン42および低電圧側電力ライン44の負極側ラインと、に接続されている。リアクトルLは、トランジスタT31,T32同士の接続点と、低電圧側電力ライン44の正極側ラインと、に接続されている。昇圧コンバータ40は、電子制御ユニット50によって、トランジスタT31,T32のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧側電力ライン44の電力を昇圧して高電圧側電力ライン42に供給する昇圧動作を行なったり、高電圧側電力ライン42の電力を降圧して低電圧側電力ライン44に供給する降圧動作を行なったりする。
電子制御ユニット50は、CPU51を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU51に加えて、処理プログラムを記憶するROM52や、データを一時的に記憶するRAM53、データを記憶保持するフラッシュメモリ54、計時を行なうタイマ55、入出力ポートを備える。電子制御ユニット50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ(例えばレゾルバ)32aからの回転位置θmや、モータ32の各相の相電流を検出する電流センサ32u,32v,32wからの相電流Iu,Iv,Iw、インバータ34に取り付けられた温度センサ34tからのインバータ34の温度Tinvを挙げることができる。また、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流Ibも挙げることができる。さらに、リアクトルLに直列に取り付けられた電流センサ40aからの電流ILや、昇圧コンバータ40に取り付けられた温度センサ40tからの昇圧コンバータ40の温度Tcnv、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46(高電圧側電力ライン42)の電圧VH、コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48(低電圧側電力ライン44)の電圧VLも挙げることができる。加えて、イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSPも挙げることができる。また、アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ68からの車速Vも挙げることができる。
電子制御ユニット50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット50から出力される信号としては、例えば、インバータ34のトランジスタT11~T16へのスイッチング制御信号や、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号を挙げることができる。電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算したり、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算したりしている。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ36の全容量に対するバッテリ36の蓄電量(放電可能な電力量)の割合である。
こうして構成された実施例の駆動装置20では、電子制御ユニット50は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*が駆動軸26に出力されるようにモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11~T16のスイッチング制御を行なう。また、電子制御ユニット50は、モータ32をトルク指令Tm*で駆動できるように高電圧側電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。インバータ34および昇圧コンバータ40の制御は、パルス幅変調制御(PWM制御)により行なわれる。
次に、こうして構成された実施例の駆動装置20の動作について説明する。以下、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をターンオン(オフからオン)する際の遅延時間Ton1,Ton2およびターンオフする際の遅延時間Toff1,Toff2を学習する遅延学習、昇圧コンバータ40の制御の順に説明する。
最初に、遅延学習について説明する。図2は、電子制御ユニット50により実行される遅延学習ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、出荷前で且つ遅延学習の学習条件が成立しているときに実行される。ここで、学習条件としては、遅延学習が未完了であり且つ昇圧コンバータ40の温度Tcnvが後述の所定温度Tcnv1よりも低い条件が用いられる。
図2の遅延学習ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、最初に、遅延学習の学習対象温度Tcnv*を設定する(ステップS100)。ここで、学習対象温度Tcnv*は、実施例では、所定温度Tcnv1(例えば、20℃や25℃、30℃など)、所定温度Tcnv1よりも高い所定温度Tcnv2(例えば、50℃や55℃、60℃など)の順に設定するものとした。なお、学習対象温度Tcnv*は、2つに限定されるものではなく、3つや4つ、5つなどとしてもよい。
続いて、温度センサ40tからの昇圧コンバータ40の温度Tcnvを入力し(ステップS110)、昇圧コンバータ40の温度Tcnvが学習対象温度Tcnv*に略等しい(両者の差分が閾値以下である)か否かを判定する(ステップS120)。昇圧コンバータ40の温度Tcnvが学習対象温度Tcnv*に略等しくないと判定したときには、トランジスタT31,T32の温度調整用スイッチング処理を実行して(ステップS130)、ステップS110に戻る。
ここで、トランジスタT31,T32の温度調整用スイッチング処理では、例えば、所定デューティD1(例えば、50%程度)と三角波との比較によりトランジスタT31,T32のPWM信号を生成してトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。この場合、三角波の増加時には、三角波が所定デューティD1以上に至ると、トランジスタT31のPWM信号をオフ信号からオン信号に変更すると共にトランジスタT32のPWM信号をオン信号からオフ信号に変更し、三角波の減少時には、三角波が所定デューティD1未満に至ると、トランジスタT31のPWM信号をオン信号からオフ信号に変更すると共にトランジスタT32のPWM信号をオフ信号からオン信号に変更する。こうしたトランジスタT31,T32の温度調整用スイッチング処理の実行により、昇圧コンバータ40の温度Tcnvが上昇する。また、所定デューティD1として50%を用いれば、トランジスタT31,T32のオン時間が同一になるから、トランジスタT31,T32の温度のバラツキを抑制しつつ、昇圧コンバータ40の温度Tcnvを上昇させることができる。なお、昇圧コンバータ40の温度Tcnvを上昇させる手法としては、所定デューティD1と三角波との比較によりトランジスタT31,T32のPWM信号を生成してトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう手法以外の手法を用いるものとしてもよい。
こうしてステップS110~S130の処理を繰り返し実行して、ステップS120で昇圧コンバータ40の温度Tcnvが学習対象温度Tcnv*に略等しいと判定すると、トランジスタT31,T32の遅延学習を実行する(ステップS140)。
トランジスタT31,T32の遅延学習は、例えば、以下のように行なうことができる。最初に、トランジスタT31,T32への出力を共にオフ信号とし、その状態からトランジスタT32への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからリアクトルLの電流ILが閾値ILref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT32をターンオンする際の遅延時間Ton2として学習する。閾値ILrefは、トランジスタT31,T32のオンオフを判定するのに用いられる閾値であり、適宜設定される。
続いて、トランジスタT32への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからリアクトルLの電流ILが閾値ILref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT32をターンオフする際の遅延時間Toff2として学習する。
そして、トランジスタT31への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからリアクトルLの電流ILが閾値ILref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT31をターンオンする際の遅延時間Ton1として学習する。
さらに、トランジスタT31への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからリアクトルLの電流ILが閾値ILref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT31をターンオフする際の遅延時間Toff1として学習する。
こうして所定温度Tcnv*でのトランジスタT31,T32の遅延学習が完了すると、全ての学習対象温度Tcnv*(実施例では、所定温度Tcnv1,Tcnv2)での遅延学習が完了したか否かを判定する(ステップS150)。そして、一部の学習対象温度Tcnv*での遅延学習が完了していない(遅延学習が完了していない学習対象温度Tcnv*が存在する)と判定したときには、ステップS100に戻る。
こうしてステップS100~S150の処理を繰り返し実行し、ステップS150で全ての学習対象温度Tcnv*での遅延学習が完了したと判定すると、本ルーチンを終了する。このようにして、各学習対象温度Tcnv*(実施例では、所定温度Tcnv1,Tcnv2)について、トランジスタT31,T32の遅延時間Ton1,Toff1,Ton2,Toff2を学習することができる。なお、実施例では、各学習対象温度Tcnv*でのトランジスタT31,T32の遅延時間Ton1,Toff1,Ton2,Toff2をフラッシュメモリ54に記憶するものとした。
図3は、遅延学習を行なう際の高電圧側電力ライン42の電圧VH、昇圧コンバータ40の温度Tcnv、トランジスタT31,T32のオンオフ、リアクトルLの電流IL、遅延時間Ton2,Toff2,Ton1,Toff1の学習の様子の一例を示す説明図である。
図示するように、時刻t1からトランジスタT31,T32の温度調整用スイッチング処理を実行する。そして、時刻t2に昇圧コンバータ40の温度Tcnvが所定温度Tcnv1に至ると、所定温度Tcnv1での遅延学習を実行する。具体的には、以下の通りである。
最初に、トランジスタT31,T32への出力を共にオフ信号とする。続いて、時刻t3にトランジスタT32への出力をオフ信号からオン信号に変更してトランジスタT32の遅延時間Ton2を学習し、時刻t4にトランジスタT32への出力をオン信号からオフ信号に変更してトランジスタT32の遅延時間Toff2を学習する。そして、時刻t5にトランジスタT31への出力をオフ信号からオン信号に変更してトランジスタT31の遅延時間Ton1を学習し、時刻t6にトランジスタT31への出力をオン信号からオフ信号に変更してトランジスタT31の遅延時間Toff1を学習する。このようにして、所定温度Tcnv1でのトランジスタT31,T32の遅延時間Ton2,Toff2,Ton1,Toff1を学習することができる。
所定温度Tcnv1での遅延学習の実行を終了すると、時刻t7からトランジスタT31,T32の温度調整用スイッチング処理を実行する。そして、時刻t8に昇圧コンバータ40の温度Tcnvが所定温度Tcnv2に至ると、図示していないが、所定温度Tcnv2での遅延学習を実行する。
次に、昇圧コンバータ40の制御について説明する。図4は、電子制御ユニット50により実行されるPWM信号生成ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、出荷後の各トリップ(イグニッションオンからイグニッションオフまで)で繰り返し実行される。
図4のPWM信号生成ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、最初に、トランジスタT31,T32の遅延時間Ton1,Toff1,Ton2,Toff2や、昇圧コンバータ40の要求デューティDtag、昇圧動作要求フラグFupなどのデータを入力する(ステップS200)。
ここで、各データは、電子制御ユニット50により実行される図2や図3のルーチンとは別のルーチンにより設定した値を入力するものとした。遅延時間Ton1,Toff1,Ton2,Toff2は、図2の遅延学習ルーチンにより学習してフラッシュメモリ54に記憶した各学習対象温度Tcnv*での学習値のうち温度センサ40tからの昇圧コンバータ40の温度Tcnvに最も近い学習値、または、各学習対象温度Tcnv*での学習値を用いた補間処理により昇圧コンバータ40の温度Tcnvに対応するように演算した演算値を入力するものとした。要求デューティDtagは、高電圧側電力ライン42の電圧VHと目標電圧VH*との差分が打ち消されるように設定した値を入力するものとした。電圧上昇要求フラグFupは、低電圧側電力ライン44の電力を昇圧して高電圧側電力ライン42に供給する昇圧動作、および、高電圧側電力ライン42の電力を降圧して低電圧側電力ライン44に供給する降圧動作のうち昇圧動作が要求されているか否かに基づいて設定した値を入力するものとした。なお、昇圧動作および降圧動作のうちの何れが要求されているかについては、例えば、トルク指令Tm*などに基づいて判定することができる。
こうしてデータを入力すると、入力した昇圧コンバータ40の要求デューティDtagを上下限デューティDmax,Dminで制限(上下限ガード)して昇圧コンバータ40の指令デューティD*を設定する(ステップS210)。
続いて、昇圧動作要求フラグFupの値を調べる(ステップS220)。昇圧動作要求フラグFupが値1のときには、昇圧動作が要求されていると判断し、昇圧コンバータ40の指令デューティD*とトランジスタT32の遅延時間Toff2とに基づいて三角波が増加する際の昇圧コンバータ40の制御用デューティDnup*を設定すると共に(ステップS230)、昇圧コンバータ40の指令デューティD*とトランジスタT32の遅延時間Ton2とに基づいて三角波が減少する際の昇圧コンバータ40の制御用デューティDndn*を設定する(ステップS240)。制御用デューティDnup*,Dndn*の設定方法の詳細については後述する。
そして、制御用デューティDnup*,Dndn*と三角波との比較によりトランジスタT32のPWM信号を生成して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。トランジスタT32のPWM信号の生成では、三角波の増加時には、三角波が制御用デューティDnup*以上に至るとオン信号からオフ信号に変更し、三角波の減少時には、三角波が制御用デューティDndn*未満に至るとオフ信号からオン信号に変更する。こうしてトランジスタT32のPWM信号を生成すると、生成したトランジスタT32のPWM信号をトランジスタT32に出力することにより、トランジスタT32のスイッチング制御を行なう。なお、実施例では、昇圧動作が要求されているときには、トランジスタT31についてはオフで保持するものとした。
ここで、制御用デューティDnup*,Dndn*の設定方法の詳細について説明する。制御用デューティDnup*については、三角波の増加時には、三角波が指令デューティD*以上に至るとトランジスタT32のPWM信号をオン信号からオフ信号に変更するものに比して、遅延時間Toff2だけ早いタイミングでトランジスタT32のPWM信号がオン信号からオフ信号に変更されるように設定するものとした。制御用デューティDndn*については、三角波の減少時には、三角波が指令デューティD*未満に至るとトランジスタT32のPWM信号をオフ信号からオン信号に変更するものに比して、遅延時間Ton2だけ早いタイミングでトランジスタT32のPWM信号がオフ信号からオン信号に変更されるように設定するものとした。
図5は、実施例および比較例の三角波、指令デューティD*、制御用デューティDnup*,Dndn*、トランジスタT32のPWM信号、リアクトルLの電流ILの様子の一例を示す説明図である。図中、トランジスタT32のPWM信号およびリアクトルLの電流ILについて、実線は実施例を示し、一点鎖線は比較例を示す。比較例では、三角波の減少時には、三角波が指令デューティD*未満に至るとトランジスタT32のPWM信号をオフ信号からオン信号に変更し、三角波の増加時には、三角波が指令デューティD*以上に至るとトランジスタT32のPWM信号をオン信号からオフ信号に変更するものとした。
比較例の場合、図5の一点鎖線に示すように、トランジスタT32のPWM信号がオフ、オン、オフと変化しているにも拘わらずに、リアクトル電流ILが閾値ILref以上に至らない、即ち、トランジスタT32がオフで保持される。これに対して、実施例の場合、図5の実線に示すように、トランジスタT32のPWM信号がオフ、オン、オフと変化するのに応じてリアクトル電流ILが閾値ILref以上に至ってからILref未満に至り、トランジスタT32がオフ、オン、オフと変化する。詳細には、実施例の場合、比較例でトランジスタT32のPWM信号のオンオフが切り替わるタイミングで、リアクトル電流ILが閾値ILrefを跨ぐ、即ち、トランジスタT32のオンオフが切り替わる。これにより、昇圧動作をより適切に行なうことができる。また、図5から、実施例では、比較例に比して、指令デューティD*の許容範囲(上下限デューティDmax,Dminの範囲)を拡大したり、キャリア周波数(三角波の周波数)の許容上限を大きくしたりしても昇圧動作を適切に行なえると考えられる。
ステップS220で昇圧動作要求フラグFupが値0のときには、降圧動作が要求されていると判断し、昇圧コンバータ40の指令デューティD*とトランジスタT31の遅延時間Ton1とに基づいて三角波が増加する際の昇圧コンバータ40の制御用デューティDpup*を設定すると共に(ステップS260)、昇圧コンバータ40の指令デューティD*とトランジスタT31の遅延時間Toff1とに基づいて三角波が減少する際の昇圧コンバータ40の制御用デューティDpdn*を設定する(ステップS270)。制御用デューティDpup*,Dpdn*の設定方法の詳細については後述する。
そして、制御用デューティDpup*,Dpdn*と三角波との比較によりトランジスタT31のPWM信号を生成して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。トランジスタT31のPWM信号の生成では、三角波の増加時には、三角波が制御用デューティDpup*以上に至るとオフ信号からオン信号に変更し、三角波の減少時には、三角波が制御用デューティDpdn*未満に至るとオン信号からオフ信号に変更する。こうしてトランジスタT31のPWM信号を生成すると、生成したトランジスタT31のPWM信号をトランジスタT31に出力することにより、トランジスタT31のスイッチング制御を行なう。なお、実施例では、降圧動作が要求されているときには、トランジスタT32についてはオフで保持するものとした。
ここで、制御用デューティDpup*,Dpdn*の設定方法の詳細について説明する。制御用デューティDpup*については、三角波の増加時には、三角波が指令デューティD*以上に至るとトランジスタT31のPWM信号をオフ信号からオン信号に変更するものに比して、遅延時間Ton1だけ早いタイミングでトランジスタT31のPWM信号がオフ信号からオン信号に変更されるように設定するものとした。制御用デューティDpdn*については、三角波の減少時には、三角波が指令デューティD*未満に至るとトランジスタT31のPWM信号をオン信号からオフ信号に変更するものに比して、遅延時間Toff1だけ早いタイミングでトランジスタT31のPWM信号がオン信号からオフ信号に変更されるように設定するものとした。
こうした処理により、トランジスタT32についてのスイッチング制御(図5参照)と同様の効果を奏する。具体的には、図5と同様の比較例に比して、降圧動作をより適切に行なうことができる。また、比較例に比して、指令デューティD*の許容範囲(上下限デューティDmax,Dminの範囲)を拡大したり、キャリア周波数(三角波の周波数)の許容上限を大きくしたりしても降圧動作を適切に行なえると考えられる。
以上説明した実施例の駆動装置20では、各学習対象温度Tcnv*での昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のターンオンする際の遅延時間Ton1,Ton2およびターンオフする際の遅延時間Toff1,Toff2を学習してフラッシュメモリ54に記憶する。そして、昇圧コンバータ40の制御において、昇圧動作が要求されているときには、昇圧コンバータ40の指令デューティD*とトランジスタT32の遅延時間Toff2,Ton2とに基づいて昇圧コンバータ40の制御用デューティDnup*,Dudn*を設定し、設定した制御用デューティDnup*,Dudn*と三角波との比較によりトランジスタT32のPWM信号を生成してトランジスタT32のスイッチング制御を行なう。また、降圧動作が要求されているときには、昇圧コンバータ40の指令デューティD*とトランジスタT31の遅延時間Ton1,Toff1とに基づいて昇圧コンバータ40の制御用デューティDpup*,Dpdn*を設定し、設定した制御用デューティDpup*,Dpdn*と三角波との比較によりトランジスタT31のPWM信号を生成してトランジスタT31のスイッチング制御を行なう。これにより、トランジスタT31,T32のスイッチング制御の遅延補償をより簡易に行なうことができる。
実施例の駆動装置20では、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をターンオン(オフからオン)する際の遅延時間Ton1,Ton2およびターンオフする際の遅延時間Toff1,Toff2を学習する遅延学習や、昇圧コンバータ40の制御について説明した。しかし、インバータ34についても同様に考えることができる。インバータ34の遅延学習は、例えば、以下のように行なうことができる。
最初に、トランジスタT11~T14への出力をオフ信号とすると共にトランジスタT15,T16への出力をオン信号とし、その状態からトランジスタT11への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからからU相の電流Iuの絶対値が閾値Imref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT11をターンオンする際の遅延時間Ton11として学習する。続いて、トランジスタT11への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからからU相の電流Iuの絶対値が閾値Imref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT11をターンオフする際の遅延時間Toff11として学習する。
そして、トランジスタT11,T14~T16への出力をオフ信号とすると共にトランジスタT12,T13への出力をオン信号とし、その状態からトランジスタT14への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからからU相の電流Iuの絶対値が閾値Imref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT14をターンオンする際の遅延時間Ton14として学習する。続いて、トランジスタT14への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからからU相の電流Iuの絶対値が閾値Imref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT14をターンオフする際の遅延時間Toff14として学習する。
そして、トランジスタT11~T13,T15への出力をオフ信号とすると共にトランジスタT14,T16への出力をオン信号とし、その状態からトランジスタT12への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからからV相の電流Ivの絶対値が閾値Imref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT12をターンオンする際の遅延時間Ton12として学習する。続いて、トランジスタT12への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからからV相の電流Ivの絶対値が閾値Imref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT12をターンオフする際の遅延時間Toff12として学習する。
そして、トランジスタT12,T14~T16への出力をオフ信号とすると共にトランジスタT11,T13への出力をオン信号とし、その状態からトランジスタT15への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからからV相の電流Ivの絶対値が閾値Imref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT15をターンオンする際の遅延時間Ton15として学習する。続いて、トランジスタT15への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからからV相の電流Ivの絶対値が閾値Imref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT15をターンオフする際の遅延時間Toff15として学習する。
そして、トランジスタT11~T13,T16への出力をオフ信号とすると共にトランジスタT14,T15への出力をオン信号とし、その状態からトランジスタT13への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからからW相の電流Iwの絶対値が閾値Imref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT13をターンオンする際の遅延時間Ton13として学習する。続いて、トランジスタT13への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからからW相の電流Iwの絶対値が閾値Imref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT13をターンオフする際の遅延時間Toff13として学習する。
そして、トランジスタT13,T14~T16への出力をオフ信号とすると共にトランジスタT11,T12への出力をオン信号とし、その状態からトランジスタT16への出力をオフ信号からオン信号に変更し、その変更タイミングからからW相の電流Iwの絶対値が閾値Imref以上に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT16をターンオンする際の遅延時間Ton16として学習する。続いて、トランジスタT16への出力をオン信号からオフ信号に変更し、その変更タイミングからからW相の電流Iwの絶対値が閾値Imref未満に至るまでの時間をタイマ55により計時し、計時した時間を学習対象温度Tcnv*でトランジスタT16をターンオフする際の遅延時間Toff16として学習する。なお、遅延時間を学習する順序は、この順序に限定されるものではなく、適宜設定可能である。
次に、インバータ34の制御について説明する。インバータ34の制御は以下のように行なうことができる。最初に、モータ32の電気角θeを用いて各相の電流Iu,Iv,Iwをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相-2相変換)すると共に、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。続いて、d軸,q軸の電流Id,Iqおよび電流指令Id*,Iq*を用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を設定し、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相-3相変換)する。そして、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいて三角波の半波(極小から極大に向かって増加する区間、極大から極小に向かって減少する区間をそれぞれ半波とする)単位の指令デューティDu1*,Dv1*,Dw1*を生成し、指令デューティDu1*,Dv1*,Dw1*に対して、トランジスタT11~T16をターンオンする際の遅延時間Ton11~Ton16およびターンオフする際の遅延時間Toff11~Toff16を考慮した補正処理を施して制御用デューティDu2*,Dv2*,Dw2*を設定する。制御用デューティDu2*,Dv*,Dw2*の設定は、図3のステップS230,S240,S260,S270の処理と同様に行なうことができる。そして、制御用デューティDu2*,Dv*,Dw2*と三角波との比較によりトランジスタT11~T16のPWM信号を生成してトランジスタT11~T16のスイッチング制御を行なう。
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、昇圧コンバータ40が「電力変換部」に相当し、電子制御ユニット50が「制御部」に相当する。
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。