JP7194586B2 - 液晶ポリマーおよび該液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる樹脂成形品 - Google Patents

液晶ポリマーおよび該液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる樹脂成形品 Download PDF

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Description

本発明は、液晶ポリマーに関する。さらに、本発明は該液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる樹脂成形品、および該樹脂成形品を備える電気電子部品に関する。
芳香族ポリエステルや芳香族ポリアミド等の芳香族ポリマーは、剛直な分子骨格を有するため、脂肪族高分子と比べ、機械強度や耐熱性に優れる。一方、このような剛直な分子骨格を有する芳香族ポリマーは分子の絡み合いが生じにくく、成形加工において溶融樹脂にせん断がかかるとその方向に分子鎖が配向し、異方性を生じ易い。この傾向は、溶融時に液晶性を示す芳香族ポリマーでは極めて顕著である。
例えば、芳香族液晶ポリマーを用いて射出成形品を成形すると、溶融樹脂の流入方向に対して顕著な配向が生じ、この方向には負の線膨張係数を示す。一方で、その垂直な方向には絡み合いがほとんど生じず、ポリマー主鎖間ではファンデルワールス力程度の弱い相互作用しか生じない。このため熱による分子の運動を抑制できず、この方向には大きな線膨張係数を示すため、線膨張係数の観点から大きな異方性を示すこととなり、これが材料の接着性・密着性の低さの一因となっている。
こうした配向による異方性の技術的課題は、ポリマー主鎖間に共有結合を持たせることや、主鎖を分岐させることで分子鎖間の絡み合いを生じさせることで、配向を緩和すれば改善できると考えられるが、当然、これは配向によるメリットを失う手法である。
例えば、剛直な分子骨格を有する芳香族系ポリマーにおいてこのような手法を用いれば、溶融粘度が上昇し過ぎてしまい、溶融加工性能を失うことは明白である。特に、液晶ポリマーにおいては、液晶ポリマー分子間の絡み合いが生じないため、溶融加工時にせん断をかけると、液晶ポリマー分子が1軸配向し、ドメイン単位で高分子が滑るため、非常に優れた成形性を示している。そのため、このような事実を踏まえると、液晶ポリマーに共有結合や置換基の導入、絡み合いの導入は、液晶ポリマー材料の最大の特徴を犠牲にしてしまう恐れがある。
こうした技術的課題に対し、共有結合ではなくイオンの凝集力を用いた可逆的な結合により溶融加工性能を失わずに、疑似的に異方性を緩和する方法が記載されている(非特許文献1~4参照)。特に、非特許文献1では、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から成る液晶ポリエステルに5-スルホニルイソフタル酸一ナトリウムを共重合させることで、ポリエステルの主鎖間の相互作用を生じさせて、フィルムの引張強度を上げる方法が示されている。このコンセプトのもとでは、特定の組成、金属種の組み合わせで機械強度の上昇が示されているが、その効果は合成されたポリエステルの固有粘度が高い場合に限られていた。
Macromolecules, 1997, 30, 3803-3812 Macromolecules, 1998, 31, 7806-7813 Macromolecules, 2001, 34, 844-851 Polymer, 46 (2005), 7293-7300
したがって、本発明の目的は、特定のイオン性構成単位の導入前の元の液晶ポリマーと同等あるいはより低溶融粘度でありながら、TD方向の線膨張係数が小さく、また、機械的強度に優れる樹脂成形品を得られる液晶ポリマーを提供することである。また、このような液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる樹脂成形品を提供することである。
従来、溶融加工性を向上させるために重合度の調整や分子設計により剛直な分子骨格を有する低溶融粘度の芳香族系ポリマーが開発されていたが、機械的強度の低下を伴ってしまっていた。本発明者は、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成の液晶ポリマーを合成する際に、原料モノマーとして金属塩型のイオン性基およびエステル結合またはアミド結合などを形成できる重合性反応基を2つ以上有する(以下、「重合性基を有する」と記載する)芳香族モノマーを用いて、特定の組成を有する液晶ポリマーの主鎖中に金属塩型のイオン性基を有する構成単位を導入することで、導入前の元の組成に対して、溶融粘度を下げたにもかかわらず、機械的強度を向上させたり、荷重たわみ温度を上昇させたりできることを知見した。また、このような液晶ポリマーは射出成形品の溶融樹脂の流入方向(MD方向)に対して垂直な方向(TD方向)の線膨張係数を有意に低減させ、体積膨張率も小さい材料を実現できる。特定組成の液晶ポリマーに特定のイオン性芳香族モノマーを導入することで、溶融加工時には高分子の流動性を損なわず、固化時には効率的に液晶ポリマー主鎖間の相互作用を生じさせることができるため、導入前の元の液晶ポリマーと同等あるいはより低溶融粘度であるにも関わらず、TD方向の線膨張係数を優位に下げ、MD方向とTD方向の線膨張係数でみた異方性を低減でき、機械的強度を優位に向上させることを実現した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明の一態様によれば、
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、
芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)と、
芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)と、
金属塩型のイオン性基および重合性基を有する芳香族モノマーに由来する構成単位(IV)と
を含む、液晶ポリマーが提供される。
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー全体の構成単位に対する前記構成単位(IV)の組成比が、0.01モル%以上であることが好ましい。
本発明の態様においては、前記芳香族モノマーの前記金属塩型のイオン性基が、スルホ基を有することが好ましい。
本発明の態様においては、前記液晶ポリマーの前記構成単位(IV)の前記金属塩のカウンターイオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属のイオンであることが好ましい。
本発明の態様においては、前記構成単位(IV)が、5-スルホニルイソフタル酸一ナトリウムまたはハイドロキノンスルホン酸カリウムに由来する構成単位であることが好ましい。
本発明の態様においては、前記液晶ポリマー全体の構成単位に対して、前記構成単位(I)の組成比が15モル%以上85モル%以下であることが好ましい。
本発明の別の態様によれば、上記液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる、樹脂成形品が提供される。
本発明のさらに別の態様によれば、上記樹脂成形品を備える電気電子部品が提供される。
本発明の液晶ポリマーは、特定のイオン性構成単位の導入前の元の液晶ポリマーと同等あるいはより低溶融粘度でありながら、TD方向の線膨張係数が小さく、機械的強度(曲げ強度、曲げ弾性率、曲げひずみ)やロックウェル硬度に優れ、また、荷重たわみ温度が上昇した樹脂成形品を得ることができる。また、本発明は、このような液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる樹脂成形品を提供することができる。
発明を実施するための態様
[液晶ポリマー]
本発明による液晶ポリマーは、少なくとも、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)、および芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)を含むものである。さらに、本発明による液晶ポリマーは、構成単位(I)~(III)以外の構成単位として、イオン性基および重合性基を有する構成単位(IV)を含む。また、本発明による液晶ポリマーは、これらの構成単位(I)~(IV)以外の構成単位(V)をさらに含んでもよい。
本発明による液晶ポリマーは、イオン性基および重合性基を有する構成単位(IV)を含むことで、溶融加工時には低溶融粘度による高分子の流動性を損なわず、固化時には効率的に液晶ポリマー主鎖間の相互作用を形成させることができるため、構成単位(IV)の導入前の元の液晶ポリマーと同等あるいはより低溶融粘度であるにも関わらず、主鎖間の分子間相互作用を上昇させることでTD方向の線膨張係数を優位に下げ、機械強度を優位に向上させることができる。
液晶ポリマーの融点は、下限値として、好ましくは280℃以上であり、より好ましくは290℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上であり、さらにより好ましくは305℃以上である。上限値として、好ましくは370℃以下であり、好ましくは360℃以下であり、さらに好ましくは355℃以下であり、さらにより好ましくは350℃以下である。液晶ポリマーの融点を上記数値範囲とすることにより、本発明で示す範囲の液晶ポリマーを含む樹脂組成物の加工安定性、具体的にはせん断をかけた溶融加工性の安定性を向上させることができると共に、これを用いて作製した成形品の材料としての耐熱性をはんだ耐熱の観点で良好な範囲に維持させることができる。
なお、本明細書において、液晶ポリマーの融点は、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠するものであり、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)等を用いて、測定することができる。
液晶ポリマーの溶融粘度は、溶融成形加工性と耐熱性の担保いう観点からは、液晶ポリマーの融点+20℃以上、せん断速度1000s-1の条件おいて、下限値として、好ましくは0.1Pa・s以上であり、より好ましくは1Pa・s以上であり、上限値として、好ましくは100Pa・s以下であり、より好ましくは90Pa・s以下であり、さらに好ましくは80Pa・s以下であり、さらにより好ましくは70Pa・s以下である。
なお、本明細書において、液晶ポリマーの溶融粘度は、JIS K7199に準拠し、キャピラリーレオメーター粘度計を用いて測定することができる。
液晶ポリマーの液晶性は、メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)等を用い、液晶ポリマーを顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させた後、光学異方性の有無を観察することにより確認することができる。
以下、液晶ポリマーに含まれる各構成単位について説明する。
(芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I))
液晶ポリマーを構成する単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であり、下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(I)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
Figure 0007194586000001
上記式(I)中、Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
上記式(I)で表される構成単位を与えるモノマーとしては、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA、下記式(1))、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA、下記式(2))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等を用いることが好ましい。
Figure 0007194586000002
Figure 0007194586000003
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(I)の組成比(モル%)は、下限値としては好ましくは15モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上であり、さらにより好ましくは35モル%以上であり、上限値としては、好ましくは85モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下であり、さらに好ましくは75モル%以下であり、さらにより好ましくは70モル%以下である。構成単位(I)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
(ジオール化合物に由来する構成単位(II))
液晶ポリマーを構成する単位(II)は、芳香族ジオール化合物に由来する構成単位であり、下記式(II)で表される芳香族ジオール化合物に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(II)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
Figure 0007194586000004
上記式(II)中、Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
構成単位(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP、下記式(3))、ハイドロキノン(HQ、下記式(4))、メチルハイドロキノン(MeHQ、下記式(5))、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(BisPA、下記式(6))、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
Figure 0007194586000005
Figure 0007194586000006
Figure 0007194586000007
Figure 0007194586000008
(芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III))
液晶ポリマーを構成する単位(III)は、ジカルボン酸に由来する構成単位であり、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位であることが好ましい。なお、構成単位(III)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
Figure 0007194586000009
上記式(III)中、Arは、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
構成単位(III)を与えるモノマーとしては、テレフタル酸(TPA、下記式(7))、イソフタル酸(IPA、下記式(8))、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA、下記式(9))、およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
Figure 0007194586000010
Figure 0007194586000011
Figure 0007194586000012
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(II)および(III)の組成比(モル%)は、構成単位(I)および(IV)の組成比によって、一意的に定めることができる。具体的には、構成単位(I)および(IV)の組成比を定めた上で、モノマー仕込みにおけるカルボキシル基と、ヒドロキシ基および/またはアミン基とのモノマー比(モル比)がおおよそ1:1の範囲になるように、構成単位(II)および(III)の組成比を適宜設定すればよい。例えば、構成単位(II)および(III)の組成比は、それぞれ、下限値としては好ましくは7.5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは12.5モル%以上、さらにより好ましくは15モル%以上、また、上限値としては、好ましくは42.5モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下、さらにより好ましくは32.5モル%以下に設定することができる。構成単位(II)および/または構成単位(III)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比で組成比を適宜設定すればよい。
(イオン性芳香族モノマーに由来する構成単位(IV))
液晶ポリマーを構成する単位(IV)は、金属塩型のイオン性基および重合性基を有する芳香族モノマーに由来する構成単位であり、上記構成単位(I)~(III)の構成単位を与えるモノマーと共重合可能なモノマーに由来するものである。なお、構成単位(IV)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
構成単位(IV)は、下記式(IV)で表されるイオン性芳香族モノマーに由来する構成単位であることが好ましい。
Figure 0007194586000013
上記式(IV)中、RおよびRは、それぞれ独立して、-O-、-CO-、または-NH-であり、Arは、置換基として下記の金属塩型のイオン性基を有するアリール基である。アリール基は、フェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。また、アリール基は、金属塩型のイオン性基以外の置換基を有していてもよく、例えば、水素、アルキル基、アルコキシ基ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
イオン性芳香族モノマーの金属塩型のイオン性基は、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基等のアニオン性基等を含むものが挙げられ、スルホ基を含むものが好ましい。また、金属塩を形成するカウンターイオンとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のイオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等の遷移金属のイオンが挙げられ、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。したがって、これらの中でも、イオン性基は金属塩型のスルホ基を含むものが好ましく、ナトリウム塩型のスルホ基を含むものがより好ましい。芳香族モノマーは、金属塩型のイオン性基を1つ以上有するものである。金属塩型のイオン性基が2つ以上含まれる場合、それらのイオン性基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、重合後の液晶ポリマーにおける構成単位(IV)の金属塩のカウンターイオンの種類は、合成に用いるイオン性芳香族モノマーの金属塩のカウンターイオンの種類と同一であってもよいし、イオン交換によって変更されていてもよい。変更後のイオンは、特に限定されないが、上記のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属のイオンが好ましい。
イオン性芳香族モノマーの重合性基は、構成単位(I)~(III)の構成単位を与えるモノマーと共重合可能な置換基であればよく、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン基、ならびにアミド基(-NH-CO-)等が挙げられる。芳香族モノマーは、これらの重合性基を1つ以上有するものであり、好ましくは2つ以上有するものである。重合性基が2つ以上含まれる場合、それらの重合性基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
イオン性芳香族モノマーとしては、5-スルホニルイソフタル酸一ナトリウム(SSI、下記式(10))、ハイドロキノンスルホン酸カリウム(PHS、下記式(11))、およびそれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、5-スルホニルイソフタル酸一ナトリウムを用いることが好ましい。
Figure 0007194586000014
Figure 0007194586000015
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(IV)の組成比(モル%)は、下限値としては、好ましくは0.01モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、さらに好ましくは0.2モル%以上である。上限値としては、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは7モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下である。構成単位(IV)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。構成単位(IV)の組成比が0.01モル%以上であれば、溶融加工時には高分子の流動性を損なわず、固化時には効率的に液晶ポリマー主鎖間の相互作用をより生じさせることができるため、構成単位(IV)の導入前の元の液晶ポリマーと同等あるいはより低溶融粘度であるにも関わらず、TD方向の線膨張係数をより低下させ、かつ、機械強度をより向上させることができる。
(他のモノマーに由来する構成単位(V))
液晶ポリマーは、上記構成単位(I)~(IV)以外の他の構成単位をさらに含んでもよい。構成単位(V)は、上記構成単位(I)~(IV)を与えるモノマー以外の他のモノマーに由来するものであって、上記構成単位(I)~(IV)を与えるモノマーと重合可能な重合性を有するモノマーに由来するものであれば特に限定されない。重合性基については、上記構成単位(IV)で詳述した通りである。なお、構成単位(V)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
構成単位(V)としては、例えば、下記の構成単位(V-1):
Figure 0007194586000016
が挙げられる。
構成単位(V-1)を与えるモノマーとしては、アセトアミノフェノン(AAP、下記式(12))、p-アミノフェノール、4’-アセトキシアセトアニリド、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
Figure 0007194586000017
また、構成単位(V)としては、例えば、下記の構成単位(V-2):
Figure 0007194586000018
が挙げられる。
構成単位(V-2)を与えるモノマーとしては、1,4-シクロへキサンジカルボン酸(CHDA、下記式(13))およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
Figure 0007194586000019
液晶ポリマー全体の構成単位に対する構成単位(V)の組成比(モル%)は、構成単位(I)~(IV)の組成比に応じて、適宜設定することができる。具体的には、構成単位(I)および(IV)の組成比を設定した上で、モノマー仕込みにおけるカルボキシル基と、ヒドロキシ基および/またはアミン基とのモノマー比(モル比)がおおよそ1:1の範囲になるように、構成単位(II)、(III)、および(V)の組成比を適宜設定すればよい。構成単位(V)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比で組成比を適宜設定すればよい。
(液晶ポリマーの製造方法)
液晶ポリマーは、所望により構成単位(I)~(IV)を与えるモノマーおよび所望により構成単位(V)を与えるモノマーを、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。一実施態様において、本発明に係る液晶ポリマーは、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これをさらに固相重合する2段階重合によっても製造することができる。
溶融重合は、本発明に係るポリエステル化合物が効率よく得られる観点から、所望により上記構成単位(I)~(IV)を与えるモノマーおよび所望により構成単位(V)を与えるモノマーを、所定の配合で合わせて100モル%として、モノマーが有する全水酸基に対し、1.05~1.15モル当量の無水酢酸を存在させて酢酸還流下において行うことが好ましい。
溶融重合とこれに続く固相重合の二段階により重合反応を行う場合は、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、または真空下において200~350℃の温度範囲で1~30時間プレポリマー樹脂を熱処理する等の方法が好ましくは選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの総量100重量部に対して、0.0001~0.1重量部であることが好ましい。
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
(樹脂成形品)
本発明による樹脂成形品は上記の液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなるものである。本発明による樹脂成形品は、耐熱性に優れながら、加工性に優れるものである。
(他の成分)
本発明による成形品は、本発明の効果を損なわない範囲において、液晶ポリマー以外の樹脂を含んでいてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリアクリレート、ポリメタアクリレートおよびポリメチルメタアクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミドおよびポリエーテルイミド等のイミド樹脂、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、AS樹脂およびABS樹脂等のポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂ならびにポリカーボネート樹脂等が挙げられ、成形品は、これらを1種または2種以上含んでいてもよい。
本発明による成形品は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤を含んでいてもよい。
(樹脂成形品の製造方法)
本発明においては、上記の液晶ポリマーや所望により添加剤等を含む樹脂組成物を、従来公知の方法で成形して得ることができる。なお、樹脂組成物は、液晶ポリマーおよび他の成分や添加剤等をバンバリーミキサー、ニーダー、一軸または二軸押出機等を用いて、溶融混練することにより得ることができる。
上記の成形方法としては、例えば、プレス成形、発泡成形、射出成形、押出成形、打ち抜き成形等が挙げられる。上記のようにして製造される成形品は、用途に応じて、様々な形状に加工することができる。成形品の形状としては、例えば、板状やフィルム状等とすることができる。
(電気電子部品)
本発明による電気電子部品は、上記の樹脂成形品を備えてなる。電気電子部品としては、例えば、ETC、GPS、無線LANおよび携帯電話等の電子機器や通信機器に使用されるアンテナ、高速伝送用コネクタ、CPUソケット、回路基板、フレキシブルプリント基板(FPC)、積層用回路基板、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、RFIDタグ、コンデンサー、インバーター部品、絶縁フィルム、ケーブルの被覆材、リチウムイオン電池等の二次電池の絶縁材、スピーカー振動板等が挙げられる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[試験1]
<液晶ポリマーの製造>
(実施例1-1)
攪拌翼を有する重合容器に、原料モノマーとしてp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)60モル%、4,4-ジヒドロキシビフェニル(BP)20モル%、テレフタル酸(TPA)13モル%、イソフタル酸(IPA)6モル%、および5-スルホニルイソフタル酸一ナトリウム(SSI)1モル%を加え、重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が310℃になったところで重合物を抜き出し、冷却固化した。得られた重合物を粉砕し目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
次に、上記で得られたプレポリマーを、ヤマト科学(株)製のオーブンでヒーターにより、窒素をフロー下で温度を室温から6時間かけて300℃まで昇温した後、300℃で温度を1時間保持して固相重合を行った。その後室温で自然放熱し、液晶ポリマーを得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリマー試料を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-2)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP20モル%、TPA13モル%、IPA6.5モル%、およびSSI0.5モル%に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-3)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP20モル%、TPA13モル%、IPA6.8モル%、およびSSI0.2モル%に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-4)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP20モル%、TPA13モル%、IPA6.9モル%、およびSSI0.1モル%に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-5)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP20モル%、TPA13モル%、IPA6.99モル%、およびSSI0.01モル%に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-6)
実施例1-と同様の原料モノマーを仕込んだ後、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。続いて、さらに350℃まで昇温した後、10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部から液晶ポリマーを排出した。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-7)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP19.9モル%、TPA13モル%、IPA7モル%、およびPHS0.1モル%に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-8)
重合容器に触媒として酢酸マグネシウムを添加して重合反応を行い、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-4と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例1-9)
重合容器に触媒として酢酸マグネシウムを添加して重合反応を行い、固相重合の最終温度を295℃に変更し、反応触媒として酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppm入れた以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。触媒の導入によりSSIのカウンターイオンの一部がナトリウムからマグネシウムに交換されると考えられる。
(実施例1-10)
重合容器に触媒として酢酸マグネシウムを添加して重合反応を行い、固相重合の最終温度を295℃に変更し、反応触媒として酢酸マグネシウムをSSIの仕込みモルに対して50モル%入れた以外は実施例1-と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。この量の触媒の導入によりSSIのカウンターイオンの一部が1価のナトリウムから2価のマグネシウムに十分交換されると考えられる。
(実施例1-11)
重合容器に触媒として酢酸を添加して重合反応を行い、固相重合の最終温度を295℃に変更し、反応触媒として酢酸銅をSSIの仕込みモルに対して50モル%入れた以外は実施例1-と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。この量の触媒の導入によりSSIのカウンターイオンの一部が1価のナトリウムから2価のに十分交換されると考えられる。
(比較例1-1)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP20モル%、TPA13モル%、およびIPA7モル%に変更し、反応触媒として酢酸カリウムと酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppmずつ入れた以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例2-1)
モノマー仕込みを、HBA50モル%、BP25モル%、TPA20モル%、IPA4.5モル%、およびSSI0.5モル%に変更し、反応触媒として酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppm入れ、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。触媒の導入によりSSIのカウンターイオンの一部がナトリウムからマグネシウムに交換されると考えられる。
(実施例2-2)
モノマー仕込みを、HBA70モル%、BP15モル%、TPA10モル%、IPA4.5モル%、およびSSI0.5モル%に変更し、反応触媒として酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppm入れ、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。触媒の導入によりSSIのカウンターイオンの一部がナトリウムからマグネシウムに交換されると考えられる。
(実施例3-1)
モノマー仕込みを、HBA20モル%、BP20モル%、ハイドロキノン(HQ)20モル%、TPA33モル%、IPA6.9モル%、およびSSI0.1モル%に変更し、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例3-2)
モノマー仕込みを、HBA20モル%、BP20モル%、HQ20モル%、TPA33モル%、IPA6.5モル%、およびSSI0.5モル%に変更し、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(比較例3-1)
モノマー仕込みを、HBA20モル%、BP20モル%、HQ20モル%、TPA33モル%、およびIPA7モル%に変更し、反応触媒として酢酸カリウムと酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppmずつ入れ、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例4-1)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP17モル%、TPA7モル%、IPA6モル%、アセトアミノフェノン(AAP)3モル%、1,4-シクロへキサンジカルボン酸(CHDA)6モル%、およびSSI1モル%に変更し、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(実施例4-2)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP17モル%、TPA7モル%、IPA4モル%、AAP3モル%、CHDA6モル%、およびSSI3モル%に変更し、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(比較例4-1)
モノマー仕込みを、HBA60モル%、BP17モル%、TPA7モル%、IPA7モル%、AAP3モル%、およびCHDA6モル%に変更し、反応触媒として酢酸カリウムと酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppmずつ入れ、固相重合の最終温度を295℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(比較例5-1)
モノマー仕込みを、HBA73モル%および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)27モル%に変更し、反応触媒として酢酸カリウムと酢酸マグネシウムをモノマーモル総量に対して250ppmずつ入れ、固相重合の最終温度を280℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
(比較例5-2)
モノマー仕込みを、HBA72モル%、HNA26モル%、BP1モル%、およびSSI1モル%に変更し、固相重合の最終温度を280℃に変更した以外は実施例1-1と同様にして、液晶ポリマーを得た。続いて、上記と同様にして、得られた液晶ポリマーが液晶性を示すことを確認した。
上記で得られた液晶ポリマーの構成単位(モノマー組成)を表1に示した。
(融点の測定)
上記で得られた液晶ポリマーの融点を、ISO11357、ASTM D3418の試験方法に準拠して、日立ハイテクサイエンス(株)製の示差走査熱量計(DSC)により測定した。このとき、昇温速度10℃/分で室温から360~380℃まで昇温してポリマーを完全に融解させた後、速度10℃/分で30℃まで降温し、更に10℃/分の速度で380℃まで昇温させた。昇温過程の1サイクル目および2サイクル目での吸熱ピークの頂点での温度をそれぞれTmおよびTmとし、Tmを融点(℃)とした。ただし、Tmがブロードで測定不可の場合、Tmを融点(℃)とした。測定結果を表1に示した。また、降温過程の1サイクル目の結晶化温度をTc(℃)とした。
(溶融粘度の測定)
上記で得られた液晶ポリマーの、せん断速度1000S-1における融点+20℃以上での溶融粘度(Pa・s)を、キャピラリーレオメーター粘度計((株)東洋精機製作所キャピログラフ1D)と内径1mmキャピラリーを用い、JIS K7199に準拠して測定した。測定結果を表1に示した。なお、測定前に樹脂組成物を150℃、4時間減圧下で乾燥した。
Figure 0007194586000020
[試験2]
<樹脂成形品の製造1>
上記で得られた実施例および比較例の各液晶ポリマーについて、小型の射出成形機を用いて、融点~融点+30℃条件で加熱溶融し、30mm×30mm×0.4mm(厚み)の金型を用いて射出成形し、平板状試験片を作製した。
(性能評価1:線膨張係数)
上記で得られた平板状試験片を用いて、以下の通り、X(MD)・Y(TD)とZ(厚み方向)の各方向での線膨張係数の測定をそれぞれ行った。
(X・Y方向)
上記で得られた平板状試験片の中央部を幅4mmで切り出し、測定方向が30mmとなるように、30mm×4mm×0.4mmの短冊試験片を準備した。短冊試験片を石英製の引張プローブを備えた熱機械分析装置((株)日立ハイテクサイエンス製、型番:TMA7000)で、測定距離を20mmとして50mNの力を加え引張モードで測定した。測定は、窒素雰囲気下で10℃から160℃まで10℃/分で昇温させ、同じ速度で10℃まで低下させ、さらに160℃まで再度昇温させた。この2回目の昇温における30℃から150℃の平均線膨張率(CTE(ppm/K))を測定値とした。測定結果を表2に示した。
(Z方向)
上記で得られた平板状試験片の中央部を8mm×8mm×0.4mmの大きさで切り出し、試験片を準備した。試験片を石英製の圧縮プローブを備えた熱機械分析装置((株)日立ハイテクサイエンス製、型番:TMA7000)で50mNの力を加え、圧縮モードで測定した以外はX・Y方向の試験片と同条件で測定を行った。2回目の昇温における30℃から150℃の平均線膨張率(CTE(ppm/K))を測定値とした。測定結果を表2に示した。
各実施例において、同系統のモノマー組成でなる比較例と比べ体積膨張率が小さく、特にX方向と垂直なY,Z方向の線膨張係数が小さくなる傾向が見られた。
Figure 0007194586000021
[試験3]
<樹脂成形品の製造2>
上記で得られた実施例および比較例の各液晶ポリマーについて、小型の射出成形機を用いて、融点~融点+30℃条件で加熱溶融し、80mm×12mm×2mm(厚み)の金型を用いて射出成形し、曲げ試験片を作製した。
(性能評価2:機械的強度)
上記で得られた曲げ試験片について、JIS K7171に準拠し、万能試験機(INSTRON社製、型番:4482)を用いて、室温でR=50mm、支点間距離50mm、試験速度1.5mm/分の条件で曲げ強度(MPa)、曲げ弾性率(GPa)、曲げひずみ(%)を測定した。各サンプルについてN=5の測定の平均値を表3に示した。
金属塩型のイオン性芳香族モノマーを用いた実施例1-1~1-5と、同じタイプのモノマー比をもつ比較例1-1を比べると、実施例のものはいずれも溶融粘度が小さいにも関わらず曲げ強度が有意に向上した。また比較例1-1と同じモノマー組成で5倍近く高溶融粘度な比較例1-1と比べても実施例1-2~1-4はこれと同等以上の強度を示した。また、比較例1-1と比べれば、実施例1-1、1-3~1-5の溶融粘度は10分の1程度の極めて小さいものだが、十分に高い強度を示すことが分かった。また、比較例5-1と5-2はヒドロキシカルボン酸モノマーからなる液晶ポリマーだが、実施例1-1~1-5と比べれば、曲げ弾性率が小さく、曲げひずみが大きかった。
Figure 0007194586000022
[試験4]
(性能評価3:ロックウェル硬度)
上記の樹脂成形品の製造2で得られた曲げ試験片について、ロックウェル硬度試験機(東洋精機製作所社製)を用いて、12mm×80mmの面(フラットワイズ)で評価した。測定は、室温でLスケールにて行い、曲げ試験片の長手方向に対して等間隔に5か所測定し、その平均値を求めた。測定結果を表4に示した。
実施例1-1、1-4、1-5は、同じ系統のモノマー組成を有する高溶融粘度液晶ポリマーである比較例1-1に比べ、顕著に高いロックウェル硬度を示し、表面硬度改善効果が確認された。なお、比較例5-1、5-2のヒドロキシカルボン酸のみからなる液晶ポリマーではこの効果は確認出来ず、本発明のような特定のモノマー組成のみにおいてみられる効果であることが確認できた。
Figure 0007194586000023
[試験5]
(性能評価4:荷重たわみ温度)
上記の樹脂成形品の製造2で得られた曲げ試験片について、(株)安田精機製作所製、荷重たわみ温度測定機((株)安田精機製作所製、型番:No.148-HD500)を用いて、JIS K7191に準拠して、2mm×80mmの面へ荷重をかけるエッジワイズでの試験を行った。具体的な測定条件は、以下の通りである。
窒素雰囲気下、支点間距離64mmで、負荷力1.80 MPaPa・sを曲げ試験片の中央に加え、測定開始温度100℃、昇温速度120℃/hrで、規定たわみ0.11mmに到達したときの温度を荷重たわみ温度(℃)とした。測定は、各サンプルN=2ずつ測定し、2回の平均値を表4に示した。
実施例1-1~1-5、実施例4-1、4-2ともにそれぞれと同じ系統で金属塩型イオン性芳香族モノマーを用いない比較例と比べ、荷重たわみ温度の向上が確認できた。この効果はヒドロキシカルボン酸のみからなる液晶ポリマーの比較例5-1、5-2では確認できず、本発明のような特定のモノマー組成のみにおいてみられる効果であることが確認できた。
Figure 0007194586000024

Claims (6)

  1. 芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、
    芳香族ジオール化合物に由来する構成単位(II)と、
    芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)と、
    金属塩型のイオン性基および重合性基を有する芳香族モノマーに由来する構成単位(IV)と
    を含む、液晶ポリマー(但し、エチレングリコール由来の構成単位を含むものを除く)であって、
    前記芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III)が、テレフタル酸に由来する構成単位およびイソフタル酸に由来する構成単位であり、
    前記構成単位(IV)における前記金属塩のアニオン性基がスルホ基であり、前記金属塩の金属イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンであり、
    前記液晶ポリマー全体の構成単位に対する前記構成単位(IV)の組成比が、0.01モル%以上である、
    液晶ポリマー。
  2. 前記金属塩の金属イオンが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、コバルトイオン、および銅イオンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶ポリマー。
  3. 前記構成単位(IV)が、5-スルホニルイソフタル酸一ナトリウムまたはハイドロキノンスルホン酸カリウムに由来する構成単位である、請求項1または2に記載の液晶ポリマー。
  4. 前記液晶ポリマー全体の構成単位に対して、前記構成単位(I)の組成比が15モル%以上85モル%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の液晶ポリマー。
  5. 請求項1~のいずれか一項に記載の液晶ポリマーを含む樹脂組成物からなる、樹脂成形品。
  6. 請求項に記載の樹脂成形品を備えてなる、電気電子部品。
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