以下に図面を用いて本開示に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、車両に搭載される回転電機制御システムを述べるが、これは説明のための例示であって、車両搭載以外の用途に用いられてもよい。以下では、車両として、ハイブリッド車両を述べるが、これは説明のための例示であって、二次電池の電力で回転電機を駆動して走行する二次電池式電動車両であればよい。例えば、内燃機関を備えず、二次電池の電力のみで走行する電気自動車であってもよい。以下では、全ての図面において対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、ハイブリッド車両に搭載される回転電機制御システム10の構成図である。以下では、回転電機制御システム10を、特に断らない限り、システム10と呼ぶ。システム10は、第1電源12、第2電源14、第1インバータ20、第2インバータ22、回転電機30、及び制御装置60を含む。
第1電源12と第2電源14とは、充放電が可能な二次電池である。二次電池としては、高電圧用のリチウムイオン組電池が用いられる。端子間電圧は、約200Vから約300Vである。リチウムイオン組電池は、単電池または電池セルと呼ばれる端子間電圧が1Vから数Vのリチウムイオン電池を複数個組み合わせたもので、上記の所定の端子間電圧を出力する。リチウムイオン組電池に代えて、ニッケル水素組電池等を用いてもよく、あるいは、電気二重層キャパシタ等の大容量コンデンサを用いてもよい。
第1インバータ20は、第1電源12側と回転電機30側との間に配置される三相電力変換回路である。第2インバータ22は、第2電源14側と回転電機30側との間に配置される三相電力変換回路である。第1電源12と第1インバータ20との間に設けられるコンデンサ16と、第2電源14と第2インバータ22との間に設けられるコンデンサ18は、平滑用コンデンサである。
第1インバータ20と第2インバータ22とは、基本構成が同じであるので、第1インバータ20を主に述べる。第1インバータ20の第1電源12側は、第1電源12の正極側母線40と負極側母線41の間に接続され、直流電力が入出力する側である。回転電機30側は、三相電力線に接続され、三相交流電力が入出力する側である。第1インバータ20は、回転電機30を発電機として機能させるときは、回転電機30からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、第1電源12側に充電電力として供給する交直変換機能を有する。また、回転電機30をモータとして機能させるときは、第1電源12側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機30に交流駆動電力として供給する直交変換機能を有する。かかる第1インバータ20の動作は、制御装置60の制御の下で行われる。
第1インバータ20は、並列接続されたU相レグ44、V相レグ46、W相レグ48の3つのレグを有する。各相レグはいずれも、直列接続された上アーム素子と下アーム素子とで構成される。例えば、U相レグ44は、上アーム素子44aと下アーム素子44bとが直列接続されて構成される。同様に、V相レグ46は、上アーム素子46aと下アーム素子46bとが直列接続され、W相レグ48は、上アーム素子48aと下アーム素子48bとが直列接続されて構成される。図1において下アーム素子44bに代表させて示すように、各上アーム素子と下アーム素子は、いずれも、スイッチング素子56と、スイッチング素子56と逆方向に電流を流す整流素子58とが並列接続されて構成される。スイッチング素子56としては、例えばIGBT等のトランジスタが用いられ、整流素子58としては、例えば逆流ダイオードが用いられる。
同様に、第2インバータ22の第2電源14側は、正極側母線42と負極側母線43に接続され、直流電力が入出力する側であり、回転電機30側は、三相電力線に接続され、三相交流電力が入出力する側である。第2インバータ22は、並列接続されたU相レグ50、V相レグ52、W相レグ54の3つのレグを有する。U相レグ50は、上アーム素子50aと下アーム素子50bとが直列接続され、V相レグ52は、上アーム素子52aと下アーム素子52bとが直列接続され、W相レグ54は、上アーム素子54aと下アーム素子54bとが直列接続されて、それぞれ構成される。
回転電機30は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって三相同期型回転電機である。回転電機30は、第1インバータ20及び第2インバータ22を介して第1電源12及び第2電源14から電力が供給されるときはモータとして機能し、図示しないエンジンによる駆動時、あるいは車両の制動時には発電機として機能する。
回転電機30は、U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wを有する。U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wのそれぞれの一端には、第1インバータ20が接続され、U相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wのそれぞれの他端には、第2インバータ22が接続される。U相コイル30uの一端は、第1インバータ20のU相レグ44の上アーム素子44aと下アーム素子44bの接続点に接続され、U相コイル30uの他端は、第2インバータ22のU相レグ50の上アーム素子50aと下アーム素子50bの接続点に接続される。V相コイル30vの一端は、第1インバータ20のV相レグ46の上アーム素子46aと下アーム素子46bの接続点に接続され、V相コイル30vの他端は、第2インバータ22のV相レグ52の上アーム素子52aと下アーム素子52bの接続点に接続される。W相コイル30wの一端は、第1インバータ20のW相レグ48の上アーム素子48aと下アーム素子48bの接続点に接続され、W相コイル30wの他端は、第2インバータ22のW相レグ54の上アーム素子54aと下アーム素子54bの接続点に接続される。
例えば、第1インバータ20の上アーム素子のスイッチング素子56をオンすることで回転電機30の対応する相のコイルに向けて電流が流れ、下アーム素子のスイッチング素子56をオンすることで回転電機30の対応する相のコイルから電流が引き抜かれる。第2インバータ22についても同様である。したがって、回転電機30が力行の際には、第1電源12からの電力が第1インバータ20を介して回転電機30に供給され、回生(発電)の際には回転電機30からの電力が第1インバータ20を介して第1電源12に供給される。第2インバータ22、第2電源14についても、回転電機30と同様の電力のやり取りを行う。
制御装置60は、車両の動作等に関する車両情報、回転電機30の動作等に関する回転電機情報等に基づいて、第1インバータ20と第2インバータ22のスイッチング信号の生成制御を行う。
図2は、制御装置60において、スイッチング信号の生成制御に関する部分のブロック図である。制御装置60は、車両制御部70、三相電圧指令導出部72、及び、第1インバータ制御部74と第2インバータ制御部76とを含む。制御装置60は、第1インバータ制御部74で用いられる搬送波である第1搬送波と第2インバータ制御部76で用いられる搬送波である第2搬送波について、回転電機30の動作領域ごとに予め定めた所定のキャリア周波数fcを設定する。動作領域ごとに予め定めた所定のキャリア周波数fcについては後述する。制御装置60は、第2搬送波について、第1搬送波に対し所定の位相差Δαを設定する。位相差Δαの設定およびその作用効果については後述する。
車両制御部70は、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、車速等の車両走行に関する車両情報に基づき、回転電機30の出力要求に関するトルク指令を算出する。なお、道路状況や、目的地等のナビゲーション情報等も車両制御部70に供給されるとよい。
算出されたトルク指令は、三相電圧指令導出部72の電流指令生成部80に供給される。電流指令生成部80は、トルク指令に基づいて、回転電機30のベクトル制御における目標となる電流指令であるd軸電流指令idcomとq軸電流指令iqcomとを算出する。三相/二相変換部82には、回転電機30におけるU相コイル30u、V相コイル30v、W相コイル30wの現在の電流である三相電流iu,iv,iwが供給される。また、第1電源12の第1電源電圧VB1、第2電源14の第2電源電圧VB2、回転電機30のロータ回転角θも三相/二相変換部82に供給される。そして、三相/二相変換部82は、各相電流iu,iv,iwを、d軸電流idとq軸電流iqとに変換する。電流指令生成部80からのd軸電流指令idcom及びq軸電流指令iqcomと、三相/二相変換部82からの現在のd軸電流id及びq軸電流iqとは、PI制御部84に供給される。PI制御部84は、P(比例)制御、I(積分)制御等のフィードバック制御により、回転電機30に対する電圧指令である電圧ベクトルVを算出する。電圧ベクトルVは、d軸電圧指令vdとq軸電圧指令vqとを含む。なお、予測制御等のフィードフォワード制御を組み合わせてもよい。上記ではトルク指令に基づいて三相電圧指令を導出するものとしたが、トルク指令以外の指令に基づいてもよい。例えば、パワーに基づいて三相電圧指令を導出してもよい。
算出された電圧ベクトルVは、分配部86に供給される。分配部86は、電圧ベクトルVを、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2とに分配する。電圧ベクトルV1は、第1インバータ20に対するd軸電圧指令vd1とq軸電圧指令vq1とを含み、電圧ベクトルV2は、第2インバータ22に対するd軸電圧指令vd2とq軸電圧指令vq2とを含む。
分配部86の電圧ベクトルの分配において、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2のそれぞれの大きさの変更を行うことができる。また、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2のそれぞれの位相の変更を行うことができる。位相の変更として電流ベクトルIの位相との間を調整することで、力率の変更ができる。また、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2のそれぞれの正負の変更を行うことができる。電圧ベクトルの向きにより、力行か回生かは変わるので、回転電機30に対する電圧ベクトルVを維持しつつ、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1及び第2インバータ22用の電圧ベクトルV2の間で、力行と回生の分配を行うことが可能である。このように、電圧ベクトルVの分配を通して、回転電機30の動作制御の自由度が向上する。
分配部86からの第1インバータ20用の電圧ベクトルV1を構成するd軸電圧指令vd1とq軸電圧指令vq1は、第1インバータ20用の二相/三相変換部88に供給される。入力されたvd1,vq1は、第1インバータ20用の三相の電圧指令である第1三相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1に変換されて出力される。同様に、第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を構成するd軸電圧指令vd2とq軸電圧指令vq2は、第2インバータ22用の二相/三相変換部90に供給され、第2インバータ22用の三相の電圧指令である第2三相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2に変換されて出力される。
第1インバータ20用の二相/三相変換部88からの三相の電圧指令Vu1,Vv1,Vw1は第1インバータ制御部74に供給される。第1インバータ制御部74は、PWM用の搬送波である三角波と電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の比較によって第1インバータ20における各スイッチング素子56のオンオフ信号であるスイッチング信号を生成し、これを第1インバータ20に供給する。
同様に、第2インバータ22用の二相/三相変換部90からの三相の電圧指令Vu2,Vv2,Vw2は第2インバータ制御部76に供給される。第2インバータ制御部76は、PWM用の搬送波である三角波と電圧指令Vu2,Vv2,Vw2の比較によって第2インバータ22における各スイッチング素子56のオンオフ信号であるスイッチング信号を生成し、これを第2インバータ22に供給する。
このようにして、制御装置60からの信号によって、第1インバータ20、第2インバータ22のスイッチングが制御され、所望の電流が回転電機30に供給される。
上記では、d軸電流指令idcom、q軸電流指令iqcom等に基づいてPI演算することで、回転電機30に対する電圧ベクトルVを算出した。そして、これを分配して、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を算出した。これに代えて、PI演算を行なわずに、直接的に、第1インバータ20用の電圧ベクトルV1と第2インバータ22用の電圧ベクトルV2を生成してもよい。
上記では、三相電圧指令導出部72は、車両制御部70と別の構成とした。これに代えて、車両制御部70が三相電圧指令導出部72の機能を実行してもよい。あるいは、三相電圧指令導出部72を下位のマイクロプロセッサ等で構成してもよい。三相電圧指令導出部72の一部または全部をハードウェアで構成してもよい。また、三相電圧指令導出部72を複数のマイクロプロセッサで構成することができ、この場合には、三相電圧指令導出部72の機能を各マイクロプロセッサで分担して実行することができる。あるいは、複数のマイクロプロセッサで構成する場合、各マイクロプロセッサが、三相電圧指令導出部72の全体の処理を実行できるように構成してもよい。また、回転電機制御システム10において第1インバータ20と第2インバータ22の制御を2つのマイクロプロセッサを用いて制御してもよい。この構成によれば、1つのマイクロプロセッサが故障しても他のマイクロプロセッサのみで回転電機30の動作制御が可能となる。
上記構成について、特に、第1インバータ制御部74と第2インバータ制御部76における搬送波の制御について、参考例を用いながら、図3から図7を用いてさらに詳細に説明する。
図3と図4は、搬送波である三角波と三相電圧指令との比較、及び比較結果としてのスイッチング素子56のオン・オフパターンを示す図である。図3、図4において、(a),(b)は、第1インバータ20についての図であり、(c),(d)は、第2インバータ22についての図である。図3、図4において、(a),(c)は、搬送波である三角波と三相電圧指令との比較を示す図であり、(b),(d)は、スイッチング素子56のオン・オフパターンを示す図である。これらの各図において、横軸は時間である。
ここでは、三相電圧指令として、第1インバータ20のVU1と第2インバータ22のVU2とを例に取る。オン・オフパターンとしては、第1インバータ20のU相レグ44の上アーム素子44aのスイッチング素子56のオン・オフパターンと、第2インバータ22のU相レグ50の上アーム素子50aのスイッチング素子56のオン・オフパターンとを述べる。
図3は、参考例として、第1インバータ20用の搬送波と第2インバータ22用の搬送波との間に位相差Δαが設けられない場合を示す図である。図3(a)は、第1インバータ20用の搬送波である第1搬送波100と、第1インバータ20に対する三相電圧指令としてのVU1との比較を示す図である。第1搬送波100は、一周期がTcの三角波である。第1搬送波100のキャリア周波数fcは、2πfc=Tcの関係からfc=(Tc/2π)である。三相電圧指令の制御周期は、搬送波の周期に関連付けて設定されるが、以下では、三角波の隣接する谷の間の時間である(Tc/2)を一制御周期Tsとする。これは説明のための例示であって、回転電機制御システム10の仕様に応じて、これと異なる長さの制御周期であってもよい。一制御周期Tsの間で三相電圧指令であるVU1は一定値であり、一制御周期Ts単位で、VU1が変更される。図3(a)における曲線102は、一制御周期Ts単位で変化するVU1を滑らかにつないだ曲線で、理想的には正弦波曲線である。
図3(b)は、図3(a)の比較結果としての第1インバータ20のU相レグ44の上アーム素子44aのスイッチング素子56のオン・オフパターンである。図3(b)においてレベル=1の期間が上アーム素子44aのスイッチング素子56のオン期間であり、レベル=0の期間が上アーム素子44aのスイッチング素子56のオフ期間である。第1インバータ20のU相レグ44の下アーム素子44bのスイッチング素子56のオン・オフパターンは、図3(b)の反転パターンである。その際に、上アーム素子44aのスイッチング素子56のオン期間と下アーム素子44bのスイッチング素子56のオン期間とが重ならないように、デッドタイム期間が設けられる。
図3(c)は、第2インバータ22用の搬送波である第2搬送波104と、第2インバータ22に対する三相電圧指令としてのVU2との比較を示す図である。第2搬送波104は、第1搬送波100とキャリア周波数が同じfcで、位相差Δα=0であるので、図3(c)は図3(a)と全く同じである。一制御周期Ts単位で変化するVU2を滑らかにつないだ曲線106も図3(a)の曲線102と全く同じである。図3(d)は、(c)の比較結果としての第2インバータ22のU相レグ50の上アーム素子50aのスイッチング素子56のオン・オフパターンであるが、図3(b)と全く同じである。このように、図3(c),(d)は、図3(a),(b)と全く同じ内容であるので、これ以上の説明を省略する。
図4は、第1インバータ20用の搬送波と第2インバータ22用の搬送波との間に位相差Δαを設ける場合を示す図である。ここでは、位相差Δα=90度とした場合を示す。2つの搬送波の位相差Δα=90度とは、搬送波の一周期をTcとして、(Tc/4)の時間差に相当し、一制御周期Tsについていえば、(Ts/2)の時間差に相当する。
図4(a)は、第1インバータ20用の搬送波である第1搬送波100と、第1インバータ20に対する三相電圧指令としてのVU1との比較を示す図である。図4(b)は、図4(a)の比較結果としての第1インバータ20のU相レグ44の上アーム素子44aのスイッチング素子56のオン・オフパターンである。図4(a),(b)は、それぞれ、図3(a),(b)と同じ内容であるので、詳細な説明を省略する。
図4(c)は、第2インバータ22用の搬送波である第2搬送波108と、第2インバータ22に対する三相電圧指令としてのVU2との比較を示す図である。第2搬送波108は、第1搬送波100とキャリア周波数が同じfcで、位相差Δα=90度であるので、図4(c)は、一制御周期Ts単位で変化するVU2を滑らかにつないだ曲線110も含めて、図4(a)を時間軸に沿って(Tc/4)=(Ts/2)ずれている。図4(d)は、図4(c)の比較結果としての第2インバータ22のU相レグ50の上アーム素子50aのスイッチング素子56のオン・オフパターンである。図4(b)と比較すると、位相差Δα=90度が設けられていることに対応し、オン・オフパターンも、図4(b)のオン・オフパターンを時間軸に沿って(Tc/4)=(Ts/2)ずれている。
図3、図4を比べて、次のことが分かる。図3においては、第1搬送波100と第2搬送波104との間の位相差Δα=0であるので、第1インバータ20の三相電圧指令VU1が出力される一制御周期Tsと、第2インバータ22の三相電圧指令VU2が出力される一制御周期Tsとは同じタイミングである。つまり、図3においては、一制御周期TsごとにVU1とVU2が共に変更される。
これに対し、図4においては、第1搬送波100と第2搬送波108との間の位相差Δα=90度であるので、第1インバータ20の三相電圧指令としてのVU1が出力される一制御周期Tsと、第2インバータ22の三相電圧指令としてのVU2が出力される一制御周期Tsとは、(1/2)制御周期である(Ts/2)だけずれている。したがって、図4においては、(1/2)制御周期である(Ts/2)ごとに、VU1またはVU2が変更される。
つまり、第1搬送波100と第2搬送波108との間に位相差Δα=90度を設けると、位相差Δα=0の場合と比較して、実質的に、三相電圧指令の変更周期が2倍になる。このことは、実質的に、キャリア周波数が2倍になったことと等価である。キャリア周波数が大きくなると、各相電流に重畳するリップル電流の周波数が高くなり、リップル電流の振幅が減少することが知られている。
図5は、第1搬送波と第2搬送波との間の位相差Δαの有無に関し、回転電機30のU相コイル30uの両端電圧と、U相コイル30uに流れる電流iuとについて高速フーリエ変換(FFT)を行った結果を示す図である。これらの図において、横軸は周波数であり、縦軸は、FFT出力としてのパワースペクトルである。
図5(a),(b)は、参考例として位相差Δα=0の場合の結果を示す図で、(a)は、U相コイル30uの両端電圧についてのFFT解析結果であり、(b)は、電流iuについてのFFT解析結果である。これらの図には、1次から6次の周波数成分が示される。図5(a),(b)の例では、1次周波数は、約3~4kHzである。
図5(c),(d)は、位相差Δα=90度の場合の結果を示す図である。(c)は、(a)に対応する図で、(d)は(b)に対応する図である。ここでは、1次周波数が約7~8kHzで、(a),(b)の2次周波数に相当し、2次周波数が約14~16kHzで、(a),(b)の4次周波数に相当し、3次周波数が約22~23kHzで、(a),(b)の6次周波数に相当する。このように、(a),(b)の1次、3次、5次の周波数成分が消滅している。
図5の結果から、位相差Δα=90度を設けることで、位相差Δα=0の場合と比較して、FFT解析のパワースペクトル分布の周波数軸が2倍に延びていることが示される。このことからも、位相差Δα=90度を設けることで、位相差Δα=0の場合と比較して実質的に、キャリア周波数が2倍になることが分かる。キャリア周波数が大きくなると、各相電流に重畳するリップル電流の周波数が高くなり、リップル電流の振幅が減少し、回転電機30の騒音や振動が抑制される。また、回転電機30が鉄心を用いる構造の場合に、キャリア周波数が大きくなることで、渦電流等の鉄損が抑制される。
さらに、位相差Δα=90度を設けることで、位相差Δα=0の場合と比較して実質的に、キャリア周波数が2倍になるので、位相差Δα=90度を設ける場合のキャリア周波数を、位相差Δα=0で動作させるキャリア周波数の(1/2)にできる。例えば、回転電機30の電圧ベクトルVにおける動作を位相差Δα=0においてキャリア周波数fcで実行するのと同じ動作を、位相差Δα=90度においてキャリア周波数を(fc/2)で実現できる。これによって、第1インバータ20及び第2インバータ22のスイッチング損失を低減できる。
上記では、位相差Δα=90度について述べたが、90度以外の位相差Δα≠0度を設けることで、位相差Δα=0度の場合と比較して、実質的なキャリア周波数が大きくなる。これを利用して、回転電機30の動作点におけるキャリア周波数を位相差Δα=0の場合のキャリア周波数fcから変更して、回転電機制御システム10の騒音、鉄損、スイッチング損失を抑制することが可能である。
図6、図7は、回転電機30の動作領域におけるキャリア周波数の設定の一例を示す特性マップである。図6は、参考例として、位相差Δα=0の場合における特性マップであり、図7は、位相差Δα=90度の場合における特性マップである。これらの図において、特性マップの横軸は、回転電機30の回転数であり、縦軸は回転電機30のトルクである。これらの図において、(a)は、回転電機30の温度が通常の場合のキャリア周波数の設定を示す図で、(b)は、回転電機30の温度が高温の場合のキャリア周波数の設定を示す図である。
位相差Δα=0の場合の図6において、通常温度下における(a)では、低回転数高トルクの動作領域Aから、中回転数中トルクの動作領域Bを経て、高回転数低トルクの動作領域Cへ向かうにつれ、キャリア周波数は、高周波数になる。これは、制御性維持等のためである。なお、動作領域Dは、トルクが0~(-10Nm)の範囲の回生領域で、車両が停止状態で回転電機30を発電機として用いる場合の動作領域である。動作領域Dのキャリア周波数は、9.55kHzと最も高く設定される。
位相差Δα=0の場合の高温下における(b)では、回転数のみに依存させて、低回転数の動作領域Eから、中回転数の動作領域Fを経て、高回転数の動作領域Gへ向かうにつれ、制御性の維持等のため、キャリア周波数は高周波数になる。
位相差Δα=90度の場合は、回転電機制御システム10において、制御性等の観点からキャリア周波数の変更に適した動作領域において、キャリア周波数を下げることができる。
図7において、通常温度下における(a)では、動作領域Cと動作領域Dについて、図6の位相差Δα=0に比較して、キャリア周波数は低周波数側に設定される。これによって、動作領域Aと動作領域Bでは、位相差Δα=90度の作用効果によって、騒音が抑制され、鉄損が抑制される。動作領域Cと動作領域Dでは、キャリア周波数の低減によって、スイッチング損失が抑制される。高温下における(b)では、動作領域Gについて、図6の位相差Δα=0に比較して、キャリア周波数は低周波数側に設定される。これによって、動作領域Eと動作領域Fでは、位相差Δα=90度の作用効果によって、騒音が抑制され、鉄損が抑制される。動作領域Gでは、キャリア周波数の低減によって、スイッチング損失が抑制される。
上記では、回転電機30の動作領域におけるキャリア周波数の設定について特性マップを用いて行うものとしたが、これに代えて、予め計算式を求めておき、回転電機30の動作状態である回転数とトルクを代入してキャリア周波数の設定を行ってもよい。特性マップ、計算式は、位相差Δαごとに設けられる。特性マップや計算式は、制御装置60の記憶部に予め格納される。
上記構成によれば、第1インバータ20用の第1搬送波100と、第2インバータ22用の第2搬送波108との間に位相差Δαを設けることで、実質的にキャリア周波数を高めた状態で動作させることができ、騒音レベルが低下する。回転電機30において鉄心を用いた場合には鉄損が低減する。実質的にキャリア周波数を高めた状態で動作するということは、換言すれば、その分、キャリア周波数を低下させることが可能であるので、その場合には、スイッチング損失を低減することが可能である。