以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
まず、図1~図3を併せて用いて、実施形態に係るレンジ切替装置1の構成について説明する。図1は、レンジ切替装置1、及び該レンジ切替装置1が適用された無段変速機20の構成を示すブロック図である。図2は、前後進切替機構27に油圧を供給する油圧回路の構成(通常前進走行時の状態)を示す図である。図3は、前後進切替機構27に油圧を供給する油圧回路の構成(セーリング走行時の状態)を示す図である。
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」という)13により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ61により検出される。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ14が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
上述したエアフローメータ61、スロットル開度センサ14に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)60に接続されている。また、ECU60には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ62、及びエンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
エンジン10のクランク軸(出力軸)15には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ21、及び、前後進切替機構27を介して、エンジン10からの駆動力を変換して出力する無段変速機20が接続されている。
トルクコンバータ21は、主として、ポンプインペラ22、タービンライナ23、及びステータ24から構成されている。クランク軸(出力軸)15に接続されたポンプインペラ22がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ22に対向して配置されたタービンライナ23がオイルを介してエンジン10の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ24は、タービンライナ23からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ22に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
また、トルクコンバータ21は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ25を有している。トルクコンバータ21は、ロックアップクラッチ25が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン10の駆動力をトルク増幅して無段変速機20に伝達し、ロックアップクラッチ25が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン10の駆動力を無段変速機20に直接伝達する。トルクコンバータ21を構成するタービンライナ23の回転数(タービン回転数)は、タービン回転数センサ56により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)40に出力される。
前後進切替機構27は、駆動輪の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切替えるものである。前後進切替機構27は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列28、前進クラッチ29及び後進クラッチ(後進ブレーキ)30を備えている。前後進切替機構27では、前進クラッチ29、及び後進クラッチ30それぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切替えることが可能に構成されている。
より具体的には、D(ドライブ:前進)レンジでは、前進クラッチ29を締結して後進クラッチ30を解放することにより、タービン軸26の回転がそのまま後述するプライマリ軸32に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。また、R(リバース:後進)レンジでは、前進クラッチ29を解放して後進クラッチ30を締結することにより、遊星歯車列28を作動させてプライマリ軸32の回転方向を逆転させることができ、車両を後進走行させることが可能となる。なお、N(ニュートラル:中立)レンジ又はP(パーキング:駐車)レンジでは、前進クラッチ29及び後進クラッチ30を解放することにより、タービン軸26とプライマリ軸32とは切り離され、前後進切替機構27はプライマリ軸32に動力を伝達しないニュートラル状態となる。なお、前進クラッチ29及び後進クラッチ30の動作は、後述するTCU40、及びバルブボディ(コントロールバルブ)50によって制御される。また、以下、特に区別する必要がない場合には、前進クラッチ29及び後進クラッチ30をまとめて前後進クラッチ29,30と呼ぶこともある。
無段変速機20は、運転者が選択したシフトポジションをスイッチ等によって検出し、その検出結果に基づいて、油圧式のアクチュエータを駆動することにより、シフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤ(SBW)機構を用いた無段変速機である。無段変速機20は、前後進切替機構27を介してトルクコンバータ21のタービン軸(出力軸)26と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き掛け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き掛け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
ここで、プライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
無段変速機20を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)50によってコントロールされる。バルブボディ50は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ50内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ70から吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。また、バルブボディ50は、ロックアップクラッチ25や前後進切替機構27等にも調圧した油圧を供給する。
ここで、図2及び図3を併せて参照しつつ、バルブボディ50内に形成され、上述した前後進切替機構27等に油圧を供給する油圧回路の構成について説明する。
図2、図3に示された油圧回路は、油圧式のシフトバイワイヤ機構が採用された無段変速機20において、第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502それぞれのゼロストローク(第1状態:初期位置)とフルストローク(第2状態:駆動位置)との組合せにより、4つの状態、すなわち、4つのシフトレンジ(パーキング(P)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、ドライブ(D)レンジ)を切替えることができるように構成されている。以下、より詳細に説明する。
元圧(ライン圧)が供給される元圧油路551には、第3ソレノイドバルブ(クラッチ圧リニアソレノイド)513が設けられている。第3ソレノイドバルブ513は、元圧油路551を通して供給される元圧(ライン圧)を調圧して、前進クラッチ29又は後進クラッチ30を締結するためのクラッチ油圧を生成する。第3ソレノイドバルブ513は、前進クラッチ29又は後進クラッチ30を締結するために必要とされる油圧に基づいて設定され、TCU40から印加される電流値に応じてバルブを軸方向に変位させるリニアソレノイド513aを有しており、該リニアソレノイド513aに印加される電流値に応じて、元圧(ライン圧)からクラッチ圧を生成(調圧)する。生成(調圧)されたクラッチ圧は、クラッチ圧油路555を通して第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502それぞれに供給される。
同様に、元圧(ライン圧)が供給される元圧油路551には、レンジ切替レギュレータバルブ521が設けられている。レンジ切替レギュレータバルブ521は、元圧油路551を通して供給される元圧(ライン圧)を調圧して、第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502それぞれを駆動するためのレンジ切替油圧を生成する。レンジ切替レギュレータバルブ521は、元圧油路551、及び、第1ソレノイドバルブ511並びに第2ソレノイドバルブ512と連通するレンジ切替圧油路552と連通されている。
レンジ切替レギュレータバルブ521は、その内部に、スプール521aを軸方向に摺動自在に収容している。このスプール521aの端部にはスプリング521bが配設されており、レンジ切替油圧による押力(レンジ切替油圧×受圧面積)と、スプリング521bのバネ力(付勢力)とのバランスに応じてスプール521aが軸方向に摺動されることにより、元圧油路551とレンジ切替圧油路552との連通(オイルの流量)が調節され、レンジ切替油圧の調圧が行われる。
レンジ切替レギュレータバルブ521により生成されたレンジ切替圧は、レンジ切替圧油路552を通して、一対の第1ソレノイドバルブ511及び第2ソレノイドバルブ512それぞれに供給される。レンジ切替圧油路552は、途中で2つに分岐されており、分岐された一方のレンジ切替圧油路552に第1ソレノイドバルブ511が設けられ、他方のレンジ切替圧油路552に第2ソレノイドバルブ512が設けられている。
第1ソレノイドバルブ511は、第1切替バルブ501に対するレンジ切替圧の供給・遮断により、第1切替バルブ501を駆動する(すなわち、第1切替バルブ501の状態を第1状態と第2状態との間で切替える)。第1ソレノイドバルブ511は、TCU40と電気的に接続されており、TCU40から出力される制御信号(駆動信号)により駆動されて開閉(開弁/閉弁)するオン・オフソレノイドバルブである。また、第1ソレノイドバルブ511は、ノーマルクローズ型のソレノイドバルブである。
第1ソレノイドバルブ511は、第1切替バルブ501をゼロストローク(第1状態:初期位置)とする場合にオフ(閉弁)され、第1切替バルブ501に対するレンジ切替圧の供給を遮断する。一方、第1ソレノイドバルブ511は、第1切替バルブ501をフルストローク(第2状態:駆動位置)とする場合にオン(開弁)され、第1切替バルブ501に対してレンジ切替圧を供給する。第1ソレノイドバルブ511がオン(開弁)された場合には、第1切替圧油路553を通してレンジ切替圧が第1切替バルブ501(ポート501a)に供給される。
第2ソレノイドバルブ512は、第2切替バルブ502に対するレンジ切替圧の供給・遮断により、第2切替バルブ502を駆動する(すなわち、第2切替バルブ502の状態を第1状態と第2状態との間で切替える)。第2ソレノイドバルブ512は、TCU40と電気的に接続されており、TCU40から出力される制御信号(駆動信号)により駆動されて開閉(開弁/閉弁)するオン・オフソレノイドバルブである。また、第2ソレノイドバルブ512は、ノーマルクローズ型のソレノイドバルブである。
第2ソレノイドバルブ512は、第2切替バルブ502をゼロストローク(第1状態:初期位置)とする場合にオフ(閉弁)され、第2切替バルブ502に対するレンジ切替圧の供給を遮断する。一方、第2ソレノイドバルブ512は、第2切替バルブ502をフルストローク(第2状態:駆動位置)とする場合にオン(開弁)され、第2切替バルブ502に対してレンジ切替圧を供給する。第2ソレノイドバルブ512がオン(開弁)された場合には、第2切替圧油路554を通してレンジ切替圧が第2切替バルブ502(ポート502a)に供給される。
2個の第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502は、対となり、シフトレンジに応じて、クラッチ油圧の供給先、すなわち、クラッチ油圧を供給する油路を切替える。その際に、一対の(2個の)第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502は、それぞれのゼロストローク(第1状態:初期位置)とフルストローク(第2状態:駆動位置)との組合せにより、4つの状態、すなわち、4つのシフトレンジ(パーキング(P)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、ドライブ(D)レンジ)を切替える。
第1切替バルブ501は、第1切替圧油路553と接続されたポート501a、第1切替バルブ501のポート501mと接続されたポート501b、第2切替バルブ502のポート502bと接続されたポート501c、ポート501d、第2切替バルブ502のポート502fと接続されたポート501e、第1切替バルブ501のポート501n、第2切替バルブ502のポート502d、ポート502jと接続されたポート501f、前進クラッチ圧油路556と接続されたポート501g、第2切替バルブ502のポート502cと接続されたポート501h、第2切替バルブ502のポート502iと接続されたポート501i、第2切替バルブ502のポート502gと接続されたポート501j、元圧油路551及び第2切替バルブ502のポート502hと接続されたポート501k、第1切替バルブ501のポート501bと接続されたポート501m、第1切替バルブ501のポート501f、第2切替バルブ502のポート502d、ポート502jと接続されたポート501nを有している。
また、第1切替バルブ501は、その内部に、分離して移動可能なように同軸上に設けられたスプール5011とスプール5012とを軸方向に摺動自在に収容している。スプール5011の端部にはスプリングが配設されており、第1切替油路553からレンジ切替圧が供給されるか否かに応じてスプール5011とスプール5012の軸方向への駆動(位置)が制御され、第1切替バルブ501のゼロストローク(第1状態:初期位置)とフルストローク(第2状態:駆動位置)とが切替えられる。
一方、第2切替バルブ502は、第2切替圧油路554と接続されたポート502a、第1切替バルブ501のポート50c、ポートdと接続されたポート502b、第1切替バルブ501のポート501hと接続されたポート502c、第1切替バルブ501のポート501f、ポート501n、第2切替バルブ502のポート502jと接続されたポート502d、後進クラッチ圧油路557と接続されたポート502e、第1切替バルブ501のポート501eと接続されたポート502f、第1切替バルブ501のポート501j及びパーキング(P)ピストン(図示省略)と接続されたポート502g、第1切替バルブ501のポート501kと接続されたポート502h、第1切替バルブ501のポート501iと接続されたポート502i、第1切替バルブ501のポート501n、ポート501f、第2切替バルブ502のポート502d及び還流油路559と接続されたポート502jを有している。
また、第2切替バルブ502は、その内部に、スプール5021を軸方向に摺動自在に収容している。スプール5021の端部にはスプリングが配設されており、第2切替油路554からレンジ切替圧が供給されるか否かに応じてスプール5021の軸方向への駆動(位置)が制御され、第2切替バルブ502のゼロストローク(第1状態:初期位置)とフルストローク(第2状態:駆動位置)とが切替えられる。
第1ソレノイドバルブ511がオンされ第1切替バルブ501が第2状態(駆動位置)にあり、かつ、第2ソレノイドバルブ512がオフされ第2切替バルブ502が第1状態(初期位置)にある場合には、クラッチ圧油路555、第2切替バルブ502のポート502b、502c、第1切替バルブ501のポート501h、ポート501g、前進クラッチ圧油路556を通して前進クラッチ29にクラッチ圧が供給される一方、第1切替バルブ501によって後進クラッチ30に対するクラッチ圧の供給が遮断される。そのため、前進クラッチ29が締結されるとともに後進クラッチ30が解放されて、前進走行レンジ状態となる。
ここで、前進走行レンジが選択されている場合には、クラッチ油圧が、第1切替バルブ501のポート501cにも供給されることにより、該クラッチ油圧による押力(クラッチ油圧×受圧面積)によってスプール5011が図2の下方向に押され、第1切替バルブ501の状態が自己保持される。なお、第1切替バルブ501の状態が自己保持された後は、第1ソレノイドバルブ511をオフしてもその状態を維持することができるため、消費電力低減の観点から、第1ソレノイドバルブ511がオフされて、図2に示されるような状態となる。
また、前進走行レンジが選択された状態において、例えば、車速が出ており、アクセルペダルの踏込みが解除されておりトルクが不要などといったセーリング走行条件が成立した場合には、第2ソレノイドバルブ512がオン(開弁)されて、第2切替バルブ502のポート502aにレンジ切替圧が供給され、第2切替バルブ502が第2状態(駆動位置)となることにより、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ油圧の供給が遮断される(図3参照)。これにより、前進クラッチ29が解放され、セーリング走行が行われる。一方、クラッチ油圧は低減されることなく、第1切替バルブ501のポート501cに供給されるため、第1切替バルブ501の自己保持状態は維持される。
なお、第1ソレノイドバルブ511がオフされ第1切替バルブ501が第1状態(初期位置)にあり、かつ、第2ソレノイドバルブ512がオンされ第2切替バルブ502が第2状態(駆動位置)にある場合には、クラッチ圧油路555、第1切替バルブ501のポート501d、501e、第2切替バルブ502のポート502f、ポート502e、後進クラッチ圧油路557を通して後進クラッチ30にクラッチ圧が供給される一方、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ圧の供給が遮断される。そのため、前進クラッチ29が解放されるとともに後進クラッチ30が締結されて、後進走行レンジ状態となる。
また、第1ソレノイドバルブ511がオンされ第1切替バルブ501が第2状態(駆動位置)にあり、かつ、第2ソレノイドバルブ512がオンされ第2切替バルブ502が第2状態(駆動位置)にある場合には、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ圧の供給が遮断される一方、第1切替バルブ501によって後進クラッチ30に対するクラッチ圧の供給が遮断される。そのため、前進クラッチ29が解放されるとともに後進クラッチ30が解放されて、ニュートラル(中立)レンジ状態となる。
さらに、第1ソレノイドバルブ511がオフされ第1切替バルブ501が第1状態(初期位置)にあり、かつ、第2ソレノイドバルブ512がオフされ第2切替バルブ502が第1状態(初期位置)にある場合には、第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502によってパーキング(P)ピストン(図示省略)に対するクラッチ圧の供給が遮断されて、パーキング(駐車)レンジ状態となる。
なお、還流油路559には、前進クラッチ29の油圧レベルを一定に保つとともに、応答性を確保するために、保圧弁541が2個設けられている。
図1に戻り、無段変速機20の変速制御は、TCU40によって実行される。すなわち、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機20の変速比を変更する。また、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成する第1ソレノイドバルブ511(第1切替バルブ501)、第2ソレノイドバルブ512(第2切替バルブ502)、及び、第3ソレノイドバルブ513の駆動を制御することにより、クラッチ油圧の供給/遮断を制御して、前進クラッチ29又は後進クラッチ30の締結/解放を行う。すなわち、TCU40は、SBW-CU(シフトバイワイヤ・コントロールユニット)としての機能も兼ね備えている。
ここで、車両のフロアやセンターコンソール等には、運転者による、無段変速機20のシフトレンジを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)51が設けられている。シフトレバー51には、該シフトレバー51と連動して動くように接続され、該シフトレバー51の選択位置を検出するレンジスイッチ59が取り付けられている。レンジスイッチ59は、TCU40に接続されており、検出されたシフトレバー51の選択位置が、TCU40に読み込まれる。なお、シフトレバー51では、ドライブ「D」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。なお、シフトレバー51に代えて、スイッチタイプのセレクト機構を用いてもよい。
ここで、シフトレバー51が操作されてDレンジ(前進走行レンジ)が選択された場合には、第1切替バルブ501が駆動され、前進クラッチ29の油圧室にオイルが供給されるとともに、後進クラッチ30の油圧室からオイルが排出される。これにより、前進クラッチ29が締結状態、後進クラッチ30が解放状態となり、車両は前進可能となる。一方、シフトレバー51が操作されてRレンジ(後進走行レンジ)が選択された場合には、第2切替バルブ502が駆動され、後進クラッチ30の油圧室にオイルが供給されるとともに、前進クラッチ29の油圧室からオイルが排出される。これにより、後進クラッチ30が締結状態、前進クラッチ29が解放状態となり、車両は後進可能となる。なお、シフトレバー51が操作されてNレンジが選択された場合には、第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502が駆動され、前進クラッチ29の油圧室、及び後進クラッチ30の油圧室それぞれからオイルが排出される。これにより、前進クラッチ29及び後進クラッチ30それぞれが解放状態となり(エンジン駆動力の伝達が遮断され)、無段変速機20はニュートラル状態となる。
TCU40には、上述したタービン回転数センサ56(タービン回転数)に加え、無段変速機20のオイルの温度を検出する油温センサ53、及び、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ57や、セカンダリプーリ35の回転数を検出するセカンダリプーリ回転センサ58などが接続されている。また、TCU40は、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン10を総合的に制御するECU60等と相互に通信可能に接続されている。
TCU40、及びECU60は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
ECU60では、上述したカム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU60では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び水温等の各種情報が取得される。そして、ECU60は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びにスロットルバルブ13等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
また、ECU60では、エアフローメータ61により検出された吸入空気量に基づいて、エンジン10のエンジン軸トルク(出力トルク)が算出される。そして、ECU60は、CAN100を介して、エンジン回転数、エンジン軸トルク、及びアクセルペダル開度等の情報をTCU40に送信する。
TCU40は、変速マップに従い、車両の運転状態(例えばアクセルペダル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、自動変速モードに対応する変速マップはTCU40内のEEPROMに格納されている。
特に、TCU40は、セーリング走行中も第1切替バルブ501の自己保持ができ、セーリング走行中における第1ソレノイドバルブ511の断線に対しても、走行を継続する機能を有している。そのため、TCU40は、レンジ切替制御部41を機能的に有している。TCU40では、EEPROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、レンジ切替制御部41の機能が実現される。
レンジ切替制御部41は、第1ソレノイドバルブ511、第2ソレノイドバルブ512、及び、第3ソレノイドバルブ513それぞれを駆動(制御)することにより、無段変速機20のシフトレンジを切替える。すなわち、レンジ切替制御部41は、特許請求の範囲に記載の制御手段として機能する。
より具体的には、レンジ切替制御部41は、前進走行レンジが選択されている場合には、第1ソレノイドバルブ511をオンして第1切替バルブ501を第2状態(駆動位置)とし、かつ、第2ソレノイドバルブ512をオフして第2切替バルブ502を第1状態(初期位置)とすることにより、クラッチ圧油路555、第2切替バルブ502のポート502b、502c、第1切替バルブ501のポート501h、ポート501g、前進クラッチ圧油路556を通して前進クラッチ29にクラッチ圧を供給する一方、第1切替バルブ501によって後進クラッチ30に対するクラッチ圧の供給を遮断する。それにより、前進クラッチ29を締結するとともに後進クラッチ30を解放する。すなわち、前進走行レンジ状態に切替える。
ここで、上述したように、前進走行レンジが選択されている場合には、クラッチ油圧が第1切替バルブ501のポート501cにも供給されることにより、クラッチ油圧の押力(クラッチ油圧×受圧面積)によってスプール5011が図2の下方向に押されることにより、第1切替バルブ501の状態が自己保持される。そして、第1切替バルブ501の状態が自己保持された後は、第1ソレノイドバルブ511をオフしてもその状態を維持することができる。そこで、レンジ切替制御部41は、消費電力低減の観点から、第1切替バルブ501の状態を自己保持した後、第1ソレノイドバルブ511をオフする。すなわち、通電を停止する(図2参照)。
また、レンジ切替制御部41は、前進走行レンジが選択された状態において、例えば、車速が出ており、かつ、アクセルペダルの踏込みが解除されておりトルクが不要等といったセーリング走行条件が成立した場合には、第2ソレノイドバルブ512をオン(開弁)して、第2切替バルブ502のポート502aにレンジ切替圧を供給し、第2切替バルブ502を第2状態(駆動位置)とすることにより、前進クラッチ29に対するクラッチ油圧の供給を遮断する(図3参照)。このようにして、レンジ切替制御部41は、前進クラッチ29を解放し、セーリング走行を実行する。一方、クラッチ油圧は低減されることなく、第1切替バルブ501のポート501cに供給されるため、第1切替バルブ501の自己保持状態は維持される。
なお、レンジ切替制御部41は、後進走行レンジが選択されている場合には、第1ソレノイドバルブ511をオフして第1切替バルブ501を第1状態(初期位置)とし、かつ、第2ソレノイドバルブ512をオンして第2切替バルブ502を第2状態(駆動位置)とすることにより、クラッチ圧油路555、第1切替バルブ501のポート501d、501e、第2切替バルブ502のポート502f、ポート502e、後進クラッチ圧油路557を通して後進クラッチ30にクラッチ圧を供給する一方、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ圧の供給を遮断する。それにより、前進クラッチ29を解放するとともに後進クラッチ30を締結する。すなわち、後進走行レンジ状態に切替える。
また、レンジ切替制御部41は、ニュートラル(中立)レンジが選択されている場合には、第1ソレノイドバルブ511をオンして第1切替バルブ501を第2状態(駆動位置)とし、かつ、第2ソレノイドバルブ512をオンして第2切替バルブ502を第2状態(駆動位置)とすることにより、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ圧の供給を遮断する一方、第1切替バルブ501によって後進クラッチ30に対するクラッチ圧の供給を遮断する。それにより、前進クラッチ29を解放するとともに後進クラッチ30を解放する。すなわち、ニュートラル(中立)レンジ状態に切替える。
さらに、レンジ切替制御部41は、パーキングレンジが選択されている場合には、第1ソレノイドバルブ511をオフして第1切替バルブ501を第1状態(初期位置)とし、かつ、第2ソレノイドバルブ512をオフして第2切替バルブ502を第1状態(初期位置)とすることにより、第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502によってパーキング(p)ピストン(図示省略)に対するクラッチ圧の供給を遮断して、パーキング(駐車)レンジ状態に切替える。
次に、図4を参照しつつ、レンジ切替装置1の動作について説明する。図4は、レンジ切替装置1による自己保持処理およびコースティング処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU40において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
まず、前進走行レンジが選択された場合に、ステップS100では、第1ソレノイドバルブ511がオン(通電)されるとともに、第2ソレノイドバルブ512がオフ(非通電)される。それにより、第1切替バルブ501が軸方向(図2,3の下方向)に駆動(摺動)される一方、第2切替バルブ502は初期位置のまま維持される(すなわち、前進走行レンジ状態に切替えられる)。
そして、ステップS102において、第3ソレノイドバルブ513により調圧されたクラッチ圧が、第1切替バルブ501、第2切替バルブ502を介して(より詳細には、クラッチ圧油路555、第2切替バルブ502のポート502b、502c、第1切替バルブ501のポート501h、ポート501g、前進クラッチ圧油路556を介して)、前進クラッチ29に供給されるとともに、第1切替バルブ501が自己保持状態となる。
その後(第1切替バルブ501が自己保持状態となった後)、ステップS104では、消費電力を低減するため、第1ソレノイドバルブ511への通電が停止(オフ)される(図2参照)。
次に、ステップS106では、所定のセーリング条件(例えば、車速が出ており、かつ、アクセルペダルの踏込みが解除されておりトルクが不要等)が成立しているか否かについての判断が行われる。ここで、所定のセーリング条件が成立している場合には、ステップS110に処理が移行する。一方、所定のセーリング条件が成立していないときには、ステップS108において、第2ソレノイドバルブ512がオフ(非通電)された後(又は、オフ(非通電)状態が維持された後)、本処理から一旦抜ける(すなわち、通常走行が行われる)。
ステップS110では、第2ソレノイドバルブ512がオン(通電)され、第2切替バルブ502が軸方向(図2,3の下方向)に駆動(摺動)されることにより、前進クラッチ29に対するクラッチ圧の供給が遮断される(図3参照)。そして、前進クラッチ29が解放されて、セーリング走行が行われる。その後、本処理から一旦抜ける。
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、前進走行レンジが選択されている場合には、第3ソレノイドバルブ513により調圧されたクラッチ油圧が前進クラッチ29に供給されるとともに、クラッチ油圧により第1切替バルブ501の状態が自己保持され、前進走行レンジが選択されており、かつ、所定の惰性走行条件が成立した場合には、クラッチ油圧により第1切替バルブ501の状態が自己保持されるとともに、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ油圧の供給が遮断される。そのため、クラッチ油圧を第1切替バルブ501に供給しつつ、第2切替バルブ502によって前進クラッチ29に対するクラッチ油圧を遮断(カット)することにより、クラッチ油圧で第1切替バルブ501の自己保持状態を維持しつつ、セーリング(コースティング)走行を行うことが可能となる。その結果、セーリング走行中も第1切替バルブ501の自己保持ができ、セーリング走行中における第1ソレノイドバルブ511の断線に対しても、走行を継続することが可能となる。
本実施形態によれば、第1ソレノイドバルブ511がオンされ第1切替バルブ501が第2状態にあり、かつ、第2ソレノイドバル512がオフされ第2切替バルブ502が第1状態にある場合に、前進走行レンジ状態となり、第1ソレノイドバルブ511がオフされ第1切替バルブ501が第1状態にあり、かつ、第2ソレノイドバルブ512がオンされ第2切替バルブ502が第2状態にある場合に、後進走行レンジ状態となり、第1ソレノイドバルブ511がオンされ第1切替バルブ501が第2状態にあり、かつ、第2ソレノイドバルブ512がオンされ第2切替バルブ502が第2状態にある場合に、ニュートラル(中立)レンジ状態となる。そのため、第1切替バルブ501及び第2切替バルブ502それぞれの第1状態と第2状態との組み合わせによって、前進/後進/ニュートラルを含む各シフトレンジを切替えることができる。
本実施形態によれば、前進走行レンジが選択されている場合に、第1ソレノイドバルブ511がオンされて第1切替バルブ501が第2状態にされるとともに、第1切替バルブ501の状態が自己保持された後、第1ソレノイドバルブ511がオフされる。そのため、前進走行レンジを保持しつつ、自己保持中に第1ソレノイドバルブ511への通電を停止することにより、消費電力を削減することができる。
本実施形態によれば、第1ソレノイドバルブ511の駆動(開閉)を制御して、第1切替バルブ501に対する油圧を供給/遮断することにより、第1切替バルブ501の状態を第1状態(初期位置)と第2状態(駆動位置)との間で切替えることができる。また、第2ソレノイドバルブ512の駆動(開閉)を制御して、第2切替バルブ502に対する油圧を供給/遮断することにより、第2切替バルブ502の状態を第1状態(初期位置)と第2状態(駆動位置)との間で切替えることができる。
本実施形態によれば、第3ソレノイドバルブ513により調圧されたクラッチ油圧が、第1切替バルブ501に供給され、該クラッチ油圧の押力(クラッチ油圧×受圧面積)によって第1切替バルブ501の状態が自己保持される。よって、クラッチ油圧を第1切替バルブ501に供給することにより、該クラッチ油圧の押力によって第1切替バルブ501の状態を自己保持することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態(図2、図3)で示した油圧回路構成は一例であり、当該油圧回路構成に限定されるものではない。
上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機等にも適用することができる。また、無段変速機に代えて、有段自動変速機(AT)などを用いることもできる。
また、上記実施形態では、前後進切替機構27を、プライマリプーリ34の前段に配置したが、セカンダリプーリ35の後段に配置する構成としてもよい。
上記実施形態では、エンジン10を制御するECU60と、無段変速機20を制御するTCU40とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。また、上記実施形態では、TCU40がSBW-CUの機能を兼ね備えた構成としたが、SBW機能を司るSBW-CUをTCU40とは別に備える構成としてもよい。