現在の治療用バイオテクノロジー製品は、高品質であり、且つ組換え体ヒトタンパク質及び抗体は、内在性のヒトタンパク質に類似しているものの、タンパク質の不安定性は、依然として重要な懸念事項である。起こり得るタンパク質活性の喪失及び薬物製品の望ましくない外観などのタンパク質凝集の品質に関する影響に加えて、可溶性のタンパク質凝集体は、顕著な細胞毒性作用を有することが報告されており、重要なこととして、可溶性のタンパク質凝集体は、タンパク質製品に対する免疫反応の発生に関する潜在的なリスク因子となる。タンパク質凝集は、発酵、リフォールディング、精製、充填、輸送、保管又は投与を含めたタンパク質の寿命にわたる様々な時点で起こる可能性があり、且つ様々な環境因子に強く左右される。当技術分野では、治療用タンパク質における安定性の増大及び凝集の低減が極めて必要とされており、最適化された医薬製剤がこれを行うのに役立ち得る。
BiTE(登録商標)抗体コンストラクト分子などの特定のタンパク質系医薬品は、長期間にわたって液体製剤中で安定ではなく、特に加速温度、例えば4℃以上の冷蔵温度で安定ではない。示差走査熱量測定によるBiTE(登録商標)抗体コンストラクトの非HLE及びHLEのバリアントの両方の最初の試験は、通常、酸性pH値よりも中性において高い熱安定性を示し、例えばpH6又はpH7に対してpH4で低い安定性を示す。したがって、当業者であれば、このような抗体コンストラクトの溶液安定性が低減するはずであると提案するであろう。結果的に、当業者であれば、通常避けられるべきであるscFvの不安定化を想定するため、本発明による抗体コンストラクトに関して低pH製剤を避けるであろう。したがって、反対に、本発明による抗体コンストラクトが、低pH値を有する液体医薬組成物中においてより一層安定であることは、極めて驚くべき発見であった。
本発明の基盤となる普遍的なコンセプトは、本発明による抗体コンストラクトを含む液体医薬組成物のコロイド安定性が低pHで向上するという発見である。本発明の抗体コンストラクトは、通常、それらの第1及び第2のドメインに関して異なる等電点(pI)値を有する。加えて、第3のドメインのpIも、通常、第2のドメインのpIと異なる。生理的条件下では、第1及び/又は第3のドメインは、通常、pIが、例えば、約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0又は6.5のpIを有する酸性側にあるため、負に荷電し得る。たとえ第1のドメインが6,5を超える、例えば約7.0、7.5、8.0又は8.5のpIを有するとしても、このpIは、通常、一般に8.0~10.0、より典型的には約8.5~9.5、好ましくは約9.2のpIを有する第2のドメインのものよりも低いであろう。加えて、第3のドメインは、通常、6.0~7.0の弱酸性のpIを有し、これは、たとえ第1のドメインのpIが弱塩基性であるとしても、第2のドメインと第3のドメインとの間のpIの相違は、維持されることを意味する。結果として、別々のドメインが異なる、すなわち反対の電荷を有するため、少なくとも1つのドメインが酸性pI及び塩基性pIとしての別のドメインを有する任意のpI差による双極子が生理的条件下でもたらされることになる。前述の反対の電荷は、分子内及び分子間の静電引力をもたらし得、それにより凝集及びしたがって望ましくない高分子量(HMW)種の形成がもたらされる場合がある。前述の形成は、溶液の安定性又は分散体のコロイド安定性に重大な影響を及ぼし得る。しかしながら、媒体のpHが低い場合、全てのドメインは、プロトン化され、静電反発力が生じる(図2を参照されたい)。
例えば、pH7では、CD19に対する第1のドメイン及びCD3に対する第2のドメインを含む抗体コンストラクトは、T細胞エンゲージドメイン上の正電荷及びCD19ドメイン上の負電荷によって双極子を形成する。これが引力をもたらし、結果としてコロイド不安定性を引き起こす凝集をもたらす。約pH4では、両方のドメインは、正に荷電し、電荷斥力によりコロイド安定性が向上する。
加えて、たとえ第1及び第2のドメインのpIがそれぞれ互いに近い、例えば第1のドメインが約8.0であり、且つ第2のドメインが約8.5又は9.0又は9.5であるとしても、両方のドメインは、8よりも低いpH値ですでに正に荷電している。さらに低いpH、例えば約4では、2つのドメイン、例えば標的及びT細胞エンゲージドメインは、著しく正に荷電する。これにより一層増大した電荷-電荷斥力がもたらされ、結果として明らかに高いコロイド安定性がもたらされる。この効果は、通常、弱酸性の範囲のpIを有し、したがってpIに関して第2のドメインと常に異なる第3のドメインが存在する場合に追加される。要するに、本発明による抗体コンストラクトは、常に、6.0以下、又は5.5以下、又は5.0以下、又は4.5以下、例えば4.2などの低pHを有する媒体中において一般にプロトン化されたドメインを有することから恩恵を被っている。
一般に腫瘍学標的のためのscFvドメインである本発明による抗体コンストラクトの第1のドメインは、通常、一般に抗CD3ドメインである第2のドメインと異なるpIを有する。
典型的には、第2のドメイン、例えば抗CD3ドメインは、8~10、好ましくは約8.5~9.5の範囲、最も好ましくは約9.2のpIを有する。
第1のドメインが抗CD19又は抗CD33ドメインである場合、第1のドメインは、約4.9~5.3のpIを有し得る。第1のドメインが抗DLL3又は抗EGFRvIIIドメインである場合、第1のドメインは、約6~8又は約9.0のpIを有し得る。第1のドメインが抗CD70ドメインである場合、第1のドメインは、約8.0~8.5のpIを有し得る。第1のドメインが抗CDH19ドメインである場合、第1のドメインは、約7.0~7.5のpIを有し得る。第1のドメインが抗PSMAドメインである場合、第1のドメインは、約7.0~7.5のpIを有し得る。第1のドメインが抗MSLNドメインである場合、第1のドメインは、約9.0~9.5のpIを有し得る。第1のドメインが抗Flt3ドメインである場合、第1のドメインは、約8.5~9.5のpIを有し得る。
異なるpIのドメインを安定化する製剤のコンセプトは、任意の抗体コンストラクトに適用され得ることが本発明に関連して想定される。本発明に関連して、本明細書で記載される第3のドメインを含む二重特異性抗体コンストラクトは、特に本明細書で記載される製剤によって安定化されるのに適している。しかしながら、例えば、このような第3のドメインを有しない他の二重特異性抗体コンストラクトも本発明に従って効率的に安定化され得る。例えば、本発明による抗体コンストラクトは、配列番号1954~1956のHCDR及び配列番号1958~1960のLCDRを含む第1のドメインを有し得ることが想定される。本発明による抗体コンストラクトは、配列番号1957のVH及び配列番号1961のVLを含む第1のドメインを有し得ることも想定される。本発明による抗体コンストラクトの第1のドメインは、配列番号1962による第1のドメインを有し得ることがさらに想定される。本発明による抗体コンストラクトは、配列番号1963による配列を有し得ることも想定される。
しかしながら、本発明に関連して、医薬組成物の安定化効果は、異なるpIの(結合)ドメインを有する抗体コンストラクトに限定されない。したがって、本医薬組成物は、こうして本明細書に記載される製剤によって安定化され得る異なるpIの部分とともに提供される抗体コンストラクトに対する安定化製剤を提供することも想定される。このような部分は、結合ドメイン自体が、本発明に関連して医薬組成物に従って提供されるさらなる安定化を必要とすることになるように、pIの異ならない場合でも、そのような抗体コンストラクトの結合ドメインをマスクするマスキング部分を含み得る。通常、マスキング部分を含むこのような抗体コンストラクトは、活性化可能な抗体コンストラクトである。本発明に関連して、このような活性化可能な抗体コンストラクトは、好ましくは、CDH19、MSLN、DLL3、FLT3、EGFR、EGFRvIII、BCMA、PSMA、CD33、CD19、CD20及びCD70からなる群から選択される腫瘍抗原などの任意の標的細胞の表面抗原に結合し得る。
このような活性化可能な抗体コンストラクトは、通常、(i)それぞれが重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列を含む少なくとも2つの結合ドメイン、(ii)未切断状態において標的細胞表面などの対応する結合パートナーへのそれぞれの結合ドメインの結合を阻害するマスキング部分、及び(iii)(i)と(ii)との間に位置する切断可能な部分であって、例えばプロテアーゼの基質として機能するポリペプチドである切断可能な部分を含む抗体又はその抗原結合フラグメントであり得る。通常、未切断状態の切断可能な抗体は、次のとおりのN末端からC末端への構造配置を有する:マスキング部分-切断可能な部分-結合ドメイン又は結合ドメイン-切断可能な部分-マスキング部分。本発明による医薬組成物は、活性化可能な抗体コンストラクトへの安定性の付与において特に有利であり得るが、少なくとも2つの結合ドメインの少なくとも2つのマスキング部分のpIが異なる。例えば、一方のマスキング部分のpIは、3~5、好ましくは3.5~4.5、より好ましくは3.9~4.5の範囲であり得る一方、他方のマスキング部分は、5.0~7.0、好ましくは5.5~6.0の範囲である。このような場合、本発明による医薬組成物中でこのような抗体コンストラクトを製剤化する際、前記抗体コンストラクトの凝集は、著しく低減する場合があることが通常見出される。通常、高分子量(HMW)種のパーセンタイルに換算した凝集は、低pHでの同じプロトン化及び本発明による医薬組成物中の賦形剤の追加の安定化機能により、例えば約10%~約6、5、4又は4%未満にさえ著しく低減する場合がある。4%未満のパーセンタイルのHMW種は、通常、約4.2~4.8のpHを有する本発明による医薬組成物中で見出される。
好ましくは、本発明による医薬組成物の(溶液)pHは、両方のドメインについて正味の正電荷をもたらして、ドメイン間とドメイン内との両方に斥力をもたらすため、本発明による抗体コンストラクトの2つ又は3つのドメインのいずれのpIよりも低くなるべきである。約4.0~5.5のpH値が好ましく、4.2~4.8がより好ましい。
驚くべきことに、本発明による医薬組成物は、予想されるよりも高濃度で本発明による抗体コンストラクトを含み得ることも見出された。一般に、本明細書で記載される抗体コンストラクトは、最大で約1mg/mlの濃度で液体医薬組成物中において保管及び/又は使用される。より高い濃度では、凝集の傾向が観察される。しかしながら、本明細書で説明されるとおり、低pHが、凝集のリスクを低減する静電気的な分子間及び分子内斥力に寄与し、(コロイドの)不安定性を有しないで1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5又は8.0mg/mlなどのより高い抗体コンストラクト濃度が可能になり得る。
本発明の医薬組成物は、無機陰イオン又は塩化ナトリウムなどの無機陰イオンを含む塩を含まないことが好ましいことがさらに見出された。本発明の医薬組成物の浸透圧は、最小管理単位(SKU)内で非イオン性賦形剤(例えば、スクロース)によって調整されることが好ましい。理論に束縛されるものではないが、タンパク質製剤は、本明細書で記載される静電反発力に有利であるために分子の等電点と十分に異なる製剤pH値を選択することにより、物理的に安定化され得ることがその理由である。しかしながら、これらの斥力は、製剤中に存在するイオンとの相互作用によって弱められ得る。イオン、特に無機陰イオンは、タンパク質の表面の電荷を最小化又は中和する可能性があり、且つ分子内斥力の低減によって疎水性相互作用を生じさせる可能性がある。したがって、本発明による医薬組成物は、無機陰イオンを含まないことが好ましい。必要とされる緩衝剤化合物としてグルタミン酸塩及び/又は酢酸塩などの有機陰イオンのみを含むことが好ましい。したがって、本発明による医薬組成物は、F-、Cl-、I-及びBr-などの無機陰イオンを含まないことが好ましい。特に、本発明による医薬組成物は、NaClを含まないことが好ましい。
本発明による液体製剤中の抗体コンストラクトの安定性の増大は、貯蔵可能な固体、すなわち乾燥医薬組成物を得るための、費用がかかり面倒な凍結乾燥の工程を省くことに寄与し得る。また、低pHの医薬組成物は、静注投与に好適であり得る。しかしながら、例えば皮下又は筋肉内投与が必要である場合又は他の医学的な理由のために低pHが許容されない場合、固体医薬組成物を引き続き本発明による液体医薬組成物から得ることができる。このようにして得られた凍結乾燥物は、投与又は個別の医学的必要性に要求される形態に好適な薬学的に許容される媒体中で再構成され得る。加えて、Captisol(登録商標)などのさらなる安定化剤は、低pHの本医薬組成物の使用によって不要になり得る。
本明細書で提示される医薬組成物により、製剤化された二重特異性抗体コンストラクトの安定が可能になる。様々な二重特異性抗体コンストラクトの製剤パラメータの影響の評価は、製剤が、標的結合体中の半減期延長部分、IEP又はシステインクランプの存在を含むが、これらに限定されない分子の特徴に依存して最適化され得ることを示す。本明細書に記載されるとおりの至適pH及び塩含量の慎重な選択が不可欠である。安定性に関する限り、加速された保管条件での等温性の長期間安定性試験と調査される二重特異性抗体コンストラクトについての安定性予測方法とを関連付けることは、それが以前にモノクローナル抗体についても示されているため可能である。本明細書に記載される二重特異性抗体コンストラクトは、30℃での長期間の保管中及び安定性予測方法中、全体的に安定であり、その結果、調査されるパラメータの部分は、相当に堅牢なままであり、例えばDLS流体力学的半径を含む相関を見出すことが困難になる。この現象は、保管及び温度ストレスに対する二重特異性抗体の様々な反応を含む、pH及びイオン強度における製剤条件を変えることによって補正される。しかしながら、安定性予測方法、特に温度勾配nanoDSF及び温度勾配DLS並びに疎水性相互作用クロマトグラフィーがあり、そのパラメータは、等温性の安定性試験中に評価される一部のパラメータ、例えばサブビジブル粒子の数、IF比350nm/330nm及び酸性電荷バリアントの量に対して非常に強力且つ理解可能な相関を示す。それにもかかわらず、長期間安定性に対する線形劣化動力学の適用は、難しく、したがって遅延時間並びに凍結及び解凍により誘導される主要な加速劣化を有する確率的動力学を排除しないため、凝集の予測は、課題に直面する。本明細書で使用される安定性予測技術は、本発明による医薬組成物中の二重特異性抗体コンストラクトの安定性に対して有用な予測をもたらす。
本発明において、用語「安定性」又は「安定化」は、医薬組成物全体の安定性に関し、また特に活性成分(例えば、二重特異性単鎖抗体コンストラクト)自体の具体的には製剤、充填、輸送、保管及び投与中の安定性に関する。本発明の医薬組成物及び二重特異性単鎖抗体コンストラクトに関連して、用語「安定性」又は「安定な」は、特にタンパク質凝集体(HMWS)の形成の低減又は防止を指す。特に、用語「安定性」は、本明細書で記載される医薬組成物内に含まれる二重特異性単鎖抗体コンストラクトのコロイド安定性にも関する。「コロイド安定性」は、コロイド粒子(タンパク質など)が液体中において長期間(数日~数年)分散されたままとなる能力である。
本明細書で使用する場合、用語「(タンパク質)凝集体」は、通常、所望の既定の種(例えば、単量体)ではなく、「オリゴマー」又は「マルチマー」などの高分子量のタンパク質種を包含する。本用語は、本明細書において用語「高分子量種」及び「HMWS」と互換的に使用される。タンパク質凝集体は、通常、サイズ(小型(二量体)~大型の集合体(サブビジブル粒子又はさらに目に見える粒子)の範囲であり、且つナノメートル~マイクロメートルの直径範囲)、形態(ほぼ球状~線維状)、タンパク質構造(天然対非天然/変性)、分子間結合の種類(共有結合性対非共有結合性)、可逆性及び可溶性の点で異なり得る。可溶性凝集体は、およそ1~100nmのサイズ範囲を占め、タンパク質微粒子は、顕微鏡下でないと見えない(約0.1~100.m)及び目に見える(>100.m)範囲を占める。前述の種類のタンパク質凝集体の全ては、通常、本用語に包含される。したがって、用語「(タンパク質)凝集体」は、2つ以上のタンパク質単量体の物理的に会合した又は化学的に結合したあらゆる種類の非天然種を指す。
したがって、用語「タンパク質凝集」又は「非天然凝集」は、タンパク質分子が2つ以上のタンパク質で構成された複合体を構築するプロセスを示し、個々のタンパク質は、単量体として示される。タンパク質凝集に至る複数の経路が存在し、タンパク質凝集は、温度、振盪及び撹拌などの機械的ストレス、ポンピング、凍結及び/又は解凍並びに製剤を含む多様な条件によって誘導され得る。
温度の上昇は、タンパク質の酸化及び脱アミドなどの化学反応を加速させ、それにより凝集を促進し得る。また、高温は、タンパク質の立体構造に対して四次構造、三次構造及び二次構造のレベルで直接的に影響を及ぼし、凝集を促進し得る温度誘導性のアンフォールディングをもたらし得る。本願において参照される温度は、通常、繊細なタンパク質系医薬品の長期間の保管のための超低温冷凍温度(-70℃)、通常の冷凍温度(-20℃)、冷蔵温度(4℃)、室温(25℃)及び生理的温度(37℃)である。
タンパク質の変性及び凝集は、新たな氷/溶液界面の生成、コンテナ表面への吸着、タンパク質及び溶質の凍結濃縮及び緩衝液成分の結晶化によるpH変化など、複雑な物理的及び化学的な変化に起因して凍結/解凍中に生じる可能性がある。
タンパク質濃度の上昇もタンパク質凝集体の形成を増強し得る。高タンパク質濃度では、高分子溶質による高い全体積占有率がその溶液中の各高分子種の挙動に及ぼす作用を説明するために使用される用語の高分子クラウディングが生じる。この排除体積理論によれば、自己集合及びこのような潜在的凝集が有利になる場合がある。
ベンジルアルコール及びフェノールなどの抗菌保存剤は、タンパク質液体製剤において貯蔵寿命中の無菌性を保証するために必要となる場合が多く、加えて、多用量製剤及びある種の薬物送達システム、例えば注射ペン、ミニポンプ及び局所適用においても必要とされる。多くの保存剤についてタンパク質凝集を誘発することが報告されているが、根底にある機構は、十分に理解されていない。保存剤が、凝集を起こしやすい折り畳まれていないタンパク質状態に結合し、それを集合させていることが提唱されている。
有利には、本発明の医薬組成物は、安定であることが想定され、すなわちストレス、特に熱ストレス、保管、表面に誘導されるストレス(例えば、凍結/解凍サイクル、発泡)、濃縮(限外濾過及びダイアフィルトレーションによる)又は抗菌保存剤などの有機化合物との混合に供されている場合でも、タンパク質凝集体を含まないか又は実質的に含まない状態を保つことが想定される。好ましくは、医薬組成物は、付属の実施例で評価された低pHを有する組成物と比較して同様の又は一層向上した特徴を有し得る。本発明の医薬組成物は、分散し、且つ好ましくは単量体である二重特異性単鎖抗体コンストラクトなどのタンパク質系医薬品の均質な溶液であることが好ましい。
2つ(以上)の異なる抗原に同時に結合する二重特異性(及び/又は多重特異性)抗体に好適な製剤を提供することが本発明に関連して想定される。ある種の実施形態では、二重特異性抗体は、第1の標的抗原に結合する一方、第2の抗原は、エフェクター細胞、すなわち1つ以上のFcR(例えば、FcγRIII)を発現し、且つ抗体のFc領域に起因する1つ以上のエフェクター機能を遂行する白血球上に存在する細胞表面分子である。エフェクター機能の例としては、Clq結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、ファゴサイトーシス、細胞表面受容体の下方制御及びB細胞活性化が挙げられるが、これらに限定されない。ADCCに関与するエフェクター細胞の例としては、細胞傷害性T細胞、末梢血単核球(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球及び好中球が挙げられるが、これらに限定されない。
当業者であれば、本医薬組成物が効果的に活性成分の安定化をもたらす(すなわち二重特異性単鎖抗体コンストラクトのタンパク質凝集体の形成を低減又は阻害する)ものの、場合により、いくつかの凝集体又は立体構造異性体が医薬組成物の全体的な可用性を実質的に損なうことなく形成され得ることを理解するであろう。これに関連して、凝集体を「実質的に含まない」とは、凝集体の量が、特に環境ストレス、例えば付属の実施例で評価されるとおりのストレスに供される場合でも、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%又は1%(w/v)未満のままであることを意味する。
可溶性及び不溶性のタンパク質凝集体の存在を決定するための方法は、とりわけ、Mahler et al.,J Pharm Sci.2009 Sep;98(9):2909-34によって概説されている。可溶性のタンパク質凝集体の形成は、付属の実施例に記載されるとおり、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UPLC)によって評価することができる。SECは、タンパク質凝集体の検出及び定量化に最もよく使用されている分析方法の1つである。SEC分析により、凝集体のサイズの決定及び定量化の両方が可能になる。SEQ-UPLCにより、約5~1000kDaの分子量範囲で高分子の形状及びサイズ(流体力学的半径)に基づいて高分子の選択的且つ迅速な分離が可能になる。
タンパク質溶液は、タンパク光又は混濁度と呼ばれる光学的特性を示す。溶液の光学的特性は、存在する粒子が光を散乱し吸収する機能である。タンパク質は、天然のコロイドであり、水性製剤の混濁度は、タンパク質濃度、溶解していない粒子の存在、粒子サイズ及び単位体積当たりの粒子数に依存する。混濁度は、UV-Vis分光法によって340~360nmの範囲における光学密度として測定することができ、可溶性及び不溶性の凝集体両方を検出するのに使用することができる。
さらに、視覚的手段による試料の検査も依然としてタンパク質凝集体の評価における重要な側面である。目に見える凝集体の有無の視覚的評価は、好ましくは、Deutscher Arzneimittel Codex(DAC)試験5に従って実施される。
本明細書の他の箇所で説明されるとおり、本発明の医薬組成物は、おそらく低pH及び任意選択的にそれに含まれるさらなる安定化剤の作用により、二重特異性単鎖抗体コンストラクトのコロイド安定性の増大に有利であり、したがって液-液相分離(LLPS)の低減又は一層の不在を示すことが想定される。LLPSは、熱力学的に促進される現象であり、均質なタンパク質溶液が温度低下によってタンパク質の乏しい相(通常、上層)とタンパク質の豊富な相(通常、下層)とに分離する現象である。LLPSは、通常、単にこの2つの相を混合し溶液の温度を上げることによって完全に元に戻すことができる。LLPSの発生は、短い範囲における引力性のタンパク質-タンパク質相互作用に起因し、これは、タンパク質-タンパク質引力の強さの尺度となる。本発明によるβ-シクロデキストリンを含む医薬組成物は、β-シクロデキストリンを含まない医薬組成物と比較して、高濃度の二重特異性抗体コンストラクトをLLPSのタンパク質の乏しい相中に含むことが見出された。したがって、本発明の医薬組成物は、対照と比較した場合、LLPSの低減又はLLPSの完全な不在を呈し、したがって本発明の二重特異性抗体コンストラクトのコロイド安定性の増大を促進することが想定される。LLPSは、誘導可能であり、異なる相のタンパク質含量を付属の実施例に記載のとおりに調べることができる。
環境ストレスは、特に熱及び/又は化学的変性に起因して立体構造変化をもたらす場合もあり、それにより凝集に有利となり得る。驚くべきことに、本発明者らは、芳香族アミノ酸の固有の蛍光発光強度を測定することによって評価されるとおり、二重特異性抗体コンストラクトが立体構造変化に対しても安定化されることを見出した。したがって、本発明の医薬組成物は、好ましくは、立体構造異性体(すなわち非天然の異常に折り畳まれたタンパク質種)の形成も低減又は阻害する。
先に説明したとおり、本発明の安定な医薬組成物は、第1の結合ドメインを介して標的細胞の表面抗原に結合し、且つ第2の結合ドメインを介してT細胞の表面抗原CD3に結合する二重特異性抗体コンストラクトを含む。
用語「抗体コンストラクト」は、その構造及び/又は機能が、抗体、例えば全長又は完全免疫グロブリン分子の構造及び/若しくは機能に基づき、且つ/又は抗体若しくはそのフラグメントの可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)ドメインから抽出される分子を指す。したがって、抗体コンストラクトは、その特異的な標的又は抗原に結合することができる。さらに、本発明による抗体コンストラクトの結合ドメインは、標的結合を可能にする抗体の最小構造要件を含む。この最小要件は、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)並びに/又は3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、好ましくは6つ全てのCDRの存在によって定義され得る。抗体の最小構造要件を定義する代替の手法は、特異的な標的の構造、それぞれエピトープ領域を構成する標的タンパク質のタンパク質ドメイン(エピトープクラスター)内での抗体のエピトープの定義であるか、又は定義された抗体のエピトープと競合する特異的な抗体を参照することによる。本発明によるコンストラクトに基づく抗体は、例えば、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体を含む。
本発明による抗体コンストラクトの結合ドメインは、例えば、上で参照されたグループのCDRを含み得る。好ましくは、それらのCDRは、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)のフレームワーク内に含まれるが、それが両方を含む必要はない。Fdフラグメントは、例えば、2つのVH領域を有し、多くの場合、インタクトな抗原結合ドメインの一部の抗原結合機能を保持している。抗体フラグメント、抗体バリアント又は結合ドメインの形式についてのさらなる例としては、(1)VL、VH、CL及びCH1ドメインを有する一価のフラグメントであるFabフラグメント;(2)ヒンジ領域でのジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを有する二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(3)2つのVH及びCH1ドメインを有するFdフラグメント;(4)抗体の1つのアームのVL及びVHドメインを有するFvフラグメント、(5)VHドメインを有するdAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR)並びに(7)単鎖Fv(scFv)が挙げられ、後者が好ましい(例えば、scFVライブラリ由来のもの)。本発明による抗体コンストラクトの実施形態の例は、例えば、国際公開第00/006605号パンフレット、国際公開第2005/040220号パンフレット、国際公開第2008/119567号パンフレット、国際公開第2010/037838号パンフレット、国際公開第2013/026837号パンフレット、国際公開第2013/026833号パンフレット、米国特許出願公開第2014/0308285号明細書、米国特許出願公開第2014/0302037号明細書、国際公開第2014/144722号パンフレット、国際公開第2014/151910号パンフレット及び国際公開第2015/048272号パンフレットに記載されている。
代替の二重特異性抗原結合形式は、例えば、本明細書に参照として組み込まれる米国特許出願公開第2011/0054151号明細書に記載される。例えば、二重特異性抗原結合タンパク質は、IgG抗体がC末端でFvフラグメントと融合されているmAb-Fv形式を含み得る。代わりに、IgG抗体がC末端でFabと融合されているmAb-Fab形式が使用され得る。mAb-Fabコンストラクトは、CH及びCL定常ドメインC末端を含有するが、mAb-Fvは、C末端Fv融合体にそれらを含有しない。米国特許出願公開第2011/0054151号明細書の図8を参照されたい。任意選択的に、mAb-Fv及びmAb-FabコンストラクトのN末端結合領域は、軽鎖及びCH1ドメインを欠く(すなわち単一ドメインVHH領域を含む)。mAb-Fv及びmAb-Fabコンストラクトは、3つの可変領域を含有し、その結果、それらは、第1の抗原に二価で結合し、且つ第2の抗原に一価で結合する。好適な二重特異性抗原結合形式には、米国特許出願公開第2011/0054151号明細書に記載されるFab-Fv及びFab-Fabコンストラクトも含まれる。Fab-Fv及びFab-Fab免疫グロブリンは、第1の抗原に結合するN末端Fabフラグメントを含み、C末端Fv又はFabフラグメントは、第2の抗原に結合する。
好ましくは、ヘテロ二量体抗体は、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むが、これらに限定されない複数のサブクラスを有するIgGクラスの抗体であるが、IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEも考えられる。抗体は、アイソタイプ及び/又はサブクラスのハイブリッドも含み得ることが理解されるべきである。例えば、参照により組み込まれる米国特許出願公開第2009/0163699号明細書に示されるとおりのIgG1/G2ハイブリッドのpI操作が本開示の一部として考えられる。
「結合ドメイン」又は「~に結合するドメイン」の定義には、VH、VHH、VL、(s)dAb、Fv、Fd、Fab、Fab’、F(ab’)2又は「rIgG」(「半抗体」)などの全長抗体のフラグメントも含まれる。本発明による抗体コンストラクトは、抗体バリアントとも呼ばれる、抗体の改変されたフラグメント、例えばscFv、di-scFv又はbi(s)-scFv、scFv-Fc、scFv-ジッパー、scFab、Fab2、Fab3、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(Tandab’s)、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFv、「マルチボディ」、例えばトリアボディ又はテトラボディ及び単一ドメイン抗体、例えばナノボディ又は他のV領域若しくはドメインに非依存的に抗原若しくはエピトープに特異的に結合するVHH、VH若しくはVLであり得る1つのみの可変ドメインを含む単一可変ドメイン抗体も含み得る。
本明細書で使用する場合、用語「単鎖Fv」、「単鎖抗体」又は「scFv」は、重鎖及び軽鎖の両方の由来の可変領域を含むが、定常領域を欠く単一ポリペプチド鎖抗体フラグメントを指す。通常、単鎖抗体は、VH及びVLドメイン間において、抗原への結合を可能にする所望の構造を形成できるようにするポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.Springer-Verlag,NewYork,pp.269-315(1994)においてPluckthunによって詳細に議論されている。単鎖抗体を作製する様々な方法が知られており、米国特許第4,694,778号明細書及び同第5,260,203号明細書;国際特許出願公開国際公開第88/01649号パンフレット;Bird(1988)Science 242:423-442;Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Ward et al.(1989)Nature 334:54454;Skerra et al.(1988)Science 242:1038-1041に記載されるものを含む。特定の実施形態において、単鎖抗体は、二重特異性、多重特異性、ヒト及び/若しくはヒト化並びに/又は合成性でもあり得る。
さらに、用語「抗体コンストラクト」の定義は、一価、二価及び多価(polyvalent)/多価(multivalent)コンストラクト、したがって2つのみの抗原性構造に特異的に結合する二重特異性コンストラクト並びに異なる結合ドメインを通じて3つ以上の抗原性構造、例えば3つ、4つ以上に特異的に結合する多重特異性(polyspecific)/多重特異性(multispecific)コンストラクトを含む。さらに、用語「抗体コンストラクト」の定義は、1つのみのポリペプチド鎖からなる分子及び鎖が同一(ホモ二量体、ホモ三量体若しくはホモオリゴマー)であるか、又は異なる(ヘテロ二量体、ヘテロ三量体若しくはヘテロオリゴマー)かのいずれかであり得る2つ以上のポリペプチド鎖からなる分子を含む。上記で特定された抗体及びそのバリアント又は誘導体の例は、とりわけ、Harlow and Lane,Antibodies a laboratory manual,CSHL Press(1988)及びUsing Antibodies:a laboratory manual,CSHL Press(1999),Kontermann and Duebel,Antibody Engineering,Springer,2nd ed.2010及びLittle,Recombinant Antibodies for Immunotherapy,Cambridge University Press2009に記載されている。
本明細書で使用する場合、用語「二重特異性」は、「少なくとも二重特異性」である抗体コンストラクトを指し、すなわち、それは、少なくとも第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含み、ここで、第1の結合ドメインは、1つの抗原又は標的(ここで、標的細胞の表面抗原)に結合し、第2の結合ドメインは、別の抗原又は標的(例えば、CD3)に結合する。したがって、本発明による抗体コンストラクトは、少なくとも2つの異なる抗原又は標的に対する特異性を備える。例えば、第1のドメインは、好ましくは、本明細書に記載される種の1つ以上のCD3εの細胞外エピトープに結合しない。用語「標的細胞の表面抗原」は、細胞によって発現され、且つ本明細書に記載される抗体コンストラクトがアクセスできるようにその細胞表面に存在する抗原性構造を指す。それは、タンパク質、好ましくはタンパク質の細胞外部分又は糖質構造、好ましくは糖タンパク質などのタンパク質の糖質構造であり得る。それは、腫瘍抗原であることが好ましい。本発明の用語「二重特異性抗体コンストラクト」は、多重特異性抗体コンストラクト、例えば3つの結合ドメインを含む三重特異性抗体コンストラクト又は4つ以上(例えば、4つ、5つ...)の特異性を有するコンストラクトも包含する。
本明細書で理解されるとおりの二重特異性抗体及び/又は抗体コンストラクトとしては、従来型の二重特異性免疫グロブリン(例えば、BsIgG)、付加された抗原結合ドメイン(例えば、軽鎖又は重鎖のアミノ末端若しくはカルボキシ末端が、単一ドメイン抗体又は対になった抗体可変ドメイン(例えば、Fv又はscFv)などの追加の抗原結合ドメインに連結される)を含むIgG、BsAbフラグメント(例えば、二重特異性単鎖抗体)、二重特異性融合タンパク質(例えば、エフェクター部分に融合された抗原結合ドメイン)及びBsAbコンジュゲートが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、様々な二重特異性形式を記載し、参照として本明細書に組み込まれるSpiess et al.,Molecular Immunology 67(2)Part A:97-106(2015)を参照されたい。二重特異性コンストラクトの例としては、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデムscFv、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)形式(リンカーによって結合される2つの単鎖可変フラグメント(scFv)からなる融合タンパク質)及びFab2二重特異性体並びに全長抗体を含む改変されたコンストラクトが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、全てが明示的に本明細書に組み込まれるChames&Baty,2009,mAbs 1[6]:1-9;及びHolliger&Hudson,2005,Nature Biotechnology 23[9]:1126-1136;Wu et al.,2007,Nature Biotechnology 25[11]:1290-1297;Michaelson et al.,2009,mAbs 1[2]:128-141;国際公開第2009032782号パンフレット及び同第2006020258号パンフレット;Zuo et al.,2000,Protein Engineering 13[5]:361-367;米国特許出願公開第20020103345号明細書;Shen et al.,2006,J Biol Chem 281[16]:10706-10714;Lu et al.,2005,J Biol Chem 280[20]:19665-19672;及びKontermann,2012 MAbs 4(2):182を参照されたい。
本発明による抗体コンストラクトが(少なくとも)二重特異性である場合、それらは、天然に存在せず、且つそれらは、天然に存在する産物と顕著に異なる。したがって、「二重特異性」抗体コンストラクト又は免疫グロブリンは、異なる特異性を有する少なくとも2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体又は免疫グロブリンである。二重特異性抗体コンストラクトは、ハイブリドーマの融合又はFab’フラグメントの連結を含む様々な方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai&Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315-321(1990)を参照されたい。
本発明の抗体コンストラクトの少なくとも2つの結合ドメイン及び可変ドメイン(VH/VL)は、ペプチドリンカー(スペーサーペプチド)を含んでも含まなくてもよい。用語「ペプチドリンカー」は、本発明によれば、本発明の抗体コンストラクトの一方の(可変及び/又は結合)ドメイン及びもう一方の(可変及び/又は結合)ドメインのアミノ酸配列を相互に連結するアミノ酸配列を含む。ペプチドリンカーは、第3のドメインを本発明の抗体コンストラクトの他のドメインに融合するためにも使用され得る。そのようなペプチドリンカーの必須の技術的特徴は、それがいかなる重合活性も含まないことである。好適なペプチドリンカーには、米国特許第4,751,180号明細書及び同第4,935,233号明細書又は国際公開第88/09344号パンフレットに記載されるものがある。ペプチドリンカーは、他のドメイン又はモジュール又は領域(半減期延長ドメインなど)を本発明の抗体コンストラクトに結合するためにも使用され得る。
本発明の抗体コンストラクトは、「インビトロで作製された抗体コンストラクト」であることが好ましい。本用語は、可変領域の全て又は一部(例えば、少なくとも1つのCDR)が非免疫細胞の選択、例えばインビトロファージディスプレイ、タンパク質チップ又は抗原結合能に関して候補配列を試験することができる任意の他の方法において作製される、上記定義による抗体コンストラクトを指す。したがって、本用語は、好ましくは、動物の免疫細胞におけるゲノム再編成によってのみ作製される配列を除外する。「組換え抗体」は、組換えDNA技術又は遺伝子工学の使用により作製された抗体である。
本明細書で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」(mAb)又はモノクローナル抗体コンストラクトは、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体、すなわち少量存在する可能性がある、考えられる天然に存在する変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である集団を含む個々の抗体を指す。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、異なる決定基(又はエピトープ)に対して誘導された異なる抗体を通常含む従来の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、抗原上の単一の抗原部位又は決定基に対して誘導される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって合成されるため、他の免疫グロブリンが混入しない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
モノクローナル抗体の調製には、継続的な細胞株培養により産生される抗体をもたらす任意の技術を用いることができる。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Koehler et al.,Nature 256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得るか、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照されたい)によって作製され得る。ヒトモノクローナル抗体を産生するさらなる技術の例としては、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor,Immunology Today 4(1983),72)及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985),77-96)が挙げられる。
次に、ハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)及び表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))分析などの標準的な方法を使用してスクリーニングして、指定の抗原に特異的に結合する抗体を産生する1つ以上のハイブリドーマを同定することができる。例えば、組換え抗原、天然に存在する形態、その任意のバリアント又はフラグメント並びにその抗原性ペプチドなど、任意の形態の関連抗原が免疫原として使用され得る。BIAcoreシステムで採用されている表面プラズモン共鳴を使用して、標的細胞の表面抗原のエピトープにファージ抗体が結合する効率を高めることができる(Schier,Human Antibodies Hybridomas 7(1996),97-105;Malmborg,J.Immunol.Methods 183(1995),7-13)。
モノクローナル抗体を作製する別の例示的な方法としては、タンパク質発現ライブラリ、例えばファージディスプレイ又はリボソームディスプレイライブラリのスクリーニングが挙げられる。ファージディスプレイは、例えば、Ladner et al.,米国特許第5,223,409号明細書;Smith(1985)Science 228:1315-1317、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載されている。
ディスプレイライブラリの使用に加えて、関連抗原を使用して、非ヒト動物、例えば齧歯類(マウス、ハムスター、ウサギ又はラットなど)を免疫化することができる。一実施形態では、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、マウス抗体産生が欠損したマウス系統を、ヒトIg(免疫グロブリン)遺伝子座の大きいフラグメントを用いて改変することが可能である。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子由来の抗原特異的モノクローナル抗体を作製し、選択し得る。例えば、XENOMOUSE(商標)、Green et al.(1994)Nature Genetics 7:13-21、米国特許出願公開第2003-0070185号明細書、国際公開第96/34096号パンフレット及び国際公開第96/33735号パンフレットを参照されたい。
モノクローナル抗体は、非ヒト動物から得た後、当技術分野で知られる組換えDNA技術を用いて、例えばヒト化、脱免疫、キメラ化などの改変を行うこともできる。改変抗体コンストラクトの例としては、非ヒト抗体のヒト化バリアント、「親和性成熟」抗体(例えば、Hawkins et al.J.Mol.Biol.254,889-896(1992)及びLowman et al.,Biochemistry 30,10832-10837(1991)を参照されたい)エフェクター機能及びが改変された抗体変異体(例えば、米国特許第5,648,260号明細書、前掲のKontermann and Duebel(2010)及び前掲のLittle(2009)を参照されたい)が挙げられる。
免疫学において、親和性成熟とは、免疫反応の過程で抗原に対する親和性の増大した抗体をB細胞が産生するプロセスである。同一抗原への反復暴露により、宿主は、親和性が連続的に増大する抗体を産生することになる。天然のプロトタイプと同様に、インビトロ親和性成熟は、変異と選択の原理に基づいている。インビトロ親和性成熟を問題なく使用して、抗体、抗体コンストラクト及び抗体フラグメントを最適化している。CDR内部のランダム変異は、放射線、化学的変異原又はエラープローンPCRを用いて導入される。加えて、遺伝的多様性は、チェイン・シャッフリング法によって増大させることができる。ファージディスプレイのようなディスプレイ方法を用いた2又は3ラウンドの変異及び選択により、通常、低ナノモル範囲の親和性を有する抗体フラグメントが得られる。
抗体コンストラクトの好ましいタイプのアミノ酸置換変種は、親抗体(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基の置換を伴うものである。一般に、さらなる開発のために選択されて得られるバリアントは、それらが生成された親抗体と比べて向上した生物学的特性を有することになる。そのような置換バリアントを生成するための簡便な方法には、ファージディスプレイを用いる親和性成熟が含まれる。簡潔に説明すると、いくつかの超可変領域部位(例えば、6~7部位)は、それぞれの部位で可能な全てのアミノ酸置換が生じるように変異される。そのようにして生成された抗体バリアントは、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物との融合体として、繊維状ファージ粒子から一価形態で提示される。次に、ファージディスプレイされたバリアントを、本明細書に開示されるとおりにそれらの生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングする。改変のための超可変領域部位候補を同定するために、アラニンスキャニング変異導入法を実施して、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を同定し得る。代わりに又は加えて、結合ドメインと例えばヒト標的細胞の表面抗原との接触点を同定するために、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析することが有益な場合がある。そのような接触残基及び隣接残基は、本明細書で詳述される技術による置換の候補である。そのようなバリアントを生成してから、バリアントのパネルに対して、本明細書に記載されるとおりのスクリーニングを施し、1つ以上の関連するアッセイにおいて優れた特性を有する抗体をさらなる開発のために選択し得る。
本発明のモノクローナル抗体及び抗体コンストラクトは、特に重鎖及び/若しくは軽鎖の一部が特定の種に由来するか、又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一若しくは相同である一方、鎖の残部は、所望の生物活性を示す限り、別の種に由来するか、又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体並びにそのような抗体のフラグメント中の対応する配列と同一若しくは相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含む(米国特許第4,816,567号明細書;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。キメラ抗体を作製するための様々な手法が記載されている。例えば、Morrison et al.Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.81:6851,1985;Takeda et al.,Nature 314:452,1985、Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号明細書;Boss et al.,米国特許第4,816,397号明細書;Tanaguchi et al.,欧州特許第0171496号明細書;欧州特許第0173494号明細書;及び英国特許第2177096号明細書を参照されたい。
抗体、抗体コンストラクト、抗体フラグメント又は抗体バリアントは、国際公開第98/52976号パンフレット又は国際公開第00/34317号パンフレットの実施例に開示される方法によるヒトT細胞エピトープの特異的欠失(「脱免疫化」と呼ばれる方法)によっても改変され得る。簡潔に説明すると、MHCクラスIIに結合するペプチドについて、抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを分析することができる。これらのペプチドは、潜在的なT細胞エピトープ(国際公開第98/52976号パンフレット及び国際公開第00/34317号パンフレットに定義される)に相当する。潜在的なT細胞エピトープの検出には、国際公開第98/52976号パンフレット及び国際公開第00/34317号パンフレットに記載されるとおり、「ペプチドスレッディング法」と呼ばれるコンピュータモデリング手法を適用することができ、加えて、ヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースにおいて、VH及びVL配列に存在するモチーフを検索することができる。これらのモチーフは、18個の主要MHCクラスII DRアロタイプのいずれかに結合するため、潜在的なT細胞エピトープとなる。検出された潜在的なT細胞エピトープは、可変ドメイン内の少数のアミノ酸残基を置換することにより、又は好ましくは単一のアミノ酸置換により除去することができる。通常、保存的置換を行う。全てではないが多くの場合、ヒト生殖細胞系列の抗体配列内の位置に共通するアミノ酸が使用され得る。ヒト生殖細胞系列配列については、例えば、Tomlinson,et al.(1992)J.Mol.Biol.227:776-798;Cook,G.P.et al.(1995)Immunol.Today Vol.16(5):237-242;及びTomlinson et al.(1995)EMBO J.14:14:4628-4638に開示されている。V BASE総覧は、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的な総覧を提供する(Tomlinson,LA.et al.MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKによる編集)。これらの配列をヒト配列の供給源として、例えばフレームワーク領域及びCDRに使用することができる。例えば、米国特許第6,300,064号明細書に記載されるコンセンサスヒトフレームワーク領域を使用することもできる。
「ヒト化」抗体、抗体コンストラクト、バリアント又はそのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2又は抗体の他の抗原結合部分配列)は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含有する、大部分がヒト配列である抗体又は免疫グロブリンである。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(CDRともいう)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ハムスター又はウサギなどの非ヒト(例えば齧歯類)種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基により置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合により、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基により置換される。さらに、本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基も含む場合がある。これらの改変は、抗体の性能をさらに洗練させ、最適化するためになされる。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、通常、ヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分も含む場合がある。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Reichmann et al.,Nature,332:323-329(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596(1992)を参照されたい。
ヒト化抗体又はそのフラグメントは、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列をヒトFv可変ドメイン由来の均等な配列で置換することによって生成することができる。ヒト化抗体又はそのフラグメントを生成するための例示的な方法は、Morrison(1985)Science 229:1202-1207;Oi et al.(1986)BioTechniques 4:214並びに米国特許第5,585,089号明細書、米国特許第5,693,761号明細書、米国特許第5,693,762号明細書、米国特許第5,859,205号明細書及び米国特許第6,407,213号明細書により提供される。それらの方法は、重鎖又は軽鎖の少なくとも1つに由来する免疫グロブリンFv可変ドメインの全て又は一部分をコードする核酸配列を単離、操作及び発現することを含む。そのような核酸を、上記のとおりの所定の標的に対する抗体を産生するハイブリドーマ及び他の供給源から得ることができる。次に、ヒト化抗体分子をコードする組換えDNAが適切な発現ベクターにクローニングされ得る。
ヒト化抗体はまた、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子を発現するが、内在性のマウス免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子を発現することができないマウスなどのトランスジェニック動物を用いて作製され得る。Winterは、本明細書に記載されるヒト化抗体の調製に使用され得る例示的なCDR移植法を記載している(米国特許第5,225,539号明細書)。特定のヒト抗体のCDRの全ては、非ヒトCDRの少なくとも一部分で置換されるか又はCDRの一部のみが非ヒトCDRで置換され得る。所定の抗原に対するヒト化抗体の結合に必要とされる数のCDRを置換することのみが必要である。
ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系列置換及び/又は復帰変異の導入によって最適化することができる。このような改変免疫グロブリン分子は、当技術分野で知られる複数の技術のいずれによって作製することができる(例えば、Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308-7312,1983;Kozbor et al.,Immunology Today,4:7279,1983;Olsson et al.,Meth.Enzymol.,92:3-16,1982及び欧州特許第239400号明細書)。
用語「ヒト抗体」、「ヒト抗体コンストラクト」及び「ヒト結合ドメイン」は、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されたものを含む、当技術分野で知られるヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する可変及び定常領域又はドメインなどの抗体領域を有する抗体、抗体コンストラクト及び結合ドメインを含む。本発明のヒト抗体、抗体コンストラクト又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム変異誘発若しくは部位特異的変異誘発により又はインビボでの体細胞変異により導入される変異)を例えばCDR、特にCDR3に含み得る。ヒト抗体、抗体コンストラクト又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基で置換された少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれを超える位置を有し得る。しかしながら、本明細書で使用する場合、ヒト抗体、抗体コンストラクト及び結合ドメインの定義は、Xenomouseなどの技術又はシステムを使用することによって得ることができる、非人為的且つ/又は遺伝的に改変された抗体のヒト配列のみを含む「完全ヒト抗体」も意図している。好ましくは、「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリンによってコードされないアミノ酸残基を含まない。
いくつかの実施形態では、本発明の抗体コンストラクトは、「単離された」又は「実質的に純粋な」抗体コンストラクトである。本明細書に開示される抗体コンストラクトを記載するために使用する場合、「単離された」又は「実質的に純粋な」は、その産生環境の成分から同定、分離及び/又は回収された抗体コンストラクトを意味する。好ましくは、抗体コンストラクトは、その産生環境由来の他の全ての成分との会合を有しないか又は実質的に有しない。組換えトランスフェクト細胞から生じる成分などのその産生環境の混入成分は、通常、ポリペプチドについての診断又は治療用途を妨げる材料であり、これは、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質を含み得る。抗体コンストラクトは、例えば、所与の試料中の全タンパク質の少なくとも約5重量%又は少なくとも約50重量%を構成し得る。単離されたタンパク質は、環境に応じて総タンパク質含量の5重量%~99.9重量%を構成し得ると理解される。ポリペプチドが高い濃度レベルで作製されるように、誘導性プロモーター又は高発現プロモーターの使用によって著しく高濃度でポリペプチドが作製され得る。この定義は、当技術分野で知られる多様な生物体及び/又は宿主細胞での抗体コンストラクトの産生を含む。好ましい実施形態では、抗体コンストラクトは、(1)スピニングカップシークエネーターを使用して、N末端若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、又は(2)クーマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を用いた非還元若しくは還元条件下でのSDS-PAGEによる均一性まで精製されることになる。ただし、通常、単離された抗体コンストラクトは、少なくとも1つの精製工程によって調製されることになる。
用語「結合ドメイン」は、本発明との関係では、標的分子(抗原)上の所与の標的エピトープ又は所与の標的部位、例えばそれぞれCD33及びCD3と(特異的に)結合する/それらと相互作用する/それらを認識するドメインと見なす。第1の結合ドメイン(例えばCD33を認識する)の構造及び機能、好ましくは第2の結合ドメイン(CD3を認識する)の構造及び/又は機能も、抗体の例えば全長又は完全免疫グロブリン分子の構造及び/又は機能に基づき、且つ/又は抗体又はそのフラグメントの可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)ドメインから抽出される。好ましくは、第1の結合ドメインは、3つの軽鎖CDR(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)並びに/又は3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)の存在によって特徴付けられる。第2の結合ドメインは、好ましくは、標的結合を可能にする抗体の最小構造要件も含む。より好ましくは、第2の結合ドメインは、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)並びに/又は3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)を含む。第1及び/又は第2の結合ドメインは、既存の(モノクローナル)抗体由来のCDR配列をスキャフォールドに移植する以外のファージディスプレイ又はライブラリスクリーニング法によって作製されるか又は得られることが想定される。
本発明によれば、結合ドメインは、1つ以上のポリペプチドの形態である。このようなポリペプチドは、タンパク質性部分及び非タンパク質性部分(例えば、化学的リンカー又はグルタルアルデヒドなどの化学的架橋剤)を含み得る。タンパク質(そのフラグメント、好ましくは生物学的に活性なフラグメント及び通常30個未満のアミノ酸を有するペプチドを含む)は、(アミノ酸の鎖をもたらす)共有ペプチド結合を通じて相互に結合された2つ以上のアミノ酸を含む。
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、通常、30個を超えるアミノ酸からなる分子群を表す。ポリペプチドは、二量体、三量体及びより高次のオリゴマーなどのマルチマーをさらに形成し、すなわち2つ以上のポリペプチド分子からなる場合もある。このような二量体、三量体などを形成するポリペプチド分子は、同一であっても同一でなくてもよい。このようなマルチマーの対応する高次構造は、したがって、ホモ又はヘテロ二量体、ホモ又はヘテロ三量体などと称される。ヘテロ多量体の例は、その天然形態において、2つの同一のポリペプチド軽鎖及び2つの同一のポリペプチド重鎖からなる抗体分子である。用語「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などのような翻訳後修飾による修飾がなされた天然修飾ペプチド/ポリペプチド/タンパク質も指す。本明細書で参照される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、ペグ化などの化学修飾されたものでもあり得る。このような修飾は、当技術分野でよく知られており、本明細書で以下に記載される。
好ましくは、標的細胞の表面抗原に結合する結合ドメイン及び/又はCD3εに結合する結合ドメインは、ヒト結合ドメインである。少なくとも1つのヒト結合ドメインを含む抗体及び抗体コンストラクトは、齧歯類(例えばマウス、ラット、ハムスター又はウサギ)などの非ヒト可変及び/又は定常領域を有する抗体又は抗体コンストラクトに伴う問題の一部を回避する。このような齧歯類由来タンパク質が存在すると、抗体又は抗体コンストラクトの迅速なクリアランスをもたらす可能性があるか、又は患者による抗体又は抗体コンストラクトに対する免疫反応を発生させる可能性がある。齧歯類由来抗体又は抗体コンストラクトの使用を避けるために、齧歯類が完全ヒト抗体を産生するようにヒト抗体機能を齧歯類に導入することにより、ヒト又は完全ヒト抗体/抗体コンストラクトを生成することができる。
YACにおいてメガベースサイズのヒト遺伝子座をクローニング及び再構築する能力及びそれらをマウス生殖細胞系列に導入する能力は、非常に大きいか又は粗くマッピングされた遺伝子座の機能的要素の解明並びにヒト疾患の有用なモデルの生成にとって強力な手法を提供する。さらに、マウス遺伝子座をそれらのヒト均等物で置換するそのような技術を使用すれば、発生期のヒト遺伝子産物の発現及び調節、それらと他の系との伝達並びに疾患の誘発及び進行へのそれらの関与について独特の見解を得ることができるであろう。
このような戦略の重要な実用化は、マウス液性免疫系の「ヒト化」である。内在性免疫グロブリン(Ig)遺伝子が不活性化されたマウスへのヒトIg遺伝子座の導入により、抗体のプログラムされた発現及び構築並びにB細胞の発生におけるそれらの役割の基礎となる機構を研究する機会が得られる。さらに、このような戦略であれば、ヒト疾患における抗体療法の可能性を実現する上で重要なマイルストーンとなる完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)の作製にとって理想的な供給源を得ることができるであろう。完全ヒト抗体又は抗体コンストラクトは、マウスmAb又はマウス由来mAbに固有の免疫原性及びアレルギー反応を最小化し、それによって投与される抗体/抗体コンストラクトの有効性及び安全性を増大させることが期待される。完全ヒト抗体又は抗体コンストラクトの使用により、化合物の反復投与を必要とする慢性及び再発性のヒト疾患、例えば炎症、自己免疫及び癌の治療に大幅な利点が得られるものと期待され得る。
この目標に向けた手法の1つが、マウス抗体の産生に欠損があるマウス系統をヒトIg遺伝子座の大きいフラグメントを用いて操作することであり、これは、このようなマウスが、マウス抗体を生じずに広範なレパートリーのヒト抗体を産生するであろうとの予測に立つものであった。大きいヒトIgフラグメントは、可変遺伝子の広範な多様性並びに抗体の産生及び発現の適切な調節を保持すると考えられる。抗体の多様化及び選択並びにヒトタンパク質に対する免疫寛容の欠如ためにマウス機構を利用することにより、このマウス系統において再現されるヒト抗体レパートリーは、ヒト抗原を含む目的の任意の抗原に対して高親和性の抗体を産生するはずである。ハイブリドーマ技術を使用すれば、所望の特異性を有する抗原特異的ヒトmAbを容易に作製及び選択することができるであろう。この一般的な戦略は、最初のXenoMouseマウス系統の生成と関連して実証された(Green et al.Nature Genetics 7:13-21(1994)を参照されたい)。このXenoMouse系統は、可変領域及び定常領域のコア配列を含有したヒト重鎖遺伝子座及びカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれ245kb及び190kbサイズの生殖細胞系列配置フラグメントを含有する酵母人工染色体(YAC)を用いて操作された。このヒトIgを含有するYACは、抗体の再編成及び発現の両方に関してマウス系への適合性があることが証明されており、不活性化されたマウスIg遺伝子を置換することが可能であった。これは、それらがB細胞の発生を誘導して、完全ヒト抗体の成体様ヒトレパートリーを産生し、抗原特異的ヒトmAbを産生する能力によって実証された。これらの結果は、多数のV遺伝子、追加の調節エレメント及びヒトIg定常領域を含有するヒトIg遺伝子座の大部分の導入が、感染及び免疫化に対するヒト液性応答を特徴とする実質的に完全なレパートリーを再現し得ることも示唆した。最近、Greenらの研究を発展させ、ヒト重鎖遺伝子座及びカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれのメガベースサイズの生殖細胞系列配置YACフラグメントの導入により、ヒト抗体レパートリーのおよそ80%超が導入された。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)及び米国特許出願公開第08/759,620号明細書を参照されたい。
XenoMouseマウスの作製は、米国特許出願公開第07/466,008号明細書、同第07/610,515号明細書、同第07/919,297号明細書、同第07/922,649号明細書、同第08/031,801号明細書、同第08/112,848号明細書、同第08/234,145号明細書、同第08/376,279号明細書、同第08/430,938号明細書、同第08/464,584号明細書、同第08/464,582号明細書、同第08/463,191号明細書、同第08/462,837号明細書、同第08/486,853号明細書、同第08/486,857号明細書、同第08/486,859号明細書、同第08/462,513号明細書、同第08/724,752号明細書及び同第08/759,620号明細書;並びに米国特許第6,162,963号明細書;同第6,150,584号明細書;同第6,114,598号明細書;同第6,075,181号明細書及び同第5,939,598号明細書並びに日本特許第3068180B2号公報、同第3068506B2号公報及び同第3068507B2号公報でさらに議論され詳述されている。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)及びGreen and Jakobovits J.Exp.Med.188:483-495(1998)、欧州特許第0463151B1号明細書、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第96/34096号パンフレット、国際公開第98/24893号パンフレット、国際公開第00/76310号パンフレット及び国際公開第03/47336号パンフレットも参照されたい。
別の手法では、GenPharm International,Inc.,を含む他社が「ミニ遺伝子座」の手法を利用している。このミニ遺伝子座の手法において、外来性Ig遺伝子座は、このIg遺伝子座由来の断片(個々の遺伝子)を含めることにより模倣される。したがって、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、ミュー定常領域及び第2の定常領域(好ましくは、ガンマ定常領域)は、動物に挿入されるコンストラクトを形成する。この手法は、Suraniらに対する米国特許第5,545,807号明細書並びにLonberg及びKayのそれぞれに対する米国特許第5,545,806号明細書;同第5,625,825号明細書;同第5,625,126号明細書;同第5,633,425号明細書;同第5,661,016号明細書;同第5,770,429号明細書;同第5,789,650号明細書;同第5,814,318号明細書;同第5,877,397号明細書;同第5,874,299号明細書;及び同第6,255,458号明細書、Krimpenfort及びBernsに対する米国特許第5,591,669号明細書及び同第6,023.010号明細書、Bernsらに対する米国特許第5,612,205号明細書;同第5,721,367号明細書;及び同第5,789,215号明細書並びにChoi及びDunnに対する米国特許第5,643,763号明細書並びにGenPharm Internationalの米国特許出願公開第07/574,748号明細書、同第07/575,962号明細書、同第07/810,279号明細書、同第07/853,408号明細書、同第07/904,068号明細書、同第07/990,860号明細書、同第08/053,131号明細書、同第08/096,762号明細書、同第08/155,301号明細書、同第08/161,739号明細書、同第08/165,699号明細書、同第08/209,741号明細書に記載されている。欧州特許第0546073B1号明細書、国際公開第92/03918号パンフレット、国際公開第92/22645号パンフレット、国際公開第92/22647号パンフレット、国際公開第92/22670号パンフレット、国際公開第93/12227号パンフレット、国際公開第94/00569号パンフレット、国際公開第94/25585号パンフレット、国際公開第96/14436号パンフレット、国際公開第97/13852号パンフレット及び国際公開第98/24884号パンフレット並びに米国特許第5,981,175号明細書も参照されたい。さらに、Taylor et al.(1992)、Chen et al.(1993)、Tuaillon et al.(1993)、Choi et al.(1993)、Lonberg et al.(1994)、Taylor et al.(1994)、及びTuaillon et al.(1995)、Fishwild et al.(1996)を参照されたい。
Kirinも、マイクロセル融合によって大きい染色体片又は染色体全体が導入された、マウスからのヒト抗体の産生を実証した。欧州特許出願公開第773288号明細書及び同第843961号明細書を参照されたい。Xenerex Biosciencesは、有望なヒト抗体産生技術を開発している。この技術では、SCIDマウスをヒトリンパ細胞、例えばB細胞及び/又はT細胞で再構成する。その後、マウスは、抗原で免疫化され、その抗原に対する免疫反応を発生させることができる。米国特許第5,476,996号明細書;同第5,698,767号明細書;及び同第5,958,765号明細書を参照されたい。
ヒト抗マウス抗体(HAMA)反応は、産業界がキメラ又は別の方法でヒト化された抗体を作製する要因となった。しかしながら、ある種のヒト抗キメラ抗体(HACA)反応は、特に慢性又は複数回用量での抗体の利用において観察されることになると予想される。したがって、HAMA若しくはHACA反応の懸念及び/又は影響をなくすために、標的細胞の表面抗原に対するヒト結合ドメイン及びCD3εに対するヒト結合ドメインを含む抗体コンストラクトを提供することが望ましいと考えられる。
用語「(特異的に)結合する」、(特異的に)認識する」、「(特異的に)誘導される」及び「(特異的に)反応する」は、本発明によれば、結合ドメインが標的分子(抗原)上の所与のエピトープ又は所与の標的部位、すなわち本明細書ではそれぞれ標的細胞の表面抗原及びCD3εと相互作用するか又は特異的に相互作用することを意味する。
用語「エピトープ」は、抗体若しくは免疫グロブリン又は抗体若しくは免疫グロブリンの誘導体、フラグメント若しくはバリアントなどの結合ドメインが特異的に結合する抗原上の部位を指す。「エピトープ」は、抗原性であり、したがって、エピトープという用語は、本明細書において「抗原性構造」又は「抗原決定基」と称する場合もある。したがって、結合ドメインは、「抗原相互作用部位」である。前記結合/相互作用は、「特異的認識」も定義すると理解される。
「エピトープ」は、連続したアミノ酸又はタンパク質の三次元フォールディングによって並列される非連続アミノ酸の両方によって形成され得る。「線状エピトープ」は、アミノ酸の一次配列が認識されるエピトープを含むエピトープである。線状エピトープは、通常、特有の配列内に少なくとも3つ又は少なくとも4つ及びより一般的に少なくとも5つ、又は少なくとも6つ、又は少なくとも7つ、例えば約8~約10のアミノ酸を含む。
「立体構造エピトープ」は、線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されるエピトープを定義する唯一の要素ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が必ずしも結合ドメインによって認識されないエピトープ)である。一般に、立体構造エピトープは、線状エピトープと比較して多数のアミノ酸を含む。立体構造エピトープの認識に関して、結合ドメインは、抗原、好ましくはペプチド若しくはタンパク質又はそれらのフラグメントの三次元構造を認識する(本発明に関連して、結合ドメインの1つに対する抗原性構造が標的細胞の表面抗原タンパク質内に含まれる)。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造が形成する場合、立体構造エピトープを形成する特定のアミノ酸及び/又はポリペプチド骨格が並列した状態になり、それによって抗体がそのエピトープを認識できるようになる。エピトープの立体構造を決定する方法としては、x線結晶構造解析、二次元核磁気共鳴(2D-NMR)分光分析、及び部位特異的スピンラベル法及び電子常磁性共鳴(EPR)分光法が挙げられるが、これらに限定されない。
エピトープマッピングの方法を以下に記載する。ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質の領域(隣接するひと続きのアミノ酸)が、非ヒト及び非霊長類の標的細胞の表面抗原(例えば、マウス標的細胞の表面抗原であるが、他にニワトリ、ラット、ハムスター、ウサギなどのものも考えられる)の対応する領域で交換/置換される場合、使用されている非ヒト、非霊長類の標的細胞の表面抗原に対して結合ドメインが交差反応性でない限り、結合ドメインの結合性の低減が起こると予想される。前述の低減は、ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質の対応する領域への結合を100%とした場合、ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質内の対応する領域への結合と比較して好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%;より好ましくは少なくとも60%、70%又は80%及び最も好ましくは90%、95%又はさらに100%である。上記のヒト標的細胞の表面抗原/非ヒト標的細胞の表面抗原のキメラは、CHO細胞において発現されることが想定される。また、ヒト標的細胞の表面抗原/非ヒト標的細胞の表面抗原のキメラは、EpCAMなどの異なる膜結合タンパク質の膜貫通ドメイン及び/又は細胞質ドメインと融合されることも想定される。
エピトープマッピングの代替的又は追加の方法では、結合ドメインによって認識される特定の領域を決定するために、ヒト標的細胞の表面抗原細胞外ドメインのいくつかの短縮型が作製され得る。これらの短縮型では、細胞外の異なる標的細胞の表面抗原ドメイン/サブドメイン又は領域は、N末端から開始して段階的に欠失される。短縮型の標的細胞の表面抗原は、CHO細胞で発現され得ることが想定される。また、短縮型の標的細胞の表面抗原は、EpCAMなどの異なる膜結合タンパク質の膜貫通ドメイン及び/又は細胞質ドメインと融合される場合があることも想定される。また、短縮型の標的細胞の表面抗原は、それらのN末端にシグナルペプチドドメイン、例えばマウスIgG重鎖シグナルペプチドに由来するシグナルペプチドを包含する場合があることも想定される。さらに、短縮型の標的細胞の表面抗原は、細胞表面上でのそれらの正確な発現を確認できる(シグナルペプチドに続く)N末端におけるv5ドメインを包含する場合があることも想定される。結合ドメインによって認識される標的細胞の表面抗原領域をもはや包含しない短縮型の標的細胞の表面抗原では、結合の低減又は喪失が起こると予想される。結合の低減は、ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質全体(又はその細胞外領域若しくはドメイン)への結合を100%とした場合、好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%及び最も好ましくは90%、95%又はさらに100%である。
抗体コンストラクト又は結合ドメインによる認識に対する標的細胞の表面抗原の特定の残基の寄与を決定するためのさらなる方法は、分析される各残基を例えば部位特異的変異誘発によってアラニンで置換するアラニンスキャニング(例えば、Morrison KL&Weiss GA.Cur Opin Chem Biol.2001 Jun;5(3):302-7を参照されたい)である。アラニンが使用される理由は、嵩高くなく、化学的に不活性であり、それでも多くの他のアミノ酸が有している二次構造基準を模倣するメチル官能基を有しているためである。変異される残基のサイズを保存することが望ましい場合、ときにバリン又はロイシンなどの嵩高いアミノ酸を使用し得る。アラニンスキャニングは、長期にわたり使用されてきた成熟した技術である。
結合ドメインと、エピトープ又はエピトープを含む領域との間の相互作用は、結合ドメインが特定のタンパク質又は抗原(本明細書では、それぞれ標的細胞の表面抗原及びCD3)上のエピトープ/エピトープを含む領域に対して測定可能な親和性を示し、且つ一般に標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に対して著しい反応性を示さないことを意味する。「測定可能な親和性」は、約10-6M(KD)又はそれより強い親和性を有する結合を含む。好ましくは、結合親和性が約10-12~10-8M、10-12~10-9M、10-12~10-10M、10-11~10-8M、好ましくは約10-11~10-9Mである場合、結合を特異的と見なす。結合ドメインが標的と特異的に反応するか又は標的に結合するかどうかは、とりわけ、標的タンパク質又は抗原に対する前記結合ドメインの反応を標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に対する前記結合ドメインの反応と比較することにより、容易に試験することができる。好ましくは、本発明の結合ドメインは、標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に本質的に又は実質的に結合しない(すなわち、第1の結合ドメインは、標的細胞の表面抗原以外のタンパク質に結合することができず、第2の結合ドメインは、CD3以外のタンパク質に結合することができない)。他のHLE形式と比較して優れた親和性特性を有することは、本発明による抗体コンストラクトの想定される特徴である。このような優れた親和性は、結果として、インビボでの半減期の延長を示唆する。本発明による抗体コンストラクトのより長い半減期は、投与期間及び頻度を減少させる場合があり、これは、通常、患者のコンプライアンスの改善に寄与する。これは、特に重要なことであり、なぜなら、本発明の抗体コンストラクトは、非常に衰弱した又はさらに多疾患である癌患者に特に有益であるためである。
用語「本質的/実質的に結合しない」又は「結合することができない」は、本発明の結合ドメインが標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に結合せず、すなわち標的細胞の表面抗原又はCD3のそれぞれに対する結合を100%とした場合、標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に対して30%超、好ましくは20%超、より好ましくは10%超、特に好ましくは9%、8%、7%、6%又は5%超の反応性を示さないことを意味する。
特異的結合は、結合ドメイン及び抗原のアミノ酸配列内の特異的モチーフによってもたらされると考えられる。したがって、結合は、それらの一次、二次及び/又は三次構造の結果として並びに前記構造の二次的修飾の結果として生じる。抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用により、抗原に対する前記側の単純な結合が生じ得る。さらに、抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用により、例えば抗原の立体構造変化の誘導、抗原のオリゴマー化などにより、代替的に又は追加的にシグナルの開始がもたらされ得る。
用語「可変」は、配列内で可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性の決定に関与する、抗体又は免疫グロブリンドメインの一部分(すなわち「可変ドメイン」)を指す。可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)との対がともに単一の抗原結合部位を形成する。
可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているのではなく、重鎖及び軽鎖可変領域の各々のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」又は「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存的な(すなわち非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM又はFR)と呼ばれ、抗原結合表面を形成する三次元空間内における6つのCDRのための足場を提供する。天然に存在する重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、大部分がβシート配置をとる4つのFRM領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)をそれぞれ含み、これらは、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する3つの超可変領域によって接続される。各鎖の超可変領域は、FRMによって近接して共同で保持されており、他の鎖の超可変領域とともに抗原結合部位の形成に寄与する(前掲のKabat et al.,を参照されたい)。
用語「CDR」及びその複数形である「CDRs」は、相補性決定領域を指し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特性を構成し(CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3)、3つが重鎖可変領域の結合特性を構成する(CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)。CDRは、抗体と抗原との特異的相互作用を担う残基の大部分を含み、したがって抗体分子の機能的活性に寄与する。すなわち、それらは、抗原特異性の主要な決定基である。
CDRの境界及び長さの厳密な定義は、各種分類及び付番方式に従う。したがって、CDRは、本明細書に記載される付番方式を含む、Kabat、Chothia、contact又は任意の他の境界定義によって表わされ得る。境界が異なっていても、これらの方式の各々は、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成する部分において、ある程度の重複を有する。したがって、これらの方式によるCDRの定義は、長さ及び隣接するフレームワーク領域に関する境界領域が相違する場合がある。例えば、Kabat(異種間の配列可変性に基づく手法)、Chothia(抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づく手法)及び/又はMacCallumを参照されたい(Kabat et al.,前掲;Chothia et al.,J.Mol.Biol,1987,196:901-917;及びMacCallum et al.,J.Mol.Biol,1996,262:732)。抗原結合部位を特徴付けるさらに別の標準は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用されるAbM定義である。例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains.In:Antibody Engineering Lab Manual(Ed.:Duebel,S.and Kontermann,R.,Springer-Verlag,Heidelberg)を参照されたい。2つの残基同定技術が同一の領域ではなく重複する領域を定義する程度まで、それらを組み合わせて、ハイブリッドCDRを定義することができる。しかしながら、いわゆるKabat方式に従う付番が好ましい。
通常、CDRは、カノニカル構造として分類することができるループ構造を形成する。用語「カノニカル構造」は、抗原結合(CDR)ループがとる主鎖の立体構造を指す。比較構造研究から、6つの抗原結合ループの5つは、利用可能な立体構造の限られたレパートリーのみを有することが見出された。各カノニカル構造をポリペプチド骨格のねじれ角によって特徴付けることができる。したがって、抗体間の対応するループは、ループの大部分において、高いアミノ酸配列可変性が見られるにもかかわらず、非常に類似した三次元構造を有し得る(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.,1987,196:901;Chothia et al.,Nature,1989,342:877;Martin and Thornton,J.Mol.Biol,1996,263:800)。さらに、採用されたループ構造とその周辺のアミノ酸配列との間に関連性が存在する。特定のカノニカルクラスの立体構造は、ループの長さにより、及びそのループ内並びに保存的フレームワーク内(すなわちループ外)の重要な位置に存在するアミノ酸残基により決定される。したがって、特定のカノニカルクラスへの割り当ては、これらの重要なアミノ酸残基の存在に基づいて行われ得る。
用語「カノニカル構造」は、例えばKabat(Kabat et al.,前掲)により分類されるとおり、抗体の線状配列に関する考慮も含み得る。Kabatの付番スキーム(方式)は、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を一貫した様式で付番するために広く採用されている標準であり、本明細書の他の箇所でも言及されるとおり本発明での適用に好ましいスキームである。さらなる構造的な考慮が抗体のカノニカル構造を決定するために使用される場合がある。例えば、Kabatの付番法では十分に反映されない相違をChothiaらの付番方式によって記載することができ、且つ/又は他の技術、例えば結晶学及び二次元若しくは三次元コンピュータモデリングによって明らかにすることができる。したがって、所与の抗体配列は、とりわけ、(例えば、種々のカノニカル構造をライブラリに含めるという要求に基づいて)適切なシャーシ配列の同定が可能であるカノニカルクラスに分類され得る。抗体のアミノ酸配列のKabat付番法及びChothia et al.,(前掲)に記載される構造的な考慮並びに抗体構造のカノニカルな側面の解釈に対するそれらの意義については、文献に記載されている。様々なクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元配置は、当技術分野でよく知られている。抗体構造の概説については、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,eds.Harlow et al.,1988を参照されたい。
軽鎖のCDR3及び特に重鎖のCDR3は、軽鎖及び重鎖可変領域内での抗原結合において最も重要な決定因子となる場合がある。いくつかの抗体コンストラクトでは、重鎖CDR3が抗原と抗体との間の主要な接触領域になると思われる。CDR3のみを変化させるインビトロ選択スキームを使用して、抗体の結合特性を変化させることができるか、又はいずれの残基が抗原の結合に寄与するかを決定することができる。したがって、CDR3は、通常、抗体結合部位内での分子的多様性の最大の源である。例えば、H3は、2個のアミノ酸残基程度の短いもの又は26個超のアミノ酸であり得る。
古典的な全長抗体又は免疫グロブリンでは、各軽(L)鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重(H)鎖に連結される一方、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結される。VHに最も近接するCHドメインは、通常、CH1と称される。定常(「C」)ドメインは、抗原結合に直接関与しないが、抗体依存性、細胞介在性の細胞傷害性及び補体活性化などの種々のエフェクター機能を示す。抗体のFc領域は、重鎖定常ドメイン内に含まれ、例えば細胞表面に位置するFc受容体と相互作用することができる。
構築及び体細胞変異後の抗体遺伝子の配列は、極めて多様であり、これらの多様化した遺伝子は、1010の異なる抗体分子をコードすると推定される(Immunoglobulin Genes,2nd ed.,eds.Jonio et al.,Academic Press,San Diego,CA,1995)。したがって、免疫系は、免疫グロブリンのレパートリーを提供する。用語「レパートリー」は、少なくとも1つの免疫グロブリンをコードする少なくとも1つの配列に全体又は一部が由来する少なくとも1つのヌクレオチド配列を指す。この配列は、重鎖のV、DJセグメント並びに軽鎖のV及びJセグメントのインビボでの再編成によって生成され得る。代わりに、この配列は、再編成を生じさせる、例えばインビトロ刺激に応答して細胞から生成され得る。代わりに、この配列の一部又は全ては、DNAスプライシング、ヌクレオチド合成、変異誘発及び他の方法によって得られる場合がある(例えば、米国特許第5,565,332号明細書を参照されたい)。レパートリーは、1つの配列のみを含むか、又は遺伝的に多様なコレクション内のものを含む複数の配列を含み得る。
用語「Fc部分」又は「Fc単量体」は、本発明との関係では、免疫グロブリン分子のCH2ドメインの機能を有する少なくとも1つのドメイン及びCH3ドメインの機能を有する少なくとも1つのドメインを含むポリペプチドを意味する。「Fc単量体」という用語から明らかなとおり、それらのCHドメインを含むポリペプチドは、「ポリペプチド単量体」である。Fc単量体は、少なくとも重鎖の第1の定常領域免疫グロブリンドメイン(CH1)を除く免疫グロブリンの定常領域のフラグメントを含むが、少なくとも1つのCH2ドメインの機能的部分及び1つのCH3ドメインの機能的部分を維持しており、CH2ドメインがCH3ドメインのアミノ末端側にあるポリペプチドであり得る。本定義の好ましい態様において、Fc単量体は、Ig-Fcヒンジ領域の一部、CH2領域及びCH3領域を含み、ヒンジ領域がCH2ドメインのアミノ末端側にあるポリペプチド定常領域であり得る。本発明のヒンジ領域は、二量体化を促進することが想定される。このようなFcポリペプチド分子は、例えば、免疫グロブリン領域のパパイン消化(当然のことながら、2つのFcポリペプチドの二量体を生じる)によって入手され得るが、これに限定されない。本定義の別の態様において、Fc単量体は、CH2領域及びCH3領域の一部を含むポリペプチド領域であり得る。このようなFcポリペプチド分子は、例えば、免疫グロブリン分子のペプシン消化によって入手され得るが、これに限定されない。一実施形態において、Fc単量体のポリペプチド配列は、IgG1Fc領域、IgG2Fc領域、IgG3Fc領域、IgG4Fc領域、IgMFc領域、IgAFc領域、IgDFc領域及びIgEFc領域のFcポリペプチド配列と実質的に同様である。(例えば、Padlan,MolecularImmunology,31(3),169-217(1993)を参照されたい)。免疫グロブリン間に一定の変種が存在するため、及び単に明確性のために、Fc単量体は、IgA、IgD及びIgGの末尾の2つの重鎖定常領域免疫グロブリンドメイン並びにIgE及びIgMの末尾の3つの重鎖定常領域免疫グロブリンドメインを指す。言及されるとおり、Fc単量体は、これらのドメインのN末端側に可動性のヒンジも含み得る。IgA及びIgMの場合、Fc単量体は、J鎖を含み得る。IgGの場合、Fc部分は、免疫グロブリンドメインCH2及びCH3並びに最初の2つのドメインとCH2との間のヒンジを含む。Fc部分の境界は、異なる場合があるが、機能的ヒンジ、CH2及びCH3ドメインを含むヒトIgG重鎖Fc部分の例は、例えば、Kabatに従う付番でCH3ドメインのカルボキシル末端の残基D231(ヒンジドメインの-以下の表1のD234に相当)~P476、L476(IgG4の場合)をそれぞれ含むように定義され得る。ペプチドリンカーを介して互いに融合される2つのFc部分又はFc単量体は、本発明の抗体コンストラクトの第3のドメインを定義し、これは、scFcドメインとも定義され得る。
本発明の一実施形態において、本明細書に開示されるscFcドメイン、それぞれ互いに融合されるFc単量体は、抗体コンストラクトの第3のドメインにのみ含まれることが想定される。
本発明に一致して、IgGヒンジ領域は、表1に記述されるKabat付番を用いた類似性によって同定され得る。上記に一致して、本発明のヒンジドメイン/領域は、Kabat付番によるD234~P243の一続きのIgG1配列に相当するアミノ酸残基を含むことが想定される。本発明のヒンジドメイン/領域がIgG1ヒンジ配列DKTHTCPPCP(配列番号1449)(以下の表1に示される一続きのD234~P243に相当する - ヒンジ領域がなお二量体化を促進する限り、前記配列の変種も想定される)を含むか又はそれからなることも同様に想定される。本発明の好ましい実施形態において、抗体コンストラクトの第3のドメイン内のCH2ドメインのKabat位置314のグリコシル化部位は、N314X置換によって除去され、ここで、Xは、Qではない任意のアミノ酸である。前記置換は、好ましくは、N314G置換である。より好ましい実施形態において、前記CH2ドメインは、以下の置換をさらに含む(位置は、Kabatに従う)V321C及びR309C(これらの置換は、Kabat位置309及び321でドメイン内システインジスルフィド架橋を導入する)。
本発明の抗体コンストラクトの第3のドメインは、アミノからカルボキシルの順に、DKTHTCPPCP(配列番号1449)(すなわちヒンジ)-CH2-CH3-リンカー-DKTHTCPPCP(配列番号1449)(すなわちヒンジ)-CH2-CH3を含むか又はそれからなることも想定される。上記抗体コンストラクトのペプチドリンカーは、好ましい実施形態において、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser(配列番号1)又はそのポリマー、すなわち(Gly4Ser)xによって特徴付けられ、ここで、xは、5又はそれを超える整数(例えば、5、6、7、8など又はそれを超える)であり、6が好ましい((Gly4Ser)6)。前記コンストラクトは、上記の置換N314X、好ましくはN314G並びに/又はさらなる置換V321C及びR309Cをさらに含み得る。本明細書に上記で定義される本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態において、第2のドメインは、ヒト及び/又はマカクCD3ε鎖の細胞外エピトープに結合することが想定される。
本発明のさらなる実施形態において、ヒンジドメイン/領域は、IgG2サブタイプのヒンジ配列ERKCCVECPPCP(配列番号1450)、IgG3サブタイプヒンジ配列ELKTPLDTTHTCPRCP(配列番号1451)若しくはELKTPLGDTTHTCPRCP(配列番号1458)及び/又はIgG4サブタイプヒンジ配列ESKYGPPCPSCP(配列番号1452)を含むか又はそれらからなる。IgG1サブタイプヒンジ配列は、次の配列EPKSCDKTHTCPPCP(表1及び配列番号1459において示される)であり得る。したがって、これらのコアヒンジ領域も本発明に関連して想定される。
IgG CH2及びIgG CD3ドメインの位置並びに配列は、表2に記述されるKabat付番を用いた類似性によって同定され得る。
本発明の一実施形態では、第1又は両方のFc単量体のCH3ドメイン内の太字で強調表示されたアミノ酸残基は、欠失される。
第3のドメインのポリペプチド単量体(「Fc部分」又は「Fc単量体」)を互いに融合するペプチドリンカーは、好ましくは、少なくとも25アミノ酸残基(25、26、27、28、29、30など)を含む。より好ましくは、このペプチドリンカーは、少なくとも30アミノ酸残基(30、31、32、33、34、35など)を含む。リンカーが最大40アミノ酸残基を含むことも好ましく、より好ましくは最大35アミノ酸残基、最も好ましくはちょうど30アミノ酸残基である。このようなペプチドリンカーの好ましい実施形態は、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser(配列番号1)又はそのポリマー、すなわち(Gly4Ser)xによって特徴付けられ、ここで、xは、5又はそれを超える整数(例えば、6、7又は8)である。好ましくは、整数は、6又は7であり、より好ましくは、整数は、6である。
第1のドメインを第2のドメインと融合するために、又は第1若しくは第2のドメインを第3のドメインと融合するためにリンカーが使用される場合、このリンカーは、好ましくは、第1及び第2のドメインの各々が互いに独立してそれらの異なる結合特異性を確実に保持できる十分な長さ及び配列のリンカーである。本発明の抗体コンストラクト内の少なくとも2つの結合ドメイン(又は2つの可変ドメイン)を接続するペプチドリンカーの場合、それらのペプチドリンカーは、数個のアミノ酸残基のみを含むもの、例えば12アミノ酸残基以下を含むものが好ましい。したがって、12、11、10、9、8、7、6又は5アミノ酸残基のペプチドリンカーが好ましい。5アミノ酸未満を有する想定されるペプチドリンカーは、4、3、2又は1アミノ酸を含み、Glyに富んだリンカーが好ましい。第1及び第2のドメインの融合のためのペプチドリンカーの好ましい実施形態は、配列番号1に示される。第2及び第3のドメインを融合するためのペプチドリンカーの好ましいリンカー実施形態は、(Gly)4-リンカーであり、それぞれG4-リンカーである。
上記の「ペプチドリンカー」の1つに関連して特に好ましい「単一」のアミノ酸は、Glyである。したがって、前記ペプチドリンカーは、単一のアミノ酸Glyからなり得る。本発明の好ましい実施形態において、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser(配列番号1)又はそのポリマー、すなわち(Gly4Ser)xによって特徴付けられ、ここで、xは、1又はそれより大きい整数(例えば、2又は3)である。好ましいリンカーは、配列番号1~12に示される。二次構造を促進しないことを含む前記ペプチドリンカーの特徴は、当技術分野で知られており、例えばDall’Acqua et al.(Biochem.(1998)37,9266-9273)、Cheadle et al.(Mol Immunol(1992)29,21-30)及びRaag and Whitlow(FASEB(1995)9(1),73-80)に記載されている。さらにいかなる二次構造も促進しないペプチドリンカーが好ましい。前記ドメインの相互の連結を、例えば、実施例に記載されるとおりの遺伝子操作によって提供することができる。融合され作動可能に連結された二重特異性単鎖コンストラクトを作製し、それらを哺乳動物細胞又は細菌において発現させる方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、国際公開第99/54440号パンフレット又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001)。
抗体コンストラクト又は本発明の好ましい実施形態において、第1及び第2のドメインは、(scFv)2、scFv-単一ドメインmAb、ダイアボディ及びそれらの形式のいずれかのオリゴマーからなる群から選択される形式の抗体コンストラクトを形成する。
特に好ましい実施形態に従い、且つ付属の実施例において記述されるとおり、本発明の抗体コンストラクトの第1及び第2のドメインは、「二重特異性単鎖抗体コンストラクト」、より好ましくは二重特異性「単鎖Fv」(scFv)である。Fvフラグメントの2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を用いて、VL及びVH領域が1価分子を形成するように対をなす単一のタンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする、本明細書の上記のとおりの合成リンカーによって結合することができる;例えば、Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879-5883を参照されたい。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られる従来技術を用いて得られ、且つそのフラグメントは、完全又は全長抗体と同じ様式で機能について評価される。したがって、単鎖可変フラグメント(scFv)は、通常、約10~約25アミノ酸、好ましくは約15~20アミノ酸の短いリンカーペプチドによって接続される、免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)の融合タンパク質である。リンカーは、通常、可動性のためにグリシン及び溶解性のためにセリン又はスレオニンを豊富に含み、VHのN末端をVLのC末端に連結するか又はその逆のいずれかであり得る。このタンパク質は、定常領域の除去及びリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。
二重特異性単鎖抗体コンストラクトは、当技術分野で知られており、国際公開第99/54440号パンフレット、Mack,J.Immunol.(1997),158,3965-3970、Mack,PNAS,(1995),92,7021-7025、Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-197、Loeffler,Blood,(2000),95,6,2098-2103、Bruehl,Immunol.,(2001),166,2420-2426、Kipriyanov,J.Mol.Biol.,(1999),293,41-56に記載されている。単鎖抗体の作製に関して記載された技術(とりわけ米国特許第4,946,778号明細書、Kontermann and Duebel(2010),前掲及びLittle(2009),前掲を参照されたい)は、選出された標的を特異的に認識する単鎖抗体コンストラクトを作製するために適合させることができる。
二価(bivalent)(二価(divalent)とも呼ばれる)又は二重特異性単鎖可変フラグメント(形式(scFv)2を有するbi-scFv又はdi-scFv)は、2つのscFv分子を(例えば、本明細書の上記に記載されるリンカーを用いて)連結することにより作り出すことができる。これらの2つのscFv分子が同じ結合特異性を有する場合、得られる(scFv)2分子を二価と呼ぶことが好ましい(すなわち、それは、同じ標的エピトープに対して2の価数を有する)。これらの2つのscFv分子が異なる結合特異性を有する場合、得られる(scFv)2分子を二重特異性と呼ぶことが好ましい。連結は、2つのVH領域及び2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を作製して、タンデムscFvを生成することによってなされ得る(例えば、Kufer P.et al.,(2004)Trends in Biotechnology 22(5):238-244を参照されたい)。別の可能性は、2つの可変領域を一体に折り畳むには短すぎる(例えば、約5アミノ酸の)リンカーペプチドを用いてscFv分子を作製し、scFvを二量体化させることである。この型は、ダイアボディとして知られている(例えば、Hollinger,Philipp et al.,(July 1993)Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 90(14):6444-8を参照されたい)。
本発明に一致して、第1のドメイン、第2のドメイン又は第1及び第2のドメインは、それぞれ単一ドメイン抗体、単一ドメイン抗体の可変ドメイン又は単一ドメイン抗体の少なくともCDRを含み得る。単一ドメイン抗体は、他のV領域又はドメインに非依存的に特異抗原に選択的に結合することができる1つのみの(単量体の)抗体可変ドメインを含む。最初の単一ドメイン抗体は、ラクダにおいて見出される重鎖抗体から作り出され、これらは、VHHフラグメントと呼ばれる。軟骨魚類も重鎖抗体(IgNAR)を有し、そこからVNARフラグメントと呼ばれる単一ドメイン抗体を得ることができる。代替的な手法は、例えばヒト又は齧歯類由来の一般的な免疫グロブリン由来の二量体可変ドメインを単量体に分割し、それによって単一ドメインAbとしてVH又はVLを得ることである。単一ドメイン抗体に関する大部分の研究は、現時点で重鎖可変ドメインに基づいているが、軽鎖由来のナノボディも標的エピトープに特異的に結合することが示されている。単一ドメイン抗体の例は、sdAb、ナノボディ又は単一可変ドメイン抗体と呼ばれる。
したがって、(単一ドメインmAb)2は、VH、VL、VHH及びVNARを含む群から個別に選択される(少なくとも)2つの単一ドメインモノクローナル抗体から構成されるモノクローナル抗体コンストラクトである。リンカーは、好ましくは、ペプチドリンカーの形態である。同様に、「scFv-単一ドメインmAb」は、少なくとも1つの上記の単一ドメイン抗体及び1つの上記のscFv分子から構成されるモノクローナル抗体コンストラクトである。この場合も、リンカーは、ペプチドリンカーの形態であることが好ましい。
抗体コンストラクトが別の所与の抗体コンストラクトと競合して結合するかどうかは、競合ELISA又は細胞を用いた競合アッセイなどの競合アッセイで測定することができる。アビジンを結合したマイクロ粒子(ビーズ)を使用することもできる。アビジンでコーティングしたELISAプレートと同様に、ビオチン化タンパク質と反応させる際、これらのビーズのそれぞれを基材として使用することができ、その上でアッセイを実施することができる。抗原をビーズ上にコーティングし、次に一次抗体でプレコーティングする。二次抗体を添加して、任意のさらなる結合を確認する。読み取りのために可能な手段としては、フローサイトメトリーが挙げられる。
T細胞又はTリンパ球は、細胞性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球(それ自体白血球の一種)の一種である。T細胞には、それぞれ異なる機能を有するいくつかのサブセットが存在する。T細胞は、その細胞表面にT細胞受容体(TCR)が存在する点で他のリンパ球、例えばB細胞及びNK細胞と区別することができる。TCRは、主要組織適合抗原複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与し、2つの異なるタンパク質鎖から構成される。95%のT細胞において、TCRは、アルファ(α)鎖及びベータ(β)鎖からなる。TCRが抗原ペプチド及びMHC(ペプチド/MHC複合体)と結合するとき、Tリンパ球が、関連酵素、共受容体、特化したアダプター分子及び活性化又は放出された転写因子によって媒介される一連の生化学的事象を通じて活性化される。
CD3受容体複合体は、タンパク質複合体であり、4つの鎖から構成される。哺乳動物において、この複合体は、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖及び2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及びいわゆるζ(ゼータ)鎖と会合してT細胞受容体CD3複合体を形成し、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。CD3γ(ガンマ)、CD3δ(デルタ)及びCD3ε(イプシロン)鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する、関連性の高い免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面タンパク質である。CD3分子の細胞内尾部は、TCRのシグナル伝達能に必須である免疫受容活性化チロシンモチーフ、すなわち略称ITAMとして知られる単一の保存的モチーフを含有する。CD3イプシロン分子は、ヒトの第11染色体に存在するCD3E遺伝子によってコードされるポリペプチドである。最も好ましいCD3イプシロンのエピトープは、ヒトCD3イプシロン細胞外ドメインのアミノ酸残基1~27の範囲に含まれる。本発明による抗体コンストラクトは、典型的且つ有利には、特異的免疫療法において望ましくない非特異的T細胞活性化をわずかにのみ示すと想定される。これは、副作用のリスクが低いことになる。
多重特異性、少なくとも二重特異性抗体コンストラクトによるT細胞の動員を介するリダイレクトされた標的細胞の溶解は、細胞溶解性シナプスの形成並びにパーフォリン及びグランザイムの送達を伴う。結合したT細胞は、連続的な標的細胞の溶解が可能であり、ペプチド抗原のプロセシング及び提示又はクローナルなT細胞分化を妨げる免疫回避機構による影響を受けない(例えば、国際公開第2007/042261号パンフレットを参照されたい)。
本発明の抗体コンストラクトによって媒介される細胞傷害性は、様々な方法で測定することができる。エフェクター細胞は、例えば、刺激された濃縮(ヒト)CD8陽性T細胞又は未刺激の(ヒト)末梢血単核球(PBMC)であり得る。標的細胞がマカク起源である場合又は第1のドメインによって結合されるマカク標的細胞の表面抗原を発現するか若しくはそれでトランスフェクトされる場合、エフェクター細胞もマカクT細胞株、例えば4119LnPxなどのマカク起源のものであるべきである。標的細胞は、標的細胞の表面抗原、例えばヒト又はマカク標的細胞の表面抗原(の少なくとも細胞外ドメイン)を発現するはずである。標的細胞は、標的細胞の表面抗原、例えばヒト又はマカク標的細胞の表面抗原で安定的に又は一過的にトランスフェクトされている細胞株(CHOなど)であり得る。代わりに、標的細胞は、天然の標的細胞の表面抗原陽性発現細胞株であり得る。通常、EC50値は、細胞表面に高レベルの標的細胞の表面抗原を発現する標的細胞株で低くなると予想される。エフェクター対標的細胞(E:T)比は、通常、約10:1であるが、これは、変動し得る。標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトの細胞傷害活性は、51Cr放出アッセイ(約18時間のインキュベーション時間)又はFACSを用いた細胞傷害性アッセイ(約48時間インキュベーション時間)において測定することができる。アッセイのインキュベーション時間(細胞傷害性反応)の変更も可能である。細胞傷害性を測定する他の方法は、当業者によく知られており、MTT又はMTSアッセイ、生物発光アッセイを含むATP系アッセイ、スルホローダミンB(SRB)アッセイ、WSTアッセイ、クローン原性アッセイ及びECIS技術を含む。
本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトによって媒介される細胞傷害活性は、好ましくは、細胞を用いた細胞傷害性アッセイで測定される。これは、51Cr放出アッセイでも測定され得る。細胞傷害活性は、EC50値によって表され、これは、半数効果濃度(ベースラインと最大値との中間の細胞傷害性反応を誘導する抗体コンストラクトの濃度)に相当する。好ましくは、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトのEC50値は、≦5000pM又は≦4000pM、より好ましくは≦3000pM又は≦2000pM、さらにより好ましくは≦1000pM又は≦500pM、さらにより好ましくは≦400pM又は≦300pM、さらにより好ましくは≦200pM、さらにより好ましくは≦100pM、さらにより好ましくは≦50pM、さらにより好ましくは≦20pM又は≦10pM及び最も好ましくは≦5pMである。
様々なアッセイにおいて、上記の所与のEC50値を測定することができる。刺激された/濃縮CD8+T細胞をエフェクター細胞として使用する場合、未刺激のPBMCと比較してEC50値が低くなると予想できることを当業者は認識している。さらに、EC50値は、標的細胞が多数の標的細胞の表面抗原を発現する場合、標的発現の少ないラットと比較して低くなると予想することができる。例えば、刺激された/濃縮ヒトCD8+T細胞をエフェクター細胞として使用する場合(及びCHO細胞などの標的細胞の表面抗原をトランスフェクトされた細胞又は標的細胞の表面抗原陽性ヒト細胞株のいずれかを標的細胞として使用する場合)、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトのEC50値は、好ましくは≦1000pM、より好ましくは≦500pM、さらにより好ましくは≦250pM、さらにより好ましくは≦100pM、さらにより好ましくは≦50pM、さらにより好ましくは≦10pM及び最も好ましくは≦5pMである。ヒトPBMCをエフェクター細胞として使用する場合、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトのEC50値は、好ましくは、≦5000pM又は≦4000pM(特に標的細胞が標的細胞の表面抗原陽性ヒト細胞株である場合)、より好ましくは≦2000pM(特に標的細胞がCHO細胞などの標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされた細胞である場合)、より好ましくは≦1000pM又は≦500pM、さらにより好ましくは≦200pM、さらにより好ましくは≦150pM、さらにより好ましくは≦100pM及び最も好ましくは≦50pM又はそれ未満である。LnPx4119などのマカクT細胞株をエフェクター細胞として使用し、CHO細胞などのマカク標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされた細胞株を標的細胞株として使用する場合、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトのEC50値は、好ましくは、≦2000pM又は≦1500pM、より好ましくは≦1000pM又は≦500pM、さらにより好ましくは≦300pM又は≦250pM、さらにより好ましくは≦100pM及び最も好ましくは≦50pMである。
好ましくは、本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトは、CHO細胞などの標的細胞の表面抗原陰性細胞の溶解を誘導/媒介しないか、又は溶解を本質的に誘導/媒介しない。用語「溶解を誘導しない」、「溶解を本質的に誘導しない」、「溶解を媒介しない」又は「溶解を本質的に媒介しない」は、標的細胞の表面抗原陽性ヒト細胞株の溶解を100%とした場合、本発明の抗体コンストラクトが標的細胞の表面抗原陰性細胞の30%超、好ましくは20%超、より好ましくは10%超、特に好ましくは9%、8%、7%、6%又は5%超の溶解を誘導又は媒介しないことを意味する。これは、通常、500nMまでの抗体コンストラクトの濃度で当てはまる。当業者は、さらなる労力を伴わずに細胞溶解を測定する方法を知っている。さらに、本明細書では細胞溶解の測定方法の具体的な指示を教示する。
個々の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトの単量体アイソフォームと二量体アイソフォームとの間の細胞傷害活性の差を「効力ギャップ」と称する。この効力ギャップは、例えば、その分子の単量体形態のEC50値と二量体形態のEC50値との間の比率として算出することができる。本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトの効力ギャップは、好ましくは、≦5、より好ましくは≦4、さらにより好ましくは≦3、さらにより好ましくは≦2及び最も好ましくは≦1である。
本発明の抗体コンストラクトの第1及び/又は第2の(又は任意のさらなる)結合ドメインは、好ましくは、霊長類の哺乳動物目のメンバーにおいて異種間特異的である。異種間特異的CD3結合ドメインは、例えば、国際公開第2008/119567号パンフレットに記載されている。一実施形態によれば、第1及び/又は第2の結合ドメインは、ヒト標的細胞の表面抗原及びヒトCD3への結合に加えて、新世界霊長類(マーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)又はリスザル(Saimiri sciureus)など)、旧世界霊長類(ヒヒ及びマカクなど)、テナガザル及び非ヒトのヒト亜科動物を含む(ただし、これらに限定されない)霊長類の標的細胞の表面抗原/CD3にもそれぞれ結合することになる。
本発明の抗体コンストラクトの一実施形態において、第1のドメインは、ヒト標的細胞の表面抗原に結合し、且つカニクイザル(Macaca fascicularis)の標的細胞の表面抗原などのマカク標的細胞の表面抗原、より好ましくはマカク細胞の表面で発現されるマカク標的細胞の表面抗原にさらに結合する。マカク標的細胞の表面抗原に対する第1の結合ドメインの親和性は、好ましくは、≦15nM、より好ましくは≦10nM、さらにより好ましくは≦5nM、さらにより好ましくは≦1nM、さらにより好ましくは≦0.5nM、さらにより好ましくは≦0.1nM及び最も好ましくは≦0.05nM又はさらに≦0.01nMである。
好ましくは、本発明による抗体コンストラクトの、(例えば、BiaCore又はスキャッチャード分析により決定される)マカク標的細胞の表面抗原対ヒト標的細胞の表面抗原[ma 標的細胞の表面抗原:hu 標的細胞の表面抗原]の結合親和性ギャップは、<100、好ましくは<20、より好ましくは<15、さらに好ましくは<10、さらにより好ましくは<8、より好ましくは<6及び最も好ましくは<2である。本発明による抗体コンストラクトの、マカク標的細胞の表面抗原対ヒト標的細胞の表面抗原の結合親和性ギャップの好ましい範囲は、0.1~20、より好ましくは0.2~10、さらにより好ましくは0.3~6、さらにより好ましくは0.5~3又は0.5~2.5及び最も好ましくは0.5~2又は0.6~2である。
本発明の抗体コンストラクトの第2の(結合)ドメインは、ヒトCD3イプシロン及び/又はマカクCD3イプシロンに結合する。好ましい実施形態において、第2のドメインは、マーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)又はリスザル(Saimiri sciureus)CD3イプシロンにさらに結合する。マーモセット(Callithrix jacchus)及びワタボウシタマリン(Saguinus oedipus)は、両方ともマーモセット(Callitrichidae)科に属する新世界霊長類であるが、リスザル(Saimiri sciureus)は、オマキザル(Cebidae)科に属する新世界霊長類である。
本発明の抗体コンストラクトに関して、ヒト及び/又はマカクCD3の細胞外エピトープに結合する第2の結合ドメインは、
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号27に示されるCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号28に示されるCDR-L2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号29に示されるCDR-L3;
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号117に示されるCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号118に示されるCDR-L2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号119に示されるCDR-L3;並びに
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号153に示されるCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号154に示されるCDR-L2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号155に示されるCDR-L3
から選択されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3を含むVL領域を含むことが好ましい。
本発明の抗体コンストラクトのさらに好ましい実施形態において、ヒト及び/又はマカクCD3イプシロン鎖の細胞外エピトープに結合する第2のドメインは、
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号12に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号13に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号14に示されるCDR-H3;
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号30に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号31に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号32に示されるCDR-H3;
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号48に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号49に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号50に示されるCDR-H3;
(d)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号66に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号67に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号68に示されるCDR-H3;
(e)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号84に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号85に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号86に示されるCDR-H3;
(f)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号102に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号103に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号104に示されるCDR-H3;
(g)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号120に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号121に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号122に示されるCDR-H3;
(h)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号138に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号139に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号140に示されるCDR-H3;
(i)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号156に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号157に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号158に示されるCDR-H3;並びに
(j)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号174に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号175に示されるCDR-H2、及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号176に示されるCDR-H3
から選択されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3を含むVH領域を含む。
本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態において、第2の結合ドメイン内でVL CDRの上記3群をVH CDRの上記10群と組み合わせて、それぞれCDR-L1~3及びCDR-H1~3を含む(30)群を形成する。
本発明の抗体コンストラクトに関して、CD3に結合する第2のドメインは、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号17、21、35、39、53、57、71、75、89、93、107、111、125、129、143、147、161、165、179若しくは183で示されるか又は配列番号13で示されるVL領域からなる群から選択されるVL領域を含むことが好ましい。
CD3に結合する第2のドメインは、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号15、19、33、37、51、55、69、73、87、91、105、109、123、127、141、145、159、163、177若しくは181で示されるか又は配列番号14で示されるVH領域からなる群から選択されるVH領域を含むことも好ましい。
より好ましくは、本発明の抗体コンストラクトは、
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号17又は21に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号15又は19に示されるVH領域;
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号35又は39に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号33又は37に示されるVH領域;
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号53又は57に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号51又は55に示されるVH領域;
(d)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号71又は75に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号69又は73に示されるVH領域;
(e)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号89又は93に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号87又は91に示されるVH領域;
(f)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号107又は111に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号105又は109に示されるVH領域;
(g)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号125又は129に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号123又は127に示されるVH領域;
(h)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号143又は147に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号141又は145に示されるVH領域;
(i)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号161又は165に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号159又は163に示されるVH領域;並びに
(j)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号179又は183に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号177又は181に示されるVH領域
からなる群から選択されるVL領域及びVH領域を含むDC3に結合する第2のドメインによって特徴付けられる。
配列番号13に示されるVL領域及び配列番号14に示されるVH領域を含むCD3に結合する第2のドメインも本発明の抗体コンストラクトとの関係で好ましい。
本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態によれば、第1の及び/又は第2のドメインは、以下の形式を有する:VH領域とVL領域との対は、単鎖抗体(scFv)の形式である。VH及びVL領域は、VH-VL又はVL-VHの順に配置される。VH領域がリンカー配列のN末端に配置され、且つVL領域がリンカー配列のC末端に配置されることが好ましい。
本発明の上記の抗体コンストラクトの好ましい実施形態は、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号23、25、41、43、59、61、77、79、95、97、113、115、131、133、149、151、167、169、185若しくは187からなる群から選択されるか又は配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むCD3に結合する第2のドメインによって特徴付けられる。
抗体コンストラクトの共有結合的修飾も本発明の範囲内に含まれ、これは、常にではないものの通常、翻訳後に行われる。例えば、抗体コンストラクトのいくつかの種類の共有結合的修飾は、抗体コンストラクトの特定のアミノ酸残基を、選択された側鎖又はN末端若しくはC末端残基と反応することができる有機誘導体化剤と反応させることによって分子内に導入される。
システイニル残基は、最も一般的には、α-ハロアセテート(及び対応するアミン)、例えばクロロ酢酸又はクロロアセトアミドと反応して、カルボキシメチル又はカルボキシアミドメチル誘導体を生じる。システイニル残基は、ブロモトリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミドゾイル)プロピオン酸、リン酸クロロアセチル、N-アルキルマレイミド、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド、メチル2-ピリジルジスルフィド、p-クロロメルクリ安息香酸、2-クロロメルクリ-4-ニトロフェノール又はクロロ-7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応によっても誘導体化される。
ヒスチジル残基は、pH5.5~7.0でのジエチルピロカーボネートとの反応によって誘導体化され、なぜなら、この薬剤は、ヒスチジル側鎖に対して比較的特異的であるためである。パラ-ブロモフェナシルブロミドも有用であり、この反応は、好ましくは、pH6.0の0.1Mカコジル酸ナトリウム中で行われる。リシニル及びアミノ末端残基は、コハク酸又は他のカルボン酸無水物と反応する。これらの薬剤による誘導体化は、リシニル残基の電荷を反転させる効果を有する。アルファ-アミノ含有残基を誘導体化するための他の好適な試薬としては、ピコリンイミド酸メチルなどのイミドエステル;リン酸ピリドキサール;ピリドキサール;クロロボロヒドリド;トリニトロベンゼンスルホン酸;O-メチルイソ尿素;2,4-ペンタンジオン;及びグリオキシレートとのトランスアミナーゼ触媒反応が挙げられる。
アルギニル残基は、1つ又は複数の従来型の試薬、とりわけフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン及びニンヒドリンとの反応により修飾される。グアニジン官能基のpKaが高いため、アルギニン残基の誘導体化は、反応をアルカリ条件下で実施する必要がある。さらに、これらの試薬は、リジンの基及びアルギニンイプシロン-アミノ基と反応し得る。
チロシル残基の特異的修飾は、特に芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンとの反応によるチロシル残基へのスペクトル標識の導入を目的として行われる場合がある。最も一般的には、N-アセチルイミジゾール(N-acetylimidizole)及びテトラニトロメタンを使用して、それぞれO-アセチルチロシル種及び3-ニトロ誘導体を形成する。125I又は131Iを用いてチロシル残基をヨウ素化して、ラジオイムノアッセイに使用される標識タンパク質を調製する上記のクロラミンT法が好適である。
カルボキシル側基(アスパルチル又はグルタミル)は、カルボジイミド(R’-N=C=N-R’)との反応によって選択的に修飾され、ここで、R及びR’は、任意選択的に異なるアルキル基、例えば1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド又は1-エチル-3-(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミドである。さらに、アスパルチル残基及びグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニル残基及びグルタミニル残基に変換される。
二官能性物質による誘導体化は、本発明の抗体コンストラクトを、様々な方法に使用するための非水溶性の支持マトリックス又は支持表面に架橋するのに有用である。一般的に使用される架橋剤として、例えば、1,1-ビス(ジアゾアセチル)-2-フェニルエタン、グルタルアルデヒド、例えば4-アジドサリチル酸とのエステルなどのN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3,3-ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)などのジスクシンイミジルエステルを含むホモ二官能性イミドエステル及びビス-N-マレイミド-1,8-オクタンなどの二官能性マレイミドが挙げられる。メチル-3-[(p-アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデートなどの誘導体化剤により、光の存在下で架橋を形成することができる光活性化され得る中間体が得られる。代わりに、臭化シアン活性化炭水化物などの反応性非水溶性マトリックス並びに米国特許第3,969,287号明細書;同第3,691,016号明細書;同第4,195,128号明細書;同第4,247,642号明細書;同第4,229,537号明細書;及び同第4,330,440号明細書に記載されている反応性基材がタンパク質の固定化に使用される。
グルタミニル及びアスパラギニル残基は、多くの場合、脱アミド化されて、それぞれ対応するグルタミル残基及びアスパルチル残基になる。代わりに、これらの残基は、穏やかな酸性条件下で脱アミド化される。これらの残基のいずれの形態も本発明の範囲に含まれる。
他の修飾としては、プロリン及びリジンのヒドロキシル化、セリル又はスレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニン及びヒスチジン側鎖のα-アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman&Co.,San Francisco,1983,pp.79-86)、N末端アミンのアセチル化並びに任意のC末端カルボキシル基のアミド化が挙げられる。
本発明の範囲内に含まれる抗体コンストラクトの別の種類の共有結合的修飾は、タンパク質のグリコシル化パターンの変更を含む。当技術分野で知られるとおり、グリコシル化パターンは、タンパク質の配列(例えば、以下で論じる特定のグリコシル化アミノ酸残基の存在又は非存在)又はそのタンパク質を産生する宿主細胞若しくは生物体の両方に依存し得る。個々の発現系について以下で論じる。
ポリペプチドのグリコシル化は、通常、N結合型又はO結合型のいずれかである。N結合型は、アスパラギン残基の側鎖への糖鎖の付加を指す。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ただし、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への糖鎖の酵素的付加のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれか存在が潜在的なグリコシル化部位をもたらす。O結合型グリコシル化は、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース又はキシロースの1つの糖のヒドロキシアミノ酸への付加を指し、最も一般的にはセリン又はスレオニンであるが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンが使用される場合もある。
抗体コンストラクトへのグリコシル化部位の付加は、(N結合型グリコシル化部位のための)上記のトリペプチド配列の1つ以上を含有するようにアミノ酸配列を改変することにより行うと好都合である。改変は、(O結合型グリコシル化部位のための)開始配列への1つ以上のセリン又はスレオニン残基の付加又は置換によってもなされ得る。簡潔には、抗体コンストラクトのアミノ酸配列を、DNAレベルでの変更、特に所望のアミノ酸に翻訳されることになるコドンが生じるようにポリペプチドをコードするDNAを、事前に選択した塩基で変異させることによって改変することが好ましい。
抗体コンストラクト上の糖鎖の数を増加させる別の手段は、そのタンパク質へのグリコシドの化学的又は酵素的結合による。これらの手順は、N結合型及びO結合型グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞におけるタンパク質の産生を必要としない点で有利である。使用される結合様式に応じて、糖が(a)アルギニン及びヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインのものなどの遊離スルフヒドリル基、(d)セリン、スレオニン若しくはヒドロキシプロリンのものなどの遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン若しくはトリプトファンのものなどの芳香族残基又は(f)グルタミンのアミド基に付加され得る。これらの方法は、国際公開第87/05330号パンフレット及びAplin and Wriston,1981,CRC Crit.Rev.Biochem.,pp.259-306に記載されている。
出発抗体コンストラクト上に存在する糖鎖の除去は、化学的又は酵素的に行われ得る。化学的脱グリコシル化は、化合物トリフルオロメタンスルホン酸又は均等な化合物へのタンパク質の曝露が必要となる。この処理により、ポリペプチドは無傷な状態のままで、結合している糖(N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミン)を除くほとんど又は全ての糖が切断される。化学的脱グリコシル化については、Hakimuddin et al.,1987,Arch.Biochem.Biophys.259:52及びEdge et al.,1981,Anal.Biochem.118:131によって記載されている。ポリペプチド上の糖鎖の酵素的切断は、Thotakura et al.,1987,Meth.Enzymol.138:350によって記載されるとおりの様々なエンドグリコシダーゼ及びエキソグリコシダーゼの使用によって行うことができる。潜在的なグリコシル化部位でのグリコシル化は、Duskin et al.,1982,J.Biol.Chem.257:3105によって記載されるとおりの化合物ツニカマイシンの使用により妨げられ得る。ツニカマイシンは、タンパク質-N-グリコシド結合の形成を阻止する。
本明細書では、抗体コンストラクトの他の修飾も企図される。例えば、抗体コンストラクトの別の種類の共有結合的修飾は、様々な非タンパク質性ポリマーへの抗体コンストラクトの連結を含み、ポリマーとしては、米国特許第4,640,835号明細書;同第4,496,689号明細書;同第4,301,144号明細書;同第4,670,417号明細書;同第4,791,192号明細書又は同第4,179,337号明細書に示される様式の様々なポリオール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーを含むが、これらに限定されない。加えて、当技術分野で知られるとおり、例えば、PEGなどのポリマーの付加を容易にするために抗体コンストラクト内の様々な位置でアミノ酸置換がなされ得る。
いくつかの実施形態では、本発明の抗体コンストラクトの共有結合的修飾は、1つ以上の標識の付加を含む。潜在的な立体障害を低減するために、様々な長さのスペーサーアームを介して標識基が抗体コンストラクトに結合され得る。タンパク質を標識するための様々な方法が当技術分野で知られており、本発明を実施する際に使用することができる。用語「標識」又は「標識基」は、任意の検出可能な標識を指す。一般に、標識は、標識を検出しようとするアッセイに応じて様々なクラスに分類され、以下の例が挙げられるが、これらに限定されない:
a)放射性同位体又は放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、89Zr、90Y、99Tc、111In、125I、131I)などの放射性同位体又は重同位体であり得る同位体標識
b)磁気標識(例えば、磁気粒子)
c)酸化還元活性部分
d)蛍光基(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド蛍光体)、化学発光基及び「低分子」蛍光体又はタンパク質性蛍光体のいずれかであり得るフルオロフォアなどの光学色素(発色団、蛍光体及びフルオロフォアを含むが、これらに限定されない)
e)酵素群(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)
f)ビオチン化基
g)二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグなど)。
「蛍光標識」は、その固有の蛍光特性を介して検出され得る任意の分子を意味する。好適な蛍光標識としては、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチル-クマリン、ピレン、マラカイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、カスケードブルーJ、テキサスレッド、IAEDANS、EDANS、BODIPY FL、LC Red 640、Cy5、Cy5.5、LC Red 705、オレゴングリーン、Alexa-Fluor色素(Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680)、カスケードブルー、カスケードイエロー及びR-フィコエリトリン(PE)(Molecular Probes、Eugene、OR)、FITC、ローダミン及びテキサスレッド(Pierce、Rockford,IL)、Cy5、Cy5.5、Cy7(Amersham Life Science、Pittsburgh、PA)が挙げられるが、これらに限定されない。フルオロフォアを含む好適な光学色素は、Molecular Probes Handbook by Richard P.Hauglandに記載されている。
好適なタンパク質性蛍光標識としては、Renilla、Ptilosarcus又はAequorea種のGFP(Chalfie et al.,1994,Science 263:802-805)、EGFP(Clontech Laboratories,Inc.,Genbankアクセッション番号U55762)を含む緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質(BFP,Quantum Biotechnologies,Inc.1801 de Maisonneuve Blvd.West,8th Floor,Montreal,Quebec,Canada H3H 1J9;Stauber,1998,Biotechniques 24:462-471;Heim et al.,1996,Curr.Biol.6:178-182)、強化型黄色蛍光タンパク質(EYFP、Clontech Laboratories,Inc.)、ルシフェラーゼ(Ichiki et al.,1993,J.Immunol.150:5408-5417)、βガラクトシダーゼ(Nolan et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2603-2607)及びRenilla(国際公開第92/15673号パンフレット、国際公開第95/07463号パンフレット、国際公開第98/14605号パンフレット、国際公開第98/26277号パンフレット、国際公開第99/49019号パンフレット、米国特許第5,292,658号明細書;同第5,418,155号明細書;同第5,683,888号明細書;同第5,741,668号明細書;同第5,777,079号明細書;同第5,804,387号明細書;同第5,874,304号明細書;同第5,876,995号明細書;同第5,925,558号明細書)も挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の抗体コンストラクトは、例えば、その分子の単離に役立つか又はその分子の薬物動態プロファイルの適合に関連する追加ドメインも含み得る。抗体コンストラクトの単離に役立つドメインは、単離方法、例えば単離用カラムで捕捉できるペプチドモチーフ又は二次的に導入される部分から選択され得る。このような追加ドメインの非限定的な実施形態は、Mycタグ、HATタグ、HAタグ、TAPタグ、GSTタグ、キチン結合ドメイン(CBDタグ)、マルトース結合タンパク質(MBPタグ)、Flagタグ、Strepタグ及びその変種(例えば、StrepIIタグ)並びにHisタグとして知られるペプチドモチーフを含む。同定されたCDRによって特徴付けられる本明細書で開示される抗体コンストラクトの全ては、分子のアミノ酸配列中の連続するHis残基、好ましくは5つ、より好ましくは6つのHis残基(ヘキサヒスチジン)のリピートとして一般に知られるHisタグドメインを含み得る。Hisタグは、例えば、抗体コンストラクトのN末端にもC末端にも配置され得るが、C末端に配置されることが好ましい。最も好ましくは、ヘキサヒスチジンタグ(HHHHHH)(配列番号16)を、ペプチド結合を介して本発明による抗体コンストラクトのC末端に結合する。加えて、持続放出用途及び薬物動態プロファイルの向上のために、PLGA-PEG-PLGAのコンジュゲート系をポリヒスチジンタグと組み合わせ得る。
本明細書に記載される抗体コンストラクトのアミノ酸配列改変も企図される。例えば、抗体コンストラクトの結合親和性及び/又は他の生物学的特性の向上が望ましい場合がある。抗体コンストラクトのアミノ酸配列バリアントは、抗体コンストラクトの核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって又はペプチド合成によって作製される。以下に記載されるアミノ酸配列改変の全ては、未改変の親分子の所望の生物活性(標的細胞の表面抗原及びCD3への結合)を引き続き保持する抗体コンストラクトをもたらすはずである。
用語「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」は、通常、その技術分野で認められている定義を有するアミノ酸、例えばアラニン(Ala又はA);アルギニン(Arg又はR);アスパラギン(Asn又はN);アスパラギン酸(Asp又はD);システイン(Cys又はC);グルタミン(Gln又はQ);グルタミン酸(Glu又はE);グリシン(Gly又はG);ヒスチジン(His又はH);イソロイシン(He又はI);ロイシン(Leu又はL);リジン(Lys又はK);メチオニン(Met又はM);フェニルアラニン(Phe又はF);プロリン(Pro又はP);セリン(Ser又はS);スレオニン(Thr又はT);トリプトファン(Trp又はW);チロシン(Tyr又はY);及びバリン(Val又はV)からなる群から選択されるアミノ酸を指すが、必要に応じて修飾アミノ酸、合成アミノ酸又は希少アミノ酸を使用し得る。一般に、アミノ酸は、非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、He、Leu、Met、Phe、Pro、Val);負電荷側鎖(例えば、Asp、Glu);正電荷側鎖(例えば、Arg、His、Lys);又は無電荷極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gln、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp及びTyr)の存在によって分類することができる。
アミノ酸改変は、例えば、抗体コンストラクトのアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又は残基への挿入、及び/又は残基の置換を含む。最終コンストラクトが所望の特徴を保持することを条件として、最終コンストラクトに到達するように欠失、挿入及び置換の任意の組み合わせを行う。アミノ酸の変化は、グリコシル化部位の数又は位置の変化などの抗体コンストラクトの翻訳後プロセスも変え得る。
例えば、1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸がCDRの各々において(当然のことながら、それらの長さに依存する)挿入、置換又は欠失され得る一方、FRの各々において1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は25個のアミノ酸が挿入、置換又は欠失され得る。好ましくは、抗体コンストラクトへのアミノ酸配列の挿入は、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10残基から、100以上の残基を含有するポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端融合及び/又はカルボキシル末端融合並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。対応する改変を本発明の抗体コンストラクトの第3のドメイン内で実施し得る。本発明の抗体コンストラクトの挿入バリアントは、抗体コンストラクトのN末端若しくはC末端への酵素の融合又はポリペプチドへの融合を含む。
置換変異誘発にとって最も重要な部位としては、重鎖及び/又は軽鎖のCDR、特に超可変領域が挙げられるが(これらに限定されるものではない)、重鎖及び/又は軽鎖におけるFRの改変も企図される。置換は、本明細書に記載される保存的置換であることが好ましい。好ましくは、CDR又はFRの長さに応じて、CDRでは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のアミノ酸を置換し得る一方、フレームワーク領域(FR)では1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は25個のアミノ酸を置換し得る。例えば、CDR配列が6個のアミノ酸を包含する場合、これらのアミノ酸の1、2又は3個が置換されることが想定される。同様に、CDR配列が15個のアミノ酸を包含する場合、これらのアミノ酸の1、2、3、4、5又は6個が置換されることが想定される。
変異誘発について好ましい位置である抗体コンストラクトの特定の残基又は領域を同定する有用な方法は、Cunningham and Wells in Science,244:1081-1085(1989)に記載されるとおり「アラニンスキャニング変異導入法」と呼ばれる。この方法では、抗体コンストラクト内の残基又は標的残基群を同定し(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)、アミノ酸とエピトープとの相互作用に影響を与える中性又は負電荷アミノ酸(最も好ましくは、アラニン又はポリアラニン)で置き換えられる。
次に、さらなるバリアント又は他のバリアントを置換部位に、すなわち置換部位の代わりに導入することにより、置換に対して機能的感受性を示すそれらのアミノ酸位置を厳選する。このように、アミノ酸配列変種を導入する部位又は領域は、予め決定されるが、変異の性質自体を予め決定する必要はない。例えば、所与の部位での変異の性能を分析又は最適化するために、アラニンスキャニング又はランダム変異誘発が標的コドン又は標的領域で実施される場合があり、発現される抗体コンストラクトのバリアントは、所望の活性の最適な組み合わせについてスクリーニングされる。既知の配列を有するDNA内の所定部位に置換変異を行う技術は、よく知られており、例えばM13プライマー変異誘発及びPCR変異誘発がある。変異体のスクリーニングは、標的細胞の表面抗原又はCD3結合などの抗原結合活性のアッセイを使用して行われる。
一般に、重鎖及び/又は軽鎖のCDRの1つ以上又は全てにおいてアミノ酸が置換される場合、それによって得られる「置換された」配列は、「当初の」CDR配列と少なくとも60%又は65%、より好ましくは70%又は75%、さらにより好ましくは80%又は85%及び特に好ましくは90%又は95%同一であることが好ましい。これは、それが「置換された」配列とどの程度同一であるかがCDRの長さに依存することを意味する。例えば、5個のアミノ酸を有するCDRは、少なくとも1個の置換されたアミノ酸を有するために、その置換された配列と80%同一であることが好ましい。したがって、抗体コンストラクトのCDRは、それらの置換配列に対して異なる程度の同一性を有する場合があり、例えば、CDRL1が80%を有する場合がある一方、CDRL3は90%を有する場合がある。
好ましい置換(又は置き換え)は、保存的置換である。しかしながら、抗体コンストラクトが、それぞれ第1の結合ドメインを介して標的細胞の表面抗原に結合し、第2の結合ドメインを介してCD3、CD3イプシロンに結合する能力を保持する限り、且つ/又はそのCDRが置換後の配列に対して同一性を有している(「当初の」CDR配列に対して少なくとも60%又は65%、より好ましくは70%又は75%、さらにより好ましくは80%又は85%及び特に好ましくは90%又は95%同一である)限り、(非保存的置換又は以下の表3に列挙される「例示的な置換」の1つ以上を含む)任意の置換が想定される。
保存的置換を表3の「好ましい置換」の見出し下に示す。このような置換が生物活性を変化させる場合、表3において「例示的な置換」と称されるか、又はアミノ酸クラスに関連して以下でさらに記載する、より実質的な変更を導入し、所望の特徴について産物をスクリーニングし得る。
本発明の抗体コンストラクトの生物学的特性における実質的な改変は、(a)例えばシート状若しくはらせん状の立体構造としての置換領域のポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷若しくは疎水性又は(c)側鎖の嵩高さの維持に対する影響が著しく異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいて以下の群に分類される:(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;(2)中性親水性;cys、ser、thr、asn、gln;(3)酸性:asp、glu;(4)塩基性:his、lys、arg;(5)鎖の配向性に影響する残基:gly、pro;及び(6)芳香族:trp、tyr、phe。
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴うことになる。抗体コンストラクトの適切な立体構造の維持に関与しない任意のシステイン残基を一般的にはセリンで置換することで、分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋を回避し得る。逆に、抗体にシステイン結合を付加することで、(特に抗体がFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)その安定性を向上させ得る。
アミノ酸配列に関して、配列同一性及び/又は類似性は、当技術分野で知られる標準的な技術、例えば、限定されないが、Smith and Waterman,1981,Adv.Appl.Math.2:482の部分配列同一性アルゴリズム、Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman,1988,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.85:2444の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WisのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、Devereux et al.,1984,Nucl.Acid Res.12:387-395により記載されている、好ましくはデフォルト設定を用いたBest Fit配列プログラムを使用することにより又は目視により決定される。好ましくは、同一性パーセントは、以下のパラメータに基づいてFastDBによって算出される:ミスマッチペナルティが1;ギャップペナルティが1;ギャップサイズペナルティが0.33;及び結合ペナルティが30、「Current Methods in Sequence Comparison and Analysis」,Macromolecule Sequencing and Synthesis,Selected Methods and Applications,pp 127-149(1988),Alan R.Liss,Inc。
有用なアルゴリズムの一例は、PILEUPである。PILEUPは、プログレッシブ法によるペアワイズアラインメントを使用して関連配列群から多重配列アラインメントを生成する。これにより、アラインメントの生成に使用されたクラスタリング関係を示すツリーをプロットすることもできる。PILEUPは、Feng&Doolittle,1987,J.Mol.Evol.35:351-360のプログレッシブアラインメント法の簡易版を使用する。この方法は、Higgins and Sharp,1989,CABIOS 5:151-153により記載されたものと同様である。有用なPILEUPパラメータは、3.00のデフォルトのギャップ加重、0.10のデフォルトのギャップ長加重及び加重エンドギャップを含む。
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403-410;Altschul et al.,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402;及びKarin et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5873-5787に記載されているBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.,1996,Methods in Enzymology 266:460-480から入手したWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2は、いくつかの検索パラメータを使用しており、その大部分がデフォルト値に設定される。調整可能なパラメータは、以下の値に設定する:重複範囲=1、重複割合=0.125、ワード閾値(T)=II。HSP S及びHSP S2パラメータは動的な値であり、個々の配列の構成及び目的配列が検索されている特定のデータベースの構成に応じてプログラム自体によって設定されるが、感度を上げるために値を調整し得る。
他の有用なアルゴリズムは、Altschul et al.,1993,Nucl.Acids Res.25:3389-3402によって報告されたgapped BLASTである。gapped BLASTはBLOSUM-62置換スコアを使用し、閾値Tパラメータは、9に設定され、ギャップなし伸長をもたらすtwo-hit法は、ギャップ長kのコストを10+kとし、Xuは、16に設定され、Xgは、データベース検索段階では40に、アルゴリズムの出力段階では67に設定される。ギャップありアラインメントは、約22ビットに相当するスコアによってもたらされる。
一般に、個々のバリアントCDR又はVH/VL配列間のアミノ酸相同性、類似性又は同一性は、本明細書に示される配列に対して少なくとも60%であり、より典型的には相同性又は同一性が少なくとも65%又は70%、より好ましくは少なくとも75%又は80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%及びほぼ100%に増加することが好ましい。同様に、本明細書で特定される結合タンパク質の核酸配列に関する「核酸配列同一性パーセント(%)」は、抗体コンストラクトのコード配列内のヌクレオチド残基と同一である候補配列内のヌクレオチド残基の割合と定義される。具体的な方法では、重複範囲及び重複割合がそれぞれ1及び0.125を有するデフォルトパラメータに設定されたWU-BLAST-2のBLASTNモジュールを利用する。
一般に、個々のバリアントCDR又はVH/VL配列をコードするヌクレオチド配列と本明細書に示されるヌクレオチド配列間の核酸配列相同性、類似性又は同一性は、少なくとも60%であり、より典型的には相同性又は同一性が少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%及びほぼ100%に増加することが好ましい。したがって、「バリアントCDR」又は「バリアントVH/VL領域」は、本発明の親CDR/VH/VLに対して特定の相同性、類似性又は同一性を有するものであり、且つ親CDR若しくはVH/VLの特異性及び/又は活性の少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%を含むが、これらに限定されない生物学的機能を共有している。
一実施形態では、本発明による抗体コンストラクトのヒト生殖細胞系列に対する同一性の割合は、≧70%又は≧75%、より好ましくは≧80%又は≧85%、さらにより好ましくは≧90%及び最も好ましくは≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%又はさらに≧96%である。ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子産物に対する同一性は、治療用タンパク質が治療中の患者の薬物に対する免疫反応を誘発するリスクを低減するための重要な特徴であると考えられる。Hwang&Foote(「Immunogenicity of engineered antibodies」;Methods 36(2005)3-10)は、薬物抗体コンストラクトの非ヒト部分の減少が治療中の患者における抗薬物抗体の誘発リスクの低減をもたらすことを実証している。膨大な数の臨床評価済み抗体薬物及び対応する免疫原性データを比較することにより、抗体のV領域のヒト化は、未改変の非ヒトV領域を保有する抗体(患者の平均23.59%)よりもタンパク質の免疫原性が少ない(患者の平均5.1%)という傾向を示している。したがって、V領域をベースにした抗体コンストラクトの形態でのタンパク質治療薬に関して、ヒト配列に対する同一性が高いことが望ましい。この生殖細胞系列同一性の決定のために、Vector NTIソフトウェアを用いて、VLのV領域をヒト生殖細胞系列Vセグメント及びJセグメントのアミノ酸配列(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)とアラインメントし、同一のアミノ酸残基数をVLの総アミノ酸残基数で割ることによりアミノ酸配列をパーセントで算出することができる。VHセグメント(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)についても同様の方法が可能であるが、例外として、VH CDR3は、多様性が高く、既存のヒト生殖細胞系列VH CDR3のアラインメントパートナーを欠くために除外され得る。続いて、組換え技術を使用して、ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子に対する配列同一性を増大させることができる。
さらなる実施形態では、本発明の二重特異性抗体コンストラクトは、標準的な研究規模の条件下において、例えば標準的な二段階精製プロセスで高い単量体収量を示す。好ましくは、本発明による抗体コンストラクトの単量体収量は、≧0.25mg/L上清、より好ましくは≧0.5mg/L、さらにより好ましくは≧1mg/L及び最も好ましくは≧3mg/L上清である。
同様に、抗体コンストラクトの二量体抗体コンストラクトアイソフォームの収量及びそのため単量体の割合(すなわち単量体:(単量体+二量体))が決定され得る。単量体及び二量体抗体コンストラクトの生産性並びに算出される単量体の割合は、例えば、ローラーボトル中における標準化された研究規模の製造に由来する培養上清のSEC精製工程で取得することができる。一実施形態では、抗体コンストラクトの単量体の割合は、≧80%、より好ましくは≧85%、さらにより好ましくは≧90%及び最も好ましくは≧95%である。
一実施形態では、抗体コンストラクトは、好ましくは、≦5又は≦4、より好ましくは≦3.5又は≦3、さらにより好ましくは≦2.5又は≦2及び最も好ましくは≦1.5又は≦1の血漿安定性(血漿非存在下でのEC50に対する血漿存在下でのEC50の比率)を有する。抗体コンストラクトの血漿安定性は、コンストラクトをヒト血漿中、37℃で24時間インキュベートし、続いて51クロム放出細胞傷害性アッセイにおいてEC50を決定することにより試験することができる。細胞傷害性アッセイにおけるエフェクター細胞は、刺激された濃縮ヒトCD8陽性T細胞であり得る。標的細胞は、例えば、ヒト標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされたCHO細胞であり得る。エフェクター細胞対標的細胞(E:T)比は、10:1を選択することができる。この目的で使用されるヒト血漿プールは、EDTAコーティングされたシリンジによって回収された健常ドナーの血液に由来する。細胞成分を遠心分離により除去して、上部血漿相を回収し、その後、プールする。対照として、抗体コンストラクトを細胞傷害性アッセイの直前にRPMI-1640培地で希釈する。血漿安定性は、EC50(対照)に対するEC50(血漿インキュベーション後)の比率として算出される。
本発明の抗体コンストラクトの単量体から二量体への変換率は、低いことがさらに好ましい。変換率は、異なる条件下で測定し、高速サイズ排除クロマトグラフィーによって分析することができる。例えば、抗体コンストラクトの単量体アイソフォームのインキュベーションは、インキュベーター内で例えば100μg/ml又は250μg/mlの濃度において37℃で7日間行われ得る。これらの条件下において、本発明の抗体コンストラクトは、≦5%、より好ましくは≦4%、さらにより好ましくは≦3%、さらにより好ましくは≦2.5%、さらにより好ましくは≦2%、さらにより好ましくは≦1.5%及び最も好ましくは≦1%又は≦0.5%又はさらに0%の二量体の割合を示すことが好ましい。
本発明の二重特異性抗体コンストラクトは、数回の凍結/解凍サイクル後、非常に低い二量体変換率を示すことも好ましい。例えば、抗体コンストラクトの単量体を例えば汎用の製剤緩衝液中、250μg/mlの濃度に調整し、3回の凍結/解凍サイクル(-80℃で30分間の凍結後、室温で30分間の解凍)にかけた後、高速SECを行い、二量体抗体コンストラクトに変換された初期単量体抗体コンストラクトの割合を決定する。好ましくは、二重特異性抗体コンストラクトの二量体の割合は、例えば、3回の凍結/解凍サイクル後に≦5%、より好ましくは≦4%、さらにより好ましくは≦3%、さらにより好ましくは≦2.5%、さらにより好ましくは≦2%、さらにより好ましくは≦1.5%及び最も好ましくは≦1%又はさらに≦0.5%である。
本発明の二重特異性抗体コンストラクトは、好ましくは、≧45℃又は≧50℃、より好ましくは≧52℃又は≧54℃、さらにより好ましくは≧56℃又は≧57℃及び最も好ましくは≧58℃又は≧59℃の凝集温度で良好な熱安定性を示す。抗体の凝集温度の観点から熱安定性パラメータを以下のように決定することができる:濃度250μg/mlの抗体溶液を単回使用のキュベットに移し、動的光散乱(DLS)装置内に置く。測定半径を常時取得しながら、0.5℃/分の加熱速度で40℃から70℃まで試料を加熱する。タンパク質の融解及び凝集を示す半径の増大を使用して、抗体の凝集温度を算出する。
代わりに、融解温度曲線を示差走査熱量測定(DSC)により決定して、抗体コンストラクトの固有の生物物理学的タンパク質安定性を決定することができる。これらの実験を、MicroCal LLC(Northampton、MA、U.S.A)VP-DSC装置を使用して実施する。抗体コンストラクトを含有する試料のエネルギー取り込みを20℃から90℃まで記録して、製剤緩衝液のみを含有する試料と比較する。抗体コンストラクトを例えばSECランニング緩衝液中において最終濃度250μg/mlに調整する。それぞれの融解曲線を記録するために試料の全体温度を段階的に上昇させる。各温度Tでの試料及び製剤緩衝液標準物質のエネルギー取り込みを記録する。試料から標準物質を差し引いたエネルギー取り込みCp(kcal/mole/℃)の差をそれぞれの温度に対してプロットする。融解温度は、エネルギー取り込みが最初に最大となる温度と定義される。
本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗体コンストラクトは、≦0.2、好ましくは≦0.15、より好ましくは≦0.12、さらにより好ましくは≦0.1及び最も好ましくは≦0.08の混濁度(精製された単量体抗体コンストラクトを2.5mg/mlまで濃縮し、一晩インキュベートした後、OD340により測定される)を有するとも想定される。
さらなる実施形態では、本発明による抗体コンストラクトは、酸性pHで安定である。非生理的pH、例えばpH5.5(例えば、陽イオン交換クロマトグラフィーの実行に必要とされるpH)以下、例えばpH4.0~5.5で抗体コンストラクトが示す耐性が高いほど、充填されたタンパク質の総量に対するイオン交換カラムから溶出する抗体コンストラクトの回収率が高くなる。pH5.5でのイオン(例えば、陽イオン)交換カラムからの抗体コンストラクトの回収率は、好ましくは、≧30%、より好ましくは≧40%、より好ましくは≧50%、さらにより好ましくは≧60%、さらにより好ましくは≧70%、さらにより好ましくは≧80%、さらにより好ましくは≧90%、さらにより好ましくは≧95%及び最も好ましくは≧99%である。
本発明の二重特異性抗体コンストラクトは、治療有効性又は抗腫瘍活性を示すことがさらに想定される。これは、例えば、以下の進行期のヒト腫瘍異種移植モデルの実施例に開示される試験において評価することができる。
当業者は、この試験の特定のパラメータ、例えば注射する腫瘍細胞の数、注射部位、移植するヒトT細胞の数、投与する二重特異性抗体コンストラクトの量及び予定表を変更又は適合させながらも、有意義で再現性のある結果を得る方法を知っている。好ましくは、腫瘍増殖抑制T/C[%]は、≦70若しくは≦60、より好ましくは≦50若しくは≦40、さらにより好ましくは≦30若しくは≦20及び最も好ましくは≦10若しくは≦5又はさらに≦2.5である。
本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態では、抗体コンストラクトは、単鎖抗体コンストラクトである。
また、本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態では、前記第3のドメインは、アミノからカルボキシルの順に、
ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3
を含む。
本発明の一実施形態では、第3のドメインの前記ポリペプチド単量体の各々は、配列番号17~24からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する。好ましい実施形態又は本発明では、前記ポリペプチド単量体の各々は、配列番号17~24から選択されるアミノ酸配列を有する。
また、本発明の一実施形態では、第3のドメインの1つ又は好ましくは各々(両方)のポリペプチド単量体のCH2ドメインは、ドメイン内システインジスルフィド架橋を含む。当技術分野で知られるとおり、用語「システインジスルフィド架橋」は、一般構造R-S-S-Rを有する官能基を指す。この連結は、SS結合又はジスルフィド架橋とも呼ばれ、システイン残基の2つのチオール基のカップリングによって得られる。本発明の抗体コンストラクトに関して、成熟抗体コンストラクト内でシステインジスルフィド架橋を形成するシステインは、309及び321(Kabat付番)に相当するCH2ドメインのアミノ酸配列に導入されることが特に好ましい。
本発明の一実施形態では、CH2ドメインのKabat位置314のグリコシル化部位が除去される。このグリコシル化部位の除去は、N314X置換によって達成されることが好ましく、ここで、Xは、Qではない任意のアミノ酸である。前記置換は、好ましくは、N314G置換である。より好ましい実施形態では、前記CH2ドメインは、以下の置換をさらに含む(位置は、Kabatに従う)V321C及びR309C(これらの置換は、Kabat位置309及び321でドメイン内システインジスルフィド架橋を導入する)。
例えば、当技術分野で知られる二重特異性ヘテロFc抗体コンストラクト(図1b)と比較した本発明の抗体コンストラクトの好ましい特徴は、とりわけ、CH2ドメインにおける上記の改変の導入に関連し得ると考えられる。したがって、本発明のコンストラクトに関して、本発明の抗体コンストラクトの第3のドメイン内のCH2ドメインがKabat位置309及び321にドメイン内システインジスルフィド架橋を含み、且つ/又はKabat位置314のグリコシル化部位が上記のとおりN314X置換により、好ましくはN314G置換により除去されることが好ましい。
本発明のさらに好ましい実施形態では、本発明の抗体コンストラクトの第3のドメイン内のCH2ドメインは、Kabat位置309及び321にドメイン内システインジスルフィド架橋を含み、且つKabat位314のグリコシル化部位がN314G置換によって除去される。最も好ましくは、本発明の抗体コンストラクトの第3のドメインのポリペプチド単量体は、配列番号17及び18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
一実施形態では、本発明は、抗体コンストラクトであって、
(i)第1のドメインは、2つの抗体可変ドメインを含み、且つ第2のドメインは、2つの抗体可変ドメインを含むか;
(ii)第1のドメインは、1つの抗体可変ドメインを含み、且つ第2のドメインは、2つの抗体可変ドメインを含むか;
(iii)第1のドメインは、2つの抗体可変ドメインを含み、且つ第2のドメインは、1つの抗体可変ドメインを含むか;又は
(iv)第1のドメインは、1つの抗体可変ドメインを含み、且つ第2のドメインは、1つの抗体可変ドメインを含む、抗体コンストラクトを提供する。
したがって、第1及び第2のドメインは、VH及びVLドメインなどの各々2つの抗体可変ドメインを含む結合ドメインであり得る。本明細書で上記される2つの抗体可変ドメインを含むこのような結合ドメインの例は、例えば、本明細書で上記されるFvフラグメント、scFvフラグメント又はFabフラグメントを含む。代わりに、それらの結合ドメインのいずれか一方又は両方は、単一の可変ドメインのみを含み得る。本明細書で上記されるこのような単一ドメイン結合ドメインの例は、例えば、他のV領域又はドメインに非依存的に抗原又はエピトープに特異的に結合するVHH、VH又はVLであり得る1つのみの可変ドメインを含むナノボディ又は単一可変ドメイン抗体を含む。
本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態では、第1及び第2のドメインは、ペプチドリンカーを介して第3のドメインに融合される。好ましいペプチドリンカーは、本明細書で上記されており、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser(配列番号1)又はそのポリマー、すなわち(Gly4Ser)xによって特徴付けられ、ここで、xは、1又はそれより大きい整数(例えば、2又は3)である。第3のドメインに対する第1及び第2のドメインの融合において特に好ましいリンカーは、配列番号1に示される。
好ましい実施形態では、本発明の抗体コンストラクトは、アミノからカルボキシルの順に、
(a)第1のドメイン;
(b)配列番号1~3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(c)第2のドメイン;
(d)配列番号1、2、3、9、10、11及び12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)第3のドメインの第1のポリペプチド単量体;
(f)配列番号5、6、7及び8からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;及び
(g)第3のドメインの第2のポリペプチド単量体
を含むことで特徴付けられる。
本発明の一態様では、第1のドメインによって結合される標的細胞の表面抗原は、腫瘍抗原、免疫障害に特異的な抗原又はウイルス抗原である。本明細書で使用する場合、用語「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞上に提示されるそれらの抗原として理解され得る。これらの抗原は、細胞外部分とともに細胞表面上に提示され得、多くの場合、分子の膜貫通部分及び細胞質部分を併せ持つ。これらの抗原は、場合により腫瘍細胞によってのみ提示され得、正常細胞によって決して提示され得ない。腫瘍抗原は、腫瘍細胞上に限って発現され得るか、又は正常細胞と比較して腫瘍特異的変異を示す可能性がある。この場合、それらは、腫瘍特異抗原と呼ばれる。より一般的な抗原は、腫瘍細胞及び正常細胞によって提示される抗原であり、それらは、腫瘍関連抗原と呼ばれる。これらの腫瘍関連抗原は、正常細胞と比較して過剰発現され得るか、又は正常細胞と比較して腫瘍組織のコンパクトさに欠ける構造に起因して腫瘍細胞において抗体結合のために利用できる。本明細書で使用される腫瘍抗原の非限定的な例は、CDH19、MSLN、DLL3、FLT3、EGFRvIII、CD33、CD19、CD20及びCD70である。
本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態では、腫瘍抗原は、CDH19、MSLN、DLL3、FLT3、EGFRvIII、CD33、CD19、CD20、CD70、PSMA及びBCMAからなる群から選択される。
本発明の一態様では、抗体コンストラクトは、アミノからカルボキシルの順に、
(a)配列番号52、70、58、76、88、106、124、94、112、130、142,160、178、148、166、184、196、214、232、202、220、238、250、266、282、298、255、271、287、303、322、338、354、370、386、402、418、434、450、466、482、498、514、530、546、327、343、359、375、391、407、423、439、455、471、487、503、519、353、551、592、608、624、640、656、672、688、704、720、736、752、768、784、800、816、832、848、864、880、896、912、928、944、960、976、992、1008、1024、1040、1056、1072、1088、1104、1120、1136、1152、1168、1184、597、613、629、645、661、677、693、709、725、741、757、773、789、805、821、837、853、869、885、901、917、933、949、965、981、997、1013、1029、1045、1061、1077、1093、1109、1125、1141、1157、1173、1189、1277、1289、1301、1313、1325、1337、1349、1361、1373、1385、1397、1409、1421、1433、1445からなる群から選択され、且つ配列番号1460~1518に含まれるBCMAに対して特異的な配列;並びにPSMAに関連する50、56、68、74、86、92、104、110、122、128、140、146、158、164、176、182、194、200、212、218、230、236、248、254、266、272、284、290、302、308(ここで、前述の配列番号50~308の各々は、追加の配列表12における対応する番号を得るために41と等しい値によって引かれる必要がある)及び追加の配列表12においてPSMAに関連する配列番号320、335、350、365、380、395、410、425、440、455及び470から選択されるアミノ酸配列を有する第1のドメイン;
(b)配列番号1~3からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号配列番号23、25、41、43、59、61、77、79、95、97、113、115、131、133、149、151、167、169、185若しくは187又は配列番号15からなる群から選択されるアミノ酸を有する第2のドメイン;
(d)配列番号1、2、3、9、10、11及び12からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)配列番号17~24からなる群から選択されるポリペプチド配列を有する第3のドメインの第1のポリペプチド単量体;
(f)配列番号5、6、7及び8からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;及び
(g)配列番号17~24からなる群から選択されるポリペプチド配列を有する第3のドメインの第2のポリペプチド単量体
を含む。
この好ましい実施形態に一致して、ペプチドリンカーを介して単鎖ポリペプチドに融合される第1及び第2のドメインは、
(a)配列番号53及び59;CD33
(b)配列番号71及び77;EGFRvIII
(c)配列番号89、107、125、95、113及び131;MSLN
(d)配列番号143、161、179、149、167及び185;CDH19
(e)配列番号197、215、233、203、221及び239;DLL3
(f)配列番号251、267、283、299、256、272、288及び304;CD19
(g)配列番号323、339、355、371、387、403、419、435、451、467、483、499、515、531、547、328、344、360、376、392、408、424、440、456、472、488、504、520、536及び552;FLT3
(h)配列番号593、609、625、641、657、673、689、705、721、737、753、769、785、801、817、833、849、865、881、897、913、929、945、961、977、993、1009、1025、1041、1057、1073、1089、1105、1121、1137、1153、1169、1185、598、614、630、646、662、678、694、710、726、742、758、774、790、806、822、838、854、870、886、902、918、934、950、966、982、998、1014、1030、1046、1062、1078、1094、1110、1126、1142、1158、1174及び1190;CD70
(i)配列番号1268;及びCD20
(j)配列番号1278、1290、1302、1314、1326、1338、1350、1362、1374、1386、1398、1410、1422、1434、1446.CD19
(k)配列番号1472、1478、1491、1497、1509、1515に含まれるそれぞれの配列BCMA
(l)配列番号1527、1533、1545、1551、1563、1569、1581、1587、1599、1605、1617、1623、1635、1641、1653、1659、1671、1677、1689、1695、1707、1713、1725、1731、1743、1749、1761、1767、1779、1785、1797、1812、1827、1842、1857、1872、1887、1902、1917、1927、1937、1947、1962 PSMA
からなる群から選択される配列を含む。
一態様では、本発明の抗体コンストラクトは、
(a)配列番号54、55、60及び61;CD33
(b)配列番号72、73、78及び79;EGFRvIII
(c)配列番号90、91、96、97、108、109、114及び115;MSLN
(d)配列番号144、145、150、151、162、163、168、169、180、181、186及び187;CDH19
(e)配列番号198、199、204、205、216、217、222、223、234、235、240及び241;DLL3
(f)配列番号252、306、257、307、268、308、273、309、284、310、289、311、300、312、305及び313;CD19
(g)配列番号324、554、329、555、340、556、345、557、356、558、361、559、372、560、377、561、388、562、393、563、404、564、409、565、420、566、425、567、436、568、441、569、452、570、457、571、468、572、473、573、484、574、489、575、500、576、505、577、516、578、521、579、532、580、537、581、548、582、553及び583;FLT3
(h)配列番号594、610、626、642、658、674、690、706、722、738、754、77、786、802、818、834、850、866、882、898、914、930、946、962、978、994、1010、1026、1042、1058、1074、1090、1106、1122、1138、1154、1170、1186、599、615、631、647、663、679、695、711、727、743、759、775、791、807、823、839、855、871、887、903、919、935、951、967、983、999、1015、1031、1047、1063、1079、1095、1111、1127、1143、1159、1175、1191及び1192~1267;CD70
(i)配列番号43;CD20
(j)配列番号1279、1280、1291、1292、1303、1304、1315、1316、1327、1328、1339、1340、1351、1352、1363、1364、1375、1376、1387、1388、1399,1400、1411、1412、1423、1424、1435、1436、1447、1448.CD19
(k)配列番号1473、1474、1475、1479、1480、1481、1492、1493、1494、1498、1499、1500、1510、1511、1512、1516、1517、1518 BCMA
(l)1528、1529、1530、1534、1535、1536、1546、1547、1548、1552、1553、1554、1564、1565、1566、1570、1571、1572、1582、1583、1584、1588、1589、1590、1600、1601、1602、1606、1607、1608、1618、1619、1620、1624、1625、1626、1636、1637、1638、1642、1643、1644、1654、1655、1656、1660、1661、1662、1672、1673、1674、1678、1679、1680、1690、1691、1692、1696、1697、1698、1708、1709、1710、1714、1715、1716、1726、1727、1728、1732、1733、1734、1744、1745、1746、1750、1751、1752、1762、1763、1764、1768、1769、1770、1774、1775、1776、1786、1787、1788、1798、1799、1800、1801、1802、1803、1813、1814、1815、1816、1817、1818、1828、1829、1830、1831、1832、1833、1843、1844、1845、1846、1847、1848、1858、1859、1860、1861、1862、1863、1873、1874、1875、1876、1877、1878、1888、1889、1890、1891、1892、1893、1903、1904、1905、1906、1907、1908、1918、1919、1920、1921、1922、1923、1933、1934、1935、1936、1937、1938、1948、1949、1950、1951、1952、1953及び1963 PSAM
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有することによって特徴付けられる。
本発明は、本発明の抗体コンストラクトをコードするポリヌクレオチド/核酸分子をさらに提供する。ポリヌクレオチドは、鎖内で共有結合された13個以上のヌクレオチド単量体で構成される生体高分子である。DNA(cDNAなど)及びRNA(mRNAなど)は、異なる生物学的機能を有するポリヌクレオチドの例である。ヌクレオチドは、DNA若しくはRNAのような核酸分子の単量体又はサブユニットとして機能する有機分子である。核酸分子又はポリヌクレオチドは、二本鎖及び一本鎖、線状及び環状であり得る。好ましくは宿主細胞内に含まれるベクター内にそれが含まれることが好ましい。前記宿主細胞は、例えば、本発明のベクター又はポリヌクレオチドを用いた形質転換又はトランスフェクション後、抗体コンストラクトを発現することができる。それを目的として、ポリヌクレオチド又は核酸分子は、制御配列に作動可能に連結される。
遺伝暗号は、遺伝子材料(核酸)内にコードされた情報をタンパク質に翻訳するルールのセットである。生細胞中での生物学的解読は、アミノ酸を運搬し、mRNA中の3つのヌクレオチドを一度に読み取るtRNA分子を使用して、mRNAによって指定された順にアミノ酸を結合するリボソームによって行われる。この暗号は、コドンと呼ばれる三つ組のヌクレオチド配列が、タンパク質の合成時に次に付加されることになるアミノ酸をどのように指定するかを定義する。いくつかの例外はあるが、核酸配列中の3ヌクレオチドのコドンは、1つのアミノ酸を指定する。大部分の遺伝子は、厳密に同じ暗号で暗号化されているため、この特定の暗号を基準遺伝暗号又は標準遺伝暗号と称する場合が多い。遺伝暗号は、所与のコード領域のタンパク質配列を決定するが、他のゲノム領域がこれらのタンパク質が産生される時期及び場所に影響を及ぼし得る。
さらに、本発明は、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子を含むベクターを提供する。ベクターは、(外来)遺伝子材料を細胞内に移すための媒体として使用される核酸分子である。用語「ベクター」は、プラスミド、ウイルス、コスミド及び人工染色体を包含するが、これらに限定されない。一般に、遺伝子操作されたベクターは、複製起点、マルチクローニング部位及び選択マーカーを含む。ベクター自体は、一般に、インサート(導入遺伝子)及びベクターの「骨格」の役割をするより大きい配列を含むヌクレオチド配列、一般にDNA配列である。最近のベクターは、導入遺伝子インサート及び骨格に加えて、プロモーター、遺伝子マーカー、抗生物質耐性、レポーター遺伝子、標的化配列、タンパク質精製タグといった追加の特徴を包含する場合がある。発現ベクター(発現コンストラクト)と呼ばれるベクターは、特に標的細胞における導入遺伝子の発現のためのものであり、一般に制御配列を有する。
用語「制御配列」は、特定の宿主生物における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。原核生物に好適な制御配列は、例えば、プロモーター、任意選択的にオペレーター配列及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係にある場合、「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列若しくは分泌リーダーのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現する場合、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されているか;プロモーター若しくはエンハンサーは、それが配列の転写に影響する場合、コード配列に作動可能に連結されているか;又はリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結」は、連結されているDNA配列が連続していること、及び分泌リーダーの場合には連続し且つ読み取り枠内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによってなされる。このような部位が存在しない場合、従来の慣例に従い、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用する。
「トランスフェクション」は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を意図的に標的細胞に導入する方法である。本用語は、ほとんどの場合、真核細胞における非ウイルス的方法に使用される。形質導入は、核酸分子又はポリヌクレオチドのウイルス媒介性の移入を表すために使用される場合が多い。動物細胞のトランスフェクションは、通常、細胞膜に一過性の細孔、すなわち「穴」を開けて、物質の取り込みを可能にすることを伴う。トランスフェクションは、リン酸カルシウムを用いて、エレクトロポレーションにより、細胞の圧迫により、又は陽イオン性脂質とリポソームを生成する物質とを混合し、細胞膜と融合させ、内部のカーゴを蓄積することにより行うことができる。
用語「形質転換」は、細菌への及び植物細胞を含む非動物真核細胞への核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)の非ウイルス的移入を表すために使用される。したがって、形質転換は、細胞膜を通じたその周辺からの直接的取り込み及びそれに続く外来性遺伝子材料(核酸分子)の組み込みから生じる、細菌又は非動物真核細胞の遺伝的改変である。形質転換は、人為的手段によって生じさせることができる。形質転換を生じさせるには、細胞又は細菌は、飢餓及び細胞密度などの環境条件に対する時限応答として形質転換が起こり得るコンピテントな状態でなければならない。
さらに、本発明は、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子又はベクターで形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。本明細書で使用する場合、用語「宿主細胞」又は「レシピエント細胞」は、本発明の抗体コンストラクトをコードするベクター、外来性核酸分子及びポリヌクレオチドのレシピエント;並びに/又はその抗体コンストラクト自体のレシピエントであり得るか、又はそうであった任意の個々の細胞又は細胞培養物を含むことが意図される。細胞へのそれぞれの物質の導入は、形質転換、トランスフェクションなどによって実施される。用語「宿主細胞」は、単一細胞の子孫又は潜在的子孫を含むことも意図する。後継世代において、自然発生的、偶発的若しくは意図的な変異のいずれかに起因して、又は環境的影響に起因して一定の改変が生じる場合があるため、そのような子孫は、実際には、(形態学的に又はゲノム若しくは全DNAの組に関して)親細胞と完全に同一でない場合もあるが、なおも本明細書で使用される本用語の範囲内に含まれる。好適な宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞を含み、また細菌、酵母細胞、真菌細胞、植物細胞及び動物細胞、例えば昆虫細胞及び哺乳動物細胞、例えばマウス、ラット、マカク又はヒトを含むが、これらに限定されない。
本発明の抗体コンストラクトは、細菌内で産生することができる。発現後、本発明の抗体コンストラクトを可溶性画分中の大腸菌(E.coli)細胞ペーストから単離し、例えば親和性クロマトグラフィー及び/又はサイズ排除によって精製することができる。最終精製は、例えば、CHO細胞において発現された抗体の精製方法と同様に実施することができる。
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物が本発明の抗体コンストラクトのための好適なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、すなわち一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、多くの他の属、種及び系統が一般に利用可能であり、且つ本発明において有用であり、例えばシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、K.ラクチス(K.lactis)、K.フラジリス(K.fragilis)(ATCC 12424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC 16045)、K.ウィッカラミイ(K.wickeramii)(ATCC 24178)、K.ワルチイ(K.waltii)(ATCC 56500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)及びK.マルキサヌス(K.marxianus)などのクリベロマイセス属(Kluyveromyces)宿主;ヤロウイア属(yarrowia)(欧州特許第402226号明細書);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(欧州特許第183070号明細書);カンジダ属(Candida);トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244234号明細書);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)などのシュワニオミセス属(Schwanniomyces);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)及びアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)が挙げられる。
本発明のグリコシル化抗体コンストラクトの発現のための好適な宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多くのバキュロウイルス株及びバリアント並びにヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)及びカイコ(Bombyx mori)などの宿主由来の対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株、例えばオートグラファカリフォルニア(Autographa californica)NPVのL-1バリアント及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株が公的に入手可能であり、そのようなウイルスを、本発明による本明細書のウイルスとして、特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用し得る。
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、シロイヌナズナ及びタバコの植物細胞培養物も宿主として使用することができる。植物細胞培養物におけるタンパク質の産生に有用なクローニング及び発現ベクターは、当業者に知られている。例えば、Hiatt et al.,Nature(1989)342:76-78、Owen et al.(1992)Bio/Technology 10:790-794、Artsaenko et al.(1995)The Plant J 8:745-750及びFecker et al.(1996)Plant Mol Biol 32:979-986を参照されたい。
しかしながら、脊椎動物細胞に対する関心が最も高く、培養(組織培養)下での脊椎動物細胞の増殖は、通例の手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓株(293細胞又は懸濁培養物中で増殖のためにサブクローニングした293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977));仔ハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980));サル腎臓細胞(CVI ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL 1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、1413 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL5 1);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.(1982)383:44-68);MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒトヘパトーマ株(Hep G2)である。
さらなる実施形態では、本発明は、本発明の抗体コンストラクトの作製方法であって、本発明の抗体コンストラクトの発現を可能にする条件下で本発明の宿主細胞を培養することと、産生された抗体コンストラクトを培養物から回収することとを含む方法を提供する。
本明細書で使用する場合、用語「培養」は、培地中の好適な条件下におけるインビトロでの細胞の維持、分化、成長、増殖及び/又は伝播を指す。用語「発現」は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾及び分泌を含むが、これらに限定されない、本発明の抗体コンストラクトの作製に関与するいずれの工程も含む。
組換え技術を使用する場合、抗体コンストラクトは、細胞膜周辺腔において細胞内で産生され得るか、又は培地中に直接分泌され得る。抗体コンストラクトが細胞内で産生される場合、第1段階として、例えば遠心分離又は限外濾過により、宿主細胞又は溶解したフラグメントの粒子状の細片を除去する。Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992)は、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離する手順を記載している。簡潔には、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間かけて解凍する。細胞片は、遠心分離により除去することができる。抗体が培地に分泌される場合、一般にそのような発現系からの上清を、最初に市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して濃縮する。タンパク質分解を阻害するために、前述の段階のいずれかにおいてPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤が含まれ得、また外来性の汚染菌の増殖を防止するために抗生物質が含まれ得る。
宿主細胞から調製された本発明の抗体コンストラクトは、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及び親和性クロマトグラフィーを用いて回収又は精製することができる。回収される抗体に応じて、他のタンパク質精製技術、例えばイオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)上でのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE及び硫酸アンモニウム沈殿法も利用可能である。本発明の抗体コンストラクトがCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、NJ)が精製に有用である。
親和性クロマトグラフィーは、好ましい精製技術である。親和性リガンドを結合するマトリックスは、最も多くの場合にはアガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。機械的に安定なマトリックス、例えばコントロールドポアガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースを用いて達成できるものよりも速い流速及び短い処理時間を可能にする。
さらに、本発明は、本発明の抗体コンストラクト又は本発明の方法に従って作製された抗体コンストラクトを含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物において、抗体コンストラクトの均質性は、≧80%であることが好ましく、より好ましくは≧81%、≧82%、≧83%、≧84%又は≧85%、さらに好ましくは≧86%、≧87%、≧88%、≧89%又は≧90%、なおさらに好ましくは≧91%、≧92%、≧93%、≧94%又は≧95%及び最も好ましくは≧96%、≧97%、≧98%又は≧99%である。
本明細書で使用する場合、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者への投与に好適な組成物に関する。本発明の特に好ましい医薬組成物は、1つ又は複数の本発明の抗体コンストラクトを好ましくは治療有効量で含む。好ましくは、医薬組成物は、1つ以上の(薬学的に有効な)担体、安定剤、賦形剤、希釈剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、保存剤及び/又はアジュバントの好適な製剤をさらに含む。許容される組成物の成分は、採用される投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であることが好ましい。本発明の医薬組成物は、液体、凍結及び凍結乾燥組成物を含むが、これらに限定されない。
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る。一般に、本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与、特に非経口投与に適合するあらゆる水性及び非水性溶液、滅菌溶液、溶媒、緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液、水、懸濁液、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、様々な種類の湿潤剤、リポソーム、分散媒体及びコーティングを意味する。医薬組成物におけるそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野でよく知られており、そのような担体を含む組成物は、よく知られる従来法によって製剤化することができる。
特定の実施形態は、本発明の抗体コンストラクト及びさらに1つ以上の賦形剤、例えば本節及び本明細書の他の箇所に例示的に記載されているものを含む医薬組成物を提供する。賦形剤は、粘度の調整などの製剤の物理的、化学的又は生物学的特性の調整及び/又は有効性を向上させ、且つ/若しくはこのような製剤を安定化するための本発明の方法並びに例えば製造、輸送、保管、使用前の調製、投与中及びこれらの後に生じるストレスに起因する劣化及び損傷に対する方法など、広範囲の目的を考慮して本発明で使用することができる。
ある種の実施形態では、医薬組成物は、例えば、組成物のpH、モル浸透圧濃度、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解若しくは放出速度、吸着又は浸透を変更、持続又は保護することを目的とする製剤材料を含有し得る(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18” Edition,(A.R.Genrmo,ed.),1990,Mack Publishing Companyを参照されたい)。このような実施形態では、好適な製剤材料は、以下を含み得るが、これらに限定されない:
・荷電アミノ酸、好ましくはリジン、酢酸リジン、アルギニン、グルタミン酸塩及び/又はヒスチジンを含むアミノ酸、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、スレオニン、プロリン、2-フェニルアラニン
・抗菌剤及び抗真菌剤などの抗菌薬
・アスコルビン酸、メチオニン、亜硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;
・約4.0~6.5、好ましくは4.2~4.8の酸性pHに組成物を維持するために使用される緩衝液、緩衝系及び緩衝化剤;緩衝液の例は、ホウ酸塩、クエン酸塩、リン酸塩又は他の有機酸、コハク酸塩、リン酸塩、ヒスチジン及び酢酸塩;例えば又は約pH4.0~5.5の酢酸緩衝液;
・非水性溶媒、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル;
・生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、エマルジョン又は懸濁液を含む水性担体;
・ポリエステルなどの生分解性ポリマー;
・マンニトール又はグリシンなどの充填剤;
・エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;
・等張剤及び吸収遅延剤;
・錯化剤、例えばカフェイン、ポリビニルピロリドン、β-シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)
・注入剤;
・単糖類;二糖類;及び他の糖質(グルコース、マンノース又はデキストリンなど);糖質は非還元糖、好ましくはトレハロース、スクロース、オクタスルファート、ソルビトール又はキシリトールであり得る;
・(低分子量)タンパク質、ポリペプチド又はタンパク質性担体、例えばヒト若しくはウシ血清アルブミン、ゼラチン又は好ましくはヒト起源の免疫グロブリン;
・着色及び着香剤;
・硫黄含有還元剤、例えばグルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、[α]-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム
・希釈剤;
・乳化剤;
・ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー)
・ナトリウムなどの塩形成対イオン;
・抗菌薬、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどの保存剤;例は、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素である);
・Zn-タンパク質錯体などの金属錯体;
・溶媒及び共溶媒(グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなど);
・糖及び糖アルコール、例えばトレハロース、スクロース、オクタスルファート、マンニトール、ソルビトール又はキシリトール、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、ミオイニシトース(myoinisitose)、ガラクトース、ラクチトール、リビトール、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール;及び多価糖アルコール;
・懸濁化剤;
・界面活性剤又は湿潤剤、例えばプルロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えばポリソルベート20、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサポール(tyloxapal);界面活性剤は、好ましくは、>1.2KDの分子量を有する洗剤及び/又は好ましくは>3KDの分子量を有するポリエーテルであり得;好ましい洗剤の非限定的な例は、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80及びTween 85であり;好ましいポリエーテルの非限定的な例は、PEG 3000、PEG 3350、PEG 4000及びPEG 5000である;
・スクロース又はソルビトールなどの安定性増強剤;
・等張性増強剤、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウム、マンニトール、ソルビトール;
・塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液又は固定油を含む非経口送達ビヒクル;
・体液及び栄養補充液、電解質補充液(リンゲルデキストロースをベースにしたものなど)を含む静脈内送達ビヒクル。
医薬組成物の異なる成分(例えば、上記に列挙したもの)が異なる効果を有し得ることは、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸は、緩衝液、安定化剤及び/又は抗酸化剤として作用することができ;マンニトールは、充填剤及び/又は等張性増強剤として作用することができ;塩化ナトリウムは、送達ビヒクル及び/又は等張性増強剤として作用することができるなどである。
本発明の組成物は、本明細書で定義される本発明のポリペプチドに加えて、組成物の使用目的に応じてさらなる生物学的に活性な薬剤を含む場合があることが想定される。このような薬剤は、当技術分野で知られる胃腸系に対して作用する薬物、細胞増殖抑制剤として作用する薬物、高尿酸血症(hyperurikemia)を防ぐ薬物、免疫反応を阻害する薬物(例えば、コルチコステロイド)、炎症反応を調節する薬物、循環系に対して作用する薬物及び/又はサイトカインなどの薬剤であり得る。また、本発明の抗体コンストラクトは、併用療法で、すなわち別の抗癌薬と併用して適用されることも想定される。
ある種の実施形態では、最適な医薬組成物は、例えば、意図される投与経路、送達形式及び所望の投与量に応じて当業者により決定されることになる。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(前掲)を参照されたい。ある種の実施形態では、このような組成物は、本発明の抗体コンストラクトの物理的状態、安定性、インビボ放出速度及びインビトロクリアランス速度に影響し得る。ある種の実施形態では、医薬組成物中の主なビヒクル又は担体は、本質的に水性又は非水性であり得る。例えば、好適なビヒクル又は担体は、注射用水、生理食塩水溶液又は人工脳脊髄液であり得、場合により非経口投与用組成物で一般的な他の材料が補充される。中性緩衝生理食塩水又は血清アルブミンを混合した生理食塩水も例示的なビヒクルである。ある種の実施形態では、本発明の組成物の抗体コンストラクトは、凍結乾燥ケーク又は水性溶液の形態において、所望の度合いの純度を有する選択された組成物を任意選択的に配合剤(前掲のREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES)と混合することによって保管のために調製され得る。さらに、ある種の実施形態では、本発明の抗体コンストラクトは、スクロースなどの適切な賦形剤を用いて凍結乾燥物として製剤化され得る。
非経口投与が企図される場合、本発明における使用のための治療用組成物は、薬学的に許容されるビヒクル中に本発明の所望の抗体コンストラクトを含む、パイロジェンフリーの非経口的に許容される水溶液の形態で提供され得る。非経口注射に特に好適なビヒクルは、滅菌蒸留水であり、本発明の抗体コンストラクトは、その中で適切に保存された滅菌等張溶液として製剤化される。ある種の実施形態では、製剤は、デポ注射を介して送達できる産物の制御放出又は持続放出を提供し得る薬剤、例えば注射可能なミクロスフェア、生体内分解性粒子、ポリマー性化合物(ポリ乳酸若しくはポリグリコール酸など)、ビーズ又はリポソームと、所望の分子との製剤を含み得る。ある種の実施形態では、血中での持続時間を向上させる効果を有するヒアルロン酸も使用される場合がある。ある種の実施形態では、移植可能な薬物送達デバイスを使用して、所望の抗体コンストラクトを導入し得る。
さらなる医薬組成物が当業者に明らかであり、これには、持続性又は制御性の送達/放出製剤中に本発明の抗体コンストラクトを含む製剤が含まれる。様々な他の持続性又は制御性の送達手段、例えばリポソーム担体、生体内分解性マイクロ粒子又は多孔ビーズ及びデポ注射を製剤化する技術も当業者に知られている。例えば、医薬組成物の送達のための多孔性ポリマーマイクロ粒子の制御放出について記載する国際特許出願第PCT/米国特許出願公開第93/00829号明細書を参照されたい。持続放出性製剤は、成形物品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態の半透過性ポリマーマトリックスを含み得る。持続放出性マトリックスは、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書、欧州特許出願公開第058481号明細書に開示される)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidman et al.,1983,Biopolymers 2:547-556)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)(Langer et al.,1981,J.Biomed.Mater.Res.15:167-277及びLanger,1982,Chem.Tech.12:98-105)、エチレン酢酸ビニル(Langer et al.,1981、前掲)又はポリ-D(-)-3-ヒドロキシ酪酸(欧州特許出願公開第133,988号明細書)を含み得る。持続放出性組成物は、当技術分野で知られるいくつかの方法のいずれかによって作製可能なリポソームも含み得る。例えば、Eppstein et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.82:3688-3692;欧州特許出願公開第036,676号明細書;同第088,046号明細書及び同第143,949号明細書を参照されたい。
抗体コンストラクトはまた、例えば、コアセルベーション技術によって又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル)、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンに封入され得る。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Oslo,A.Ed.(1980)に開示されている。
インビボ投与に用いられる医薬組成物は、通常、滅菌製剤として提供される。滅菌は、滅菌濾過膜を通した濾過によって行うことができる。組成物を凍結乾燥する場合、この方法を使用した滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前後のいずれに実施され得る。非経口投与用組成物は、凍結乾燥形態で又は溶液中に保存することができる。非経口組成物は、一般に、滅菌したアクセスポートを有するコンテナ、例えば皮下注射針によって穿孔可能な栓を有する静注液バッグ又はバイアル中に入れられる。
本発明の別の態様は、国際特許出願国際公開第06138181A2号パンフレット(PCT/米国特許出願公開第2006/022599号明細書)に記載される、医薬組成物として使用することができる本発明の製剤の自己緩衝性抗体コンストラクトを含む。タンパク質の安定化並びにこれに関して有用な製剤材料及び方法に対して様々な説明が利用可能であり、例えばArakawa et al.,「Solvent interactions in pharmaceutical formulations」,Pharm Res.8(3):285-91(1991);Kendrick et al.,「Physical stabilization of proteins in aqueous solution」 in:RATIONAL DESIGN OF STABLE PROTEIN FORMULATIONS:THEORY AND PRACTICE,Carpenter and Manning,eds.Pharmaceutical Biotechnology.13:61-84(2002)及びRandolph et al.,「Surfactant-protein interactions」,Pharm Biotechnol.13:159-75(2002)、特に獣医学的及び/又はヒト医療用途のタンパク質医薬品及びプロセスに関して、特に本発明による自己緩衝性タンパク質製剤と同じ賦形剤及びプロセスに関する部分を参照されたい。
塩は、本発明のある種の実施形態に従って、例えば製剤のイオン強度及び/若しくは等張性を調整するため、且つ/又は本発明による組成物のタンパク質若しくは他の成分の溶解度及び/若しくは物理的安定性を向上させるために使用され得る。よく知られているとおり、イオンは、タンパク質の表面上の荷電残基に結合することにより、且つタンパク質中の荷電基及び極性基を遮蔽し、その静電気相互作用、引力及び反発相互作用の強度を低減することにより、天然状態のタンパク質を安定化することができる。イオンは、特にタンパク質の変性ペプチド結合(--CONH)に結合することによって変性状態のタンパク質を安定化することもできる。さらに、タンパク質中の荷電基及び極性基とのイオン相互作用は、分子間静電相互作用を低減し、それによりタンパク質の凝集及び不溶化を防止又は低減することもできる。
イオン種によってタンパク質に及ぼすそれらの効果は、著しく異なる。イオン及びタンパク質に対するその効果の分類上の順位付けがいくつか立案されており、これを本発明による医薬組成物の製剤化に使用することができる。一例は、イオン性溶質及び極性非イオン性溶質を溶液中のタンパク質の立体構造安定性に対する効果によって順位付けするホフマイスター系列である。安定化する溶質は、「コスモトロピック」と称される。不安定化する溶質は、「カオトロピック」と称される。コスモトロープは、一般に、溶液からタンパク質を沈殿(「塩析」)させるために高濃度(例えば、>1モル硫酸アンモニウム)で使用される。カオトロープは、一般に、タンパク質を変性及び/又は可溶化(「塩溶」)させるために使用される。「塩溶」及び「塩析」に対するイオンの相対的な効果により、ホフマイスター系列でのイオンの位置が定義される。
遊離アミノ酸は、充填剤、安定化剤及び抗酸化剤として、並びに他の標準的用途として、本発明の様々な実施形態による本発明の製剤の抗体コンストラクトに使用することができる。リジン、プロリン、セリン及びアラニンは、製剤中のタンパク質を安定化するために使用することができる。グリシンは、凍結乾燥において適切なケークの構造及び特性を確保するのに有用である。アルギニンは、液体及び凍結乾燥のいずれの製剤でもタンパク質の凝集を阻害するのに有用であり得る。メチオニンは、抗酸化剤として有用である。
ポリオールは、糖、例えばマンニトール、スクロース及びソルビトール並びに多価アルコール、例えばグリセロール及びプロピレングリコール並びに本明細書での議論を目的としてポリエチレングリコール(PEG)及び関連物質を含む。ポリオールは、コスモトロピックである。それらは、液体及び凍結乾燥のいずれの製剤でもタンパク質を物理的及び化学的劣化過程から保護するのに有用な安定化剤である。ポリオールは、製剤の等張性を調整するのにも有用である。ポリオールの中で本発明の選択された実施形態において有用なのは、マンニトールであり、これは、凍結乾燥製剤においてケークの構造安定性を確保するために一般に使用される。マンニトールはケ、ークの構造安定性を確保する。一般に、これは、凍結乾燥保護剤、例えばスクロースとともに使用される。ソルビトール及びスクロースは、等張性を調整するための薬剤及び輸送中又は製造工程でのバルク調製時の凍結解凍ストレスから保護するための安定化剤として好ましいものの中に含まれる。還元糖(遊離アルデヒド基又はケトン基を含有する)、例えばグルコース及びラクトースは、表面のリジン及びアルギニン残基を糖化することができる。したがって、それらは、一般に、本発明による使用のための好ましいポリオールの中に含まれない。加えて、そのような反応種を形成する糖、例えばスクロースも、酸性条件下でフルクトース及びグルコースに加水分解され、その結果糖化を生じさせる点で本発明の好ましいポリオールの中に含まれない。PEGは、タンパク質を安定化すること及び凍結保護物質として有用であり、この点に関して本発明に使用することができる。
本発明の製剤の抗体コンストラクトの実施形態は、界面活性剤をさらに含む。タンパク質分子は、表面への吸着並びに気体-液体界面、固体-液体界面及び液体-液体界面での変性及びその結果としての凝集を引き起こしやすいことがある。これらの効果は、一般にタンパク質濃度に反比例する。これらの有害な相互作用は、一般に、タンパク質濃度と反比例し、通常、例えば製品の輸送及び取り扱い時に生じる物理的撹拌によって悪化する。界面活性剤は、慣例的に、表面吸着を防止するか、最小化するか、又は低減するために使用される。この点に関して本発明において有用な界面活性剤としては、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ソルビタンポリエトキシレートの他の脂肪酸エステル及びポロキサマー188が挙げられる。界面活性剤は、タンパク質の立体構造安定性を制御するためにも一般に使用される。任意の所与の界面活性剤は、通常、一部のタンパク質を安定化し、他を不安定化するため、この点において、界面活性剤の使用は、タンパク質特異的である。
ポリソルベートは、酸化劣化を起こしやすく、多くの場合、供給されるとき、タンパク質残基の側鎖、特にメチオニンの酸化を引き起こすほど十分な過酸化物量を含有している。したがって、ポリソルベートは、注意して使用すべきであり、使用時には最小影響濃度で用いなければならない。この点で、ポリソルベートは、賦形剤を最小影響濃度で用いるべきとする一般通則を例示している。
本発明の製剤の抗体コンストラクトの実施形態は、1種以上の抗酸化剤をさらに含む。適切なレベルの周囲酸素及び周囲温度を維持することにより、且つ光への暴露を回避することにより、医薬製剤中でのタンパク質の有害な酸化をある程度まで防止することができる。抗酸化賦形剤を、タンパク質の酸化劣化を防止するためにも同様に使用することができる。この点で特に有用な抗酸化剤には、還元剤、酸素/フリーラジカル捕捉剤及びキレート剤が含まれる。本発明による治療用タンパク質製剤に使用するための抗酸化剤は、好ましくは、水溶性であり、製品の有効期間にわたって活性を維持する。この点で、EDTAが本発明による好ましい抗酸化剤である。抗酸化剤は、タンパク質を損傷することがある。例えば、還元剤、例えばグルタチオンは、特に分子内ジスルフィド結合を破壊し得る。したがって、本発明に使用するための抗酸化剤は、とりわけ、それ自体が製剤中のタンパク質に損傷を与える可能性を排除するか又はその可能性を十分に低減するように選択される。
本発明による製剤は、タンパク質の補因子であり、タンパク質配位化合物を形成するのに必要とされる金属イオン、例えば特定のインスリン懸濁液を形成するのに必要とされる亜鉛を含み得る。金属イオンは、タンパク質を分解するいくつかの過程も阻害することができる。しかしながら、金属イオンは、タンパク質を分解する物理的及び化学的過程も触媒する。マグネシウムイオン(10~120mM)は、アスパラギン酸からイソアスパラギン酸への異性化を阻害するために使用され得る。Ca+2イオン(最大100mM)は、ヒトデオキシリボヌクレアーゼの安定性を増大させ得る。しかしながら、Mg+2、Mn+2及びZn+2は、rhDNaseを不安定化し得る。同様に、Ca+2及びSr+2は、第VIII因子を安定化することができ、これは、Mg+2、Mn+2及びZn+2、Cu+2及びFe+2によって不安定化されることがあり、その凝集は、Al+3イオンによって増大し得る。
本発明の製剤の抗体コンストラクトの実施形態は、1種以上の保存剤をさらに含む。保存剤は、同じコンテナからの2回以上の取り出しを伴う複数回用量の非経口製剤を開発する際に必要となる。その主たる機能は、製剤の有効期間又は使用期間にわたって微生物の増殖を阻害し、且つ製品の無菌性を確保することである。一般に使用される保存剤としては、ベンジルアルコール、フェノール及びm-クレゾールが挙げられる。保存剤は低分子の非経口薬との使用において長い歴史を有するが、保存剤を含むタンパク質製剤の開発は、困難であり得る。保存剤は、ほぼ常に、タンパク質に対して不安定化効果(凝集)を有しており、これが複数回用量のタンパク質製剤における使用を制限する主要な要因となっている。現在に至るまで、ほとんどのタンパク質薬は、単回使用用としてのみ製剤化されている。しかしながら、複数回用量製剤が可能である場合、患者の利便性及び高い市場性を実現するという利点が加わる。保存処理された製剤の開発により、より便利な複数回使用の注射ペンの提案が製品化に至ったヒト成長ホルモン(hGH)は、その良い例である。hGHの保存処理された製剤を含有するそのようなペンデバイスは、少なくとも4つが現在市場で入手可能である。Norditropin(液体、Novo Nordisk)、Nutropin AQ(液体、Genentech)及びGenotropin(凍結乾燥-デュアルチャンバーカートリッジ、Pharmacia&Upjohn)は、フェノールを含有する一方、Somatrope(Eli Lilly)は、m-クレゾールにより製剤化されている。保存処理された剤形の製剤化及び開発中、いくつかの態様を考慮する必要がある。製剤中の効果的な保存剤濃度を最適化しなければならない。これには、剤形中の所与の保存剤を、タンパク質の安定性を損なうことなく抗微生物効果を付与する濃度範囲で試験することが必要となる。
予想されるとおり、保存剤を含有する液体製剤の開発は、凍結乾燥製剤よりも困難である。凍結乾燥製品は、保存剤なしで凍結乾燥され、使用時に保存剤を含有する希釈剤で再構成することができる。これにより保存剤がタンパク質と接触する時間が短縮され、付随する安定性のリスクが大幅に最小化される。液体製剤の場合、保存剤の有効性及び安定性は、製品有効期間全体(約18~24か月)にわたって維持されるべきである。注意すべき重要な点として、保存剤の有効性は、活性薬物及び全ての賦形剤成分を含有する最終製剤において実証される必要がある。
本明細書で開示される抗体コンストラクトは、免疫リポソームとしても製剤化され得る。「リポソーム」は、哺乳動物への薬物送達に有用である様々な種類の脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤から構成される小さい小胞である。リポソームの成分は、一般に、生体膜の脂質の配置と同様に二層構造で配置される。抗体コンストラクトを含有するリポソームは、例えば、Epstein et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985);Hwang et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,77:4030(1980);米国特許第4,485,045号明細書及び同第4,544,545号明細書;並びに国際公開第97/38731号パンフレットに記載される、当技術分野で知られる方法によって調製される。循環時間が長くなったリポソームは、米国特許第5,013,556号明細書に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いて逆相蒸発法によって作製することができる。所望の直径を有するリポソームを得るために、リポソームを、所定の孔径のフィルターを通して押し出す。本発明の抗体コンストラクトのFab’フラグメントは、ジスルフィド交換反応により、Martin et al.J.Biol.Chem.257:286-288(1982)に記載されるとおりに、リポソームにコンジュゲートすることができる。任意選択的に、化学療法剤がリポソーム内に含有される。Gabizon et al.J.National Cancer Inst.81(19)1484(1989)を参照されたい。
医薬組成物を製剤化した後、それを溶液、懸濁液、ゲル、エマルジョン、固体、結晶として又は脱水粉末若しくは凍結乾燥粉末として滅菌バイアル中に保存し得る。このような製剤は、使用準備済の形態又は投与前に再構成される(例えば、凍結乾燥)形態のいずれかで保存され得る。
本明細書で定義される医薬組成物の生物活性は、例えば、以下の実施例、国際公開第99/54440号パンフレット又はSchlereth et al.(Cancer Immunol.Immunother.20(2005),1-12)によって記載されるとおりの細胞傷害性アッセイによって決定することができる。本明細書で使用する場合、「有効性」又は「インビボ有効性」は、例えば、標準化されたNCIの反応基準を用いた、本発明の医薬組成物による療法に対する反応を指す。本発明の医薬組成物を用いる療法の成功又はインビボ有効性は、その意図された目的、すなわち組成物がその所望の効果、すなわち病的細胞、例えば腫瘍細胞の激減を引き起こす能力に関する組成物の有効性を指す。インビボ有効性は、白血球の計数、差異、蛍光活性化細胞選別、骨髄穿刺を含むが、これらに限定されない、それぞれの疾患実体についての確立された標準的方法によって観測され得る。加えて、様々な疾患特異的臨床化学パラメータ及び他の確立された標準的方法が使用され得る。さらに、コンピュータ断層撮影法、X線、核磁気共鳴断層撮影法(例えば、National Cancer Instituteの基準に基づく反応評価[Cheson BD,Horning SJ,Coiffier B,Shipp MA,Fisher RI,Connors JM,Lister TA,Vose J,Grillo-Lopez A,Hagenbeek A,Cabanillas F,Klippensten D,Hiddemann W,Castellino R,Harris NL,Armitage JO,Carter W,Hoppe R,Canellos GP.Report of an international workshop to standardize response criteria for non-Hodgkins lymphomas.NCI Sponsored International Working Group.J Clin Oncol.1999 Apr;17(4):1244])、ポジトロン放出断層走査、白血球の計数、差異、蛍光活性化細胞選別、骨髄穿刺、リンパ節生検/組織学及び様々なリンパ腫に特異的な臨床化学パラメータ(例えば、乳酸デヒドロゲナーゼ)並びに他の確立された標準的方法が使用され得る。
本発明の医薬組成物などの薬物の開発におけるもう1つの主な課題は、薬物動態特性の予測可能な調節である。この目的のために、候補薬物の薬物動態プロファイル、すなわち特定の薬物が所与の病態を治療する能力に影響する薬物動態パラメータのプロファイルが確立され得る。薬物が特定の疾患実体を治療する能力に影響する薬物の薬物動態パラメータとしては、半減期、分布容積、肝臓の初回通過代謝及び血清結合の程度が挙げられるが、これらに限定されない。所与の薬物の有効性は、上記のパラメータの各々によって影響を受ける可能性がある。
「半減期」は、投与された薬物の50%が生物学的過程、例えば代謝、排泄などを通じて排出される時間を意味する。「肝臓の初回通過代謝」は、肝臓との初回接触時、すなわち肝臓を最初に通過する間に代謝される薬物の傾向を意味する。「分布容積」は、例えば、細胞内及び細胞外空間、組織及び臓器などのような、身体の様々な区画にわたる薬物の保持度並びにこれらの区画内での薬物の分布を意味する。「血清結合の程度」は、薬物がアルブミンなどの血清タンパク質と相互作用して結合し、薬物の生物活性の低減又は消失をもたらす傾向を意味する。
薬物動態パラメータは、投与される所与量の薬物についてのバイオアベイラビリティ、ラグタイム(Tlag)、Tmax、吸収速度、より多くの作用発現及び/又はCmaxも含む。「バイオアベイラビリティ」は、血液コンパートメント中の薬物の量を意味する。「ラグタイム」は、薬物の投与から、血液又は血漿中での薬物の検出及び測定が可能になるまでの遅延時間を意味する。「Tmax」は、その後に薬物の最高血中濃度に到達する時間であり、「Cmax」は、所与の薬物によって得られる最高血中濃度である。薬物が生物学的効果に必要とされる血中濃度又は組織濃度に達するまでの時間は、全てのパラメータに影響される。先に概説したチンパンジーではない霊長類における前臨床動物試験において決定され得る種間特異性を示す二重特異性抗体コンストラクトの薬物動態パラメータは、例えば、Schlerethら(Cancer Immunol.Immunother.20(2005),1-12)による刊行物にも規定されている。
本発明の好ましい態様では、医薬組成物は、約-20℃で少なくとも4週間安定である。付属の実施例から明らかなように、対応する最先端の抗体コンストラクトの質に対する本発明の抗体コンストラクトの質は、異なる系を使用して試験され得る。それらの試験は、「ICH Harmonised Tripartite Guideline:Stability Testing of Biotechnological/Biological Products Q5C and Specifications:Test procedures and Acceptance Criteria for Biotech Biotechnological/Biological Products Q6B」に準拠するものであることが理解され、それにより、その産物の同一性、純度及び能力の変化の確実な検出をもたらす安定性指標プロファイルを提供するよう選択される。純度という用語は、相対的な用語であることが十分に受け入れられている。グリコシル化、脱アミド又は他の異種性の影響に起因して、生物工学的/生物学的産物の絶対的な純度は、通常、2つ以上の方法によって評価されるべきであり、得られる純度の値は、方法依存的である。安定性試験の目的のために、純度の試験は、分解産物の決定方法に合わせるべきである。
本発明の抗体コンストラクトを含む医薬組成物の質の評価のために、例えば溶液中の可溶性凝集物の含有量(サイズ排除によるHMWS)を分析することによって分析され得る。約-20℃での少なくとも4週間の安定性は、1.5%HMWS未満、好ましくは1%HMWS未満の含有量によって特徴付けられる。
医薬組成物としての抗体コンストラクトのための好ましい製剤は、上記に詳細に説明される。しかしながら、厳密な以下の製剤は、あまり好ましくなく、したがって放棄される場合がある。
・製剤A:
20mMリン酸カリウム、150mM L-アルギニン塩酸塩、6%(w/V)トレハロース二水和物、0.01%(w/V)ポリソルベート80 pH6.0
・製剤B:
10mM グルタミン酸塩、4%(w/V)マンニトール、2%(w/V)スクロース、0.01%(w/V)ポリソルベート80 pH4.0
医薬組成物の形態の本発明の抗体コンストラクトの安定性の評価の他の例は、付属の実施例4~12に提供される。それらの実施例において、本発明の抗体コンストラクトの実施形態は、異なる医薬製剤において異なるストレス条件に関して試験され、その結果が当技術分野で知られる他の半減期延長(HLE)形式の二重特異性T細胞エンゲージ抗体コンストラクトと比較される。一般に、本発明による特定のFc様式で提供される抗体コンストラクトは、通常、異なるHLE形式とともに提供される抗体コンストラクト及びいかなるHLE形式も有しない抗体コンストラクト(例えば、「カノニカル」な抗体コンストラクト)の両方と比較して、温度及び光ストレスなどの広範囲のストレス条件に対してより安定であることが想定される。前述の温度安定性は、低温(凍結温度を含む室温未満)及び高温(体温までの又は体温を超える温度を含む室温超)の両方に関連し得る。当業者が認めるとおり、診療において避けるのが困難なストレスに対するそのような安定性の向上により、診療において分解産物がより少なくなるため、抗体コンストラクトがより安全になる。結果として、前述の安定性の向上は、安全性の向上を意味する。
一実施形態は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患又は免疫障害の予防、治療又は改善に使用するための本発明の抗体コンストラクト又は本発明の方法に従って作製される抗体コンストラクトを提供する。
本明細書に記載される製剤は、それを必要とする患者において、本明細書に記載される病的な医学的状態を治療、改善及び/又は予防する医薬組成物として有用である。用語「治療」は、治療的治療及び予防的又は抑止的手段の両方を指す。治療は、疾患、疾患の症状又は疾患素因を治癒する、治す、軽減する、緩和する、変化させる、矯正する、改善する、好転させる又は影響を与えることを目的とした、疾患/障害、疾患/障害の症状又は疾患/障害の素因を有する患者の身体、単離された組織又は細胞に対する製剤の適用又は投与を含む。
本明細書で使用する場合、用語「改善」は、本発明による抗体コンストラクトのそれを必要とする対象への投与による、本明細書の以下に示す腫瘍又は癌若しくは転移性癌を有する患者の疾患状態のあらゆる好転を指す。そのような好転は、患者の腫瘍又は癌若しくは転移性癌の進行の緩徐化又は停止として見られる場合もある。本明細書で使用する場合、用語「予防」は、本発明による抗体コンストラクトのそれを必要とする対象への投与による、本明細書の以下に示す腫瘍又は癌若しくは転移性癌を有する患者の発症又は再発の回避を意味する。
用語「疾患」は、本明細書に記載される抗体コンストラクト又は医薬組成物を用いた治療から恩恵を被ることになる任意の病態を指す。これは、哺乳動物を対象の疾患に罹患させやすくする病的状況を含む、慢性及び急性の障害又は疾患を含む。
「新生物」は、組織の異常な増殖であり、必ずしもそうとは限らないが、通常、腫瘤を形成する。また、腫瘤を形成する場合、それは、一般に「腫瘍」と呼ばれる。新生物又は腫瘍は、良性、潜在性悪性(前癌性)又は悪性であり得る。悪性新生物は、一般に癌と呼ばれる。それらは、通常、周囲の組織に侵入してそれを破壊し、転移を形成し得、すなわち、それらは、身体の他の部分、組織又は臓器に広がる。したがって、用語「転移性癌」は、原発腫瘍のもの以外の他の組織又は臓器への転移を包含する。リンパ腫及び白血病は、リンパ系新生物である。本発明の目的において、それらは、用語「腫瘍」又は「癌」にも包含される。
用語「ウイルス性疾患」は、対象のウイルス感染の結果である疾患を表す。
本明細書で使用する場合、用語「免疫障害」は、この用語の一般的な定義に沿って自己免疫疾患、過敏症、免疫不全などの免疫障害を表す。
一実施形態では、本発明は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患又は免疫障害の治療又は改善のための方法であって、それを必要とする対象に本発明の抗体コンストラクト又は本発明の方法に従って作製される抗体コンストラクトを投与する工程を含む方法を提供する。
用語「必要とする対象」又は「治療を必要とする」対象は、すでにその障害を有する対象及びその障害を予防しようとする対象を含む。必要とする対象又は「患者」は、予防的治療又は治療的治療のいずれかを受けるヒト及び他の哺乳動物対象を含む。
本発明の抗体コンストラクトは、一般に、とりわけバイオアベイラビリティ及び持続性の範囲において、特定の投与経路及び投与方法、特定の投与量及び投与頻度、特定の疾患の特定の治療に合わせて設計されることになる。組成物の材料は、好ましくは、投与部位に許容される濃度で製剤化される。
したがって、製剤及び組成物は、本発明に従って任意の好適な投与経路による送達に合わせて設計され得る。本発明に関連して、投与経路は、
・局所経路(例えば、皮膚上、吸入、鼻、眼、耳介/耳、膣、粘膜);
・腸経路(例えば、経口、胃腸、舌下、唇下、頬側、直腸);及び
・非経口経路(例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、脳内、脳室内、硬膜外、髄腔内、皮下、腹腔内、羊膜外、関節内、心臓内、皮内、病巣内、子宮内、膀胱内、硝子体内、経皮、鼻腔内、経粘膜、滑液嚢内、管腔内)を含むが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物及び抗体コンストラクトは、例えば、ボーラス注射などの注射又は持続注入などの注入による非経口投与、例えば皮下又は静脈内送達に特に有用である。医薬組成物は、医療デバイスを用いて投与され得る。医薬組成物を投与するための医療デバイスの例は、米国特許第4,475,196号明細書;同第4,439,196号明細書;同第4,447,224号明細書;同第4,447,233号明細書;同第4,486,194号明細書;同第4,487,603号明細書;同第4,596,556号明細書;同第4,790,824号明細書;同第4,941,880号明細書;同第5,064,413号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,383,851号明細書;及び同第5,399,163号明細書に記載されている。
特に、本発明は、好適な組成物の中断のない投与を実現する。非限定的な例として、中断のない又は実質的に中断のない、すなわち連続的な投与は、患者体内への治療薬の流入を調整するための、患者が装着した小型ポンプシステムによって実現され得る。本発明の抗体コンストラクトを含む医薬組成物は、前記ポンプシステムを使用することによって投与することができる。そのようなポンプシステムは、一般に当技術分野で知られており、通常、注入する治療薬を含有するカートリッジの定期交換に依拠する。そのようなポンプシステムでカートリッジを交換する際、交換時以外には中断しない患者体内への治療薬の流入に一時的な中断が結果として生じる場合がある。そのような場合でも、カートリッジ交換前の投与段階及びカートリッジ交換後の投与段階はなお、ともにこのような治療薬の「中断のない投与」を構成する本発明の医薬的手段及び方法の意味の範囲内と見なされるであろう。
本発明の抗体コンストラクトの連続投与又は中断のない投与は、流体をレザバーから送り出すための流体送出機構及び送出機構を駆動するための駆動機構を含む、流体送達デバイス又は小型ポンプシステムによる静脈内又は皮下投与であり得る。皮下投与のためのポンプシステムは、患者の皮膚に穿通し、好適な組成物を患者体内に送達するための針又はカニューレを含み得る。前記ポンプシステムを、静脈、動脈又は血管を問わず、患者の皮膚に直接固定又は装着することでポンプシステムと患者の皮膚とを直接接触させることが可能になる。このポンプシステムは、患者の皮膚に24時間~数日間装着することができる。レザバーの容積が小さい小型のポンプシステムの場合もある。非限定的な例として、投与される好適な医薬組成物のためのレザバーの容積は、0.1~50mlであり得る。
連続投与は、皮膚に装着され時折交換されるパッチによって経皮的でもあり得る。当業者は、この目的に好適な薬物送達のためのパッチシステムを認識している。経皮投与は、例えば、第1の使用済みパッチの直接隣の皮膚表面に、第1の使用済みパッチを除去する直前に、新しい第2のパッチを装着すると同時に第1の使用済みパッチの交換を完了できる有利さがあることから、中断のない投与に特に適していることに注目されたい。流入の中断又は電池故障の問題は生じない。
医薬組成物が凍結乾燥されている場合、まず凍結乾燥材料を投与前に適切な液体で再構成する。凍結乾燥材料を、例えば注射用静菌水(BWFI)、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は凍結乾燥前にタンパク質が存在した同じ製剤で再構成し得る。
本発明の組成物は、例えば、本明細書に記載される種間特異性を示す本発明の抗体コンストラクトをチンパンジーではない霊長類、例えばマカクに用量を増加させながら投与することによる用量漸増試験によって決定できる好適な用量で対象に投与することができる。上述のとおり、本明細書に記載される種間特異性を示す本発明の抗体コンストラクトは、チンパンジーではない霊長類の前臨床試験において同一の形態で使用でき、且つヒトにおける薬物として使用できるという利点がある。投与計画は、主治医が臨床的要因によって決定することになる。医学分野でよく知られるとおり、ある1人の患者に対する投与量は、その患者の体格、体表面積、年齢、投与される個々の化合物、性別、投与時間及び投与経路、全身健康状態並びに同時に投与されている他の薬物を含む多くの要因に依存する。
用語「有効用量」又は「有効投与量」は、所望の効果を達成するか又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量と定義される。用語「治療有効用量」は、疾患にすでに罹患している患者の疾患及びその合併症を治癒するか又は少なくとも部分的に抑止するのに十分な量と定義される。この用途に効果的な量又は用量は、治療される病態(適応症)、送達される抗体コンストラクト、治療の内容及び目的、疾患の重症度、前治療、患者の病歴及び治療薬に対する反応性、投与経路、体格(体重、体表面積又は臓器サイズ)及び/又は患者の状態(年齢及び全身健康状態)並びに患者自身の免疫系の全身状態に依存することになる。適当な用量は、1回の投与又は複数回にわたる投与で患者に投与できるように、また最適な治療効果を得るために主治医の判断に従って調整することができる。
典型的な投与量は、上記の要因に応じて約0.1μg/kg~最大約30mg/kg以上の範囲であり得る。特定の実施形態では、投与量は、1.0μg/kg~最大約20mg/kg、任意選択的に10μg/kg~最大約10mg/kg又は100μg/kg~最大約5mg/kgの範囲であり得る。
治療有効量の本発明の抗体コンストラクトは、好ましくは、疾患症状の重症度を低下させるか、疾患症状がない期間の頻度若しくは期間を増加させるか、又は疾患の苦痛に起因する機能障害若しくは能力障害を防止する。標的細胞の抗原発現腫瘍の治療に関して、治療有効量の本発明の抗体コンストラクト、例えば抗標的細胞抗原/抗CD3抗体コンストラクトは、好ましくは、細胞増殖又は腫瘍増殖を未治療の患者と比較して少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%又は少なくとも約90%阻害する。腫瘍増殖を阻害する化合物の能力は、有効性を予測する動物モデルにおいて評価され得る。
医薬組成物は、1回の治療で投与することも、又は必要に応じて抗癌療法などの追加治療、例えば他のタンパク質性及び非タンパク質性薬物と併用して投与することもできる。これらの薬物は、本明細書で定義される本発明の抗体コンストラクトを含む組成物と同時に投与され得るか、又は前記抗体コンストラクトの投与前若しくは投与後に既定の時間間隔及び用量で別々に投与され得る。
本明細書で使用する場合、用語「有効且つ非毒性用量」は、重大な毒性作用を生じさせずに又は本質的に生じさせずに、病的細胞の激減、腫瘍の除去、腫瘍の縮退又は疾患の安定化をもたらすのに十分である、本発明の抗体コンストラクトの許容用量を指す。そのような有効且つ非毒性用量は、例えば、当技術分野で記載されている用量漸増試験によって決定され得、その用量は、重篤な有害副事象を誘発する用量未満であるべきである(用量制限毒性、DLT)。
本明細書で使用する場合、用語「毒性」は、有害事象又は重篤な有害事象として現れる薬物の毒性作用を指す。これらの副事象は、全身的な薬物忍容性の欠如及び/又は投与後の局所的な忍容性の欠如を指す場合がある。毒性は、その薬物によって引き起こされる催奇性作用又は発癌性作用も含み得る。
本明細書で使用する場合、用語「安全性」、「インビボ安全性」又は「忍容性」は、投与直後に(局所忍容性)及びより長期の薬物適用期間中に重篤な有害事象を誘発しない薬物の投与と定義される。「安全性」、「インビボ安全性」又は「忍容性」は、例えば、治療中及び経過観察期間中に定期的に評価することができる。測定値は、臨床評価、例えば臓器の所見及び臨床検査値異常のスクリーニングを含む。臨床評価が実施され、NCI-CTC及び/又はMedDRA標準に従って正常所見からの逸脱が記録/コード化され得る。臓器の所見は、例えば、Common Terminology Criteria for adverse events v3.0(CTCAE)に示される、アレルギー/免疫学、血液/骨髄、心不整脈、凝固などの基準を含み得る。試験され得る検査パラメータは、例えば、血液学、臨床化学、凝固プロファイル及び尿検査並びに他の体液、例えば血清、血漿、リンパ液又は脊髄液、髄液などの検査を含む。したがって、安全性は、例えば、身体検査、画像化技術(すなわち超音波、x線、CTスキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、技術的デバイスを用いた他の計測(すなわち心電図)、バイタルサインにより、検査パラメータを測定し、有害事象を記録することにより評価することができる。例えば、本発明による使用及び方法において、チンパンジーではない霊長類における有害事象は、組織病理学的方法及び/又は組織化学的方法により試験され得る。
上記の用語は、例えば、1997年7月16日のPreclinical safety evaluation of biotechnology-derived pharmaceuticals S6;ICH Harmonised Tripartite Guideline;ICH Steering Committee meetingでも参照されている。
最後に、本発明は、本発明の抗体コンストラクト、本発明の方法に従って作製された抗体コンストラクト、本発明の医薬組成物、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター及び/又は本発明の宿主細胞を含むキットを提供する。
本発明に関連して、用語「キット」は、2つ以上の構成要素がコンテナ、容器又は他にまとめて梱包されており、構成要素の1つが本発明の抗体コンストラクト、医薬組成物、ベクター又は宿主細胞に相当するものを意味する。したがって、キットは、単品として販売することができる特定の目的を達成するのに十分な製品及び/又は用具の一式であると説明することができる。
キットは、投与に適した投与量(上記を参照されたい)の本発明の抗体コンストラクト又は医薬組成物を含有する任意の適切な形状、サイズ及び材質(好ましくは防水性、例えばプラスチック又はガラス)の1つ以上の容器(例えば、バイアル、アンプル、コンテナ、シリンジ、ボトル、バッグ)を含み得る。キットは、(例えば、リーフレット又は取扱説明書の形態の)使用のための指示書、本発明の抗体コンストラクトを投与するための手段、例えばシリンジ、ポンプ、インフューザーなど、本発明の抗体コンストラクトを再構成するための手段及び/又は本発明の抗体コンストラクトを希釈するための手段をさらに含み得る。
本発明は、単回用量投与単位のためのキットも提供する。本発明のキットは、乾燥/凍結乾燥された抗体コンストラクトを含む第1の容器及び水性製剤を含む第2の容器も含み得る。本発明のある種の実施形態では、単一チャンバー及び多チャンバー式充填済みシリンジ(例えば、液体シリンジ及び溶解シリンジ(lyosyringe))を含むキットが提供される。
本発明の医薬組成物は、緩衝液をさらに含み、それは、リン酸カリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、クエン酸/クエン酸ナトリウム、コハク酸/コハク酸ナトリウム、酒石酸/酒石酸ナトリウム、ヒスチジン/ヒスチジンHCl、グリシン、トリス、グルタミン酸塩、酢酸塩及びこれらの混合物、特にリン酸カリウム、クエン酸/クエン酸ナトリウム、コハク酸、ヒスチジン、グルタミン酸塩、酢酸塩及びこれらの組み合せからなる群から選択され得る。
好適な緩衝液濃度は、約200mM以下、例えば約190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、80、70、60、50、40、30、20、10又は5mMの濃度を包含する。当業者であれば、本明細書に記載される医薬組成物の安定性をもたらすために容易に緩衝液濃度を調整することができるであろう。本発明の医薬組成物において想定される緩衝液濃度は、具体的には約5~約200mM、好ましくは約5~約100mM及びより好ましくは約10~約50mMの範囲である。
本明細書で使用する場合、用語「医薬組成物」は、それを必要とする患者への投与に好適な組成物に関する。用語「対象」、又は「個体」、又は「動物」、又は「患者」は、本明細書では互換的に使用され、本発明の医薬組成物の投与が望ましい任意の対象、特に哺乳動物対象を指す。哺乳動物対象には、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、乳牛などが含まれ、ヒトが好ましい。本発明の医薬組成物は、安定であり、且つ薬学的に許容されるものであり、すなわち医薬組成物が投与される対象においていかなる望ましくない局所的又は全身的な作用も引き起こすことなく所望の治療効果を引き出すことができる。本発明の薬学的に許容される組成物は、特に無菌であり、且つ/又は薬学的に不活性であり得る。具体的には、用語「薬学的に許容される」は、動物における使用及びより特定するとヒトにおける使用のための、規制当局又は他の一般に認識されている薬局方によって承認されていることを意味し得る。
本発明の医薬組成物は、好ましくは、治療有効量の1つ又は複数の本明細書に記載の二重特異性単鎖抗体コンストラクト、β-シクロデキストリン及び緩衝液を含む。「治療有効量」は、所望の治療効果を引き出す前記コンストラクトの量を意味する。治療効果及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な医薬的手順、例えばED50(集団の50%に治療有効な用量)及びLD50(集団の50%に致死的な用量)によって決定することができる。治療効果と毒性作用との間の用量比は、治療指数であり、ED50/LD50の比として表現することができる。大きい治療指数を示す医薬組成物が一般に好ましい。
組成物は、β-シクロデキストリン及び前に記載された緩衝液を含み得る。医薬組成物は、本明細書に記載の有利な特性、特に安定性を低減するか又は消失させない限り、任意選択的に1つ以上のさらなる賦形剤を含み得る。
賦形剤は、粘度の調整などの製剤の物理的、化学的又は生物学的特性の調整及び/又はさらに有効性を向上させ、且つ/若しくはこのような製剤をさらに安定化するための本発明の方法並びに例えば製造、輸送、保管、使用前の調製、投与中及びこれらの後に生じるストレスに起因する劣化及び損傷に対する方法など、広範囲の目的のために本発明で使用することができる。用語「賦形剤」は、概して、充填剤、結合剤、崩壊罪、コーティング、吸着剤、付着防止剤、滑剤、保存剤、抗酸化剤、香味剤、着色剤、甘味剤、溶媒、共溶媒、緩衝化剤、キレート剤、粘性付与剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、担体、希釈剤、保存剤、乳化剤、安定剤及び浸透圧調節剤を含む。
医薬組成物の異なる賦形剤(例えば、上記に列挙したもの)が異なる効果を有し得ることは、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸は、緩衝液、安定化剤及び/又は抗酸化剤として作用することができ;マンニトールは、充填剤及び/又は等張性増強剤として作用することができ;塩化ナトリウムは、送達ビヒクル及び/又は等張性増強剤として作用することができるなどである。
ポリオールは、液体製剤及び凍結乾燥製剤の両方において、タンパク質を物理的及び化学的な劣化プロセスから保護する有用な安定剤であり、また製剤の浸透圧調整にも有用である。ポリオールは、糖、例えばマンニトール、スクロース及びソルビトール並びに多価アルコール、例えばグリセロール及びプロピレングリコール並びに本明細書での議論を目的としてポリエチレングリコール(PEG)及び関連物質を含む。マンニトールは、凍結乾燥製剤におけるケークの構造安定性を確保するために一般的に使用されている。マンニトールは、ケークの構造安定性を確保する。一般に、これは、凍結乾燥保護剤、例えばスクロースとともに使用される。ソルビトール及びスクロースは、等張性を調整するための薬剤及び輸送中又は製造工程でのバルク調製時の凍結解凍ストレスから保護するための安定化剤として一般的に使用される。PEGは、タンパク質の安定化に有用であり、また凍結保護物質としても有用である。
界面活性剤は、慣例的に、表面吸着の防止、最小化又は低減に使用される。タンパク質分子は、表面への吸着並びに気体-液体界面、固体-液体界面及び液体-液体界面での変性及びその結果としての凝集を引き起こしやすいことがある。これらの効果は、一般にタンパク質濃度に反比例する。これらの有害な相互作用は、一般に、タンパク質濃度と反比例し、通常、例えば製品の輸送及び取り扱い時に生じる物理的撹拌によって悪化する。一般的に使用される界面活性剤としては、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ソルビタンポリエトキシレートの他の脂肪酸エステル及びポロキサマー188が挙げられる。界面活性剤は、タンパク質の立体構造安定性を制御するためにも一般に使用される。任意の所与の界面活性剤は、通常、一部のタンパク質を安定化し、他を不安定化するため、この点において、界面活性剤の使用は、タンパク質特異的である。
ポリソルベートは、酸化劣化を起こしやすく、多くの場合、供給されるとき、タンパク質残基の側鎖、特にメチオニンの酸化を引き起こすほど十分な過酸化物量を含有している。したがって、ポリソルベートは、注意して使用すべきであり、使用時には最小影響濃度で用いなければならない。
抗酸化剤は、適切なレベルの周囲酸素及び周囲温度を維持することにより、且つ光への暴露を回避することにより、医薬製剤中でのタンパク質の有害な酸化をある程度まで防止することができる。抗酸化賦形剤を、タンパク質の酸化劣化を防止するためにも同様に使用することができる。この点で特に有用な抗酸化剤には、還元剤、酸素/フリーラジカル捕捉剤及びキレート剤が含まれる。治療用タンパク質製剤に使用するための抗酸化剤は、好ましくは、水溶性であり、製品の有効期間にわたって活性を維持する。EDTAが有用な例である。
金属イオンは、タンパク質補因子として作用することができ、タンパク質配位錯体の形成を可能にする。金属イオンは、タンパク質を分解するいくつかの過程も阻害することができる。しかしながら、金属イオンは、タンパク質を分解する物理的及び化学的過程も触媒する。マグネシウムイオン(10~120mM)は、アスパラギン酸からイソアスパラギン酸への異性化を阻害するために使用され得る。Ca+2イオン(最大100mM)は、ヒトデオキシリボヌクレアーゼの安定性を増大させ得る。しかしながら、Mg+2、Mn+2及びZn+2は、rhDNaseを不安定化し得る。同様に、Ca+2及びSr+2は、第VIII因子を安定化することができ、これは、Mg+2、Mn+2及びZn+2、Cu+2及びFe+2によって不安定化されることがあり、その凝集は、Al+3イオンによって増大し得る。
保存剤の主要な機能は、微生物の増殖の阻害であり、製剤の有効期間又は使用期間にわたって製品の無菌性を確保し、特に複数回用量製剤に対して必要とされる。一般に使用される保存剤としては、ベンジルアルコール、フェノール及びm-クレゾールが挙げられる。保存剤は、低分子の非経口薬との使用において長い歴史を有するが、保存剤を含むタンパク質製剤の開発は、困難であり得る。保存剤は、ほぼ常に、タンパク質に対して不安定化効果(凝集)を有しており、これがタンパク質製剤における使用を制限する主要な要因となっている。現在に至るまで、ほとんどのタンパク質薬は、単回使用用としてのみ製剤化されている。しかしながら、複数回用量製剤が可能である場合、患者の利便性及び高い市場性を実現するという利点が加わる。保存処理された製剤の開発により、より便利な複数回使用の注射ペンの提案が製品化に至ったヒト成長ホルモン(hGH)は、その良い例である。
予想されるとおり、保存剤を含有する液体製剤の開発は、凍結乾燥製剤よりも困難である。凍結乾燥製品は、保存剤なしで凍結乾燥され、使用時に保存剤を含有する希釈剤で再構成することができる。これにより保存剤がタンパク質と接触する時間が短縮され、付随する安定性のリスクが大幅に最小化される。液体製剤の場合、保存剤の有効性及び安定性は、製品有効期間全体(約18~24か月)にわたって維持されるべきである。注意すべき重要な点として、保存剤の有効性は、活性薬物及び全ての賦形剤成分を含有する最終製剤において実証される必要がある。
塩は、例えば、医薬組成物のイオン強度及び/又は等張性を調整し、且つ/又は抗体コンストラクト若しくは他の成分の可溶性及び/若しくは物理的安定性をさらに向上させるために本発明に従って使用され得る。よく知られているとおり、イオンは、タンパク質の表面上の荷電残基に結合することにより、且つタンパク質中の荷電基及び極性基を遮蔽し、その静電気相互作用、引力及び反発相互作用の強度を低減することにより、天然状態のタンパク質を安定化することができる。イオンは、特にタンパク質の変性ペプチド結合(--CONH)に結合することによって変性状態のタンパク質を安定化することもできる。さらに、タンパク質中の荷電基及び極性基とのイオン相互作用は、分子間静電相互作用を低減し、それによりタンパク質の凝集及び不溶化を防止又は低減することもできる。イオン種によってタンパク質に及ぼすそれらの効果は、異なる。イオン及びタンパク質に対するその効果の分類上の順位付けが多数立案されており、これを本発明による医薬組成物の製剤化に使用することができる。一例は、イオン性溶質及び極性非イオン性溶質を溶液中のタンパク質の立体構造安定性に対する効果によって順位付けするホフマイスター系列である。安定化する溶質は、「コスモトロピック」と称される。不安定化する溶質は、「カオトロピック」と称される。コスモトロープは、一般に、溶液からタンパク質を沈殿(「塩析」)させるために高濃度(例えば、>1モル硫酸アンモニウム)で使用される。カオトロープは、一般に、タンパク質を変性及び/又は可溶化(「塩溶」)させるために使用される。「塩溶」及び「塩析」に対するイオンの相対的な効果により、ホフマイスター系列でのイオンの位置が定義される。
遊離アミノ酸は、充填剤、安定化剤及び抗酸化剤として並びに他の標準的用途として、医薬組成物中で使用することができる。リジン、プロリン、セリン及びアラニンは、製剤中のタンパク質を安定化するために使用することができる。グリシンは、凍結乾燥において適切なケークの構造及び特性を確保するのに有用である。アルギニンは、液体及び凍結乾燥のいずれの製剤でもタンパク質の凝集を阻害するのに有用であり得る。メチオニンは、抗酸化剤として有用である。
医薬組成物の製剤化に特に有用な賦形剤としては、スクロース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、アルギニン、リジン、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロキサマー188、プルロニック及びこれらの組み合わせが挙げられる。前記賦形剤は、組成物が本明細書で例示される所望の特性を示し、特に含有されている二重特異性単鎖抗体コンストラクトの安定化を促進する限り、種々の濃度で医薬組成物中に存在し得る。例えば、スクロースは、医薬組成物中に2%(w/v)~12%(w/v)の濃度、すなわち12%(w/v)、11%(w/v)、10%(w/v)、9%(w/v)、8%(w/v)、7%(w/v)、6%(w/v)、5%(w/v)、4%(w/v)、3%(w/v)又は2%(w/v)の濃度で存在し得る。好ましいスクロース濃度は、4%(w/v)~10%(w/v)、より好ましくは6%(w/v)~10%(w/v)の範囲である。ポリソルベート80は、医薬組成物中に0.001%(w/v)~0.5%(w/v)の濃度、すなわち0.5%(w/v)、0.2%(w/v)、0.1%(w/v)、0.08%(w/v)、0.05%(w/v)、0.02%(w/v)、0.01%(w/v)、0.008%(w/v)、0.005%(w/v)、0.002%(w/v)又は0.001%(w/v)の濃度で存在し得る。好ましいポリソルベート80濃度は、0.002%(w/v)~0.5%(w/v)、好ましくは0.005%(w/v)~0.02%(w/v)の範囲である。
医薬組成物の製剤化に有用な保存剤としては、一般に、抗菌薬(例えば、抗細菌薬又は抗真菌薬)、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどが挙げられ;例は、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素である。抗菌保存剤は、微生物の増殖を低減することにより薬の有効期間を延長するために使用される物質である。本発明の医薬組成物の製剤化に特に有用な保存剤としては、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール、メタ-クレゾール、メチルパラベン、フェノキシエタノール、プロピルパラベン、チオメロサールが挙げられる。これらの保存剤を使用するための構造及び典型的濃度は、Meyer et al.J Pharm Sci.96(12),3155の表1に記載されている。
前述の保存剤は、種々の濃度で医薬組成物中に存在し得る。例えば、ベンジルアルコールは、0.2~1.1%(v/v)の範囲の濃度、クロロブタノールは、0.3~0.5%(v/v)の範囲の濃度、フェノールは、0.07~0.5%(v/v)の範囲の濃度、メタ-クレゾールは、0.17~0-32%(v/v)の範囲の濃度、又はチオメロサールは、0.003~0.01%(v/v)の範囲の濃度で存在し得る。メチルパラベンの好ましい濃度は、0.05~0.5%(v/v)の範囲であり、フェノキシエタノールについて0.1~3%(v/v)の範囲であり、プロピルパラベンについて0.05~0.5%(v/v)の範囲である。
しかしながら、医薬組成物がいかなる保存剤も含まないことも考えられる。特に、本明細書では、とりわけ、保存剤を含まない医薬組成物であって、約6.0のpHで約0.5mg/mlの濃度の二重特異性単鎖抗体コンストラクト、約1%(w/v)の濃度のスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンナトリウム塩、約10mMの濃度のリン酸カリウム並びにさらに約8%(w/v)の濃度のスクロース及び約0.01%(w/v)の濃度のポリソルベート80を含む医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、様々な形態、例えば固体、液体、凍結、気体又は凍結乾燥の形態で製剤化することができ、とりわけ軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、粉末、錠剤、溶液、エアロゾル、顆粒剤、丸剤、懸濁液、エマルジョン、カプセル、シロップ剤、液体、エリキシル剤、抽出物、チンキ又は流エキスの形態であり得る。
一般に、本発明の医薬組成物に関して、とりわけ、意図される投与経路、送達形式及び所望の投与量に応じて様々な保管形態及び/又は剤形が考えられる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nd edition,Oslo,A.,Ed.,(2012)を参照されたい)。当業者であれば、このような特定の剤形の選択は、例えば、本発明の抗体コンストラクトの物理的状態、安定性、インビボでの放出速度及びインビボでのクリアランス速度に影響を及ぼし得ることを認識するであろう。
例えば、医薬組成物中の主なビヒクル又は担体は、本質的に水性又は非水性であり得る。好適なビヒクル又は担体は、注射用水、生理食塩水溶液又は人工脳脊髄液であり得、場合により非経口投与用組成物で一般的な他の材料が補充される。中性緩衝生理食塩水又は血清アルブミンを混合した生理食塩水も例示的なビヒクルである。
非経口投与が企図される場合、本発明の治療用組成物は、薬学的に許容されるビヒクル中に所望の抗体コンストラクトを含む、パイロジェンフリーの非経口的に許容される水溶液の形態で提供され得る。非経口注射に特に好適なビヒクルは、滅菌蒸留水であり、抗体コンストラクトは、その中で適切に保存された滅菌等張溶液として製剤化される。製剤は、デポ注射を介して送達できる産物の制御放出又は持続放出を提供し得る薬剤、例えば注射可能なミクロスフェア、生体内分解性粒子、ポリマー性化合物(ポリ乳酸若しくはポリグリコール酸など)、ビーズ又はリポソームと、所望の分子との製剤を含み得る。循環中での持続時間を向上させる効果を有するヒアルロン酸も使用される場合がある。移植可能な薬物送達デバイスを使用して、所望の抗体コンストラクトを導入し得る。
持続性又は制御性の送達/放出製剤も本明細書で想定される。様々な他の持続性又は制御性の送達手段、例えばリポソーム担体、生体内分解性マイクロ粒子又は多孔ビーズ及びデポ注射を製剤化する技術も当業者に知られている。例えば、医薬組成物の送達のための多孔性ポリマーマイクロ粒子の制御放出について記載する国際特許出願第PCT/米国特許出願公開第93/00829号明細書を参照されたい。持続放出性製剤は、成形物品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態の半透過性ポリマーマトリックスを含み得る。持続放出性マトリックスは、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書、欧州特許出願公開第058481号明細書に開示される)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidman et al.,1983,Biopolymers 2:547-556)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)(Langer et al.,1981,J.Biomed.Mater.Res.15:167-277及びLanger,1982,Chem.Tech.12:98-105)、エチレン酢酸ビニル(Langer et al.,1981、前掲)又はポリ-D(-)-3-ヒドロキシ酪酸(欧州特許出願公開第133,988号明細書)を含み得る。持続放出性組成物は、当技術分野で知られるいくつかの方法のいずれかによって作製可能なリポソームも含み得る。例えば、Eppstein et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.82:3688-3692;欧州特許出願公開第036,676号明細書;同第088,046号明細書及び同第143,949号明細書を参照されたい。抗体コンストラクトは、例えば、コアセルベーション技術によって又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル)、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンにも封入され得る。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,22nd edition,Oslo,A.Ed.(2012)に開示されている。
インビボ投与に用いられる医薬組成物は、通常、滅菌製剤として提供される。滅菌は、滅菌濾過膜を通した濾過によって行うことができる。組成物を凍結乾燥する場合、この方法を使用した滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前後のいずれに実施され得る。非経口投与用組成物は、凍結乾燥形態で又は溶液中に保存することができる。非経口組成物は、一般に、滅菌したアクセスポートを有するコンテナ、例えば皮下注射針によって穿孔可能な栓を有する静注液バッグ又はバイアル中に入れられる。
本明細書で開示される抗体コンストラクトは、免疫リポソームとしても製剤化され得る。「リポソーム」は、哺乳動物への薬物送達に有用である様々な種類の脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤から構成される小さい小胞である。リポソームの成分は、一般に、生体膜の脂質の配置と同様に二層構造で配置される。抗体コンストラクトを含有するリポソームは、例えば、Epstein et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985);Hwang et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA,77:4030(1980);米国特許第4,485,045号明細書及び同第4,544,545号明細書;並びに国際公開第97/38731号パンフレットに記載される、当技術分野で知られる方法によって調製される。循環時間が長くなったリポソームは、米国特許第5,013,556号明細書に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いて逆相蒸発法によって作製することができる。所望の直径を有するリポソームを得るために、リポソームを、所定の孔径のフィルターを通して押し出す。本発明の抗体コンストラクトのFab’フラグメントは、ジスルフィド交換反応により、Martin et al.J.Biol.Chem.257:286-288(1982)に記載されるとおりに、リポソームにコンジュゲートすることができる。任意選択的に、化学療法剤がリポソーム内に含有される。Gabizon et al.J.National Cancer Inst.81(19)1484(1989)を参照されたい。
本発明の組成物は、本明細書で定義される二重特異性単鎖抗体コンストラクトに加えて、組成物の使用目的に応じてさらなる生物学的に活性な薬剤を含む場合があることが想定される。このような薬剤は、特に腫瘍及び/又は悪性細胞に作用する薬物であり得るが、医薬組成物の使用目的に応じて他の活性剤も考えられ、これには、当技術分野において知られる胃腸系に作用する薬剤、免疫反応を阻害する薬物(例えば、コルチコステロイド)、炎症反応を調節する薬物、循環系に作用する薬物及び/又はサイトカインなどの薬剤が含まれる。また、本発明の医薬組成物は、併用療法で、すなわち別の抗癌薬と併用して適用されることも想定される。
医薬組成物を製剤化した後、それを溶液、懸濁液、ゲル、エマルジョン、固体、結晶として又は脱水粉末若しくは凍結乾燥粉末として滅菌バイアル中に保存し得る。このような製剤は、使用準備済の形態又は投与前に再構成される(例えば、凍結乾燥)形態で保存され得る。例えば、凍結乾燥組成物を、例えば注射用静菌水(BWFI)、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は凍結乾燥前にタンパク質が存在した同じ製剤で再構成し得る。
本発明の医薬組成物は、概して、任意の好適な投与経路による送達のために製剤化され得る。本発明に関連して、投与経路としては、局所経路(例えば、皮膚上、吸入、鼻、点眼、耳介/耳、膣、粘膜);経腸経路(例えば、経口、胃腸、舌下、唇下、頬側、直腸);及び非経口経路(例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、脳内、脳室内、硬膜外、髄腔内、皮下、腹腔内、羊膜外、関節内、心臓内、皮内、病巣内、子宮内、膀胱内、硝子体内、経皮、鼻腔内、経粘膜、滑液嚢内、管腔内)が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書に記載される医薬組成物は、例えば、ボーラス注射などの注射又は持続注入などの注入による非経口投与、例えば皮下又は静脈内送達に特に有用である。医薬組成物は、医療デバイスを用いて投与され得る。医薬組成物を投与するための医療デバイスの例は、米国特許第4,475,196号明細書;同第4,439,196号明細書;同第4,447,224号明細書;同第4,447,233号明細書;同第4,486,194号明細書;同第4,487,603号明細書;同第4,596,556号明細書;同第4,790,824号明細書;同第4,941,880号明細書;同第5,064,413号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,312,335号明細書;同第5,383,851号明細書;及び同第5,399,163号明細書に記載されている。
本発明の医薬組成物はまた、中断することなく投与され得る。非限定的な例として、中断のない又は実質的に中断のない、すなわち連続的な投与は、患者体内への抗体コンストラクトの流入を調整するための、患者により装着される小型ポンプシステムによって実現され得る。医薬組成物は、前記ポンプシステムを使用することによって投与することができる。そのようなポンプシステムは、一般に当技術分野で知られており、通常、注入する治療薬を含有するカートリッジの定期交換に依拠する。そのようなポンプシステムでカートリッジを交換する際、交換時以外には中断しない患者体内への治療薬の流入に一時的な中断が結果として生じる場合がある。そのような場合でも、カートリッジ交換前の投与段階及びカートリッジ交換後の投与段階はなお、ともにこのような治療薬の「中断のない投与」を構成する本発明の医薬的手段及び方法の意味の範囲内と見なされるであろう。
本発明の医薬組成物の連続投与又は中断のない投与は、流体をレザバーから送り出すための流体送出機構及び送出機構を駆動するための駆動機構を含む、流体送達デバイス又は小型ポンプシステムによる静脈内又は皮下投与であり得る。皮下投与のためのポンプシステムは、患者の皮膚に穿通し、好適な組成物を患者体内に送達するための針又はカニューレを含み得る。前記ポンプシステムを、静脈、動脈又は血管を問わず、患者の皮膚に直接固定又は装着することでポンプシステムと患者の皮膚とを直接接触させることが可能になる。このポンプシステムは、患者の皮膚に24時間~数日間装着することができる。レザバーの容積が小さい小型のポンプシステムの場合もある。非限定的な例として、投与される好適な医薬組成物のためのレザバーの容積は、0.1~50mlであり得る。
連続投与は、皮膚に装着され時折交換されるパッチによって経皮的にも行われ得る。当業者は、この目的に好適な薬物送達のためのパッチシステムを認識している。経皮投与は、例えば、第1の使用済みパッチの直接隣の皮膚表面に、第1の使用済みパッチを除去する直前に、新しい第2のパッチを装着すると同時に第1の使用済みパッチの交換を完了できる有利さがあることから、中断のない投与に特に適していることに注目されたい。流入の中断又は電池故障の問題は生じない。
当業者であれば、本発明の医薬組成物は、概して前述の賦形剤又は追加の活性剤のいずれかを含み得るか、又は安定であり且つ好ましくは付属の実施例で評価されているβ-シクロデキストリンを含む医薬組成物と同じ有利な特性を示す限り、任意の好適な形態で提供され得ることを容易に理解するであろう。当業者であれば、安定である医薬組成物、すなわち好ましくは内部に含まれる二重特異性単鎖抗体フラグメントの凝集体及び/又は立体構造異性体を実質的に含まない医薬組成物を提供するように様々な成分を容易に調整できるであろう。
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈により別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「試薬」に対する参照は、1つ以上のこのような種々の試薬を含み、「方法」に対する参照は、本明細書に記載される方法のために改変され得るか又は本明細書に記載される方法と置換され得る、当業者に知られる均等な工程及び方法に対する参照を含む。
別段の指示がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連のあらゆる要素を指すと理解すべきである。当業者であれば、単なる通例的な実験により、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識することになるか又は確認することができるであろう。このような均等物は、本発明に包含されるものとする。
用語「及び/又は」は、本明細書のいずれの場所で使用される場合でも、「及び」、「又は」及び「前記用語によって接続される要素の全て又は任意の他の組み合わせ」の意味を含む。
本明細書で使用する場合、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内及びより好ましくは5%以内を意味する。ただし、この用語は、具体的な数字も含み、例えば、約20は、20を含む。
用語「~未満」又は「~より大きい」は、具体的な数字を含む。例えば、20未満は、未満又はそれに等しいことを意味する。同様に、~を超える又は~より大きいは、それぞれ~を超える若しくはそれに等しい、又は~より大きい若しくはそれに等しいことを意味する。
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲の全体において、文脈上他の意味が要求されない限り、「含む(comprise)」という語並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる」などのバリエーションは、述べられる整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を除外することを意味するものではないことを理解されたい。本明細書で使用する場合、用語「含む」は、用語「含有する」若しくは「包含する」又は本明細書で使用する場合にはときに用語「有する」とも置き換えることができる。
本明細書で使用する場合、「~からなる」は、請求項の要素で特定されていない任意の要素、工程又は成分を除外する。本明細書で使用する場合、「~から本質的になる」は、請求項の基本的及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。
本明細書では、各場合において、「含む」、「から本質的になる」及び「からなる」という用語のいずれかを他の2つの用語のいずれかに置き換え得る。
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬及び物質などに限定されず、そのようなものとして変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するように意図されてはおらず、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
本明細書の本文全体において引用されている全ての刊行物及び特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、上記であっても下記であっても、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先発明によってこのような開示に先行する権利を有しないことを承認するものとして解釈すべきではない。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾又は一致しない限り、本明細書は、いかなるこのような資料よりも優先される。
本発明及びその利点のより適切な理解が以下の実施例から得られることになるが、本実施例は、例示目的で提供されるにすぎない。本実施例は、決して本発明の範囲を限定するように意図されていない。
実施例1:
カノニカルなEGFRvIII BiTE(登録商標)抗体コンストラクトをpH7.0又はpH4.0のいずれかの緩衝液中に準備し、それぞれDSCにかけた。抗体コンストラクトのDSC融解温度を単一の融解現象として得た。pH7でのTmは、65℃であった一方、pH4でのTmは、59.5℃であり、すなわち中性媒体中より低かった(図3のサーモグラムを参照されたい)。一般に、Tmが高いほど化合物の安定性が高いことを意味する。
実施例2:
それぞれCDH19、EGFRvIII、CD33及びCD19に対する第1の標的ドメインを有する精製された標準的又はscFcとして提供されたBiTE抗体コンストラクトを含有する予め製剤化された原体を、10kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用した限外濾過/ダイアフィルトレーションにより緩衝液交換した。高濃度の原液を加えることによって最終製剤を得た。各コンストラクトについて得られた製剤は、pH6.0において20mMリン酸カリウム、150mM L-アルギニン塩酸塩、6%(w/V)トレハロース二水和物、0.01%(w/V)ポリソルベート80で構成されるK60RTrT及びpH4.0において10mMグルタミン酸塩、4%(w/V)マンニトール、2%(w/V)スクロース、0.01%(w/V)ポリソルベート80で構成されるG40MSuTである。タンパク質濃度は、合計1.0mg/mLになった。1950μLの各試験溶液に50μLの1000ppmシリコン標準溶液(AlfaAesarのSpecpure,Art.No.38717)をスパイクして、25ppmのスパイクを得た。スパイクされていない試験溶液は、対照試料としての役割を果たした。スパイクされた試験溶液及び対照試料を3ccのI型ガラスバイアルに充填し、37℃で24時間インキュベートした。HMWSの量を定量するために全ての試料をSE-UPLCにより分析した。結果として、図4(a)は、pH4及びpH6において測定されたCDH19 scFc抗体コンストラクトの高分子量種の割合を示す。低い方の4.0のpHでより少ない凝集が見られる。図4(b)は、3種の異なる製剤 - G4SuT、G4TrT及びG4MSuTにおいて4℃(時点T0、2w、4w)、25℃(T0、1w、2w、4w)及び37C(T0、1w、2w、4w)でのSECによって測定されたCDH19 scFc BiTEのメインピークの割合を示す:G4SuTは、10mMグルタミン酸塩、9%(w/v)スクロース、0.01%ポリソルベート80を含み、G4TrTは10mMグルタミン酸塩、9%(w/v)トレハロース、0.01%ポリソルベート80を含み、且つG4MSuTは10mMグルタミン酸塩、4%(w/v)マンニトール、2%スクロース、0.01%ポリソルベート80を含む。安定性は、pH4で実証された。それぞれの抗体コンストラクト製剤を安定性のモニタリングのために様々な条件で保存した。図4(c)は、3種の異なる製剤 - G4SuT、G4TrT及びG4MSuTにおいて-20℃(T0、4w)でのSECによって測定されたCDH19 scFc BiTEのメインピークの割合を示す。図4(d)は、3種の異なる製剤:G4SuT、G4TrT及びG4MSuTにおいて4C(T0、2w、4w)、25℃(T0、1w、2w、4w)及び37℃(T0、1w、2w、4w)でのSECによって測定されたCDH19 scFc BiTEの高分子量(HMW)ピークの割合を示す。図4(e)は、3種の異なる製剤 - G4SuT、G4TrT及びG4MSuTにおいて-20℃(T0、4w)でのSECによって測定されたCDH19 scFc BiTEのHMWピークの割合を示す。図4(f)は、3種の異なる製剤 - G4SuT、G4TrT及びG4MSuTにおいて4C(T0、2w、4w)、25C(T0、1w、2w、4w)及び37C(T0、1w、2w、4w)でのSECによって測定されたCDH19 scFc BiTEの低分子量ピークの割合を示す。図5は、6ヶ月後のpH範囲4~7の様々な緩衝液中におけるEGFRvIII非scFC抗体コンストラクトのメインピークの割合を示す。pH4.0において、抗体コンストラクトは、最も高いメインピークの割合を有する。図6:(a)は、4℃における異なる製剤における異なる濃度でのCD33-scFc抗体コンストラクトのメインピークの割合を示す。「ccHFC」は、特異的に改変されてcysで固められたscFcドメインを意味する。低pH製剤は、一貫してより多くの単量体種を有する。(b)は、25℃における異なる製剤における異なる濃度でのCD33-scFc抗体コンストラクトのメインピークの割合を示す。「ccHFC」は、より多くの単量体種を一貫して有する特異的に改変されてcysで固められたscFcドメインの低pH製剤を意味する。図7:T0、7日目、14日目及び1ヶ月目でpHに応じてSECによって測定されたカノニカルな(非HLE)CD19×CD3 BiTE(登録商標)抗体コンストラクトの凝集の割合である。図は、低pHでの凝集量が劇的に低くなることを実証している。
実施例3:EGFRvIII BiTE(登録商標)抗体コンストラクトを、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)に続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して精製した。SEC溶出液は、pH5.0の20mMクエン酸及び2%(w/v)トレハロース二水和物中の0.43mg/mL EGFRvIIIを含有した。この材料を3つの画分に分けた。第1の画分は、pH5.0に維持した。他の画分のpHは、それぞれ6.0及び7.0に調整した。全ての画分を、0.2μmの孔径を有するフィルターに通して濾過した。各画分は、最終的に高濃度賦形剤の原液でスパイクすることによって製剤化された。最終製剤の概要を表4に提供する。各製剤におけるEGFRvIII濃度は、0.1mg/mLに等しかった。製剤を2R I型ガラスバイアルにおいて1.0mLに充填し、これをブチルゴムの栓及びアルミニウムのフリップオフシールで閉じた。
製剤を25℃で4日間保存し、続いて350nmでの光学密度測定、サイズ排除超高速クロマトグラフィー及び弱陽イオン交換(WCX)クロマトグラフィーによって分析した。350nmでの光学密度は、TecanのTecan Infinite M1000プレートリーダーを使用して96ウェルプレートにおいて測定した。凝集指数(AI)は、以下の式を使用して計算された。
AI=OD350nm/(OD280nm-OD350nm)
SECを利用して、ストレス後の各製剤中の高分子量種(HMWS)の含有割合及びタンパク質濃度を決定した。SE-UPLCは、Acquity UPLC BEH200 SEC 150mmカラム(Waters)を使用してAquity H-Class UPLCシステム(Waters)上で実施した。カラム温度を25℃に設定した。サイズバリアントの分離は、0.4mL/分の流速で均一溶媒法を適用することによって行われた。移動相は、100mMリン酸ナトリウム、250mM NaCl pH6.8で構成された。実行時間は、合計で6.0分である。試料は、分析までオートサンプラー内において8℃で保持された。総量3μgのタンパク質を注入した。キャリーオーバーを回避するために、各試料後に40%ACNによる中間注入を実施した。HMWSの定量化のために、検出は、蛍光(280nmでの励起、325nmでの発光)に基づいた。タンパク質濃度の決定のために、280nmでのフォトダイオードアレイ(PDA)を介する検出を使用した。Empower(登録商標)ソフトウェアを使用してピークの積分を実施した。HMWSの相対的な曲線下面積を報告した。
WCXクロマトグラフィーは、Protein-Pak Hi Res CM 7μmカラム(Waters.カタログ番号186004929)を使用してAquity H-Class UPLCシステム(Waters)上で実施した。カラム温度を30℃に設定した。荷電バリアントの分離は、0.65mL/分の流速で表5に示される勾配法を適用することによって行われた。移動相A及びBは、20mMリン酸ナトリウムpH6.5及び20mMリン酸ナトリウムで構成された。
試料は、分析までオートサンプラー内において8℃で保持された。5μgのタンパク質をカラムに注入した。試料を移動相Aで事前に希釈した。キャリーオーバーを回避するために、各試料後に40%ACNによる中間注入を実施した。検出は、蛍光(Ex 280nm、Ex 325nm)に基づいた。Empower(登録商標)ソフトウェアを使用してピークの積分を実施した。メインピーク(天然種)の相対的な曲線下面積(AUC)を報告した。
Statisticaソフトウェア(Statsoft)を使用して、測定された凝集指数、HMWSの含量割合、タンパク質濃度及びWCXメインピークの存在量に対する上記製剤化パラメータの影響を統計的に評価した。予測値及び有用性に関するプロファイルを図8に記載する。低い凝集指数、少ないHMWS、高いタンパク質濃度及び高いメインピークの割合のために最適な製剤化を図る。図8によって示されるとおり、L-アルギニンの使用、高濃度のPS80及び低pH値での製剤化によって有用性が最大化される。
実施例4
メソセリン(MSLN)-sxFc BiTE抗体コンストラクトは、プロテインA、陽イオン交換(CEX)及びヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーを使用して精製された。次に、HA溶出液を、限外濾過/ダイアフィルトレーション(UFDF)を使用して予備製剤化した。高濃度賦形剤の原液をスパイクすることによって最終製剤を得た。試験製剤の概要を表6に提供する。
上記製剤を2R I型ガラスバイアルにおいて1.3mLに充填し、これをブチルゴムの栓及びアルミニウムのフリップオフシールで閉じた。製剤を-20℃、25℃及び37℃で最大4週間並びに2~8℃で最大15週間保存した。試料を指定の時点で取り出した。さらに、試料を5回の連続した凍結融解サイクル(0.3K/分で20℃->-50℃->20℃、目的の温度で1時間保持)にかけた。試料をサイズ排除超高速クロマトグラフィー(SE-UPLC)及びペプチドマッピング(ストレスを受けていない試料及び37℃で保存された試料についてのみ)によって分析した。
SE-UPLCは、Acquity UPLC BEH200 SEC 150mmカラム(Waters)を使用してAquity H-Class UPLCシステム(Waters)上で実施した。カラム温度を25℃に設定した。サイズバリアントの分離は、0.4mL/分の流速で均一溶媒法を適用することによって行われた。移動相は、100mMリン酸ナトリウム、250mM NaCl pH6.8で構成された。実行時間は、合計で6.0分である。試料は、分析までオートサンプラー内において8℃で保持された。総量3μgのタンパク質を注入した。キャリーオーバーを回避するために、各試料後に40%ACNによる中間注入を実施した。検出は、蛍光(280nmでの励起、325nmでの発光)に基づいた。Empower(登録商標)ソフトウェアを使用してピークの積分を実施した。HMWSの相対的な曲線下面積を報告した(図9)。
熱ストレス(37℃でのインキュベーション)時の化学修飾の存在量をペプチドマッピングによって観測した。タンパク質試料を酵素的に消化し、得られたペプチドを、逆相クロマトグラフィーを使用して分離した。ペプチドの同定及び定量化のために、カラム溶出液を質量分析計のイオン源に直接注入した。
カバレッジを最大化するために、トリプシンによって1回及びキモトリプシンによって1回の、2つの別々の酵素消化を実施した。それぞれの場合にタンパク質を塩酸グアニジウムで変性させ、続いてジチオスレイトール(DTT)で還元した。DTT中でのインキュベーション後、遊離システイン残基をヨード酢酸の添加によってアルキル化した。続いて、消化のために試料を50mMトリスpH7.8に緩衝液交換した。トリプシン及びキモトリプシンをそれぞれ1:10(試料:酵素)の比で別々の反応チューブに加えた。試料を37℃で30分間消化し、トリフルオロ酢酸の添加によって反応をクエンチした。
5μgの量の各消化物を、0.1%(V/V)ギ酸(FA)で平衡化したZorbax SB-C18(Agilent#859700-902)逆相カラムに別々に注入した。0.1%FAを含有する最大90%アセトニトリルまでの156分間の勾配を使用して、ペプチドをQ-Exactive Plus質量分析計(Thermo Scientific)のエレクトロスプレーイオン源に直接溶出させた。データは、フルスキャン(分解能70000;走査範囲200~2000m/z)後に12個の最も豊富なイオンの高エネルギー衝突解離(HCD)(分解能17500)を行う上位12個の方式を用いてデータ依存的な様式で取得した。
ペプチドを、内製のソフトウェアを用いて精密質量及びタンデム質量スペクトルに基づいて同定した。同定は、手動で検証された。修飾及び非修飾ペプチドの相対量を、Pinpointソフトウェア(Thermo Scientific)を用いてイオン存在量に基づいて計算した。
相補性決定領域(CDR)及び半減期延長部分の化学修飾の割合がエラーで参照元が見つからない7に示されている。
図9において実証されるとおり、HMWSの存在量は、MSLN-scFcがpH4.0で製剤化される場合、pH6.0又はpH7.0での製剤と比較して有意に減少する。表7は、37℃で2週間の保管後の製剤の機能に応じた化学修飾の概要を提供する。
表7に概要が示されるとおり、MLSN-scFcは、pH4.0で製剤化される場合、pH6.0又はpH7.0と比較して化学修飾を受けにくい。
実施例5
CD33cc-scFx BiTE抗体コンストラクトを、プロテインA、陽イオン交換(CEX)及びヒドロキシアパタイト(HA)クロマトグラフィーを使用して精製した。次に、HA溶出液を限外濾過/ダイアフィルトレーション(UFDF)を使用して予備製剤化した。高濃度賦形剤の原液をスパイクすることによって最終製剤を得た。試験製剤の概要を表8に提供する。
上記製剤を2R I型ガラスバイアルにおいて1.3mLに充填し、これをブチルゴムの栓及びアルミニウムのフリップオフシールで閉じた。製剤を-20℃、2~8℃、25℃及び37℃で最大4週間保存した。試料を指定の時点で取り出した。さらに、試料を5回の連続した凍結融解サイクル(0.3K/分で20℃->-50℃->20℃、目的の温度で1時間保持)にかけた。試料をサイズ排除超高速クロマトグラフィー(SE-UPLC)及びペプチドマッピング(ストレスを受けていない試料及び37℃で保存された試料についてのみ)によって分析した。
SE-UPLCは、Acquity UPLC BEH200 SEC 150mmカラム(Waters)を使用してAquity H-Class UPLCシステム(Waters)上で実施した。カラム温度を25℃に設定した。サイズバリアントの分離は、0.4mL/分の流速で均一溶媒法を適用することによって行われた。移動相は、100mMリン酸ナトリウム、250mM NaCl pH6.8で構成された。実行時間は、合計で6.0分である。試料は、分析までオートサンプラー内において8℃で保持された。総量3μgのタンパク質を注入した。キャリーオーバーを回避するために、各試料後に40%ACNによる中間注入を実施した。検出は、蛍光(280nmでの励起、325nmでの発光)に基づいた。Empower(登録商標)ソフトウェアを使用してピークの積分を実施した。HMWSの相対的な曲線下面積を報告した(図10)。
熱ストレス(37℃でのインキュベーション)時の化学修飾の存在量をペプチドマッピングによって観測した。タンパク質試料を酵素的に消化し、得られたペプチドを、逆相クロマトグラフィーを使用して分離した。ペプチドの同定及び定量化のために、カラム溶出液を質量分析計のイオン源に直接注入した。
カバレッジを最大化するために、トリプシンによって1回及びキモトリプシンによって1回の、2つの別々の酵素消化を実施した。それぞれの場合にタンパク質を塩酸グアニジウムで変性させ、続いてジチオスレイトール(DTT)で還元した。DTT中でのインキュベーション後、遊離システイン残基をヨード酢酸の添加によってアルキル化した。続いて、消化のために試料を50mMトリスpH7.8に緩衝液交換した。トリプシン及びキモトリプシンをそれぞれ1:10(試料:酵素)の比で別々の反応チューブに加えた。試料を37℃で30分間消化し、トリフルオロ酢酸の添加によって反応をクエンチした。
5μgの量の各消化物を、0.1%(V/V)ギ酸(FA)で平衡化したZorbax SB-C18(Agilent#859700-902)逆相カラムに別々に注入した。0.1%FAを含有する最大90%アセトニトリルまでの156分間の勾配を使用して、ペプチドをQ-Exactive Plus質量分析計(Thermo Scientific)のエレクトロスプレーイオン源に直接溶出させた。データは、フルスキャン(分解能70000;走査範囲200~2000m/z)後に12個の最も豊富なイオンの高エネルギー衝突解離(HCD)(分解能17500)を行う上位12個の方式を用いてデータ依存的な様式で取得した。
ペプチドを、内製のソフトウェアを用いて精密質量及びタンデム質量スペクトルに基づいて同定した。同定は、手動で検証された。修飾及び非修飾ペプチドの相対量を、Pinpointソフトウェア(Thermo Scientific)を用いてイオン存在量に基づいて計算した。
相補性決定領域(CDR)及び半減期延長部分の化学修飾の割合がエラーで参照元が見つからない9に示されている。
図10において実証されるとおり、HMWSの存在量は、CD33cc-scFcがpH4.0で製剤化される場合、pH6.0又はpH7.0と比較して有意に減少する。表7は、37℃で2週間の保管後の製剤の機能に応じた化学修飾の概要を提供する。
表9に概要が示されるとおり、CD33cc-scFcは、pH4.0で製剤化される場合、pH6.0又はpH7.0と比較して化学修飾を受けにくい。
実施例6:
それぞれ精製されたMSLN-hALB、MSLN-hFc及びMSLN-scFcを含有する予め製剤化された原体を、10kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用した限外濾過/ダイアフィルトレーションにより緩衝液交換した。高濃度の原液を加えることによって最終製剤を得た。各コンストラクトについて得られた製剤は、pH6.0において20mMリン酸カリウム、150mM L-アルギニン塩酸塩、6%(w/V)トレハロース二水和物、0.01%(w/V)ポリソルベート80で構成されるK60RTrT及びpH4.0において10mMグルタミン酸塩、4%(w/V)マンニトール、2%(w/V)スクロース、0.01%(w/V)ポリソルベート80で構成されるG40MSuTである。MSLN-hALBは、K60RTrT中で製剤化され、MSLN-scFcは、K60RTrT及びG40MSuT中で製剤化された。タンパク質濃度は、合計1.0mg/mLになった。1950μLの各試験溶液に50μLの1000ppmシリコン標準溶液(AlfaAesarのSpecpure,Art.No.38717)をスパイクして、25ppmのスパイクを得た。スパイクされていない試験溶液は対照試料としての役割を果たした。スパイクされた試験溶液及び対照試料を3ccのI型ガラスバイアルに充填し、37℃で24時間インキュベートした。HMWSの量を定量するために、全ての試料を、実施例4に記載される方法に従ってSE-UPLCにより分析した(表10)。K60RTrT中で製剤化されるとき、MSLN-hALB及び-scFcは、シリコンのスパイク時にHMWSにおいて同様の増加を示した。scFcコンストラクトについて、この増加は、製剤pHを4.0に低下させることによって低減し得ることを示すことができた。予備的な実験によれば、この手法は、5.0以下の製剤pH値で断片化を受けることが明らかになったため、MLSN-hALBで実行可能ではない。
scFcコンストラクトについて、望ましくない高分子量種の増加は、製剤pHを4.0に低下させることによって低減し得ることを示すことができた。予備的な実験によれば、この手法は、5.0以下の製剤pH値で断片化を受けることが明らかになったため、MLSN-hALBで実行可能ではない。したがって、見出された有利な製剤は、第3のドメインとしてのscFcなどの本発明による抗体コンストラクトに特に好適である。
実施例7:
EGFRvIIIを標的化する半減期延長部分を含まない非HLE(半減期延長)BiTE(登録商標)抗体コンストラクト(BiTE(登録商標)A)は、pH4.8の20mMクエン酸一水和物、100mM L-アルギニン一塩酸塩中で製剤化された。4Mの原液を用いて0mM、100mM及び200mMの塩化ナトリウムでこの溶液の画分をスパイクした。各画分の濃度を1mL当たり0.8mgのBiTE Aに調整した。最終溶液を使用準備済の10R I型ガラスバイアルにおいて2.5mLに等分し、これをブチルゴムの栓及びアルミニウムのフリップオフシールで閉じた。これらの溶液を30℃で12週間保存し、各種分析法を用いて安定性を評価した。
SE-UPLCを、Bio Sample Manager-FTN、Bio Quaternary Solvent Manager、タンパク質濃度を決定するためのフォトダイオードアレイ(PDA)検出器からなるACQUITY UPLC H-Class Bio System(Waters、Milford、MA、USA)上で実施した。クロマトグラフィーによる分離を、Acquity UPLC Protein BEH 200 SECカラム(充填済み 1.7μm、4.6×150mm)(Waters、Milford、MA、USA)を使用して行った。カラム温度を25℃に維持した。100μLの各試料溶液を、PTFE/シリコンセプタムを伴うガラススクリューネックバイアル(Waters、Milford、MA、USA)に充填した。オートサンプラーを8℃で温度管理した。
1回の分析当たり約0.8mg/mLのタンパク質濃度で3.8μLの注入量に相当するカラムにロードされた3μg/試料を用いて、試料を二つ組で測定した。pH6.8の100mMリン酸ナトリウム緩衝液及び追加の250mM塩化ナトリウム緩衝液の移動相を用いて、0.4mL/分の流速で均一溶媒条件下において試料の溶出を実施した。チャネルAにロードされた500mMリン酸二水素ナトリウム、チャネルB上の500mMリン酸水素ナトリウム、チャネルC上の1M塩化ナトリウム及びチャネルD上のHPLCグレード水を有するシステムにより、ランニング緩衝液を自動で事前に混合した。試料の分析間に10μLの40%アセトニトリルを注入した。各分析の最初、中間及び最後にタンパク質標準を測定してシステムの適合性を確保した。実行時間を6分に設定した。
溶出された試料を、280nmの波長で決定されたUV吸収によって検出した。クロマトグラムの取得及び積分を、Empowerソフトウェア(Waters、Milford、MA、USA)を用いて実施した。試料の濃度決定のために曲線下面積(AUC)に関してクロマトグラムを分析した。値は、対応する標準偏差を有する三つ組の独立した試料の平均値として与えられる。タンパク質濃度は、以下の式を用いて計算された:
式:mAU*Sにおける曲線下面積(AUC)値からmg/mLの試料濃度を計算する。パラメータは、表11において概説される。
製剤及び保管時間に応じたBiTE(登録商標)A製剤のタンパク質濃度が表12において示される。タンパク質濃度は、塩化ナトリウムの非存在下で時間が経過しても一定であるが、塩を含有する製剤においてタンパク質の著しい減少が観察された。タンパク質の減少は、200mM塩化ナトリウムを含む製剤において最も顕著であった。
光遮蔽を適用して、BiTE(登録商標)A製剤内の10~25μmより大きいサブビジブル粒子の量を測定した。光遮蔽測定を、HRLD 150センサーを備えたHIAC 9703+液体粒子計数システム(Beckmann Coulter、Brea、CA、USA)上で実施した。データの取得及び分析を、対応するPharmSpec 3ソフトウェアを用いて行った。試料分析前にシステム適合性をEZYTM-Cal粒径標準5μm(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)及びEZYTM-Cal粒径標準15μm(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)の測定によって検証した。
各試料について、4回の測定を0.2mL試料体積で10mL/分の流速において実施した。最初の分析は、破棄されるため、粒子濃度は、後の3回の測定の平均として得られた。試料測定前及び測定間に空試験を実施した。粒子を含まない水の粒子濃度を決定して、最大量で10個の粒子/mL≧2μm及び1個の粒子/mL≧10μmを担保する。10~25μmより大きい粒子に関するサブビジブル粒子濃度は、独立した三つ組の平均値として得られる。
表13は、製剤及び保管時間に応じたBiTE(登録商標)A含有製剤に関するサブビジブル粒子の個数を概説している。サブビジブル粒子の個数は、塩化ナトリウムの非存在下で最低であり、時間の経過によりわずかに変化した。塩化ナトリウムの添加により、同等の最初の粒子数が得られた。しかしながら、サブビジブル粒子の量は、塩の存在下で時間の経過とともに著しく増加した。これは、含有する製剤のコロイド安定性が塩化ナトリウムの非存在下で向上することを実証している。
BiTE(登録商標)A含有製剤をナノ示差走査熱量測定(nanoDSF)によって熱的に分析した。各様に製剤化されたBiTE(登録商標)A製剤のアンフォールディング及び凝集挙動を、Prometheus NT.48機器(NanoTemper Technologies、Munich、Germany)及び対応するPRThermControlソフトウェア(NanoTemper Technologies、Munich、Germany)を使用して観測した。タンパク質がアンフォールディングする温度Tmの分析及び凝集温度Taggの検出のために、1試料当たり10μLを、毛管力によってPrometheus NT.48の標準的なキャピラリ(NanoTemper Technologies、Munich、Germany)に充填し、機器内に置いた。試料を三つ組で測定した。温度勾配を1℃/分の加熱速度で20℃から95℃にすると定義した。
データ分析を、Prometheus PRThermControlソフトウェア(NanoTemper Technologies、Munich、Germany)を使用して実施した。熱的なアンフォールディング実験の場合、蛍光比(F350nm/F330nm)のそれぞれの一次導関数を温度に対してプロットした。凝集の検出について、散乱光強度のそれぞれの一次関数を温度に対してプロットした。
タンパク質がアンフォールディングする温度(Tm)及び凝集温度(Tagg)は、三つ組から計算された標準偏差を伴う平均値として表14において示される。アンフォールディング(Tm)及びタンパク質凝集(Tagg)は、塩化ナトリウムの非存在下でより高い温度において生じることが実証された。これは、塩を含まない製剤の立体構造安定性及びコロイド安定性が増したことを示す。
実施例8:
C末端に単鎖Fcドメインを含有し、BCMAに特異的なドメイン中に追加のシステインクランプを有する(BiTE(登録商標)F)及び有しない(BiTE(登録商標)E)BCMAを標的化する2つのBiTE(登録商標)抗体コンストラクトをpH4.8の10mM L-グルタミン酸、9%(w/v)スクロース中で製剤化した。4Mの原液を用いて0mM、100mM及び200mMの塩化ナトリウムでこの溶液の画分をスパイクした。各画分の濃度を1mL当たり0.8mgのBiTE(登録商標)に調整した。最終溶液を使用準備済の10R I型ガラスバイアルにおいて2.5mLに等分し、これをブチルゴムの栓及びアルミニウムのフリップオフシールで閉じた。これらの溶液を30℃で12週間保存し、各種分析法を用いて安定性を評価した。
実施例7に記載されるとおりにSE-UPLCを実施した。280nmの励起波長を使用して、325nmでの蛍光発光強度を測定することによって検出を行った。相対的な曲線下面積(AUC)は、低分子量種(LMWS)に起因する。表15において示されるとおり、経時的なLMWSの形成は、塩化ナトリウムの非存在下でより少なくなり、塩を含まない製剤の安定性の向上を示す。
実施例7に記載されるとおりに光遮蔽を実施した。製剤並びに保管に応じたBiTE(登録商標)E及びBiTE(登録商標)Fにおけるサブビジブル粒子の存在量が表16において示される。サブビジブル粒子は、塩を含有する製剤と比較した場合、保管時間に依存せずに塩化ナトリウムの非存在下でより少なくなった。これは、塩を含まない製剤中のBiTE(登録商標)EとBiTE(登録商標)Fのコロイド安定性の向上を示す。
BiTE(登録商標)E及びBiTE(登録商標)F製剤を、実施例7に記載される方法を使用して、ナノ示差走査熱量測定(nanoDSF)によって熱的に分析した。タンパク質がアンフォールディングする温度(Tm)及び凝集温度(Tagg)は、三つ組から計算された標準偏差を伴う平均値として表17において示される。0mM又は100mMの塩化ナトリウムを含有する製剤と比較した場合、200mMのNaClの存在下において、アンフォールディング(Tm)がより高い温度で生じることが実証された。タンパク質凝集は、試験された温度範囲において塩を含まない製剤で検出されなかった。反対に、タンパク質凝集は、塩化ナトリウムを含有する製剤において観察された。凝集温度は、塩濃度が高くなるほど低くなった。上記の結果は、塩を含まない製剤の立体構造安定性及びコロイド安定性が増したことを示す。