JP7187605B2 - 耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金 - Google Patents
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本発明は、高温用材料として使用される、耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金を提供することを課題とする。
TiCの個数密度(個/mm2)+9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm)≦463 ・… (1)
[1]質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し、残部がFeおよび不純物よりなり、円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が以下の(1)式を満足することを特徴とする耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)
[2]前記Feの一部に替え、さらに質量%で、B:0.0002~0.0030%,Sn:0.05%以下、Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
[3]溶接構造物に用いられる[1]または[2]記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
<成分組成>
Cは、高温材料、耐熱合金の強度を確保するために添加される。特に高温強度特性が必要な場合は0.015%以上,好ましくは0.05%以上添加する。その上限を0.15%以下の含有量に制限する。本合金ではCはTiC析出物として合金中に存在するが、0.15%を超えて含有させるとCr炭化物が生成するようになり、高温特性および耐食性が劣化する。好ましくは0.10%以下、更に好ましくは0.085%以下である。
Siは、脱酸および耐酸化性向上のため0.05%以上、好ましくは0.2%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えて添加すると鋼の凝固割れ感受性を低下させるとともに金属間化合物が析出しやすくなり、高温特性が劣化する。そのため、上限を2.0%に限定する。好ましい上限は1.5%,更に好ましい上限は0.8%である。
Mnはオーステナイト相の安定度を増加させ耐熱性を改善する効果を有する。このため、本発明合金では積極的に添加することが好ましい。耐熱特性の改善のため0.05%以上、好ましくは0.2%以上,更に好ましくは0.3%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えて添加すると逆に金属間化合物が析出しやすくなり耐熱特性が劣化する。そのため、上限を2.0%に規定する。好ましい上限は1.5%、さらに好ましい上限は1.3%である。
Pは原料から不可避に混入する元素であり、凝固割れ感受性を高める作用を有するため、0.035%以下に限定する。好ましくは、0.030%以下である。
Sは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性、耐酸化性をも劣化させるため、0.0015%以下に限定する。Sは精錬により含有量を低下させることが可能な元素であるが、極端な含有量の低下はコストアップとなる。コストアップの観点から好ましいS含有量の下限は0.0003%である。
Crは、高温用材料としての耐熱合金の耐酸化性をになう必須の元素であり、16%以上、好ましくは18%以上を含有させる。一方で、30%を超えて有させると、Niを多く含有させたとしても高温組織安定性が低下し、金属間化合物が析出するようになり、耐熱特性を劣化させる。好ましい上限の値は28%,更に好ましい上限は26%である。なお、最適な含有量はNi,Si,Moやその他の元素の含有量により異なってくる。たとえばNiが30%程度の場合、Crは20%程度が最適である。あるいはNi+Cuが45%程度の場合、Cr+Moが25%程度が最適な含有量である。
Niは、高温でのオーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、靭性をも改善するため、18%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上含有させる。Ni含有量を増加することにより、耐熱特性のために必要なCr,Mo,Al,Tiをより多く含有させることが可能になる。一方Niは高価な合金であり、本発明鋼ではコストの観点より上限を50%、好ましくは48%、更に好ましくは45%に規定する。
Alは、脱酸元素であるとともに高Ni合金中でNiAl規則相を形成し高温強度を高める作用を有する。本発明では、酸化物の組成を制御して熱間加工性を高めるために、0.01%以上、好ましくは0.05%以上の含有が必要である。一方でAlが1.0%を超えると金属間化合物が析出しやすくなって耐熱特性を阻害するようになる。また、過剰に含有すると溶接高温割れ感受性、本発明においては溶接時のHAZ割れ感受性を低下させる。このためその含有量の上限を1.0%と定めた。好ましい上限は0.60%である。
Tiは、高Ni合金中でNiTi規則相を形成し高温強度を高める作用を有する。このためには0.01%以上、好ましくは0.15%以上の含有が必要である。一方でTiが1.5%を超えると金属間化合物が析出しやすくなって耐熱特性を阻害するようになる。また、過剰に含有すると溶接高温割れ感受性、本発明においては溶接時のHAZ割れ感受性を低下させる。好ましい上限は1.0%である。
Nは、高温強度向上に有効な元素であり0.35%までの添加が可能である。ただし、本発明ではTi,Alを積極的に添加する。AlまたはTiを合計で0.3%以上添加する場合は、AlNまたはTiNを生成して非金属介在物となり材料特性を劣化するとともに、酸化物と複合化して連続鋳造時のノズル閉塞を促進する有害な元素となる。このため、これらの元素が0.3%以上添加されている場合、Nの含有量の上限は0.02%以下とすることが好ましく、さらに好ましい含有量は0.01%以下である。
酸素は、本発明合金中でCa,Mg,Al,Tiとの間に酸化物系介在物を形成する。酸素の含有量は酸化物系介在物の総量に対応し、合金の脱酸状態の指標ともなる重要なものである。その含有量が0.003%を超えると所望の脱酸平衡を満足しなくなるとともに、連続鋳造時のノズル閉塞を発生しやすくなる。加えて、本発明の骨子である溶接高温割れ感受性に対しても、高温割れ感受性増大の主要因である液化割れの起点として作用する粗大なTiC系析出物の生成を促進する。そのため、酸素含有量の上限を0.003%と定めた。好ましい上限は0.0025%である。一方、酸素量の過度の低減は合金中に過剰Caや過剰Mgを発生させやすくなる。そのことがMgO系介在物が優先的に形成され粗大なTiC系介在物をかえって増加させたり、または過剰Mgの粒界偏析が助長されることによる粒界強度の低下を生じさせたりすることで、溶接高温割れ感受性をかえって増大させてしまうことがある。このため、溶接高温割れ感受性を低位安定化させるためには、酸素含有量の下限を0.0005%とすることが好ましい。
Moは、耐熱合金の強度を高める元素である。耐熱性改善の目的のために添加する場合は0.05%以上、好ましくは0.2%以上含有させる。一方で高価な元素であり、本発明鋼では本鋼の合金コストを抑制する観点より8%の含有量を上限とする。好ましい上限は3%、更に好ましい上限は2%である。Moは含有しなくても良い。
Cuは、合金の酸に対する耐食性および高温機器でしばしば問題となる耐露点腐食性を高める元素であり、かつ高温強度および組織安定性を改善する作用を有する元素である。これらの耐熱性・耐食性改善のために添加する場合は0.05%以上、好ましくは0.1%以上含有させる。一方、4%を超えて含有させると凝固時に脆化を発生するようになるので上限を4%とした。Cuの好ましい上限は3.0%,更に好ましい上限は2.0%である。Cuは含有しなくても良い。
Coは合金の高温組織安定性と耐食性を高めるために有効な元素であり、添加する場合はこれらの特性改善のために0.1%以上含有させる。3.0%を超えて含有させると高価な元素であるためコストに見合った効果が発揮されないようになるため上限を3.0%と定めた。Coの好ましい上限は1.5%である。Coは含有しなくても良い。
Caは、合金の熱間加工性および溶接高温割れ感受性を改善するための重要な元素であり、合金中のSをCaSとして固定し、熱間加工性を改善するために含有させる。この反応は、以下のようになる。Caは、合金中の酸素と結合してCaO、CaO-Al2O3を生成し、合金中の溶存酸素(Free酸素)をほとんどゼロとしたのちに、残余のCaと合金中のSが反応してCaSを生成する。本発明合金ではその目的のためにCaを0.0003%以上、好ましくは0.0010%以上含有させる。一方で、過剰なCa添加はノズル閉塞等の製造上の問題を引き起こすだけでなく、CaO-MgO-Al2O3系介在物の増加もしくは過剰Caの粒界偏析により液化割れ感受性の増大および1100℃近傍の熱間加工性低下を生じさせる。このため、Caの含有量の上限を0.0050%とした。
Mgは、一般的には微量であれば合金の熱間加工性の改善の効果が得られる元素である。本発明においてはMg添加により、溶接時のHAZ割れ感受性を高めるMgO系の介在物生成を促進するという悪影響がある。加えて酸化物を生成しない余剰なMgは粒界に偏析して高温域(例えば900℃)における粒界強度を低下させることにより高温域での熱間加工性の低下およびHAZ割れ感受性の増大を生じさせる。本発明の鋼を製造するにあたり、後述のように脱酸強化を行うと、スラグや炉壁等から必然的にMgのピックアップが生じる。以上の知見より本発明ではMgの含有量を極力低減することが必要であり、Mgの合金添加は行わない。Mgの含有量の下限値は定めない。含有量の上限は0.0060%であり、好ましい上限は0.0040%、更に好ましい上限は0.0030%である。
TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1)
TiCの個数密度(個/mm2)は、合金断面の一定の測定視野におけるFE-SEM-EDS分析によって求められるTiおよびCを含有するTiC系析出物(円相当径1.0μm以上)の個数密度である。ここでTiCの生成過程について説明する。高温液相中ではTiNが優先的に生成していくのに対し、TiCは固液共存域から固相域で析出する。TiCの大半は0.2μm程度もしくはそれ以下で微細析出するが、一部高温域で生成するTiCはその多くが介在物の周囲に生成し、中には1μm~数μm程度まで粗大化するものもある。このように粗大化したTiC系析出物が粒界に存在すると、溶接時の入熱によりTiC中のC,Tiがマトリックスに拡散しTiC/素材界面の融点を低下させ、HAZ部で生じる液化割れの起点となる。
TiCの個数密度(個/mm2)≦463―9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm)・… (1)
酸素濃度の低減とMgピックアップの抑制を両立させるため、二次精錬時にSiよりも脱酸力の強いAl,Tiを活用した脱酸・脱硫を十分行ったのちに、二次精錬工程の出鋼直前、または連続鋳造時のCa添加による脱酸・脱硫を行う。CaはMgよりも酸素と反応しやすいので、Ca脱酸することにより、Mgを用いることなく酸素濃度を低減することができる。これに加えて、二次精錬時に生じるMgのピックアップを極力抑制できるスラグ組成にて製造する必要がある。具体的にはスラグ中に含まれるMgOを極力低減させたスラグ組成で管理する必要がある。スラグ中のMgOは10%以下とすることが好ましい。スラグ組成の塩基度を高くした場合はMgO投入量を更に厳しく制限する必要があるが、一方でスラグラインの煉瓦もしくは原料起因によるMgOの不可避的混入が避けられないことから、5~10%程度のMgO混入を想定した上で、鋼へのMgのピックアップを抑制する考え方が必要となる。そのためにはスラグの塩基度はむしろ低位とすることが好ましく、具体的にはスラグ中のCaOとAl2O3の質量比C/Aを1.5以下、好ましくは1.0以下とすることが望ましい。あわせてスラグ中のCaOとSiO2の質量比C/Sは4以下、好ましくは2以下とし、酸素とSの質量%の総量が15~35ppmとなる程度の脱酸を行うとよい。加えて、Ca添加直後にはスラグからのMgのピックアップによりMg濃度が上昇する場合がある。従い、Caの添加は連続鋳造時よりも二次精錬時の最終工程でCa添加を行う方が好ましく、その場合でも連続鋳造への移行の5分前もしくはそれ以上前にCa添加を行うことが好ましい。なお、融点調整のためのCaF2添加も炉体損傷が生じない範囲であれば実施することができる。
B:0.0002~0.0030%
Bは鋼の熱間加工性を改善する元素であり、熱間加工の高温域の絞りを格段に向上する。このため、請求項2ではBが含有される。Bの熱間加工性の向上機構は明確ではないが、粒界に偏析することで粒界強度を高めると言われる。B含有による熱間引張の改善効果は0.0002%以上で発現することから、B添加する場合は下限を0.0002%とする。一方で、過剰な添加は凝固割れを促進するため、その含有量の上限を0.0030%に定めた。好ましい上限は0.0015%である。
Zn+Pb+Bi:0.0010%以下
Zr:0.5%以下
Hf:0.5%以下
La+Ce+Nd:0.0050%以下
Snは鋼の耐食性、高温クリープ強度を向上させる元素であり、必要に応じ添加することができる。ただし、0.05%を超える添加は熱間加工性を低下させるため、上限を0.05%と規定した。また、Pb,Zn,Biもオーステナイト単相系の合金では熱間加工性を著しく低下させるため、上限を厳しく規定する必要があり、Pb,Zn,Biの合計で0.0010%以下に規定した。
Zr,HfはいずれもP,Sを固定することで鋼の凝固割れ感受性,耐高温酸化性を向上させる効果があり、必要に応じて添加することができる。一方で0.5%を超える多量の添加は熱間加工性等の製造性および表面性状を低下させる。従い、これらの添加量上限をそれぞれ0.5%に規定した。
La,Ce,NdはいずれもP,Sの固定により耐酸化性、凝固割れ感受性を改善する元素であるが、その一方で合計で0.0050%を超える添加はTiC系析出物の増加を促進し鋼の液化割れ感受性を増大させる。従い、含有量の上限をこれらの元素の総和で0.0050%と規定した。なお、これらの元素の添加方法としては、各々の金属もしくは合金での添加、ミッシュメタルでの添加などの方法がある。
Wは、Moと同様に耐熱合金の強度を高める元素であり、必要に応じて添加することができる。本発明鋼において耐熱性を高める目的のためには3%を上限に含有させる。
V,Nb,Taについて説明する。V,Nb,Taは何れも必要に応じて添加することができ、合金の高温特性を向上させる作用を有する。コストに見合った含有量とするため、Nb、Taの含有量の上限を1.0%と定めた。好ましい含有量上限は0.8%である。Vの含有量上限は0.5%とした。添加する場合の含有量の下限はVでは0.01%,Nb、Taの場合は0.002%、いずれも好ましくは0.03%である。また、好ましい含有量範囲は、0.03%~0.8%である。
TiC個数密度(個/mm2)=463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm)
を示す線である。また表2には、「TiCの個数密度(個/mm2)+9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm)」の値を「X」として示している。
一方、鋼番B1~B8が比較例である。Ca添加後からの出鋼までの時間を短縮したB1~B5のうち、B1、B2、B5については鋼中Mg濃度が高く、B3、B4は鋼中酸素濃度が高かったためにTiC個数密度が高かった。脱酸強化元素であるCa、TiまたはAlを過剰に添加したB6~B8に関してはそれぞれ鋼中Mg濃度あるいはTiC個数密度が高かった。そのため、鋼番B1~B8のいずれも表2のXの値が463より大きな値を示し、即ち(1)式を満足せず、HAZ割れ総長さの値が1mmを大幅に上回った。本発明の要件を満たさない比較鋼B1~B8はHAZ割れ感受性が急激に増大していることが明らかである。
拡大する高Ni合金の需要に対して安定的な溶接品質を提供することができるようになり、産業の発展に寄与するところは極めて大である。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.35%以下、O:0.003%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0003~0.0050%、Mg:0.0060%以下を含有し、残部がFeおよび不純物よりなり、円相当径1.0μm以上のTiC系析出物の個数密度と鋼中Mg含有量の関係が以下の(1)式を満足することを特徴とする耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
TiCの個数密度(個/mm2)≦463-9.5×鋼中Mg濃度(質量ppm) ・… (1) - 前記Feの一部に替え、さらに質量%で、B:0.0002~0.0030%,Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
- 溶接構造物に用いられる請求項1または請求項2記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
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