JP7182348B2 - 樹脂組成物、成形体、電子部品、電子機器、及び電子事務機器 - Google Patents
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Description
しかしながら、有機リン酸エステル系難燃剤が配合されたポリカーボネートを含む樹脂組成物では、近年要求されるような薄肉化や高い難燃化に応えることが困難であった。また、この樹脂組成物では、高い難燃性を得る目的で難燃剤の配合量を多くした場合に、耐衝撃性や剛性が著しく低下してしまうという問題を有していた。
しかしながら、前述のような炭素繊維強化ポリカーボネート樹脂もやはり、難燃性や耐熱性の低下が課題となり、更には、耐衝撃性も著しく低下するという欠点も有していた。
本発明の樹脂組成物は、
ポリカーボネートと、リン含有化合物とを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物における前記リン含有化合物の含有率が、14質量%未満であり、
前記リン含有化合物が、下記一般式(1)で表されるホスファゼン誘導体、及びリン酸エステルを含有し、
前記樹脂組成物における前記ホスファゼン誘導体の含有率が、0.1質量%以上3.0質量%未満であり、
UL94V試験における燃焼前の前記樹脂組成物の樹脂比重(D0)と、燃焼後の前記樹脂組成物の樹脂比重(D1)とが、D1/D0>0.85を満たす。
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネートと、リン含有化合物とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記樹脂組成物における前記リン含有化合物の含有率は、14質量%未満である。
前記リン含有化合物は、下記一般式(1)で表されるホスファゼン誘導体、及びリン酸エステルを含有する。
前記樹脂組成物における前記ホスファゼン誘導体の含有率は、0.1質量%以上3.0質量%未満である。
UL94V試験における燃焼前の前記樹脂組成物の樹脂比重(D0)と、燃焼後の前記樹脂組成物の樹脂比重(D1)とは、D1/D0>0.85を満たす。
前記リン含有化合物は、難燃剤である。
近年高い難燃性樹脂組成物を製造するためにポリカーボネート系のポリマーアロイが注目され、その難燃化手法として耐熱性のある発泡炭化層を形成し樹脂を自己消火性にするイントメッセント系の難燃剤が注目され開発されているが、燃焼試験に通過しても、発泡に伴う樹脂の変形で電子機器の機能を阻害する問題があった。
また、特表2005-501953号公報に示されたホスファゼン誘導体は環状構造でつながった高分子量体であり、高分子に分散させると相容することができず分散不良が生じる問題があった。
概してホスファゼン誘導体は、高い難燃性を有しながらも、P=N骨格という構造のため、C-C結合でつながった高分子への分散性は悪い。
本発明は、このような課題に鑑みて創案されたものであり、薄肉成形体とした場合にも十分に使用に耐え得る、万が一の燃焼時にも変形しにくい難燃性、剛性、耐衝撃性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、難燃性、剛性、耐衝撃性に優れた成形体を提供することも目的とする。
さらに電子事務機器の内装部品で高い力学物性が要求される部品では、力学物性が良好でUL94-V2試験に合格した難燃性樹脂が用いられている。
しかし、UL94-V2試験では、樹脂が燃焼時に溶融し、それが落下したときの吸熱で自己消火に至る難燃性樹脂でも合格する。このような難燃性樹脂では、成形体の形状あるいは部品における成形体の配置、その成形体がもらい火をしたときの燃焼部分の位置によっては自己消火に至らず発火する危険があった。
本発明では、UL94-V2試験よりも難燃性のレベルが高いUL94-V0レベルの難燃性樹脂組成物を目標とし、本発明の樹脂組成物よりも難燃性レベルの低い難燃性樹脂と組み合わせた部品の難燃性のレベルを向上する技術の提供も目的とする。
すなわち、本発明では、燃焼時に変形の原因となる発泡反応で低密度化した発泡炭化層を形成しない新たな難燃化手法により樹脂を難燃化し、燃焼前後における樹脂の密度あるいは比重が大きく変化するのを防ぎ、燃焼時に成形体の変形を防止する手法、及び本発明の樹脂と他の樹脂と組み合わせた時に高い難燃性を有した部品となるように樹脂の成形体を最適に配置する技術を見出した。
これを実現するために、特定の環状ホスファゼン誘導体とリン酸エステルとの組み合わせを特定量で添加して難燃性樹脂を製造したところ、樹脂に高い難燃性を力学物性が損なわれることなく付与できる技術を見出し本発明を完成させた。
また、この技術で製造された本発明の樹脂は高温度において変形しにくいことを発見し、燃焼時の変形しやすさを成形体の荷重たわみ温度(ASTM-D648)で評価したところ、このパラメーターに相関し、高い難燃性を示す樹脂の垂直試験として有名なUL94-V0に合格するサンプルでは、このパラメーターの値が高くなる傾向にあることを見出した。
一般に樹脂の耐熱性は、樹脂の弾性率が急激に低下するガラス転移点(Tg)を基に見積もられる。また、荷重たわみ温度は、その評価方法からTgに近い値になることが知られている。たとえばPS(ポリスチレン)のTgは100℃前後であり荷重たわみ温度は、90℃前後である。PC(ポリカーボネート)のTgは150℃前後であり、荷重たわみ温度は140℃前後と測定される。
しかし難燃剤が添加された難燃性樹脂では、難燃剤が可塑剤として働くためにTgと荷重たわみ温度との相関が見られなくなる。そこでUL94の垂直試験において変形しやすいサンプルとこれらパラメーターとの相関を調べたところ、難燃性の高さと荷重たわみ温度とが相関していることを発見した。
すなわち本発明の一態様の、PCが主成分の難燃性樹脂では、10℃/minの昇温速度の条件によりDSCで測定されるTgは、一般に130℃から150℃の範囲で観察されるが、荷重たわみ温度は90℃から140℃の範囲で観察される。
驚くべきことに燃焼試験時に生じるサンプルの変形は、本発明の樹脂では荷重たわみ温度と相関し、この温度が90℃以上になると難燃性も高くなり、燃焼試験時の試料の変形が無くなる。静的な耐熱性はTgと相関することが知られているが、負荷をかけたときの変形温度を測定する荷重たわみ温度と燃焼試験時の変形が相関するのは本発明で初めて明らかになった。
このように、本発明の難燃性樹脂は高い難燃性を有しているだけでなく、燃焼時の温度で変形しないので、他の材料と組み合わせた部品では火災時に部品が破損に至る可能性が少なくなると期待される。
この特性により、他の装置あるいは部品からのもらい火で燃焼する状況でも、変形をせず高い難燃性で自己消火性を示す。そこで、難燃性の低い材料と特定の条件で組み合わせて部品を設計すると燃焼時にその部品は本発明の樹脂と同等の高い難燃性を発揮できるようになる。
すなわち、電子機器の内装部品では、一般にUL94-V2レベルの難燃性樹脂を用いているが、このUL94-V2レベルの樹脂と組み合わせて使用したときに、内装部品の難燃性を向上することができる。
本発明における樹脂の密度あるいは比重は、樹脂の重量と水の浮力から求められる体積を用いて計算する。密度と比重は異なる物理パラメーターであるが、本発明では水の密度が0.999g/cm3から1.000g/cm3となるように調整して測定するので密度も比重も有効数字3ケタとすると同じ値になる。ゆえに、本発明では比重を用いて説明する。
また、本発明の測定方法では、燃焼時の発泡が著しい難燃性樹脂は比重が1未満となり、本発明の方法で比重を計測することが出来ない。しかしこのような樹脂は本発明の目的を達成できない。燃焼前の樹脂の比重が1.000未満の場合は、良好な力学物性とはならないので、本発明に含めない。
すなわち、本発明の目的を達成するためには、燃焼試験前と後における体積測定において、まず樹脂が水に沈まなければならない。燃焼試験前後で水に沈む樹脂が好ましく、その中で、燃焼試験前の樹脂の比重D0と燃焼試験後の樹脂の比重D1の比、D1/D0が特定の値となる難燃性樹脂がより好ましい。
この値(D1/D0)が0.85以下であると燃焼試験サンプルだけでなく製品に用いられる成形体の燃焼時の変形がひどくなるので好ましくない。0.9以上であれば燃焼試験サンプルにおいても大きな変形が見られず好ましい。
樹脂の体積は、1000cc未満の水を1℃以上15℃未満の雰囲気で24時間以上放置し計測に必要な量を取り出した水で測定する。そしてこの水に樹脂サンプル全体を沈めたときに、1℃以上15℃未満の雰囲気で受ける浮力をg単位で測定し、1.000g/cm3でその数値を除してその樹脂の体積Vとする。
あらかじめ測定されていた樹脂の重量をこの体積Vで除して比重Dを求める。
燃焼前のサンプルについてあらかじめこのように比重D0をもとめ、燃焼後のサンプルについても同様に比重D1をもとめ、D1/D0を計算する。本発明の好ましい実施態様では、この値(D1/D0)が0.85超となる。
また、燃焼後樹脂の比重が上がり、この値(D1/D0)が1.1以上と変化した場合でも本発明の目的を達成できる。ただし、1.1以上の場合には燃焼後に高密度の炭素が多く生成し脆くなっているので、1.1以下がより好ましい実施態様となる。
この切り出し幅を決める燃焼面とは、燃焼前に炎と垂直に接していた面と平行な面の一つであり、燃焼後自己消火してできた面についてこの面を仮定して決める。
水の放置温度については、15℃を超えると体積の誤差が増加するので好ましくなく、0℃未満の放置では、0℃以下で水は氷るため、放置後計測に使用できない場合があり好ましくない。
また浮力の測定温度も水の放置環境と等しくして測定することが好ましい。ただし15℃以上でも水の比重を温度で補正すれば正確な体積を測定することができるので本発明の目的を達成できこれを制限しない。水の放置温度や浮力の測定温度は、本発明に制限を加えるものではない。
また浮力の測定方法の一例を説明すると、天秤の上に水の入ったビーカーを載せて、糸で吊るした樹脂を100%沈めて計測する。この時糸の太さが1mm以上であると誤差が大きくなるので好ましくない。好ましくは0.5mm未満、さらに好ましくは0.2mm未満の太さの糸を使用して浮力を測定する。
高分子の難燃化技術において、高い難燃性が得られる技術として、イントメッセント系の難燃化技術が公知である。これは、燃焼面に発泡炭素層を形成させる技術で、最近のUL94-V0以上の規格を通過する技術ではこの手法が用いられている。すなわち自己消火後の燃焼面の比重を計ると、発泡炭化層の形成により、燃焼前よりも密度が下がる。これが従来技術である。
例えば、前記樹脂組成物において、前記リン酸エステルは揮発性であるため、発泡しやすく、前記リン酸エステルによって燃焼面の比重は下がる傾向がある。例えば、難燃剤としてリン酸エステルのみを使用した難燃性樹脂組成物の燃焼後のサンプルから炭素部分だけ切り出すと水に浮く(即ち比重が1未満である)。
一方、本発明の前記樹脂組成物のごとく、前記ホスファゼン誘導体を併用すると、前記ホスファゼン誘導体は燃焼時に揮発しないため炭素層に少なくとも50%以上残存する。このホスファゼン誘導体の熱分解物は比重が2前後であり、それが炭素層に残ると、例え炭素層が多少発泡していても燃焼面の炭素層は水に沈む傾向がある(即ち、炭素層の比重は1超である)。
したがって、従来技術の難燃性樹脂組成物では、燃焼後の比重の方が小さいため、D1/D0が0.85以下となるところ、本発明の前記樹脂組成物は、D1/D0が0.85超となる。
本発明に用いるホスファゼン誘導体を14質量%用いてPCを難燃化すると、発泡せず自己消火性を示し、燃焼後の比重はやや増加する。ホスファゼン誘導体だけを用いても難燃性を達成できるが、ホスファゼン誘導体を14質量%含有すると樹脂の力学物性の低下を招くので好ましくない。この力学物性の低下については衝撃強度が著しく低下するのでホスファゼン誘導体が樹脂中に凝集体を作って分散しているのではないかと仮定している。この仮定において、ホスファゼン誘導体の含有率は10質量%未満が好ましく、さらに3.0質量%未満であればより好ましい。
即ち、前記樹脂組成物における前記ホスファゼン誘導体の含有率が、0.1質量%以上3.0質量%未満であることが好ましい。
難燃性樹脂Aと難燃性樹脂Bとは接触させて部品を組み立ててもよく、その隙間は0でもよい。すなわち、Bは、Aから下方0.0001cm以上離れた位置にあるのが好ましい。上限は特に定めないが、下方3cm未満であるとAからの溶融物を補足できるので好ましい。
このとき、難燃性樹脂Aの代わりに難燃性樹脂Bを構成する難燃性樹脂で製造するのは、難燃性樹脂Bからの溶融物でもらい火が生じるので好ましくない。
また、Bは、Aに接触した位置にあっても良い。
難燃性樹脂Bは、試験中に溶融物が生じ、溶融現象による吸熱効果でUL94-V2に合格する難燃性樹脂でできている。好ましくは、極限酸素指数(LOI)は18以上であり、さらに好ましくは19以上である。
本発明の難燃性樹脂AのLOIについては、上限を特に定めないが、燃焼時に溶融物を生じない樹脂なのでLOIを28以上にしたい場合には、難燃剤が大量に必要となり、力学物性が低下するので好ましくない。
難燃性樹脂Bに用いる難燃剤は、西沢仁監修「高分子の難燃化技術」シーエムシー出版(2002年発行)に書かれている難燃剤であり、本発明はこれを特に制限しない。本発明の目的には、溶融物が生じてもUL94-V2レベル以上の燃焼試験に合格した難燃性樹脂であれば良い。
その側鎖基を形成する化合物は、脂肪族系化合物、芳香族系化合物など何でも良いが、芳香族環を含む化合物がホスファゼン誘導体の安定性のためとリン酸エステルへの溶解性のために好ましい。R1とR2のいずれかがハロゲン原子であると公知のようにホスファゼンの安定性が悪くなるので好ましくない。
これらの中でも、R1及びR2は、フェニル基が好ましい。
但し、環状ホスファゼン誘導体が、合成時の反応条件で2個以上連結しないのであれば、多官能の化合物もホスファゼン誘導体に用いることができる。
前記含有率が、0.1質量%未満では、含有量が少なくて本発明の目的を達成できない。3.0質量%を超えて含有すると、混練時に難燃性樹脂の中で凝集しやすくなるので好ましくない。前記含有率が、3.0質量%未満であると、難燃性樹脂の中でその存在率が下がり、凝集しにくくなり、本発明の目的を達成しやすくなる。
本発明で併用されるリン酸エステルは、之まで述べたホスファゼン誘導体の凝集を防ぐために併用される。
ゆえに前記リン酸エステルは混練される温度で溶融することが好ましい。すなわちリン酸エステルは融点(Tm)を持つ化合物で、Tmは300℃未満が好ましく、200℃未満がさらに好ましく、100℃未満が特に好ましい。最も好ましいTmの下限は0℃以上であるが混練時に溶融状態になれば、Tmの下限については本発明で制限しない。しかしTmが-40℃未満であると樹脂に分散したときに時間が経過すると表面へ浮き出る現象、ブリードアウトが激しくなるので好ましくない。
前記リン酸エステルの中には、3次元化し混練時に溶融せずTmを持たない化合物も存在し、本発明でこのような化合物は好適ではない。
例えばトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、ジフェニルモノ(アルキルフェニル)ホスフェートまたはトリフェニルホスフェートの中の一つまたは2種以上の混合物、あるいは下記一般式(2)で表される化合物の一つまたは2種以上の混合物である。
また前記ホスファゼン誘導体との併用で合計含有量が5質量%未満では、十分な難燃性が得られないことがある。好ましくは含有されるリン含有化合物の合計は、8質量%以上である。
リン含有化合物は、あらかじめPC以外の高分子Aに分散して用いると、製造される本発明の難燃性樹脂が高温度において熱変形しにくくなるので好ましい。
このとき、ホスファゼン誘導体以外を高分子Aに分散後、ホスファゼン誘導体とPCとともに混練する方法も好適である。
また、本発明の目的を達成できるならば、一度の混練で組成物を製造することも、その他の組み合わせで混練することも制限しない。
ただし、前記リン含有化合物の総量は、力学物性を考慮すると前記樹脂組成物において14質量%未満であることが好ましい。
前記リン含有化合物の総量が14質量%以上であると衝撃強度が低下するので好ましくない。
また前記リン含有化合物の総量が1質量%未満であると十分な難燃性能が得られず本発明の目的を達成できないことがある。そのため、前記樹脂組成物における前記リン含有化合物の含有率は、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上が高い難燃性能が得られ、もらい火で燃焼したときに自己消火に至る時間が短くなる。
ホスファゼン誘導体と組み合わせる難燃剤として赤リンは、リンの含有率が高く1質量%以上の併用で高い難燃効果が得られるので好ましい。しかし、赤リンを13質量%以上用いると衝撃強度が著しく低下するので好ましくない。好ましくは8質量%以下の添加にすると衝撃強度の低下が小さい。
また、赤リンの添加は、本発明の難燃性樹脂組成物の混練時に添加してもよいが、あらかじめPC以外の高分子と赤リンを混錬し、この組成物を難燃性樹脂組成物の混練時に添加するのが好ましい。
本発明において用いられるPC(ポリカーボネート)は、特に限定されることなく、下記一般式(3)の構成単位からなる単独重合体(ホモポリマー)、又は下記一般式(3)の構成単位を含む共重合体(コポリマー)としてよい。
なお、上記ポリカーボネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて併用してもよい。
前記カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。前記カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
特に、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)としては、樹脂組成物の機械的強度をより向上させる観点から、通常10000以上としてよく、16000以上であることが好ましく、17000以上であることが更に好ましく、また、樹脂組成物の流動性の低下を抑制して、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようにする観点から、通常40000以下としてよく、30000以下であることが好ましく、24000以下であることが更に好ましい。
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて、温度20℃での極限粘度(η)(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83、から算出される値を指す。ここで、極限粘度(η)とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
難燃剤を十分に含有でき、十分な難燃性が得られる点から、95質量%未満であることが好ましい。一方、前記リン含有化合物を本発明の含有量で用いた時に十分な難燃性が得られる点で、50質量%以上が好ましい。
また組み合わせる高分子Aにより、熱変形温度が変化するので、成形性と高温時の変形を考慮すると総重量の60質量%以上80質量%未満がさらに好ましい範囲となる。
前記高分子Aは、PC以外の樹脂である。
前記樹脂組成物に添加する高分子Aについて、本発明では、前記樹脂組成物の樹脂成分として、いかなる樹脂成分が含まれていても良い。ただし、PCと相容する変性PCは、可塑化効果で熱変形温度を低下させるので好ましくない。
このましくはPCと相容しないかあるいは部分相容できる高分子が、高温度の変形と力学物性の観点から好ましい。
さらに好ましい含有率は、20質量%以上40質量%未満である。
燃焼時に溶融した樹脂が滴下するのを防止する目的で、フッ素樹脂の添加が好ましい。フッ素樹脂の中でも、溶融防止目的で開発されたフィブリル化フッ素樹脂が好ましい。
本発明の難燃性樹脂組成物は、例えば、2成分以上の樹脂を混錬するので、力学物性の改善のために公知の相溶化剤を用いることが可能である。相溶化剤として販売されている添加剤例えば三菱レイヨン製メタブレンLタイプは、本発明に好適に使用可能である。
本発明の一例の難燃性樹脂組成物は、難燃性、剛性、耐衝撃性等を著しく低下させない範囲において、リン系安定剤、フェノール系安定剤、滑剤、その他の樹脂(ポリカーボネート及びスチレン系高分子以外の樹脂)、紫外線吸収剤、染顔料、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等のその他の添加材を含んでよい。
一例の難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、リン系安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤としては、公知のものを用いることができ、具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸等のリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛等の第1族又は第2B族の金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物;有機ホスホナイト化合物;有機ホスファイト化合物等が挙げられ、特に、有機ホスファイト化合物が好ましい。
一例の難燃性樹脂組成物は、フェノール系安定剤を含有することも好ましい。フェノール系安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
また、一例の難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、滑剤を含有することも好ましい。滑剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物等の有機紫外線吸収剤等が挙げられ、特に、樹脂組成物の透明性や機械物性が良好にする観点から、有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物が更に好ましい。
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料及び有機染料等が挙げられる。
なお、染顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて併用してもよい。
本発明の一例の成形体(以下、「一例の成形体」ともいう)は、本発明の一例の難燃性樹脂組成物を含む。
本発明の一例の電子部品は、本発明の前記成形体を有する。
本発明の一例の電子機器は、本発明の前記成形体を有する。
本発明の電子事務機器は、UL94-V2レベル以上の燃焼試験に合格した難燃性樹脂成形体の下方0.0001cm以上3cm未満の距離に本発明の前記形成体を配置したことを特徴とする。
本発明の一例の難燃性樹脂組成物の製造方法(以下、「一例の製造方法」ともいう)は、例えば、PC、ホスファゼン誘導体、リン酸エステル、及び任意選択的に加えられる成分、並びに必要に応じて加えられるその他の添加剤を、溶融混練する溶融混練工程と、混練後の難燃性樹脂組成物に2つの面で挟まれた間隙を通過させる処理(ここで、間隙においては樹脂組成物の流動方向に沿う断面における面間距離が0.1mm~5mmである)を行う間隙通過処理工程とを含む。
一例の製造方法では、初めに、本発明に必要な成分、及び任意選択的に加えられる成分、並びに必要に応じて加えられるその他の添加剤を、溶融混練する(溶融混練工程)。
続いて、混練後の難燃性樹脂組成物に2つの面で挟まれた間隙を通過させる処理(ここで、間隙においては樹脂組成物の流動方向に沿う断面における面間距離が0.1mm~5mmである)を行う(間隙通過処理工程)。
間隙通過処理工程に用いられる装置としては、特開2011-26364号公報や特開2013-028795号公報に記載されるものが挙げられる。
上記の通り、本発明の一例の難燃性樹脂組成物の製造方法によれば、難燃性、剛性、耐衝撃性に特に優れた本発明の一例の難燃性樹脂組成物を製造することができる。
-PC(ポリカーボネート)-
PC:出光興産社製のタフロンA2200
PC(R):市販リサイクルPC、水ボトル回収品、重量平均分子量25000
ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂):テクノポリマー社製のテクノABS300
PS(ポリスチレン):PSジャパン社製、商品名:GPPS
PET(ポリエチレンテレフタレート):市販リサイクルPET、飲料用PETボトルの回収品、粘度0.8dl/g
PL(ポリ乳酸):三井化学株式会社製ポリ乳酸樹脂、レイシアH-100J
PA(ナイロン):東レ製ナイロン樹脂アミランCM1007
PEN(ポリエチレンナフタレート):帝人(株)製テオネックス
SPS100:大塚化学社製のSPS100(主成分として、3員環の環状構造を有し、その6個の側鎖全てがフェノキシ基である芳香族ホスファゼン化合物)
TPP:大八化学工業社製のTPP(SP値:22(MPa)1/2)
BDP:ポリメートアディティブ社製のFyrolflexBDP(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート))(SP値:21.8(MPa)1/2)
SP値は、ソフトウェアーOCTAにより計算した(他の成分についても同様)。
TMP:大八化学社製のTMP(トリメチルホスフェート)(SP値:16.5(MPa)1/2)
赤燐:日本化学工業社製の高純度赤燐
メタブレンA-3800:三菱レイヨン製PTFE変性品
C-223A:樹脂添加剤として三菱レイヨン社製のメタブレンC-223A
(PCとPSやPBT、PAを混練する時の改質剤)
S-2001:樹脂添加剤として三菱レイヨン社製のメタブレン
(PCとPET、PAを混練する時の改質剤)
下記の実施例及び比較例により製造した難燃性樹脂組成物を、東芝機械社製の射出成形機EC50SXを、成形温度280℃、射出速度50mm/s、射出圧力85Paの条件で用いて、射出成型して、ISO多目的試験片を作製した。この試験片を用いて、下記(1)~(3)の試験を行った。
(1)難燃試験
上記の通り得られたISO多目的試験片を、温度23℃、湿度50%とした恒温室中で、48時間調湿し、この試験片について、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めるUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して、難燃試験を行なった。
なお、UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した際の残炎時間やドリップによる綿着火性を調べることによって、難燃性を評価する方法である。ここで、残炎時間とは、着火源を遠ざけた後に、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さを指し、また、ドリップによる綿着火性とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物により着火されるかどうかによって決定される性質を指す。試験結果は、以下の表1に示す評価基準を用いて評価した。
上記の通り得られたISO多目的試験片(4mmt)を用いて、ISO178に準拠して、引張試験を行った。測定値(MPa)が高い値であるほど、剛性(引張強度)に優れていると評価した。
上記の通り得られたISO多目的試験片(3mmt)を用いて、アイゾット衝撃試験器を用いて、衝撃試験を行った。なお、試験片にはノッチ(切れ目)を付けた。測定値(J/m)が高い値であるほど、耐衝撃性に優れていると評価した。
HDTは、ASTM-D648に準拠した方法により6.35mm(1/4インチ)試験片を用いて1.82MPaで測定した。
[実施例1]
二軸混練押出機として、神戸製鋼所社製のHYPERKTX46(以下、「KTX46」ともいう)を用いた。このKTX46の吐出口の先に、小平製作所社製のダイ(間隙処理装置)を取り付けた。二軸混練押出機の樹脂吐出量が100kg/時となるように、KTX46に付属するフィーダーとペレタイザーとを同期させた。ペレタイザーの手前にはストランドを冷却するための3mの長さの水槽を設置した。
また、二軸混練押出機KTX46のスクリューセグメントの設計は、2ケ所にローターセグメントがついており、回転数300rpmで混練温度は、260℃の運転条件である。
得られた樹脂組成物を室温でしばらく撹拌した後、樹脂組成物の表面が乾いてきた時点で、樹脂組成物を二軸混練押出機のフィーダーに投入し、混練りし、ダイの吐出口から押し出した。
所定の運転状態で本発明の実施例となる難燃性樹脂組成物のペレットを作製した。ペレットは80℃で5時間乾燥した。
こうして得られた難燃性樹脂組成物について、前述の(1)~(4)の評価を行ったところ、難燃性については、燃焼試験中にサンプルの変形は生じずUL94-V0合格、LOIは24.5だった。UL試験における燃焼部分を1cm切り出してD1/D0を測定したところ、1.05(5本平均)で燃焼後重量が増加していた。引張強度は65MPa(5本平均)であり、衝撃強度は140J/Mであった。また荷重たわみ温度は、97℃だった。成分組成及び評価結果の詳細を表2に示す。
PCの代わりにPC(R)を用いた点、BDPの代わりにTPPを用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表2の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表2に示す。
あらかじめ赤燐をABS(高分子A)に混練して用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表2の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表2に示す。但し、表2には最終組成物の配合割合で記載している。
高分子Aとして6ナイロン(PA)を用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表3の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表3に示す。
高分子Aとしてポリ乳酸(PL)を用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表3の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表3に示す。
高分子Aとして6ナイロン(PA)用いた点、その他添加剤としてC-223Aを用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表3の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表3に示す。
高分子AとしてPETを用いた点、A以外の高分子としてPENを用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表3の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表3に示す。
高分子Aとして10質量%の赤燐を添加したABSと、A以外の高分子としてPSとを用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表2の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表3に示す。
高分子Aとして10質量%の赤燐を添加したABSと、A以外の高分子としてPENとを用いた点、混練温度を250℃とした点、成分組成を表2の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。成分組成及び評価結果の詳細を表3に示す。
成分組成を表4の通りとした点以外は、実施例1と同様に、難燃性樹脂組成物の製造及び該樹脂組成物についての試験を行った。特に、比較例3については、リン酸エステル系難燃剤としてTMPを用いた。成分組成及び評価結果の詳細を表4に示す。
<1> ポリカーボネートと、リン含有化合物とを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物における前記リン含有化合物の含有率が、14質量%未満であり、
前記リン含有化合物が、下記一般式(1)で表されるホスファゼン誘導体、及びリン酸エステルを含有し、
前記樹脂組成物における前記ホスファゼン誘導体の含有率が、0.1質量%以上3.0質量%未満であり、
UL94V試験における燃焼前の前記樹脂組成物の樹脂比重(D0)と、燃焼後の前記樹脂組成物の樹脂比重(D1)とが、D1/D0>0.85を満たす、
ことを特徴とする樹脂組成物である。
<2> 前記リン酸エステルが、下記一般式(2)で表される化合物である前記<1>に記載の樹脂組成物である。
<3> 荷重たわみ温度(ASTM-D648)が、1.82MPaで90℃以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の樹脂組成物である。
<4> 赤リンを1質量%以上20質量%未満含有する高分子を更に含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の樹脂組成物である。
<5> 更にフッ素樹脂を0.5質量%未満含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の樹脂組成物である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の樹脂組成物から成ることを特徴とする成形体である。
<7> 前記<6>に記載の成形体を有することを特徴とする電子部品である。
<8> 前記<7>に記載の成形体を有することを特徴とする電子機器である。
<9> UL94-V2レベル以上の燃焼試験に合格した難燃性樹脂成形体の下方0.0001cm以上3cm未満の距離に前記<6>に記載の成形体を配置したことを特徴とする電子事機器である。
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、難燃性、剛性、及び耐衝撃性に特に優れた樹脂組成物を提供できる。
Claims (9)
- ポリカーボネートと、6ナイロン、PS、PEN、ABS、及びポリ乳酸系樹脂から選択される高分子と、リン含有化合物とを含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物における前記ポリカーボネートの含有率が、50質量%以上95質量%未満であり、
前記樹脂組成物における前記リン含有化合物の含有率が、14質量%未満であり、
前記リン含有化合物が、下記一般式(1)で表されるホスファゼン誘導体、及びリン酸エステルを含有し、
前記樹脂組成物における前記ホスファゼン誘導体の含有率が、0.1質量%以上3.0質量%未満であり、
UL94V試験における燃焼前の前記樹脂組成物の樹脂比重(D0)と、燃焼後の前記樹脂組成物の樹脂比重(D1)とが、D1/D0>0.85を満たす、
ことを特徴とする樹脂組成物。
- 荷重たわみ温度(ASTM-D648)が、1.82MPaで90℃以上である請求項1から2のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 赤リンを1質量%以上20質量%未満含有する高分子を更に含む請求項1から3のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 更に前記高分子とは異なる樹脂であるフッ素樹脂を0.5質量%未満含有する請求項1から4のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 請求項1から5のいずれかに記載の樹脂組成物から成ることを特徴とする成形体。
- 請求項6に記載の成形体を有することを特徴とする電子部品。
- 請求項6に記載の成形体を有することを特徴とする電子事務機器。
- UL94-V2レベル以上の燃焼試験に合格した難燃性樹脂成形体の下方0.0001cm以上3cm未満の距離に請求項6に記載の成形体を配置したことを特徴とする電子事務機器。
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