JP7175240B2 - 安定型A1cの測定方法 - Google Patents

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本発明は、血中ヘモグロビンの分画のうち、安定型ヘモグロビンA1cの測定方法に関する。
ヘモグロビン分子のβ鎖のN末端のバリン残基にグルコースが結合したものをHbA1cという。より詳細には、可逆的に生成する不安定型HbA1c(labile HbA1c。以下、「不安定型A1c」又は「L-A1c」と表記する。)を経て、不可逆性の反応物質である安定型ヘモグロビンA1c(stable HbA1c。以下、「安定型A1c」又は「S-A1c」と表記する。)が生成される。安定型A1cは臨床的には過去1~2ヶ月の平均の血糖値を反映しており、糖尿病管理の指標として重要である、とされる。
従来、HbA1cの測定方法としては、HPLC法、免疫法、キャピラリー電気泳動法等が用いられている。キャピラリー電気泳動法によるヘモグロビンの分析方法については、下記特許文献1に開示されている。
HPLC法やキャピラリー電気泳動法で安定型A1cの測定をする場合は、血中のヘモグロビンから安定型A1cを分離して、分離して得られたピークの大きさから総ヘモグロビンに対する割合を算出する。
このとき、たとえば腎不全患者では、尿素から生成されるシアン酸がヘモグロビンと結合するカルバミル化によって、ヘモグロビンが化学修飾を被る。また、たとえば、血中のアセトアルデヒドがヘモグロビンに結合するアルデヒド化によって、ヘモグロビンが化学修飾を被ることもある。
このような化学修飾されたヘモグロビン分画が、安定型A1cを示す分画と同じ時間に溶出してくることで、見かけ状の安定型A1cが実際よりは高値として測定されたり(下記特許文献2参照)、あるいは、安定型A1cの割合が大きく変動することもある(下記特許文献3参照)。
したがって、安定型A1cの正確な測定のためには、このような化学修飾されたヘモグロビンを十分に分離する必要がある。そこで、キャピラリー電気泳動法においては、キャピラリー内面のコーティングや泳動条件を変えることで、安定型A1cと化学修飾されたヘモグロビンとを分離する試みがなされている(下記特許文献3及び下記特許文献4参照)。
再表2008-139866号公報 特開2004-69640号公報 特開2008-170350号公報 特開2009-186445号公報
上記したように、腎不全患者の尿素から生成されるシアン酸によって生じるカルバミル化ヘモグロビンや、血中のアセトアルデヒドによって生じるアルデヒド化ヘモグロビンを安定型A1cから分離することで、化学修飾ヘモグロビンの存在が安定型A1cの測定に与える影響を回避することについては検討されている。
一方、安定型A1cそのものもヘモグロビンであり、カルバミル化やアルデヒド化のような化学修飾を被る。そのため、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合を算出するためには、化学修飾された安定型A1cと化学修飾されていない安定型A1cの両方を算出する必要がある。しかし、これまでの分離分析においては、化学修飾されていない安定型A1cを含む分画のピーク面積を測定して、その結果から過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合を算出としており、化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積については、安定型A1cの割合の算出に考慮されていなかった。そのため、従来から試みられているように、分離分析において化学修飾されたヘモグロビンの分画と化学修飾されていない安定型A1cの分画を分離して溶出させることを試みても、腎不全患者や血中のアルデヒド濃度が高い患者の過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合を正確に測定できず、糖尿病管理を適切に行うことができない。
そこで本発明の実施態様は、化学修飾された安定型A1cの割合を考慮することで、安定型A1cの割合をより正確に測定することを課題とする。
本開示の安定型A1cの測定方法は、
血中ヘモグロビンの分離分析における安定型A1cの測定方法であって、分離分析で得られるヘモグロビンの時間分布における化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から、又はHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾されずに残った割合である残存率を算出する工程、及び、ヘモグロビンの時間分布から得られた、HbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する工程、を含んでなる。
本発明の実施態様では、化学修飾された安定型A1cの量を考慮することで、安定型A1cの量をより正確に測定することが可能となる。
本発明に係る分析システムの一例を示すシステム概略図である。 図1の分析システムに用いられる分析チップを示す平面図である。 図2のIII-III線に沿う断面図である。 制御部のハードウェア構成をブロック図で示す。 本発明に係る分析方法を示すフロー図である。 準備工程の手順を示すフロー図である。 図6の準備工程の一工程を示す断面図である。 図6の準備工程の一工程を示す断面図である。 図6の準備工程の一工程を示す断面図である。 図6の準備工程の一工程を示す断面図である。 分析工程の手順を示すフロー図である。 波形形成工程によって形成された波形データの一例を示すグラフである。 最離間点の決定を示すグラフである。 ヘモグロビンのエレクトロフェログラムの一例を示す。 実施例1における検体1のエレクトロフェログラムを示す。 実施例1における検体2のエレクトロフェログラムを示す。 実施例1における検体3のエレクトロフェログラムを示す。 実施例1における検体4のエレクトロフェログラムを示す。 実施例1における安定型A1c量の補正の効果を示すグラフである。 実施例2における検体5のエレクトロフェログラムを示す。 実施例2における検体6のエレクトロフェログラムを示す。 実施例2における検体7のエレクトロフェログラムを示す。 実施例2における安定型A1c量の補正の効果を示すグラフである。 実施例3における検体8のエレクトロフェログラムを示す。 実施例3における検体9のエレクトロフェログラムを示す。 実施例3における検体10のエレクトロフェログラムを示す。 実施例3における検体11のエレクトロフェログラムを示す。 実施例3における検体12のエレクトロフェログラムを示す。 実施例3における安定型A1c量の補正の効果を示すグラフである。
本開示の安定型A1cの測定方法は、血中ヘモグロビンの分離分析における安定型A1cの測定方法であって、分離分析で得られるヘモグロビンの時間分布における化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から、又はHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾されずに残った割合である残存率を算出する工程、及び、ヘモグロビンの時間分布から得られた、HbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する工程、を含んでなる。
上記分離分析の具体的な方法としては、ヘモグロビンの分子表面電荷の多寡に基づいてその種類を分離することのできる方法であれば特に限定されず、たとえば、HPLC(High Performance Liquid Chromatography、高速液体クロマトグラフィー)法、あるいはキャピラリー電気泳動法が挙げられる。このうち、より簡便な測定システムによってより多数の検体を短時間で分析する観点からは、キャピラリー電気泳動法が適している。
ヘモグロビンの時間分布とは、ヘモグロビンを流路内で分離し、分離された各ヘモグロビンを流路上の特定の地点にある測定部位で検出した時間とシグナル強度を、横軸に時間、縦軸にシグナル強度を示すグラフに表したものである。横軸の時間は、ヘモグロビンが所定の距離を移動するためにかかった時間を示す。横軸の時間は、分離を開始した時点から、検体成分が流路の特定の地点にある測定部位で検出された時点までの時間とも言える。ヘモグロビンの時間分布としては、たとえば、クロマトグラフィーから得られるクロマトグラム、キャピラリー電気泳動から得られるエレクトロフェログラムが含まれる。
たとえば、キャピラリー電気泳動法やイオン交換を原理としたHPLC法の場合、ヘモグロビン分子表面の電荷の多寡に応じて移動速度が変動する。そのため、分離開始からそのヘモグロビン分子がキャピラリー管内やカラム内を移動して特定の地点を通過するまでの経過時間、つまりそのヘモグロビン分子が所定の距離を移動するためにかかった時間は、そのヘモグロビン分子の分子表面電荷の多寡とみなすことができる。そして、泳動開始からの経過時間に応じたシグナル(たとえば、吸光度)の強度が、いくつかの山(ピーク)と谷(ボトム)とをもった曲線、すなわちエレクトロフェログラム又はクロマトグラムとして表現される。このエレクトロフェログラム又はクロマトグラムの形状を基にして、ヘモグロビンがいくつかの分画に分離される。たとえば、特定のピークを中心とした分画が、ヘモグロビンの特定の成分として同定される。
ヘモグロビンの時間分布の横軸は、分子表面電荷の多寡を示すものであればよい。そのため、上述のように所定の距離を移動するためにかかった時間の他に、各ヘモグロビン分子の移動速度であってもよく、特定の時間における移動距離であってもよい。ヘモグロビンの時間分布の縦軸は、ヘモグロビンの量を示すものであればよい。たとえば、ヘモグロビンの含有量そのものやヘモグロビンの濃度であってもよい。また、吸光度や蛍光や発光強度といった光学的な測定値であってもよい。また、吸光度変化の単位時間当たりの変化量であってもよい。ヘモグロビンの吸収スペクトルを考慮すると、波長415nm又はその付近の吸光度を測定し、その吸光度を縦軸にすることが望ましい。このヘモグロビンの時間分布の形状から得られた分画のピーク面積やピークの高さは、分離されたそのヘモグロビン分子の量を示す。
本実施例におけるキャピラリー電気泳動のように、陽イオン交換を原理とする分離分析法で血液中のヘモグロビンを分離分析すると、正電荷量の少ないヘモグロビンから正電荷量の多いヘモグロビンの順に、各ヘモグロビンが検出される。具体的には、HbFを含む分画が検出され、その後、化学修飾されたHbA0と不安定型A1cとを含む分画が検出される。さらにその後、順に、安定型A1cを含む分画、HbA0を含む分画に対し隣接する分画、HbA0を含む分画が検出される。ここで検出される安定型A1cを含む分画は、化学修飾されずに残った安定型A1cに由来する分画である。この分離分析で得られた化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積、又はHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾されずに残った割合である残存率が算出される。
本開示における化学修飾とは、たとえば、カルバミル化及びアルデヒド化のいずれか一方又は両方である。
残存率は、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積との合計値に対する、HbA0を含む分画のピーク面積の割合としてもよい。また、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の割合である修飾率を用いて残存率を算出してもよい。たとえば、1から修飾率を減じることで残存率を算出してもよい。この残存率は、化学修飾されていないHbA0と化学修飾されたHbA0との合計量に対する、化学修飾されていないHbA0の量の割合ともいえる。一方、修飾率は、化学修飾されていないHbA0と化学修飾されたHbA0との合計量に対する、化学修飾されたHbA0の量の割合ともいえる。
以下に修飾率の算出について説明する。血液に含まれる、化学修飾されていないHbA0量(なお、本開示において、単に「HbA0」というときには、化学修飾されていないHbA0を意味する。)と化学修飾されたHbA0量との合計量の大部分は、HbA0量が占める。そのため、ヘモグロビンの時間分布から得られる、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積との合計値の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。よって、HbA0を含む分画のピーク面積を、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積との合計値とみなして、修飾率を算出してもよい。また、血液に含まれるヘモグロビンの大部分はHbA0が占める。そのため、ヘモグロビンの時間分布から得られるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。よって、HbA0を含む分画のピーク面積を、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とみなして、修飾率を算出してもよい。また、同じ理由で、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積を、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積との合計値とみなして、修飾率を算出してもよい。
なお、本開示において、ヘモグロビンの時間分布の形状から得られた全ての分画のピーク面積を、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積としてもよい。
化学修飾されたHbA0を含む分画は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画である。また、HbFよりも正電荷量が多い側に存在する分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に存在し、かつ、HbFよりも正電荷量が多い側に存在する分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接し、かつ、HbFよりも正電荷量が多い側に存在する分画ともいえる。又は、化学修飾されたHbA0を含む分画は、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出される時間が早い分画である。また、HbFよりも検出される時間が遅い分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出時間が早く、かつ、HbFよりも検出時間が遅い分画ともいえる。この化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積は、ヘモグロビンがカルバミル化あるいはアルデヒド化したときに、増大する。
化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積は、そのままの数値として用いてもよいし、適宜の修正を加えた後の数値として用いてもよい。たとえば、化学修飾されたHbA0を含む分画に、化学修飾されたHbA0量以外の成分が含まれている場合、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から化学修飾されたHbA0以外の成分に由来するピーク面積を控除することが挙げられる。化学修飾されたHbA0以外の成分に由来するピーク面積が既知である場合、その既知のピーク面積を所定のピーク面積値として控除してもよい。また、複数の健常者の検体を分離分析し、化学修飾を被ったHbA0以外の成分のピーク面積の統計的な値としての所定のピーク面積値を、検体の安定型A1cの測定前に求めておく。そして、検体を測定時に化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積からこの所定のピーク面積値を控除してもよい。たとえば、この統計的な値としてのピーク面積補正値は平均値や中央値などである。
また、残存率や修飾率は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画を用いて算出してもよい。理由は定かではないが、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積はヘモグロビンがカルバミル化あるいはアルデヒド化したときに、増大する。よって、たとえば、健常者の検体を人為的にカルバミル化し、その検体のHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積と、カルバミル化HbA0のピーク面積との相関関係をあらかじめ求めておく。この相関関係から、後者のピーク面積に対する前者のピーク面積の倍率(換言すると、前者のピーク面積を後者のピーク面積で除した値)としての所定の係数が得られる。そして、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積を、この所定の係数で除することで、カルバミル化HbA0のピーク面積としてのピーク面積補正値を算出する。そして、このピーク面積補正値から、残存率や修飾率を算出してもよい。また、たとえば、健常者の検体を人為的にアルデヒド化し、その検体のHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積と、アルデヒド化HbA0のピーク面積との相関関係をあらかじめ求めておく。この相関関係から、後者のピーク面積に対する前者のピーク面積の倍率としての所定の係数が得られる。そして、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積を、この所定の係数で除することで、アルデヒド化HbA0のピーク面積としてのピーク面積補正値を算出する。そして、このピーク面積補正値から、残存率や修飾率を算出してもよい。
なお、実際の検体では、HbA0のカルバミル化とアルデヒド化とが同時に生じている場合もあり得るため、カルバミル化とアルデヒド化とを峻別する意義は乏しい。そこで、以下の記述では、HbA0のカルバミル化とアルデヒド化とが同時に生じている場合と、カルバミル化及びアルデヒド化の一方のみが生じている場合をと含めて、「カルバミル化HbA0及び/又はアルデヒド化HbA0」と記述する。
上述のように、化学修飾されたHbA0であるカルバミル化HbA0及び/又はアルデヒド化HbA0と不安定型A1cとは同じ分画に検出される。そのため、不安定型A1cを多く含む検体の残存率や修飾率を、カルバミル化HbA0及び/又はアルデヒド化HbA0を含む分画のピーク面積から算出すると、残存率を過大に算出してしまうことがある。そして、過大に算出した残存率を用いて安定型A1cの割合を補正すると、正確な安定型A1cの割合を算出できない。一方、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画は、不安定型A1cを含んでいない。そのため、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画から算出したカルバミル化HbA0及び/又はアルデヒド化HbA0のピーク面積を用いて残存率や修飾率を算出し、その算出した残存率を用いて安定型A1cの割合を算出することで、不安定化A1cを多く含む検体を測定する場合であっても、化学修飾された安定型A1cの割合を加味した正確な安定型A1cの割合を算出できる。
なお、不安定型A1cが、カルバミル化HbA0及び/又はアルデヒド化HbA0を含む分画と同じ分画に含まれるのは、カルバミル化HbA0及び/又はアルデヒド化HbA0と不安定型A1cとの分子表面電荷がそれぞれ近いからと考えられる。一方、不安定型A1cが、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画に含まれる物質とは異なる分画に含まれるのは、不安定型A1cの分子表面電荷は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画に含まれる物質の表面電荷と十分に異なることによると考えられる。また、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画は、HbA0が化学修飾される際にともに生成する物質を含む分画と考えられる。また、この物質は波長415nmに対して吸光する性質を有する。このことから、この物質は何らかのヘモグロビン化合物であると推測される。
このHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画は、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷が多い側に存在する分画ともいえる。又は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接し、かつ、安定型A1cとして同定される分画に対し、正電荷が多い側に存在する分画ともいえる。又は、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画は、HbA0として同定される分画に対し、検出される時間が早い分画ともいえる。又は、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出される時間が遅い分画ともいえる。又は、HbA0として同定される分画に対し、検出される時間が早く、かつ、安定型A1cとして同定される分画に対し、検出される時間が遅い分画ともいえる。
HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画のピーク面積も、化学修飾されたHbA0を含む分画について上記で述べたのと同様に、そのままの数値として用いてもよいし、適宜の修正を加えた後の数値として用いてもよい。たとえば、HbA0として同定される分画に対し、正電荷量が少ない側に隣接する分画に、HbA0が化学修飾される際にともに生成する物質以外の成分が含まれている場合、この分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾される際にともに生成する物質以外の成分に由来するピーク面積を控除することが挙げられる。HbA0が化学修飾される際にともに生成する物質以外の成分に由来するピーク面積が既知である場合、その既知のピーク面積を所定のピーク面積値として控除してもよい。また、複数の健常者の検体を分離分析し、HbA0が化学修飾される際にともに生成する物質以外の成分のピーク面積の統計的な値としての所定のピーク面積値を、検体の安定型A1cの測定前に求めておく。そして、検体を測定時に化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積からこの所定のピーク面積値を控除してもよい。たとえば、この統計的な値としてのピーク面積補正値は平均値や中央値などである。そして、この所定のピーク面積値を控除した値を基に、前記したピーク面積補正値を算出することとしてもよい。
次に、分離分析で得られたヘモグロビンの時間分布から、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する。
本明細書で述べるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とは、分離分析した検体に含まれる総ヘモグロビン量に相当するピーク面積の値とも言える。得られたヘモグロビンの時間分布においてヘモグロビンに由来する分画のピーク面積の合計値とも言える。なお、検体に含まれるヘモグロビン量の大部分は、HbA0が占める。そのため、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積は、当該HbA0分画のピーク面積と同じ値とみなして補正してもよい。また、HbA0分画のピーク面積に加え、ヘモグロビンの時間分布の形状において隣接する分画のピーク面積を含んで算出された合計値を、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とみなして補正してもよい。
そして、安定型A1cもまた、上記したHbA0が化学修飾された修飾率にて化学修飾を被っており、検体に含まれる安定型A1cは化学修飾されずに残った安定型A1cであるとの推定の下に、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する。換言すると、残存率を用いて、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積と化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積の合計値の割合を算出する。この補正により、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合を算出する。
たとえば、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で補正する方法は、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を残存率で除することとしてもよい。
[分析システム]
図1は、本開示の安定型A1cの測定方法が実施される分析システムA1の一例の概略構成を示している。分析システムA1は、分析装置1及び分析チップ2を備えて構成されている。分析システムA1は、人体から採取された血液である試料Saを対象として血中ヘモグロビンの分子表面電荷に基づいて、陽イオン交換を原理とするヘモグロビンの分離分析を実行するシステムである。以下、分子表面の正電荷量の違いを利用した電気泳動を原理とする分析システムを用いて本発明を説明するが、本発明は、電気泳動を原理とする分離分析に限定されない。
<分析チップの準備>
分析チップ2は、試料Saを保持し、かつ分析装置1に装填された状態で試料Saを対象とした分析の場を提供するものである。本実施形態においては、分析チップ2は、1回の分析を終えた後に廃棄されることが意図された、いわゆるディスポーザブルタイプの分析チップとして構成されている。図2及び図3に示すように、分析チップ2は、本体21、混合槽22、導入槽23、フィルタ24、排出槽25、電極槽26、キャピラリー管27及び連絡流路28を備えている。図2は、分析チップ2の平面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿う断面図である。なお、分析チップ2は、ディスポーザブルタイプのものに限定されず、複数回の分析に用いられるものであってもよい。また、本実施形態の分析システムは、別体の分析チップ2を分析装置1に装填する構成に限定されず、分析チップ2と同様の機能を果たす機能部位が分析装置1に一体に組み込まれた構成であってもよい。
本体21は、分析チップ2の土台となるものであり、その材質は特に限定されず、たとえば、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等があげられる。本実施形態においては、本体21は、図3における上側部分2Aと下側部分2Bとが別体に形成されており、これらが互いに結合された構成である。なお、これに限らず、たとえば、本体21を一体的に形成してもよい。
混合槽22は、後述する試料Saと希釈液Ldとを混合する混合工程が行われる箇所の一例である。混合槽22は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。導入槽23は、混合槽22における混合工程によって得られた試料溶液としての混合試料Smが導入される槽である。導入槽23は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。
フィルタ24は、導入槽23への導入経路の一例である導入槽23の開口部に設けられている。フィルタ24の具体的構成は限定されず、好適な例として、たとえばセルロースアセテート膜フィルタ(ADVANTEC社製、孔径0.45μm)が挙げられる。
排出槽25は、電気泳動法における電気浸透流の下流側に位置する槽である。排出槽25は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって,上方に開口した凹部として構成されている。電極槽26は、電気泳動法による分析工程において、電極31が挿入される槽である。電極槽26は、たとえば、本体21の上記上側部分2Aに形成された貫通孔によって、上方に開口した凹部として構成されている。連絡流路28は、導入槽23と電極槽26とを繋いでおり、導入槽23と電極槽26との導通経路を構成している。
キャピラリー管27は、導入槽23と排出槽25とを繋ぐ微細流路であり、電気泳動法における電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)が生じる場である。キャピラリー管27は、たとえば本体21の上記下側部分2Bに形成された溝として構成されている。なお、本体21には、キャピラリー管27への光の照射及びキャピラリー管27を透過した光の出射を促進するための凹部等が適宜形成されていてもよい。キャピラリー管27のサイズは特に限定されないが、その一例を挙げると、その幅が25μm~100μm、その深さが25μm~100μm、その長さが5mm~150mmである。分析チップ2全体のサイズは、キャピラリー管27のサイズ及び混合槽22、導入槽23、排出槽25及び電極槽26のサイズや配置等に応じて適宜設定される。
なお、上記構成の分析チップ2は一例であって、電気泳動法による分析が可能な構成の分析チップを適宜採用することができる。
<分析装置>
分析装置1は、試料Saが点着された分析チップ2が装填された状態で、試料Saを対象とした分析処理を行う。分析装置1は、図1に示すように、電極31,32、光源41、光学フィルタ42、レンズ43、スリット44、検出器5、分注器6、ポンプ61、希釈液槽71、泳動液槽72及び制御部8を備えている。なお、光源41、光学フィルタ42、レンズ43及び検出器5は、本発明でいう測定部の一例を構成する。
電極31及び電極32は、電気泳動法においてキャピラリー管27に所定の電圧を印加するためのものである。電極31は、分析チップ2の電極槽26に挿入されるものであり、電極32は、分析チップ2の排出槽25に挿入されるものである。電極31及び電極32に印加される電圧は特に限定されないが、たとえば0.5kV~20kVである。
光源41は、電気泳動法において光学測定値としての吸光度を測定するための光を発する部位である。光源41は、たとえば所定の波長域の光を出射するLEDチップを具備する。光学フィルタ42は、光源41からの光のうち所定の波長の光を減衰させつつ、その余の波長の光を透過させるものである。レンズ43は、光学フィルタ42を透過した光を分析チップ2のキャピラリー管27の分析箇所へと集光するためのものである。スリット44は、レンズ43によって集光された光のうち、散乱などを引き起こしうる余分な光を除去するためのものである。なお、光源41は、ヘモグロビンを検出する原理に応じて適宜選択できる。吸光度を測定する場合は、ヘモグロビンの吸収波長を照射できる光源41が選択される。また、ヘモグロビンを蛍光や発光で検出する場合は、励起光を照射できる光源41が選択される。
検出器5は、分析チップ2のキャピラリー管27を透過してきた光源41からの光を受光するものであり、たとえばフォトダイオードやフォトICなどを具備して構成されている。光源41と同様に、検出器5もヘモグロビンを検出する原理に応じて適宜選択できる。
このように、光源41から発した光が検出器5へと至る経路が光路である。そして、当該光路がキャピラリー管27と交わる位置でそのキャピラリー管27を流れる溶液(すなわち、試料溶液及び泳動液のいずれか又はその混合溶液)について光学測定値が測定される。すなわち、キャピラリー管27において光源41から検出器5へ至る光路が交わる位置が、光学測定値の測定部である。この光学測定値としては、たとえば吸光度が挙げられる。吸光度は、該光路の光がキャピラリー管27を流れる溶液によって吸収された度合いを表すものであり、入射光強度と透過光強度の比の常用対数の値の絶対値を表したものである。この場合、検出器5としては汎用的な分光光度計を利用することができる。なお、吸光度を使用せずとも、単純に透過光強度の値そのものなど、光学測定値であれば本発明に利用することができる。以下においては、光学測定値として吸光度を使用した場合を例に説明する。
分注器6は、所望の量の希釈液Ldや泳動液Lm及び混合試料Smを分注するものであり、たとえばノズルを含む。分注器6は図示しない駆動機構によって分析装置1内の複数の所定位置を自在に移動可能である。ポンプ61は、分注器6への吸引源及び吐出源である。また、ポンプ61は、分析装置1に設けられた図示しないポートの吸引源及び吐出源として用いてもよい。これらのポートは、泳動液Lmの充填などに用いられる。また、ポンプ61とは別の専用のポンプを備えてもよい。
希釈液槽71は、希釈液Ldを貯蔵するための槽である。希釈液槽71は、分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の希釈液Ldが封入された容器が分析装置1に装填されたものであってもよい。泳動液槽72は、泳動液Lmを貯蔵するための槽である。泳動液槽72は、分析装置1に恒久的に設置された槽でもよいし、所定量の泳動液Lmが封入された容器が分析装置1に装填されたものであってもよい。
制御部8は、分析装置1における各部を制御するものである。制御部8は、図4のハードウェア構成に示すように、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83及びストレージ84を有する。各構成は、バス89を介して相互に通信可能に接続されている。
CPU81は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU81は、ROM82又はストレージ84からプログラムを読み出し、RAM83を作業領域としてプログラムを実行する。CPU81は、ROM82又はストレージ84に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
ROM82は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM83は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ84は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)又はフラッシュメモリにより構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。本態様では、ROM82又はストレージ84には、測定や判定に関するプログラムや各種データが格納されている。また、ストレージ84には、測定データを保存しておくこともできる。
制御部8は、上記ハードウェア構成のうちCPU81が、前記したプログラムを実行することによって、分析装置1において図5に示すような各工程を実施する。これらの工程の詳細については後述する。
<希釈液、泳動液、混合試料の調製>
希釈液Ldは、試料Saと混合されることにより、試料溶液としての混合試料Smを生成するためのものである。希釈液Ldの主剤は特に限定されず、水、生理食塩水が挙げられ、好ましい例として後述する泳動液Lmと類似の成分の液体が挙げられる。また、希釈液Ldは、上記主剤の他に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
泳動液Lmは、電気泳動法による分析工程において、排出槽25及びキャピラリー管27に充填され、電気泳動法における電気浸透流を生じさせる媒体である。泳動液Lmは、特に制限されないが、酸を用いたものが望ましい。上記酸は、たとえば、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、フタル酸、マロン酸、リンゴ酸がある。また、泳動液Lmは、弱塩基を含むことが好ましい。上記弱塩基としては、たとえば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリス等がある。泳動液LmのpHは、たとえば、pH4.5~6の範囲である。泳動液Lmのバッファーの種類は、MES、ADA、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES等がある。また、泳動液Lmにも、希釈液Ldの説明で述べたのと同様に、必要に応じて添加物が添加されてもよい。
泳動液Lm、希釈液Ld、及び混合試料Smは以下を例示するが、後述する界面到達時点において、試料溶液(混合試料Sm)と泳動液Lmとの界面の到達に起因する光学測定値の変化が生じる組み合わせであれば任意に選択できる。
<準備工程、電気泳動工程、分析工程>
次に、分析システムA1を用いて行うヘモグロビンの分離分析の一例について、以下に説明する。図5は、本実施形態におけるヘモグロビンの分離分析方法を示すフロー図である。本分離分析方法は、準備工程S1、電気泳動工程S2、及び分析工程S3を有する。
<準備工程S1>
図6は、準備工程S1における具体的な手順を示すフロー図である。本実施形態において、準備工程S1は、同図に示すように、試料採取工程S11、混合工程S12、泳動液充填工程S13、及び導入工程S14を有する。
<試料採取工程S11>
まず、試料Saを用意する。本実施形態においては、試料Saは、人体から採取された血液である。血液としては、全血、成分分離血液又は溶血処理が施されたもの等であってもよい。そして、試料Saが分注された分析チップ2を分析装置1に装填する。
<混合工程S12>
次いで、試料Saと希釈液Ldとを混合する。具体的には、図7に示すように、所定量の試料Saが分析チップ2の混合槽22に点着されている。次いで、分注器6によって希釈液槽71の希釈液Ldを所定量吸引し、図8に示すように、所定量の希釈液Ldを分析チップ2の混合槽22に分注する。そして、ポンプ61を吸引源及び吐出源として、分注器6から希釈液Ldの吸引及び吐出を繰り返す。これにより、混合槽22において試料Saと希釈液Ldとが混合され、試料溶液としての混合試料Smが得られる。試料Saと希釈液Ldとの混合は、分注器6の吸引及び吐出以外の方法によって行ってもよい。
<泳動液充填工程S13>
次いで、分注器6によって泳動液槽72の泳動液Lmを所定量吸引し、図9に示すように、所定量の泳動液Lmを分析チップ2の排出槽25に分注する。そして、上述したポートで排出槽25の上方の開口を覆い、ポートから排出槽25内部に空気を吐出や吸引を適宜実施するなどの手法により、排出槽25及びキャピラリー管27に泳動液Lmを充填する。
<導入工程S14>
次いで、図10に示すように、混合槽22から所定量の混合試料Smを分注器6によって採取する。そして、分注器6から導入槽23に所定量の混合試料Smを導入する。この導入においては、導入槽23への導入経路の一例である導入槽23の開口部に設けられたフィルタ24を混合試料Smが通過する。また、本実施形態においては、混合試料Smが導入槽23から連絡流路28を通じて電極槽26へと充填される。この際、導入槽23から連絡流路28を介した電極槽26への混合試料Smの流動が起こることとなるが、導入槽23から連絡流路28へは、キャピラリー管27の長手方向に対してほぼ直交する方向へ混合試料Smが流動する(図2参照)。一方、キャピラリー管27の泳動液Lmはこの段階ではほとんど移動していない。この結果、導入槽23とキャピラリー管27との接続部(図3参照)においてせん断流が生じることで、混合試料Smと泳動液Lmとの明瞭な界面が生じた状態となる。なお、混合溶液Smと泳動液Lmとの界面が生じる方法であれば、物理的に導入槽23とキャピラリー管27との境界に移動可能なフィルタを設けたり、制御的に流動方法を変更したりする等、あらゆる手段を採用することができる。
<電気泳動工程S2>
次いで、電極槽26(図2参照)に電極31(図1参照)を挿入し、排出槽25に電極32(図1参照)を挿入する。続いて、制御部8からの指示により電極31及び電極32に電圧を印加する。この電圧は、たとえば0.5kV~20kVである。これにより電気浸透流を生じさせ、導入槽23から排出槽25へとキャピラリー管27中において混合試料Smを徐々に移動させる。この際、導入槽23に混合試料Smが充填されているため、キャピラリー管27において混合試料Smが連続的に供給されている状態で、上記分析成分であるヘモグロビン(Hb)を電気泳動させることとなる。このとき、混合試料Smと泳動液Lmとの上記した界面が維持された状態のまま、混合試料Smは泳動液Lmを下流方向へ押しやりつつキャピラリー管27を泳動していくことになる。また、光源41からの発光を開始し、検出器5による吸光度の測定を行う。そして、電極31及び電極32からの電圧印加開始時からの経過時間と吸光度との関係を測定する。
<分析工程S3>
ここで、混合試料Sm中の移動速度が比較的速い成分(換言すると、分子表面の正電荷量が比較的少ない成分)に対応した吸光度ピークは、上記電圧印加開始時からの経過時間が比較的短い時点で現れる。一方、混合試料Sm中の移動速度が比較的遅い成分(換言すると、分子表面の正電荷量が比較的多い成分)に対応した吸光度ピークは、上記電圧印加開始時からの経過時間が比較的長い時点で現れる。このことを利用して、混合試料Sm中の成分の分析(分離測定)が行われる。測定された吸光度を基に、制御部8の制御によって、図11に示す分析工程S3が実行される。本実施形態の分析工程S3は、波形形成工程S31、界面到達時点決定工程S32及び成分同定工程S33を含む。
<波形形成工程S31>
本工程においては、測定された上記吸光度を制御部8による演算処理により、電圧印加開始時を測定開始時として、当該測定開始後の経過時間に対応した光学測定値である吸光度の変化量を表す測定波形としてのエレクトロフェログラムが形成される。具体的には、測定された上記吸光度を時間微分することによって微分値の波形を形成する。形成されたエレクトロフェログラムの縦軸で表される吸光度の時間に対する微分した値は、検出されたヘモグロビンの量を示すものである。図12は、吸光度の時間微分によって形成された微分波形の一例を示している。図中のx軸は時間軸であり、y軸は微分値軸である。以降の図及び説明においては、時間軸xに沿った負方向側を方向x1側及び正方向側を方向x2側とし、微分値軸yに沿った負方向側を方向y1側及び正方向側を方向y2側とする。
<界面到達時点決定工程S32>
本工程においては、電圧印加によりキャピラリー管の下流方向に泳動する混合試料Smと泳動液Lmとの界面が検出器5に到達した時点である界面到達時点を決定する工程である。この混合試料Smと泳動液Lmとの界面は、電気泳動開始後に最初に現れるピークである。この混合試料Smと泳動液Lmとの界面のピークを図13に示す。図13に示すように、この混合試料Smと泳動液Lmとの界面が示すピークのうち、このエレクトロフェログラムにおける基準値Lsから微分値が最も離間している点を決定する。図示された例においては、基準値Lsから方向y2に離間した点が基準値Lsから最も離間しており、この点が最離間点PLとして決定される。ここで、前記した電気泳動工程S2において電圧の印加を開始した時点を0として、この最離間点PLが検出された時点を界面到達時点とする。
<成分同定工程S33>
前記した波形形成工程S31において得られる、界面到達時点以後の微分波形の一例を、図14に示す。同図においては、x軸は電圧の印加を開始した時点を0とした泳動時間(単位:sec)を示し、y軸は吸光度を時間微分した値であるSLOPE値(単位:mAbs/sec)を示している。また、泳動時間11.5秒付近のピークは、図13に示す最離間点PLであり、この時点が界面到達時点である。そして、本工程において、この微分波形からヘモグロビン成分が特定される。具体的には、界面到達時点以降で最大となるピークを有する分画αがHbA0と特定される。そして、界面到達時点からHbA0のピークまでに出現する各ピークについては、界面到達時点からHbA0のピークが検出された時間までの間の時間に対する、界面到達時点から当該ピークの検出時間までの時間の比率によって当該ピークが示す成分が同定される。たとえば、図14においては、安定型A1c(S-A1c)を示すピーク(分画β)がこのようにして同定される。
そして、このようにして同定された各ピークから、各成分の量が算出される。具体的には、ある成分として同定されたピークを極大値として、その極大値を含む分画の面積を当該ピークに対応する成分の量とすることができる。ここで、その分画の両端は適宜定めることができ、たとえば、その極大値の両側にある極小値をもってその両端としてもよい。
このようにして、S331に示す総ヘモグロビン算出工程において、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積を算出する。ここで、HbA0量は総ヘモグロビン量の大部分を占めている。そのため、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積は、HbA0分画のみで算出した面積であってもよく、また、HbA0分画とその周辺の分画を含む面積に準拠してもよく、さらには、エレクトロフェログラムのうちヘモグロビンに帰せられる領域の全ての面積としてもよい。いずれの場合も、後述する補正値(X)及び補正後値(Y)の計算には大きな影響は及ぼさない。
次に、S332に示す補正前値算出工程において、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を算出することで、補正前値(X)が算出される。この補正前値(X)の算出に用いる安定型A1cを含む分画のピーク面積は、図14に示すS-A1cピークの両端にある極小値間の分画βの面積として求められる。つまり、この安定型A1cを含む分画βのピーク面積は、化学修飾されずに残った安定型A1cに由来するピーク面積である。そのため補正前値(X)は、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合である。換言すると、化学修飾された安定型A1cを加味していないピーク面積の割合ともいえる。
次に、S333に示す残存率算出工程において、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する化学修飾されたHbA0を含むピーク面積の割合である修飾率(P)が算出される。そして、この修飾率(P)から、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対するHbA0の割合である残存率(Q)が算出される。
具体的には、安定型A1cの分画に対して早い時間の側に隣接する分画、換言すると、正電荷量が低い側に隣接する、泳動時間19秒付近の分画γには、後述の実施例で示すように、カルバミル化したHbA0及びアルデヒド化したHbA0のいずれか又は両方が含まれていると考えられる。残存率算出工程S333においては、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対するこの分画γの割合を、修飾率(P)とする。なお、上述のように、分画γのピーク面積とHbA0を含む分画のピーク面積の合計値の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積に対する分画γのピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。また、HbA0を含む分画のピーク面積は、検体に含まれる総ヘモグロビンに相当するピーク面積と近似することから、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γのピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。
一方、HbA0分画に対して早い時間の側に隣接する分画、換言すると、正電荷量が少ない側に隣接する、泳動時間25秒付近の分画δには、HbA0がカルバミル化又はアルデヒド化される際に化学修飾したHbA0とともに生成する物質が含まれていると考えられる。残存率算出工程S333においては、上述したように、この分画δのピーク面積から化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積を算出し、修飾率(P)を算出してもよい。具体的には、HbA0を含む分画のピーク面積と分画δから算出した化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の合計値に対する、分画δから算出した化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の割合を算出して、修飾率(P)を算出してもよい。なお、上述のように、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積とHbA0を含む分画のピーク面積の合計値の大部分は、HbA0を含む分画のピーク面積が占める。そのため、HbA0を含む分画のピーク面積に対する分画δから算出した化学修飾されたHbA0のピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。また、HbA0を含む分画のピーク面積は、検体に含まれる総ヘモグロビンに相当するピーク面積と近似することから、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画δから算出した化学修飾されたHbA0のピーク面積の割合を算出して、この修飾率(P)としてもよい。
そして、1から算出された修飾率(P)を減じることで残存率(Q)を算出する。なお、残存率(Q)の算出は、この算出方法に限定されるものではない。
そして、S334に示す補正後値算出工程において、上記で算出された補正前値(X)及び残存率(Q)から、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積と化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積の合計値の割合である補正後値(Y)が算出される。具体的には、補正前値(X)を残存率(Q)で除することによって補正後値(Y)が算出される。
<その他>
カルバミル化されたHbA0と、アルデヒド化されたHbA0とでは分子表面の電荷量が近いと考えられ、分画γに、カルバミル化されたHbA0とアルデヒド化されたHbA0の合成ピークが生じる場合がある。その場合は、合成ピークである分画γのピーク面積を化学修飾されたHbA0のピーク面積とし、合成ピークである分画γのピーク面積から残存率(Q)を算出してもよい。を、補正前値(X)の補正に用いる化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積としてもよい。同様に、HbA0がカルバミル化される際にともに生じる物質と、HbA0がアルデヒド化される際にともに生じる物質も、その分子表面の電荷量が近いと考えられ、分画δに合成ピークを形成する場合がある。その場合も同様に、合成ピークである分画δピーク面積から化学修飾されたHbA0のピーク面積を算出し、算出した化学修飾されたHbA0のピーク面積から残存率(Q)を算出してもよい。
また、分画γに現れるカルバミル化されたHbA0及びアルデヒド化されたHbA0は、不安定型A1cと分子表面の電荷量が近いと考えられる。そのため、陽イオン交換を原理とする上記実施形態の測定方法では、不安定型A1cのピークは、分画γとして現れるカルバミル化されたHbA0及びアルデヒド化されたHbA0のそれぞれのピークと合成ピークを形成したり、あるいは、カルバミル化されたHbA0とアルデヒド化されたHbA0との合成ピークと、さらに合成ピークを形成することがある。その場合、合成ピークのピーク面積から、化学修飾されていない健常者の検体が示す平均的な不安定型A1cを含む分画のピーク面積を控除した修正値を用いて残存率(Q)を算出し、補正前値(X)を補正してもよい。あるいは、別の手段で、正確な不安定型A1cの量を測定して、その量に相当するピーク面積で控除した修正量を用いて残存率(Q)を算出し、補正前値(X)を補正してもよい。
また、分画δに現れるHbA0がカルバミル化された際にカルバミル化HbA0とともに生成する物質及びHbA0がアルデヒド化される際にアルデヒド化HbA0とともに生成する物質は、分画δの泳動時間に分画が現れるHbA1eと推定されるヘモグロビンと分子表面の電荷量が近いと考えられる。そのため、陽イオン交換を原理とする上記実施形態の測定方法では、このHbA1eと推定されるヘモグロビンのピークは、分画δとして現れるカルバミル化HbA0とともに生成する物質及びアルデヒド化HbA0とともに生成する物質のそれぞれ、または両方と合成ピークを形成することがある。その場合、合成ピークのピーク面積から、化学修飾されていない健常者の検体が示すHbA1eと推定されるヘモグロビンを含む分画のピーク面積を所定のピーク面積値として控除した修正値を用いて残存率(Q)を算出し、補正前値(X)を補正してもよい。化学修飾されていない健常者の検体が示すHbA1eと推定されるヘモグロビンを含む分画のピーク面積は、複数の健常者の検体を測定し、得られたHbA1eと推定されるヘモグロビンを含む分画のピーク面積を平均したものを用いてもよい。あるいは、別の手段で、HbA1eと推定されるの量を測定して、その量に相当するピーク面積で控除した修正量を用いて補正前値(X)を補正してもよい。
<カルバミル化の影響>
実施例1として、通常検体に人為的にシアン酸ナトリウムを添加してヘモグロビンをカルバミル化した検体において、本開示の安定型A1cの測定方法が有効であることを示す。
[カルバミル化検体の調製]
通常検体として、健常者から採取した全血を使用した。この通常検体に、下記表1に示すような終濃度となるようシアン酸ナトリウムを添加して37℃でインキュベートした検体1~検体4を調製し、これらをそれぞれ前記した試料Sa(図7参照)として使用した。検体中のシアン酸ナトリウム濃度に応じて、検体中のヘモグロビンはカルバミル化される。
Figure 0007175240000001
なお、上記表1中の検体1のシアン酸ナトリウム濃度は0mg/dLであるが、これはシアン酸ナトリウムを添加していない、通常検体そのままであることを意味する。
[泳動液]
前記した泳動液Lm(図9参照)は、以下の組成とした。
クエン酸:40mM
コンドロイチン硫酸Cナトリウム:1.25%w/v
ピペラジン:20mM
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(商品名:エマルゲンLS-110、花王社製):0.1%w/v
アジ化ナトリウム:0.02%w/v
プロクリン300:0.025%w/v
以上の成分の他、pH調整用のジメチルアミノエタノールを滴下して、pH5.0に調整した。
[希釈液]
前記した希釈液Ld(図8参照)は、以下の組成とした。
クエン酸:38mM
コンドロイチン硫酸Cナトリウム:0.95%w/v
1-(3-スルホプロピル)ピリジニウムヒドロキシド分子内塩(NDSB-201):475mM
2-モルホリノエタンスルホン酸(MES):19mM
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(商品名:エマルゲンLS-110、花王社製):0.4%w/v
アジ化ナトリウム:0.02%w/v
プロクリン300 0.025%w/v
以上の成分の他、pH調整用のジメチルアミノエタノールを滴下して、pH6.0に調整した。
[混合試料Sm]
1.5μLの試料Saを60μLの希釈液Ldに添加して、混合試料Sm(図8~図10参照)を調製した。この混合試料Smを前記した分析システムA1に供して、ヘモグロビンの分離分析を実行した。
[エレクトロフェログラム]
電圧を印加した時点を分離分析の開始の時点とし、電圧を印加した時点を0秒の時点としたエレクトロフェログラムを得た。シアン酸ナトリウムが添加されていない検体1のエレクトロフェログラムは、図15に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は泳動時間11.5秒付近である。また、HbF分画である分画εは泳動時間17.3秒付近にピークを有する。安定型A1c分画である分画βは泳動時間21秒付近にピークを有する。HbA0分画である分画αは泳動時間27.3秒付近にピークを有する。そして、分画βより早い泳動時間19秒付近(19.4秒)にピークを有する分画γは、不安定型A1cを含む分画とされているが、この分画にはカルバミル化を被ったHbA0も含まれる。また、分画αより早い泳動時間25秒付近(25.2秒)にピークを有する分画δには、HbA0がカルバミル化される際にカルバミル化HbA0と共に生成される物質が含まれる。
シアン酸ナトリウムが12.5mg/dLの濃度で添加されている検体2のエレクトロフェログラムは、図16に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は検体1とほぼ変わらないが、分画ε、分画γ、分画β、分画δ及び分画αのピークはそれぞれ泳動時間16.7秒、19.0秒、20.0秒、23.8秒及び25.6秒に観察されている。そして、分画γ及び分画δの面積は検体1より増大している。
シアン酸ナトリウムが18.8mg/dLの濃度で添加されている検体3のエレクトロフェログラムは、図17に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は検体1及び検体2とほぼ変わらないが、分画ε、分画γ、分画β、分画δ及び分画αのピークはそれぞれ泳動時間16.9秒、18.5秒、19.6秒、23.5秒及び25.4秒と、検体2とほぼ同じ時間に観察されている。そして、分画γ及び分画δの面積は検体2よりもさらに増大している。
シアン酸ナトリウムが25mg/dLの濃度で添加されている検体4のエレクトロフェログラムは、図18に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は検体1から検体3とほぼ変わらず、分画ε、分画γ、分画β、分画δ及び分画αのピークが観察される泳動時間もほぼ検体3と同じであるが、分画γ及び分画δの面積は検体3よりもさらに増大している。なお、検体1、検体2、検体3、検体4でそれぞれの分画が観察される時間が検体によって異なっているが、本実施例での安定型A1cの測定には影響しない。
[補正前値(X)の算出]
図15~図18における分画βから、安定型A1cピーク面積の割合としての補正前値(X)は、下記表2に示すとおりに算出された。
Figure 0007175240000002
上記表中の補正前値(X)の算出に当たっては、まず、各エレクトロフェログラムにおけるSLOPE値が0以上の部分の面積(ただし、PLをピークとする部分を除く)の総和が算出され、これをヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積とした。このヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積は、分画αとして同定されるHbA0のピーク面積を含む。そして、このヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画βのピーク面積の割合から上記表中の補正前値(X)を算出した。
上記表2に示すとおり、検体中のシアン酸ナトリウム濃度が高くなるにつれ、補正前値(X)が低くなっていくことが認められる。また検体1の補正前値(X)に対する増減の割合(すなわち、各検体の補正前値(X)から検体1の補正前値(X)である6.48%を減じた値の、検体1の補正前値(X)に対する割合)を示す相対誤差の値も、シアン酸ナトリウム濃度の増大に伴い、大きくなった。これは、安定型A1c量が、シアン酸ナトリウムによるカルバミル化を被ることで減少していくことを示している。
[分画γによる補正]
次に、安定型A1cとして同定される分画βに対し、正電荷量が低い側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γを用いて、下記表3に示すように補正前値(X)の補正を行った。
Figure 0007175240000003
まず、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合を、上記表3中の左端列に挙げており、具体的には、検体1で2.9%、検体2で6.1%、検体3で8.1%、及び検体4で9.6%であった。
分画γには、不安定型A1c(L-A1c)が含まれることが分かっている。そこで、不安定型A1cに由来する一定のピーク面積の割合と考えられる3%が所定のピーク面積値として上記した分画γのピーク面積の割合から控除され、これにより上記表3中に示す修飾率(P)を算出した。なお、この不安定型A1cに由来するピーク面積の割合は、複数のカルバミル化やアルデヒド化の影響を被っていないと考えられる健常者の検体を分離分析して得た不安定型A1c(L-A1c)を含む分画のピーク面積の割合の統計上の値であってもよく、上記した3%には限定されない。ここで、検体1における分画γは2.9%でありこの3%を下回っているが、この場合は計算上、修飾率(P)が0であるものとして取り扱った。この修飾率(P)は、検体中のシアン酸ナトリウム濃度が高くなるにつれ増大していることが見て取れる。なお、この修飾率(P)はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対するカルバミル化されたHbA0を含むピーク面積の割合であるが、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積はHbA0を含む分画のピーク面積とカルバミル化されたHbA0を含むピーク面積の合計値と近似する。そのため、このように、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対するカルバミル化されたHbA0を含むピーク面積の割合を修飾率(P)としても適切に補正できる。
この修飾率(P)を1から減じた値が上記表中の残存率(Q、ただし百分率で表示)であり、この割合で残存した安定型A1cが、前記した表2中の補正前値(X)、すなわち分画βとしてエレクトロフェログラムに現れていると考えられる。よって、補正前値(X)をこの残存率(Q)で除した値である、上記表3中の補正後値(Y)は、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積と化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積の合計値の割合と考えられる。ここで、前記表2から、補正前値(X)に基づく相対誤差の絶対値は、検体4で最大の6.5%であったところ、上記表3から、補正後値(Y)に基づく相対誤差(すなわち、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体1の補正前値(X)(表2参照)を減じた値の、検体1の補正前値(X)に対する割合)の絶対値は、検体3で最大の1.8%であった。そのため、補正を行うことで、化学修飾されることによって生じる相対誤差の幅は小さくなった。
よって、分画γを用いた補正によって、カルバミル化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[分画δによる補正]
分画δによる補正では、表4中の左端列に掲げるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画δのピーク面積の割合から、カルバミル化やアルデヒド化の影響を被っていないと考えられる健常者の検体が通常有する分画δのピーク面積の割合である4%を所定のピーク面積値として控除した。なお、この控除する値は複数の健常者の検体を分離分析して得た分画δのピーク面積の割合の統計上の値であってもよく、必ずしもこの4%には限定されない。そして、HbA0が化学修飾される際にともに生成される物質のピーク面積は、カルバミル化HbA0のピーク面積である分画γの約1.65倍を示す。このことから分画δから4%が控除された値をこの所定の係数である1.65で除した値をヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対するカルバミル化HbA0のピーク面積の割合とみなし、これを修飾率(P)とした。この他、残存率(Q)、補正後値(Y)及び相対誤差の算出は表3と同様である。ただし、表4中の補正後値(Y)は、前記表2中の補正前値(X)を表4中の残存率(Q)で除した値である。また、表4中の相対誤差は、表3と同様に、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体1の補正前値(X)(表2参照)を減じた値の、検体1の補正前値(X)に対する割合である。
Figure 0007175240000004
上記表4からも、補正後値(Y)の相対誤差の幅は補正前の補正前値(X)の相対誤差(表2参照)の幅よりも小さくなっているといえる。よって、分画δを用いた補正によって、カルバミル化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[カルバミル化の影響について小活]
以上の表2~表4のまとめとして、各検体のシアン酸ナトリウム濃度に対して、補正をしなかった場合と、分画γによる補正を行った場合と、分画δによる補正を行った場合とにおける相対誤差を下記表5に掲げる。
Figure 0007175240000005
上記表5をグラフ化した図19からも明らかなように、いずれの補正によっても、シアン酸ナトリウムによる安定型A1cのカルバミル化の影響が少なくとも軽減されることが認められた。
<アルデヒド化の影響>
実施例1として、通常検体に人為的にアセトアルデヒドを添加してヘモグロビンをアルデヒド化した検体においても、本開示の安定型A1cの測定方法が有効であることを示す。
[アルデヒド化検体の調製]
通常検体として、健常者から採取した全血を使用した。この通常検体に、下記表6に示すような終濃度となるようアセトアルデヒドを添加して37℃でインキュベートした検体1~検体4を調製し、これらをそれぞれ前記した試料Sa(図7参照)として使用した。検体中のアセトアルデヒド濃度に応じて、検体中のヘモグロビンはアルデヒド化される。
Figure 0007175240000006
なお、上記表7中の検体5のアセトアルデヒド濃度は0mg/dLであるが、これはアセトアルデヒドを添加していない、通常検体そのままであることを意味する。また、泳動液Lm、希釈液Ld及び混合試料Smについては前記した実施例1と同様である。
[エレクトロフェログラム]
電圧を印加した時点を分離分析の開始の時点とし、電圧を印加した時点を0秒の時点としたエレクトロフェログラムを得た。アセトアルデヒドが添加されていない検体5のエレクトロフェログラムは、図20に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は泳動時間11.9秒付近である。また、HbF分画である分画εは泳動時間18.8秒付近にピークを有する。安定型A1c分画である分画βは泳動時間21.9秒付近にピークを有する。HbA0分画である分画αは泳動時間28.3秒付近にピークを有する。そして、分画βより早い泳動時間20.4秒付近にピークを有する分画γは、不安定型A1cを含む分画とされているが、この分画にはアルデヒド化を被ったHbA0も含まれる。また、分画αより早い泳動時間26.2秒付近にピークを有する分画δには、HbA0がアルデヒド化される際に生成される物質が含まれる。
アセトアルデヒドが12.5mg/dLの濃度で添加されている検体6のエレクトロフェログラムは、図21に示すとおりである。また、アセトアルデヒドが25mg/dLの濃度で添加されている検体7のエレクトロフェログラムは、図22に示すとおりである。図20~図22より、前記したカルバミル化の場合と同様、アセトアルデヒドの濃度が増大するにつれて、分画γ及び分画δの面積が増大していくことが認められる。
[補正前値(X)の算出]
図20~図22における分画βから、安定型A1cピーク面積の割合としての補正前値(X)は、下記表7に示すとおりに算出された。なお、補正前値(X)の算出方法については前記した実施例1と同様である。
Figure 0007175240000007
上記表7に示すとおり、検体中のアセトアルデヒド濃度が高くなるにつれ、補正前値(X)が低くなっていくことが認められる。また検体5の補正前値(X)に対する増減の割合(すなわち、各検体の補正前値(X)から検体5の補正前値(X)である5.47%を減じた値の、検体5の補正前値(X)に対する割合)を示す相対誤差も、アセトアルデヒド濃度の増大に伴い、大きくなった。これは、安定型A1c量が、アセトアルデヒドによるアルデヒド化を被ることで減少していくことを示している。
[分画γによる補正]
次に、安定型A1cとして同定される分画βに対し、正電荷量が低い側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γを用いて、下記表8に示すように補正前値(X)の補正を行った。
Figure 0007175240000008
まず、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合を、上記表8中の左端列に挙げており、具体的には、検体5で2.4%、検体6で4.6%、及び検体7で7.3%であった。
この分画γのピーク面積の割合からは、前記した実施例1と同様の理由で3%が控除され、これが上記表8中に示す修飾率(P)として掲げられている数値である。ここで、検体5における分画γは2.4%でありこの3%を下回っているが、この場合は計算上、修飾率(P)が0であるものとして取り扱った。この修飾率(P)は、検体中のアセトアルデヒド濃度が高くなるにつれ増大していることが見て取れる。また、前記した実施例1と同じ理由で、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対するアルデヒド化されたHbA0を含むピーク面積の割合を修飾率(P)としても、適切に補正できる。
この修飾率(P)を1から減じた値が上記表中の残存率(Q、ただし百分率で表示)であり、この割合で残存した安定型A1cが、前記した表7中の補正前値(X)、すなわち分画βとしてエレクトロフェログラムに現れていると考えられる。よって、補正前値(X)をこの残存率(Q)で除した値である、上記表8中の補正後値(Y)は、ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されずに残った安定型A1cを含む分画のピーク面積と化学修飾された安定型A1cを含む分画のピーク面積の合計値の割合と考えられる。ここで、前記表7から、補正前値(X)に基づく相対誤差の絶対値は、検体7で最大の5.1%であったところ、上記表8から、補正後値(Y)に基づく相対誤差(すなわち、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体5の補正前値(X)(表7参照)を減じた値の、検体5の補正前値(X)に対する割合)の絶対値は、検体7で最大の0.8%であった。そのため、補正を行うことで、化学修飾されることによって生じる相対誤差の幅は小さくなった
よって、分画γを用いた補正によって、アルデヒド化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
[分画δによる補正]
HbA0として同定される分画αに対し、正電荷量が低い側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画δを用いて、前記表7の補正前値(X)の補正を行った場合について説明する。なお、この分画δによる補正では、前記実施例1と同様の理由から分画δのピーク面積の割合から4%が所定のピーク面積値として控除されている。そしてHbA0が化学修飾される際にともに生成される物質のピーク面積は、分画γに含まれるアルデヒド化HbA0のピーク面積の約1.65倍を示す。このことから分画δから4%が控除された値をこの1.65という所定の係数で除することにより修飾率(P)を算出した。この他、残存率(Q)、補正後値(Y)及び相対誤差の算出は表8と同様である。ただし、表9中の補正後値(Y)は、前記表7中の補正前値(X)を表9中の残存率(Q)で除した値である。また、表9中の相対誤差は、表8と同様に、各検体の補正後値(Y)から、化学修飾の影響を受けていないと考えられる検体5の補正前値(X)(表7参照)を減じた値の、検体5の補正前値(X)に対する割合である。
Figure 0007175240000009
上記表9からも、補正後値(Y)の相対誤差の幅は補正前の補正前値(X)の相対誤差の幅よりも小さくなっているといえる。よって、分画δを用いた補正によって、アルデヒド化による化学修飾の影響が軽減ないし排除されて、過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映した安定型A1cの割合により近い値が求められると考えられる。
分画δを用いて補正する場合、実施例1で示したカルバミル化の影響の補正では分画δ(%)から4%を控除した値を除する所定の係数として1.65を用いた。そして実施例2で示したアルデヒド化の影響の補正でも同様にこの所定の係数である1.65を用いた。このように同じ係数を用いることで、HbA0がカルバミル化される際に生じる物質と、HbA0がアルデヒド化される際に生じる物質とが同じ分画δに含まれる場合であっても、いずれの化学修飾の影響も回避することができる。なお、分離分析する検体のヘモグロビンがカルバミル化されていないことがわかっており、アルデヒド化されていることがわかっている場合は、アルデヒド化の影響を回避するために適した係数を用いてもよい。分離分析する検体のヘモグロビンがカルバミル化されており、アルデヒド化されていないことがわかっている場合も同様である。
[アルデヒド化の影響について小活]
以上の表7~表9のまとめとして、各検体のアセトアルデヒド濃度に対して、補正をしなかった場合と、分画γによる補正を行った場合と、分画δによる補正を行った場合とにおける相対誤差を下記表10に掲げる。
Figure 0007175240000010
上記表10をグラフ化した図23からも明らかなように、いずれの補正によっても、アセトアルデヒドによる安定型A1cのアルデヒド化の影響が少なくとも軽減されることが認められた。
<不安定型A1cの影響>
実施例3として、通常検体に人為的にグルコースを添加し、不安定型A1cを生じさせた。この検体を用いた検討から、本開示のHbA0が化学修飾される際に化学修飾されたHbA0とともに生成される物質を含む分画を用いて補正する安定型A1cの測定方法が、さらに有効であることを示す。
[不安定型A1cを含む検体の調製]
通常検体として、健常者から採取した全血を使用した。この通常検体に、下記表11に示すような終濃度となるようD-グルコースを添加して37℃でインキュベートした検体8~検体12を調製し、試料Sa(図7参照)を調製した。検体中のD-グルコース濃度の増加に応じて、検体中の不安定型A1c濃度は増加する。
Figure 0007175240000011
なお、上記表中の検体8のD-グルコース濃度は0mg/dLであるが、これはD-グルコースを添加していない、通常検体そのままであることを意味する。また、泳動液Lm、希釈液Ld及び混合試料Smについては前記した実施例1と同様である。
[エレクトロフェログラム]
電圧を印加した時点を分離分析の開始の時点とし、電圧を印加した時点を0秒の時点としたエレクトロフェログラムを得た。グルコースが添加されていない検体8のエレクトロフェログラムは、図24に示すとおりである。最離間点PLが検出された界面到達時点は泳動時間12.3秒付近である。また、HbF分画である分画εは泳動時間18.3秒付近にピークを有する。安定型A1c分画である分画βは泳動時間22.1秒付近にピークを有する。HbA0分画である分画αは泳動時間28.4秒付近にピークを有する。そして、分画βより早い泳動時間20.8秒付近にピークを有する分画γは、不安定型A1cを含む分画とされているが、この分画にはカルバミル化を被ったHbA0、アルデヒド化を被ったHbA0も含まれる。また、分画αより早い泳動時間26.3秒付近にピークを有する分画δには、HbA0がカルバミル化又はアルデヒド化される際に生成される物質が含まれる。
D-グルコースがそれぞれ375mg/dL、750mg/dL、1125mg/dL及び1500mg/dLの濃度で添加されている検体9、検体10、検体11及び検体12のエレクトロフェログラムは、それぞれ図25、図26、図27及び図28に示すとおりである。図24~図28より、前記したカルバミル化、アルデヒド化の場合と同様、不安定型A1cを作成するために用いるD-グルコースの濃度が増大するにつれて、分画γのピーク面積が増大していくことが認められる。分画δのピーク面積もわずかに増大していくが、その増大量は分画γよりも極めて低いことが認められる。このように、検体をD-グルコースで処理することで検体中の不安定型A1cが高くなっても、分画δのピーク面積は大きくならない。一方、検体をカルバミル化、アルデヒド化で処理することで検体中のカルバミル化HbA0量、アルデヒド化HbA0量が増加すると、分画δのピーク面積は増加する。そのため、分画δのピーク面積を用いて補正をすることで、不安定型A1cを含む検体の影響を受けずにカルバミル化、アルデヒド化の影響を適切に補正することができる。
[補正前値(X)の算出]
図24~図28における分画βから、安定型A1cピーク面積の割合としての補正前値(X)は、下記表12に示すとおりに算出された。なお、補正前値(X)の算出方法については前記した実施例1と同様である。
Figure 0007175240000012
上記表12に示すとおり、検体中のグルコース濃度が高くなるにつれ、補正前(X)が僅かに高くなっていくが、減少はしないことが認められる。また、検体8の補正前値(X)に対する増減の割合を示す相対誤差の値も、グルコース濃度が増大してもほとんど変化しない。これは、安定型A1c量はグルコースによって化学修飾をほとんど受けないことを示している。
[分画γによる補正]
次に、安定型A1cとして同定される分画βに対し、正電荷量が低い側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画γを用いて、下記表13に示すように補正前値(X)の補正を行った。
Figure 0007175240000013
ヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する分画γの面積の割合を、上記表13中の左端列に挙げており、具体的には、検体8で1.84%、検体9で3.53%、検体10で5.08%、検体11で6.76%、及び検体12で8.53%であった。
この分画γのピーク面積の割合からは、前記した実施例1と同様の理由で3%が控除され、これが上記表13中に示す修飾率(P)として掲げられている数値である。ここで、検体8における分画γは1.84%でありこの3%を下回っているが、この場合は計算上、修飾率(P)が0であるものとして取り扱った。
この修飾率(P)を1から減じた値が上記表13中の残存率(Q、ただし百分率で表示)である。そして、補正前値(X)をこの残存率(Q)で除して、上記表13中の補正後値(Y)を算出した。そして、補正後値(Y)から、分画γを用いて補正した場合の相対誤差を算出した。すなわち、各検体の補正後値(Y)から、検体8の補正前値(X)(表12参照)を減じた値の、検体8の補正前値(X)に対する割合が上記表13中の相対誤差である。
[分画δによる補正]
HbA0として同定される分画αに対し、正電荷量が低い側、換言すると泳動速度が速い側で隣接する分画δを用いて、前記表12の補正前値(X)の補正を行った場合について説明する。なお、この分画δによる補正では、前記実施例1と同様の理由から分画δのピーク面積の割合から4%が所定のピーク面積値として控除されている。そしてHbA0が化学修飾される際にともに生成される物質のピーク面積は、分画γに含まれるアルデヒド化HbA0のピーク面積の約1.65倍を示す。このことから分画δから4%が控除された値をこの所定の係数である1.65で除することにより修飾率(P)を算出した。この他、残存率(Q)、補正後値(Y)及び相対誤差の算出は表13と同様である。ただし、表14中の補正後値(Y)は、前記表12中の補正前値(X)を表14中の残存率(Q)で除した値である。また、表14中の相対誤差は、表13と同様に、各検体の補正後値(Y)から、検体8の補正前値(X)(表7参照)を減じた値の、検体8の補正前値(X)に対する割合である。
Figure 0007175240000014
[不安定型A1cの影響について小活]
以上の表11~表14のまとめとして、各グルコース濃度で処理した検体を、分画γによる補正を行った場合と、分画δによる補正を行った場合とにおける相対誤差を下記表15に掲げる。
Figure 0007175240000015
上記表15をグラフ化した図からも明らかなように、分画δを用いた補正は、分画γを用いた補正よりも相対誤差が小さくなった。これは、分画γのピーク面積は不安定型A1cの影響を受けるのに対し、分画δのピーク面積は不安定型A1c量の影響を受けないからである。つまり、HbA0が化学修飾される際に化学修飾されたHbA0とともに生成される物質を含む分画を用いた補正を行うことによって、不安定型A1cを含む検体であっても正しく安定化A1cを測定することができる。よって、当該補正を行う安定型A1cの測定方法は、化学修飾されたHbA0を含む分画を用いた補正よりも、さらに有効であることが認められた。
本発明は、血中ヘモグロビンの分画のうち、安定型ヘモグロビンA1cを測定する測定装置に利用可能である。
A1 分析システム
1 分析装置
2 分析チップ
2A 上側部分
2B 下側部分
5 検出器
6 分注器
8 制御部
21 本体
22 混合槽
23 導入槽
24 フィルタ
25 排出槽
26 電極槽
27 キャピラリー管
28 連絡流路
31 電極
32 電極
41 光源
42 光学フィルタ
43 レンズ
44 スリット
61 ポンプ
71 希釈液槽
72 泳動液槽

Claims (10)

  1. 血中ヘモグロビンの分離分析における安定型A1cの測定方法であって、
    前記分離分析で得られるヘモグロビンの時間分布における化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から、又はHbA0として同定される分画に対し、正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積から、HbA0が化学修飾されずに残った割合である残存率を算出する工程、及び、
    前記ヘモグロビンの時間分布から得られた、HbA0を含む分画のピーク面積又はヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、安定型A1cを含む分画のピーク面積の割合を前記残存率で補正する工程、
    を含んでなる、安定型A1cの測定方法。
  2. 前記残存率は、HbA0を含む分画のピーク面積と化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積との合計値に対する、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の割合である修飾率から算出される、請求項1に記載の安定型A1cの測定方法。
  3. 前記残存率は、前記ヘモグロビンの時間分布におけるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積の割合である修飾率から算出される、請求項1に記載の安定型A1cの測定方法。
  4. 前記残存率は、前記ヘモグロビンの時間分布におけるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、化学修飾されたHbA0を含む分画のピーク面積から所定のピーク面積値を控除した値の割合である修飾率から算出される、請求項1に記載の安定型A1cの測定方法。
  5. 前記残存率は、HbA0を含む分画のピーク面積と、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積を所定の係数で除して得られるピーク面積補正値との合計値に対する、前記ピーク面積補正値の割合である修飾率から算出される、請求項1に記載の安定型A1cの測定方法。
  6. 前記残存率は、前記ヘモグロビンの時間分布におけるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積を所定の係数で除して得られるピーク面積補正値の割合である修飾率から算出される、請求項1に記載の安定型A1cの測定方法。
  7. 前記残存率は、前記ヘモグロビンの時間分布におけるヘモグロビンを含む分画の全ピーク面積に対する、HbA0として同定される分画に対し正電荷量が低い側に隣接する分画のピーク面積から所定のピーク面積値を控除した値をさらに所定の係数で除して得られるピーク面積補正値の割合である修飾率から算出される、請求項1に記載の安定型A1cの測定方法。
  8. 前記化学修飾は、カルバミル化及びアルデヒド化のいずれか一方又は両方である、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の安定型A1cの測定方法。
  9. 前記ヘモグロビンの時間分布は、クロマトグラムである、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の安定型A1cの測定方法。
  10. 前記ヘモグロビンの時間分布は、キャピラリー電気泳動法で得られるエレクトロフェログラムである、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の安定型A1cの測定方法。
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