以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面において縮尺は、必ずしも実施形態の製品を正確に表してはおらず、一部の寸法を誇張して表現している場合もある。
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置が使用される転がり軸受の一例である自動車用のハブ軸受を示す。但し、本発明の用途はハブ軸受には限定されず、他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、以下の説明では、ハブ軸受は、玉軸受であるが、本発明の用途は玉軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、ころ軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。また、自動車以外の機械に使用される転がり軸受にも本発明は適用可能である。
このハブ軸受1は、スピンドル(図示せず)が内部に挿入される孔2を有するハブ(内側部材)4と、ハブ4に取り付けられた内輪(内側部材)6と、これらの外側に配置された外輪(外側部材)8と、ハブ4と外輪8の間に1列に配置された複数の玉10と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された複数の玉12と、これらの玉を定位置に保持する複数の保持器14,15とを有する。
外輪8が固定されている一方で、ハブ4および内輪6は、スピンドルの回転に伴って回転する。
スピンドルおよびハブ軸受1の共通の中心軸線Axは、図1の上下方向に延びている。図1においては、中心軸線Axに対する左側部分のみが示されている。詳細には図示しないが、図1の上側は自動車の車輪が配置される外側(アウトボード側)であり、下側は差動歯車などが配置される内側(インボード側)である。図1に示した外側、内側は、それぞれ径方向の外側、内側を意味する。
ハブ軸受1の外輪8は、ハブナックル16に固定される。ハブ4は、外輪8よりも半径方向外側に張り出したアウトボード側フランジ18を有する。アウトボード側フランジ18には、ハブボルト19によって、車輪を取り付けることができる。
外輪8のアウトボード側の端部の付近には、外輪8とハブ4との間の間隙を封止する密封装置20が配置されており、外輪8のインボード側の端部の内側には、外輪8と内輪6との間の間隙を封止する密封装置21が配置されている。これらの密封装置20,21の作用により、ハブ軸受1の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止されるとともに、外部からハブ軸受1の内部への異物(水(泥水または塩水を含む)およびダストを含む)の流入が防止される。図1において、矢印Fは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
密封装置20は、ハブ軸受1の回転するハブ4と固定された外輪8のアウトボード側の円筒状の端部8Aとの間に配置され、ハブ4と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置21は、ハブ軸受1の回転する内輪6と固定された外輪8のインボード側の端部8Bとの間に配置され、内輪6と外輪8との間の間隙を封止する。
第1実施形態
図2に示すように、密封装置21は、ハブ軸受1の外輪8のインボード側の端部8Bと、ハブ軸受1の内輪6との間隙内に配置される。密封装置21は環状であるが、図2においては、その左側部分のみが示されている。
密封装置21は、第1のシール部材24と第2のシール部材26を備える複合構造を有する。
第1のシール部材24は、外輪8に取り付けられ、回転しない固定シール部材である。第1のシール部材24は、弾性環28および剛性環30を有する複合構造である。弾性環28は、弾性材料、例えばエラストマーで形成されている。剛性環30は、剛性材料、例えば金属から形成されており、弾性環28を補強する。剛性環30は、ほぼL字形の断面形状を有する。剛性環30の一部は、弾性環28に埋設されており、弾性環28に密着している。
第1のシール部材24は、円筒部分24A、環状部分24B、ラジアルリップ24C、およびアキシャルリップ24D,24Eを有する。円筒部分24Aは、外輪8に取り付けられる取付け部を構成する。具体的には、円筒部分24Aは、外輪8の端部8Bに締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。環状部分24Bは、円環状であって、円筒部分24Aの径方向内側に配置され、内輪6に向けて径方向内側に広がる。円筒部分24Aと環状部分24Bは、剛性環30と弾性環28から構成されている。
環状部分24Bの径方向外側の部分には、厚肉部24Fが形成されている。
ラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24Eは、環状部分24Bから第2のシール部材26に向けて延び、これらのリップの先端は第2のシール部材26に接触する。これらのリップは、弾性環28から構成されている。
第2のシール部材26は、スリンガーすなわち回転シール部材とも呼ぶことができる。第2のシール部材26は、内輪6に取り付けられており、内輪6の回転時に、第2のシール部材26は内輪6とともに回転し、外部から飛散して来る異物を跳ね飛ばす。
この実施形態では、第2のシール部材26も、弾性環32および剛性環34を有する複合構造である。剛性環34は、剛性材料、例えば金属から形成されている。
剛性環34は、ほぼL字形の断面形状を有する。具体的には、円筒状のスリーブ34Aと、スリーブ34Aから径方向外側に広がる円環状のフランジ34Bを備える。スリーブ34Aは、内輪6に取り付けられる取付け部を構成する。具体的には、スリーブ34Aには、内輪6の端部が締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。
フランジ34Bは、スリーブ34Aの径方向外側に配置され、径方向外側に広がっており、第1のシール部材24の環状部分24Bと対向する。この実施形態では、フランジ34Bは平板であり、スリーブ34Aの軸線に対して垂直な平面内にある。
弾性環32は、剛性環34のフランジ34Bに密着している。この実施形態では、弾性環32は、内輪6の回転速度を計測するために設けられている。具体的には、弾性環32は、磁性金属粉を含有するエラストマー材料で形成されており、磁性金属粉によって多数のS極とN極を有する。弾性環32においては、円周方向に等角間隔をおいて多数のS極とN極が交互に配置されている。図示しない磁気式ロータリーエンコーダーによって、弾性環32の回転角度を測定することができる。但し、弾性環32は必ずしも不可欠ではない。
第1のシール部材24のラジアルリップ(グリースリップ)24Cは、環状部分24Bの内側端から半径方向内側に延びる。ラジアルリップ24Cは、第2のシール部材26のスリーブ34Aに向けて延び、ラジアルリップ24Cの先端は、スリーブ34Aに接触する。ラジアルリップ24Cは、半径方向内側かつアウトボード側に向けて延び、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担う。
第1のシール部材24のアキシャルリップ(サイドリップ)24D,24Eは、環状部分24Bから側方に延びる。アキシャルリップ24D,24Eの先端は、半径方向外側かつインボード側に向けて延び、第2のシール部材26のフランジ34Bの面34Cに接触する。アキシャルリップ24D,24Eは、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担う。第1のシール部材24が2つのアキシャルリップ24D,24Eを有するので、密封対象(ハブ軸受1の内部)への水からの保護性能が高い。
第1のシール部材24が固定された外輪8に取り付けられている一方、内輪6および第2のシール部材26は回転するので、ラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24Eは第2のシール部材26に対して摺動する。
アキシャルリップ24D,24Eは、ラジアルリップ24Cに比較して、内輪6に与えるトルクが小さく、内輪6と外輪8が偏心していても封止性能の変動が小さい。
ラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24Eの内周面には、潤滑剤としてグリース(図示せず)が付着されている。
第1のシール部材24の円筒部分24Aのインボード側の先端と、第2のシール部材26の外端縁との間には、環状の間隙G1が設けられている。間隙G1を通じて、第1のシール部材24の環状部分24Bと第2のシール部材26のフランジ部分34Bの間の空間36内に、異物が侵入することがある。逆に、空間36内の異物は、間隙G1を通じて排出することができる。
図2および図3に示すように、密封装置21は、さらに外側リング40と内側リング42を備える。外側リング40と内側リング42は、空間36内に配置されている。換言すれば、外側リング40と内側リング42は、すべてのリップ24C,24D,24Eの径方向外側に配置されている。外側リング40は、内側リング42の径方向外側に、内側リング42と接触するよう配置されている。外側リング40と内側リング42は、スリーブ34Aおよびフランジ34Bに同軸に配置されている。
外側リング40と内側リング42の端面は、第2のシール部材26のフランジ34Bの面34Cに固定されている。固定の手法は、例えば、接着であってよい。
外側リング40と内側リング42の他の端面は、第1のシール部材24の環状部分24Bの厚肉部24Fに接触せずに対向している。環状部分24Bの厚肉部24Fは、フランジ34Bの面34Cに平行な面24Gを有しており、外側リング40は、面24Gに間隙G2をおいて対向し、内側リング42は、面24Gに間隙G3をおいて対向する。
外側リング40は、非多孔質であって、撥水材料から形成されている。外側リング40の好ましい材料は、例えば、フッ素樹脂(例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン))、シリコーン樹脂、フッ素ゴムまたはシリコーンゴム(FKM)である。
内側リング42も撥水材料から形成されている。内側リング42の好ましい材料は、例えば、フッ素樹脂(例えば、PTFE)、シリコーン樹脂、フッ素ゴムまたはFKMである。但し、内側リング42は、多孔質であって、例えばスポンジすなわち発泡体として形成されている。内側リング42の断面は、図2および図3に示すように矩形である。
外側リング40の断面もほぼ矩形である。但し、図3に示すように、外側リング40のフランジ34Bに固定されていない端面40Aには、周方向に延びる溝44が形成されている。また、端面40Aには、内側リング42と隣接する溝46が形成されている。図示の実施形態では、溝44の数は2つであるが、1つでもよいし、3つ以上でもよい。また、溝46は必ずしも不可欠ではない。
各溝44は、内側面44aと内側面44aの径方向外側に配置された外側面44bを有する。外側面44bは密封装置21の軸線方向に対して内側面44aよりも傾斜している。図示の実施形態では、内側面44aは、密封装置21の軸線を中心とする円筒面であるのに対し、外側面44bは、密封装置21の軸線を中心とする円錐台面である。
溝46は、外側に傾斜面46bを有する。溝46を画定する内側リング42の外周面が密封装置21の軸線を中心とする円筒面であるのに対し、傾斜面46bは、密封装置21の軸線を中心とする円錐台面である。
外側リング40の端面40Aのうち溝44の径方向外側の部分は平面48である。外側リング40の平面48と平面48が対向する面24Gとの間隔d1は、内側リング42と内側リング42が対向する面24Gとの間隔d2(間隙G3の大きさ)より小さい。
この実施形態においては、図4に示すように、溝44,46の各々は、周方向に連続し、円を構成する。
この実施形態においては、ラジアルリップ24Cおよびアキシャルリップ24D,24Eの径方向外側に配置された外側リング40と内側リング42が撥水性を有しており、密封装置21の外部からの水の侵入を抑制する。とはいえ、外側リング40と内側リング42は、環状部分24Bの厚肉部24Fの面24Gに接触しないので、外側リング40と面24Gとの間の間隙G2、ならびに内側リング42と面24Gとの間の間隙G3を通じて、外部から水が侵入しうる。
しかし、内側リング42は多孔質であるので、ある程度、水を含浸することができ、撥水性を有する外側リング40と内側リング42の付近に外部からの水が滞留しうる。特に、外側リング40の端面40Aに形成された周方向に延びる溝44,溝46内には水Wが滞留しうる。図3は、外側リング40と内側リング42の付近に滞留した水Wを示す。滞留した水Wは、密封装置21の外部から間隙G1を通じて侵入しようとするダストを受け止め、その後、遠心力によって、非多孔質の外側リング40と外側リング40が対向する面24Gとの間の間隙G2を通じて、ダストと一緒に密封装置21の外部に排出されうる。したがって、この実施形態に係る密封装置21は、密封対象(ハブ軸受1の内部)への水およびダストからの保護性能が高い。
このように水およびダストからの保護性能が確保されるにもかかわらず、外側リング40と内側リング42は、環状部分24Bの厚肉部24Fの面24Gに接触しないので、密封装置21が回転体に与えるトルクは小さい。
各溝44は、内側面44aと外側面44bを有し、外側面44bは密封装置21の軸線方向に対して内側面44aよりも傾斜している。したがって、内側面44aが水およびダストの侵入を妨げ、溝44内に滞留した水が遠心力によって傾斜が大きい外側面44bに沿って排出されやすい。また、溝46は径方向外側に傾斜面46bを有するので、溝46内に滞留した水が遠心力によって傾斜面46bに沿って排出されやすい。
外側リング40の平面48と平面48が対向する面24Gとの間隔d1は、内側リング42と内側リング42が対向する面24Gとの間隔d2より小さい。このため、外部から水およびダストが侵入しがたい一方で、空間36から外部に水およびダストが排出されやすい。
この実施形態では、外側リング40の外側リング40が対向する面24Gのうち溝の径方向外側の部分は、平面48である。密封装置21を外輪8に組み込む際、径方向外側に配置された非多孔質のこの平面48を利用して、第1のシール部材24と第2のシール部材26の相互の位置決めを行いやすい。すなわち、平面48と面24Gの間の間隔d1が所望の間隔になるように、間隔d1を確認しながら、第1のシール部材24と第2のシール部材26の相互の位置決めを行うことが可能である。
この実施形態において、外側リング40と内側リング42は、アキシャルリップ24D,24Eが接触するフランジ34Bの面34Cに固定されている。したがって、外側リング40と外側リング40が対向する面24Gとの間の間隙G2、ならびに内側リング42と内側リング42が対向する面24Gとの間の間隙G3は、アキシャルリップ24D,24Eが面34Cと接触する部分と、密封装置の軸線方向にずれている。外側リング40と外側リング40が対向する面24Gとの間の間隙G2、ならびに内側リング42と内側リング42が対向する面24Gとの間の間隙G3を通じて、外部から水またはダストが侵入したとしても、これらの間隙とリップが第2のシール部材26と接触する部分と、密封装置の軸線方向にずれているため、水またはダストはリップが第2のシール部材26と接触する部分に到達しにくい。
図5は、変形例に係る外側リング40の平面図である。この変形例のように、複数の円弧状の溝44,46が外側リング40の端面40Aに周方向に断続的に配置されていてもよい。
図6は、他の変形例に係る外側リング40の平面図である。この変形例のように、複数の溝49が外側リング40の端面40Aに周方向に断続的に配置されていてもよい。各溝49は、周方向に延びる円弧部分49aと、径方向に延びる放射部分49bを有する。放射部分49bは、円弧部分49aの径方法内側に配置され、円弧部分49aの中央に連なる。
第2実施形態
図7は、本発明の第2実施形態に係る密封装置21の部分断面図である。図7以降の図面において、すでに説明した構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
この変形例では、図2に比べて、外輪8の端部8Bと内輪6の間の間隙が小さく、より小型の第1のシール部材24が使用されている。図2と異なり、図7の第1のシール部材24では、円筒部分24Aが環状部分24Bの厚肉部24Fから突出せず、円筒部分24Aの端面が厚肉部24Fの面24Gと面一である。
外輪8の端部8Bと、第2のシール部材26の外端縁との間には、環状の間隙G4が設けられている。間隙G4を通じて、第1のシール部材24の環状部分24Bと第2のシール部材26のフランジ部分34Bの間の空間36内に、異物が侵入することがある。逆に、空間36内の異物は、間隙G4を通じて排出することができる。
第1実施形態と同様に、この実施形態においても、外側リング40と内側リング42は、空間36内に配置され、第2のシール部材26のフランジ34Bの面34Cに固定されている。
この実施形態においても、第1実施形態と同じ効果が達成される。第1実施形態に関する変形は、この実施形態にも適用することができる。
図8に示すように、外側リング40の端面40Aの平面48は、第1のシール部材24の円筒部分24Aの剛性環30の端部30aが埋設された部分に対面することが好ましい。つまり、外側リング40の端面40Aの平面48が存在する径方向範囲は、剛性環30の端部30aの径方向範囲と重なることが好ましい。密封装置21を外輪8に組み込む際、第1のシール部材24の円筒部分24Aの剛性環30の端部30aが埋設された部分に、外側リング40の端面40Aが衝突する可能性がある。この場合、端面40Aの溝44が形成された部分が、端部30aが埋設された部分に衝突すると、衝撃によって溝44が形成された部分が破損するおそれがある。他方、平面48が端部30aが埋設された部分に衝突しても、外側リング40が破損するおそれは少ない。
第3実施形態
第1および第3実施形態は、ハブ軸受1のインボード側の密封装置21に関する。本発明の第3実施形態は、ハブ軸受1のアウトボード側の密封装置20に関する。
図9に示すように、密封装置20は、ハブ軸受1の外輪8のアウトボード側の端部8Aと、ハブ軸受1のハブ4との間隙内に配置される。具体的には、密封装置20は、ハブ軸受1の外輪8のアウトボード側の円筒状の端部8Aと、ハブ軸受1のハブ4の玉10の近傍の円筒部分の外周面4Aと、ハブ4の外周面4Aよりも径方向外側に広がるフランジ面4Bと、外周面4Aとフランジ面4Bとを連結する円弧面4Cとで囲まれた空間内に配置される。フランジ面4Bはアウトボード側フランジ18のインボード側の表面である。密封装置20は環状であるが、図9においては、その左側部分のみが示されている。
密封装置20は、第1のシール部材50と第2のシール部材52を備える複合構造を有する。
第1のシール部材50は、外輪8に取り付けられ、回転しない固定シール部材である。第1のシール部材50は、弾性環54および剛性環56を有する複合構造である。弾性環54は、弾性材料、例えばエラストマーで形成されている。剛性環56は、剛性材料、例えば金属から形成されており、弾性環54を補強する。剛性環56は、ほぼL字形の断面形状を有する。剛性環56の一部は、弾性環54に埋設されており、弾性環54に密着している。
第1のシール部材50は、外側環状部分50A、円筒部分50B、内側環状部分50C、ラジアルリップ58、およびアキシャルリップ60を有する。
外側環状部分50A、円筒部分50Bおよび内側環状部分50Cは、弾性環54と剛性環56から構成されている。ラジアルリップ58、およびアキシャルリップ60は、弾性環54から構成されている。
外側環状部分50Aは、外輪8の端部8Aの端面に接触させられている。円筒部分50Bは、外輪8の端部8Aの内周面に締まり嵌め方式で嵌め入れられる(すなわち圧入される)。内側環状部分50Cは、円筒部分50Bの半径方向内側に配置されている。ラジアルリップ58およびアキシャルリップ60は、内側環状部分50Cからハブ軸受1のハブ4に向けて延びる。これらのリップの先端は第2のシール部材52に接触する。
第2のシール部材52は、ハブ4に固定された回転シール部材である。第2のシール部材52は、剛性材料、例えば金属から形成されている。第2のシール部材52は、ハブ4の円筒部分の外周面4Aが締まり嵌め方式で嵌め入れられるスリーブ52Aを有する。スリーブ52Aの端部52Bは、ハブ4の円弧面4Cに接触させられている。さらに第2のシール部材52は、スリーブ52Aの端部52Bから径方向外側に広がるフランジ52Cを有する。フランジ52Cは、ハブ4のフランジ面4Bに接触させられている。
リップ58,60の各々は、弾性材料のみから形成されており、内側環状部分50Cから延びる薄板状の円環であって、それぞれの先端は第2のシール部材52に接触する。第1のシール部材50が固定された外輪8に取り付けられている一方、ハブ4と第2のシール部材52は回転するので、リップ58,60はハブ4と第2のシール部材52に対して摺動する。
ラジアルリップ(グリースリップ)58は、内側環状部分50Cの最も内側の縁部からハブ4の玉10の近傍の円筒部分に向けて延び、ラジアルリップ58の先端は第2のシール部材52のスリーブ52Aに接触する。ラジアルリップ58は、半径方向内側かつインボード側に向けて延び、主にハブ軸受1の内部からの潤滑剤の流出を阻止する役割を担う。
アキシャルリップ(サイドリップ)60は、内側環状部分50Cから側方(アウトボード側)、かつ半径方向外側、すなわちハブ4のフランジ面4Bに向けて延び、アキシャルリップ60の先端は第2のシール部材52のスリーブ52Aの端部52Bまたはフランジ52Cに接触する。アキシャルリップ60は、主に外部からハブ軸受1の内部への異物の流入を阻止する役割を担う。
ラジアルリップ58およびアキシャルリップ60の内周面には、潤滑剤としてグリース(図示せず)が付着されている。
第1のシール部材50は、環状の外側ラビリンスリップ50Dをさらに有する。外側ラビリンスリップ50Dは、弾性環54から構成され、外側環状部分50Aからハブ4のアウトボード側フランジ18に向けて突出するが、ハブ4にも第2のシール部材52にも接触しない。
外側ラビリンスリップ50Dと、第2のシール部材52のフランジ52Cの外端縁との間には、環状の間隙G5が設けられている。間隙G5を通じて、第1のシール部材50と第2のシール部材52のフランジ52Cの間の空間62内に、異物が侵入することがある。逆に、空間62内の異物は、間隙G5を通じて排出することができる。
密封装置20は、さらに外側リング70と内側リング72を備える。外側リング70と内側リング72は、空間62内に配置されている。換言すれば、外側リング70と内側リング72は、アキシャルリップ60およびラジアルリップ58の径方向外側に配置されている。外側リング70は、内側リング72の径方向外側に、内側リング72と接触するよう配置されている。外側リング70と内側リング72は、第2のシール部材52に同軸に配置されている。
外側リング70と内側リング72の端面は、第2のシール部材52のフランジ52Cの面52Dに固定されている。固定の手法は、例えば、接着であってよい。
外側リング70と内側リング72の他の端面は、第1のシール部材50の外側環状部分50Aに接触せずに対向している。外側環状部分50Aは、フランジ52Cの面52Dに平行な面50Eを有しており、外側リング70は、面50Eに間隙G6をおいて対向し、内側リング72は、面50Eに間隙G7をおいて対向する。
外側リング70は、非多孔質であって、撥水材料から形成されている。外側リング70の好ましい材料は、例えば、フッ素樹脂(例えば、PTFE)、シリコーン樹脂、フッ素ゴムまたはFKMである。
内側リング72も撥水材料から形成されている。内側リング72の好ましい材料は、例えば、フッ素樹脂(例えば、PTFE)、シリコーン樹脂、フッ素ゴムまたはFKMである。但し、内側リング72は、多孔質であって、例えばスポンジすなわち発泡体として形成されている。内側リング72の断面は、図9および図10に示すように矩形である。
外側リング70の断面もほぼ矩形である。但し、図10に示すように、外側リング70のフランジ52Cに固定されていない端面70Aには、周方向に延びる溝74が形成されている。また、端面70Aには、内側リング72と隣接する溝76が形成されている。図示の実施形態では、溝74の数は2つであるが、1つでもよいし、3つ以上でもよい。また、溝76は必ずしも不可欠ではない。
各溝74は、内側面74aと内側面74aの径方向外側に配置された外側面74bを有する。外側面74bは密封装置20の軸線方向に対して内側面74aよりも傾斜している。図示の実施形態では、内側面74aは、密封装置20の軸線を中心とする円筒面であるのに対し、外側面74bは、密封装置20の軸線を中心とする円錐台面である。
溝76は、外側に傾斜面76bを有する。溝76を画定する内側リング72の外周面が密封装置20の軸線を中心とする円筒面であるのに対し、傾斜面76bは、密封装置20の軸線を中心とする円錐台面である。
外側リング70の端面70Aのうち溝74の径方向外側の部分は平面78である。外側リング70の平面78と平面78が対向する面50Eとの間隔d3は、内側リング72と内側リング72が対向する面50Eとの間隔d4(間隙G7の大きさ)より小さい。
この実施形態においては、ラジアルリップ58およびアキシャルリップ60の径方向外側に配置された外側リング70と内側リング72が撥水性を有しており、密封装置20の外部からの水の侵入を抑制する。とはいえ、外側リング70と内側リング72は、外側環状部分50Aの面50Eに接触しないので、外側リング70と面50Eとの間の間隙G6、ならびに内側リング72と面50Eとの間の間隙G7を通じて、外部から水が侵入しうる。
しかし、内側リング72は多孔質であるので、ある程度、水を含浸することができ、撥水性を有する外側リング70と内側リング72の付近に外部からの水が滞留しうる。特に、外側リング70の端面70Aに形成された周方向に延びる溝74,溝76内には水Wが滞留しうる。図10は、外側リング70と内側リング72の付近に滞留した水Wを示す。滞留した水Wは、密封装置20の外部から間隙G5を通じて侵入しようとするダストを受け止め、その後、遠心力によって、非多孔質の外側リング70と外側リング70が対向する面50Eとの間の間隙G6を通じて、ダストと一緒に密封装置20の外部に排出されうる。したがって、この実施形態に係る密封装置20は、密封対象(ハブ軸受1の内部)への水およびダストからの保護性能が高い。
このように水およびダストからの保護性能が確保されるにもかかわらず、外側リング70と内側リング72は、外側環状部分50Aの面50Eに接触しないので、密封装置20が回転体に与えるトルクは小さい。
各溝74は、内側面74aと外側面74bを有し、外側面74bは密封装置20の軸線方向に対して内側面74aよりも傾斜している。したがって、内側面74aが水およびダストの侵入を妨げ、溝74内に滞留した水が遠心力によって傾斜が大きい外側面74bに沿って排出されやすい。また、溝76は径方向外側に傾斜面76bを有するので、溝76内に滞留した水が遠心力によって傾斜面76bに沿って排出されやすい。
外側リング70の平面78と平面78が対向する面50Eとの間隔d3は、内側リング72と内側リング72が対向する面50Eとの間隔d4より小さい。このため、外部から水およびダストが侵入しがたい一方で、空間62から外部に水およびダストが排出されやすい。
この実施形態では、外側リング70の外側リング70が対向する面50Eのうち溝の径方向外側の部分は、平面78である。密封装置20を外輪8に組み込む際、径方向外側に配置された非多孔質のこの平面78を利用して、第1のシール部材50と第2のシール部材52の相互の位置決めを行いやすい。すなわち、平面78と面50Eの間の間隔d3が所望の間隔になるように、間隔d3を確認しながら、第1のシール部材50と第2のシール部材52の相互の位置決めを行うことが可能である。
この実施形態において、外側リング70と外側リング70が対向する面50Eとの間の間隙G6、ならびに内側リング72と内側リング72が対向する面50Eとの間の間隙G7は、アキシャルリップ60が第2のシール部材52と接触する部分と、密封装置の軸線方向にずれている。外側リング70と外側リング70が対向する面50Eとの間の間隙G6、ならびに内側リング72と内側リング72が対向する面50Eとの間の間隙G7を通じて、外部から水またはダストが侵入したとしても、これらの間隙とリップが第2のシール部材52と接触する部分と、密封装置の軸線方向にずれているため、水またはダストはリップが第2のシール部材52と接触する部分に到達しにくい。
この実施形態においては、外側リング70の端面70Aに形成された溝74,76の平面図は、図7または図8に示す溝44,46と同じでよい。あるいは、図9に示す溝49と同様の溝が外側リング70の端面70Aに形成されてもよい。
他の変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
例えば、上記の実施形態においては、内側部材であるハブ4および内輪6が回転部材であり、外側部材である外輪8が静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する複数の部材の密封に適用されうる。例えば、内側部材が静止し、外側部材が回転してもよいし、これらの部材のすべてが回転してもよい。
本発明の用途は、ハブ軸受1の密封に限定されない。例えば、自動車の差動歯車機構またはその他の動力伝達機構、自動車の駆動シャフトの軸受またはその他の支持機構、ポンプの回転軸の軸受またはその他の支持機構などにも本発明に係る密封装置または密封構造を使用することができる。
第1および第2実施形態に係る密封装置21の剛性環30は、単一の部品であるが、剛性環30を径方向に互いに分離した複数の剛性環に置換してもよい。第3の実施形態に係る密封装置20の剛性環56は、単一の部品であるが、剛性環56を径方向に互いに分離した複数の剛性環に置換してもよい。
第1および第2実施形態に係る密封装置21は、2つのアキシャルリップ24D,24Eを有するが、1つまたは3つ以上のアキシャルリップを有してもよい。第3の実施形態に係る密封装置20は、1つのアキシャルリップ60を有するが、2つ以上のアキシャルリップを有してもよい。
第1および第2実施形態において、外側リング40と内側リング42は、第2のシール部材26のフランジ34Bに固定されており、第1のシール部材24の環状部分24Bの厚肉部24Fに接触しない。しかし、外側リング40と内側リング42は、第1のシール部材24の環状部分24Bの厚肉部24Fに固定されてよく、第2のシール部材26のフランジ34Bと間隔をおいてもよい。2つの外側リングをフランジ34Bと厚肉部24Fにそれぞれ固定し、これらのリングの間に間隔をおいてもよいし、2つの内側リングをフランジ34Bと厚肉部24Fにそれぞれ固定し、これらのリングの間に間隔をおいてもよい。
第3実施形態において、外側リング70と内側リング72は、第2のシール部材52のフランジ52Cに固定されており、第1のシール部材50の面50Eに接触しない。しかし、外側リング70と内側リング72は、第1のシール部材50の外側環状部分50Aに固定されてよく、第2のシール部材52のフランジ52Cと間隔をおいてもよい。2つの外側リングをフランジ52Cと面50Eにそれぞれ固定し、これらのリングの間に間隔をおいてもよいし、2つの内側リングをフランジ52Cと面50Eにそれぞれ固定し、これらのリングの間に間隔をおいてもよい。
図11に示すように、外側リング40と内側リング42の間に径方向の間隙が設けられてもよい。図12に示すように、複数の内側リング42が設けられ、これらの内側リング42の間に径方向の間隙が設けられてもよい。
前記の実施の形態および変形例は、矛盾しない限り、組み合わせてもよい。図11および図12の変形例は、第1実施形態の修正であるが、第2および第3実施形態にも適用可能である。
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
条項1. 相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられる円筒部分と、前記円筒部分から前記内側部材に向けて径方向内側に広がる環状部分を有する第1のシール部材と、
前記内側部材に取り付けられるスリーブと、前記スリーブから径方向外側に広がるフランジを有しており、前記フランジが前記第1のシール部材の前記環状部分と対向する、第2のシール部材とを有し、
前記第1のシール部材は、前記環状部分から前記第2のシール部材に向けて延びる、弾性材料で形成された少なくとも1つのリップを有し、
前記第2のシール部材の前記フランジと、前記第1のシール部材における前記フランジと対向する部分の少なくとも一方に、外側リングと内側リングが固定されており、
前記外側リングと前記内側リングは、前記リップの径方向外側に配置されており、
前記外側リングは、前記内側リングの径方向外側に配置されており、
前記外側リングと前記内側リングは、前記外側リングと前記内側リングが対向する面に接触せず、
前記外側リングは、非多孔質であって、撥水材料から形成されており、
前記内側リングは、多孔質であって、撥水材料から形成されている
ことを特徴とする密封装置。
条項2. 前記外側リングの端面には、周方向に延びる少なくとも1つの溝が形成されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
この場合、外側リングの溝内に水が滞留しうる。滞留した水は、密封装置の外部から侵入しようとするダストを受け止め、その後、ダストと一緒に排出されうる。
条項3. 前記外側リングの端面のうち前記溝の径方向外側の部分は、平面である
ことを特徴とする条項2に記載の密封装置。
この場合、径方向外側に配置された非多孔質のこの平面を利用して、第1のシール部材と第2のシール部材の相互の位置決めを行いやすい。
条項4. 前記溝は、内側面と前記内側面の径方向外側に配置された外側面を有し、前記外側面は前記密封装置の軸線方向に対して前記内側面よりも傾斜している
ことを特徴とする条項2または3に記載の密封装置。
この場合、溝の内側面が水およびダストの侵入を妨げ、溝内に滞留した水が遠心力によって傾斜が大きい外側面に沿って排出されやすい一方で、内部から外部に水およびダストが排出されやすい。
条項5. 前記外側リングの前記平面と前記平面が対向する面との間隔は、前記内側リングと前記内側リングが対向する面との間隔より小さい
ことを特徴とする条項4に記載の密封装置。
この場合、外部から水およびダストが侵入しがたい一方で、内部から外部に水およびダストが排出されやすい。
条項6. 前記外側リングと前記外側リングが対向する面との間の間隙、ならびに前記内側リングと前記内側リングが対向する面との間の間隙は、前記リップが前記第2のシール部材と接触する部分と、密封装置の軸線方向にずれている
ことを特徴とする条項1から5のいずれか1項に記載の密封装置。
この場合、外側リングと外側リングが対向する面との間の間隙、ならびに内側リングと内側リングが対向する面との間の間隙を通じて、外部から水またはダストが侵入したとしても、これらの間隙とリップが第2のシール部材と接触する部分と、密封装置の軸線方向にずれているため、水またはダストはリップが第2のシール部材と接触する部分に到達しにくい。