以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化制御装置について説明する。
(1)全体構成
図1は、本実施形態のエンジンの排気浄化制御装置が適用されたエンジンシステム100の概略構成図である。
エンジンシステム100は、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に空気(吸気)を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1から外部に排気を排出するための排気通路40と、第1ターボ過給機51と、第2ターボ過給機52とを備えている。このエンジンシステム100は車両に設けられ、エンジン本体1は車両の駆動源として用いられる。エンジン本体1は、例えば、ディーゼルエンジンであり、図1の紙面に直交する方向に並ぶ4つの気筒2を有する。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。ピストン5の上方には燃焼室6が区画されている。
エンジン本体1には、これを冷却するためのエンジン冷却水が供給されている。具体的には、シリンダブロック3とシリンダヘッド4とにはエンジン冷却水が流通するウォータージャケットが形成されており、このウォータージャケットにエンジン冷却水が供給される。
ピストン5はクランク軸7と連結されており、ピストン5の往復運動に応じてクランク軸7はその中心軸回りに回転する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内(気筒2内)に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)10と、燃焼室6内の燃料と空気の混合気を昇温するためのグロープラグ11とが、各気筒2につきそれぞれ1組ずつ設けられている。
図1に示した例では、インジェクタ10は、燃焼室6の天井面の中央に、燃焼室6を上方から臨むように設けられている。また、グロープラグ11は、通電されることで発熱する発熱部を先端に有しており、この発熱部が、インジェクタ10の先端部分の近傍に位置するように燃焼室6の天井面に取り付けられている。例えば、インジェクタ10は、その先端に複数の噴口を備え、グロープラグ11は、その発熱部がインジェクタ10の複数の噴口からの複数の噴霧の間に位置して燃料の噴霧と直接接触しないように、配置されている。
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を各燃焼室6に導入するための吸気ポートと、吸気ポートを開閉する吸気弁12と、各燃焼室6で生成された排気を排気通路40に導出するための排気ポートと、排気ポートを開閉する排気弁13とが設けられている。
吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21、第1ターボ過給機51のコンプレッサ51a(以下、適宜、第1コンプレッサ51aという)、第2ターボ過給機52のコンプレッサ52a(以下、適宜、第2コンプレッサ52aという)、インタークーラ22、スロットルバルブ23、サージタンク24が設けられている。また、吸気通路20には、第2コンプレッサ52aをバイパスする吸気側バイパス通路25と、これを開閉する吸気側バイパスバルブ26とが設けられている。吸気側バイパスバルブ26は、駆動装置(不図示)によって全閉の状態と全開の状態とに切り替えられる。
排気通路40には、上流側から順に、第2ターボ過給機52のタービン52b(以下、適宜、第2タービン52bという)、第1ターボ過給機51のタービン51b(以下、適宜、第1タービン51bという)、第1触媒43、DPF(Diesel Particulate Filter、フィルタ)44、DPF44の下流側の排気通路40中に尿素を噴射する尿素インジェクタ45、尿素インジェクタ45から噴射された尿素を用いてNOxを浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒46、SCR触媒46から排出された未反応のアンモニアを酸化させて浄化するスリップ触媒47、が設けられている。
DPF44は、排気中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するためのフィルタである。例えば、DPF44は、炭化ケイ素(SiC)やコーディエライト等の耐熱性セラミック材によって形成されたウォールフロー型フィルタ、または耐熱性セラミックス繊維によって形成された三次元網目状フィルタからなる。より詳細には、DPF44には、多孔質のセラミックス等で格子状に多数の通路が形成されており、排気上流側が開口して排気下流側が閉塞した第1通路と、排気上流側が閉塞して排気下流側が開口した第2通路とが交互に千鳥状に配設されている。第1通路に入った排気は、通路同士を隔てる隔壁を通過して第2通路へ抜ける。このとき、隔壁が、第2通路への微粒子状物質の抜けを防止するフィルタとして機能して、微粒子状物質が隔壁に捕集される。
DPF44が捕集可能な微粒子状物質の量には限界がある。従って、適宜、DPF44から、捕集したPMを除去する必要がある。DPF44に捕集されたPMは、高温に晒され且つ酸素の供給を受けることで燃焼し、DPF44から除去される。PMが燃焼除去される温度は600℃程度と比較的高温である。従って、PMを燃焼させてDPF44から除去するためには、DPF44の温度を高温にする必要がある。
第1触媒43は、NOxを浄化するNOx触媒41と、酸化触媒(DOC: Diesel Oxidation Catalyst)42とを含む。
酸化触媒42は、排気中の酸素を用いて炭化水素(HC)すなわち未燃燃料や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させる。酸化触媒42は、例えば、担体に白金または白金にパラジウムを加えたもの等が担持されたものからなる。ここで、酸化触媒42で生じる酸化反応は発熱反応であり、酸化触媒42で酸化反応が生じると排気の温度は高められる。
NOx触媒41は、排気の空燃比(A/F、F:排気ガスに含まれる燃料(H)に対するA:排気ガスに含まれる空気(酸素)の割合)が理論空燃比よりも大きいリーンな状態で、排気中のNOxを吸蔵し、排気の空燃比が理論空燃比近傍あるいは理論空燃比よりも小さいリッチな状態で、吸蔵したNOxを還元する、NOx吸蔵還元型触媒(NSC:NOx Storage Catalyst)である。
第1触媒43は、例えば、DOCの触媒材層の表面に、NSCの触媒材がコーティングされることで形成されている。
排気通路40には、第2タービン52bをバイパスする排気側バイパス通路48と、これを開閉する排気側バイパスバルブ49と、第1タービン51bをバイパスするウエストゲート通路53と、これを開閉するウエストゲートバルブ54とが設けられている。
本実施形態によるエンジンシステム100は、排気の一部(EGRガス)を吸気に還流させるEGRを実行可能であり、これを実行させるためのEGR装置55を有する。EGR装置55は、排気通路40のうち排気側バイパス通路48の上流端よりも上流側の部分と、吸気通路20のうちスロットルバルブ23とサージタンク24との間の部分とを接続するEGR通路56と、これを開閉する第1EGRバルブ57と、EGR通路56を通過する排気を冷却するEGRクーラー58とを有する。また、EGR装置55は、EGRクーラー58をバイパスするEGRクーラバイパス通路59と、これを開閉する第2EGRバルブ60とを有する。
(2)制御系
図2を用いて、エンジンシステムの制御系について説明する。本実施形態のエンジンシステム100は、主として、車両に搭載されたPCM(制御手段、パワートレイン制御モジュール)200によって制御される。PCM200は、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明にかかる制御手段に相当する。
PCM200には、各種センサからの情報が入力される。
例えば、エンジンシステム100には、クランク軸7の回転数つまりエンジン回転数を検出する回転数センサSN1、エアクリーナ21付近に設けられて吸気通路20を流通する吸気(空気)の量を検出するエアフローセンサSN2、燃焼室6(気筒2)に流入するガスすなわち吸気の圧力である吸気圧を検出する吸気圧センサSN3、排気通路40のうち第1タービン51bと第1触媒43との間の部分の酸素濃度を検出する排気O2センサ(酸素濃度センサ)SN4、酸化触媒42の温度を検出する酸化触媒温度センサSN5、DPF44の前後差圧(排気通路40のうちDPF41bよりも上流部分の圧力と下流部分の圧力との差)を検出する差圧センサSN6、DPF44の温度を検出するDPF温度センサSN7等が設けられている。吸気圧センサSN3は、サージタンク24に取付けられており、サージタンク24内の圧力つまりターボ過給機51、52によって過給された後の吸気の圧力を検出する。また、シリンダブロック3には、エンジン冷却水の温度であるエンジン水温を検出するためのエンジン水温センサ(不図示)が設けられている。吸気通路20には、燃焼室6に導入される吸気の温度である吸気温を検出する吸気温センサ(不図示)が設けられている。吸気温センサは、例えば、エアクリーナ21付近に設けられている。
また、車両には、運転者により操作されるアクセルペダル(不図示)の開度であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN8や、車速を検出する車速センサSN9等が設けられている。
PCM200は、これらセンサSN1~SN9等からの入力信号を受け付け、これらの信号に基づいて種々の演算等を実行して、インジェクタ10等を制御する。
(2-1)通常運転制御
PCM200は、後述するDPF再生制御(再生制御)を実施しない通常運転時は、主にエンジン回転数及びアクセル開度に基づいて要求トルク(要求されているエンジン負荷)を決定し、この要求トルクが実現されるようにメイン噴射をインジェクタ10に実施させる。つまり、メイン噴射は、エンジントルクを生成するための燃料であって比較的多量の燃料を燃焼室6内に噴射するものである。メイン噴射は、例えば、圧縮上死点付近で実施される。
また、PCM200は、EGR率(燃焼室6内の全ガス量に対するEGRガス量の割合)や吸気圧がエンジン回転数や要求トルク等に応じた適切な値となるように、EGRバルブ57、60や排気側バイパスバルブ49等の開度を変更する。そして、PCM200は、車両の減速等に伴って要求トルクが0になると、メイン噴射を停止させる、つまり、燃料カットを実施する。本実施形態では、燃費性能を高めるべく、通常運転時は、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λが1よりも大きくなるように構成されており、通常運転時、スロットルバルブ23は全開付近に維持される。例えば、通常運転時、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λはλ=1.7程度にされる。
(2-2)DPF制御
DPF44に捕集されたPMを燃焼除去してDPF44を再生するためのDPF再生制御について説明する。
本実施形態では、燃焼室6内の混合気の空燃比を理論空燃比よりも大きくして排気ガスの空燃比を理論空燃比よりも大きくしつつ酸化触媒42に未燃の燃料を導入し、この燃料を酸化触媒42で酸化反応させることで、DPF44に導入される排気の温度およびDPF44の温度を高温としてDPF44に捕集されたPMを燃焼除去する。具体的には、PCM200は、DPF44を再生するためのDPF再生制御として、混合気の空気過剰率λひいては排気ガスの空気過剰率λを1よりも大きくするとともに、酸化触媒42に未燃の燃料を供給してDPF44を再生するための燃料を燃焼室6内に噴射する再生用噴射を実施する。
図3は、DPF再生制御の流れを示したフローチャートである。
PCM200は、まず、ステップS10にて、吸気圧センサSN3で検出された吸気圧、排気O2センサSN4で検出された酸素濃度(以下、排気O2濃度という)、酸化触媒温度センサSN5で検出された酸化触媒42の温度、差圧センサSN6で検出されたDPF42の前後差圧、DPF温度センサSN7で検出されたDPF44の温度等の各種情報を読み込む。
PCM200は、次に、ステップS11にて、DPF再生条件(フィルタの再生条件)が成立しているか否かを判定する。
DPF再生条件は、DPF44の再生が必要と判定し得る条件である。PCM200は、DPF44に捕集されているPMの量をDPF44の前後差圧等を用いて推定し、推定したPMの量が予め設定された第1DPF再生判定量以上になると、DPF44を再生すべきであるとしてDPF再生条件が成立したと判定する。一方、PCM200は、推定したPMの量が予め設定された第1DPF再生判定量未満の場合は、DPF再生条件が非成立であると判定する。ただし、PCM200は、一旦DPF再生条件が成立したと判定すると、推定したPMの量が予め設定された第2DPF再生判定量(<第1DPF再生判定量)未満になるまで、DPF再生条件が成立していると判定する。
ステップS11の判定がNOであってDPF再生条件が非成立である場合は、DPF再生制御を実施せず処理を終了する(通常運転時の制御を実施するとともにステップS10に戻る)。
一方、ステップS11の判定がYESであってDPF再生条件が成立しているときは、PCM200はステップS12に進む。ステップS12では、PCM200は、EGRを禁止する。つまり、PCM200は、EGRバルブ57、60を全閉にする。
ステップS12の次は、ステップS13に進む。ステップS13では、PCM200は燃料カット時か否かを判定する。前記のように、車両の減速等に伴って要求トルクが0以下になると、メイン噴射が停止される燃料カットが実施される。PCM200は、別途、アクセル開度等を用いて燃料カットすべきか否かを判定しており、燃料カットすべきであると判定したときは、メイン噴射を停止するとともに、このステップS13の判定をYESとする。
ステップS13の判定がNOであって燃料カット時ではなくメイン噴射が実施される場合、つまり、メイン噴射がなされ且つDPF44の再生条件が成立している第1の運転条件では、PCM200は、通常再生制御を実施する。
通常再生制御では、メイン噴射の後且つ膨張行程中に再生用噴射が実施される。つまり、PCM200は、メイン噴射の後且つ膨張行程中に、インジェクタ10によって燃焼室6内に燃料を噴射させる。通常再生制御では、図4(a)に示すように、メイン噴射Qmの後、再生用噴射Qpostが1回だけ実施される。以下では、適宜、この通常再生制御における再生用噴射を、通常再生用ポスト噴射という。
具体的には、PCM200は、ステップS13の判定がNOのときは、ステップS14に進む。ステップS14では、PCM200は、通常再生用ポスト噴射の開始時期の指令値である指令噴射時期と、通常再生用ポスト噴射によって燃焼室6に噴射される燃料の量である指令噴射量を設定する。
以下では、適宜、〇〇噴射によって燃焼室6に噴射される燃料を、〇〇噴射に係る燃料といい、〇〇噴射によって燃焼室6に噴射される燃料の量を、〇〇噴射の噴射量という。また、〇〇噴射の開始時期を、単に、〇〇噴射の噴射時期という。
本実施形態では、通常再生用ポスト噴射の噴射時期の基本的な値である基本ポスト噴射時期および通常再生用ポスト噴射の噴射量の基本的な値である基本ポスト噴射量が、エンジン回転数と要求トルク等に応じて予め設定されてPCM200にマップで記憶されており、PCM200は、現時点(ステップS14実施時点)でのエンジン回転数と要求トルク等に対応する値をこのマップから抽出する。そして、PCM200は、これら基本ポスト噴射時期および基本ポスト噴射量を、排気O2濃度等によって補正することなく、それぞれ通常再生用ポスト噴射の指令噴射時期および指令噴射量として設定する。
基本ポスト噴射時期および基本ポスト噴射量は、通常再生用ポスト噴射に係る燃料が燃焼室6内で燃焼しないような時期および量に設定されている。例えば、基本ポスト噴射時期は、圧縮上死点後(ATDC)80°CA~圧縮上死点後(ATDC)120°CA程度に設定されている。また、基本ポスト噴射量は、排気の空気過剰率λが1.2~1.4になる量に設定され、例えば、10mm3/st程度とされる。 ステップS14の次は、PCM200は、ステップS15に進み通常再生用ポスト噴射を実施する。このとき、PCM200は、ステップS15で設定した指令噴射時期に、ステップS15で設定した指令噴射量の燃料を、インジェクタ10に噴射させる。なお、前記のように、ステップS15ではメイン噴射が実施されてり、このメイン噴射の後に通常再生用ポスト噴射が実施される。
このようにして、燃料カット時ではなくメイン噴射が実施される状態でDPF再生制御を実施する場合は、メイン噴射の後且つ膨張行程中に、通常再生用ポスト噴射が1回実施される。これにより、通常再生用ポスト噴射によって燃焼室6に導入された燃料が未燃のままで排気通路40に排出され、酸化触媒42にてこの未燃の燃料が酸化反応する。
なお、前記のように、通常再生用ポスト噴射の実施時(通常再生制御の実施時)、燃焼室6内の混合気の空気過剰率λおよび排気通路40内の空気過剰率は1よりも大きくされ、前記のように排気の空気過剰率λが1.2~1.4程度となるようにスロットルバルブ23や排気側バイパスバルブ49等の開度が調整される。
一方、ステップS13の判定がYESであって燃料カットが実施される時、すなわち、DPF再生条件が成立している状態で燃料カットが実施される第2の運転条件下では、PCN200は、ステップS16に進む。
ステップS16では、PCM200は、酸化触媒42の温度が、活性温度以上であるか否かを判定する。活性温度は、酸化触媒42で燃料が酸化反応を起こすことが可能な温度の最低値であり、予め設定されてPCM200に記憶されている。
ステップS16の判定がNOの場合は、酸化触媒42での酸化反応が期待できないため、DPF再生制御を実施せずに処理を終了する(ステップS10に戻る)。なお、通常再生制御の実施時はメイン噴射が実施されていることから酸化触媒42は高い温度に維持されると考えらえる。そのため、メイン噴射が実施されている状態でDPF再生条件が成立したときは、ステップS16の判定は行わない。
一方、ステップS16の判定がYESであって酸化触媒42の温度が活性温度以上の場合は、燃料カット時再生制御を実施する。
ステップS16の判定がYESのときは、PCM200は、まず、ステップS17に進み、スロットルバルブ23の開度を、通常再生制御の実施時よりも閉じ側にする。具体的には、通常再生制御の実施時やDPF再生制御を実施しないときは、スロットルバルブ23はほぼ全開とされる。これに対して、ステップS17では、スロットルバルブ23の開度は、全閉に近い開度とされる。ただし、スロットルバルブ23の開度は、排気通路40内の空気過剰率λひいては燃焼室6内の混合気の空気過剰率λが1よりも大きくなる開度とされる。
ステップS17の次は、ステップS18に進む。ここで、燃料カット時再生制御では、図4(b)に示すように、再生用噴射が、前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の3回に分けて実施される。ステップS18では、PCM200は、これら前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射時期の指令値である指令噴射時期を設定するとともに、これら前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射量の指令値である指令噴射量を設定する。この設定手順の詳細は後述する。
ステップS18の次は、PCM200は、ステップS19に進む。ステップS19では、PCM200は、ステップS18で設定した各指令噴射時期および各指令噴射量で、各噴射Q1、Q2,Q3を実施する。ステップS19の次は処理を終了する(ステップS10に戻る)。
(指令噴射量)
前記ステップS18で実施する前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各指令噴射量の設定手順について、図5のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS20にて、PCM200は、燃焼室6内の圧力である筒内圧を推定する。本実施形態では、吸気圧センサSN3で検出された吸気圧を用いて、圧縮上死点での筒内圧を推定する。具体的には、吸気圧とエンジン本体1の幾何学的圧縮比との積算値を圧縮上死点での筒内圧として算出する。
ステップS20の次は、PCM200は、ステップS21に進む。ステップS21では、PCM200は、前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射量の合計量、つまり、燃料カット時再生制御における再生用噴射の噴射量の総量(以下、燃料カット時トータル噴射量という)の基本値である燃料カット時トータル基本噴射量Mq0_totalを設定する。
ステップS21の次は、PCM200は、ステップS22に進む。ステップS22では、PCM200は、前段噴射Q1の噴射量の基本値である基本前段噴射量Mq0_Q1、中間噴射Q2の噴射量の基本値である基本中間噴射量Mq0_Q2、および後段噴射Q3の噴射量の基本値である基本後段噴射量Mq0_Q3を設定する。
これら基本前段噴射量Mq0_Q1、基本中間噴射量Mq0_Q2、基本後段噴射量Mq0_Q3は、その合計がステップS21で算出された燃料カット時トータル基本噴射量Mq0_totalとなるように設定される。
基本前段噴射量Mq0_Q1、基本中間噴射量Mq0_Q2、基本後段噴射量Mq0_Q3は、ステップS20で推定された筒内圧に応じて設定される。
具体的には、図6に示すように、基本前段噴射量Mq0_Q1と基本中間噴射量Mq0_Q2とは、筒内圧が高いときの方が低いときよりも小さい値とされる。一方、基本後段噴射量Mq0_Q3は、筒内圧が高いときの方が低いときよりも大きい値とされる。そして、基本前段噴射量Mq0_Q1と基本中間噴射量Mq0_Q2と基本後段噴射量Mq0_Q3との合計量つまり燃料カット時トータル基本噴射量Mq0_totalは、筒内圧によらず一定の量とされる。
図6は、燃料カット時トータル基本噴射量Mq0_totalが3mm3/st(1燃焼サイクルに1つの燃焼室6に噴射される燃料の量)とされたときの、基本前段噴射量Mq0_Q1、基本中間噴射量Mq0_Q2および基本後段噴射量Mq0_Q3と筒内圧との関係を示した図である。この図6の例では、基本前段噴射量Mq0_Q1と基本中間噴射量Mq0_Q2とは、各筒内圧において互いに同じ値とされる。また、この例では、筒内圧が所定値未満のときは、3つの噴射量Mq0_Q1、Mq0_Q2、Mq0_Q3がすべて同じ1mm3/stにされるとともに、筒内圧によらず一定値に維持される。一方、筒内圧が所定値以上のときは、基本前段噴射量Mq0_Q1と基本中間噴射量Mq0_Q2は筒内圧に比例して小さくされ、基本後段噴射量Mq0_Q3は筒内圧に比例して大きくされる。
PCM200には、複数の燃料カット時トータル基本噴射量Mq0_totalに対して、図6に示すような筒内圧と各噴射量Mq0_Q1、Mq0_Q2、Mq0_Q3との関係がマップで記憶されている。PCM200は、ステップS21で燃料カット時トータル基本噴射量Mq0_totalが設定されると、これに対応するマップを抽出し、さらに、このマップから筒内圧に対応する各噴射量Mq0_Q1、Mq0_Q2、Mq0_Q3を抽出する。
図5に戻り、ステップS22の次は、PCM200は、ステップS23に進む。ステップS23では、PCM200は、既に実施された前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射量の総量、つまり、燃料カット時トータル噴射量の実際の値と、この噴射が実施されたときの燃料カット時トータル噴射量の指令値とのずれ量を算出する。
具体的には、PCM200は、排気O2濃度と排気の流量とに基づいて、燃料カット時トータル噴射量の実際の値を推定する。そして、PCM200は、燃料カット時トータル噴射量の指令値から、推定した燃料カット時トータル噴射量の実際の値を差し引いた値を、ずれ量として算出する。ここで、推定される燃料カット時トータル噴射量の実際の値は、推定に用いた排気O2濃度が排気O2センサで検出されるタイミングよりも所定時間(燃焼室6に噴射された燃料が排気O2センサに到達するまでの時間)前に、燃焼室6に噴射された燃料量であり、これと比較される指令値は、所定時間前に設定された燃料カット時トータル噴射量の指令値であって所定時間前に実施された後述するステップS26で算出された値である。
ステップS23の次は、PCM200は、ステップS24に進む。ステップS24では、PCM200は、ステップS22で設定した基本前段噴射量Mq0_Q1を、前段噴射Q1の指令噴射量に設定する。
ステップS24の次は、PCM200は、ステップS25に進む。ステップS25では、PCM200は、ステップS23で算出したずれ量を用いて、ステップS22で設定した基本中間噴射量Mq0_Q2および基本後段噴射量Mq0_Q3を補正して、これら中間噴射Q2および後段噴射Q3の指令噴射量を算出する。
このように、本実施形態では、前段噴射Q1の噴射量に対しては排気O2濃度に基づく補正を行わず、中間噴射Q2と後段噴射Q3の噴射量に対してのみ排気O2濃度に基づく補正を行う。
本実施形態では、前記ずれ量の1/2の値を基本中間噴射量Mq0_Q2に加算し、得られた値を中間噴射Q2の指令噴射量とする。また、同様に、前記ずれ量の1/2の値を基本後段噴射量Mq0_Q3に加算し、得られた値を後段噴射Q3の指令噴射量とする。
例えば、前記ずれ量が2mm3/stであって実際の燃料カット時トータル噴射量が指令値に対して2mm3/st不足していたと算出されたときは、中間噴射Q2の指令噴射量はその基本値(基本中間噴射量Mq0_Q2)に1mm3/stが加算された値とされ、後段噴射Q3の指令噴射量はその基本値(基本後段噴射量Mq0_Q3)に1mm3/stが加算された値とされる。
なお、これに代えて、前記ずれ量を、基本中間噴射量Mq0_Q2と基本後段噴射量Mq0_Q3とに、これら基本量の割合に応じて分配するようにしてもよい。
また、後段噴射Q3の噴射量については、ステップS25の後、さらに、DPF44の温度に応じて補正してもよい。例えば、後段噴射Q3の指令噴射量が、DPF44の温度が高いときの方が低いときよりも大きくなるように補正してもよい。
ステップS25の次は、PCM200は、ステップS26に進む。ステップS26では、PCM200は、ステップS24で設定された前段噴射Q1の指令噴射量と、ステップS25で設定された中間噴射Q2の指令噴射量と、ステップS25で設定された後段噴射Q3の指令噴射量との合計値を、燃料カット時トータル噴射量の指令値として算出する。
なお、燃料カット時トータル噴射量は、通常再生制御時のポスト噴射量よりも少なくなるように設定されており、例えば、5mm3/st程度以下とされる。
(噴射時期)
前記ステップS18で実施する前段噴射Q1、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各指令噴射時期の設定手順について、図7のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS31にて、PCM200は、前段噴射Q1の噴射時期の基本値である基本前段噴射時期Ti0_Q1、中間噴射Q2の噴射時期の基本値である基本中間噴射時期Ti0_Q2および後段噴射Q3の噴射時期の基本値である基本後段噴射時期Ti0_Q3を、ステップS20で推定した筒内圧に応じて設定する。
図8は、これら噴射時期の基本値Ti0_Q1、Ti0_Q2、Ti0_Q3と筒内圧との関係を示したグラフである。図8は、横軸を筒内圧、縦軸を噴射時期とした図である。また、図8の縦軸は、圧縮上死点前のクランク角度の値を示しており、0は圧縮上死点を、プラス側の値は圧縮上死点前の角度を、マイナス側の値は圧縮上死点後の角度を表している。
図8に示すように、本実施形態では、基本中間噴射時期Ti0_Q2と基本後段噴射時期Ti0_Q3との差△T2は、筒内圧によらず一定に維持される。一方、基本前段噴射時期Ti0_Q1と基本中間噴射時期Ti0_Q2との差△T1および基本前段噴射時期Ti0_Q1と基本後段噴射時期Ti0_Q3との差△T3は、筒内圧が高い方が長くされる。なお、本実施形態では、前段噴射Q1、中間噴射Q2、後段噴射Q3の噴射期間は同程度であり、各噴射時期の差は各噴射のインターバル(先の噴射が終了してから次の噴射が開始するまでの期間)と一致する。
また、本実施形態では、基本前段噴射時期Ti0_Q1は、筒内圧が高いときの方が低いときよりも進角される。一方、基本中間噴射時期Ti0_Q2および基本後段噴射時期Ti0_Q3は、筒内圧が高いときの方が低いときよりも遅角される。
PCM200には、図8に示すような筒内圧と各噴射時期の基本値Ti0_Q1、Ti0_Q2、Ti0_Q3との関係がマップで記憶されており、PCM200は、このマップからステップS20で推定した筒内圧に対応する値を抽出する。
ステップS31の次は、PCM200は、ステップS32に進む。ステップS32では、PCM200は、前段噴射Q1の指令噴射時期を、ステップS31で設定した基本前段噴射時期Ti0_Q1に設定する。
ステップS32の次は、PCM200は、ステップS33に進む。ステップS33では、PCM200は、基本中間噴射時期Ti0_Q2および基本後段噴射時期Ti0_Q3を、燃焼室6内の混合気の当量比と、エンジン水温と、吸気温とに基づいて補正して、中間噴射Q2および後段噴射Q3の指令噴射時期を算出する。
具体的には、中間噴射Q2および後段噴射Q3の指令噴射時期が、燃焼室6内の混合気の当量比が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように、エンジン水温が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように、また、吸気温が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように、基本中間噴射時期Ti0_Q2および基本後段噴射時期Ti0_Q3が補正される。
なお、燃焼室6内の混合気の当量比は、理論空燃比に対する混合気の空燃比の割合であり、空気過剰率λの逆数である。燃焼室6内の混合気の当量比は、エアフローセンサSN2の検出値あるいはこの検出値に基づいて推定された燃焼室6内の空気量と、ステップS26で算出された燃料カット時トータル噴射量の指令値すなわち燃焼室6に噴射される燃料の総量とに基づいて算出される。また、エンジン水温は、エンジン水温センサの検出値が用いられる。吸気温は、吸気温センサの検出値が用いられる。
本実施形態では、燃焼室6内の混合気の当量比と、エンジン水温と、吸気温とにそれぞれ基づいて設定された補正量が、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射時期の基本値に加算されることで、これら噴射Q2、Q3の指令噴射時期が決定される。このとき、中間噴射Q2の噴射時期の補正量と後段噴射Q3の噴射時期の補正量とは同じ量とされる。つまり、中間噴射Q2の噴射時期と後段噴射Q3の噴射時期との差△T2は、当量比、エンジン水温および吸気温によらず一定に維持される。
図9は、燃焼室6内の当量比と中間噴射Q2および後段噴射Q3の噴射時期の補正量との関係を示した図である。図10は、エンジン水温および吸気温と、噴射時期の補正量との関係を示した図である。図10において、各ラインW1、W2、W3、W4は、それぞれエンジン水温が40、60、80、100℃での補正量である。これら図9、図10の縦軸はクランク角である。また、この縦軸において、0よりもプラス側の値は進角側の補正量、0よりもマイナス側は遅角側の補正量である。つまり、0よりもプラス側の値が補正量として抽出されたときは、抽出された値分を、噴射時期の基本値に対して進角させた値が指令噴射時期とされる。一方、0よりもマイナス側の値が選択されたときは、抽出された値の絶対値分を噴射時期の基本値に対して遅角させた値が指令噴射時期とされる。
PCM200には、図9、図10に示したように、当量比と噴射時期の補正量のマップ、エンジン水温および吸気温と噴射時期の補正量のマップが記憶されている。PCM200は、これらマップから、現時点での(ステップS33の実施時の)燃焼室6内の混合気の当量比に対応する補正量を抽出し、且つ、現時点での(ステップS33の実施時の)エンジン水温および吸気温に対応する補正量を抽出する。そして、PCM200は、これら補正量の合計値と、ステップS31で設定した噴射時期の基本値とを加算した値(補正量の合計値がプラスのときは、噴射時期の基本値からこの補正量分を進角させた値、補正量の合計値がマイナスのときは、噴射時期の基本値からこの補正量分を遅角させた値)を、指令噴射時期とする。
このように各噴射の指令噴射時期つまり噴射時期は、筒内圧等を用いて設定される。ただし、前段噴射Q1の噴射時期は、圧縮行程の後半(圧縮上死点前90°CAから圧縮上死点までの間)に含まれるように設定され、中間噴射Q2および後段噴射Q3の噴射時期は、膨張行程の前半(圧縮上死点から圧縮上死点後90°CA)に含まれるように設定される。
(3)作用等
図11は、前記のDPF再生制御を実施したときの各パラメータの時間変化を模式的に示した図である。具体的には、図11には、上から順に、車速、エンジン回転数、メイン噴射の噴射量であるメイン噴射量、DPF再生フラグ、通常再生用ポスト噴射の噴射量である通常再生用ポスト噴射量、前段噴射Q1の噴射量、中間噴射Q2の噴射量、後段噴射Q3の噴射量、燃焼室6に噴射される燃料の総量からメイン噴射の噴射量を引いた量であるトータルポスト噴射量つまり通常再生用ポスト噴射の噴射量あるいは燃料カット時トータル噴射量の時間変化が示されている。DPF再生フラグは、DPF再生制御の要求が出されているときに1となり、その他のときに0となるフラグである。
この図11に示されるように、本実施形態では、時刻t1までの期間であって、DPF再生フラグが1であってメイン噴射の噴射量が0より大きくメイン噴射が実施されているときは、通常再生用ポスト噴射量が0より大きい値とされて通常再生用ポスト噴射が実施される。一方、このときは、前段噴射Q1、中間噴射Q2、後段噴射Q3は停止される。そして、時刻t1にて車両の減速に伴い燃料カットが実施されてメイン噴射の噴射量が0となっても、DPF再生フラグが1に維持されていれば、通常再生用ポスト噴射量は0とされるが、前段噴射Q1、中間噴射Q2、後段噴射Q3の各噴射量が0より大きい値とされてこれらの各噴射Q1、Q2、Q3が実施される。そして、燃焼室6内に燃料が供給され続ける。ただし、このとき、前段噴射Q1、中間噴射Q2、後段噴射Q3の各噴射量の総量は、メイン噴射の実施時のポスト噴射の噴射量よりも少なくされる。また、時刻t2にて車両の加速等に伴いメイン噴射が再開されると、DPF再生フラグが1であることに伴い、再び、通常再生用ポスト噴射が実施されて、前段噴射Q1、中間噴射Q2、後段噴射Q3は停止される。
このように、本実施形態では、DPF再生制御の要求が出されたときは、メイン噴射が停止されても燃焼室6に燃料が供給される。そのため、DPF44をより短時間で昇温させて再生することができる。
そして、本実施形態では、図3を用いて説明したように、メイン噴射の停止時、排気O2センサSN4で検出された排気O2濃度に基づいて、燃料カット時トータル噴射量すなわち再生用噴射の噴射量を補正しているため、この噴射量を適量に維持することができる。従って、この噴射量つまりメイン噴射の停止時に燃焼室6に噴射される燃料の量が適切な量よりも多くなることで、予期せずエンジントルクが生じてしまうのを防止できる。また、前記の燃料の量が適切な量よりも多くなることで、燃料が高分子量の分子を多く含む状態で酸化触媒42に導入されて酸化触媒42での燃料の反応が悪化するのを防止できる。また、燃料の量が適切な量よりも少なくなることで、酸化触媒42での反応熱が小さくなりDPF44が適切に再生されなくなるのを防止できる。
一方で、本実施形態では、前記のように、通常再生用ポスト噴射の噴射量、すなわち、通常再生制御の実施時(メイン噴射と通常再生用ポスト噴射(再生用噴射)とが実施されるとき)にメイン噴射の後に燃焼室6内に噴射される燃料の量に対しては、排気O2濃度に基づく補正がなされない。そのため、通常再生用ポスト噴射の噴射量が不適切な量となるのを防止できる。
具体的には、排気O2濃度によって燃焼室6に噴射された燃料を推定し、この燃料と指令値とのずれ量を算出することができるが、メイン噴射と通常再生用ポスト噴射とがともに実施されているときは、このずれ量が、通常再生用ポスト噴射の目標値(指令値)からのずれに起因するのか、メイン噴射の目標値(指令値)からのずれに起因するのか、あるいは、両方に起因するのかが明確ではない。そのため、単純に、排気O2濃度に基づいて通常再生用ポスト噴射の噴射量を補正してしまうと、通常再生用ポスト噴射の噴射量が適切に補正されないおそれがある。従って、前記のように、通常再生制御の実施時に排気O2濃度に基づく通常再生用ポスト噴射の噴射量の補正を禁止することで、通常再生用ポスト噴射の噴射量が適切な量(指令値)から大幅にずれるのを抑制できる。
また、本実施形態では、DPF再生制御の要求が出されている状態でメイン噴射が停止されたとき、圧縮行程中に、再生用噴射の一部(前段噴射Q1)が実施されて燃料が燃焼室6内に噴射される。そのため、燃料を軽質化して酸化触媒42にて効率よく酸化反応させることができ、メイン噴射が停止されて排気の温度が低くなりやすいときであっても、燃費性能の悪化を抑制しながら排気の温度を高く維持してDPF44を適切に再生することができる。
具体的には、メイン噴射の停止時も、通常再生制御時と同様に、膨張行程にて1回だけポスト噴射を行ってDPF44の再生を試みることも考えられる。しかしながら、メイン噴射が停止されていることで排気の温度は低くなりやすいため、この時は、メイン噴射の実施時よりも、ポスト噴射の噴射量をより多くして排気をより昇温する必要がある。しかし、膨張行程中に多量の燃料を噴射しても、燃料は、温度が低く重質化している状態で排気通路に導出される。すなわち、燃料を構成する炭化水素の多くが、結合されている炭素数が多く分子量が高い炭化水素の状態で排気通路に導出される。そのため、酸化触媒42での燃料の反応性が悪く燃費性能が著しく悪化したり、DPF44の温度を十分に高められないおそれがある。
これに対して、本実施形態では、前記のように燃料カット時に実施されるDPF再生制御では圧縮行程中に燃料が燃焼室6に噴射される。ここで、圧縮行程中に噴射された燃料は、ピストン5による圧縮作用によって昇温される。昇温されると、燃料は軽質化する。つまり、燃料を構成する炭化水素の炭素結合が切り離されて、燃料に含まれる低分子量の成分の割合が多くなる。例えば、圧縮行程中に噴射されることで、燃料に含まれる炭化水素の多くが、炭素数が16以上の高分子量の炭化水素から、炭素数が16未満の低分子量の炭化水素に変わる。そして、軽質化すると、燃料の反応性は高まる。従って、前記のように、圧縮行程中に燃焼室6に燃料が噴射されることで、燃料の反応性を高めることができ、より多くの燃料を酸化触媒42にて適切に酸化反応させることができる。
しかも、本実施形態では、前段噴射Q1に加えて中間噴射Q2および後段噴射Q3が実施されて膨張行程にも燃料が燃焼室6内に噴射される。そのため、前段噴射Q1の噴射量を少なく抑えてメイン噴射の停止中に予期せぬエンジントルクが生じるのを防止しつつ、燃焼室6内に噴射する燃料の総量を多くすることができ、排気ガスおよびDPF44の温度を効果的に高くできる。つまり、排気ガスおよびDPF44の温度を高めるには、燃焼室6内に噴射する燃料の総量を多くするのが好ましい。しかし、圧縮行程中に実施される前段噴射Q1の噴射量を多くすると、圧縮上死点近傍における混合気の空燃比が高くなって噴射された燃料が燃焼し、予期せぬエンジントルクが生じるおそれがある。これに対して、前記のように構成することで、燃焼室6に噴射される燃料の総量を多くしつつ、前段噴射Q1の噴射量を少なくして予期せぬエンジントルクの発生を防止できる。ここで、前記のように、前段噴射Q1に係る燃料は効率よく酸化反応されるため、前段噴射Q1の噴射量が少なくとも効果的に排気ガスおよびDPF44は昇温される。
特に、本実施形態では、膨張行程中に実施する燃料噴射を、中間噴射Q2と後段噴射Q3とに分けて実施している。そのため、メイン噴射の停止時において、酸化触媒42に導入する燃料の総量を多く維持しながら、一度に多量の燃料が燃焼室6内に噴射されて燃焼室6内の燃料濃度が局所的にリッチになって予期せずエンジントルクが発生するのを防止することができる。また、一度に多量の燃料が燃焼室6内に噴射されるときよりも、燃料を拡散させて軽質化することができる。
また、本実施形態では、前記のように、メイン噴射の停止時に燃焼室6に供給される燃料の総量である燃料カット時トータル噴射量が、通常再生制御時のポスト噴射量よりも少なくなるように設定されている。そのため、メイン噴射の停止時に予期せずエンジントルクが発生するのをより確実に防止することができる。
また、本実施形態では、図5を用いて説明したように、前段噴射Q1の噴射量に対しては排気O2濃度に基づく補正を行わず、中間噴射Q2と後段噴射Q3の噴射量に対してのみ排気O2濃度に基づく補正を行う。これにより、本実施形態では、排気O2濃度に基づいて燃料カット時トータル噴射量を増量補正するときであっても、前段噴射Q1の噴射量の補正量は0とされ、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射量が増量補正される。つまり、前段噴射Q1の噴射量の補正量は、中間噴射Q2および後段噴射Q3の各噴射量の補正量よりも小さくされる。そのため、中間噴射Q2および後段噴射Q3の増量補正によって燃料カット時トータル噴射量を適量にしつつ、前段噴射Q1の噴射量が大きくなって前段噴射Q1に係る燃料が燃焼室6内で予期せず燃焼するのを防止できる。
また、本実施形態では、図3を用いて説明したように、DPF再生制御の要求が出されている状態でメイン噴射が停止されたときは、スロットルバルブ23の開度が、DPF再生制御の要求が出されている状態でメイン噴射が実施されるときよりも閉じ側の開度とされる。そのため、DPF再生制御の要求が出されている状態でメイン噴射が停止されたときに、比較的低温の空気が燃焼室6および排気通路40内へ流入する量を低減することができ、排気およびDPF44の温度低下を抑制できる。
(4)変形例
前記実施形態では、後段噴射を中間噴射Q2と後段噴射Q3とに分けて実施した場合について説明したが、中間噴射Q2を省略して膨張行程中に後段噴射Q3を1回だけ行ってもよい。ただし、前記実施形態のように2回に分ければ、前記のように予期せぬエンジントルクの発生を防止できるとともに燃料をより軽質化することができる。
また、前記実施形態では、前段噴射Q1の噴射量を排気O2濃度で補正しない場合について説明したが、この補正を行ってもよい。ただし、この場合であっても、前段噴射Q1に係る燃料が予期せず燃焼するのを防止するために、前段噴射Q1の補正量は、他の噴射Q2、Q3の噴射量の補正量よりも小さくするのが好ましい。
また、後段噴射Q3の噴射時期を、DPF44の温度(例えば、DPF44の上流側に設けられた温度センサにより検出された排気の温度)が高い方が、遅角側の時期となるように補正してもよい。具体的には、予め設定されたDPF44の温度と燃料の軽質化率(燃料が軽質化しやすいほど高い値となるパラメータ)との関係を示すマップであって、DPF44の温度が高いほど軽質化率が高くなるように設定されたマップをPCM200に記憶させておき、このマップから現在のDPF44の温度に対応する軽質化率を抽出して、この軽質化率が高いほど後段噴射Q3の噴射時期が遅角側の時期になるようにこれを補正してもよい。また、後段噴射Q3の噴射量を、この軽質化率が高いほどが小さくなるように補正してもよい。このように後段噴射Q3の噴射時期を、軽質化率が高いほど(燃料が軽質化しやすいほど)遅角させれば、DPF44の温度を高温としつつ燃焼室6内で燃料が燃焼するのをより確実に防止できる。また、前記のように、後段噴射Q3の噴射量を、軽質化率が高いほど小さくすれば、燃費性能の悪化を抑制できる。
また、前記実施形態では、通常再生制御時において、メイン噴射の後に1回だけポスト噴射を実施する場合について説明したが、通常再生制御時において、このポスト噴射を複数回に分けて実施してもよい。