以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意すべきである。
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。内燃機関(エンジンともいう)1は、車両(図示せず)に搭載された多気筒エンジンである。本実施形態において、車両はトラック等の大型車両であり、これに搭載される車両動力源としてのエンジン1は直列4気筒ディーゼルエンジンである。しかしながら、車両および内燃機関の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車等の小型車両であってもよいし、エンジン1はガソリンエンジンであってもよい。
なおエンジンは、車両以外の移動体、例えば船舶、建設機械、または産業機械に搭載されたものであってもよい。またエンジンは、移動体に搭載されたものでなくてもよく、定置式のものであってもよい。
エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に接続された吸気通路3および排気通路4と、ターボチャージャ14と、燃料噴射装置5とを備える。エンジン本体2は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含む。
燃料噴射装置5は、コモンレール式燃料噴射装置からなり、各気筒に設けられた燃料噴射用インジェクタ7と、インジェクタ7に接続されたコモンレール8とを備える。インジェクタ7は、対応気筒の筒内に燃料を供給するための筒内インジェクタであり、本実施形態の場合、筒内に燃料を直接噴射する。コモンレール8は、インジェクタ7から噴射される燃料を高圧状態で貯留する。
吸気通路3は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド10と、吸気マニホールド10の上流端に接続された吸気管11とにより主に画成される。吸気マニホールド10は、吸気管11から送られてきた吸気を各気筒の吸気ポートに分配供給する。吸気管11には、上流側から順に、エアクリーナ12、エアフローメータ13、ターボチャージャ14のコンプレッサ14C、インタークーラ15、および電子制御式の吸気スロットルバルブ16が設けられる。エアフローメータ13は、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量すなわち吸気流量を検出するためのセンサであり、マスエアフロー(MAF)センサ等とも称される。
排気通路4は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド20と、排気マニホールド20の下流側に接続された排気管21とにより主に画成される。排気マニホールド20は、各気筒の排気ポートから送られてきた排気ガスを集合させる。排気管21、もしくは排気マニホールド20と排気管21の間には、ターボチャージャ14のタービン14Tが設けられる。
タービン14Tより下流側の排気通路4には、上流側から順に、酸化触媒22、フィルタ23および選択還元型NOx触媒24が設けられる。また、NOx触媒24の下流側の排気通路4には、別の酸化触媒であるアンモニア酸化触媒26が設けられる。フィルタ23とNOx触媒24の間の排気通路4には、還元剤としての尿素水を添加する添加弁25が設けられる。
酸化触媒22は、排気中の未燃成分(炭化水素HCおよび一酸化炭素CO)を酸化して浄化すると共に、このときの反応熱で排気を加熱昇温し、また排気中のNOをNO2に酸化する。フィルタ23は、所謂連続再生式の触媒付きフィルタからなり、排気中に含まれる粒子状物質(PM(Particulate Matter))を捕集すると共に、捕集したPMを触媒作用により燃焼する。フィルタ23は一種の触媒とみなせる。NOx触媒24は、添加弁25から添加された尿素水に由来するアンモニアをNOxと反応させて排気中のNOxを還元浄化する。アンモニア酸化触媒26は、NOx触媒24から排出された余剰アンモニアを酸化して浄化する。
酸化触媒22より上流側の排気通路4には排気管インジェクタ38が設けられる。排気管インジェクタ38は、後述する再生制御時に排気通路4ないし排気管21内に燃料を噴射し得るものである。以下、こうした排気通路4内への燃料噴射を排気管噴射と称す。本実施形態では排気管インジェクタ38がタービン14Tの下流側に設けられているが、その設置位置は変更可能である。
エンジン1は排気再循環(EGR(Exhaust Gas Recirculation))装置30も備える。EGR装置30は、排気通路4内(特に排気マニホールド20内)の排気ガスの一部(EGRガスという)を吸気通路3内(特に吸気マニホールド10内)に還流させるためのEGR通路31と、EGR通路31を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ32と、EGRガスの流量を調節するためのEGR弁33とを備える。
車両には、エンジン1を制御するための制御装置が搭載されている。制御装置は、制御ユニット、回路要素(circuitry)もしくはコントローラをなす電子制御ユニット(ECU(Electronic Control Unit)という)100を含む。ECU100は、演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)、記憶媒体であるROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)、入出力ポート、ならびにROMおよびRAM以外の記憶装置等を含む。ECU100は、筒内インジェクタ7、吸気スロットルバルブ16、添加弁25、EGR弁33および排気管インジェクタ38を制御するように構成され、プログラムされている。
制御装置は、上述のエアフローメータ13に加えて以下のセンサ類も含む。すなわち、エンジンの回転速度、具体的には毎分当たりの回転数(rpm)を検出するための回転速度センサ40と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ41とが設けられる。また、酸化触媒22、フィルタ23およびNOx触媒24の入口部の排気温度(入口温度という)をそれぞれ検出するための排気温センサ42,43,44が設けられている。また、フィルタ23の入口部および出口部の排気圧の差圧を検出するための差圧センサ45が設けられている。これらセンサ類の出力信号は図示せぬ信号伝達線材または無線通信を介してECU100に送られる。
次に、本実施形態の制御について説明する。
まず、排気を昇温させる再生制御(排気昇温制御)について説明する。ECU100は、差圧センサ45により検出された差圧が所定の上限閾値以上に達したとき、フィルタ23のPM捕集量が満杯付近に達したとみなして、捕集PMを燃焼除去するために、再生制御を行う。この際、ECU100は、後述のアフタ噴射やポスト噴射を筒内インジェクタ7に実行させ、これらによる追加燃料を酸化触媒22で燃焼させ、フィルタ23に供給される排気の温度を上昇させる。これによりフィルタ23内でPM燃焼が促進され、フィルタ23内のPMが除去される。そしてフィルタ23のPM捕集能が回復され、フィルタ23が再生される。
なお、ポスト噴射の代わりに、排気管インジェクタ38による排気管噴射を行ってもよい。また再生制御の開始条件は、詳しくは後述するが、NOx触媒24の吸着HC量が所定の上限閾値以上に達したことであってもよい。
ところで、NOx触媒24は、低温時にHCを吸着し高温時に吸着NOxを脱離させるというHC吸着能を有する。仮に、NOx触媒24にHCが多量に吸着している状態で、再生制御が実行され、NOx触媒24に比較的高温の排気が供給されると、NOx触媒24に吸着されていたHCが脱離し、NOx触媒24の下流側に一気に放出される可能性がある。こうなると、HC濃度が高い排気が大気に排出され、環境面で好ましくないばかりでなく、白煙および異臭が発生する虞がある。以下、この課題についてより詳しく説明する。
HC吸着能は、NOx触媒24のみならず酸化触媒22およびフィルタ23にも存在する。そしてエンジンの低回転・低負荷運転が継続されると、酸化触媒22の温度および活性度が低いため、酸化触媒22にHCが吸着される。酸化触媒22で処理できなかったHCはフィルタ23およびNOx触媒24に吸着する。酸化触媒22が経年劣化しているとこうした傾向が強くなる。酸化触媒22にHCが吸着されると、酸化触媒22の表面がガム状の粘着質となり、そこにPMも付着するため、酸化触媒22が詰まり気味となり、酸化触媒22の処理能力が著しく低下する。
こうした状況下で再生制御が開始されると、酸化触媒22の温度は上昇するものの、その昇温速度は遅い。そして酸化触媒22では、吸着していたHCが脱離して下流側に排出されると共に、追加燃料に由来するHCが処理しきれずにスリップして下流側に排出される。
この下流側に排出されたHCはフィルタ23に吸着される。酸化触媒22の熱容量の分だけフィルタ23の昇温が遅れるため、フィルタ23からのHC脱離はゆっくりである。フィルタ23から脱離したHCは下流側のNOx触媒24に供給され、NOx触媒24に吸着される。フィルタ23の熱容量の分だけNOx触媒24の昇温は遅れる。このように、上流側の触媒から次々と昇温され、吸着HCは上流側の触媒から次々と排出される。そしてNOx触媒24は、最終的にNOxを堰き止めるダムの如く機能する。
NOx触媒24の熱容量が比較的大きいので、フィルタ23の昇温とNOx触媒24の昇温との間には比較的大きなタイムラグがある。また、NOx触媒24のHC吸着容量も比較的大きいので、NOx触媒24には比較的多量のHCが吸着される。
NOx触媒24の担体に用いられているゼオライトは、比較的高温(例えば200℃以上)で吸着HCを脱離させる能力を有している。再生制御開始からある程度の時間が経過し、NOx触媒24がこうしたHC脱離温度に達すると、それまで吸着されていたHCがNOx触媒24から一気に脱離し、下流側に放出される虞がある。
すると、NOx触媒24から排出される排気のHC濃度がアンモニア酸化触媒26では処理しきれないほど高くなり、許容できない程に高いHC濃度の排気がアンモニア酸化触媒26から大気に放出される虞がある。これは当然に環境上好ましくない。また高HC濃度の排気は比較的長時間、白煙として現れ、また異臭を発生させる。なおアンモニア酸化触媒26は省略することもできるが、こうすると事態は益々悪化する。
そこで本実施形態では、かかる問題を解決するため、以下に述べる制御をECU100により実施する。
概して本実施形態では、再生制御の非実行時、すなわち通常制御の実行時に、NOx触媒24の吸着HC量を推定する。そして再生制御の実行時に、NOx触媒24を低速で昇温させる低速昇温制御を行った後に、NOx触媒24を高速で昇温させる高速昇温制御を行うと共に、推定した吸着HC量に応じて、低速昇温制御から高速昇温制御に切り替える切替タイミングを変更する。
低速昇温制御を行うと、NOx触媒24からのHC脱離速度を遅くすることができ、NOx触媒24から排出される排気のHC濃度を低く抑えることができる。他方、高速昇温制御を行うと、NOx触媒24から排出される排気のHC濃度が高まる傾向にあるものの、NOx触媒24からのHC脱離速度を速くすることができる。
本実施形態では、再生制御の初期において低速昇温制御を行い、NOx触媒24からの排気のHC濃度を抑えながら、NOx触媒24の吸着HCを脱離させ、その吸着量を減少させる。そして、NOx触媒24のHC吸着量がある程度減少したら、高速昇温制御に切り替え、NOx触媒24の吸着HCをより積極的に脱離させる。この段階では、HC吸着量が既に少なくなっているため、吸着HCの脱離速度を上げても、NOx触媒24からの排気のHC濃度を低く抑えることができる。
特に、推定した吸着HC量に応じて、低速昇温制御から高速昇温制御に切り替える切替タイミングを変更する。具体的には、推定吸着HC量が多いほど、切替タイミングを遅らせる。これにより、吸着HC量が多い場合には低速昇温制御をより長時間行い、より多くのHCを脱離させてから、高速昇温制御に移行できる。このため、吸着HC量に応じて切替タイミングを最適に設定することが可能である。
このように、再生制御実行時にその期間全体を通して、NOx触媒24からの排気のHC濃度を低く抑えることができ、環境への過度のHC排出を抑制できるほか、白煙および異臭の発生をも抑制できる。
本実施形態のようにアンモニア酸化触媒26がある場合、ECU100は、再生制御の実行時にアンモニア酸化触媒26から排出される排気のHC濃度が所定の上限値を超えないよう、低速昇温制御から高速昇温制御への切替タイミングを設定する。これにより、上限値を超えるHC濃度の排気が大気に排出されるのを抑制できる。
図2には、各制御時に1エンジンサイクル(720°CA)当たりに実行される燃料噴射方法を示す。横軸はクランク角θ(°CA)であり、各矩形波は各噴射の噴射時間すなわち噴射量を表す。
通常制御時には図2(A)に示すように、プレ噴射Prとメイン噴射Mnがこの順番で実行される。低速昇温制御時には図2(B)に示すように、パイロット噴射Pl、プレ噴射Pr、メイン噴射Mnおよびアフタ噴射Afがこの順番で実行される。アフタ噴射Afは周知のように、メイン噴射燃料の燃焼終端付近でアフタ噴射燃料を不完全燃焼もしくは半燃えさせ、酸化触媒22で燃焼し易くさせるような燃料噴射の態様である。なお低回転低負荷時以外ではパイロット噴射Plを省略してもよい。このような三つないし四つの燃料噴射を行う方法をマルチ噴射という。
高速昇温制御時には図2(C)に示すように、パイロット噴射Pl、プレ噴射Pr、メイン噴射Mn、アフタ噴射Afおよびポスト噴射Poがこの順番で実行される。ポスト噴射Poは周知のように、ポスト噴射燃料を筒内で燃焼させず、全て酸化触媒22で燃焼させるような燃料噴射の態様である。これにより高速昇温制御時には低速昇温制御時に比べ、フィルタ23およびNOx触媒24がより高速で昇温される。この高速昇温制御時の燃料噴射方法は、マルチ噴射にポスト噴射を追加したものということができる。前述したように、排気管インジェクタ38による排気管噴射をポスト噴射Poの代わりに行ってもよい。
なお、図示例では圧縮上死点TDC後に全ての噴射を実行し、酸化触媒22にできるだけ高温の排気を供給するようにしている。しかしながら、燃料噴射タイミングについては変更も可能である。
いずれの制御時でも共通であるが、ECU100は、回転速度センサ40およびアクセル開度センサ41によりそれぞれ検出されたエンジン回転数Neおよびアクセル開度Acに基づき、図3(A)に示すような燃料噴射量マップに従って、アフタ噴射Afおよびポスト噴射Poを除く噴射の総噴射量(動力変換用噴射量)、特にインジェクタ7への指示噴射量としての目標燃料噴射量Qを算出する。燃料噴射量マップは予め試験等を通じて設定され、ECU100に記憶されている。なおマップに代わって関数を用いてもよい。これらの点は後述するマップについても同様である。目標燃料噴射量Qは、エンジン負荷を表すパラメータであり、このパラメータについては目標燃料噴射量Q以外にもアクセル開度等の任意のパラメータを採用できる。
次にECU100は、通常制御時、エンジン回転数Neおよび目標燃料噴射量Qによって規定されるエンジン運転状態が、低回転低負荷側の第1領域R1にあるか否かを、図3(B)に示すような領域判定マップに従って判定する。本実施形態においては、エンジンの全運転領域が、第1領域R1と、それより高回転側または高負荷側の第2領域R2とに二分されている。ECU100は、検出されたエンジン回転数Neおよび目標燃料噴射量Qが領域判定マップ上の第1領域R1にあれば、エンジン運転状態が第1領域R1にあると判定し、それらが第2領域R2にあればエンジン運転状態が第2領域R2にあると判定する。本実施形態の第1領域R1は、エンジン回転数Neが所定の閾値N1以下で、かつ目標燃料噴射量Qが所定の閾値Q1以下の領域である。
第1領域R1は、NOx触媒24の入口温度が低くNOx触媒24にHCが吸着するような回転負荷領域として予め規定されている。逆に第2領域R2は、NOx触媒24の入口温度が高くNOx触媒24にHCが吸着しづらい回転負荷領域として予め規定されている。
従って、エンジン運転状態が第1領域R1にいる時間、もしくは走行距離を計測することで、NOx触媒24に吸着されたHC量を推定することができる。その時間もしくは走行距離が長くなるほど、吸着HC量も多くなるからである。時間もしくは走行距離は、吸着HC量に相関する指標値として好適に使用可能である。本実施形態では時間を用いるが、代替的に走行距離を用いてもよい。当該時間を便宜上、低負荷運転時間tLと称する。
本実施形態では、低負荷運転時間tLを計測することで吸着HC量を間接的に推定するが、他の推定方法も可能である。例えば、NOx触媒24の前後のHC濃度差をHCセンサにより検出し、そのHC濃度差を積算することで、吸着HC量をより直接的に推定してもよい。
他方、本実施形態では、推定した吸着HC量が所定の閾値以上の場合に、推定吸着HC量に応じた切替タイミングの変更を行う。言い換えれば、推定吸着HC量が閾値未満の場合には、推定吸着HC量に応じた切替タイミングの変更を行わない。推定吸着HC量が少なければ、高HC濃度の排気を大気に排出する可能性が低いため、切替タイミングを遅らせる実益が少なく、むしろ高速昇温制御に早く切り替えた方が再生制御を早く終了させられ、燃費面で有利だからである。従って本実施形態によれば、切替タイミングの変更を必要な場合に限って有利に実行できる。
図4は、本実施形態の再生制御を実施した場合の各値の経時的変化を示す。図4(A)において、線aは酸化触媒22の入口温度Tdoc、線bはフィルタ23の入口温度Tdpf、線cはNOx触媒24の入口温度Tscrをそれぞれ示す。図4(B)において、線dは、NOx触媒24から排出された排気のHC濃度(排出HC濃度という)Cを示す。
時刻t1の前では通常制御が実行され、この最中に低負荷運転時間tLが計測される。時刻t1で再生制御が開始される。この開始と同時に、まず低速昇温制御が実行される。低速昇温制御では図2(B)に示したようなマルチ噴射が実行される。このうちパイロット噴射Pl、プレ噴射Prおよびメイン噴射Mnは動力発生用の燃料噴射であり、アフタ噴射Afのみが実質的に触媒昇温用の燃料噴射となる。初期のうちは、アフタ噴射量に関してそれ程緻密な制御は実行されていない。例えば一定量のアフタ噴射量が継続的に噴射される。
図示例の場合、時刻t1の再生制御開始時点で、酸化触媒入口温度Tdocとフィルタ入口温度Tdpfはほぼ同じである一方、NOx触媒入口温度Tscrはそれよりも低い温度となっている。この時点から低速昇温制御が開始されると、三者の温度は比較的低速で徐々に上昇していく。酸化触媒入口温度Tdocとフィルタ入口温度Tdpfがほぼ同じように上昇するのに対し、NOx触媒入口温度Tscrは、フィルタ23の熱容量の影響で、ある程度のタイムラグを以て、それらよりも遅れて上昇する。
この低速昇温制御中、酸化触媒22およびフィルタ23に吸着されていたHCが脱離し、順次下流側に流される。一方、NOx触媒入口温度Tscrはタイムラグの影響でまだHC脱離開始温度Taに達していない。よって前二者から脱離したHCは、NOx触媒24に吸着され、NOx触媒24内に徐々に堆積していく。ここでHC脱離開始温度Taとは、NOx触媒24においてHC脱離可能な温度域の最低温度をいい、例えば200℃である。
その後の時刻t3で、NOx触媒入口温度TscrがHC脱離開始温度Taに達しても、まだ依然として低速昇温制御が継続される。これにより、NOx触媒24からHCが脱離しても、図4(B)に示すように、排出HC濃度Cを低く抑えることができる。
図4(B)に示す上限値Chは、アンモニア酸化触媒26で処理可能な排出HC濃度Cの上限値であり、言い換えれば、アンモニア酸化触媒26から排出される排気のHC濃度が所定の上限値以下に収まるような排出HC濃度Cの最大値である。この上限値Chの値は実機試験等を通じて予め設定される。図示するように、時刻t3以降、NOx触媒24からHCが脱離しても、排出HC濃度Cを上限値Ch以下に抑えることができる。
その後の時刻t4で、NOx触媒入口温度Tscrが切替温度Tb(>Ta)に達した時、制御は低速昇温制御から高速昇温制御に切り替えられる。高速昇温制御では図2(C)に示したように、アフタ噴射Afに加え、ポスト噴射Poが実行される。酸化触媒22においてポスト噴射燃料が追加で燃焼されるため、酸化触媒22から排出される排気の温度は急激に上昇し、時刻t4から、フィルタ入口温度Tdpfが高速で上昇するようになる。
その後、タイムラグを経て、時刻t5からNOx触媒入口温度Tscrが高速で上昇するようになる。しかし、この時点では既に、時刻t5の直前、具体的には時刻t3から時刻t4までの間で実施された低速昇温制御によって、NOx触媒24の吸着HCが相当量脱離消失している。従って、NOx触媒入口温度Tscrが高速で上昇したとしても、排出HC濃度Cが同じように急激に上昇することはなく、上限値Ch以下の低い値に抑えられる。こうして、高速昇温制御の実行時においても排出HC濃度Cを低く抑えることが可能である。
切替温度Tbは、この温度で高速昇温制御に切り替えても排出HC濃度Cが上限値Ch以下となる温度のうちの最低温度として予め設定されている。切替温度Tbは例えば240℃である。
ここで、NOx触媒入口温度TscrがHC脱離開始温度Taに達する前と後では、低速昇温制御の方法が若干異なる。便宜上、HC脱離開始温度Taに達する前の低速昇温制御を前期制御、達した後の低速昇温制御を後期制御と称する。
また、後期制御が実行される時刻t3から時刻t4までの間の時間tAは、NOx触媒24における推定吸着HC量に応じて変化される。この時間tAを後期制御時間という。
ECU100は、再生制御開始前の通常制御時に、推定吸着HC量の指標値である低負荷運転時間tLを計測する。そして再生制御開始と同時に、低負荷運転時間tLに基づいて後期制御時間tAを設定する。この際、ECU100は、図3(C)に示すような予め記憶した時間マップから、低負荷運転時間tLに対応した後期制御時間tAを算出する。そして、NOx触媒入口温度TscrがHC脱離開始温度Taに達した時刻t3に、前期制御から後期制御に切り替え、その後、設定した後期制御時間tAが経過するまで、後期制御を継続する。
図3(C)に示すように、低負荷運転時間tLが長いほど、すなわち推定吸着HC量が多いほど、長い後期制御時間tAが算出される。従って、推定吸着HC量が多いほど、長い時間をかけてゆっくりと、多くの吸着HCを脱離させることができる。よって推定吸着HC量が多い場合であっても、高速昇温制御開始前に吸着HC量を許容値以下まで減少させることができ、高速昇温制御への切り替え後に排出HC濃度Cが上限値Chを超えるのを確実に抑制できる。
このように、排出HC濃度Cの上昇を抑制するためには、高速昇温制御前の後期制御において吸着HC量を一定量以下まで確実に減少することが重要である。このため、後期制御では前期制御よりも緻密に燃料噴射量を制御する。
すなわちECU100は、後期制御時間tAを算出した後、この後期制御時間tAに基づき、後期制御中におけるNOx触媒入口温度の時間毎の目標温度を設定する。そして後期制御中、NOx触媒入口温度の実際温度が目標温度に近づくよう、酸化触媒22への燃料供給量をフィードバック制御する。
図3(D)は、当該目標温度の設定方法を示すグラフである。横軸は後期制御時間tAで、異なる三つの後期制御時間tA1~tA3を例示する。tA1<tA2<tA3である。縦軸はNOx触媒入口温度Tscrである。
ECU100は、後期制御時間tAの間でNOx触媒入口温度TscrがHC脱離開始温度Taから切替温度Tbに上昇するよう、後期制御時間tA内の時間毎の目標温度を設定する。図中の線a,b,cは、それぞれ後期制御時間tA1,tA2,tA3に対応した時間毎の目標温度を示す。後期制御時間tAが長いほど、すなわち推定吸着HC量が多いほど、高速昇温制御への切替タイミングは遅らせられる。またNOx触媒入口温度Tscrの昇温速度は遅くされる。図示例の目標温度線a,b,cは直線とされているが、これに限らず、曲線とされてもよい。こうして、吸着HC量の大きさに応じた最適な時間毎の目標温度を設定することができる。
ECU100は、後期制御中、排気温センサ44で検出されたNOx触媒入口温度Tscrの実際温度が、設定された目標温度に近づくよう、両者の温度差に基づき、アフタ噴射量をフィードバック制御する。これにより、実際温度を緻密に制御し、吸着HCの脱離を予定通り実行することができる。
次に、図5を参照して、本実施形態のより具体的な制御の内容を説明する。ECU100は、図示のフローチャートの手順に従って制御を行う。
図示のフローチャートは、再生制御の開始と同時に開始される。再生制御の開始条件は、前述したように、差圧センサ45により検出された差圧が所定の上限閾値以上に達することである。
一方、こうしたフィルタ再生要求に加え、NOx触媒再生要求にも基づいて、再生制御が開始される。すなわち、エンジンが第1領域R1で運転されている時間すなわち低負荷運転時間tLが長くなると、NOx触媒24のHC吸着量が許容できない程に多くなってしまう。こうなると、再生制御時に排出HC濃度Cが高くなるだけでなく、通常制御時にNOx触媒24がHC被毒し、NOx還元という本来の目的を十分に達成できなくなる可能性がある。よって本実施形態では、NOx触媒再生要求にも基づいて再生制御を行うことで、吸着HCを脱離させてNOx触媒24を再生し、通常制御時におけるNOx触媒24のNOx還元性能を十分に発揮できるようにしている。
NOx触媒再生要求に基づく再生制御の開始条件は、低負荷運転時間tLが所定の上限閾値tLmax以上に達することである。ECU100は、両者の開始条件の少なくとも一方が成立したとき、再生制御を開始する。
フィルタ23およびNOx触媒24の一方の再生要求に基づいて再生制御が実行されたとき、他方も少なからず再生される。よってECU100は、フィルタ23およびNOx触媒24を再生させるため、再生制御を実行する。
再生制御開始後、ECU100はステップS101において、開始時点における低負荷運転時間tLの値を取得する。この値は、開始時点までECU100によって計測されていた値である。
次にステップS102において、ECU100は、取得した低負荷運転時間tLを所定の閾値tLsと比較する。閾値tLsは、高速昇温制御への切替前に後期制御を行う必要がある程に多いNOx触媒24のHC吸着量に対応した値に設定されている。なお当然に、閾値tLsは先の上限閾値tLmaxより小さい値である。
低負荷運転時間tLが閾値tLs以上の場合、ECU100はステップS103に進んで、低速昇温制御における前期制御と後期制御の両方を行う旨のフラグをオン(ON)にする。そしてステップS104に進んで、前期制御を実行する。
次にステップS105で、ECU100は、図3(C)のマップから、ステップS101で取得した低負荷運転時間tLの値に対応した後期制御時間tAを算出する。そして後期制御時間tAに対応した時間毎の目標温度を図3(D)に示した如く設定する。
その後ECU100は、ステップS106において、排気温センサ44で検出されたNOx触媒入口温度の実際温度Tscrを取得すると共に、この実際温度Tscrを前述のHC脱離開始温度Taと比較する。実際温度TscrがHC脱離開始温度Ta未満の場合、ステップS106に戻って前期制御を継続する。
他方、実際温度TscrがHC脱離開始温度Ta以上に達した場合には、ステップS107に進んで、後期制御を実行する。これにより低速昇温制御は、比較的シンプルな前期制御から、より緻密な後期制御へと切り替えられる。
後期制御では前述したように、アフタ噴射量がフィードバック制御され、実際温度が、ステップS105で設定された目標温度に沿って正確に上昇される。よって、後期制御中における排出HC濃度Cを好適に抑制しつつ、必要最小限の時間で効率良く、NOx触媒24の吸着HC量を減少できる。
次にECU100は、ステップS108において、NOx触媒入口温度の実際温度Tscrを前述の切替温度Tbと比較する。実際温度Tscrが切替温度Tb未満の場合、ステップS108に戻って後期制御を継続する。
他方、実際温度Tscrが切替温度Tb以上に達した場合には、ステップS109に進んで、高速昇温制御を実行する。これによりポスト噴射が追加され、NOx触媒入口温度はより高速で上昇されるようになる。
この後、図示のフローチャートは、再生制御の終了と同時に終了される。再生制御の終了条件は、開始条件がフィルタ再生要求に基づくものであれば差圧が所定の下限閾値以下に達することであり、開始条件がNOx触媒再生要求に基づくものであれば、例えば、高速昇温制御の実行時間が所定の閾値以上に達することである。
ところで、ステップS102において低負荷運転時間tLが閾値tLs未満の場合、これは、NOx触媒24のHC吸着量が少なく、高速昇温制御への切替前に後期制御を行う必要性に乏しいことを意味する。従ってこの場合は、ステップS110に進み、ECU100は、後期制御を省略して前期制御から高速昇温制御に直接切り替える通常昇温制御を行う。
この場合、図4に示すように、時刻t1で前期制御が開始されてから比較的短時間経過後の時刻t2に、高速昇温制御に切り替えられる。この切替タイミングは、後期制御から高速昇温制御への切替タイミングt4よりも著しく早い。
このように、排出HC濃度Cの過度の上昇の虞がない場合には、早いタイミングで高速昇温制御に切り替えるので、再生制御の実行時間を最小限に済ませることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、推定した吸着HC量(低負荷運転時間tL)に応じて低速昇温制御(後期制御)から高速昇温制御に切り替える切替タイミング(時刻t4)を変更するので、再生制御実行時にNOx触媒24から排出される排気のHC濃度の上昇を抑制することができる。
また、NOx触媒24のHC吸着量が多くなるとNOx触媒24がHC被毒してそのNOx還元性能が低下するが、本実施形態によれば、吸着HCを脱離させてNOx触媒24を再生できるため、NOx触媒24のNOx還元性能を良好に維持することができる。
また、前期制御と後期制御を含む低速昇温制御を行うと、酸化触媒22が比較的長時間かけてゆっくりと昇温されるので、これに吸着されたHCおよびPMを確実に燃焼除去することができ、酸化触媒22を良好に再生することができる。
なお、以上の説明から理解されるように、本実施形態のHC脱離開始温度Taおよび切替温度Tbは、特許請求の範囲にいう第1温度および第2温度に相当し、本実施形態の後期制御時間tAは、特許請求の範囲にいう低速昇温制御の実行時間に相当する。
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示の実施形態および変形例は他にも様々考えられる。
(1)例えば、推定吸着HC量、具体的には低負荷運転時間tLの値は、吸着HC量に影響を及ぼす他のパラメータによって補正してもよい。
例えば、排気温センサ42で検出される酸化触媒入口温度Tdocによって低負荷運転時間tLを補正してもよい。この場合、酸化触媒入口温度Tdocが低いほど、酸化触媒22ひいてはNOx触媒24にHCが吸着され易くなるため、酸化触媒入口温度Tdocが低いほど、低負荷運転時間tLが多くなるように補正する。例えば、演算周期毎に低負荷運転時間tLを積算する際に、1演算周期当たりの時間をその時の酸化触媒入口温度Tdocで補正した値を積算する。
また、図示しない吸気温センサで検出される吸気温度によって低負荷運転時間tLを補正してもよい。この場合、吸気温度が低いほど、筒内からHCが排出され易くなり、NOx触媒24にHCが吸着され易くなる。このため、吸気温度が低いほど、低負荷運転時間tLが多くなるように補正する。例えば、演算周期毎に低負荷運転時間tLを積算する際に、1演算周期当たりの時間をその時の吸気温度で補正した値を積算する。
また、図示しない車速センサで検出される車速によって低負荷運転時間tLを補正してもよい。この場合、車速が低いほど、エンジンが低回転低負荷で運転され、NOx触媒24にHCが吸着され易くなる。このため、車速が低いほど、低負荷運転時間tLが多くなるように補正する。例えば、演算周期毎に低負荷運転時間tLを積算する際に、1演算周期当たりの時間をその時の車速で補正した値を積算する。
また、図示しない水温センサで検出される水温(エンジン冷却水の温度)によって低負荷運転時間tLを補正してもよい。この場合、水温が低いほど、筒内からHCが排出され易くなり、NOx触媒24にHCが吸着され易くなる。このため、水温が低いほど、低負荷運転時間tLが多くなるように補正する。例えば、演算周期毎に低負荷運転時間tLを積算する際に、1演算周期当たりの時間をその時の水温で補正した値を積算する。
このように、低負荷運転時間tLの値は、酸化触媒入口温度Tdoc、吸気温度、車速および水温の少なくとも一つにより補正可能である。こうした補正は当然にECU100によって行われる。
(2)後期制御の開始温度と終了温度は、前記実施形態ではNOx触媒入口温度TscrでTa,Tbというように規定したが、代替的に、フィルタ入口温度Tdpfで規定してもよい。図4に示すように、再生制御中のフィルタ入口温度TdpfはNOx触媒入口温度Tscrより高く、タイムラグ分早く上昇するが、これらの点を除けば、NOx触媒入口温度Tscrと同じように上昇するからである。
(3)図2(A)~(C)に示した燃料噴射方法に関し、動力変換用として必須なのはメイン噴射Mnだけであり、パイロット噴射Plとプレ噴射Prは適宜省略してもよい。
(4)図3(C)では、低負荷運転時間tLと後期制御時間tAの関係を示す線が直線であるが、当該線は曲線であってもよい。
(5)図3(B)では単純に、Ne=N1およびQ=Q1を表す二本の直線で第1領域R1を規定しているが、これに限らず、より複雑な直線または曲線等で第1領域R1を規定してもよい。
(6)前記実施形態では上流側から順に酸化触媒22、フィルタ23、選択還元型NOx触媒24およびアンモニア酸化触媒26を設けたが、フィルタ23およびアンモニア酸化触媒26の少なくとも一方は省略可能である。また、フィルタ23の代わりに一乃至複数のSOF触媒を設けてもよい。SOF触媒とは、PMに含まれる有機可溶成分(SOF(Soluble Organic Fraction))を除去するものである。
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。