以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.動力伝達系の構成>
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る動力伝達系1の構成について説明する。なお、動力伝達系1は本実施形態に係る制御装置100が適用される動力伝達系の一例にすぎず、制御装置100が適用される動力伝達系は、このような例に特に限定されない。
図1は、本実施形態に係る動力伝達系1の概略構成の一例を示す模式図である。図2は、本実施形態に係る制御装置100の機能構成の一例を示すブロック図である。
動力伝達系1は、車両に搭載され、例えば、図1に示されるように、エンジン10と、トルクコンバータ20と、前後進切替機構30と、CVT40と、出力クラッチ50と、オイルポンプ70と、モータ81と、インバータ82と、バッテリ83と、バルブユニット90と、制御装置100と、各センサとを備える。
動力伝達系1では、例えば、トルクコンバータ20、前後進切替機構30、CVT40及び出力クラッチ50が、この順にエンジン10の出力側に連設される。エンジン10から出力される動力は、トルクコンバータ20を介して前後進切替機構30へ伝達される。前後進切替機構30に伝達された動力は、回転方向を前進方向又は後退方向に切り替えられてCVT40へ伝達される。CVT40に伝達された動力は、CVT40により変速されて駆動輪18側へ出力される。CVT40から出力された動力は、出力クラッチ50、駆動軸15、ディファレンシャルギヤ16及び車軸17を介して駆動輪18へ伝達される。
エンジン10は、ガソリン等を燃料として動力を生成する内燃機関である。エンジン10は、本発明に係る駆動源の一例に相当する。エンジン10は、出力軸としてのクランクシャフト11を有する。クランクシャフト11には、ギヤ列12を介して機械式のオイルポンプ70が連結されている。また、クランクシャフト11は、トルクコンバータ20と接続される。
オイルポンプ70は、エンジン10のクランクシャフト11の回転により駆動されて、バルブユニット90へ供給される油圧を発生させる。バルブユニット90は、トルクコンバータ20、前後進切替機構30、CVT40及び出力クラッチ50と油路を介して接続されており、これらの各装置へ供給される油圧を調整可能である。バルブユニット90には、各装置へ供給される油圧を制御するための制御弁(例えば、比例電磁制御弁)が設けられる。オイルポンプ70からバルブユニット90へ供給される油圧は、トルクコンバータ20、前後進切替機構30、CVT40及び出力クラッチ50へ供給される油圧の元圧であるライン圧に相当する。ゆえに、オイルポンプ70は、エンジン10により駆動されライン圧を発生させる。
トルクコンバータ20は、エンジン10のクランクシャフト11にフロントカバー23を介して連結されるポンプインペラ22と、ポンプインペラ22に対向するとともにタービン軸25に連結されるタービンライナ21とを備える。トルクコンバータ20内には作動油が供給されており、作動油を介して、ポンプインペラ22からタービンライナ21にエンジン10から出力される動力が伝達される。また、トルクコンバータ20内には、エンジン10のクランクシャフト11とタービン軸25とを直結するロックアップクラッチ24が設けられている。タービン軸25は、前後進切替機構30と接続される。
ロックアップクラッチ24が開放されている場合(換言すると、トルクコンバータ20のロックアップ状態が解除されている場合)には、エンジン10から出力される動力は作動油を介して前後進切替機構30へ伝達される。一方、ロックアップクラッチ24が締結されている場合(換言すると、トルクコンバータ20がロックアップ状態である場合)には、エンジン10から出力される動力が直接的に前後進切替機構30へ伝達される。
前後進切替機構30は、プラネタリギヤ31と、前進クラッチ32と、後退ブレーキ33とを備える。また、前後進切替機構30は、CVT40のプライマリ軸44と接続される。前後進切替機構30では、前進クラッチ32及び後退ブレーキ33の締結状態に応じて、CVT40のプライマリ軸44の回転方向が切り替え可能になっている。前進クラッチ32が締結され後退ブレーキ33が開放されることにより、タービン軸25と接続された入力軸34がプライマリ軸44に対して直結されるため、プライマリ軸44が正転方向に回転し、車両の前進走行が可能となる。また、前進クラッチ32が開放され後退ブレーキ33が締結されることにより、入力軸34がプラネタリギヤ31を介してプライマリ軸44に連結されるため、プライマリ軸44が逆転方向に回転し、車両の後退走行が可能となる。
また、前進クラッチ32及び後退ブレーキ33がともに開放されることにより、プライマリ軸44へエンジン10からの動力が伝達されない状態になる。一方、上述したように、前進クラッチ32又は後退ブレーキ33のいずれか一方が締結されることにより、プライマリ軸44へエンジン10からの動力が伝達される状態になる。プライマリ軸44へ伝達される動力は、CVT40のプライマリプーリ41へ伝達される。ゆえに、前後進切替機構30によって、エンジン10とプライマリプーリ41との間の動力の伝達が断接される。このように、前後進切替機構30は、駆動源と無段変速機における入力側要素との間の動力の伝達を断接する。前進クラッチ32及び後退ブレーキ33がともに開放された状態は前後進切替機構30が開放された状態に相当し、前進クラッチ32又は後退ブレーキ33のいずれか一方が締結された状態は前後進切替機構30が締結された状態に相当する。
CVT40は、プライマリプーリ41と、セカンダリプーリ42と、チェーン43と、プライマリ軸44と、セカンダリ軸45とを備える。プライマリプーリ41は、駆動源から出力される動力が入力される入力側要素の一例に相当する。また、セカンダリプーリ42は、駆動輪側へ動力を出力する出力側要素の一例に相当する。また、チェーン43は、入力側要素と出力側要素との間で動力を伝達する動力伝達部材の一例に相当する。このように、CVT40は、入力側要素、出力側要素及び動力伝達部材を有する本発明に係る無段変速機の一例に相当する。
プライマリ軸44及びセカンダリ軸45は互いに並行に配設され、プライマリプーリ41はプライマリ軸44に固定され、セカンダリプーリ42はセカンダリ軸45に固定されている。プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42には、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間で動力を伝達するチェーン43が巻回されている。各プーリには固定シーブ及び可動シーブが設けられており、固定シーブ及び可動シーブによってチェーン43が挟持されている。具体的には、各プーリへ供給される油圧によって可動シーブが固定シーブ側へ押圧されることによって、チェーン43が挟持される。各プーリへ供給される油圧が調整されることにより、各プーリにおけるチェーン43の挟持圧が調整されて、各プーリ上でのチェーン43の巻き掛け半径が調整される。それにより、CVT40の変速比が調整される。CVT40は、プライマリ軸44へ入力される動力を、このように調整される変速比で変速してセカンダリ軸45へ出力する。セカンダリ軸45は、ギヤ列13及び出力クラッチ50を介して、駆動軸15と接続されている。
出力クラッチ50は、セカンダリ軸45と駆動軸15との間を締結又は開放する。出力クラッチ50は、具体的には、摩擦式のクラッチであり、エンジン10から出力される動力が入力される入力側(セカンダリ軸45側)に設けられる入力側部材51と、出力クラッチ50へ伝達される動力が出力される出力側(駆動軸15側)に設けられる出力側部材52とを含んで構成される。入力側部材51及び出力側部材52は、具体的には、駆動軸15の軸方向に互いに対向し、当該軸方向に互いに押圧されることによって係合される。より具体的には、出力クラッチ50には入力側部材51及び出力側部材52の一方を他方に対して押圧するピストンが設けられ、出力クラッチ50に供給される油圧によって当該ピストンが押圧されることによって、入力側部材51及び出力側部材52が互いに押圧される。
出力クラッチ50が締結されている場合には、セカンダリ軸45と駆動軸15との間で動力が伝達される。一方、出力クラッチ50が開放されている場合には、セカンダリ軸45と駆動軸15との間で動力の伝達が遮断される。ゆえに、出力クラッチ50によって、セカンダリプーリ42と駆動輪18との間の動力の伝達が断接される。このように、出力クラッチ50は、無段変速機における出力側要素と駆動輪との間の動力の伝達を断接する。なお、本明細書では、出力クラッチ50の締結が解除される場合は、出力クラッチ50が半クラッチ状態(換言すると、入力側部材51と出力側部材52とが滑り合いながら係合される状態)となる場合と、出力クラッチ50が開放される状態(換言すると、入力側部材51と出力側部材52とが互いに離隔される状態)となる場合との双方を含む。
駆動軸15は、ディファレンシャルギヤ16及び車軸17を介して駆動輪18と接続される。出力クラッチ50を介して駆動軸15へ伝達された動力は、ディファレンシャルギヤ16によって車軸17を介して左右の駆動輪18へ分配されて伝達される。なお、駆動輪18は、前輪であっても、後輪であってもよい。また、駆動軸15へ伝達された動力は、図示しないプロペラシャフトを介して前輪及び後輪の双方へ伝達されてもよい。
モータ81は、例えば、三相交流式のモータであり、インバータ82を介してバッテリ83と接続されている。また、モータ81のモータ軸85は、プライマリ軸44と接続されている。ゆえに、モータ81は、CVT40を介して出力クラッチ50の入力側部材51と接続されている。このように、モータ81は、出力クラッチ50の入力側と接続される。モータ81は、バッテリ83の電力を用いて駆動(力行駆動)されて動力を生成する駆動モータとしての機能を有する。モータ81から出力される動力は、モータ軸85を介してCVT40へ入力され、CVT40により変速されて駆動輪18側へ出力される。このように、モータ81は、エンジン10と同様に、本発明に係る駆動源の一例に相当する。また、モータ81は、車両の減速時に回生駆動されて駆動輪18の運動エネルギを用いて発電する発電機としての機能を有する。モータ81により発電される電力は、インバータ82を介してバッテリ83へ供給される。それにより、バッテリ83が充電される。
動力伝達系1には、上述したように、各センサが設けられ得る。例えば、動力伝達系1は、エンジン回転センサ201と、プライマリ回転センサ202と、セカンダリ回転センサ203と、出力クラッチ回転センサ204と、インヒビタスイッチ205と、加速度センサ206と、車速センサ207と、油温センサ208と、アクセル開度センサ209と、ブレーキセンサ210とを備える。
エンジン回転センサ201は、エンジン10の回転数を検出し、検出結果を出力する。
プライマリ回転センサ202は、プライマリ軸44の回転数を検出し、検出結果を出力する。
セカンダリ回転センサ203は、セカンダリ軸45の回転数を検出し、検出結果を出力する。
出力クラッチ回転センサ204は、出力クラッチ50の入力側部材51の回転数(以下、入力側回転数とも呼ぶ。)及び出力側部材52の回転数(以下、出力側回転数とも呼ぶ。)をそれぞれ検出し、検出結果を出力する。
インヒビタスイッチ205は、運転者により選択されているシフト位置を検出し、検出結果を出力する。運転者は、例えば、車両のシフトレバーの位置を操作することによって、シフト位置を切り替えることができる。その場合、インヒビタスイッチ205は、シフトレバーの位置に基づいて選択されているシフト位置を検出する。
加速度センサ206は、車両の加速度を検出し、検出結果を出力する。
車速センサ207は、車両の速度である車速を検出し、検出結果を出力する。
油温センサ208は、トルクコンバータ20、前後進切替機構30、CVT40及び出力クラッチ50の作動油の油温を検出し、検出結果を出力する。
アクセル開度センサ209は、運転者によるアクセルペダルの操作量に相当するアクセル開度を検出し、検出結果を出力する。
ブレーキセンサ210は、運転者によるブレーキペダルの操作量に基づいてブレーキ操作の有無を検出し、検出結果を出力する。
制御装置100は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する記憶素子であるROM(Read Only Memory)及びCPUの実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する記憶素子であるRAM(Random Access Memory)等で構成される。
また、制御装置100は、動力伝達系1における各装置と通信を行う。制御装置100と各装置との通信は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信を用いて実現される。例えば、制御装置100は、エンジン10、バルブユニット90、インバータ82及び動力伝達系1における各センサと通信を行う。本実施形態に係る制御装置100が有する機能は複数の制御装置により分割されてもよく、その場合、当該複数の制御装置は、CAN等の通信バスを介して、互いに接続されてもよい。例えば、制御装置100が有するエンジン10の制御に関する機能と、トルクコンバータ20、前後進切替機構30、CVT40及び出力クラッチ50の制御に関する機能と、モータ81の制御に関する機能とは、互いに異なる制御装置に分割されてもよい。
制御装置100は、例えば、図2に示されるように、取得部110と、制御部120とを備える。
取得部110は、制御装置100が行う処理において用いられる各種情報を取得する。また、取得部110は、取得した情報を制御部120へ出力する。
例えば、取得部110は、動力伝達系1における各センサと通信することによって、各センサから出力される検出結果を取得する。
制御部120は、取得部110により取得された情報を用いて各処理を実行する。制御部120は、具体的には、車両の走行状態に応じて、エンジン10、トルクコンバータ20、前後進切替機構30、CVT40、出力クラッチ50及びモータ81の動作をそれぞれ制御する。
制御部120は、例えば、エンジン制御部121と、トルクコンバータ制御部122と、前後進切替機構制御部123と、CVT制御部124と、出力クラッチ制御部125と、モータ制御部128とを備える。
エンジン制御部121は、エンジン10の動作を制御する。具体的には、エンジン制御部121は、エンジン10における各装置の動作を制御することによって、スロットル開度、点火時期及び燃料噴射量等を制御する。それにより、エンジン制御部121は、エンジン10の出力を制御し得る。
エンジン制御部121は、具体的には、加速要求や車速等の車両の走行状態に応じてモータ制御部128と協調してエンジン10の出力を制御する。例えば、車両の走行状態に応じて、エンジン10及びモータ81の双方の出力によって車両が走行するモードと、エンジン10又はモータ81のいずれか一方の出力によって車両が走行するモードとが切り替えられる。なお、エンジン制御部121は、車速が比較的低く加速要求が生じていない場合(例えば、停車直前や停車中)、基本的には、再加速時又は再発進時における応答性を十分に確保し得る程度のアイドル回転数でエンジン10をアイドル運転させる。また、加速要求は、アクセル開度の検出結果に基づいて算出され得る。
トルクコンバータ制御部122は、トルクコンバータ20の動作を制御する。具体的には、トルクコンバータ制御部122は、バルブユニット90の動作を制御することによって、ロックアップクラッチ24へ供給される油圧を制御する。それにより、トルクコンバータ制御部122は、トルクコンバータ20のロックアップ状態を制御し得る。
トルクコンバータ制御部122は、基本的には、車速が閾値より高い場合にトルクコンバータ20をロックアップ状態にし、車速が閾値以下である場合にトルクコンバータ20のロックアップ状態を解除させる。なお、上記の閾値は、車両の設計仕様に応じて適宜設定され得る。
前後進切替機構制御部123は、前後進切替機構30の動作を制御する。具体的には、前後進切替機構制御部123は、バルブユニット90の動作を制御することによって、前進クラッチ32及び後退ブレーキ33へ供給される油圧を制御する。それにより、前後進切替機構制御部123は、前後進切替機構30の締結状態を制御し得る。
前後進切替機構制御部123は、具体的には、シフト位置に応じて前後進切替機構30の締結状態を制御する。例えば、前後進切替機構制御部123は、シフト位置がパーキングレンジ(Pレンジとも呼ぶ。)又はニュートラルレンジ(Nレンジとも呼ぶ。)である場合に、前後進切替機構30を開放させる。また、例えば、前後進切替機構制御部123は、シフト位置がドライブレンジ(Dレンジとも呼ぶ。)である場合に、プライマリ軸44が正転方向に回転するように前後進切替機構30を締結させる。また、例えば、前後進切替機構制御部123は、シフト位置がリバースレンジ(Rレンジとも呼ぶ。)である場合に、プライマリ軸44が逆転方向に回転するように前後進切替機構30を締結させる。
CVT制御部124は、CVT40の動作を制御する。具体的には、CVT制御部124は、バルブユニット90の動作を制御することによって、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42へ供給される油圧を制御する。それにより、CVT制御部124は、CVT40の変速比を制御し得る。
CVT制御部124は、具体的には、車速及びアクセル開度に基づいて変速比の目標値である目標変速比を決定し、CVT40の変速比を目標変速比に近づくように制御する。例えば、CVT制御部124は、プライマリ軸44の回転数及びセカンダリ軸45の回転数の検出結果に基づいてCVT40の変速比を制御する。
出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50の動作を制御する。具体的には、出力クラッチ制御部125は、バルブユニット90の動作を制御することによって、出力クラッチ50へ供給される油圧を制御する。それにより、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50の締結状態を制御し得る。
出力クラッチ制御部125は、基本的には、出力クラッチ50を締結させる。一方、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50の入力トルクに応じた油圧制御をしており、駆動源からの入力トルク以外の外力が駆動輪18側から入力された時に出力クラッチをスリップさせCVT40を保護する。また、例えば、出力クラッチ制御部125は、エンジン10により出力される動力を用いてモータ81を駆動してモータ81に発電を行わせる制御が行われる場合に、エンジン10により出力される動力が駆動輪18へ伝達されないようにするために、出力クラッチ50を開放させてもよい。なお、エンジン10により出力される動力を用いてモータ81に発電を行わせる制御は、例えば、停車時に行われ得る。
モータ制御部128は、モータ81の動作を制御する。具体的には、モータ制御部128は、インバータ82の動作を制御することによって、モータ81とバッテリ83との間の電力の供給を制御する。それにより、モータ制御部128は、モータ81による動力の生成及び発電を制御し得る。
モータ制御部128は、具体的には、上述したように、車両の走行状態に応じてエンジン制御部121と協調してモータ81の出力を制御する。
本実施形態に係る制御装置100は、車両の減速時において、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、CVT40のLOW戻り性能を向上させるための制御であるLOW戻り制御を実行する。それにより、CVT40のLOW戻り性能を効果的に向上させることが可能となる。ゆえに、以下では、制御装置100が行う制御のうち、特にLOW戻り制御について説明する。
なお、以下では、LOW戻り制御が実行されない通常時(例えば、車両の減速時においてCVT40へ供給される油圧が不足すると判定されない場合又は車両の加速時等)において、制御装置100によって実行される制御を通常制御と呼ぶ。通常制御では、動力伝達系1の各装置は、上述したように、車両の走行状態に応じて適宜制御される。
<2.制御装置の動作>
続いて、図3~図9を参照して、本実施形態に係る制御装置100の動作について説明する。
図3は、本実施形態に係る制御装置100が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。図3に示される制御フローは、例えば、あらかじめ設定された設定時間おきに繰り返される。なお、図3に示される制御フローは、LOW戻り制御が実行されていない状態(換言すると、通常制御が実行されている状態)において開始される。また、図3に示される制御フローは、車両の減速時に実行される。例えば、制御装置100は、ブレーキ操作が行われていることをトリガとして図3に示される制御フローを実行する。ゆえに、図3に示される制御フローは、例えば、運転者のアクセル操作が行われた場合等の車両が再加速する場合には終了する。
図3に示される制御フローが開始されると、まず、ステップS501において、制御部120は、CVT40へ供給される油圧が不足するか否かを判定する。CVT40へ供給される油圧が不足すると判定された場合(ステップS501/YES)、ステップS503へ進む。一方、CVT40へ供給される油圧が不足しないと判定された場合(ステップS501/NO)、ステップS501の判定処理が繰り返される。
例えば、制御部120は、車速が車速基準値V1以下であり、かつ、車両の加減速度が第1加減速度基準値G1以下となった場合に、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定する。本明細書において、加減速度は、正の値をとる場合に車両が加速していることを示し、負の値をとる場合に車両が減速していることを示すものとして説明する。ゆえに、減速時において、加減速度が小さいほど、車速は急峻に低下するので、停車までの時間が短くなる。車速基準値V1及び第1加減速度基準値G1は、具体的には、通常制御を継続して実行した場合において、LOW戻しに必要な時間が停車するまでの時間と比較して長いか否かを適切に判定し得る値に適宜設定される。
以下で説明するステップS503以降の制御が、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定された場合に制御装置100によって実行されるLOW戻し制御に相当する。
ステップS503において、トルクコンバータ制御部122は、ロックアップ状態を解除させる。
次に、ステップS505において、制御部120は、アンチロックブレーキシステム(ABS:Antilock Brake System)が作動しているか否かを判定する。アンチロックブレーキシステムが作動していると判定された場合(ステップS505/YES)、ステップS521へ進む。一方、アンチロックブレーキシステムが作動していると判定されなかった場合(ステップS505/NO)、ステップS507へ進む。
アンチロックブレーキシステムは、ブレーキ装置による制動時における車輪のロックを防止するために車両に搭載されるシステムである。アンチロックブレーキシステムの作動は、例えば、制御装置100と異なる他の制御装置によって制御される。制御装置100は、当該他の制御装置からアンチロックブレーキシステムの作動状態を示す情報を受信する。ゆえに、制御部120は、当該他の制御装置から受信した情報に基づいてアンチロックブレーキシステムが作動しているか否かを判定し得る。
ステップS507において、エンジン制御部121は、エンジン10のアイドル回転数を上昇させる。具体的には、エンジン制御部121は、エンジン10のアイドル回転数をCVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇させる。それにより、ライン圧がCVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇する。
例えば、エンジン制御部121は、ライン圧の目標値である目標ライン圧を上昇させ、ライン圧が目標ライン圧に制御されることを実現し得るようにエンジン10のアイドル回転数の目標値である目標回転数を上昇させる。エンジン制御部121は、エンジン10のアイドル回転数をこのように上昇する目標回転数に制御することによって、ライン圧を目標ライン圧に沿って上昇させることができる。
目標ライン圧は、具体的には、CVT制御部124により車速及びアクセル開度に基づいて決定される目標変速比へのCVT40の変速を実現し得る値に決定される。例えば、目標ライン圧は、CVT40の作動油の油温依存性に応じて決定される。ゆえに、目標回転数は、例えば、目標変速比及びCVT40の作動油の油温に応じた値に決定される。このように、エンジン制御部121は、エンジン10のアイドル回転数をCVT40の作動油の油温に応じた目標回転数に制御することによって、CVT40の作動油の油温に応じてライン圧を上昇させてもよい。
なお、目標回転数は、アイドル回転数の変化が不安定となるハンチングの発生や減速度が不足する減速度抜けの発生を抑制するために、変化率が過剰に大きくならないように決定されることが好ましい。
上記のように、制御部120は、ライン圧をCVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇させる。具体的には、制御部120は、エンジン10のアイドル回転数をCVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇させることによって、ライン圧を上昇させる。また、制御部120は、例えば、CVT40の作動油の油温に応じてライン圧を上昇させる。
次に、ステップS509において、制御部120は、LOW戻りが完了したか否かを判定する。LOW戻りが完了したと判定された場合(ステップS509/YES)、図3に示される処理は終了する。一方、LOW戻りが完了していないと判定された場合(ステップS509/NO)、ステップS511へ進む。
例えば、制御部120は、CVT40の変速比が最LOW変速比まで戻ったことをもって、LOW戻りが完了したと判定し得る。CVT40の変速比は、例えば、プライマリ軸44の回転数及びセカンダリ軸45の回転数の検出結果に基づいて算出され得る。
ステップS511において、制御部120は、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないか否かを判定する。ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された場合(ステップS511/YES)、ステップS513へ進む。一方、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定されなかった場合(ステップS511/NO)、ステップS509の判定処理へ戻る。
例えば、制御部120は、車両の加減速度が第1加減速度基準値G1より低い第2加減速度基準値G2以下となった場合に、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定する。第2加減速度基準値G2は、具体的には、LOW戻し制御によりライン圧の上昇が行われた後において、LOW戻しに必要な時間が停車するまでの時間と比較して長いか否かを適切に判定し得る値に適宜設定される。
ステップS513において、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50を半クラッチ状態にさせる。具体的には、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50へ供給される油圧を制御することによって、出力クラッチ50を半クラッチ状態にさせる。
例えば、出力クラッチ制御部125は、学習制御において得られる学習値に対して出力クラッチ50の作動油の油温に応じた値を加算することによって得られる油圧を初期油圧として決定する。出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50へ供給される油圧をこのように決定される初期油圧に制御することによって、出力クラッチ50を半クラッチ状態にさせることができる。
上記の学習制御では、具体的には、出力クラッチ50へ実際に供給された油圧と出力クラッチ50における入力側部材51及び出力側部材52の間の滑り状態との比較結果に基づいて学習値が補正される。学習値を示す情報は、制御装置100の記憶素子に記憶され得る。このような学習値を利用することによって、出力クラッチ制御部125は、初期油圧の値を決定し得る。初期油圧は、具体的には、入力側部材51と出力側部材52とが滑り合いながら係合される出力クラッチ50の締結状態を実現し得る値に決定される。例えば、初期油圧は、出力クラッチ50の作動油の油温依存性に応じて決定される。このように、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50の作動油の油温に応じて出力クラッチ50へ供給される油圧を制御することによって、出力クラッチ50を半クラッチ状態にさせてもよい。
上記のように、制御部120は、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される場合に、出力クラッチ50の締結を解除させる。具体的には、制御部120は、出力クラッチ50を半クラッチ状態にさせることによって、出力クラッチ50の締結を解除させる。
出力クラッチ50へ供給される油圧は、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後において、具体的には、各種パラメータに基づいて初期油圧から調整される。
例えば、後述されるステップS517における出力クラッチ50の再締結の開始前において、出力クラッチ制御部125は、CVT40の変速比と目標変速比との差(以下、変速比偏差とも称する。)に基づいて、出力クラッチ50へ供給される油圧を制御する。具体的には、出力クラッチ制御部125は、変速比偏差が大きいほど出力クラッチ50へ供給される油圧を低くする。それにより、出力クラッチ50を締結させるために必要な油圧であるヒューズ圧と出力クラッチ50へ供給される油圧との差が大きくなるので、出力クラッチ50は開放される状態へ近づく。
このような変速比偏差に基づく油圧制御は、例えば、変速比偏差を制御量とし、出力クラッチ50へ供給される油圧とヒューズ圧との差を操作量とするPI制御を用いて出力クラッチ50へ供給される油圧を制御することによって実現され得る。その場合、比例ゲインや積分ゲインは、例えば、変速比偏差の他に出力クラッチ50の入力側回転数と出力側回転数との差(以下、出力クラッチ差回転とも称する。)等の各種パラメータに基づいて適宜設定され得る。
次に、ステップS515において、制御部120は、CVT40の変速比が目標変速比と一致したか否かを判定する。CVT40の変速比が目標変速比と一致したと判定された場合(ステップS515/YES)、ステップS517へ進む。一方、CVT40の変速比が目標変速比と一致したと判定されなかった場合(ステップS515/NO)、ステップS515の判定処理が繰り返される。
なお、ステップS515では、CVT40の変速比が目標変速比に対応する変速比と一致したか否かが判定されればよく、ステップS515における判定処理はCVT40の変速比が目標変速比と一致したか否かが判定される例に限定されない。例えば、ステップS515において、制御部120は、CVT40の変速比が目標変速比より所定値低い変速比と一致したか否かを判定してもよく、CVT40の変速比と目標変速比との差が所定値以下になったか否かを判定してもよい。このように、目標変速比に対応する変速比は、幅を有してもよい。
ステップS517において、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50の再締結を開始させる。具体的には、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50へ供給される油圧を制御することによって、出力クラッチ50を再締結させる。
例えば、出力クラッチ50の再締結の開始後において、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ50の入力側回転数と出力側回転数との差である出力クラッチ差回転に基づいて、出力クラッチ50へ供給される油圧を制御する。具体的には、出力クラッチ制御部125は、出力クラッチ差回転が大きいほど出力クラッチ50へ供給される油圧を高くする。それにより、出力クラッチ50を締結させるために必要な油圧であるヒューズ圧と出力クラッチ50へ供給される油圧との差が小さくなるので、出力クラッチ50は締結される状態へ近づく。
このような出力クラッチ差回転に基づく油圧制御は、例えば、出力クラッチ差回転を制御量とし、出力クラッチ50へ供給される油圧とヒューズ圧との差を操作量とするPI制御を用いて出力クラッチ50へ供給される油圧を制御することによって実現され得る。その場合、比例ゲインや積分ゲインは、例えば、出力クラッチ差回転の他に変速比偏差等の各種パラメータに基づいて適宜設定され得る。
次に、ステップS519において、制御部120は、LOW戻りが完了したか否かを判定する。LOW戻りが完了したと判定された場合(ステップS519/YES)、図3に示される処理は終了する。一方、LOW戻りが完了していないと判定された場合(ステップS519/NO)、ステップS519の判定処理が繰り返される。
ステップS521において、エンジン制御部121は、エンジン10のアイドル回転数をアンチロックブレーキシステムの非作動時と比較して低い回転数へ上昇させる。具体的には、エンジン制御部121は、エンジン10のアイドル回転数を、CVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して高いものの、アンチロックブレーキシステムの非作動時と比較して低い回転数へ上昇させる。それにより、ライン圧は、CVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇するものの、アンチロックブレーキシステムの非作動時と比較して低い圧力になる。
ステップS523において、制御部120は、LOW戻りが完了したか否かを判定する。LOW戻りが完了したと判定された場合(ステップS523/YES)、図3に示される処理は終了する。一方、LOW戻りが完了していないと判定された場合(ステップS523/NO)、ステップS523の判定処理が繰り返される。
上記のように、アンチロックブレーキシステムの作動中には、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定された後において、出力クラッチ50の締結の解除は行われない。このように、制御部120は、車両の減速時において、アンチロックブレーキシステムの作動中には、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、出力クラッチ50の締結の解除を禁止する。
なお、上述したように、図3に示される制御フローは、車両が再加速する場合に終了する。ゆえに、出力クラッチ50の締結が解除された後において、出力クラッチ50が再締結される前にLOW戻し制御が終了する場合がある。そこで、制御部120は、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後において、車両が再加速する場合、出力クラッチ50の入力側回転数を出力側回転数に近づけるようにモータ81の動作を制御し、出力クラッチ50を再締結させてもよい。モータ81は、例えば、CVT40を介して出力クラッチ50の入力側部材51と接続されている。ゆえに、モータ81を駆動させ、モータ81の回転数を制御することによって、出力クラッチ50の入力側回転数を制御することができる。
続いて、図4及び図5を参照して、図3に示される制御装置100による制御が行われる場合についての、車両が減速して停車する際における各状態量の推移の第1の例について説明する。
図4は、本実施形態に係る制御装置100による制御が行われる場合についての、車両が減速して停車する際における各状態量の推移の第1の例を示す説明図である。図4では、走行中の車両がブレーキ操作に伴い減速し、その後、停車する場合における各状態量の推移が示されている。
例えば、図4に示されるように、時刻T11において、ブレーキ操作が開始されることによって、車両が減速を開始し、加減速度が負の値になる。なお、時刻T11以前において、エンジン10は再加速時又は再発進時における応答性を十分に確保し得る程度のアイドル回転数でアイドル運転されている。そして、時刻T11の後の時刻T12において、車速及び加減速度が車速基準値V1及び第1加減速度基準値G1をそれぞれ下回ることによって、制御部120によりCVT40へ供給される油圧が不足すると判定され、LOW戻し制御が実行される。それにより、時刻T12において、トルクコンバータ20のロックアップ状態が解除される。また、時刻T12以後において、目標回転数が上昇することに伴いエンジン10のアイドル回転数が上昇することにより、ライン圧が目標ライン圧に沿って上昇する。
図5は、本実施形態に係る制御装置100による制御が行われた場合についての、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定された後の動力伝達系1におけるトルクコンバータ20及び出力クラッチ50による動力の伝達の断接状態を説明するための図である。
上記のように、本実施形態では、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、トルクコンバータ20のロックアップ状態が解除される。それにより、動力伝達系1において、図5に示されるように、トルクコンバータ20よりエンジン10側のオイルポンプ70を含む部分R1と、トルクコンバータ20より駆動輪18側の部分R2との間において、動力の直接的な伝達は遮断される。ゆえに、このような状態でエンジン10のアイドル回転数を上昇させることによって、エンジン10から駆動輪18側へ動力が伝達されることを抑制しつつ、オイルポンプ70により発生するライン圧を適切に上昇させることができる。
そして、時刻T12以後において、ライン圧が通常制御時と比較して高められた状態で、目標変速比の変化に応じてCVT40の変速比が低速側へ変化する。そして、車両が停車する時刻T14より前の時刻T13において、CVT40の変速比が最LOW変速比まで戻り、制御部120によりLOW戻りが完了したと判定される。それにより、LOW戻り制御が終了し、通常制御が実行される。よって、時刻T13の後において、目標回転数が低下することに伴いエンジン10のアイドル回転数が通常制御時のアイドル回転数へ低下する。また、アイドル回転数の低下に伴い、ライン圧が低下し通常制御時の目標ライン圧に制御される。
上記のように、本実施形態では、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、制御部120は、ライン圧をCVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇させる。それにより、CVT40の変速比の最大変化速度を上昇させることができるので、LOW戻り性能を向上させることができる。ゆえに、停車するまでの時間が比較的短い場合であっても、停車するまでの間に変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状況が生じることを抑制することができる。
ここで、図6を参照して、参考例に係る制御装置による制御が行われる場合についての、勾配路での停車時における各状態量の推移について説明する。
参考例に係る動力伝達系は、上述した動力伝達系1と異なり、本実施形態に係る制御装置100に替えて参考例に係る制御装置を備える。参考例に係る制御装置は、本実施形態に係る制御装置100と異なり、LOW戻し制御を実行せず、車両が停車するまでの時間が比較的短い場合であっても通常制御を継続して実行する。
図6は、参考例に係る制御装置による制御が行われる場合についての、車両が減速して停車する際における各状態量の推移の一例を示す説明図である。なお、図6に示される例では、車両の速度の推移、加減速度の推移及び運転者によるブレーキ操作が図4に示される例と同様であるものとする。
図6に示されるように、時刻T11において、ブレーキ操作が開始されることによって、車両が減速を開始し、加減速度が負の値になる。そして、時刻T11の後の時刻T12において、車速及び加減速度が車速基準値V1及び第1加減速度基準値G1をそれぞれ下回る。しかしながら、参考例では、車両が停車するまでの時間が比較的短い場合に相当する時刻T12以後において、LOW戻し制御は実行されず、通常制御が継続して実行される。ゆえに、時刻T12以後において、図4に示される例と異なり、目標回転数が維持されることに伴いエンジン10のアイドル回転数が上昇せずに時刻T12以前の回転数に維持されるので、ライン圧が上昇せずに時刻T12以前の圧力に維持される。
よって、時刻T12以後において、ライン圧が時刻T12以前の圧力に維持された状態で、目標変速比の変化に応じてCVT40の変速比が低速側へ変化する。そして、時刻T14において、CVT40の変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状態で、車両が停車する。
上記のように、参考例では、車両が停車するまでの時間が比較的短い場合であっても通常制御を継続して実行する。ゆえに、そのような場合において、CVT40へ供給される油圧が不足し、停車するまでの間に変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状況が生じ得る。よって、LOW戻しが完了していない状態で車両が再発進する状況が生じることによって、発進時に駆動輪18へ伝達される駆動力の低下によるドライバビリティの低下やCVT40のチェーン43等が滑ることによるCVT40の耐久性の低下が生じ得る。
続いて、図7及び図8を参照して、図3に示される制御装置100による制御が行われる場合についての、車両が減速して停車する際における各状態量の推移の第2の例について説明する。
図7は、本実施形態に係る制御装置100による制御が行われる場合についての、車両が減速して停車する際における各状態量の推移の第2の例を示す説明図である。図7に示される第2の例では、図4に示される第1の例と比較して、車両の減速時において加減速度がより小さい加減速度まで低下する。なお、図7において、「出力クラッチ油圧」では、出力クラッチ50へ供給される油圧が示されている。
例えば、図7に示されるように、時刻T21において、ブレーキ操作が開始されることによって、車両が減速を開始し、加減速度が負の値になる。なお、時刻T21以前において、エンジン10は再加速時又は再発進時における応答性を十分に確保し得る程度のアイドル回転数でアイドル運転されている。そして、時刻T21の後の時刻T22において、車速及び加減速度が車速基準値V1及び第1加減速度基準値G1をそれぞれ下回ることによって、制御部120によりCVT40へ供給される油圧が不足すると判定され、LOW戻し制御が実行される。それにより、時刻T22において、トルクコンバータ20のロックアップ状態が解除される。また、時刻T22以後において、目標回転数が上昇することに伴いエンジン10のアイドル回転数が上昇することにより、ライン圧が目標ライン圧に沿って上昇する。
そして、時刻T23において、加減速度が第2加減速度基準値G2を下回ることによって、制御部120によりライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される。それにより、時刻T23において、出力クラッチ50へ供給される油圧が低下し、出力クラッチ50が半クラッチ状態になる。ゆえに、時刻T23以後において、図7に示されるように、出力クラッチ50へ供給される油圧がヒューズ圧より低い状態になり、入力側回転数と出力側回転数とが乖離して出力クラッチ差回転が生じる。
図8は、本実施形態に係る制御装置100による制御が行われた場合についての、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後の動力伝達系1におけるトルクコンバータ20及び出力クラッチ50による動力の伝達の断接状態を説明するための図である。
上記のように、本実施形態では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される場合に、出力クラッチ50の締結が解除される。それにより、動力伝達系1において、図5に示されるように、トルクコンバータ20よりエンジン10側のオイルポンプ70を含む部分R1と、トルクコンバータ20と出力クラッチ50との間のCVT40を含む部分R3との間において、動力の直接的な伝達は遮断される。ゆえに、エンジン10からCVT40側へ動力が伝達されることを抑制しつつ、オイルポンプ70により発生するライン圧を適切に上昇させることができる。また、トルクコンバータ20と出力クラッチ50との間のCVT40を含む部分R3と、出力クラッチ50より駆動輪18側の部分R4との間において、比較的大きな動力の伝達は遮断される。ゆえに、CVT40のセカンダリ軸45の慣性モーメントを低下させることができるので、セカンダリ軸45の回転数を変化させやすくなる。それにより、CVT40の変速比の最大変化速度をさらに上昇させることができる。
そして、時刻T23以後において、出力クラッチ50の締結が解除された状態で、目標変速比の変化に応じてCVT40の変速比が低速側へ変化する。そして、時刻T24において、CVT40の変速比が目標変速比に到達し、制御部120によりCVT40の変速比が目標変速比と一致したと判定される。それにより、時刻T24において、出力クラッチ50の再締結が開始される。そして、車両が停車する時刻T26より前の時刻T25において、CVT40の変速比が最LOW変速比まで戻り、制御部120によりLOW戻りが完了したと判定される。それにより、LOW戻り制御が終了し、通常制御が実行される。よって、時刻T25の後において、目標回転数が低下することに伴いエンジン10のアイドル回転数が通常制御時のアイドル回転数へ低下する。また、アイドル回転数の低下に伴い、ライン圧が低下し通常制御時の目標ライン圧に制御される。
上記のように、本実施形態では、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定された後において、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される場合に、制御部120は、出力クラッチ50の締結を解除させる。それにより、CVT40の変速比の最大変化速度をさらに上昇させることができるので、LOW戻り性能を効果的に向上させることができる。ゆえに、停車するまでの時間が比較的短い場合であっても、停車するまでの間に変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状況が生じることを効果的に抑制することができる。
<3.制御装置の効果>
続いて、本実施形態に係る制御装置100の効果について説明する。
本実施形態に係る制御装置100では、車両の減速時において、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、CVT40へ供給される油圧の元圧であるライン圧が、CVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇する。それにより、CVT40の変速比の最大変化速度を上昇させることができるので、LOW戻り性能を向上させることができる。さらに、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される場合に、出力クラッチ50の締結が解除される。それにより、CVT40のセカンダリ軸45の慣性モーメントを低下させることができるので、セカンダリ軸45の回転数を変化させやすくなる。ゆえに、CVT40の変速比の最大変化速度をさらに上昇させることができるので、CVT40のLOW戻り性能を効果的に向上させることができる。ゆえに、停車するまでの時間が比較的短い場合であっても、停車するまでの間に変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状況が生じることを効果的に抑制することができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される場合に、出力クラッチ50が半クラッチ状態になることによって、出力クラッチ50の締結が解除され得る。それにより、車両が再加速する場合において、出力クラッチ50を迅速に再締結させることができる。ゆえに、車両の再加速の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された場合に、出力クラッチ50の作動油の油温に応じて出力クラッチ50へ供給される油圧が制御されることによって、出力クラッチ50が半クラッチ状態になり得る。それにより、出力クラッチ50の締結圧を、作動油の油温の変化に伴う粘度の変化に応じて適切に制御することができる。よって、LOW戻り性能を効果的に向上させつつ、車両の再加速の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後において、CVT40の変速比が目標変速比に対応する変速比と一致した場合に、出力クラッチ50の再締結が開始され得る。それにより、停車するまでの間に変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状況が生じることを効果的に抑制しつつ、車両の再加速の応答性をより向上させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後、出力クラッチ50の再締結の開始前において、CVT40の変速比と目標変速比との差に基づいて、出力クラッチ50へ供給される油圧が制御され得る。それにより、出力クラッチ50の締結を解除させることによってLOW戻り性能を向上させる効果をより向上させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後、出力クラッチ50の再締結の開始後において、出力クラッチ50の入力側回転数と出力側回転数との差に基づいて、出力クラッチ50へ供給される油圧が制御され得る。それにより、出力クラッチ50を迅速かつスムーズに再締結させることができるので、車両の再加速の応答性とクラッチ締結ショック低減を両立させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、車両の減速時において、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、CVT40の作動油の油温に応じてライン圧が上昇し得る。それにより、ライン圧を作動油の油温の変化に伴う粘度の変化に応じて適切に上昇させることができる。ゆえに、ライン圧を上昇させることによってLOW戻り性能を向上させる効果をより向上させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、車両の減速時において、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、エンジン10のアイドル回転数がCVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇することによって、ライン圧が上昇し得る。それにより、エンジン10により駆動されライン圧を発生させるオイルポンプ70が設けられる動力伝達系1におけるCVT40のライン圧を適切に上昇させることができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、車両の減速時において、アンチロックブレーキシステムの作動中には、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、エンジン10のアイドル回転数がアンチロックブレーキシステムの非作動時と比較して低い回転数へ上昇し、出力クラッチ50の締結の解除が禁止され得る。それにより、アンチロックブレーキシステムが行う車輪のロックを防止するための制御に対してLOW戻り制御が過剰に介入することを抑制することができるので、安全性が低下することを抑制することができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、車両の減速時において、車両の車速が車速基準値以下であり、かつ、車両の加減速度が第1加減速度基準値以下となった場合に、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定され得る。それにより、車両が停車するまでの間の時間に応じて、CVT40へ供給される油圧が不足するか否かを適切に判定することができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定された後において、車両の加減速度が第1加減速度基準値より低い第2加減速度基準値以下となった場合に、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定され得る。それにより、車両が停車するまでの間の時間に応じて、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないか否かを適切に判定することができる。
また、本実施形態に係る制御装置100では、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定された後において、車両が再加速する場合、出力クラッチ50の入力側回転数を出力側回転数に近づけるようにモータ81の動作が制御され、出力クラッチ50が再締結され得る。それにより、車両が再加速する場合において、出力クラッチ50を迅速かつスムーズに再締結することができるので、車両の再加速の応答性とクラッチ締結ショック低減を両立させることができる。
<4.むすび>
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置100は、車両の減速時において、CVT40へ供給される油圧が不足すると判定される場合に、CVT40へ供給される油圧の元圧であるライン圧を、CVT40へ供給される油圧が不足しないと判定される場合と比較して上昇させる制御部120を備える。それにより、CVT40の変速比の最大変化速度を上昇させることができる。さらに、本実施形態に係る制御部120は、ライン圧の上昇によってもCVT40へ供給される油圧の不足が解消されないと判定される場合に、出力クラッチ50の締結を解除させる。それにより、CVT40の変速比の最大変化速度をさらに上昇させることができる。ゆえに、CVT40のLOW戻り性能を効果的に向上させることができる。よって、停車するまでの時間が比較的短い場合であっても、停車するまでの間に変速比が最LOW変速比まで戻りきらない状況が生じることを効果的に抑制することができる。
上記では、動力伝達系1に動力伝達部材として各プーリの間に巻回されたチェーンを備えるチェーン式CVTであるCVT40が設けられる例を説明したが、動力伝達系1に設けられる無段変速機はこのような例に限定されない。例えば、動力伝達系1に設けられる無段変速機は、動力伝達部材としてベルトを備えるベルト式CVTであってもよい。また、例えば、動力伝達系1に設けられる無段変速機は、トロイダル式CVTであってもよい。
また、上記では、動力伝達系1に駆動源としてエンジン10及びモータ81が設けられる例を説明したが、動力伝達系1に設けられる駆動源はこのような例に限定されない。例えば、動力伝達系1の構成からエンジン10及びモータ81のいずれか一方が省略されてもよい。
また、上記では、エンジン10により駆動されライン圧を発生させるオイルポンプ70が設けられる例を説明したが、動力伝達系1に設けられるオイルポンプはこのような例に限定されない。例えば、動力伝達系1に設けられるオイルポンプは、エンジン10と異なる他の駆動源(例えば、モータ)により駆動されライン圧を発生させるオイルポンプであってもよい。その場合、制御装置100は、当該他の駆動源の動作を制御することによって、ライン圧を制御し得る。
また、本明細書においてフローチャートを用いて説明した処理は、必ずしもフローチャートに示された順序で実行されなくてもよい。いくつかの処理ステップは、並列的に実行されてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。