JP7165656B2 - プロトンビーム又は中性子ビーム照射用ターゲット及びそれを用いた放射性物質の発生方法 - Google Patents
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Description
[1]25℃におけるグラファイト層のa-b面に平行な方向の熱伝導率が500W/mK以上であるグラファイト膜(A)と、放射性物質製造用原料層(B)との積層体であることを特徴とするプロトンビーム又は中性子ビーム照射用ターゲット。
[2]前記グラファイト膜(A)の密度が1.8g/cm3以上、且つ、2.26g/cm3以下である前記[1]に記載のターゲット。
[3]前記グラファイト膜(A)の引張り強度が5MPa以上である前記[1]又は[2]に記載のターゲット。
[4]前記グラファイト膜(A)をレーザーラマン分光法で測定して得られる、1575~1600cm-1に現れるラマンバンドの強度RGと1330~1360cm-1に現れるラマンバンドの強度RCとの比RG/RCが、4以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載のターゲット。
[5]前記グラファイト膜(A)の厚みが0.1μm以上、且つ、50μm以下である前記[1]~[4]のいずれかに記載のターゲット。
[6]前記放射性物質製造用原料が、金属及び/又は金属酸化物である前記[1]~[5]のいずれかに記載のターゲット。
[7]前記放射性物質製造用原料が、金属モリブデン100及び/又は金属モリブデン100の酸化物である前記[1]~[6]のいずれかに記載のターゲット。
[8]前記放射性物質製造用原料が、更に金属モリブデン同位体及び/又はモリブデン同位体の酸化物を含む前記[7]に記載のターゲット。
[9]前記グラファイト膜(A)と前記放射性物質製造用原料層(B)が、金属層(C)を介して積層されている前記[1]~[8]のいずれかに記載のターゲット。
[10]前記金属層(C)がアルミニウム、チタン、ニッケル、鉄、銅、タンタル、タングステン、金、銀、白金、及びルテニウムよりなる群から選択される少なくとも1種である前記[9]に記載のターゲット。
[11]前記金属層(C)の厚みが、1μm以下である前記[9]又は[10]に記載のターゲット。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載のターゲットに、プロトンビーム又は中性子ビームを照射することを特徴とする放射性物質の発生方法。
(1-a)グラファイト層のa-b面に平行な方向の熱伝導率
本発明において、グラファイト膜(A)の25℃におけるグラファイト層のa-b面に平行な方向の熱伝導率は500W/mK以上である。通常、ターゲットにプロトンビーム又は中性子ビーム(以下、両者を合わせて単に「ビーム」と呼ぶ場合がある)が照射されると、ビーム照射部位が局所的に加熱及び冷却されるため、ターゲットが変形する。グラファイト膜(A)の熱伝導率が前記範囲であると、ターゲットの局所的な熱を速やかに周囲に分散させ、ターゲットの温度変化を小さくすることができる。前記熱伝導率は、好ましくは1000W/mK以上、より好ましくは1200W/mK以上、更に好ましくは1500W/mK以上であり、特に1800W/mK以上が好ましく、最も好ましくは1950W/mK以上である。前記熱伝導率の上限は特に限定されず、例えば2200W/mK以下であり、2100W/mK以下であってもよい。
λ=α×d×Cp ・・・(1)
式(1)中、λは、グラファイト層のa-b面に平行な方向のグラファイト膜(A)の熱伝導率、αは、グラファイト層のa-b面に平行な方向のグラファイト膜(A)の熱拡散率、dは、グラファイト膜(A)の密度、Cpは、グラファイト膜(A)の比熱容量をそれぞれ表わしている。なお、グラファイト膜(A)の密度、熱拡散率、および比熱容量は、以下に述べる方法で求める。
グラファイト膜(A)の密度は、グラファイト膜(A)の熱伝導率を確保し、またビーム照射時のビームの散乱を防ぐという観点から、1.8g/cm3以上であることが好ましい。また、グラファイト膜(A)の密度が1.8g/cm3以上であることは、電着法(電気泳動電着法)によってターゲットを作製する際に特に有利である。一般的に電着法によって基板に金属層を積層させる技術においては、電極(基板)として金属が用いられており、グラファイトが用いられた例はない。例えば非特許文献4は、無機塩水溶液におけるグラファイトから電気化学的にグラフェンを剥離する技術に関するものであり、グラファイト上に金属層を積層させる技術に関するものではないが、非特許文献4を参照すれば、電着法によって通常のグラファイト基板上に金属層を積層させることは難しいと考えられる。その理由としては、密度の小さい通常のグラファイトを電極として用いると、グラファイトの隙間に水が入り込み、電気分解により水素が発生してグラファイトが剥離すること、グラファイト膜に入り込んだ水とイオンの影響でグラファイトが剥離すること、などが挙げられる。グラファイト膜(A)の密度は、より好ましくは1.9g/cm3以上であり、更に好ましくは2.0g/cm3以上である。グラファイト膜(A)の密度の好ましい上限は、グラファイト単結晶の理論値である2.26g/cm3以下であり、2.20g/cm3以下であってもよい。
グラファイト膜(A)の厚みは0.1μm以上、且つ、50μm以下であることが好ましい。グラファイト膜の厚みは、強度を確保する観点から0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm以上であると、電着法によりターゲットを製造した場合のグラファイト膜(A)の取扱性も良好である。グラファイト膜(A)の厚みは、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1μm以上、特に好ましくは2μm以上である。グラファイト膜が厚すぎると、ビーム照射により受け取る熱量が増えるためにターゲットが高温になる恐れがある。また、グラファイト膜が厚すぎると、ビームがグラファイト膜を通過できなくなり、グラファイト膜の内部でのイオン注入が起こるために、基板が破壊されるおそれがある。従って、グラファイト膜(A)の厚みは50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。グラファイト膜(A)の厚みは、前記したグラファイト膜(A)の密度の好ましい範囲を実現する観点からも、0.1μm以上、且つ、50μm以下であることが好ましい。
グラファイト膜(A)の引張り強度は5MPa以上であることが好ましい。グラファイト膜(A)に放射性物質製造用原料層(B)や金属層(C)を作製する際、特製の冶具に固定する場合がある。その際、グラファイト膜(A)の引張り強度が5MPa以上であることは、作業中にグラファイト膜(A)が破損しない上で好ましい。グラファイト膜(A)の引張り強度は5MPa以上がより好ましく、更に好ましくは10MPa以上、特に好ましくは15MPa以上である。グラファイト膜(A)の引張り強度の上限は限定されないが、通常50MPa以下である。
グラファイト膜(A)は、レーザーラマン分光法により炭素質であるかグラファイト質であるかを評価できる。レーザーラマン分光測定では、1575~1600cm-1にグラファイト構造に基づくバンド(RG)が現れ、1330~1360cm-1にアモルファスカーボン構造に基づくバンド(RC)が現れる。本発明におけるグラファイト膜(A)とは、前記したRGが他のバンドに比べて最も高いものを意味するが、好ましくは前記2つのバンドの相対強度比RG/RC(以下、ラマン強度比Rと呼ぶ)が4以上であり、より好ましくは30以上、さらに好ましくは50以上である。
放射性物質とは、放射線を出す物質の全てを指し、好ましくはα線、β線、又はγ線を放出する物質であり、例えばβ線を放出する99Moなどが挙げられる。そして、放射性物質製造用原料とは、プロトンビーム又は中性子ビームが照射されることによって前記放射性物質が製造される物質であり、放射性物質が前記した99Moである場合には、該原料はモリブデン100(100Mo)であることが好ましい。
本発明のターゲットは、前記したグラファイト膜(A)と放射性物質製造用原料層(B)との積層体であるが、グラファイト膜(A)と放射性物質製造用原料層(B)は、金属層(C)を介して積層されることも好ましい。ターゲットに高エネルギーのビームが照射され、一時的に高温になると、グラファイト膜(A)と放射性物質製造用原料層(B)とが反応するおそれがある。そこで、グラファイト膜(A)及び放射性物質製造用原料層(B)との間に、金属層(C)を形成することが好ましい。金属層(C)の材質は、アルミニウム、チタン、ニッケル、鉄、銅、タンタル、タングステン、金、銀、白金、及びルテニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは金、ニッケル、チタン又はタンタルである。
グラファイト膜(A)の原料として好ましく用いられる高分子原料は、芳香族高分子であり(特に耐熱性芳香族高分子)、該芳香族高分子としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリキノキサリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリオキサジアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリキナゾリンジオン、ポリベンゾオキサジノン、ポリキナゾロン、ベンズイミダゾベンゾフェナントロリンラダーポリマー、およびこれらの誘導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの高分子原料からなるフィルムは公知の製造方法で製造すればよい。特に好ましい高分子原料として芳香族ポリイミド、ポリパラフェニレンビニレン、ポリパラフェニレンオキサジアゾールを例示することができる。特に、芳香族ポリイミドが好ましく、中でも以下に記載する酸二無水物(特に芳香族酸二無水物)とジアミン(特に芳香族ジアミン)からポリアミド酸を経て作製される芳香族ポリイミドは前記グラファイト膜(A)の高分子原料として特に好ましい。
前記高分子原料フィルムは、前記高分子原料又はその合成原料から公知の種々の手法によって製造できる。例えば、前記ポリイミドの製造方法としては、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤や、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用い、イミド転化するケミカルキュア法があり、そのいずれを用いてもよい。得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折率が大きくなりやすく、フィルムの焼成中に張力をかけたとしても破損することなく、また、品質の良いグラファイトを得ることができるという点からケミカルキュア法が好ましい。またケミカルキュア法は、グラファイトの熱伝導度の向上の面でも優れている。
次に、ポリイミドに代表される高分子原料フィルムの炭素化(一次熱処理)・二次熱処理の手法について述べる。本発明では出発物質である高分子原料フィルムを不活性ガス中、あるいは真空中で一次熱処理し、炭素化を行う。不活性ガスは、窒素、アルゴンあるいはアルゴンと窒素の混合ガスが好ましく用いられる。一次熱処理は500℃以上で行うことが好ましく、より好ましくは600℃以上、更に好ましくは700℃以上、特に1000℃以上で行うことが好ましい。一次熱処理は、例えば0.5~3時間程度行えばよい。一次熱処理までの昇温速度は特に限定されないが、例えば5℃/分以上、かつ15℃/分以下とできる。一次熱処理の段階では出発高分子フィルムの配向性が失われない様に、フィルムの破壊が起きない程度の膜面に垂直方向の圧力を加えるか、又はフィルム面と平行な方向に引張り張力を加えてもよい。
グラファイト膜で構成された支持基板を、以下の手順に従って高分子焼成法により作製した。まず、酸二無水物としてのピロメリット酸二無水物(PMDA)、ジアミンとしての4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)をモル比で1/1.1(PDMA/ODA)の割合で含む混合物を原料として合成したポリアミド酸の18質量%のDMF(N,N-dimethylformamide)溶液100gに無水酢酸20gとイソキノリン10gからなる硬化剤を混合、攪拌し、遠心分離による脱泡の後、アルミ箔上に流延塗布した。攪拌から脱泡までは0℃に冷却しながら行った。このアルミ箔とポリアミド酸溶液の積層体を120℃で150秒間、300℃、400℃、500℃で各30秒間加熱した後、アルミ箔を除去し厚みの異なるポリイミドフィルムを作製した。ポリイミドフィルムの厚みは、キャストする速度などによって0.4~75μmの範囲に調整した。
最高温度を2200℃にした以外は製造例1~13と同様にし、厚み2.9μmのグラファイト膜を作製した。作製したグラファイト膜の各種物性を表1に示す。
実施例1~12
ターゲットを支持する基板として、製造例1~12で得られた厚さ0.14~40μmのグラファイト膜を20mm×40mmの寸法に切り出し、切り出したグラファイト膜を電着実験専用のPTFEフレームに電着を実施する片面のみが露出するようにセットした。酢酸アンモニウム(20g、260mmol)とモリブデン酸アンモニウム(250mg、1.0mmol)を25mlの水に溶解させ溶液を得た。前記溶液を電着実験専用のガラス容器に入れた後、陽極としてのプラチナ電極(25×70mm)と、陰極としてのグラファイト膜(ワークスペース、10×30mm)を、両者の距離を4cmとして前記溶液内に平行に取り付けた。これらの電極をポテンショスタット(北斗電工(株)製、HA-3001A)に取り付け、電流密度0.2~0.3A/cm2で20~120分間反応させた。その後、陰極側(すなわちグラファイト膜)を取り除き、イオン交換水で洗浄した後、真空中100℃で乾燥させ、グラファイト膜上に厚さ3.2~21μmのモリブデン層が作製されたターゲットを作製した。作製したモリブデン層の厚みを表1に示す。
製造例13で得られた厚さ2.2μmのグラファイト膜を、小型真空蒸着装置(アルバック機工(株)製、VTR-350/ERH)に取り付けた。その後、真空蒸着法により、グラファイト膜上に、厚み50nmの金層(金属層(C)に相当)を形成した。金属層(C)を積層したグラファイト膜の金属層(C)側に、実施例1~12と同様にしてモリブデン層を形成した。モリブデン層の厚みは表1に示す通りである。
グラファイト膜の代わりに厚さ14μmの炭素膜(アリゾナカーボン社製、PCG、蒸着膜)を実施例1~12と同様の大きさに切断し、切り出した炭素膜を電着実験専用のフレームにセットした。そして、実施例1~12と同様に電着法によって炭素膜上にモリブデン層を形成しようとしたが、炭素膜を陰極としてセットする際に炭素膜が破損し、電着法によるモリブデン層の作製が出来なかった。比較例1で用いた炭素膜の物性は表1に示す通りである。
実施例1~12のグラファイト膜に代えて、厚さ130μmのグラファイト膜(Alfa Aesar製、Graphite foil、密度1.1g/cm3)を用いて、実施例1~12と同様にして、電着実験専用のフレームにセットした。そして、実施例1~12と同様にして電着法による100Mo膜を形成しようとしたが、製膜中にグラファイト膜の剥離が発生し、100Moとグラファイトが積層したターゲットを得ることは出来なかった。
製造例14で作製したグラファイト膜を使用した以外は実施例1~12と同様にして、グラファイト膜上にモリブデン層を作製した。作製したモリブデン層の厚みを表1に示す。
実施例1~13、比較例3で得られたグラファイト(又は炭素膜)とモリブデンの積層体を図2に記載した耐熱性試験装置にセットした。図2に示す耐熱性試験装置では、ステンレス製の真空容器24の内部に2つの黒鉛電極22が収容され、黒鉛電極22の間にサンプル(前記積層体)21がセットされる。真空ポンプ25によって真空容器24内を1Pa程度にした後、直流電源23により直流電流を印加し、サンプル中央部26を放射温度計27(チノー株式会社製、IR-CAI)でモニターしながら800℃まで加熱した。加熱したサンプルを800℃で1時間保持し、電流を遮断して室温まで冷却した。冷却後サンプルを取り出し、サンプルの破損などがないかを確認した。結果を表1に示す。
Claims (10)
- 25℃におけるグラファイト層のa-b面に平行な方向の熱伝導率が500W/mK以上であるグラファイト膜(A)と、放射性物質製造用原料層(B)との積層体であって、
前記グラファイト膜(A)と前記放射性物質製造用原料層(B)が、金属層(C)を介して積層されており、
前記金属層(C)がアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、タンタル、タングステン、金、銀、白金、及びルテニウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプロトンビームまたは中性子ビーム照射用ターゲット。 - 前記グラファイト膜(A)の密度が1.8g/cm3以上、且つ、2.26g/cm3以下である請求項1に記載のターゲット。
- 前記グラファイト膜(A)の引張り強度が5MPa以上である請求項1又は2に記載のターゲット。
- 前記グラファイト膜(A)をレーザーラマン分光法で測定して得られる、1575~1600cm-1に現れるラマンバンドの強度RGと1330~1360cm-1に現れるラマンバンドの強度RCとの比RG/RCが、4以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のターゲット。
- 前記グラファイト膜(A)の厚みが0.1μm以上、且つ、50μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のターゲット。
- 前記放射性物質製造用原料が、金属及び/又は金属酸化物である請求項1~5のいずれか1項に記載のターゲット。
- 前記放射性物質製造用原料が、金属モリブデン100及び/又は金属モリブデン100の酸化物である請求項1~6のいずれか1項に記載のターゲット。
- 前記放射性物質製造用原料が、更に金属モリブデン同位体及び/又はモリブデン同位体の酸化物を含む請求項7に記載のターゲット。
- 前記金属層(C)の厚みが、1μm以下である請求項1~8のいずれか1項に記載のターゲット。
- 請求項1~9のいずれか1項に記載のターゲットに、プロトンビーム又は中性子ビームを照射することを特徴とする放射性物質の発生方法。
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