以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本明細書中、同一又は類似の部材について、同一の符号を付す場合がある。
本明細書中、気相成長装置が、膜の形成が可能となるように設置された状態での重力方向を「下」と定義し、その逆方向を「上」と定義する。したがって、「下部」とは、基準に対し重力方向の位置、「下方」とは基準に対し重力方向を意味する。そして、「上部」とは、基準に対し重力方向と逆方向の位置、「上方」とは基準に対し重力方向と逆方向を意味する。また、「縦方向」とは重力方向である。
また、本明細書中、「プロセスガス」とは、基板上への膜の形成のために用いられるガスの総称であり、例えば、ソースガス、キャリアガス、希釈ガス等を含む概念とする。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の気相成長装置は、反応室と、反応室の中に設けられ、基板を保持するホルダと、ホルダを回転させる回転駆動機構と、ルイス酸を含む第1のガスとルイス塩基を含む第2のガスを混合し混合ガスを生成するガス混合機構と、ガス混合機構と反応室との間に設けられ、混合ガスを反応室の中に噴出する複数のガス噴出孔を有し、ガス噴出孔の間の反応室の側の表面の算術平均粗さが0.05μm以上50μm以下であるシャワープレートと、を備える。
図1は、第1の実施形態の気相成長装置の模式断面図である。第1の実施形態の気相成長装置は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いる枚葉型のエピタキシャル成長装置である。
第1の実施形態の気相成長装置は、反応室100、シャワープレート200、混合ガス室300、第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、第3のガス供給路13を備えている。反応室100は、ホルダ15、回転体ユニット16、壁面17、回転軸18、回転駆動機構19、インヒータ24、アウトヒータ26、リフレクタ28、支持柱34、固定台36、固定軸38、ガス排出口40を有する。シャワープレート200は、複数のガス噴出孔22を有する。混合ガス室300は、ガス供給口20、壁面27を有する。第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、第3のガス供給路13は合流部50を有する。混合ガス室300及び合流部50は、ガス混合機構(gas mixer)の一例である。
第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、及び第3のガス供給路13は、ガス供給口20に接続され、混合ガス室300にプロセスガスを供給する。
第1のガス供給路11は、ルイス酸を含む第1のプロセスガス(第1のガス)を供給する。第1のガス供給路11は、例えば、混合ガス室300にIII族元素の有機金属とキャリアガスを含む第1のプロセスガスを供給する。
第1のガス供給路11は複数本設けても構わない。例えば、異なる第1のプロセスガスを複数本の第1のガス供給路11で供給することも可能である。第1のプロセスガスは、例えば、ウェハ上にIII-V族半導体の膜を形成するための、III族元素を含むガスである。
III族元素は、例えば、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)である。また、有機金属は、例えば、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)である。
第2のガス供給路12は、ルイス塩基を含む第2のプロセスガス(第2のガス)を供給する。第2のガス供給路12は、例えば、混合ガス室300に窒素(N)のソースとなる窒素化合物を含む第2のプロセスガスを供給する。
窒素化合物は、例えば、アンモニア(NH3)である。第2のプロセスガスは、例えば、ウェハ上にIII-V族半導体の膜を形成するための、V族元素のソースガスである。V族元素は窒素(N)である。
なお、窒素化合物は、活性な窒素化合物であればよく、アンモニアに限らず、ヒドラジン、アルキルヒドラジン、アルキルアミンなどの他の窒素化合物を用いてもよい。
第3のガス供給路13は、第3のプロセスガスを混合ガス室300へ供給する。第3のプロセスガスは、例えば、第1のプロセスガス、及び、第2のプロセスガスを希釈する希釈ガスである。希釈ガスで、第1のプロセスガス、及び第2のプロセスガスを希釈することにより、混合ガス室300から反応室100に供給されるIII族元素及びV族元素の濃度を調整する。希釈ガスは、例えば、水素ガス、窒素ガス、又は、アルゴンガス等の不活性ガス又はこれらの混合ガスである。
第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、及び、第3のガス供給路13は、ガス供給口20の上流に設けられた合流部50で合流する。したがって、第1のプロセスガス、第2のプロセスガス、及び、第3のプロセスガスは、ガス供給口20の前で混合されて混合ガスとなる。第1のプロセスガス、第2のプロセスガス、及び、第3のプロセスガスの混合ガスが、ガス供給口20から混合ガス室300の中に供給される。
混合ガス室300は、壁面27を備える。壁面27は、例えば、ステンレス製である。
なお、プロセスガスの混合は、必ずしも混合ガス室300より上流側の配管内で完全に行なわれる必要はなく、プロセスガスの混合が更に混合ガス室300の中で進行しても構わない。
混合ガス室300及び合流部50は、ガス混合機構の一例である。ガス混合機構により第1のプロセスガス、及び、第2のプロセスガスが混合され、混合ガスが生成される。
図2は、第1の実施形態のシャワープレートの模式上面図である。図3は、第1の実施形態のシャワープレートの一部の拡大模式断面図である。図3(a)は図2のAA’断面、図3(b)は図2のBB’断面である。
シャワープレート200は、混合ガス室300と反応室100との間に設けられる。シャワープレート200は、反応室100の上部に設けられる。シャワープレート200は、ガス噴出孔22を有する。複数のガス噴出孔22は、例えば、所定のピッチで繰り返し配置される。ガス噴出孔22は、混合ガス室300に接続される。ガス噴出孔22は、混合ガスを混合ガス室300から反応室100の中に噴出する機能を有する。
シャワープレート200は、例えば、金属である。シャワープレート200は、例えば、アルミニウムである。シャワープレート200の反応室100の側の表面には、例えば、金属めっき層が形成される。金属めっき層は、例えば、無電解めっきで形成されたニッケル層である。
図3は、第1の実施形態のシャワープレートの一部の拡大模式断面図である。図3(a)は図2のAA’断面、図3(b)は図2のBB’断面に相当する断面である。
図3(a)、図3(b)に示すように、シャワープレート200は、AA’断面及びBB’断面共に同様の形状を備える。シャワープレート200の隣接するガス噴出孔の反応室100の側の端部の位置は同一平面内に存在する。
隣接するガス噴出孔22の中心間の距離(図3(a)、図3(b)中のL)は、例えば10mm以下である。ガス噴出孔22の孔径(図3(a)、図3(b)中のD)は、例えば、0.05mm以上3mm以下である。
図4は、シャワープレート200の表面Sの一部の拡大模式断面図である。図4は、例えば、図3(a)の点線の円で囲まれたガス噴出孔22の間の部分の拡大図である。シャワープレート200の反応室の側の表面Sは、凹凸を有する。
シャワープレート200の反応室の側の表面Sの算術平均粗さ(Ra)は0.05μm以上50μm以下である。シャワープレート200のガス噴出孔22の間の表面Sの算術平均粗さ(Ra)が0.05μm以上50μm以下である。なお、算術平均粗さ(Ra)を求める際の基準長さは、例えば、1mmである。
反応室100は、例えば、ステンレス製で円筒状の壁面17を備える。
ホルダ15は、反応室100の内部に設けられる。ホルダ15には、基板の一例であるウェハWが載置可能である。ホルダ15は、例えば、環状である。ホルダ15には、中心部に開口部が設けられる。このような環状のホルダ15は、例えばSi基板のような不透明基板を用いたとき用いることができ、高い面内均一性を得ることができる。なお、ホルダ15の形状は、中央部に空洞を有しない略平板型であってもよい。
ホルダ15には、例えば、1枚のウェハWが載置される。ホルダ15に、複数枚のウェハWを載置する構成とすることも可能である。
ホルダ15は、例えば、炭化珪素(SiC)、炭化タンタル(TaC)、窒化ホウ素(BN)、パイロリティックグラファイト(PG)などのセラミックス、又は、カーボンを基材として形成される。ホルダ15には、例えば、SiC、BN、TaC、又はPGなどをコーティングしたカーボンを用いることができる。
ホルダ15は、回転体ユニット16の上部に固定される。回転体ユニット16は、回転軸18に固定される。ホルダ15は、間接的に回転軸18に固定される。
ホルダ15に載置されるウェハWとシャワープレート200との間の距離は、例えば、5cm以上10cm以下である。
回転軸18は、回転駆動機構19によって回転可能である。回転軸を回転させることによりホルダ15を回転させることが可能である。ホルダ15を回転させることにより、ホルダ15に載置されたウェハWを高速で回転させることが可能である。このとき、一枚のウェハWを自転させることができる。自転とは、ウェハWがウェハWの略中心を通る法線を回転軸として回転することを意味する。なお、回転対称に配置された複数のウェハWを公転させてもよい。
例えば、ウェハWを300rpm以上3000rpm以下の回転数で自転させる。回転駆動機構19は、例えば、モータとベアリングで構成される。
インヒータ24とアウトヒータ26は、ホルダ15の下方に設けられる。インヒータ24とアウトヒータ26は、回転体ユニット16内に設けられる。アウトヒータ26は、インヒータ24とホルダ15との間に設けられる。
インヒータ24とアウトヒータ26は、ホルダ15に保持されたウェハWを加熱する。インヒータ24は、ウェハWの少なくとも中心部を加熱する。アウトヒータ26は、ホルダ15及びウェハWの外周領域を加熱する。インヒータ24は、例えば、円板状である。アウトヒータ26は、例えば、環状である。
リフレクタ28は、インヒータ24とアウトヒータ26の下方に設けられる。リフレクタ28とホルダ15との間に、インヒータ24とアウトヒータ26が設けられる。
リフレクタ28は、インヒータ24とアウトヒータ26から下方に放射される熱を反射し、ウェハWの加熱効率を向上させる。また、リフレクタ28は、リフレクタ28より下方の部材が加熱されるのを防止する。リフレクタ28は、例えば、円板状である。
リフレクタ28は、耐熱性の高い材料で形成される。リフレクタ28は、例えば、1100℃以上の温度に対する耐熱性を有する。
リフレクタ28は、例えば、SiC、TaC、カーボン、BN、PGなどのセラミックス、又はタングステンなどの金属を基材として形成される。リフレクタ28にセラミックスを用いる場合、焼結体や気相成長により作製した基材を用いることができる。リフレクタ28として、カーボンの基材などに、SiC、TaC、BN、PG、ガラス状カーボンなどのセラミックスをコートしたものを用いてもよい。
リフレクタ28は、例えば、複数の支持柱34によって、固定台36に固定される。固定台36は、例えば、固定軸38によって支持される。
回転体ユニット16内には、ウェハWをホルダ15から脱着させるために、突き上げピン(図示せず)が設けられる。突き上げピンは、例えば、リフレクタ28、及び、インヒータ24を貫通する。
ガス排出口40は、反応室100の底部に設けられる。ガス排出口40は、ウェハW表面でプロセスガスが反応した後の余剰の反応生成物、及び、余剰のプロセスガスを反応室100の外部に排出する。
また、反応室100の壁面17には、図示しないウェハ出入口及びゲートバルブが設けられている。ウェハ出入口及びゲートバルブにより、ウェハWを反応室100内に搬入したり、反応室100外に搬出したりすることが可能である。
次に、第1の実施形態の気相成長装置を用いた気相成長方法について説明する。
以下、窒化ガリウム膜(GaN膜)の上に窒化インジウムアルミニウム膜(InAlN膜)を連続して形成する場合を例に説明する。例えば、GaN膜はHEMTのチャネル層、InAlN膜はHEMTのバリア層として用いられる。なお、HEMTのバリア層の材料のバンドギャップは、チャネル層の材料のバンドギャップよりも大きい。
最初に、ウェハWを、反応室100内に搬入する。ウェハWは、例えば、表面が{111}面であるシリコン基板である。シリコン基板の厚さは、例えば、700μm以上1.2mm以下である。なお、{111}面は、(111)面と結晶学的に等価な面を示す。
次に、ウェハWを、ホルダ15に載置する。次に、ウェハWを回転駆動機構19により自転させながら、ホルダ15の下方に設けられたインヒータ24及びアウトヒータ26により加熱する。
次に、ウェハWの上にTMA、TMG及びアンモニアを用いて、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)のバッファ層を形成する。
次に、ウェハWの上にGaN膜を形成する(S110)。GaN膜は、単結晶である。GaN膜の厚さは、例えば、100nm以上10μm以下である。
GaN膜を形成する際、ウェハWを所定の回転数で回転させる。回転数は、例えば、500rpm以上1500rpm以下である。また、ウェハWの温度は、例えば、500℃以上1200℃以下、好ましくは800℃以上1200℃以下、最も好ましくは1000℃以上1100℃以下である。
GaN膜を形成する際、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMGが供給される。また、第2のガス供給路12から、例えば、アンモニアが供給される。また、第3のガス供給路13から、希釈ガスとして、例えば、窒素ガスが供給される。
窒素ガスをキャリアガスとするTMG、アンモニア、窒素ガスは、合流部50及び混合ガス室300で混合されて混合ガスが生成される。混合ガスは、混合ガス室300からシャワープレート200を通って、反応室100の中に供給される。
混合ガスは反応室100の中でウェハWの表面に略垂直な方向の層流となって、ウェハWの表面に供給される。ウェハWの表面に供給された混合ガスは、回転するウェハWの表面に沿ってウェハWの外周に向かって流れる。混合ガスの化学反応により、GaN膜がウェハWの上に形成される。
次に、ウェハWを反応室100から搬出することなく、ウェハWの上にInAlN膜を形成する。InAlN膜は、単結晶である。InAlN膜の膜厚は、例えば、5nm以上30nm以下である。InAlN膜の膜厚は、例えば、GaN膜の膜厚よりも薄い。
InAlN膜のIn組成は、例えば、約17原子%である。In組成は、InAlN膜の中のIII族元素に占めるインジウムの割合を示す。
InAlN膜を形成する際、ウェハWを所定の回転数で回転させる。回転数は、例えば、1600rpm以上1800rpm以下である。ウェハWの温度は、例えば、700℃以上900℃以下である。
InAlN膜を形成する際、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMIが供給される。また、第1のガス供給路11から、例えば、窒素ガスをキャリアガスとするTMAが供給される。また、第2のガス供給路12から、例えば、アンモニアが供給される。また、第3のガス供給路13から、希釈ガスとして、例えば、窒素ガスを供給する。
窒素ガスをキャリアガスとするTMI、窒素ガスをキャリアガスとするTMA、アンモニア、窒素ガスは混合されて混合ガスが生成される。混合ガスは、混合ガス室300からシャワープレート200を通って、反応室100の中に供給される。
混合ガスは反応室100の中でウェハWの表面に略垂直な方向の層流となって、ウェハWの表面に供給される。ウェハWの表面に供給された混合ガスは、回転するウェハWの表面に沿ってウェハWの外周に向かって流れる。混合ガスの化学反応により、InAlN膜がウェハWの上に形成される。
次に、ウェハWを、反応室100から外に搬出する。以上の気相成長方法により、シリコン基板の上に、GaN膜とInAlN膜が連続的に形成される。GaN膜とInAlN膜は、エピタキシャル膜である。
次に、第1の実施形態の気相成長装置の作用及び効果について説明する。
気相成長により、ウェハW上に膜を成長させる場合、膜中への意図しない物質の取り込みにより、膜の品質が低下するおそれがある。例えば、膜の化学組成が所望の組成からシフトしたり、膜の中に欠陥が生じたりする。意図しない物質の取り込みは、先行する膜の成長時に気相成長装置内に付着した、上記物質を含む反応生成物に起因する場合がある。
例えば、InAlN膜の気相成長では、InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みが問題となる。
GaN系半導体を用いたHEMTは、高い耐圧と低いオン抵抗を実現する。HEMTは、積層されたチャネル層とバリア層との間のヘテロ界面に誘起される2DEGを電流経路として用いる。
例えば、チャネル層にはGaN膜、バリア層にはAlGaN膜が用いられる。バリア層にAlGaN膜に代えて、InAlN膜を適用することが検討されている。
InAlN膜は大きな自発分極を備えるため、InAlN膜とGaN膜の界面の2DEG濃度を高くすることができる。したがって、低いオン抵抗のHEMTが実現できる。また、InAlN膜中のIn組成(In/(In+Al))を約17原子%にすることで、GaN膜との格子整合が実現できる。したがって、格子不整合に起因する歪がなくなり、HEMTの信頼性が向上する。
また、InAlN膜とGaN膜との積層構造は面発光レーザ等に用いられる誘電体ミラーへの応用も期待される。上記の誘電体ミラーへの応用については、GaN膜とInAlN膜の界面が明確であること、つまり、上記2つの膜の化合物組成が急峻に変化することが求められる。
しかし、意図せずInAlN膜中へガリウムが取り込まれると、例えば、InAlN膜とGaN膜の界面の2DEG密度の低下や、電子の移動度の低下が生ずるおそれがある。また、化合物組成の急峻な変化が得られないため、良好な誘電体ミラーを形成することが困難である。
上記のInAlN膜に意図しないGaの取り込みが生じる原因とは、以下のように考えられる。InAlN膜の成長前に行うGaを含む膜の成長時に、気相成長装置の上流部分にGaを含む反応生成物が付着する。そして、InAlN膜の成長時にGaを含む反応生成物からGaが成長雰囲気に放出される。このGaがInAlN膜に取り込まれる。
特に、InAlN膜をGaN膜の上に連続して形成する場合、GaN膜を形成する際に、シャワープレート200の表面や、反応室100の壁面17に付着したガリウムを含む反応生成物が、InAlN膜中へ取り込まれると考えられる。InAlN膜中への意図しないガリウムの取り込みを抑制する方法として、例えば、InAlN膜を形成する前に、反応室100を洗浄することが考えられる。しかし、InAlN膜を形成する度に、反応室を洗浄することで気相成長装置の稼働率が大幅に低下する。
第1の実施形態の気相成長装置では、III族元素を含む第1のプロセスガスとV族元素を含む第2のプロセスガスを、反応室100に供給する前に混合して混合ガスを生成することが可能である。
第1のプロセスガスと第2のプロセスガスを混合し、混合ガス室300からシャワープレート200を通って反応室100に供給することで、各ガス噴出孔から放出された後のガス流量とガス密度が均一に保たれる。このため、反応室100の中での乱流の発生が抑制される。
そして、第1の実施形態の気相成長装置では、ウェハWを高速で回転させることが可能となる。ウェハWが1枚の場合は、高速で自転させることが可能となる。高速で回転するウェハによる混合ガスの引き込み効果により、反応室100の中での乱流の発生が抑制される。
乱流の発生が抑制されることで、シャワープレート200の表面に反応生成物が付着しにくくなると考えられる。また、反応室100の壁面17へ反応生成物が付着しにくくなると考えられる。また、乱流の発生が抑制されることで、シャワープレート200の表面や反応室100の壁面17に付着した反応生成物が、雰囲気中に脱離することも抑制されると考えられる。
また、ウェハWを高速で回転させることにより混合ガスの反応及び分解を、ウェハWの表面近傍に限定させることができる。このため、シャワープレート200の表面や反応室100の壁面17等への反応生成物の付着が抑制されると考えられる。
さらに、第1の実施形態の気相成長装置では、シャワープレート200の反応室の側の表面Sの算術平均粗さ(Ra)が0.05μm以上50μm以下である。算術平均粗さ(Ra)が0.05μm未満になると、シャワープレート200の表面の温度が低下するおそれがある。これは、表面の赤外線に対する反射率が上がり、シャワープレート200が吸収する熱量が低下するためである。シャワープレート200の表面Sの温度が低下すると、混合ガスの飽和蒸気圧が低下し、反応生成物が付着しやすくなる。
シャワープレート200の反応室の側の表面Sの算術平均粗さ(Ra)を0.05μm以上とすることで、表面Sの赤外線に対する反射率を低くする。したがって、シャワープレート200の表面Sの温度の低下が抑制され、シャワープレート200の表面Sへの反応生成物の付着が抑制される。また、算術平均粗さ(Ra)が50μmを上回ると、凹凸のアンカー効果により反応生成物が付着しやすくなるおそれがある。算術平均粗さ(Ra)は、より好ましくは、0.1μm以上10μm以下である。
図5は、第1の実施形態の効果の説明図である。図5は、InAlN膜を連続成膜した場合の、InAlN膜中のGa濃度を示す図である。シャワープレート200の表面Sの算術平均粗さ(Ra)を変化させて、GaN膜:2.0μm/InAlN膜30nmを、反応室100のクリーニングなしで連続成膜したときのInAlN膜中のGa濃度を示す。隣接するガス噴出孔22の中心間の距離Lは5mm、ガス噴出孔22の孔径Dは0.5mmである。
図5に示すように、Raが0.01μmの場合は連続成膜が2回からGaの含有量は検出下限を超えて増大する。Raが0.05μmの場合は、連続成膜が20回まではGaの含有量は検出下限以下である。Raが0.1μm、1μm、10μmの場合は、連続成膜を200回行ってもGaの含有量は検出下限以下である。
Raが25μmの場合は、連続成膜が50回まではGaの含有量は検出下限以下である。Raが50μmの場合は、連続成膜が20回まではGaの含有量は検出下限以下である。Raが100μmの場合は、連続成膜が10回からGaの含有量は下限を超えて増大する。
表面Sの算術平均粗さ(Ra)は、例えば、シャワープレート200の表面を覆う金属めっき層の形成条件を制御することで、所望の値に調整することが可能である。
また、ガス噴出孔22の孔径Dは0.05mm以上3mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2mm以下であることがより好ましい。上記範囲を下回ると、反応室100内に十分なプロセスガスを供給することができないおそれがある。上記範囲を上回ると反応室100の中での乱流が生じやすくなる。
さらに、ホルダ15に載置されるウェハWとシャワープレート200との間の距離は、例えば、5cm以上10cm以下であることが好ましい。上記範囲を下回ると、ウェハW表面からシャワープレート200の表面に向けて戻るプロセスガスが多くなり、シャワープレート200の表面に付着する反応生成物が多くなるおそれがある。また、上記範囲を上回ると、ウェハWの外側に流れるプロセスガスが多くなり、膜の形成に寄与しない無駄なプロセスガスが増加するおそれがある。
以上、第1の実施形態の気相成長装置によれば、シャワープレート200や反応室100への反応生成物の付着が抑制され、品質の高い膜を形成することが可能となる。例えば、意図しないガリウムの取り込みが抑制されたInAlN膜を形成することが可能となる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態の気相成長装置は、隣接するガス噴出孔の間のシャワープレートの表面の最大高低差が、隣接するガス噴出孔の中心間の距離以下である点以外は、第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
反応室100の側の隣接するガス噴出孔22間の表面の最大高低差(図6(a)中のd)が、隣接するガス噴出孔22の中心間の距離(図6(a)中のL)以下である。なお、ガス噴出孔22の反応室100の側の端部の位置は、ガス噴出孔22の孔径が反応室100から混合ガス室300に向かって最も小さくなる位置と定義する。すなわち、ガス噴出孔22間の表面は、ガス噴出孔22の端部の周縁であるテーパ部分を含む。
また、以後、ガス噴出孔22の孔径は、ガス噴出孔22の反応室100の側の端部の位置の孔径(図6(a)、図6(b)中のD)で代表させる。なお、テーパ部分は、すべてのガス噴出孔22に形成されていてもよい。
隣接するガス噴出孔22の中心間の距離Lは、例えば10mm以下である。ガス噴出孔22の孔径Dは、例えば、0.05mm以上3mm以下である。
シャワープレート201の表面のアスペクト比を、ガス噴出孔22の中心間の距離Lに対するシャワープレート表面の最大高低差dとする。シャワープレート201の表面のアスペクト比が大きくなると、シャワープレート201の表面の温度ムラが大きくなる。
これは、高温のウェハWに由来する輻射熱に対して、影となる部分がシャワープレート201の表面に生ずるからである。輻射熱に対して、影となる部分がシャワープレート201の表面に生ずると、シャワープレート201の表面に低温部分が生じる。シャワープレート201の表面に低温部分が生じると、その低温部分の近傍で混合ガスの飽和蒸気圧が低下し、反応生成物が付着しやすくなると考えられる。
第2の実施形態の気相成長装置では、シャワープレート201の反応室100の側の表面のアスペクト比を小さくする。このため、シャワープレート201の表面への反応生成物の付着が抑制される。
第2の実施形態の気相成長装置では、例えば、InAlN膜をGaN膜の上に連続して形成する場合、GaN膜の形成中にシャワープレート201の表面や反応室100の壁面17へのガリウムを含む反応生成物の付着が抑制されると考えられる。また、InAlN膜の成膜中に、ガリウムを含む反応生成物が雰囲気中に脱離することが抑制されると考えられる。
図7は、第2の実施形態の効果の説明図である。図7は、InAlN膜を連続成膜した場合の、InAlN膜中のGa濃度を示す図である。シャワープレート201の表面Sの最大高低差dを変化させて、GaN膜:2.0μm/InAlN膜30nmを、反応室100のクリーニングなしで連続成膜したときのInAlN膜中のGa濃度を示す。隣接するガス噴出孔22の中心間の距離Lは5mm、ガス噴出孔22の孔径Dは0.5mmである。
図7に示すように、d=1L以下、すなわち、ガス噴出孔22間の最大高低差dが、隣接するガス噴出孔22の中心間の距離L以下の場合、連続成膜を200回行ってもGaの含有量は検出下限以下である。
第2の実施形態の気相成長装置では、隣接するガス噴出孔22の中心間の距離Lは均質な特性の膜を形成する観点から10mm以下が好ましい。Lは1mm以上8mm以下であることが好ましく、3mm以上6mm以下であることがより好ましい。上記範囲を下回ると、反応室100の中での乱流が生じやすくなる。上記範囲を上回ると膜の特性の均質性が低下する。
以上、第2の実施形態の気相成長装置によれば、第1の実施形態同様、シャワープレート201や反応室100への反応生成物の付着が抑制され、品質の高い膜を形成することが可能となる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態の気相成長装置は、隣接するガス噴出孔の間のシャワープレートの表面の最大高低差がガス噴出孔の孔径よりも小さい点以外は、第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態及び第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
図8は、第3の実施形態のシャワープレートの一部の拡大模式断面図である。図8(a)は図2のAA’断面、図8(b)は図2のBB’断面に相当する断面である。
図8(a)、図8(b)に示すように、シャワープレート202は、AA’断面及びBB’断面共に同様の形状を備える。シャワープレート202のガス噴出孔22は、反応室100側の端部に面取りがされている。面取りにより、隣接するガス噴出孔22の間の表面Sに最大高低差(図8(a)、図8(b)中のd)が生じている。
隣接するガス噴出孔22の間のシャワープレート202の表面Sの最大高低差dは、ガス噴出孔22の孔径(図8(a)、図8(b)中のD)よりも小さい。このため、シャワープレート202の反応室100の側の表面Sのアスペクト比は小さい。したがって、シャワープレート202の表面への反応生成物の付着が抑制される。
以上、第3の実施形態の気相成長装置によれば、第1の実施形態同様、シャワープレート202や反応室100への反応生成物の付着が抑制され、品質の高い膜を形成することが可能となる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態の気相成長装置は、合流部を有しない点以外は、第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
図9は、第4の実施形態の気相成長装置の模式断面図である。第4の実施形態の気相成長装置は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いる枚葉型のエピタキシャル成長装置である。
第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、及び第3のガス供給路13は、混合ガス室300にプロセスガスを供給する。混合ガス室300は、第1のガス供給口20a、第2のガス供給口20b、第3のガス供給口20cを備える。
第1のガス供給路11は、第1のガス供給口20aに接続される。第2のガス供給路12は、第2のガス供給口20bに接続される。第3のガス供給路13は、第3のガス供給口20cに接続される。第1のガス供給路11、第2のガス供給路12、及び第3のガス供給路13は、混合ガス室300に至るまで、互いに分離されている。言い換えれば、第4の実施形態の気相成長装置は、第1の実施形態の気相成長装置が備える合流部50が設けられない。
混合ガス室300は、ガス混合機構の一例である。第1のプロセスガス、第2のプロセスガス、及び、第3のプロセスガスは、混合ガス室300内で混合され混合ガスが生成される。
以上、第4の実施形態の気相成長装置によれば、第1の実施形態同様、シャワープレート200や反応室100への反応生成物の付着が抑制され、品質の高い膜を形成することが可能となる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。上記、実施形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、各実施形態の構成要素を適宜組み合わせても構わない。
実施形態では、ガス噴出孔22が円形の場合を例に説明したが、ガス噴出孔22は楕円形、長方形等、その他の形状であっても構わない。
実施形態では、ヒータとして、インヒータ24とアウトヒータ26の2種を備える場合を例に説明したが、ヒータは1種のみであっても構わない。
実施形態では、気相成長装置について、本発明の説明に直接必要としない部分については記載を省略したが、必要とされる気相成長装置の装置構成等を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての気相成長装置は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物の範囲によって定義されるものである。