以下、添付図面を参照して、本願の開示する物標検出装置および物標検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。なお、以下では、物標検出装置がFM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式である場合を例に挙げて説明するが、物標検出装置は、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式といった他の方式であってもよい。
まず、図1A~図1Cを用いて、実施形態に係る物標検出方法の概要について説明する。図1A~図1Cは、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。図1Aでは、実施形態に係る物標検出装置1を搭載した自車両MCと、所定の移動ベクトルVで移動する他車両LCとを示している。移動ベクトルVとは、他車両LCの実際の移動向きおよびかかる移動向きへの対地速度を含むベクトルである。対地速度とは、自車両MCおよび他車両LCの相対速度から自車両MCの速度成分を除いた速度である。また、自車両MCは、所定の移動ベクトルMV(以下、自車ベクトルMV)で移動することとする。
図1Aに示すように、物標検出装置1は、例えば自車両MCのフロントグリル内等に搭載され、自車両MCの進行方向に存在する物標(例えば、他車両LC等)を検出する。なお、物標検出装置1の搭載箇所は、例えばフロントガラスやリアグリル、左右の側部(例えば、左右のドアミラー)等他の箇所に搭載されてもよい。
また、図1Aに示すように、物標検出装置1は、自車両MCの周囲に送信した電波が他車両LCで反射した複数の反射点それぞれについて、瞬時データ100を生成する。瞬時データ100には、例えば、自車両MCへの向きの相対速度(ベクトルRV)等が含まれる。
ここで、従来の物標検出装置について説明する。従来の物標検出装置では、1スキャンで検出される瞬時データは、自車両への向きの相対速度のみ(例えば、図1Aに示すベクトルRV)であり、上記した移動ベクトルを得ることができない。つまり、1スキャンでは、物標の実際の移動向きを得ることができず、物標の実際の移動向きを得るためには、初回検知から数スキャン分の瞬時データの変化から求めなければならない。従って、従来の物標検出装置では、数スキャン後に物標の実際の移動向きが分かるため、物標に対する応答性を上げられないという課題があった。
そこで、実施形態に係る物標検出方法では、1スキャンで物標の実際の移動向きを検出可能とした。具体的には、図1Bに示すように、実施形態に係る物標検出方法では、まず、生成した複数の瞬時データ100のベクトルRV(以下、相対ベクトルRV)における相対速度から自車両MCの速度成分を除いた自車両MCへの向きの対地速度を示すベクトルGV(以下、対地ベクトルGV)を算出する。具体的には、対地ベクトルGVは、移動ベクトルVが自車両MCと瞬時データ100とを通る直線に射影されたベクトルである。また、自車両MCの速度成分は、自車ベクトルMVを上記した直線に射影したベクトルであるが、かかる点については図8で後述する。
つづいて、図1Cに示すように、実施形態に係る物標検出方法では、複数の瞬時データ100における対地速度に基づき、複数の瞬時データ100それぞれに対応する自車両MCへの向きの対地ベクトルGVにおける起点を揃え、対地ベクトルGVの終点から伸ばした垂線VLの交点CPから物標である他車両LCの移動向きを推定する。
図1Cに示す例では、2つの瞬時データ100に対応する対地ベクトルGVの起点を揃えた2次元平面を示している。なお、図1Cにおいて、縦軸は、自車両MCに対して左右方向への対地速度(VY)を示し、横軸は、自車両MCに対して前後方向への対地速度(VX)を示す。
図1Cに示すように、実施形態に係る物標検出方法では、まず、起点が揃った2つの対地ベクトルGVの終点を通る垂線VLを引き、2つの垂線VLの交点CPを求める。そして、実施形態に係る物標検出方法では、交点CPが1つであった場合、対地ベクトルGVの起点を移動ベクトルVの起点とし、交点CPを移動ベクトルVの終点とする。すなわち、対地ベクトルGVの起点から交点CPへの向きが物標の実際の移動向きを示し、対地ベクトルGVの起点と交点CPとの間の距離が物標の移動向きへの対地速度を示す。
このように、実施形態に係る物標検出方法によれば、複数の瞬時データ100に基づいて1スキャンで物標の移動向きを検出できるため、数スキャン必要とした従来に比べて、物標に対する応答性を向上させることができる。
さらに、実施形態に係る物標検出方法では、瞬時データ100の対地速度に基づいて移動ベクトルVを推定することで、相対速度と比べて、自車両MCの変化(速度や位置等)を考慮する必要がないため、移動ベクトルVの推定精度をさらに高めることができる。
なお、実施形態に係る物標検出方法では、物標の移動向きのみが必要であれば、移動向きへの対地速度である対地ベクトルGVの起点と交点CPとの間の距離を必ずしも求める必要はない。つまり、実施形態に係る物標検出方法では、少なくとも物標の移動向きを推定する。
また、実施形態に係る物標検出方法では、交点CPが3つ以上の場合に、かかる交点CPにより形成される三角形の内心を求めることで、物標の移動向きを推定するが、かかる点については後述する。
次に、図2を参照して、実施形態に係る物標検出装置1の構成について詳細に説明する。図2は、実施形態に係る物標検出装置1の構成を示すブロック図である。なお、図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
換言すれば、図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
図2に示すように、物標検出装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備える。物標検出装置1は、自車両MCの挙動を制御する車両制御装置2に接続される。
かかる車両制御装置2は、物標検出装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、送信アンテナ13とを備える。信号生成部11は、後述する送受信制御部31の制御により、三角波で周波数変調されたミリ波を送信するための変調信号を生成する。発振器12は、かかる信号生成部11によって生成された変調信号に基づいて送信信号を生成し、送信アンテナ13へ出力する。なお、図2に示すように、発振器12によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
送信アンテナ13は、発振器12からの送信信号を送信波へ変換し、かかる送信波を自車両MCの外部へ出力する。送信アンテナ13が出力する送信波は、三角波で周波数変調された連続波である。送信アンテナ13から自車両MCの外部、たとえば前方へ送信された送信波は、他車両LC等の物標で反射されて反射波となる。
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21と、複数のミキサ22と、複数のA/D変換部23とを備える。ミキサ22およびA/D変換部23は、受信アンテナ21ごとに設けられる。
各受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波として受信し、かかる受信波を受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。なお、図2に示す受信アンテナ21の数は4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
受信アンテナ21から出力された受信信号は、図示略の増幅器(たとえば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、分配された送信信号と、受信アンテナ21から入力される受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成し、A/D変換部23へ出力する。
ビート信号は、送信信号の周波数(以下、「送信周波数」と記載する)と受信信号の周波数(以下、「受信周波数」と記載する)との差となるビート周波数を有する。ミキサ22で生成されたビート信号は、図示しない同期部によって受信アンテナ同士でタイミングを合わせた上でA/D変換部23でデジタル信号に変換された後に、処理部30へ出力される。
処理部30は、送受信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、生成部32aと、フィルタ処理部32bとを備える。
記憶部33は、履歴データ33aを記憶する。履歴データ33aは、信号処理部32が実行する一連の信号処理における物標データの履歴や、瞬時データ100の履歴を含む情報である。また、履歴データ33aには、瞬時データ100の自車両MCへの向きの対地速度や自車両MCへの向きに相当する角度等といった情報も含まれるが、かかる点については後述する。
処理部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、記憶部33に対応するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、レジスタ、その他の入出力ポートなどを含むマイクロコンピュータであり、物標検出装置1全体を制御する。
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送受信制御部31および信号処理部32として機能する。なお、送受信制御部31および信号処理部32は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することもできる。
送受信制御部31は、信号生成部11を含む送信部10、および、受信部20を制御する。信号処理部32は、一連の信号処理を周期的に実行する。つづいて信号処理部32の各構成要素について説明する。
生成部32aは、瞬時データ100を生成する。具体的には、生成部32aは、周波数解析処理と、ピーク抽出処理と、瞬時データ生成処理とを行うことで、瞬時データ100を生成する。
周波数解析処理では、各A/D変換部23から入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理(以下、「FFT処理」と記載する)を行う。かかるFFT処理の結果は、ビート信号の周波数スペクトルであり、ビート信号の周波数ごと(周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビンごと)のパワー値(信号レベル)である。
ピーク抽出処理では、周波数解析処理によるFFT処理の結果においてピークとなるピーク周波数を抽出する。なお、ピーク抽出処理では、後述するビート信号の「UP区間」および「DN区間」のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。
瞬時データ生成処理では、ピーク抽出処理において抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度とそのパワー値を算出する角度推定処理を実行する。なお、角度推定処理の実行時点で、到来角度は、物標が存在すると推定される角度であることから、以下では「推定角度」と記載する場合がある。
また、瞬時データ生成処理では、算出した推定角度とパワー値との算出結果に基づいて「UP区間」および「DN区間」それぞれのピーク周波数の正しい組み合わせを判定するペアリング処理を実行する。
また、瞬時データ生成処理では、判定した組み合わせ結果から各物標の自車両MCに対する距離および自車両MCへの向きの相対速度を算出する。また、瞬時データ処理では、算出した各物標の推定角度、距離および相対速度を、最新周期(最新スキャン)分の瞬時データ100としてフィルタ処理部32bへ出力するとともに、記憶部33の履歴データ33aとして記憶する。
説明を分かりやすくするために、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるここまでの処理の流れを図3~図4Cに示す。図3は、信号処理部32の前段処理から生成部32aにおけるピーク抽出処理までの処理説明図である。
また、図4Aは、角度推定処理の処理説明図である。また、図4Bおよび図4Cは、ペアリング処理の処理説明図(その1)および(その2)である。なお、図3は、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られている。以下では、かかる各領域を順に、上段、中段、下段と記載する。
図3の上段に示すように、送信信号fs(t)は、送信アンテナ13から送信波として送出された後、物標において反射されて反射波として到来し、受信アンテナ21において受信信号fr(t)として受信される。
このとき、図3の上段に示すように、受信信号fr(t)は、自車両MCと物標との距離に応じて、送信信号fs(t)に対して時間差Tだけ遅延している。この時間差Tと、自車両MCおよび物標の相対速度に基づくドップラー効果とにより、ビート信号は、周波数が上昇する「UP区間」の周波数fupと、周波数が下降する「DN区間」の周波数fdnとが繰り返される信号として得られる(図3の中段参照)。
図3の下段には、かかるビート信号を周波数解析処理においてFFT処理した結果を、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて模式的に示している。
図3の下段に示すように、FFT処理後には、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれの周波数領域における波形が得られる。ピーク抽出処理では、かかる波形においてピークとなるピーク周波数を抽出する。
たとえば、図3の下段に示した例の場合、ピーク抽出閾値が用いられ、「UP区間」側においては、ピークPu1~Pu3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fu1~fu3がそれぞれ抽出される。
また、「DN区間」側においては、同じくピーク抽出閾値により、ピークPd1~Pd3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fd1~fd3がそれぞれ抽出される。
ここで、ピーク抽出処理により抽出した各ピーク周波数の周波数成分には、複数の物標からの反射波が混成している場合がある。そこで、瞬時データ生成処理では、各ピーク周波数のそれぞれについて方位演算する角度推定処理を行い、ピーク周波数ごとに対応する物標の存在を解析する。
なお、瞬時データ生成処理における方位演算は、たとえばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの公知の到来方向推定手法を用いて行うことができる。
図4Aは、瞬時データ生成処理の方位演算結果を模式的に示すものである。瞬時データ生成処理では、かかる方位演算結果の各ピークPu1~Pu3から、これらピークPu1~Pu3にそれぞれ対応する各物標(各反射点)の推定角度を算出する。また、各ピークPu1~Pu3の大きさがパワー値となる。瞬時データ生成処理では、図4Bに示すように、かかる角度推定処理を「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて行う。
そして、瞬時データ生成処理では、方位演算結果において、推定角度およびパワー値の近い各ピークを組み合わせるペアリング処理を行う。また、その組み合わせ結果から、瞬時データ生成処理では、各ピークの組み合わせに対応する各物標(各反射点)の距離および自車両MCへの向きの相対速度を算出する。
距離は、「距離∝(fup+fdn)」の関係に基づいて算出することができる。相対速度は、「速度∝(fup-fdn)」の関係に基づいて算出することができる。その結果、図4Cに示すように、自車両MCに対する、各反射点RPの推定角度、距離および相対速度の瞬時データ100を示すペアリング処理結果が得られる。
図2に戻って、フィルタ処理部32bについて説明する。図2に示すように、フィルタ処理部32bは、予測部321bと、割り当て部322bと、推定部323bと、重み付け部324bと、リサンプリング部325bと、物標データ生成部326bとを備える。
フィルタ処理部32bは、生成部32aによって生成された瞬時データ100に対して所定数の粒子データを割り当てるパーティクルフィルタを施すことによって、瞬時データ100に対応する物標データを生成する。
予測部321bは、パーティクルフィルタにおけるサンプル点(粒子データ)の予測処理を行う。具体的には、予測部321bは、最新の周期を時間tとし、時間tにおける粒子データの分布状態Xtとした場合、前回の周期の時間t-1の分布状態Xt-1に基づく確率密度関数に基づいてN個の粒子データを配置(サンプリング)する。つまり、予測部321bは、予測処理において、時間t-1の粒子データから時間tにおいて瞬時データ100が現れそうな領域に粒子データを分布させる。
また、予測部321bは、前回の物標データに基づいて今回の物標データに対応する予測データを生成する。具体的には、予測部321bは、前回の物標データの移動向きおよびかかる移動向きへの相対速度に基づいて予測データを生成する。
また、予測部321bは、新規の物標に対応する瞬時データ100については、前回の周期の粒子データが存在しないため、所定の分布状態の粒子データを分布させる。
なお、予測部321bは、移動向きへの相対速度に基づいて予測データを生成する場合に限定されるものではなく、例えば、移動向きへの対地速度に基づいて予測データを生成してもよい。ここで、対地速度を用いた予測処理について、図5を用いて説明する。
図5は、対地速度に基づく予測処理を示す図である。なお、対地速度の算出方法については後述する。図5では、時刻tにおける物標検出装置1(t)が右前方へ旋回して時刻t+1における物標検出装置1(t+1)へ移動する場合において、時刻tの物標データ50(t)から時刻t+1の予測データ60(t+1)を予測する予測処理について説明する。つまり、予測処理とは、物標データ自体の予測処理と、自車両MCの移動にともなう座標系の変換を行う処理である。以下では、物標データ自体の予測処理を先に行い、次いで座標系変換を行う手順を例に挙げて説明する。なお、座標系変換を先に行い、次いで予測処理を行っても問題はない。
図5に示すように、予測部321bは、まず、物標データ50(t)を移動ベクトルV(対地速度)の分だけ移動させて座標系変換前の一時データ50(t+1)を生成する。つまり、前回測定時である時刻tの自車両MCの位置、方向に基づく座標系で表した場合の物標の移動先を一時データ50(t+1)として予測する。
時刻tの自車両MCの状態に基づいて、座標系変換後の原点と基準方向となる時刻t+1における物標検出装置1(t+1)の位置と方向とを予測する。より具体的には、予測部321bは、自車両MCの走行速度および旋回半径に基づいて時刻t+1における物標検出装置1(t+1)の位置を予測する。さらに具体的には、予測部321bは、時刻tから時刻t+1へのXY平面における位置変化(ΔxおよびΔy)と、方向の変化、つまり回転角度θとを予測する。つまり、この時点において、自車両MCの並進移動量と、回転移動量とが求まる。
そして、予測部321bは、かかる位置変化(ΔxおよびΔy)および回転角度θに基づいて予測データ60(t+1)の予測位置を決定する。つまり、一時データ50(t+1)に対して、上記の並進移動量と回転移動量に基づいた座標系変換を行う。具体的には、予測部321bは、まず、一時データ50(t+1)に対して並進移動変換を行う。具体的には上記した位置変化(ΔyおよびΔx)を基に移動させる。次に、回転移動変換を行う。具体的には、並進移動変換後の一時データ50(t+1)に対して回転角度θだけ回転させる。並進移動変換を先に行うと、回転移動変換における回転中心、つまり原点と、実際の回転中心、つまり物標検出装置1(t+1)の位置とが一致して都合がよい。以上の操作はつまり、予測部321bは、時刻tから時刻t+1までの物標検出装置1の変化量に基づき、時刻t+1における物標検出装置1の位置ならびに方向を原点および基準方向した場合の予測データ60(t+1)の位置を生成する。これにより、物標検出装置1(t),1(t+1)をXY平面の原点に揃えた場合における物標データ50(t)から予測データ60(t+1)への位置変化を予測できる。なお、上記の例では並進移動変換と回転移動変換とを別々に適用したが、この限りではない。例えば並進移動変換や回転移動変換は、その操作を複合したものを一つの線形変換行列として記述することもできる。また回転移動量は回転角度θを変数として記載したが、この限りでもない。方向ベクトルや複素数、四元数などを用いて記述する手法をとってもなんら問題はない。また、座標系変換手法は種々あり、要求に応じて種々選択することができる。
図2に戻って、割り当て部322bについて説明する。割り当て部322bは、最新の周期における瞬時データ100を、予測部321bの予測結果である最新の粒子データへ割り当てる処理を行う。具体的には、割り当て部322bは、予測部321bによって生成された予測データに対応する所定の割り当て範囲内に存在する瞬時データ100に対して、当該予測データに対応する粒子データを割り当てる。
なお、割り当て部322bは、いずれの物標データの割り当て範囲内にも存在しない瞬時データ100があった場合には、かかる瞬時データ100を新規の物標として扱う。
推定部323bは、生成部32aによって生成された複数の瞬時データ100に基づいて物標の移動ベクトルVを推定する。具体的には、推定部323bは、瞬時データ100における自車両MCへの向きの対地速度に基づき、複数の瞬時データ100それぞれに対応する自車両MCへの向きの対地速度を示す対地ベクトルGVにおける起点を揃え、対地ベクトルGVに対する垂線VLの交点CPから物標の移動ベクトルVを推定する。
ここで、図6~図10を用いて、推定部323bの処理内容について具体的には説明する。図6は、推定部323bの機能ブロック図である。図6に示すように、推定部323bは、瞬時データ選択部323baと、バッファ更新部323bbと、対地速度算出部323bc(算出部の一例)と、バッファリング部323bdと、垂線作成部323beと、交点作成部323bfと、内心作成部323bgと、移動ベクトル作成部323bhとを備える。
瞬時データ選択部323baは、移動ベクトルVの推定処理に用いる瞬時データ100を選択する。具体的には、瞬時データ選択部323baは、瞬時データ100に含まれる自車両MCへの向きの相対速度(または、対地速度)や、自車両MCへの向きに相当する角度および距離に基づいて移動ベクトルVの推定処理では不要な瞬時データ100を除外する処理を行う。
例えば、瞬時データ選択部323baは、複数の瞬時データ100のうち、相対ベクトルRV(または、対地ベクトルGV)の自車両MCへの向きが類似する瞬時データ100を移動ベクトルVの推定処理から除外する。具体的には、瞬時データ選択部323baは、2つの瞬時データ100の角度差(例えば、略ゼロ)が所定の閾値未満の場合、2つの瞬時データ100のいずれか一方を除外する。
かかる場合、瞬時データ選択部323baは、例えば、2つの瞬時データ100のうち、自車両MCまでの距離が近い方の瞬時データ100や、角度のパワー値が大きい方の瞬時データ100を残すようにする。これは、角度が略同じで、相対速度(または、対地速度)が異なる2つの瞬時データ100は、同一の物標からは得られないことに起因している。また、自車両MCへの向きに相当する角度が略同じで、相対速度(または、対地速度)が同じ2つの瞬時データ100は、物標において同じような位置の反射点に由来していると考えられ、移動ベクトルVの推定処理においては、いずれか一方のみを用いれば情報量として足りるため除外する。
このように、角度が略同じ複数の瞬時データ100のうち、少なくとも1つを残して、残りを除外することで、移動ベクトルVの推定精度を落とすことなく、推定部323bの推定処理における処理量が嵩むことを防止できる。
また、瞬時データ選択部323baは、複数の瞬時データ100のうち、自車両MCへの向きの相対速度が類似、かつ、自車両MCまでの距離が類似の瞬時データ100を移動ベクトルVの推定処理から除外する。
具体的には、瞬時データ選択部323baは、2つの瞬時データ100の相対速度差(例えば、略ゼロ)が所定の閾値未満、かつ、距離差(例えば、略ゼロ)が所定の閾値未満の場合、2つの瞬時データ100のいずれか一方を除外する。かかる場合、瞬時データ選択部323baは、角度のパワー値が大きい方の瞬時データ100や、角度が物標データ近い方の瞬時データ100を残すようにする。これは、相対速度が略同じ、かつ、距離が略同じ2つの瞬時データ100は原理上存在せず、異なる物標の瞬時データ100または角度割れである可能性が高いためである。
これにより、他の物標の瞬時データ100を用いることによる移動ベクトルVの推定精度の低下を防ぐことができるとともに、推定部323bの推定処理における処理量が嵩むことを防止できる。
次に、バッファ更新部323bbは、記憶部33に記憶された履歴データ33aの更新処理を行う。バッファ更新部323bbによる更新処理は、例えば、瞬時データ選択部323baによって選択された新たな瞬時データ100を履歴データ33aに加える前に行われるが、測定周期に1回行われればどのタイミングでもいい。処理内容とバッファ内容との関連に応じて適宜実施タイミングは設定するとよい。具体的には、バッファ更新部323bbは、新たな瞬時データ100を履歴データ33aとして記憶する場合に、自車両MCの回転角度の変化量に基づいて履歴データ33aにおける過去の瞬時データ100の自車両MCへの向きに相当する角度を補正する。ここで、図7を用いて、バッファ更新部323bbの更新処理についてより具体的に説明する。
図7は、バッファ更新部323bbの更新処理を示す図である。図7には、更新処理の前後における履歴データ33aを示している。具体的には、履歴データ33aには、「ID」、「相対速度」、「対地速度」、「角度」および「保存経過カウント」といった項目が含まれる。
「ID」は、各瞬時データ100を識別する識別情報である。「相対速度」は、瞬時データ100における自車両MCへの向きの相対速度を示す。「対地速度」は、後述の対地速度算出部323bcによって算出される自車両MCへの向きの対地速度を示す。「角度」は、上記の瞬時データ生成処理の角度推定処理で推定した角度であり、自車両MCへの向きに相当する方向である。具体的には、「角度」は、自車両MCの正面方向をゼロとした場合の左右方向への角度を示す。「保存経過カウント」は、最新周期のスキャンから経過した周期を示す。例えば、保存経過カウントが「1」は、最新周期の1つ前の周期、すなわち時刻t-1で得られた瞬時データ100であることを示す。
図7に示すように、バッファ更新部323bbは、自車両MCの回転角度の変化量に基づいて履歴データ33aの「角度」および「保存経過カウント」を更新する。自車両MCの回転角度の変化量とは、自車両MCの旋回に伴う水平方向への回転角度である。具体的には、回転角度の変化量(θとする)は、自車両MCの走行速度をVself、自車両MCの旋回半径をcrvR、時間の変化量をΔtとした場合、以下の式で算出される。すなわち、θ=Vself×Δt/crvRにより算出される。また、旋回の方向、つまり右向きか左向きか、つまりθの正負は例えばステアリング角などの情報を用いて決定する。
図7に示す例では、自車両MCの回転角度の変化量(θ)が、-3度(例えば、右前方へ旋回)であったとする。かかる場合、バッファ更新部323bbは、履歴データ33aに含まれるすべての過去の瞬時データ100における「角度」を「-3度」減算する。変化量で言えば「3度」加算される。また、バッファ更新部323bbは、履歴データ33aに含まれるすべての過去の瞬時データ100における「保存経過カウント」を「1」増やす。これら過去の瞬時データ100は、後段の移動ベクトルVの推定処理において、新たな瞬時データ100が所定数未満の場合に用いられる。
つまり、バッファ更新部323bbは、過去の瞬時データ100に対して、予測部321bで行ったような自車両MCの旋回に伴う座標系変換を適用するものである。つまり、記憶している過去の瞬時データ100も、現在の瞬時データ100と同様に、現在の自車両MCの座標系における方向を有することになる。そのため、後段の移動ベクトルVの推定処理において、過去の瞬時データ100を、最新の瞬時データ100の「角度」と同じ基準に揃えることができる。したがって、移動ベクトルVの推定処理において、過去の瞬時データ100を、現在の瞬時データ100と同様に使用でき、結果、推定精度を向上できる。
なお、図7では、瞬時データ100の「角度」を加算する場合について説明したが、自車両MCの回転角度の変化量が正の値(例えば、左前方へ旋回)であった場合、瞬時データ100の「角度」にかかる値が減算される。なお、上記では履歴データ33aの角度を都度補正する手法を例示したがこの限りではない。例えば各測定タイミングnにおける自車両MCの回転角度の変化量θnのみを記録しておき、履歴データ33aを使用する時にθnを減算しつづけていくという手法もある。この場合、時刻t-kの履歴データ33aに対する補正された角度θはθ=θn+θn-1+……+θn-kとなる。θnは回転角度の変化量ではなく積算値、すなわち各測定タイミングnにおける自車角度そのものでも構わない。その場合はθ=θn-θn-kとなる。また、速度と旋回半径からではなく、電子コンパスなどを用いて直接測定した自車の方向を用いてもよい。また角度として例示したが、方向ベクトルとしてもよいし、複素数や四元数を用いた演算を用いてもよい。回転移動の座標系変換には種々の方法があり、目的に応じて適宜選択できる。
また、図7に示すように、バッファ更新部323bbは、「保存経過カウント」が所定数(図7では「3」)以上となった瞬時データ100については、履歴データ33aから削除する。これは、情報として比較的古くなるなどによって、信頼性が低下した瞬時データ100を除外し、後段の移動ベクトルVの推定処理に使用しないための操作であり、これにより、移動ベクトルVの推定精度を向上できる。なお、上記では経過カウントを超過したら削除、としたが方法としてはこの限りではない。逆に寿命として記録し、更新処理ではカウントを減算し、0になったら除外する手法もある。また測定時刻のカウントのみを記録し、履歴データ33aの更新はせず、現在の測定カウントから所定のカウント数以上過去の履歴データ33aを除外するなどの手法もある。種々の方法があり、目的に応じて適宜選択できる。
次に、対地速度算出部323bcは、瞬時データ選択部323baによって選択された瞬時データ100の自車両MCへの向きの相対速度から自車両MCの速度成分を除いた対地速度を算出する。つまり、瞬時データ100の相対速度には、自車両MCの移動に伴う見かけ上の速度成分と、他車両の実際の移動に伴う速度成分が含まれており、対地速度算出部323bcでは、後者の実際の他車両の移動に伴う速度成分を抽出する。すなわち、対地速度とは、静止座標系、つまり、地面などを基準とした座標系において、他車両の実際の移動速度を自車両方向に投影した速度成分ともいえる。ここで、図8を用いて、対地速度の算出処理について説明する。
図8は、対地速度算出部323bcによる対地速度の算出処理を示す図である。図8では、自車両MCの実際の移動向きおよびかかる移動向きへの実際の走行速度を示す自車ベクトルMVを示している。図8に示すように、対地速度算出部323bcは、まず、自車ベクトルMVに基づいて瞬時データ100への向きの自車ベクトルMaVを算出する。具体的には、自車ベクトルMaVは、自車ベクトルMVが自車両MCと瞬時データ100とを通る直線に射影されたベクトルである。この自車ベクトルMaVが、相対ベクトルRVにおける自車両MCの速度成分となる。
つまり、対地速度算出部323bcは、瞬時データ100の相対ベクトルRVと自車ベクトルMaVとを加算することで、自車両MCへの向きの対地速度を示す対地ベクトルGVを算出する。
次に、バッファリング部323bdは、瞬時データ選択部323baによって選択された新たな瞬時データ100を記憶部33の履歴データ33aに記憶する。なお、履歴データ33aにおける新たな瞬時データ100の「保存経過カウント」は、例えば「0」のように適宜初期値に設定される。
次に、垂線作成部323beは、対地速度算出部323bcによって算出された瞬時データ100の自車両MCへの向きの対地速度を示す対地ベクトルGVに対する垂線VLを作成する。
具体的には、垂線作成部323beは、複数の瞬時データ100それぞれに対応する対地ベクトルGVの起点を揃えた場合に、対地ベクトルGVの終点を通る垂線VLを作成する。例えば、垂線作成部323beは、自車両MCの左右方向への対地速度成分(VY軸)と、自車両MCに対して前後方向への対地速度成分(VX軸)とで表される平面の原点に対地ベクトルGVの起点を揃えたとする(図1C参照)。
かかる場合、垂線VLの直線式は、VY=a×VX+bで表される。具体的には、対地ベクトルGVのVX軸を基準とする角度αと、対地ベクトルGVの大きさを対地速度Taとした場合、係数aは、a=tan(α+π/2)で表わされ、係数bは、b=Ta/sin(α)で表される。なお、α=0または±2πの場合、係数aが発散するため、以降の処理においては、Vx=Vとして例外処理を行う。
なお、垂線作成部323beは、最新の瞬時データ100の数が不足している場合、履歴データ33aの過去の瞬時データ100を用いて垂線作成処理を行う。つまり、垂線作成部323beは、最新の瞬時データ100の数が所定数未満の場合、記憶部33に記憶された履歴データ33a(過去の瞬時データ100の一例)を移動ベクトルVの推定処理に用いる。
これにより、瞬時データ100の数が不足することで移動ベクトルVの推定精度が低下することを抑えることができる。
次に、交点作成部323bfは、垂線作成部323beによって作成された垂線VLの交点CPを作成する。具体的には、交点作成部323bfは、交点CPを求める2つの垂線VLをn1およびn2とし、n1の係数aをa[n1]、係数bをb[n1]と表した場合、交点CPの座標VXは、VX=(b[n2]-b[n1])/(a[n1]-a[n2])により算出され、座標VYは、VY=a×VX+bに上記のVXを代入することで算出される。
次に、内心作成部323bgは、交点作成部323bfによって作成された交点CPが3つ以上であった場合、かかる3つの交点CPにより形成される三角形の内心IP(図9A参照)を作成する。なお、内心作成部323bgによる内心IPの作成方法については、図9Aで後述する。
次に、移動ベクトル作成部323bhは、交点作成部323bfによって作成された交点CPに基づいて物標の移動ベクトルVを作成する。例えば、移動ベクトル作成部323bhは、交点作成部323bfによって作成された交点CPが1つであった場合、ベクトルRVの起点(VY軸およびVX軸の原点)を移動ベクトルVの起点とし、交点CPを移動ベクトルVの終点として推定する。
つまり、推定部323bは、移動ベクトル作成部323bhによって作成された移動ベクトルVに基づいて、対地ベクトルGVにおける起点から交点CPへの向きが物標の実際の移動向きであると推定し、対地ベクトルGVにおける起点および交点CPの距離が物標の移動向きへの対地速度であると推定する。
また、移動ベクトル作成部323bhは、交点作成部323bfによって作成された交点CPが3つ以上であった場合、内心作成部323bgによって作成された内心IPに基づいて移動ベクトルVを作成する。ここで、図9Aおよび図9Bを用いて、交点CPが3つ以上の場合における移動ベクトルVの作成方法について説明する。
図9Aは、交点CPが3つの場合における移動ベクトルVの作成方法を示す図である。図9Bは、交点CPが6つの場合における移動ベクトルVの作成方法を示す図である。まず、図9Aを用いて、交点CPが3つの場合における移動ベクトルVの作成方法について説明する。
まず、内心作成部323bgは、3つの交点CP1,CP2,CP3の内心IPを作成する。具体的には、内心IPは、3つの交点CP1,CP2,CP3に形成される三角形の内接円の中心である。
より具体的には、内心作成部323bgは、上記したVY軸およびVX軸の平面における原点を起点として、各交点CP1,CP2,CP3を終点とする算出用ベクトルCV1,CV2,CV3を作成する。
そして、内心作成部323bgは、算出用ベクトルCV1,CV2,CV3と、各交点CP1,CP2,CP3の対辺に基づいて内心IPを作成する。具体的には、内心作成部323bgは、交点CP1,CP2,CP3の対辺をCP1a,CP2a,CP3aと表した場合、原点から内心IPへのベクトル(図9Aでは、移動ベクトルV)は、V=(CP1a×CV1+CP2a×CV2+CP3a×CV3)/(CP1a+CP2a+CP3a)で算出される。
なお、内心作成部323bgは、三角形を形成する3つの交点CPのバラつきが所定値以上の場合には、内心IPの算出処理から除外する。具体的には、内心作成部323bgは、3つの交点CPの不偏分散が所定値以上の場合には、内心IPの算出処理から除外する。
そして、移動ベクトル作成部323bhは、内心IPが1つの場合、原点から内心IPへのベクトルを移動ベクトルVとして作成する。このように、内心IPを算出して移動ベクトルVを作成することで、交点CPが複数の場合であっても、移動ベクトルVの推定精度が低下することを防止できる。
なお、移動ベクトル作成部323bhは、算出用ベクトルCV1,CV2,CV3のうち、いずれか2つの算出用ベクトルCV1,CV2,CV3の誤差が所定値以上であることが明らかである場合等には、残りの1つの算出用ベクトルCV1,CV2,CV3を移動ベクトルVとしてもよい。
次に、図9Bを用いて、交点CPが6つの場合における移動ベクトルVの作成方法について説明する。図9Bに示すように、交点CP3~CP8が6つの場合、かかる交点CP3~CP8によって形成される三角形が複数となり、従って内心IP1~IP4も複数となる。なお、図9Bに示す例では、3つの交点CP(例えば、交点CP3,CP5,CP8)により三角形が形成されない組み合わせもあり、かかる交点CPの組み合わせについては内心IPの作成から除外する。
図9Bに示すように、移動ベクトル作成部323bhは、例えば、内心IP1~IP4の平均値となる平均点IPAを算出し、原点から平均点IPAへのベクトルを移動ベクトルVとして算出する。
このように、内心IPが複数作成された場合に、平均点IPAによる移動ベクトルVを作成することにより、内心IPのバラつきによる移動ベクトルVの推定誤差を最小限に抑えることができる。
なお、移動ベクトル作成部323bhは、複数の内心IPのバラつきが所定値以上の場合には、移動ベクトルVの作成処理から除外する。具体的には、移動ベクトル作成部323bhは、複数の内心IPのうち、不偏分散が所定値以上の内心IPについては、移動ベクトルVの作成処理から除外する。
図2に戻って重み付け部324bについて説明する。重み付け部324bは、割り当て関係にある今回の瞬時データ100および今回の粒子データについて今回の粒子データそれぞれに対して重みを付ける。
例えば、重み付け部324bは、今回の粒子データのうち、今回の瞬時データ100に近い粒子データの重みを大きくし、今回の瞬時データ100から遠い粒子データの重みを小さくする。なお、ここでいう「近い」および「遠い」は、マハラノビス距離が「近い」および「遠い」ことを指す。
また、重み付け部324bは、推定部323bによって推定された移動ベクトルVに基づいて重み付けを行う。ここで、かかる点について、図10を用いて説明する。図10は、移動ベクトルVに基づく重み付け処理を示す図である。
図10では、3つの粒子データに基づくベクトルPV1~PV3の起点と、移動ベクトルVの起点とをVY軸およびVX軸平面の原点に揃えた場合を示している。なお、粒子データに基づくベクトルPV1~PV3は、前回の粒子データから今回の粒子データ(予測部321bにより予測された粒子データ)へのベクトルである。
例えば、重み付け部324bは、ベクトルPV1~PV3と移動ベクトルVとの類似度が高いほど重みを大きくする。例えば、重み付け部324bは、ベクトルPV1~PV3および移動ベクトルVのVY軸およびVX軸の対地速度成分が近いほど、類似度を高くする。
つまり、図10に示す例では、重み付け部324bは、ベクトルPV1,PV2に由来する粒子データの重みを大きくし、ベクトルPV3に由来する粒子データの重みを小さくする。これにより、後段のリサンプリング部325bにおけるリサンプリングの精度を向上させることができ、算出される物標データの精度を向上させることができる。
次に、リサンプリング部325bは、今回の粒子データそれぞれの重みに基づいて粒子データを再配置(リサンプリング)する。具体的には、リサンプリング部325bは、重みが小さい粒子データを瞬時データ100の近くへ移動させる。
物標データ生成部326bは、リサンプリング部325bによって再配置された今回の粒子データに基づいて確率密度関数を再計算し、再計算された確率密度関数の重心に基づいて物標データを生成する。なお、物標データ生成部326bは、確率密度関数の重心に基づいて物標データを生成したが、例えば、確率密度関数の平均に基づいて物標データを生成してもよい。
また、物標データ生成部326bは、粒子データが割り当てられなかった瞬時データ100を新規の物標として扱い、そのまま物標データとして出力する。すなわち、物標データ生成部326bは、新規の物標の場合、瞬時データ100=物標データとして出力する。
次に、図11を用いて、実施形態に係る物標検出装置1が実行する処理の処理手順について説明する。図11は、実施形態に係る物標検出装置1が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図11に示すように、まず、生成部32aは、送信した電波が物標で反射した複数の反射点それぞれについて、物標の自車両MCへの向きの相対速度を含む瞬時データ100を生成する(ステップS101)。
つづいて、フィルタ処理部32bの予測部321bは、前回の粒子データに基づいて今回の粒子データを予測する予測処理を行う(ステップS102)。なお、フィルタ処理部32bは、前回の粒子データが存在しない場合、前回の瞬時データ100の相対速度に基づいて今回の粒子データを予測する。
つづいて、割り当て部322bは、今回の粒子データに今回の瞬時データ100を割り当てる(ステップS103)。つづいて、推定部323bは、複数の今回の瞬時データ100に基づいて物標の移動ベクトルVを推定する(ステップS104)。なお、推定部323bによる推定処理の処理手順については図12で後述する。
つづいて、割り当て部322bは、今回の粒子データが割り当てられなかった瞬時データ100の有無により新規の物標の有無を判定する(ステップS105)。割り当て部322bは、瞬時データ100が新規の物標であった場合(ステップS105,Yes)、新規の物標に対応する瞬時データ100に対して所定の粒子データ(例えば、初期状態の粒子データ)を設定する(ステップS106)。
つづいて、重み付け部324bは、瞬時データ100が新規の物標でなかった場合(ステップS105,No)、推定部323bによって推定された移動ベクトルVに基づいて今回の粒子データそれぞれに重み付けを行う(ステップS107)。
つづいて、リサンプリング部325bは、重み付け部324bによる重み付けに基づいて今回の粒子データのリサンプリングを行う(ステップS108)。つづいて、物標データ生成部326bは、リサンプリングされた今回の粒子データの確率密度関数を更新し、かかる確率密度関数に基づいて物標データを生成し(ステップS109)、処理を終了する。
次に、図12を用いて、実施形態に係る推定部323bが実行する推定処理の処理手順について説明する。図12は、実施形態に係る推定部323bが実行する推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図12に示すように、まず、瞬時データ選択部323baは、複数の瞬時データ100のうち、移動ベクトルVの推定処理に用いる瞬時データ100を選択する選択処理を行う(ステップS201)。
つづいて、バッファ更新部323bbは、自車両MCの回転角度の変化量に基づいて記憶部33の履歴データ33aにおける過去の瞬時データ100の自車両MCへの向きに相当する角度を補正することで、履歴データ33aの更新処理を行う(ステップS202)。
つづいて、対地速度算出部323bcは、瞬時データ100の自車両MCへの向きの相対速度から自車両MCの速度成分を除いた対地速度を算出する(ステップS203)。つづいて、バッファリング部323bdは、瞬時データ選択部323baによって選択された新たな瞬時データ100を履歴データ33aとして記憶するバッファリング処理を行う(ステップS204)。
つづいて、垂線作成部323beは、対地速度算出部323bcによって算出された瞬時データ100における自車両MCへの向きの対地速度に基づき、複数の瞬時データ100それぞれに対応する対地ベクトルGVにおける起点を揃え、対地ベクトルGVに対する垂線VLを作成する垂線作成処理を行う(ステップS205)。
つづいて、交点作成部323bfは、垂線作成部323beによって作成された垂線VLの交点CPを作成する交点作成処理を行う(ステップS206)。移動ベクトル作成部323bhは、交点作成部323bfによって作成された交点CPが1つであるか否かを判定する(ステップS207)。
移動ベクトル作成部323bhは、交点作成部323bfによって作成された交点CPが1つであった場合(ステップS207,Yes)、移動ベクトル作成処理を行い(ステップS208)、処理を終了する。なお、移動ベクトル作成部323bhは、かかる場合、対地ベクトルGVの起点から交点CPへのベクトルを移動ベクトルVとして作成する。
一方、ステップS207において、内心作成部323bgは、交点CPが1つでない場合(ステップS207,No)、すなわち、交点CPが3つ以上の場合、3つの交点CPにより形成される三角形の内心IPを作成する内心作成処理を行い(ステップS209)、処理をステップS208へ移行する。なお、かかる場合、移動ベクトル作成部323bhは、ステップS208において、内心作成部323bgによって作成された内心IPに基づいて移動ベクトル作成処理を行う。
上述してきたように、実施形態に係る物標検出装置1は、生成部32aと、対地速度算出部323bc(算出部の一例)と、推定部323bとを備える。生成部32aは、送信した電波が物標で反射した複数の反射点それぞれについて、物標の自車両MCへの向きの相対速度を含む瞬時データ100を生成する。対地速度算出部323bcは、生成部32aによって生成された瞬時データ100の自車両MCへの向きの相対速度と自車両MCの速度とに基づいて、対地速度を算出する。推定部323bは、対地速度算出部323bcaによって算出された対地速度に基づき、複数の瞬時データ100それぞれに対応する自車両MCへの向きの対地ベクトルGVにおける起点を揃え、対地ベクトルGVに対する垂線VLの交点CPから物標の移動向き(移動ベクトルVの一要素)を推定する。これにより、物標に対する応答性を向上させることができる。
上述した実施形態では、物標検出装置1は車両に設けられることとしたが、無論、車両以外の移動体、たとえば船舶や航空機などに設けられてもよい。
また、上述した実施形態では、物標検出装置1の用いる到来方向推定手法の例にESPRITを挙げたが、これに限られるものではない。たとえばDBF(Digital Beam Forming)や、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、MUSIC(Multiple Signal Classification)などを用いてもよい。
また、実施形態に係る物標検出装置1は、移動ベクトル作成部323bhによって作成された移動ベクトルVの確度を粒子データに基づいて検証してもよい。かかる点について、図13を用いて説明する。
図13は、移動ベクトルVの検証処理を示す図である。図13では、移動ベクトルVと、粒子データに基づくベクトルPVとを示している。
図13に示すように、推定部323bは、作成した移動ベクトルVと粒子データのベクトルPVとの類似度により移動ベクトルVの信頼度を示す確度を算出する。具体的には、推定部323bは、移動ベクトルVおよびベクトルPVのVY軸およびVX軸の対地速度成分の類似度を確度として算出する。
例えば、推定部323bは、粒子データのベクトルPVと移動ベクトルVとの類似度が所定値以上である場合に、かかる移動ベクトルVを最終的な推定結果の確定値とする。一方、推定部323bは、粒子データのベクトルPVと移動ベクトルVとの類似度が所定値未満である場合に、かかる移動ベクトルVの使用を禁止する。これにより、より推定精度の高い移動ベクトルVを使用することができる。
なお、図13では、移動ベクトルVおよびベクトルPVのVY軸およびVX軸の対地速度成分の類似度を確度として算出したが、例えば、移動ベクトルVおよびベクトルPVの実際の移動向きの類似度を確度として算出してもよい。
なお、上述した実施形態では、フィルタ処理部32bは、パーティクルフィルタを用いた場合を示したが、用いる時系列フィルタは、パーティクルフィルタに限定されるものではなく、例えば、カルマンフィルタや、αβフィルタ等の時系列フィルタであってもよい。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。