以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。なお、以下では、レーダ装置1がFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式である場合を例に挙げて説明するが、レーダ装置1は、例えばFCM(Fast-Chirp Modulation)方式といった他の方式であってもよい。
まず、図1Aおよび図1Bを用いて、実施形態に係る物標検出方法の概要について説明する。図1Aおよび図1Bは、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。図1に示すように、レーダ装置1は、例えば自車両MCのフロントグリル内等に搭載され、自車両MCの進行方向に存在する物標(例えば、先行車LC等)を検出する。なお、レーダ装置1の搭載箇所は、例えばフロントガラスやリアグリル、左右の側部(例えば、左右のドアミラー)等他の箇所に搭載されてもよい。
図1Aに示すように、実施形態に係るレーダ装置1は、まず、物標に対応する瞬時値を検出する。瞬時値とは、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて検出される反射点の状態ベクトルを示す値である。かかる状態ベクトルには、反射点までの距離や相対速度や角度といった値が含まれる。
つづいて、図1Aに示すように、実施形態に係るレーダ装置1は、検出した瞬時値に対してフィルタ処理を施すことによって、瞬時値に対応するフィルタ値である物標データを生成する。フィルタ処理には、例えばパーティクルフィルタが用いられる。
パーティクルフィルタとは、所定数の粒子データと瞬時値とを所定の状態空間にプロットするとともに、かかる状態空間における位置関係を解析することによって、物標データを推定するものである。パーティクルフィルタでは、「予測」、「割り当て」、「重み付け」、「リサンプリング」および「データ生成」の処理が行われることで、瞬時値から物標データが生成される。
ここで、パーティクルフィルタの各処理について簡単に説明する。「予測」は、最新の周期で用いる粒子データの状態空間での分布状態を予測する処理である。具体的には、「予測」は、1つ前の周期である前回の粒子データにおける分布状態から最新の周期である今回の粒子データにおける分布状態を予測する予測処理である。
「割り当て」は、最新の周期で検出された瞬時値を「予測」した粒子データへ割り当てる処理である。「割り当て」では、例えば、前回の物標データから所定の割り当て範囲に存在する瞬時値を今回の粒子データへ割り当てる。
「重み付け」は、割り当てられた瞬時値に基づいて粒子データそれぞれに対して重み付けする処理である。「リサンプリング」は、「重み付け」された粒子データそれぞれの重みに基づいて粒子データそれぞれを再配置(リサンプリング)する処理である。「データ生成」は、リサンプリングされた粒子データに基づいて最新の物標データを生成する処理である。なお、パーティクルフィルタの各処理の詳細については後述する。
ここで、新規に検出された物標に対する従来の物標検出方法について説明する。新規に検出された物標とは、前回の周期で検出された瞬時値に前回の粒子データが割り当てられなかった物標を指す。
従来の物標検出方法では、この新規の物標において、今回の粒子データを予測する場合、前回の粒子データが存在しないため、前回の瞬時値の位置から自車両の進行向きである縦方向に動くと仮定して今回の粒子データを予測していた。
しかしながら、新規物標が実際には、自車両の車幅向きである横方向に動いた場合、今回の粒子データとの予測誤差が比較的大きくなってしまうおそれがあった。
そこで、実施形態に係る物標検出方法では、図1Bに示すように前回の瞬時値の相対速度に基づき、当該物標から自車両MCへの向きのベクトルRVに対する垂線VLに対応する位置を今回の粒子データ50の予測位置とすることとした。なお、ベクトルRVの始点の位置は当該物標の位置となる。ここで、図1Bを用いて、新規物標に対する粒子データ50の予測処理について説明する。
図1Bでは、新規の物標における前回の瞬時値100と、瞬時値100の相対速度を示すベクトルRVとを示している。図1Bに示すように、実施形態に係る物標検出方法では、瞬時値100の相対速度に基づき、次回の処理で垂線VL上に粒子データ50が配置されるように状態ベクトルSVを生成し、かかる状態ベクトルSVの情報を初期状態の粒子データ50へ与える。
ここでいう状態ベクトルSVとは、瞬時値100に対応する物標が瞬時値100の相対速度で移動すると仮定し、自車両MCへの向き(すなわちベクトルRVの向き)以外へ動く場合のベクトルを示す。なお、状態ベクトルSVの算出方法は、図6で後述する。
かかる状態ベクトルSVの終点は、すべてベクトルRVの垂線VLに位置する。すなわち、実施形態に係る物標検出方法では、次回(2回目)の予測処理において、瞬時値100の相対速度を示すベクトルRVの垂線VL上に粒子データ50が配置されるようにする。
つまり、実施形態に係る物標検出方法では、従来のように新規物標の移動する向きを縦方向(y軸方向)に絞るのではなく、様々な方向に移動すると仮定して2回目の粒子データ50が配置されるように、1回目の処理において状態ベクトルSVの情報を与える。
このため、新規物標が横方向(x軸方向)に移動した場合に、粒子データ50の予測誤差を従来よりも低減できる。すなわち、実施形態に係る物標検出方法では、新規物標に対する粒子データ50の予測精度を向上させることができる。
なお、実施形態に係る物標検出方法では、新規物標が加速または減速することを考慮して、粒子データ50を垂線VLの周辺にも配置できるが、かかる点については図9で後述する。
次に、図2を参照して、実施形態に係るレーダ装置1の構成について詳細に説明する。図2は、実施形態に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。なお、図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
換言すれば、図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備える。レーダ装置1は、自車両MCの挙動を制御する車両制御装置2と接続される。
かかる車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、送信アンテナ13とを備える。信号生成部11は、後述する送受信制御部31の制御により、三角波で周波数変調されたミリ波を送信するための変調信号を生成する。発振器12は、かかる信号生成部11によって生成された変調信号に基づいて送信信号を生成し、送信アンテナ13へ出力する。なお、図2に示すように、発振器12によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
送信アンテナ13は、発振器12からの送信信号を送信波へ変換し、かかる送信波を自車両MCの外部へ出力する。送信アンテナ13が出力する送信波は、三角波で周波数変調された連続波である。送信アンテナ13から自車両MCの外部、たとえば前方へ送信された送信波は、先行車LCなどの物標で反射されて反射波となる。
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21と、複数のミキサ22と、複数のA/D変換部23とを備える。ミキサ22およびA/D変換部23は、受信アンテナ21ごとに設けられる。
各受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波として受信し、かかる受信波を受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。なお、図2に示す受信アンテナ21の数は4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
受信アンテナ21から出力された受信信号は、図示略の増幅器(たとえば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、分配された送信信号と、受信アンテナ21から入力される受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成し、A/D変換部23へ出力する。
ビート信号は、送信波と反射波との差分波であって、送信信号の周波数(以下、「送信周波数」と記載する)と受信信号の周波数(以下、「受信周波数」と記載する)との差となるビート周波数を有する。ミキサ22で生成されたビート信号は、A/D変換部23でデジタル信号に変換された後に、処理部30へ出力される。
処理部30は、送受信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、検出部32aと、フィルタ処理部32bとを備える。
記憶部33は、履歴データ33aを記憶する。履歴データ33aは、信号処理部32が実行する一連の信号処理における物標データの履歴を含む情報である。
処理部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、記憶部33に対応するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、レジスタ、その他の入出力ポートなどを含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送受信制御部31および信号処理部32として機能する。なお、送受信制御部31および信号処理部32は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することもできる。
送受信制御部31は、信号生成部11を含む送信部10、および、受信部20を制御する。信号処理部32は、一連の信号処理を周期的に実行する。つづいて信号処理部32の各構成要素について説明する。
検出部32aは、周波数解析部321aと、ピーク抽出部322aと、瞬時値生成部323aとを備え、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて物標に対応する瞬時値100を検出する。
周波数解析部321aは、各A/D変換部23から入力されるビート信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理(以下、「FFT処理」と記載する)を行い、結果をピーク抽出部322aへ出力する。かかるFFT処理の結果は、ビート信号の周波数スペクトルであり、ビート信号の周波数ごと(周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビンごと)のパワー値(信号レベル)である。
ピーク抽出部322aは、周波数解析部321aによるFFT処理の結果においてピークとなるピーク周波数を抽出して、抽出結果を瞬時値生成部323aへ出力する。なお、ピーク抽出部322aは、後述するビート信号の「UP区間」および「DN区間」のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。
瞬時値生成部323aは、ピーク抽出部322aにおいて抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度とそのパワー値を算出する角度推定処理を実行する。なお、角度推定処理の実行時点で、到来角度は、物標が存在すると推定される角度であることから、以下では「推定角度」と記載する場合がある。
また、瞬時値生成部323aは、算出した推定角度とパワー値との算出結果に基づいて「UP区間」および「DN区間」それぞれのピーク周波数の正しい組み合わせを判定するペアリング処理を実行する。
また、瞬時値生成部323aは、判定した組み合わせ結果からレーダ装置1に対する各物標の距離および相対速度を算出する。また、瞬時値生成部323aは、算出した各物標の推定角度、距離および相対速度を、最新周期(最新スキャン)分の瞬時値100としてフィルタ処理部32bへ出力する。
説明を分かりやすくするために、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるここまでの処理の流れを図3〜図4Cに示す。図3は、信号処理部32の前段処理から信号処理部32におけるピーク抽出処理までの処理説明図である。
また、図4Aは、角度推定処理の処理説明図である。また、図4Bおよび図4Cは、ペアリング処理の処理説明図(その1)および(その2)である。なお、図3は、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られている。以下では、かかる各領域を順に、上段、中段、下段と記載する。
図3の上段に示すように、送信信号fs(t)は、送信アンテナ13から送信波として送出された後、物標において反射されて反射波として到来し、受信アンテナ21において受信信号fr(t)として受信される。
このとき、図3の上段に示すように、受信信号fr(t)は、自車両MCと物標との距離に応じて、送信信号fs(t)に対して時間差Tだけ遅延している。この時間差Tと、自車両MCおよび物標の相対速度に基づくドップラー効果とにより、ビート信号は、周波数が上昇する「UP区間」の周波数fupと、周波数が下降する「DN区間」の周波数fdnとが繰り返される信号として得られる(図3の中段参照)。
図3の下段には、かかるビート信号を周波数解析部321aにおいてFFT処理した結果を、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて模式的に示している。
図3の下段に示すように、FFT処理後には、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれの周波数領域における波形が得られる。ピーク抽出部322aは、かかる波形においてピークとなるピーク周波数を抽出する。
たとえば、図3の下段に示した例の場合、ピーク抽出閾値が用いられ、「UP区間」側においては、ピークPu1〜Pu3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fu1〜fu3がそれぞれ抽出される。
また、「DN区間」側においては、同じくピーク抽出閾値により、ピークPd1〜Pd3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fd1〜fd3がそれぞれ抽出される。
ここで、ピーク抽出部322aが抽出した各ピーク周波数の周波数成分には、複数の物標からの反射波が混成している場合がある。そこで、瞬時値生成部323aは、各ピーク周波数のそれぞれについて方位演算する角度推定処理を行い、ピーク周波数ごとに対応する物標の存在を解析する。
なお、瞬時値生成部323aにおける方位演算は、たとえばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの公知の到来方向推定手法を用いて行うことができる。
図4Aは、瞬時値生成部323aの方位演算結果を模式的に示すものである。瞬時値生成部323aは、かかる方位演算結果の各ピークPu1〜Pu3から、これらピークPu1〜Pu3にそれぞれ対応する各物標(各反射点)の推定角度を算出する。また、各ピークPu1〜Pu3の大きさがパワー値となる。瞬時値生成部323aは、図4Bに示すように、かかる角度推定処理を「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて行う。
そして、瞬時値生成部323aは、方位演算結果において、推定角度およびパワー値の近い各ピークを組み合わせるペアリング処理を行う。また、その組み合わせ結果から、瞬時値生成部323aは、各ピークの組み合わせに対応する各物標(各反射点)の距離および相対速度を算出する。
距離は、「距離∝(fup+fdn)」の関係に基づいて算出することができる。相対速度は、「速度∝(fup−fdn)」の関係に基づいて算出することができる。その結果、図4Cに示すように、レーダ装置1に対する、各反射点RPの推定角度、距離および相対速度の瞬時値100を示すペアリング処理結果が得られる。
次に、図5を用いて、フィルタ処理部32bについて説明する。図5は、フィルタ処理部32bの構成を示すブロック図である。図5に示すように、フィルタ処理部32bは、予測部321bと、割り当て部322bと、新規粒子設定部323bと、重み付け部324bと、リサンプリング部325bと、物標データ生成部326bとを備える。
フィルタ処理部32bは、検出部32aによって検出された瞬時値100に対して所定数の粒子データ50を対応付けるパーティクルフィルタを施すことによって、瞬時値100に対応する物標データを生成する。
予測部321bは、パーティクルフィルタにおける前回の粒子データ50から今回の粒子データ50を予測する予測処理を行う。具体的には、予測部321bは、最新の周期を時間tとし、時間tにおける各粒子データ50の分布状態Xtとした場合、前回の周期の時間t−1の分布状態Xt−1に基づく確率密度関数に基づいてN個の粒子データ50を配置(サンプリング)する。
なお、予測部321bは、新規の物標に対する2回目の処理の場合、後述する新規粒子設定部323bによって1回目の処理で与えられた相対速度に基づいて、垂線VL(図1B参照)上に移動させる処理を行う。なお、新規物標に対する粒子データ50の予測処理については、図6〜図9を用いて後述する。
割り当て部322bは、最新の周期における瞬時値100を、予測部321bの予測結果である今回の粒子データ50へ割り当てる処理を行う。具体的には、割り当て部322bは、前回の物標データから今回の物標データを予測し、その予測結果に基づいて所定の割り当て範囲内に存在する瞬時値100を割り当てる。
なお、割り当て部322bは、いずれの物標データの割り当て範囲内にも存在しない瞬時値100があった場合には、かかる瞬時値100を新規の物標として扱う。
新規粒子設定部323bは、新規の物標に相当する瞬時値の周りに初期状態の粒子データ50を設定する。初期状態とは、例えば新規の物標に対して複数の粒子データ50を予め定められた位置関係で配置された状態をいう。
さらに、新規粒子設定部323bは、瞬時値の相対速度に基づいて、初期状態の粒子データ50に対して次回の処理で移動すると予測される予測位置を示す相対ベクトル(状態ベクトルSV)の情報を与える。なお、新規粒子設定部323bによって設定された初期状態の粒子データ50については、重み付け部324bおよびリサンプリング部325bによる処理は行わない。
重み付け部324bは、割り当てられた今回の瞬時値100に基づいて今回の粒子データ50それぞれに重みを付ける。具体的には、重み付け部324bは、今回の粒子データ50のうち、今回の瞬時値100に近い粒子の重みを大きくし、今回の瞬時値100から遠い粒子の重みを小さくする。なお、ここでいう「近い」および「遠い」は、マハラノビス距離が「近い」および「遠い」ことを指す。
リサンプリング部325bは、今回の粒子データ50それぞれの重みに基づいて粒子データ50を再配置(リサンプリング)する。具体的には、リサンプリング部325bは、重みが小さい粒子データ50を瞬時値100の近くへ移動させる。
物標データ生成部326bは、リサンプリング部325bによって再配置された今回の粒子データ50の平均に基づいて物標データを生成する。なお、物標データ生成部326bは、確率密度関数の平均に基づいて物標データを生成したが、例えば、粒子の各パラメータの中央値に基づいて物標データを生成してもよい。また、確率密度関数の最大値に基づいて物標データを生成してもよい。
また、物標データ生成部326bは、新規の物標に相当する瞬時値100については、そのまま物標データとして出力する。すなわち。物標データ生成部326bは、瞬時値100=物標データとして出力する。
次に、図6〜図9を用いて、予測部321bの新規の物標に対する粒子データ50の予測処理について詳細に説明する。図6〜図9は、予測部321bの処理内容を示す図である。まず、図6を用いて、状態ベクトルSVの算出方法について説明する。図6では、1つの状態ベクトルSVを例示しているが、実際にはベクトル向きが異なる複数の状態ベクトルSVが算出される。
図6に示すように、新規粒子設定部323bは、相対速度を示すベクトルRVに基づき、自車両MCの進行向き(y軸)の相対速度である縦成分RVyと、自車両MCの車幅方向への相対速度である横成分RVxとの組み合わせである状態ベクトルSVを生成し、か当該状態ベクトルSVの情報を初期状態の粒子データ50へ与える。
具体的には、まず、新規粒子設定部323bは、ベクトルRVの終点を通る垂線VLを生成する。垂線VLは、縦成分RVyおよび横成分RVxで表される直線である。すなわち、垂線VLの直線式は、RVy=a×RVx+bで表される。なお、係数aは、a=―1/tanθであり、係数bは、相対速度であるベクトルRVを用いて、b=RV/sinθで表される。
つづいて、新規粒子設定部323bは、上記した垂線VLの直線式を用いて、縦成分RVyおよび横成分RVxの組み合わせを抽出し、かかる組み合わせの状態ベクトルSVを粒子データ50へ与える。これにより、新規物標があらゆる方向へ動く場合であっても、次回以降の処理において粒子データ50が割り当てられやすくなるため、予測誤差を低減することができる。
なお、瞬時値100の角度θが、−270°、−90°、0°、180°、360°の場合、予測部321bは、垂線VLの直線式を用いずに、例外処理を行う。
具体的には、角度θが、0°または360°の場合、RVx=RVとし、180°の場合、RVx=−RVとし、−270°または90°の場合、RVy=RVとし、−90°または270°の場合、RVy=−RVとする。
次に、図7を用いて、縦成分RVyおよび横成分RVxに制限を設けて粒子データ50を生成する方法について説明する。図7では、縦成分RVyの正方向および負方向と、横成分RVxの正方向および負方向へそれぞれ閾値を設けた場合を示している。
新規粒子設定部323bは、縦成分RVyの相対速度および横成分RVxの相対速度それぞれが所定の閾値以下である組み合わせに基づいて状態ベクトルSVを生成する。例えば、縦成分RVyの閾値を120km/h、横成分RVxの閾値を60km/hとする。
かかる場合、縦成分RVyは、上限(図7の「RVy」)が120km/hとなり、下限(「−RVy」)が−240km/hとなる。また、横成分RVxは、上限(「RVx」)が60km/hとなり、下限(「−RVx」)が−60km/hとなる。
そして、新規粒子設定部323bは、かかる閾値(図7に示す矩形枠)と、垂線VLとの交点である粒子データ50aおよび粒子データ50bを両端とし、その間(垂線VLの実線部分)に今回の粒子データ50が配置されるように状態ベクトルSVを生成する。
換言すれば、粒子データ50aは、縦成分RVyの上限、かつ、横成分RVxの下限となり、粒子データ50bは、縦成分RVyの下限、かつ、横成分RVxの上限となる。
このように、縦成分RVyと横成分RVxとに閾値を設けることで、粒子データ50の範囲が広がりすぎることを防止できる、つまり粒子データ50を密に配置できるため、予測精度を向上させることができる。
なお、図7に示す例では、縦成分RVyおよび横成分RVxの双方に閾値を設定したが、いずれか一方のみに閾値を設定してもよい。
また、新規粒子設定部323bは、相対速度の閾値に限定されるものではなく、他のパラメータの閾値に基づいて状態ベクトルSVを生成してもよい。かかる点について図8を用いて説明する。図8では、路面に対する物標の速度(ベクトルV)に対する閾値Vthを例にして説明する。
新規粒子設定部323bは、瞬時値の相対速度に基づいて路面に対する物標の速度を算出し、算出した当該速度に基づいて状態ベクトルSVを生成し、初期状態の粒子データ50へ与える。路面に対する物標の速度とは、瞬時値100の相対速度から自車両MCの速度成分を除いた速度成分であり、実質的な物標の速度である。そして、路面に対する物標の速度をV、ベクトルRVの長さである相対速度をRV、自車両MCの速度をMVとした場合に、以下の式によって表される。すなわち、V=RV+MV×cosθとなる。
そして、新規粒子設定部323bは、ベクトルVに対応する垂線VLaを生成する。垂線VLaは、上記した垂線VLと略同様の手法で生成される。すなわち、垂線VLaは、ベクトルVに対応する図示しない状態ベクトルの終点を結んだ線である。
そして、新規粒子設定部323bは、速度Vの閾値Vthを向きによらず設定する。すなわち、閾値Vthは、瞬時値100を中心とする円形となる。そして、新規粒子設定部323bは、閾値Vthと垂線VLaとの交点である粒子データ50aおよび粒子データ50bの間に今回の粒子データ50が配置されるように状態ベクトルSVを生成する。従って、物標の速度を考慮した粒子データ50の予測を行うことで、予測誤差を低減することができる。
なお、上記では、垂線VL上に粒子データ50を配置する場合について説明したが、垂線VLの周辺に粒子データ50を配置してもよい。かかる点について図9を用いて説明する。
図9に示すように、予測部321bは、垂線VL上の任意の点を中心とする確率密度関数Pに従って垂線VLの周辺に粒子データ50(図示略)を配置する。具体的には、確率密度関数Pは、垂線VL上の任意の点を中心とする正規分布に従う。
すなわち、新規粒子設定部323bは、縦成分RVyおよび横成分RVxの組み合わせを示す地点を中心とする確率密度関数Pに基づいて今回の粒子データ50が配置されるように状態ベクトルSVを生成する。これにより、新規物標の相対速度が変化した場合であっても、予測誤差を生じにくくすることができる。
次に、図10を用いて、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理の処理手順について説明する。図10は、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理の処理手順を示すフローチャートである。
図10に示すように、まず、検出部32aは、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて物標に対応する瞬時値100を検出する(ステップS101)。
つづいて、フィルタ処理部32bの予測部321bは、前回の粒子データ50に基づいて今回の粒子データ50を予測する予測処理を行う(ステップS102)。
つづいて、割り当て部322bは、今回の粒子データ50に今回の瞬時値100を割り当てる(ステップS103)。つづいて、割り当て部322bは、瞬時値100が所定の割り当て範囲内に存在しない新規の物標が存在するか否かを判定する(ステップS104)。
新規粒子設定部323bは、新規の物標が存在する場合(ステップS104,Yes)、新規の物標に対して初期状態の粒子データ50を設定するとともに、相対速度に基づく状態ベクトルSVの情報を与える(ステップS105)。
一方、ステップS104において、重み付け部324bは、新規の物標でない(ステップS104,No)場合、すなわち、所定の割り当て範囲内にある今回の瞬時値100に基づいて今回の粒子データ50それぞれに重み付けを行う(ステップS106)。
つづいて、リサンプリング部325bは、重み付け部324bによる重み付けに基づいて今回の粒子データ50のリサンプリングを行う(ステップS107)。つづいて、物標データ生成部326bは、リサンプリングされた今回の粒子データ50の確率密度関数を更新し、かかる確率密度関数に基づいて物標データを生成し(ステップS108)、処理を終了する。
上述してきたように、実施形態に係るレーダ装置1は、検出部32aと、フィルタ処理部32bとを備える。検出部32aは、周波数変調された送信波と物標による送信波の反射波とに基づいて物標に対応する瞬時値100を検出する。フィルタ処理部32bは、検出部32aによって検出された瞬時値100に対して所定数の粒子データ50を対応付けるパーティクルフィルタを施すことによって、瞬時値100に対応する物標データを生成する。また、フィルタ処理部32bは、前回の瞬時値100に前回の粒子データ50が割り当てられない新規の物標において、前回の瞬時値100の相対速度に基づき、物標から自車両への向きのベクトルに対する垂線に対応する位置を今回の粒子データ50の予測位置とする。これにより、新規物標に対する粒子データ50の予測精度を向上させることができる。
上述した実施形態では、レーダ装置1は車両に設けられることとしたが、無論、車両以外の移動体、たとえば船舶や航空機などに設けられてもよい。
また、上述した実施形態では、レーダ装置1の用いる到来方向推定手法の例にESPRITを挙げたが、これに限られるものではない。たとえばDBF(Digital Beam Forming)や、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、MUSIC(Multiple Signal Classification)などを用いてもよい。
また、上述した実施形態では、瞬時値100がレーダ装置1の搭載位置と同じ高さである場合、つまりXY平面上での物標検出方法について説明したが、瞬時値100の高さを考慮してもよい。かかる点について図11を用いて説明する。
図11は、変形例に係る新規粒子設定部323bの処理内容を示す図である。図11では、z軸方向を高さ方向として説明する。図11に示すように、瞬時値100がレーダ装置1の搭載位置とは異なる高さから検出された場合、相対速度を示すベクトルRVは、縦成分RVyと、横成分RVxと、高さ成分RVzとを含むこととなる。
予測部321bは、ベクトルRVを法線ベクトルとし、ベクトルRVの終端RVcを中心とする垂直面VS上に粒子データ50(図示略)を配置するように状態ベクトルSVを生成する。具体的には、予測部321bは、垂直面VSに対応する縦成分RVyと、横成分RVxと、高さ成分RVzとの組み合わせを示す状態ベクトルSVを抽出することで粒子データ50を生成する。
これにより、瞬時値100の高さがレーダ装置1の高さとは異なる場合であっても、粒子データ50の予測精度を向上させることができる。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。