以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
<光導波路>
本発明の実施形態に係る光導波路は、光を伝搬可能なコア層を備えている。コア層は、第一部分、第二部分、第三部分、第四部分、および第五部分を有している。第一部分は、第一膜厚を有する。第二部分は、第一膜厚未満の第二膜厚を有する。第三部分は、第二膜厚以下の第三膜厚を有する。言換えると、第二部分および第三部分は等しい膜厚を有していてもよい。第四部分は、第一部分と第二部分との間を接続する。第五部分は、第二部分と第三部分との間を接続する。第一部分は、回折格子部を有する。第二部分および第三部分は、光伝搬部を有する。
本実施態様に係る光導波路によれば、第一部分において光の入出力効率を向上させ且つ第二部分および第三部分において伝搬光のエバネッセント波の染出し効率を向上させながらも、コア層から外部への光の漏出を低減させ得る。したがって、本発明の実施態様に係る光導波路によれば、伝搬光のエバネッセント波の染出し効率ならびに光の入出力効率の向上を図ることが可能になる。
また、本実施態様に係る導波路によれば、第一部分は回折格子部を有し、第二部分および第三部分は光伝搬部を有する。これにより、光導波路は、光が第二部分および第三部分を伝搬する際のエバネッセント波の染出し効率と、光を第一部分から入力および出力する際の入出力効率を向上させ得る。
また、第一部分、第二部分、第三部分、第四部分、および第五部分は、長手方向に延伸するコア層の任意の位置に存在してよく、言い換えると、長手方向に延伸するコア層の端部でも中間部でもよい。なお、長手方向とは、少なくとも1方向に沿って延伸している形状の三次元構造物における、最も長く延びている方向であって、直線状の方向だけでなく、曲線状の方向を含む。また、第一部分、第二部分、第三部分、第四部分、および第五部分は、それぞれが複数存在してよい。さらに、第一部分は複数の膜による積層構造で構成されていてもよい。
なお、第一部分および第四部分の境界は、第一部分が有する回折格子部の第二部分側の端である。回折格子部の第二部分側の端とは、回折格子部を構成する凹部を画定する内壁、および回折格子部を構成する凸部を画定する外壁の少なくとも一方の中で最も第二部分側にある壁面である。また、第二部分および第四部分の境界は、第二部分から第四部分に向かって、第二膜厚からのコア層の膜厚変化量が、第四部分における第一部分側の端のコア層の膜厚と第二膜厚の差の5%変化した点とする。また、第二部分および第五部分の境界は、第二部分から第五部分に向かって、第二膜厚からのコア層の膜厚変化量が、第二膜厚と第三膜厚の差の5%変化した点とする。また、第三部分および第五部分の境界は、第三部分から第五部分に向かって、第三膜厚からのコア層の膜厚変化量が、第二膜厚と第三膜厚の差の5%変化した点とする。なお、第二部分は、実質的に第二膜厚を有する部分であり、第三部分は実質的に第三膜厚を有する部分である。
また、第三膜厚は、第二膜厚未満であってよい。また、第二部分の第二膜厚を有する部分および第三部分の第三膜厚を有する部分は、長手方向に1μm以上の長さで存在してよい。また、第四部分では、第四部分の一部において第二部分側から第一部分側へ向けて膜厚が漸次増加する傾斜部分を有してよく、他の一部において膜厚が均一な等厚部分を有してよい。なお、第四部分において、第一部分側の端から第二部分に向かって、コア層の膜厚変化量が、第四部分における第一部分側の端のコア層の膜厚と第二膜厚の差の5%以内の部分を等厚部分とみなす。または、第四部分では、第四部分のすべての部分において傾斜部分を有してもよい。さらに、第五部分において、第三部分側から第二部分側へ向けて膜厚が漸次増加していてよい。なお、第一膜厚、第二膜厚、第三膜厚、第四膜厚、第五膜厚の測定方法については、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、光導波路を第一部分、第二部分、第三部分、第四部分および第五部分のいずれかを含む断面で断面視を行い、測定する事ができる。
これにより、コア層の各部分において互いの膜厚の差が大きくなり、言換えると、良好な光の入出力効率および染出し効率を奏し得る第一部分および第三部分を有する光導波路が、容易に製造され得る。
また、第一膜厚は、(1)式により定められるカットオフ膜厚tco以上、または第二膜厚はカットオフ膜厚tco未満であってよい。好ましくは、第一膜厚はカットオフ膜厚tco以上、且つ第二膜厚はカットオフ膜厚tco未満であってよい。
(1)式において、λ0は、伝搬光の真空波長であり、ncoreはコア層の屈折率であり、ncladは、クラッド層の屈折率である。クラッド層とは、コア層よりも低屈折率の材料で構成され、コア層に接しながらコア層の周囲に存在する層である。コア層をSiで構成した場合、クラッド層としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、等が挙げられる。屈折率はそれぞれ、シリコン酸化膜:約1.4、シリコン窒化膜:約2.0である。なお、クラッド層が層として設けられず、コア層の周囲に被測定物質が直接存在する構成においては、被測定物質の存在する媒質をクラッド層とみなし、その媒質の屈折率をncladとして扱う。例えば、被測定物質が空気中の成分であればncladは空気の屈折率であり、水中の成分であればncladは水の屈折率である。また、クラッド層が複数の材料で構成される場合は、クラッド層を構成する材料の中で、屈折率が最も小さい材料の屈折率をncladとして扱ってよい。
さらに、十分にncore>ncladである構成では、カットオフ膜厚tcoは近似的に、(2)式により定められるみなしカットオフ膜厚t’ coとみなせ得る。なお、十分にncore>ncladである構成とは、(1)式の分母がncoreの8割以上となる場合を指す。
さらに、第四部分が等厚部分を有する構成において当該等厚部分の長手方向の長さは、(3)式により定められる結合長Lの4割未満であってよく、好ましくは3割未満であってよい。また、第四部部における等厚部分の長手方向の長さは、0.7μm未満であってよく、好ましくは0.5μm未満であってよい。
(3)式において、β0はコア層を伝搬する光における0次モードの伝搬方向波数、β1はコア層を伝搬する光における1次モードの伝搬方向波数である。なお、伝搬方向とは本願でいう長手方向を意味する。ただし、β0は0よりも大きく、(4)式、(5)式、(6)式、(7)式の連立方程式の解として与えられるもののうちで最小のものである。また、β1は0よりも大きく、(8)式、(9)式、(10)式、(11)式の連立方程式の解として与えられるもののうちで最小のものである。
(4)式、(5)式、(6)式、(7)式、(8)式、(9)式、(10)式、(11)式において、uおよびwは横方向規格化伝搬定数、vは規格化周波数、k0は伝搬光の真空における波数、dはコア層の膜厚である。なお、横方向とは、本願でいう膜厚方向を意味する。
後に詳述するように、第一膜厚がカットオフ膜厚tco以上であることにより、第一部分において、光の入出力効率が向上する。また、第二膜厚がカットオフ膜厚tco未満であることにより、第二部分において光が膜厚方向にシングルモードで伝搬され、第二部分と第三部分を接続する第五部分における光のモード変換ロスを抑制し得る。また、第四部分における等厚部分の長さが結合長Lの4割未満、または3割未満であること、もしくは第四部分における等厚部分の長さが0.7μm未満、または0.5μm未満であることにより、第一部分において入力した光が第二部分まで到達するまでの間に伝搬光のモード変換が抑制され、モード変換による伝搬光の低下が抑制され得る。
また、第四部分および第五部分の少なくとも一方において、漸次増加する膜厚の最大傾斜角が10°以上45°以下であってよい。
ここで第四部分における最大傾斜角は、光導波路を第一部分、第二部分、および第四部分を含む断面で断面視を行い、以下の手順で求める。また、第五部分における最大傾斜角は、光導波路を第二部分、第三部分、および第五部分を含む断面で断面視を行い、以下の手順で求める。
まず、第四部分において、水平方向(本願でいう長手方向)の寸法を、第四部分内の膜厚の高低差の5%~25%の値で分割する。また、第五部分において、水平方向(本願でいう長手方向)の寸法を、第二部分および第三部分の膜厚の差の5%~25%の値で分割する。
次に、分割された各水平区間内における第四部分および第五部分の縁の形状を一次関数で近似する。一次関数での近似については、水平区間内における第四部分および第五部分それぞれの端点同士を線分で結んだものとする。
ここで、各水平区間の一次関数のうち、水平方向に対して最も傾斜が大きい一次関数の角度を最大傾斜角と定義する。
なお、上述の最大傾斜角の算出方法については、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析により算出する事ができる。
例えば、第二部分および第三部分の膜厚の差が250nmの場合、第三部分の水平方向の寸法を12.5nm~62.5nm間隔の区間に分割し、分割された各水平区間内における第五部分の縁の形状を一次関数で近似する。そして、各区間の一次関数のうち、水平方向に対して最も傾斜が大きい一次関数の角度を最大傾斜角として算出する。
このように算出された最大傾斜角が10°以上45°以下であることにより、第四部分や第五部分において、コア層の外部への伝搬光の漏出が抑制される。その結果、エバネッセント波の染出し効率と光の入出力効率が共により優れた光導波路を提供する事が可能となる。
また、第四部分および第五部分の少なくとも一方において、漸次増加する膜厚の平均傾斜角は30°以下であってよい。
ここで第四部分の平均傾斜角は、光導波路を第一部分、第二部分、および第四部分を含む断面で断面視を行い、以下の手順で求める。また、第五部分の平均傾斜角は、光導波路を第二部分、第三部分、および第五部分を含む断面で断面視を行い、以下の手順で求める。
まず、第四部分の基板とは反対側の縁を形成する線において、第二部分側の端を始点とし、第一部分側の端を終点とする。また、第五部分の基板とは反対側の縁を形成する線において、第三部分側の端を始点とし、第二部分側の端を終点とする。
次に、前述の始点と終点を直線で結び、この直線の水平方向(本願でいう長手方向)に対する傾斜角を平均傾斜角と定義する。
例えば、第二部分および第三部分の膜厚の差が250nmの場合、第五部分の縁を形成する線において、第三部分および第五部分の境界である、第三膜厚から膜厚が12.5nm変化した点を始点とする。また、第二部分および第五部分の境界である、第二膜厚から膜厚が12.5nm変化した点を終点として、始点と終点を直線で結ぶ。その直線の水平方向に対する角度を平均傾斜角として算出する。
なお、上述の平均傾斜角の算出方法については、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析により算出する事ができる。
このように算出された平均傾斜角が30°以下であることにより、第四部分や第五部分において、コア層の外部への伝搬光の漏出がさらに抑制され、エバネッセント波の染出し効率と光の入出力効率がさらに優れた光導波路を提供する事が可能となる。
以下、光導波路を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
<コア層>
コア層は、光が伝搬可能であれば特に制限されない。具体的には、シリコン(Si)やガリウムひ素(GaAs)、ゲルマニウム(Ge)等で形成されたコア層が挙げられる。コア層は単一の材料から形成されてもよく、複数の材料が積層されて形成されてもよい。一例として、単結晶シリコンの表面に多結晶シリコンやシリコン窒化膜を形成し、その多層膜をコア層としてよい。より詳細には、例えば、単結晶シリコン上に多結晶シリコン等を体積して、その多結晶シリコン膜等に後述の回折格子部の凹部や凸部を形成したものをコア層としてもよい。ただし、後述の基板や支持部は、内部に光を伝搬させることを主機能としていないため、コア層とはみなさない。
コア層は、第一部分、第二部分、第三部分、第四部分、および第五部分を有している。第一部分は、第一膜厚を有する。第二部分は、第一膜厚未満の第二膜厚を有する。第三部分は、第二膜厚以下の第三膜厚を有する。言換えると、第二部分および第三部分は同じ膜厚を有していてもよい。第四部分は、第一部分と第二部分との間を接続する。第五部分は、第二部分と第三部分との間を接続する。第一部分は、回折格子部を有する。第二部分および第三部分は、光伝搬部を有する。
ここで第一膜厚とは、コア層が有する第一部分のうち、回折格子部が形成されている部分を断面視した際に最大とみることができる膜厚を指す。すなわち、回折格子を形成する凹凸の凹部の膜厚は第一膜厚とはならない。
また、第一部分、第二部分、第三部分、第四部分、および第五部分は、長手方向に延伸するコア層の任意の位置に存在してよく、言い換えると、長手方向に延伸するコア層の端部でも中間部でもよい。また、第一部分、第二部分、第三部分、第四部分、および第五部分は、それぞれが複数存在してよい。一例として、コア層は、光入力用の回折格子部を有する第一部分を含む第一部分から第五部分の組と、光出力用の回折格子部を有する第一部分を含む第一部分から第五部分の組と、をそれぞれ有してもよい。またこの場合、第三部分は互いに共通としてもよい。さらに、第一部分は複数の膜による積層構造で構成されていてもよい。
ここで回折格子部とは、コア層の表面に特定の周期(周期は複数であっても可)で凹凸が形成されている部分を意味する。または、凹部と凸部を含む平面で光導波路を断面視した場合に、凹凸の凹部の溝が深くなり、コア層を切り離す状態であってもよい。その場合は、凸部は不連続で島状に形成されていることになる。また、回折格子部は複数の膜による積層構造で構成されていてもよい。
第三膜厚は、第二膜厚未満であってよい。また、第二部分の第二膜厚を有する部分および第三部分の第三膜厚を有する部分は、長手方向に1μm以上の長さで存在してよい。また、第四部分では、第四部分の一部において第二部分側から第一部分側へ向けて膜厚が漸次増加する傾斜部分を有してよく、他の一部において膜厚が均一な等厚部分を有してよい。または、第四部分では、第四部分内のすべての部分において傾斜部分を有してよい。さらに、第五部分において、第三部分側から第二部分側へ向けて膜厚が漸次増加していてよい。これにより、良好な光の入出力効率および染出し効率を奏し得る第一部分および第三部分を有する光導波路が、容易に製造され得る。
第一膜厚は、(1)式により定められるカットオフ膜厚tco以上、または第二膜厚はカットオフ膜厚tco未満であってよく、好ましくは、第一膜厚はカットオフ膜厚tco以上、且つ第二膜厚はカットオフ膜厚tco未満であってよい。また、(1)式において、十分にncore>ncladである構成では、カットオフ膜厚tcoは近似的に、(2)式により定められるみなしカットオフ膜厚t’ coとみなせ得る。
さらに、第四部分が等厚部分を有する構成における当該等厚部分の長手方向の長さは、(3)式により定められる結合長Lの4割未満であってよく、好ましくは3割未満であってよい。また、第四部部における等厚部分の長手方向の長さは、0.7μm未満であってよく、好ましくは0.5μm未満であってよい。これにより、第一部分において光の入出力効率が上がる。また、これにより、第二部分および第三部分において膜厚方向にシングルモードで光が伝搬されながら、第四部分での伝搬光のモード変換が抑制され、モード変換による伝搬光の低下が抑制され得る。
第四部分および第五部分の少なくとも一方において、漸次増加する膜厚の最大傾斜角が10°以上45°以下であってよい。これにより、コア層の外部への伝搬光の漏出が抑制され、エバネッセント波の染出し効率と光の入出力効率が共により優れた光導波路を提供する事が可能となる。
第四部分および第五部分の少なくとも一方において、漸次増加する膜厚の平均傾斜角は30°以下であってよい。これにより、コア層の外部への伝搬光の漏出がさらに抑制され、エバネッセント波の染出し効率と光の入出力効率がさらに優れた光導波路を提供する事が可能となる。
回折格子部は、凹部を有してよい。凹部の深さは、光伝搬部を有する第三部分の第三膜厚よりも大きくてもよい。その理由は、エバネッセント波を効率的にコア層から染出させるためには、コア層の光伝搬部はコア層を形成する材料中での光の波長よりも十分に小さいことが好ましいが、回折格子で光を曲げる領域では、コア層を形成する材料中での光の波長に近いオーダーの寸法(ここでは溝の深さ)で回折格子が形成されていると、効率良く光を回折させることが出来るからである。つまり、回折格子部の凹部の深さをコア層の光伝搬部の膜厚よりも大きくすることは、エバネッセント波を用いたセンサのセンサ感度を向上させることに繋がる。
凹部の膜厚は、光伝搬部を有する第三部分の第三膜厚よりも大きくてもよい。その理由は、コア層からエバネッセント波を効率的に染出させるためには、コア層の光伝搬部はコア層を形成する材料中での光の波長よりも十分に小さいことが好ましいが、回折格子で光を曲げる領域では、コア層を形成する材料中での光の波長に近いオーダーの寸法(ここでは凹部の膜厚)で回折格子が存在していることで、効率良く光を回折させることが出来るからである。つまり、回折格子部の凹部の膜厚をコア層の光伝搬部の膜厚よりも大きくすることは、エバネッセント波を用いたセンサのセンサ感度を向上させることに繋がる。
回折格子部の平均膜厚は、光伝搬部を有する第三部分の第三膜厚よりも大きくてもよい。その理由は、コア層からエバネッセント波を効率的に染出させるためには、光伝搬部として機能する第三部分の膜厚はコア層を形成する材料中での光の波長よりも十分に小さいことが好ましいが、回折格子で光を曲げる領域では、コア層を形成する材料中での光の波長に近いオーダーの寸法(ここでは平均膜厚)で回折格子が存在していることで、効率良く光を回折させることが出来るからである。つまり、回折格子部の平均膜厚を第三膜厚よりも大きくすることは、エバネッセント波を用いたセンサのセンサ感度を向上させることに繋がる。なお、回折格子部の平均膜厚とは、回折格子を形成する凹凸パターンにおいて、凸部の膜厚と凸部の占有率との積と、凹部膜厚と凹部の占有率との積の平均値である。
回折格子部は凸部を有してよい。凸部の膜厚は、光伝搬部を有する第二部分の第二膜厚よりも大きくてよい。その理由は、コア層からエバネッセント波を効率的に染出させるためには、光伝搬部として機能する第二部分の第二膜厚はコア層を形成する材料中での光の波長よりも十分に小さいことが好ましいが、回折格子で光を曲げる領域では、コア層を形成する材料中での光の波長に近いオーダーの寸法(ここでは凸部の膜厚)で回折格子が存在していることで、効率良く光を回折させることが出来るからである。つまり、回折格子部の凸部の膜厚を第二膜厚よりも大きくすることは、エバネッセント波を用いたセンサのセンサ感度を向上させることに繋がる。
回折格子部は、回折格子部の膜厚方向(膜厚が増加する方向及び減少するいずれかの方向)から、光伝搬部を伝搬する光が入力されるように構成されてよい。このとき、光の入力方向が完全に膜厚方向と一致している必要はなく、膜厚方向が主方向成分であればよい。膜厚方向が主方向成分となる構成とは、光の入力方向を、膜厚方向の成分と、膜厚方向と直交する方向の成分に分配した場合に、膜厚方向の成分が最も大きくなる構成である。これにより、光が回折格子部を介して光導波路に入力され得る。膜厚方向は、光伝搬部が光を伝搬させる方向と直交してよい。
回折格子部は、回折格子部の膜厚方向(膜厚が増加する方向及び減少するいずれかの方向)に、光伝搬部を伝搬した光が出力されるように構成されてよい。これにより、光が回折格子部を介して光導波路から出力され得る。
コア層は、単結晶で形成されていてよい。これによりコア層内の結晶欠陥を低減させ、伝搬光のコア層内部での散乱を抑制し、さらに表面のラフネスも小さくなるため、伝搬損失を小さくできる。
また、コア層の少なくとも一部は、露出することにより被測定気体または被測定液体と直接接触可能に設けられていてもよい。また、コア層の少なくとも一部は、コア層を伝搬する光の真空波長の1/4よりも薄い薄膜に被覆されることにより当該薄膜を介して被測定気体または被測定液体と接触可能に設けられていてもよい。これにより、エバネッセント波と被測定気体または被測定液体を相互作用させ、被測定気体または被測定液体の濃度を測定することが可能となる。
コア層を伝搬する光はアナログ信号としての赤外線であってもよい。ここでアナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、各実施形態に係る光導波路をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空波長は2μm以上12μm以下であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6O等)が吸収する波長帯である。これにより各実施形態に係る光導波路をガスセンサとして利用することができる。
<基板>
基板は、基板上に支持部及びコア層を形成可能であれば特に制限されない。具体的には、シリコン基板やGaAs基板等が挙げられる。
<支持部>
支持部は、基板の少なくとも一部とコア層の少なくとも一部とを接続する。支持部は、基板およびコア層を接合可能であれば特に制限されないが、好ましくは任意の波長の光またはコア層を伝搬する光に対してコア層よりも屈折率が小さい材料である。一例として、支持部の形成材料として、SiO2などが挙げられる。本発明において、支持部は必須の構成ではない。コア層は支持部によって基板と接合されてもよく、基板上に直接コア層が形成されていてもよい。また、支持部が部分的に存在してもよく、コア層の少なくとも一部は、支持部に接合されておらず浮遊していてもよい。すなわち、このような構成の光導波路では、支持部が設けられた領域を除き、基板およびコア層の間には空間が形成されている。コア層の一部を浮遊させることで、エバネッセント波と被測定物質を相互作用させる量を多くさせることができ、センサ感度を向上させることができる。
支持部の形成方法の一例としては、SOI(Silicon On Insulator)基板の埋め込み酸化膜(BOX:Buried Oxide)層(SiO2層)をエッチングすることで、コア層(Si層)と基板(Si層)をBOX層で支持する構造を形成することができる。
<保護膜>
本発明の一実施態様に係る光導波路は、コア層の表面の少なくとも一部に形成されて膜厚が1nm以上20nm未満であり、屈折率が前記コア層を形成する材料よりも小さい保護膜をさらに備えてもよい。保護膜の膜厚が1nm以上であることで、コア層の表面に自然酸化膜が形成されることを抑制することが可能となる。また、保護膜の膜厚が20nm未満であることで、コア層から染み出すエバネッセント波と周囲の気体または液体との相互作用量を大幅に低減させることがない。これにより、コア層から染み出すエバネッセント波と周囲の気体または液体との相互作用量を大幅に低減させることなく、コア層の表面状態の変化を防止することが可能となる。
膜厚の下限としては、2nmであってよく、膜厚の上限としては、5nmであってよい。
保護膜として、具体的にはシリコン窒化膜やシリコン酸窒化膜等が挙げられる。保護膜は、単層の膜であってもよく、また複数の膜で有する積層膜であってもよい。
また、保護膜は窒素を含んでいてもよい。これにより、コア層の酸化をより抑制することが可能となる。窒素を含む膜は、単層膜であってもよいし、窒素を含む膜と窒素を含まない膜との積層膜であってもよい。保護膜の窒素含有率が高い程、酸化抑止効果が高くなる。保護膜は、窒素を含む膜の少なくとも一部の領域において、1%以上の窒素含有率をもつ膜であってもよい。
例えばコア層がシリコンで形成される場合、保護膜の材料としてはシリコン窒化膜やシリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜であってもよい。窒素を含む膜は酸化を抑制する効果がある。また、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜は、シリコンよりも屈折率が十分に小さいためクラッド層の形成材料としても優れている。さらに、特にシリコン窒化膜やシリコン酸窒化膜は、赤外線の吸収も少ない。これにより、コア層の表面に保護膜を形成した場合に、被測定気体または被測定液体の検出感度の低下を抑えられる。
保護膜の形成方法としては、熱化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法による堆積や酸化処理といった方法を用いることが可能である。保護膜は、シリコン窒化膜の場合は熱CVD法による堆積処理を用いて形成することができ、シリコン酸窒化膜の場合はNOやN2Oを含む雰囲気下での酸化処理によって形成することができる。
<光学式濃度測定装置>
本発明の一実施形態に係る光学式濃度測定装置は、本発明の一実施形態に係る光導波路と、コア層に光を入射可能な光源と、コア層を伝搬した光を受光可能な検出部と、を備える。
以下、光学式濃度測定装置を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
<光源>
光源は、コア層に光を入射可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には光源として、白熱電球やセラミックヒータ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータや赤外線LED(Light Emitting Diode)などを用いることができる。光源は光導波路と光接続可能な形態であればどのような配置でもよい。例えば、光源は、光導波路と同じ個体内に光導波路に隣接して配置してもよいし、別の個体として光導波路から一定の距離を置いて配置してもよい。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には光源として、水銀ランプや紫外線LEDなどを用いることができる。また、ガスの測定にX線を用いる場合には光源として、電子ビームや電子レーザーなどを用いることができる。
光学式濃度測定装置に備えられる光導波路のコア層を伝搬する光は、アナログ信号としての赤外線であってもよい。ここで、アナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、光学式濃度測定装置をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空波長は2μm以上12μm以下であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6Oなど)が吸収する波長帯である。これにより本実施形態に係る光学式濃度測定装置をガスセンサとして利用することができる。
<検出部>
検出部は、光導波路のコア層を伝搬した光を受光可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には検出部として、焦電センサ(Pyroelectric sensor)、サーモパイル(Thermopile)あるいはボロメータ(Bolometer)などの熱型赤外線センサや、ダイオードあるいはフォトトランジスタなどの量子型赤外線センサなどを用いることができる。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には検出部として、ダイオードやフォトトランジスタ等の量子型紫外線センサなどを用いることができる。また、ガスの測定にX線を用いる場合には検出部として、各種半導体センサを用いることができる。
<実施形態>
本発明の一実施形態に係る光導波路について図1から図20を用いて説明する。まず、本実施形態に係る光導波路10および光導波路10を備える光学式濃度測定装置1並びにこれらを用いたATR法による被測定物質の検出方法について図1から図15を用いて説明する。
図1は、本実施形態による光学式濃度測定装置1の概略構成を示す図であるとともに、本実施形態による光導波路10を利用したATR法の概念図でもある。図1に示すように、光学式濃度測定装置1は、濃度などを検出するガスが存在する外部空間2に設置されて使用される。光学式濃度測定装置1は、本実施形態による光導波路10と、光導波路10に備えられたコア層11に光(第1実施形態では赤外線IR)を入射可能な光源20と、コア層11を伝搬した赤外線IRを受光可能な光検出器(検出部の一例)40とを備えている。
光導波路10は、基板15と、赤外線IR(光の一例)が伝搬可能なコア層11と、基板15の少なくとも一部とコア層11の少なくとも一部を接続し基板15に対してコア層11を支持する支持部17とを備えている。コア層11および基板15は例えばシリコン(Si)で形成され、支持部17は例えば二酸化ケイ素(SiO2)で形成されている。基板15および支持部17は例えば板状を有している。
コア層11は、第一部分11a、第二部分11b、第三部分11c、第四部分11d、および第五部分11eを有している。第一部分11aは、第一膜厚を有する。第二部分11bは、第一膜厚未満の第二膜厚を有する。第三部分11cは、第二膜厚未満の第三膜厚を有する。第四部分11dは、第一部分11aと第二部分11bとの間を接続する。第五部分11eは、第二部分11bと第三部分11cとの間を接続する。
本実施形態において、第一部分11aは、コア層11の両端のそれぞれからコア層11の長手方向の中心に向かう一定の領域である第一領域に設けられている。第一部分11aは、コア層11の2箇所に設けられている。第一部分11aの第二部分11b側の端は、後述するグレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119の第四部分11d側の端である。グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119の第四部分11d側の端とは、図2に示すように、グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119を構成する凹部を画定する内壁の中で最も第二部分11b側の壁面である。または、グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119の第四部分11d側の端とは、図3に示すように、グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119を構成する凸部を画定する外壁の中で最も第二部分11b側の壁面である。
本実施形態において、第二部分11bは、第一の領域よりもコア層11の長手方向の中心側に寄った位置からコア層11の長手方向の中心に向かう一定の領域である第二領域に設けられている。第二部分11bは、コア層11の2箇所に設けられており、第二膜厚を有する部分は長手方向に1μm以上の長さで存在している。図2、3に示すように、第二部分11bの第一部分11a側の端は、第四部分11dの第一部分11a側の端の膜厚と第二膜厚との差Δ1の5%に相当する膜厚が、第二膜厚から増加した箇所である。また、図4に示すように、第二部分11bの第三部分11c側の端は、第二膜厚と第三膜厚との差Δ2の5%に相当する膜厚が、第二膜厚から減少した箇所である。
第三部分11cは、コア層11の長手方向の中心から両端部に向かう一定の領域である第三領域に設けられている。第三部分11cは、コア層11の1箇所に設けられており、第三膜厚を有する部分は長手方向に1μm以上の長さで存在している。図4に示すように、第三部分11cの第二部分11b側の端は、第二膜厚と第三膜厚との差Δ2の5%に相当する膜厚が、第三膜厚から増加した箇所である。
第四部分11dは、第一領域および第二領域の間の一定の領域である第四領域に設けられている。第四部分11dもコア層11の2箇所に設けられている。図2、3に示すように、第四部分11dは、膜厚が小さな第二部分11b側から膜厚が大きな第一部分11a側へ向けて膜厚が漸次増加する傾斜部分11d1を一部に有する。さらに、第四部分11dは、傾斜部分11d1よりもさらに第一部分11a側に、傾斜部分から第一部分11a側に向かって膜厚が一定である等厚部分11d2を有する。等厚部分11d2の第二部分11b側の端は、第四部分11dの第一部分11a側の端の膜厚と第二膜厚の差Δ1の5%に相当する膜厚が、第四部分11dの第一部分11a側の端の膜厚から減少した箇所である。
第五部分11eは、第二領域および第三領域の間の一定の領域である第五領域に設けられている。第五部分11eもコア層11の2箇所に設けられている。第五部分11eでは、膜厚が小さな第三部分11c側から膜厚が大きな第二部分11b側へ向けて膜厚が漸次増加する。詳細は後述するが、第四部分11dおよび第五部分11eでは、最大傾斜角が10°以上45°以下となるように形成されている。また、第四部分11dおよび第五部分11eは、平均傾斜角が30°以下に形成されている。
なお、第二膜厚および第三膜厚は等しくてもよく、等しい構成においては、図5に示すように、第二部分11b、第五部分11e、および第三部分11cは、同じ膜厚を有する部分として共通化されている。
光導波路10は、コア層11の長手方向の一端に形成されたグレーティングカプラ(回折格子部の一例)118、および他端に形成されたグレーティングカプラ(回折格子部の一例)119を有する。グレーティングカプラ118は、光源20の出射方向に配置されている。なお、本実施形態では、光導波路10は、積層方向が鉛直方向に平行であり、基板15の主面が鉛直下方と直交するように設置されている。基板の主面とは、基板の板厚方向に垂直な表面であって、さらに言換えると、本実施態様において、基板を形成する6面の中で、面積が最大である面である。すなわち、光源20の出射方向とは、このように光導波路10が設置された状態における、光源20の鉛直下方である。この回折格子部は、光源20から入射する赤外線IRをコア層11に結合するようになっている。したがって、グレーティングカプラ118の膜厚方向から、コア層11を伝搬する光が入力される。グレーティングカプラ119は、光検出器40に対向する方向に配置されている。なお、光検出器40に対向する方向とは、上述のように光導波路10が設置された状態における、光検出器40の鉛直下方である。この回折格子部は、コア層11を伝搬する赤外線IRを取出して光検出器40に向けて出射するようになっている。したがって、グレーティングカプラ119の膜厚方向に、コア層11を伝搬する光が出力される。
グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119は、例えば、図1、図2に示すように、平板の主面に凹部12dを設けることにより形成してよい。このような構成において、第一膜厚は凹部12dが設けられる平板そのものの膜厚である。また、グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119は、例えば、図3に示すように、平板の主面に凸部12cを設けることにより形成してよい。このような構成において、第一膜厚は凸部12cの膜厚である。
このように、光源20側(光入射側)に配置される第一部分11aは、グレーティングカプラ118を有し、光検出器40側(光出射側)に配置される第一部分11aは、グレーティングカプラ119を有している。また、第二部分11bおよび第三部分11cは、グレーティングカプラ118から入射してグレーティングカプラ119から出射される赤外線IRが伝搬する光伝搬部を有している。コア層11から染出すエバネッセント波EWは主に、光伝搬部を有する第二部分11bおよび第三部分11cにおいて外部空間2に存在する被測定物質に吸収される。
ここで、コア層11についてより詳細に説明する。本実施形態に係る光導波路10を適用したATR法を用いたセンサでは、エバネッセント波を被測定物質と相互作用させる領域は、膜厚の薄いコア層を形成して、コア層の周りに染出すエバネッセント波の量を増やすことが望ましい。一方、光をコア層に導入したり、コア層から取出したりする場合には、コア層に回折格子を形成する必要があるが、中赤外領域の光を効率良く曲げる場合、回折格子を形成する領域のコア層の膜厚や回折格子の溝の深さは、ある程度の厚みが必要である。
そこで、図1に示すように、本実施形態に係る光導波路10では、コア層11は、エバネッセント波EWを染出させて外部空間2に存在する被測定物質と相互作用させることを目的とした領域(第二領域および第三領域)には、膜厚が薄く形成された第二部分11bおよび第三部分11cを有している。一方、コア層11は、光(本実施形態では赤外線IR)を導入することを目的とした領域(第一領域)、および光を取出すことを目的とした領域(第一領域)には、第二領域および第三領域それぞれの第二部分11bおよび第三部分11cよりも膜厚が厚く形成された第一部分11aを有している。第一部分11aの表面には、回折格子(グレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119)を形成するための溝が掘られている。第一部分11aの膜厚は、例えば約1000nmである。第二部分11bの膜厚は、例えば約500nmであり、第一部分11aの膜厚未満である。コア層11をシリコンで構成し真空波長が4μmの赤外線を伝搬させる場合、第一部分11aの膜厚は、みなしカットオフ膜厚t’co(伝搬する光の真空波長をコア層11の屈折率3.4で除した値の半値:588nm)以上であり、また第二部分11bの膜厚は、みなしカットオフ膜厚t’co未満となる。第三部分11cの膜厚は例えば約250nmであり、第二部分11bの膜厚未満である。また、グレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119の溝の深さは、例えば約600nmである。
コア層11は、第一領域および第二領域の間の領域である第四領域に、第四部分11dを有している。第四部分11dは、第一部分11aと第二部分11bとを接続する接続部としての機能を発揮するようになっている。第四部分11dの一部である傾斜部分11d1は、第二部分11bが設けられた第二領域側から第一部分11aが設けられた第一領域側に向かって、膜厚が緩やかな傾斜をもって厚くなっていてもよい。第四部分11dの、傾斜部分11d1よりもさらに第一部分11a側の等厚部分11d2では、膜厚が一定である。なお、第四部分11dは、第二部分11bが設けられた第二領域側の端から第一部分11aが設けられた第一領域側の端に向かう全領域に亘って、膜厚が緩やかな傾斜をもって厚くなっていてもよい。
コア層11は、第二領域および第三領域の間の領域である第五領域に、第五部分11eを有している。第五部分11eは、第二部分11bと第三部分11cとを接続する接続部としての機能を発揮するようになっている。第五部分11eは、第三部分11cが設けられた第三領域から第二部分11bが設けられた第二領域に向かって、膜厚が緩やかな傾斜をもって厚くなっていてもよい。
また、コア層11の表面は、グレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119の溝が形成されている箇所を除き、膜厚傾斜がある領域も含めて可能な限りラフネスが小さくてもよい。具体的には、コア層の表面(本実施形態ではコア層の上面側の表面)において、表面ラフネスのRMS値が1nm以下であってよい。コア層11の表面に急峻な膜厚変化がある場合、膜厚の厚い領域から膜厚の薄い領域に光が伝搬する時に、コア層11から外部に漏れ出ていく光が多くなる。
ところで、ATR法を用いた従来の光導波路を備える光学式濃度測定装置は、本実施形態による光学式濃度測定装置1と同様に、一方のグレーティングカプラから赤外線を光導波路のコア層に導入し、コア層を伝搬させて、もう一方のグレーティングカプラ側から取出し、その先にある光検出器で赤外線の量を検出するという構成を有している。ATR法を用いたセンサでは中赤外領域の波長を取り扱うことが多く、中赤外領域の赤外線に対しては、エバネッセント波を染出させることを目的としたコア層と、回折格子により光を取出すことを目的としたコア層とでは、最適なコア層膜厚が大きく異なる。
具体的には、例えばシリコンをコア層として用いる光導波路では、エバネッセント波を効率的に染出させるために、コア層の膜厚を200nm程度に薄く形成することがある。一方、膜厚200nmは、中赤外領域の赤外線を効率よく取出すための回折格子の膜厚としては薄すぎる。例えばシリコンコア層の屈折率が3.4とし、コア層を伝搬させる赤外線の真空波長が4μmの場合、非特許文献1に記載の方法で回折格子を設計すると、回折格子を形成する領域のコア層の膜厚は約590nmが最適膜厚となる。膜厚590nmは、エバネッセント波を効率的に染出させるコア層膜厚と大きく異なる。すなわち、エバネッセント波を染出させることを目的とした薄膜のコア層に、そのまま回折格子を形成すると、光の取出し効率が悪くなってしまう。
また、例えば伝搬させる赤外線の真空波長が4μmとし、特許文献2に記載の方法で回折格子の溝の深さを設計すると、約390nmの溝の深さが最適値となる。この値は、上述のとおり、エバネッセント波を効率的に染出させるためのコア層膜厚である200nmよりも大きくなる。このため、上述の条件では、エバネッセント波を染出させることを目的とした薄膜のコア層に、光取出し効率が最適となる溝の深さの回折格子を形成することが出来ない。
上述の2つのいずれの例においても、エバネッセント波を染出させることを目的とした薄膜のコア層に、光取出し効率が最適となる回折格子を形成することができないという問題がある。一方、光取出し効率が最適となる回折格子が形成できるコア層では、エバネッセント波を効率的に染出させることができないという問題がある。このように、従来の光導波路では、エバネッセント波の染出し効率と、回折格子の光の入出力効率とはトレードオフの関係にあり、両立させることが困難であるという問題がある。
これに対して、本実施形態による光導波路10は、赤外線IRのエバネッセント波の染出しに適した膜厚を有する第二部分11bおよび第三部分11cと、赤外線IRの入出力に適した膜厚および溝の深さのグレーティングカプラ119を有する第一部分11aと、第一部分11aおよび第二部分11bの間を低損失に光を伝搬可能に調整された第四部分11dと、第二部分11bおよび第三部分11cの間を低損失に光を伝搬可能に調整された第五部分11eとを有するコア層11を備えている。これにより、光導波路10は、従来の光導波路の上記問題を解決し、伝搬光のエバネッセント波の染出し効率および光の入出力効率の向上を図ることが可能となる。
ここで、光伝搬部(第二部分11bおよび第三部分11c)における膜厚について説明する。コア層11において、光を伝搬し且つエバネッセント波を被測定物質と相互作用させる部分(第二部分11bおよび第三部分11c)では、空間へ染み出すエバネッセント波の量を多くさせるために、膜厚を薄くする必要がある。具体的には、TEモードにおける三層対称スラブ導波路においては、コア層11の光伝搬部の膜厚を上記(1)式で与えられるカットオフ膜厚値tco未満とすることで、当該光伝搬部の膜厚は光波の山ひとつ分のサイズより小さくなり、膜厚方向には光波を閉じ込めることができなくなる。その結果、光伝搬部において、空間に多くのエバネッセント波を染み出させることができる。
特に(1)式において、十分にncore>ncladである構成において、近似的に(2)式が成り立ち、これは、みなしカットオフ膜厚t’coがコア中の波長の半分の長さ、つまり波の山ひとつ分の大きさである物理描像をあらわす。
また、このように膜厚をカットオフ膜厚tco未満にする構成では、光波はコア層11の光伝搬部内に許容されるスペースが山ひとつ分未満の大きさしかないため、必然的に膜厚方向には山がひとつの状態、つまり膜厚方向にシングルモード(0次モード)となる。
図6は、三層対称スラブ導波路にTEモードの光を伝搬させた場合において、カットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’coと伝搬光の真空波長との関係を、クラッドの屈折率別に示したグラフである。なお、図6は、コアの屈折率を3.4(シリコンの屈折率相当)、クラッドの屈折率を2.0(シリコン窒化膜の屈折率相当)、1.4(シリコン酸化膜の屈折率相当)、1.0(空気の屈折率相当)別に当該関係を示している。また、図6は、クラッドの屈折率をゼロとみなしたカットオフ膜厚と伝搬光と真空波長との関係も示している。図6中に示す◇印は、各真空波長の光に対するncore:3.4、nclad:2.0の構成のカットオフ膜厚tcoを表し、図6中に示す□印は、各真空波長の光に対するncore:3.4、nclad:1.4の構成のカットオフ膜厚tcoを表し、図6中に示す△印は、各真空波長の光に対するncore:3.4、nclad:1.0の構成のカットオフ膜厚tcoを表し、図6中に示す〇印は、各真空波長の光に対するみなしカットオフ膜厚t’coを表している。本実施形態に係る光導波路10が三層対称スラブ導波路でない一般的な構成では、上記カットオフ膜厚tcoおよび、みなしカットオフ膜厚t’coを解析的に明示するのは困難である。しかし、有限要素法、FDTD法などの種々の数値解法を用いることによって、シングルモード伝播からマルチモード伝播へ遷移する膜厚は判然と求めることができる。この遷移する膜厚未満の光伝搬部の膜厚であることにより、空間に多くのエバネッセント波を染み出させることができる。
一方、光をコア層11に入出力する部分(第一部分11a)においては、光が膜厚方向にマルチモードで伝搬できる膜厚(膜厚方向に複数の伝搬モードが存在できる膜厚)以上とすることで、光の入出力効率が上がっていく。すなわち、回折格子部(グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119)を有する第一部分11aにおいては、コア層11の膜厚が(1)式または(2)式でそれぞれ与えられるカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co以上であることが好ましい。つまり、第一部分11aの第一膜厚をカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co以上、第二部分11bの第二膜厚および第三部分11cの第三膜厚をカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co未満とすることで、第一部分11aにおいて光の入出力効率が上がり、また第二部分11bおよび第三部分11cにおいてエバネッセント波と被測定物質を相互作用させる量を多くさせることができ、センサ感度を向上させることができる。
次に、コア層11において、光伝搬部と回折格子部との間の部分(第四部分11d)について説明する。回折格子部(グレーティングカプラ118、レーティングカプラ119)を有する第一部分11aにおいて、コア層11の膜厚を(1)式または(2)式でそれぞれ与えられるカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co以上で形成すると、光を導入してから光伝搬部に到達するまでの間、または光伝搬部から光を取出す領域に到達するまでの間に、膜厚方向においてマルチモード伝搬が生じうる。図7は、第四部分11dの等厚部分11d2の長さを長めにとった場合の、第一部分11aから第四部分11dに向かって伝搬していく赤外線IRの様子を表している。第四部分11dにおいて、コア層11の膜厚がカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co以上である部分の長さが結合長L以上長く存在すると、赤外線IRは、膜厚方向においてマルチモードで伝搬していく。前述のように、第二部分11bおよび第三部分11cは膜厚方向においてシングルモード伝播であることが望ましいが、マルチモード伝搬からシングルモード伝搬およびシングルモード伝搬からマルチモード伝搬への接続は、一般に反射や放射損失を伴い効率が悪く、伝搬する光の量が減少する。伝搬する光の量が減少すると、センサの感度が低下する。それゆえ、光伝搬部においては、モード変換を生じさせないことが望ましい。
そこで、本実施形態に係る光導波路10では、光を導入する部分または光を取出す部分(第一部分11a)と、光を伝搬する部分(第二部分11b)との間の部分(第四部分11d)において、第一部分11a側の端から第二部分11b側に向かって膜厚が一定である部分の長さを、伝搬光が0次モードから1次モードへ遷移する長さである結合長Lの4割未満、より好ましくは3割未満にすること、もしくは0.7μm未満、より好ましくは0.5μm未満にすることにより、膜厚方向において、第一部分11aから入射されるモードから大部分が変換せずに、光を第一部分11aから第二部分11b、もしくは第二部分11bから第一部分11aに伝搬させることができる。具体的には、TEモードにおける三層対称スラブ導波路においては、第四部分11dの等厚部分11d2の長さを、(3)式で与えられる結合長Lの4割未満、より好ましくは3割未満にすること、もしくは0.7μm未満、より好ましくは0.5μm未満にすることにより、モードが膜厚方向においてシングルモードからマルチモードに変換せずに、光を第一部分11aから第二部分11b、もしくは第二部分11bから第一部分11aに伝搬させることができる。すなわち、第四部分11dにおいて、伝搬光の損失を抑えた第一部分11aと第二部分11bの接続が可能となる。
図8は、d:1μm、ncore:3.4、nclad:1.0の構成における三層対称スラブ導波路にTEモードの光を伝搬させた場合において、伝搬光の真空波長と、結合長または伝搬方向波数との関係を示したグラフである。なお、図8において結合長は、前述のように、(3)式により求められている。また、図8において伝搬方向波数に関しては、0よりも大きく(4)式、(5)式、(6)式、(7)式の連立方程式の解として与えられるもののうちで最小のものである0次モードの伝搬方向波数β0、および0よりも大きく(8)式、(9)式、(10)式、(11)式の連立方程式の解として与えられるもののうちで最小のものである1次モードの伝搬方向波数β1別に当該関係が示されている。図8中に示す◇印は左縦軸を参照し、各真空波長の光に対する結合長Lを表している。図8中に示す□印は右縦軸を参照し、各真空波長の光に対する0次モードの伝搬方向波数β0を表している。図8中に示す△印は右縦軸を参照し、各真空波長の光に対する1次モードの伝搬方向波数β1を表している。図8からわかるように、真空波長が長波長になった場合でも、結合長Lは約1.7μmで飽和する。すなわち、結合長Lの最小値は1.7μmである。本実施形態に係る光導波路10が三層対称スラブ導波路でない一般的な構成では、0次モードの伝搬方向波数β0、1次モードの伝搬方向波数β1、およびそれらから求められる結合長Lを解析的に明示するのは困難である。しかし、有限要素法、FDTD法、BPMなどの種々の数値解法を用いることによって、β0、β1、結合長Lは判然と求めることができる。
図9は、ncore:3.4、nclad:1.0の構成における三層対称スラブ導波路にTEモードの光を伝搬させた場合において、第四部分11dの等厚部分11d2の長さに対する、第四部分11dにおける伝搬光(真空波長4.2μm)の伝搬効率を示したシミュレーション結果である。なお、図9の縦軸は、最大値で規格化している。シミュレーションでは、第四部分11dの等厚部分11d2の膜厚を1μm、第二部分11bの第二膜厚を0.5μm、傾斜部分11d1を、一定の傾斜角度45°で構成した構造を用いた。なお、(6)式、(7)式、(10)式、(11)式におけるコア層の膜厚dは、本実施形態において、第四部分11dの等厚部分11d2の膜厚となる。横軸は、第四部分11dの等厚部分11d2の長さを結合長Lに対する倍率で表現している。図10は、第四部分11dの等厚部分11d2の長さを、結合長Lの5割、4割、3割、2割と変化させた構成のそれぞれにおいて、赤外線IR(真空波長4.2μm)の伝搬する様子を示している。図9、図10に示すように、第四部分11dの等厚部分11d2の長さを、結合長Lの4割未満、より好ましくは3割未満にすることにより、第四部分11dにおいて損失を抑えた伝搬が可能となる。結合長Lが最小値(1.7μm)となる場合においては、結合長Lの4割は0.7μmに相当し、結合長Lの3割は0.5μmに相当する。なお、図9、図10のシミュレーションにおける結合長Lの値は約1.8μmである。
以上説明したように、本実施形態による光導波路10では、第一部分11aの第一膜厚はカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co以上、第二部分11bの第二膜厚および第三部分11cの第三膜厚はカットオフ膜厚tcoまたはみなしカットオフ膜厚t’co未満であり、第四部分11dの等厚部分11d2の長さは結合長Lの4割未満、より好ましくは3割未満、もしくは0.7μm未満、より好ましくは0.5μm未満である。これにより、光導波路10は、伝搬光の入出力効率、伝搬効率、エバネッセント波の染出し効率の向上を図ることが可能となる。
ここで、膜厚が漸次変化する部分において、コア層の傾斜角度に対するコア層から外部に漏れ出る光の光量について図11および図12を用いて説明する。図11および図12は、真空波長4.26μmの赤外線を、膜厚750nmのコア層から膜厚250nmのコア層に伝搬させた時のシミュレーション結果である。図11中上段および図12中上段には、シミュレーションに用いたコア層の概略形状が図示され、図11中下段及び図12中下段には、コア層を伝搬する赤外線の状態が図示されている。図11中下段および図12中下段に示す図では、図中、右から左に向かって赤外線をコア層に伝搬させた状態が示されている。図11は、膜厚傾斜のある接続部(例えば、第五部分11e)の水平距離(すなわち長手方向の距離)を500nmとし、膜厚250nmの第三部分11cから膜厚750nmの第二部分11bにかけてサイン波で接続した場合の結果を示す図である。第五部分11eの最大傾斜角は、約58°であり、平均傾斜角は45°である。図12は、接続部(例えば、第五部分11e)の水平距離(すなわち長手方向の距離)を2000nmとし、膜厚250nmの第三部分11cから膜厚750nmの第二部分11bにかけてサイン波で接続した場合の結果を示す図である。第五部分11eの最大傾斜角は21°であり、平均傾斜角は14°である。
図11および図12を比較すると、コア層の外部に漏れ出ていく光の量は、第五部分11eにおいて急峻な膜厚変化が起こり傾斜角の大きい図11に示す状態の方が多いことがわかる。
次に、接続部(例えば、第五部分11e)の形状をサイン波形状から1次関数形状に徐々に変化させることで最大傾斜角と平均傾斜角を変化させ、様々な傾斜角において、コア層外部に漏れ出る光の割合(図13の説明では「漏れ光割合」と称する場合がある)を調査したシミュレーション結果を図13に示す。横軸は接続部の最大傾斜角(°)を示し、縦軸は漏れ光割合(%)を示している。図13中に示す◇印は、接続部の平均傾斜角が45°での漏れ光割合を表し、図13中に示す□印は、接続部の平均傾斜角が27°での漏れ光割合を表している。図13中に示す△印は、接続部の平均傾斜角が18°での漏れ光割合を表し、図13中に示す×印は、接続部の平均傾斜角が14°での漏れ光割合を表し、図13中に示す*印は、接続部の平均傾斜角が11°での漏れ光割合を表している。平均傾斜角のそれぞれにおいて、漏れ光割合の結果が5個表されている。図13では、同じ平均傾斜角同士では、5個の漏れ光割合の結果のうち、右側にあるほどサイン波形状に近く、左側にあるほど1次関数形状に近いものとなっている。なお、1番右側はサイン波形状と等しく、1番左側は1次関数形状と等しい。
図13より分かるように、コア層の外部に漏れ出ていく光の割合は、異なる膜厚間の接続部の最大傾斜角にほぼ依存し、最大傾斜角が45°以下になる領域から減少していく。また、最大傾斜角は10°まで小さくすることで、外部に漏れ出る光量が1%以下になり、膜厚傾斜部での漏れの影響をほとんど無くすことが出来る。接続部の傾斜を緩やかにし過ぎると、第二部分11bおよび第三部分11cの膜厚差をつけるために必要なスペース(長さ)が多く必要になるため、最大傾斜角が10°未満の状態は逆に好ましくない。
また、平均傾斜角の影響もある。最大傾斜角が45°以下の領域において、同程度の最大傾斜角同士の点を比べる平均傾斜角が小さい方が、コア層外部に漏れ出る光の割合が小さくなる。この効果は平均傾斜角が30°以下の時に見られてくる。
次に、コア層の膜厚の薄い領域から膜厚の厚い領域に光を伝搬させ、その先にグレーティングカプラが形成されている系や、コア層が終端されている系について考える。図14に示すように、グレーティングカプラ119では、光(赤外線IR)を様々な方向に散乱させるため、例えば領域α1において、必ず逆方向に伝搬する反射光RLが存在している。また、コア層11の終端部(領域α2)でも反射光RLは必ず発生する。このとき、これらの反射光RLは、コア層11の膜厚の厚い領域(第一部分11a)から膜厚の薄い領域(第二部分11b)を介して、さらに膜厚の薄い領域(第三部分11c)に向かって伝搬することになるため、最大傾斜角が急峻であると、第一部分11aから第二部分11bに、および第二部分11bから第三部分11cに赤外線IRを伝搬させるときと同様に、外部に漏出ていく量が増えてしまう。したがって、膜厚の異なるコア層11を接続する領域では、最大傾斜角を10°以上45°以下としてよく、平均傾斜角を30°以下としてもよい。
一方、コア層11の表面のラフネスも非常に重要である。コア層11の表面にラフネスの大きい領域があると、コア層11を伝搬する赤外線IRが乱反射してコア層11の外に漏れ出てしまうためである。詳細は後述するが、本実施形態では、第四部分11dおよび第五部分11eの形成に、図15に示すような、熱酸化時に形成されるいわゆるバーズビークを利用している。熱酸化法を用いているため、第四部分11dおよび第五部分11eに非常に緩やかな傾斜を持たせながら、コア層の表面(本実施形態では上面側の表面)において、表面ラフネスの小さいコア層表面を実現することが出来る。具体的には、表面ラフネスのRMS値が1nm以下のコア層表面を実現することが可能である。表面ラフネスは原子間力顕微鏡(AFM)を用いることで測定可能である。
なお、上述の、膜厚が変化する部分でのコア層から外部に漏れ出る光の説明では、おもに第五部分11eの膜厚が例として用いられたが、第四部分11dの膜厚においても、同様に適用され得る。
以上のことから、第四部分11dおよび第五部分11eの最大角度は10°以上45°以下であってよく、10°以上30°以下であってもよい。また、第四部分11dおよび第五部分11eの平均傾斜角は30°以下であってもよい。さらに、コア層11は結晶欠陥の少ない単結晶であってもよい。結晶欠陥の少ない単結晶であることで、コア層11の内部での伝搬光の散乱が抑えられ、さらに表面のラフネスも小さくなるため、コア層11の伝搬損失を小さく出来る。
以上説明したように、コア層11の表面に最大傾斜角が10°以上45°以下の傾斜をつけ、第三部分11cに対して第二部分11bの膜厚を厚く、また第二部分11bに対して第一部分11aの膜厚を厚く形成することで、コア層11の外部に期待せずに漏出していく光を抑制し、ATR法によるセンサの性能を向上させることができる。
<光導波路および光学式濃度測定装置の製造方法>
次に、本実施形態に係る光導波路および光学式濃度測定装置の製造方法について、図1を参照しつつ、図16から図20を用いて説明する。図16から図20は、光導波路10の製造工程断面図を示している。光導波路10は、1枚の支持基板150に同時に複数の光導波路主要部を形成した後に個片化して製造される。図16から図20では、形成される複数の光導波路のうちの1つの光導波路のみの製造工程が図示されている。
まず、シリコンで形成され最終的に基板15となる支持基板150と、シリコンで形成されコア層11が形成される活性基板110のいずれか一方、または両方にSiO2膜を形成し、このSiO2膜を挟むようにして支持基板150および活性基板110を貼り合わせて熱処理して結合する。その後、活性基板110を所定の厚さまで研削・研磨するなどして活性基板110の膜厚を調整する。これにより、支持基板150と、支持基板150上に形成されたBOX層170と、BOX層170上に形成された活性基板110とを有し、「シリコン-絶縁層-シリコン」構造を有するSOI基板100が形成される。
次に、SOI基板100の表面にシリコン酸化膜60を形成し、シリコン酸化膜60の表面にシリコン窒化膜を形成する。次に、シリコン酸化膜60上に形成されたシリコン窒化膜に対して、リソグラフィ技術、エッチング技術およびアッシング技術を施して、図16に示すように、ハードマスク80を形成する。ハードマスク80が形成される領域は、最終的にコア層11の第一部分11aおよび第四部分11dの一部のそれぞれが形成される第一領域および第四領域の一部(図1参照)に相当する。ハードマスク80を開口させてシリコン酸化膜60が露出している領域は、最終的にコア層11の第二部分11b、第三部分11c、第四部分11dの一部、および第五部分11eのそれぞれが形成される第二領域、第三領域、第四領域の一部、および第五領域(図1参照)に相当する。
次に、図17に示すように、例えば800℃以上の水蒸気を含む酸素雰囲気下で、ハードマスク80が形成されたSOI基板100を熱酸化する。このとき、最終的に第一部分11aが形成される第一領域と最終的に第二部分11bが形成される第二領域の接続部にあたり、最終的に第四部分11dが形成される第四領域(図1参照)にバーズビーク65が形成される。バーズビーク65の形状は、ハードマスク80として用いるシリコン窒化膜の膜厚によってある程度、制御できる。当該シリコン窒化膜の膜厚を薄くすると、バーズビーク65の底面の傾斜角を緩やかにすることが出来る。
次に、熱リン酸により、ハードマスク80を除去する。その後、フッ酸などを用いてシリコン酸化膜60を除去する。シリコン酸化膜60の除去後、再び、SOI基板100の表面にシリコン酸化膜61を形成し、シリコン酸化膜61の表面にシリコン窒化膜を形成する。次に、シリコン酸化膜61上に形成されたシリコン窒化膜に対して、リソグラフィ技術、エッチング技術およびアッシング技術を施して、図18に示すように、ハードマスク81を形成する。ハードマスク81が形成される領域は、最終的にコア層11の第一部分11a、第二部分11b、第四部分11d、および第五部分11eの一部のそれぞれが形成される第一領域、第二領域、第四領域、および第五領域の一部(図1参照)に相当する。ハードマスク81を開口させてシリコン酸化膜61が露出している領域は、最終的にコア層11の第三部分11cおよび第五部分11eの一部のそれぞれが形成される第三領域および第五領域の一部(図1参照)に相当する。
次に、図19に示すように、例えば800℃以上の水蒸気を含む酸素雰囲気下で、ハードマスク81が形成されたSOI基板100を熱酸化する。このとき、最終的に第二部分11bが形成される第二領域と最終的に第三部分11cが形成される第三領域の接続部にあたり、最終的に第五部分11eが形成される第五領域(図1参照)にバーズビーク65が形成される。第五領域に形成されるバーズビーグの形状の制御に関しては、第四領域に形成されるバーズビーグと同じである。
次に、熱リン酸により、ハードマスク81を除去する。その後、フッ酸などを用いてシリコン酸化膜61を除去する。このようにして、SOI基板100のTOPシリコン層の表面、すなわち活性基板110の表面には、最終的に第一部分11aが形成される領域に設けられた第一平坦面110aと、最終的に第二部分11bが形成される領域に設けられた第二平坦面110bと、最終的に第三部分11cが形成される第三平坦面110cと、最終的に第四部分11dが形成される領域に設けられ第一平坦面110aと第二平坦面110bを接続する第一接続面110d(平坦面および傾斜面で構成されている。)と、最終的に第五部分11eが形成される領域に設けられ第二平坦面110bと第三平坦面110cを接続する第二接続面110e(傾斜面で構成されている。)とが形成される。
その後、グレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119の凹部となる領域のみを開口させたマスク(不図示)を用いてリソグラフィ、エッチングおよびアッシングを行い、図20に示すように、SOI基板100のTOPシリコン層の第一平坦面110aにグレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119の溝を形成する。
次に、活性基板110に対してリソグラフィ、エッチングおよびアッシングを実施し、BOX層170上に個別化されたコア層11を形成する。
次に、支持基板150を所定領域で切断してSOI基板100を個片化する。これにより、光導波路10(図1参照)が完成する。
さらに、図1に示すように、光導波路10のグレーティングカプラ118に赤外線を入射できるように光源20を設置し、光導波路10のグレーティングカプラ119から出射する赤外線を受光できるように光検出器40を配置することにより、光学式濃度測定装置1が完成する。
なお、コア層11のパターンを先に形成した後に、グレーティングカプラ118,グレーティングカプラ119の溝を形成する製造工程順としても良い。また、SOI基板100の一部を浮かせたいわゆるペデスタル構造のコア層を形成する場合は、コア層11を形成した後に、SOI基板のBOX層170をエッチングする工程を追加してもよい。さらに、コア層11の表面に保護膜を形成してもよい。
以上説明したように、本実施形態による光導波路の製造方法および光学式濃度測定装置の製造方法によれば、特別な製造技術を用いずに、コア層の光伝搬部の膜厚と、グレーティングカプラ118およびグレーティングカプラ119を設ける領域の膜厚とを最適化することができる。これにより、本実施形態による光導波路の製造方法および光学式濃度測定装置の製造方法によれば、伝搬光のエバネッセント波の染出し効率および光の入出力効率の向上を図ることが可能な光導波路および光学式濃度測定装置を製造することができる。