以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
またさらに、「記録素子」とは、特にことわらない限り吐出口(ノズル)ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用される熱エネルギーを発生する電気熱変換素子(ヒータ)とそのヒータに通電するスイッチング素子を総括して言うものとする。
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
<インクジェット記録ヘッドを搭載した記録装置(図1~図5)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いた記録装置P1の概略構成を示した斜視図である。
図1に示されているように、記録装置P1はキャリッジ15に搭載した記録ヘッドH1をガイド軸20に沿って記録媒体M1の幅方向(矢印A)に往復走査させながら、記録ヘッドH1から吐出したインクを記録媒体M1に着弾させることで記録動作を行う。
図2は記録ヘッドH1の概観を示す斜視図である。また、キャリッジ15には記録ヘッドH1にインクを供給するインクタンク30も搭載される。
記録ヘッドH1は、インクタンク30から供給されるインクを、液導入口H003に接続するチューブ等(不図示)を介して導入するサブタンクを持つ液体供給部H004を有する。また、インクを記録媒体に向けて吐出する素子基板10を備える。液体供給路部H004は射出成型による樹脂部材にて製造され、液導入口H003と素子基板10を接続するインク流路の一部を構成している。
図3は素子基板10の構造を示す部分破断斜視図である。
素子基板10はSi基体100とエポキシ樹脂からなる流路形成部材200を備える。基体100には外部装置とのデータ送受信や電源供給のために外部接続端子101を備える。また、基体100は、基体を貫通するように設けられたインク供給口110とインク供給口110の長辺の両側に沿うように設けられたヒータ列102とを有する。ヒータ列102は複数のヒータ103が600dpiピッチで配列されることにより形成される。
流路形成部材200はヒータ103の各々に対応するように設けられた発泡室201、および各発泡室201に対応するように設けられた吐出口202を形成している。また、流路形成部材200はインク供給口110から基板表面にインクを導入するための共通液室203および共通液室203から各発泡室201へインクを導入するための流路204を形成している。
記録ヘッドH1はヒータ103の発熱により発泡室201に導入されたインクを発泡させる。かかるインクの発泡圧により発泡室201内のインクを吐出口202から吐出させることにより、記録媒体M1上にインクを着弾させる。
以上のように、この実施例の記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、記録ヘッドの各吐出口には電気熱変換素子(ヒータ)を備えている。この電気熱変換素子は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換素子にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。なお、記録装置は、上述した記録媒体の搬送方向に吐出口を配列した記録ヘッドをキャリッジに搭載に、そのキャリッジを往復走査しながらインクを記録媒体に吐出して記録を行ういわゆるシリアルタイプの記録装置に限定されるものではない。例えば、記録媒体の幅に相当する記録幅をもつフルライン記録ヘッドを用いた記録装置にも適用できる。
図4は図2に示した記録ヘッドH1に内蔵される素子基板のA―A断面拡大図である。
図4に示す素子基板10は、吐出口および流路を形成する流路形成部材200と、インク供給口110を有する。支持部材H005は、高熱伝導率を持つアルミナで構成されており、素子基板10に蓄積される熱を放出する機能を持つ。さらに支持部材H005はインク供給路を兼ねており、インク供給部との接合側、インク供給部開口と素子基板10との接合側、ヒータ開口を貫通するインク供給路H009を持つ。
ヒータ列102のヒータ103が駆動されると、素子基板10はヒータ列102の方向に沿って山なりの温度分布を持つ。また、インク供給口110内のインクはSi基体100と比べて熱伝導率が低いため、インク供給口110に挟まれた素子基板10の中央には熱がこもりやすい。この実施例では、支持部材H005に第1の中空の梁H007をインク供給口110の間に配置することで、相対的に温度が高くなりやすい素子基板10の中央部の熱を効率的に放熱する。
図5は図2に示した記録ヘッドH1に内蔵される素子基板のB―B断面、及び図4に示した素子基板のB―B断面の拡大図である。
この実施例では支持部材H005は複数の第2の中空の梁H008を第1の中空の梁H007と交差する方向に設ける。複数の第2の中空の梁H008は、素子基板10から第1の中空の梁H007へ移動した熱を速やかに支持部材H005全体に拡散する。記録ヘッドH1では、第1の中空の梁H007及び第2の中空の梁H008により支持部材H005及び素子基板10の温度分布の偏りをより効果的に低減する。
次に、上記構成の記録装置に搭載される記録ヘッドに内蔵される素子基板のいくつかの実施例について説明する。
図6は実施例1に従う素子基板の構成を示す図である。
図6(a)は基体100を流路形成部材200が形成された面から流路形成部材200を透過してみた平面模式図である。また、図6(b)は図6(a)の領域Cを拡大した平面模式図である。
基体100はインク供給口110ab、110cdを備え、各インク供給口の長辺の両側に沿ってヒータ列102a~102dを有する。各ヒータ列は32個のヒータから形成される。
ヒータ列102aは配線群A121aを介して外部接続端子101a1と電気的に接続する。また、ヒータ列102aは配線群A122aを介して外部接続端子101a2と電気的に接続する。
配線群A121aは時間的に排他的に駆動(分割駆動)される互いに対して近傍に配置されるヒータ103に対してカスケード接続され、同時駆動されうる離散的に配置されるヒータ103に対して並列接続される。図6(a)~図6(b)から分かるように、配線群A121aは外部接続端子101a1の近傍では1つの配線群としてまとまっているが、ヒータ列102aに沿って、4つの配線A121a1、2、3、4に分岐する。即ち、排他的に駆動されるヒータ103a1~8、9~16、17~24、25~32はそれぞれ、配線群A121aのうち配線A121a1、2、3、4にカスケード接続される。
配線群A122aも同様である。配線群A122aは外部接続端子101a2の近傍では1つの配線群としてまとまっているが、ヒータ列102aに沿って、4つの配線A122a1、2、3、4に分岐する。即ち、それぞれ時間的に排他的に駆動(分割駆動)されるヒータ群(グループ)をGr(i)~(iv)とすると、各グループに属するヒータは同時駆動されることはない。よって各グループに属するヒータを同一配線で接続したとしても、配線による電圧低下による吐出エネルギー変化が生ずることはない。
なお、時分割駆動においては、同時駆動されるヒータ群をブロックという。
配線群A121aと配線群A122aは600nm厚のAlCuで構成される。また、配線A121a1、A122a1は、ヒータ列102aが延伸する方向に向かって約4μmの幅で形成されている。さらに配線A121a2~4、A122a2~4は外部接続端子とヒータとの間の抵抗が配線A121a1、A122a1と略同一となるような幅、長さで形成されている。
図6(b)に示されるように、ヒータ列102aを構成するヒータ103a1が個別配線A123a1を介して配線A121a1と電気的に接続している。また、ヒータ103a1が個別配線A124a1、ビアA133a1を介してスイッチング素子A131a1と電気的に接続している。スイッチング素子A131a1はビアA134a1を介して配線A122a4と電気的に接続している。スイッチング素子A131a1は制御配線A132a1に印加される信号に従って、ヒータ103a1と配線A122a4の電気的接続を制御する。スイッチング素子A131のオン抵抗は全てのヒータにおいて同一である。個別配線A123a1と個別配線A124a1は配線群A121aと配線群A122aと同一の材料で構成される。ヒータ103a1はシート抵抗が200ΩであるTaSiNで構成される。制御配線A132a1は多結晶シリコンで構成される。
図6(c)は図6(b)のD-D断面模式図である。
図6(c)に示されるように、シリコン基板300の上に厚さ700nmのシリコン熱酸化膜310が形成される。また、シリコン基板300の上にゲート酸化膜311が形成される。ゲート酸化膜311上に制御配線A132a1が配置される。熱酸化膜310および制御配線132a1上に厚さ600nmのBPSG(Boron Phosphor Silicate Glass)で形成された蓄熱層320が形成される。
蓄熱層320上に600nmのAlSiで形成されたゲート配線A135a1、A136a1が形成される。ゲート配線A135a1、A136a1は、蓄熱層320およびゲート酸化膜311に設けられたビアA137a1、A138a1を介してシリコン基板300と接続する。
シリコン基板300はゲート配線A135a1、A136a1との接続領域および制御配線A132a1が配置された領域にボロンおよびリンが拡散されている。このようなシリコン基板300、ゲート酸化膜311、制御配線132a1およびゲート配線A135a1、A136a1によりスイッチング素子A131a1が構成される。ゲート配線A135a1、A136a1および蓄熱層320上に、厚さ1μmの酸化シリコンで形成された蓄熱層330が形成される。蓄熱層330上に配線群A121a、配線群A122a、個別配線A123a1、個別配線A124a1、およびヒータ103a1が形成される。個別配線A124a1及び配線A122aはビアA133a1、A134a1を介してゲート配線A135a1及びA136a1と接続する。蓄熱層330及び配線A121a、配線A122a、個別配線A123a1、個別配線A124a1、及びヒータ103a1上に厚さ400nmのSiNで形成された保護膜層340が形成される。
以上のように構成された素子基板100では、図6(a)が示すように、いずれのヒータ群Gr(i)~(iv)でも、ヒータ列の延伸する方向と垂直の方向に交わる配線の合計本数が5本で同一である。例えば、ヒータ列102aのヒータ群Gr(i)に対して垂直方向に交わる配線は、配線A121a1、A121a2、A121a3、A121a4、A122a4の5本となっている(図6(b))。2つの配線群は同一の抵抗で構成されている。よって、2つ外部接続端子の間を定電圧でエネルギー付与した場合、各配線で発生する熱エネルギーはV2/Rで一定である。
また、2つの外部接続端子の間を定電流でエネルギー付与した場合、各配線で発生する熱エネルギーはR×I2で一定である。よって、同時駆動されうる全てのヒータ103が駆動された場合、配線A121a1~4及び配線A122a1~4それぞれにおいて略同一の熱エネルギーが発生する。つまり、ヒータ列に沿って2つの配線群が略均一に分布するため、配線群A121、配線群A122で発生する熱エネルギーに起因した基板温度分布の偏りを効果的に低減することができる。また、いずれのスイッチング素子においてもオン抵抗が同一のため、スイッチング素子で発生する熱エネルギーは素子基板内で略均一に分布する。
以上の構成から分かるように、この素子基板の1つの記録素子に注目すると、スイッチング素子のゲートに制御配線を介して閾値以上の電圧の制御信号が入力されると、スイッチング素子がオンになりヒータに通電され、加熱される。このような動作から、スイッチング素子はMOSトランジスタであることが好ましい。このとき、電流はヒータに対して1つの外部接続端子→1つの配線群→個別配線→ヒータ→スイッチング素子→他の配線群→他の外部接続端子の経路で流れることになる。この経路を素子基板の構造として言えば、矩形形状の素子基板の1つの短辺に設けられた外部接続端子に供給された電流が1つの配線を経てその長辺に沿って配置されたヒータ列のヒータに流れ込む。そして、その電流によってヒータが発熱される。さらにその電流はそのヒータからそのヒータに対応したスイッチング素子を経て、別の配線を経て反対側の短辺に設けられ外部接続端子へと至る。
この素子基板の記録素子全体に注目すると、記録動作の進行に伴って入力記録信号によりいずれかのヒータが駆動され発熱すると、ヒータ配列方向の位置に係らず、5本の配線が記録動作に関与し、素子基板の長辺方向に一端から他端へと電流が流れる。このようにして配線からの発熱が均等に分散される。
また、素子基板がヒータ配列方向(記録素子列方向)に長くなると、配線群A121a~d、A122a~dの長さが長くなるため、抵抗が増大する。よって、長尺化した素子基板は配線の発熱による基板温度分布の偏りがより顕著となる。即ち、この実施例では長尺化した基板素子により好適に作用する。例えば、ヒータ列の長さが2.1mmを超えた素子基板でより好適に作用する。更にヒータ列の長さが3mmを超えた素子基板でより好適に作用する。
なお、以上の説明は、ヒータ列102aに注目し、ヒータ列102aに属するヒータ103を接続する2つの配線群A121a、A122aについての接続パターンについてのものであった。しかしながら、ヒータ列102b、102c、102dにそれぞれ接続される配線群A121b、A122b、A121c、A122c、A121d、A122dに関しても、同様の接続パターンをもつ。
ここで、実施例1に従う素子基板の構成を従来の素子基板の構成と比較して説明する。
図7は従来の素子基板の構成を示すレイアウト図である。これは、図6(a)に示した実施例1に従う素子基板の構成のレイアウトと比較のためのものであり、比較を容易にするために、流路形成部材200が形成された面から流路形成部材200を透過してみた平面図としてレイアウトを示している。
また、基本的な構成は図6(a)に示した素子基板と同様で、同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。従って、図7に示す構成も、基体100はインク供給口110ab、110cdを備え、各インク供給口の長辺の両側に沿ってヒータ列102a~102dを有する。各ヒータ列は32個のヒータから形成される。さらに、隣接する8個づつのヒータがそれぞれ排他的に駆動されるヒータ群(グループ)Gr(i)~(iv)を形成する。
図7に示す従来の構成によれば、ヒータ列102aは配線群X121aを介して外部接続端子101a1と電気的に接続し、ヒータ列102aは配線群X122aを介して外部接続端子101a2と電気的に接続する。なお、ヒータ列102b、102c、102dに接続される配線群X121b、X122b、X121c、X122c、X121d、X122dに関しても、同様の接続パターンをもつ。
以上のような従来例に従う素子基板では、ヒータ列の延伸する方向と垂直の方向に交わる配線の合計本数がヒータの位置によって異なる。具体的には、Gr(i)に属するヒータにおいては2つの配線群の配線本数が合計9本となるのに対し、Gr(iv)に属するヒータにおいては3本となる。このため、同時駆動されうる全てのヒータ103が駆動された場合、外部接続端子に遠い側と比較して近い側の配線X121a~d、配線群X122a~dで発生する熱エネルギーが大きくなる。即ち、配線群X121a~d、配線群X122a~dで発生する熱エネルギーに起因した基板温度分布に偏りが発生する。
1列あたりのヒータ数を640個とし、実施例1に従う素子基板と従来例に従う素子基板をそれぞれ搭載した記録ヘッドにおいて、駆動周期7.5kHzでA4サイズの記録媒体に記録を行い、その素子基板の温度分布を測定した。
図8は記録動作直後のヒータ列に沿った素子基板の温度分布を示す図である。
図8において、横軸がヒータの位置を示すためのヒータ番号であり、縦軸が素子基板の温度(℃)である。ヒータ番号は外部接続端子101a1~d1が設けられている側を1として番号を付している。
図8に示した2つの温度分布から明らかなように、従来例に従う素子基板ではその基板内で約15℃の温度差が生じたが、実施例1に従う素子基板ではその基板内の温度差を約5℃に抑えられている。また、従来例に従う素子基板を搭載した記録ヘッドを用いた記録では素子基板内の温度分布に起因した記録ムラが目視で判別できる程度に発生した。一方で、実施例1に従う素子基板を搭載した記録ヘッドを用いた記録では素子基板内の温度分布に起因した記録ムラは目視で判別できなかった。
従って以上説明した実施例に従えば、素子基板内の温度の不均衡を低減し、良好な記録を行うことができる。
図6を参照して説明したヒータ列に接続される2つの配線群の形状の他に、他の形状の2つの配線群を用いてヒータ列を接続しても良い。
図9は実施例2に従う素子基板の構成を示す図である。図9と図6とを比較するとヒータ列と外部接続端子とを接続する2つの配線群の形状が異なっていることが分かる。
図9(a)は基体100を流路形成部材200が形成された面から流路形成部材200を透過してみた平面模式図である。また、図9(b)は図9(a)の領域Eを拡大した平面模式図である。
なお、図9に示す構成もその基本的な構成は図6に示した素子基板と同様で、同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。従って、図9に示す構成も、基体100はインク供給口110ab、110cdを備え、各インク供給口の長辺の両側に沿ってヒータ列102a~102dを有する。各ヒータ列は32個のヒータから形成される。
図9(a)によれば、ヒータ列102aは配線群C121aを介して外部接続端子101a1と電気的に接続し、またヒータ列102aは配線群C122aを介して外部接続端子101a2と電気的に接続する。なお、ヒータ列102b、102c、102dにそれぞれ接続される配線群C121b、C122b、C121c、C122c、C121d、C122dに関しても、同様の接続パターンをもつ。
図9(b)に示されるように、ヒータ列102aを構成するヒータ103a1が個別配線C123a1、ビアC143a1を介してスイッチング素子C141a1と電気的に接続している。スイッチング素子C141a1はビアC144a1を介して配線C121a1と電気的に接続している。スイッチング素子C141a1は制御配線C142a1に印加される信号に従って、ヒータ103a1と配線C121a1の電気的接続を制御する。
なお、ここではスイッチング素子C141a1に着目したが、全てのヒータには対応してスイッチング素子が接続されており、これらのスイッチング素子のオン抵抗は全てのヒータにおいて同一である。
図9(c)は図9(b)のF-F断面模式図である。
図9(c)に示されるように、ゲート酸化膜311上に制御配線142a1が配置される。蓄熱層320上に600nmのAlSiで形成されたゲート配線C145a1、C146a1が形成される。ゲート配線C145a1及びC146a1は、蓄熱層320及びゲート酸化膜311に設けられたビアC147a1、C148a1を介してシリコン基板300と接続する。シリコン基板300はゲート配線C145a1及びC146a1との接続領域、及び制御配線142a1が配置された領域にボロンおよびリンが拡散されている。
このようなシリコン基板300、ゲート酸化膜311、制御配線C142a1及びゲート配線C145a1、C146a1によりスイッチング素子C141a1が構成される。
その他の部分は、図6(c)を参照して説明した実施例1に従う素子基板と同一のため説明を割愛する。
このように構成された素子基板10では、いずれのヒータにおいてもヒータ列の延伸する方向と垂直の方向に交わる2つの配線群の配線本数の合計が5本で同一である。また、いずれのヒータにおいても対応するスイッチング素子のオン抵抗が同一のため、実施例1で説明したように定電圧であっても定電流であってもスイッチング素子で発生する熱エネルギーは基板素子内で略均一に分布しやすい。
1列あたりのヒータ数を640個とし、実施例2に従う素子基板と従来例に従う素子基板をそれぞれ搭載した記録ヘッドにおいて、実施例1と同様に、駆動周期7.5kHzでA4サイズの記録媒体に記録を行い、その素子基板の温度分布を測定した。その結果、実施例1におけるのとほぼ同等の効果を確認することができた。
従って以上説明した実施例に従えば、素子基板内の温度の不均衡を低減し、良好な記録を行うことができる。
図6を参照して説明した実施例1に従う素子基板では、ヒータ列に接続する2つの配線群は全て、多層構造の素子基板において同じ層に配置されていた。ここでは、2つの配線群を多層構造の別の層に配置する例について説明する。
図10は実施例1に従う素子基板の構成を示す図である。図10と図6とを比較すると分かるように、ヒータ列の各ヒータを外部接続端子に接続する2つの配線群の形状や接続パターンは同じである。しかしながら、この実施例に従う素子基板では、素子基板の上側の外部接続端子101a1~d1に接続される配線群D121a~dと、下側の外部接続端子101a2~d2に接続される配線群D122a~dは異なる層に形成配置される。
図10(a)は基体100を流路形成部材200が形成された面から流路形成部材200を透過してみた平面模式図である。また、図10(b)は図10(a)の領域Gを拡大した平面模式図である。
なお、図10に示す構成もその基本的な構成は図6に示した素子基板と同様で、同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。従って、図10に示す構成も、基体100はインク供給口110ab、110cdを備え、各インク供給口の長辺の両側に沿ってヒータ列102a~102dを有する。各ヒータ列は32個のヒータから形成される。
図10(a)によれば、ヒータ列102aは配線群D122aを介して外部接続端子101a2と電気的に接続し、配線群D122aは排他的に駆動されるヒータ103に対してカスケード接続し、同時に駆動されうるヒータ103に対して並列接続される。即ち、排他的に駆動されるヒータ103a1~8、9~16、17~24、25~32はそれぞれ、配線群D122aのうち配線D122a4、3、1、1にカスケード接続される。配線群D122aは600nm厚のAlSiで構成される。
また、配線D122a1は、ヒータ列102aが延伸する方向に向かっておよそ5μmの幅で形成されている。さらに、配線D122a2~4は外部接続端子とヒータとの間の抵抗が配線D122a1と略同一となるような幅、長さで形成されている。
なお、ヒータ列102b、102c、102dにそれぞれ接続される配線群D121b、D122b、D121c、D122c、D121d、D122dに関しても、同様の接続パターンをもつ。
図10(b)に示されるように、スイッチング素子D131a1はビアD138a1を介して配線D122a4と電気的に接続している。スイッチング素子D131a1は制御配線D132a1に印加される信号に従って、ヒータ103a1と配線D122a4の電気的接続を制御する。
図10(c)は図10(b)のH-H断面模式図である。
蓄熱層320上に600nmのAlSiで形成されたゲート配線D135a1が形成される。同じ層に形成されたゲート配線D135a1及び配線D122a4は、蓄熱層320及びゲート酸化膜311に設けられたビアD137a1、D138a1を介してシリコン基板300と接続する。シリコン基板300はゲート配線D135a1及び配線D122a4との接続領域及び制御配線D132a1が配置された領域にボロンおよびリンが拡散されている。このように、シリコン基板300、ゲート酸化膜311、制御配線D132a1及びゲート配線D135a1、配線D122a4によりスイッチング素子D131a1が構成される。
その他の部分は実施例1に係る素子基板と同一のため説明を省略する。
このように構成された素子基板10では、いずれのヒータにおいても、ヒータ列の延伸する方向と垂直の方向に交わる2つ配線群の配線本数が合計5本で同一である。また、2つの配線群を形成する材料が異なっていたとしても、抵抗が略同一であれば、各配線で発生する熱エネルギーも略同一である。
1列あたりのヒータ数を640個とし、実施例3に従う素子基板と従来例に従う素子基板をそれぞれ搭載した記録ヘッドにおいて、実施例1と同様に、駆動周期7.5kHzでA4サイズの記録媒体に記録を行い、その素子基板の温度分布を測定した。その結果、実施例1におけるのとほぼ同等の効果を確認することができた。
従って以上説明した実施例に従えば、素子基板内の温度の不均衡を低減し、良好な記録を行うことができる。
ここでは1列当たりのヒータ数を増やし(2倍)ヒータ列の長さを実施例1~実施例3に従う素子基板に対して長くした素子基板の構成について説明する。
図11は実施例4に従う素子基板の構成を示す図である。
図11(a)は基体100を流路形成部材200が形成された面から流路形成部材200を透過してみた平面模式図である。また、図11(b)は図11(a)の領域Iを拡大した平面模式図である。
実施例1~実施例3に従う素子基板と同様に、基体100はインク供給口110ab、110cdを備え、各インク供給口の長辺の両側に沿ってヒータ列102a~102dを有する。各ヒータ列は64個のヒータから形成される。
ヒータ列102aの上半分の32個のヒータは配線群E121aを介して外部接続端子101a1と電気的に接続し、下半分の32個のヒータは配線群E151aを介して外部接続端子104a1と電気的に接続する。また、ヒータ列102aの上半分の32個のヒータは配線群E122aを介して外部接続端子101a2と電気的に接続し、下半分の32個のヒータは配線群E152aを介して外部接続端子104a2と電気的に接続する。配線群E121aは排他的に駆動されるヒータ103に対してカスケード接続され、同時駆動されうるヒータ103に対して並列接続される。即ち、排他的に駆動されるヒータ103a1~8、9~16、17~24、25~32はそれぞれ、配線群E121aのうち配線E121a1、2、3、4にカスケード接続される。更に排他的に駆動されるヒータ103a33~40、41~48、49~56、57~64はそれぞれ、配線群E151aのうち配線E151a1、2、3、4にカスケードに接続される。
配線群E122a、配線群E152aも同様である。即ち、それぞれ排他的に駆動されるヒータ群(グループ)をGr(i)~(viii)とすると、各グループに属するヒータは同時駆動されることはない。よって各グループに属するヒータを同一配線で接続したとしても、配線による電圧低下による吐出エネルギー変化が生ずることはない。
配線群E151a及び配線群E152aは、配線群E121a及び配線群122aと同一の材料で形成される。また、配線E121a1、E151a1は、ヒータ列102aが延伸する方向に向かって約4μmの幅で形成されている。さらに配線E121a2~4、E151a2~4は外部接続端子とヒータとの間の抵抗が配線E121a1、E151a1と略同一となるような幅、長さで形成されている。
また、配線E122a、E152aはヒータが延伸する方向に向かっておよそ40μmの幅で形成された後、配線E122a、E152a1が、ヒータ列102aが延伸する方向に向かっておよそ4μmの幅で形成されている。配線E122a1~4、E152a2~4は外部接続端子とヒータとの間の抵抗が配線E122a、E152a1と略同一となるような幅、長さで形成されている。
なお、ヒータ列102b、102c、102dにそれぞれ接続される配線群E121b、E122b、E121c、E122c、E121d、E122dに関しても、同様の接続パターンをもつ。さらに、ヒータ列102b、102c、102dにそれぞれ接続される配線群E151b、E152b、E151c、E152c、E151d、E152dに関しても、同様の接続パターンをもつ。そして、これらの配線群の配線を接続するために外部接続端子101/104a1、b1、c1、d1、101/104a2、b2、c2、d2が設けられる。
図11(b)に示されるように、ヒータ列102aを構成するヒータ103a32が個別配線E123a32を介して配線E121a4と電気的に接続している。また、ヒータ103a32が個別配線E124a32、ビアE133a32を介してスイッチング素子E131a32と電気的に接続している。
スイッチング素子E131a32はビアE134a32を介して配線E122a1と電気的に接続している。スイッチング素子E131a32は制御配線E132a32に印加される信号に従って、ヒータ103a32と配線E122a1の電気的接続を制御する。ヒータ列102aを構成するヒータ103a33が個別配線E123a33を介して配線E151a4と電気的に接続している。また、ヒータ103a33が個別配線E124a33、ビアE133a33を介してスイッチング素子E131a33と電気的に接続している。スイッチング素子E131a33はビアE134a33を介して配線E152a1と電気的に接続している。スイッチング素子E131a33は制御配線E132a33に印加される信号に従って、ヒータ103a33と配線E152a1の電気的接続を制御する。
なお、各ヒータに接続される各スイッチング素子E131のオン抵抗は全てのヒータにおいて同一である。個別配線A123a1及び個別配線A124a1は4つの配線群と同一の材料で構成される。
その他の部分は実施例1に係る基板と同一のため説明を割愛する。
このように構成された素子基板は、いずれのヒータでもヒータ列の延伸する方向と垂直の方向に交わる3つの配線群E121a、E122a、E152a、もしくは、別の3つの配線群E122a、E151a、E152aの配線本数の合計が6本で同一である。
また、これら4つの配線群E121a、E122a、E151a、E152aは同一の抵抗で構成されている。
よって2つの外部接続端子101a1、101a2、又は、2つの外部接続端子104a、104a2との間を定電圧でエネルギー付与した場合、各配線で発生する熱エネルギーはV2/Rで一定である。また、2つの外部接続端子101a1、101a2、又は、2つの外部接続端子104a、104a2との間を定電流でエネルギー付与した場合、各配線で発生する熱エネルギーはR×I2で一定である。
従って、駆動されうる全てのヒータ103が駆動された場合、配線121a1~4及び配線122a1~4、もしくは、配線151a1~4及び配線152a1~4に略同一の熱エネルギーが発生する。つまりヒータ列に沿って、3つの配線群E121a、E122a、E152a、もしくは、別の3つの配線群E122a、E151a、E152aの配線の熱エネルギーが略均一に分布する。このため、配線の熱エネルギーに起因した素子基板の温度分布の不均衡を効果的に低減することができる。また、いずれのスイッチング素子においてもオン抵抗が同一のため、スイッチング素子で発生する熱エネルギーは素子基板内で略均一に分布する。
ここで、実施例4に従う素子基板の構成を従来の素子基板の構成と比較して説明する。
図12は従来の素子基板の構成を示すレイアウト図である。これは、図11(a)に示した実施例4に従う素子基板の構成のレイアウトと比較のためのものであり、比較を容易にするために、流路形成部材200が形成された面から流路形成部材200を透過してみた平面図としてレイアウトを示している。
また、基本的な構成は図11(a)に示した素子基板と同様で、同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。従って、図12に示す構成も、基体100はインク供給口110ab、110cdを備え、各インク供給口の長辺の両側に沿ってヒータ列102a~102dを有する。各ヒータ列は64個のヒータから形成される。さらに、隣接する8個づつのヒータがそれぞれ排他的に駆動されるヒータ群(グループ)Gr(i)~(viii)を形成する。
図12に示す従来の構成によれば、ヒータ列102aの上半分の32個のヒータは配線群Y121aを介して外部接続端子101a1と電気的に接続し、配線群Y122aを介して外部接続端子104a2と電気的に接続する。一方、下半分の32個のヒータ配線群Y151aを介して外部接続端子104a1と電気的に接続し、配線群Y152aを介して外部接続端子104a2と電気的に接続する。
なお、ヒータ列102b、102c、102dに接続する配線群Y121b、Y122b、Y151b、Y152b、Y121c、Y122c、Y151c、Y152c、Y121d、Y122d、Y151d、Y152dに関しても同様の接続パターンをもつ。
その他の部分は実施例4に係る素子基板の構成と同一のため説明を割愛する。
1列あたりのヒータ数を640個とし、実施例4に従う素子基板と従来例に従う素子基板をそれぞれ搭載した記録ヘッドにおいて、駆動周期7.5kHzでA4サイズの記録媒体に記録を行い、その素子基板の温度分布を測定した。
図13は記録動作直後のヒータ列に沿った素子基板の温度分布を示す図である。
図13において、横軸がヒータの位置を示すためのヒータ番号であり、縦軸が素子基板の温度(℃)である。ヒータ番号は外部接続端子101a1~d1が設けられている側を1として番号を付している。
図13に示した2つの温度分布から明らかなように、従来例に従う素子基板ではその基板内で約15℃の温度差が生じたが、実施例4に従う素子基板ではその基板内の温度差を約5℃に抑えられている。また、従来例に従う素子基板を搭載した記録ヘッドを用いた記録では素子基板内の温度分布に起因した記録ムラが目視で判別できる程度に発生した。一方で、実施例4に従う素子基板を搭載した記録ヘッドを用いた記録では素子基板内の温度分布に起因した記録ムラは目視で判別できなかった。
従って以上説明した実施例に従えば、素子基板内の温度の不均衡を低減し、良好な記録を行うことができる。特に、ヒータ列が長い構成の素子基板では、この実施例に従う素子基板の構成が温度の不均衡の解消に有効である。