JP7158015B2 - ポリペプチドの凝集化抑制方法 - Google Patents
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Description
本発明の一態様は、
〔1〕抗体またはFc領域含有タンパク質を含む溶液中において、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制する方法であって、
(i)前記溶液中において、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体と非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質に由来するモノマーおよび凝集体とを結合させる工程と
(ii)前記ポリペプチドまたはその類似体に結合した前記モノマーおよび凝集体を前記溶液中から回収する工程と
を含む、方法に関する。
ここで、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の方法であって、
前記凝集体は、粒子径が0.22μm未満の凝集前駆体を含む、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の方法であって、
前記凝集体はダイマー以上のサイズの凝集体を含む、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が下記(A)または(B)のアミノ酸配列からなる、ことを特徴とする:
(A)配列番号1で示されるアミノ酸配列、または、
(B)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、または、欠失しているアミノ酸配列であって、かつ、前記アミノ酸配列からなるポリペプチドが非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質を含む凝集体に対する結合活性を示すアミノ酸配列。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔5〕上記〔4〕に記載の方法であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が、配列番号1、3~25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法であって、
前記非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質が、酸処理、加熱、還元、酸化、凍結融解、および、物理的刺激からなる群より選択されるストレスにより非天然型立体構造を生じたものである、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法であって、
前記抗体がヒト免疫グロブリンG1~4である、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法であって、
前記抗体がヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または、マウス抗体である、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔9〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が固相担体に固定化されていることを特徴とする、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔10〕上記〔9〕に記載の方法であって、
前記固相担体が、粒径1~10μmの粒子(ビーズ)であることを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔11〕上記〔9〕または〔10〕に記載の方法であって、
前記固相担体が、磁性粒子または高分子樹脂からなる多孔質粒子であることを特徴とする。
また、本発明の凝集体の形成を抑制する方法は、一実施の形態において、
〔12〕上記〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の方法であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジン、および、ビオチン-ニュートラアビジンから選ばれるいずれかの結合を介して固相担体に固定化されている、ことを特徴とする。
また、本発明は、別の態様において、
〔13〕上記〔1〕に記載の非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制する方法を含む、抗体の製造方法に関する。
また、本発明は、別の態様において、
〔14〕上記〔1〕に記載の非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制する方法を含む、抗体医薬の製造方法に関する。
また、本発明は、別の態様において、
〔15〕抗体またはFc領域含有タンパク質を含む溶液中において凝集体の形成を抑制するための凝集体形成抑制剤であって、
下記(A)または(B)のアミノ酸配列からなるAF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が固定化された固相担体を含み、前記固相担体が、粒径1~10μmの粒子(ビーズ)であることを特徴とする、凝集体形成抑制剤に関する:
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列、または、
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、または、欠失しているアミノ酸配列であって、かつ、前記アミノ酸配列からなるポリペプチドが非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質を含む凝集体に特異的に結合する機能を有するアミノ酸配列。
また、本発明の凝集体形成抑制剤は、一実施の形態において、
〔16〕上記〔15〕に記載の凝集体形成抑制剤であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が、配列番号1、3~25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる、ことを特徴とする。
また、本発明の凝集体形成抑制剤は、一実施の形態において、
〔17〕上記〔15〕または〔16〕に記載の凝集体形成抑制剤であって、
前記固相担体が、磁性粒子または高分子樹脂からなる多孔質粒子であることを特徴とする。
また、本発明の凝集体形成抑制剤は、一実施の形態において、
〔18〕上記〔15〕~〔17〕のいずれかに記載の凝集体形成抑制剤であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジン、および、ビオチン-ニュートラアビジンから選ばれるいずれかの結合を介して固相担体に固定化されている、ことを特徴とする。
そして、当該抑制方法は、下記の工程を含む:
(i)前記溶液中において、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体と非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質に由来する凝集体とを結合させる工程。
(ii)前記ポリペプチドまたはその類似体に結合した前記凝集体を前記溶液中から回収する工程。
また、「免疫グロブリンG」とは、2つの重鎖γと2つの軽鎖から構成される単量体型の免疫グロブリンである。本明細書においては、特にストレス環境において非天然型立体構造をFc領域に生じるものをいう。
本明細書において「Fc領域含有タンパク質」とは、タンパク質の一部にFc領域の配列または構造を有するタンパク質であって、ストレス環境下において非天然型立体構造を当該Fc領域に生じるものをいう。特に、本発明の凝集体の形成抑制方法に使用されるAF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が、Fc領域含有タンパク質内に生じた非天然型立体構造を認識して結合できるものをいう。
なお、好ましい一実施の形態において、AF.2A1ポリペプチドは、非天然型立体構造を有するFc領域を含むヒト免疫グロブリンGを起因とする凝集体に対して結合活性を有する。
一実施の形態において、AF.2A1ポリペプチドの類似体は、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質を含む凝集体に対する結合活性が損なわれない範囲で、配列番号1に記載のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、または、欠失しているアミノ酸配列からなるポリペプチドと特定することができる。ここで、数個のアミノ酸とは、例えば、1~8個、1~6個、好ましくは1~3個、より好ましくは1個または2個のアミノ酸をいう。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、上記結合活性を有する限りにおいて、ポリペプチド配列のアミノ酸残基数に制限はない。AF.2A1ポリペプチドの類似体の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、配列番号3~25に記載のアミノ酸配列をからなる。
AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体は、AF.2A1ポリペプチドもしくはその類似体をコードする核酸を含む組換えファージもしくは組換えウイルス、または、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体をコードする核酸を含むベクターが導入された形質転換体であってもよい。前記組換えファージなどの形質転換体も、上記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体を表層に提示し、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質を含む凝集体に対する結合活性を有する限り、本発明の方法に利用できる。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列、または、
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加、または、欠失しているアミノ酸配列であって、かつ、前記アミノ酸配列からなるポリペプチドが非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質を含む凝集体に対する結合活性を示すアミノ酸配列、からなる。
抗体またはFc領域含有タンパク質を含む溶液中には、種々のストレスにより非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質、および、それらに由来する凝集体前駆体が生じることがあり、この凝集体前駆体が将来的により大きな凝集体を形成する。工程(i)においては、溶液中でAF.2A1ポリペプチドまたはその類似体と非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質に由来するモノマーおよび凝集体とを結合させる。なお、このときAF.2A1ポリペプチドまたはその類似体は、フィルター等では除去が困難であった粒子径が0.22μm未満の凝集前駆体にも結合する。
AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体と、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質に由来するモノマーおよび凝集体とを結合させる際に用いる溶媒としては、抗体またはFc領域含有タンパク質が溶解し、かつ、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体との結合が行われる限り特に制限されない。例えば、PBSなどの緩衝液や抗体やポリペプチドの製造に用いられる公知の溶液を用いることができる。また、以下に制限されないが、溶媒のpHは中性付近であることが好ましい。
また、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体と、上記のモノマーおよび凝集体とが結合できる限りにおいて結合反応時の温度、時間などの条件も制限されず、当業者であれば適宜実施することができる。
抗体またはFc領域含有タンパク質を含む溶液中において、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制において使用するため、前記固相担体は、粒径100nm~1mm、好ましくは500nm~100μm、より好ましくは1~10μm、特に好ましくは1~5μmの粒子(ビーズ)である。
固相担体は、磁性粒子または高分子樹脂からなる多孔質粒子、好ましくは磁性粒子である。前記高分子樹脂は、基体の表面にタンパク質と結合可能な官能基を有するものであればよく、例えば、アガロース、デキストラン、アクリルアミド、ポリビニルアルコール、シリカ、スチレンジビニルベンゼン共重合体、および、ポリヒドロキシメタクリレートを挙げることができる。
AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体は、例えば、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジン、ビオチン-ニュートラアビジン、アミノ基、または、スルフヒドリル基などの結合を介して、あるいは、二価性試薬(EMCS、GMBS、HMCS、KUMSなど)を使用して固相担体に固定化することができる。前記結合は、好ましくはビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジン、ビオチン-ニュートラアビジン、アミノ基、または、スルフヒドリル基であり、より好ましくはビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジン、または、ビオチン-ニュートラアビジンである。
必要な場合には、上記結合が生じたか否かを判定することができる。結合の評価手法としては、ELISA、SPR、ITC、QCM、AFM、プルダウン法、電気泳動法、蛍光偏光度測定法、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)、カラムクロマトグラフィー、イムノクロマトグラフィー法などが挙げられる。
回収手段としては、アフィニティクロマトグラフィー法、アフィニティビーズ法、アフィニティフィルター法、免疫沈降法などが挙げられる。
例えば、抗体製造における精製工程では、低pHになる条件や振盪条件を必要とするため、これらの条件により凝集体が形成する恐れがある。
抗体医薬の製造における製剤化工程では、抗体原薬は、安定化剤、溶解補助剤、界面活性剤、緩衝剤、等張化剤あるいは保存剤等としてはたらく種々の添加剤と混合される。これらの添加剤との相互作用等の化学的影響で、あるいは溶媒交換、濃縮、分注操作等の物理的影響で、凝集体を形成する恐れがある。調剤工程・投与時は、病院での保管状況(温度、湿度、光など)、注射器で吸い取る工程やシリンジオイルによる凝集体の形成が考えられる。輸送時の振動や気温などが原因で凝集体を形成する恐れもあるため、病院や薬局に届けられた時に、すでに凝集体が発生している可能性がある。
上記に例示する各工程の前に本方法を利用することで、既に発生した凝集体を取り除くだけでなく、凝集体の発生の原因とされる非天然型立体構造を有する抗体や凝集前駆体を除去することができる。
本発明の抗体の製造方法、および、本発明の抗体医薬の製造方法は、本発明の凝集体の形成を抑制する方法を含み、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制することにより、生物活性を長期間維持することが可能な高品質の抗体及び抗体医薬を製造することができる。
本発明の抗体医薬の調剤方法、および、抗体医薬の投与方法は、凝集体の形成を抑制することで、高品質で安全な抗体医薬の調剤及び投与を可能にする。
なお、凝集体形成抑制剤に含まれるAF.2A1ポリペプチドまたはその類似体は、上記のように、固定化されたAF.2A1ポリペプチドまたはその類似体であってもよく、また、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体をコードする核酸を含む組換えファージもしくは組換えウイルス、または、AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体をコードする核酸を含むベクターが導入された形質転換体としてもよい。
抗体医薬品中より非天然型抗体を除くために、抗体の非天然型立体構造を認識できる25残基の小型人工タンパク質AF.2A1を活用した。具体的な手順について以下に記載し、また、フローの概要を図2に示す。
天然型抗体としては、ヒトモノクローナルIgGを用いた。天然型抗体はPBS(pH7.5)で1mg/mlに希釈を行い、0.22μmフィルターに通して調製した。また、酸ストレス抗体は、天然型抗体溶液をpH2の酸性バッファー(100mM Glycine-HCl)に一晩透析置換して調製した。この操作により酸ストレス抗体は、Fc領域に非天然型立体構造を生じる。ストレス抗体は、ストレス抗体の1/6量の1M Tris-HCl(pH8)を添加して中和した。中和後、ストレス抗体溶液を1mg/mlの濃度にPBS(pH7.5)で希釈し、0.22μmフィルターに通した。1mg/mlの天然型抗体と酸ストレス抗体を9:1で混合し混合溶液を調製した。次に、混合溶液中にAF.2A1ビーズを添加し、25℃、2時間インキュベートすることで、非天然型抗体を除いた。AF.2A1ビーズは、1mlのPBS溶液(pH7.5)に、500μMのビオチン標識AF.2A1(25μl)と1mg分のストレプトアビジンコートの磁気ビーズ(Promega社、磁性粒子、直径1μm)を添加後、25℃、30分反応させて結合させることにより調製した(図3)。2時間のインキュベート後、AF.2A1ビーズを含まない上清画分のみを回収し、天然型抗体画分を取得した。
AF.2A1ビーズによる凝集体の形成抑制処理が、既存のフィルターを用いた凝集体除去よりも効果的に抗体凝集体を除去できるか否かを確認した。具体的には、AF.2A1ビーズによる凝集体の形成抑制処理前後の溶液(図2中の(1)~(3)の溶液)中の粒子サイズをDLSで測定することで凝集体の存在の有無を確認した。
その結果を図4に示す。図4Aで示すのは天然型抗体を含む溶液(図2における(1)の溶液)中の粒子径を測定した結果であり、直径10nmの大きさを示した。この天然型抗体に0.22μmフィルターに通して調製した酸ストレス抗体を9:1の割合で混合し、AF.2A1ビーズによる凝集体の形成抑制処理をせずに溶液(図2における(2)の溶液)中の粒子サイズをDLSで測定した結果、10nm以外にも様々なサイズの抗体粒子が存在しており、既存のフィルターでは除去できなかった凝集抗体が含まれていることが分かった(図4B)。この凝集抗体が含まれる溶液に、実施例1に記載の方法に従い、AF.2A1ビーズを混合後、凝集体の形成抑制処理をしたところ(図2における(3)の溶液)、図4Bで見られた凝集画分が除去され、天然型抗体のみになっていることが確認できた(図4C)。
測定サンプルは、測定前に0.22μmのフィルターにて凝集体除去を行っているが、既存のフィルターでは、小さなサイズの凝集体を除去することは困難である(図4B)。従って、本開発手法は既存のフィルターよりも網羅的な凝集体除去ができる点で優位である。また、溶液中に凝集体が形成された後であっても、AF.2A1ビーズを用いることで凝集体を除去できることが示された。
さらに、AF.2A1ビーズによる凝集体の形成抑制処理前後の溶液をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析することで凝集体の存在の有無を確認した。
その結果を図10に示す。(a)は天然型抗体を含む溶液(図2における(1)の溶液)、(b)は天然型抗体に0.22μmフィルターに通して調製した酸ストレス抗体を7:3の割合で混合した溶液(図2における(2)の溶液)、(c)は前記酸ストレス抗体混合溶液にAF.2A1ビーズを添加し凝集体の形成抑制処理をした溶液(図2における(3)の溶液)の測定結果である。凝集体の形成抑制処理を行わない溶液では、二量体や凝集体が含まれているが、形成抑制処理によって、ピークが下がる。この結果は、二量体も除去されていることを示すものであり、これにより本技術が凝集体の大きさに関わらず網羅的な凝集体除去が可能なことが確認された。
AF.2A1ビーズが、天然型抗体および非天然型抗体を含む溶液中の凝集体をどの程度除去可能であるのかについて検討した。
具体的には、実施例1で調製した1mg/mlの天然型抗体と1mg/mlの酸ストレス抗体を様々な割合(酸ストレス抗体が0~100%)で混合した。その後、実施例1と同様にしてAF.2A1ビーズで溶液中の凝集体の形成抑制処理を行った。処理前と処理後の抗体を500xg, 1分間遠心し、可溶性画分の抗体濃度を測定した。混合溶液中の酸ストレス抗体の割合が増すほど、除去される凝集体の量が増し、結果として混合溶液中の抗体濃度が減少した。図5に示すように、1mg分のAF.2A1ビーズで約470ug分の非天然型抗体を含む凝集体を除去することが可能であった。
ストレスを受けて生じた非天然型抗体は、時間経過に伴いサイズの大きな凝集体へと変化することが報告されている。そこで、天然型抗体と酸ストレス抗体を混合後、AF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理をした場合としていない場合とで、25℃で静置している間の凝集体形成について調べた。
具体的には、下記のようにして行った。天然型抗体およびストレス抗体は、上記実施例1と同様にして調製した。1mg/mlの天然型抗体に、1mg/mlの酸ストレス抗体を0、1、5、10、20%の割合で混合溶液を調製した。その後、すぐに実施例1と同様にしてAF.2A1ビーズで溶液中の凝集体の形成を抑制した。AF.2A1ビーズの処理前と処理後の混合溶液を500xg、1分間遠心した。その後、25℃で0, 3, 7, 21, 34, 48, 63日間静置させ、可溶性画分の抗体濃度を測定した。抗体濃度測定は、Implen社のNanoPhotometerを使用して、280nmの吸光度を測定することで抗体濃度を決定した。図6は、測定前にスピンダウンを行い、可溶性画分のみの抗体濃度を測定した結果である。AF.2A1ビーズでの処理を行わない場合、時間依存的に抗体が凝集して沈殿してしまうため、総抗体濃度が減少した(図6A)。一方、AF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理を行った場合、時間依存的な凝集体形成が著しく抑制された(図6B)。従って、本抑制技術により既存技術で除去できない小さい凝集体を取り除くことで、長期間安定的に保存することが可能になる。
本手法が一つの抗体だけでなく複数の抗体に利用可能であるかを調べるために、3種類の治療用モノクローナル抗体(mAb1, mAb2, mAb3)と1種類のポリクローナル抗体(pAb)を用いて検討した。それぞれの抗体について、実施例1と同様にして天然型抗体および酸ストレス抗体を調製した。1mg/mlの天然型抗体に、1mg/mlの酸ストレス抗体を5%の割合で混合後、実施例1と同様にしてAF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理を行った。その後、25℃で0, 3, 7, 10, 14日間静置させ、DLSにて溶液中の粒子サイズを測定した。
その結果、検討した全ての抗体において初めに凝集体を取り除くことで将来的な凝集形成を著しく抑制できることが示された(図6E、H、K、Nと図6F、I、L、Oとの比較)。また、モノクローナル抗体に関しては、天然型抗体と酸ストレス抗体を混合後に凝集体の形成抑制処理操作を行わなかった場合、時間経過に伴い大きな凝集体の発生が確認された(図6E、H、K)が、AF.2A1ビーズで非天然型抗体およびそれに由来にする凝集体を除去したサンプルは、天然型抗体のみのサンプルと同様に2週間後も凝集体は生じなかった(図6F、I、L)。ポリクローナル抗体に関しては、酸ストレス抗体を混合していない場合でも様々なサイズ画分が混入していることが確認された(図6M)。しかし、AF.2A1ビーズで除去を行うことで、より不純物含量の少ないポリクローナル抗体を得ることが可能であると証明できた(図6O)。本手法は抗体医薬品の品質管理技術だけでなく、研究試薬として使用する抗体に対しても、凝集形成を抑制し純度を保つためにも利用可能であることが示唆された。
図7H,Kの結果より、天然型抗体および酸ストレス抗体の混合溶液に対してビーズ処理をしていないサンプル中には、0日目にはDLSで凝集体が検出されていない。しかし、1週間後からわずかではあるが凝集体画分が確認され、長期間静置しておくことで、大きな凝集体形成が進行していった(図6H,K)。一方、天然型抗体および酸ストレス抗体の混合溶液に対してビーズ処理を行ったサンプルでは、2週間後も凝集体が発生していない。0日目では、天然型抗体のみを含むサンプルと、天然型抗体および酸ストレス抗体の混合溶液に対してビーズ処理をしていないサンプル、天然型抗体および酸ストレス抗体の混合溶液に対してビーズ処理を行ったサンプルの3つのサンプルのどれにも小さな凝集体が混合していないにも関わらず、ビーズ処理をしていないサンプルのみ時間依存的に凝集体が発生した結果は、非天然型モノマーが混入していることを示している。
以上のことから、既存の装置で検出が困難である非天然型モノマーと既存技術で除去できない小さな凝集体は「凝集体前駆体」であることと、この将来的に大きな凝集体になりうる凝集体前駆体に本抑制技術を適応することで、長期にわたり凝集体形成を抑制することが可能であることが明らかになった。
図8に示すように、天然型抗体をPBS(pH7.5)で1mg/mlの濃度に希釈後、熱ストレス(50℃、10時間)、凍結融解ストレス(-80℃で15min 凍結、室温15min 溶解 (10回繰り返した))、撹拌ストレス(200rpm, 5時間)、還元ストレス(50mM 2-ME, 37℃, 90min)または、酸ストレス(pH3, pH4それぞれ16時間)のいずれかのストレス処理をした。その後、実施例1と同様にしてAF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理を行い、DLSで溶液中の粒子サイズを測定した。白い棒グラフはAF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理をした結果、灰色の棒グラフは処理をしていない場合の結果を示している。(A)は熱ストレス、(B)は凍結融解ストレス、(C)は撹拌ストレス、(D)は還元ストレス、(E)はpH3の酸ストレス、(F)はpH4の酸ストレス結果を示している。どのストレスによっても、凝集体の形成が見られた。一方、AF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理を行った場合では、凝集体形成が著しく抑制された。
以上のことから、AF.2A1ペプチドを用いた凝集体の形成抑制技術は酸以外のストレスで生じた凝集体にも効果があると考えられる。
これまで様々なストレスによって生じた非天然型抗体およびそれに起因する凝集体を取り除き、将来的に発生する凝集体の抑制効果を検討してきた。次に、実際の抗体医薬品製造工程を模して調製された抗体を使用して、ストレスを加えずに4℃、25℃、37℃で静置した場合に生じる凝集体発生抑制にも効果があるのかを検討した。
具体的には、1 mg/mlのモノクローナル抗体(mAb4, mAb5)に対して、実施例1と同様にしてAF.2A1ビーズ処理を行い、4℃、25℃、37℃のそれぞれの温度で静置した。溶液中の粒子サイズは、それぞれ0日(A)、14日(B)、1か月(C)、3か月(D)、6か月後(E)にDLSを用いて測定した。
その結果を図9に示す。AF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理をしていない場合(図9A~Eの上段のグラフ)、高純度に精製された抗体であっても25℃や37℃で長期保管しておくと凝集体の形成が見られた。一方、AF.2A1ビーズで凝集体の形成抑制処理を行った場合(図9A~Eの下段のグラフ)では、凝集体形成が著しく抑制された。
以上のことから、AF.2A1ペプチドを用いた凝集体の形成抑制技術は将来的に大きな凝集体になりうる凝集体前駆体を除去することで、長期安定的な保管を可能にすることができる。
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Claims (9)
- 抗体またはFc領域含有タンパク質を含む溶液中において、非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制する方法であって、
(i)前記溶液中において、AF.2A1ポリペプチド(配列番号1)またはその類似体と非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質に由来するモノマーおよび凝集体とを結合させる工程と
(ii)前記ポリペプチドまたはその類似体に結合した前記モノマーおよび凝集体を前記溶液中から回収する工程であって、これにより、粒子径が0.22μm未満の凝集前駆体を含む凝集体が除去される工程と
を含み、前記類似体が、配列番号3~25のいずれかに示されるアミノ酸配列からなり、前記抗体またはFc領域含有タンパク質が、ヒト免疫グロブリンG(IgG)またはそのFc領域含有タンパク質である、方法。 - 請求項1に記載の方法であって、
前記非天然型立体構造が、酸処理、加熱、還元、酸化、凍結融解、および、物理的刺激からなる群より選択されるストレスにより生じたものである、方法。 - 請求項1に記載の方法であって、
前記抗体がヒト免疫グロブリンG1~4である、方法。 - 請求項1に記載の方法であって、
前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が固相担体に固定化されていることを特徴とする、方法。 - 請求項4に記載の方法であって、前記固相担体が、粒径1~10μmの粒子であることを特徴とする、方法。
- 請求項4に記載の方法であって、前記固相担体が、磁性粒子または高分子樹脂からなる多孔質粒子であることを特徴とする、方法。
- 請求項4に記載の方法であって、前記AF.2A1ポリペプチドまたはその類似体が、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジン、および、ビオチン-ニュートラアビジンから選ばれるいずれかの結合を介して固相担体に固定化されていることを特徴とする、方法。
- 請求項1に記載の非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制する方法を含む、抗体の製造方法。
- 請求項1に記載の非天然型立体構造を有する抗体またはFc領域含有タンパク質由来の凝集体の形成を抑制する方法を含む、抗体医薬の製造方法。
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