以下、実施形態による電動ブレーキ装置を、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面を参照して説明する。なお、図5および図6に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。また、図1および図2中で二本の斜線が付された線は電気系の線を表している。
図1において、車両1には、車輪(前輪3L,3R、後輪5L,5R)に制動力を付与して車両1を制動するブレーキ装置2(車両用ブレーキ装置、ブレーキシステム)が搭載されている。ブレーキ装置2は、左側の前輪3Lおよび右側の前輪3Rに対応して設けられた左右の液圧ブレーキ装置4,4(フロント制動機構)と、左側の後輪5Lおよび右側の後輪5Rに対応して設けられた左右の電動ブレーキ装置21,21(リア制動機構)と、ブレーキペダル6(操作具)の操作(踏込み)に応じて液圧を発生するマスタシリンダ7と、運転者(ドライバ)のブレーキペダル6の操作量を計測する液圧センサ8およびペダルストロークセンサ9と含んで構成されている。
液圧ブレーキ装置4は、例えば、液圧式ディスクブレーキにより構成されており、液圧(ブレーキ液圧)の供給によって車輪(前輪3L,3R)に制動力を付与する。電動ブレーキ装置21は、例えば、電動式ディスクブレーキにより構成されており、電動モータ22B(図2参照)の駆動によって車輪(後輪5L,5R)に制動力を付与する。液圧センサ8およびペダルストロークセンサ9は、メインECU10に接続されている。
マスタシリンダ7と液圧ブレーキ装置4,4との間には、液圧供給装置11(以下、ESC11という)が設けられている。ESC11は、例えば、複数の制御弁と、ブレーキ液圧を加圧する液圧ポンプと、該液圧ポンプを駆動する電動モータと、余剰のブレーキ液を一時的に貯留する液圧制御用リザーバ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。ESC11の各制御弁および電動モータは、フロント液圧装置用ECU12に接続されている。フロント液圧装置用ECU12は、マイクロコンピュータを含んで構成されている。フロント液圧装置用ECU12は、メインECU10からの指令に基づいて、ESC11の各制御弁の開閉および電動モータの駆動を制御する。
メインECU10は、マイクロコンピュータを含んで構成されている。メインECU10は、液圧センサ8およびペダルストロークセンサ9からの信号の入力を受けて、予め定められた制御プログラムにより各輪(4輪)に対しての目標制動力の演算を行う。メインECU10は、算出した制動力に基づいて、フロント2輪それぞれに対しての制動指令をフロント液圧装置用ECU12(即ち、ESCECU)へ車両データバスとしてのCAN13(Controller area network)を介して送信する。メインECU10は、算出した制動力に基づいて、リア2輪それぞれに対しての制動指令(目標推力)をリア電動ブレーキ用ECU24,24へCAN13を介して送信する。
前輪3L,3Rおよび後輪5L,5Rのそれぞれの近傍には、これらの車輪3L,3R,5L,5Rの速度(車輪速度)を検出する車輪速度センサ14,14が設けられている。車輪速度センサ14,14は、メインECU10に接続されている。メインECU10は、各車輪速度センサ14,14からの信号に基づいて各車輪3L,3R,5L,5Rの車輪速度を取得することができる。また、メインECU10は、車両に搭載された他のECU(図示せず)からCAN13を介して送信される車両情報を受信する。即ち、メインECU10は、CAN13を介して、例えば、ATレンジのポジションまたはMTシフトのポジションの情報、イグニションオン/オフの情報、ドア開閉情報、運転席のシートベルトの装着の情報、ドアミラー開閉の情報、エンジン回転数の情報、ステアリングホイールの操作の情報、クラッチ操作の情報、アクセル操作の情報、車車間通信の情報、車載カメラによる車両周囲の情報、加速度センサの情報(前後加速度、横加速度)等の各種の車両情報を取得する。
運転席の近傍には、パーキングブレーキスイッチ15が設けられている。パーキングブレーキスイッチ15は、メインECU10に接続されている。パーキングブレーキスイッチ15は、運転者の操作指示に応じたパーキングブレーキの作動要求(保持要求となるアプライ要求、解除要求となるリリース要求)に対応する信号(作動要求信号)をメインECU10に伝達する。メインECU10は、パーキングブレーキスイッチ15の操作(作動要求信号)に基づいて、リア2輪それぞれに対してのパーキングブレーキ指令をリア電動ブレーキ用ECU24,24へ送信する。パーキングブレーキスイッチ15は、パーキング機構23を作動させるスイッチに相当する。
電動ブレーキ装置21は、ブレーキ機構22と、制動力保持機構としてのパーキング機構23と、制御装置としてのメインECU10およびリア電動ブレーキ用ECU24とを備えている。この場合、電動ブレーキ装置21は、位置制御および推力制御を行うために、モータ回転位置を検出する位置検出手段としての回転角センサ25と、推力(ピストン推力)を検出する推力検出手段としての推力センサ26と、モータ電流を検出する電流検出手段としての電流センサ27(いずれも図2参照)とを備えている。
ブレーキ機構22は、車両1の左右の車輪、即ち、左後輪5L側と右後輪5R側とのそれぞれに設けられている。ブレーキ機構22は、電動ブレーキ機構として構成されている。ブレーキ機構22は、例えば、図2に示すように、シリンダ(ホイルシリンダ)としてのキャリパ22Aと、電動機(電動アクチュエータ)としての電動モータ22Bと、減速機構22Cと、回転直動変換機構22Dと、押圧部材としてのピストン22Eと、制動部材(パッド)としてのブレーキパッド22Fと、図示しないフェールオープン機構(リターンスプリング)とを備えている。電動モータ22Bは、電力の供給により駆動(回転)し、ピストン22Eを推進する。これにより、電動モータ22Bは、制動力を付与する。電動モータ22Bは、メインECU10からの制動指令(目標推力)に基づいてリア電動ブレーキ用ECU24により制御される。減速機構22Cは、電動モータ22Bの回転を減速して回転直動変換機構22Dに伝達する。
回転直動変換機構22Dは、減速機構22Cを介して伝達される電動モータ22Bの回転をピストン22Eの軸方向の変位(直動変位)に変換する。ピストン22Eは、電動モータ22Bの駆動により推進され、ブレーキパッド22Fを移動させる。ブレーキパッド22Fは、ピストン22Eにより被制動部材(ディスク)としてのディスクロータDに押圧される。ディスクロータDは、車輪(後輪5L,5R)と共に回転する。図示しないリターンスプリング(フェールオープン機構)は、制動付与時に、回転直動変換機構22Dの回転部材に対して制動解除方向の回転力を付与する。ブレーキ機構22は、電動モータ22Bの駆動によりディスクロータDにブレーキパッド22Fを押圧すべくピストン22Eが推進される。即ち、ブレーキ機構22は、ブレーキパッド22Fを移動させるピストン22Eに、電動モータ22Bの駆動により発生する推力を伝達する。
パーキング機構23は、各ブレーキ機構22,22、即ち、左側(左後輪5L側)のブレーキ機構22と右側(右後輪5R側)のブレーキ機構22とのそれぞれに設けられている。パーキング機構23は、ブレーキ機構22のピストン22Eの推進状態を保持する。即ち、パーキング機構23は、制動力の保持と解除を行う。パーキング機構23は、ブレーキ機構22の一部を係止することで制動力を保持する。例えば、パーキング機構23は、図3に示すように、爪車(ラチェットギヤ23B)に係合爪(レバー部材23C)を係合(係止)させることにより回転を阻止(ロック)するラチェット機構(ロック機構)により構成されている。即ち、パーキング機構23は、ソレノイド23Aと、爪車となるラチェットギヤ23Bと、係合爪(係止爪)となるレバー部材23Cと、戻しばねとなる圧縮ばね23Dとを含んで構成されている。ソレノイド23Aは、電力の供給により駆動する(プランジャ23A1が変位する)。ソレノイド23Aは、メインECU10およびリア電動ブレーキ用ECU24により制御される。
ラチェットギヤ23Bは、ブレーキ機構22の電動モータ22Bの回転軸22B1に一体的に固定されている。ラチェットギヤ23Bの外周側には、レバー部材23Cの爪部23C1と係合する爪23B1が周方向に亙って等間隔に複数設けられている。レバー部材23Cは、一端側がラチェットギヤ23Bの爪23B1に係合する爪部23C1となり、他端側がソレノイド23Aのプランジャ23A1に連結される連結部23C2となっている。レバー部材23Cは、ソレノイド23Aによりラチェットギヤ23Bの爪23B1に対して係合(係止)または離間するように往復運動する。圧縮ばね23Dは、レバー部材23Cの爪部23C1をラチェットギヤ23Bの爪23B1から離間する方向に弾性力を付与する。この構成により、パーキング機構23は、ブレーキ機構22の一部となる電動モータ22Bの回転軸22B1をラチェットギヤ23Bとレバー部材23Cとで係止することで、制動力を保持する。
リア電動ブレーキ用ECU24は、各ブレーキ機構22,22、即ち、左側(左後輪5L側)のブレーキ機構22と右側(右後輪5R側)のブレーキ機構22とのそれぞれに対応して設けられている。リア電動ブレーキ用ECU24は、マイクロコンピュータを含んで構成されている。リア電動ブレーキ用ECU24は、メインECU10からの指令に基づいてブレーキ機構22(電動モータ22B)とパーキング機構23(ソレノイド23A)を制御する。即ち、リア電動ブレーキ用ECU24は、メインECU10と共に、電動モータ22Bおよびパーキング機構23の作動を制御する制御装置を構成している。この場合、リア電動ブレーキ用ECU24は、電動モータ22Bの駆動を制動指令(目標推力)に基づいて制御する。これと共に、リア電動ブレーキ用ECU24は、パーキング機構23(ソレノイド23A)の駆動を作動指令に基づいて制御する。リア電動ブレーキ用ECU24には、メインECU10から制動指令、作動指令が入力される。
回転角センサ25は、電動モータ22Bの回転軸22B1の回転角度(モータ回転角)を検出する。回転角センサ25は、各ブレーキ機構22の電動モータ22Bにそれぞれ対応して設けられており、電動モータ22Bの回転位置(モータ回転位置)を検出する位置検出手段を構成している。推力センサ26は、ピストン22Eからブレーキパッド22Fへの推力(押圧力)に対する反力を検出する。推力センサ26は、各ブレーキ機構22それぞれに設けられており、ピストン22Eに作用する推力(ピストン推力)を検出する推力検出手段を構成している。電流センサ27は、電動モータ22Bに供給される電流(モータ電流)を検出する。電流センサ27は、各ブレーキ機構22の電動モータ22Bにそれぞれ対応して設けられており、電動モータ22Bのモータ電流を検出する電流検出手段を構成している。回転角センサ25、推力センサ26、および、電流センサ27は、リア電動ブレーキ用ECU24に接続されている。
リア電動ブレーキ用ECU24(および、このリア電動ブレーキ用ECU24とCAN13を介して接続されたメインECU10)は、回転角センサ25からの信号に基づいて電動モータ22Bの回転角度を取得することができる。リア電動ブレーキ用ECU24(およびメインECU10)は、推力センサ26からの信号に基づいてピストン22Eに作用する推力を取得することができる。リア電動ブレーキ用ECU24(およびメインECU10)は、電流センサ27からの信号に基づいて電動モータ22Bに供給されるモータ電流を取得することができる。
次に、電動ブレーキ装置21による走行中の制動付与および制動解除の動作について説明する。なお、以下の説明では、運転者がブレーキペダル6を操作したときの動作を例に挙げて説明する。しかし、自動ブレーキの場合についても、例えば、自動ブレーキの指令が自動ブレーキ用ECU(図示せず)またはメインECU10からリア電動ブレーキ用ECU24に出力される点で相違する以外、ほぼ同様である。
例えば、車両1の走行中に運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、メインECU10は、ペダルストロークセンサ9から入力される検出信号に基づいて、ブレーキペダル6の踏込み操作に応じた指令(例えば、制動付与指令に対応する目標推力)をリア電動ブレーキ用ECU24に出力する。リア電動ブレーキ用ECU24は、メインECU10からの指令に基づいて、電動モータ22Bを正方向、即ち、制動付与方向(アプライ方向)に駆動(回転)する。電動モータ22Bの回転は、減速機構22Cを介して回転直動変換機構22Dに伝達され、ピストン22Eがブレーキパッド22Fに向けて前進する。
これにより、ブレーキパッド22F,22FがディスクロータDに押し付けられ、制動力が付与される。このとき、ペダルストロークセンサ9、回転角センサ25、推力センサ26等からの検出信号により、電動モータ22Bの駆動が制御されることにより、制動状態が確立される。このような制動中、回転直動変換機構22Dの回転部材、延いては、電動モータ22Bの回転軸22B1には、ブレーキ機構22に設けられた図示しないリターンスプリングにより制動解除方向の力が付与される。
一方、メインECU10は、ブレーキペダル6が踏込み解除側に操作されると、この操作に応じた指令(例えば、制動解除指令に対応する目標推力)をリア電動ブレーキ用ECU24に出力する。リア電動ブレーキ用ECU24は、メインECU10からの指令に基づいて、電動モータ22Bを逆方向、即ち、制動解除方向(リリース方向)に駆動(回転)する。電動モータ22Bの回転は、減速機構22Cを介して回転直動変換機構22Dに伝達され、ピストン22Eがブレーキパッド22Fから離れる方向に後退する。そして、ブレーキペダル6の踏込みが完全に解除されると、ブレーキパッド22F,22FがディスクロータDから離間し、制動力が解除される。このような制動が解除された非制動状態では、ブレーキ機構22に設けられた図示しないリターンスプリングは初期状態に戻る。
次に、パーキングブレーキによる制動付与(アプライ)および制動解除(リリース)の動作について説明する。なお、以下の説明では、運転者がパーキングブレーキスイッチ15を操作したときの動作を例に挙げて説明するが、自動パーキングブレーキ(オートアプライ、オートリリース)の場合についても、例えば、メインECU10の自動パーキングブレーキの判定に基づいてその指令(オートアプライ指令、オートリリース指令)が出力される点で相違する以外、ほぼ同様である。
例えば、運転者によりパーキングブレーキスイッチ15がアプライ側に操作されると、メインECU10は、パーキングブレーキを作動(アプライ)する。この場合、メインECU10は、先ず、リア電動ブレーキ用ECU24を介してブレーキ機構22の電動モータ22Bを推力発生側(アプライ側:図3の時計方向)に回転させ、ブレーキパッド22F,22FをディスクロータDに所望の力(例えば、車両1の停止を維持できる力)で押圧する。この状態で、メインECU10は、リア電動ブレーキ用ECU24を介してパーキング機構23のソレノイド23Aを作動させる。即ち、ソレノイド23Aのプランジャ23A1を引き込む(図3の上側に向けて変位させる)ことにより、レバー部材23Cの爪部23C1をラチェットギヤ23Bの爪23B1に押付ける。このとき、図3の(A)に示すように、レバー部材23Cの爪部23C1がラチェットギヤ23Bの爪23B1の頂部に当接(干渉)することにより、これら爪部23C1と爪23B1とが係合されない場合もある。
次に、メインECU10は、リア電動ブレーキ用ECU24を介して電動モータ22Bを減力側(リリース側:図3の反時計方向)に回転させる。これにより、爪部23C1と爪23B1とが係合されない場合にも、図3の(B)に示すように、爪部23C1と爪23B1とを確実に係合させることができる。この状態で、電動モータ22Bへの通電を停止すると共に、例えば推力センサ26により所定の推力(例えば、車両の停止を維持できる推力)に達しているか否かを確認してから、ソレノイド23Aへの通電を停止する。このとき、ラチェットギヤ23B(即ち、電動モータ22Bの回転軸22B1)には、ブレーキ機構22に設けられた図示しないリターンスプリングの弾性力に基づいて減力側(リリース側)への回転力(図3の反時計方向の力)が付与される。このため、ソレノイド23Aへの通電を停止しても、図3の(C)に示すように、爪部23C1と爪23B1との係合状態が保持される。これにより、電動モータ22Bおよびソレノイド23Aへの通電を停止した状態で制動状態を保持することができる。
一方、パーキングブレーキスイッチ15がリリース側に操作されると、メインECU10は、パーキングブレーキの作動を解除(リリース)する。この場合、ソレノイド23Aには通電せずに、電動モータ22Bを推力発生側(アプライ側)に僅かに回転させる。これにより、レバー部材23Cの爪部23C1とラチェットギヤ23Bの爪23B1との係合が緩み、圧縮ばね23Dのばね力によってレバー部材23Cが爪部23C1と爪23B1との係合を解除する方向(時計方向)へ回動する。そして、推力センサ26により推力が変化したか否かを確認してから、電動モータ22Bを減力側(リリース側)へ回転させて制動を解除する。
ところで、アクセル操作をトリガーにパーキングブレーキを自動的に解除(オートリリース)することを考える。例えば、運転者によりパーキングブレーキスイッチがアプライ側に操作され、パーキング機構(ラチェット機構)の係止により制動力が保持されている状態で、アクセル操作がされることにより、オートリリースすることを考える。この場合、アクセル操作を検出してから係合爪と爪車との係合を解除すると、この解除が完了するまでに時間を要し、車両の発進が遅れる可能性がある。そこで、実施形態では、運転者のアクセル操作の直前に行われる動作を、ラチェット機構であるパーキング機構23の解除条件として車両情報から判断する。そして、パーキング機構23の解除条件が成立した場合は、パーキング機構23による制動力を解除し、パーキング機構23の解除後の制動力の保持は、電動モータ22Bで行う。即ち、パーキング機構23の解除条件が成立した場合は、パーキング機構23の係合を解除し、電動モータ22Bで制動力の保持を行う。このため、アクセル操作がなされてからのパーキング機構23を解除する時間を省略することができる。これにより、速やかに車両を発進することができ、運転者の感じる発進遅れを軽減できる。
即ち、実施形態では、メインECU10は、パーキング機構23による制動力の保持が解除されるとき、パーキング機構23の係止により保持されていた制動力に対応する制動力を、電動モータ22Bにより保持する。この場合、メインECU10は、パーキング機構23の解除条件が成立したときに、パーキング機構23による制動力の保持が解除される。具体的には、メインECU10は、CAN13を介して受信した車両情報から、運転者に発進意思があり、走行する可能性があると判定した場合、ソレノイド23Aには通電しない。メインECU10は、パーキング機構23の係止により制動力を保持しているときに、運転者に発進意思があり、走行する可能性があると判定した場合、電動モータ22Bを推力発生側(アプライ側)に規定値(例えば、ラチェットギヤ23Bの爪23B1の1歯分)回転させ、レバー部材23Cの爪部23C1とラチェットギヤ23Bの爪23B1との係合を解除しておく。即ち、パーキング機構23の係合を解除する。そして、電動モータ22Bにより、パーキング機構23の係止により保持されていた制動力に対応する制動力を保持する。即ち、パーキング機構23の係止なしで、パーキングブレーキ(PKB)として付与すべき制動力を付与した状態を、電動モータ22Bの駆動力によって継続する。
このため、その後、運転者がアクセルペダル(操作具)にてアクセル操作(踏み込み操作)をしたときに、パーキング機構23の係合を予め解除していない構成と比較して、ラチェットギヤ23Bとレバー部材23Cとを解除する時間を短縮することができる。これにより、運転者の感じる発進遅れを軽減できる。このとき、推力は、電動モータ22Bで保持する。なお、メインECU10は、ラチェットギヤ23Bとレバー部材23Cとを解除し、電動モータ22Bで推力を保持しているときに、運転者に発進意思がないと判定した場合は、パーキング機構23を係合する。即ち、メインECU10は、ソレノイド23Aに再び通電し、レバー部材23Cの爪部23C1をラチェットギヤ23Bの爪23B1に押し付ける。この状態で、電動モータ22Bを減力側(リリース側)に規定値(例えば、ラチェットギヤ23Bの爪23B1の1歯分)回転させ、レバー部材23Cの爪部23C1とラチェットギヤ23Bの爪23B1とを係合させる。
運転者に発進意思があり、走行する可能性があると判定する条件としては、例えば、次の(a)-(f)が挙げられる。
(a)ATレンジまたはMTシフトが走行可能な位置、例えば、ATの場合はN,Pレンジ以外、MTの場合はNレンジ以外に切換わった。なお、「AT」は「自動変速装置」であり「MT」は「手動変速装置」である。
(b)運転席のシートベルトが装着状態になっている。
(c)イグニッションオンの状態である。
(d)エンジンが駆動している。
(e)ドアミラーを開く。
(f)クラッチペダルが操作されている。即ち、クラッチペダルが踏まれている(MT車)。
これら(a)-(f)の条件の組み合わせは問わず、全てが成立、または、少なくともいずれかが成立することで、運転者に発進意思があると判定する。また、発進意思の条件に当てはまらなかった場合は、運転者に発進意思がないと判定する。運転者に発進意思があると判定した場合は、ラチェット係合が不要と判定する(ラチェット要否判定=否)。
一方、パーキング機構23を解除状態にした場合に、運転者に発進意思がないと判定する条件としては、次の(g)-(l)が挙げられる。
(g)一定時間経過してもオートリリース条件が成立しない(アクセル操作量が規定値を超えない等)
(h)ATレンジが再度Pレンジ、Nレンジに切換わった(AT車)。
(i)イグニッションオフの状態になった。
(j)運転席のドアが開く。
(k)クラッチペダルが操作されていない。即ち、クラッチペダルが踏まれていない(MT車)。
(l)急激な前後加速度、横加速度の変化を検知した(例えば、追突事故)。
これら(g)-(l)の条件の組み合わせは問わず、全てが成立、または、少なくともいずれかが成立することで、運転者に発進意思がないと判定する。また、発進意思なしの条件に当てはまらなかった場合は、運転者に発進意思があると判定する。運転者に発進意思がないと判定した場合は、ラチェット係合が必要と判定する(ラチェット要否判定=要)。
ここで、図4は、電動ブレーキ装置21の制御中の状態遷移図の一例を示している。電動ブレーキ装置21の制御中は、「待機状態」、「推力制御状態」、「クリアランス制御状態」、「ラチェット係合処理状態」、「ラチェット解除処理状態」、「パーキングブレーキロック状態(PKBロック状態)」のいずれかの制御状態になっている。電動ブレーキ装置21は、これらの状態に応じた制御を行う。各状態への遷移条件は、図4の矢印の横に示す通りである。遷移条件が成立した場合に、状態が遷移する。
電動ブレーキ装置21の起動直後は、一連のシステムチェックを行う。このシステムチェックの完了後に、システムチェック中に推力が規定値以上であり「PKBロック状態」であると判定した場合は、制御状態としては「PKBロック状態」になる。「PKBロック状態」でないと判定した場合は、制御状態としては、「待機状態」になる。なお、制御状態は、例えば、メインECU10内に内蔵されているEEPROM等のメモリに前回の起動終了時に記憶させ、今回の起動直後のシステムチェック時にメモリに記憶された情報を読み込み、判定してもよい。
次に、「PKBロック状態」のときに運転者の発進意思を検出した場合について、図4を参照しつつ説明する。
「PKBロック状態」のときに、運転者に発進意思があり、走行する可能性があると判定した場合は、ラチェット要否判定が「否」となり、ラチェット解除処理を行う。即ち、「PKBロック状態」から「ラチェット解除処理状態」に遷移し、パーキング機構23の係合を解除する。ラチェット解除処理が完了すると、「ラチェット解除処理状態」から「推力制御状態」へ遷移し、電動モータ22BでPKB用の目標推力、即ち、車両の停止を維持できる目標推力(例えば、15kN)を維持する。なお、PKB用の目標推力は、路面勾配に応じて変更してもよい。
PKB用の目標推力を維持しているときに、アクセル操作がされた場合、オートリリース要求が発生したと判定し、目標推力をPKB用の推力設定値(例えば、15kN)から0(ゼロ)kNに変更し、「推力制御状態」にて推力がゼロになるまで制御を行う。推力がゼロになると、「クリアランス制御状態」へ遷移する。「クリアランス制御状態」では、ブレーキパッド22FとディスクロータDとのクリアランスが所定量となる所定クリアランス位置にピストン22Eを移動させるように制御を行う。クリアランスが所定量に到達すると、「待機状態」へ遷移する。なお、「クリアランス制御状態」のときに推力発生指令(PKBアプライ要求を含む)があった場合は、「推力制御状態」へ遷移し、以降の処理を行う。
一方、PKB用の目標推力を維持しているときに、ラチェット要否判定が「要」となると、「ラチェット係合処理状態」に遷移し、再びラチェット係合処理を行う。ラチェット係合処理が完了すると、「PKBロック状態」に遷移する。なお、ここではPKB作動要求(アプライ、リリース)があったときの状態遷移を説明したが、ブレーキペダル6の操作により推力発生指令があったときは、目標推力がペダル操作に応じて制御周期毎に可変する。
次に、メインECU10の演算回路で行われる制御処理について、図5および図6を参照しつつ説明する。なお、図5および図6に示す処理フローを実行するための処理プログラムは、メインECU10のメモリに格納されている。図5および図6の制御処理は、例えば、メインECU10が起動した後、所定の制御周期毎、例えば、10ms毎に繰り返し実行される。
図5は、図4に示す状態遷移図の「PKBロック状態」のときに運転者の発進意思を検出したときのラチェット要否を判定する処理を示している。「PKBロック状態」に遷移することにより図5の制御処理が開始されると、S1では、「PKBロック状態」であるか否かを判定する。S1で「NO」、即ち、「PKBロック状態」でないと判定した場合は、リターンする。即ち、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。一方、S1で「YES」、即ち、「PKBロック状態」であると判定した場合は、S2に進む。
S2では、運転者に発進意思があり、走行する可能性があると判定する条件が成立しているか否かを判定する。即ち、S2では、前述の(a)-(f)の条件の少なくともいずれか、または、全てが成立したか否かを判定する。S2で「NO」、即ち、運転者に発進意思がなく、走行する可能性が低いと判定した場合は、ラチェット要否判定が「要」のまま、リターンする。この場合は、図4の「PKBロック状態」であることから初期のラチェット要否判定の「要」のまま、リターンする。一方、S2で「YES」、即ち、運転者に発進意思があり、走行する可能性があると判定した場合は、S3に進む。S3では、ラチェット要否判定を「否」とし、S4に進む。S4では、図4の「推力制御状態」にて推力を維持させるよう、PKB用の目標推力を保持させ、リターンする。この場合は、図4の「PKBロック状態」から「ラチェット係合処理状態」を介して「推力制御状態」に遷移する。
次に、図6は、図5のS3にてラチェット要否判定が「否」と判定された「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持しているときのラチェット要否を再判定する処理を示している。即ち、図6は、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持しているときに、運転者による発進意思がない場合は再度ラチェット要否を決定する、または、オートリリース条件が成立した場合は目標推力を再設定する処理である。
図5のS3にてラチェット要否判定が「否」と判定されることにより図6の制御処理が開始されると、S11では、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持しているか否かを判定する。S11で「NO」、即ち、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持していないと判定した場合は、リターンする。即ち、リターンを介してスタートに戻り、S11以降の処理を繰り返す。S11で「YES」、即ち、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持していると判定した場合は、S12に進む。S12では、運転者に発進意思がなく、走行する可能性が低いと判定する条件が成立しているか否かを判定する。即ち、S12では、前述の(g)-(l)の条件のうち(h)-(l)の条件の少なくともいずれか、または、全てが成立したか否かを判定する。S12で「YES」、即ち、運転者に発進意思がなく、走行する可能性が低いと判定した場合は、S13に進む。S13では、ラチェット要否判定を「要」とし、リターンする。この場合は、図4の「推力制御状態」から「ラチェット係合処理状態」を介して「PKBロック状態」に遷移する。
S12で「NO」と判定された場合は、S14以降の処理、即ち、前述の(g)の条件を満たすか否か、具体的には、一定時間内にオートリリースの条件を満たすか否かの判定の処理に進む。先ず、S14では、オートリリースの条件が不成立であるか否かを判定する。即ち、S14では、アクセル操作が規定値を超えない等、オートリリース条件が不成立であるか否かを判定する。S14で「YES」、即ち、オートリリースの条件が不成立であると判定された場合は、S15に進む。S15では、アクセル操作が規定値を超えない等、オートリリース条件が不成立の時間経過を監視するため、長時間判定カウンタのカウントアップを行う。S15で長時間判定カウンタをカウントアップしたら、S16に進む。S16では、S15にてカウントアップした長時間判定カウンタが閾値未満であるか否かを判定する。即ち、S16では、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持してからオートリリース条件の不成立が長時間経過したか否かを判定する。長時間経過したか否かを判定するための閾値は、例えば、数分、より具体的には、1分ないし5分、より好ましくは、3分ないし4分のうちのいずれかに設定することができる。この閾値は、運転者に発進意思がないと判定できる判定値として設定することができる。また、例えば、車載カメラ、車車間通信等により車両の周囲の状況に応じて閾値を増減してもよい。即ち、閾値は、車両の状況に応じて可変にすることもできるし、予め設定した一定値(一定時間)としてもよい。
S16で「YES」、即ち、長時間判定カウンタが閾値未満である、換言すれば、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持してから長時間経過していないと判定した場合は、リターンする。S16で「NO」、即ち、長時間判定カウンタが閾値未満でない、換言すれば、図4の「推力制御状態」にてPKB用の推力を維持してから長時間経過したと判定した場合は、S13に進む。一方、S14で「NO」、即ち、オートリリースの条件が成立と判定された場合は、S17に進む。S17では、目標推力をPKB用の推力設定値(例えば、15kN)から0(ゼロ)kNに設定し、S18に進む。S18では、S15の長時間判定カウンタをリセットし、即ち、長時間判定カウンタをゼロにし、リターンする。この場合は、図4の「推力制御状態」から「クリアランス制御状態」を介して「待機状態」に遷移する。
以上のように、実施形態によれば、メインECU10は、パーキング機構23による制動力の保持が解除されるとき、制動力保持機構23の係止により保持されていた制動力に対応する制動力を電動モータ22Bにより保持する。このため、この状態で、例えば、アクセル操作された場合は、電動モータ22Bにより保持している制動力を解除することで、車両を速やかに発進させることができる。即ち、パーキング機構23の係止を解除してから制動力を解除する必要がなくなる。このため、アクセル操作されてからパーキング機構23の係止を解除する構成と比較して、制動力を解除する時間を短縮することができ、運転者の感じる発進遅れを軽減できる。
実施形態によれば、メインECU10は、パーキング機構23の解除条件、例えば、前述の(a)-(f)の条件の少なくともいずれか、または、全てが成立したときに、パーキング機構23による制動力の保持が解除される。このため、パーキング機構23の解除条件を、運転者の発進意思を判定する条件として適切に設定することにより、運転者の感じる発進遅れを軽減できる。
なお、実施形態では、「メインECU10」と「左後輪5L側のリア電動ブレーキ用ECU24」と「右後輪5R側のリア電動ブレーキ用ECU24」とをそれぞれ別体のECUとし、これら3つのECUを車両データバスであるCAN13で接続する構成とした場合を例に挙げて説明した。即ち、メインECU10と左右のリア電動ブレーキ用ECU24,24との3つのECUを、電動ブレーキ装置21,21用の制御装置(電動ブレーキ制御装置)として構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、メインECUとリア電動ブレーキ用ECUとを一つのECUにより構成してもよい。即ち、左右の電動モータと左右のパーキング機構(ソレノイド)を制御する制御装置を、1つのECUにより構成してもよい。
実施形態では、ブレーキ機構22にリア電動ブレーキ用ECU24を取り付けることにより、これらブレーキ機構22とリア電動ブレーキ用ECU24とを1つのユニット(組立体)として構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ブレーキ機構とリア電動ブレーキ用ECUとを分離して配置してもよい。この場合、電動ブレーキ用ECU(リア電動ブレーキ用ECU)を左側(左後輪側)と右側(右後輪側)とでそれぞれ別々に設けてもよいし、左側(左後輪側)と右側(右後輪側)とで一つの(共通の)電動ブレーキ用ECU(リア電動ブレーキ用ECU)として構成してもよい。
実施形態では、前輪3L,3R側を液圧ブレーキ装置4,4とし、後輪5L,5R側を電動ブレーキ装置21,21とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、前輪側を電動ブレーキ装置とし、後輪側を液圧ブレーキ装置としてもよい。
実施形態では、後輪側の左右の電動ブレーキ装置21,21にパーキング機構を備えた構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、左前輪側と右前輪側とにそれぞれパーキング機構を備えた電動ブレーキ装置を配置してもよい。また、左右の前輪と左右の後輪との四輪のそれぞれにパーキング機構を備えた電動ブレーキ装置を配置してもよい。換言すれば、左右の前輪と左右の後輪との四輪のそれぞれに電動ブレーキ装置を配置すると共に、左右の前輪および/または左右の後輪の電動ブレーキ装置にパーキング機構を備えてもよい。要するに、車両の車輪のうち少なくとも左右一対の車輪の電動ブレーキ装置を、パーキング機構を備えた電動ブレーキ装置により構成することができる。
以上説明した実施形態に基づく電動ブレーキ装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、制動力を付与する電動モータと、ブレーキ機構の一部を係止することで制動力を保持する制動力保持機構と、前記電動モータおよび前記制動力保持機構の作動を制御する制御装置と、を有する電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記制動力保持機構による制動力の保持が解除されるとき、前記制動力保持機構の係止により保持されていた制動力に対応する制動力を前記電動モータにより保持する。
この第1の態様によれば、制御装置は、制動力保持機構による制動力の保持が解除されるとき、制動力保持機構の係止により保持されていた制動力に対応する制動力を電動モータにより保持する。このため、この状態で、例えば、アクセル操作された場合は、電動モータにより保持している制動力を解除することで、車両を速やかに発進させることができる。即ち、制動力保持機構の係止を解除してから制動力を解除する必要がなくなる。このため、アクセル操作されてから制動力保持機構の係止を解除する構成と比較して、制動力を解除する時間を短縮することができ、運転者の感じる発進遅れを軽減できる。
第2の態様としては、第1の態様において、制御装置は、前記制動力保持機構の解除条件が成立したときに、前記制動力保持機構による制動力の保持が解除される。この第2の態様によれば、制動力保持機構の解除条件を適切に設定することにより、運転者の感じる発進遅れを軽減できる。