以下、実施形態によるブレーキシステムを、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。
図1ないし図6は、第1の実施形態を示している。図1において、車両のボディを構成する車体(図示せず)の下側(路面側)には、例えば左右の前輪1FL,1FRと左右の後輪1RL,1RRとからなる合計4個の車輪1FL,1RR,1FR,1RLが設けられている。車輪1FL,1RR,1FR,1RLは、車体と共に車両を構成している。車両には、制動力を付与するためのブレーキシステムが搭載されている。以下、車両のブレーキシステムについて説明する。
左,右の前輪1FL,1FRには、それぞれ前輪側の液圧ブレーキ装置2FL,2FRが設けられている。左,右の後輪1RL,1RRには、それぞれ後輪側の液圧ブレーキ装置2RL,2RRが設けられている。これら液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLは、例えば、液圧式ディスクブレーキにより構成されている。液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLは、シリンダ(キャリパ)、ピストンおよびブレーキパッドを備えたホイルシリンダを含んで構成されている。液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLは、液圧をホイルシリンダに供給してピストンを前進させ、ブレーキパッドを車輪1FL,1RR,1FR,1RLと共に回転するディスクロータに押圧して制動力を発生させる。これにより、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLは、それぞれの車輪1FL,1RR,1FR,1RL毎に制動力を付与する。なお、実施形態では、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLを液圧式ディスクブレーキとしているが、これに限らず、例えば、公知の液圧式ドラムブレーキ等の他の液圧式のブレーキ機構(液圧ブレーキ)を採用してもよい。
第1の実施形態のブレーキシステムは、マスタシリンダ5と、マスタシリンダ5に一体に組込まれた倍力装置としての気圧式倍力装置10と、各車輪1FL,1RR,1FR,1RLに装着された液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLのホイルシリンダに供給する液圧を制御するホイルシリンダ圧制御装置(液圧供給装置)としてのESC31と、マスタシリンダ5のプライマリ室5Dまたはセカンダリ室5Eの液圧の少なくともいずれか1つの液圧を検出する液圧検出手段としての液圧センサ9と、ドライバのペダルストローク量を検出するストローク検出手段としてのストロークセンサ4とを備えている。また、ブレーキシステムは、ブレーキペダル3と、ESC31の作動を制御するホイルシリンダ圧制御ユニット43と、リザーバタンク8とを備えている。
ブレーキペダル3は、車体のフロントボード側に設けられている。ブレーキペダル3は、車両のブレーキ操作時にドライバによって踏込み操作される。ブレーキペダル3には、ストロークセンサ4が設けられている。ストロークセンサ4は、ブレーキペダル3の踏込み操作量をストローク量として検出し、その検出信号をESC31のホイルシリンダ圧制御ユニット43に出力する。ブレーキペダル3の踏込み操作は、気圧式倍力装置10を介してマスタシリンダ5に伝達される。
マスタシリンダ5は、シリンダ本体5Aと、プライマリピストン5Bおよびセカンダリピストン5Cと、プライマリ室5Dおよびセカンダリ室5Eと、プライマリ戻しばね5Jおよびセカンダリ戻しばね5Kとを備えている。即ち、マスタシリンダ5は、プライマリピストン5Bによって加圧されるプライマリ室5Dと、セカンダリピストン5Cによって加圧されるセカンダリ室5Eとの2つの加圧室を有するタンデム式マスタシリンダである。この場合、ブレーキ液が充填されたシリンダ本体5A内の開口側には、プライマリピストン5Bが挿入され、シリンダ本体5Aの底部側には、セカンダリピストン5Cが挿入されている。これにより、マスタシリンダ5は、プライマリピストン5Bとセカンダリピストン5Cとの間にプライマリ室5Dを形成し、セカンダリピストン5Cとシリンダ本体5Aの底部との間にセカンダリ室5Eを形成している。
マスタシリンダ5は、プライマリピストン5Bの前進により、プライマリ室5D内のブレーキ液を加圧すると共に、セカンダリピストン5Cを前進させてセカンダリ室5E内のブレーキ液を加圧する。これにより、プライマリポート5Fおよびセカンダリポート5Gからプライマリ管路6Aおよびセカンダリ管路6B、ESC31を介して液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RL(のホイルシリンダ)にブレーキ液が供給される。即ち、プライマリ室5Dおよびセカンダリ室5Eで加圧されたブレーキ液は、プライマリ管路6Aおよびセカンダリ管路6BからESC31、ブレーキ側管路7A,7B,7C,7Dを介して、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLに供給される。これにより、車輪1FL,1RR,1FR,1RLに制動力が付与され、車両に減速度が発生する。
リザーバタンク8は、マスタシリンダ5のリザーバポート5H,5Hを介してプライマリ室5Dおよびセカンダリ室5Eに接続されている。リザーバポート5H,5Hは、プライマリピストン5Bおよびセカンダリピストン5Cが後退位置(原位置)にあるときに、それぞれプライマリ室5Dおよびセカンダリ室5Eをリザーバタンク8に連通してマスタシリンダ5内にブレーキ液を補充する。また、リザーバポート5H,5Hは、プライマリピストン5Bおよびセカンダリピストン5Cの前進に伴って、これらプライマリピストン5Bおよびセカンダリピストン5Cによって塞がれる。これにより、プライマリ室5Dおよびセカンダリ室5Eがリザーバタンク8から遮断され、プライマリ室5Dおよびセカンダリ室5Eの加圧が可能になる。プライマリピストン5Bおよびセカンダリピストン5Cは、プライマリ戻しばね5Jおよびセカンダリ戻しばね5Kによって後退位置(原位置)に付勢されている。
このように、プライマリピストン5Bおよびセカンダリピストン5Cの2つのピストン5B,5Cによってプライマリポート5Fおよびセカンダリポート5Gから2系統の液圧回路にブレーキ液を供給する。このため、万一、一方の液圧回路が失陥した場合でも、他方の液圧回路によって液圧を供給することができ、制動力を確保することができる。
ここで、マスタシリンダ5のプライマリ室5D内には、マスタシリンダ5の液圧(マスタシリンダ圧)を検出する液圧センサ9(マスタシリンダ圧センサ)が設置されている。後述のペダル踏力ゼロ判定処理(ペダル放し判定処理)では、プライマリピストン5Bに加わる液圧を用いる。この場合、高精度な判定処理を行うためには、プライマリ室5D内に液圧センサ9を設置することが望ましい。ただし、プライマリ室5Dに連通する配管(例えば、プライマリ管路6A)、または、ESC31のプライマリ側に液圧センサ9を設置してもよい。即ち、配管(例えば、プライマリ管路6A)とマスタシリンダ5の接続部等による液圧の微小な応答遅れを許容可能であれば、プライマリ室5D内への設置に限らない。
なお、液圧センサ9の液圧値が、本来検出すべきプライマリ室5D内の液圧に対して差異が生じると、判定精度は低下する可能性がある。しかし、許容できる精度の範囲で、例えば、セカンダリ室5E内、セカンダリ室5Eに連通する配管(例えば、セカンダリ管路6B)、または、ESC31のセカンダリ側に液圧センサ9を設置してもよい。液圧センサ9によって検出された液圧信号は、ペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(例えば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43)に直接的に入力することが望ましい。しかし、CAN等の通信手段により他のECUに入力してから、ペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(例えば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43)に送信する構成としてもよい。また、液圧センサ9によって検出された液圧信号をペダル踏力ゼロ判定処理に用いる場合は、ノイズ除去のためにフィルタ処理したものを用いてもよい。
次に、気圧式倍力装置10の構成について説明する。
気圧式倍力装置10は、入力ロッド17の移動量(位置)に基づいて、マスタシリンダ5のピストン(プライマリピストン5B)を推進する。図2に示すように、気圧式倍力装置10は、本体ハウジング11と、ダイヤフラム12と、パワーピストン13と、バルブボディ16と、入力ロッド17と、リアクションディスク19と、出力ロッド20と、プランジャ21とを備えている。本体ハウジング11内には、ダイヤフラム12を介してパワーピストン13が移動可能に装着されている。本体ハウジング11内は、パワーピストン13によって、定圧室14と変圧室15とに画成されている。パワーピストン13には、円筒状のバルブボディ16が連結されている。バルブボディ16は、本体ハウジング11の後部壁11Aの開口部11Bに挿通されている。バルブボディ16は、本体ハウジング11の開口部11Bに摺動可能かつ気密的に案内される。バルブボディ16の一端部(図2の右端部)は、本体ハウジング11の外部へ延出されている。
入力部材としての入力ロッド17は、ブレーキペダル3に接続(連結)されている。入力ロッド17には、ストロークセンサ4が設置されている。なお、入力ロッド17は、プランジャ21の戻り位置を規制するストップキー18によりパワーピストン13に対する可動範囲が制限されている。また、後述のペダル踏力ゼロ判定処理では、入力ロッド位置を用いるため、ストロークセンサ4は、入力ロッド17に設置することが考えられる。しかし、ブレーキペダル3と入力ロッド17は、通常、一体となって動作する。このため、ストロークセンサ4は、ブレーキペダル3に設置してもよい。第1の実施形態では、ストロークセンサ4は、ブレーキペダル3に設置している。ストロークセンサ4は、ブレーキペダル3の操作に伴う入力ロッド17の移動量(位置)を検出する。
ストロークセンサ4によって検出された入力ロッド位置信号は、ペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(例えば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43)に直接的に入力されることが望ましい。しかし、CAN等の通信手段により他のECUに入力してから、ペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(例えば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43)に送信する構成としてもよい。また、ストロークセンサ4によって検出された入力ロッド位置信号をペダル踏力ゼロ判定処理に用いる場合は、ノイズ除去のためにフィルタ処理したものを用いてもよい。実施形態では、ストロークセンサ4は、ホイルシリンダ圧制御ユニット43に接続されている。
バルブボディ16の他端部(図2の左端部)には、円板状の弾性体からなるリアクションディスク19を介して出力ロッド20の基端部が連結されている。出力ロッド20の先端部は、本体ハウジング11の前部壁11Cの開口部11Dに、気密的かつ摺動可能に挿通されて外部に延出されている。バルブボディ16内には、リアクションディスク19に対向させてプランジャ21が摺動可能に嵌め込まれている。プランジャ21は、図2に示す後退位置(非制動位置)では、リアクションディスク19との間に所定の隙間が形成されている。
プランジャ21には、入力ロッド17の一端部(図2の左端部)が連結されている。入力ロッド17の他端部(図2の右端部)は、バルブボディ16内の端部に装着された通気性のダストシール22に摺動可能に挿通されて外部へ延びている。バルブボディ16の側壁には、バルブボディ16の内部を定圧室14に連通させる負圧通路23、および、変圧室15に連通させる正圧通路24が設けられている。なお、バルブボディ16の内部は、ダストシール22を介して大気に開放されている。
バルブボディ16には、プランジャ21のバルブボディ16に対する相対位置に応じて負圧通路23と正圧通路24と外部(大気)との間の連通、遮断を選択的に切り換える制御弁25が設けられている。制御弁25は、プランジャ21がバルブボディ16に対して後退した後退位置にある場合には、負圧通路23と正圧通路24とを遮断すると共に、これらを大気から遮断する。即ち、制御弁25は、プランジャ21がリアクションディスク19との間に所定の隙間を有する後退位置(非制動位置)にある場合には、負圧通路23と正圧通路24とを遮断すると共に、これらを大気から遮断する。一方、制御弁25は、プランジャ21がバルブボディ16に対して前進した前進位置にある場合には、負圧通路23と正圧通路24とを遮断すると共に、正圧通路24を外部(大気)に連通させる。即ち、制御弁25は、プランジャ21がリアクションディスク19に当接する前進位置(制動位置)にある場合には、負圧通路23と正圧通路24とを遮断すると共に、正圧通路24を外部(大気)に連通させる。
定圧室14は、接続口26によって、気圧式倍力装置10が搭載された車両のエンジンの吸気装置(図示せず)等の負圧源に接続されている。これにより、定圧室14は、常時、負圧状態となっている。本体ハウジング11は、車体に固定されている。出力ロッド20は、マスタシリンダ5に連結されている。なお、図2中、戻しばね27は、バルブボディ16およびパワーピストン13を後退位置側へ付勢する。戻しばね28は、入力ロッド17およびプランジャ21を後退位置側へ付勢する。弁ばね29は、制御弁25の弁体を弾性的に支持する。ダストカバー30は、バルブボディ16の突出端側、即ち、本体ハウジング11の後部壁11Aの開口部11Bからブレーキペダル3側に向けて突出した部分を外部のダスト等から保護する。
次に、気圧式倍力装置10の基本動作について説明する。
通常、バルブボディ16およびプランジャ21は、戻しばね27,28の付勢力によって後退位置(非制動位置)にあり、制御弁25によって負圧通路23と正圧通路24とは互いに遮断されていると共に、正圧通路24は大気からも遮断されている。この場合は、定圧室14と変圧室15とが同圧(負圧)となっており、パワーピストン13に推進力が発生せず、出力ロッド20にサーボ力(倍力)は作用しない。ブレーキペダル3を操作し、入力ロッド17を押圧してプランジャ21が戻しばね27の付勢力に抗して前進すると、制御弁25によって正圧通路24のみが大気に連通される。この結果、変圧室15に大気(正圧)が導入されて、負圧源に接続された定圧室14(負圧)と変圧室15(正圧)との間に圧力差が生じ、この圧力差によってパワーピストン13に推進力が発生する。これにより、バルブボディ16がリアクションディスク19を介して出力ロッド20にサーボ力を作用させて制動力を高めることができる。
パワーピストン13の推進力によってバルブボディ16が前進すると、リアクションディスク19は、このときの出力反力を受けて変形し、予め決められた出力反力のところでプランジャ21とリアクションディスク19とが当接するようになる。そして、リアクションディスク19からプランジャ21に加わる力が入力ロッド17の押圧力よりも大きくなると、プランジャ21がバルブボディ16に対して後退方向に押され、制御弁25による正圧通路24と大気との連通が遮断されるようになる。これにより、変圧室15が大気から遮断され、その後は、入力ロッド17への入力に応じて変圧室15と大気との連通、遮断が繰り返されて入力に応じた出力が得られる。
このとき、パワーピストン13の推進力と出力ロッド20の反力によってリアクションディスク19が圧縮されることにより、出力ロッド20の反力の一部がリアクションディスク19を介してプランジャ21を後退させる方向に作用する。このようにして、出力ロッド20の反力の一部を入力ロッド17にフィードバックすることにより、制動力に応じたブレーキペダル操作感覚が得られる。ブレーキペダル3の操作力を解除すると、戻しばね27によってプランジャ21が非制動位置に戻り、制御弁25によって負圧通路23と正圧通路24とが連通されると共に、これらが外部から遮断される。これにより、定圧室14と変圧室15とが同圧(負圧)となってパワーピストン13の推進力がなくなり、戻しばね28の付勢力によってバルブボディ16が後退して制動が解除される。
次に、ホイルシリンダ圧制御装置であるESC31の構成および基本動作について、図1を用いて説明する。
ESC31は、マスタシリンダ5と液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RL(のホイルシリンダ)との間に配置されている。ESC31は、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RL(のホイルシリンダ)に供給する液圧を制御する。ここで、ESC31は、第1液圧回路32Aと、第2液圧回路32Bとからなる2系統の液圧回路を備えている。第1液圧回路32Aは、マスタシリンダ5のプライマリポート5Fからの液圧を、左前輪1FLおよび右後輪1RRの液圧ブレーキ装置2FL,2RRに供給するための液圧回路である。第2液圧回路32Bは、マスタシリンダ5のセカンダリポート5Gからの液圧を、右前輪1FRおよび左後輪1RLの液圧ブレーキ装置2FR,2RLに供給するための液圧回路である。
なお、第1液圧回路32Aと第2液圧回路32Bとは同様の構成であり、また、各車輪1FL,1RR,1FR,1RLの液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLに接続された液圧回路の構成は同様の構成である。そこで、ESC31の説明では、参照符号の添え字「A」は第1液圧回路32Aに対応し、添え字「B」は第2液圧回路32Bに対応し、添え字「a」は左前輪(1FL)に対応し、添え字「b」は右後輪(1RR)に対応し、添え字「c」は右前輪(1FR)に対応し、添え字「d」は左後輪(1RL)に対応するものとする。
ESC31は、供給弁33A,33Bと、増圧弁34a~34dと、リザーバ35A,35Bと、減圧弁36a~36dと、ポンプ37A,37Bと、ポンプモータ38と、加圧弁39A,39Bと、逆止弁40A,40B,41A,41B,42A,42Bとを備えている。
供給弁33A,33Bは、マスタシリンダ5から各車輪1FL,1RR,1FR,1RLの液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RL(のホイルシリンダ)への液圧の供給を制御する電磁開閉弁である。増圧弁34a~34dは、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLへの液圧の供給を制御する電磁開閉弁である。リザーバ35A,35Bは、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLから液圧を解放するためのリザーバタンクである。減圧弁36a~36dは、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLからリザーバ35A,35Bへの液圧の解放を制御する電磁弁開閉弁である。ポンプ37A,37Bは、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLに液圧を供給するため液圧ポンプである。ポンプモータ38は、ポンプ37A,37Bを駆動する電動モータである。加圧弁39A,39Bは、マスタシリンダ5からポンプ37A,37Bの吸込み側への液圧の供給を制御する電磁開閉弁である。逆止弁40A,40B,41A,41B,42A,42Bは、ポンプ37A,37Bの下流側から上流側への逆流を防止する。
ESC31の作動、即ち、供給弁33A,33B、増圧弁34a~34d、減圧弁36a~36d、加圧弁39A,39B、および、ポンプモータ38の作動は、ホイルシリンダ圧制御ユニット43によって制御される。このとき、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、供給弁33A,33B、増圧弁34a~34dを開き、減圧弁36a~36d、加圧弁39A,39Bを閉じることにより、マスタシリンダ5から各車輪1FL,1RR,1FR,1RLの液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLに液圧を供給する。また、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、減圧弁36a~36dを開き、供給弁33A,33B、増圧弁34a~34d、加圧弁39A,39Bを閉じることにより、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLの液圧をリザーバ35A,35Bに解放して減圧する。
また、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、増圧弁34a~34d、減圧弁36a~36dを閉じることにより、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLの液圧を保持する。また、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、増圧弁34a~34dを開き、供給弁33A,33B、減圧弁36a~36d、加圧弁39A,39Bを閉じると共に、ポンプモータ38を作動することにより、マスタシリンダ5の液圧にかかわらず、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLの液圧を増圧する。さらに、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、加圧弁39A,39B、増圧弁34a~34dを開き、減圧弁36a~36d、供給弁33A,33Bを閉じると共に、ポンプモータ38を作動することにより、マスタシリンダ5からの液圧をポンプ37A,37Bによってさらに加圧して、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLに供給する。
このように、ESC31は、ホイルシリンダ圧制御ユニット43によって作動が制御される。即ち、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ESC31を駆動して、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLのホイルシリンダへ供給する液量を制御する。ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、マイクロコンピュータを含んで構成され、車両電源から供給される電力により動作する。ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、車両状態量に基づいて各車輪1FL,1RR,1FR,1RLで発生させるべき目標ブレーキ力を算出し、この算出値に基づいてESC31を制御する。ESC31は、ホイルシリンダ圧制御ユニット43の出力に従って、各車輪1FL,1RR,1FR,1RLのホイルシリンダに供給するブレーキ液圧(ホイル圧)を制御して、様々なブレーキ制御を実行する。
この場合、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ESC31を作動制御することにより、例えば以下の制御(1)~(9)等を実行することができる。
(1).車両の制動時に接地荷重等に応じて各車輪1FL,1RR,1FR,1RLに適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2).制動時に各車輪1FL,1RR,1FR,1RLの制動力を自動的に調整して各車輪1FL,1RR,1FR,1RLのロック(スリップ)を防止するアンチロックブレーキ制御。
(3).走行中の各車輪1FL,1RR,1FR,1RLの横滑りを検知して各車輪1FL,1RR,1FR,1RLに付与する制動力を適宜自動的に制御することによりアンダーステアおよびオーバーステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定化制御。
(4).坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助(HSA)制御。
(5).発進時等において各車輪1FL,1RR,1FR,1RLの空転を防止するトラクション制御。
(6).先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御。
(7).走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(8).車両前方または後方の障害物との衡突を回避する障害物回避制御(自動ブレーキ制御、衝突被害軽減ブレーキ制御)。
(9).ドライバが急ブレーキの操作をしたときに車両の制動力を増大させるブレーキアシスト制御(ブレーキアシスト機能)。
なお、ESC31のポンプ37A,37Bとしては、例えばプランジャポンプ、トロコイドポンプ、ギヤポンプ等の公知の液圧ポンプを用いることができるが、車載性、静粛性、ポンプ効率等を考慮するとギヤポンプとすることが望ましい。ポンプモータ38としては、例えばDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等の公知のモータを用いることができるが、制御性、静粛性、耐久性、車載性等の観点からDCブラシレスモータが望ましい。
次に、ブレーキアシスト機能(BA機能)が作動した場合の動作について、図1を用いて説明する。
制御部としてのホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキペダル3の操作量(操作の変化量、例えば、踏込み速度、踏力)が所定の閾値を超えたときに、車両の制動力を増大させるブレーキアシスト(BA)を行う。即ち、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ドライバの急ブレーキ操作によりブレーキペダル3の操作量が所定の閾値を超えると、車両の制動力を増大させる。より具体的には、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキペダル3の踏み込み速度が所定の閾値(BA速度閾値)を超えてから車両の制動力の増加率を大きくするBA機能を有している。ここで、ブレーキペダル3の操作量として踏込み速度を用いる場合は、例えば、ストロークセンサ4の変化量を用いることができる。ブレーキペダル3の操作量として踏力を用いる場合は、例えば、踏力を検出する踏力センサ(圧力センサ)を設けることができる。所定の閾値は、例えば、制動力の増加率を大きくすべきか否かを判定する閾値として設定できる。
ブレーキペダル3を踏込む(操作量が閾値を超える)ことでBA機能が作動すると、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、前述の通り各種弁を制御し、ポンプモータ38を作動することにより、マスタシリンダ5内のブレーキ液を液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RL側へと送り出す。これにより、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLのホイルシリンダ圧を増圧させ、制動力を増大させる。このとき、マスタシリンダ5内のブレーキ液が減少し、マスタシリンダ圧が負圧となる。
次に、ブレーキペダル3を踏んでいる際のパワーピストン13(バルブボディ16)および入力ロッド17(プランジャ21)に働く力について、BA機能非作動時とBA機能作動時にわけて、それぞれ説明する。まず、BA機能が作動していない時(通常時)にブレーキペダル3を戻した場合について、図3(A)を用いて説明する。
ペダル踏力Fpedalを抜いてブレーキペダル3を戻し始めると、リアクションディスク反力FRD1(RD反力FRD1)とばね反力Fk1、ペダル戻り力Fprにより、入力ロッド17(プランジャ21)がパワーピストン13(バルブボディ16のストップキー18)に当接するまで戻る。なお、ペダル戻り力Fprは、ブレーキペダル3に加わる力のうち、入力ロッド17から伝わる力およびペダル踏力Fpedal等の外力を除いた、ブレーキペダル3に設置されている戻しばね(図示せず)に代表されるブレーキペダル3の構成部品による力と重力によりブレーキペダル3に加わる力の合力を入力ロッド17の軸方向に換算した力(戻り力)である。
ここで、ブレーキペダル3を戻すことで入力ロッド17だけが戻ると、前述の通り圧力差によりパワーピストン13に働く推進力FAsが徐々に減少し、リアクションディスク反力FRD2(RD反力FRD2)およびばね反力Fk2、パワーピストン戻し力FIR(PwP戻し力FIR)によってパワーピストン13が後退する。そして、パワーピストン13と入力ロッド17の相対位置Re1がブレーキペダル3を戻し始める前と同じになるまでパワーピストン13が後退すると、推進力FAsの減少が止まり、パワーピストン13の後退も止まる。このように、ペダル踏力Fpedalを抜いていくことで、入力ロッド17に追従してパワーピストン13も後退するため、ペダル踏力Fpedalをゼロにすると、入力ロッド17、即ち、ブレーキペダル3は原点まで戻り切る。
次に、BA機能が作動している時(下流昇圧時)にブレーキペダル3を戻した場合について、図3(B)を用いて説明する。
BA機能が作動すると、前述の通り、マスタシリンダ圧は負圧となるため、出力ロッド20がリアクションディスク19を押圧する力がなくなり、リアクションディスク反力FRD1はゼロとなる。これにより、入力ロッド17(プランジャ21)は、ばね反力Fk1とペダル戻り力Fprとによりパワーピストン13(バルブボディ16のストップキー18)に当接するまで戻る。パワーピストン13についても、マスタシリンダ圧が負圧となることで、リアクションディスク反力FRD2はゼロとなる。このため、パワーピストン13に加わる力は、ばね反力Fk2と推進力FAs、パワーピストン戻し力FIR、出力ロッド20との当接部から受ける引き込み力FORとなる。なお、入力ロッド17がパワーピストン13と当接するまで後退している状態では、戻しばね27に由来して生じる力は、当接部の抗力とばね反力Fk1が直接働く部分で互いに打ち消し合うため影響しない。このため、BA非作動時に比べて、引き込み力FORが加わることにより、下記の数1式が成立すると、パワーピストン13は後退しなくなる。
ここで、負圧によりプライマリピストン5Bが引き込まれると、プライマリピストン5Bと一体となって動作する出力ロッド20も引き込まれ、出力ロッド20とパワーピストン13の当接部に引き込み力FORが働く。このため、プライマリピストン5Bを引き込む方向の液圧反力FMCとプライマリ室5D内のばね反力Fk3の和が、引き込み力FORと等しくなる。以上より、引き込み力FORは液圧をP[MPa]、プライマリピストン断面積をA[mm2]、プライマリ室5D内のプライマリ戻しばね5Jのばね定数をk3[N/mm]、パワーピストン13が原点位置に戻った状態でのセット荷重をS3[N]、入力ロッド位置をXir[mm]として下記の数2式で表される。
次に、入力ロッド17がパワーピストン13に当接することで生じるパワーピストン戻し力FIRについて、前述の通り、入力ロッド17に加わる戻しばね27の影響はないため、パワーピストン戻し力FIRは、図4に示すように入力ロッド位置Xirを入力とした関数として、下記の数3式で表される。
また、ばね反力Fk2は、パワーピストン13が原点位置に戻った状態でのセット荷重をS2[N]とし、戻しばね27のばね定数をk2とし、パワーピストン13と入力ロッド17の相対位置をRe1として、下記の数4式で表される。
さらに、パワーピストン13が後退しなくなる場合は、パワーピストン13に働く気圧差がなくなり、推進力がゼロとなる。以上より、パワーピストン13が後退しなくなる条件は、下記の数5式で表される。
パワーピストン13が後退しなくなる、即ち、ブレーキペダル3が戻らなくなるのは、BA機能作動によりマスタシリンダ圧が低下することに起因している。そこで、液圧Pの条件として上記の数5式を整理すると、下記の数6式で表される。
数6式より、ブレーキペダル3が戻るか否かは、液圧Pと入力ロッド位置Xirにより規定できる。
次に、数6式より、戻しばね27のばね定数k2が1.5[N/mm]、セット荷重S2が150[N]、プライマリ室5D内のプライマリ戻しばね5Jのばね定数k3が4.85[N/mm]、セット荷重S3が85[N]とした場合に、ブレーキペダル3が戻らなくなる入力ロッド位置Xirを、図5に一例として示す。
図5において、ブレーキペダル3が戻り切るまで「ペダルが戻される領域」にいる限り、ブレーキペダル3は原点まで戻される。即ち、液圧が-0.54[MPa]よりも大きければ、ブレーキペダル3は必ず原点まで戻り切る。一方で、液圧が-0.54[MPa]よりも小さい場合、入力ロッド位置Xirが小さくなると、いずれ「ペダルが戻される領域」から外れるため、ブレーキペダル3が原点まで戻り切らなくなる。
そこで、第1の実施形態では、「ペダルが戻される領域」と「その他の領域」の境界であり、液圧に応じて規定される入力ロッド17の戻り位置Xreを用いることで、ペダル放し判定(ペダル踏力ゼロ判定)を行う。
次に、図6に示すブロック図を用いて、ペダル放し判定(ペダル踏力ゼロ判定)について説明する。図6のペダル放しの判定処理(ペダル踏力ゼロの判定処理)は、例えば、図1中のホイルシリンダ圧制御ユニット43で行われる。ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ペダル放しの判定処理(ペダル踏力ゼロの判定処理)を行うペダル操作判断部44を備えている。ペダル操作判断部44は、ドライバによるブレーキペダル3の操作の有無、換言すれば、ペダルを放したか否かを判断する。ペダル操作判断部44は、入力ロッド戻り位置算出部44Aと、比較部44Bと、ペダル放し判定部44Cとを備えている。
ホイルシリンダ圧制御ユニット43(のペダル操作判断部44)には、ストロークセンサ4により取得した入力ロッド位置Xirと液圧センサ9により取得した液圧Pが入力される。入力ロッド戻り位置算出部44Aには、液圧センサ9により取得した液圧Pが入力される。入力ロッド戻り位置算出部44Aは、液圧センサ9により取得した液圧Pを入力として入力ロッド戻り位置Xreを算出する。ここで、第1の実施形態では、入力ロッド戻り位置Xreの算出は、数6式、即ち、入力ロッド戻り位置Xreを出力とした式として数6式を整理することで、事前に算出可能であることから、テーブル(マップ)参照としている。なお、テーブル参照とすることで処理負荷を低減できるのに対し、数式により都度算出することで、ROMの領域を節約できるため、どちらの方法を用いてもよい。テーブル(マップ)、数式は、ホイルシリンダ圧制御ユニット43のメモリに記憶させることができる。
入力ロッド戻り位置算出部44Aで算出された入力ロッド戻り位置Xreは、比較部44Bに出力される。比較部44Bには、ストロークセンサ4により取得した入力ロッド位置Xirと、入力ロッド戻り位置算出部44Aで算出された入力ロッド戻り位置Xreとが入力される。比較部44Bは、算出された入力ロッド戻り位置Xreとストロークセンサ4の入力ロッド位置Xirとを比較する。具体的には、比較部44Bは、入力ロッド位置Xirが入力ロッド戻り位置Xreよりも大きいか否かを判定し、その結果(「true」、「false」)をペダル放し判定部44Cに出力する。
ペダル放し判定部44Cは、比較部44Bから「true」が入力されている間、即ち、入力ロッド位置Xirの方が大きい間は、ペダル踏力Fpedalがゼロとなっていない状態のため、「ペダル踏みあり」と判定する。一方、ペダル放し判定部44Cは、比較部44Bから「false」が入力された場合、即ち、入力ロッド位置Xirが入力ロッド戻り位置Xre以下となった場合は、ペダル踏力がゼロであると判断し、ペダル踏みなしと判定する。
このように、ペダル操作判断部44は、「マスタシリンダ5の液圧Pに基づいて求められる入力ロッド戻り位置Xre(推定位置)」と「液圧センサ9が検出する入力ロッド17の入力ロッド位置Xir(検出位置)」とが一致する場合に、ドライバによるブレーキペダル3の操作が無いと判断する。そして、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキアシストを実行しているときに、ペダル操作判断部44でペダルの操作が無い(入力ロッド戻り位置Xreと入力ロッド位置Xirとが一致する)と判定された場合は、ブレーキアシストを終了する。即ち、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキアシスト機能の実行時、ペダル操作判断部44によるブレーキペダル3の操作が無いとの判断結果に基づいて、ブレーキアシスト機能の実行を終了する。このように、実施形態では、ブレーキペダル3が戻り切らない場合も、ペダル踏力ゼロを判定できる。そして、ペダル踏力ゼロの判定に基づいて、ブレーキアシストを適切なときに終了することができる。
なお、本実施形態では、数6式を用いて入力ロッド位置Xirによるペダル踏力ゼロ判定を行ったが、液圧Pに関して数6式を整理することで、液圧Pによりペダル踏力ゼロを判定とすることも可能である。また、ペダル踏力ゼロの判定は、液圧検出手段(例えば、液圧センサ9)により取得した液圧Pと、ペダルストローク検出手段(例えば、ストロークセンサ4)により取得した入力ロッド位置Xirがあれば判定可能である。このため、上記信号を入力可能なユニット(ECU)であれば、本処理の実装箇所は問わない。即ち、ペダル放し判定処理を、ホイルシリンダ圧制御ユニット43以外のユニット(ECU)で行ってもよい。換言すれば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43以外のユニット(ECU)がペダル操作判断部44を備える構成としてもよい。
以上のように、第1の実施形態によれば、ブレーキシステムは、ブレーキペダル3に接続される入力ロッド17と、ブレーキペダル3の操作に伴う入力ロッド17の移動量(位置)を検出するストロークセンサ4と、入力ロッド17の移動量に基づいて、マスタシリンダ5のプライマリピストン5Bを推進する気圧式倍力装置10と、マスタシリンダ5の液圧を検出する液圧センサ9と、ドライバによるブレーキペダル3の操作の有無を判断するペダル操作判断部44とを有している。そして、ペダル操作判断部44は、「マスタシリンダ5の液圧に基づいて求められる入力ロッド17の推定移動量(入力ロッド戻り位置Xre)」と「液圧センサ9が検出する入力ロッド17の検出移動量(入力ロッド位置Xir)」とが一致する場合に、ドライバによるブレーキペダル3の操作が無いと判断する。このため、マスタシリンダ圧が負圧となりブレーキペダル3が戻りきらない場合でも、センサ等を追加せずに、ドライバがブレーキペダル3を放したことを高精度に判定することができる。
また、第1の実施形態によれば、ブレーキシステムは、ブレーキペダル3の操作量(例えば、踏込み速度、踏力)が閾値を超えたときに車両の制動力を増大させるブレーキアシストを行う制御部としてのホイルシリンダ圧制御ユニット43を有している。そして、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキアシストを実行しているときに、「マスタシリンダ5の液圧に基づいて求められる入力ロッド17の推定移動量(入力ロッド戻り位置Xre)」と「液圧センサ9が検出する入力ロッド17の検出移動量(入力ロッド位置Xir)」とが一致する場合に、ブレーキアシストを終了する。このため、ブレーキアシストによりマスタシリンダ圧が負圧となりブレーキペダル3が戻りきらない場合でも、センサ等を追加せずに、ドライバがブレーキペダル3を放したことを高精度に判定することができる。これにより、ブレーキアシストを適切なときに終了することができる。
次に、図7ないし図12は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、マスタシリンダのピストンを推進する倍力装置を電動倍力装置により構成したことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。即ち、前述の第1の実施形態では、ブレーキシステムの上流側の主たる制動装置として、気圧式倍力装置10を用いている。これに対して、第2の実施形態では、電動倍力装置57を用いている。第2の実施形態においても、倍力装置を除いた構成は第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態のブレーキシステムは、マスタシリンダ51と、マスタシリンダ51と一体に組み込まれた電動倍力装置57と、電動倍力装置57の作動を制御するマスタシリンダ圧制御ユニット65とを備えている。
マスタシリンダ51は、プライマリピストン51A(および入力ピストン53)によって加圧されるプライマリ室51Bと、セカンダリピストン51Cによって加圧されるセカンダリ室51Dとの2つの加圧室を有するタンデム式のものである。この場合、ブレーキ液が充填されたシリンダ51E内の開口側には、プライマリピストン51A(および入力ピストン53)が挿入され、シリンダ51Eの底部側には、セカンダリピストン51Cが挿入されている。これにより、マスタシリンダ51は、プライマリピストン51A(および入力ピストン53)とセカンダリピストン51Cとの間にプライマリ室51Bを形成し、セカンダリピストン51Cとシリンダ51Eの底部との間にセカンダリ室51Dを形成している。
そして、プライマリピストン51A(および入力ピストン53)の前進により、プライマリ室51B内のブレーキ液を加圧すると共に、セカンダリピストン51Cを前進させてセカンダリ室51D内のブレーキ液を加圧する。これにより、プライマリポート51Fおよびセカンダリポート51Gから液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RL(のホイルシリンダ)にブレーキ液が供給される。即ち、プライマリ室51Bおよびセカンダリ室51Dで加圧されたブレーキ液は、マスタ管路であるプライマリ管路6Aおよびセカンダリ管路6BからESC31を介して、液圧ブレーキ装置2FL,2RR,2FR,2RLに供給される。これにより、車輪1FL,1RR,1FR,1RLに制動力が付与され、車両に減速度が発生する。
リザーバタンク52は、マスタシリンダ51のリザーバポート51H,51Hを介してプライマリ室51Bおよびセカンダリ室51Dに接続されている。リザーバポート51H,51Hは、プライマリピストン51Aおよびセカンダリピストン51Cが後退位置(原位置)にあるときに、それぞれプライマリ室51Bおよびセカンダリ室51Dをリザーバタンク52に連通してマスタシリンダ51内にブレーキ液を補充する。また、リザーバポート51H,51Hは、プライマリピストン51Aおよびセカンダリピストン51Cの前進に伴って、これらプライマリピストン51Aおよびセカンダリピストン51Cによって塞がれる。これにより、プライマリ室51Bおよびセカンダリ室51Dがリザーバタンク52から遮断され、プライマリ室51Bおよびセカンダリ室51Dの加圧が可能になる。プライマリピストン51Aおよびセカンダリピストン51Cは、戻しバネ51J、51Jによって後退位置(原位置)に付勢されている。
プライマリピストン51Aの中心部には、入力部材である入力ピストン53が摺動可能かつ液密的に貫通されている。入力ピストン53の先端部は、プライマリ室51B内に挿入されている。入力ピストン53の後端部には、入力ロッド54が連結されている。入力ロッド54は、電動倍力装置57のハウジング56を貫通して外部へ伸ばされている。入力ロッド54の端部には、ブレーキペダル3が連結されている。プライマリピストン51Aと入力ピストン53との間には、一対の中立ばね55A,55Bが介装されている。プライマリピストン51Aおよび入力ピストン53は、中立ばね55A,55Bのバネ力によって中立位置に弾性的に保持されている。入力ピストン53には、入力ピストン53とプライマリピストン51Aとの軸方向の相対位置に応じて、即ち、入力ピストン53に対するプライマリピストン51Aの位置関係によって、中立ばね55A,55Bのバネ力が作用する。これら入力ピストン53、中立ばね55A,55B等は、電動倍力装置57を構成している。
電動倍力装置57は、マスタシリンダ51が発生する液圧であるマスタ圧を制御するための電動モータ58を備えている。例えば、電動倍力装置57は、プライマリピストン51Aと一体になったピストン(以下、プライマリピストン51Aという)と、入力ピストン53と、入力ロッド54と、一対の中立ばね55A,55Bと、外殻を形成するハウジング56と、プライマリピストン51Aを駆動する電動アクチュエータ(電動機)としての電動モータ58と、プライマリピストン51Aと電動モータ58との間に介装された回転直動変換機構としてのボールネジ機構60と、減速機構としてのベルト減速機構64とを備えている。
ここで、プライマリピストン51Aは、入力ピストン53および入力ロッド54に対して相対移動可能に配置されている。第2の実施形態では、プライマリピストン51Aは、マスタシリンダ51のプライマリ側のピストンに相当し、かつ、電動倍力装置57のピストンに相当する。即ち、第2の実施形態では、マスタシリンダ51のプライマリ側のピストンと電動倍力装置57のピストン(パワーピストン)とを、1つのピストンとなるプライマリピストン51Aにより一体に形成している。また、プライマリピストン51Aは、入力ピストン53と共に、マスタシリンダ51のプライマリ側のピストン(プライマリピストン)を構成している。なお、図示は省略するが、電動倍力装置のピストン(パワーピストン)とマスタシリンダのプライマリ側のピストン(プライマリピストン)とをそれぞれ別々に備える構成としてもよい。
入力ピストン53は、プライマリピストン51Aの中心部を貫通するように配置され、プライマリピストン51Aに対して摺動可能かつ液密的に設けられている。入力ピストン53は、その先端部がプライマリ室51B内に臨むように配置されている。入力ピストン53の後端部には、入力ロッド54が連結されている。入力ロッド54は、電動倍力装置57の後端部から車体の運転室内へ向けて延出している。入力ロッド54の延出側の端部には、ブレーキペダル3が連結されている。これにより、入力ロッド54は、ブレーキペダル3の操作により進退移動する。
一対の中立ばね55A,55Bは、プライマリピストン51Aと入力ピストン53との間に介装されている。中立ばね55A,55Bは、そのばね力によってプライマリピストン51Aと入力ピストン53とをバランス位置に弾性的に保持する。即ち、プライマリピストン51Aおよび入力ピストン53には、これらプライマリピストン51Aと入力ピストン53との軸方向の相対変位に応じて、中立ばね55A,55Bのばね力が作用する。
電動モータ58は、プライマリピストン51Aを進退移動させる電動アクチュエータ(電動機)である。電動モータ58は、その回転位置(回転角)を検出する回転角検出センサ59(以下、位置センサ59という)を備えている。電動モータ58は、マスタシリンダ圧制御ユニット65からの指令によって作動し、所望の回転位置が得られるようになっている。電動モータ58は、例えば、公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等により構成することができる。第2の実施形態では、制御性、静粛性、耐久性等の観点から電動モータ58をDCブラシレスモータとしている。
ボールネジ機構60は、入力ロッド54が挿入された中空の直動部材であるねじ軸60Aと、ねじ軸60Aが挿入される円筒状の回転部材であるナット部材60Bと、これらの間に形成されたねじ溝に装填された転動体である鋼球製の複数のボール60Cとを備えている。ねじ軸60Aの前端部は、可動部材61を介してプライマリピストン51Aの後端部に当接している。ナット部材60Bは、ハウジング56に設けられた軸受62によって回転可能に支持されている。そして、ボールネジ機構60は、電動モータ58によってベルト減速機構64を介してナット部材60Bを回転させることにより、ねじ溝内をボール60Cが転動し、ねじ軸60Aが直動運動(直線運動)する。これにより、ねじ軸60Aは、可動部材61を介してプライマリピストン51Aを押圧(移動)することができる。ねじ軸60Aは、可動部材61を介して戻しばね63によって後退位置側に付勢されている。
なお、回転直動変換機構は、電動モータ58(即ち、ベルト減速機構64)の回転運動を直線運動に変換してプライマリピストン51Aに伝達するものであれば、ラックアンドピニオン機構等の他の機構を用いてもよい。即ち、電動倍力装置57は、ボールネジ機構19を用いたものに限らず、例えば、ラックアンドピニオン機構等の他の機構を用いたものを採用することができる。
ベルト減速機構64は、電動モータ58の出力軸58Aの回転を所定の減速比で減速してボールネジ機構60(のナット部材60B)に伝達するものである。ベルト減速機構64は、電動モータ58の出力軸58Aに取付けられた駆動プーリ64Aと、ボールネジ機構60のナット部材60Bの外周部に取付けられた従動プーリ64Bと、これらの間に巻装されたベルト64Cとを備えている。なお、ベルト減速機構64には、歯車減速機構等の他の減速機構を組み合わせてもよい。また、ベルト減速機構64の代わりに、公知の歯車減速機構、チェーン減速機構、差動減速機構等を用いることができる。一方、電動モータ58によって十分大きなトルクが得られる場合には、減速機構を省略して、電動モータ58によってボールネジ機構60を直接駆動するようにしてもよい。
入力ロッド54には、ストローク検出手段としてストロークセンサ4が設置されている。ストロークセンサ4は、第1の実施形態と同様に、少なくとも入力ロッド54の位置(入力ロッド位置)またはブレーキペダル3の位置(ペダルストローク)を検出できるものとする。入力ロッド54は入力ピストン53と一体に変位するため、入力ロッド54の位置(移動量)は、入力ピストン53の位置(移動量)と対応する。なお、ストロークセンサ4によって検出された入力ロッド位置信号(入力ピストン位置信号)は、ペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(例えば、マスタシリンダ圧制御ユニット65)に直接的に入力されることが望ましい。しかし、CAN等の通信手段により他のECU(例えば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43)に入力してから、ペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(例えば、マスタシリンダ圧制御ユニット65)に送信する構成としてもよい。また、第1の実施形態と同様に、ストロークセンサ4によって検出された入力ロッド位置信号(入力ピストン位置信号)をペダル踏力ゼロ判定処理に用いる場合は、ノイズ除去のためにフィルタ処理したものを用いてもよい。第2の実施形態では、ストロークセンサ4は、マスタシリンダ圧制御ユニット65に接続されている。
マスタシリンダ圧制御ユニット65は、マイクロコンピュータを含んで構成され、車両電源66から供給される電力により動作する。マスタシリンダ圧制御ユニット65は、ストロークセンサ4で検出されたブレーキペダル3の変位量(ペダル操作量)に基づいて、電動モータ58を作動(駆動)させ、プライマリピストン51Aの位置を制御することにより、液圧を発生させる。即ち、マスタシリンダ圧制御ユニット65は、ブレーキペダル3による入力ロッド54の変位量(移動量)に応じて、電動モータ58に電流を供給し、電動モータ58の出力軸58Aを回転駆動する。出力軸58Aの回転は、ベルト減速機構64によって減速され、ボールネジ機構60によってねじ軸60Aの直動変位(図7の左右方向の変位)に変換される。ねじ軸60Aは、例えば図7の左方向に、可動部材61およびプライマリピストン51Aと一体となって変位する。
このとき、プライマリピストン51Aは、マスタシリンダ51内に入力ピストン53と一体的に(または、相対変位をもって)前進する。これにより、マスタシリンダ51のプライマリ室51Bおよびセカンダリ室51D内には、ブレーキペダル3から入力ロッド54を介して入力ピストン53に付与される踏力(推力)と電動モータ58からプライマリピストン51Aに付与される推力とに応じた液圧が発生する。このように、マスタシリンダ圧制御ユニット65は、電動倍力装置57のピストンを兼ねたマスタシリンダ51のプライマリピストン51Aを移動させる。そして、プライマリピストン51Aの移動により、マスタシリンダ51内に液圧を発生させ、液圧経路(プライマリ管路6A、セカンダリ管路6B)にブレーキ液を供給する。
図8に示すように、マスタシリンダ圧制御ユニット65には、ストロークセンサ4、位置センサ59および液圧センサ9が接続されている。マスタシリンダ圧制御ユニット65は、これらストロークセンサ4、位置センサ59および液圧センサ9から取得した情報を基に、マスタシリンダ圧を制御している。
また、マスタシリンダ圧制御ユニット65とホイルシリンダ圧制御ユニット43との間は、車両データバス67により接続されている。車両データバス67は、車両に搭載されたCANと呼ばれる車両ECU間通信網(装置間通信網)である。即ち、車両データバス67は、車両に搭載された多数の電子機器(ECU:Electronic Control Unit)の間で多重通信を行うシリアル通信部である。これにより、マスタシリンダ圧制御ユニット65とホイルシリンダ圧制御ユニット43との間では、CAN通信による情報の送受信が行われている。即ち、マスタシリンダ圧制御ユニット65とホイルシリンダ圧制御ユニット43との間では、例えば、液圧信号(マスタシリンダ圧センサ取得信号)等の「各種センサの測定値(検出値)」、「アンチスキッド制御、横滑り防止を含む車両安定化制御等の作動要求」、「異常状態」等が相互に伝達される。
さらに、マスタシリンダ圧制御ユニット65およびホイルシリンダ圧制御ユニット43は、これらとは別のECUである車両ECU68、例えば、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)等の車両ECU68とも、車両データバス67を介してCAN通信を行っている。車両ECU68からは、マスタシリンダ圧制御ユニット65とホイルシリンダ圧制御ユニット43とに対して自動ブレーキ指令(自動ブレーキ目標液圧)等が送信される。
なお、第2の実施形態では、液圧センサ9をプライマリ室51B内に設置しているが、これに限定するものではない。例えば、液圧の微小な応答遅れ、プライマリ室51B内の液圧との差異を許容可能であれば、プライマリ室51Bに連通する配管(例えば、プライマリ管路6A)、ESC31のプライマリ側、セカンダリ室51D内、セカンダリ室51Dに連通する配管(例えば、セカンダリ管路6B)、ESC31のセカンダリ側に液圧センサ9を設置しても構わない。
さらに、第2の実施形態では、液圧センサ9から取得した情報をマスタシリンダ圧制御ユニット65が取り込み、マスタシリンダ圧制御ユニット65でペダル踏力ゼロ判定処理を行う構成としているが、これに限定するものではない。例えば、液圧センサ9から取得した情報をホイルシリンダ圧制御ユニット43で取り込む構成としてもよい。即ち、液圧センサ9により検出した液圧信号をマスタシリンダ圧制御ユニット65以外のECUに入力してから車両データバス67等の通信手段によりペダル踏力ゼロ判定処理の実装場所(マスタシリンダ圧制御ユニット65)に送信する構成としてもよい。また、第1の実施形態と同様に、液圧センサ9により検出した液圧信号をペダル踏力ゼロ判定処理に用いる場合は、ノイズ除去のためにフィルタ処理したものを用いてもよい。
次に、マスタシリンダ圧制御ユニット65によるマスタシリンダ圧の制御について、図9を用いて説明する。
マスタシリンダ圧制御ユニット65は、目標値算出部65Aと、目標モータ位置算出部65Bと、モータ制御部65Cとを備えている。マスタシリンダ圧制御ユニット65では、ストロークセンサ4により検出したペダルストローク量に基づいて、目標値算出部65Aにて目標液圧および目標相対位置を算出する。ここで、マスタシリンダ圧制御ユニット65は、目標液圧と実際に発生しているマスタシリンダ圧の差分がなくなるように電動モータ58を制御する液圧制御と、目標相対位置と実際の相対位置の差分がなくなるように電動モータ58を制御する相対位置制御の2つの制御手段を有している。なお、本制御における相対位置とは、いずれもプライマリピストン51Aと入力ピストン53間の相対位置を意味している。
まず、液圧制御手段により電動モータ58を制御する場合は、目標モータ位置算出部65Bにて、目標液圧とマスタシリンダ圧の差分から目標モータ位置を算出し、モータ制御部65Cにて、位置センサ59により取得したモータ位置を用いてフィードバック制御を行うことで、マスタシリンダ圧を制御する。相対位置制御手段により電動モータ58を制御する場合は、目標モータ位置算出部65Bにて、目標相対位置とペダルストローク量の和から目標モータ位置を算出し、液圧制御時と同様にフィードバック制御を行うことで、マスタシリンダ圧を制御する。
次に、電動倍力装置57のペダル反力発生機構について、図10に示す模式図を用いて説明する。
電動倍力装置57は、ブレーキ操作により入力ロッド54が前進すると、入力ピストン位置Xipに応じて算出される目標液圧、または、目標相対位置を実現するように電動モータ58を制御し、プライマリピストン51Aを前進させる。これにより、プライマリ室51B内に液圧が発生する。プライマリ室51B内に液圧が発生すると、入力ピストン53には液圧反力FMC、ペダル戻り力Fpr、ペダル踏力Fpedal、ばね反力Fkが加わる。このため、電動倍力装置57のペダル踏力Fpedalは、下記の数7式で表される。
ここで、液圧反力FMCは、入力ピストン53端に直接作用することから、液圧をP[MPa]、入力ロッド54端の断面積をB[mm2]として下記の数8式で表される。
次に、2つの中立ばね55A,55Bの合成ばね定数をk[N/mm]、入力ピストン53とプライマリピストン51Aが原点位置まで戻っている場合のセット荷重をS[N]、入力ピストン位置をXip[mm]、プライマリピストン位置をXpp[mm]とした場合、ばね反力Fkは下記の数9式で表される。
また、第1の実施形態と同様に、ペダル戻り力Fprは、入力ピストン位置Xipを入力とした関数、即ち、下記の数10式で表される。
以上より、ペダル踏力Fpedalは、下記の数11式で表される。なお、電動倍力装置57では、ブレーキペダル3の踏み状態によらず入力ロッド54に加わる力は同じ式で表される。
次に、BA機能作動中にブレーキペダル3を戻した場合の動作について説明する。前述の通り、BA機能を作動するとマスタシリンダ51内の液圧が負圧となるため、液圧反力FMCは図10とは反対方向、即ち、入力ロッド54を進める方向に働く。これにより、第1の実施形態と同様に、入力ピストン53を押し戻す力が大きく減少する。このとき、ペダル踏力が正値以外になると、ブレーキペダル3は後退しなくなるため、上記数11式より、ブレーキペダル3が後退しなくなる条件は下記の数12式で表される。
この数12式より、ブレーキペダル3が戻らなくなる条件は、プライマリピストン位置Xpp、入力ピストン位置Xip、液圧Pを用いて表現できる。そこで、合成ばね定数kが12[N/mm]、セット荷重Sを52[N]とした場合に、ブレーキペダル3が戻らなくなる入力ピストン位置およびプライマリピストン位置の関係を、液圧Pが0.0[MPa]、-0.2[MPa]、-0.4[MPa]の場合について、図11に示す。
図11において、ブレーキペダル3が戻り切るまでプライマリピストン位置Xppが「ペダルが戻される領域」にいる限り、ペダルは原点まで戻される。そこで、第2の実施形態では、「ペダルが戻される領域」と「ペダルが引き込まれる領域」の境界であり、液圧およびプライマリピストン位置に応じて規定される入力ピストンの戻り位置Xrepを用いることで、ペダル放し判定を行う。
次に、図12に示すブロック図を用いて、ペダル放し判定(ペダル踏力ゼロ判定)について説明する。図12のペダル放しの判定処理(ペダル踏力ゼロの判定処理)は、例えば、図7中のマスタシリンダ圧制御ユニット65で行われる。マスタシリンダ圧制御ユニット65は、ペダル放しの判定処理(ペダル踏力ゼロの判定処理)を行うペダル操作判断部69を備えている。ペダル操作判断部69は、ドライバによるブレーキペダル3の操作の有無、換言すれば、ペダルを放したか否かを判断する。ペダル操作判断部69は、入力ピストン戻り位置算出部69Aと、比較部69Bと、ペダル放し判定部69Cとを備えている。
マスタシリンダ圧制御ユニット65(のペダル操作判断部69)には、ストロークセンサ4により取得した入力ピストン位置Xipと液圧センサ9により取得した液圧Pと位置センサ59により取得したプライマリピストン位置Xppが入力される。入力ピストン戻り位置算出部69Aには、液圧センサ9により取得した液圧Pと、位置センサ59により取得したプライマリピストン位置Xppとが入力される。入力ピストン戻り位置算出部69Aは、位置センサ59により取得したプライマリピストン位置Xppと液圧センサ9により取得した液圧Pとを入力として入力ピストン戻り位置Xrepを算出する。
ここで、第2の実施形態では、入力ピストン戻り位置Xrepの算出は、数12式、即ち、入力ピストン位置Xipを出力とした式として数12式を整理することで、事前に算出可能であることから、マップ参照としている。なお、マップ参照とすることで処理負荷を低減できるのに対し、数式により都度算出することで、ROMの領域を節約できるため、必要に応じてどちらの方法を用いてもよい。マップ、数式は、マスタシリンダ圧制御ユニット65のメモリに記憶させることができる。
入力ピストン戻り位置算出部69Aで算出された入力ピストン戻り位置Xrepは、比較部69Bに出力される。比較部69Bには、ストロークセンサ4により取得した入力ピストン位置Xipと、入力ピストン戻り位置算出部69Aで算出された入力ピストン戻り位置Xrepとが入力される。比較部69Bは、算出された入力ピストン戻り位置Xrepとストロークセンサ4の入力ピストン位置Xipとを比較する。具体的には、比較部69Bは、入力ピストン位置Xipが入力ピストン戻り位置Xrepよりも大きいか否かを判定し、その結果(「true」、「false」)をペダル放し判定部69Cに出力する。
ペダル放し判定部69Cは、比較部69Bから「true」が入力されている間、即ち、入力ピストン位置Xipの方が大きい間は、ペダル踏力Fpedalがゼロとなっていない状態のため、「ペダル踏みあり」と判定する。一方、ペダル放し判定部69Cは、比較部69Bから「false」が入力された場合、即ち、入力ピストン位置Xipが入力ピストン戻り位置Xrep以下となった場合は、ペダル踏力がゼロであると判断し、ペダル踏みなしと判定する。
このように、ペダル操作判断部69は、「マスタシリンダ5の液圧Pと位置センサ59のプライマリピストン位置Xppとに基づいて求められる入力ピストン戻り位置Xrep(推定位置)」と「ストロークセンサ4が検出する入力ピストン位置Xip(検出位置)」とが一致する場合に、ドライバによるブレーキペダル3の操作が無いと判断する。そして、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキアシストを実行しているときに、マスタシリンダ圧制御ユニット65のペダル操作判断部69でペダルの操作が無い(入力ピストン戻り位置Xrepと入力ピストン位置Xipとが一致する)と判定された場合は、ブレーキアシストを終了する。このように、第2の実施形態では、ブレーキペダル3が戻り切らない場合も、ペダル踏力ゼロを判定でき、ペダル放しを検知可能となる。そして、ペダル踏力ゼロの判定に基づいて、ブレーキアシストを適切なときに終了することができる。
なお、第2の実施形態では、数12式を用いて入力ピストン位置Xipによるペダル踏力ゼロ判定を行ったが、液圧Pまたはモータ位置(プライマリピストン位置Xpp)に関して数12式を整理することで、液圧Pおよびモータ位置(プライマリピストン位置Xpp)によるペダル踏力ゼロ判定とすることも可能である。また、ペダル踏力ゼロの判定は、液圧検出手段(例えば、液圧センサ9)により取得した液圧Pと、モータ位置検出手段(例えば、位置センサ59)により取得したプライマリピストン位置Xppと、ペダルストローク検出手段(例えば、ストロークセンサ4)により取得した入力ピストン位置Xip(入力ロッド位置Xir)があれば判定可能である。
このため、上記信号を入力可能なユニット(ECU)であれば、本処理の実装箇所は問わない。即ち、ペダル放し判定処理を、マスタシリンダ圧制御ユニット65以外のユニット(例えば、ホイルシリンダ圧制御ユニット43)で行ってもよい。換言すれば、マスタシリンダ圧制御ユニット65以外のユニット(ECU)がペダル操作判断部69を備える構成としてもよい。ただし、マスタシリンダ圧制御ユニット65では、通常、本判定に用いる前記信号を認識しているため、マスタシリンダ圧制御ユニット65に実装することが望ましい。一方、ホイルシリンダ圧制御ユニット43に実装する場合は、ホイルシリンダ圧制御ユニット43にて、下流昇圧機能の作動から解除まで、単一ユニットで完結できる。また、ADASやIDM(Integrated Dynamic-control Module)等に実装することで、外界認識情報等とドライバ操作を組み合わせた作動解除判定が容易になる。
第2の実施形態は、上述の如きペダル操作判断部69によりペダル踏力ゼロを判定するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施形態によるものと格別差異はない。
第2の実施形態によれば、ブレーキシステムは、ブレーキペダル3に接続される入力ピストン53(入力ロッド54)と、ブレーキペダル3の操作に伴う入力ピストン53(入力ロッド54)の移動量(位置)を検出するストロークセンサ4と、入力ピストン53(入力ロッド54)の移動量に基づいて、マスタシリンダ5のプライマリピストン51Aを推進する電動倍力装置57と、マスタシリンダ51の液圧を検出する液圧センサ9と、プライマリピストン51Aの移動量(位置)を検出するピストン移動量検出手段としての位置センサ59と、ドライバによるブレーキペダル3の操作の有無を判断するペダル操作判断部69とを有している。そして、ペダル操作判断部69は、「マスタシリンダ5の液圧Pと位置センサ59のプライマリピストン位置Xppとに基づいて求められる入力ピストン53(入力ロッド54)の推定移動量(入力ピストン戻り位置Xrep)」と「ストロークセンサ4が検出する入力ピストン53(入力ロッド54)の検出移動量(入力ピストン位置Xip)」とが一致する場合に、ドライバによるブレーキペダル3の操作が無いと判断する。このため、マスタシリンダ圧が負圧となりブレーキペダル3が戻りきらない場合でも、センサ等を追加せずに、ドライバがブレーキペダル3を放したことを高精度に判定することができる。
また、第2の実施形態によれば、ブレーキシステムは、ブレーキペダル3の操作量(例えば、踏込み速度、踏力)が閾値を超えたときに車両の制動力を増大させるブレーキアシストを行う制御部としてのホイルシリンダ圧制御ユニット43を有している。そして、ホイルシリンダ圧制御ユニット43は、ブレーキアシストを実行しているときに、「マスタシリンダ51の液圧Pと位置センサ59のプライマリピストン位置Xppとに基づいて求められる入力ピストン53(入力ロッド54)の推定移動量(入力ピストン戻り位置Xrep)」と「ストロークセンサ4が検出する入力ピストン53(入力ロッド54)の検出移動量(入力ピストン位置Xip)」とが一致する場合に、ブレーキアシストを終了する。このため、ブレーキアシストによりマスタシリンダ圧が負圧となりブレーキペダル3が戻りきらない場合でも、センサ等を追加せずに、ドライバがブレーキペダル3を放したことを高精度に判定することができる。これにより、ブレーキアシストを適切なときに終了することができる。
なお、第1の実施形態では、入力ロッド17の推定位置(入力ロッド戻り位置Xre)とストロークセンサ4の検出位置(入力ロッド位置Xir)とを用いてブレーキペダル3の操作の有無を判断する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、入力部材の推定移動量と入力部材の検出移動量とを用いてブレーキペダルの操作の有無を判断することができる。即ち、入力部材(入力ロッド)の推定移動量は、推定位置を含む推定移動量(推定移動量と相関関係を有する状態量)を用いることができ、入力部材の検出移動量は、検出位置を含む検出移動量(検出移動量と相関関係を有する状態量)を用いることができる。
第2の実施形態では、入力ロッド54と一体に変位する入力ピストン53の推定位置(入力ピストン戻り位置Xrep)とストロークセンサ4の検出位置(入力ピストン位置Xip)とを用いてブレーキペダル3の操作の有無を判断する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、入力ロッドの推定位置と入力ロッドの検出位置とを用いてブレーキペダルの操作の有無を判断してもよい。また、入力部材の推定移動量と入力部材の検出移動量とを用いてブレーキペダルの操作の有無を判断することができる。即ち、入力部材(入力ロッド、入力ピストン)の推定移動量は、推定位置を含む推定移動量(推定移動量と相関関係を有する状態量)を用いることができ、入力部材の検出移動量は、検出位置を含む検出移動量(検出移動量と相関関係を有する状態量)を用いることができる。
第2の実施形態では、電動アクチュエータとしての電動モータ58を回転モータとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電動アクチュエータを直動モータ(リニアモータ)としてもよい。即ち、電動倍力装置57のピストン(即ち、マスタシリンダ51のプライマリピストン51A)を推進する電動アクチュエータは、各種の電動アクチュエータを用いることができる。
第2の実施形態では、電動倍力装置57は、リアクションディスクを備えていない構成、即ち、入力ロッド54と一体に変位する入力ピストン53をマスタシリンダ51のプライマリ室51Bに臨ませると共に、プライマリピストン51Aをボールネジ機構60(回転直動変換機構)のねじ軸60A(直動部材)で推進する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電動倍力装置を、入力部材(入力ロッド)と回転直動変換機構の直動部材(パワーピストン)とをリアクションディスクに臨ませ、リアクションディスクを介して、入力部材と直動部材との推力をマスタシリンダのピストンに伝達する構成としてもよい。
さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上説明した実施形態に基づくブレーキシステムとして、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、ブレーキペダルに接続される入力部材と、前記ブレーキペダルの操作に伴う前記入力部材の移動量を検出するストローク検出手段と、前記入力部材の移動量に基づいて、マスタシリンダのピストンを推進する倍力装置と、前記マスタシリンダの液圧を検出する液圧検出手段と、ドライバによる前記ブレーキペダルの操作の有無を判断するペダル操作判断部と、を有するブレーキシステムにおいて、前記ペダル操作判断部は、前記マスタシリンダの液圧に基づいて求められる前記入力部材の推定移動量と、前記ストローク検出手段が検出する前記入力部材の検出移動量と、が一致する場合にドライバによる前記ブレーキペダルの操作が無いと判断する。
この第1の態様によれば、「マスタシリンダの液圧に基づいて求められる入力部材の推定移動量」と「ストローク検出手段が検出する入力部材の検出移動量」とが一致する場合にブレーキペダルの操作が無いと判断する。このため、マスタシリンダ圧が負圧となりブレーキペダルが戻りきらない場合でも、センサ等を追加せずに、ドライバがブレーキペダルを放したことを高精度に判定することができる。
第2の態様としては、前記ブレーキペダルの踏み込み速度が所定の閾値を超えてから車両の制動力の増加率を大きくするブレーキアシスト機能を有する制御部をさらに有し、前記制御部は、前記ブレーキアシスト機能の実行時、前記ペダル操作判断部による前記ブレーキペダル操作が無いとの判断結果に基づいて、前記ブレーキアシスト機能の実行を終了する。この第2の態様によれば、ブレーキアシスト機能の実行を適切なときに終了することができる。
第3の態様としては、ブレーキペダルに接続される入力部材と、前記ブレーキペダルの操作に伴う前記入力部材の移動量を検出するストローク検出手段と、前記入力部材の移動量に基づいて、マスタシリンダのピストンを推進する倍力装置と、前記マスタシリンダの液圧を検出する液圧検出手段と、前記ブレーキペダルの踏み込み速度が所定の閾値を超えたときに車両の制動力を増大させるブレーキアシストを行う制御部と、を有するブレーキシステムにおいて、前記制御部は、前記ブレーキアシストを実行しているときに、前記マスタシリンダの液圧に基づいて求められる前記入力部材の推定移動量と、前記ストローク検出手段が検出する前記入力部材の検出移動量と、が一致する場合に前記ブレーキアシストを終了する。
この第3の態様によれば、「マスタシリンダの液圧に基づいて求められる入力部材の推定移動量」と「ストローク検出手段が検出する入力部材の検出移動量」とが一致する場合にブレーキアシストを終了する。このため、ブレーキアシストによりマスタシリンダ圧が負圧となりブレーキペダルが戻りきらない場合でも、センサ等を追加せずに、ドライバがブレーキペダルを放したことを高精度に判定することができる。これにより、ブレーキアシストを適切なときに終了することができる。