以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
また、以下の実施の形態において、要素の数など(個数、数値、量、範囲などを含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。例えば、以下の実施の形態において単数形で表される構成要素について、1つまたは複数あると理解されてもよい。
図面等において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
本明細書等において、第1、第2、第3などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップなども含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合などを除き、必ずしも全ての構成要素が必須のものではなく、例えば一部の構成要素のみで実施されてもよい。
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
以下の説明では、テーブル、リスト、キュー等の表現にて各種情報を説明することがあるが、各種情報は、これら以外のデータ構造で表現されていてもよい。各種情報が、特定のデータ構造に依存しないことを示すために、kkkテーブル等をkkk情報と呼ぶことができる。また、識別情報について説明する際に、識別情報、識別子、名、ID、番号等の表現を用いるが、これらについてはお互いに置換が可能である。
以下の実施の形態では、埋設管インフラのモニタリングシステムの一例として、上水道管の漏水検知や漏水位置の特定等を行う漏水検知システムについて説明する。モニタリングシステムは、センサ端末1内のセンサの特性を変更することで、ガス管等の他の配管における漏洩検知や漏洩位置の特定等にも適用可能である。
<漏水の検知と発生箇所の特定について>
図1は、漏水検知システムの例を示す図である。漏水検知システムは、センサ端末1aとセンサ端末1bを含む少なくとも2台以上のセンサ端末1と、各センサ端末1で収集されたデータを解析する演算部50とを備えている。なお、センサ端末1aとセンサ端末1bとを特に区別せず、それらの中の1つを代表的に表す場合、センサ端末1と表現し、以下、他の符号も同じ表現とする。
演算部50は、単体または複数の計算機であり、例えばサーバ装置や、クラウド上に構成されたクラウド計算機であってもよい。演算部50は、計算機、計算機システム、または情報処理システムと呼ばれてもよい。演算部50は、例えば一般的なコンピュータであってもよく、出力装置、入力装置、処理装置、および記憶装置を備える計算機であってよい。
演算部50は、プロセッサ51と、メモリ52と、表示部53と、通信部54とを有する。プロセッサ51がメモリ52に格納されたプログラムを実行して、メモリ52に格納されたデータを処理し、表示部53と通信部54を制御する。なお、演算部50は、図1に示した回路以外の回路を含んでもよく、例えば他の入出力装置や各種メモリを備えてもよい。以下の説明で、演算部50が主語となる処理の説明は、主語がプロセッサ51に置き換えられてもよい。
プロセッサ51は、プログラムを実行して行う処理の主体となる装置であれば良く、例えばCPU、GPUでもよいし、特定の処理を行う専用回路(例えばFPGAやASIC)を含んでいてもよい。プロセッサ51は、コントローラ、処理装置、演算装置と呼ばれてもよい。プロセッサ51は、センサ端末1を含め、漏水検知システム全体を制御する。プロセッサ51は、センサ端末1から受信した情報(例えば計測データ)を処理し、例えば埋設管の漏洩を検知する処理や漏洩位置を特定する処理等を行う。
演算部50は、プログラムやデータを格納する記憶装置を備えてもよい。演算部50は、当該記憶装置からプログラムやデータを読み出して、メモリ52に格納して処理を行ってもよい。メモリ52や記憶装置には、例えばセンサ端末1から受信した情報(例えば計測データ)、プロセッサ51で処理した結果、センサ端末1の測定条件や設置位置を含むシステム管理情報70や、ペアリスト80、地図情報などが格納される。
表示部53は、ディスプレイなどの出力装置であり、プロセッサ51で処理した結果を表示する。表示部53は、表示装置、出力装置と呼ばれてもよい。通信部54は、各センサ端末1と通信する処理を行う装置や、ネットワークに接続するための通信インターフェース等、通信に使用される装置を含む。通信部54は、通信装置と呼ばれてもよい。
各センサ端末1は、例えば、マンホール内に設置されている制水弁等に設置される。各センサ端末1と演算部50とは、無線通信でデータがやり取りされる。無線方式は、低コスト、低消費電力、かつ遠距離通信を特徴とした通信方式が望ましく、例えばLoRaWan等である。
各センサ端末1と演算部50は、ネットワークにより接続されており、相互に通信可能である。なお、各センサ端末1と演算部50が直接通信する実施形態や、センサ端末1と演算部50の間に、基地局や中継器を経由して通信する実施形態であってもよい。後者の実施形態の場合、基地局は、無線通信によりセンサ端末1と情報をやり取りする。基地局は、制御装置を備え、基地局から所定範囲内にある複数のセンサ端末1と通信し、また演算部50と通信することにより、演算部50とセンサ端末1間を相互に接続し、通信パケットを中継する。基地局の制御部は、ゲートウェイであってもよい。漏水検知システムは、このような基地局や中継器を、1または複数備えていてもよい。また、例えば、センサ端末1と基地局で通信する際、他のセンサ端末1を中継器として経由して通信することで、1つの基地局がカバーする範囲を拡張してもよい。
例えば、各センサ端末1は、それぞれアンテナと接続され、基地局と相互に無線通信を行う。基地局と演算部50とは、例えば高速の有線通信で接続される。なお、基地局と演算部50との間の通信は、有線通信でも無線通信でも、有線通信と無線通信を組み合わせたものでもよい。
図16は、センサ管理情報60の構成の例を示す図である。各センサ端末1は、メモリを有し、メモリにセンサ管理情報60が格納されている。ここで、各センサ端末1のメモリの一部は、図9または図10の例においては、測定時間設定部207と周波数条件設定部208にあると理解されてもよい。
センサ管理情報60は、各センサ端末1のメモリに記憶される管理情報であり、それぞれのセンサ端末1自身に関する管理情報である。センサ管理情報60は、当該センサ端末1自身を一意に識別する識別情報である端末ID61と、当該センサ端末1に関する測定条件62を含む管理情報である。センサ管理情報60は、センサ端末1によってその内容は異なっていてよい。
端末ID61は、例えばセンサ端末1と演算部50との間で通信する際に用いる。センサ端末1は、上り通信の際、自身の端末ID61と計測データを含むパケットを送信する。これにより、当該パケットの送信元かつ計測データを計測したセンサ端末1を、演算部50は端末IDにより特定可能である。
また、演算部50は、下り通信の際、送信先のセンサ端末1を識別する端末IDを含むパケットを送信する。当該パケットを受信したセンサ端末1は、当該パケットの端末IDと、自身が有するセンサ管理情報60の端末ID61とを照合し、一致したときのみ当該パケットが自身のセンサ端末1に対するパケットと判断してもよい。
測定条件62は、当該センサ端末1での測定条件を含む情報であって、センサ200における測定条件、センサ端末1におけるデータ処理等の設定情報を含む。測定条件62は、例えば、サンプリング周波数fs、時間窓長Ts、周波数分解能Δfd、データセットの数N、周波数帯域の情報である。測定条件62は、上記した情報の一部または全部でもよく、またセンサ端末1の設定に関する他の情報が含んでいてもよい。センサ端末1は、当該測定条件62に基づいて、計測やデータ処理を行う。測定条件62の内容は、更新可能な情報である。また、各センサ端末1で、測定条件62の内容は同じでもよいし、異なっていてもよい。
図17は、システム管理情報70の構成の例を示す図である。演算部50は、各センサ端末1のセンサ管理情報60に相当する情報を、システム管理情報70としてメモリ52に記録する。システム管理情報70は、センサ端末1ごとに、当該センサ端末1を一意に識別する識別情報である端末ID71、当該センサ端末1に関する測定条件72と、当該センサ端末1の設置位置73、閾値74等を含む管理情報である。
端末ID71は、当該センサ端末1が有するセンサ管理情報60の端末ID61と同じ情報であってよい。同様に、測定条件72は、ステップS102、S103の後は、当該センサ端末1が有するセンサ管理情報60の測定条件62と同じ情報であってよい。
設置位置73は、当該センサ端末1の設置位置のデータ等であり、例えばセンサ端末1を設置したときに設置者または管理者等により入力されてもよい。センサ端末1自身がGPS機能を有する場合には、センサ端末1から位置データを演算部50に送信し、演算部50が設置位置73に位置データを記録してもよい。
閾値74は、演算部50のデータ処理(図11、図12、図13、図14の処理)で用いられる予め設定された各種閾値である。
システム管理情報70は、演算部50のデータ処理(図11、図12、図13、図14の処理)で用いられる情報を含んでいる。データ処理の際には、プロセッサ51が、システム管理情報70を参照して、各種情報を取得する。例えば、システム管理情報70は、漏水音の伝播速度V、配管の形状や材質等の情報を含んでいてもよい。
図18は、ペアリスト80の構成の例を示す図である。演算部50は、ペアリスト80をメモリ52に記録する。ペアリスト80は、隣接するセンサ端末1を端末ペアとして、それらのセンサ端末の端末ID81(81a、81b)とセンサ端末間の距離L82を対応づけて記録している。例えば、図18に示す一例においては、行83に一つの端末ペアとして、端末ID0001と端末ID0002が対応づけて記録されている。これは、端末ID0001のセンサ端末と端末ID0002のセンサ端末とが隣接していることを示す。また、他の行(例えば84)には、他の端末ペアの情報が記録されている。演算部50は、図11~図14の処理において、ペアリスト80を用いて隣接するセンサ端末(端末ペア)を特定し、漏水判定または漏水位置特定の処理を行う。例えば、演算部50は、ペアリスト80を用いて隣接するセンサ端末を特定してから、特定されたセンサ端末の端末ペアのデータを基に、クロススペクトルや相互相関関数の計算を行う。また、プロセッサ51は、ペアリスト80を参照して、センサ端末間の距離L82の情報を取得して、漏水位置特定の処理等に使用する。
図2は、漏水検知システムにおける動作の一例を示すシーケンス図である。この動作は、漏水検知システム稼働時に、所定のタイミングで実行される動作である。ここで、所定のタイミングとは、例えば一日一回など定期的なタイミングであってもよいし、漏水検知システムの管理者による指示を契機とする等、不定期のタイミングであってもよい。各ステップを実行するタイミングの其々が、所定のタイミングであってもよい。
ステップS101で、演算部50のプロセッサ51は、複数のセンサ端末1の一部または全部について、測定条件の更新を決定する。ここで、更新されるセンサ端末1の測定条件は、センサ管理情報60の測定条件62にある情報の一部または全部である。例えば、演算部50の入力装置を介して、漏水検知システムの管理者から、センサ端末1の一部または全部についての測定条件の更新指示を受け付けた場合に、当該センサ端末1の測定条件の更新を決定してもよい。また、例えば、漏水検知システムでセンサ端末1における過去の計測データ等を基にして、当該センサ端末1の測定条件の更新を決定してもよい。センサ端末1の測定条件の更新は、自動で決定されても、手動で決定されてもよい。
なお、センサ端末1について測定条件の更新がない場合は、ステップS102、S103は実施しなくてもよい。この場合、当該センサ端末1は、前回の測定条件62のままで、ステップS104の処理が実施される。ステップS102、S103を実施しないことで、センサ端末1の電源210の電池の消費を抑えるとともに、ネットワーク負荷を低減できる。
ステップS102で、演算部50の通信部54は、基地局経由で、更新対象のセンサ端末1を一意に識別する識別情報である端末IDと、更新する測定条件の情報を、更新対象のセンサ端末1に送信する。
ステップS103で、更新対象のセンサ端末1の通信部206は、ステップS102で送信されたパケットを受信した後、演算部50にACK(肯定応答)を基地局経由で送信する。演算部50は、このACKを受信することにより、当該センサ端末1との通信が正常に行われたと認識し、また当該センサ端末1で測定条件の更新が行われると認識できる。
センサ端末1は、ステップS102で受信した測定条件を基に、センサ管理情報60の測定条件62を更新する。なお、ステップS102で送信される測定条件は、測定条件62の全部の情報を含んでいてもよいし、測定条件62のうち更新される情報のみを含んでいてもよい。測定条件は、例えば、サンプリング周波数fs、時間窓長Ts、周波数分解能Δfd、データセットの数N、周波数帯域の情報である。測定条件は、上記した情報の一部または全部でも良く、またセンサ端末1の設定に関する他の情報が含まれていてもよい。
ステップS104で、センサ端末1は、センサ管理情報60の測定条件62を基に、計測を行う。
ステップS105で、センサ端末1の通信部206は、当該センサ端末1を一意に識別する識別情報である端末IDと計測データを、演算部50に基地局経由で送信する。
ステップS106で、演算部50の通信部54は、ステップS105で送信されたパケットを受信した後、センサ端末1にACK(肯定応答)を基地局経由で送信する。
ステップS107で、演算部50のプロセッサ51は、データ処理を実行する。このデータ処理の詳細は、図11、図12、図13、図14を用いて後述する。
なお、図2は、漏水検知システムにおける動作の一例であって、様々な変形例が考えられる。各ステップを実行するタイミングや実行回数は、適宜変更しても良く、そのような変形例も本発明の実施形態の範囲内である。例えば、センサ端末1でステップS104の計測を複数回行った後に、ステップS105でセンサ端末1から演算部50に複数回分の計測データを送信してもよい。
図1を用いて、センサ端末1aとセンサ端末1bの間で漏水が発生した場合の漏水発生位置を特定する処理について説明する。図1に示した土地10a~10dは、土地10を鉛直線で切った断面であり、土地10の地中に埋設管20が埋設される。図1の状態は、埋設管20の制水弁等にセンサ端末1aとセンサ端末1bが設置されており、センサ端末1aとセンサ端末1bの間で漏水30が発生している例である。
センサ端末1aから漏水30の発生位置(漏水点)までの距離31をx1、センサ端末1bから漏水点までの距離32をx2とすると、漏水30の位置で発生した音(あるいは振動)は、センサ端末1aとセンサ端末1bとでは、到達時間差Tだけずれて測定される。
到達時間差Tは、センサ端末1aの測定データD1(t)とセンサ端末1bの測定データD2(t)から算出する相互相関関数Φ(τ)のピーク値から求めることができる。例えば、相互相関関数Φ(τ)は以下の関係式(1)で表現され、ノイズの影響が十分小さい状態であれば、その相互相関関数Φ(τ)のピーク値を与えるτの値が到達時間差Tとなる。
また、到達時間差Tは、距離31と距離32と漏水音の伝播速度Vとの間で以下の関係式(2)で表現できる。
センサ端末1aとセンサ端末1bの間の距離Lは、既知の値であり、以下の関係式(3)で表現できる。
従って、到達時間差Tと漏水音の伝播速度Vと関係式(2)と関係式(3)から、x1である距離31とx2である距離32を導出できるため、漏水30の発生位置を特定することができる。演算部50は、上述した方法で、センサ端末1の測定結果に基づいて、漏水30の発生位置を特定してもよい。
なお、隣接するセンサ端末間の距離Lは、演算部50のメモリ52や記憶装置に格納されていてもよいし、各センサ端末1の設置位置の情報から算出してもよい。同様に、漏水音の伝播速度Vについても、演算部50のメモリ52や記憶装置に格納されていてもよいし、配管の形状や材質等の情報から算出してもよい。
<漏水の検知におけるデータ量について>
漏水発生位置を正確に特定するには、到達時間差Tを精度よく抽出することが肝要である。一般にセンサで測定されるデータは、有意な情報を含む信号成分とそれ以外のノイズ成分の両方を含んでいる。信頼性の高い解析を行うためには、ノイズが除去された後の信号成分だけが解析に用いられることが理想である。
このため、例えば、相互相関関数をフーリエ変換して導出できるクロススペクトルを用いて、クロススペクトルのパワースペクトルが所定の閾値を超える周波数領域だけが解析に用いられる。あるいは、例えば特開2016-95231号公報に記載されたように、コヒーレンス関数からコヒーレンスの高い周波数領域だけが解析に用いられる。そして、複数回の測定データを平均化してノイズの影響を低減する等の手順が用いられる。
しかしながら、パワースペクトルやコヒーレンスから解析に適切な周波数領域を決定する、あるいは平均化処理をするには、十分なデータ品質とデータ量が必要となる。これに対して、LoRaWan等の通信量が限られた環境下では、以上の手順が適用できない恐れがある。
図2のステップS104に示すように、センサ端末1a、1bのそれぞれにおいて、波形データが取得される(ステップS108)。
次に、センサ端末1a、1bのそれぞれにおいて、取得されたデータがフーリエ変換される(ステップS109)。このとき、センサ端末1a、1bのいずれもが、サンプリング周波数fs、時間窓長Tsでデータ取得した場合、フーリエ変換後のデータ点数Ndと周波数分解能Δfは、以下の関係式(4)と関係式(5)で表される。
図3は、フーリエスペクトルの例を示す図である。このフーリエスペクトルは、Δfである周波数分解能41a毎に値40がプロットされたグラフであり、周波数帯域42(周波数領域)内の値40の個数が、フーリエ変換されたデータの量となる。
図2に戻って次のステップでは、センサ端末1a、1bのそれぞれにおいて、フーリエ変換されたデータが圧縮される(ステップS110)。そして、センサ端末1a、1bのそれぞれから、圧縮されたデータが、無線通信を介して演算部50に送信される(ステップS105)。センサ端末1a、1bそれぞれから送信されたデータは、演算部50で受信されて収集され、元のデータに伸張され(ステップS111)、クロススペクトル(あるいは相互相関関数)が算出される(ステップS112)。
例えば、一般的に知られている漏水音の周波数帯域を含むように、ステップS101で、サンプリング周波数fsが2kHzとされ、時間窓長Tsが1秒とされて、データが取得(測定)された場合、ステップS102で計算されるデータ点数Ndは2000点となる。この時、周波数分解能Δfは1Hzである。
また、一例として、ステップS103で1点あたりのデータを4ビットに量子化して圧縮した場合、2000点でデータ量が1000バイトとなる。1日の送信データ量が百数十バイト程度に制約された場合、送信できるデータ量が著しく制約される。このため、取得された(圧縮された)データの送信にかかる時間は、1日以上となってしまうという問題がある。
この問題を解決するためには、データ量を削減する必要がある。しかしながら、漏水を検知するために必要な周波数帯域(あるいはサンプリング周波数fs)は減らすことができない。また、1点あたりのデータを圧縮して減らせるデータ量には限界がある。
図4は、図3の場合と比べて、周波数分解能Δfを大きくしたフーリエスペクトルの例を示す図である。図4に示すように、図2のステップS102で計算されるΔfである周波数分解能41bが周波数分解能41aより大きくなるように、時間窓長Tsが短く設定され、データ点数Ndが減らされてもよい。
図5は、データを間引いたフーリエスペクトルの例を示す図である。図5に示すように、図2のステップS102で計算されたデータが間引かれてもよい。そして、ステップS102で計算されるΔfではなく、間引いたときの実質のΔf(Δfd)である周波数分解能41cが周波数分解能41aより大きくされて、データ点数Ndが減らされてもよい。
以後では、説明を簡単にするために、図4と図5のステップS102で計算されるΔfの違いを区別することなく、送信されるデータの周波数分解能をΔfdと表現する。
仮に、周波数分解能Δfdが50Hzと設定された場合あるいは50Hzとなるようにデータが間引きされた場合、データ点数Ndは40点に削減され、送信データ量は20バイトとなる。これであれば、1日に5~10回程度のデータを送信することが可能であり、5~10回のデータの平均化処理等で信頼性を上げることも可能である。
しかしながら、周波数分解能Δfdが50Hzのデータでクロススペクトルが算出され、コヒーレンスの高い周波数帯域が決められる場合、決定された周波数帯域が真にコヒーレンスの高い領域ではない可能性もある。また、クロススペクトルのフーリエ逆変換に相当する相互相関関数が算出され、そのピーク値から到達時間差Tが決められる場合にも精度が十分でない可能性もある。
また、精度を高くするため、周波数分解能Δfdが10Hzと設定された場合あるいは10Hzとなるようにデータが間引きされた場合、データ点数Ndは200点に削減され、送信データ量は100バイトとなる。これでも、1日に1~2回程度のデータを送信することが可能である。
しかしながら、1日に1回程度の測定では、例えば、測定のタイミングで外乱が入り、ノイズが大きくなった場合に、測定データが影響を強く受けてしまうため、誤検知の可能性が高くなる。
そこで、本実施の形態では、以下で説明するように、複数の測定条件を用いる漏水検知システムとする。以下、測定条件と漏水検知システムの動作を説明する。
<漏水発生の検知と発生箇所の特定のための測定条件について>
本実施の形態における漏水検知システムは、図1でも示したように、少なくとも2個以上のセンサ端末1と、漏水の有無および発生位置を判定する演算部50とを有している。各センサ端末1は、振動センサを用いて、演算部50から指定された測定時間で1回の測定をする工程であって、埋設管20の振動を測定して測定結果をデータにする工程を実行する。ここで、振動センサは加速度センサあるいは変位センサ等であってもよい。
各センサ端末1は、測定データをフーリエ変換する工程と、フーリエ変換されたデータを演算部50から指定された周波数条件で選択する工程と、選択されたデータを圧縮する工程と、圧縮されたデータを送信する工程、をさらに実行する。
演算部50は、2個以上のセンサ端末1から送信されたデータを用いて、クロススペクトルを算出する工程と、クロススペクトルのパワースペクトルから漏水を一次判定する工程を実行する。
演算部50は、一次判定結果に基づいて、測定時間と周波数条件の少なくとも一方を変更し、変更をセンサ端末1に送信する工程と、相互相関関数もしくはクロススペクトルの位相特性から漏水発生箇所を特定する漏水の二次判定をする工程、をさらに実行する。
また、本実施の形態における漏水検知システムは、漏水発生の有無の判定と漏水発生箇所の特定とを異なるタイミングで実行する。
図6Aは、漏水が発生した場合のクロススペクトル(パワースペクトル)の例を示す図である。図6Bは、漏水が発生していない場合のクロススペクトル(パワースペクトル)の例を示す図である。図6Aに示す漏水発生時は、図6Bに示す漏水非発生時と比較して、広い周波数範囲でパワースペクトルが上昇する。
このため、漏水発生の有無を判定する場合、センサ端末1に指定される測定条件に含まれる周波数分解能Δfdは、漏水発生箇所を特定する場合より大きくても十分である。例えば、(予め設定された周波数帯域の)予め設定された閾値45をパワースペクトルが越えた場合に、漏水が発生していると判定できる。
このような閾値45を用いた判定により、漏水発生の有無を単純かつ高速に判定することが可能になる。ただし、漏水発生の有無の判定条件は閾値に限定されるものではなく、他の判定条件であってもよい。
このようにして、漏水発生の有無を判定する際には、周波数分解能Δfdが大きくとられ、代わりに1日あたりに送信されるデータセットの数N(測定データの数)が増やされて、突発的なノイズの影響が回避される方が好ましい。ここで、1つのデータセットは、1つの時間窓長Tsで測定されたデータを基に送信されるデータのセットである。
ノイズの影響を回避するためには、例えば平均化処理等が適用されてもよい。また、1日あたりに送信される各データセットのための測定データは、特定のタイミングで連続的に測定される必要はなく、1日の中で異なるタイミングに測定されてもよい。
これによる効果は、小さな送信データ量においても複数のデータセットから漏水の有無を判定できる点にある。ただし、単一のデータセットだけが送信されて、送信データ量が削減されても構わない。
便宜上、漏水の有無を判定する場合に採用するセンサの測定条件を測定条件aとする。ここで、センサとは、センサ端末1に含まれており、漏水音(振動)の測定データを取得するためのセンサである。測定条件には、サンプリング周波数fs、時間窓長Ts、周波数分解能Δfd、データセットの数N、周波数帯域の情報が含まれる。
ただし、センサの物理的構造もしくはセンサ端末の回路の制約から、サンプリング周波数fs、時間窓長Ts、周波数分解能Δfd、あるいはデータセットの数Nが一意に決まる場合には、他のパラメータを使って測定条件が定められてもよい。
いったん、パワースペクトル等から漏水があると判定されたならば(漏水一次判定で漏水発生の可能性があると判定されたならば)、処理は漏水発生箇所の特定に移行する。漏水発生箇所を精度よく特定するために、周波数分解能Δfdは小さくとられる必要がある。
従って、少なくとも測定条件aよりも小さな周波数分解能Δfdとなるように測定条件bが設定される。このとき、送信データ量の増大を防ぐために、測定条件bで採用されるデータセットの数Nは、測定条件aで採用されるデータセットの数Nよりも少なくされてもよい。
漏水発生箇所は、相互相関関数のピーク値から特定されてもよく、あるいはクロススペクトルの位相特性から特定されてもよい。コヒーレンスの高い2つのデータからクロススペクトルの位相特性が算出された場合、各周波数における位相φ(f)は、到達時間差Tを用いて、下記の関係式(6)で表現できる。
従って、例えば、各周波数における位相φ(f)の変化率、あるいは微分値が算出されると、その微分値は、下記の関係式(7)で表現できるように、到達時間差Tに比例した値を示す。
これにより、クロススペクトルの位相特性から到達時間差Tが算出できる。演算部50は、センサ端末1の測定結果に基づいて、上述した方法で算出した到達時間差Tと、漏水音の伝播速度Vと関係式(2)と関係式(3)から、x1である距離31とx2である距離32を導出し、漏水30の発生位置を特定してもよい。
図7は、クロススペクトルの位相特性における微分値の例を示す図である。位相φ(f)は、-2πから2πの範囲の値をとるため、-2πもしくは2πをまたぐ周波数で値が不連続に変化する。このため、各周波数における位相φ(f)の変化率、あるいは微分値は、図7に示すように不連続点でピークをもつ。
ピーク間の周波数差Δfpは、関係式(7)から下記の関係式(8)で表現できるため、ピーク間の周波数差Δfpから到達時間差Tが算出できる。
また、各周波数に対する位相φ(f)の変化率、あるいは微分値のピークに基づいて、到達時間差Tが算出された場合、ピーク間の周波数領域は、コヒーレンスの高い周波数領域でもある。このため、ピーク間の周波数領域は、漏水箇所の特定において、信頼性の高い周波数領域が正確に特定できる利点もある。なお、ピークは、微分値が予め設定された閾値を超える点であってもよい。演算部50は、センサ端末1の測定結果に基づいて、上述した方法で算出した到達時間差Tと、漏水音の伝播速度Vと関係式(2)と関係式(3)から、x1である距離31とx2である距離32を導出し、漏水30の発生位置を特定してもよい。
これによる効果は、小さな送信データ量においても漏水発生箇所を特定できると共に、データセットの数Nが少ない場合でも、漏水一次判定において、既に漏水発生の可能性を判定しているため、信頼性の高い判定ができる点にある。
実際の漏水現場における運用では、漏水発見後に即座に修理等の対応が行われるとは限らない。しかしながら、その間もセンサ端末1は動作しているため、この間に測定されるデータも有効に活用できることが好ましい。
このため、相互相関関数、あるいはクロススペクトルの位相特性から漏水発生箇所が特定された場合(漏水二次判定で漏水発生箇所が特定された場合)、その後も監視が続けられてもよい。この監視では、測定条件cが設定されてもよい。
測定条件cは、漏水発生箇所の特定において、コヒーレンスの高い周波数領域を特定する条件である。図8は、周波数帯域を絞ったクロススペクトルの例を示す図である。例えば、図8に示すようにコヒーレンスの高い周波数帯域42の値40がデータとして選択される。測定条件cは、測定条件aおよび測定条件bと比較して、周波数帯域42が狭く設定される。
また、周波数帯域42が狭く設定されることで、1つのデータセットに含まれるデータ点数が削減される。このため、測定条件cでは、測定条件aおよび測定条件bと比較して、周波数分解能Δfdが小さく設定されて、周波数帯域42内のデータが密に送信されてもよい。
あるいは、測定条件cでは、測定条件aおよび測定条件bと比較して、測定時間が長く設定される、もしくはデータセットの数Nが増やされることにより、信頼性の向上が図られてもよい。
測定条件cによる効果は、信頼性の高いデータを中心に効率的にデータが送信されるため、小さな送信データ量においても漏水発生箇所が正確に特定できる点にある。
測定条件a、測定条件b、測定条件cは、予め設定された情報であってもよい。この場合、例えば、システム管理情報70は、測定条件a、測定条件b、測定条件cを含む。例えば、演算部50の入力装置を介して、漏水検知システムの管理者から、これらの測定条件a、測定条件b、測定条件cの更新指示を受け付けた場合に、更新してもよい。また、例えば、演算部50は、過去の計測データや演算部50で処理したデータ等を基にして、これらの測定条件a、測定条件b、測定条件cを更新してもよい。測定条件a、測定条件b、測定条件cは、上述のように更新可能な情報であってもよいし、センサ端末1ごとに同じ情報であっても異なる情報であってもよい。
<センサ端末と演算部の処理について>
以下では、本実施の形態における漏水検知システムのセンサ端末1と演算部50それぞれの例をさらに説明する。図9は、センサ端末1の例を示す図である。センサ端末1は、センサ200、時系列データ蓄積部201a、201b、201c、フーリエ変換部202、フィルター部203、データ選択部204、データ圧縮部205、通信部206、測定時間設定部207、周波数条件設定部208、電源210を備える。
センサ200は、振動を測定するセンサである。電源516は電池であり、センサ端末1が数年間にわたって電池交換無しで動作するような容量を有することが望ましい。時系列データ蓄積部201a、201b、201cは、データを記憶する記憶装置であり、例えばメモリである。
センサ端末1の各構成要素は、それぞれ異なる装置であってもよいし、一部または全部が同じ装置であってよい。また、センサ端末1の各構成要素は、1つの装置で構成されてもよいし、複数の装置で構成されてもよい。例えば、時系列データ蓄積部201a、201b、201cは、それぞれ異なる記憶装置であってもよいし、1以上の同じ記憶装置であってもよい。同様に、フーリエ変換部202、フィルター部203、データ選択部204、データ圧縮部205、通信部206、測定時間設定部207、周波数条件設定部208は、それぞれ別々の処理装置(例えば専用回路)によって構成されてもよいし、一部または全部が同じ処理装置(例えばプロセッサ)で構成されてもよい。
以下、センサ端末1における動作の例を説明する。センサ200は、振動を測定する。センサ200は、測定した振動を、時系列のデータとして、時系列データ蓄積部201aに記録する(ステップS901)。
センサ200で測定する際の測定条件について、センサ200が1回で(1つのデータセットとして)測定する測定時間(あるいは時間窓長Ts)、ならびに測定回数を表すデータセットの数Nは、測定時間設定部207に保持されている。また、センサ200が測定するサンプリング周波数fs、ならびに周波数帯域と周波数分解能Δfdは、周波数条件設定部208に保持されている。通信部206は、演算部50から測定条件を受信すると、測定時間設定部207に保持される測定条件(情報)を書き換える。同様に、通信部206は、演算部50から測定条件を受信すると、周波数条件設定部208に保持される測定条件(情報)を書き換える。
センサ200は、測定時間設定部207と周波数条件設定部208から、測定条件であるサンプリング周波数fs、測定時間(あるいは時間窓長Ts)、周波数分解能Δfd、データセットの数N、周波数帯域の情報を読み出して、読み出した測定条件でステップS901の振動の測定を行う。なお、上述した測定条件は一例であって、この例に限定されず、様々な測定条件が適用されてよい。
フーリエ変換部202は、時系列データ蓄積部201aに記録されたデータをフーリエ変換する(ステップS902)。フィルター部203は、フーリエ変換されたデータにおいて、不要な周波数帯域を除去する(ステップS903)。
データ選択部204は、フーリエ変換されたデータ(不要な周波数が除去されたデータ)について、予め設定された周波数帯域と周波数分解能Δfdのデータとなるように、データを選択する(ステップS904)。また、データ選択部204は、選択したデータを時系列データ蓄積部201bに記録する(ステップS905)。
データセットの数Nが2以上である場合には、センサ端末1は、上述したステップS901からS905までの処理を、合計N回となるまで繰り返し実行する。
データ圧縮部205は、ステップS905で記録されたデータについて、データ量を圧縮し、圧縮したデータを時系列データ蓄積部201cに記録する(ステップS906)。通信部206は、ステップS906で圧縮されて記録されたデータを、ネットワークを介して演算部50に送信する(ステップS907)。
本実施の形態におけるセンサ端末1の他の例として、演算部50に送信されるデータが、逆フーリエ変換されて時間領域のデータに戻されたデータであってもよい。
図10は、センサ端末1の他の例を示す図である。図10に示したセンサ端末1は、図9に示したセンサ端末1の構成要素に加えて、フーリエ逆変換部209を含む。
図10の例では、センサ端末1は、図9を用いて説明したステップS901からS904までは同一の動作を行う。ステップS904でデータ選択部204においてデータが選択された後、フーリエ逆変換部209は、選択されたデータをフーリエ逆変換し、時間領域のデータにする(ステップS1001)。フーリエ逆変換部209は、フーリエ逆変換したデータを、時系列データ蓄積部201bに記録する(ステップS1002)。
ここで、データセットの数Nが2以上である場合には、センサ端末1は、ステップS901、S902、S903、S904、S1001、S1002の上述した一連の処理を、合計N回となるまで繰り返し実行する。
その後、データ圧縮部205は、ステップS1002でフーリエ逆変換されて記録されたデータについて、データ量を圧縮し、時系列データ蓄積部201cに記録する(ステップS1003)。通信部206は、ステップS1003で圧縮されて記録されたデータを、ネットワークを介して演算部50へ送信する(ステップS1004)。データの内容によっては、図9のフーリエ変換されたデータの量より、図10のフーリエ逆変換されたデータの量が少ない場合もある。
図9、図10に示したセンサ端末1の各部は回路であってもよい。また、センサ200、時系列データ蓄積部201、および通信部206以外の各部は、メモリに格納されたプログラムであって各部に相当するプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
時系列データ蓄積部201はメモリであってもよく、例えば時系列データ蓄積部201aと時系列データ蓄積部201bとはメモリの領域が異なってもよい。センサ端末1の各部の一部は回路であり、各部の他はプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
図11は、演算部50による測定条件aの処理の例を示す図である。演算部50の通信部54は、各センサ端末1から送信されたデータを受信する。ここで、受信したデータは、各センサ端末1で測定条件aで測定およびデータ処理されたデータとする。
以下の例では、演算部50において、複数のセンサ端末1からデータのうち、隣接するセンサ端末1aとセンサ端末1bからのデータを基に、センサ端末1aとセンサ端末1bの間の漏水有無を判定する処理について説明する。
演算部50の通信部54は、センサ端末1aとセンサ端末1bのそれぞれからデータを受信する。受信したデータは、センサ端末1aまたはセンサ端末1bで圧縮されたデータである。プロセッサ51は、圧縮されたデータを伸張する(ステップS300)。
ステップS300において、演算部50のプロセッサ51は、フーリエ逆変換されて圧縮されたデータを受信した場合、伸張したデータをフーリエ変換してもよい。受信されたデータは、フーリエ変換されているデータであるか否かの情報を含んでもよく、その情報に基づいてフーリエ変換されてもよい。
また、受信されたデータは、測定条件a、測定条件b、あるいは測定条件cのいずれのデータであるか特定するための測定条件に関する情報を含んでもよい。演算部50のプロセッサ51は、この測定条件に関する情報に基づいて、受信されたデータが測定条件aのデータであると判定すると、ステップS301へ進んでもよい。
なお、測定上において、データセットの数Nが2以上である場合には、演算部50のプロセッサ51は、N個のデータセットを基に平均化する処理を行う。平均化する処理は、各センサ端末1で行ってもよい。
後述するステップS400、ステップS500の処理についても、データの測定条件及びその測定条件に基づく処理は異なるものの、上述のステップ300の処理と同様の処理が行われてもよい。
演算部50のプロセッサ51は、センサ端末1aの伸張されたデータ及びセンサ端末1bの伸張されたデータを用いてクロススペクトルを計算し(ステップS301)、計算されたクロススペクトルのパワースペクトルを用いて閾値判定を行う(ステップS302)。プロセッサ51は、予め設定された特定の周波数領域で閾値判定してもよい。この特定の周波数領域は、例えば、比較的ノイズが少なく漏水の信号を検知しやすい周波数領域に設定されてもよい。
演算部50のプロセッサ51は、予め設定された閾値をパワースペクトルが超えている場合、一次判定の結果が漏水発生であるとしてステップS303aを実行する。また、演算部50のプロセッサ51は、パワースペクトルが閾値未満の場合、一次判定の結果が非漏水であるとしてステップS303bを実行する。ここで、漏水発生とは、漏水が発生している、または漏水が発生している可能性が高いことを示す。また、非漏水とは、漏水していないこと、または漏水が発生している可能性が低いことを示す。
一次判定の結果が漏水発生である場合のステップS303aにおいて、演算部50のプロセッサ51は、漏水発生と一次判定したデータをメモリ52に保持し(ステップS304a)、保持されたデータを表示部53に表示する(ステップS305a)。なお、ステップS304a、S305aは、ステップS306の後で実行されてもよい。
その後、演算部50の通信部54は、測定条件bに関する情報をセンサ端末1aとセンサ端末1bのそれぞれへ送信する(ステップS306)。送信された情報は、センサ端末1の通信部206で受信され、通信部206により測定時間設定部207と周波数条件設定部208の情報が更新される。
一次判定の結果が非漏水である場合のステップS303bにおいて、演算部50のプロセッサ51は、非漏水と一次判定したデータをメモリ52に保持し(ステップS304b)、保持されたデータを表示部53に表示する(ステップS305b)。なお、漏水検知システムにおいて、漏水した場合にのみユーザへの通知が必要な場合、ステップS305bを実施しなくてもよい。
図12は、演算部50による測定条件bの処理の例を示す図である。演算部50の通信部54は、各センサ端末1から送信されたデータを受信する。ここで、受信したデータは、各センサ端末1で測定条件bで測定およびデータ処理されたデータとする。
以下の例では、演算部50において、複数のセンサ端末1からデータのうち、隣接するセンサ端末1aとセンサ端末1bからのデータを基に、センサ端末1aとセンサ端末1bの間の漏水有無を判定する処理、または漏水位置を特定する処理について説明する。
演算部50の通信部54は、センサ端末1aとセンサ端末1bのそれぞれからデータを受信する。受信したデータは、センサ端末1aまたはセンサ端末1bで圧縮されたデータである。プロセッサ51は、圧縮されたデータを伸張する(ステップS400)。
また、受信されたデータは、測定条件a、測定条件b、あるいは測定条件cのいずれのデータであるか特定するための測定条件に関する情報を含んでもよい。プロセッサ51は、この測定条件に関する情報に基づいて、受信されたデータが測定条件bのデータであると判定すると、ステップS401a(図13の場合はステップS401b)へ進んでもよい。
演算部50のプロセッサ51は、センサ端末1aの伸張されたデータ及びセンサ端末1bの伸張されたデータを用いてクロススペクトルを計算し(ステップS401a)、クロススペクトルの位相特性を用いて相関性を計算する(ステップS402a)。具体的には、プロセッサ51は、各周波数において位相φ(f)の変化率、あるいは微分値を計算する。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS402aで計算された結果に基づいて相関判定を行う(ステップS403a)。具体的には、プロセッサ51は、例えば、各周波数における位相φ(f)の微分値が、予め設定された閾値を超えていた場合に相関ありと判定する。プロセッサ51は、予め設定された特定の周波数領域でS402aの計算やS403aの閾値判定をしてもよい。この特定の周波数領域は、例えば、比較的ノイズが少なく漏水の信号を検知しやすい周波数領域に設定されてもよい。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS403aで相関ありと判定した場合、二次判定の結果が漏水発生であるとしてステップS404aを実行する。また、演算部50のプロセッサ51は、ステップS403aで相関なしと判定した場合(相関ありと判定されなかった場合)、二次判定の結果が非漏水であるとしてステップS404bを実行する。
二次判定の結果が漏水発生である場合のステップS404aにおいて、演算部50のプロセッサ51は、センサ端末1aとセンサ端末1bから音源(漏水発生箇所)までの距離を算出する(ステップS405)。具体的な算出方法は、関係式(1)から関係式(8)を用いて説明した方法のいずれかの方法であってもよいし、その他の方法であってもよい。
そして、演算部50のプロセッサ51は、漏水発生と二次判定したデータと算出された距離のデータをメモリ52に保持し(ステップS408a)、保持されたデータを表示部53に表示する(ステップS409a)。なお、ステップS408a、S409aは、ステップS406あるいはステップS407の後で実行されてもよい。
さらに、演算部50のプロセッサ51は、コヒーレンスの高い有効周波数帯域を導出する(ステップS406)。通信部54は、ステップS406で導出した有効周波数帯域を含む測定条件cに関する情報を、センサ端末1aとセンサ端末1bのそれぞれへ送信する(ステップS407)。送信された情報は、センサ端末1の通信部206で受信され、通信部206により測定時間設定部207と周波数条件設定部208の情報が更新される。
二次判定の結果が非漏水である場合のステップS404bにおいて、演算部50のプロセッサ51は、非漏水と二次判定したデータをメモリ52に保持し(ステップS408b)、保持されたデータを表示部53に表示する(ステップS409b)。なお、漏水検知システムにおいて、漏水した場合にのみユーザへの通知が必要な場合、ステップS409bを実施しなくてもよい。
さらに、演算部50の通信部54は、測定条件aに関する情報をセンサ端末1aとセンサ端末1bへ送信する(ステップS410)。演算部50のプロセッサ51は、漏水一次判定前の初期状態に設定を初期化する(ステップS411)。送信された情報は、センサ端末1の通信部206で受信され、通信部206により測定時間設定部207と周波数条件設定部208の情報が更新される。
本実施の形態における演算部50の他の例として、図12に示したステップS401a~S403aは他の処理でもよい。図13は、演算部50による測定条件bの他の処理の例を示す図であり、ステップS401a~S403a以外は、図12を用いて説明したとおりである。図13の例では、演算部50のプロセッサ51は、ステップS401a~S403aの処理を実行せず、その代わりにステップS401b~S403bの処理を実行する。以下、図13の例において、図12の処理と異なる処理のみを説明する。
演算部50のプロセッサ51は、センサ端末1aの伸張されたデータ及びセンサ端末1bの伸張されたデータを用いて、相互相関関数を計算し(ステップS401b)、相互相関関数のピーク値を抽出する(ステップS402b)。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS402bで抽出されたピーク値に基づいて相関判定を行う(ステップS403b)。具体的には、プロセッサ51は、例えば、ピーク値が予め設定された閾値を超えていた場合に相関ありと判定する。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS403bで相関ありと判定した場合、二次判定の結果が漏水発生であるとしてステップS404aを実行する。また、演算部50のプロセッサ51は、ステップS403bで相関なしと判定した場合(相関ありと判定されなかった場合)、二次判定の結果が非漏水であるとしてステップS404bを実行する。
図14は、演算部50による測定条件cの処理の例を示す図である。演算部50の通信部54は、各センサ端末1から送信されたデータを受信する。ここで、受信したデータは、各センサ端末1で測定条件cで測定およびデータ処理されたデータとする。
以下の例では、演算部50において、複数のセンサ端末1からデータのうち、隣接するセンサ端末1aとセンサ端末1bからのデータを基に、センサ端末1aとセンサ端末1bの間の漏水有無を判定する処理、または漏水位置を特定する処理について説明する。
演算部50の通信部54は、センサ端末1aとセンサ端末1bのそれぞれからデータを受信する。受信したデータは、センサ端末1aまたはセンサ端末1bで圧縮されたデータである。プロセッサ51は、圧縮されたデータを伸張する(ステップS500)。
また、受信されたデータは、測定条件a、測定条件b、あるいは測定条件cのいずれのデータであるか特定するための測定条件に関する情報を含んでもよい。プロセッサ51は、この測定条件に関する情報に基づいて、受信されたデータが測定条件cのデータであると判定すると、ステップS501へ進んでもよい。
演算部50のプロセッサ51は、センサ端末1aの伸張されたデータ及びセンサ端末1bの伸張されたデータを用いてクロススペクトルを計算し(ステップS501)、クロススペクトルの位相特性を用いて相関性を計算する(ステップS502)。具体的には、プロセッサ51は、各周波数において位相φ(f)の変化率、あるいは微分値を計算する。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS502で計算された結果に基づいて相関判定を行う(ステップS503)。具体的には、プロセッサ51は、例えば、各周波数における位相φ(f)の微分値が、予め設定された閾値を超えていた場合に相関ありと判定する。プロセッサ51は、予め設定された特定の周波数領域でステップS502の計算やステップS503の閾値判定をしてもよい。この特定の周波数領域は、例えば、比較的ノイズが少なく漏水の信号を検知しやすい周波数領域に設定されてもよい。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS503で相関ありと判定した場合、センサ端末1aとセンサ端末1bから音源(漏水発生箇所)までの距離を算出する(ステップS504)。具体的な算出方法は、関係式(1)から関係式(8)を用いて説明した方法のいずれかの方法であってもよいし、その他の方法であってもよい。
そして、演算部50のプロセッサ51は、ステップS405あるいは過去に実行されたステップS504の結果と比較して、算出された距離が同じであるか、すなわち同一音源(同一発生箇所)であるかの判定を行う(ステップS505)。
この判定のために、例えば、距離の算出により抽出された音源位置が前回の結果から±2m以内(予め設定された距離以内)であれば同一音源であるとする、といった判定の範囲が定められていてもよい。あるいは、過去の抽出結果と合わせて予め設定された分散値以下で安定している場合に同一音源であるとする、といったトレンドデータから基準が定められてもよい。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS505で同一音源であると判定した場合、最終判定の結果が漏水発生であるとしてステップS506aを実行する。最終判定の結果が漏水発生のステップS506aにおいて、演算部50のプロセッサ51は、クロススペクトルのパワースペクトルを計算し(ステップS507)、計算されたパワースペクトルから信号強度を抽出する(ステップS508)。
演算部50のプロセッサ51は、漏水発生と最終判定したデータと抽出された信号強度のデータをメモリ52に保持し(ステップS510a)、保持されたデータを表示部53に表示する(ステップS511a)。予め繰り返しの条件が設定されている場合、演算部50のプロセッサ51は、その繰り返しの条件を判定し(ステップS509)、判定の結果に応じてステップS500からの処理を繰り返してもよい。
ステップS405とステップS504の算出結果を用いることで、音源すなわち漏水発生箇所の位置を特定した結果の信頼性が向上する。さらに、ステップS500からの処理を繰り返すことにより、一時的なノイズ等の影響を抑えることも可能になる。
演算部50のプロセッサ51は、ステップS503で相関なしと判定した場合(相関ありと判定されなかった場合)、あるいはステップS505で同一音源ではないと判定した場合、最終判定の結果が非漏水であるとしてステップS506bを実行する。
最終判定の結果が非漏水である場合のステップS506bにおいて、演算部50のプロセッサ51は、非漏水と最終判定したデータをメモリ52に保持し(ステップS510b)、保持されたデータを表示部53に表示する(ステップS511b)。なお、漏水検知システムにおいて、漏水した場合にのみユーザへの通知が必要な場合、ステップS511bを実施しなくてもよい。
さらに、演算部50の通信部54は、測定条件aに関する情報をセンサ端末1aとセンサ端末1bへ送信する(ステップS512)。演算部50のプロセッサ51は、漏水一次判定前の初期状態に設定を初期化する(ステップS513)。送信された情報は、センサ端末1の通信部206で受信され、通信部206により測定時間設定部207と周波数条件設定部208の情報が更新される。
図12~14での漏水の表示として、ステップS409aあるいはステップS511aにおいて、演算部50は、センサ端末1から漏水発生地点までの距離、判定に用いた周波数帯域、あるいは周波数帯域内における信号強度を表示してもよい。
例えば、横軸にデータ取得日時をとり、縦軸に各センサ端末1から漏水発生地点までの距離、判定に用いた周波数帯域、あるいは周波数帯域内における信号強度をプロットしたグラフを、演算部50は表示してもよい。このように時系列での変動が表示されることで、異常の有無が視覚的に認知されやすくなる効果がある。
あるいは、判定に用いた周波数帯域毎に、横軸に各センサ端末1から漏水発生地点までの距離をとり、縦軸に判定に用いた周波数帯域における信号強度をプロットしたグラフを、演算部50は表示してもよい。また、過去のグラフが重ねて表示されてもよく、過去のデータが合わせて表示されることで、視覚的に異常が認知されやすくなる効果がある。
図15は、複数のセンサ端末1を用いる漏水検知システムの他の例を示す図である。図15を用いて、複数のセンサ端末1の間で通信量の割当量を変更する例を説明する。
図15の例では、埋設管20に沿って、センサ端末1a、センサ端末1b、センサ端末1c、およびセンサ端末1dが順番に設置されており、センサ端末1bとセンサ端末1cの間で漏水30が発生している。なお、図15の例では、センサ端末1は4つしか記載されていないが、センサ端末1の個数は4つでなくてもよい。
また、センサ端末1c、1dは、図1~14を用いて説明したセンサ端末1a、1bと同じである。ただし、例えば、図11に示したステップS303aのように、一次判定で漏水発生の可能性が検知された場合には、各センサ端末1a~1dで動作が異なる。
具体的には、クロススペクトルのパワースペクトル、あるいはコヒーレンス関数の値等が予め設定された閾値を超える等して、一次判定の結果が漏水発生である場合、漏水発生地点に近いセンサ端末1とそれ以外のセンサ端末1とで動作が異なる。
漏水発生地点に近いセンサ端末は、2つのセンサ端末1(図15の例では漏水30に近いセンサ端末1bとセンサ端末1c)である。それ以外のセンサ端末1は、この2つのセンサ端末1の周辺に設置されたセンサ端末1(図15の例ではセンサ端末1aとセンサ端末1d)である。
そして、周辺に設置されたセンサ端末1は、最終判定あるいは非漏水であるとの判定が下されるまでの間、演算部50との通信を止める、もしくは通信データ量を削減した状態で動作する。
これに伴って、漏水発生地点に近いセンサ端末1bとセンサ端末1cは、演算部50との通信データ量を増大させて動作する。これによる効果は、複数のセンサ端末間で通信データ量を調整することで、複数台のセンサ端末の合計通信データ量を増大させることなく、漏水発生位置を特定するために必要なデータ量の多い通信を実現できることである。
既に説明したように測定条件bでは、周波数分解能Δfdが小さく設定されるが、単一のセンサ端末1で通信データ量が増大しないようにするには、測定条件bで採用されるデータセットの数Nが少なくなる必要があった。
一方で、複数のセンサ端末間で通信データ量を調整する漏水検知システムでは、一時的に通信データ量を増大させて動作させることが可能になるため、3つ以上のセンサ端末でかかる通信コストが増加することなく、信頼性の高い判定が可能となる。上述した複数のセンサ端末間で通信データ量を調整は、演算部50により制御される。例えば、演算部50は、漏水発生地点に近いセンサ端末1には演算部50との通信データ量を増大させる設定をする命令を送信し、周辺に設置されたセンサ端末1には演算部50との通信データ量を減少させる設定をする命令を送信する。
本発明の一態様によれば、漏水検知システムにおいて、2個以上のセンサ端末と演算部とが無線通信する。前記センサ端末のそれぞれは、周波数成分を含む測定信号をデータに変換し、前記演算部から受信した測定条件に基づく周波数分解能に応じたデータを前記演算部へ送信する。前記演算部は、第1の周波数分解能に応じたデータを受信し、受信されたデータから漏水であると判定すると、前記第1の周波数分解能より小さな第2の周波数分解能となる測定条件を、前記センサ端末のそれぞれへ送信する。
また、前記演算部は、複数の前記センサ端末のうち、一部のセンサ端末から受信したデータに基づき漏水であると判定すると、当該一部のセンサ端末と前記演算部との間の通信データ量を増大させる。
例えば、前記演算部は、複数の前記センサ端末のうち、一部のセンサ端末から受信したデータに基づき漏水であると判定すると、当該一部のセンサ端末と前記演算部との間の通信データ量を増大させ、他のセンサ端末の少なくとも一部と前記演算部との間の通信データ量を削減する。
例えば、前記演算部は、複数の前記センサ端末のうち、一部のセンサ端末から受信したデータに基づき漏水であると判定し、他のセンサ端末の少なくとも一部から受信したデータに基づき漏水でないと判定した場合、当該一部のセンサ端末と前記演算部との間の通信データ量を増大させ、当該他のセンサ端末の少なくとも一部と前記演算部との間の通信データ量を削減する。
以上、本発明を実施するための形態について具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、あるいは置換をしてもよい。