以下、本発明の実施の形態によるサスペンション装置を、4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1において、左,右の液圧シリンダ(以下、前輪側の左油圧シリンダ1,前輪側の右油圧シリンダ2という)は、例えば図2に示す車両の車体100と左,右の前輪101との間にそれぞれ介装されている。後側の左,右の液圧シリンダ(以下、後輪側の左油圧シリンダ3,後輪側の右油圧シリンダ4という)は、車両の車体100と左,右の後輪102(図2参照)との間にそれぞれ介装されている。なお、図1中では、車両の各車輪位置を、左前輪(FL),右前輪(FR),左後輪(RL),右後輪(RR)として添字を付している。
これらの油圧シリンダ1~4は、車両の車体100(ばね上)と各前輪101、後輪102(ばね下)との間に介装され、車体100と前輪101、後輪102の相対的な動きに応じて伸縮するシリンダ装置であり、前記車両の振動を緩衝する緩衝器を構成している。例えば、左前輪側の左油圧シリンダ1は、有底筒状のチューブからなるシリンダ5と、該シリンダ5内に摺動可能に挿嵌されたピストン6と、一端側がピストン6に固定され他端側がシリンダ5外に突出したピストンロッド7とを含んで構成されている。シリンダ5内は、ピストン6により上,下の2室A,B(即ち、上部室Aと下部室B)に画成されている。
これと同様に、他の油圧シリンダ2,3,4についても、それぞれがシリンダ5、ピストン6およびピストンロッド7を含んで構成されている。そして、油圧シリンダ2,3,4は、それぞれのシリンダ5内がピストン6により上部室Aと下部室Bとに画成されている。
第1,第2の接続管路8,9は、前輪側の左油圧シリンダ1と右油圧シリンダ2との間にクロス配管として設けられ、両者の間をクロスで接続する関連懸架装置を構成している。このうち第1の接続管路8は、左油圧シリンダ1の上部室Aと右油圧シリンダ2の下部室Bとの間を連通させるように、油圧シリンダ1,2間を左,右方向に延びて配置されている。第2の接続管路9は、左油圧シリンダ1の下部室Bと右油圧シリンダ2の上部室Aとの間を連通させるように、油圧シリンダ1,2間を左,右方向に延びて配置されている。
前輪側の左油圧シリンダ1には、例えば上部室Aと第1の接続管路8との接続部位に第1減衰力調整機構10が設けられている。この第1減衰力調整機構10は、左油圧シリンダ1の上部室Aから第1の接続管路8に向けて流出する圧油により発生する減衰力を電子制御で可変に調整すると共に、第1の接続管路8から左油圧シリンダ1の上部室Aに向けて流入する圧油により発生する減衰力を電子制御で可変に調整するアクチュエータ(図示せず)を備えている。即ち、第1減衰力調整機構10は、左油圧シリンダ1の上部室Aと第1の接続管路8との間で流入,出する作動液(圧油)により制御指令に応じて増減する減衰力を発生させる構成である。
また、前輪側の左油圧シリンダ1には、例えば下部室Bと第2の接続管路9との接続部位に他の第1減衰力調整機構11が設けられている。この第1減衰力調整機構11は、左油圧シリンダ1の下部室Bから第2の接続管路9に向けて流出する圧油により発生する減衰力を電子制御で可変に調整すると共に、第2の接続管路9から左油圧シリンダ1の下部室Bに向けて流入する圧油の減衰力を電子制御で可変に調整するアクチュエータ(図示せず)を備えている。即ち、他の第1減衰力調整機構11は、左油圧シリンダ1の下部室Bと第2の接続管路9との間で流入,出する作動液(圧油)により制御指令に応じて増減する減衰力を発生させる構成である。
前輪側の右油圧シリンダ2には、例えば上部室Aと第2の接続管路9との接続部位に第2減衰力調整機構12が設けられている。この第2減衰力調整機構12は、右油圧シリンダ2の上部室Aから第2の接続管路9に向けて流出する圧油により発生する減衰力を電子制御で可変に調整すると共に、第2の接続管路9から右油圧シリンダ2の上部室Aに向けて流入する圧油により発生する減衰力を電子制御で可変に調整するアクチュエータ(図示せず)を備えている。即ち、第2減衰力調整機構12は、右油圧シリンダ2の上部室Aと第2の接続管路9との間で流入,出する作動液(圧油)により制御指令に応じて増減する減衰力を発生させる構成である。
また、前輪側の右油圧シリンダ2には、例えば下部室Bと第1の接続管路8との接続部位に他の第2減衰力調整機構13が設けられている。この第2減衰力調整機構13は、右油圧シリンダ2の下部室Bから第1の接続管路8に向けて流出する圧油の減衰力を電子制御で可変に調整すると共に、第1の接続管路8から右油圧シリンダ2の下部室Bに向けて流入する圧油の減衰力を電子制御で可変に調整するアクチュエータ(図示せず)を備えている。即ち、他の第2減衰力調整機構13は、右油圧シリンダ2の下部室Bと第1の接続管路8との間で流入,出する作動液(圧油)に制御指令に応じて増減する減衰力を電子制御により可変に発生させる構成である。
後輪側の左油圧シリンダ3と右油圧シリンダ4との間は、クロス配管としての第1,第2の接続管路14,15によりクロスで接続され、関連懸架装置が構成されている。即ち、第1の接続管路14は、左油圧シリンダ3の上部室Aと右油圧シリンダ4の下部室Bとの間を連通させるように、油圧シリンダ3,4間を左,右方向に延びて配置されている。第2の接続管路15は、左油圧シリンダ3の下部室Bと右油圧シリンダ4の上部室Aとの間を連通させるように、油圧シリンダ3,4間を左,右方向に延びて配置されている。
後輪側の左油圧シリンダ3には、例えば上部室Aと第1の接続管路14との接続部位に第1減衰力調整機構16が設けられ、例えば下部室Bと第2の接続管路15との接続部位には他の第1減衰力調整機構17が設けられている。第1減衰力調整機構16は、前述した第1減衰力調整機構10と同様に構成され、他の第1減衰力調整機構17は、前述した他の第1減衰力調整機構11と同様に構成されている。
後輪側の右油圧シリンダ4には、例えば上部室Aと第2の接続管路15との接続部位に第2減衰力調整機構18が設けられ、例えば下部室Bと第1の接続管路14との接続部位には他の第2減衰力調整機構19が設けられている。第2減衰力調整機構18は、前述した第2減衰力調整機構12と同様に構成され、第2減衰力調整機構19は、前述した他の第2減衰力調整機構13と同様に構成されている。
次に、前側連絡路20は、第1,第2の接続管路8,9間を前輪側のブリッジバルブ21を介して連通,遮断させる管路である。前輪側のブリッジバルブ21は、例えば常閉型の電磁弁により構成され、常時は前側連絡路20に沿って圧油(液体)が流れるのを遮断するように閉弁位置(図示せず)に保持される。しかし、後述するコントローラ31からの通電により閉弁位置から開弁位置(図示せず)に切換えられると、ブリッジバルブ21は、圧油が第1,第2の接続管路8,9間で前側連絡路20を介して流通するのを許す。このため、ブリッジバルブ21が開弁している間、油圧シリンダ1,2は、上部室Aと下部室Bとが互いに連通した状態となる。
一方、後側連絡路22は、第1,第2の接続管路14,15間を後輪側のブリッジバルブ23を介して連通,遮断させる管路である。後輪側のブリッジバルブ23は、前輪側のブリッジバルブ21と同様に電磁弁により構成され、常時は後側連絡路22に沿って圧油(作動液)が流れるのを遮断するように閉弁位置に保持される。しかし、後述するコントローラ31からの通電により開弁位置に切換えられると、ブリッジバルブ23は、圧油が第1,第2の接続管路14,15間で後側連絡路22を介して流通するのを許す。このため、ブリッジバルブ23が開弁位置に切換わっている間、後輪側の油圧シリンダ3,4は、上部室Aと下部室Bとが互いに連通した状態となる。
右側連通路24は、前輪側の右油圧シリンダ2と後輪側の右油圧シリンダ4とに近い位置で前側の接続管路8と後側の接続管路14とを常時連通させる管路である。左側連通路25は、前輪側の左油圧シリンダ1と後輪側の左油圧シリンダ3とに近い位置で前側の接続管路9と後側の接続管路15とを常時連通させる管路である。
右側連通路24の途中には、蓄圧器としてのアキュムレータ26と絞り弁27とが設けられている。左側連通路25の途中にも、同様にアキュムレータ26と絞り弁27とが設けられている。各絞り弁27は、それぞれ前記連通路24,25とアキュムレータ26との間で圧油(作動流体)が流入,出(流通)するときに、絞り抵抗による減衰力を発生させ、油圧シリンダ1~4の伸縮動作を緩衝する。油圧シリンダ1~4、接続管路8,9,14,15および連通路24,25内は作動油(作動流体としての液体)で満たされている。
次に、図2に示すコントローラ31は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成され、第1減衰力調整機構10,11,16,17、第2減衰力調整機構12,13,18,19およびブリッジバルブ21,23等を電子制御する制御装置である。コントローラ31の入力側は、Gセンサ32(例えば、ばね上の上,下加速度センサ、ばね下の上,下加速度センサ)に接続されると共に、車両の加減速、車速、操舵角に代表される各種の車両情報が伝送されるCAN33(Controller Area Network)に接続され、さらに、車高センサ34にも接続されている。コントローラ31は、CAN33を介して車両の加減速、車速、操舵角等の情報を取得することができる。コントローラ31の出力側は、第1減衰力調整機構10,11,16,17、第2減衰力調整機構12,13,18,19およびブリッジバルブ21,23等に接続されている。
コントローラ31は、Gセンサ32からの信号と前記車高、加減速、車速および操舵角等の情報に基づいて車体100のばね上速度を推定することもできる。コントローラ31は、推定したばね上速度に基づいて第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19とが発生すべき減衰特性を演算する。コントローラ31は、演算結果による減衰特性に応じた指令電流を各減衰力調整機構10~13,16~19のアクチュエータに出力し、第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19との減衰特性を制御する。
また、コントローラ31は、例えばROM、RAM、不揮発性メモリ等からなるメモリ(図示せず)を有している。このメモリには、ブリッジバルブ21,23の切換制御および/または第1減衰力調整機構10,11,16,17の各アクチュエータと第2減衰力調整機構12,13,18,19の各アクチュエータとを制御するための処理プログラム(図示せず)等が格納されている。即ち、コントローラ31は、車両のロール剛性を可変に調整するため前記車両の運転状態に応じてブリッジバルブ21,23の切換制御を行う。また、第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19による減衰力を、油圧シリンダ1~4の伸び行程と縮み行程との何れでも可変に調整する制御を行う。
即ち、前輪側の第1減衰力調整機構10,11は、左油圧シリンダ1の室A,Bと第1,第2の接続管路8,9との間で流入,出する作動液(圧油)に、コントローラ31からの制御指令に応じて増減する減衰力を可変に発生させる。前輪側の第2減衰力調整機構12,13は、右油圧シリンダ2の室A,Bと第1,第2の接続管路8,9との間で流入,出する作動液(圧油)に、コントローラ31からの制御指令に応じて増減する減衰力を可変に発生させる。また、後輪側の第1,第2減衰力調整機構16,17,18,19についても、油圧シリンダ3,4の室A,Bと接続管路14,15との間で流入,出する作動液(圧油)に、コントローラ31からの制御指令に応じて増減する減衰力を可変に発生させる。
Gセンサ32は、例えば3個(前輪側2個、後輪側1個)のばね上の上,下加速度センサと、例えば4個(前輪側2個、後輪側2個)のばね下の上,下加速度センサとを含んで構成されている。即ち、Gセンサ32を構成するばね上の上,下加速度センサは、例えば左,右の前輪101側に夫々1個、左,右の後輪102の間となる車体100側の位置に1個で、合計3個設けられている。Gセンサ32を構成するばね下の上,下加速度センサは、例えば左,右の前輪101側に夫々1個、左,右の後輪102側に夫々1個、合計で4個設けられている。CAN33は、例えば車両の加減速、車速、操舵角等の情報をコントローラ31に入力することができる。
コントローラ31は、図2に示すように、路面判定部35、車両挙動演算部36、乗り心地・操縦安定性制御部37および後述の電流制御部44を含んで構成されている。コントローラ31の路面判定部35は、例えばGセンサ32から読込んだばね上の上,下加速度信号とばね下の上,下加速度信号とに基づいて、車両が走行する路面の状態が、例えば普通路、うねり路または悪路のいずれであるかを演算して判定する。
コントローラ31の車両挙動演算部36は、車両挙動を検出または推定する車両挙動算出手段を構成している。車両挙動演算部36は、例えばGセンサ32とCAN33とから読込んだ走行車両の各種情報に基づいて、車両の上,下振動、ロール、ピッチ、横加速度を含めた車両挙動を演算して求める。
乗り心地・操縦安定性制御部37は、路面判定部35の判定結果と車両挙動演算部36の演算結果とに基づいて、車両の乗り心地と操縦安定性能の向上を図るため、例えばスカイフック制御則を用いて目標減衰力を演算し、目標減衰力が発生するように目標電圧値を算出する。乗り心地・操縦安定性制御部37は、スカイフック制御部38、アンチロール制御部39、アンチダイブ制御部40、アンチスクオット制御部41、車速オフセット制御部42および指令値制御部43を含んで構成されている。
コントローラ31の電流制御部44は、乗り心地・操縦安定性制御部37の指令値制御部43から出力される目標減衰力の指令値(指令電流)を制御し、車体100と前輪101、後輪102との間に設けた各油圧シリンダ1~4の減衰力調整機構10~13,16~19(実際には夫々のアクチュエータ)に対して発生減衰力を調整するための制御電流を個別に出力する。
乗り心地・操縦安定性制御部37の指令値制御部43は、図3に示すように、乗算器45,46、減算器47,48、加算器49,52、システム圧力算出部53,54およびシリンダ軸力算出部55,56を含んで構成されている。さらに、指令値制御部43は、目標減衰力演算部58、目標減衰力補正部59、マップ補正判定部60および指令電流算出部62を含んで構成されている。
指令値制御部43の乗算器45は、例えば前輪側の左油圧シリンダ1と右油圧シリンダ2とから流出,入する圧油の流量を求めるため、左前輪(FL)側,右前輪(FR)側の車高センサ34から読込んだ検出信号(即ち、油圧シリンダ1,2の伸縮量)に対し、シリンダ5とピストンロッド7との断面積を乗算する。これにより、前輪側の左油圧シリンダ1から流出,入される圧油の流量と右油圧シリンダ2から流出,入される圧油の流量とが算出される。
また、指令値制御部43の乗算器46は、例えば後輪側の左油圧シリンダ3と右油圧シリンダ4とから流出,入する圧油の流量を求めるため、左後輪(RL)側,右後輪(RR)側の車高センサ34から読込んだ検出信号(即ち、油圧シリンダ3,4の伸縮量)に対し、シリンダ5とピストンロッド7との断面積を乗算する。これにより、後輪側の左油圧シリンダ3から流出,入される圧油の流量と右油圧シリンダ4から流出,入される圧油の流量とが算出される。
減算器47は、乗算器45の出力(即ち、前輪側の左油圧シリンダ1から流出,入される圧油の流量と右油圧シリンダ2から流出,入される圧油の流量と)を減算し、両者の圧油の流量の差分を求める。また、減算器48は、乗算器46の出力(即ち、後輪側の左油圧シリンダ3から流出,入される圧油の流量と右油圧シリンダ4から流出,入される圧油の流量と)を減算し、両者の圧油の流量の差分を求める。
次に、加算器49は、減算器47からの反転器50を介した出力と、減算器48からの反転器51を介した出力とを加算し、例えば図1に示す右側連通路24に設けたアキュムレータ26に流入,出される圧油の流量から右側のアキュムレータ26のガス容積変化量を求める。また、加算器52は、減算器48からの出力と減算器47からの出力とを加算し、例えば左側連通路25に設けたアキュムレータ26に流入,出される圧油の流量から左側のアキュムレータ26のガス容積変化量を求める。
システム圧力算出部53は、例えば図4に示す特性線63(ガス容積とシステム圧力との特性マップ)に基づいて、加算器49によるガス容積からシステム圧力をマップ演算する。また、システム圧力算出部54は、同様に図4に示す特性線63に基づいて、加算器52によるガス容積からシステム圧力をマップ演算する。図4に示す特性線63は、例えば図1に示すサスペンション装置(関連懸架装置)のシステム圧力とアキュムレータ26のガス容積との関係を、これまでの知見および試験データ等に基づいて纏め、特性線として作成したものである。この特性線は、一般的な理論計算で算出して求めてもよい。
次に、シリンダ軸力算出部55は、例えば前輪側の左油圧シリンダ1と右油圧シリンダ2との軸力増減分を求めるため、システム圧力算出部53,54で算出されたシステム圧力に対し、これを受圧する油圧シリンダ1,2の受圧面積を乗算する。これにより、シリンダ軸力算出部55からは、反転器57を介して前輪側の左油圧シリンダ1の軸力増減分と右油圧シリンダ2の軸力増減分とが出力される。また、シリンダ軸力算出部56は、例えば後輪側の左油圧シリンダ3と右油圧シリンダ4との軸力増減分を求めるため、システム圧力算出部53,54で算出されたシステム圧力に対し、これを受圧する油圧シリンダ3,4の受圧面積を乗算する。これにより、シリンダ軸力算出部56からは、反転器57を介して後輪側の左油圧シリンダ3の軸力増減分と右油圧シリンダ4の軸力増減分とが出力される。
指令値制御部43の目標減衰力演算部58は、乗り心地・操縦安定性制御部37のスカイフック制御部38、アンチロール制御部39、アンチダイブ制御部40、アンチスクオット制御部41および車速オフセット制御部42(図2参照)から出力される信号に基づいて所謂セミアクティブ制御用の目標減衰力を演算する。
指令値制御部43の目標減衰力補正部59は、マップ補正判定部60で補正を行うと判定したときに、シリンダ軸力算出部55,56から反転器57を介して出力される各油圧シリンダ1~4の軸力増減分を、目標減衰力演算部58による目標減衰力から減算して油圧シリンダ1~4の第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19とで発生すべき目標減衰力を補正し、目標減衰力の補正値(F)を算出する。マップ補正判定部60は、コントローラ31のバルブ情報部61から前輪側のブリッジバルブ21と後輪側のブリッジバルブ23の開閉情報を受け取り、ブリッジバルブ21,23の閉弁時にはマップ補正を行うと判定し、ブリッジバルブ21,23の開弁時にはマップ補正を行わないと判定する。
さらに、指令電流算出部62は、例えば減衰力特性マップ(F-V-I)に基づいて、目標減衰力補正部59による補正値(F)から各油圧シリンダ1~4の相対速度(V)に応じた指令電流を、第1減衰力調整機構10,11,16,17および第2減衰力調整機構12,13,18,19毎に演算して求め、これらの指令電流を図2に示す電流制御部44へと出力する。
これにより、車体100と前輪101、後輪102との間に設けた各油圧シリンダ1~4の減衰力調整機構10~13,16~19(実際には夫々のアクチュエータ)には、コントローラ31の電流制御部44から発生減衰力を調整するための制御電流が個別に出力され、夫々の減衰力調整機構10~13,16~19により油圧シリンダ1~4毎の減衰力が可変に制御される。
本実施の形態によるサスペンション装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
油圧シリンダ1~4は、車両の各前輪101、各後輪102と車体100との間(即ち、ばね上,ばね下間)に取付けられる。車両に振動が発生すると、油圧シリンダ1~4は、ピストンロッド7のストロークに対して圧油(作動液)の流れを制御するためコントローラ31からの制御指令に応じて、例えば第1減衰力調整機構10,11,16,17および第2減衰力調整機構12,13,18,19により減衰力を可変に調整して増減させる。
このうち、前輪側の左油圧シリンダ1は、例えばピストンロッド7の縮み行程でピストン6がシリンダ5内を上向きに摺動変位するときに、上部室Aから第1減衰力調整機構10を介して第1の接続管路8に向け流出してくる作動油(圧油)に対し、第1減衰力調整機構10により油圧抵抗力を与え、コントローラ31からの指令電流(制御指令)に応じた特性で減衰力が可変に制御される。このとき、他の第1減衰力調整機構11は、第2の接続管路9側から左油圧シリンダ1の下部室Bに向けて流入してくる圧油に対し油圧抵抗力を与え、コントローラ31からの指令電流(制御指令)に応じた特性で減衰力が可変に制御される。
また、前輪側の右油圧シリンダ2は、例えばピストンロッド7の縮み行程でピストン6がシリンダ5内を上向きに摺動変位するときに、上部室Aから第2減衰力調整機構12を介して第2の接続管路9に向け流出してくる圧油に対し、第2減衰力調整機構12により油圧抵抗力を与え、コントローラ31からの指令電流(制御指令)に応じた特性で減衰力が可変に制御される。このとき、他の第2減衰力調整機構13は、第1の接続管路8側から右油圧シリンダ2の下部室Bに向けて流入してくる圧油に対し油圧抵抗力を与え、コントローラ31からの指令電流(制御指令)に応じた特性で減衰力が可変に制御される。
なお、後輪側の左油圧シリンダ3と右油圧シリンダ4についても、前輪側の油圧シリンダ1,2とほぼ同様に作動し、第1減衰力調整機構16,17と第2減衰力調整機構18,19とにより、コントローラ31からの指令電流(制御指令)に応じた特性で減衰力が可変に制御される。
ところで、図1に示すサスペンション装置は、例えば車両の前輪側で左,右の油圧シリンダ1,2の上部室Aと下部室Bとをクロスに配管した関連懸架装置を備え、各油圧シリンダ1,2には、減衰力を調整可能な第1,第2減衰力調整機構10~13が設けられている。しかし、このような減衰力調整機構10~13は、発生減衰力を各輪独立で制御しようとすると、前記関連懸架装置による軸力変化分が反映されないために、適切な減衰力制御ができない虞れがある。車両の後輪側の油圧シリンダ3,4についても、第1,第2減衰力調整機構16~19で同様な問題が生じる虞れがある。
そこで、本実施の形態では、車両挙動を検出または推定する車両挙動算出手段(車両挙動演算部36)と、前記車両挙動算出手段の値に基づき、第1,第2減衰力調整機構10~13,16~19の制御量を指令するコントローラ31とを備え、このコントローラ31は、第1,第2の接続管路8,9,14,15を介して作動液(圧油)が移動することにより左油圧シリンダ1,3および/または右油圧シリンダ2,4に生じる軸力変化を考慮して、第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19への前記制御量を求める構成としている。
即ち、コントローラ31の車両挙動演算部36に設けた指令値制御部43は、各前輪101、各後輪102(FL,FR,RL,RR)側の車高センサ34から読込んだ検出信号(即ち、油圧シリンダ1~4の伸縮量としてのストローク情報)に基づき、例えば左油圧シリンダ1,3と右油圧シリンダ2,4との軸力増減分を、図3に示すシリンダ軸力算出部55,56において求める。指令値制御部43の目標減衰力演算部58は、乗り心地・操縦安定性制御部37のスカイフック制御部38、アンチロール制御部39、アンチダイブ制御部40、アンチスクオット制御部41および車速オフセット制御部42(図2参照)から出力される信号に基づいて所謂セミアクティブ制御用の目標減衰力を演算する。
指令値制御部43の目標減衰力補正部59は、シリンダ軸力算出部55,56から出力される各油圧シリンダ1~4の軸力増減分を、目標減衰力演算部58による目標減衰力から減算して油圧シリンダ1~4の第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19とで発生すべき目標減衰力を補正し、目標減衰力の補正値(F)を算出する。そして、指令電流算出部62は、例えば減衰力特性マップ(F-V-I)に基づいて、目標減衰力補正部59による補正値(F)から各油圧シリンダ1~4の相対速度(V)に応じた指令電流を、第1減衰力調整機構10,11,16,17および第2減衰力調整機構12,13,18,19毎に演算して求め、これらの指令電流を図2に示す電流制御部44へと出力する。
このように、例えば各前輪101、各後輪102側の車高センサ34から得る油圧シリンダ1~4の伸縮量(ストローク情報)に基づいて、油圧シリンダ1~4毎の軸力増減(軸力変化)を算出し、夫々の軸力変化分を使って油圧シリンダ1~4の第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19とで発生すべき目標減衰力を補正することにより、所謂セミアクティブサスペンションの制御ロジックの要求減衰力を適正な指令電流値に変換して、減衰力制御を行うことができる。
このため、本実施の形態によれば、例えばセミアクティブサスペンションの制御ロジックを用いて、関連懸架装置を用いたサスペンションとセミアクティブサスペンションとの協調制御が可能になる。即ち、関連懸架装置を用いたサスペンションによる軸力変化を考慮した減衰力制御ができるようになり、関連懸架装置として複数の油圧シリンダ1~4の上部室Aと下部室Bとをクロスで連結した油圧サスペンションシステムの機能を兼ねたセミアクティブサスペンションシステムの減衰力制御が可能になる。
従って、本実施の形態によるサスペンション装置は、上述の如く構成することにより、各油圧シリンダ1~4の軸力変化分を反映(活用)して第1,第2減衰力調整機構10~13,16~19により減衰力を可変に調整することができ、減衰力制御を適切に行うことができる。
図1に示すサスペンション装置において、ブリッジバルブ21,23が閉弁状態に保持されている間は、前述の如き協調制御が行われる。一方、コントローラ31からの制御信号によりブリッジバルブ21,23が開弁されると、ブリッジバルブ21は、圧油が第1,第2の接続管路8,9間で前側連絡路20を介して流通するのを許す。ブリッジバルブ23は、圧油が第1,第2の接続管路14,15間で後側連絡路22を介して流通するのを許す。このため、コントローラ31は通常のセミアクティブ制御で、第1,第2減衰力調整機構10~13,16~19により減衰力を可変に調整することができる。つまり、ブリッジバルブ21,23が開弁状態に保持されている間は、マップ補正を行わない。
コントローラ31による制御ロジックは、ブリッジバルブ21,23の開弁時は、図3に例示したマップ補正が入らない状態にする。つまり補正はゼロとなる。
なお、前記実施の形態では、各前輪101、各後輪102(FL,FR,RL,RR)側の車高センサ34から車高信号を読込み、油圧シリンダ1~4の伸縮量(ストローク情報)を求める場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばGセンサ32(ばね上の上,下加速度センサ、ばね下の上,下加速度センサ)からの検出信号により、油圧シリンダ1~4の伸縮量(ストローク情報)を求める構成としてもよい。
この場合には、車高センサ34を省略することができる。一方、各車高センサ34からの検出信号により、車両挙動を検出または推定する車両挙動算出手段を構成することも可能である。これにより、Gセンサ32(例えば、ばね上の上,下加速度センサ、ばね下の上,下加速度センサ)を省略することも可能となる。
また、前記実施の形態では、コントローラ31の乗り心地・操縦安定性制御部37に、スカイフック制御部38を設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばスカイフック制御に替えて、最適制御またはH∞制御等のフィードバック制御を用いることができる。また、制御指令として目標減衰力を用いているが、目標減衰係数を用いる構成としてもよい。一方、第1,第2減衰力調整機構10~13,16~19の減衰力バルブは、伸びと縮みで独立のバルブを用いることができ、伸びと縮みとで独立の制御ロジックの場合でも同様な効果を奏する。
また、前記実施の形態では、1つの油圧シリンダ1~4に対して、上部室A側と下部室B側との両方に減衰力調整機構10~13,16~19を設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば下部室B側のみに双方向の制御バルブからなる減衰力調整機構を設け、上部室A側には発生減衰力が一定の固定バルブを設ける構成としてもよい。これにより、複雑な制御バルブの個数を減らすことができ、シムテム全体の低コスト化、軽量化を図ることができる。
一方、前記実施の形態では、前側の第1,第2の接続管路8,9と後側の第1,第2の接続管路14、15とを、右側連通路24,左側連通路25を介して連通させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、前側の第1,第2の接続管路8,9と後側の第1,第2の接続管路14、15とを互いに独立した管路(即ち、前輪側と後輪側とを互いに分離して独立させた関連懸架装置)としてもよい。
このように、車両の前輪側と後輪側とで互いに独立した関連懸架装置とした場合は、例えば図3に示すように、4輪の車高センサ34の出力を互いに関連させて油圧シリンダ1~4の軸力を算出する必要がなくなり、例えば前輪側と後輪側と別々にしてシリンダの軸力を算出する構成とすることができる。また、前,後独立なので、夫々のアキュムレータ26(合計4個)の仕様を前,後で異なるものにすることが可能となり、前輪側の関連懸架装置と後輪側の関連懸架装置とのバランスを別々に調整できるメリットもある。
また、前輪側の左油圧シリンダ1と後輪側の右油圧シリンダ4とを第1,第2の接続管路でクロスに接続し、前輪側の右油圧シリンダ2と後輪側の左油圧シリンダ3とを第1,第2の接続管路でクロスに接続する構成としてもよい。
一方、前記実施の形態では、第1減衰力調整機構10,11,16,17と第2減衰力調整機構12,13,18,19とを、所謂セミアクティブサスペンションの制御ロジックで制御する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第1減衰力調整機構と第2減衰力調整機構とを所謂アクティブサスペンションで制御する構成としてもよい。この場合、例えば液圧シリンダと並列に、油圧ポンプにより加圧してシリンダ軸力を制御する油圧シリンダ、電磁サスペンションを設ける構成が考えられる。関連懸架装置の軸力変化分を補正しなければ、目標減衰力(シリンダ軸力)が定まらないため、本発明により、適切な制御が可能となる。
さらに、前記実施の形態では、油圧シリンダ1~4のシリンダ5からピストンロッド7が下向きに突出する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば各液圧シリンダのピストンロッドはシリンダから上向きに突出する構成としたものでもよい。
次に、上記実施の形態に含まれるサスペンション装置として、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
サスペンション装置の第1の態様としては、左,右の車輪と車体との間にそれぞれ介装され、シリンダ内がピストンにより上部室と下部室とに画成された左,右の液圧シリンダと、該左,右の液圧シリンダ間を、一方の液圧シリンダの上部室が他方の液圧シリンダの下部室に連通し前記他方の液圧シリンダの上部室が前記一方の液圧シリンダの下部室に連通するようにクロスで接続してなる第1,第2の接続管路と、前記一方の液圧シリンダに設けられ、減衰力を調整可能な第1減衰力調整機構と、前記他方の液圧シリンダに設けられ、減衰力を調整可能な第2減衰力調整機構と、車両挙動を検出または推定する車両挙動算出手段と、前記車両挙動算出手段の値に基づき、前記第1,第2減衰力調整機構の制御量を指令するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記第1,第2の接続管路を介して作動液が移動することにより前記一方または他方の液圧シリンダに生じる軸力変化を考慮して、前記第1減衰力調整機構と第2減衰力調整機構への前記制御量を求めることを特徴としている。