JP7134852B2 - 急硬材およびセメント組成物 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、カルシウムアルミネート、石膏、酒石酸などの有機酸を含む急硬材スラリーが記載されている。
また、特許文献2には、カルシウムアルミネートクリンカー100質量部に対して、ステアリン酸やラウリン酸など脂肪酸またはその金属塩を0.2から3.0質量部含むセメント急硬材が記載されている。
しかし、凝結遅延剤の使用は、急硬材として最も重要な、第一液と第二液の混合後の急硬性を低下させがちな傾向にある。
本発明の目的の1つは、水や凝結調整剤と調合した段階では固まりにくいが、水で練ったセメントと混合した後には速やかに硬化が進行する急硬材を提供することである。
カルシウムアルミネートと、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とを含む急硬材、
が提供される。
セメントと、前記急硬材とを含むセメント組成物、
が提供される。
本実施形態の急硬材は、カルシウムアルミネートと、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とを含む。
なお、以下では、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩を、単に「カルボン酸塩」と表記する場合がある。
ここで、可使時間が長いことは、例えば、急硬材を水や凝結調整剤と混合して調合した液を静置し、固形分(粗大粒子)の生成が認められるまでの時間を測定することで評価することができる。また、急硬性が高いことは、例えば、ゲルタイム(急硬材をセメントと混合した後、その混合物が流動性を失うまでの時間)で評価することができる。
ゲル強度や初期強度が大きいセメント組成物は、止水用途やひび割れ補修などに特に好ましく用いることができる。
カルシウムアルミネートとは、水硬性材料の技術分野において、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化カルシウム(CaO)を主成分として含み、水和活性を有する物質を総称するものである。ここで、「主成分」とは、カルシウムアルミネート全体中の酸化アルミニウムと酸化カルシウムの合計含量が、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることを意味する。
焼成/溶融には、ロータリーキルンや電気炉等を用いることができる。
CaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻等の炭酸カルシウム、消石灰等の水酸化カルシウム、及び生石灰等の酸化カルシウムを挙げることができる。
Al2O3原料としては、例えば、ボーキサイト、アルミ残灰と呼ばれる産業副産物、アルミ粉等を挙げることができる。
ここで、不純物としては、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化硫黄などが代表的に挙げられる。その他、有機物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、これらがCaOやAl2O3の一部に置換又は固溶したものなども不純物として挙げられる。もちろん、不純物はこれらのみに限定されない。
ガラス化率は、測定サンプルについて、粉末X線回折法により結晶鉱物のメインピーク面積Sを予め測定し、その後1000℃で2時間加熱後、(1から10℃)/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折法による加熱後の結晶鉱物のメインピーク面積S0を求め、これらのS0及びSの値を用い、次の式を用いてガラス化率χを算出する。
ガラス化率χ(%)=100×(1-S/S0)
アルミナセメントの具体例としては、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号などを挙げることができる。これらは、デンカ株式会社やAGC株式会社から購入可能である
本明細書において、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とは、炭素数1以上10以下のカルボン酸のカルボキシ基のプロトンが、陽イオンで置換された化合物のことをいう。換言すると、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩は、出発物質として炭素数1以上10以下のカルボン酸を準備し、これを適当な塩基性物質などと反応(中和反応)させて得られるものである。
炭素数は、より好ましくは1以上8以下、さらに好ましくは1以上5以下、特に好ましくは1以上3以下、とりわけ好ましくは1または2である。
なお、急硬性を特に高めたり、急硬剤の可使時間を特に長くしたりする観点からは、炭素数1以上10以下のカルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸ではないことが好ましい。
本発明者らの知見として、ギ酸や酢酸の如き炭素数が比較的少ないカルボン酸の塩は、公知の炭素数が多い(炭素数10超の)カルボン酸の塩に比べ、急硬剤の可使時間を長くしやすく、また、セメントと混合したときの急硬性に優れる傾向を示す。
セメントとの混合前の可使時間の長さと、セメントとの混合後の急硬性とのバランスの点などからは、カルボン酸塩の量は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上25質量部以下、さらに好ましくは0.15質量部以上10質量部以下である。
本実施形態の急硬材は、カルボン酸塩を1種のみ含んでも、2種以上含んでもよい。後者の場合、2種以上のカルボン酸塩の合計量が上記数値範囲内であることが好ましい。
本実施形態の急硬材は、好ましくは、さらに石膏を含む。石膏を含むことにより、セメントと混合する前の可使時間をより長く設計しやすい。
石膏の例としては、半水石膏や無水石膏を挙げることができる。強度発現性の面では無水石膏が好ましい。無水石膏としてより具体的には、弗酸副生無水石膏や天然無水石膏を挙げることができる。
石膏を水に浸漬させたときのpHについては、pH8以下の弱アルカリから酸性のものが好ましい。このpHが適度に低いことで、石膏成分の溶解度を低くすることができ、初期の強度発現性をより高めることができる。なお、ここでのpHは、石膏/イオン交換水=1g/100gの20℃における希釈スラリーのpHをイオン交換電極等により測定したものである。pHは、3以上8以下がより好ましく、5以上7以下がさらに好ましい。
石膏の量を50質量部以上とすることで、より長い可使時間を得ることができる。また、石膏の量を250質量部以下とすることで、急硬剤とセメントを混合して得られる硬化物(コンクリート)の初期強度を高めうる。
本実施形態の急硬材は、所望の効果を著しく損なわない範囲で、上記以外の任意の成分を含んでもよい。
一例として、本実施形態の急硬材は、可使時間や急硬性の微調整などの目的で、比較的少量の有機酸またはその塩(炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩に該当しないもの)、炭酸塩、重金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化アルカリ、硫酸塩、亜硫酸塩などを含んでもよい。もちろん、本実施形態の急硬材は、これら成分を含まなくてもよい。
本実施形態の急硬材は、通常、セメントと混合して、セメント組成物とすることができる。
前述したが、より具体的には、カルシウムアルミネートを含む本実施形態の急硬材は、通常、以下のような手順で使用される。
(1)まず、水に対し、凝結調整剤(任意)と、急硬材とを投入して第一液を調合する。
(2)その第一液を、水で練ったセメント(第二液)と混合して、セメント組成物を得る。
ここで、(2)で得られるセメント組成物は、急硬性を有する。
凝結調整剤の使用は任意であり、また、使用する際の量も任意であるが、凝結調整剤を使用する際の使用量は、急硬材100質量部に対して、例えば0.05質量部以上5質量部以下である。
なお、意図せぬ凝固やゲル化の防止のため、第一液の調合は、まず、水に凝結調整剤を投入し、その後、急硬材を投入するという順序で行うことが好ましい。
これらの各種セメントや各種混合セメントは、微粉末化して使用してもよい。また、通常セメントに使用されている成分(例えば石膏等)の量を増減して調製されたものも使用可能である。
セメントは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、高炉セメントが、六価クロム含有量が低いため好ましい。
一例として、セメントと水の混合比率は、セメント100質量部に対して、水100質量部から300質量部程度である。
本発明者らの知見によれば、例えば、カリウムミョウバンを第二液に含めることで、急硬性をより高めうる。このときのカリウムミョウバンの量は、セメント100質量部に対し、例えば0.5質量部以上20質量部以下、好ましくは1質量部以上10質量部以下である。
一例として、第一液と第二液の混合比率(第一液:第二液)は、体積基準で、1:10から1:1の間とすることができる。
また、別観点として、水と調合する前の急硬材100質量部に対し、水で練る前のセメントの量が、例えば100質量部以上40000質量部以下、より具体的には150質量部以上10000質量部以下となるように、第一液と第二液の混合比率を調整してもよい。
本発明の参考形態を以下に付記する。
1.
カルシウムアルミネートと、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とを含む急硬材。
2.
1.に記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、カルボン酸の金属塩を含む急硬材。
3.
1.または2.に記載の急硬材であって、
前記カルシウムアルミネート中のCaO/Al 2 O 3 モル比が1.0以上3.0以下である急硬材。
4.
1.から3.のいずれか1つに記載の急硬材であって、
さらに石膏を含む急硬材。
5.
1.から4.のいずれか1つに記載の急硬材であって、
前記カルシウムアルミネート100質量部に対する前記カルボン酸の塩の量が0.1質量部以上50質量部以下である急硬材。
6.
1.から5.のいずれか1つに記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、カルボン酸のカルシウム塩を含む急硬材。
7.
1.から6.のいずれか1つに記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、ギ酸の塩および酢酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む急硬材。
8.
1.から7.のいずれか1つに記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、酢酸の金属塩およびギ酸の金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む急硬材。
9.
1.から8.のいずれか1つに記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、ギ酸カルシウムおよび酢酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む急硬材。
10.
セメントと、1.から9.のいずれか1つに記載の急硬材とを含むセメント組成物。
以下、特に明示の無い限り、各操作は常温常圧下で行った。
まず、後掲の表1の「第一液」の欄に示された成分のうち、カルシウムアルミネート、石膏およびカルボン酸の塩を、プロシェアミキサ(WB型、太平洋機工株式会社製)を用いて混合した。これにより急硬材を得た。
次に、得られた急硬材と、凝結調整剤(デンカ株式会社製、デンカセッターD-100)と、水とを十分に練り合わせ、第一液を調合した。
各成分の量は表1に記載のとおりである。
得られたセメント組成物について、第一液と第二液の混合直後を起点(0秒)として、ゲルタイム(セメント組成物の流動性が実質上失われるまでの時間)を測定した。
また、石膏としては、天然無水石膏、ブレーン比表面積値5000cm2/gのものを用いた。
また、ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント(デンカ株式会社製)を用いた。
また、グルコン酸カルシウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどの、比較的炭素数が多くヒドロキシ基を有するカルボン酸の塩を用いるよりも、酢酸やギ酸などの比較的炭素数が少ないカルボン酸の塩を用いるほうが、より一層可使時間を長くできる等の傾向が見られた(実施例1-1~1-10と、実施例1-11~1-13との対比)。
追加の実施例により、本実施形態の急硬材を用いることで、セメントを急硬化可能であるだけでなく、ゲル強度や初期強度なども良好なセメント組成物を得られることを示す。
次に、得られた急硬材と、凝結調整剤(デンカ株式会社製、デンカセッターD-100)と、水とを十分に練り合わせ、第一液を調合した。
各成分の量は表2に記載のとおりである。
第一液と第二液の混合直後を起点(0秒)として、ゲルタイム(セメント組成物の流動性が実質上失われるまでの時間)を測定した。
第一液と第二液の混合直後のセメント組成物を、縦4cm×横4cm×高さ16cmの型枠に流し込んだ。そして、未だ硬化が十分進行していない段階での強度を指触で測定した。そして、以下3段階で評価した。
◎(優):型枠を脱型しても形は崩れず、また、セメント組成物を指で押しても凹まなかった。
○(良):型枠を脱型しても形は崩れなかったが、セメント組成物を指で押すとやや凹む状態であった。
△(可):型枠を脱型しても形は崩れなかったが、セメント組成物を指で押すと凹む状態であった。
×(不可):型枠を脱型すると形が崩れてしまう状態であった。
JIS R 5201に準じて強度を測定した。
具体的には、各セメント組成物を用いて縦4cm×横4cm×高さ16cmの試験体を作製し、第一液と第二液の混合から30分後、1時間後および1日後の圧縮強度を測定した。
なお、表2において、カルシウムアルミネート、石膏およびポルトランドセメントは、表1のものと同じである。
また、カルシウムアルミネートと特定のカルボン酸塩を含む急硬材を用いて調合した第一液と、水で練ったセメント(第二液)とを混合することで得られたセメント組成物は、ゲル強度が良好であり、そして、一日程度の短時間で高い強度を発現することが示された。
Claims (9)
- カルシウムアルミネートと、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とを含み、
前記カルシウムアルミネート100質量部に対する前記カルボン酸の塩の量が0.1質量部以上1質量部以下である急硬材。 - 請求項1に記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、カルボン酸の金属塩を含む急硬材。 - 請求項1または2に記載の急硬材であって、
前記カルシウムアルミネート中のCaO/Al2O3モル比が1.0以上3.0以下である急硬材。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の急硬材であって、
さらに石膏を含む急硬材。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、カルボン酸のカルシウム塩を含む急硬材。 - 請求項1から5のいずれか1項に記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、ギ酸の塩および酢酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む急硬材。 - 請求項1から6のいずれか1項に記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、酢酸の金属塩およびギ酸の金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む急硬材。 - 請求項1から7のいずれか1項に記載の急硬材であって、
前記カルボン酸の塩が、ギ酸カルシウムおよび酢酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む急硬材。 - セメントと、請求項1から8のいずれか1項に記載の急硬材とを含むセメント組成物。
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