JP7269044B2 - 膨張混和材、セメント組成物、及び、コンクリート - Google Patents
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Description
遊離石灰、水硬性物質、および、無水石膏を含有する膨張混和材であって、
上記膨張混和材を100質量%としたとき、
上記膨張混和材に含まれる遊離石灰の含有率が80.0質量%以上、99.0質量%以下であり、
JIS A 6202のコンクリート用膨張材の試験方法に基づき測定される養生7日目における膨張率が1000×10-6以上である膨張混和材が提供される。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」の意である。
本実施形態に係る膨張混和材には、膨張混和材を100質量%としたとき、遊離石灰が、80.0質量%以上、99.0質量%以下含まれる。本実施形態に係る膨張混和材には、膨張混和材を100質量%としたとき、遊離石灰が、81.0質量%以上、98.0質量%以下含まれることが好ましく、82.0質量%以上、97.0質量%以下含まれることがより好ましい。ここで、遊離石灰とは、化合物や非晶質物質を形成していない酸化カルシウム(free-lime)を意味し、生石灰とも呼ばれ、f-CaOと表記されることもある。
なお、膨張混和材に含まれる遊離石灰の含有量は後述のように、JIS R 6202に基づく化学分析結果、及び、粉末X線回折の同定結果に基づいてボーグの計算式によって求めることができる。
膨張率の上限は特に制限がないが、例えば、1600×10-6以下とすることができる。
なお、膨張混和材の膨張率は、JIS A 6202の附属書Aに記載される膨張材のモルタルによる膨張性試験方法に基づき、モルタルを調整し、該モルタルを用いて試験体を成形し、離形後の試験体の測長結果と、養生7日目の試験体の測長結果とを用いて算出することができる。すなわち、まず、JIS R 5210に規定される普通ポルトランドセメント420gと、膨張混和材30gと、標準砂1350gと、水225gとをよく練り混ぜモルタルを調整する。該モルタルを用い、40×40×135mmの試験体を成形し、24時間を経た後、脱型し、1回目の測長を行う。測長後、供試体を水槽内で養生し、材齢7日目に2回目の測長を行う。1回目の測長結果、及び、2回目の測長結果から、養生7日目における膨張率を算出する。
本実施形態に係る膨張混和材が、膨張混和材に含まれる遊離石灰の含有量、及び、膨張率を特定の範囲に制御することで、少ない添加量でも、ひび割れ等の少ない信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる膨張混和材となる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
すなわち、膨張混和材に含まれる遊離石灰等の材料の膨張の発現に関連する有効成分は、そのすべてが同じタイミングで反応するものではなく、その存在形態によって反応のタイミングが異なると考えられるところ、本発明で規定する膨張率は、適切なタイミングで反応する有効成分の量と関連した指標となるものと推測される。
本実施形態によれば、例えば、膨張混和材の原料、遊離石灰の含有量、及び、製造条件を調整し、膨張混和材に含まれる鉱物の種類と、遊離石灰の量とその組織等を最適化することによって、膨張率を特定の数値範囲の値とし、膨張混和材が有する膨張力ポテンシャルをある程度以上発揮できるよう制御することで、少ない添加量で、ひび割れ等が少なく、信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる膨張混和材となるものと推測される。
なお、本発明は上記の推測メカニズムによって限定されるものではない。また、ここで、膨張混和材に含まれる遊離石灰の含有量は、膨張混和材に係るクリンカ製造時の原料の配合の種類、及び、量、並びに、膨張混和材に係るクリンカの焼成条件・粉砕条件等の製造条件を制御することで、膨張混和材の膨張量は、膨張混和材に係るクリンカ製造時の原料の配合の種類、及び、量、並びに、膨張混和材に係るクリンカの焼成条件や粉砕条件等を調整することによって調整が可能である。
本発明に係る水硬性物質とは、水と反応して硬化する性質をもつ物質であり、具体的には、3CaO・3Al2O3・CaSO4で表されるイーリマイト、3CaO・SiO2(C3Sと略記)や2CaO・SiO2(C2Sと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al2O3・Fe2O3(C4AFと略記)や6CaO・2Al2O3・Fe2O3(C6A2Fと略記)、6CaO・Al2O3・Fe2O3(C6AFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe2O3(C2Fと略記)等のカルシウムフェライトなどであり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましく、イーリマイト、又は、C4AFを含むことがより好ましく、イーリマイト、及び、C4AFを含むことが特に好ましい。
水硬性物質の種類及び量を上記態様とすることで、膨張率を本発明で特定する範囲に調整しやすくなり、特に少ない添加量においても、ひび割れ等の少ない信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる膨張混和材とすることができる。また、水硬性物質の種類及び量を上記態様とすることで、キルン内壁へのコーティングの増加を防ぐことができる。
本実施形態に係る膨張混和材は、膨張混和材を100質量%としたとき、膨張混和材に含まれる無水石膏の含有量が、0.3質量%以上、15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上、13質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上、11質量%以下であることが特に好ましい。
無水石膏の量を上記態様とすることで、膨張率を本発明で特定する範囲に調整しやすくなり、特に少ない添加量においても、ひび割れ等の少ない信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる膨張混和材とすることができる。
水硬性物質、及び、石膏の合計含有量を上記態様とすることで、膨張率を本発明で特定する範囲に調整しやすくなり、特に少ない添加量においても、ひび割れ等の少ない信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる膨張混和材とすることができる。
また、水和発熱速度のピークとは、上記の水和発熱速度スペクトルにおいて、水和発熱速度が、最大値を示した位置を示す。
本実施形態に係る膨張混和材は、水和発熱速度のピークを上記範囲内に調整することによって、水和反応開始直後から初期にかけての急激な水和反応が適度に遅延され、かつ、セメントの硬化前に反応のピークを迎えることなるため、膨張混和材は水和開始から一定時間経過後の適度なタイミングで膨張し、該膨張混和材が有する膨張力ポテンシャルを最大限発揮することができ、特に少ない添加量においても、ひび割れ等の少ない信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる膨張混和材となるものと推測される。
なお、水和発熱速度のピーク位置は、膨張混和材を調整する際の原料の配合の種類及び量、並びに、膨張混和材の焼成条件、粉砕条件等の製造条件を調整することによって、制御することが可能である。
なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に基づき、ブレーン空気透過装置を用い測定することができる。
本実施形態に係る膨張混和材の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法で製造することができる。
まず、本実施形態に係る膨張混和材の製造に使用する原料について説明する。
本実施形態に係る膨張混和材の製造には、CaO原料、Al2O3原料、SiO2原料、CaSO4原料を用いることができる。
これら原料を、焼成後に所望の鉱物組成割合となるように調合し、混合(必要に応じ粉砕)し、調合原料とする。混合粉砕の方法は、特に限定されるものではなく、乾式粉砕法又は湿式粉砕法を適用することができる。
得られた調合原料は、電気炉やキルン等を用いて、焼成することが好ましい。熱処理方法は、特に限定されるものではなく、調合原料の配合の種類及び量、熱処理時間との兼ね合いにもよるが、1100℃以上、1600℃以下の温度で焼成することが好ましく、1200℃以上、1500℃以下がより好ましく、1300℃超、1500℃以下とすることがさらに好ましく、1350℃以上、1500℃以下とすることが特に好ましい。1100℃未満では、得られたセメント混和材の膨張性能が十分でなく、1600℃を超えると無水セッコウが分解する場合がある。
熱処理時間は、調合原料の配合の種類及び量、熱処理時間との兼ね合いにもよるが、最高温度の保持時間は、20分以上、90分以内であることが好ましく、30分以上、60分以内であることがより好ましい。
調合原料の配合の種類及び量との兼ね合いにもよるが、熱処理条件を上記数値範囲とすることによって、膨張混和材に含まれる遊離石灰等の存在形態を、より適切なタイミングで反応するように膨張率を調整することができ、よりひび割れ等が少なく、信頼性、耐久性、及び美観等の観点に優れたコンクリートを得ることができる。
得られた膨張材クリンカは、必要に応じて粉砕して、膨張混和材とすることができる。粉砕の際には、得られる膨張混和材が、上記したブレーン比表面積を有する態様となるよう粉砕条件を調整することが好ましい。
本実施形態に係るセメント組成物は、上記の膨張混和材とセメントを含むものとすることができる。
また、本実施形態に係るセメント組成物は、さらに混和剤及び混和材の少なくとも一方の混和材料等を含有してもよい。混和剤には、例えば、急硬剤、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、流動化剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、耐寒剤、収縮低減剤、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体、硬化促進剤、凝結遅延剤、急結剤、発泡剤及び気泡剤等が挙げられる。混和材には、例えば、高炉水砕スラグ微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末等のスラグ、シリカヒューム、フライアッシュ、石灰石微粉末、アウイン系膨張材及びポゾラン等が挙げられる。これらの混和剤及び混和材からなる群のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
本実施形態に係るセメント組成物、及び、骨材を含む、本実施形態に係るコンクリートの用途は特に限定されるものではないが、土木、建築分野等で幅広く活用できる。
以下、本発明の参考形態の一例を示す。
[1] 遊離石灰、水硬性物質、および、無水石膏を含有する膨張混和材であって、
前記膨張混和材を100質量%としたとき、前記膨張混和材に含まれる遊離石灰の含有率が80.0質量%以上、99.0質量%以下であり、
JIS A 6202のコンクリート用膨張材の試験方法に基づき測定される養生7日目における膨張率が1000×10 -6 以上である膨張混和材。
[2] 水和反応開始後から水和反応終了までにおける水和発熱速度スペクトルにおいて、水和発熱量のピークが、水和反応開始後30分以上、90分以下に現れる、[1]に記載の膨張混和材。
[3] ブレーン比表面積が2,000cm 2 /g以上、6,000cm 2 /g以下である、[1]又は[2]に記載の膨張混和材。
[4] 前記水硬性物質が、3CaO・3Al 2 O 3 ・CaSO 4 、3CaO・SiO 2 、2CaO・SiO 2 、4CaO・Al 2 O 3 ・Fe 2 O 3 、6CaO・2Al 2 O 3 ・Fe 2 O 3 、6CaO・Al 2 O 3 ・Fe 2 O 3 、及び2CaO・Fe 2 O 3 からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の膨張混和材。
[5] 前記膨張混和材を100質量%としたとき、前記膨張混和材に含まれる水硬性物質及び無水石膏の合計含有率が0.5質量%以上、15質量%以下である、[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の膨張混和材。
[6] [1]乃至[5]のいずれか一つに記載の膨張混和材と、セメントを含有してなるセメント組成物。
[7] [6]に記載のセメント組成物を含有してなるコンクリート。
CaO原料、CaSO4原料、Al2O3原料、Fe2O3原料を含む原料を表1に示す配合で混合粉砕した後、1350℃で30分熱処理して表1に示すような組成のクリンカを合成し、ボールミルを用いて、ブレーン比表面積4,000±300cm2/gに粉砕して膨張混和材を調製した。膨張混和材を粉末X線回折法(以下、XRD)で同定し、構成化合物を調べた。膨張混和材の鉱物組成は、化学組成とXRDの同定結果を基にボーグ式を用い計算により算出した。化学組成はJIS R 5202に準じて求めた。膨張混和材を100質量%としたときの、各鉱物の含有率を表1に示す。
CaO原料:石灰石
CaSO4原料:二水石膏
Al2O3原料:アルミ水処理灰
Fe2O3:カラミ
砂:セメント強さ試験用の標準砂(セメント協会)
<長さ変化率>
JIS A 6202 コンクリート用膨張材の試験方法に基づき測定される、養生7日目における膨張率を測定した。
まず、JIS R 5210に規定される普通ポルトランドセメント420gと、膨張混和材30gと、標準砂1350gと、水道水225gとをよく練り混ぜモルタルを調整した。該モルタルを用い、40×40×135mmの試験体を成形し、24時間を経た後、脱型し、1回目の測長を行った。測長後、供試体を水槽内で養生し、材齢7日目に2回目の測長を行った。1回目の測長結果、及び、2回目の測長結果から、養生7日目における膨張率を算出した。結果を表1に示す。
得られた膨張混和材5.0gに、2.5gの水を加え、膨張混和材と水とが接触した時点を水和反応開始時とし、水和反応開始後から水和反応終了までにおける水和発熱速度スペクトルをマルチマイクロカロリーメーターMMC-511C6型で測定した。測定は、20℃の恒温下で行った。得られた水和反応開始後から水和反応終了までにおける水和発熱速度スペクトルから、水和発熱速度のピーク位置(水和発熱速度(単位時間当たりの発熱量)の最大値を記録した位置が、水和反応開始後から何分経過後に現れたか)を求めた。結果を表1に示す。
得られた膨張混和材を用いて、コンクリートによる性能評価を行った。配合は、単位セメント量320kg/m3、単位膨張混和材量20kg/m3、単位水量165kg/m3、s/a48.5%、スランプ12.0±2.5cm、空気量4.5±1.5%とし、セメント組成物を調製し、該セメント組成物を用いて作製したコンクリートによって、乾燥収縮ひび割れ抵抗性と、温度ひび割れ抵抗性を評価した。結果を表1に示す。
セメント:JIS R 5210に規定される普通ポルトランドセメント
細骨材:天然細骨材、密度2.64g/cm3
粗骨材:天然粗骨材、密度2.65g/cm3
模擬壁で、ひび割れの発生状況を確認した。高さ4m×長さ10m×厚さ1mの模擬壁を作製し、打設から2週間後にひび割れの発生状況を観察した。幅0.2mm以上のひび割れが3本以上発生した場合は×、ひび割れ幅0.2mm未満のひび割れが3本未満1本以上発生した場合は○、ひび割れが認められない場合は◎とした。
Claims (6)
- 遊離石灰、水硬性物質、および、無水石膏を含有する膨張混和材であって、
前記水硬性物質が、3CaO・3Al 2 O 3 ・CaSO 4 、及び4CaO・Al 2 O 3 ・Fe 2 O 3 と、任意の3CaO・SiO2、2CaO・SiO2、6CaO・2Al2O3・Fe2O3、6CaO・Al2O3・Fe2O3、及び2CaO・Fe2O3からなる群から選ばれる1種又は2種以上とからなり、
前記膨張混和材を100質量%としたとき、前記膨張混和材に含まれる前記遊離石灰の含有率が80.0質量%以上、98.0質量%以下であり、かつ前記膨張混和材に含まれる前記無水石膏の含有率が2質量%以上、15質量%以下であり、
JIS A 6202のコンクリート用膨張材の試験方法に基づき、以下の手順で測定される養生7日目における膨張率が1000×10-6以上となるように構成された膨張混和材。
手順;JIS R 5210に規定される普通ポルトランドセメント420gと、当該膨張混和材30gと、標準砂1350gと、水225gとをよく練り混ぜモルタルを調整する。該モルタルを用い、40×40×135mmの試験体を成形し、24時間を経た後、脱型し、1回目の測長を行う。測長後、供試体を水槽内で養生し、材齢7日目に2回目の測長を行う。1回目の測長結果、及び、2回目の測長結果から、養生7日目における膨張率を算出する。 - 水和反応開始後から水和反応終了までにおける水和発熱速度スペクトルにおいて、水和発熱量のピークが、水和反応開始後30分以上、90分以下に現れる、請求項1に記載の膨張混和材。
- ブレーン比表面積が2,000cm2/g以上、6,000cm2/g以下である、請求項1又は2に記載の膨張混和材。
- 前記膨張混和材を100質量%としたとき、前記膨張混和材に含まれる前記遊離石灰の含有率が80.0質量%以上、97.0質量%以下であり、かつ前記膨張混和材に含まれる水硬性物質及び無水石膏の合計含有率が3質量%以上、15質量%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の膨張混和材。
- 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の膨張混和材と、セメントを含有してなるセメント組成物。
- 請求項5に記載のセメント組成物を含有してなるコンクリート。
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