JP7132465B2 - 血管新生促進剤、及び治療方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、「酸素含有雰囲気下でゼラチン又はゼラチン誘導体が電子線の照射により架橋された架橋ゼラチンゲル層の複数層が互いに隣接して配置された層構成を有する架橋ゼラチンゲル多層構造体」に、生理活性因子を担持させてなる生理活性因子放出用製剤が記載されている。
成長因子を含有する特許文献1に記載された生理活性因子放出用製剤は、高価な成長因子を含有し、更に、意図した治療効果が得られない場合があり、改善の余地があった。
式(1)中、Gltnはゼラチン残基を表し、Lは単結合、又は2価の連結基であり、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1~20個の炭化水素基、又は水素原子であり、R1及びR2の少なくとも一つは前記炭化水素基である。
[2] 成長因子を実質的に含有しない、[1]に記載の血管新生促進剤。
[3] 上記炭化水素基が、炭素数2~20個の鎖状炭化水素基、炭素数2~20個の脂環式炭化水素基、炭素数6~14個の芳香族炭化水素基、及び、これらを組み合わせた炭素数2~20個の基からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の血管新生促進剤。
[4] 上記ゼラチン誘導体が、冷水魚由来である、[1]~[3]のいずれかに記載の血管新生促進剤。
[5] 上記冷水魚がタラである、[4]に記載の血管新生促進剤。
[6] 前記ゼラチン誘導体の架橋物を有効成分として含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の血管新生促進剤。
[7] ファイバーメッシュの形態である、[1]~[6]のいずれかに記載の血管新生促進剤。
[8] 粒子の形態である、[1]~[6]のいずれかに記載の血管新生促進剤。
[9] 抹消動脈疾患の治療のための、[1]~[8]のいずれかに記載の血管新生促進剤。
[10] 哺乳動物である対象に、医薬上有効量の[1]~[8]のいずれかに記載の血管新生促進剤を投与する、血管新生を促進する方法。
[11] 哺乳動物における抹消動脈疾患の治療方法であって、
治療を必要とする哺乳動物の患部に、医薬上有効量の[1]~[8]のいずれかに記載の血管新生促進剤を投与する工程を含む、治療方法。
[12] 抹消動脈疾患の治療のための、[1]~[8]のいずれかに記載の血管新生促進剤。
[13] 血管新生促進剤を調製するための、下記式1で表されるゼラチン誘導体、及び前記ゼラチン誘導体の架橋物からなる群より選択される少なくとも1種の使用。
式1中、Gltnはゼラチン残基を表し、Lは単結合、又は、2価の連結基を表し、R1、及びR2は、それぞれ独立に炭素数1~20個の炭化水素基、又は、水素原子であり、R1、及びR2からなる群より選択される少なくとも一つは前記炭化水素基である。
[14] 前記血管新生促進剤が、抹消動脈疾患を治療するための医薬である、[13]に記載の使用。
[15] 前記血管新生促進剤が、成長因子を実質的に含有しない、[13]又は[14]に記載の使用。
[16] 前記炭化水素基が、炭素数2~20個の鎖状炭化水素基、炭素数2~20個の脂環式炭化水素基、炭素数6~14個の芳香族炭化水素基、及びこれらを組み合わせた炭素数2~20個の基からなる群より選択される少なくとも1種である、[13]~[15]のいずれかに記載の使用。
[17] 前記ゼラチン誘導体が冷水魚由来である、[13]~[16]のいずれかに記載の使用。
[18] 前記冷水魚がタラである、[17]に記載の使用。
[19] 前記ゼラチン誘導体の架橋物を有効成分として含有する、[13]~[18]のいずれかに記載の使用。
[20] 前記血管新生促進剤が、ファイバーメッシュの形態である、[13]~[19]のいずれかに記載の使用。
[20] 前記血管新生促進剤が、粒子の形態である、[13]~[19]のいずれかに記載の使用。
以下に記載する説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明の実施形態に係る血管新生促進剤は、下記式1で表されるゼラチン誘導体、及び当該ゼラチン誘導体の架橋物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する血管新生促進剤である。
ゼラチンは、コラーゲンが変性して3次元のトリプルヘリックス構造が崩れたものを意味し、生体適合性が高く既に臨床でも様々な医療材料として用いられている。
一方、上記ゼラチン誘導体は、所定の置換基を有し、このようなゼラチン誘導体等を有効成分として含有する血管新生促進剤は、典型的にはゲル化して生体内に注入されると、生体内において、驚くべきことに、上記ゲルが注入された周辺細胞において、血管新生促進作用を奏することを本発明者らは知見した。
また、上述したとおり、上記血管新生促進剤(典型的にはゲル化して注入される)によれば、目的部位の周辺細胞により産生される内因性の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等を利用するため、成長因子を含有させなくても、より安定的に治療効果を得ることが期待される。
コントロールとしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注入した部位の周辺組織を示す図2の写真と比較すると、本発明の実施形態に係る血管新生促進剤を含有するゲルである「37C12-ApGltn」は、注入後3日目において、より多くの血管が新生していることがわかる。
なお、図1及び図2において、黒く筋状に見える部分が血管を表している。
本発明の実施形態に係る血管新生促進剤は、式1で表されるゼラチン誘導体、及びその架橋物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。
すなわち、式1中、Lは、単結合、又は-C(O)-が好ましい。
なお、式1の-NH-構造は、例えばFT-IR(フーリエ変換赤外吸収)スペクトルにおいて3300cm-1付近のバンドにより検出することができる。
アルキル基の炭素数としては、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましく、6個以上が更に好ましく、7個以上がより更に好ましく、8個以上がより更に好ましく、9個以上がより更に好ましく、10個以上が特に好ましく、11個以上が最も好ましく、19個以下が好ましく、18個以下がより好ましく、17個以下が更に好ましく、16個以下がより更に好ましく、15個以下がより更に好ましく、14個以下が特に好ましく、13個以下が最も好ましい。
ゼラチン誘導体の架橋物とは、典型的には上記ゼラチン誘導体に熱、光、エネルギー線などでエネルギーを付与する、及び/又は架橋剤により架橋反応させることにより得られる不可逆的な架橋構造を有する反応物を意味する。
なかでも、より容易にゼラチン誘導体の架橋物が得られる点で、熱エネルギーを付与する(言い換えれば加熱する)方法が好ましい(熱架橋)。
ゼラチン誘導体を熱架橋する方法としては特に制限されないが、典型的にはゼラチン誘導体を100~200℃で、1~8時間、減圧下で加熱する方法が挙げられる。上記により、例えば、ゼラチン誘導体中のアミノ基、及びその他の反応性基(例えば、カルボキシ基、及び、メルカプト基等)が反応し、架橋物が形成される。
架橋剤としては、例えば、国際公開第2018/079538号の0021~0024段落に記載された化合物も使用でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
ゼラチン誘導体又はその架橋物の形状としては、特に制限されないが、より取り扱いが容易である点、及び溶媒への分散性に優れる点で、粒子状であることが好ましい。上記粒子の粒子径としては特に制限されないが、一般に0.5~1000μmが好ましい。
また、顆粒状、繊維状、シート状、プレート状、及びファイバーメッシュ状など他の形状とすることもできる。なかでも、広域の面積で体内に血管網を形成できる点でファイバーメッシュが好ましい。
なお、ゲル中における成長因子の含有量は、酵素免疫測定法(ELISA法)により測定される。
血管新生促進剤の調製方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。公知の方法としては、例えば、国際公開2018/079538号の0029~0035段落に記載の方法が適用でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
本発明の実施形態に係る血管新生促進剤の調製は、典型的には、ゼラチン誘導体の調製工程を含む。また、血管新生促進剤がゼラチン誘導体の架橋物を含有する場合には、更に、ゼラチン誘導体の架橋物の調製工程を含む。以下では、上記各工程について詳述する。
(1)原料ゼラチン水性溶液の調製
原料のゼラチンを5~50質量/体積%となる量で、40~90℃で加熱して、溶媒(水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混和物)に溶解してゼラチン溶液を得る。水としては、超純水、脱イオン水、及び蒸留水等を用いることができる。
有機溶媒としては、特に制限されないが、炭素数1~3個のアルコール、及びエステル等を用いることができ、エタノールが好ましい。
上記(1)で得られたゼラチン溶液に、導入する炭化水素基を有する誘導体化試薬を添加し、所定時間撹拌して反応させる。誘導体化試薬としては、炭化水素基を有するアルデヒド、及びケトン等が使用できる。また、炭化水素基に更にアミノ基(例えば、第1級アミノ基)が結合した化合物を使用することもできる。
また、誘導体化試薬として、炭化水素基にアミノ基が結合した化合物を用いる場合には、カルボジイミド化合物を用いて、上記炭化水素基を、イミノ基を介して、ゼラチンのカルボキシ基に結合させ、上記式1のゼラチン誘導体が得られる。
このときの反応温度は30~80℃、反応時間は0.5~12時間であり、通常、撹拌するだけでゼラチンのアミノ基にシッフ塩基(~N=CR1R2)を介して上記炭化水素基が結合されたゼラチンを得ることができる。アルデヒドの使用量は、所望の誘導化率に相当する化学量論量に対して1~4倍とする。より好ましくは、1~2倍とする。
これらのうち、2-ピコリンボランが好ましい。ピコリンボランは安定性があり、有機溶媒中でアルデヒド又はケトンの還元アミノ化反応を一段(ワンポ
ット)で行うことが可能である。また、80~90%の収率を達成することができる。
また、塩基としては、特に制限されず、一般的に水溶性のもの、例えばトリエチルアミン、ピリジン等が使用できる。
工程(2)で得られた反応溶液に、大過剰の貧溶媒、例えば冷エタノールを加えて、又は反応溶液を冷エタノールに加えて、粗ゼラチン誘導体を沈殿させる。上記沈殿を濾別した後、エタノール等で洗浄して、最終生成物(ゼラチン誘導体)を得る。
ゼラチン誘導体の架橋物を得る方法としてはすでに説明したとおりであり、具体的には、ゼラチン誘導体にエネルギー付与する方法が挙げられ、例えば、ゼラチン誘導体を熱架橋する方法が挙げられる。
また、ゼラチン誘導体の架橋物を繊維状とする場合、架橋工程の前にゼラチン誘導体を紡糸する工程を有していてもよい。ゼラチン誘導体を紡糸する方法としては特に制限されないが、例えば、ゼラチン誘導体を溶媒(例えば、エタノール等の水性有機溶媒と水の混和物)に溶解し、紡糸装置のノズルから凝固浴中に押し出して繊維状にする方法が挙げられる。
また、ゼラチン誘導体又はその架橋物のファイバーメッシュを得る場合には、例えば、ゼラチン誘導体を溶媒(例えば、エタノール等の水性有機溶媒と水の混和物)に溶解し、電界紡糸法により、得られた溶解液に高電圧を印加して帯電させることで繊維を得て、これを堆積させることで不織布(ファイバーメッシュ)を得、架橋構造を導入する場合には、更にエネルギー付与工程を行うことで架橋構造を有する不織布(ファイバーメッシュ)を得ることができる。
ゼラチン誘導体を帯電させる方法としては、高圧電源装置と接続した電極を溶解液、又はそれを入れた容器に接続し、典型的には1~100kVの電圧、好ましくは5~50kVの電圧を印加する方法がある。電圧の種類としては、直流又は交流のいずれであってもよい。
電界紡糸法では、ゼラチン誘導体を加熱しなくとも不織布(ファイバーメッシュ)を製造できる。そのため、ゼラチン誘導体が意図せず架橋することが抑制され、より均一な構造(より均一な繊維径等)を有する生体組織接着シートが得られやすい。
エネルギー付与工程は、不織布にエネルギーを付与して、生体組織接着シートを得る工程である。エネルギーの付与によってゼラチン誘導体の少なくとも一部が、分子間及び/又は分子内で架橋し、より優れたバルク強度、及びより優れた耐水性を有する得られる生体組織接着シートが得られる。
・ゼラチン誘導体溶液をスプレードライして粒子化し、ゼラチン誘導体粒子を得る工程、及び
・上記ゼラチン誘導体を140~160℃(例えば150℃)で、1~6時間、減圧下で加熱し、ゼラチン誘導体の架橋物を得る工程。
・ゼラチン誘導体水溶液にエタノールを添加し、ゼラチン誘導体を析出させ、ゼラチン誘導体粒子を得る工程、及び
・ゼラチン誘導体粒子を凍結乾燥させて、その後、140~160℃(例えば150℃)で、1~6時間、減圧下で加熱し、ゼラチン誘導体の架橋物を得る工程。
・ゼラチン誘導体を溶媒中に溶解し、紡糸装置のノズルから凝固浴中に溶液を吐出して繊維状にする工程。
・ゼラチン誘導体を溶媒中に溶解し、得られた溶解液に高電圧を印加して帯電させることで繊維を得る工程、
・得られた繊維を堆積させることで不織布(ファイバーメッシュ)を得る工程、及び
・任意選択で、不織布(ファイバーメッシュ)にエネルギー付与して、架橋構造を導入する工程。
本発明の実施形態に係る血管新生促進剤は、上記ゼラチン誘導体またはその架橋物を含み、対象に投与されて血管新生促進に用いられ、例えば、哺乳動物における抹消動脈疾患などの、血管新生が望まれる疾患の治療に用いられる。従って、一の実施形態において、本発明は、哺乳動物である対象に、上記血管新生促進剤を投与する、血管新生を促進する方法を提供する。また、他の実施形態において、本発明は、哺乳動物における抹消動脈疾患の治療方法であって、治療を必要とする哺乳動物の患部に、医薬上有効量の上記血管新生促進剤を投与する工程を含む、治療方法を提供する。
上記血管新生促進剤を患部に投与する方法としては特に制限されないが、典型的には溶媒と混合してゲル化させ、経皮的に患部に投与する方法が好ましい。
この際の投与量は、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、及び投与期間等によって適宜増減すればよい。
典型的には、溶媒と緩衝化剤とを含有する緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水。以下「PBS」ともいう。)に分散させる方法が挙げられる。
上記の様にして得られたゲルは、シリンジ等からなる経皮注入デバイスを用いて、患者の対象部位に注入して使用できる。
ゲルは溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を併せて含有していてもよい。ゲルが2種以上の溶媒を含有する場合、2種以上の溶媒の合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
そのため、血管新生促進剤を含有するゲル自体に成長因子を含有していなくても十分に血管の新生が促進されるため、高価で、かつ安定性の低い成長因子を含有させなくてもよい。更に上記ゼラチン誘導体は細胞接着性を有するため、血管内皮細胞が遊走、浸潤するための足場として作用するという特徴がある。
(実施例1)
スケトウダラ由来のゼラチン(Mw=33,000、新田ゼラチン(株)製)100gを水350mLに溶解し、得られた水溶液にエタノール140mLを加えて50℃にて撹拌した。ゼラチンのアミノ基に対して、誘導化率50モル%に相当する化学量論量の1.5当量のドデカナール(C12H24O)を5mLエタノールに溶解して、ゼラチン溶液に混合し、次いでドデカナールの約1.5当量の2-ピコリンボランを加えて、18時間撹拌した。反応溶液の10倍体積量の冷エタノール中に反応溶液を滴下して、生成されたゼラチン誘導体を再沈殿させ、吸引ろ過を行った。得られた沈殿物の約5倍体積量の冷エタノール中に沈殿物を入れ、1時間撹拌しながら洗浄後吸引ろ過を行った。この洗浄を3回行った後、2日間真空乾燥して、ドデシル基が導入された白色のゼラチン誘導体を、収率約91.6(質量/質量)%で得た。誘導化率(導入率)は、トリニトロベンゼンスルホン酸を用いた比色法により確認したところ、19モル%(0.19)であった。
また、以下の記載では、「-ApGltn」部分の記載を省略して「aCb」と記載する場合もあるが、上記と同様の意味である。
(実施例2~7)
C6、C10、C12、C14、C16及びC18の直鎖アルキルアルデヒドをそれぞれ、ゼラチンのアミノ基に対して、誘導化率150モル%に相当する量をゼラチン溶液に混合し、加えたアルキルアルデヒドに対して1.5当量の2-ピコリンボランを加えた以外は、上記ゼラチン誘導体19C12と同様にして、ゼラチン誘導体48C6、30C10、34C12、34C14、24C16、及び9C18を調製した。
上記のようにして得られた各ゼラチン誘導体を用いて、以下の各評価試験を実施した。
実施例1~7の各ゼラチン誘導体及び原料ゼラチン(Org)にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え、20%(質量/体積)のハイドロゲルを調製した。マウス背部皮下に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及び各ハイドロゲルを注入し、血流量をレーザードップラー血流計により測定した。
また、血流量の定量結果を図4に示した。
なかでも、疎水性基の炭素数が9~20であるとより血流量が多くなり、11~19であると更に血流量が多くなり、12~18であるとより更に血流量が多くなり、12~17であるとより更に血流量が多くなり、12~16であるとより更に血流量が多くなり、12~15であると特に血流量が多くなり、12~14であると最も血流量が多くなることが分かった。
上記血流量の測定の場合と同様にして、34C14-ApGltnゲルをマウス背部皮下に埋入後2日目に、埋入部位の周辺組織を摘出し、観察した。
図5には、PBSのみを注入した組織(対照)、図6には、34C14(図中には「C14」と記載した)を埋入した組織の写真を示した。
図5及び図6によれば、PBSと比較して34C14-ApGltnゲルを埋入した条件では毛細血管の密度が明らかに上昇していることがわかった。
上記血流量の測定の場合と同様にして、34C12-ApGltnゲルを500μlマウス背部皮下に埋入し、3日目後に、埋入部位の周辺組織を摘出し、観察した。
図7には、PBSのみを注入した組織(対照)、図8には、原料ゼラチン(図中には「Org」と記載した)を注入した組織、図9には、34C12-ApGltnゲル(図中には「34C12」と記載した)を埋入した組織の写真を示した。
図7~9に示す通り、PBS及び原料ゼラチンのゲルを注入した組織と比較して、34C12-ApGltnのゲルを埋入した組織では毛細血管の密度が明らかに上昇していた。
上記血流量の測定の場合と同様にして、34C12-ApGltnゲルを500μlマウス背部皮下に埋入後3日目に、埋入部位の周辺組織を摘出し、中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した後薄切し、得られた切片をヘマトキシリン-エオジン染色(HE染色)、並びにNF-kB及びCD31の免疫染色で染色し(NF-kBは、NF-kB抗体を用いて染色し、CD31は、CD31抗体を用いて染色した)、各染色組織を顕微鏡で観察した。各染色組織の鏡顕像は図10の通りであり、観察結果は以下の通りである。
1.HE染色
リン酸緩衝液(PBS)、又は原料ゼラチン(Org)を埋入した組織では血管及び赤血球が観察されなかったが、34C12-ApGltnゲルを埋入した組織においては、血管及び赤血球が観察され、血管新生を確認した。
2.NF-kBの免疫染色
リン酸緩衝液(PBS)、又は原料ゼラチン(Org)を埋入した組織では染色されなかったが、34C12-ApGltnゲルを埋入した組織においては染色された(薄茶色の部分)ことから、NF-kBが関与した血管内皮細胞による血管新生を確認した。
3.CD31の免疫染色
リン酸緩衝液(PBS)、及び原料ゼラチン(Org)を注入した組織に比べ、34C12-ApGltnゲルを埋入した組織においてはより多くのCD31の存在(薄茶色の部分)が確認されたことから、血管内皮細胞を通じて血管新生を確認した。
In vitroにおけるゲルの分解性を調べるため、コラーゲナーゼを用いて分解実験を行った。
まず、2.5ml PP(ポリプロピレン)チューブに濃度200mg/mlの各ゲルを入れ、PBSを500μl添加して膨潤させた。次に、余剰のPBSを除いた後、コラーゲナーゼ 10units/ml(Tris-HCl溶液、CaCl2を2%含有していた)を500μl加え、37℃でインキュベーションした。
一定時間後、ゲルはPPチューブごと10000rcfで遠心し、上清を除いた後に残存重量を計量した。この操作を繰り返し、最大8時間まで測定した。
Org、C6、C18についてはPBSと混和してしまったため、測定不能であった。結果を図11に示した。
図12には後述する方法により測定した、貯蔵弾性率とtanδとを示した。図12によれば、各ゲルの間で、貯蔵弾性率を比較すると有意な差が無い一方、粘り気を示すtanδを比較すると分解速度と相関関係にあった。したがって、粘り気があることでコラーゲナーゼによる分解・拡散が抑制されたと考えられた。
すなわち、疎水性基の炭素数の合計が、13~17個(好ましくは、14~16個)であると、ゲルは優れた分解性を有することがわかった。
実施例3~7の各ゼラチン誘導体(C10、C12、C14、C16、及びC18)及び原料ゼラチン(Org)から、上記血流量の測定の場合と同様にしてゲルを調製し、シリンジを用いて押し出す試験を行った。押し出した様子を図13に示した。
容易に押し出すことができ、かつ均一なゲルが形成されているほど、血管新生促進用のゲルとして、より優れた効果を有することを示している。
実施例3~7の各ゼラチン誘導体(C10、C12、C14、C16、及びC18)のいずれもシリンジから押し出し可能であり、図13に示す通り、均一なゲルを形成した。Orgは押し出し可能であるものの、十分にゲルが形成されなかった。
上記から、疎水性基の炭素数の合計が11~17であると、より容易にゲルが形成されやすく、疎水性基の炭素数の合計が12~16であると、更に均一なゲルが形成されやすく、疎水性機の炭素数の合計が13~16であると、より容易にインジェクション可能であった。
C18、C16、C14、C12、及びC10の直鎖アルキルアルデヒドをそれぞれ、ゼラチンのアミノ基に対して、誘導化率150モル%に相当する量をゼラチン溶液に混合し、加えたアルキルアルデヒドに対して1.5当量の2-ピコリンボランを加えた以外は、上記ゼラチン誘導体19C12と同様にして、ゼラチン誘導体9C18、56C16、24C16、12C16、34C14、16C14、52C12、34C12、60C10、及び30C10を調製した。
実施例1及び実施例8~17の各ゼラチン誘導体(19C12、9C18、56C16、24C16、12C16、34C14、16C14、52C12、34C12、60C10、及び30C10)及び原料ゼラチン(Org)から、上記血流量の測定の場合と同様にしてゲルを調製し、以下の方法により貯蔵弾性率(Pa)、及びtanδを測定した。結果を図14、図15及び表2に示した。
使用機器:動的粘弾性測定装置(MCR301, Anton Paar GmbH, Austria)
サンプルの形状:直径10mm、厚さ1mm
角周波数、ひずみ、温度:0.1-100Hz、1%、37℃
(実施例18~20)
スケトウダラ由来のゼラチン(Mw=33,000、新田ゼラチン(株)製)100gを水350mLに溶解し、得られた水溶液にエタノール140mLを加えて50℃にて撹拌した。ゼラチンのアミノ基に対して、誘導化率150モル%に相当する化学量論量の1.5当量のドデカナール(C12H24O)を5mLエタノールに溶解して、ゼラチン溶液に混合し、次いでドデカナールの約1.5当量の2-ピコリンボランを加えて、18時間撹拌した。反応溶液の10倍体積量の冷エタノール中に反応溶液を滴下して、生成されたゼラチン誘導体を再沈殿させ、吸引ろ過を行った。得られた沈殿物の約5倍体積量の冷エタノール中に沈殿物を入れ、1時間撹拌しながら洗浄後吸引ろ過を行った。この洗浄を3回行った後、2日間真空乾燥して、ドデシル基が導入された白色のゼラチン誘導体を、収率約91.6(質量/質量)%で得た。誘導化率(導入率)は、トリニトロベンゼンスルホン酸を用いた比色法により確認したところ、33モル%(0.33)であった。
原料ゼラチン(Org)についても、同様に、150℃にて3時間、6時間又は9時間加熱して、架橋ゼラチン粉体を得た。図16に、原料ゼラチン(Org)を3時間加熱して得られた架橋粒子の電子顕微鏡写真を示し、図17に、33C12-ApGltnを3時間加熱して得られた架橋粒子の電子顕微鏡写真を示す。3時間加熱して得られた33C12-ApGltnの架橋粒子では、0.5~5μmの粒径のより均一の粒径を有していた。
上記のようにして得られた架橋ゼラチン誘導体(33C12-ApGltn)の粒子について、以下の各評価試験を実施した。
架橋時間の異なる架橋ゼラチン誘導体(33C12-ApGltn)及び架橋原料ゼラチン(Org)にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えて、40%(質量/体積)のハイドロゲルを調製した。マウス背部皮下に、得られた各ハイドロゲル埋入し、血流量をレーザードップラー血流計により測定した。コントロールとしてPBSを、対照として擬似剤(Sham)を同様にマウス背部皮下に注入し、血流量をレーザードップラー血流計により測定した。
上記血流量の測定に使用した組織と同様にして、3時間加熱で得られた架橋ゼラチン誘導体(33C12-ApGltn)及び架橋原料ゼラチン(Org)のハイドロゲルをマウス背部皮下に50μl注入し、2日後に、埋入部位の周辺組織を摘出し、観察した。
図19には、PBSのみを注入した組織(コントロール)、図20には、架橋原料ゼラチン(図中には「Org」と記載した)及び図21には、架橋ゼラチン誘導体33C12-ApGltn(図中には「33C12」と記載した)を埋入した組織の写真を示した。
図19乃至21に示す通り、PBS及び架橋原料ゼラチンのゲルを注入した組織と比較して、架橋33C12-ApGltnのゲルを埋入した組織では毛細血管の密度が上昇していた。
(実施例21~24)
まず、C8、C12及びC16の直鎖アルキルアルデヒドをそれぞれ、ゼラチンのアミノ基に対して、誘導化率150モル%に相当する量をゼラチン溶液に混合し、加えたアルキルアルデヒドに対して1.5当量の2-ピコリンボランを加えた以外は、実施例1と同様にして、ゼラチン誘導体41C8、33C12及び26C16を調製した。
(血流量の測定)
マウス麻酔下で背部中央付近にPBS、擬似剤(Sham)を250μl並びに各ファイバーメッシュ(直径7mmの略円形)を埋入した。1、2及び3日後、レーザードップラー血流計を用いて試料埋入部の血流量を測定した。各測定日における各ファイバーメッシュ及びPBSを注入した組織の血流量は、擬似剤(Sham)の血流量を100とした相対値として算出した。試験結果を図24に示す。
得られた実施例21~24の架橋ファイバーメッシュ(41C8、33C12及び26C16)、並びに架橋原料ゼラチンから得られたファイバーメッシュ及び擬似剤(Sham)を、マウス背部皮下に埋入し、3日後に埋入部位の周辺組織を摘出し、観察した。図25には、擬似剤(Sham)を埋入した組織、図26には、原料ゼラチン架橋ファイバーメッシュ(図中には「Org」と記載した)、図27には、41C8架橋ファイバーメッシュ、(図中には「41C8」と記載した)、図28には、33C12架橋ファイバーメッシュ(図中には「33C12」と記載した)及び図29には、26C16架橋ファイバーメッシュ(図中には「26C16」と記載した)を埋入した組織の写真を示した。
図25乃至29によれば、擬似剤(Sham)及び原料ゼラチン架橋ファイバーメッシュを埋入した組織と比較して、41C8架橋ファイバーメッシュ、33C12架橋ファイバーメッシュ、及び26C16架橋ファイバーメッシュを埋入した組織では毛細血管の密度が上昇していた。
Claims (12)
- -CH 2 R 1 R 2 の炭素数の合計が12~14である、請求項1に記載の血管新生促進剤。
- 前記炭化水素基が、炭素数2~20個の鎖状アルキル基である、請求項1又は2に記載の血管新生促進剤。
- 前記ゼラチン誘導体が冷水魚由来である、請求項1~3のいずれか1項に記載の血管新生促進剤。
- 前記冷水魚がタラである、請求項4に記載の血管新生促進剤。
- 前記ゼラチン誘導体の架橋物を有効成分として含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の血管新生促進剤。
- 粒子の形態である、請求項1~6のいずれか1項に記載の血管新生促進剤。
- 抹消動脈疾患の治療のための、請求項1~7のいずれか1項に記載の血管新生促進剤。
- 哺乳動物である対象(ヒトを除く)に、医薬上有効量の請求項1~8のいずれか1項に記載の血管新生促進剤を投与する、血管新生を促進する方法。
- 哺乳動物(ヒトを除く)における抹消動脈疾患の治療方法であって、
治療を必要とする哺乳動物の患部に、医薬上有効量の請求項1~8のいずれか1項に記載の血管新生促進剤を投与する工程を有する、治療方法。 - 前記血管新生促進剤が、抹消動脈疾患を治療するための医薬である、請求項11に記載の使用。
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