JP7131950B2 - ろう付熱交換器用プレコートフィン材と熱交換器 - Google Patents
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Description
そして、この種の熱交換器を製造するため、ろう付け用のSi粉末と、フッ化物系フラックスに加え、樹脂と溶剤からなるバインダーとの混合物とした粉末ろう組成物が提供されている。また、前記粉末ろう組成物を表裏面に塗布した扁平多穴管とフィン及びヘッダーパイプとをろう付けすることによって、安価に熱交換器を製造する方法が提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2参照)
上述の粉末ろう組成物を扁平多穴管に塗布する場合、扁平多穴管においてフィンに接する部分が表面もしくは裏面のため、表面もしくは裏面に粉末ろう組成物を塗布している。
扁平多穴管の表裏面に粉末ろう組成物を塗布することにより、粉末ろう組成物に含まれる成分の一部がろう付け時に扁平多穴管の表面側もしくは裏面側に拡散し、犠牲陽極層を形成する。この犠牲陽極層の存在により、犠牲防食効果を得ることができ、ろう付け部分の選択腐食を抑制できる。
熱交換器において良好な熱交換効率を得るための1つの問題点として、並列配置した複数のフィン間の隙間に水滴などが付着すると、隙間が水滴で閉塞され、熱交換効率が低下する問題がある。従来から、水滴によるフィン間の隙間の閉塞を防止するために、フィンに親水性皮膜を形成している。
フィンと伝熱管を拡管接合させる熱交換器では上記のように親水性皮膜を形成させることが一般的であるが、伝熱管とフィンをろう付け接合させる熱交換器において、プレコートフィンに水ガラス系の無機塗料を用いた場合、ろう付け熱処理後の親水性をある程度確保できるが、水ガラス系の無機塗料では、ろう付け時の加熱によりフィン表面の無機塗料に変色を生じ、熱交換器に外観上の不具合を生じる問題がある。
(2)先に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材において、Si粉末:1.0~5.0g/m 2 と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF 3 ):3.0~20.0g/m 2 と、バインダー:0.5~8.3g/m 2 からなるろう付用塗膜が形成されたチューブ本体に組み合わされてろう付される熱交換器用プレコートフィン材であることが好ましい。
(3)本形態のろう付熱交換器用プレコートフィン材は、ケイ酸塩100質量部に対し、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有し、580℃~620℃加熱後の色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であることを特徴とする。
(4)本形態のろう付熱交換器用プレコートフィン材において、Si粉末:1.0~5.0g/m 2 と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF 3 ):3.0~20.0g/m 2 と、バインダー:0.5~8.3g/m 2 からなるろう付用塗膜が形成されたチューブ本体に組み合わされてろう付される熱交換器用プレコートフィン材であることが好ましい。
(5)本形態のろう付熱交換器用プレコートフィン材は、ケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化チタンおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上と、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有し、580℃~620℃加熱後の色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であることを特徴とする。
(6)本形態のろう付熱交換器用プレコートフィン材において、Si粉末:1.0~5.0g/m 2 と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF 3 ):3.0~20.0g/m 2 と、バインダー:0.5~8.3g/m 2 からなるろう付用塗膜が形成されたチューブ本体に組み合わされてろう付される熱交換器用プレコートフィン材であることが好ましい。
(8)本形態のろう付熱交換器用プレコートフィン材において、前記塗膜が塗布された前記表面または裏面のアルミニウム素地が10%以上90%以下露出されている構成を採用できる。
(11)本形態の熱交換器は、チューブに対しアルミニウムまたはアルミニウム合金製のアルミニウムフィンがろう付けされた熱交換器であって、前記アルミニウムフィンが、ケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸亜鉛、炭酸アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン、水酸化アルミニウムおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有し、前記ろう付け後の塗膜について色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であることを特徴とする。
(12)本形態の熱交換器において、前記チューブがその内部に複数の流路を設けた押出多穴管からなることが好ましい。
図1に示す第1実施形態の熱交換器11は、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、自動車用の熱交換器などの用途に使用されるオールアルミニウム熱交換器である。
この形態の熱交換器11は、左右に離間し平行に立設配置された一対のヘッダ管14と、一対のヘッダ管14の間に上下に相互に間隔を保って水平に、かつ、ヘッダ管14に対してほぼ直角に接合された複数本のチューブ本体12からなるチューブ22と、チューブ本体12の表面12aまたは裏面12bにろう付けされ、外気に熱を放散するための複数枚のフィン13とを備えている。
なお、図1に示すチューブ本体12は1つの例であって、各部の幅、厚さ、扁平度(幅と厚さの比率)、流路12Dの形状や個数はいずれも任意に設定することができる。
なお、短側面12cの形状は特に制限されるものではなく、湾曲面や複数の傾斜面からなる形状であっても良い。
複数のフィン13は、一定の間隔をおいて相互に平行に並列配置されている。フィン13は、孔部19の周縁部に沿ってフィン13の厚さ方向一側に屈曲した屈曲部20を有している。屈曲部20は、例えば、バーリング加工などの加工法により形成される。
図3に示すろう付け前の状態において、フィン13の孔部19に形成された屈曲部20とチューブ22の表面または裏面との隙間は10μm以下程度に形成されている。この隙間が大きすぎる場合は、後述するろう付け工程において溶融したろうの回り込み量が不足し、ろう付け不良を引き起こすおそれがある。
以上説明の如くフィン13に対するチューブ22の貫通位置に特に制限はなく、フィン13とチューブ22のろう付けにより良好な熱伝導性を確保できる接合位置や接合形状であれば良い。
<<フィンとその構成材料>>
図3、図4に拡大して示すようにフィン13は、板状の基材3と、基材3の表面3a及び裏面3bに被覆された親水性塗膜1a、親水性皮膜1を有していることが好ましい。
フィン13の基材3は、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。また、基材3は、JIS3003系のアルミニウム合金に質量%で数%程度のZnを添加したアルミニウム合金からなるものであっても良い。一例を挙げるならば、質量%で、Zn:0.3~5.0%、Mn:0.5~2.0%、Fe:1.0%以下、Si:1.5%以下を含有し、残部不可避不純物およびアルミニウムからなるアルミニウム合金などからなる。
フィン13の基材3は、前記アルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程、プレス工程などを経て加工される。なお、基材3の製造方法は、本発明において特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
ろう付け前に塗布しておいた親水性塗膜1aは、水ガラス(Na2O-SiO2)等のケイ酸塩の塗膜あるいは水ガラス等のケイ酸塩に10質量%以下程度のアクリル樹脂や界面活性剤を混合した塗膜を用いることができる。アクリル樹脂を水ガラスと混合することにより、アルミ素地が露出した凹凸塗膜が得られる。
また、この親水性塗膜1aは、主成分であるケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸亜鉛、炭酸アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン、水酸化アルミニウムおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上を添加物として50~500質量部含む塗膜であることが好ましい。
親水性塗膜1aの塗膜量が50mg/m2未満の場合、親水性が不足し、親水性塗膜1aの塗膜量が1500mg/m2を超える場合、ろう付け接合率が低下する。
親水性塗膜1aは、上述の塗布量、アクリル樹脂を添加した場合、ろう付け処理を経た後、主成分のケイ酸塩が粒子状に多数繋がって空孔を多数有する親水性皮膜1となる。図4では単層膜のように簡略化して描いているが、図5に示すように詳細にはろう付け加熱後のガラス化されたケイ酸塩の粒子の堆積物であり、この堆積物の一部粒子が抜けて多数の空孔が生成され、芯材3を構成するアルミニウム素地の一部を露出させる皮膜となる。なお、親水性塗膜1aに含有されている酸化物は粉末粒子として添加されるので、ケイ酸塩の粒子の堆積物の間に存在してランダム分散される形態となる。以上説明のようにケイ酸塩粒子が加熱されてガラス粒子化される結果、良好な親水性を発現する。
5μm角面内のアルミニウム素地の露出面積については、一例として、顕微鏡により5000倍程度に拡大して親水性皮膜表面の観察写真を得、観察写真上に区画される5μm×5μmの観察領域において露出面積を計測すればよい。例えば、フィン13の5箇所程度の位置で複数の観察写真を撮影し、露出面積の平均をとって露出面積を決定することが好ましい。
ヘッダー管14を構成するアルミニウム合金は、Al-Mn系をベースとしたアルミニウム合金が好ましい。例えば、Mn:0.05~1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05~0.8%、Zr:0.05~0.15%を含有することができる。
図3に示すように、ろう付け前のチューブ本体12の表面12aと裏面12bには、ろう付け組成物層15を有している。
チューブ本体12を構成するアルミニウム合金は、熱交換器用のチューブに適用されるアルミニウム合金であれば特に制限はない。一例として、質量%で、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~1.5%、Cu:0.1%未満を含有し、残部不可避不純物およびアルミニウムからなるアルミニウム合金などからなる。チューブ本体12は、これらのアルミニウム合金を押出することにより作製されたものである。
図3に示すろう付け前のチューブ本体12に形成されているろう付け組成物層15は、少なくともフィン13がろう付け接合される部分に対応し塗布された塗膜である。
ろう付け組成物層15は、一例として、Si粉末:1.0~5.0g/m2と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF3):3.0~20.0g/m2と、バインダー(例えば、アクリル系樹脂):0.5~8.3g/m2からなるろう付用塗膜であることが好ましい。なお、これらの成分に対し適切な量の溶剤を配合することでろう付け液状組成物が構成される。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ本体12を構成するAlとろう付け時に反応し、フィン13とチューブ本体12を接合するろうを形成するが、ろう付け時にZn含有フラックスとSi粉末が溶融してろう液となる。
このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散し、チューブ本体12の表面と裏面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、これによりチューブ表面と裏面に均一なZn拡散がなされ、チューブ表面と裏面の面方向のZn濃度がほぼ均一となる。また、チューブ本体12の表面から深さ方向への拡散について見ると、SiはAlと共晶となって融点を下げるので、チューブ本体12の表面では共晶組成となった状態にZnが拡散しチューブ本体12の表面側と裏面側に所定厚さのZn溶融拡散層が生成する。このZn溶融拡散層が犠牲陽極層となるので、チューブ本体12の表面側と裏面側のろう付け部分の耐食性を向上できる。
Si粉末の塗布量が1.0g/m2未満であると、ろう形成が不十分となるおそれがあり、塗布量が5.0g/m2を超えると、チューブ本体12の溶融量が増加してチューブ本体12の肉厚が減少して、好ましくない。このため、主ろう付け組成物層15におけるSi粉末の含有量は1.0~5.0g/m2とすることが好ましい。
<Si粉末粒度:最大粒径:D(99):30μm以下>
Si粉末の粒度がD(99)において30μm以下であれば、均一なZn溶融拡散層を形成することが可能である反面、30μmを超えると、局部的に深いエロージョンが生成し、均一なZn溶融拡散層を形成できなくなるおそれがある。このため、Si粉末の粒度は、最大粒径D(99)において30μm以下が好ましい。なお、D(99)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の99%となる粒の粒径のことである。これらの値は、いずれもレーザ光散乱法で測定することができる。
Zn含有フラックスは、ろう付けに際し、チューブ本体12の表面側と裏面側にZn溶融拡散層を形成し、耐孔食性を向上させる効果がある。また、ろう付け時にチューブ22およびフィン13の外面の酸化膜を破壊し、ろうの広がり、ぬれを促進してろう付け性を向上させる作用を奏する。このZn含有フラックスは、Znを含まないフラックスに比べ活性度が高いので、比較的微細なSi粉末を用いても良好なろう付け性が得られる。Zn含有フラックスは、KZnF3、ZnF3、ZnCl2のうち、1種または2種以上を用いることができる。Zn含有フラックスに対し、非Zn含有フラックスを添加しても良い。
Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量が3.0g/m2未満であると、熱交換器11とした場合の電位差が低くなり、犠牲効果が発揮されないおそれがある。また、チューブ本体12の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付け不良を招くおそれがある。一方、塗布量が20m2を超えると、フィレットにおけるZn濃縮が顕著になり、電位差が過大となり、腐食速度が増加し、Zn溶融拡散層の存在によるチューブ本体12の防食効果が短時間になるおそれがある。このため、Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量を3.0~20g/m2とすることが好ましい。Zn含有フッ化物系フラックスは、一例としてKZnF3を用いることができる。前述の非Zn含有フラックスは、Zn含有フラックスに加えて添加することができる。
ろう付け組成物層15には、Si粉末、Zn含有フッ化物系フラックスに加えてバインダー(高分子材料)を含むことができる。バインダーの一例として、アクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダーはZn溶融拡散層の形成に必要なSi粉末とZn含有フラックスをチューブ22の表面と裏面に固着する作用があるが、バインダーの塗布量が0.2g/m 2未満であると、ろう付け時にSi粉末やZnフラックスがチューブ本体12から脱落し、均一なZn溶融拡散層が形成されないおそれがある。一方、バインダーの塗布量が8.3g/m 2を超えると、バインダー残渣によりろう付け性が低下し、均一なZn溶融拡散層が形成されないおそれがある。このため、バインダーの塗布量は、0.2~8.3g/m2とすることが好ましい。なお、バインダーは、通常、ろう付けの際の加熱により蒸散する。
チューブ本体12に対し、ろう付け組成物層15を形成する方法について以下に説明する。
Si粉末、フラックス、バインダーからなるろう付け組成物層15の形成方法は、本実施形態において特に限定されるものではない。Si粉末、フラックス、バインダーに溶剤を添加してろう付け液状組成物とした塗料を以下の方法により塗布し、乾燥すればよい。
塗布は、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、ロールコータ法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって塗布することができる。これらの方法により必要な塗布量でチューブ本体12の表面12aと裏面12bの必要な範囲にろう付け組成物層15を形成することができる。
例えば、チューブ本体12の表面12aと裏面12bにおいてそれらのほぼ全面にろう付け組成物層15を形成することができる。
加熱によって、ろう付け組成物層15が溶融し、ろう液となる。このろう液は、チューブ本体12とフィン13の屈曲部20との間の隙間に流れ、これらの隙間を満たす。
ろう付け組成物層15が溶融した部分ではろう付けによってフラックス中のSiとZnが拡散し、チューブ本体12の表裏面にZn溶融拡散層(犠牲陽極層)が形成される。
ろう付けは上述の如く580~620℃の温度範囲に加熱する処理であり、不活性ガス雰囲気に調整した加熱炉にて行うが、上述の範囲の高温度に加熱することで、ろう付け組成物層15に含まれているフラックス、バインダーに含まれる成分の一部が気化し、フィン13の表裏面の周囲に存在することとなる。
加熱炉においてろう付け温度に加熱している間、あるいは、加熱後常温まで冷却する間に、親水性塗膜1aがこれらの成分を含むガスに晒される結果、水ガラスのSiO2粒子に対し、図5(C)に示すようにK、FやSiF4などの成分が反応し、K2SiF6あるいはK1-3AlF4-6などが生成されると考えられる。
図5(A)~図5(D)に示す状態において、図5(C)から図5(D)に至る反応機構については、例えば、以下の反応式で説明することができる。
4Al+3K2SiF6→3Si+AlF3+K3AlF6
そこで本発明者は、上述の反応機構において、反応の初期段階においてSiO2+6K+6F→2K2SiF6+2K2Oの化学式で示される反応が生じ、中間生成物としてフッ化物が生成し、この後、金属シリコン(Si)が生成すると推定した。
この反応機構に基づき金属シリコン(Si)を生成しないようにするためには、2K2SiF6の生成を抑制すれば良いと考え、そのためには、反応機構の中にSiO2よりも還元され易い物質を添加することが有効であると推定した。
また、親水性皮膜1を備えたフィン13を複数備え、フィン間の隙間が数mm程度あるいはそれより小さい隙間に形成された熱交換器11であっても、フィン間の隙間に水滴が詰まり難く、その隙間を閉塞するおそれが少なくなる。このため、結露水や雨水等の水滴によるフィン間隙間の閉塞を生じ難い、熱交換効率の低下し難い熱交換器11を提供できる。
この場合、チューブ本体12の表裏面側に設けたろう付け組成物層15により、チューブ本体12の表裏面側にフィン13を確実にろう付けできる。このため、チューブ本体12の全体をフィン13に対し十分な接合強度で確実にろう付け接合できる。即ち、熱交換器11において高品質なろう付け接合ができる。
<<サンプルの作製>>
Si:0.4~0.6質量%、Mn:1.0~2.0質量%、Zn:2.5~3.5質量%を含み、残部不可避不純物とAlからなるアルミニウム合金の板状の基材の両面に以下の表1に示す種類、皮膜量の親水性皮膜をバーコーター法で塗布し、乾燥し、更に水洗いすることで親水性皮膜付きのアルミニウムフィン材を形成した。
幾つかのサンプルは、親水性皮膜の形成に用いた塗料にアクリル樹脂を表1に示す重量混合比で混合した。このアクリル樹脂は、乾燥後の水洗いにより大部分が除去される。これにより、親水性皮膜が形成された基材に露出部が形成される。
なお、表1に記載したケイ酸塩比50~500%の酸化物とは、用いたケイ酸塩100質量部に対し添加した酸化物の質量部を示す。
また、酸化物として、実施例27は水酸化チタンを用い、実施例28水酸化アルミニウムを用い、実施例29は水酸化ジルコニウムを用いた。
酸化物として、比較例1~12は酸化亜鉛を用いた。
さらに、この扁平チューブの表面、裏面、並びに第2の側面にろう材層を形成した。ろう材層は、Si粉末(D(99)粒度10μm)3gと、フラックス(KZnF3:D(50)粒度2.0μm)6g、及び、アクリル系樹脂バインダ1g、溶剤としてのイソプロピルアルコール16gの混合物からなる溶液をロール塗布し、乾燥させることで形成した。
まず、XPS(X線光電子分光法)により光電子のエネルギー測定により元素分析した結果を図6(A)と図6(B)に示す。
これらの元素はろう付け前の親水性塗膜には含まれておらず、ろう付け炉の雰囲気中にも含まれていないことから、扁平管の上下両面に塗布したろう付け組成物層から発生した元素であると推定できる。
これらのことから、ろう付け後の親水性皮膜中には、NaAlO2、Al2O3・SiO2、AlF3がそれぞれ生成されていると推定される。
図8に示すようにろう付け後の親水性皮膜では、皮膜全体に亘って、Al2O3またはAlF3が分布していることが分かる。更に、皮膜中にSiが局在化している箇所があることが分かる。
<親水性評価(水洗後接触角測定)>
熱交換器試験体を600℃×3分のろう付け後、流水に24時間浸漬し、フィン表面の接触角を測定した。接触角が30°以下であれば合格とした。
<ろう付け性評価>
ろう付接合された熱交換器試験体の複数のろう付け箇所を目視評価し、接合が不十分(未接合)である箇所を数えた。1つのサンプルに対して、100か所の接合部を確認して、95か所以上(95%以上)が正常に接合されているものを合格とした。
600℃×3分のろう付け後、得られた各熱交換器試験体について、ASTM G85-A3で規定されているSWAAT試験を実施し、チューブに貫通孔が確認されるまでの日数を評価した。200日以上であれば合格とした。
<変色評価>
ろう付け後にフィンの変色した部位を色差計で測定し、色差値Labのb値が-3~+12以下であれば合格とした。
以上の試験結果について以下の表1、表2にまとめて示す。
これらに対し、酸化物添加量の少ない比較例1、2の試料は変色を生じ、酸化物添加量の多すぎた比較例3、4の試料は親水性に劣り、変色も生じる結果となった。
このことから、添加する酸化物はケイ酸塩100質量部に対し50~500質量部の範囲が望ましいことがわかる。
これは、ケイ酸塩を主体とする親水性塗膜に酸化物を添加しない場合に、上述の説明の「4Al+3K2SiF6→3Si+AlF3+K3AlF6」の化学式で表される反応が多く発生し、金属シリコン(Si)が生成する。しかし、前述の酸化物を親水性塗膜に適量添加していれば、金属シリコン(Si)を生成する反応機構を抑制できる結果、親水性と耐食性とろう付け性に優れている上に、変色も少ない親水性皮膜を形成できることに起因すると考えられる。
このことから、親水性塗膜の塗膜量を50mg/m2~1500mg/m2の範囲とすることが望ましいことがわかる。
実施例12~実施例16の試料が5μm角面内のアルミニウム素地露出面積10~90%であり、いずれの特性においても優れている。このことから、5μm角面内のアルミニウム素地露出面積について10%以上90%以下の範囲が望ましいことがわかる。
比較例11、12の試料はケイ酸塩の代わりに、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールを主体とする親水性塗膜であるが、酸化物添加量、塗膜量を適正範囲としても、親水性とろう付け性に劣り、変色も生じるという結果となった。
以上の試験結果から、親水性塗膜の主成分をケイ酸塩とした上に、金属シリコン(Si)の反応生成機構を抑制する酸化物として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上の化合物をケイ酸塩100質量部に対し50~500質量部含む塗膜を有する親水性塗膜を用いることが重要であることがわかる。
表2に示す実施例19~29は、実施例4に示す酸化亜鉛の代替物質としてこれらの物質を用いた実施例である。
表2に示す実施例19~29の試料において、いずれの試料であっても親水性と耐食性とろう付け性に優れた結果を得ることができ、変色も少ないという結果を得ることができた。
Claims (12)
- ケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化チタンおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有し、580℃~620℃加熱後の色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であることを特徴とするろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- Si粉末:1.0~5.0g/m 2 と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF 3 ):3.0~20.0g/m 2 と、バインダー:0.5~8.3g/m 2 からなるろう付用塗膜が形成されたチューブ本体に組み合わされてろう付される熱交換器用プレコートフィン材であることを特徴とする請求項1に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- ケイ酸塩100質量部に対し、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有し、580℃~620℃加熱後の色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であることを特徴とするろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- Si粉末:1.0~5.0g/m 2 と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF 3 ):3.0~20.0g/m 2 と、バインダー:0.5~8.3g/m 2 からなるろう付用塗膜が形成されたチューブ本体に組み合わされてろう付される熱交換器用プレコートフィン材であることを特徴とする請求項3に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- ケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、水酸化チタンおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上と、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有し、580℃~620℃加熱後の色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であることを特徴とするろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- Si粉末:1.0~5.0g/m 2 と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF 3 ):3.0~20.0g/m 2 と、バインダー:0.5~8.3g/m 2 からなるろう付用塗膜が形成されたチューブ本体に組み合わされてろう付される熱交換器用プレコートフィン材であることを特徴とする請求項5に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- 前記塗膜が50mg/m2以上1500mg/m2以下の範囲で表面と裏面の少なくとも一方に塗布された請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- 前記塗膜が塗布された前記表面または裏面のアルミニウム素地が10%以上90%以下露出されている請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- 前記ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムのうち、1種又は2種以上である請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のろう付熱交換器用プレコートフィン材。
- チューブに対しろう付され、前記チューブとともに熱交換器を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金製のアルミニウムフィンを構成するためのろう付熱交換器用プレコートフィン材であって、
前記アルミニウムフィンが、ケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸亜鉛、炭酸アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン、水酸化アルミニウムおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有するプレコートフィン材からなり、
前記ろう付け後の塗膜について色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲であるろう付熱交換器用プレコートフィン材。 - チューブに対しアルミニウムまたはアルミニウム合金製のアルミニウムフィンがろう付けされた熱交換器であって、
前記アルミニウムフィンが、ケイ酸塩100質量部に対し、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、アルミニウムイソプロポキシド、炭酸亜鉛、炭酸アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン、水酸化アルミニウムおよび水酸化ジルコニウムのうち、1種又は2種以上を50質量部以上500質量部以下含む塗膜を表面と裏面の少なくとも一方に有するプレコートフィン材からなり、
前記ろう付け後の塗膜について色差計にて測定されるb値が-3~+12の範囲である熱交換器。 - 前記チューブがその内部に複数の流路を設けた押出多穴管からなる請求項11に記載の熱交換器。
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