JP7130429B2 - カルボキシメチルセルロースの製造方法 - Google Patents
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Description
(1)カルボキシメチル置換度が0.50以上のカルボキシメチルセルロースを製造する方法であって、
セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチルセルロースを得る工程、
を含み、
マーセル化セルロースを得る工程を、水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチルセルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行う、上記カルボキシメチルセルロースの製造方法。
(2)マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水を50質量%より高い割合で含む溶媒である、(1)に記載の方法。
(3)マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水である、(2)に記載の方法。
(4)カルボキシメチルセルロースを得る工程における混合溶媒が、水と有機溶媒との総和に対して、有機溶媒を、35~99質量%含む溶媒である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒の量が、セルロースに対し、1.5~20質量倍である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)カルボキシメチル置換度が0.60以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)カルボキシメチル化剤の有効利用率が、15%以上である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)カルボキシメチル化剤が、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムである、(1)~(7)のいずれか1つに記載の方法。
(9)マーセル化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、またはこれらの2種以上の組み合せである、(1)~(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10)有機溶媒が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、またはこれらの2種以上の組み合せである、(1)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができる。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。本発明では、このマーセル化反応における溶媒に水を主として用い、次のカルボキシメチル化の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用することにより、水中でダマを形成しにくく、未溶解物の少ないカルボキシメチルセルロースを経済的に得ることができる。
マーセル化セルロースに対し、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシメチルセルロースを得る。本発明では、このカルボキシメチル化反応における溶媒として、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる。マーセル化の際は水を主とする溶媒として用い、カルボキシメチル化の際には水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、ダマになりにくいCMCを経済的に得ることができる。
AM = (DS ×セルロースのモル数)/ カルボキシメチル化剤のモル数
DS: カルボキシメチル置換度(測定方法は後述する)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162
(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
本発明で製造されるカルボキシメチルセルロースは、水中に投入した際、ダマを形成しにくく溶けやすいという特徴を有する。そのような水に溶けやすいカルボキシメチルセルロースは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.50以上である。当該置換度が0.50未満であると水中でも繊維形状を維持し、水に溶解しないことがある。カルボキシメチル置換度の上限は特に限定されないが、現実的には1.50以下程度となる。カルボキシメチル置換度は、好ましくは0.50~1.50であり、さらに好ましくは0.60~1.50であり、更に好ましくは0.60~1.20であり、更に好ましくは0.60~1.00である。カルボキシメチル置換度は、反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチルセルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチルセルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
本発明の製法により得られたカルボキシメチルセルロースは、水に投入した際に、ダマ(塊)の形成が少ないという特徴を有する。ダマの形成の程度は、例えば、CMCを水に投入し、一定時間撹拌した後に特定のフィルターで濾過した際にフィルター上に残る濾過残渣の量と、元のCMCの乾燥質量とから、濾過残渣の割合を算出することにより、表すことができる。具体的には、例えば、以下の手順(1)~(3)により、濾過残渣の割合を得ることができる:
(1)濾過残渣の量の測定
1Lのビーカーに500gの水を採取する。CMC5gを分取し、質量を記録する(CMCの質量)。撹拌器(IKA(登録商標)EUROSTAR P CV S1(IKA社製))に撹拌羽をセットし、400rpmで水を撹拌しておく。質量を記録しておいたCMCを、撹拌している水中に一気に投入し、投入後3分間撹拌する。撹拌終了後、撹拌器の電源を切る。撹拌終了後、迅速に、あらかじめ質量を測定しておいた20メッシュのフィルターを用いて自然濾過を行う。自然濾過後、フィルターとその上の残渣をともに、バット上で100℃で2時間乾燥させる。フィルターとその上の残渣の質量を測定し、フィルターの質量を差し引くことで残渣の絶乾質量(g)を計算する(絶乾残渣質量)。
(2)CMCの水分量の計算
秤量瓶を100℃で2時間加熱し、シリカゲルの入ったデシケーター内で冷却し、秤量瓶の絶乾質量を精秤する(絶乾秤量瓶質量)。CMCを秤量瓶中に約1.5g量り取り、精秤する(乾燥前CMC質量)。秤量瓶のふたを開け、105℃で2時間加熱乾燥する。秤量瓶のふたを閉め、シリカゲルの入ったデシケーター内で15分間冷却する。乾燥後の秤量瓶質量(乾燥後のCMCを含む)を精秤する(乾燥後CMC入り秤量瓶質量)。以下の式を用いて、CMCの水分量を計算する:
CMCの水分(%)=[{乾燥前CMC質量(g)-(乾燥後CMC入り秤量瓶質量(g)-絶乾秤量瓶質量(g))}/乾燥前CMC質量(g)]×100。
(3)濾過残渣の割合の計算
(1)で測定したCMCの質量(g)及び絶乾残渣質量(g)、ならびに(2)で計算したCMCの水分(%)を用いて、以下の式により、CMCの濾過残渣の割合を計算する:
CMCの濾過残渣の割合(%)=[絶乾残渣質量(g)/{CMCの質量(g)×(100-CMCの水分(%))/100}]×100。
カルボキシメチルセルロースのダマ(塊)の形成の程度は、上述の濾過残渣の割合を測定する以外にも、例えば、未溶解のゲルを目視で観測することにより確認することができる。未溶解ゲルの測定方法は、例えば、以下の通りである:
1質量%CMC水溶液を作製し、ガラス板にアプリケータ(100μm)で塗布し、塗布直後のガラス板上の未溶解ゲルの有無、塗布面のきれいさなどを目視で観測する。
カルボキシメチルセルロースを水に溶解した固形分1質量%の水溶液の粘度は、10~20000mPa・sであることが好ましい。1質量%水溶液の粘度は、以下の手順(1)~(3)により測定することができる:
(1)CMCの水分量の計算
秤量瓶を100℃で2時間加熱し、シリカゲルの入ったデシケーター内で冷却し、秤量瓶の絶乾質量を精秤する(絶乾秤量瓶質量)。CMCを秤量瓶中に約1.5g量り取り、精秤する(乾燥前CMC質量)。秤量瓶のふたを開け、105℃で2時間加熱乾燥する。秤量瓶のふたを閉め、シリカゲルの入ったデシケーター内で15分間冷却する。乾燥後の秤量瓶質量(乾燥後のCMCを含む)を精秤する(乾燥後CMC入り秤量瓶質量)。以下の式を用いて、CMCの水分量を計算する:
CMCの水分(%)=[{乾燥前CMC質量(g)-(乾燥後CMC入り秤量瓶質量(g)-絶乾秤量瓶質量(g))}/乾燥前CMC質量(g)]×100。
(2)水溶液の調整
CMC約10gを上皿天秤で採取する。採取したCMCを純水880ml入りのビーカーに、溶解用攪拌機で攪拌しながら徐々に投入する。(1)で測定したCMC水分量から計算し、固形分1質量%となるように純水を追加する。3時間撹拌して完全に溶解させる。
(3)粘度測定
3時間攪拌し、完全に溶解したのを目視で確認した後、溶液の温度を25±0.2℃に調整する。B型粘度計を用い、30rpmでローターNo.3で粘度を測定する。測定値はローターを始動してから3分後の目盛りを読み取る。
本発明により製造されたカルボキシメチルセルロースは、反応後に得られる分散体の状態で使用することも可能であるが、必要に応じて乾燥し、また水に再分散して使用することもできる。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
マーセル化反応を水を主とする溶媒を用いて行うことによりマーセル化剤が均一に混ざりやすくなり、マーセル化反応がより均一に生じるようになり、また、カルボキシメチル化において有機溶媒が存在することにより、カルボキシメチル化剤の有効利用率が向上し、その結果余剰のカルボキシメチル化剤による副反応(例えば、グリコール酸アルカリ金属塩の生成等)が生じにくくなり、品質が安定化すると考えられる。これによりセルロースに均一に(局所的ではなく)カルボキシメチル基が導入され、カルボキシメチルセルロースが全体的に溶解しやすくなり、ダマが形成されにくくなったと考えられる。しかし、これに限定されるものではない。
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水酸化ナトリウム50部を水100部に溶解したものを加え、市販の広葉樹パルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)670部と、モノクロロ酢酸53部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.61、1%粘度120mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、67.1%であり、濾過残渣の割合は29%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水100部と水酸化ナトリウム60部を水100部に溶解したものとを加え、市販のリンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。得られたマーセル化セルロースを遠心脱水機により脱水し、50質量%のマーセル化セルロースを得た。全量採取し、ニーダー内に仕込んだ後、撹拌しつつイソプロパノール(IPA)750部と、モノクロロ酢酸70部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.80、1%粘度3100mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、66.7%であり、濾過残渣の割合は41%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、IPA320部と、水酸化ナトリウム50部を水80部に溶解したものとを加え、市販の広葉樹パルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)60部と水10部、モノクロロ酢酸53部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.60、1%粘度100mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、66.0%であり、濾過残渣の割合は64%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、IPA640部と、水酸化ナトリウム60部を水105部に溶解したものとを加え、市販のリンターパルプを100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)80部と水10部、モノクロロ酢酸70部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.81、1%粘度3300mPa・sのカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、67.5%であり、濾過残渣の割合は84%であった。なお、カルボキシメチル置換度及び1%粘度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
Claims (10)
- カルボキシメチル置換度が0.50以上のカルボキシメチルセルロースを製造する方法であって、
セルロースをマーセル化剤で処理して、マーセル化セルロースを得る工程、及び
マーセル化セルロースをカルボキシメチル化剤と反応させて、カルボキシメチルセルロースを得る工程、
を含み、
マーセル化セルロースを得る工程を、水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチルセルロースを得る工程を、水と有機溶媒との混合溶媒下で行い、かつ、
マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒の量が、セルロースに対し、1.5~20質量倍である、上記カルボキシメチルセルロースの製造方法。 - マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水を50質量%より高い割合で含む溶媒である、請求項1に記載の方法。
- マーセル化セルロースを得る工程における水を主とする溶媒が、水である、請求項2に記載の方法。
- カルボキシメチルセルロースを得る工程における混合溶媒が、水と有機溶媒との総和に対して、有機溶媒を、35~99質量%含む溶媒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
- カルボキシメチルセルロースを得る工程において、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間撹拌することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
- カルボキシメチル置換度が0.60以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
- カルボキシメチル化剤の有効利用率が、15%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
- カルボキシメチル化剤が、モノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
- マーセル化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、またはこれらの2種以上の組み合せである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
- 有機溶媒が、イソプロパノール、メタノール、エタノール、アセトン、またはこれらの2種以上の組み合せである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
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