JP7129349B2 - 筆記具用インキ組成物、およびそれを用いた筆記具 - Google Patents
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そこで上記課題を解決するため、インキ中に、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコール溶剤や、尿素または尿素誘導体などの各種保湿剤を添加し、耐ドライアップ性能を向上させたインキ組成物が提案されている。(特許文献1、2など)
しかしながら、保湿剤の種類やその添加量によっては、良好な耐ドライアップ性能が得られるものの、インキ粘度が上昇してしまい、インキの吐出性が低下して、得られる筆跡にボテや線ワレが発生してしまったり、ペン先で保湿剤が析出するなどして筆跡カスレが発生してしまったりするなど、筆記性能に問題が生じてしまうことがあった。
「1. 動物性プロテオグリカンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用インキ組成物。
2.前記動物性プロテオグリカンがアグリカンである、第1項に記載の筆記具用インキ組成物。
3.前記動物性プロテオグリカンの含有率が、前記筆記具用インキ組成物の総質量を基準として0.001質量%~5質量%である、第1項または第2項に記載の筆記具用インキ組成物。
4.第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。」とする。
本発明による筆記具用インキ組成物(以下、場合により、インキ組成物と表す)は、動物性プロテオグリカンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする。
以下、本発明のインキ組成物における構成成分について、詳細に説明する。
本発明のインキ組成物は、動物性プロテオグリカンを含んでなる。
動物性プロテオグリカンは、コアタンパク質にグリコサミノグリカンと呼ばれる糖鎖が共有結合した化合物であり、糖タンパク質の1種である。細胞該マトリックスの一つとして、皮膚や軟骨など、動物の体内に広く分布している。
このため、インキ組成物中に、動物性プロテオグリカンを添加すると、その優れた保水力により、ペン先からのインキ中の溶媒の蒸発を十分に抑えることができる。よって、本発明のインキ組成物およびそれを用いた筆記具は、ペン先が大気に晒された状態で暫く放置された場合でも、ペン先のインキは乾燥固化することなく、良好な筆跡を残すことができ、優れた耐ドライアップ性能を有するものとなる。
また、動物性プロテオグリカンは、極小量の添加でも、ペン先からインキ中の溶媒の蒸発を効果的に抑制できる。このため、インキ組成物の物性に大きな影響を与えることなく、優れた耐ドライアップ性能を付与できる。特に、動物性プロテオグリカンは、必要な保湿効果を得るために十分な量を添加しても、インキ組成物の過度の増粘を抑えることができる。このため、優れた耐ドライアップ性能を維持しながらも、良好なインキ吐出性を維持することが可能であり、その結果、ペン先の余剰インキの発生が抑えられ、得られる筆跡はボテの発生が抑制され、さらには、線ワレが抑制された良好な筆跡を形成することができ、優れた筆記性能を奏することができる。
動物性プロテオグリカンが有するグリコサミノグリカンは、糖鎖であり、強い親水性を示す。また、該グリコサミノグリカンは、分岐を持たない長い直鎖構造を持っており、さらに、多数の硫酸基とカルボキシル基を持つことから負に荷電しているため、グリコサミノグリカン鎖同士が電気的反発を起こして、溶液中で延びた構造をとる。このため、グリコサミノグリカン鎖間には多くの水分子を取り込み、保持することができる。よって、コアタンパク質に複数のグリコサミノグリカンが結合している、動物性プロテオグリカンは、インキ中で、巨大な分子容積を占め、その分子中に多量の水分子を効果的にかつ長期的に保持できる。このため、極少量の添加でも優れた保湿効果を十分発揮できるものと考える。
特に、ボールペンに用いた場合、この効果が発現されやすい。よって、本発明のインキ組成物は、ボールペンに好適に用いることができる。これは、水分子を保持した動物性プロテオグリカン分子が、柔軟で弾力のある潤滑層となって、ボールとボール座の接触を緩和できるためと推測する。
動物性プロテオグリカンとしては、アグリカン(Aggrecan) 、バーシカン(Versican) 、ニューロカン(Neurocan)、ブレビカン(Brevican)、デコリン(Decorin)、ビグリカン(Biglycan)、テスティカン(Testican)、パールカン(Perlecan)、ディストログリカン(Dystroglycan) 、アグリン(Agrin)、クローストリン(Claustrin)等、或いは、これらの分解物などが挙げられる。
本発明においては、動物性プロテオグリカンはアグリカンであることが好ましい。これは、アグリカンは、コアタンパク質に多数のグリコサミノグリカンが結合した形を有しており、保水効果が極めて高く、極小量の添加でも耐ドライアップ性能を向上させやすく、また、インキ粘度の上昇も抑え、筆記性能も向上することができるためと推測する。
動物性プロテオグリカンのインキ中の溶解安定性が良好で、耐ドライアップ性能と筆記性能をバランス良く向上させることを考慮すると、本発明においては、100,000~1,000,000の分子量を有する動物性プロテオグリカンを使用することが特に好ましい。なお、プロテオグリカンの分子量は、クロマトグラフィーを用いて分画し、プルランスタンダード等の分子量標品の保持時間と比較することにより、測定することができる。
例えば、動物性プロテオグリカンは、ヒト、ウシ、ブタ等の哺乳類、ニワトリ等の鳥類、サメ、サケ等の魚類、カニ、エビ等の甲殻類、さらにはクラゲ等の刺胞動物等のいずれの動物の由来であってもよい。これらの由来の中でも、入手の容易性、及び、インキ組成物に添加した際、優れた保湿剤として効果的に働き、耐ドライアップ性能と筆記性能を向上しやすいという観点からは、好ましくはブタ等の哺乳類及び鮭等の魚類由来の動物性プロテオグリカンであり、さらに好ましくは魚類由来の動物性プロテオグリカンであり、特に好ましくは鮭由来の動物性プロテオグリカンであり、最も好ましくは鮭鼻軟骨由来の動物性プロテオグリカンである。
尚、動物性プロテオグリカンは、1種または、2種以上の混合物として使用することも可能である。
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、筆記具用インキ組成物に用いられる顔料、染料などを使用することができる。
尚、顔料は、予め顔料分散剤を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等を用いてもよい。該顔料分散剤としては、水溶性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが挙げられる。
染料としては、溶媒に溶解可能であれば特に制限されるものではない。例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、および各種造塩タイプ染料等が採用可能である。
これらの顔料および染料は、1種または、2種以上の混合物として使用してもかまわない。
本発明に用いる溶媒は、従来の筆記具用水性インキ組成物や筆記具用油性インキ組成物に用いられる溶媒を使用することができる。
具体的には水が挙げられ、水としては特に制限なく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸溜水などが挙げられる。
また、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール溶剤や、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル溶剤、さらには、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール溶剤なども挙げられる。
これらを1種または、2種以上の混合物として使用することが可能である。
また、ブチレングリコール以外の、他の多価アルコール溶剤をさらに併用して用いることが好ましく、優れた筆記性能を維持しながら、耐ドライアップ性能を向上することができる。このため、長期間、さらには乾燥状態が強い環境下においてペン先が大気に晒された状態にあっても、書き出しからスムーズにインキが吐出され、カスレのない均一な筆跡を残すことができ、また、得られる筆跡はボテや線ワレの発生も十分抑えられる。また、後述するような、剪断減粘性付与剤を用いたインキ(ゲルインキ)にも調整可能で、それを用いた筆記具、また、後述するような出没式筆記具のような、特に、耐ドライアップ性能の考慮を必要とする筆記具にも好適に用いることができる。
尚、前記多価アルコール溶剤を用いる場合、動物性プロテオグリカンと多価アルコール溶剤の総含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、耐ドライアップ性能と筆記性能をバランス良く向上させることを考慮すると、0.1~40質量%であることが好ましく、0.2~25質量%であることが好ましい。
デキストリンはペン先に柔らかい被膜を形成し、その被膜によりインキ中の溶媒の蒸発を防ぐことができる。このため、動物性プロテオグリカンとデキストリンを併用することで、動物性プロテオグリカンの優れた保水力による蒸発抑制と、デキストリンの被膜形成による蒸発抑制の二つにより、ペン先からのインキ中の溶媒の蒸発を効果的に抑制することができ、耐ドライアップ性能を向上させることができる。また、デキストリンは、形成される被膜によりペン先からのインキ漏れも抑制できる傾向にある。よって、本発明において、デキストリンを更に用いることは、耐ドライアップ性の向上とともに、インキ漏れ抑制を考慮する必要がある、出没式筆記具に効果的に用いることが可能である。
中でも、上述のような多糖類や合成高分子は、剪断減粘性付与剤として優れた効果を有するものであるが、ペン先で溶媒が蒸発した際、強固な乾燥膜を形成し易く、耐ドライアップ性を低下させる傾向にある。しかしながら、本発明に用いられる動物性プロテオグリカンは、保湿効果が極めて高く、剪断減粘性付与剤が強固な被膜を形成することを抑制できる。このため、剪断減粘性付与剤を用いた場合においても、動物性プロテオグリカンを用いることで、優れた耐ドライアップ性能を得ることができる。
中でも、動物性プロテオグリカンとの相性を考慮すると、本発明においては多糖類を用いることが好ましい。
また、動物性プロテオグリカンは、前述の通り、極小量の添加でも優れた耐ドライアップ性能をもたらすことができる。このため、剪断減粘性付与剤により付与された適正なインキの剪断減粘性に影響を与え難く、よって、インキは安定して吐出され、ボテや線ワレが抑制された良好な筆跡を残すことができる。以上より、剪断減粘性付与剤を用いたインキ(ゲルインキ)においても、動物性プロテオグリカンを用いることは可能であり、好適で効果的である。
潤滑剤は、ボールペンが有するボールとボールペンチップのボール座との間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上するものであり、本発明においては、リン酸エステル系界面活性剤や脂肪酸を用いることが好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA212C、同A208B、同A213B、同A208F、同A215C、同A219B、同A208N等が挙げられる。
また、脂肪酸の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR-14、FR-25(花王(株))等が挙げられる。
これらのリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、マグネットホットスターラー、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー攪拌機、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
本発明の筆記具用インキ組成物を充填する筆記具自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用でき、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップをペン先としたマーキングペン(サインペン)や、ボールペンチップなどをペン先としたボールペン、さらに、金属製のペン先を用いた万年筆など、各種筆記具に用いることができる。
動物性プロテオグリカンを含んでなる本発明のインキ組成物は、耐ドライアップ性能に優れることから、常にペン先が大気に晒されているような状況となる出没式筆記具に好適に用いることができる。
本発明のインキ組成物は、前述の通り、剪断減粘性付与剤を用いた場合においても、優れた耐ドライアップ性能を奏しながらも、インキ吐出性を良好とし、優れた筆記性能を得ることができる。このため、前記(機構4)の供給機構を備える筆記具に好適に用いることができる。
また、動物性プロテオグリカンを含んでなる本発明のインキ組成物は、優れた耐ドライアップ性能を維持しながらも、インキ組成物のインキ粘度の上昇を抑えてインキ吐出性の低下を抑制でき、優れた筆記性能を発現できる。よって、剪断速度380sec-1において50mPa・s以下であるような低粘度インキ組成物、剪断速度380sec-1において2mPa・s以下であるような超低粘度インキ組成物にも調整することが可能であり、本発明のインキ組成物は、インキ供給機構の特性から、インキ粘度が前記低粘度インキ組成物から前記超低粘度インキ組成物の範囲内であるインキ組成物を主に充填して用いるような前記(機構1)、(機構2)、(機構3)の供給機構を備える筆記具にも好適に用いることができる。
下記の配合組成および方法により筆記具用インキ組成物を得た。
・着色剤 50.0質量%
(黒色染料水溶液(染料分15%))
・動物性プロテオグリカン 1.0質量%
(動物性プロテオグリカンの1.0%水溶液)
・潤滑剤 1.0質量%
(リン酸エステル系界面活性剤)
・pH調整剤 3.0質量%
(トリエタノールアミン)
・防錆剤 0.5質量%
(ベンゾトリアゾール)
・剪断減粘度付与剤 0.6質量%
(キサンタンガム)
・防腐剤 0.25質量%
(プロキセルXL-2(S))
・水 43.65質量%
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合撹拌した後、濾紙を用いて濾過を行い、実施例1の筆記具用インキ組成物を得た。
さらに、IM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃におけるインキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は8.2であった。また、得られたインキ組成物の粘度をE型回転粘度計(機種:DV-II+Pro、ローター:CPE-42、ブルックフィールド社製)により、20℃環境下にて剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1700mPa・sであった。
実施例2~実施例6は、インキ組成物に含まれる成分の種類や配合量を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法で筆記具用インキ組成物を得た。
比較例1~比較例2は、インキ組成物に含まれる成分の種類や配合量を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法で筆記具用インキ組成物を得た。
(2)冨士色素株式会社製、商品名:FUJI SP BLACK 8041、黒色顔料分散液(顔料分20%)
(3)一丸ファルコス株式会社製、商品名:プロテオグリカンIPC、動物性プロテオグリカン(アグリカン型プロテオグリカン、サケ(鮭)鼻軟骨抽出物)の1.0%水溶液[組成:動物性プロテオグリカン;1.0%、水;69.3%、ブチレングリコール(1,3-ブタンジオール)29.7%]、動物性プロテオグリカンの分子量;45万(ピークトップ分子量、測定条件(HPLCシステム:LC-10AD、カラム:TSKgel G5000-PWXL φ7.8mm×300mm(東ソー社製)、溶出液:pH6.8 リン酸緩衝液、流速:0.5mL/min、カラム温度:40℃、検出器:示唆屈折率検出器(RID-10A 島津製作所社製)、導入量:50μL、分子量マーカー:Shodex STANDARD P-82(プルラン)))
(4)三和澱粉工業株式会社製、商品名:サンデック#70、重量平均分子量:30000
(5)第一工業製薬株式会社製、商品名:プライサーフA215C、直鎖アルコール系
(6)ロンザジャパン株式会社製、商品名:プロキセルXL-2
得られたインキ組成物を以下の方法で試験および評価を行った。得られた結果は、表1の通りである。
作製したボールペンを試験用筆記具とし、以下の試験および評価を行った。
尚、耐ドライアップ性能試験、筆記性能試験は、試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用いた。
試験用筆記具のペン先を大気に晒した状態で、50℃、全乾の条件下で3ヶ月放置した後、試験用紙に手書きで丸を筆記し、一行に12個連続で筆記し、何個目からカスレのない正常な筆跡が得られるかを目視により観察した。下記評価基準に従って評価した。得られた評価結果を表1にまとめた。
◎:1個目より正常な筆跡が得られた。
○:2個目より正常な筆跡が得られた。
△:3個目~5個目で正常な筆跡が得られた。
×:5個目以内に正常な筆跡が得られなかった。
××:正常な筆跡が得られなかった。
耐ドライアップ性能試験で使用した試験用筆記具を用いて、正常な筆跡が得られた後、試験用紙に手書きで螺旋状の丸を連続筆記し、得られた筆跡のボテと線ワレの状態を目視により観察し、下記評価基準に従って評価した。得られた評価結果を表1にまとめた。
○:ボテや線ワレのない良好な筆跡が得られた。
△:僅かにボテや線ワレが確認されたが、実用上問題がないレベルであった。
×:ボテや線ワレが多数確認され、良好な筆跡が得られなかった。
一方、比較例1~比較例2のインキ組成物は、動物性プロテオグリカンを用いていないため、耐ドライアップ性能、筆記性能ともに満足できるインキ組成物ではなかった。
Claims (4)
- 動物性プロテオグリカンと、着色剤と、溶媒と、を含んでなることを特徴とする、筆記具用インキ組成物。
- 前記動物性プロテオグリカンがアグリカンである、請求項1に記載の筆記具用インキ組成物。
- 前記動物性プロテオグリカンの含有率が、前記筆記具用インキ組成物の総質量を基準として0.001質量%~5質量%である、請求項1または請求項2に記載の筆記具用インキ組成物。
- 請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
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