JP2018109114A - 水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペン - Google Patents

水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペン Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、紙面への浸透性を向上することで、筆跡乾燥性を向上し、潤滑性を向上することで書き味を良好とし、さらにインキ漏れを抑制する水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンを得ることである。【解決手段】本発明は、水、着色剤、界面活性剤、アルカリ膨潤会合型増粘剤を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物であって、前記界面活性剤がアセチレン結合を有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。【選択図】 なし

Description

本発明は水性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としては、筆跡乾燥性、書き味を良好とする水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンに関するものである。
水性ボールペン用インキ組成物は、主溶媒を水としたインキ組成物である。このため、ペン先が暫く大気中に晒された状態にあると、主溶媒である水がペン先より蒸発し、インキ粘度高くなって筆跡が、かすれてしまったり、水分の蒸発が進んでインキが乾燥固化し、筆記具のインキ流路が詰まって筆記不能になってしまうなどの現象が確認されている。特に、出没式のボールペンに用いられた場合には、ペン先が常に大気に晒されている状況にあるため、この現象が顕著に起こりやすい。そこで、インキ組成物中の水分蒸発を抑制するため、保湿剤として、グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール溶剤を添加することが、一般的に行われている。しかし、インキの水分蒸発抑制する傾向にあるものの、得られる筆跡は、完全に乾燥するまでに時間を必要とするため、乾燥していない筆跡に触れた場合、筆記面が汚れてしまったり、筆跡自体が汚れてしまうなどの課題を有している。
こうした課題を解決するため、特許文献1では、1,4−シクロヘキサンジメタノールとエチルアルコール、nープロピルアルコール、イソプロピルアルコールのうち一つまたは二つ以上を含有してなるインキ組成物が開示され、特許文献2では、ジオクチルスルフォコハク酸塩を含有してなるインキ組成物が開示され、さらに特許文献3では、フッ素系界面活性剤を含有してなるインキ組成物が開示されるなど、水性インキ組成物の表面張力を下げて紙面への浸透性を向上させたインキ組成物が多数提案されている。
しかしながら、特許文献1のインキ組成物は、筆跡の乾燥性は向上するものの、アルコール系溶剤の特有の異臭がしたり、揮発性が高いことから、経時安定性に課題が残る。また、特許文献2のインキ組成物は、筆跡の乾燥性は改善傾向にあるものの十分とは言い難く、良好な筆跡を得ることは難しかった。
また、特許文献2、3のようなインキ組成物をボールペンに用いた場合、ある程度紙面への浸透性は向上するものの、より筆跡乾燥性の向上や、潤滑性の向上も望まれていた。さらに、ボールペンチップに対する濡れ性も高まり、ペン先からインキが漏れやすく、水性ボールペン用インキ組成物としては、十分に満足できるものではなかった。
また、最近では、ボールペンを陳列ケースに並べることが多く、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態のボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、試し書き等をしたボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれ、その結果、積まれた複数のボールペンの重みにより、ボールとチップ先端の内壁との間に隙間を生じ、その隙間からインキが垂れ下がり、インキ漏れを発生し、陳列ケースを汚してしまい、ケース内の他のボールペンも、汚れてしまう問題が生じやすいため、改善することが同時に望まれている。
特開2000−319570号公報 特開2005−238672号公報 特開2004−224892号公報
本発明は、筆跡乾燥性を向上し、書き味を良好とする水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンを得ることである。
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.水、着色剤、界面活性剤、アルカリ膨潤会合型増粘剤を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物であって、前記界面活性剤がアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
2.前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤が、エチレンオキシド付加モル数が10以下であることを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
3.前記シリコーン系界面活性剤の重量平均分子量が500〜3000であることを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
4.前記着色剤が顔料であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
5.前記水性ボールペン用インキ組成物に有機樹脂粒子を含んでなることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
6.前記有機樹脂粒子がオレフィン樹脂であることを特徴とする第5項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
7.インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を収容してなることを特徴とする水性ボールペン。」とする。
本発明は、紙面への浸透性を向上することで、筆跡乾燥性を向上し、潤滑性を向上することで書き味を良好とする水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンを得ることができる。
本発明の特徴は、界面活性剤として、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を用い、さらに増粘剤として、アルカリ膨潤会合型増粘剤を用いることで、筆跡乾燥性を向上し、潤滑性を向上することで書き味を良好とすることが可能となる。
本発明で用いる界面活性剤としては、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を用いることで、紙面への浸透性を向上することで、筆跡乾燥性を向上し、書き味を良好とすることができ、さらにアルカリ膨潤会合型増粘剤を用いることで、筆跡乾燥性を向上することが分かった。
前記界面活性剤として、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を用いることで、筆跡乾燥性を向上することができるが、そこで、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤を併用すれば、より筆跡乾燥性を向上できる。前記アルカリ膨潤会合型増粘剤は親水性基を骨格とし、側鎖、または末端などに疎水性基を有するものであり、顔料を用いた場合、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤の疎水性基が顔料に吸着することにより、インキ中で顔料と前記会合型増粘剤の相互構造が形成される。そのため、筆記の際には前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤により、相互構造を形成した顔料とアルカリ膨潤会合型増粘剤は、紙面に速やかに浸透すると共に相互構造は紙繊維と三次元的に一部絡み合った状態で紙面に定着すると推定される。インキ中の各成分が浸透剤および定着剤として働き、耐擦性を向上するため、筆跡乾燥性が向上しやすい。
上記のように、アルカリ膨潤会合型増粘剤と、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤またはシリコーン系界面活性剤とを併用することで、特段の筆跡乾燥性の効果が得られ、重要な構成である。
<アルカリ膨潤会合型増粘剤>
アルカリ膨潤会合型増粘剤については、アルカリ剤の添加によりカルボキシル基が中和・解離されることにより溶解または膨潤が生じて粘度を上昇することができる会合型の樹脂である。前記アルカリ膨潤会合型増粘剤は、前記界面活性剤の効果に加え、筆跡乾燥性を向上する効果が得られる。前記アルカリ膨潤会合型増粘剤は、親水性基を骨格とし、側鎖、または末端などに疎水性基を有するものであり、顔料を用いた場合、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤の疎水性基が顔料に吸着することにより、インキ中で顔料と会合型増粘剤の相互構造が形成される。筆記の際には前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤により、相互構造を形成した顔料と会合型増粘剤は、紙面に速やかに浸透すると共に相互構造は紙繊維と三次元的に一部絡み合った状態で紙面に定着すると推定される。インキ中の各成分が浸透剤および定着剤として働き、耐擦性を向上するため、筆跡乾燥性が向上しやすい。さらに、前記増粘剤は疎水基が顔料に吸着して分散剤としても機能して顔料分散性も向上しやすい。
さらに、アルカリ膨潤会合型増粘剤は、親水性基を骨格とし、側鎖、または末端などに疎水性基を有するものであり、水性媒体中で一方の疎水基が粒子などに吸着し、更に他方の疎水性基が他の粒子又は他の疎水性基と吸着することにより、微弱な架橋構造を形成することでインキの増粘効果が得られる増粘剤であり、これらの作用をする増粘剤が、アルカリ膨潤会合型増粘剤である。
さらに、前記会合型増粘剤は、顔料および、後述する有機樹脂粒子を用いる場合、該会合型増粘剤の疎水性基が、顔料および、後述する有機樹脂粒子に吸着することにより、三次元構造が形成されるため、インキ粘度が低い状態にあっても、インキ漏れ抑制効果が得られやすい。さらに、アルカリ膨潤会合型増粘剤は、会合型増粘剤の中でもインキ粘度発現効率が高く、さらに前記顔料および有機樹脂粒子を用いた場合は、顔料および有機樹脂粒子に対する吸着性が高く、より架橋構造を形成しやすく、三次元構造が形成されるため、前記界面活性剤と併用すると筆跡乾燥性を向上し、インキ漏れ抑制を向上しやすいため、好ましい。
前記アルカリ膨潤会合型増粘剤は、アルカリ膨潤性を示す機構としてアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、などのカルボキシル基を有する各種重合性モノマーを含む単量体または共重合体の重合性樹脂が挙げられるが、筆跡乾燥性が向上するとともに、長期間安定した膨潤性を有することで、インキ漏れ抑制や、さらに、顔料分散性を向上してインキ経時安定性を向上しやすい効果が期待できるため好ましく、特に、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、及びメタクリル酸の3種の単量体から構成されるものが好ましい。
また、アルカリ膨潤会合型増粘剤は、アルカリで中和することにより膨潤するため、アルカリ性のpH調整剤を用いることが好ましい。pH調整剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、 N−メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基等が挙げられる。また、アルカリ膨潤会合型増粘剤を用いる場合は、インキ中のpH値は、pH>7としてアルカリ性にして、膨潤安定させるようにすることが好ましい。さらに、着色剤などのインキ成分の安定性を考慮すれば、pH値は11以下が好ましく、よりアルカリ膨潤会合型増粘剤の膨潤性を考慮すれば、pH値は8以上が好ましいため、pH値は8〜11の範囲がより好ましい。上記pH値にするためには、アルカノールアミンを用いることが好ましい。
また、インキ組成物における前記アルカリ膨潤会合型増粘剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01〜5質量%がより好ましい。これは、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤の含有量が、0.01質量%未満だと、筆跡乾燥性の向上や、インキ増粘効果が十分でないため、インキ漏れを抑制しづらく、5質量%を越えると、インキ粘度が高くなりやすく、ボール座の摩耗抑制、筆記時のインキ追従性、書き味、耐ドライアップ性に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1〜2質量%が好ましく、最も好ましくは、0.1〜1質量%とする。
<アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤>
本発明のインキ組成物は、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、エチレンオキシド付加モル数が10以下であることが好ましい。
エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤とは、エチレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤であって、該界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数が10以下であるものである。例えば、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレングリコール系界面活性剤やエチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレンアルコール系界面活性剤などが挙げられる。
このエチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、紙面に対する浸透性を顕著に向上させることができる。このため、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなるインキ組成物は、紙に素早く浸透することができるようになり、よって、得られる筆跡が完全に乾燥するまでの時間が短縮され、紙面や筆跡自体がこすれて汚れることを防止できる筆跡乾燥性に優れたものとなる。特に、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤と、前記エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤と、を併用することで、より筆跡乾燥性向上の効果が得られるため、効果的である。
これは、理由は定かではないが、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、疎水性と親水性のバランスが好適に保たれるためである。
筆記後、インキ組成物が紙面に速やかに浸透するためには、筆記後のインキ組成物の表面張力を好適に制御する必要がある。筆記動作に伴う表面張力、いわゆる動的表面張力を瞬時に制御し、紙面への速やかな浸透性を得るためには界面活性剤分子のインキ中での挙動が重要である。動的条件において界面活性剤分子が気液界面に速やかに配列し、瞬時に、しかも効果的に表面張力を制御するためには、特定構造の界面活性剤を用いることで可能となることから、筆跡乾燥性に優れたインキ組成物を得ることができる。
アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤の親水性が高すぎると、インキ組成物への溶解性が高くなりすぎ、気液界面に対する界面活性剤分子の配列が速やかに成され難く、紙面に対する浸透性が向上しにくい傾向にある。逆に、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤の疎水性が高すぎると、インキ組成物への溶解性が低くなりすぎ、紙面への浸透性が向上しにくいだけでなく、分離などによるインキ組成物への安定性が劣る傾向にある。
エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、親水性と疎水性のバランスが保たれることから、該界面活性剤を用いると、活性剤分子は気液界面に適切に配列されるため、インキ組成物の表面張力はコントロールされ、インキ組成物の紙への浸透性が向上する。よって、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなるインキ組成物は、紙面に対する浸透性が向上し、優れた筆跡乾燥性が得られると推測する。
また、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、筆跡乾燥性を向上させると同時に、滑らかな書き味をもたらすなど、書き味を向上させる効果を併せもつ。これは、インキ組成物が、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなることで、ボールペンが有するボールとボールペンチップの間の潤滑性が向上し、かつ、ボール座の摩耗を抑制することができるためである。
尚、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなる本発明のインキ組成物は、その他の潤滑剤を含ませることが可能であるが、特には、潤滑剤の中でも、後述するリン酸エステル系界面活性剤と併用することが好ましい。
尚、本発明において、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数が10以下であることが好ましいが、これは、エチレンオキシド付加モル数が10を超えると、親水性が高くなりすぎて、溶解性が高くなり、界面活性剤の界面への速やかな配列を損なわれる傾向にあり、筆跡乾燥性の向上が限定される傾向にあるためである。さらに、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤による効果向上を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数は、8以下であることが好ましい。さらには、エチレンオキシド付加モル数は、4以上であることが好ましい。エチレンオキシド付加モル数が4以上であれば、溶解性が落ちて、インキ組成物中で安定して存在しにくい状態となって界面活性剤の効果の経時安定性が低下することを防止できる。
また、本発明に用いられるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、さらにプロピレンオキシドが付加されていても良い。更なる筆跡乾燥性の向上やインキ経時安定性を考慮すると、本発明においては、エチレンレンオキシドとさらにプロピレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を選択して用いることが好ましい。
これは、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤が、エチレンレンオキシドとプロピレンオキシドの二つが付加された場合、疎水性と親水性のバランスがさらに好適に保たれるためである。
前述の通り、アセチレン結合を構造中に有し界面活性剤の効果を得るためには、その親水性と疎水性のバランスが適切に保たれることが好ましい。
エチレンオキシドとプロピレンオキシドの両方が付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、親水性と疎水性のバランスが、さらに好適に保ちやすくなることから、該界面活性剤を用いると、インキ組成物中で非常に安定でありながら、活性剤分子は気液界面に速やかに配列される。このため、インキ組成物の表面張力は速やかにコントロールされ、インキ組成物の紙への浸透性が速やかに向上しやすい。よって、本発明において、エチレンオキシドとさらにプロピレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を用いることにより、筆跡乾燥性はさらに向上し、またインキ経時安定性にも優れたインキ組成物を提供することができるため、好ましい。
特に、上記のように、顔料とアルカリ膨潤会合型増粘剤を用いた場合は、相互構造を形成した顔料とアルカリ膨潤会合型増粘剤と、前記エチレンオキシドとプロピレンオキシドの両方が付加された界面活性剤によって、紙面に速やかに浸透すると共に相互構造は紙繊維と三次元的に一部絡み合った状態で紙面に定着しやすく、筆跡乾燥性を向上しやすい。
エチレンオキシド付加モル数とプロピレンオキシド付加モル数の比は、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを好適に保ち、筆跡乾燥性の更なる向上を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数:プロピレンオキシド付加モル数=1:1〜5:1であることが好ましい。
また、気液界面への配列性を考慮すれば、エチレンオキシド付加モル数とプロピレンオキシド付加モル数の合計が10以下であることが好ましい。付加モル数が多くなりすぎると、界面活性剤分子が長くなりすぎ、気液界面へ配列時に立体障害を生じやすくなる傾向があるが、付加モル数の合計が10以下であると界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを好適に保ち、かつ気液界面への配列時の立体障害の影響も考慮された効果を得られるため特に好ましい。
さらに、筆跡乾燥性の向上や、インキの経時安定性を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数が5であり、プロピレンオキシド付加モル数が2である前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を用いることが、より好ましい。
また、気液界面への配列性を考慮すれば、エチレンオキシド付加モル数とプロピレンオキシド付加モル数の合計が10以下であることが好ましい。付加モル数が多くなりすぎると、界面活性剤分子が長くなりすぎ、気液界面へ配列時に立体障害を生じやすくなる傾向があるが、付加モル数の合計が10以下であると界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを好適に保ち、かつ気液界面への配列時の立体障害の影響も考慮された効果を得られるため特に好ましい。
さらに、筆跡乾燥性の向上や、インキの経時安定性を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数が5であり、プロピレンオキシド付加モル数が2である前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を用いることが、より好ましい。
また、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤のHLB値は、3〜14であることが好ましく、6〜12であることがより好ましく、7〜9であることが特に好ましい。前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤のHLB値が3以上であると、溶媒である水に溶け残ることなく安定に存在することができ、初期および経時的に効果得ることができるため好ましく、14以下であると疎水性により気液界面付近に配列しやすい状態となりやすく、少量でかつ瞬時に、筆跡乾燥性の向上などの前記界面活性剤がもたらす効果を得ることができるため、好ましい。
前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤については、例えば、アセチレンアルコール系界面活性剤、およびアセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられるが、紙面への浸透性を向上し、筆跡乾燥性を向上しやすいことを考慮すれば、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。
<シリコーン系界面活性剤>
前記シリコーン系界面活性剤については、構造内のSi骨格、プロピレンオキシドなどの疎水基や、エチレンオキシドなどの親水基とのバランスをとり、好適とすることで、インキ中で安定でありながら、活性剤分子が気液界面に速やかに配列し易くなるため、筆記時にインキの表面張力を速やかにコントロールして浸透性が向上し、筆跡乾燥性とインキ経時安定性を両立する優れたインキを得られやすくなる。前記シリコーン系界面活性剤の中でも、重量平均分子量が500〜3000であることが好ましい。これは前述の界面活性剤が気液界面への配列性に関して、重量平均分子量が3000を越えると、シリコーン系界面活性剤の分子が大きくなりすぎ、気液界面への配列が遅くなる傾向にあるため、筆跡乾燥性が十分でない場合がある。一方、重量平均分子量が3000以下であると、シリコーン系界面活性剤の分子が比較的小さくなることで、活性剤分子の気液界面への配列が速やかに成される傾向があり、筆跡乾燥性を向上しやすい。また、重量平均分子量が500未満であると、所望の筆跡乾燥性が得られにくいためである。上記効果をより考慮すれば、重量平均分子量が500〜3000であることが好ましく、より好ましくは、重量平均分子量が500〜2000であり、さらに考慮すれば、重量平均分子量が1000〜2000であることが好ましい。
特に、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤と、前記シリコーン系界面活性剤と、を併用することで、より筆跡乾燥性向上の効果が得られるため、効果的である。
また、前記シリコーン系界面活性剤は、筆跡乾燥性を向上させると同時に、滑らかな書き味をもたらすなど、書き味を向上させる効果を併せもつ。これは、インキ組成物が、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなることで、ボールペンが有するボールとボールペンチップの間の潤滑性が向上し、かつ、ボール座の摩耗を抑制することができるためである。
尚、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなる本発明のインキ組成物は、その他の潤滑剤を含ませることが可能であるが、特には、潤滑剤の中でも、後述するリン酸エステル系界面活性剤と併用することが好ましい。
前記シリコーン系界面活性剤の溶解度パラメーター(以下SP値)については、筆跡乾燥性を考慮すれば、SP値が8〜13であることが好ましく、より考慮すれば、SP値が9〜12であることが好ましく、さらにSP値が10〜11が特に好ましい。溶媒の主成分である水のSP値は23.4であり、シリコーン系界面活性剤のSP値が近すぎると溶解状態で安定化してしまうため気液界面への活性剤分子の配列が速やかに成され難くなる傾向にある。SP値が上述の範囲にあると、活性剤分子が気液界面に速やかに配列しやすく、インキ中での安定性も得られることから好ましい。
前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の具体例としては、オルフィンシリーズ(日信化学工業(株)製)、サーフィノールシリーズ、ダイノールシリーズ等(いずれもエアープロダクツ ジャパン(株)社製)が挙げられる。
前記シリコーン系界面活性剤については、具体的には、シルフェイスシリーズ(日信化学工業(株)社製)、BYKシリーズ(ビックケミー(株)社製)、Silsoft Spreadシリーズ、Coatosilシリーズ(いずれもモメンティブパフォマンスマテリアルズ(株)社製)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
また、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤の総含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01〜3.0質量%がより好ましい。これは、前記シリコーン系界面活性剤の総含有量が、0.01質量%未満だと、所望の筆跡乾燥性が得られづらく、3.0質量%を越えると、インキ経時安定性に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.05〜2.0質量%が好ましく、0.1〜1.5質量%が特に好ましい。
<着色剤>
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、水性ボールペン用インキ組成物に用いられる顔料、染料などを使用することができる。
本発明においては、これらの着色剤の中でも、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色を得ることを考慮すると、顔料を用いることが好ましい。
顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、マイクロカプセル、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。これらの顔料および染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
染料はインキ中で溶解状態にあることに対し、顔料はインキ中で不溶状態で分散しているため、特に、顔料の方が染料よりも、紙面への浸透性が劣りやすく、筆跡乾燥性を向上させにくい。しかし、本発明では、前記界面活性剤を用いることで、顔料を用いた場合でも好適に用いられるため、好ましい。また、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色を得ること、さらに顔料の不溶性によるインキ漏れ抑制効果を考慮すると、顔料を用いることが好ましい。
それらの着色剤の中でも、一次平均粒子径が1〜100nmである顔料を用いることが好ましい。これは、上記範囲とすることで、前記シリコーン系界面活性剤が紙面へ浸透する際、前記シリコーン系界面活性剤と一緒に前記顔料を紙面の繊維にひっかかることなく、紙面へ浸透しやすくし、筆記後の筆跡乾燥性を向上しやすいためで、前記シリコーン系界面活性剤との相乗効果をより得られやすくなり、効果的である。より考慮すれば、一次平均粒子径が5〜40nmである顔料を用いることが好ましく、より考慮すれば、10〜30nmである顔料を用いることが好ましく、10〜20nmである顔料を用いることが最も好ましい。
また、顔料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320−X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
特に、カーボンブラックを用いる場合は、カーボンブラック10質量%水分散体のpH値が5〜10の範囲のものを用いることが好ましい。これは、前記pH値が5未満だと、カーボンブラック表面に酸性基が多く存在するため、親水性を示し、水への分散性が高くなる。筆跡乾燥性を向上させるには、筆記後に紙面に対して、一定以上の定着性が得られることで、耐擦性を向上し、筆跡乾燥性が向上しやすいため、好ましいが、前記pH値を5未満として、親水性が高すぎると紙面上に転写されたインキの水分の影響により定着性が得られるまでに時間を要する傾向が高くなり、筆跡乾燥性が劣りやすい。それに対し、前記pH値が5以上であると前記界面活性剤と相乗効果により比較的短時間で紙面への定着が得られ、耐擦性を向上し、筆跡乾燥性が向上やすいため、前記pH値が5以上であることが、好ましい。また、前記pH値が10を越えると、カーボンブラック表面の強い塩基性基が金属材のボールに影響したり、界面活性剤の配向性を阻害することがあり、書き味が劣りやすく、ボール座の摩耗がしやすくなるため、前記pH値が10以上であることが好ましい。そのため、カーボンブラック10質量%水分散体のpH値が5〜10の範囲にあると、定着性を向上することで、筆跡乾燥性が向上し、さらに界面活性剤の効果を阻害せず、ボール受け座が摩耗することなく、滑らかな書き味となるため好ましい。より考慮すれば、カーボンブラック10質量%水分散体のpH値が6〜10の範囲にあることが好ましい。
カーボンブラック10質量%の水分散体のpH値とは、カーボンブラックの濃度が10質量%の時のカーボンブラック水分散体を測定した値を用いる。
前記カーボンブラック10質量%の水分散体は、カーボンブラックを水中に攪拌などしながら分散することや、市販のカーボンブラック水分散体を希釈するなどして、調整することができる。
尚、本発明において、着色剤として顔料を用いる場合、予め、顔料分散剤を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等を用いてもよい。該顔料分散剤としては、水溶性樹脂、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられる。
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜20.0質量%が好ましい。これは1.0質量%未満だと、発色良好な筆跡が得られにくい傾向があり、20.0質量%を越えると、インキ中での溶解性や、凝集による経時安定性に影響が出やすいためであり、よりその傾向を考慮すれば、3.0〜10.0質量%が最も好ましい。
<水>
水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
<有機樹脂粒子>
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤または、シリコーン系界面活性剤を用いることで、該インキ組成物の紙面に対する濡れ性が向上されるため、紙への浸透性が向上し、良好な筆跡乾燥性と良好な書き味を得ることができる。一方でボールやボールペンチップとの濡れ性が高まり、ボールとボールペンチップ先端の内壁との隙間より、インキが漏れ出してしまう可能性を有する。特に、本発明のインキ組成物を出没式ボールペンのようなペン先が露出され、常時キャップオフ状態となり得るボールペンに用いた場合には、インキ漏れが起こり得る可能性は非常に高い。このインキ漏れの課題に対し、インキ組成物のインキ粘度を高めるなどして防止することが考えられるが、この場合、得られる筆跡が完全に乾燥するまでの時間が増え、筆跡乾燥性能が劣り、さらには、インキ消費量が減少して、書き味が劣る傾向となる。
しかし、有機樹脂粒子により、前述のようなペン先からのインキ漏れの課題を効果的に抑制することができると同時に、優れた筆跡乾燥性と良好な筆跡も得られる。よって、本発明においては、有機樹脂粒子を用いることは、特に好ましい。前記有機樹脂粒子は、ボールとボールペンチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制することができるが、前記有機樹脂粒子は、無機粒子と比較して硬度が低く、粒子同士が一部変形などして、お互い密着するため、微弱な凝集構造を形成することから、そのインキ漏れ抑制効果は、高いものである。
さらに、前記有機樹脂粒子は、上述のようにインキ漏れを抑制するだけでなく、ボールとボール座との間に入り込み、直接接触しづらくすることができるため、ボールの回転抵抗を緩和してボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上させることができる。
有機樹脂粒子については、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのオレフィン系樹脂粒子や、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基などの水素結合性官能基を有する有機樹脂粒子を用いることが好ましい。
また、最近では、出没式ボールペンのようなキャップオフ状態のボールペンの場合、ボールペンチップを突出させた状態で陳列ケースに戻された場合には、試し書き等をしたボールペンを、同陳列ケースに戻すことを繰り返すうちに、最初に戻したボールペンの上に、何本ものボールペンが積まれることがある。その結果、積まれた複数のボールペンの重みによるインキ漏れを抑制することを想定して、よりインキ漏れ抑制効果が格段に高い、オレフィン系樹脂粒子を用いることが好ましい。
これは、オレフィン系樹脂粒子については、含有することで、無極性であるために水中で凝集が起こりやすく、インキ漏れを抑制しつつ、インキ量の不足などの不具合を起こさないような最適化された凝集構造を形成しやすいため、インキ漏れ抑制効果が得られるものと推定される。さらに、オレフィン系樹脂粒子は溶融温度が高いため、高温環境下であっても安定して存在しやすく、高圧環境にあった場合では、変形はしやすく変性はしにくいという特徴を持っているため、ボールとボール座の間に挟まれても安定しているため、クッション効果が得られ、書き味を向上し、ボール座の摩耗抑制が得られるため、より好適に用いることが可能であり、前記シリコーン系界面活性剤と併用することで、より潤滑性を向上することが可能である。
オレフィン系樹脂粒子の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、インキ漏れ抑制や書き味を向上することを考慮すれば、ポリエチレンを用いることが好ましく、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレン、変性高密度ポリエチレンなどが挙げられる。その中でもインキ漏れ抑制効果を考慮すれば、低密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレンが好ましく、特に低密度ポリエチレンは、他種のポリエチレンよりも融点が低く、柔らかい性質があるため、ポリエチレン粒子が密着しやすく、粒子間の隙間を生じづらく、インキ漏れしづらいため、低密度ポリエチレンが好ましく、さらに、低密度ポリエチレンは、柔らかいため、ボールとボール座の間でのクッション効果が得られやすく、書き味を向上し、ボール座の摩耗抑制が得られるため、好適に用いることが可能である。オレフィン系樹脂粒子は、必要に応じてポリオレフィン以外の材料を含んでいてもよい。
以上より、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤と、前記アルカリ膨潤会合型増粘剤を含んでなる本発明のインキ組成物は、有機樹脂粒子を含ませることで、優れた筆跡乾燥性を維持しながら、ペン先からのインキ漏れを効果的に防ぐことが可能となり、書き味をさらに向上させることができる。
前記有機樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでも良い。
また、前記オレフィン系樹脂粒子を用いる場合については、予め水などに分散したオレフィン系樹脂粒子分散体にすることが好ましいが、オレフィン系樹脂粒子分散体のpH値については、7〜11が好ましい。これは、オレフィン系樹脂粒子分散体の分散安定性や、着色剤、界面活性剤などのインキ成分に対する安定性を良好としやすいためである。より考慮すれば、pH値7〜10がより好ましい。
また、前記有機樹脂粒子の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01〜10.0質量%がより好ましい。これは、前記有機樹脂粒子の含有量が、0.01質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、10.0質量%を越えると、凝集構造が強くなりやすく、書き味やドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.02〜5.0質量%が好ましく、0.03〜1.0質量%が特に好ましく、最も好ましくは、0.05〜0.5質量%が好ましい。
また、水の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を考慮し、水溶性溶剤を用いる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール溶剤、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
さらに、水溶性溶剤については、前記アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤および前記シリコーン系界面活性剤のSP値とは、異なるSP値とした水溶性溶剤を用いることが好ましい。これは、水溶性溶剤のSP値と、シリコーン系界面活性剤のSP値が近すぎると溶解状態で安定化してしまうため、気液界面への活性剤分子の配列が速やかに成され難くなる傾向にある。そのため、前記シリコーン系界面活性剤のSP値とは、異なるSP値とした水溶性溶剤を用いれば、活性剤分子が気液界面に速やかに配列しやすく、インキ中での安定性も得られるため、好ましい。より、インキ中での安定性を考慮すれば、前記シリコーン系界面活性剤のSP値と、水溶性溶剤のSP値との差が1以上であることが好ましく、より考慮すれば、3以上であることが好ましい。
また、水溶性溶剤の含有量については、溶解性、インキ漏れ、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜25.0質量%が好ましく、インキ漏れを考慮すれば、7.0〜20.0質量以下が好ましい。
また、潤滑性を向上することで、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするために、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸を用いることが好ましい。特に、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いる方が、好ましい。これは、リン酸基が金属吸着することで、より潤滑性を向上して、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上しやすくするためである。リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系、ヘキサノール系等が上げられる。この中でも、フェニル骨格を有すると立体障害により潤滑性に影響が出やすいため、フェニル骨格を有さないリン酸エステル系界面活性剤を用いることが、好ましい。より潤滑性を考慮すれば、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系のリン酸エステル系界面活性剤が好ましい、これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。特に、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤やシリコーン系界面活性剤と、有機樹脂粒子を併用することで、より潤滑性を向上し、書き味やボール座の摩耗抑制を向上しやすくすることが可能であるため、より効果的である。
また、リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA212C(トリデシルアルコール系)、同A208B(ラウリルアルコール系)、同A213B(ラウリルアルコール系)、同A208F(短鎖アルコール系)、同A215C(トリデシルアルコール系)、同A219B(ラウリルアルコール系)等が挙げられる。また、脂肪酸の具体例としては、OSソープ、NSソープ、FR−14、FR−25(花王(株))等が挙げられる。これ等のリン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸塩は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
また、本発明のインキ組成物は、インキ漏れを抑制するために、デキストリンを用いることが好ましい。
これは、デキストリンを用いることで、ペン先のインキが乾燥する際、皮膜を形成することから、ボールとチップ先端の内壁との間の隙間からのインキ漏れを抑制したり、ペン先のドライアップ性能を向上したりする効果が得られやすいためである。特に、本発明においては、前記有機樹脂粒子とデキストリンと併用することは、インキ漏れ抑制において、より効果的である。
前記デキストリンの重量平均分子量については、5000〜120000がより好ましい。デキストリンの重量平均分子量が120000を超えると、ペン先に形成される皮膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がカスレやすい傾向があり、一方、重量平均分子量が5000未満だと、吸湿性が高くなりやすく、ペン先に生ずる皮膜が柔らかくなりやすく、インキ漏れ抑制の効果を十分に得られづらい傾向があるためである。さらに、重量平均分子量が20000より小さいと、皮膜が薄くなりやすい傾向があるため、重量平均分子量が、20000〜120000が最も好ましい。
インキ組成物における前記デキストリンの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5質量%であることが好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、インキ漏れ抑制やペン先のドライアップ性能の向上効果が十分得られない傾向にあり、5質量%を越えると、インキ中で溶解しづらい傾向にあるためである。よりインキ中の溶解性について考慮すれば、0.1〜3質量%であることが好ましく、よりインキ漏れ抑制やドライアップ性能の向上について考慮すれば、1〜3質量%であることが、最も好ましい。
インキ粘度調整剤については、アルカリ膨潤会合型増粘剤以外のものを含んでも良い。前記インキ粘度調整剤としては、前記剪断減粘性付与剤としては、架橋型アクリル酸重合体や、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ−カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガムなどの多糖類や、アルカリ膨潤会合型増粘剤以外の会合型増粘剤としては、会合性疎水性基によってポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系、ポリアミノプラスト系などの会合型増粘剤や、ノニオン会合型増粘剤などが挙げられ、これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
また、所望により添加剤を含有することができる、具体的には、着色剤の経時安定性を向上させるためにpH調整剤や、アクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン樹脂エマルジョンなどの定着剤、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防菌剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
<水性ボールペン>
本発明のインキ組成物は、インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有した水性ボールペンに好適に用いることができる。
本発明において、滑らかな書き味と発色良好な筆跡を得ることをさらに考慮すると、水性ボールペンのインキ消費量を増やすことが考えられる。しかしながら、インキ消費量が増えると、得られる筆跡の乾燥性能は低下してしまい、良好な筆跡が得られにくい状況となる。
そこで、本発明者は、さらに鋭意検討した結果、ボールペンチップの仕様とインキ消費量の関係を、ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110≦A/B≦600とすることにより、筆跡乾燥性に優れ、発色良好な筆跡得られ、さらに滑らかな書き味が得られることがわかった。また、ボテを抑制することで、紙面への余剰インキを抑えて、筆跡乾燥性を向上することを考慮すれば、120≦A/B≦500とすることが好ましく、さらに、より上記効果を、考慮すれば、150≦A/B≦450となることが好ましい。
尚、ボールペンの100mあたりのインキ消費量とは、100mの筆記線を筆記するのに用いたインキの使用量であり、25℃、筆記用紙JIS P3201、筆記角度65°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、25分間、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、そのときに用いたインキの使用量(減少量)の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
ボール径については、特に限定されないが、0.1〜2.0mm程度のボールを用いる。
よって、前記シリコーン界面活性剤を含んでなる本発明のインキ組成物は、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、110≦A/B≦600の関係となる水性ボールペンにおいて、筆跡乾燥性能に優れると同時に、滑らかな書き味を得ることが可能となる。
また、本発明の水性ボールペンは、ボールの表面の算術平均粗さ(Ra)は0.1〜5nmであることが好ましい。前記ボールの表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1nm以上であると、ボールの表面に十分にインキがのり、発色良好な筆跡を得ることができる。5nm以下であれば、ボールの表面の凹凸による書き味の低下や、ボールとボール座の回転抵抗が大きくなって書き味が低下することを防止できる。
また、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を含んでなるインキ組成物は、表面の算術平均粗さ(Ra)が上記数値範囲内であるボールの表面上にのりやすく、さらに均一にインキがのるため、紙面に対して適正量のインキ組成物を転写することが可能である。よって、発色性を十分に保ちながらも、必要以上のインキ組成物が紙面に転写されにくいことから、筆跡乾燥性が向上する。
さらに、筆跡乾燥性と滑らかな良好な書き味を得ることを考慮すると、前記ボールの表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.5〜3nmとすることが好ましい。
尚上記算術平均粗さ(Ra)は、表面粗さ測定器(セイコーエプソン社製、機種名SPI3800N)により測定することができ、測定された粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
また、本発明の水性ボールペンのボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量(クリアランス)は、20〜45μmとすることが好ましい。これは、移動量(クリアランス)が上記数値範囲内であれば、適正量のインキ組成物を、一定間隔で紙面に転写させることで、ボテを抑制し、紙面への余剰インキを抑えて、筆跡乾燥性を向上しやすく、特に、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を用いると、筆跡乾燥性を向上しやすいため、より効果的である。また、移動量(クリアランス)が上記数値範囲であれば、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、ボール径をB(mm)としたときの、インキ消費量とボール径との関係を、110≦A/B≦600に設定しやすく、筆跡乾燥性に優れ、紙面や筆跡がこすれて汚れることなく、良好な筆跡が得られやすい。上記効果や書き味をより考慮すれば、30〜45μmとするのが好ましく、さらに考慮すれば、30〜40μmとするのが好ましい。
ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
顔料分散体(カーボンブラック、カーボンブラック10質量%の水分散体のpH値9、1次平均粒子径17nm)) 20.0質量部
水 64.1質量部
多価アルコール(エチレングリコール:SP値14) 10.0質量部
アセチレングリコール系界面活性剤(HLB値8、エチレンオキシド(EO)付加モル数:2、プロピレンオキシド(PO)付加モル数:2) 0.3質量部
有機樹脂粒子(低密度ポリエチレン分散体、平均粒子径6μm、pH値9、固形分40%) 0.5質量部
デキストリン(重量平均分子量:100000) 1.0質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 2.0質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
剪断減粘性付与剤(アルカリ膨潤会合型増粘剤) 0.6質量部
顔料分散体、水、多価アルコール、アセチレングリコール系界面活性剤、有機樹脂粒子、デキストリン、pH調整剤、潤滑剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV−II粘度計(CPE−42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec−1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、530mPa・sであった。
また、実施例1のpH値は、IM−40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃にて測定したところ、pH値=8.7であった。
実施例2〜19
インキ配合を表に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜19の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表に、インキ配合および評価結果を示す。
Figure 2018109114
Figure 2018109114
Figure 2018109114
試験および評価
実施例1〜19及び比較例1〜4で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボールを回転自在に抱持したボールペンチップ(ボール径:0.7mm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):1nm)をチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したレフィル(1.0g)を(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G−2)に装着して、以下の試験および評価を行った。尚、ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量(クリアランス)を表のような仕様とした。筆跡乾燥性能試験、書き味の評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。
また、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を用いて水性ボールペンとして、らせん筆記試験を行い、100mあたりのボールペンのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、A=200(mg)、ボール径をB=0.7(mm)となり、A/B=286であった。
筆跡乾燥性能試験
紙面上に筆記後、経過時間毎に筆跡をティッシュペーパーで擦過させ、その筆跡の状態を下記基準に従って、筆跡乾燥性能を評価した。
筆記2秒未満で、筆跡が乾燥したもの ・・・◎◎
筆記2秒以上、5秒未満で、筆跡が乾燥したもの ・・・◎
筆記5秒以上、10秒未満秒で、筆跡が乾燥したもの ・・・○
筆記10秒以上、20秒未満秒で、筆跡が乾燥したもの ・・・△
筆記20秒越えても、筆跡が乾燥しなかったもの ・・・×
インキ漏れ試験:40gの重りを試験用水性ボールペンの軸筒部分に付けて、ボールペンチップを吐出させて下向きにし、ボールペンチップのボールがボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。
インキ漏れ量が5mg未満であるもの ・・・◎
インキ漏れ量が5〜15mgであるもの ・・・○
インキ漏れ量が15mgを越えて、30mg未満のもの ・・・△
インキ漏れ量が30mg以上のもの ・・・×
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
極めて滑らかな書き味であった ・・・◎
滑らかな書き味であった ・・・○
やや重い書き味を感じたが、実用上問題のないレベルであった ・・・△
重く、滑りが悪い書き味であった ・・・×
表の結果より、実施例1〜19では、筆跡乾燥性能試験、インキ漏れ試験、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。
表の結果より、比較例1では、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤またはシリコーン系界面活性剤を用いなかったため、筆跡乾燥性能試験では劣るレベルであった。
比較例2、3では、界面活性剤が、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤を用いたため、筆跡乾燥性能試験では劣るレベルであった。
比較例4では、アルカリ膨潤会合型増粘剤以外の増粘剤を用いたため、筆跡乾燥性能試験では劣るレベルであった。
一般的に水性ゲルボールペンのボールペンチップは、インキ漏れ抑制するために、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングなどの弾発部材により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
本発明は、水性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の水性ボールペンなどとして、広く利用することができる。

Claims (7)

  1. 水、着色剤、界面活性剤、アルカリ膨潤会合型増粘剤を含んでなる水性ボールペン用インキ組成物であって、前記界面活性剤がアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
  2. 前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤が、エチレンオキシド付加モル数が10以下であることを特徴とする請求項1に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
  3. 前記シリコーン系界面活性剤の重量平均分子量が500〜3000であることを特徴とする請求項1に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
  4. 前記着色剤が顔料であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
  5. 前記水性ボールペン用インキ組成物に有機樹脂粒子を含んでなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
  6. 前記有機樹脂粒子がオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
  7. インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を収容してなることを特徴とする水性ボールペン。
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