JP7210265B2 - 水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペン - Google Patents
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Description
この種のインキは、剪断応力が加わらない静置時には高粘度であり、機構内において安定的に保持されており、筆記時にあってはボールの高速回転によって生じる高剪断力によってボール近傍のインキが低粘度化し、その結果、インキはボールとボール収容部の間隙から吐出して紙面に転写されるものである。紙面に転写されたインキは剪断力から解放されると再び高粘度状態となり、従来の水性インキ組成物の欠点である筆跡の滲みの発生を改善できるものである。また、前述の剪断減粘性によって、インキを保持する所謂中綿を必要とせず、インキを最後まで使用可能であったり、インキ流量を調節する流量調節部材(例えば、櫛歯状部材等のインキ一時的保溜部材)を要しないので、簡易な構造の筆記具が得られる等、多くの利点を有するため広く適用されている。
(a)着色剤、
(b)以下の式(i):
で示される繰り返し単位と、
以下の式(ii):
R2は、水素またはメチル基であり、かつ
R3は、炭素数1~5の、直鎖または側鎖を有するアルキル基である)
で示される繰り返し単位と
を含んでなるアクリル酸共重合体、
(c)剪断減粘性を有さない、アクリル系またはウレタン系ポリマー、および
(d)水、
を含んでなり、
前記成分(c)の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、0.01~5質量%であるものである。
さらに、剪断減粘性を有さない特定のポリマーを特定量含有することで、筆跡表面の乾燥性を向上させることができる。このようなインキ組成物を用いることで、筆跡の汚れが防止される。
本発明による水性ボールペン用インキ組成物(以下、場合により「インキ組成物」と表す)は、(a)着色剤、(b)アクリル酸共重合体、(c)剪断減粘性を有さない特定のポリマー、および(d)水を含んでなる。
本発明に用いられる着色剤としては、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
また、従来、顔料はインキ組成物中で分散しているため、染料系と比較して、筆記対象への浸透性が劣りやすい傾向にあり、筆跡乾燥性を向上させにくい。しかしながら、本発明においては、後述する界面活性剤を用いることで、着色剤として顔料を用いた場合でもより筆跡乾燥性を向上することができる。さらに、顔料は、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色が得られる。以上のことから、着色剤としては顔料を用いることが好ましい。
本発明に用いられるアクリル酸共重合体は、以下の式(i):
で示される繰り返し単位と、
以下の式(ii):
R2は、水素またはメチル基であり、かつ
R3は、炭素数1~5の、直鎖または側鎖を有するアルキル基である)
で示される繰り返し単位と
を含んでなる。
なお、成分(b)として用いられるアクリル酸共重合体は、組成物中で、膨潤し、構造粘性を呈することで剪断減粘性を有するものである。剪断減粘性を表すチクソトロピーインデックス(以下TI値と示し、以下に定義される)は1.5以上である。
本発明に用いられる剪断減粘性を有さないポリマーは、アクリル系またはウレタン系ポリマーである。
ここで、剪断減粘性を有さないとは、以下に定義されるTI値が0.9以上であり1.5未満を示すものを意味する。
TI値は、E型回転粘度計(DV-II+Pro、コーン型ローターCPE-42、ブルックフィールド社製)を用いて、20℃でずり速度が38.3sec-1及び383sec-1で測定した粘度の比[(38.3sec-1での粘度)/(383sec-1での粘度)]で算出される。TI値は、成分(b)または(c)の0.3質量%水溶液をpH調整剤を用いてpH9に調整した試料の粘度を測定することで得ることができる。
これらの成分(c)は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
本発明に用いられる水としては、特に制限はなく、例えば、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などを用いることができる。
本発明によるインキ組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、保湿剤、界面活性剤、潤滑剤、多糖類、剪断減粘性付与剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、水溶性樹脂などの各種添加剤を含んでもよい。
成分(b)を用いることで筆記時にインキ組成物の剪断時粘度が従来の架橋型アクリル酸重合体を用いたときよりも低粘度化する傾向があるため、従来よりもインキ組成物を紙繊維などで構成された筆記対象(例えば紙支持体)に対して速やかに浸透させることができる。インキ組成物が、さらにアセチレン結合を有する界面活性剤、またはシリコーン系界面活性剤を含むことにより、浸透促進効果により、成分(b)の効果と相乗効果を呈し、筆記対象への浸透性がさらに向上すると考えられる。この結果、インキ組成物中の前記した成分が、インキ組成物の粘度を低下させることと、浸透性を向上する働きをして、筆跡乾燥性が高いものとなる。
エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤とは、エチレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤であって、界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数が10以下であるものである。例えば、エチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレングリコール系界面活性剤やエチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレンアルコール系界面活性剤などが挙げられる。
このエチレンオキシド付加モル数が10以下であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤は、筆記対象に対する浸透性を顕著に向上させることができる。このため、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなるインキ組成物は、紙に素早く浸透することができるようになり、よって、筆記対象の表面に形成された筆跡が完全に乾燥するまでの時間が短縮され、筆跡部分をこすった場合に、筆跡のなかった部分に組成物が付着したり、筆跡部分の組成物が除去されることを防止できる、筆跡乾燥性に優れたものとなる。
筆記後、インキ組成物が筆記対象に速やかに浸透するためには、筆記後のインキ組成物の表面張力を好適に制御する必要がある。筆記動作に伴う表面張力、いわゆる動的表面張力を瞬時に制御し、筆記対象への速やかな浸透性を得るためには界面活性剤分子のインキ中での挙動が重要である。動的条件において界面活性剤分子が気液界面に速やかに配列し、瞬時に、しかも効果的に表面張力を制御するためには、特定構造の界面活性剤を用いることで可能となることから、筆跡乾燥性に優れたインキ組成物を得ることができる。
なお、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を含んでなる本発明によるインキ組成物は、その他の潤滑剤を含ませることが可能であるが、特には、潤滑剤の中でも、後述するリン酸エステル系界面活性剤と併用することが好ましい。
エチレンオキシド付加モル数とプロピレンオキシド付加モル数の比は、アセチレン結合を構造中に有した界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを好適に保ち、筆跡乾燥性の更なる向上を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数:プロピレンオキシド付加モル数=1:1~5:1であることが好ましい。
さらに、筆跡乾燥性の向上や、インキ組成物の経時安定性を考慮すると、エチレンオキシド付加モル数が5であり、プロピレンオキシド付加モル数が2であるアセチレン結合を構造中に有した界面活性剤を用いることが、より好ましい。
なお、シリコーン系界面活性剤を含んでなる本発明によるインキ組成物は、その他の潤滑剤を含ませることが可能であるが、特には、潤滑剤の中でも、後述するリン酸エステル系界面活性剤と併用することが好ましい。
HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)
ボールペンは、ペン先において、ボールとボール座との間にインキ組成物が適切な被膜を形成することで優れた筆記性を実現できる。リン酸エステル系界面活性剤は、そのような被膜を形成するのに有効に作用するので、ボールペンに用いられるインキ組成物にリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
本発明によるインキ組成物においてリン酸エステル系界面活性剤を用いると、リン酸エステル系界面活性剤が極圧剤として作用する。一般的に、極圧剤は、摩擦熱で温度が上昇すると金属表面に反応しやすく、固体状の柔らかい膜を形成し、潤滑性を高める作用を有する物質であり、高筆圧下での良好な筆感を得るために添加されるものである。リン酸エステル系界面活性剤であるリン酸エステルのリン酸基が金属表面に吸着し、極圧作用が働くので、高筆圧下でも良好な筆感が得られるのである。
すなわち、リン酸エステル系界面活性剤の潤滑効果は、リン酸基がチップのボール受け座およびボールのそれぞれの金属面に吸着し、疎水基がインキ中に伸び、ボールとボール座との物理的な接触を阻害することにより発生する為発現すると思われる。このため、チップ/ボール間で伸びた疎水基同士のクッション作用によりボールペンとして好ましい潤滑効果、すなわち滑らかで柔らかい筆感が得られるものと考えられる。
なお、上記のリン酸エステル系界面活性剤はアミン類やアルカリ金属類などのアルカリ性物質にて適宜中和して使用することもできる。
本発明による水性ボールペンは、上記したインキ組成物を収容してなるものである。
水性ボールペンとしては、ボールノック式、回転式およびスライド式などの軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具ボールペンが挙げられる。
ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動可能量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。ここで、移動可能量は、ボールおよびボール座が使用によって摩耗するため、使用に応じて一般的に増大していく。そして、移動可能量はインク吐出量と関係する。したがって、一般的に、ボールペンの製造時または使用開始時における移動可能量は、上記の範囲に設定されるので、安定した筆記特性を達成するために、ボールペンの使用終了時まで、上記範囲内であることが好ましい。
クリアランスが大きいボールペンチップが用いられると、インキ吐出量が多くなり、筆跡濃度を高くできるが、筆跡乾燥性が優れていることが好ましい。よって、本発明によるインキ組成物は、クリアランスが大きいボールペンチップが用いられる場合にも、好適に用いられる。
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
下記の配合組成および方法により、インキ組成物を得た。
・着色剤(成分(a)):カーボンブラック 6.0質量%
・アクリル酸共重合体(成分(b)):(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸メチル共重合体(カルボン酸とメチルエステルのモル比1:2.1、アクリル酸由来の繰り返し単位とメタクリル酸由来の繰り返し単位のモル比1:0.36 質量平均分子量49,000) 0.21質量%
(0.3質量%水溶液(pH9、pH調整剤トリエタノールアミン)のTI値:2.2)・剪断減粘性を有さないポリマー(成分(c)):「Joncryl PDX-7775」(BASF株式会社製、Tg37℃) 0.1質量%
(0.3質量%水溶液(pH9、pH調整剤トリエタノールアミン)のTI値:1.1)・水溶性有機溶剤:ジエチレングリコール 10.0質量%
・pH調整剤:トリエタノールアミン 3.0質量%
・防錆剤:ベンゾトリアゾール 0.5質量%
・防腐剤:1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン 0.2質量%
・リン酸エステル系界面活性剤:「プライサーフA215C」(第一工業製薬株式会社、HLB値11.5) 1.0質量%
・アセチレングリコール系界面活性剤-1:「サーフィノール2502」(日信化学工業株式会社製) 0.5質量%
・多糖類:デキストリン(質量平均分子量30,000、サンデックシリーズ、三和デンプン工業株式会社) 1.5質量%
・水:イオン交換水 残部
インキ組成物を表1および2に表される組成に変更した以外は実施例1と同様にして実施例2~25および比較例1~3のインキ組成物を得た。なお、表中の組成の数値は、質量%を示す。
(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸メチル共重合体:(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸メチル共重合体(カルボン酸とメチルエステルのモル比1:2.1、アクリル酸由来の繰り返し単位とメタクリル酸由来の繰り返し単位のモル比1:0.36 質量平均分子量49,000
アクリル樹脂エマルション-1:「Joncryl PDX-7775」、BASF株式会社製、Tg37℃、
アクリル樹脂エマルション-2:「Joncryl PDX-7615」、BASF株式会社製、Tg33℃、
アクリル樹脂エマルション-3:「Joncryl PDX-7787」、BASF株式会社製、Tg25℃、
アクリル樹脂エマルション-4:「Joncryl PDX-7741」、BASF株式会社製、Tg14℃、
アクリル樹脂エマルション-5:「Joncryl PDX-7164」、BASF株式会社製、Tg9℃、
アクリル樹脂エマルション-6:「Joncryl PDX-7777」、BASF株式会社製、Tg40℃、
アクリル樹脂エマルション-7:「Joncryl PDX-7630A」、BASF株式会社製、Tg53℃、
アクリル樹脂エマルション-8:「Joncryl PDX-7780」、BASF株式会社製、Tg92℃、
アクリル樹脂溶液-1:「Joncryl HPD-96」、BASF株式会社製、Tg102℃、
アクリル樹脂溶液-2:「Joncryl 52J」、BASF株式会社製、Tg56℃、
アクリル樹脂溶液-3:「Joncryl 60J」、BASF株式会社製、Tg85℃、
アクリル樹脂溶液-4:「Joncryl 6610」、BASF株式会社製、Tg85℃、
アクリル樹脂溶液-5:「Joncryl PDX-6108」、BASF株式会社製、Tg134℃、
ウレタン樹脂エマルション-1:「NeoRez R-4000」、DSM Coating Resin社製、
ウレタン樹脂エマルション-2:「NeoRez R-650」、DSM Coating Resin社製、
ウレタン樹脂エマルション-3:「NeoRez XK-190」、DSM Coating Resin社製、
リン酸エステル系界面活性剤-1:「プライサーフA215C」(第一工業製薬株式会社)、HLB値11.5、
アセチレングリコール系界面活性剤-1:「サーフィノール2502」(日信化学工業株式会社製)
アセチレングリコール系界面活性剤-2:「ダイノール604」(日信化学工業株式会社製)
シリコーン系界面活性剤-1:「BYK345」(ビックケミー株式会社製)
デキストリン:質量平均分子量30,000、サンデックシリーズ、三和デンプン工業株式会社
A:周囲を汚すことなく良好な筆跡を残した。
B:わずかに汚れが発生したが良好な筆跡を残した。
C:一部汚れが発生したが良好な筆跡を残した。
D:筆跡全体に汚れが発生した。
E:筆跡全体に著しい汚れが発生した。
Claims (9)
- (a)着色剤、
(b)以下の式(i):
で示される繰り返し単位と、
以下の式(ii):
R2は、水素またはメチル基であり、かつ
R3は、炭素数1~5の、直鎖または側鎖を有するアルキル基である)
で示される繰り返し単位と
を含んでなり、式(i)および(ii)以外の繰り返し単位の比率が、個数比で、5%以下である、非架橋型アクリル酸共重合体、
(c)剪断減粘性を有さない、アクリル系またはウレタン系ポリマー、および
(d)水
を含んでなる、水性ボールペン用インキ組成物であって、
前記成分(c)の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、0.01~5質量%である、水性ボールペン用インキ組成物。 - 前記成分(c)の含有量が、前記組成物の総質量を基準として、0.01~0.5質量%である、請求項1に記載の組成物。
- 前記成分(c)のガラス転移温度が0~60℃である、請求項1または2に記載の組成物。
- 前記成分(c)が、組成物中で分散された状態で存在している、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
- アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤またはシリコーン系界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
- リン酸エステル系界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
- 多糖類をさらに含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
- 前記多糖類がデキストリンである、請求項7に記載の組成物。
- 請求項1~8に記載の組成物を収容してなる水性ボールペン。
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