JP7100854B2 - 好中球活性化調節剤 - Google Patents

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Description

本発明は、トロンビン様酵素を有効成分として含有する好中球活性化調節剤、及び、前記好中球活性化調節剤を含有する好中球活性化に起因する疾患の治療薬に関する。
血液中には、細胞性成分として赤血球、白血球及び血小板が存在する。これらのうち、白血球は生体防御に関わる免疫担当細胞であり、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球及び単球の5種類に分類される。これらの中でも、好中球は、白血球全体の50~70%を占める最も数の多い細胞であり、外部から体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物の排除などの機能を有している。
細菌などの異物が生体内に侵入すると、マクロファージが直ちに反応して、インターロイキン-1(IL-1)などのサイトカインを放出する。サイトカインによって組織内の細胞は炎症性変化を起こす。炎症性変化を起こした組織は、インターロイキン-8(IL-8)を代表とする多くのサイトカインや好中球遊走刺激因子を放出する。
好中球は、その表面レセプターで好中球遊走刺激因子や細菌自身が産出する物質を認識して、遊走運動を活発化させる。遊走した好中球は、例えば細菌に接触すると、その表面レセプターを介して当該細菌を異物と認識し、当該細菌へ接着して結合する。結合した細菌は、好中球の形質膜によって包まれ、好中球内へ取り込まれて貪食される。
好中球内に取り込まれた細菌は、3つの手段によって殺菌(貪食)される。
1つ目の手段は、酵素系の働きによって生成した過酸化水素などの活性酸素による殺菌である。
2つ目の手段は、好中球内の顆粒から放出されるリゾチームやデフェンシンなどの殺菌タンパク質・酵素による殺菌である。
しかしながら、活性酸素や殺菌タンパク質・酵素が好中球から過剰に放出されると組織障害が起こり、炎症症状がさらに悪化する。
3つ目の手段は、活性化された好中球が核内のクロマチンを細胞外へ放出し、NETs(neutrophil extracellular traps)と呼ばれるクロマチンの網を形成することによる殺菌である(非特許文献1)。この処理過程で起こる好中球の細胞死は、細菌の処理において重要な役割を演じているが、ネクローシスやアポトーシスとは異なるタイプの細胞死であるということで、NETosisと名付けられている。
しかし、NETsの構成成分であるヒストン、ミエロペルオキシダーゼやエラスターゼなどの抗菌作用を有する物質が宿主の血中や組織中へ放出されると、宿主の組織や細胞にとっても障害因子となる。
そのため、活性化された好中球によるNETsの形成を抑制することで、過剰な炎症反応を抑制できると考えられている。
これらのことから、好中球の活性化を調節することにより炎症反応を抑制する試みがなされている。
これまでに、いくつかの好中球活性化を調節する物質が報告されている。
例えば、肝臓で合成されて血漿中に存在している、凝固線溶系の調節や血管新生の制御に関与していることが知られているヒスチジンリッチ糖タンパク質が、好中球活性化調節剤であることが報告されている(特許文献1)。
また、2-アデノシンN-ピラゾール化合物及び2-アデノシンチオフェン化合物が、血小板凝集阻害剤あるいは好中球活性化阻害剤として有用であることが報告されている(特許文献2及び特許文献3)。
さらに、ベンゾオキサジノン誘導体及びアゼチジノン誘導体が、好中球浸潤抑制剤であり、抗炎症作用を有することが報告されている(特許文献4及び特許文献5)。
さらに、ラクトフェリンを含む白血球の細胞外トラップ形成阻害剤、及び、ラクトフェリンを含む白血球の細胞外トラップ形成に関連する疾患を治療するための組成物が報告されている(特許文献6)。
特許第5807937号公報 特表2003-506461号公報 特表2003-502434号公報 特開平5-148249号公報 特開平7-242624号公報 国際公開第2014/168253号
Brinkmann V et al: Neutrophil extracellular traps kill bacteria. Science. 303:1532-1535, 2004
しかしながら、有効性や安全性などの観点から、新しい好中球活性化調節剤や前記調節剤を含有する好中球の活性化に起因する疾患の治療薬が依然として求められている。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、トロンビン様酵素が、好中球の活性化(特に、脱顆粒、Mac-1発現、NETs形成、経内皮遊走及び組織浸潤)を調節し、好中球活性化に起因する疾患を治療できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔10〕に関するものである。
〔1〕トロンビン様酵素を有効成分として含有する、好中球活性化調節剤。
〔2〕トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選択される、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔3〕トロンビン様酵素がバトロキソビンである、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔4〕好中球活性化調節が、好中球の脱顆粒の阻害である、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔5〕好中球活性化調節が、好中球のMac-1発現の阻害である、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔6〕好中球活性化調節が、好中球のNETs形成の阻害である、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔7〕好中球活性化調節が、好中球の経内皮遊走の阻害である、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔8〕好中球活性化調節が、好中球の組織浸潤の阻害である、前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤。
〔9〕前記〔1〕に記載の好中球活性化調節剤を含有する、好中球活性化に起因する疾患の治療薬。
〔10〕好中球活性化に起因する疾患が、敗血症、急性呼吸窮迫症候群、急性膵炎及び急性肺障害からなる群より選択される、前記〔9〕に記載の治療薬。
後記の実施例で示されるように、トロンビン様酵素を有効成分として含有する本発明の好中球活性化調節剤は、好中球の活性化(特に、脱顆粒、Mac-1発現、NETs形成、経内皮遊走及び組織浸潤)を調節するので、好中球活性化に起因する疾患の治療薬として利用することができる。
図1は、TNF-αにより惹起された好中球の脱顆粒に対するバトロキソビンの阻害作用を確認した結果を示す。 図2は、TNF-αにより惹起された好中球のMac-1発現に対すバトロキソビンの阻害作用を確認した結果を示す。 図3は、TNF-αにより惹起された好中球のNETs形成に対するバトロキソビンの阻害作用を確認した結果を示す。 図4は、TNF-αにより惹起された好中球の経内皮遊走に対するバトロキソビンの阻害作用を確認した結果を示す。 図5は、虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤に対するバトロキソビンの阻害作用をHE染色により確認した結果を示す。 図6は、虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤に対するバトロキソビンの阻害作用をMPO染色により確認した結果を示す。
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味で用いられていると理解すべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。これと矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先するものである。
本発明は、トロンビン様酵素を有効成分として含有する好中球活性化調節剤(以下、単に「調節剤」ともいう)、及び、前記調節剤を含有する好中球活性化に起因する疾患の治療薬(以下、単に「治療剤」ともいう)に関する。
「好中球の活性化」を表す指標としては、好中球活性化因子の刺激によって好中球が奏する現象、特に、脱顆粒、Mac-1発現、NETs形成、経内皮遊走及び組織浸潤などが挙げられる。
好中球の「脱顆粒」とは、異物との接触、あるいはサイトカインの刺激により顆粒内物質を顆粒外に放出する現象をいう。
好中球の「Mac-1発現」とは、好中球表面に細胞接着分子(CD18/CD11b)が発現する現象をいう。
好中球の「NETs形成」とは、核内のクロマチンを細胞外に放出しクロマチン網を形成する現象をいう。
好中球の「経内皮遊走」とは、血液循環を離れて、血管内皮細胞の隙間を通して組織に侵入する現象をいう。
好中球の「組織浸潤」とは、血管内皮細胞をすり抜けて、組織の実質細胞の周囲に遊走・定着する現象をいう。
「好中球活性化に起因する疾患」とは、前述の活性化の指標を示す好中球(活性化好中球)から過剰産生された活性酸素、殺菌タンパク質・酵素及びNETs形成による組織や臓器へのダメージによって起こる疾患をいう。具体例としては、敗血症、急性呼吸窮迫症候群、急性膵炎、急性肺障害、多臓器不全、インフルエンザ脳症、てんかん症及びウイルス脳炎などが挙げられる。これらの疾患の中では、敗血症、急性呼吸窮迫症候群、急性膵炎及び急性肺障害に対して本発明を好適に用いることができる。
「トロンビン様酵素」とは、フィブリノーゲンを凝固させる性質を有するトロンビン以外のプロテアーゼをいう。具体例としては、バトロキソビン(batroxobin)、アンクロッド(ancrod)、クロタラーゼ(crotalase)、フラボキソビン(flavoxobin)、アスペラーゼ(asperase)、アクチン(acutin)、ボトロパーゼ(botropase)、クロターゼ(clotase)、ガボナーゼ(gabonase)や、ベンザイム(venzyme)などが挙げられる。
トロンビン様酵素は、基質であるフィブリノーゲン分子上の作用部位により3種類に分類される。具体的には、(1)フィブリノーゲンからフィブリノペプチドA(fibrinopeptide A)のみを遊離させてフィブリンIを生成するプロテアーゼ(バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼなど)と、(2)フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAとフィブリノペプチドB(fibrinopeptide B)を遊離させてフィブリンII(フィブリンともいう)を生成するプロテアーゼ(ガボナーゼなど)と、(3)フィブリノーゲンから主にフィブリノペプチドBを遊離させるプロテアーゼ(ベンザイムなど)の3種類に分類される。
「フィブリンI」とは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離して生成したモノマー(monomer)をいう。フィブリンIはDes Aフィブリンともいう。
「フィブリノペプチドA」とは、フィブリノーゲンのAα鎖のNH2末端より16個のアミノ酸残基を有するペプチドをいう。
「フィブリノペプチドB」とは、フィブリノーゲンのBβ鎖のNH2末端より14個のアミノ酸残基を有するペプチドをいう。
「フィブリノーゲンからフィブリンIを生成するプロテアーゼ」の具体例としては、バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼ、フラボキソビン、アスペラーゼ及びアクチンなどが挙げられる。
本発明に用いる好ましいトロンビン様酵素としては、バトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼが挙げられる。いずれも、公知のトロンビン様酵素である(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p130-131;1990)。
バトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼの中でも、バトロキソビンが、本発明の調節剤の有効成分として最も好ましい。
「バトロキソビン」は、Bothrops moojeniの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約36,000Daの糖タンパク質である。バトロキソビンは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離して、フィブリンIを生成する(Aronson DL: Comparison of the actions of thrombin and the thrombin-like venom enzymes Ancrod and Batroxobin. Thrombos Haemostas (stuttg) 36:9-13,1976)。また、バトロキソビンの一次構造は既に決定されており、バトロキソビンは231個のアミノ酸からなる単鎖の糖タンパク質である(Itoh N et al: Molecular cloning and sequence analysis of cDNA for batroxobin, a thrombin-like snake venom enzyme. J Biol Chem 262:3132-3135,1987)。
バトロキソビンとトロンビンは糖タンパク質の構造を有する点では、類似する酵素であるが、バトロキソビンは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成するのに対し、トロンビンはフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAだけでなく、フィブリノペプチドBをも遊離して、フィブリンII(フィブリンともいう)を生成する点で、バトロキソビンとは相違する。また、バトロキソビンはフィブリノーゲン以外の血液凝固因子に作用しないが、トロンビンは他の血液凝固因子に作用する点でも相違する。
バトロキソビンは、それ自体公知物質であり、例えば、米国特許第4137127号明細書に記載の方法に従って調製可能である。また、バトロキソビンの製品は、東菱薬品工業株式会社(東京、日本)及び北京托畢西薬業有限公司(Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd., China)より容易に入手可能である。
「アンクロッド」は、Agkistrodon rhodostomaの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約35,400Daの糖タンパク質である。アンクロッドは、バトロキソビンと同様に、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成する(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p134-135;1990)。
「クロタラーゼ」は、Crotalus adamanteusの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約32,700Daの糖タンパク質である。クロタラーゼは、バトロキソビンと同様に、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成する(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p140-141;1990)。
バトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼなどのトロンビン様酵素は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え製品であってもよい。
本発明の調節剤は、トロンビン様酵素単独(例えば、バトロキソビン単独)又は1種類以上のトロンビン様酵素からなるものであってもよい。
また、本発明の調節剤は、トロンビン様酵素と当該酵素以外の1種類以上のその他の活性物質(例えば、ステロイドや免疫抑制剤など)との組み合わせからなるものであってもよい。
本発明の調節剤の剤型としては、日局製剤総則に記載の剤型を特に制限なく使用できる。例えば、直接体内に適用する注射剤(懸濁剤、乳剤を含む)や;軟膏剤(油脂性軟膏、乳剤性軟膏(クリーム)、水溶性軟膏などを含む)、吸入剤、液剤(点眼剤、点鼻剤などを含む)、坐剤、貼付剤、パップ剤、ローション剤などの外用剤や;錠剤(糖衣、フィルム、膠衣を含む)、液剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤(細粒を含む)、丸剤、シロップ剤、トローチ剤などの内用剤が挙げられる。
これらの製剤は、日局製剤総則などに記載された方法で製剤化することができる。
また、本発明の調節剤は、その剤型に応じて医薬的に許容しうる固体状若しくは液体状の担体又は介入治療基材を含んでいてもよい。医薬的に許容しうる固体状若しくは液体状の担体としては、溶剤、安定化剤、保存剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤、着色剤、基剤、増粘剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤及び矯味剤などが挙げられる。
上述の剤型や担体及び介入治療基材の説明は、本発明の治療剤にも適用される。
本発明の調節剤の投与量及び投与回数は、通常、トロンビン様酵素の種類、患者の体重、疾患の性質及び状態に依存して変化する。
例えば、トロンビン様酵素としてバトロキソビンを成人に1日1回投与する場合、その投与量は0.1~50バトロキソビン単位(Batroxobin Unit、略してBU)である。さらに好ましいバトロキソビンの投与量は、成人に1回1~20BUを隔日投与するものである。外用剤の場合は、外用剤1gあたり0.01~500mgである。
ここで、バトロキソビン単位とは、バトロキソビンの酵素活性量を示す単位であり、37度で、標準ヒトクエン酸加血漿0.3mLにバトロキソビン溶液0.1mLを加えるとき、19.0±0.2秒で凝固する活性量を2BUとするものである。
トロンビン様酵素としてアンクロッドを成人に1日1回投与する場合、その投与量は0.01~10IU/kgであり、さらに好ましい投与量は0.5IU/kgである。
本発明の調節剤の投与は、例えば、トロンビン様酵素を適宜希釈して、次いで静脈内点滴投与、静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、心臓内注射、腹腔内注射、くも膜下注射、又は、直腸内投与、舌下投与、鼻粘膜投与、経皮投与、吸入、或いは好中球活性化に起因する疾患を起こしている臓器及び/又は組織への局所投与により行うことができる。好ましくは、100mL以上の生理食塩水でトロンビン様酵素を希釈して、1時間以上静脈内点滴することである。
前記の投与量、投与回数及び投与方法の説明は、本発明の治療剤にも適用される。
ここで、バトロキソビンのマウス、ラット、ウサギ及びイヌに対する急性毒性(LD50 (BU/kg))は以下の表1の通りである。急性毒性試験は、バトロキソビンの静脈内投与により評価した。
表1 バトロキソビンの急性毒性(i.v.)
Figure 0007100854000001
本発明の調節剤及び治療剤は、好中球を有する動物へ適用することができる。動物の具体例としてはヒト、サル、イヌ、ブタ、猫、ウサギ、ラット及びマウスが挙げられる。これらの中では、ヒトが好ましい。
以下に製剤例及び実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
[製剤例1]調節剤(治療剤)の調製
下記の組成を有するバトロキソビン製剤を注射剤として製剤化した。
Figure 0007100854000002
[好中球の調製]
1.採血
健常成人ボランティアに実験目的を説明し同意を得たうえで、20mLのヘパリン加シリンジを用いて、肘正中皮静脈より15mLの末梢静脈血を採収した。
2.好中球の分離・調製
血球分離溶液として、ポリモルホプレップ密度勾配溶液(PROGEN Biotechnik GmbH社製)を使用した。15mLの末梢静脈血に等量の分離用溶液を重層し、480 x gの条件下にて30分間遠心した。上層の単核細胞を吸引除去した後、下層の多核顆粒球を10mLハンクス緩衝液に移し、400 x gの条件下にて20分間遠心した後、細胞塊を2mL BD Pharm LyseTM(Becton Dickinson Sciences社製)で懸濁して氷浴中で5分間溶血処理をした。溶血処理後の細胞懸濁液を300 x gの条件下にて10分間遠心した後、PBS-2mM EDTA緩衝液を用いて細胞塊を再懸濁し、最終容量を15mLとした。これをヒト好中球として以下の実施例に供した。
[実施例1]TNF-αにより惹起された好中球の脱顆粒に対するバトロキソビンの阻害作用
1.実験方法
1%FBS-RPMI1640培地を用いて、1x106 cells/100μLの好中球細胞懸濁液を調製し、接種するまで氷浴中に置いた。
好中球の脱顆粒を惹起する因子として、最終濃度が50ng/mLの炎症性サイトカインヒトリコンビナントTNF-α(hrTNF-α、Peprotec社製)を使用した。
浮遊細胞用24ウェルプレート(Greiner社製)中の1%FBS-RPMI1640培地へ、被検物質としてバトロキソビン(DF-521、東菱薬品工業製)(最終濃度:0.2BU/mL)単独、ヒトフィブリノーゲン(hFbg、Sigma-Aldrich社製)(最終濃度:2mg/mL)単独、又は、バトロキソビン(最終濃度:0.2BU/mL)とヒトフィブリノーゲン(最終濃度:2mg/mL)との組合せを添加して、各条件培養液(900μL/ウェル)を調製した。
陽性対照物質として、N-ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン(fMLP、Sigma-Aldrich社製)(最終濃度:20nM)を使用した。
なお、ヒトフィブリノーゲンを添加したウェルでは、ヒトフィブリノーゲンを最後に添加し、ヒトフィブリノーゲン添加後に37度条件下で15分間、前インキュベートした。
バトロキソビンとヒトフィブリノーゲンとを添加したウェルにおいてDes Aフィブリンのゲル形成が確認された時点で、100μLの好中球懸濁液をそれぞれの条件培養液(ウェル)に接種し、さらに37度条件下で60分間培養した。
培養終了後、200μLピペットでゲルを取り除き、400μLの培養済み好中球を含む条件培養液へ、PerCP-Cy5.5標識マウス抗ヒトCD66b抗体(BioLegend社製)を添加し、反応後にFACSVerseTMフローサイトメトリー(Becton Dickinson Sciences社製)にかけて、CD66b陽性好中球を脱顆粒好中球として測定した。データはFlowJoTM ver10.1 ソフトウェア(Tommy Digital Biology社製)で解析を行い、値を平均蛍光強度(MFI)で示した。
2.結果
図1に示したように、hrTNF-αは、好中球の脱顆粒を惹起した。
好中球活性化の陽性物質であるfMLPは、hrTNF-αにより惹起された好中球脱顆粒を明らかに増強した。
バトロキソビン(DF-521)の単独添加と、ヒトフィブリノーゲン(hFbg)の単独添加は、どちらもhrTNF-αにより惹起された好中球脱顆粒にはあまり影響しなかった。
一方、バトロキソビンとヒトフィブリノーゲンとの添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球の脱顆粒を明らかに阻害した。
ここで、生体内ではフィブリノーゲンが好中球の周りに常時に存在している。したがって、生体へ投与されたバトロキソビンは、炎症発生時に炎症性サイトカインによって惹起される好中球の脱顆粒、すなわち、好中球の活性化を調節できる。
[実施例2]TNF-αにより惹起された好中球のMac-1(CD18/CD11b)発現に対するバトロキソビンの阻害作用
1.実験方法
実施例1の「1.実験方法」と同じ方法で、好中球を各被検物質と共に培養した。
培養終了後、200μLピペットでゲルを取り除き、400μLの培養済み好中球を含む条件培養液中へ、APC-Cy標識マウス抗ヒトCD11b抗体(BioLegend社製)及びPE標識マウス抗CD18抗体(BioLegend社製)を添加し、反応後にFACSVerseTMフローサイトメトリー(Becton Dickinson Sciences社製)にかけて、Mac-1陽性好中球を活性化好中球として測定した。データはFlowJoTM ver10.1 ソフトウェア(Tommy Digital Biology社製)で解析を行い、値を平均蛍光強度(MFI)で示した。
2.結果
図2に示したように、hrTNF-αは、好中球のMac-1発現を惹起した。
好中球活性化の陽性物質であるfMLPは、hrTNF-αにより惹起された好中球のMac-1発現を明らかに増強させた。
バトロキソビン(DF-521)の単独添加と、ヒトフィブリノーゲン(hFbg)の単独添加は、どちらもhrTNF-αにより惹起された好中球のMac-1発現にはあまり影響しなかった。
一方、バトロキソビンとヒトフィブリノーゲンとの添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球のMac-1発現を明らかに阻害した。
ここで、生体内ではフィブリノーゲンが好中球の周りに常時に存在している。したがって、生体へ投与されたバトロキソビンは、炎症発生時に炎症性サイトカインによって惹起される好中球のMac-1発現、すなわち、好中球の活性化を調節できる。
[実施例3]TNF-αにより惹起された好中球のNETs形成に対するバトロキソビンの阻害作用
1.実験方法
浮遊細胞用24ウェルプレートのウェル底にカバースリップを敷いたうえで、前記の実施例1の「1.実験方法」と同じ方法で好中球を各被検物質と共に培養した。
但し、陽性対照物質fMLPの最終濃度は10nMとした。
培養終了後、PBSで洗浄し、2.5%グルタルアルデヒドを含有する0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)で2時間、前固定を行った。0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)で10分間3回洗浄後に、1%オスミウム酸で30分間固定した。
次に50%、70%、80%及び90%エタノールでそれぞれ10分間1回ずつ、さらに無水エタノールで10分間3回脱水を行った。t-ブチルアルコールで10分間3回浸漬置換を行い、t-ブチルアルコールで凍結乾燥した(JFD-310、JEOL社製)。
カバースリップを24ウェルプレートから取り出して、導電性両面テープを用いて、走査電子顕微鏡の試料台に貼り付けた。オスミウムプラズマコーター(Neoc-Pro、メイワフォーシス社製)で蒸着を行い、走査電子顕微鏡(JSM-6510LV、JEOL社製)を使用し、加速電圧が15kvの条件下で観察及び撮影を行った。
2.結果
結果を図3に示す(矢印はNETsを示す)。
hrTNF-αは、好中球のNETs形成を惹起した(図3左上)。
好中球活性化の陽性対照物質であるfMLPは、好中球のNETs形成を明らかに引き起こした(図3右上)。
ヒトフィブリノーゲンの単独添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球のNETs形成を明らかに増強した(図3左下)。
一方、バトロキソビンとヒトフィブリノーゲンとの添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球のNETs形成を明らかに阻害した(図3右下)。
ここで、生体内ではフィブリノーゲンが好中球の周りに常時に存在している。したがって、生体へ投与されたバトロキソビンは、炎症発生時に炎症性サイトカインによって惹起される好中球のNETs形成、すなわち、好中球の活性化を調節できる。
[実施例4]TNF-αにより惹起された好中球の経内皮遊走に対するバトロキソビンの阻害作用
本実施例では、hrTNF-αにより惹起された好中球の経内皮遊走アッセイを用いて、好中球の経内皮遊走に対するバトロキソビンの阻害作用を評価した。
1.実験方法
好中球の経内皮遊走アッセイは、Pliyev等の方法(Boris K. Pliyev et al, Molecular Immunology, 48, 1168-1177, 2011)に従い実施した。内皮細胞として、5%FBS-EGM-2内皮増殖培地(Lonza社製)で前培養した臍帯静脈内皮細胞(Human umbilical vein endothelial cells、HUVECs、Lonza社製)を使用した。5%FBS-EGM-2培地で再調製した7.0 x 104 HUVECsを含有する200μLの細胞懸濁液を、フィブロネクチンでコーティングしたフィルター付き上槽チャンバー(フィルター直径、6.5mm、ポアサイズ、3μm、Corning社製)に播き、24ウェルプレートの下槽チャンバーには800μLの5%FBS-EGM-2培地を加え、3日間培養したところ、HUVECsが上槽チャンバーのフィルターに単層状態で充満した。
実験当日、24ウェル浮遊細胞培養用プレート(Greiner社製)のウェルへ、前記の[好中球の調製]で分離及び調製したヒト好中球を1%FBS-RPMI1640培地で最終細胞濃度が1.0 x 107細胞/ウェルになるように調製した細胞懸濁液を加え、さらに1%FBS-RPMI1640培地で調製した被検物質溶液をウェルへ添加した。各被検物質の最終濃度は、バトロキソビン単独添加では0.2BU/mL、ヒトフィブリノーゲン単独添加では2.0mg/mL、バトロキソビンとヒトフィブリノーゲンの組合せの添加ではバトロキソビンが0.2BU/mLであり、ヒトフィブリノーゲンが2.0mg/mLであった。かかる最終濃度を有し、かつ、実験系の最終容量が1mLとなる条件下で1時間培養を行い、好中球を前処理した。
前処理した好中球を回収し、PBSで洗浄後に1%FBS-RPMI1640培地で1.0 x 107細胞/mLの前処理好中球懸濁液を調製した。
次にHUVECsが生存している上槽チャンバーを200μLの1%FBS-RPMI1640で2回洗浄した。
洗浄後のHUVECsが生存している上槽チャンバーに、前記の1.0 x 107細胞/mLの前処理好中球懸濁液を100μL加えた。下槽チャンバーには1%FBS-RPMI1640培地で調製した最終濃度50ng/mLのhrTNF-α溶液を加えた後、3時間培養し、好中球を下槽チャンバーに遊走させた。
下槽チャンバーに遊走したヒト好中球を回収し、経内皮遊走好中球として、その数を血球計算盤で数えた。
2.結果
図4に示したように、hrTNF-αは、好中球の経内皮遊走を惹起した。
バトロキソビン(DF-521)の単独添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球の経内皮遊走にはあまり影響しなかった。
ヒトフィブリノーゲン(hFbg)の単独添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球の経内皮遊走を明らかに増強させた。
一方、バトロキソビンとヒトフィブリノーゲンとの添加は、hrTNF-αにより惹起された好中球の経内皮遊走を明らかに阻害した。
ここで、生体内ではフィブリノーゲンが好中球の周りに常時に存在している。したがって、生体へ投与されたバトロキソビンは、炎症発生時に炎症性サイトカインによって惹起される好中球の経内皮遊走、すなわち、好中球の活性化を調節できる。
[実施例5]急性期の下肢虚血筋肉組織における好中球の組織浸潤に対するバトロキソビンの阻害作用
1.実験方法
(1)DIOマウス下肢虚血モデルの作成
日本チャールス・リバー(株)にて、出生後4週の雄性C57BL6/Jマウスに高脂肪食(5.25Kcal/g、D12492, American Research Diet 社製)を連続的に摂取させ、DIO(diet induced obesity)マウスとした。10週齢のDIOマウスを日本チャールス・リバー(株)から購入し、高脂肪食を摂取させて、2週間の馴化を行い、実験に供した。
12週齢のDIOマウスを用い、片側下肢虚血モデルをTsukada等の方法(Tsukada S. et al:Identification of mouse colony-forming endothelial progenitor cells for postnatal neovascularization:a novel insight highlighted by new mouse colony-forming assay. Stem Cell Res Ther., 4(1): 20-33, 2013)に従って作製した。具体的には、マウスに1.5~2.0%イソフルラン(Baxter社製)を吸入させて麻酔し、左下肢の鼠経靭帯の遠心端部位に皮膚切開を実施した。大腿動脈の近心端を結紮した後に、伏在動脈の遠心端を結紮したうえで、すべての側枝を剥離・切除した。その後、外科用ホチキスを用い、皮膚切開口を閉じた。
下肢虚血モデル作製後、モデル群(Model group)には生理食塩水を、バトロキソビン群(DF-521 group)には30BU/kgのバトロキソビンを腹腔内に投与し、マウスをケージに戻した。偽手術(Sham Operation)群では皮膚切開口のみを行った。
下肢虚血モデル作製後1日目(16h)または2日目(36h)に、140μL/マウスの生理食塩水で1:1比率に希釈したソムノペンチル(64.8mg/100mL、Somnopentyl(登録商標)、Kyoritsu Seiyaku社製)を腹腔内注射し、麻酔下で心臓から全血液を採収した。BD Pharm LyseTM Lysing buffer (BD Biosciences社製)を使用して、全血を溶血した。溶血後の細胞に対して、ウサギ抗マウス抗体を用いて、Ly6C-PE及びLy6G-PerCP Cy5.5 (Biolegend社製)染色を行った。血液1mL中の単球及び好中球を、それぞれ、Ly6C+Ly6G-細胞及びLy6C+Ly6G+細胞集団として評価した。
(2)組織学的検査
麻酔下で採血後にマウスの虚血下肢を切除し、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した。固定された組織をパラフィンで包埋し、組織学的検査用、ミエロペルオキダーゼ(myeloperoxidase、MPO)免疫組織化学染色用、及び、ヘマトキシリン・エオシン(hematoxylin-eosin、HE)染色用の病理スライド標本を作製した。Target Retrieval Solution pH9.0 (DAKO社製)を使用し、電子レンジを用いて、98度、15分間の条件下で脱パラフィン標本のMPO抗原の復元を行った。MPO免疫組織化学染色には、1次抗体として10%正常ヤギ血清/0.25%カゼイン含有のPBSで100倍希釈したウサギ抗MPO抗体(Abcam社製)を用いた。スライド標本を、1次抗体と、4度下で一晩反応させた後に、PBSで洗浄し、組織中のPeroxidase活性を3%H2O2-MeOHを用いて室温で10分間ブロックした。続いて、スライド標本にHRP(horse radish peroxidase)標識2次抗体 (Histofine(登録商標) SimpleStainTM Mouse MAX PO, Nichirei Biosciences社製)を加え、室温で1時間反応させた。前記の標本をPBSで洗浄し、DAB(3,3'-Diaminobenzidine tetrahydrochloride, DAKO社製)と反応・発色させ、MPO陽性細胞を可視化させた。さらにPBSで洗浄し、ヘマトキシリンで核染色を行った。染色標本をマリノールで封入した。陰性対照には、1次抗体として500倍希釈のウサギIgG(DAKO社製)を用いた。各標本を、光学顕微鏡下(DP73(登録商標)、Olympus社製)で観察し、MPO陽性細胞の評価は、cellSense(登録商標)(Olympus社製)ソフトを用いて行った。
(3)統計処理
全てのデータを、平均値または平均値±SDで示した。インビボの下肢虚血実験ではKruskal-Wallis検定を用い、群間の分散分析を行った後に、多群間の比較をした。P<0.05を統計的な有意差水準とした。
2.結果
(1)バトロキソビンの血中好中球数に対する影響
表2.DIOマウス下肢虚血モデルにおける血中白血球数に対するバトロキソビンの影響(平均値±SD x105/mL血液;n=2)
Figure 0007100854000003

Figure 0007100854000004
表2に示したように、下肢虚血モデル作製後1日目(16h)の全白血球数は、モデル群の13.5 x105/mLに対して、バトロキソビン群は5.4 x105/mLと低かった。2日目(36h)には、バトロキソビン群の全白血球数は、モデル群の1日目のレベルに戻った。
同様に、下肢虚血モデル作製後1日目(16h)の好中球数と単球数は、モデル群と比べて、バトロキソビン群は減少していた。具体的には、好中球数は9.59 x105/mLから3.29 x105/m Lに減少し、単球数は0.57 x105/mL から0.32 x105/mL に減少していた。2日目(36h)には、バトロキソビン群の好中球数と単球数がいずれもモデル群の1日目のレベルに戻った。
(2)虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤(HE染色)に対するバトロキソビンの阻害作用
HE染色を行った虚血下肢筋肉組織像を図5に示す。
モデル群(Model group)では、虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤が、モデル作製後の1日目(Day1)より2日目(Day2)のほうが多かった。
一方、バトロキソビン群(DF-521 group)の好中球の組織浸潤はモデル群よりも少なかった。特に、モデル作製後の2日目では、バトロキソビン群の好中球の組織浸潤がモデル群よりも明らかに少なかった。
したがって、生体へ投与されたバトロキソビンは、虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤、すなわち、好中球の活性化を調節できる。
(3)虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤(MPO染色)対するバトロキソビンの阻害作用
MPO免疫組織化学染色の陽性細胞として観察される浸潤好中球を、X40高倍視野(HPF)の光学顕微鏡で定量化した。結果を図6に示す。
モデル群(Model group)では、好中球の組織浸潤が、モデル作製後の1日目より2日目のほうが明らかに多く、1日目の3.7倍(93.8/25.3)であった。
一方、バトロキソビン群(DF-521 group)では、好中球の組織浸潤数がモデル群と比べて明らかに少なく、1日目ではモデル群の30.8%であり、2日目ではモデル群の25.8%であった(P<0.001)。
したがって、生体へ投与されたバトロキソビンは、虚血下肢筋肉組織への好中球の組織浸潤、すなわち、好中球の活性化を調節できる。
本発明は、好中球活性化調節剤として、さらには、好中球活性化に起因する種々の疾患の治療薬として利用することが可能である。

Claims (6)

  1. トロンビン様酵素を有効成分として含有する、好中球活性化調節剤(但し、下部尿路疾患治療剤、下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤及び下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤を除く)であって、
    好中球活性化調節が、好中球の脱顆粒の阻害、好中球のMac-1発現の阻害又は好中球のNETs形成の阻害である、好中球活性化調節剤。
  2. トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選択される、請求項1に記載の好中球活性化調節剤。
  3. トロンビン様酵素がバトロキソビンである、請求項1に記載の好中球活性化調節剤。
  4. 好中球活性化調節が、好中球の脱顆粒の阻害である、請求項1に記載の好中球活性化調節剤。
  5. 好中球活性化調節が、好中球のMac-1発現の阻害である、請求項1に記載の好中球活性化調節剤。
  6. 好中球活性化調節が、好中球のNETs形成の阻害である、請求項1に記載の好中球活性化調節剤。
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