ここで、特許文献1の構造部材は、軸圧壊のエネルギー吸収量の増加を図るものであり、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合では、エネルギー吸収量の増加が期待できない。
本発明は、上記事実を考慮して、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量を増加させることができる車両用フレーム部材を得ることが目的である。
第1態様に係る車両用フレーム部材は、車両幅方向内側に開口する断面ハット形状とされた第一パネルであって、一対のフランジ部と、各々が前記一対のフランジ部の各々から車両幅方向外側へ張り出した一対の第一壁部と、前記一対の第一壁部の車両幅方向外側の端部同士を連結する連結壁部と、を有する第一パネルと、車両幅方向外側に開口する断面ハット形状、又は、平板状とされた第二パネルであって、前記連結壁部に対向する対向壁部と、各々が前記一対のフランジ部の各々と接合された一対の接合部と、を有する第二パネルと、を備える車両用フレーム部材であって、各々が前記一対の第一壁部の各々を含み前記連結壁部から前記対向壁部へ達する一対の第二壁部と、前記連結壁部と、前記対向壁部と、で囲まれた閉断面構造とされ、前記連結壁部及び前記対向壁部が高強度部とされ、前記一対のフランジ部及び前記一対の接合部と、前記一対の第二壁部の各々における前記車両用フレーム部材の車両幅方向外側から内側への曲げ変形時に最もひずみが大きくなる部分とが、前記高強度部の引張強度よりも引張強度が低くされた低強度部とされている。
第1態様に係る車両用フレーム部材によれば、前述のように、連結壁部及び対向壁部が高強度部とされている。このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材の全体が低強度部とされている構成(比較例1)に比べ、車両用フレーム部材の座屈耐荷重が向上する。
また、第1態様に係る車両用フレーム部材によれば、前述のように、一対のフランジ部及び一対の接合部と、一対の第二壁部の各々における車両用フレーム部材の車両幅方向外側から内側への曲げ変形時に最もひずみが大きくなる部分(以下、「最大ひずみ部分」という)とが、高強度部の引張強度よりも引張強度が低くされた低強度部とされている。
ここで、引張強度と延性(物体が弾性限界をこえて、破壊されずに引き伸ばされる性質)との関係は、通常、一方が高ければ他方が低くなるという関係にある。したがって、高強度部よりも引張強度が低い低強度部の延性は、高強度部の延性よりも高くなる。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材の全体が高強度部とされている構成(比較例2)に比べ、一対のフランジ部及び一対の接合部と最大ひずみ部分とでの車両用フレーム部材の破断が抑制される。この結果、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加する。
前述のように、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加し、車両用フレーム部材の座屈耐荷重も向上するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
第2態様に係る車両用フレーム部材は、車両幅方向内側に開口する断面ハット形状とされた第一パネルであって、一対のフランジ部と、各々が前記一対のフランジ部の各々から車両幅方向外側へ張り出した一対の第一壁部と、前記一対の第一壁部の車両幅方向外側の端部同士を連結する連結壁部と、を有する第一パネルと、車両幅方向外側に開口する断面ハット形状、又は、平板状とされた第二パネルであって、前記連結壁部に対向する対向壁部と、各々が前記一対のフランジ部の各々と接合された一対の接合部と、を有する第二パネルと、を備える車両用フレーム部材であって、各々が前記一対の第一壁部の各々を含み前記連結壁部から前記対向壁部へ達する一対の第二壁部と、前記連結壁部と、前記対向壁部と、で囲まれた閉断面構造とされ、前記連結壁部及び前記対向壁部が高強度部とされ、少なくとも、前記一対のフランジ部及び前記一対の接合部と、前記一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向外側の外側部分における前記車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の内側部分とが、前記高強度部の引張強度よりも引張強度が低くされた低強度部とされている。
第2態様に係る車両用フレーム部材によれば、前述のように、連結壁部及び対向壁部が高強度部とされている。このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材の全体が低強度部とされている構成(比較例1)に比べ、車両用フレーム部材の座屈耐荷重が向上する。
また、第2態様に係る車両用フレーム部材によれば、前述のように、少なくとも、一対のフランジ部及び一対の接合部と、一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向外側の外側部分における車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の内側部分とが、高強度部の引張強度よりも引張強度が低くされた低強度部とされている。
ここで、引張強度と延性(物体が弾性限界をこえて、破壊されずに引き伸ばされる性質)との関係は、通常、一方が高ければ他方が低くなるという関係にある。したがって、高強度部よりも引張強度が低い低強度部の延性は、高強度部の延性よりも高くなる。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材の全体が高強度部とされている構成(比較例2)に比べ、一対のフランジ部及び一対の接合部と、前記内側部分とでの車両用フレーム部材の破断が抑制される。この結果、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加する。
前述のように、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加し、車両用フレーム部材の座屈耐荷重も向上するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
第3態様に係る車両用フレーム部材は、前記外側部分における前記内側部分よりも車両幅方向外側の部分が、前記低強度部とされている。
第3態様に係る車両用フレーム部材によれば、外側部分における内側部分と、外側部分における内側部分よりも車両幅方向外側の部分とが、低強度部とされている。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、外側部分における内側部分と、外側部分における内側部分よりも車両幅方向外側の部分とで、車両用フレーム部材の破断が抑制される。
この結果、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
第4態様に係る車両用フレーム部材は、前記外側部分における全部分が前記低強度部とされている。
第4態様に係る車両用フレーム部材によれば、外側部分における全部分が、低強度部とされている。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、外側部分における全部分で車両用フレーム部材の破断が抑制される。
この結果、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
第5態様に係る車両用フレーム部材は、前記外側部分における前記内側部分よりも車両幅方向外側の部分が、前記低強度部の引張強度よりも引張強度が高くされた高強度部とされている。
第5態様に係る車両用フレーム部材によれば、外側部分における内側部分よりも車両幅方向外側の部分が、高強度部とされているため、車両用フレーム部材での座屈が、内側部分で生じるように誘導できる。すなわち、車両用フレーム部材における座屈位置を特定位置に設定できる。
第6態様に係る車両用フレーム部材は、前記一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の部分が、前記低強度部とされている。
第6態様に係る車両用フレーム部材によれば、一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向外側の外側部分と、一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の部分とが、低強度部とされている。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向外側の外側部分と、一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の部分とで、車両用フレーム部材の破断が抑制される。
この結果、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
第7態様に係る車両用フレーム部材は、前記一対の第二壁部の各々の全部分が、前記低強度部とされている。
第7態様に係る車両用フレーム部材によれば、一対の第二壁部の各々の全部分が、低強度部とされている。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、一対の第二壁部の各々の全部分で車両用フレーム部材の破断が抑制される。
この結果、車両用フレーム部材の破断までの変形量が増加するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
第8態様に係る車両用フレーム部材は、前記一対の第二壁部の各々の車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の部分が、前記低強度部の引張強度よりも引張強度が高くされた高強度部とされている。
第8態様に係る車両用フレーム部材によれば、一対の第二壁部の各々の車両幅方向の中央よりも車両幅方向内側の部分が、高強度部とされているため、車両用フレーム部材での座屈が、外側部分で生じるように誘導できる。すなわち、車両用フレーム部材における座屈位置を特定位置に設定できる。
第9態様に係る車両用フレーム部材は、前記一対の第一壁部の各々と前記連結壁部との間の稜線部が、前記低強度部の引張強度よりも引張強度が高くされた高強度部とされている。
第9態様に係る車両用フレーム部材によれば、一対の第一壁部の各々と連結壁部との稜線部が、低強度部の引張強度よりも引張強度が高くされた高強度部とされている。このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材の座屈耐荷重が向上する。
第10態様に係る車両用フレーム部材では、前記第二パネルは、車両幅方向外側に開口する断面ハット形状とされ、前記一対の接合部と、各々が前記一対の接合部の各々から車両幅方向内側へ張り出した一対の第三壁部と、前記一対の第三壁部の車両幅方向内側の端部同士を連結する前記対向壁部と、を有し、前記一対の第三壁部の各々と前記対向壁部との間の稜線部が、前記低強度部の引張強度よりも引張強度が高くされた高強度部とされている。
第10態様に係る車両用フレーム部材によれば、一対の第三壁部の各々と対向壁部との稜線部が、低強度部の引張強度よりも引張強度が高くされた高強度部とされている。このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材の座屈耐荷重が向上する。
本発明は、上記構成としたので、車両の側面衝突時に、車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量を増加させることができるという優れた効果を有する。
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。なお、各図に適宜示される矢印FR、矢印UP及び矢印OUTは、それぞれ、車両前方側、車両上方側、車両幅方向外側を示している。また、車両幅方向は、車両の左右方向に沿った方向であり、車両幅方向において中央から両端側へ向かう方向と車両幅方向外側といい、その反対方向を車両幅方向内側という。また、以下では、車両における前、後、左、右、上及び下を、それぞれ、単に、前、後、左、右、上及び下と表現する場合がある。また、各部の車両幅方向外側の端部を外端部といい、各部の車両幅方向内側の端部を内端部という場合がある。
(車両用フレーム部材10)
本実施形態に係る車両用フレーム部材10について説明する。
図1は、車両用フレーム部材10を示す斜視図である。図2は、車両用フレーム部材10を示す正断面図(図1の2-2線断面図)である。
図1に示す車両用フレーム部材10は、例えば、自動車等の車両におけるサイドシル(ロッカ)に適用される。サイドシルは、車両の側面開口部を構成するメンバーのひとつであり、サイドドアの下方に配置される部材である。車両用フレーム部材10は、具体的には、図1及び図2に示されるように、第一パネル30と、第二パネル20と、を備えている。
第一パネル30は、車両幅方向内側に開口する断面ハット形状とされている。具体的には、第一パネル30は、一対のフランジ部32と、一対の張出壁部34(第一壁部の一例)と、連結壁部36と、を有している。
一対の張出壁部34は、各々が一対のフランジ部32の各々から車両幅方向外側へ張り出している。連結壁部36は、一対の張出壁部34の外端部同士を連結している。
第二パネル20は、車両幅方向外側に開口する断面ハット形状とされている。具体的には、第二パネル20は、一対のフランジ部22(接合部の一例)と、一対の張出壁部24(第三壁部の一例)と、対向壁部26と、を有している。
一対の張出壁部24は、各々が一対のフランジ部22の各々から車両幅方向内側へ張り出している。対向壁部26は、一対の張出壁部24の車両幅方向内側の端部同士を連結している。対向壁部26は、第一パネル30の連結壁部36に対して対向している。
一対のフランジ部22は、各々が、第一パネル30における一対のフランジ部32の各々と接合されている。具体的には、フランジ部22は、例えば、スポット溶接により、フランジ部32に対して接合されている。
車両用フレーム部材10は、第一パネル30及び第二パネル20によって、閉断面構造に形成されている。具体的には、車両用フレーム部材10は、各々が連結壁部36から対向壁部26へ達する一対の横壁部50(第二壁部の一例)と、連結壁部36と、対向壁部26と、で囲まれた閉断面構造とされている。
一対の横壁部50は、車両上下方向に間隔をあけて車両幅方向に沿った壁部である。横壁部50は、第一パネル30の張出壁部34と、第二パネル20の張出壁部24と、で構成されている。すなわち、横壁部50は、第一パネル30の張出壁部34と、第二パネル20の張出壁部24と、を含む壁部である。
閉断面構造とされた車両用フレーム部材10では、連結壁部36は、一対の横壁部50の外端部を連結する連結壁部ともいえる。この連結壁部36は、車両用フレーム部材10における車両幅方向外側の部分を構成する外壁部ともいえる。
また、閉断面構造とされた車両用フレーム部材10では、対向壁部26は、一対の横壁部50の内端部を連結する連結壁部ともいえる。この対向壁部26は、車両用フレーム部材10における車両幅方向内側の部分を構成する内壁部ともいえる。
さらに、閉断面構造とされた車両用フレーム部材10では、第一パネル30の一対のフランジ部32、及び第二パネル20の一対のフランジ部22が、横壁部50の車両幅方向中央50Aに配置されたフランジ部ともいえる。
また、一対の横壁部50、連結壁部36及び対向壁部26は、平板状に形成されており、閉断面内(車両用フレーム部材10の内部空間)へ向けて凸状(例えばV字状)とされた溝(くぼみ)が形成されていない。
なお、車両用フレーム部材10(第一パネル30及び第二パネル20)としては、鋼板やアルミ合金板などの金属板が用いられる。さらに具体的には、車両用フレーム部材10として、例えば、ホットスタンプ(熱間プレス加工)用ボロン鋼板(22MnB5等)などが用いられる。
ここで、車両用フレーム部材10は、連結壁部36及び対向壁部26が高強度部とされている。また、一対の張出壁部34の各々と連結壁部36との間の稜線部35が、高強度部とされている。さらに、一対の張出壁部24の各々と対向壁部26との間の稜線部25が、高強度部とされている。
高強度部の引張強度は、例えば、1500MPa以上とされている。なお、高強度部は、図2において、ハッチング部分(破線部分)として示されている。また、各部の高強度部は、同じ引張強度である必要はなく、少なくとも、後述の低強度部の引張強度よりも高い引張強度を有していればよい。
また、車両用フレーム部材10は、第一パネル30の一対のフランジ部32、及び第二パネル20の一対のフランジ部22が、低強度部とされている。また、一対のフランジ部32の各々と一対の張出壁部34の各々との間の稜線部33が、低強度部とされている。さらに、一対のフランジ部22の各々と一対の張出壁部24の各々との間の稜線部23が、低強度部とされている。
さらに、横壁部50が低強度部とされている。すなわち、横壁部50の車両幅方向中央50Aよりも車両幅方向外側の外側部分53と、横壁部50の車両幅方向中央50Aよりも車両幅方向内側の内側部分52と、が低強度部とされている。さらに言えば、外側部分53における全部分と、内側部分52における全部分とが、低強度部とされている。すなわち、横壁部50の全部分が低強度部とされている。さらに換言すれば、横壁部50の外側部分53における車両幅方向中央53Aよりも車両幅方向内側の内側部分66を含んだ領域が、低強度部とされている。なお、「内側部分66」が第2態様における「内側部分」に相当し、「内側部分52」が第6態様及び第8態様における「車両幅方向中央よりも車両幅方向内側の部分」に相当する。
内側部分66は、横壁部50における車両用フレーム部材10の車両幅方向外側から内側への曲げ変形時に最もひずみが大きくなる部分(最大ひずみ部分)でもある。すなわち、車両用フレーム部材10は、最大ひずみ部分が低強度部とされている。なお、最大ひずみ部分は、例えば、車両用フレーム部材10の3点曲げ挙動、又は後述のポール圧潰挙動を、実験かシミュレーションによって求めることで特定される。
低強度部の引張強度は、高強度部の引張強度よりも低くされている。低強度部の引張強度は、例えば、1000MPa以下とされている。なお、低強度部は、図2において、白抜き部分として示されている。また、各部の低強度部は、同じ引張強度である必要はなく、少なくとも、高強度部の引張強度よりも低い引張強度を有していればよい。
なお、車両用フレーム部材10における高強度部及び低強度部は、車両用フレーム部材10の長手方向(車両前後方向)に沿って形成されている。換言すれば、車両用フレーム部材10は、長手方向(車両前後方向)に強度が一定(均一)とされている。
ここで、高強度部及び低強度部を有する車両用フレーム部材10(第一パネル30及び第二パネル20)の製造方法について説明する。
車両用フレーム部材10の製造方法としては、例えば、ホットスタンプ(熱間プレス加工)を用いた以下の第一製造方法及び第二製造方法のいずれかが用いられる。また、車両用フレーム部材10の製造には、例えば、ボロン鋼板(22MnB5等)が用いられる。
ボロン鋼板(22MnB5等)は、熱間プレス(焼き入れ)を行う前において、例えば、引張強度が590MPaで、伸び限界が20%以上30%以下とされている。ボロン鋼板(22MnB5等)は熱間プレスを行うことで、例えば、引張強度が1500MPaで伸び限界が10%未満とされる。
第一製造方法は、例えば、以下のように行われる。すなわち、鋼板を再結晶温度以上の温度で加熱し、加熱した鋼板をプレス装置に取り付けた金型で塑性加工すると共に、金型との接触により急冷すること(熱間プレス)によって、高強度部を形成する。これにより、高強度部の引張強度は、例えば、1500MPa以上とされている。一方、低強度部は、急冷せずに、金型を温めて徐冷することで形成される。これにより、低強度部の引張強度は、例えば、1000MPa以下、具体的には、熱間プレスを行う前の590MPa程度とされている。
第二製造方法は、例えば、以下のように行われる。すなわち、鋼板を再結晶温度以上の温度で加熱し、加熱した鋼板をプレス装置に取り付けた金型で塑性加工すると共に、鋼板の全体を金型との接触により急冷する。その後、低強度部とされる領域を再度温めて焼き戻すことにより、低強度部を形成する。これにより、高強度部の引張強度は、例えば、1500MPa以上とされている。低強度部の引張強度は、例えば、1000MPa以下、具体的には、熱間プレスを行う前の590MPa程度とされている。
(車両用フレーム部材10の作用効果)
次に、車両用フレーム部材10の作用効果について説明する。
車両用フレーム部材10によれば、連結壁部36及び対向壁部26が高強度部とされている。このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)に比べ、車両用フレーム部材10の座屈耐荷重が向上する。
さらに、車両用フレーム部材10では、稜線部35及び稜線部25が高強度部とされている。これにより、稜線部35及び稜線部25が低強度部とされている構成に比べ、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の座屈耐荷重が向上する。
また、車両用フレーム部材10によれば、一対のフランジ部32、一対のフランジ部22、内側部分66を含む横壁部50(内側部分52、外側部分53)、稜線部33、及び稜線部23が、低強度部とされている。
内側部分66は、横壁部50における車両用フレーム部材10の車両幅方向外側から内側への曲げ変形時に最もひずみが大きくなる部分(最大ひずみ部分)でもある。すなわち、車両用フレーム部材10は、最大ひずみ部分が低強度部とされている。
このため、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)に比べ、一対のフランジ部32と、一対のフランジ部22と、内側部分66(最大ひずみ部分)を含む横壁部50と、での車両用フレーム部材10の破断が抑制される。この結果、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加する。
前述のように、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加し、車両用フレーム部材の座屈耐荷重も向上するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材10の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
また、一対のフランジ部32と一対のフランジ部22とでの車両用フレーム部材10の破断が抑制されることで、一対のフランジ部32と一対のフランジ部22との接合強度が向上する。換言すれば、一対のフランジ部32と一対のフランジ部22が高強度部とされている場合に比べ、車両用フレーム部材10の閉断面を維持できる。
(車両用フレーム部材10の高強度部及び低強度部の形成位置の変形例)
車両用フレーム部材10では、横壁部50の内側部分52及び外側部分53が低強度部とされていたが、これに限られない。例えば、図3に示されるように、横壁部50の外側部分53が低強度部(白抜き部分)とされ、横壁部50の内側部分52が高強度部(ハッチング部分)とされる構成であってもよい。
図3に示す構成においても、図2に示す構成と同様に、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)に比べ、車両用フレーム部材10の座屈耐荷重が向上する。
また、図3に示す構成においても、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)に比べ、一対のフランジ部32と、一対のフランジ部22と、内側部分66(最大ひずみ部分)を含む外側部分53と、での車両用フレーム部材10の破断が抑制される。この結果、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加する。
前述のように、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加し、車両用フレーム部材の座屈耐荷重も向上するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材10の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
また、図3に示す構成では、横壁部50の内側部分52が高強度部とされているため、車両用フレーム部材10の座屈が横壁部50の外側部分53で生じるように誘導できる。すなわち、車両用フレーム部材10における座屈位置を特定位置に設定できる。
さらに、図4に示されるように、例えば、横壁部50の外側部分53における内側部分66が低強度部(白抜き部分)とされ、内側部分52と、外側部分53における外側部分67と、が高強度部(ハッチング部分)とされる構成であってもよい。なお、「外側部分53」が第2態様における「外側部分」に相当し、「外側部分67」が第3態様及び第5態様における「内側部分よりも車両幅方向外側の部分」に相当する。
図4に示す構成においても、図2に示す構成と同様に、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)に比べ、車両用フレーム部材10の座屈耐荷重が向上する。
また、図4に示す構成においても、車両の側面衝突時に、車両用フレーム部材10が車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合において、車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)に比べ、一対のフランジ部32と、一対のフランジ部22と、内側部分66(最大ひずみ部分)と、での車両用フレーム部材10の破断が抑制される。この結果、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加する。
前述のように、車両用フレーム部材10の破断までの変形量が増加し、車両用フレーム部材の座屈耐荷重も向上するため、車両の側面衝突時に車両幅方向外側から内側への曲げ変形を生じた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材10の破断までの荷重変位曲線の積分値)が増加する。
また、図4に示す構成では、横壁部50の内側部分52と、外側部分53における外側部分67と、が高強度部とされているため、車両用フレーム部材10の座屈が横壁部50の外側部分53における内側部分66で生じるように誘導できる。すなわち、車両用フレーム部材10における座屈位置を特定位置に設定できる。
以上のように、車両用フレーム部材10としては、少なくとも、横壁部50の外側部分53における内側部分66が低強度部とされていればよい。したがって、例えば、内側部分66と、横壁部50の内側部分52の一部(例えば、内側部分52の車両幅方向中央52Aに対する車両幅方向内側又は車両幅方向外側の部分)と、が低強度部とされる構成であってもよい。そして、横壁部50の外側部分53における内側部分66が低強度部とされていれば、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加する前述の効果を得ることができる。
(一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22の配置位置の変形例)
車両用フレーム部材10では、一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22が、横壁部50の車両幅方向中央50Aに配置されていたが、これに限られない。例えば、図5に示されるように、一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22は、横壁部50の内側部分52の車両幅方向中央52Aに対する車両幅方向内側に配置されていてもよい。また、例えば、図6に示されるように、一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22は、横壁部50の外側部分53の車両幅方向中央53Aに対する車両幅方向外側に配置されていてもよい。
さらに、例えば、図7に示されるように、一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22は、横壁部50の内端部に配置されていてもよい。換言すれば、車両用フレーム部材10では、第二パネル20として、平板状とされた第二パネル20を用いてもよい。図7に示す構成では、第二パネル20は、一対の張出壁部24(第三壁部の一例)を有せず、一対のフランジ部22(接合部の一例)と、対向壁部26と、を有している。
(車両用フレーム部材10の他の変形例)
車両用フレーム部材10は、自動車等の車両におけるサイドシル(ロッカ)に適用されていたが、これに限られない。車両用フレーム部材10としては、例えば、自動車等の車両におけるセンタピラーに適用されていてもよい。この場合は、車両用フレーム部材10は、車両前後方向ではなく、車両上下方向に沿って配置される。すなわち、車両上下方向に沿った方向が、車両用フレーム部材10の長手方向とされる。
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。
(エネルギー吸収量の評価)
図8及び図9には、比較例1と、比較例2と、本実施形態の車両用フレーム部材10と、におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材10の破断までの荷重変位曲線の積分値)が示されている。
比較例1は、前述のとおり、車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成である。比較例2は、前述のとおり、車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成である。図8及び図9に示すエネルギー吸収量(EA)は、以下の条件により算出した。
部材形状:長手方向(車両前後方向)に沿った長さ600mm、板厚1.4mm、図10に示す断面形状の車両用フレーム部材10を用いた。
部材材料:ボロン鋼(22MnB5)、計算に用いた変形抵抗が図11に示されている。なお、ボロン鋼(22MnB5)は、熱間プレス(焼き入れ)を行う前において、引張強度が590MPaで、伸び限界が20%以上30%以下とされている(図11参照)。ボロン鋼(22MnB5)は熱間プレス(焼き入れ)を行うことで、引張強度が1500MPaで伸び限界が10%未満とされる(図11参照)。低強度部として、熱間プレス(焼き入れ)を行う前における変形抵抗を用い、高強度部として、熱間プレス(焼き入れ)後の変形抵抗を用いた。
計算条件:図12に示す有限要素モデルを用いて、ポール圧潰挙動を計算した。この計算で得られる破断までの荷重・変位曲線の積分値をエネルギー吸収量とした。破断判定は最大主ひずみ値で評価し、低強度部で0.3、高強度部で0.15を超えた場合に破断が生じるとした。
図12に示す有限要素モデルでは、車両用フレーム部材10は、長手方向(車両前後方向)への変位及び車両幅方向への変位が拘束されている。そして、図12に示す有限要素モデルでは、車両用フレーム部材10の長手方向中央を外径50mmのポールで圧潰した。
なお、図9では、車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)を基準とし、その条件に対するエネルギー吸収量(EA)の向上割合を4段階で評価した。図13に示されるように、60%以上向上した場合に、◎(非常に効果が大きい)とし、30%以上60%未満を○(効果が大きい)とし、0%以上30%未満を△(効果はある)とし、0%未満を×(効果がない)とした。
この結果、図8(A)、(C)及び図9に示されるように、車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)では、エネルギー吸収量(EA)が784.3kN・mmとなる。また、図8(A)、(B)及び図9に示されるように、車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)では、エネルギー吸収量(EA)が1014.2kN・mmとなる。
これに対して、図1及び図2に示す本実施形態の車両用フレーム部材10では、比較例1に比べ、車両用フレーム部材の座屈耐荷重(図8(A)の縦軸に相当)も向上し、比較例2に比べ、車両用フレーム部材10の破断までの変形量(図8(A)の横軸に相当)が増加する。この結果、図8(A)、(D)及び図9に示されるように、本実施形態の車両用フレーム部材10では、エネルギー吸収量(EA)が1562.7kN・mmとなる。したがって、本実施形態の車両用フレーム部材10が、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
また、図3に示す構成では、図9に示されるように、エネルギー吸収量が1121.4kN・mmとなる。したがって、図3に示す構成においても、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
また、図4に示す構成では、図9に示されるように、エネルギー吸収量が1081.7kN・mmとなる。したがって、図8に示す構成においても、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
(フランジ部32及びフランジ部22の配置位置とエネルギー吸収量の関係)
図14には、一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22の配置位置を替えた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材10の破断までの荷重変位曲線の積分値)が示されている。
部材形状:長手方向(車両前後方向)に沿った長さ600mm、板厚1.4mm、図15(図7の構成に対応)、図16(図5の構成に対応)、図17(図1及び図2の構成に対応)及び図18(図6の構成に対応)に示す断面形状の車両用フレーム部材10を用いた。他の条件は、前述の条件と同様である。
この結果、図14に示されるように、図7(図15)に示す車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)では、エネルギー吸収量(EA)が655.2kN・mmとなる。また、図7に示す車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)では、エネルギー吸収量(EA)が751.7kN・mmとなる。
これに対して、図7に示す車両用フレーム部材10では、エネルギー吸収量(EA)が1488.4kN・mmとなる。したがって、図7に示す車両用フレーム部材10が、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
また、図14に示されるように、図5(図16)に示す車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)では、エネルギー吸収量(EA)が650.5kN・mmとなる。また、図5に示す車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)では、エネルギー吸収量(EA)が746.9kN・mmとなる。
これに対して、図5に示す車両用フレーム部材10では、エネルギー吸収量(EA)が1527.7kN・mmとなる。したがって、図5に示す車両用フレーム部材10が、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
また、図14に示されるように、図1、2(図17)に示す車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)では、エネルギー吸収量(EA)が602.5kN・mmとなる。また、図1、2に示す車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)では、エネルギー吸収量(EA)が789.1kN・mmとなる。
これに対して、図1、2に示す車両用フレーム部材10では、エネルギー吸収量(EA)が1287.4kN・mmとなる。したがって、図5に示す車両用フレーム部材10が、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
また、図14に示されるように、図6(図18)に示す車両用フレーム部材10の全体が低強度部とされている構成(比較例1)では、エネルギー吸収量(EA)が440.2kN・mmとなる。また、図6に示す車両用フレーム部材10の全体が高強度部とされている構成(比較例2)では、エネルギー吸収量(EA)が343.1kN・mmとなる。
これに対して、図6に示す車両用フレーム部材10では、エネルギー吸収量(EA)が521.2kN・mmとなる。したがって、図6に示す車両用フレーム部材10が、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
以上のように、一対のフランジ部32及び一対のフランジ部22の配置位置に関わらず、本実施形態の構成では、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
(車両用フレーム部材10板厚とエネルギー吸収量の関係)
図19には、車両用フレーム部材10の板厚を2.1mmに替えた場合におけるエネルギー吸収量(車両用フレーム部材10の破断までの荷重変位曲線の積分値)が示されている。なお、他の条件は、前述の条件と同一である。
図19に示されるように、車両用フレーム部材10の板厚を2.1mmに替えて、エネルギー吸収量を算出した場合においても、比較例1及び比較例2に比べ、エネルギー吸収量が増加することがわかる。
したがって、車両用フレーム部材10の板厚が、エネルギー吸収量の増加の効果に与える影響は小さく、少なくとも、車両用フレーム部材10の板厚を1.4mm以上2.1mm以下の範囲では、エネルギー吸収量の増加の効果が得られる。また、車両用フレーム部材10の板厚を1.4mm以上2.1mm以下の範囲を超える場合でも、同様の効果が得られるものと推定される。