[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る電動機の制御方法が適用されるモータ駆動システム100の構成の一例を示すブロック図である。
一実施形態にかかるモータ駆動システム100は、制御装置1と、制御装置2と、第1インバータ3と、第2インバータ4と、3相2重巻線モータ5と、第1電流センサ6と、第2電流センサ7と、バッテリ10と、を含んで構成される。また、3相2重モータ5は、第1巻線群8と、第2巻線群9とを備える。本実施形態の電動機の制御方法は、3相2重巻線モータ5を制御対象とし、制御装置1と2とがそれぞれに対応する巻線群(第1巻線群8、第2巻線群9)を個別に制御する際に制御装置1、2によって実行される。
本実施形態の3相2重巻線モータ5は、u相、v相、w相の3相で構成される巻線群を2つ有する多相巻線電動機である。3相2重巻線モータ5(以下、単に「モータ5」と称する)は、備える2つの巻線群(第1巻線群8、第2巻線群9)がそれぞれに対応する制御装置1及び制御装置2によって個別に制御(PWM制御)されることにより所望の駆動力を発生する。発生した駆動力は、例えば不図示の減速機およびドライブシャフトを介して左右の駆動輪に伝達されることにより車両を駆動させる。
制御装置1及び制御装置2は、それぞれに対応する巻線群を制御するために、各巻線群に個別に対応して設けられた制御装置である。図示するとおり、制御装置1は第一巻線群8に対応して設けられ、制御装置2は第2巻線群9に対応して設けられる。制御装置1及び制御装置2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を含むマイクロコンピュータにより構成される。また、制御装置1、2は、後述する無駄時間制御に用いる制御情報(制御情報1d、2d)を互いに送受信する。詳細は後述する。
制御装置1は、トルク指令値T*
1と、第1電流センサ6の検出値であるu、v相電流検出値i1u、i1vと、制御装置2が出力する制御情報2dと、制御装置1が有するPWMキャリア(キャリア1c)とに基づいて、モータ5に所望のトルクを発生させるための強電素子駆動信号を生成し、パルス信号PWM1として第1インバータ3に出力する。制御装置1の詳細については図3を参照して後述する。
制御装置2は、トルク指令値T*
2と、第2電流センサ7の検出値であるu、v相電流検出値i2u、i2vと、制御装置1が出力する制御情報1dと、制御装置2が有するPWMキャリア(キャリア2c)とに基づいて、3相2重巻線モータ5に所望のトルクを発生させるための強電素子駆動信号を生成し、パルス信号PWM2として第2インバータ4に出力する。制御装置2の詳細については図3を参照して後述する。
なお、トルク指令値T*
1とトルク指令値T*
2は、ドライバのアクセル操作等に応じた要求トルクをモータ5に発生させるために公知の方法により算出されたトルク指令値である。すなわち、制御装置1と制御装置2は、それぞれに入力されたトルク指令値T*
1、T*
2に応じて対応する各巻線群を駆動することにより、モータ5にドライバが所望する要求トルクを発生させる。
第1インバータ3は、3相6アームで構成され、相ごとに2つずつ計6つのパワー素子を備えている。第1インバータ3は、制御装置1から出力されるパルス信号PWM1に応じてパワー素子のそれぞれを駆動させることで、バッテリ10の直流電圧Vdcから三相PWM電圧v1u、v1v、v1wを生成する。生成した三相PWMパルス信号v1u、v1v、v1wは、対応する巻線群(第1巻線群8)に印加される。なお、以下では、第1インバータ3が出力する三相PWMパルス信号v1u、v1v、v1wを「INV-PWMパルス信号1」(PWMパルス信号)と称する。
第2インバータ4は、3相6アームで構成され、相ごとに2つずつ計6つのパワー素子を備えている。第2インバータ4は、制御装置2から出力されるパルス信号PWM2に応じてパワー素子のそれぞれを駆動させることで、バッテリ10の直流電圧Vdcから三相PWM電圧v2u、v2v、v2wを生成する。生成した三相PWMパルス信号v2u、v2v、v2wは、対応する巻線群(第2巻線群9)に印加される。なお、以下では、第2インバータ4が出力する三相PWMパルス信号v2u、v2v、v2wを「INV-PWMパルス信号2」(PWMパルス信号)と称する。
ここで、本実施形態の制御方法が適用される際のモータ駆動システム100の状態について、図2を参照して説明する。
図2は、制御装置1のPWMキャリア(以下、単に「キャリア1c」という)と、制御装置2のPWMキャリア2(以下、単に「キャリア2c」という)の位相差の変化を示す図である。図の上段のとおり、本実施形態におけるキャリア1cとキャリア2cのキャリア周期の設計値は同じである。しかしながら、制御装置1と制御装置2とがそれぞれ有する発振子のハードウェアバラツキによりキャリア1cとキャリア2cのキャリア周期が微小にずれると、キャリア1cとキャリア2cとの間に位相差が生じてしまう。この位相差は、図の上段から下段へと時間の経過とともに変化し、大きくなる。
そして、当該位相差は、制御装置1、2から出力されるパルス信号PWM1、2の同期ずれ、乃至、第1、第2インバータ3、4から出力されるINV-PWMパルス信号1、2が第1、第2巻線群8、9に各々印加されるタイミングのずれを生じさせる。本実施形態は、このような状態を想定し、当該位相差に起因して発生する上記のずれ(同期ずれ、印加タイミングずれ)を抑制するための無駄時間制御を実行する。以下、図3を参照して、無駄時間制御を実行する制御装置1と制御装置2の詳細について説明する。
図3は、制御装置1と制御装置2の詳細なブロック構成図である。図示する通り、制御装置1と制御装置2のブロック構成は基本的には同様である。また、制御装置1と制御装置2は対象となる巻線群が異なる以外は基本的には同様の動作をするものである。また、制御装置1と制御装置2は、いわゆるマスターユニットとスレーブユニットとで定義されるような主従関係ではなく、それぞれが他方の制御装置から出力される制御情報を考慮しながら、対応する巻線群を個別に制御する。以下では、2つの制御装置を代表して、制御装置1の構成とその動作について説明する。
制御装置1は、電流指令値変換器11と、座標変換器12と、通信部13と、無駄時間決定部14と、出力タイミング差推定部15と、無駄時間制御器16、17と、電流制御器18と、非干渉制御器19と、座標変換器110と、PWM変換器111と、加算器112、113とを含んで構成される。
電流指令値変換器11は、モータ5の特性に応じて作成された目標トルク(トルク指令値T*
1)とdq軸電流との変換テーブルを格納しており、トルク指令値T*
1から、当該変換テーブルを参照して、dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを算出する。d軸電流指令値i*
1dは、無駄時間制御器16と通信部13に、q軸電流指令値i*
1qは、無駄時間制御器17と通信部13に出力される。
座標変換器12は、uvw相からdq軸への座標変換を行う変換器である。座標変換器12は、不図示の回転センサから出力されるモータ5の電気角度検出値θに基づいて、第1電流センサ6から出力されるu、v相電流検出値i1u、i1vを座標変換し、変換結果をdq軸電流検出値i1d、i1qとして無駄時間制御器16、17にそれぞれ出力する。
座標変換器110は、dq軸からuvw相への座標変換を行う変換器である。座標変換器110は、モータ5の電気角度検出値θに基づいて、後述の加算器112から出力されるd軸電圧指令値v*
1dと加算器113から出力されるq軸電圧指令値v*
1qとを座標変換し、変換結果をu、v、w相電圧指令値v*
1u、v*
1v、v*
1wとしてPWM変換器111に出力する。
PWM変換器111は、u、v、w相電圧指令値v*
1u、v*
1v、v*
1wから、PWM制御を実現するための強電素子駆動信号D*
1uu、D*
1ul、D*
1vu、D*
1vl、D*
1wu、D*
1wlを生成する。生成した強電素子駆動信号D*
1uu、D*
1ul、D*
1vu、D*
1vl、D*
1wu、D*
1wlは、パルス信号PWM1として、キャリア1cと同期するタイミングで、第1インバータ3に出力される。また、キャリア1cは、キャリア情報として、出力タイミング差推定部15と、無駄時間決定部14と、通信部13とに出力される。
電流制御器18は、dq軸電流検出値i1d、i1qと、dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qとに基づいて、モータ5に所望のトルクを発生させるためのdq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1を算出して、加算器112、113にそれぞれ出力する。dq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1は、公知の手法を用いて算出される。例えば、電流制御器18は、一般的な手法として、dq軸電流検出値i1d、i1qをdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qに一致させるための電流制御(PI制御、モデルマッチング制御)、及び、同じ巻線群内(第1巻線群8内)におけるdq軸間の磁気干渉を打ち消すためのいわゆる非干渉制御を実行することにより、dq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1を算出する。
非干渉制御器19は、制御対象であるモータ5が6相(3相2重)のモータであるため、多相化による相互干渉(磁気干渉)、すなわち、第1巻線群8と第2巻線群9との間の相互干渉を解消するための非干渉制御を実行する。
具体的には、非干渉制御器19は、他方の制御装置(制御装置2)の電流指令値演算器21が出力し、通信部13、23を介して入力されるdq軸電流指令値i*
2d、i*
2qに基づいて、dq軸電圧指令値v*
1d_i2、v*
1q_i2を算出する。すなわち、dq軸電圧指令値v*
1d_i2、v*
1q_i2は、電流制御器28においてdq軸電流検出値i2d、i2qをdq軸電流指令値i*
2d、i*
2qに一致させるための電流制御が実行される時に、非干渉制御器19において算出される。算出したdq軸電圧指令値v*
1d_i2、v*
1q_i2は、巻線群間の磁気干渉により発生する電流振動を抑制するための非干渉化電圧として、加算器112、113にそれぞれ出力される。
加算器112は、電流制御器18から出力されるd軸電圧指令値v*
1d_i1と非干渉制御器19から出力されるd軸電圧指令値v*
1d_i2とを加算することにより、駆動制御信号(駆動制御指令値)としてのd軸電圧指令値v*
1dを算出し、座標変換器110に出力する。
加算器113は、電流制御器18から出力されるq軸電圧指令値v*
1q_i1と非干渉制御器19から出力されるd軸電圧指令値v*
1q_i2とを加算することにより、駆動制御信号(駆動制御指令値)としてのq軸電圧指令値v*
1qを算出し、座標変換器110に出力する。
これらの駆動制御信号(dq軸電圧指令値v*
1d、v*
1q)は、対応する巻線群(第1巻線群8)に所望のトルクを発生させるための駆動指令成分(dq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1)と、2つの巻線群間の磁気干渉を相殺するための非干渉成分(dq軸電圧指令値v*
1d_i2、v*
1q_i2)とを含んで構成される。従って、後段の制御によりdq軸電圧指令値v*
1d、v*
1qに対応するINV-PWMパルス信号1によって第1巻線群8を駆動することにより、巻線群間の磁気干渉を抑制しながらモータ5に所望のトルクを発生させることができる。なお、図3の制御装置1に示す信号においては、dq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1だけではなく、電流指令値変換器11から出力されるdq軸電流指令値i*
d、i*
qも駆動指令成分の一つである。
通信部13は、入力されるdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを、制御情報1dとして、キャリア1cと同期したタイミングで制御装置2に送信する。本実施形態の通信部13は、通信部13、23間の通信手段としてシリアル通信を使用し、制御情報1dをキャリア1cの谷のタイミングで送信する。通信部13、23間で行われる通信の詳細について図4を参照して説明する。
図4は、通信部13による制御情報1d、2dの送受信タイミングを説明する図である。横軸は時間軸を示し、縦軸は、上から順に、制御装置1のキャリア(キャリア1c)、制御装置1が送信するシリアル信号(制御情報1d)、制御装置2が送信するシリアル信号(制御情報2d)、及び、制御装置1が通信部13を介して制御情報2dを受信する受信タイミング情報を示している。
図示するように、制御情報1dは、キャリア1cの谷のタイミングで送信される。また、制御装置2は、制御装置1と同様に制御装置2のキャリア(キャリア2c)の谷のタイミングで制御情報2dを送信している。通信部13は、制御装置2から送信される制御情報2dを受信したタイミング(図の最下段に示す矢印)と制御情報2dのデータ長とを、受信タイミング情報として無駄時間決定部14と出力タイミング差推定部15とに出力する。なお、制御情報2dのデータ長とは、一制御周期に送信されるデータの長さであって、図中の両矢印で示される長さである。
出力タイミング差推定部15(図3参照)は、制御情報2dを受信したタイミング(受信割込み時)のキャリア1cの位相情報と、受信した制御情報2dのデータ長とから、以下式(1)を用いて、キャリア1cとキャリア2cの位相差推定値を算出する。
(数1)
位相差推定値[°]=A-B …(1)
A:受信割込み時のキャリア1cの位相[°]
B:受信した制御情報2dのデータ長に相当する位相差[°]
B=受信した制御情報2dのデータ長[bit]/通信速度[bit/s]/キャリア1cの周期[s]×360[°]
ただし、位相差推定値[°]の範囲は、0≦位相差推定値<360とする。上記式(1)の内容を図で表すと図5のとおりとなる。
図5は、本実施形態における位相差推定値の推定方法を説明する図である。横軸は位相を示し、縦軸は、上から順に、キャリア1cと受信タイミング情報とを示している。また、図の上段には受信した制御情報2dのデータ長に相当する位相差が示されている。
図示するとおり、本実施形態の位相差推定値[°]は、キャリア1cの谷を0°(360°)として、受信割込み時のキャリア1cの位相[°](最下段の上向き矢印参照)から、受信した制御情報2dのデータ長に相当する位相差[°]を減じることにより推定される。推定された位相差推定値は、無駄時間決定部14に出力される。
無駄時間決定部14(図3参照)は、制御装置1のキャリア1cと制御装置2のキャリア2cとの位相差推定値から、第1インバータ3が出力するINV-PWMパルス信号1が対応する巻線群(第1巻線群8)に印加されるタイミングを遅らせるための無駄時間を決定する。無駄時間は、図6で示すフローチャートに従って決定される。
図6は、本実施形態の無駄時間決定部14が実行する無駄時間決定処理を説明するフローチャートである。以下の説明においても、図3を用いて上述したのと同様、制御装置1が行う無駄時間決定処理についてのみ説明する。図6で示す開始から終了までにかかる一制御周期は、モータ駆動システム100が起動している間、一定の間隔で常時実行するように上記のコントローラ(制御装置1)にプログラムされている。
ステップS1では、無駄時間決定部14は、位相差推定値が、制御装置1、2間の通信時間に相当する位相よりも大きいか否かを判定する。位相差推定値が通信時間に相当する位相以下であれば、無駄時間を決定するために続くステップS4の処理が実行される。位相差推定値が通信時間に相当する位相より大きければ、続くステップS2の処理が実行される。なお、ここでの通信時間に相当する位相とは、一制御周期中において、制御装置2から制御情報2dを受信するのに要する時間に相当する位相であって、上述のデータ長に相当する位相と同様に算出可能である。
ステップS2では、無駄時間決定部14は、位相差推定値が180°より小さいか否かを判定する。位相差推定値が180°より小さければ、ステップS3の処理が実行される。位相差推定値が180°以上であれば、ステップS5の処理が実行される。
ステップS3では、無駄時間決定部14は、無駄時間を0制御周期とする。すなわち、無駄時間決定部14は、位相差推定値が制御装置1、2間の通信時間に相当する位相より大きく、且つ、位相差推定値が180°より小さい場合には、PWMパルス信号1が対応する巻線群(第1巻線群8)に印加されるタイミングのずれを実質的に無視できると判断して、当該タイミングを遅らせずに、無駄時間を0(0制御周期)に決定する。
ステップS4では、無駄時間決定部14は、位相差推定値が180°より小さいか否かを判定する。位相差推定値が180°より小さければ、ステップS5の処理が実行される。位相差推定値が180°以上であれば、ステップS6の処理が実行される。
ステップS5では、無駄時間決定部14は、位相差推定値が制御装置1、2間の通信時間に相当する位相より大きく、且つ、位相差推定値が180°以上の場合、又は、位相差推定値が制御装置1、2間の通信時間に相当する位相以下であり、且つ、位相差推定値が180°より小さい場合に実行され、無駄時間を1制御周期に決定する。
ステップS6では、無駄時間決定部14は、位相差推定値が制御装置1、2間の通信時間に相当する位相以下であり、且つ、位相差推定値が180°以上であるため、無駄時間を2制御周期に決定する。
無駄時間決定部14は、上記の通りに無駄時間を決定すると、無駄時間決定処理を終了するとともに、決定した無駄時間を無駄時間制御器16、17に出力する。
無駄時間制御器16、17(図3参照)は、入力されたdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを無駄時間決定部14が決定した制御周期分遅らせて、出力する。
以上、制御装置1及び2の詳細な構成とその動作(無駄時間制御処理)について説明した。これによる作用効果について、図7~13を参照して説明する。
[作用効果]
図7は、本実施形態の制御方法による作用効果を説明するための図である。上段は、制御装置1の各信号、下段は制御装置2の各信号を示している。制御装置1及び制御装置2の横軸は時間軸を示し、縦軸は、上から順に、キャリア(キャリア1c、キャリア2c)、任意の1相にかかるパルス信号PWM1、2、制御演算時間、制御装置(制御装置1、2)が送信する制御情報(制御情報1d、2d)を示す。
まず、従来技術による制御で発生するPWMキャリアの同期ずれを説明する。上述の無駄時間制御を実行しない従来制御では、ある時点のdq軸電流指令値i*
1d、i*
1q(図中の「i*」参照)に基づいて、制御演算(イ)のタイミングでdq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1を算出するとともに、当該dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを制御情報1dとして制御装置2に送信する。そして、制御装置1は、制御演算(イ)のタイミングで算出したdq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1に応じたパルス信号PWM1を、制御演算(イ)の次の制御周期にて送信する((ロ)参照)。
一方で、制御装置2は、制御装置1から送信される制御情報1d(dq軸電流指令値i*
1d、i*
1q)を用いて、非干渉制御器29が制御演算(ハ)のタイミングでdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1を算出し、dq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1に応じたパルス信号PWM2を、制御演算(ハ)の次の制御周期にて送信する((二)参照)。
その結果、従来技術による制御では、制御装置1のキャリア1cと制御装置2のキャリア2cとに位相差が生じることに起因して、制御装置1のパルス信号PWM1と制御装置2のパルス信号PWM2との間に、おおよそ2制御周期弱の同期ずれが生じてしまう(図中の点線両矢印参照)。また、このようにして発生した同期ずれは、時間の経過とともに変化するので、時間の経過とともに当該ずれが大きくなった場合には、それに応じて電流応答の振動も大きくなってしまう。
これに対して、本実施形態の制御装置1によれば、制御装置1のキャリア1cと制御装置2のキャリア2cとの位相差を推定して、推定した位相差推定値に応じて第1インバータ3が出力するINV-PWMパルス信号1を第1巻線群8に印加するタイミングを遅らせる無駄時間制御を実行する。図を参照すれば、制御装置1が備える無駄時間制御器15、17は、位相差推定値の大きさ(本例では通信時間に相当する位相以下であり、且つ、180°以上とする)に応じて、dq軸電流指令値i*
1d、i*
1q(図中の「i*」参照)に対応するパルス信号PWM1の出力を2制御周期遅らせる。
より詳細には、dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qに基づくdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1の算出は制御演算(イ')のタイミングで実行される。そして、制御演算(イ')で算出されたdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1に応じたパルス信号PWM1は、制御演算(イ')の次の制御周期にて送信される((ロ’)参照)。その結果、本実施形態によれば、図で示すとおり、制御装置1のパルス信号PWM1と制御装置2のパルス信号PWM2との間の同期ずれが従来に比べて大きく抑制される。
このように、本実施形態では、制御装置1と制御装置2とが同じ駆動指令成分(dq軸電流指令値i*
1d、i*
1q)に基づいて出力するパルス信号PWM1、2の出力タイミングの時間差が小さくなるように無駄時間を制御することにより、パルス信号PWM1、2の同期ずれを小さくすることができる。結果として、制御装置1と制御装置2が出力するPWMパルス信号1、2に対応するINV_PWMパルス信号1、2が、対応する巻線群にそれぞれ印加されるタイミングのずれを小さくすることができるので、キャリア位相差に起因してモータ5に発生する電流応答の振動を抑制することができる。
すなわち、本実施形態の制御方法によれば、PLL発振回路等の専用のハードウェアを追加することなく、ソフトウェア(プログラム)の変更のみでパルス信号PWM1、2の同期ずれを抑制することができる。また、通常の駆動制御において必要な信号であるdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを制御情報として用いることにより、新たな信号を追加して情報量を増大させることなく同期ずれを抑制することができる。
なお、図示しないが、上記の無駄時間制御を制御周期毎に実行することによりPWMパルス信号に隙間が生じる場合がある。より具体的には、例えば一の制御周期に1制御周期遅らせ、次の制御周期に2制御周期遅らせる無駄時間制御が行われた場合には、当該無駄時間制御周期が切り替わるタイミングに1制御周期分の隙間が生じる。この場合、本実施形態では、新しい方のd軸電流指令値i*
1d(2制御周期遅らせると判断した際の指令値)に基づいて算出されたパルス信号PWM1を当該隙間に適用する。これにより、無駄時間制御によって制御周期間に隙間が生じることを回避することができる。ただし、このようにして発生する隙間に適用する指令値は、必ずしも新しい方のd軸電流指令値i*
1dである必要はなく、古い方(1制御周期遅らせると判断した際の指令値)のd軸電流指令値i*
1dであっても良い。或いは、新しい方と古い方の中間の指令値を演算し、それに基づいて算出されたパルス信号PWM1を当該隙間に適用してもよい。
続いて、図8~13を参照して、本実施形態の制御方法による制御結果について説明する。
図8は、図9~13で示す電流応答の前提となる制御装置1と制御装置2との位相差を説明する図である。横軸は時間軸を示し、縦軸は、上段がキャリア1c、下段がキャリア2cを示している。
図が示すように、キャリア1cとキャリア2cのキャリア周期は同じ設計値であり、100usに設定されている。そして、キャリア2cの位相は、キャリア1cの位相に対して90us遅れている。すなわち、図9~13は、制御装置1と制御装置2との位相差が324°(360°×90μs/100μs)の状態で、d軸電流指令値i*
1dをステップ的に変化させた場合のdq軸電流値i1d、i1q、i2d、i2qのシミュレーション波形を示している。
図9は、本実施形態および従来技術の電流応答を示す図であって、ステップ的に増加するd軸電流指令値i*
1dに対するd軸電流i1dの電流応答を示す図である。図10は、d軸電流指令値i*
1dがステップ的に増加した場合におけるq軸電流i1qの電流応答を示す図である。図11は、d軸電流指令値i*
1dがステップ的に増加した場合におけるd軸電流i2dの電流応答を示す図である。図12は、d軸電流指令値i*
1dがステップ的に増加した場合におけるd軸電流i2qの電流応答を示す図である。そして、図13は、本実施形態の制御方法により得られる効果を説明する図であって、図9で示す点線四角枠内を拡大した図である。
図9~12が示すとおり、従来制御では、d軸電流指令値i*
1dがステップ的に増加した場合、q軸電流i1q、d軸電流i2d、及び、d軸電流i2qにノイズが発生しているのが分かる。このノイズは、制御装置1と制御装置2との位相差に起因して、2つの巻線群間の磁気干渉を適切に打ち消すことができていないことにより発生する。このため、図13で示すように、d軸電流指令値i*
1dに対して実電流(d軸電流i1d)がオーバーシュートしており、電流応答が振動してしまう。
これに対して、本実施形態では、制御装置1と制御装置2とが出力するパルス信号PWM1、2の同期ずれが小さくなるように無駄時間を制御することにより、第1、第2インバータ3、4から出力されるINV_PWMパルス信号1、2が第1、第2巻線群8、9にそれぞれ印加されるタイミングのずれを小さくしている。そのため、2つの巻線群間の磁気干渉を相殺する非干渉制御が適切に働いており、図9~12が示すとおり、q軸電流i1q、d軸電流i2d、及び、d軸電流i2qの乱れが従来に比べて大幅に抑制されているのが分かる。その結果、図13で示すように、d軸電流指令値i*
1dに対する実電流(d軸電流i1d)がオーバーシュートすることなく速やかに収束しており、電流応答の振動を従来制御に比べて抑制できている。
以上が第1実施形態の制御方法の詳細である。以下では、第1実施形態の制御方法の変形例1、2について説明する。
[変形例1]
第1実施形態の電動機の制御方法の変形例1について説明する。変形例1は、非干渉制御器19と非干渉制御器29の構成が、上述の第1実施形態と相違する。以下では、変形例1の無駄時間制御について第1実施形態との相違点を中心に説明する。ただし、非干渉制御器19と非干渉制御器29の構成は同様である為、代表して非干渉制御器19についてのみ説明する。
図14は、変形例1に係る電動機の制御方法が適用されるモータ駆動システム200の構成を示すブロック図である。本実施形態の非干渉制御器19は、電流制御器18において電流制御が行われる時に、巻線間の磁気干渉により発生する電流振動を抑制するために制御装置2が用いるdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1をdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qに基づき算出する。
そして、算出されたdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1は、制御情報d1として統合され、制御装置1のキャリア周期に同期したタイミングで制御装置2に出力される。制御情報d1として制御装置2に入力されたdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1は、加算器122、123にそれぞれ出力される。なお、制御装置2で算出されるdq軸電圧指令値v*
1d_i2、v*
1q_i2も同様に制御装置1の加算器112、113にそれぞれ出力される。このように、本変形例の制御装置1は、2つの巻線群間の磁気干渉を相殺するための非干渉成分(dq軸電圧指令値v*
1d_i2、v*
1q_i2)を制御装置2から出力される制御情報2dから取得する。
以上説明した変形例1の構成によっても、制御装置1と制御装置2がそれぞれ出力するPWMパルス信号の同期ずれを第1実施形態と同様に抑制することができる。
[変形例2]
以下では、変形例2の電動機の制御方法について説明する。本変形例は、キャリア1c、2cにそれぞれ同期したパルス信号(同期パルス信号1cc、2cc)を生成し、これらを受信タイミング情報として無駄時間制御に用いる点が第1実施形態と相違する。以下では、代表して制御装置1の構成およびその動作について説明する。
図15は、変形例2に係る電動機の制御方法が適用されるモータ駆動システム300の構成を示すブロック図である。本実施形態のPWM変換器111は、u、v、w相電圧指令値v*
1u、v*
1v、v*
1wとバッテリ10の直流電源とを用いて、PWM制御を実現するための強電素子駆動信号D*
1uu、D*
1ul、D*
1vu、D*
1vl、D*
1wu、D*
1wlを生成し、キャリア1cに同期して出力する。この時、本実施形態のPWM変換器111は、図16で示すような同期パルス信号1ccを生成する。
また、モータ駆動システム300は、制御装置1の通信部13と制御装置2の通信部14とを電気的に接続するハードウェアライン(導線)114、214を備える。
図16は、同期パルス信号1ccを説明するための図である。図示するとおり、同期パルス信号1ccは、その立ち上がりエッジがキャリア1cの谷に同期するように生成される。生成された同期パルス信号1ccは、通信部13に出力される。
通信部13は、dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを制御情報1dとしてシリアル通信によって制御装置2に送信するとともに、同期パルス信号1ccをハードウェアライン114を用いて制御装置2に伝達する。制御装置2も、制御装置1と同様に、同期パルス信号2ccをハードウェアライン214を用いて制御装置1に伝達する。
そして、通信部13は、制御装置2から受信した同期パルス信号2ccに基づいて、図17で示すような受信タイミング情報を生成する。
図17は、変形例2の通信部13が生成する受信タイミング情報を説明するための図である。図示するように、本実施形態の通信部13は、制御装置2から受信した同期パルス信号2ccの立ち上がりエッジのタイミングを受信タイミング情報として生成して、出力タイミング差推定部15に出力する。
以上説明した変形例2の構成によっても、制御装置1と制御装置2がそれぞれ出力するPWMパルス信号の同期ずれを第1実施形態と同様に抑制することができる。
以上、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、2つの巻線群(第1、第2巻線群8、9)を有する多相巻線電動機5と、巻線群に個別に対応する2つのインバータ(第1、第2インバータ3、4)と、インバータに個別に対応する2つのコントローラ(制御装置1、2)とを備え、コントローラが出力する駆動制御指令値に応じてインバータ(第1、第2インバータ3、4)から出力されるPWMパルス信号を巻線群(第1、第2巻線群8、9)に印加することによってモータ5を制御する制御方法である。この制御方法は、2つのコントローラ間で制御情報を互いに送受信し、2つのコントローラのうち、一のコントローラ(例えば制御装置1)は、他のコントローラ(例えば制御装置2)から制御情報(制御情報1d、2d)を受信したタイミングに基づいて、対応する巻線群にPWMパルス信号(INV-PWMパルス信号1、2)を印加するタイミングを遅らせる。また、一のコントローラは、駆動制御指令の出力タイミングを遅らせることにより、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせる。
これにより、2つのコントローラが互いに送受信する制御情報に基づいて対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせることができるので、PLL発振回路等の専用のハードウェアを要さずに、ソフトウェアの変更のみによって2つのコントローラ間のPWMキャリアの同期ずれを抑制することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、2つのコントローラは、それぞれ固有のキャリア波(キャリア1c、2c)を有し、当該キャリア波に同期して、制御情報(制御情報1d、2d)を送信するとともに巻線群(第1、第2巻線群8、9)にPWMパルス信号(INV-PWMパルス信号1、2)を印加する。これにより、制御装置1、2が第1、第2インバータ3、4が有するパワー素子を駆動するタイミングを推定することが容易となるので、無駄時間を決定する上記の制御をより正確に実行し、パルス信号PWM1、2の出力にかかる同期ずれをより的確に最小化することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、一のコントローラ(例えば制御装置1)から出力される記駆動制御指令値は、当該一のコントローラに対応する巻線群(第1巻線群8)に所望のトルクを発生させるための駆動指令成分と、2つの巻線群間の磁気干渉を相殺するための非干渉成分とを含み、非干渉成分は、他のコントローラ(例えば制御装置2)から出力される制御情報(制御情報2d)に基づいて算出又は取得され、一のコントローラは、他のコントローラから制御情報を受信したタイミングに基づいて、駆動指令成分に基づいて算出されるPWMパルス信号を対応する巻線群に印加するタイミングを遅らせる。これにより、他の制御装置において非干渉制御が遅れなく実行されることを前提に、他の制御装置から制御情報を受信したタイミングに基づいて他の制御装置のPWMパルス信号の出力タイミングを容易に推定することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、2つのコントローラは、それぞれ固有のキャリア波(キャリア1c、2c)を有し、一のコントローラは、他のコントローラから制御情報を受信したタイミングと当該一のコントローラのキャリア波の位相との比較に基づいて、当該一のコントローラのキャリア波と当該他のコントローラのキャリア波とのキャリア位相差を推定し、キャリア位相差に基づいて、対応する巻線群へPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせる。これにより、制御装置1と制御装置2との間でキャリア位相差が発生していても、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングのずれを小さくし、電流応答の振動を抑制することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、一のコントローラは、駆動指令成分に基づいて算出されるPWMパルス信号が対応する巻線群に印加されるタイミングと、当該駆動指令成分に基づいて算出される非干渉成分に対応するPWMパルス信号が他の巻線群に印加されるタイミングの差が最小となるように、駆動指令成分に基づいて算出されるPWMパルス信号を対応する巻線群に印加するタイミングを遅らせる。これにより、制御装置1と制御装置2との間でキャリア位相差が発生していても、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングのずれを小さくし、電流応答の振動をより的確に抑制することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、一のコントローラは、キャリア位相差が2つのコントローラ間の通信時間に相当する位相以下の場合に、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせる。これにより、実質的に有効な場合にのみ対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせるように制御することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、一のコントローラは、キャリア位相差が180°未満の場合は、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを1制御周期遅らせ、キャリア位相差が180°以上の場合は、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを2制御周期遅らせる。これにより、キャリア位相差の大きさに応じて、より適切な無駄時間を設定することができる。また、例えば、2つの制御装置1、2のパルス信号PWM1、2の出力タイミングの時間差を比較して無駄時間を算出するのに比べて、当該無駄時間を決定するための演算量を削減することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、一のコントローラは、キャリア位相差が、通信時間に相当する位相より大きく、且つ、180°以上の場合は、対応する巻線群へPWMパルス信号を印加するタイミングを1制御周期遅らせる。これにより、キャリア位相差の大きさに応じて、より適切な無駄時間を設定することができる。
また、第1実施形態および変形例1、2の電動機の制御方法によれば、一のコントローラは、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせることによりPWMパルス信号の出力周期に隙間が生じる場合には、タイミングを遅らせると判断した際に算出されたPWMパルス信号を当該隙間に出力する。これにより、無駄時間制御によって制御周期間に隙間が生じることを回避することができる。その結果、トルク指令値に対するトルク応答の遅延を小さくすることができる。
[第2実施形態]
以下では、第2実施形態の電動機の制御方法について説明する。本実施形態の制御方法は、制御装置1のキャリア1cのキャリア周期と、制御装置2のキャリア2cのキャリア周期とが動的に変化する点が、第1実施形態と相違する。
図18は、本実施形態のキャリア1cとキャリア2cとの関係を説明するための図である。本実施形態では、図18が示すように、制御装置1のキャリア1cとキャリア2cのキャリア周期が異なる状態が発生する。そして、本実施形態では、制御装置1と制御装置2とがお互いのキャリア周期を知得していない状況を想定する。以下、このような状況における第2実施形態の制御方法について、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
まず、出力タイミング差推定部15が制御装置2のキャリア2cのキャリア周期を推定する。
図19は、出力タイミング差推定部15による制御装置2のキャリア周期の推定方法を説明するための図である。横軸は時間軸を示し、縦軸は、上段が制御装置1が制御装置2から受信する制御情報2dを示し、下段が出力タイミング差推定部15に入力される受信タイミング情報を示している。図19に示すように、出力タイミング差推定部15は、制御装置2から送信される制御情報2dを受信する周期から制御装置2のキャリア周期を推定する。出力タイミング差推定部15は、推定した制御装置2のキャリア周期を無駄時間決定部14に送信する。
無駄時間決定部14は、制御装置2のキャリア周期の推定値から、図20で示すフローチャートに従って無駄時間を決定する。
図20は、本実施形態の無駄時間決定部14が実行するようにプログラムされた無駄時間決定処理を説明するフローチャートである。
ステップS20では、無駄時間決定部14は、制御装置1のキャリア周期が推定した制御装置2のキャリア周期よりも大きいか否かを判定する。制御装置1のキャリア周期が制御装置2のキャリア周期よりも大きければ、ステップS21の処理が実行される。制御装置1のキャリア周期が制御装置2のキャリア周期以下であれば、ステップS22の処理が実行される。
ステップS21では、無駄時間決定部14は、無駄時間を0に決定する。
ステップS22では、無駄時間決定部14は、無駄時間を以下式(2)により求まる値に決定する。
(数2)
無駄時間=(制御装置2のキャリア周期×2/制御装置1のキャリア周期)-1…(2)
ただし、式(2)の無駄時間の単位は制御周期とする。また、式(2)中における(制御装置2のキャリア周期×2/制御装置1のキャリア周期)の値は、小数第一位を四捨五入した整数とする。
無駄時間決定部14は、上記の通りに無駄時間を決定すると、無駄時間決定処理を終了するとともに、決定した無駄時間を無駄時間制御器16、17に出力する。
無駄時間制御器16、17は、入力されたdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを無駄時間決定部14が決定した制御周期分遅らせて、出力する。
以上が第2実施形態による無駄時間制御処理である。これによる作用効果について、図21を参照して説明する。
[作用効果]
図21は、本実施形態の電動機の制御方法により得られる効果を説明するための図である。上段は、制御装置1の各信号、下段は制御装置2の各信号を示している。制御装置1及び制御装置2の横軸は時間軸を示し、縦軸は、上から順に、キャリア(キャリア1c、キャリア2c)、任意の1相にかかるパルス信号PWM1、2、制御演算時間、制御装置(制御装置1、2)が送信する制御情報(制御情報1d、2d)を示す。
まず、従来技術による制御で発生するPWMキャリアの同期ずれについて説明する。上述の無駄時間制御を実行しない従来の制御装置1は、ある時点のdq軸電流指令値i*
1d、i*
1qに基づいて、制御演算(イ)のタイミングでdq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1を算出するとともに、当該dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qを制御情報1dとして制御装置2に送信する。そして、制御装置1は、制御演算(イ)のタイミングで算出したdq軸電圧指令値v*
1d_i1、v*
1q_i1に応じたパルス信号PWM1を、制御演算(イ)の次の制御周期にて送信する((ロ)参照)。
一方で、制御装置2は、制御装置1から送信される制御情報1d(dq軸電流指令値i*
1d、i*
1q)を用いて、非干渉制御器29が制御演算(ハ)のタイミングでdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1を算出し、dq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1に応じたパルス信号PWM2を、制御演算(ハ)の次の制御周期にて送信する((二)参照)。
その結果、従来技術による制御では、制御装置1のキャリア1cと制御装置2のキャリア2cとに位相差が生じることに起因して、制御装置1のパルス信号PWM1と制御装置2のパルス信号PWM2との間に、2制御周期の同期ずれが生じてしまう(図中の点線両矢印参照)。また、このようにして発生した同期ずれは、時間の経過とともに変化するので、時間の経過とともに当該ずれが大きくなった場合には、それに応じて電流応答の振動も大きくなってしまう。
これに対して、本実施形態の制御装置1によれば、制御装置2のキャリア周期を推定して、制御装置1のキャリア周期が制御装置2のキャリア周期以下の場合には、上記式(2)で求まる無駄時間に基づく無駄時間制御を実行する(本例では、無駄時間=3制御周期とする)。
そうすると、dq軸電流指令値i*
1d、i*
1qに基づくdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1の算出は制御演算(イ')のタイミングで実行される。そして、制御演算(イ')で算出されたdq軸電圧指令値v*
2d_i1、v*
2q_i1に応じたパルス信号PWM1は、制御演算(イ')の次の制御周期にて送信される((ロ’)参照)。その結果、図で示すとおり、制御装置1のパルス信号PWM1と制御装置2のパルス信号PWM2とがおおよそ同じタイミングで出力されるので、制御装置1と制御装置2との間の同期ずれを従来に比べて大きく抑制することができる。
以上、第2実施形態の電動機の制御方法によれば、一のコントローラ(例えば制御装置1)は、他のコントローラ(例えば制御装置2)からの制御情報(制御情報2d)を受信する周期から当該他のコントローラのキャリア周期を推定し、他のコントローラのキャリア周期が一のコントローラのキャリア周期よりも短い場合は、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを遅らせず、他のコントローラのキャリア周期が一のコントローラのキャリア周期以上の場合は、対応する巻線群にPWMパルス信号を印加するタイミングを上記式(2)で求まる制御周期遅らせる。これにより、例えば、2つの制御装置1、2のパルス信号PWM1、2の出力タイミングの時間差を比較して無駄時間を算出するのに比べて、当該無駄時間を決定するための演算量を削減することができる。
以上、本発明の実施形態、及びその変形例について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態、及びその変形例は、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせ可能である。例えば、変形例2のモータ駆動システム300の構成に基づいて、第2実施形態で説明した無駄時間制御を実行しても良い。
また、上述の説明は、パルス信号PWM1が制御装置1から出力されてからINV-PWMパルス信号1が第1巻線群8に印加されるタイミングまでの時間と、パルス振動PWM2が制御装置2から出力されてからINV-PWMパルス信号2が第2巻線群9に印加されるタイミングまでの時間との間に生じ得る誤差は無視できることを前提とする。しかしながら、仮に無視できない誤差が生じる場合には、当該誤差を考慮してパルス信号PWM1、2の出力タイミングを補正するか、制御装置1、2と第1、第2巻線群8、9との間に、当該誤差を吸収することが可能な公知のデバイスを介在させればよい。
なお、上述の説明で用いた「以上」「以下」「より大きい」「未満」等の比較表現は、必ずしもこれに限定されず、「以上」と「より大きい」、および、「以下」と「未満」はそれぞれ適宜変更してもよい。