<第1実施形態>
以下、本発明に係る駆動回路を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、制御システムは、直流電源10、インバータ20、回転電機30及び制御装置40を備えている。回転電機30は、例えば車載主機である。回転電機30は、インバータ20を介して直流電源10に電気的に接続されている。本実施形態では、回転電機30として、3相のものが用いられている。回転電機30としては、例えば、永久磁石同期機を用いることができる。また、直流電源10は、例えば百V以上となる端子電圧を有する蓄電池である。直流電源10は、例えば、リチウムイオン蓄電池やニッケル水素蓄電池等の2次電池である。なお、直流電源10には、コンデンサ11が並列接続されている。
インバータ20は、各相に対応する上,下アームスイッチ部20H,20Lを備えている。各相において、上アームスイッチ部20Hと下アームスイッチ部20Lとは直列接続されている。
各スイッチ部20H,20Lは、第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2の並列接続体を備えている。各相において、上アームスイッチ部20Hの第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2それぞれの第1端子には、直流電源10の正極側が接続されている。各相において、下アームスイッチ部20Lの第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2それぞれの第2端子には、直流電源10の負極側が接続されている。各相において、上アームスイッチ部20Hの第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2それぞれの第2端子には、下アームスイッチ部20Lの第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2それぞれの第1端子と、回転電機30の巻線31の第1端とが接続されている。各相の巻線31の第2端は、中性点で接続されている。
本実施形態において、第1スイッチSW1は、SiCデバイスとしてのNチャネルMOSFETである。このため、第1スイッチSW1において、第2端子はソースであり、第1端子はドレインである。また、第2スイッチSW2は、SiデバイスとしてのIGBTである。このため、第2スイッチSW2において、第2端子はエミッタであり、第1端子はコレクタである。なお、第2スイッチSW2には、フリーホイールダイオードが逆並列に接続されており、第1スイッチSW1には、ボディダイオードが形成されている。
各スイッチ部20H,20LをIGBT及びMOSFETの並列接続体で構成した理由は、小電流領域においてオン抵抗が低いMOSFETの方に電流を多く流通させることにより、小電流領域における損失を低減するためである。以下、損失低減について、図2を用いて説明する。図2は、スイッチに流れる電流とスイッチの高,低電位側端子間の電圧Vonとの関係を示す図である。詳しくは、図2は、MOSFETのドレイン及びソース間電圧Vdsとドレイン電流Idsとの電圧電流特性、並びにIGBTのコレクタ及びエミッタ間電圧Vceとコレクタ電流Iceとの電圧電流特性を示す。
図2に示すように、電流が所定電流Iαよりも小さい小電流領域においては、ドレイン電流Idsに対するドレイン及びソース間電圧Vdsが、コレクタ電流Iceに対するコレクタ及びエミッタ間電圧Vceよりも低い。すなわち、小電流領域においては、MOSFETのオン抵抗がIGBTのオン抵抗よりも小さい。このため、小電流領域においては、互いに並列接続されたMOSFET及びIGBTのうち、MOSFETの方に電流が多く流れることとなる。一方、電流が所定電流Iαよりも大きい大電流領域においては、コレクタ電流Iceに対するコレクタ及びエミッタ間電圧Vceがドレイン電流Idsに対するドレイン及びソース間電圧Vdsよりも低い。すなわち、大電流領域においては、IGBTのオン抵抗がMOSFETのオン抵抗よりも小さい。このため、大電流領域においては、互いに並列接続されたMOSFET及びIGBTのうち、IGBTの方に電流が多く流れることとなる。なお、第1スイッチSW1のドレイン電流の定格電流は、例えば、第2スイッチSW2のコレクタ電流の定格電流よりも小さい。
第1スイッチSW1の短絡耐量は、第2スイッチSW2の短絡耐量よりも低い。このため、第1スイッチSW1が低耐量スイッチに相当し、第2スイッチSW2が高耐量スイッチに相当する。図3を用いて短絡耐量について説明する。図3(a)は、第1,第2スイッチSW1,SW2のゲート電圧Vgs,Vgeの推移を示し、図3(b)は、第1スイッチSW1のドレイン及びソース間電圧Vds及び第2スイッチSW2のコレクタ及びエミッタ間電圧Vceの推移を示す。図3(c)は、第1スイッチSW1のドレイン電流Ids及び第2スイッチSW2のコレクタ電流Iceの推移を示し、図3(d)は、第1スイッチSW1で発生する損失(=Vds×Ids)及び第2スイッチSW2で発生する損失(=Vce×Ice)の推移を示す。
短絡耐量は、図3(d)に示すように、スイッチに電流が流れ始めてからスイッチの破損に至るまでにスイッチで発生するエネルギである。図3(d)にハッチングで示す面積が、電流×電圧の時間積分値であるエネルギとなる。第1スイッチSW1の短絡耐量が第2スイッチSW2の短絡耐量よりも低いため、ドレイン電流Idsが流れ始めてから第1スイッチSW1が破損するタイミングt1までの期間は、コレクタ電流Iceが流れ始めてから第2スイッチSW2が破損するタイミングt2までの期間よりも短い。
図1の説明に戻り、制御装置40は、回転電機30の制御量をその指令値に制御すべく、インバータ20を駆動する。制御量は、例えばトルクである。制御装置40は、インバータ20の各スイッチSW1,SW2をオンオフ駆動すべく、各スイッチSW1,SW2に対応する駆動信号Gcを、各スイッチ部20H,20Lに対して個別に設けられた駆動回路50に対して出力する。制御装置40は、例えば、電気角で互いに位相が120°ずれた3相指令電圧と三角波等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM処理により、各駆動回路50に対応する駆動信号Gcを生成する。駆動信号Gcは、スイッチのオン駆動を指示するオン指令と、オフ駆動を指示するオフ指令とのいずれかをとる。各相において、上アーム側の駆動信号と、対応する下アーム側の駆動信号とは、交互にオン指令とされる。このため、各相において、上アームスイッチ部20Hのスイッチと、下アームスイッチ部20Lのスイッチとは交互にオン状態とされる。
なお、制御装置40及び駆動回路50が提供する機能は、例えば、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ハードウェア、又はそれらの組み合わせによって提供することができる。
続いて、図4を用いて、駆動回路50及びその周辺構成について説明する。
駆動回路50は、第1充電スイッチ60、第1定電圧電源61及び第1充電抵抗体62を備えている。本実施形態では、第1充電スイッチ60として、PチャネルMOSFETが用いられている。第1充電スイッチ60のソースには、第1定電圧電源61が接続され、第1充電スイッチ60のドレインには、第1充電抵抗体62の第1端が接続されている。第1充電抵抗体62の第2端には、第1スイッチSW1のゲートが接続されている。図4において、VP1は、第1定電圧電源61の出力電圧である第1電源電圧を示す。
駆動回路50は、第1放電抵抗体63、第1放電スイッチ64、第1ソフト遮断抵抗体65及び第1ソフト遮断スイッチ66を備えている。本実施形態では、第1放電スイッチ64及び第1ソフト遮断スイッチ66として、NチャネルMOSFETが用いられている。
第1スイッチSW1のゲートには、第1放電抵抗体63を介して第1放電スイッチ64のドレインが接続されている。第1放電スイッチ64のソースには、第1スイッチSW1のソースが接続されている。第1スイッチSW1のゲートには、第1ソフト遮断抵抗体65を介して第1ソフト遮断スイッチ66のドレインが接続されている。第1ソフト遮断スイッチ66のソースには、第1スイッチSW1のソースが接続されている。
駆動回路50は、第2充電スイッチ70、第2定電圧電源71及び第2充電抵抗体72を備えている。本実施形態では、第2充電スイッチ70として、PチャネルMOSFETが用いられている。第2充電スイッチ70のソースには、第2定電圧電源71が接続され、第2充電スイッチ70のドレインには、第2充電抵抗体72の第1端が接続されている。第2充電抵抗体72の第2端には、第2スイッチSW2のゲートが接続されている。図4において、VP2は、第2定電圧電源71の出力電圧である第2電源電圧を示す。
駆動回路50は、第2放電抵抗体73、第2放電スイッチ74、第2ソフト遮断抵抗体75及び第2ソフト遮断スイッチ76を備えている。本実施形態では、第2放電スイッチ74及び第2ソフト遮断スイッチ76として、NチャネルMOSFETが用いられている。
第2スイッチSW2のゲートには、第2放電抵抗体73及び第2放電スイッチ74を介して第2スイッチSW2のエミッタが接続されている。第2スイッチSW2のゲートには、第2ソフト遮断抵抗体75及び第2ソフト遮断スイッチ76を介して第2スイッチSW2のエミッタが接続されている。第2ソフト遮断抵抗体75の抵抗値Rs1は、第1ソフト遮断抵抗体65の抵抗値Rs2よりも大きく設定されている。
駆動回路50は、クランプ回路を備えている。クランプ回路は、ツェナーダイオード77及びクランプスイッチ78を有している。本実施形態では、クランプスイッチ78として、NチャネルMOSFETが用いられている。第2スイッチSW2のゲートには、ツェナーダイオード77のカソードが接続され、アノードには、クランプスイッチ78を介して第2スイッチSW2のエミッタが接続されている。
第1スイッチSW1は、第1センス端子St1を備えている。第1センス端子St1には、第1スイッチSW1のドレイン電流と相関を有する微少電流が流れる。第1センス端子St1には、第1センス抵抗体81の第1端が接続され、第1センス抵抗体81の第2端には、第1スイッチSW1のソースが接続されている。この構成によれば、第1センス端子St1に流れる微少電流によって第1センス抵抗体81に電圧降下が生じる。このため、第1センス抵抗体81の電位差(以下、第1センス電圧Vse1)を、ドレイン電流の相関値として用いることができる。本実施形態では、第1センス抵抗体81の両端のうち、第2端よりも第1端の電位が高い場合の第1センス電圧Vse1を正と定義する。なお、第1センス抵抗体81が、第1スイッチSW1に対応する電流検出部を構成する。
第2スイッチSW2は、第2センス端子St2を備えている。第2センス端子St2には、第2スイッチSW2のコレクタ電流と相関を有する微少電流が流れる。第2センス端子St2には、第2センス抵抗体82の第1端が接続され、第2センス抵抗体82の第2端には、第2スイッチSW2のエミッタが接続されている。第2センス抵抗体82の電位差(以下、第2センス電圧Vse2)は、コレクタ電流の相関値として用いられる。本実施形態では、第2センス抵抗体82の両端のうち、第2端よりも第1端の電位が高い場合の第2センス電圧Vse2を正と定義する。なお、第2センス抵抗体82が、第2スイッチSW2に対応する電流検出部を構成する。
駆動回路50は、第1コンパレータ90及び第1基準電源91を備えている。第1コンパレータ90の非反転入力端子には、第1センス電圧Vse1が入力される。第1コンパレータ90の反転入力端子には、第1基準電源91の出力電圧である第1短絡閾値SC1が入力される。第1コンパレータ90の出力信号である第1判定信号F1は、駆動回路50の駆動制御部83に入力される。第1短絡閾値SC1は、第1スイッチSW1のドレイン電流の定格電流よりも大きい値に設定されている。
駆動回路50は、第2コンパレータ100及び第2基準電源101を備えている。第2コンパレータ100の非反転入力端子には、第2センス電圧Vse2が入力される。第2コンパレータ100の反転入力端子には、第2基準電源101の出力電圧である第2短絡閾値SC2が入力される。第2コンパレータ100の出力信号である第2判定信号F2は、駆動制御部83に入力される。第2短絡閾値SC2は、第2スイッチSW2のコレクタ電流の定格電流よりも大きい値に設定されている。
なお、駆動制御部83、第1コンパレータ90、第1基準電源91、第2コンパレータ100及び第2基準電源101が過電流保護部を構成する。
駆動制御部83は、制御装置40から出力された駆動信号Gcに基づいて、第1,第2スイッチSW1,SW2をオンオフ駆動する。詳しくは、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令になっていると判定している場合、第1充電スイッチ60及び第2充電スイッチ70をオン駆動し、第1放電スイッチ64及び第2放電スイッチ74をオフ駆動する。これにより、第1定電圧電源61から第1スイッチSW1のゲートへと充電電流が流れ、第1スイッチSW1のゲート電圧が第1閾値電圧Vth1以上となる。その結果、第1スイッチSW1がオフ状態からオン状態に切り替えられる。また、第2定電圧電源71から第2スイッチSW2のゲートへと充電電流が流れ、第2スイッチSW2のゲート電圧が第2閾値電圧Vth2以上となる。その結果、第2スイッチSW2がオフ状態からオン状態に切り替えられる。
駆動制御部83は、駆動信号Gcがオフ指令になっていると判定している場合、第1充電スイッチ60及び第2充電スイッチ70をオフ駆動し、第1放電スイッチ64及び第2放電スイッチ74をオン駆動する。これにより、第1スイッチSW1のゲートからソースへと放電電流が流れ、第1スイッチSW1のゲート電圧が第1閾値電圧Vth1未満となる。その結果、第1スイッチSW1がオン状態からオフ状態に切り替えられる。また、第2スイッチSW2のゲートからエミッタへと放電電流が流れ、第2スイッチSW2のゲート電圧が第2閾値電圧Vth2未満となる。その結果、第2スイッチSW2がオン状態からオフ状態に切り替えられる。
第1センス電圧Vse1が第1短絡閾値SC1よりも高くなると、第1判定信号F1の論理がLからHに反転する。駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられたと判定したタイミングから第1フィルタ時間Tf1経過したタイミングにおいて、第1判定信号F1の論理がHになっていると判定した場合、第1ソフト遮断スイッチ66をオフ状態に切り替える。これにより、第1スイッチSW1を過電流から保護する。
一方、第2センス電圧Vse2が第2短絡閾値SC2よりも高くなると、第2判定信号F2の論理がLからHに反転する。駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられたと判定したタイミングから第2フィルタ時間Tf2経過したタイミングにおいて、第2判定信号F2の論理がHになっていると判定した場合、クランプスイッチ78を所定期間に渡ってオン駆動する。クランプスイッチ78がオン状態にされている期間において、第2スイッチSW2のゲート電圧は、ツェナーダイオード77のブレークダウン電圧(以下、クランプ電圧Vcp)に制限される。クランプ電圧Vcpは、第2電源電圧VP2よりも低い。駆動制御部83は、第2スイッチSW2のゲート電圧がクランプ電圧Vcpに制限されている期間において、第2ソフト遮断スイッチ76をオフ状態に切り替える。これにより、第2スイッチSW2を過電流から保護する。なお、各フィルタ時間が経過したか否かの判定は、例えば、カウンタやRCフィルタを用いて実施されればよい。
過電流(短絡電流)は、上下アーム短絡が発生した場合に流れる。上,下アームスイッチ部20H,20Lのうち、一方を対向アームとし、他方を自アームとすると、上下アーム短絡は、対向アームの第1,第2スイッチSW1,SW2のうち少なくとも一方がショート故障した状態で、自アームの第1,第2スイッチSW1,SW2がオン状態にされると発生する。この上下アーム短絡を、タイプ1の上下アーム短絡と称すこととする。また、上下アーム短絡は、自アームの第1,第2スイッチSW1,SW2がオン状態にされた状態で、対向アームの第1,第2スイッチSW1,SW2のうち少なくとも一方がショート故障すると発生する。この上下アーム短絡を、タイプ2の上下アーム短絡と称すこととする。なお、過電流は、上下アーム短絡の他に、例えば、相間短絡や地絡によっても流れる。
本実施形態では、第2フィルタ時間Tf2が、第1フィルタ時間Tf1よりも短く設定されている。この設定は、第2スイッチSW2のミラー期間が、第1スイッチSW1のミラー期間よりも短いためになされる。以下、図5及び図6を用いて、ミラー期間について第2スイッチSW2を例にして説明する。図5は、第2スイッチSW2に形成された寄生容量及び各容量への充電態様を示し、図6(a)は第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeの推移を示し、図6(b)は第2スイッチSW2のコレクタ及びエミッタ間電圧Vceの推移を示す。
図5(a)に示すように、第2スイッチSW2は、寄生容量として、ゲート及びエミッタ間に形成された入力容量Cge、ゲート及びコレクタ間に形成された帰還容量Cgc、並びにコレクタ及びエミッタ間に形成された出力容量Cceを有している。図5(a)は、ゲートに充電電流が供給される前の状態を示し、この状態は、図6の期間Taに対応している。
図5(b)及び図6の期間Tbに示すように、ゲートよりもコレクタの方が電位が高いため、入力容量Cgeのみに充電される。期間Tbでは、第2スイッチSW2はオフ状態である。
図5(c)及び図6の期間Tcに示すように、第2スイッチSW2がオン状態になると、ゲートよりもコレクタの電位が低くなるため、帰還容量Cgc及び出力容量Cceにも充電される。ゲート電圧Vgeがミラー電圧Vm2となる期間が、第2スイッチSW2のミラー期間である。帰還容量Cgc及び出力容量Cceに、第2閾値電圧Vth2分の電荷が充電されるまでは、ゲート電圧Vgeがミラー電圧Vm2に維持される。
帰還容量Cgc及び出力容量Cceに第2閾値電圧Vth2分の電荷が充電されると、図5(d)及び図6の期間Tdに示すように、ゲート電圧Vgeが第2電源電圧VP2に向かって上昇し始める。ゲート電圧Vgeが第2電源電圧VP2になると、ゲートの充電が完了し、図5(e)及び図6の期間Teに示すように、ゲートへと充電電流が流れなくなる。
第1スイッチSW1は、寄生容量として、ゲート及びソース間に形成された入力容量Cgs、ゲート及びドレイン間に形成された帰還容量Cgd、並びにドレイン及びソース間に形成された出力容量Cdsを有している。第1スイッチSW1の各寄生容量は、第2スイッチSW2の各寄生容量よりも小さい。このため、第1スイッチSW1のミラー期間は、第2スイッチSW2のミラー期間よりも短い。
図7を用いて、上下アーム短絡等が発生していない通常時の駆動回路50の動作について説明する。図7(a)は第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeの推移を示し、図7(b)は第2スイッチSW2のコレクタ電流Iceの推移を示し、図7(c)は第2センス電圧Vse2の推移を示し、図7(d)は第2スイッチSW2のコレクタ及びエミッタ間電圧Vceの推移を示す。図7(e)は第1スイッチSW1のゲート電圧Vgsの推移を示し、図7(f)は第1スイッチSW1のドレイン電流Idsの推移を示し、図7(g)は第1センス電圧Vse1の推移を示し、図7(h)は第1スイッチSW1のドレイン及びソース間電圧Vdsの推移を示す。
時刻t1において、駆動制御部83は、入力される駆動信号Gcがオン指令に切り替わったと判定する。このため、駆動制御部83は、第1充電スイッチ60及び第2充電スイッチ70を同時にオン駆動に切り替える。これにより、第1,第2スイッチSW1,SW2のゲート電圧Vgs,Vgeが上昇し始める。その後、図7(a)に示すように、第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeがミラー電圧Vm2に維持されるミラー期間Tm2が出現し、図7(e)に示すように、第1スイッチSW1のゲート電圧Vgsがミラー電圧Vm1に維持されるミラー期間Tm1(<Tm2)が出現する。
図7(c)に示すように、第2スイッチSW2がオン状態に切り替えられる場合に、第2センス電圧Vse2が増加する持ち上がり現象が発生し、図7(g)に示すように、第1スイッチSW1がオン状態に切り替えられる場合に、第1センス電圧Vse1が増加する持ち上がり現象が発生する。第1スイッチSW1の持ち上がり現象の発生期間は、第2スイッチSW2の持ち上がり現象の発生期間よりも短い。このため、第1フィルタ時間Tf1は、第2フィルタ時間Tf2よりも短く設定されている。
図7に示す例では、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられてから第1フィルタ時間Tf1経過したタイミングにおいて、第1センス電圧Vse1が第1短絡閾値SC1を下回っている。このため、駆動制御部83は、第1ソフト遮断スイッチ66をオン駆動に切り替えない。また、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられてから第2フィルタ時間Tf2経過したタイミングにおいて、第2センス電圧Vse2が第2短絡閾値SC2を下回っている。このため、駆動制御部83は、クランプスイッチ78及び第2ソフト遮断スイッチ76をオン駆動に切り替えない。
続いて、図8を用いて、タイプ1の上下アーム短絡が発生する場合における自アームの過電流保護動作について説明する。図8(a)~(e)は、第1充電スイッチ60、第1ソフト遮断スイッチ66、第2充電スイッチ70、クランプスイッチ78及び第2ソフト遮断スイッチ76の駆動状態の推移を示す。
時刻t1において、駆動制御部83は、入力される駆動信号Gcがオン指令に切り替わったと判定し、第1充電スイッチ60及び第2充電スイッチ70をオン駆動に切り替える。駆動制御部83は、時刻t1から第1フィルタ時間Tf1経過した時刻t2において、第1判定信号F1の論理がHになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第1充電スイッチ60をオフ駆動に切り替え、第1ソフト遮断スイッチ66をオン駆動に切り替える。これにより、第1スイッチSW1がオフ状態に切り替えられる。この際、第1ソフト遮断抵抗体65の抵抗値Rs1が、第2ソフト遮断抵抗体75の抵抗値Rs2よりも小さく設定されているため、第1スイッチSW1をオフ状態に切り替える場合のスイッチング速度を、第2スイッチSW2をオフ状態に切り替える場合のスイッチング速度よりも高くできる。この速度設定と、第1フィルタ時間Tf1が第2フィルタ時間Tf2よりも短い設定とにより、第2スイッチSW2のオフ状態への切り替えが開始される前に、第1スイッチSW1を的確にオフ状態に切り替えることができる。
その後、駆動制御部83は、時刻t1から第2フィルタ時間Tf2経過した時刻t3において、第2判定信号F2の論理がHになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第2充電スイッチ70をオフ駆動に切り替え、クランプスイッチ78をオン駆動に切り替える。これにより、第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeが、第2電源電圧VP2からクランプ電圧Vcpまで低下する。そして、クランプ電圧Vcpで制限中の時刻t4において、駆動制御部83は、第2ソフト遮断スイッチ76をオン駆動に切り替えられる。これにより、第2スイッチSW2がオフ状態に切り替えられる。
Siデバイスで構成される第2スイッチSW2について、ゲート電圧Vgeをクランプ電圧Vcpで制限してからオフ状態に切り替えるのは、Siデバイスで構成される第1スイッチSW1では発生しない電流破損モードが第2スイッチSW2に存在するためである。つまり、第2スイッチSW2に大電流が流れている状態で第2ソフト遮断スイッチ76がオン駆動に切り替えられると、第2スイッチSW2をオフ状態に切り替えようとしているにもかかわらず、第2スイッチSW2がラッチアップされ、第2スイッチSW2に大電流が流れ続けてしまう。その結果、第2スイッチSW2が破損してしまう。
そこで、第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeをクランプ電圧Vcpで制限する。この制限により、第2スイッチSW2に流れるコレクタ電流が低下する。コレクタ電流が低下した状態で第2ソフト遮断スイッチ76がオン駆動に切り替えられると、第2スイッチSW2がラッチアップされない。これにより、第2スイッチSW2の破損を防止できる。
これに対し、第1スイッチSW1には電流破損モードが存在しないため、第1ソフト遮断スイッチ66を迅速にオン駆動に切り替える。これにより、短絡耐量が低い第1スイッチSW1と短絡耐量が高い第2スイッチSW2とのそれぞれを過電流から適切に保護できる。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を得られる。
ミラー期間が長い第2スイッチSW2に対応する第2フィルタ時間Tf2が、ミラー期間が短い第1スイッチSW1に対応する第1フィルタ時間Tf1よりも長く設定されている。これにより、持ち上がり現象が発生したとしても、過電流が流れていると誤判定される事態の発生を抑制することができる。また、第1フィルタ時間Tf1が短いため、短絡耐量が低い第1スイッチSW1に発生するエネルギを低減することができる。
第1,第2スイッチSW1,SW2それぞれがオン状態とされている場合において、各スイッチSW1,SW2のうち先にオフ状態に切り替えられたスイッチ以外のスイッチには、オフ状態に切り替えられたスイッチに流れていた電流が流れ込む。このため、各スイッチSW1,SW2のうち、短絡耐量が高い第2スイッチSW2を先にオフ状態に切り替えてしまうと、短絡耐量が低い第1スイッチSW1に流れるドレイン電流が増加し、短絡耐量が低い第1スイッチSW1が破損する懸念がある。そこで、過電流保護動作中において、第1スイッチSW1が第2スイッチSW2よりも先にオフ状態に切り替えられる。これにより、短絡耐量が低い第1スイッチSW1に電流が流れ込む事態の発生を抑制でき、第1スイッチSW1を適切に過電流から保護できる。
第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeをクランプ電圧Vcpで制限した状態で第2ソフト遮断スイッチ76がオン駆動に切り替えられる。これにより、過電流保護動作に伴って第2スイッチSW2が破損してしまうことを防止できる。
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられてから第2フィルタ時間Tf2が経過したタイミングにおいて、第2判定信号F2の論理がHであると判定している場合であっても、第1判定信号F1の論理がLに切り替わったと判定するまでは、第2スイッチSW2の過電流保護動作に移行しない。
図9を用いて、タイプ1の上下アーム短絡が発生する場合における自アームの過電流保護動作について説明する。図9(a)は第1判定信号F1の推移を示し、図9(d)は第2判定信号F2の推移を示し、図9(b),(c),(e)~(g)は先の図8(a)~(e)に対応している。
時刻t1において、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替ったと判定する。その後、第1判定信号F1の論理がHに反転し、第2判定信号F2の論理がHに反転する。
その後、駆動制御部83は、時刻t1から第1フィルタ時間Tf1経過した時刻t2において、第1判定信号F1の論理がHになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第1充電スイッチ60をオフ駆動に切り替え、第1ソフト遮断スイッチ66をオン駆動に切り替える。これにより、第1スイッチSW1のゲート電圧Vgsが低下し始め、第1スイッチSW1に流れるドレイン電流Idsが低下し始める。その後、時刻t3において、第1センス電圧Vse1が第1短絡閾値SC1を下回るため、第1判定信号F1の論理がLに反転する。
その後、駆動制御部83は、時刻t1から第2フィルタ時間Tf2経過した時刻t4において、第2判定信号F2の論理がHになっていると判定し、また、第1判定信号F1の論理がLになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第2充電スイッチ70をオフ駆動に切り替え、クランプスイッチ78をオン駆動に切り替える。第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeがクランプ電圧Vcpに制限されている時刻t5において、駆動制御部83は、第2ソフト遮断スイッチ76をオン駆動に切り替える。
なお、第1判定信号F1の論理がLに反転するタイミングは、クランプスイッチ78がオン駆動に切り替えられる時刻t4よりも前のタイミングに限らず、時刻t4以降のタイミングにもなり得る。
以上説明した本実施形態によれば、過電流保護動作により第1スイッチSW1で発生するエネルギ損失をより低減することができる。
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられてから第1フィルタ時間Tf1が経過したタイミングにおいて、第1判定信号F1の論理がHであると判定している場合、第1,第2スイッチSW1,SW2双方の過電流保護動作に移行する。また、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替えられてから第2フィルタ時間Tf2が経過したタイミングにおいて、第2判定信号F2の論理がHであると判定している場合にも、第1,第2スイッチSW1,SW2双方の過電流保護動作に移行する。
図10及び図11を用いて、タイプ1の上下アーム短絡が発生する場合における自アームの過電流保護動作について説明する。
まず、図10を用いて、第1フィルタ時間Tf1が経過したタイミングにおいて、第1判定信号F1の論理がHになっている場合について説明する。図10(a)~(g)は先の図9(a)~(g)に対応している。
時刻t1において、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替ったと判定する。その後、第1判定信号F1の論理がHに反転し、第2判定信号F2の論理がHに反転する。
その後、駆動制御部83は、時刻t1から第1フィルタ時間Tf1経過した時刻t2において、第1判定信号F1の論理がHになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第1充電スイッチ60及び第2充電スイッチ70をオフ駆動に切り替え、第1ソフト遮断スイッチ66及びクランプスイッチ78をオン駆動に切り替える。その後、駆動制御部83は、時刻t3において第2ソフト遮断スイッチ76をオン駆動に切り替える。
図10に示した例によれば、フィルタ時間が長い方の第2スイッチSW2の過電流保護動作を、フィルタ時間が短い方の第1スイッチSW1の過電流保護動作と同時に開始できるため、第2スイッチSW2で発生するエネルギ損失を低減できる。
続いて、図11を用いて、第1フィルタ時間Tf1が経過したタイミングにおいて第1判定信号F1の論理がHになっておらず、第2フィルタ時間Tf2が経過したタイミングにおいて第2判定信号F2の論理がHになっている場合について説明する。図11(a)~(g)は先の図10(a)~(g)に対応している。
時刻t1において、駆動制御部83は、駆動信号Gcがオン指令に切り替ったと判定する。その後、第1判定信号F1の論理がHに反転し、第2判定信号F2の論理がHに反転する。ただし、図11に示す例では、タイプ1の上下アーム短絡が発生しているにもかかわらず、時刻t3において、第1判定信号F1の論理がLに反転してしまう。この反転は、例えば、上下アーム短絡が発生しているにもかかわらず第1センス電圧Vse1が第1短絡閾値SC1よりもやや低い値になったり、駆動制御部83に入力される第1判定信号F1に異常が発生したりすることにより発生する。ちなみに、上下アーム短絡が発生しているにもかかわらず、第1判定信号F1の論理がHに反転しないこともあり得る。
その後、駆動制御部83は、時刻t1から第1フィルタ時間Tf1経過した時刻t3において、第1判定信号F1の論理がLになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第1充電スイッチ60のオン駆動を維持する。
その後、駆動制御部83は、時刻t1から第2フィルタ時間Tf2経過した時刻t4において、第2判定信号F2の論理がHになっていると判定する。このため、駆動制御部83は、第2充電スイッチ70をオフ駆動に切り替え、クランプスイッチ78をオン駆動に切り替える。第2スイッチSW2のゲート電圧Vgeがクランプ電圧Vcpに制限されている時刻t5において、駆動制御部83は、第2ソフト遮断スイッチ76をオン駆動に切り替える。
図11に示した例によれば、第1,第2スイッチSW1,SW2の過電流保護動作の冗長性を高めることができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・ミラー期間の長さは、スイッチの寄生容量でなくても、スイッチの各端子間に、寄生容量を模擬した外付けの容量(例えばコンデンサ)が設けられることによっても変えることができる。詳しくは、スイッチの帰還容量及び出力容量のうち少なくとも一方を模擬した容量を外付けすればよい。
・各相各アームのスイッチ部を構成するスイッチの数としては、3つ以上であってもよい。例えば、各スイッチ部が3つのスイッチを備える場合、短絡耐量の小さい方から順に、第1スイッチ、第2スイッチ、第3スイッチとする。また、ミラー期間が短い方から順に、第1スイッチ、第2スイッチ、第3スイッチとする。この場合、第1スイッチに対応するフィルタ時間が第2スイッチに対応するフィルタ時間よりも短く設定され、第2スイッチに対応するフィルタ時間が第3スイッチに対応するフィルタ時間よりも短く設定されればよい。
・各相各アームのスイッチ部を構成するスイッチとしては、同じ種類のスイッチに限らない。例えば、第1,第2スイッチの双方がSiCデバイスで構成されたMOSFETであったとしても、チップサイズの相違により短絡容量が異なることがある。このような場合であっても、本発明の適用が有効である。
・電力変換回路としては、インバータに限らず、例えば、上,下アームスイッチを備えるフルブリッジ回路であってもよい。
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。