JP7074105B2 - エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、クラスターイオンの注入可否判定方法、クラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法及びエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に関する。
半導体デバイスのデバイス基板として、シリコンウェーハの表面にエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハ(以下、「エピウェーハ」と略称する場合がある。)が使用されている。半導体デバイスのデバイス特性が悪化する原因は種々知られており、例えば、不純物金属元素によるエピウェーハの汚染はその要因の一つである。そこで、こうした不純物金属元素による汚染の影響を抑制するため、エピウェーハに、不純物金属元素を捕獲するためのゲッタリングシンクを形成する技術が開発されている。
例えば、特許文献1には、シリコンウェーハの表面にクラスターイオンを注入して、該視シリコンウェーハの表層部に、クラスターイオンの構成元素が固溶した改質層を形成する第1工程と、当該改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と、を含むエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法が開示されている。特許文献1の技術により形成される改質層は、極めて優れたゲッタリング能力を有する。
なお、本明細書における「クラスターイオン」とは、電子衝撃法により、ガス状分子に電子を衝突させてガス状分子の結合を解離させることで種々の原子数の原子集合体とし、フラグメントを起こさせて当該原子集合体をイオン化させ、イオン化された種々の原子数の原子集合体の質量分離を行って、特定の質量数のイオン化された原子集合体を抽出して得られるものである。
また、特許文献2には、エピタキシャルシリコンウェーハを製造する際にシリコンウェーハにクラスターイオンを高ドーズ量で注入すると、高いゲッタリング能力が得られるものの、ドーズ量が過剰となるとエピタキシャル欠陥が発生し得ることが開示されている。
なお、本明細書における「エピタキシャル欠陥」とは、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてエピタキシャル層の表面を観察したときに、積層欠陥(SF:Stacking Fault)として観察されるものを言う。
国際公開第2012/157162号 特開2015-130397号公報
従来技術の知見に基づけば、クラスターイオンのドーズ量が低ければエピタキシャル欠陥は発生しがたいと考えられる。しかしながら、エピタキシャル欠陥が発生しないと見込まれるクラスターイオン注入条件(ドーズ量)でシリコンウェーハにクラスターイオン注入し、注入後にエピタキシャル層を形成しても、希にではあるものの、エピタキシャル欠陥が多数発生する現象(以下、「エピ欠陥発生現象」と略記する。)があることを本発明者らは確認した。本発明者らはこのエピ欠陥発生現象の詳細な分析を試みた。すると、同一ロットのシリコンウェーハであって、クラスターイオン注入条件及びエピタキシャル成長条件が同一であるにもかかわらず、同一ロット内の一部のエピウェーハのみにエピタキシャル欠陥が発生することが確認された。この事実に基づけば、クラスターイオン注入条件及びエピタキシャル成長条件以外に、エピタキシャル欠陥が発生する原因があると考えられる。
本発明者らは上記エピタキシャル欠陥が発生する原因を、より詳細に検討した。ここで、当該エピタキシャル欠陥が発生したエピウェーハにおけるエピタキシャル欠陥の発生位置の一例を図1に示す。なお、図1は、Surfscan SP1(KLA-Tencor社製)を用いて、Normalモード(垂直入射光)にてエピウェーハを測定することにより得られたエピウェーハ表面のLPD(Light Point Defect)分布図である。そして、90nm以上のLPD-N(Light Point Defect Non-cleanable)としてカウントされたLPD欠陥がエピタキシャル欠陥であるとみなして評価した。エピ欠陥発生現象が見られた他のエピウェーハのエピタキシャル欠陥も、同様の位置にエピタキシャル欠陥が発生していることが確認された。
これらのエピタキシャル欠陥の発生傾向を鑑みると、FOUP(Front-Opening Unified Pod)及びFOSB(Front Opening Shipping Box)等のウェーハ搬送容器との接触点近傍においてエピタキシャル欠陥が多数発生したと考えられる。そこで本発明者らはまず、当該接触点近傍において、上記搬送容器の材料であるポリカーボネート(PC)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)等の有機物が摩耗等によりシリコンウェーハを汚染したためにエピタキシャル欠陥が発生したからだと考えた。しかし、有機物汚染がエピタキシャル欠陥の原因であるとしても、エピタキシャル成長処理前の洗浄により有機物汚染は除去できると考えられる。実際に、当該エピタキシャル欠陥の発生したエピタキシャルウェーハは、エピタキシャル成長前に洗浄されていた。
また、搬送容器との接触点近傍に発生するエピ欠陥発生現象は、クラスターイオン注入を行ったエピウェーハに特有の現象であった。そこで、クラスターイオン注入の有無に伴うエピタキシャル成長条件の相違に本発明者らは着目した。クラスターイオン注入を行わない場合、シリコンウェーハをエピタキシャル炉に投入した後、エピタキシャル成長に先立ち、シリコンウェーハの表層部(数百nm程度)を塩酸ガス等により気相エッチングすることが通常である。一方、クラスターイオン注入を行う場合は、クラスターイオン注入によりシリコンウェーハ表層部に形成される改質層を保持するため、こうした気相エッチングを行うことはない。
こうしたエピタキシャル成長直前の気相エッチングの相違が原因であると考えると、上述したエピ欠陥発生現象が発生する理由として、以下に説明する仮説が想定される。図2の模式図を参照する。有機物汚染物質1がシリコンウェーハ10の表面に付着したままクラスターイオン2がシリコンウェーハ10の表層部に注入される(図2ステップA)。改質層12がシリコンウェーハ10の表層部に形成されつつ、当該表層部に有機物汚染物質1が何らかの形態で取り込まれる(図2ステップB)。表層部に取り込まれた有機物汚染物質1は、エピタキシャル層20を形成する前の洗浄では除去することができない。そして、シリコンウェーハ10の改質層12上にエピタキシャル層20を形成し、エピタキシャルシリコンウェーハ100を得たときには、当該有機物汚染物質1が取り込まれた部位を起点に積層欠陥22が発生する。この積層欠陥22がエピタキシャル欠陥として観察される。
本発明は理論に束縛されるものではない。しかしながら、この仮説に基づけば、エピ欠陥発生現象を防止するためには、シリコンウェーハにクラスターイオンを注入する前の段階でクラスターイオンの注入可否を判定する必要がある。本発明者らはこの注入可否判定方法の確立をクラスターイオン注入技術における新たな課題として認識した。
そこで、本発明は、クラスターイオンの注入可否を判定できるクラスターイオンの注入可否判定方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、このクラスターイオンの注入可否判定方法を用いたクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法及びエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。クラスターイオン注入可否を判定した後にクラスターイオン注入を行うことを考慮すると、比較的簡易な手法であり、かつ非破壊検査により注入可否を判定する必要がある。そして、前述のとおり、エピタキシャル欠陥の発生原因がシリコンウェーハ表面の有機物汚染由来であるとの仮定のもと、フォトルミネッセンス(Photoluminescence;以下「PL」)法を用いることを着想した。さらに、PL法測定により得られるフォトルミネッセンス強度を用いてシリコンウェーハ表面の清浄性を判別することにより、クラスターイオンの注入可否を判定できることを本発明者らは知見した。上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)シリコンウェーハの表面に炭素含有のクラスターイオン注入を行うに先立ち、クラスターイオンの注入可否を判定する方法であって、
前記シリコンウェーハの表面のフォトルミネッセンス強度を測定する測定工程と、
前記フォトルミネッセンス強度に基づき前記シリコンウェーハの表面の有機物汚染を定量評価し、前記表面が清浄面であるかを判別する評価工程と、
前記表面が清浄面である場合に前記シリコンウェーハへのクラスターイオン注入が可能であると判定する判定工程と、
を含むことを特徴とするクラスターイオンの注入可否判定方法。
(2)前記シリコンウェーハと同種のウェーハを洗浄した直後の基準ウェーハの表面のフォトルミネッセンス強度の面内分布を求める基準面内分布取得工程をさらに含み、
前記測定工程において、前記シリコンウェーハのフォトルミネッセンス強度の面内分布を測定し、
前記評価工程において、前記基準ウェーハの前記面内分布と、前記シリコンウェーハの前記面内分布との対比に基づき前記評価を行う、上記(1)に記載のクラスターイオンの注入可否判定方法。
(3)前記評価工程において、前記基準ウェーハの前記面内分布と、前記シリコンウェーハの前記面内分布とでの各測定点における前記基準ウェーハに対する前記シリコンウェーハのフォトルミネッセンス強度の比を算出し、前記シリコンウェーハの全面において当該比が予め定めた閾値以上である場合に前記表面が清浄面であると判別する、上記(2)に記載のクラスターイオンの注入可否判定方法。
(4)前記測定工程において、前記シリコンウェーハの中心部及びエッジ部のフォトルミネッセンス強度をそれぞれ測定し、
前記評価工程において、前記中心部の前記フォトルミネッセンス強度に対する前記エッジ部の前記フォトルミネッセンス強度の比に基づき前記評価を行う、上記(1)に記載のクラスターイオンの注入可否判定方法。
(5)上記(1)~(4)いずれかに記載のクラスターイオンの注入可否判定方法を用いて、前記シリコンウェーハの表面に炭素含有のクラスターイオンが注入可能であることを検証する検証工程と、
前記検証工程に引き続き、前記シリコンウェーハの表面に前記クラスターイオンを注入する注入工程と、
を含むことを特徴とするクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法。
(6)上記(1)~(4)いずれかに記載のクラスターイオンの注入可否判定方法を用いて、前記シリコンウェーハの表面に炭素含有のクラスターイオンが注入可能であることを検証する検証工程と、
前記検証工程に引き続き、前記シリコンウェーハの表面に前記クラスターイオンを注入する注入工程と、
前記シリコンウェーハの前記表面にシリコンエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程と、を含むことを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
本発明によれば、クラスターイオンの注入可否を判定できるクラスターイオンの注入可否判定方法を提供することができる。また、本発明によれば、このクラスターイオンの注入可否判定方法を用いたクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法及びエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の提供することができる。
本発明者らにより観察された、エピタキシャル欠陥の発生したエピタキシャルシリコンウェーハのLPD分布図である。 本発明者らの仮説を説明するための模式断面図である。 本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法による一実施形態を説明するためのフローチャートである。 本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法において測定されたフォトルミネッセンス強度の面内分布の一具体例である。 本発明に従うクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法及びエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を説明するためのフローチャートである。 実施例1におけるフォトルミネッセンス強度の面内分布及びラインプロファイルを示す図である。 実施例1におけるサンプル1のフォトルミネッセンス強度分布図である。 実施例1におけるサンプル2のフォトルミネッセンス強度分布図である。 実施例2におけるエピタキシャル欠陥の発生状況を示すLPD分布図である。
(クラスターイオンの注入可否判定方法)
以下、図3のフローチャートを参照して、本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法の一実施形態を説明する。なお、説明の便宜のため、既述の図2の符号も併せて参照し、以下同様である。本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法は、シリコンウェーハの表面に炭素含有のクラスターイオン注入を行うに先立ち、クラスターイオンの注入可否を判定する方法である。本発明方法では、シリコンウェーハ10の表面のフォトルミネッセンス強度(以下、「PL強度」)を測定する測定工程(S10)と、このPL強度に基づきシリコンウェーハ10の表面の有機物汚染を定量評価し、前記表面が清浄面であるかを判別する評価工程(S20)と、シリコンウェーハ10の表面が清浄面であると判別される場合にクラスターイオン注入可能であると判定する判定工程(S30)と、を少なくとも含む。
<測定工程>
まず、測定工程(S10)において、シリコンウェーハ10の表面(以下、「ウェーハ表面」)のPL強度を測定する。後続の工程においてウェーハ表面が清浄面であるかを判別するため、シリコンのバンド端発光(室温で約1150nm)の発光強度を測定することが好ましい。例えば室温PL法を用いる場合、可視~近赤外領域の励起光を用い、励起された電子が基底状態に戻る際に発生する光のPLスペクトルから波長950nm以上のバンド端発光由来のピーク波長の光強度を求め、これをPL強度として用いることができる。本発明の限定を意図するものではないものの、例えばNanometrics社製SiPHER(測定レーザー波長:532nm,823nm)、WaferMasters社製MPL300(測定レーザー波長:532nm,650nm,827nm)などを用いることができる。
測定工程(S10)におけるシリコンウェーハ10の面内での測定箇所は任意である。例えば、シリコンウェーハ10の全面におけるPL強度の面内分布を所定のピッチ単位(500μm~2mm程度)で求めることが好ましい。PL強度の面内分布から所定間隔のグリッドを作成して、強度比を算出してもよい。また、搬送容器由来の有機物汚染であれば、当該汚染はシリコンウェーハ10のエッジ部に集中し、その中心部は通常汚染されがたいと考えられる。そこで、シリコンウェーハ10の中心部及びエッジ部のPL強度をそれぞれ測定することも好ましい。この場合、中心部として、例えばウェーハ中心を中心とする直径2mm~50mm程度の範囲内のPL強度の分布を取得し、エッジ部としてシリコンウェーハの外周から50mm以下程度の範囲内のPL強度の分布を測定するなどすればよい。また、上記中心部のPL強度分布の取得に変えて、ウェーハ中心1点のPL強度を測定してもよい。
<評価工程>
測定工程(S10)に続き、評価工程(S20)では、測定工程(S10)において測定したPL強度に基づきシリコンウェーハ10の表面の有機物汚染を定量評価し、当該表面が清浄面であるかを判別する。本工程における評価手法を、本発明に従う下記第1態様及び第2態様の説明を通じて具体的に説明する。
<<第1態様>>
第1態様では、評価工程(S20)に先立ち、判定対象となるシリコンウェーハ10と同種のウェーハを用意し、これを洗浄した直後の基準ウェーハ(リファレンス)を用意する。この基準ウェーハは洗浄直後であるので、ウェーハ表面は清浄面であると判断できる。そして、基準ウェーハの表面のPL強度による面内分布を、評価工程(S20)とは別に取得しておく。すなわち、第1態様では、シリコンウェーハ10と同種のウェーハを洗浄した直後の基準ウェーハ表面のPL強度の面内分布を求める基準面内分布取得工程を、測定工程(S10)及び評価工程(S20)とは別に行う。
そして、測定工程(S10)において、判定対象となるシリコンウェーハ10のPL強度の面内分布を測定する。次いで、評価工程(S20)では、基準ウェーハのPL強度の面内分布と、シリコンウェーハ10のPL強度の面内分布との対比に基づき評価を行う。こうして、シリコンウェーハ10に有機物汚染があるか否かを評価することができる。より具体的には、評価工程(S20)において、基準ウェーハのPL強度の面内分布と、判定対象のシリコンウェーハ10のPL強度の面内分布とでの各測定点において、基準ウェーハに対するシリコンウェーハ10のPL強度の比を算出する。シリコンウェーハ10の全面において当該比が予め定めた閾値以上であれば、シリコンウェーハ10の表面の全面が清浄面であると判別することができる。当該閾値は、エピ欠陥発生現象の発生有無に基づき、基準ウェーハのPL強度の面内分布と、シリコンウェーハ10のPL強度の面内分布との対比から実験的に導出することができ、当該閾値として例えば0.95を採用することができる。
なお、ここで言う「同種」とは、PL強度の面内分布に影響を及ぼさない範囲で、シリコンウェーハの直径、酸素濃度、ドーパント種、ドーパント濃度等が実質的に等しいことを意味する。また、ここで言う「実質的に等しい」とは、シリコンウェーハの製造工程上不可避な誤差をはじめ、本発明の作用効果を奏する範囲で許容される誤差を含む。同一のシリコンインゴットから得られるシリコンウェーハ同士であれば、上記「同種」に少なくとも含まれる。
<<第2態様>>
第2態様では、まず測定工程(S10)において、判定対象となるシリコンウェーハ10の中心部及びエッジ部のPL強度をそれぞれ測定しておく。なお、上記第1態様と異なり、第2態様では基準ウェーハを用意する必要はない。そして、評価工程(S20)において、中心部のPL強度に対するエッジ部のPL強度の比に基づき、ウェーハ表面の有機物汚染を定量評価し、ウェーハ表面が清浄面であるかを判別する。例えば、中心部のPL強度の平均値に対する、エッジ部の各測定箇所におけるPL強度の比をそれぞれ算出し、当該比が全て予め定めた閾値以上である場合にウェーハ表面は清浄面であると判別することができる。この閾値は実験的に導出することができ、エッジ部のPL強度分布の算術平均値がウェーハ中心部の強度分布の算術平均値の0.95以上であれば、ウェーハ表面は清浄面であると判別可能である。また、ウェーハ中心部の強度分布に替えて、ウェーハ中心1点のPL強度との強度比を用いてもよい。この場合の閾値も実験的に導出することができ、上記「0.95」を例示することができる。
<判定工程>
評価工程(S20)によるシリコンウェーハ10の評価を経た後、判定工程(S30)において、シリコンウェーハ10の表面が清浄面である場合、当該シリコンウェーハ10の表面へのクラスターイオン注入が可能であると判定する。逆に、シリコンウェーハ10の表面が清浄面でない(すなわち、有機物汚染が認められる)のであれば、当該シリコンウェーハ10の表面へのクラスターイオン注入は不可能である、と判定する。
以下、本発明の技術的意義を具体的に説明する。一具体例として、エピタキシャル層形成後にエピ欠陥発生現象が観察されたエピウェーハの、クラスターイオン注入前のPL強度の面内分布を図4に示す。図4中、淡色部のPL強度は高く、濃色部のPL強度は低い。そして、このシリコンウェーハに対して、Cクラスターイオンを注入(注入条件:加速エネルギー80keV、炭素原子あたりのドーズ量2×1015atoms/cm)した。次いで、シリコンウェーハ表面を洗浄した後にシリコンエピタキシャル層を形成したところ、既述の図1と同様の位置にエピタキシャル欠陥が発生した。ウェーハ面内におけるPL強度が低い位置において、エピタキシャル欠陥が発生することが実験的に確認される。そして、ウェーハ面内においてPL強度が低い原因は、その強度分布を考慮すると搬送容器由来の有機物汚染であると推定される。
以上の実験事実に基づけば、有機物汚染に起因すると推定されるPL強度の分布等が確認される場合には、シリコンウェーハの表面にクラスターイオン注入を行ってはならないと判定できる。逆に、シリコンウェーハの表面に有機物汚染がなく、清浄面であると判別できるPL強度分布等が確認されれば、クラスターイオン注入を行うことができると判定できる。
したがって、本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法を行った後、さらにクラスターイオン注入及びエピタキシャル層形成を行っても、有機物汚染に起因すると推定されるエピタキシャル欠陥が発生しないことを判定することができる。すなわち、シリコンウェーハへのクラスターイオンの注入に先立ち、シリコンウェーハへのクラスターイオン注入可否を判定できるクラスターイオンの注入可否判定方法を提供することができる。
以下では、限定を意図しないものの、本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法に適用可能なシリコンウェーハ10の具体的態様を説明する。シリコンウェーハ10は、チョクラルスキ法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたシリコンウェーハを使用することができる。また、シリコンウェーハ10には、炭素及び窒素等が添加されていてもよい。また、任意の不純物ドーパントを添加して、n型又はp型としてもよい。また、シリコンウェーハ10としては、バルクのシリコンウェーハ表面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハを用いることもできる。シリコンウェーハ10の酸素濃度も一般的な濃度範囲(4×1017~22×1017atoms/cm(ASTM F121-1979))とすることができる。
(クラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法)
図5のフローチャートを参照する。本発明に従うクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法は、前述したクラスターイオンの注入可否判定方法を用いて、シリコンウェーハ10の表面に炭素含有のクラスターイオン2が注入可能であることを検証する検証工程(S110~S130)と、検証工程(S130)に引き続き、シリコンウェーハ10の表面にクラスターイオン2を注入する注入工程(S140)と、を含む。
<検証工程>
検証工程(S110~S130)は、前述したクラスターイオンの注入可否判定方法における工程(S10~S30)と同様に行えばよく、重複する説明を省略する。クラスターイオンの注入可否判定方法における判定工程S30までと同様にして、クラスターイオンの注入が可能であると判定されれば、クラスターイオン2が注入可能であると検証できる。
<注入工程>
次いで、シリコンウェーハ10の表面にクラスターイオン2を注入する。クラスターイオンの注入条件は特に制限されず、クラスターイオン2の構成元素は、炭素を含めば、他の構成元素については特に限定されない。炭化水素(C,3≦n≦16,3≦m≦10)からなるクラスターイオンを用いることができ、炭素及び水素以外に、構成元素としてさらに、ボロン、リン、ヒ素、酸素などを含んでもよい。例えば、炭素及び水素からなるクラスターイオンを生成するためには、シクロヘキサン(C12)、ピレン(C1610)、ジベンジル(C1414)などを用いることができる。クラスターイオン2の加速電圧及びビーム電流値も任意であり、公知の条件を採用することができる。
なお、図5のフローチャートに示すように、シリコンウェーハ10の表面が清浄面でなく、クラスターイオン2の注入ができないと判断される場合、有機物汚染を洗浄により除去できるかを判断する工程をさらに有することも好ましい。そして、洗浄により除去できる汚染であれば有機物汚染を洗浄処理により除去し、洗浄後のシリコンウェーハ10のPL強度の測定を行って有機物汚染を評価し、クラスターイオン2の注入が可能となったことを検証し、兼職後のシリコンウェーハ10にクラスターイオン注入を行うことも好ましい。また、シリコンウェーハ10の汚染が洗浄により除去できない程度であれば、クラスターイオン注入をすることなく、当該シリコンウェーハ10を廃棄してもよい。なお、洗浄条件は有機物汚染を除去するための任意の洗浄条件を用いることができ、例えば単独での希HF洗浄又はSC-1(Standard Clean 1)洗浄、あるいは両者の併用を例示することができる。
(エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法)
図5のフローチャートを再度参照する。本発明に従うエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、前述したクラスターイオンの注入可否判定方法を用いて、シリコンウェーハ10の表面に炭素含有のクラスターイオン2が注入可能であることを検証する検証工程(S110~S130)と、当該検証工程に引き続き、シリコンウェーハ10の表面にクラスターイオン2を注入する注入工程(S140)と、シリコンウェーハ10の表面にシリコンエピタキシャル層20を形成するエピタキシャル層形成工程と、を含む。
<検証工程及び注入工程>
検証工程(S110~S130)及び注入工程(S140)は、前述したクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法と同様に行えばよく、重複する説明を省略する。
<エピタキシャル層形成工程>
注入工程(S140)に続き、シリコンウェーハ10の表面にシリコンエピタキシャル層20を形成する。エピタキシャル層形成工程において形成するエピタキシャル層20としてはシリコンエピタキシャル層が挙げられ、これは一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバ内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、概ね1000~1200℃温度範囲の温度でCVD法によりシリコンウェーハ10上にエピタキシャル成長させることができる。エピタキシャル層20の厚さは1~15μmの範囲内とすることが好ましい。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実験1:注入可否の判定)
FOSBに保管された同一ロットのシリコンウェーハ(直径:300mm、厚さ:725μm、ドーパント:P,抵抗率:約10Ω・cm)から3枚取り出した。そのうち、1枚についてはクラスターイオン注入に先立ち、希フッ酸洗浄及びSC-1(Standard Clean 1)洗浄を行い基準ウェーハ(以下、リファレンス)とした。残りのウェーハをサンプル1,2とした。
<PL強度測定>
室温PL装置(Nanometrics社製SiPHER、測定レーザー波長:532nm光源)を用いて、リファレンス及びサンプル1,2のPL強度の面内分布を測定した。図6Aに、サンプル1,2のPL強度の面内分布を示す。また、図6Aに示す矢印(矢印方向が正)に沿って、ウェーハ中心を0mmとする-150mm~0mmまでのPL強度のラインプロファイルを図6Aのグラフに併せて示す。なお、リファレンスのPL強度を1.0(測定箇所の各点において規格化)としている。
さらに、サンプル1,2のPL強度の面内分布から、10mm角のグリッドを作成してPL強度の平均値を求めつつ、リファレンスのPL強度を1とする比を算出した分布図を図6B、図6Cのそれぞれに示す。
PL強度分布の各点において、リファレンスに対するPL強度の比が0.95以上である場合に有機物汚染がない(清浄面である)との判断基準を用いた。サンプル1は有機物汚染があるためクラスターイオン注入不可と判定でき、サンプル2は有機物汚染がなく、清浄面であるためクラスターイオン注入可能と判定できる。
(実験2:クラスターイオン注入及びエピタキシャル成長)
上記サンプル1,2のそれぞれに対して、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、型番:CLARIS(登録商標))を用いて、シクロヘキサンから生成したCのクラスターイオンを、炭素ドーズ量:2.0×1015atoms/cm、加速電圧:80keV/Clusterの条件でシリコンウェーハ表面に注入し、シリコンウェーハの表層部に改質層を形成した。なお、加速電圧80keV/Clusterであるため、炭素1原子あたりの加速電圧23.4keV/atomであり、炭素の注入飛程距離は80nmである。
次に、上記サンプル1,2のシリコンウェーハを枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内にそれぞれ搬送し、装置内で1120℃の温度で30秒の水素ベーク処理を施した。その後、水素をキャリアガス、トリクロロシランをソースガスとして1150℃でCVD法により、シリコンウェーハ上に厚さ8.0μmのシリコンエピタキシャル層(ドーパント:P、抵抗率:約50Ω・cm)を成長させ、エピウェーハを作製した。
サンプル1,2のそれぞれのエピウェーハの表面を、Surfscan SP1(KLA-Tencor社製)を用いてNormalモードにて測定を行い、LPD-Nとしてカウントされたものをエピタキシャル欠陥であるとみなした。結果を図7に示す。サンプル1では、図6A,図6BにおいてPL強度が低かった位置にエピタキシャル欠陥が多数形成された。一方、サンプル2ではエピタキシャル欠陥が僅かに形成されたものの、注入ドーズ量から想定される水準に留まった。
上記実験1,2の結果から、本発明に従うクラスターイオンの注入可否判定方法を用いることで、クラスターイオンを注入する前の段階でクラスターイオンの注入可否を判定できることが確認できた。さらに、当該判定後にクラスターイオン注入及びエピタキシャル成長を行うことができることも確認できた。
本発明によれば、クラスターイオンの注入可否を判定できるクラスターイオンの注入可否判定方法を提供することができる。また、本発明によれば、このクラスターイオンの注入可否判定方法を用いたクラスターイオン注入シリコンウェーハの製造方法及びエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法の提供することができる。
1 有機物汚染物質
2 クラスターイオン
10 シリコンウェーハ
12 改質層
20 エピタキシャル層
22 積層欠陥
100 エピタキシャルシリコンウェーハ

Claims (4)

  1. シリコンウェーハの表面に炭素含有のクラスターイオンが注入可能であることを検証する検証工程と、
    前記検証工程に引き続き、前記シリコンウェーハの表面に前記クラスターイオンを注入する注入工程と、
    前記シリコンウェーハの前記表面にシリコンエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程と、を含み、
    前記検証工程は、
    前記シリコンウェーハの表面のフォトルミネッセンス強度を測定する測定工程と、
    前記フォトルミネッセンス強度に基づき前記シリコンウェーハの表面の有機物汚染を定量評価し、前記表面が清浄面であるかを判別する評価工程と、
    前記表面が清浄面である場合に前記シリコンウェーハへのクラスターイオン注入が可能であると判定する判定工程と、
    を含むことを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
  2. 前記検証工程は前記シリコンウェーハと同種のウェーハを洗浄した直後の基準ウェーハの表面のフォトルミネッセンス強度の面内分布を求める基準面内分布取得工程をさらに含み、
    前記測定工程において、前記シリコンウェーハのフォトルミネッセンス強度の面内分布を測定し、
    前記評価工程において、前記基準ウェーハの前記面内分布と、前記シリコンウェーハの前記面内分布との対比に基づき前記評価を行う、請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
  3. 前記評価工程において、前記基準ウェーハの前記面内分布と、前記シリコンウェーハの前記面内分布とでの各測定点における前記基準ウェーハに対する前記シリコンウェーハのフォトルミネッセンス強度の比を算出し、前記シリコンウェーハの全面において当該比が予め定めた閾値以上である場合に前記表面が清浄面であると判別する、請求項2に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
  4. 前記測定工程において、前記シリコンウェーハの中心部及びエッジ部のフォトルミネッセンス強度をそれぞれ測定し、
    前記評価工程において、前記中心部の前記フォトルミネッセンス強度に対する前記エッジ部の前記フォトルミネッセンス強度の比に基づき前記評価を行う、請求項1に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
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