(1)第1実施形態
(1-1)本発明の変位測定装置の構成
始めに、本発明の変位測定装置の概略について説明する。図1は、本発明の変位測定装置1の構成を示した概略図である。本発明の変位測定装置1は、送受信部としての送受信アンテナ4に対して、測定対象物の測定面10の位置が変わり、その測定面10の変位Dを測定するものである。
本実施形態の場合、測定面10は、送受信アンテナ4に近づく方向及び遠ざかる方向であるx方向に沿って移動する。本実施形態の場合、測定面10の変位Dは、x方向において、送受信アンテナ4から所定距離離れた位置にある基準位置Oからの移動量である。本発明による変位測定装置1は、このような測定面10の変位Dを測定できる。
変位測定装置1は、発振器2から送出された送信信号を、サーキュレータ3を介して送受信アンテナ4に送出し、当該送受信アンテナ4から測定面10に向けてマイクロ波を照射する。測定面10に照射するマイクロ波の周波数変調の幅と、当該マイクロ波の掃引周期は、予め所定の値に設定されている。送受信アンテナ4から測定面10に向けて照射されるマイクロ波の周波数は、時間の経過とともに変化する。
変位測定装置1は、測定面10からの反射マイクロ波を送受信アンテナ4で受信すると、受信信号としてサーキュレータ3を介して6ポート回路11に入力する。また、変位測定装置1は、発振器2の送信信号を参照信号として6ポート回路11に入力する。
6ポート回路11は、2つの入力ポートP1,P2と、4つの出力ポートP3,P4,P5,P6とを備えた回路である。なお、6ポート回路11は、特許文献1や非特許文献1において説明されているように周知回路であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
電力測定機12は、6ポート回路11の各出力ポートP3,P4,P5,P6から出力された信号を受け、各信号毎にそれぞれ電力値B3,B4,B5,B6を測定し、これらをAD変換機13に出力する。AD変換機13は、電力値B3,B4,B5,B6に対してアナログデジタル変換処理を施し、デジタル信号に変換された電力値B3,B4,B5,B6を計算機14に出力する。
計算機14は、6ポート回路から得られた信号の電力値B3,B4,B5,B6を利用して、位相遅延量演算処理や、変位算出処理を行うものであり、その詳細については後述する。なお、表示装置16は、計算機14の各種演算結果や、測定結果である変位Dを表示し、作業者に対して各種情報を提示する。また、記憶装置15は、計算機14の各種演算結果を記憶する。
(1-2)本発明における変位の測定原理について
本発明は、上述したように、6ポート回路11を備えた変位測定装置1において、測定面10の変位Dを測定可能であるが、ここで、変位Dの測定原理について以下説明する。
マイクロ波帯の電磁波は、可視光や赤外光に比べて波長が長いために、粉塵透過性が高いという特長を有し、悪環境下での測定に有効な手段である。その一方で、波長が長いことから、例えば、FMCWを用いる場合には距離測定の分解能が低く、周波数帯域幅をF[Hz]、光速をc[m/s]とすれば、距離分解能はc/2Fに制限される。そのため、例えば、周波数帯域幅を1[GHz]とすれば、分解能は150[mm]となる。
そのため、本発明の変位測定装置1では、変位測定の高分解能化を行う方法として、周波数の値を測定して変位測定を行うFMCWではなく、参照信号と受信信号から得られる位相変化量△φを測定する方法を適用しており、波長以下の微小な変位を高い分解能で求めることができる。しかしながら、測定面10までの距離が波長の2分の1以上変化すると、位相特性として、位相変化量△φと、位相変化量(△φ+2πn)(nは整数)との間で区別がつかないという、2πの不定性が生じる。
そこで、本実施形態においては、2πの不定性を取り除く1つの方法として、送信信号の周波数を掃引して周波数に対する位相変化量△φの傾きから粗変位D´を求め、この粗変位D´を利用して2πの不定性を取り除くこととした。以下にその方法について述べる。
図1に示すように、送受信アンテナ4の前方に基準位置Oを設定して測定面10を置くと、測定面10からの反射マイクロ波は、再び送受信アンテナ4に戻る。送受信アンテナ4の先端と、測定面10との間の距離を、基準位置Oから動かすと、基準位置Oに対して反射マイクロ波の位相が変化する。このとき、変位をD[μm]とすると、位相変化量△φ[rad]は、下記の式(3)で表すことができる。
但し、fは送信信号(マイクロ波)の周波数[Hz]、λは送信信号の波長[m]、cは光速[m/s]である。よって、変位Dは下記の式(4)で表すことができる。
しかしながら、位相変化量△φには、上述した2πの不定性を伴うため、実際の変位Dは下記の式(5)のようになる。
但し、nは任意の整数である。従って、位相変化量△φが2πを超える変位Dを測定する場合には、整数nを一意に決める必要がある。
次に、上記の式(5)において、周波数を示すfを両辺に乗じた後、両辺をfで微分する。このとき、周波数fに依存するのは位相変化量△φのみであるため、下記の式(6)が求まる。
従って、周波数fを掃引して、周波数fに対する位相変化量△φの傾きd△φ/dfを求めれば、式(6)より、2πの不定性がない変位(以下、粗変位D´と称する)を定めることができる。
なお、周波数fを掃引して、周波数fに対する位相変化量△φの傾きd△φ/dfを求める具体的な方法については、図4及び図5を用いて後述する。
これに加えて、本実施形態では、さらに高精度に変位Dを求めるために、式(5)と式(6)を組み合わせた変位測定を行う。すなわち、周波数fを掃引した際の位相変化量△φの傾きd△φ/dfを利用して、式(6)から粗変位D´を求めた後に、この粗変位D´と、周波数fと、位相変化量△φとを利用して、式(5)から整数nを決定する。
さらに、中心周波数(掃引周波数幅の中心の周波数fであり、例えば、掃引する周波数範囲が38~42[GHz]であれば中心の40[GHz])における位相変化量△φそのものを測定し、整数nを決定した式(5)に代入すれば、波長以下の変位Dを求めることができる。このように、2πの不定性を取り除くことと、位相変化量△φの測定することとが両立でき、波長以上のダイナミックレンジで、かつ波長以下の高い分解能により、変位Dの測定が可能となる。
<6ポート回路の位相遅延量について>
本実施形態では、上述した位相変化量△φの算出に6ポート回路11を用いている。6ポート回路11を用いることで、電力測定と、逆正接関数(atan、arctangent)の計算のみにより簡易、かつ高速に位相変化量△φを求めることができる。
ここで、先ずは、単一の周波数の場合について考える。この場合、6ポート回路11には、入力ポートP1に参照信号が入力され、入力ポートP2に受信信号が入力される。出力ポートP3,P4,P5,P6からは、入力ポートP1に入力された参照信号と、入力ポートP2に入力された受信信号とに対して、下記の表1に示すような位相遅延量を与えた信号を足し合わせた信号が出力される。
6ポート回路11は、非特許文献1に示されているように、ウィルキンソンディバイダーと、90度ハイブリッドカプラーとを備えており、これらの構成により位相遅延量を与えている。出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値B3,B4,B5,B6を測定し、下記の式(7)を基に単一周波数において、位相変化量△φを求めることができる。
△φ=atan((B3-B4)/(B5-B6)) …(7)
このように、増幅や整流を行わない受動素子のみを用いて、かつ、逆正接関数の簡単な計算のみで位相変化量△φを求めることができる。しかしながら、先に述べたような周波数を掃引する構成を組み合わせるにあたっては新たな課題が発生する。
すなわち、90度ハイブリッドカプラーによる位相遅延量は、回路の物理的な長さを用いて与えられているため、単一の動作周波数以外では、90度ハイブリッドカプラーを1回通過する毎に与えられる位相遅延量がπ/2と異なる値となる。従って、所定の動作周波数以外で周波数掃引を行った場合には、上記の式(7)により位相変化量△φを算出しても、この際の位相遅延量はπ/2ではないため、求めたい位相変化量△φの周波数依存性は正しく得られない。
そこで、周波数掃引を行う際の各周波数f毎に、90度ハイブリッドカプラーで与えられる位相遅延量θを求めることが望ましい。ここで、出力ポートP3,P4,P5,P6からそれぞれ出力される各信号は、入力ポートP1,P2に対して、下記の表2に示すような位相遅延量θが与えられた信号を足し合わせた信号となる。
従って、出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値B3,B4,B5,B6より、位相変化量△φを求めるためには、下記の式(8)を計算する必要がある。
上記の式(8)において、各周波数fにおける位相遅延量θが未知数となる。そこで、事前の較正によって、各周波数fのときの位相遅延量θを求める必要がある。
<6ポート回路における位相遅延量の較正の概要>
以上より、事前の較正によって、各周波数fのときの位相遅延量θを求める必要があるため、ここでは、その概要について以下説明する。この場合、事前の較正によって、ある周波数fで既知の位相変化量(以下、既知位相変化量と称する)△φ´をもつ信号を、各周波数f毎に6ポート回路11の入力ポートP1,P2に入力する。
そして、6ポート回路11の出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値B3,B4,B5,B6を測定し、上記の式(8)の△φを既知位相変化量△φ´とすることで、各周波数fでの位相遅延量θを算出することが可能となる。
但し、上記の式(8)より明らかなように、位相遅延量θを求める際には、式(8)の両辺の正接(tan、tangent)をとる必要がある。式(8)の両辺の正接をとると、下記の式(9)となる。
さらに、上記の式(9)を変形すると、下記の式(10)が得られる。
よって、上記の式(9)から明らかなように、較正時に△φに与える既知位相変化量△φ´は、△φ´=π/2、3π/2となるとtan△φ´が発散(±∞)してしまうため、△φ´≠π/2と、△φ´≠3π/2とを満たす必要がある。また、位相遅延量θについて自明な解を得るためには、tan△φ´≠0とならないように、△φ´≠0と、△φ´≠πとを満たす必要がある。
0、π/2、π、3π/2以外で、例えば、同じ周波数f1で得た任意の2つの既知位相変化量△φ1´,△φ2´を与える。そして、所定周波数f1で既知位相変化量△φ1´のときに得た電力値B31,B41,B51,B61を上記の式(10)のB3~B6に代入するとともに、既知位相変化量△φ1´を上記の式(10)の△φに代入した第1式を得る。
同様にして、同じ所定周波数f1で既知位相変化量△φ2´のときに得た電力値B32,B42,B52,B62を上記の式(10)のB3~B6に代入するとともに、既知位相変化量△φ2´を上記の式(10)の△φに代入した第2式を得る。
そして、上記の式(10)から同じ所定周波数f1で得られた第1式と第2式の2つの式より連立方程式を解けば、位相遅延量θを算出することができる。このようにして、各周波数fについて、それぞれ位相遅延量θを算出する。
なお、位相遅延量θを算出するために、連立方程式を解く第1式及び第2式を得る際は、例えば、同じ周波数f1で測定面10の変位をD1,D2と変え、このときの実測値の変位D1,D2を利用すれば、上記の式(3)から各既知位相変化量△φ1´,△φ2´を算出することができる。
<較正により得られた6ポート回路の位相遅延量を利用した変位測定の概要>
実際に測定面10の変位Dを測定する変位測定時には、上記のような較正により予め得た、各周波数fにおける位相遅延量θを用いる。これにより、上記の式(8)から、未知の位相変化量△φを求めることができる。そして、未知の位相変化量△φにおける周波数依存性(周波数fを掃引した際の、周波数fに対する位相変化量△φの依存性)を求め、上記の式(5)、式(6)を利用した演算処理を行うことで、測定面10の変位Dを求めることができる。
<較正時における既知及び未知の変数と、変位測定時における既知及び未知の変数について>
ここで、上記の式(8)~(10)にある△φ、B3~B6、θについて、(i)6ポート回路11における各周波数fでの位相遅延量θを求める較正時と、(ii)較正を行った後に変位Dを測定する変位測定時とで、いずれが既知か未知かを表3にまとめた。
表3に示すように、較正時、△φには既知位相変化量△φ´が与えられることから、△φは既知となる。較正時、B3~B6は、既知位相変化量△φ´となる参照信号及び受信信号が6ポート回路11に入力されたときに出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値であるため被測定量となる。また、較正時、6ポート回路11における各周波数fでの位相遅延量θは未知となる。
一方、変位測定時、6ポート回路11における各周波数fでの位相遅延量θは、較正によって予め求めたものとなるため既知となる。変位測定時、B3~B6は、参照信号及び受信信号が6ポート回路11に入力されたときに出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値であるため被測定量となる。また、変位測定時、位相変化量△φは未知となる。
(1-3)本発明における変位測定装置の計算機について
以上、本発明における変位の測定原理の概略について説明したが、次に、本発明の変位測定装置1における計算機14の回路構成に着目して、上述した、較正時における位相遅延量演算処理と、変位測定時における変位測定処理とについて順に説明する。
図2に示すように、計算機14は、入力部21、位相遅延量演算部22、位相演算部23、位相アンラッピング処理部24、傾き算出部25、粗変位算出部26、位相不定性解消部27及び変位算出部28を備えている。計算機14は、これら各回路を利用して、位相遅延量演算処理と、変位測定処理とを実行する。
<較正時における位相遅延量演算処理>
較正を行う前、6ポート回路11における各周波数fでの位相遅延量θは未知である。そのため、変位測定に先立って、計算機14は、始めに、位相遅延量演算処理を実行して、周波数fを掃引する際における各周波数fでの位相遅延量θをそれぞれ算出する必要がある。
この場合、位相遅延量演算部22は、π/2、π、3π/2以外で、例えば、同じ周波数f1で得た任意の2つの既知位相変化量△φ1´,△φ2´を、記憶装置15から取得する。そして、位相遅延量演算部22は、周波数f1で既知位相変化量△φ1´のときに6ポート回路11から出力された信号の電力値B31,B41,B51,B61を入力部21又は記憶装置15から取得する。
また、位相遅延量演算部22は、同じ周波数f1で既知位相変化量△φ2´のときに6ポート回路11から出力された信号の電力値B32,B42,B52,B62を入力部21又は記憶装置15から取得する。
位相遅延量演算部22は、所定周波数f1のときの既知位相変化量△φ1´と、そのときの電力値B31,B41,B51,B61とを、上記の式(10)の△φと、B3~B6とにそれぞれ代入した第1式を算出する。また、位相遅延量演算部22は、同じく所定周波数f1のときの既知位相変化量△φ2´と、そのときの電力値B32,B42,B52,B62とを、上記の式(10)の△φと、B3~B6とにそれぞれ代入した第2式を算出する。位相遅延量演算部22は、これら第1式及び第2式について連立方程式を解き、周波数f1における位相遅延量θを算出する。
このようにして、位相遅延量演算部22は、周波数掃引時の各周波数f毎に、2つの式より連立方程式を解き、各周波数fでの位相遅延量θを算出する。位相遅延量演算部22は、このようにして算出した、各周波数fでの位相遅延量θを、記憶装置15に出力して記憶させる。
次に、図3のフローチャートを用いて、上述した位相遅延量演算処理の時系列な流れについて以下簡単に説明する。図3に示すように、計算機14は、ステップS1において、所定周波数f1での既知位相変化量△φ1´と、そのときに6ポート回路11から出力された信号の電力値B31,B41,B51,B61とを取得し(既知位相変化量取得工程、較正用電力値取得工程)、これらを上記の式(10)に代入した第1式を算出し、次のステップS2に移る。
ステップS2において、計算機14は、ステップS1と同じ周波数f1での他の既知位相変化量△φ2´と、そのときに6ポート回路11から出力された信号の電力値B32,B42,B52,B62とを取得し(既知位相変化量取得工程、較正用電力値取得工程)、これらを上記の式(10)に代入した第2式を算出し、次のステップS3に移る。
ステップS3において、計算機14は、ステップS1で得られた第1式と、ステップS2で得られた第2式とについて連立方程式を解き、所定周波数f1での位相遅延量θを算出し(位相遅延量演算工程)、次のステップS4に移る。
ステップS4において、計算機14は、周波数掃引に用いる全ての周波数(例えば、周波数掃引幅において所定間隔で得られる周波数)fに対して位相遅延量θを算出したか否かを判断する。ステップS4に否定結果が得られると、このことは、周波数掃引に用いる全ての周波数fに対して位相遅延量θを算出していないことを表しており、このとき計算機14は、ステップS4で肯定結果が得られるまで、上述したステップS1~S4を繰り返す。
一方、ステップS4において、肯定結果が得られると、このことは、周波数掃引に用いる全ての周波数fに対して位相遅延量θを算出し終えたことを表しており、このとき計算機14は、位相遅延量演算処理を終了する。
<変位測定時における変位測定処理>
変位測定装置1は、上述した較正が終了すると、測定面10の変位Dを測定可能な状態となる。変位測定時、変位測定装置1は、周波数fを時間に対して変化させたマイクロ波を送信信号として測定面10に送信し、測定面10からの反射マイクロ波を受信信号として受信する。変位測定装置1は、送信信号を参照信号として6ポート回路11の入力ポートP1に入力するとともに、測定面10から得られた受信信号を6ポート回路11の入力ポートP2に入力する。
これにより、図2に示す入力部21は、各周波数f毎に、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6を取得し、これらを位相演算部23に出力する。この際、位相演算部23は、較正時に得た、周波数掃引における各周波数fでの位相遅延量θを、記憶装置15から読み出す。
位相演算部23は、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6と、位相遅延量θと用いて、各周波数f毎に、上記の式(8)に基づき、位相変化量△φを算出する。
ここで、図4を用いて、各周波数f毎に算出した位相変化量△φについて説明する。図4は、検証試験によって各周波数f毎に位相変化量△φを算出したときの算出結果を示したグラフである。図4では、測定対象物としてアルミ平板を用い、38~42[GHz]の範囲で周波数を掃引しながらマイクロ波をアルミ平板に向けて照射した。
また、38~42[GHz]の範囲で周波数掃引を行った際の6ポート回路11の位相遅延量θを、上述した手順に従い較正によって事前に求めた。図4では、基準位置Oからの変位Dを1000[μm]として、そのときに6ポート回路11から出力された4つの信号の電力値B3,B4,B5,B6と、事前に求めた位相遅延量θとを用いて、上記の式(8)から位相変化量△φを各周波数f毎に求めた結果を示す。
位相演算部23は、図4に示すように、各周波数fで位相変化量△φを算出すると、これを周波数・位相変化量データとして、位相アンラッピング処理部24と記憶装置15(図1)に出力する。位相アンラッピング処理部24は、周波数・位相変化量データに対して、位相アンラッピング処理を行い、図5に示すように、位相変化量△φの不連続点を周波数fに沿って位相接続させ、位相変化量△φを連続的に表した位相アンラッピングデータを生成する。
なお、図5では、図4に示すノコギリ歯状の信号のうち、正に増加する信号を接続してゆき、位相変化量△φを連続的に表した位相アンラッピングデータを生成している。
位相アンラッピング処理部24は、得られた位相アンラッピングデータを、傾き算出部25に出力する。傾き算出部25は、周波数fに沿って位相変化量△φを連続的に表した位相アンラッピングデータから近似直線を算出し、この近似直線の傾きd△φ/dfを算出する。傾き算出部25は、周波数fに対する位相変化量△φの傾きd△φ/dfを算出すると、これを粗変位算出部26に出力する。
粗変位算出部26は、周波数掃引した際の位相変化量△φの傾きd△φ/dfを利用して上記の式(6)から粗変位D´を算出し、得られた算出結果を位相不定性解消部27に出力する。位相不定性解消部27は、周波数・位相変化量データを記憶装置15から読み出し、例えば、掃引する周波数範囲の中心周波数における位相変化量△φを求めた後、この位相変化量△φの絶対値を算出する。そして、位相不定性解消部27は、これら中心周波数と、位相変化量△φの絶対値と、粗変位D´を利用して、上記の式(5)から、2πの不定性を取り除く整数nを算出する。
位相不定性解消部27は、算出した整数nの情報を変位算出部28及び記憶装置15に出力する。変位算出部28は、位相不定性解消部27から受け取った整数nを用いて、上記の式(5)における整数nを規定し、2πの不定性を取り除く。また、変位算出部28は、位相演算部23から受け取った周波数・位相変化量データから、掃引する周波数範囲の中心周波数における位相変化量△φを求めた後、この位相変化量△φの絶対値を算出する。
変位算出部28は、この絶対値を、2πの不定性を取り除いた上記の式(5)の位相変化量△φとして用い、当該式(5)に基づいて変位Dを算出する。これにより、変位測定装置1では、位相変化量△φの2πの不定性を取り除き、変位Dを測定できるので、変位測定時のダイナミックレンジを拡大できるとともに、波長以下の高い分解能により変位Dを測定することが可能となる。
次に、図6のフローチャートを用いて、上述した変位測定処理の時系列な流れについて以下簡単に説明する。計算機14は、ステップS11において、周波数fを時間に対して変化させたマイクロ波を送信信号として測定面10に送信し、測定面10からの反射マイクロ波を受信信号として受信することで、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6を取得する。
次いで、ステップS11において計算機14は、所定の周波数fにおいて、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6と、当該周波数fのときの位相遅延量θとを用いて、上記の式(8)から、当該周波数fでの位相変化量△φを求めて、次にステップS12に移る。
ステップS12において、計算機14は、掃引する周波数範囲の各周波数fで、それぞれ位相変化量△φを算出したか否かを判断する。ここで、否定結果が得られると、各周波数fで位相変化量△φを算出していないことを表しており、このとき計算機14は、ステップS11に戻り、他の周波数fでの位相変化量△φを算出する。
一方、ステップS12において肯定結果が得られると、このことは全ての周波数fで位相変化量△φを算出し終えたことを表しており、このとき計算機14は、ステップS13に移る。ステップS13において、計算機14は、図4に示すような周波数と位相変化量△φとの関係を示した周波数・位相変化量データに対して、位相アンラッピング処理を行い、図5に示すように、周波数に沿って位相変化量△φを連続的に接続した位相アンラッピングデータを生成し、次のステップS14に移る。
ステップS14において、計算機14は、位相アンラッピングデータから、掃引する周波数fに対する位相変化量△φの傾きd△φ/dfを算出し、次のステップS15に移る。ステップS15において、計算機14は、傾きd△φ/dfを用いて、上記の式(6)から粗変位D´を算出し、次のステップS16に移る。
ステップS16において、計算機14は、粗変位D´と、掃引する周波数範囲における中心周波数と、中心周波数における位相変化量△φの絶対値とを用い、上記の式(5)から、2πの不定性を取り除く整数nを算出し、次のステップS17に移る。
ステップS17において、計算機14は、掃引する周波数範囲における中心周波数と、中心周波数における位相変化量△φの絶対値とを用い、2πの不定性を取り除いた上記の式(5)(すなわち、整数nを規定した式(5))から、変位Dを算出し、上述した変位測定処理を終了する。
<本発明の変位測定装置により算出した変位と、実際に与えた変位との測定誤差について>
次に、本発明による変位測定装置1により算出した変位Dと、実際に与えた変位との測定誤差を確認する検証試験を行った。ここで、先ず、上述した検証試験によって得られた図4及び図5に示すデータを用いて変位Dを算出した。
具体的には、図4に示す周波数・位相変化量データから位相アンラッピング処理により得られた図5の位相アンラッピングデータから、近似直線を算出した。そして、算出した近似直線から、周波数に対する位相変化量△φの傾きd△φ/dfを算出した。
この傾きd△φ/dfを利用し、上記の式(6)から粗変位D´を算出したところ、粗変位D´は、691.8[μm]であった。また、38~42[GHz]の範囲で周波数掃引を行ったときの中心周波数は40[GHz]であり、この中心周波数ときの位相変化量△φの絶対値を、図4に基づいて特定したところ、3[rad]であった。
次に、この中心周波数と、このときの位相変化量△φの絶対値と、粗変位D´とを利用し、上記の式(5)から整数nを求めたところ、nは0となることが分かった。
次に、中心周波数である40[GHz]と、図4から特定した、中心周波数での位相変化量△φの絶対値である3[rad]とを利用し、nを0とした上記の式(5)から変位Dを算出したところ、最終的な変位Dとして、981.4[μm]となった。
図4に示す周波数・位相変化量データを得る際に、実際に与えた変位は、1000[μm]であることから、算出した変位Dとの測定誤差は20[μm]と微小であることが確認できた。
また、実際の変位を、0[μm]から8500[μm]まで変えてゆき、上述した演算処理と同様に変位Dを算出したところ、図7に示すような結果が得られた。なお、3750[μm]以下の変位を与えたときは、整数nは0となり、3750[μm]超7500[μm]以下の変位を与えたときは、整数nは1となり、7500[μm]超の変位を与えたときは、整数nは2となった。
図7から、0[μm]から8500[μm]まで、実際に与えた実測値の変位と、上述した演算処理により算出した変位Dとでは、測定誤差が20[μm]以下となり、高精度で測定面10の変位Dを測定できることが確認できた。
(1-4)作用及び効果
以上の構成において、変位測定装置1では、周波数fを時間に対して変化させた送信信号を測定面10に送信し、測定面10からの反射マイクロ波を受信信号として受信する(送受信工程)。また、6ポート回路11に対し、送信信号を参照信号として入力するとともに、測定面10の変位を測定する際に得られた受信信号を入力する(実測値入力工程)。
そして、実測値入力工程により6ポート回路11から出力される4つの信号の電力値B3,B4,B5,B6と、送信信号の各周波数fにおける6ポート回路11での位相遅延量θと、に基づいて、各周波数fで位相変化量△φを算出する(位相演算工程)。
これにより、変位測定装置1では、位相変化量△φの周波数fに対する傾きd△φ1/dfを基に、測定面10の粗変位D´を算出する(粗変位算出工程)。
また、変位測定装置1では、粗変位D´と、周波数fと、そのときの位相変化量△φとを用いて、下記の式(11)から位相特性である2πの不定性を解消する整数nを算出する(位相不定性解消工程)。
D´=c/4πf・(△φ+2πn) … (11)
D´は粗変位[μm]、cは光速[m/s]、fは周波数[Hz]、△φは位相変化量[rad]、nは整数を示す。
これにより、変位測定装置1では、整数nを規定して2πの不定性を解消した、上記の式(5)(すなわち、D=c/4πf・(△φ+2πn))から、周波数fと、そのときの位相変化量△φとを用いて、測定面10の変位Dを算出することができる(変位算出工程)。
以上より、変位測定装置1では、6ポート回路11を用いるとともに、周波数fを時間に対して変化させた送信信号を用いて変位Dを測定しても、各周波数fにおける6ポート回路11での位相遅延量θを予め規定していることから、6ポート回路11での測定誤差を抑制して測定面10の変位Dを正確に測定できる。また、変位測定装置1では、2πの不定性を取り除くことができるので、波長を超えた大きさの変位Dを正確に測定できる。
(1-5)他の実施形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、送受信部として、送受信アンテナ4を適用したが、送信アンテナと受信アンテナとを別体に設けた送受信部を適用してもよい。
また、上述した実施形態においては、2πの不定性を取り除く整数nを、上記の式(5)から算出する際、中心周波数における位相変化量△φの絶対値を、式(5)の△φに適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、掃引する周波数範囲内の任意の周波数fと、そのときの位相変化量△φを用いて、式(5)から整数nを算出してもよい。
また、上述した実施形態においては、変位測定時、2πの不定性を取り除いた上記の式(5)から変位Dを算出する際、中心周波数における位相変化量△φの絶対値を、式(5)の△φに適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、掃引する周波数範囲内の任意の周波数fと、そのときの位相変化量△φを用いて、式(5)から変位Dを算出してもよい。
(2)第2実施形態
(2-1)不要波成分の発生について
図1に示す変位測定装置1では、送受信アンテナ4から測定面10に向けてマイクロ波を照射することにより、測定面10からの反射マイクロ波を送受信アンテナ4で受信するが、この際、反射マイクロ波の中には、送受信アンテナ4の端面で反射する反射波や、測定面10以外の箇所(例えば、測定面10以遠にある障害物等)に当たって戻ってくる反射波等のマルチパス波(以下、不要波とも称する)が存在している恐れがある。
このような不要波が存在する場合、測定面10からの反射マイクロ波と不要波とが干渉してしまう。その結果、図8に示すように、周波数を掃引して位相変化量△φを求めると、領域ER1内のように、反射マイクロ波と不要波との干渉により位相変化量△φが歪み、非線形な成分が現れてしまう。位相変化量△φに非線形な成分が存在すると、位相変化量△φの周波数に対する傾きから、測定面10の粗変位D´を求める際、粗変位D´に誤差が生じてしまい、整数nを正しく決めることができず、2πの不定性を正しく取り除くことができない場合がある。
このような場合には、周波数を掃引する際の帯域幅を広げることで、広い帯域で傾きを求め、非線形性の影響を抑制(平均化)すれば、整数nを正しく求めることができ、2πの不定性を取り除くことができる。
しかしながら、広い帯域で周波数を掃引すると、その分、周波数の掃引に時間を要し、測定面10の変位の測定周期が長くなってしまう。また、使用する周波数によっては、電波法によって掃引する周波数幅に制約があったり、他の無線設備との電波干渉の恐れもあるため、広い帯域で周波数を掃引することは難しい。
そこで、第2実施形態では、変位測定時、6ポート回路11の各出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値B3,B4,B5,B6を測定し、これら電力値B3,B4,B5,B6と、位相遅延量θとを用いて生成される複素信号から不要波成分を取り除き、非線形性を抑制した位相変化量△φを算出するようにした。これにより、第2実施形態では、周波数を掃引する際の帯域幅を狭くしても、整数nを正しく求めることができ、2πの不定性を正しく取り除くことができる。
(2-2)第2実施形態における変位測定装置の計算機について
第2実施形態は、上述した実施形態(以下、第1実施形態と称する)と変位の測定原理は同じであるものの、変位測定時、6ポート回路11の各出力ポートP3,P4,P5,P6から出力される信号の電力値B3,B4,B5,B6と、事前の較正により求めた位相遅延量θとに基づいて位相変化量△φを算出する計算機14の構成が、第1実施形態とは異なるものである。ここでは、上述した第1実施形態と同一内容については説明を省略し、第1実施形態と異なる計算機に着目して以下説明する。
図2との対応部分に同一符号を付して示す図9は、第2実施形態の変位測定装置に設けられる計算機31の回路構成を示している。図9に示すように、計算機31は、第1実施形態とは位相演算部32の構成が異なるだけであり、その他の入力部21、位相遅延量演算部22、位相アンラッピング処理部24、傾き算出部25、粗変位算出部26、位相不定性解消部27及び変位算出部28は、第1実施形態と同一構成となる。
図10に示すように、位相演算部32は、第1位相変化量算出部33、振幅算出部34、複素信号生成部35、不要波抑制部36及び第2位相変化量算出部37を備えている。第1位相変化量算出部33及び振幅算出部34は、各周波数f毎に、6ポート回路11から出力された4つの信号の電力値B3,B4,B5,B6を、入力部21(図9)から取得する。また、第1位相変化量算出部33及び振幅算出部34は、較正時に得た、周波数掃引における各周波数fでの位相遅延量θを、記憶装置15又は位相遅延量演算部22から読み出す。
第1位相変化量算出部33は、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6と、位相遅延量θと用いて、各周波数f毎に、上記の式(8)に基づき位相変化量△φを処理前位相変化量△φ´´として算出する。第1位相変化量算出部33は、各周波数fで処理前位相変化量△φ´´を算出すると、これを周波数・位相変化量データとして、複素信号生成部35に出力する。
この際、振幅算出部34は、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6と、位相遅延量θと用いて、下記の式(12)に基づき、6ポート回路11から出力される信号の振幅Aを各周波数f毎に算出する。振幅算出部34は、各周波数fで振幅Aを算出すると、これを周波数・振幅データとして、複素信号生成部35に出力する。
ここで、図11Aは、振幅算出部34で算出される振幅Aの波形の一例を示し、図11Bは、第1位相変化量算出部33で算出される処理前位相変化量△φ´´の波形の一例を示しており、不要波成分により非線形の成分を含んだ処理前位相変化量△φ´´を示している。複素信号生成部35は、周波数fに沿って取得した図11Aのような振幅Aと、同じく周波数fに沿って取得した図11Bのような処理前位相変化量△φ´´とを用いて、周波数fを変化させながら、下記の式(13)を計算し、図11Cに示すような複素信号を生成する。なお、下記の式(13)中、iは虚数単位を示す。
Acos△φ´´+iAsin△φ´´ … (13)
このようにして、複素信号生成部35は、6ポート回路11から出力される信号を、実部と虚部とが周波数fに対して正弦的に振動する複素信号として再構築し、得られた複素信号を不要波抑制部36(図10)に出力する。
不要波抑制部36には、第1フィルタ処理部41、逆フーリエ変換部42、第2フィルタ処理部43、フーリエ変換部44及び不要波抑制信号生成部45が設けられている。第1フィルタ処理部41は、図12Aに示すような複素信号を複素信号生成部35から受け取ると、例えば、図12Bに示すような所定の窓関数を複素信号に掛ける第1フィルタ処理を行う。これにより、第1フィルタ処理部41は、図12Cに示すように、窓関数により重み付けされた複素信号を生成する。
このように複素信号に所定の窓関数を掛けることで、複素信号の振幅の両端をなだらかに0に近づけることができるので、後述する逆フーリエ変換によって複素信号を周波数領域から時間領域に変換した際に、時間領域上で不要なサイドローブが発生することを防止できる。
ここで、窓関数としては、任意の窓関数を用いることができるが、測定に用いる周波数幅や複素信号の振幅の大きさから、窓関数の振幅の中心位置や半値全幅、有限区間を決めることができる。すなわち、複素信号に対して窓関数を作用させた際に、測定に用いる周波数の両端で振幅がなだらかに0となるようにする。第1フィルタ処理部41で用いる窓関数としては、例えば、カイザー・ベッセル窓を用いることが望ましい。
第1フィルタ処理部41は、窓関数を掛けた複素信号を、逆フーリエ変換部42に出力する。逆フーリエ変換部42は、図13Aのような有限区間の複素信号に対して逆フーリエ変換を行い、周波数領域の複素信号を時間領域に変換し、図13Bに示すような時間領域波形を生成する。逆フーリエ変換部42は、得られた時間領域波形を第2フィルタ処理部43に出力する。
ここで、時間領域波形において、時刻0付近に現れる最初の第1ピークPK1は、送受信アンテナ4及び測定面10の位置や距離から判断すると、送受信アンテナ4から測定面10に向けてマイクロ波を照射する際に、送受信アンテナ4の端面でマイクロ波が反射することで生じる不要波により現れたピークである。
時間領域波形において、第1ピークPK1の次に現れる第2ピークPK2は、測定面10でマイクロ波が反射することで生じる反射マイクロ波による所望信号である。測定面10以遠の障害物でマイクロ波が反射することで生じる不要波は、時間領域波形では、第2ピークPK2よりも遅れた第3ピークPK3として現れる。
第2フィルタ処理部43は、例えば、図14Aのような時間領域波形に、図14Bに示すような所定の窓関数を掛ける第2フィルタ処理を行う。これにより、第2フィルタ処理部43は、図14Cに示すように、所望信号である第2ピークPK2を時間領域波形から切り出して、不要波により現れた第1ピークPK1及び第3ピークPK3を抑制した時間領域波形を生成する。第2フィルタ処理部43は、時間領域波形から所望信号が存在する領域を切り出した時間領域波形をフーリエ変換部44に出力する。
ここで、窓関数としては、任意の窓関数を用いることができるが、時間領域波形で所望信号となる第2ピークPK2付近に振幅のピークを持ち、かつ不要波による第1ピークPK1及び第3ピークPK3付近で振幅が0近くになる窓関数を使用すればよい。これら窓関数の振幅の中心位置や半値全幅、有限区間は、過去の操業データから決めることができる。第2フィルタ処理部43で用いる窓関数としては、例えば、ハニング窓を用いることができる。
フーリエ変換部44は、図15Aに示すように、所望信号が存在する領域を切り出して不要波成分を抑制した時間領域波形に、フーリエ変換を行い、当該時間領域波形を時間領域から周波数領域へと変換し、図15Bに示すように、実部及び虚部を有する周波数領域波形を生成する。フーリエ変換部44は、得られた周波数領域波形を不要波抑制信号生成部45に出力する。
不要波抑制信号生成部45は、図16Aのような周波数領域波形を、第1フィルタ処理部41で使用した図16Bに示す窓関数で割り戻し、図16Cのように、周波数fに沿って連続的に変化する不要波抑制信号を生成する。このようにして得られた不要波抑制信号は、実部と虚部を有する複素信号であり、不要波抑制信号生成部45は、生成した不要波抑制信号を第2位相変化量算出部37に出力する。
第2位相変化量算出部37は、図17Aのような不要波抑制信号から、図17Cに示すように、各周波数f毎に位相変化量△φを算出する。第2位相変化量算出部37は、不要波抑制信号から各周波数f毎に位相変化量△φを算出すると、これを周波数・位相変化量データとして位相アンラッピング処理部24(図9)に出力する。
ここで、図17Aに示す不要波抑制信号は、下記の式(14)で表すことができる。式(14)中、iは虚数単位を示し、A´は不要波抑制信号の振幅を示し、△φは不要波抑制信号の位相変化量を示す。なお、図17Bは、不要波抑制信号の振幅A´の波形を示したものである。
A´cos△φ+iA´sin△φ … (14)
不要波成分が抑制された不要波抑制信号から算出された、周波数fに沿った位相変化量△φは、反射マイクロ波と不要波とが干渉することにより生じる非線形な成分が抑制され、周波数fに沿って線形的に変化する。よって、第2実施形態では、位相変化量△φで非線形な成分を抑制できる分、位相変化量△φの周波数に対する傾きから測定面10の粗変位D´を求める際、粗変位D´に誤差が生じ難くなり、整数nを正しく決めることができる。
なお、周波数・位相変化量データに対して位相アンラッピング処理を行う位相アンラッピング処理部24と、位相アンラッピングデータから近似直線の傾きd△φ/dfを算出する傾き算出部25と、上記の式(6)から粗変位D´を算出する粗変位算出部26と、2πの不定性を取り除く整数nを算出する位相不定性解消部27と、変位Dを算出する変位算出部28は、それぞれ上述した第1実施形態と同様であるため、ここではその説明は省略する。
(2-3)第2実施形態における変位測定時における変位測定処理
次に、第2実施形態における変位測定処理の時系列な流れについて、図18のフローチャートを用いて以下簡単に説明する。計算機31は、変位測定時、開始ステップからステップS11及びステップS21に移行する。計算機31は、ステップS11において、周波数fを時間に対して変化させたマイクロ波を送信信号として測定面10に送信し、測定面10からの反射マイクロ波を受信信号として受信することで、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6を取得する。
次いで、ステップS11において、計算機31は、所定の周波数fで6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6と、当該周波数fのときの位相遅延量θとを用いて、上記の式(8)から、当該周波数fでの位相変化量△φを処理前位相変化量△φ´´(図11B)として算出し(処理前位相変化量算出工程)、次にステップS22に移る。
このときステップS21において、計算機31は、所定の周波数fにおいて、6ポート回路11から出力された信号の電力値B3,B4,B5,B6と、当該周波数fのときの位相遅延量θとを用いて、上記の式(12)から、当該周波数fでの振幅A(図11A)を求め(振幅算出工程)、次にステップS22に移る。
ステップS22において、計算機31は、掃引する周波数範囲の各周波数fで、それぞれ処理前位相変化量△φ´´及び振幅Aを算出したか否かを判断する。ここで、否定結果が得られると、各周波数fで処理前位相変化量△φ´´及び振幅Aを算出していないことを表しており、このとき計算機31は、ステップS11及びステップS21に戻り、他の周波数fでの処理前位相変化量△φ´´及び振幅Aを算出する。
一方、ステップS22において肯定結果が得られると、このことは全ての周波数fで処理前位相変化量△φ´´及び振幅Aを算出し終えたことを表しており、このとき計算機31は、ステップS23に移る。ステップS23において、計算機31は、上記の式(13)を基に、図11Cに示すような周波数領域の複素信号を生成し(複素信号生成工程)、次のステップS24に移る。
ステップS24において、計算機31は、複素信号に窓関数(図12B)を掛ける第1フィルタ処理を行い、両端をなだらかに0に近づけた複素信号(図12C)を生成し(第1フィルタ処理工程)、次のステップS25に移る。ステップS25において、計算機31は、逆フーリエ変換により複素信号を周波数領域から時間領域に変換して時間領域波形(図13B)を生成し(時間領域変換工程)、次のステップS26に移る。
ステップS26において、計算機31は、時間領域波形に窓関数(図14B)を掛ける第2フィルタ処理を行い、所望信号を切り出して不要波成分を抑制した時間領域波形(図14C)を生成し(第2フィルタ処理工程)、次のステップS27に移る。ステップS27において、計算機31は、フーリエ変換により時間領域波形を時間領域から周波数領域に変換して周波数領域波形(図15B)を生成し(周波数領域変換工程)、次のステップS28に移る。
ステップS28において、計算機31は、ステップS24の第1フィルタ処理で用いた窓関数(図16B)で周波数領域波形を割り戻して、実部及び虚部を有する不要波抑制信号(図16C)を生成し(不要波抑制信号生成工程)、次のステップS29に移る。ステップS29において、計算機31は、上記の式(14)で表される不要波抑制信号から位相変化量△φを算出し(位相変化量算出工程)、第1実施形態で説明した図6のステップS13に移行する。
その後、第2実施形態でも、上述した第1実施形態と同様に、図6に示したステップS13~ステップS17を順に実行する。なお、ここでは、ステップS29以降のステップS13~ステップS17は、第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
(2-4)検証試験
次に検証試験について説明する。図19は、検証試験によって各周波数f毎に処理前位相変化量△φ´´を算出したときの算出結果を示したグラフである。図19では、測定対象物としてアルミ平板(アルミ板とも称する)を用い、48~52[GHz](掃引周波数帯域幅は4[GHz])の範囲で周波数を掃引しながらマイクロ波をアルミ板に向けて照射した。なお、この検証試験では、アルミ板からの反射マイクロ波を受信する際に不要波が発生している。
なお、48~52[GHz]の範囲で周波数掃引を行った際の6ポート回路11の位相遅延量θを、上述した手順に従い、較正によって事前に求めた。図19では、基準位置Oからの変位Dを1000[μm]として、そのときに6ポート回路11から出力された4つの信号の電力値B3,B4,B5,B6と、事前に求めた位相遅延量θとを用いて、上記の式(8)から各周波数f毎に求めた位相変化量△φを処理前位相変化量△φ´´として示す。図19では、本来、線形的なノコギリ歯状となるはずの信号が、不要波の影響によって歪んでいることが確認できた。
次に、6ポート回路11から出力された4つの信号の電力値B3,B4,B5,B6と、事前に求めた位相遅延量θとを用いて、上記の式(12)から各周波数f毎に振幅Aを求めた。そして、周波数fに沿って取得した振幅Aと、同じく周波数fに沿って取得した処理前位相変化量△φ´´とを用いて、周波数fを変化させながら、上記の式(13)を計算して複素信号を生成した。
次に、第1フィルタ処理として、β=6のカイザー・ベッセル窓を窓関数として複素信号に掛けた後、得られた複素信号を逆フーリエ変換し、当該複素信号を周波数領域から時間領域に変換して時間領域波形を生成した。その結果、図20に示すような結果が得られた。測定面10の位置から本来必要な信号は、2[ns]付近の信号であるが、図20から、その他の箇所(例えば、0.5[ns]付近及び4[ns]付近)にも、不要波によりピークが存在することが確認できた。
次に、第2フィルタ処理として、中心2[ns]、半値全幅1.5[ns]のハニング窓を窓関数として用いて、図20に示した時間領域波形のうち、2[ns]付近の信号を所望信号として切り出した。その結果、図21に示すような時間領域波形が得られた。そして、図21に示した時間領域波形をフーリエ変換し、当該時間領域波形を時間領域から周波数領域に変換して周波数領域波形を生成した。
次いで、この周波数領域波形を、第1フィルタ処理で窓関数として使用したβ=6のカイザー・ベッセル窓で割り戻して不要波抑制信号を生成した。このようにして得られた不要波抑制信号は実部及び虚部を有するものであり、上記の式(14)で表される。次いで、この不要波抑制信号から、各周波数fに沿って位相変化量△φを算出したところ、図22に示すような結果が得られた。図22の結果から、処理前位相変化量△φ´´に存在していた非線形の成分が抑制され、線形的なノコギリ歯状の信号が得られることが確認できた。
次に、図19に示した処理前位相変化量△φ´´と、図22に示した位相変化量△φとを用いて、それぞれ変位Dを算出した結果を図23に示す。不要波成分を抑制する処理を行っていない場合、アルミ板に与えた変位量が3000[μm]のときに変位が正しく測定されなかった。しかしながら、不要波成分を抑制する処理を行うと、測定範囲全域で変位Dを正しく求めることができた。
次に、中心周波数を50[GHz]として、掃引周波数帯域幅(帯域幅)を250[MHz]、500[MHz]、1[GHz]、2[GHz]、4[GHz]及び8[GHz]と変え、不要波成分を抑制する処理を行い、変位Dの測定を行った。そして、得られた変位Dの測定結果を、図24に示す。なお、不要波成分を抑制する処理は、上述した検証試験と同じようにして第1フィルタ処理や第2フィルタ処理等の一連の処理を行い、そのとき用いる窓関数も上述した検証試験と同じカイザー・ベッセル窓及びハニング窓を用いた。
図24Aは、掃引周波数帯域幅が250[MHz]のときの変位Dの測定結果を示し、図24Bは、掃引周波数帯域幅が500[MHz]のときの変位Dの測定結果を示し、図24Cは、掃引周波数帯域幅が1[GHz]のときの変位Dの測定結果を示す。また、図24Dは、掃引周波数帯域幅が2[GHz]のときの変位Dの測定結果を示し、図24Eは、掃引周波数帯域幅が4[GHz]のときの変位Dの測定結果を示し、図24Fは、掃引周波数帯域幅が8[GHz]のときの変位Dの測定結果を示す。
掃引周波数帯域幅を1[GHz]~8[GHz]とした場合、変位Dが正しく測定されることが確認できた。一方、掃引周波数帯域幅を250[MHz]、500[MHz]とした場合には、図24A及び図24Bに示すように、アルミ板の移動量が1[μm]、5[μm]及び9.5[μm]のとき、測定値が実際の移動量に対して大きく外れた。これらは、位相変化量△φの傾きから整数nを決定する際に、整数nが正しく求められないために生じた誤差である。
よって、不要波成分を抑制する処理により非線形成分が抑制された位相変化量△φを用いると、変位Dを求めるのに必要な掃引周波数帯域幅を1[GHz]まで狭めることが可能になった。以上より、測定面10の変位Dを測定する際の掃引周波数帯域幅を狭めても、測定誤差を抑制して測定面10の変位を正確に測定できることが確認できた。
(2-5)作用及び効果
以上の構成において、第2実施形態の変位測定装置でも、上述した第1実施形態と同様に、送受信工程、実測値入力工程、位相演算工程、粗変位算出工程、位相不定性解消工程及び変位算出工程を実行することで、6ポート回路11での測定誤差を抑制して測定面10の変位Dを正確に測定できる。また、この変位測定装置でも、2πの不定性を取り除くことができるので、波長を超えた大きさの変位Dを正確に測定できる。
これに加えて、第2実施形態の変位測定装置では、位相演算工程を実行する際、6ポート回路11から出力される各信号の電力値B3,B4,B5,B6と、較正時に得た周波数掃引における各周波数fでの位相遅延量θとを用いて処理前位相変化量△φ´´及び振幅Aを算出し、これら処理前位相変化量△φ´´及び振幅Aに基づいて複素信号を生成するにようにした(複素信号生成工程)。次いで、この変位測定装置では、複素信号に含まれる所望信号を切り出して不要波成分を抑制した不要波抑制信号を生成し(不要波抑制工程)、この不要波抑制信号から各周波数fでの位相変化量△φを算出するようにした(位相変化量算出工程)。
このように、第2実施形態による変位測定装置では、不要波成分が抑制された不要波抑制信号から、周波数fに沿った位相変化量△φを算出するようにしたことにより、反射マイクロ波と不要波との干渉がなく非線形な成分が抑制された位相変化量△φを得ることができる。したがって、位相変化量△φの周波数に対する傾きから測定面10の粗変位D´を求める際、粗変位D´に誤差が生じ難くなり、整数nを正しく決めることができるため、2πの不定性を正しく取り除くことができる。
また、変位測定装置では、位相変化量△φの周波数に対する傾きから測定面10の粗変位D´を求める際、不要波成分が抑制されて線形的に変化する位相変化量△φを用いるようにしたことにより、掃引周波数帯域幅を狭くしても、整数nを正しく決めることができる。よって、掃引周波数帯域幅を狭くしても、2πの不定性を正しく取り除け、測定面10の変位Dを正確に測定できる。
(2-6)第2実施形態における他の実施形態
なお、上述した第2実施形態においては、第2フィルタ処理工程で用いる第2フィルタとして、図14Bに示すように、ピークから両端に向けてなだらかに振幅が小さくなってゆき端部で振幅が0の正弦波状の窓関数を適用したが、本発明はこれに限らない。例えば、急峻な立ち上がり及び立ち下がりを有するパルス状の信号を、第2フィルタ処理工程で用いる第2フィルタとして適用してもよい。なお、パルス状の信号を用いる場合も、時間領域波形で所望信号となる第2ピークPK2付近に立ち上がり領域を持ち、かつ不要波による第1ピークPK1及び第3ピークPK3付近で振幅が0の立ち下がり領域を有していればよい。
また、上述した第2実施形態において、第2フィルタ処理工程で用いる第2フィルタとして、正弦波状の窓関数を用い、送受信アンテナ4の端面でマイクロ波が反射することで生じる不要波と、測定面10以遠の障害物でマイクロ波が反射することで生じる不要波との両方を抑制するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、測定面10以遠で生じる不要波による影響が小さい場合には、第2フィルタとして、送受信アンテナ4の端面でマイクロ波が反射することで生じる不要波による第1ピークPK1のみを抑制し、第3ピークPK3をそのままとする第2フィルタを用いるようにしてもよい。具体的には、第2フィルタ処理時、遅延時間が0~0.5[ns]付近で振幅が0で、それ以外の領域で振幅が1のステップ状の信号を第2フィルタとして用いてもよい。なお、このステップ状の信号は、急峻に立ち上がる信号であってもよく、また、なだらかに立ち上がる信号でもよい。
また、送受信アンテナ4の端面で生じる不要波による影響が小さい場合には、測定面10以遠に位置する箇所で発生する、時間領域波形内の不要波成分のみを、第2フィルタで抑制するようにしてもよい。この場合、第2フィルタとしては、測定面10以遠で反射することで生じる不要波による第3ピークPK3付近のみで振幅が0となり、その他の箇所では振幅が1となる第2フィルタを用いればよい。