以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(レベル計の構成について)
まず、図1A及び図1Bを参照しながら、本発明の実施形態に係るレベル計の構成について説明する。図1A及び図1Bは、本実施形態に係るレベル計の構成の一例を模式的に示した説明図である。
本実施形態に係るレベル計10は、転炉に存在する溶融物(溶銑や溶鋼やスラグ)のうちスラグを計測対象物Sとし、かかるスラグの表面(スラグ面ともいう。)の位置を、マイクロ波により計測する装置である。ここで、スラグ面の位置を、スラグ面のレベル(:図1における離隔距離w、以下、「スラグレベル」又は「スラグの表面レベル」ともいう。)と呼ぶ。このレベル計10は、図1Aに示したように、マイクロ波照射ユニット100と、アンテナ駆動機構150と、演算処理ユニット200と、を備える。また、本実施形態に係るレベル計10は、図1Bに示したように、マイクロ波照射ユニット100、アンテナ駆動機構150、及び、演算処理ユニット200に加えて、サウンドレベル計測ユニット130を更に備えることが好ましい。
マイクロ波照射ユニット100は、計測対象物Sに対してマイクロ波を照射するとともに、計測対象物Sからのマイクロ波の反射波を検出するユニットである。このマイクロ波照射ユニット100の詳細な構成については、以下で詳述する。
サウンドレベル計測ユニット130は、計測対象物Sで発生している音(より詳細には、転炉に存在する溶融物へ噴射される酸素ガスに起因するジェット音)のサウンドレベル(例えば、音圧など)を計測するユニットである。本実施形態に係るレベル計10は、このようなサウンドレベル計測ユニット130を更に備えることで、以下で詳述するマイクロ波の照射方向の走査時期を、より正確に特定することが可能となる。このサウンドレベル計測ユニット130は、特に限定されるものではなく、公知のサウンドレベル計を利用することが可能である。サウンドレベル計測ユニット130で計測された、計測対象物Sで発生している音のサウンドレベルに関する情報は、随時、演算処理ユニット200に対して出力される。
このサウンドレベル計測ユニット130の配設位置については、特に限定されるものではなく、計測対象物で発生している音を集音可能な位置であれば、任意の位置に設置することが可能である。
アンテナ駆動機構150は、マイクロ波照射ユニット100が有するアンテナの配設角度を少なくとも調整する駆動機構である。かかるアンテナ駆動機構150が動作することで、マイクロ波照射ユニット100におけるアンテナの配設角度が変化し、所望の方向へマイクロ波を照射することが可能となる。かかるアンテナ駆動機構150は、例えば、アクチュエータや、サーボモータや、ステッピングモータ等といった公知の駆動機構を利用することが可能である。
また、アンテナ駆動機構150は、マイクロ波照射ユニット100が有するアンテナの配設角度以外にも、アンテナの配置状態を変化させるために、様々な設置条件を調整することが可能である。
なお、アンテナ駆動機構150の配設位置については、特に限定されるものではなく、マイクロ波照射ユニット100が有するアンテナに対して作用を及ぼすことが可能な位置であれば、任意の位置に設置することが可能である。
演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100により検出されたマイクロ波に関する信号データを利用して、計測対象物Sであるスラグの表面レベルを算出するユニットである。この演算処理ユニット200の詳細についても、以下で詳述する。
<マイクロ波照射ユニットの構成について>
続いて、図1A及び図1Bを参照しながら、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100の構成を詳細に説明する。
本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100は、例えば、周波数変調連続波(Frequency Modulated−Continuous Wave:FM−CW)方式を採用したユニットとして実現される。このマイクロ波照射ユニット100は、図1A及び図1Bに示したように、マイクロ波射出部の一例である周波数掃引器101及び発振器103と、方向性結合器105と、アンテナ部として機能するアンテナ107と、ミキサ109と、検出部として機能する検出器111と、を備える。
周波数掃引器101は、後述する発振器103から発振されるマイクロ波の周波数を制御して、連続的かつ直線的に周波数を変化させる機器である。周波数変調の幅と、変調の周期については、事前に調整を行い、マイクロ波が所望の精度で射出・検出できるように設定しておけばよい。また、用いる周波数掃引器101についても特に限定されるものではなく、公知のものを利用すればよい。
発振器103は、周波数掃引器101による制御のもとで、周波数掃引器101により指定された周波数のマイクロ波を発振する機器である。かかる発振器103により発振される周波数(中心周波数)については、以下で詳述する。また、発振されるマイクロ波の強度については、特に限定されるものではないが、計測対象物までの大まかな離隔距離の大きさに応じて、適切な強度を選択すればよい。発振器103から発振された周波数を掃引して射出するマイクロ波は、後述する方向性結合器105に出力されるとともに、一部が後述するミキサ109に出力される。なお、用いる発振器103については、公知のものを利用可能であるが、スラグレベルのリアルタイム計測を実現するためには、周波数掃引器101による周波数掃引に容易に追随できる程の応答速度を有する機器を用いることが好ましい。
方向性結合器105は、発振器103から発振されたマイクロ波を後述するアンテナ107へと導波するとともに、アンテナ107が受信したマイクロ波(すなわち、計測対象物Sからの反射マイクロ波)を、後述するミキサ109へと導波する機器である。方向性結合器105についても、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することが可能である。
アンテナ107は、マイクロ波の送受信器として機能するものであり、発振器103から射出されるマイクロ波を計測対象物Sに向けて照射するとともに、計測対象物Sからの反射波を受信する。本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100では、アンテナ107は、後述するように、転炉の炉口の上方に存在する開口部に設置される。従って、アンテナ107の大きさは、かかる開口部に適合可能なような大きさとすることが好ましい。アンテナ107の形状については特に限定されるものではないが、例えば、カセグレン型やホーン型のアンテナを利用することが好ましい。また、アンテナ107から放射されたマイクロ波の指向性を向上させるために、テフロン(登録商標)等の誘電体でできたレンズをアンテナ107の先端等に取り付けてもよい。
また、かかるアンテナ107は、アンテナ駆動機構150によって開口部への配設角度が制御されており、任意の方向にマイクロ波を照射し、計測対象物Sの様々な部位からの反射波を受信することが可能となる。
ミキサ109は、発振器103から射出されるマイクロ波(すなわち、送信波)と、方向性結合器105から導波された、計測対象物Sからの反射マイクロ波(すなわち、受信波)と、を混合して、後段の検出器111へと出力する。
検出器111は、ミキサ109によって送信波と受信波とが混合されることで生成した信号と、周波数変調との同期信号を検出する機器である。検出器111によるこのような検出処理により、アンテナ107が受信した反射マイクロ波が検出されることとなる。この検出器111によって検出された検出信号が、演算処理ユニット200へと出力される。かかる検出器111については、計測対象物Sからの反射波の大きさ等を事前に検証しておき、所望の精度・応答速度で信号を検出可能なものを利用することが好ましい。
[マイクロ波距離計の原理]
このような構成を有するマイクロ波照射ユニット100は、いわゆるマイクロ波距離計として機能するものであるが、以下では、図2を参照しながら、FM−CW方式のマイクロ波距離計の原理を簡単に説明する。
いま、図2の最上段に示したように、周波数掃引器101によって制御される発振器103の周波数変調の幅がF[Hz]に設定され、変調の周期がT[秒]に設定されたものとする。図2の最上段に示したように、送信波の周波数は、時間の経過とともに連続的かつ直線的に変化する。
一方、計測対象物Sにより反射されてアンテナ107で受信された受信波は、計測対象物Sまでの離隔距離wに比例した遅れΔt[秒]を生じることとなる。その結果、ある同時刻における送信波と受信波との間には、離隔距離wに対応した周波数の差Δf[Hz]が生じる。このような送信波及び受信波がミキサ109によって混合されると、Δfに相当する周波数成分を有する差周波信号(ビート波)となる。
いま、送信波と受信波との時間的遅れΔtは、マイクロ波が、アンテナ107と計測対象物Sとの間を往復するために要する時間に相当する。また、マイクロ波の伝播速度は光速cであるため、時間的遅れΔtは、以下の式101で表すことができる。一方、ビート波の周波数Δfと時間的遅れΔtとの間には、以下の式102で表される関係が成立する。従って、式101と式102とを用いることで、離隔距離wは、以下の式103により算出することができることがわかる。式103から明らかなように、離隔距離wを算出するという処理は、図2に示したビート波の周波数を算出することと等価である。
ここで、現実の計測環境においては、ミキサ109により生成されるビート波が図2に示したような正弦波となる場合はまれであり、いくつもの周波数成分が混じり合った複合波となる場合が多い。従って、このような複数の周波数成分からなるビート波の周波数を求める場合には、後述する演算処理ユニット200によってデジタル信号処理を行うこととなる。
具体的には、複数の周波数成分からなるビート波をフーリエ変換して、横軸を周波数[Hz]としたスペクトルを生成した上で、更に上記式103によって横軸を距離[m]に変換し、縦軸を強度とした、図2下段に示したような波形(以下では、「距離波形」ともいう。)を生成する。この距離波形において、メインピークを与える横軸の位置が、求めたい離隔距離wとなる。
[アンテナ107の設置方法について]
さて、以上のような原理に基づくマイクロ波照射ユニット100の計測対象物Sへの設置方法(より詳細には、アンテナ107の設置方法)について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3は、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニットの設置方法について説明するための説明図である。
本実施形態に係るレベル計10の計測対象物Sは、図3左側の図に示したように、製鋼プロセスで用いられる転炉の内部に存在するスラグ表面である。転炉製鋼プロセスでは、図3に示したような転炉の内部に溶銑を装入し、かかる溶銑に対してメインランスから酸素を吹き込むことによって、溶銑の成分調整を行って溶鋼を生成する。かかる溶融物の表面には、処理の進行に伴ってスラグが生成される。
また、転炉で行われる処理では、蒸気やダストなどが発生するため、発生するダスト等を外部環境に出さないためのフードが、転炉の炉口付近に設けられている。このフードには、メインランスを転炉内に挿入するための開口部や、サブランスを転炉内に挿入するための開口部(すなわち、サブランス孔)が設けられている。
本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100のアンテナ107は、図3右側の図に示したように、転炉の炉口側に位置するサブランス孔のような開口部に設置される。また、先だって説明したように、アンテナ107の近傍には、アンテナ駆動機構150が配設されており、アンテナ駆動機構150が稼働することでアンテナ107の配設角度を変更できるようになっている。
また、転炉の内部において吹錬に伴い発生する音を計測可能な位置には、サウンドレベル計測ユニット130(より詳細には、サウンドレベル計測ユニット130が有するマイクロフォン等の集音機器など(図示せず。))が設けられることが好ましい。
本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100では、転炉内に新たに溶鋼が装入され精錬処理が開始され、以下で詳述するような所定の条件が成立した状態で、転炉の内部に向けて所定の周波数のマイクロ波が照射され、マイクロ波照射ユニット100のアンテナ107の配設角度がアンテナ駆動機構150により制御され、最適な条件でスラグの表面レベルの計測が可能な位置を走査する。そのような位置が特定されると、マイクロ波照射ユニット100から特定された位置に向けてマイクロ波が照射され、スラグの表面レベルのリアルタイム計測が開始される。
なお、本実施形態において、アンテナ107の設置箇所は、サブランス孔に限定されるわけではなく、転炉の内部(スラグ表面)を臨むことが可能なフードの位置に新たに専用の開口部を設け、かかる新たな開口部にアンテナ107を設置してもよい。
次に、図4を参照しながら、アンテナ107の特性について、簡単に説明する。図4は、マイクロ波の照射領域の大きさについて説明するための説明図である。
図4に模式的に示したように、アンテナ107から照射されるマイクロ波は、アンテナ107の特性の一つである拡散角θ0で規定される範囲に拡散しながら、計測対象物Sに対して照射される。ここで、アンテナ107の直径(アンテナ径)をD0とし、一般的な転炉において、スラグ表面までの一般的な距離である8〜22mを離隔距離wとした場合に、最大の離隔距離であるw=22mの位置でのマイクロ波の照射領域の大きさ(照射領域の径)φの大きさがどのように変化するかを考える。
アンテナから照射されるマイクロ波の最小拡散角は、アンテナの径D0とマイクロ波の周波数とで規定される。ここで、本実施形態に係るアンテナ107は、開口部という大きさの限られた場所に設置されているため、アンテナ径D0は制限されることとなる。例えば、ダスト等が外部に漏出することを防止するためにフードに大きな開口を設けることができないという制約上、開口部の大きさは、せいぜい300〜400mm程度に制限される。従って、アンテナ107の径D0も、開口部の大きさが300mmの場合は例えば250〜275mm程度となる。
この場合に、照射されるマイクロ波の周波数が10GHzであり、アンテナ径D0が250mmであった場合、最大の離隔距離であるw=22mの位置での照射領域の径φは、3m程度の大きさとなる。照射領域の径φは、用いるマイクロ波の周波数を大きくするほど小さな値となり、24GHzのマイクロ波を用いた場合で1.5m程度となり、39GHzのマイクロ波を用いた場合で0.9mとなり、48GHzのマイクロ波を用いた場合で0.7mとなり、94GHzのマイクロ波を用いた場合で0.3mとなる。
ここで、照射領域の径φが大きくなりすぎると、アンテナ107から照射されるマイクロ波の強度も分散することとなり、十分な反射波の強度が得られないこととなる。また、マイクロ波が広く拡散する(換言すれば、拡散角θ0が大きい)場合には、アンテナ107から7m程度に位置する炉口やフードなどからの反射波がノイズ成分となって計測感度を著しく低下させる上、ノイズ成分の増加に伴って転炉内に侵入するマイクロ波の強度も低下してしまう。また、転炉の使用回数が増加すると、炉口に地金やスラグ等が付着して炉口の径が狭くなり、拡散角θ0が大きい場合には、マイクロ波の一部が炉口で遮蔽されてしまうということも生じうる。以上のような理由から、照射領域に供給されるマイクロ波の強度を好ましい範囲に維持するためには、照射領域の径φ大きさを1.5mより小さくできる、24GHz以上の周波数を用いることが好ましい。
以上、図3及び図4を参照しながら、マイクロ波照射ユニット100におけるアンテナ107の設置方法について、詳細に説明した。
なお、転炉製鋼プロセスにおいて、吹錬前は底吹きのみの状態であることから、計測対象物であるスラグ表面は比較的穏やかであるが、吹錬が開始されるとメインランスから大量の酸素が噴射されるため、表面は激しく変動する上、スラグの酸化反応によって激しく気泡が発生する状態(フォーミング状態)となる。かかる状態では、スラグ表面からのマイクロ波の反射率が小さくなり、吹錬前の溶銑レベル計測に比べて高い測定感度が求められることとなる。従って、吹錬中であってもより精度よくスラグ表面の位置の計測を行うために、マイクロ波照射ユニット100全体として、電力比が40dB以上であることが好ましい。
また、吹錬中のスラグ表面は、上述のように激しく上下動を繰り返しており、0.5秒で±1m程度変動する場合もある。そのため、平均的な表面レベルを計測するためには、時定数を短くして瞬時値を計測してから、得られた計測結果を平均化することが重要である。この際、精度50mm以下でスラグ表面のレベルを計測するためには、30ミリ秒程度以下の応答速度を有することが好ましい。これ以上の計測時間では、表面の変動分が検出信号のピーク強度の低下及び幅の増大につながり、感度を低下させる可能性がある。なお、上記応答速度の下限は特に限定するものではなく、応答速度が早ければ早いほど、実際のスラグの表面レベルの変化に追随した計測結果を得ることが可能となる。
以上、図1A〜図4を参照しながら、本実施形態に係るレベル計10が備えるマイクロ波照射ユニット100の構成について、詳細に説明した。
<アンテナ駆動機構によるアンテナ配設角度の制御について>
続いて、図5を参照しながら、アンテナ駆動機構150によるアンテナ107の配設角度の制御について、簡単に説明する。図5は、本実施形態に係るアンテナ駆動機構を説明するための説明図である。
本実施形態に係るアンテナ駆動機構150は、先だって説明したように、アクチュエータや、サーボモータや、ステッピングモータ等といった公知の駆動機構を利用して、構成されている。アンテナ駆動機構150は、後述する演算処理ユニット200の制御のもと、これら公知の駆動機構が駆動することでアンテナ107の配設方向を調整し、アンテナ107から照射されるマイクロ波の照射方向を変化させる機構である。
かかるアンテナ駆動機構150は、図5に模式的に示したように、アンテナ107を、アンテナ支点を中心として、水平面内で直交する直交2軸方向(図5では、X軸方向及びY軸方向)に回転させることで、マイクロ波の照射方向(ひいては、マイクロ波の照射位置)が水平面内で走査可能なように構成されている。
ここで、本実施形態に係るアンテナ駆動機構150において、直交2軸を駆動方向として採用しているのは、以下の理由による。すなわち、転炉自体は高さ方向に対して対称ではなく、また、アンテナ107自体も転炉の中心軸上には位置しないため、直交2軸を駆動方向とした方が、マイクロ波の照射方向をより簡便に制御可能だからである。
ここで、各軸におけるアンテナ107の回転角の大きさについては、特に限定されるものではなく、アンテナ107が設けられる開口部の開口径や、転炉の大きさ等に応じて適宜決定されればよい。各軸におけるアンテナ107の回転角の大きさは、マイクロ波の照射方向が鉛直方向となる場合のアンテナ107の向きを基準として、例えば、各軸において±10度程度とすることができる。
以上、図5を参照しながら、本実施形態に係るアンテナ駆動機構150によるアンテナ107の配設角度の制御について、簡単に説明した。
<演算処理ユニットの構成について>
続いて、図6〜12を参照しながら、本実施形態に係る演算処理ユニット200の構成を詳細に説明する。
図6は、本実施形態に係る演算処理ユニットの構成の一例を示したブロック図であり、図7は、本実施形態に係るレベル計における走査時期決定処理を説明するための説明図である。図8A〜図10は、本実施形態に係るレベル計における計測位置決定処理を説明するための説明図である。図11は、本実施形態に係る演算処理ユニットにおける演算処理を説明するための説明図であり、図12は、本実施形態に係る演算処理ユニットで生成されるトレンドチャートの一例を模式的に示した説明図である。
本実施形態に係るレベル計10が備える演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100を制御するとともに、マイクロ波照射ユニット100の発振器103から射出されるマイクロ波と、検出部111にて検出された反射マイクロ波とに基づいて、スラグのレベルを算出する処理ユニットである。より詳細には、演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100によって検出されたビート波の検出信号に対してデジタル信号処理を施し、スラグ表面の位置を算出するユニットである。
この演算処理ユニット200は、マイクロ波照射ユニット100に設けられた演算処理用のチップとして実装されていてもよく、マイクロ波照射ユニット100の外部に設けられ、マイクロ波照射ユニット100からデータの取得が可能な、各種コンピュータやサーバ等の情報処理装置として実現されていてもよい。
この演算処理ユニット200は、図6に示したように、走査時期決定部201と、制御部の一例である計測制御部203と、演算処理部205と、表示制御部207と、記憶部209と、を主に備える。
走査時期決定部201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。走査時期決定部201は、必要に応じて後述する演算処理部205と互いに連携しつつ、スラグ面のレベル計測に先立ってマイクロ波の照射方向を走査する時期(以下、単に「走査時期」ともいう。)を決定する。この際、本実施形態に係るレベル計10がサウンドレベル計測ユニット130を有している場合には、走査時期決定部201は、サウンドレベル計測ユニット130による転炉内部で発生する音(ジェット音)の計測結果に基づいて、走査時期を決定することが好ましい。以下、走査時期決定部201による走査時期の決定処理について、図7を参照しながら、簡単に説明する。
本発明者は、マイクロ波を用いた転炉内のスラグ面の計測技術について鋭意検討したところ、スラグ表面まで到達するマイクロ波のパワーは、転炉内に存在する大量の粉じん等のために僅かであることから、スラグ表面で反射したマイクロ波を効率良くアンテナ107で受信することが重要であると知見した。そのため、マイクロ波によるスラグ表面の計測に適したタイミング(時期)が存在するのかを新たに検討したところ、転炉内に存在するスラグにフォーミングが生じた以降に計測を行うことで、酸素ガスに起因するキャビティの影響を抑制しつつ、好適にマイクロ波による計測が可能である、との知見を得るに至った。また、先だって説明したように、転炉設備の状態は経時的に変化していくため、転炉内に新たに溶鋼が装入され精錬処理される毎にマイクロ波の照射方向を走査して、マイクロ波の反射波が最も強く検出される位置を特定することで、転炉設備の経時変化にも対応可能であるとの知見を得た。
本発明者は、上記のような知見に基づき、後述するような走査時期決定部201によるマイクロ波を用いた走査時期の特定処理と、計測制御部203による計測位置の決定処理と、を実施することに想到した。
上記のようなフォーミングは、転炉内に装入された溶鋼に対して酸素ガスの吹き込みを開始してから、所定時間が経過した後に発生する。そのため、走査時期決定部201は、溶鋼に対して処理を開始してから所定時間が経過した場合(例えば、酸素ガスの吹き込みを開始してから、数分が経過した後)に、フォーミングが生じたと判断し、走査時期が到来したと決定することができる。このような処理を実施することで、走査時期決定部201は、レベル計10にサウンドレベル計測ユニット130が設けられていない場合であっても、走査時期を簡便に決定することが可能となる。なお、処理を開始してからの経過時間については、事前に過去の操業データ等を解析するなどして、適切な値に設定することが好ましい。
また、レベル計10にサウンドレベル計測ユニット130が設けられている場合、スラグにフォーミングが生じているか否かについては、転炉の近傍に設けられたサウンドレベル計測ユニット130からの出力に着目することで、判定することが可能である。すなわち、フォーミングが発生していない場合には、図7左図に模式的に示したように、サウンドレベル計測ユニット130により計測される酸素ジェット音のサウンドレベル(例えば、音圧)は、高い値を示すと考えられる。一方で、フォーミングが発生すると、メインランスの周囲の空間は膨張したスラグで覆われていくため、図7右図に模式的に示したように、サウンドレベル計測ユニット130により計測される酸素ジェット音のサウンドレベルは、徐々に減少していき、小さい値を示すようになると考えられる。
そこで、走査時期決定部201は、サウンドレベル計測ユニット130から出力される、転炉内で発生している音のサウンドレベル(例えば、音圧)に関する情報に着目することで、転炉内でフォーミングが発生しているか否かを判断することが可能となる。
この際、スラグが突発的に膨張したりスラグの表面が揺動したりして、一時的にサウンドレベル計測ユニット130の計測値が小さく観測される場合もあると考えられる。そこで、本実施形態に係る走査時期決定部201は、サウンドレベル計測ユニット130による音圧の測定結果が所定時間以上低下したときを、走査時期と決定することが好ましい。より好ましくは、走査時期決定部201は、サウンドレベル計測ユニット130による音圧の測定結果が、転炉の内部に保持されている溶鉄の揺動周期以上の時間低下したときを、走査時期と決定する。
ここで、溶鉄の揺動周期(スロッシング周期)Tnは、以下の式111で表わされるHousner(ハウスナー)の式から算出される揺動の固有振動数fnを利用して、以下の式113により算出することが可能である。ここで、以下の式111及び式113において、nは、固有振動数の次数であり、gは、重力加速度であり、Lは、転炉の幅であり、Hは、転炉内における溶鉄の深さである。なお、走査時期を決定する際に着目する揺動周期は、次数n=1として算出すればよい。
音圧が連続的に低下している期間が、上記式111及び式113から算出される揺動周期よりも短い場合には、着目している音圧の低下は、スラグのフォーミングに起因するのではなく、突発的なスラグの膨張やスラグ表面の揺動に起因すると判断することができる。逆に、音圧が連続的に低下している期間が、上記式111及び式113から算出される揺動周期以上である場合には、揺動周期以上の長さにわたってメインランスの先端部がスラグによって覆われていることを意味するわけであるから、スラグのフォーミングが発生していると判断することができる。
走査時期決定部201は、以上のようにしてサウンドレベル計測ユニット130からの出力を利用することで、走査時期をより正確に決定することが可能となる。
走査時期決定部201は、以上のようにして走査時期が到来した旨を判断すると、かかる判断結果を示す情報を、後述する計測制御部203に出力する。
なお、転炉内部の空間の深さや、転炉内に挿入されるメインランスの長さは、転炉操業における操業パラメータとして、予め設定されている値である。これらの値を利用することで、転炉内に挿入されたメインランスの先端部から転炉の底部までの大まかな距離は、事前に特定することが可能である。そこで、走査時期決定部201は、後述する演算処理部205と互いに連携しながら、以下のようにして走査時期が到来したか否かの判断を行うことも可能である。
すなわち、走査時期決定部201は、サウンドレベル計測ユニット130から出力される音圧が低下した場合に、演算処理部205と連携して、演算処理部205に音圧が低下した時点におけるスラグ表面の転炉底部からの高さを算出させる。その上で、算出されたスラグ表面の転炉底部からの高さと、操業パラメータから事前に特定された、メインランスの先端部から転炉の底部までの大まかな距離と、の差分が所定の閾値以下であれば、フォーミングが発生していると判断することが可能である。また、かかる判断方法を、上記のような揺動周期に基づく判断結果の検証に利用することも可能である。
以上、本実施形態に係る走査時期決定部201について、詳細に説明した。
再び図6に戻って、計測制御部203について説明する。
計測制御部203は、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。計測制御部203は、本実施形態に係るマイクロ波照射ユニット100による計測対象物Sの計測処理、及び、アンテナ駆動機構150によるアンテナ107の調整処理を、それぞれ統括して制御する。
より詳細には、計測制御部203は、マイクロ波照射ユニット100によって計測対象物Sのレベル位置の計測を開始する場合に、マイクロ波照射ユニット100の動作を開始させるための制御信号を出力する。
また、計測制御部203は、スラグ表面のリアルタイム計測に先立ち、マイクロ波照射ユニット100のアンテナ107の配設角度を調整するために、アンテナ107の近傍に設けられたアンテナ駆動機構150に対して、配設角度を変化させるための制御信号を出力する。以下では、計測制御部203による計測位置の決定処理について、図8A〜図10を参照しながら、詳細に説明する。
先ほどから言及しているように、転炉設備は、経時変化により、転炉内の耐火物が損耗したり、上吹きランス(メインランス)に設けられたノズルが溶損したりするため、溶鋼が転炉内に装入され精錬処理される毎に、最適なアンテナの配設角度を定めることが好ましい。そのため、計測制御部203は、走査時期決定部201からマイクロ波を用いた計測に適した時期が到来した旨が通知されると、マイクロ波照射ユニット100及びアンテナ駆動機構150を制御して、マイクロ波の最適な照射位置を決定するための走査処理を実施する。
マイクロ波の最適な照射位置は、アンテナ駆動機構150によりアンテナ107の傾斜角度を変化させながら、水平面内をくまなく走査することで、特定することが可能である。ここで、マイクロ波を利用した計測に最適な照射位置とは、その周囲と比較して、スラグ表面からのマイクロ波の反射波の検出強度が高くなっている位置である。そこで、計測制御部203は、走査時期決定部201により決定された走査時期に、アンテナ駆動機構150により水平面内を所定の走査間隔で走査させ、各走査点におけるマイクロ波の反射波の測定結果を利用して、スラグ面の計測位置を決定する。
この際、着目するチャージと、前チャージとでは、転炉やメインランスの状態が著しく変化することは少ないと考えられる。そのため、着目するチャージにおける最適な計測位置(換言すれば、最適なアンテナ107の配設角度)は、前チャージにおける計測位置の近傍にある可能性が高いと考えられる。そこで、計測制御部203は、前チャージにおける計測終了時のアンテナ107の位置を中心に、着目するチャージにおける最適な測定位置の走査を行う。
このような走査処理は、図8A及び図8Bに模式的に示したように、前チャージにおける計測位置を中心として、所定の走査範囲を設定した上で、かかる走査範囲内の各走査点を、図5に示したような水平面内で直交する直交2軸のそれぞれの方向で走査させ、マイクロ波の射出波とマイクロ波の反射波との合成波(すなわち、ビート波)のパワースペクトルに注目することで行われる。
ここで、以上のような走査処理における走査範囲の広さは、特に限定されるものではなく、転炉操業から許容される走査時間や、演算処理ユニット200の装置的なリソース(マシンスペック等)に応じて、適宜決定すればよい。
また、各走査点をどのような順序で巡って、パワースペクトルを測定していくかについては、特に限定されるものではなく、例えば図8Aに示したように、走査範囲の端から順に走査していっても良いし、例えば図8Bに示したように、前チャージにおける計測位置をスタート位置として、らせん状に走査していっても良い。
各走査点において、計測制御部203は、マイクロ波照射ユニット100に対して、FM−CW方式における掃引周波数1周期分の測定を実施させ、後述する演算処理部205により、得られた測定結果を利用した高速フーリエ変換処理によるパワースペクトルの算出処理を実施させる。かかるパワースペクトルの算出処理については、以下で改めて詳述する。その上で、計測制御部203は、各走査点について、図9に模式的に示したように、(1)ビート波のパワースペクトルのピーク強度と、(2)ビート波のパワースペクトルのスペクトル面積と、の少なくとも何れか一方を特定していく。その後、計測制御部203は、各走査点のうち、(1)ピーク強度が最大となる走査点の位置、又は、(2)スペクトル面積が最大となる走査点の位置、を、着目しているチャージにおける、最適な計測位置(最適なアンテナ107の配設角度でもある。)として決定する。
計測制御部203は、パワースペクトルのピーク強度やスペクトル面積を考慮する際に、ノイズの影響による誤差の発生を抑制するために、図9に示したように、処理に用いる周波数帯域を、周波数fL以上fH以下の範囲に制限することが好ましい。このような周波数fL,fHの具体的な値は、特に限定するものではないが、例えば、周波数fLとして、アンテナ107から転炉の炉口までの距離に対応する周波数を選択し、周波数fHとして、アンテナ107から転炉の炉底までの距離に対応する周波数を選択してもよい。このような処理に利用する周波数の選択処理は、所定のバンドパスフィルタを用いたフィルタ処理により実現することが可能である。これにより、排ガス系統に吸引されるダストや転炉内に投入される副原料による反射成分の影響を極力抑え、より精度の良い位置決めを実現することが可能となる。
なお、以上のような周波数の選択処理は、最適な計測位置を決定する際の処理だけでなく、最適な計測位置が決定した後におけるスラグ表面のレベルのリアルタイム計測処理においても、実施することが好ましい。
以上のような走査処理において、走査範囲内を漏れなく走査するためには、図8A及び図8Bに示したような走査点間の距離(すなわち、走査間隔P)を適切な値に設定することが好ましい。より詳細には、図10に模式的に示したように、前走査点でのマイクロ波の照射領域と、現走査点でのマイクロ波の照射領域と、の間で重複部分が存在するように、走査間隔Pを定めることが好ましい。そのためには、走査間隔Pを、考えられる最小のスポット半径、すなわち、転炉炉口までスラグ面が到達している状態でのスポット半径よりも小さくすることが重要となる。
いま、アンテナ107のアンテナ径をD0とし、アンテナ107の先端から転炉の炉口までの垂直距離をH0とし、アンテナ部によるマイクロ波の拡散角をθ0としたときに、転炉炉口までスラグ面が到達している状態でのスポット半径φ0は、アンテナ107と転炉の炉口との間の幾何学的な位置関係から、以下の式115で算出することができる。従って、例えば図5に示したように、アンテナ107の配設角度が、角度によって規定されており、アンテナ駆動機構150によって制御される走査間隔Pが走査角度間隔として表わされる場合、かかる走査角度間隔Pは、以下の式117で算出される値以下の値となるように設定されればよい。
なお、走査間隔Pは、小さければ小さいほど好ましいが、小さくすればするほど走査点の数が増加することとなり、走査に時間を要するようになる。そのため、操業上許容される時間を考慮に入れて、走査間隔Pを決定することが好ましい。
以下では、更に具体的な例を挙げながら、計測制御部203による計測位置の決定処理について、詳細に説明する。
いま、図5に示したような水平2軸を便宜上X,Yとし、前チャージ測定終了時点でのアンテナの配設角度が(X,Y)=(3.5°,−1.5°)で表わされる角度であったとする。また、計測制御部203により、図8A及び図8Bに示したような走査範囲が±1°に設定され、走査間隔Pが0.2°に設定されていたものとする。更に、アンテナ107によるマイクロ波の拡散角θ0は1°であり、アンテナ107のアンテナ径D0は280mmであり、アンテナから炉口までの距離H0は10mであったとする。
このとき、許容される走査間隔Pの上限値は、上記式117から、1.8°となるため、上記のような0.2°であれば、十分許容内にあると言える。なお、0.1°単位での精密な動作を保証するためには、アンテナ駆動機構150は、サーボモータ又はステッピングモータを用いて構成されることが好ましい。
以上のような場合、計測制御部203は、(X,Y)=(4.5°,−0.5°)、(4.3°,−0.5°)、(4.1°,−0.5°)、・・・、(2.5°,−0.5°)、(2.5°,−0.7°)、(2.7°,−0.7°)、(2.9°,−0.7°)、・・・、(4.5°,−0.7°)、・・・、というように、(3.5°,−1.5°)を中心に合計100点の走査点について、処理を実施することができる。
この際、計測制御部203は、各走査点について、FM−CWの掃引周波数1周期分の測定を行い、演算処理部205によりパワースペクトル分布を算出させる。
その後、計測制御部203は、算出された各走査点でのパワースペクトル分布について、ピーク強度又はスペクトル面積の少なくとも何れか一方を算出する。その上で、計測制御部203は、計100点のピーク強度又はスペクトル面積を比較し、最も大きい値が算出された点を特定する。例えば、(3.3°,−1.9°)に対応する走査点で、最大のピーク強度又はスペクトル面積が与えられるとすると、計測制御部203は、上記比較処理終了の後、アンテナ107の配設角度を(3.3°,−1.9°)に設定して、その後の測定を実施する。
計測制御部203は、以上のようにして、スラグ表面のレベルをリアルタイム計測するために最適な計測位置を決定すると、以降は、アンテナ107の傾斜角度を固定して、スラグ表面のレベルのリアルタイム計測処理を開始する。
以上、図8A〜図10を参照しながら、計測制御部203による計測位置の決定処理について、詳細に説明した。
再び図6に戻って、本実施形態に係る演算処理ユニット200が備える演算処理部205について、詳細に説明する。
演算処理部205は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。演算処理部205は、マイクロ波照射ユニット100から出力されたビート波の検出信号を利用してデジタル信号処理を行うことにより、転炉内におけるスラグ表面の位置を算出する演算処理を実施する。また、演算処理部205は、算出したスラグ表面の位置を、転炉における吹錬処理の経過時間毎に記録したトレンドチャートを生成することも可能である。
演算処理部205は、算出したスラグ表面の位置やトレンドチャートといった、マイクロ波照射ユニット100による計測結果を表す各種の情報を算出すると、得られた結果を表す情報を、表示制御部207に出力する。また、演算処理部205は、得られた結果を表す情報を、プリンタ等の出力装置を介して、例えば帳票のようなかたちで出力したり、転炉による操業を管理する操業管理コンピュータ等などに、得られた結果を表すデータそのものを出力したりすることも可能である。
かかる演算処理部205における演算処理の詳細については、以下で改めて説明する。
表示制御部207は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置等により実現される。表示制御部207は、演算処理部205から伝送された、計測対象物Sである転炉内のスラグ表面の位置に関する計測結果を、演算処理ユニット200が備えるディスプレイ等の出力装置や演算処理ユニット200の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、レベル計10の利用者は、転炉内のスラグ表面の位置に関する計測結果を、その場で把握することが可能となる。
記憶部209は、例えば本実施形態に係る演算処理ユニット200が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部209には、本実施形態に係る演算処理ユニット200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部209は、走査時期決定部201、計測制御部203、演算処理部205、表示制御部207等が、自由にリード/ライト処理を行うことが可能である。
[演算処理部における演算処理について]
次に、図11及び図12を参照しながら、演算処理ユニット200が備える演算処理部205における演算処理について、詳細に説明する。図11は、本実施形態に係る演算処理ユニットにおける演算処理を説明するための説明図であり、図12は、本実施形態に係る演算処理ユニットで生成されるトレンドチャートの一例を模式的に示した説明図である。
本実施形態に係る演算処理部205では、マイクロ波照射ユニット100から、図11の最上段に示したようなビート波の検出結果を示す信号が出力されると、まず、得られた信号をA/D変換して、デジタルデータとする。その上で、演算処理部205は、得られたビート波のデジタルデータをフーリエ変換(より詳細には、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT))し、図11の2段目に示したようなスペクトルを生成する。より詳細には、演算処理部205は、高速フーリエ変換によって得られたデジタルデータ(図11の2段目に示した、横軸がビート周波数であるスペクトル)に対して、マイクロ波照射ユニット100の設定値に基づいて決定される距離係数(上記式103の最右辺において、(cT/2F)で表される係数)を乗じ、図11の3段目に示したような距離波形を生成する。かかるフーリエ変換によって得られるスペクトルの横軸を距離に変換した距離波形は、横軸が、アンテナ107とスラグ表面の位置との間の距離に対応し、縦軸が信号強度に対応する。
ここで、マイクロ波照射ユニット100により検出されるビート波は、スラグの表面変動に由来する多くの凹凸が存在するため、図11の最上段に示したように、微小なピークの集合体として観測される。従って、演算処理部205は、距離方向の所定の長さの移動平均処理を行って、得られた距離波形を空間的に平均化する。これにより、平均化前の距離波形における局所的なピークが平坦化されて、有意なピークが強調されることとなる。図11に示した例では、図11の3段目に示したような距離波形が空間的に平均化されて、図11の最下段に示したような、平均化後の距離波形が算出される。
なお、移動平均処理を実施する距離方向の長さについては、特に限定されるものではなく、過去の操業データ等を解析するなどして適宜設定すればよいが、例えば、300〜500mm程度とすることができる。
その後、演算処理部205は、空間的に平均した後の距離波形において、予め設定した閾値以上の強度を有するピークのうち最大強度を与える距離を、スラグ表面までの距離として決定する。ここで、演算処理部205は、得られたスラグ表面までの距離を、スラグ表面の表面レベルとしてもよいし、例えば、転炉の炉底からの高さなどのように、他の基準へと変換してもよい。なお、かかる処理に用いられる閾値についても特に限定されるものではなく、過去の操業データ等を解析するなどして適宜設定すればよい。
また、演算処理部205は、得られたスラグ表面までの距離を利用し、スラグ表面の位置と転炉における吹錬処理の経過時間とを関連付けた、いわゆるトレンドチャートを生成してもよい。かかるトレンドチャートは、図12に模式的に示したように、例えば横軸に吹錬処理の経過時間をとり、縦軸に得られたスラグ表面のレベルをとったような、時系列経過を示したグラフ図となる。
この際、計測レベルの表面変動に起因する変動に対応するために、演算処理部205は、ピークの経時変化を一定時間幅で時間的に移動平均処理し、大局的なレベルの推移を表すトレンドチャートとすることが可能である。かかる時間的な移動平均処理の大きさについても特に限定されるものではないが、例えば、200ミリ秒程度に設定することが可能である。
更に、演算処理部205は、得られたトレンドチャート等に基づいて、スラグ表面の平均的な高さや、スラグ表面の高さの最大値や、スラグ表面の高さの最小値などといった各種の統計量を算出して、吹錬処理を特徴づける特徴量としてもよい。
以上、図11及び図12を参照しながら、演算処理部205における演算処理について説明した。
以上、本実施形態に係る演算処理ユニット200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理ユニットの各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
このように、本実施形態に係るレベル計10は、転炉内に溶鋼が装入され精錬処理される毎に、マイクロ波を用いたスラグ表面のレベル計測に最適な計測位置を決定し、決定した計測位置において、スラグ表面のレベル計測を実施する。そのため、本実施形態に係るレベル計10では、転炉設備の経時変化によらず、より精度よくスラグの表面レベルをリアルタイムに計測することが可能となる。その結果、適切なタイミングで鎮静剤を投入し、かつ、投入した鎮静剤の効果を把握することが可能となり、スロッピングを効果的に予防できるようになる。また、本実施形態に係るレベル計10を用いることで、フォーミング状態を一定高さに制御することができ、歩留まりを向上させることも可能となる。また、本実施形態に係るレベル計10では、マイクロ波照射ユニット100は転炉の内部へと挿入されず、転炉の炉口上方に設けられた開口部にアンテナが設置されるものであるため、メンテナンスも極めて容易である。
以上、図1A〜図12を参照しながら、本実施形態に係るレベル計10について、詳細に説明した。
(レベル計測方法について)
続いて、図13を参照しながら、本実施形態に係るレベル計10で実施されるレベルの計測方法の流れについて、簡単に説明する。図13は、本実施形態に係るレベル計測方法の流れの一例を示した流れ図である。なお、以下では、本実施形態に係るレベル計10にサウンドレベル計測ユニット130が設けられている場合を例に挙げて、説明を行うこととする。
本実施形態に係るレベル計10では、転炉内に新たに溶鋼が装入され精錬処理が開始されると、サウンドレベル計測ユニット130により、転炉内の音圧等のサウンドレベルが随時計測され(ステップS101)、その計測結果が、演算処理ユニット200へと出力される。
演算処理ユニット200の走査時期決定部201は、サウンドレベル計測ユニット130から、転炉内で発生する音に関する計測結果を取得すると、所定時間以上音圧が低下しているか否かを判断する(ステップS103)。所定時間以上音圧が低下していない場合(ステップS103−NO)には、レベル計10は、ステップS101に戻って処理を継続する。一方、所定時間以上音圧が低下している場合(ステップS103−YES)には、走査時期決定部201は、マイクロ波の照射方向を走査する時期が到来したと判断し、その旨を、演算処理ユニット200の計測制御部203へと出力する。
次に、演算処理ユニット200の計測制御部203は、マイクロ波照射ユニット100、アンテナ駆動機構150及び演算処理ユニット200の演算処理部205と互いに連携しながら、マイクロ波により所定の走査範囲を走査して、先だって説明したような方法により、スラグ面の計測位置(換言すれば、アンテナ107の配設角度であり、マイクロ波の照射方向でもある。)を決定する(ステップS105)。計測位置が決定すると、計測制御部203は、マイクロ波照射ユニット100の設定(より詳細には、アンテナ107の配設角度に関する設定)を、決定した計測位置となるように保持した上で、以下の処理を実施する。
続いて、決定した計測位置において、マイクロ波照射ユニット100により、転炉内部へマイクロ波が照射され(ステップS107)、計測対象物であるスラグ表面からのマイクロ波の反射波と、照射したマイクロ波との差周波信号(すなわち、ビート波)が検出される(ステップS109)。マイクロ波照射ユニット100は、得られたビート波に対応する信号を、演算処理ユニット200に出力する。
演算処理ユニット200の演算処理部205は、マイクロ波照射ユニット100から出力されたビート波に対応する信号に対して、A/D変換を実施し(ステップS111)、ビート波のデジタルデータを生成する。その後、演算処理部205は、ビート波のデジタルデータをフーリエ変換し、得られた変換結果に距離係数を乗じることで距離スペクトルを算出する(ステップS113)。
続いて、演算処理部205は、得られた距離スペクトルを空間的に平均化した後(ステップS115)、所定の閾値以上の強度を有するピークのうち、最大ピークを与える距離を、スラグ表面までの距離として特定する(ステップS117)。
また、演算処理部205は、得られたスラグ表面までの距離を一定時間幅で移動平均処理することで時間平均化した後(ステップS119)、トレンドチャートを生成する(ステップS121)。次に、演算処理部205は、得られたトレンドチャート等を利用して、スラグ表面の平均レベル、最大レベル、最小レベル等といった各種の特徴量を算出する(ステップS123)。その後、演算処理部205は、得られた結果を出力する(ステップS125)。
以上、図13を参照しながら、本実施形態に係るレベル計測方法の流れを簡単に説明した。
(ハードウェア構成について)
次に、図14を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図14は、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
演算処理ユニット200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理ユニット200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、又はリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理ユニット200内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理ユニット200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。更に、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。ユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理ユニット200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプなどの表示装置や、スピーカ及びヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理ユニット200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理ユニット200が行った各種処理により得られた結果を、テキスト又はイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、演算処理ユニット200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、及び外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理ユニット200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、又は、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)又は電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を演算処理ユニット200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理ユニット200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線もしくは無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、又は、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、社内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る演算処理ユニット200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。