しかしながら、特許文献1、2に記載された従来のルツボの強化方法では、結晶層の厚さが十分でない場合があり、結晶化状態によっては結晶粒の剥離が起きることがあった。すなわち、結晶層の結晶成長方向に規則性がなく、結晶があらゆる方向に成長(以下、「ランダム成長」)すると、結晶化促進剤が結晶粒界にトラップされるので、時間の経過と共に結晶化速度が遅くなり、ルツボの厚み方向への結晶成長が引き上げ工程中の比較的早い段階で停止する。したがって、マルチ引き上げなどの高温熱負荷及び非常に長時間の引き上げ工程では、ルツボ内面の薄い結晶層がシリコン融液に溶損して完全に消失するという問題がある。
特許文献3に記載の従来のルツボの強化方法は、表面のブラウンリングの密度のみに注目しており、ルツボの厚み方向への結晶成長を考慮したものではない。結晶層の厚みが十分に確保されないとルツボの強度を保てず変形を起こしたり、石英ガラスの表面に発生したブラウンリングの剥離が起きたりするという問題がある。さらに、ブラウンリングがルツボ内面の全面を覆うことはないので、ルツボの強度アップには寄与しない。
特許文献4、5に記載の従来のルツボの強化方法は、結晶化促進剤がガラスマトリックス中に存在するため、結晶化促進剤が同時多発的に結晶核を発生させ、結晶層がランダム成長になるので、結晶化速度の低下により結晶層の厚さが不十分になるという問題がある。ルツボ内面は単結晶引き上げ中に1mm以上溶損する可能性があるため、結晶層が薄い場合には単結晶引き上げ工程の後半で結晶層が消失するおそれがある。
したがって、本発明の目的は、マルチ引き上げなどの非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することにある。
本願発明者らは、結晶引上げ工程中の高温下でルツボ表面が結晶化するメカニズムについて鋭意研究を重ねた結果、結晶層の構造がどのようになっていれば結晶成長が継続し、これにより結晶層の剥離やシリコン融液への溶損による結晶層の消失を防止できるかということを見出した。
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明の第1の側面による石英ガラスルツボは、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられるものであって、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体と、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の表面近傍に結晶化促進剤濃縮層が形成されるように前記ルツボ本体の表面に形成された結晶化促進剤含有塗布膜とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、シリコン単結晶の引き上げ工程中に結晶化促進剤濃縮層が液相として存在することによって石英ガラスの結晶化が促進されるので、ドーム状又は柱状の結晶粒の集合からなる結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。また、ルツボ内壁面からの結晶粒(クリストバライト)の剥離によるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。また、結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによって結晶層と接するガラス層には収縮方向の応力が加わるが、結晶層とガラス層との間の結晶化促進剤濃縮層は融点の低い2成分系以上のガラスであり、結晶化促進剤濃縮層が液相として介在することにより応力が緩和される。
本発明において、前記結晶化促進剤濃縮層の厚みは0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。結晶化促進剤濃縮層が適度な厚さを有することでその部分の流動性が高すぎず、結晶層とガラス層のずれが生じにくく、結晶層の表面に皺やクラックが発生せず、結晶層が剥離することもない。したがって、シリコン単結晶の製造歩留まり(単結晶収率)を高めることができる。
本発明において、前記ルツボ本体は、円筒状の直胴部と、湾曲した底部と、前記直胴部と前記底部とを繋ぐコーナー部とを有し、前記結晶化促進剤含有塗布膜が少なくとも前記直胴部に形成されていることが好ましく、前記直胴部及び前記コーナー部に形成されていることがさらに好ましい。前記結晶化促進剤含有塗布膜は、少なくとも直胴部及びコーナー部に形成されていればよいが、直胴部及びコーナー部のみに形成されていてもよい。結晶化促進剤濃縮層がルツボ本体の少なくとも直胴部に形成されることにより、直胴部の内倒れを防止することができる。また結晶化促進剤濃縮層が直胴部及びコーナー部に形成されることにより、直胴部の内倒れを防止できるだけでなく、ルツボの下部の肉厚が厚くなる沈み込みや座屈(隆起)を防止することができる。
本発明において、前記結晶化促進剤含有塗布膜に含まれる結晶化促進剤はSiO2と2成分系以上のガラスを形成する化合物を含むことが好ましく、バリウム(Ba)であることが特に好ましい。結晶化促進剤としては、他にもMa,Ca,Sr,Ra,Li,Zn,Pb等を挙げることができるが、その中でもBaはシリコン単結晶への偏析係数が小さいことから、シリコン融液に取り込まれたとしてもシリコン単結晶中に混入して問題となるリスクを抑えることができる。なお結晶化促進剤としては、Siとの組み合わせにより2成分系ガラス、3成分系ガラスまたはそれ以上となる元素であればBaと同様の効果を得ることができる。
また、本発明の第2の側面による石英ガラスルツボは、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられるものであって、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体と、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の外面に形成される外側結晶層の厚みtoに対する前記ルツボ本体の内面に形成される内側結晶層の厚みtiの比ti/toが、0.3以上5以下となるように前記内面及び前記外面にそれぞれ形成された第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜を備えることを特徴とする。
本発明によれば、内側結晶層と外側結晶層との厚み比ti/toが0.3~5の範囲内であることにより、加熱中の結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあってもルツボの内面と外面の両方からのガラス層の引っ張り応力がバランスするため、結晶層の皺、クラックの発生が防止される。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止して単結晶収率を高めることができる。
本発明において、前記第2の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度coに対する前記第1の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度ciの比ci/coは、0.3以上20以下であることが好ましい。第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度比ci/coが0.3~20の範囲内であることにより、内側結晶層と外側結晶層との厚み比ti/toを0.3~5の範囲内に収めることができる。
本発明において、前記引き上げ工程中の加熱温度での前記ルツボ本体の外面側のガラス粘度ηoに対する内面側のガラス粘度ηiの比ηi/ηoは0.2以上5以下であることが好ましい。引き上げ工程中の加熱温度でのガラス粘度比ηi/ηoが0.2~5の範囲内であることにより、内側結晶層と外側結晶層との厚み比ti/toを0.3~5の範囲内に収めることができる。
本発明において、前記第1の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度と、前記第2の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度は異なり、前記ルツボ本体の内面及び外面のうち、結晶化促進剤の濃度が高い方の結晶化促進剤含有塗布膜と接する面側のガラス粘度は、結晶化促進剤の濃度が低い方の結晶化促進剤含有塗布膜と接する面側のガラス粘度よりも高いことが好ましい。結晶化促進剤の濃度が高い方の結晶化促進剤含有塗布膜と接するガラス面の粘度を高くすることにより、結晶化速度を遅くすることができ、これにより内側結晶層と外側結晶層との厚み比ti/toを0.3~5の範囲内に収めることができる。
本発明において、前記内側結晶層及び前記外側結晶層それぞれの厚み勾配は0.5以上1.5以下であることが好ましい。結晶層の厚みの面内勾配が0.5よりも小さいか1.5よりも大きく、結晶層の厚みにムラがある場合には、結晶層の厚みが薄い部分に引っ張り応力が集中し、皺やクラックが発生する。しかし、結晶層の厚みの面内勾配が0.5~1.5の範囲内であり、結晶層の厚みが面内で均一であることにより、加熱中の結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあっても、皺やクラックなど結晶層の変形の起点がなく、内側結晶層及び外側結晶層の皺、クラックが防止される。
本発明において、前記第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度の面内勾配は40%以上150%以下であることが好ましい。第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の濃度の面内勾配がともに40~150%であることにより、引き上げ工程中における内側結晶層及び外側結晶層それぞれの厚みの面内勾配を0.5~1.5の範囲内に収めることができる。
また、本発明の第3の側面による石英ガラスルツボは、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられるものであって、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体と、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の内面に内側結晶層が形成されるように前記ルツボ本体の前記内面に形成された結晶化促進剤含有塗布膜とを備え、前記引き上げ工程中の加熱温度での前記ルツボ本体の内面側のガラス粘度ηiに対する外面側のガラス粘度ηoの比ηo/ηiが0.5以上10以下であることを特徴とする。
本発明によれば、ルツボ本体の外面側と内面側とのガラス粘度の比ηo/ηiが0.5~10の範囲内であり、外側ガラス層の粘度が内側ガラス層とあまり変わらないため、ルツボ本体の内面側の表層部が結晶化して収縮したとしても、内側ガラス層又は外側ガラス層にて応力が緩和される。したがって、内側結晶層の皺やクラックの発生を防止することができる。
本発明において、前記内側結晶層の厚みの面内勾配は0.5以上1.5以下であることが好ましい。内側結晶層の厚みの面内勾配が0.5~1.5であることにより、加熱中の内側結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあっても、内側結晶層の厚みが面内で均一であるため、皺やクラックなどの内側結晶層の変形の起点がなく、内側結晶層の皺やクラックの発生を防止することができる。
本発明において、前記結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の面内の濃度勾配は40%以上150%以下であることが好ましい。結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の面内の濃度勾配が40~150%であることにより、引き上げ工程中における外側結晶層の厚みの面内勾配を0.5~1.5の範囲内に収めることができる。
また、本発明の第4の側面による石英ガラスルツボは、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられるものであって、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体と、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の外面に外側結晶層が形成されるように前記ルツボ本体の前記外面に形成された結晶化促進剤含有塗布膜を備え、前記引き上げ工程中の加熱温度での前記ルツボ本体の外面側のガラス粘度ηoに対する内面側のガラス粘度ηiの比ηi/ηoが0.5以上であることを特徴とする。
本発明によれば、ルツボ本体の内面側と外面側とのガラス粘度の比ηi/ηoが0.5以上であり、内側ガラス層の粘度が外側ガラス層とあまり変わらないため、ルツボ本体の外面側の表層部が結晶化して収縮したとしても、内側ガラス層のみ変形し分離することはない。したがって、ルツボの変形を防止することができる。
本発明において、前記外側結晶層の厚みの面内勾配は0.5以上1.5以下であることが好ましい。外側結晶層の厚みの面内勾配が0.5~1.5であることにより、加熱中の外側結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあっても、外側結晶層の厚みが面内で均一であるため、皺やクラックなどの外側結晶層の変形の起点がない。したがって、外側結晶層の皺やクラックの発生を防止することができる。
本発明において、前記結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の面内の濃度勾配は40%以上150%以下であることが好ましい。結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の面内の濃度勾配が40~150%であることにより、引き上げ工程中における外側結晶層の厚みの面内勾配を0.5~1.5の範囲内に収めることができる。
また、本発明の第5の側面による石英ガラスルツボは、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられるものであって、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体と、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の内面の表層部にドーム状又は柱状の結晶粒の集合からなる内側結晶層が形成されるように前記内面に形成された第1の結晶化促進剤含有塗布膜とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、内側結晶層の結晶構造に配向性を持たせることで結晶化を促進し、ルツボ壁に変形が生じない厚みを持った結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。またルツボ内壁面からの結晶粒(クリストバライト)の剥離によるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
本発明において、前記内側結晶層が形成された前記ルツボ本体の前記内面をX線回折法で分析することにより得られる回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの比A/Bは7以下であることが好ましい。X線回折法の分析結果が上記条件を満たす場合には内側結晶層がドーム状配向又は柱状配向の結晶構造であると判断することができる。なお「配向」とは、結晶軸がある方向に揃って成長している結晶粒の集合のことを言い、「ドーム状配向」とは、ドーム状の結晶粒の集合をXRD(X-Ray Diffraction:X線回折)で評価したとき、結晶軸方向がランダムな結晶粒と配向成長した結晶粒とが混在しており、結晶粒の集合の一部に配向性が確認される結晶構造のことを言う。
本発明において、前記内側結晶層は、前記ルツボ本体の前記内面の表層部に形成されたドーム状の結晶粒の集合からなるドーム状結晶層と、前記ドーム状結晶層の直下に形成された柱状の結晶粒の集合からなる柱状結晶層とを有することが好ましい。ルツボの内面が平面状に結晶成長すると、大きく成長した結晶粒が剥離するおそれがあり、これによりシリコン単結晶が有転位化するおそれがある。しかし、内側結晶層の結晶成長がドーム状配向から柱状配向に変化しており、柱状の結晶粒が厚み方向に成長するので、結晶粒が大きく成長しても結晶粒が剥離しにくい構造とすることができ、シリコン単結晶の有転位化を防止することができる。また、結晶成長を持続させてルツボの強度を常に高めることができる。
本発明において、前記内側結晶層が形成された前記ルツボ本体の前記内面をX線回折法で分析することにより得られる回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの比A/Bは0.4未満であることが好ましい。X線回折法の分析結果が上記条件を満たす場合には内側結晶層が主として柱状配向の結晶構造であると判断することができる。
本発明において、前記第1の結晶化促進剤含有塗布膜に含まれる結晶化促進剤は2価の陽イオンとなり石英ガラスとガラスを形成できる元素であることが好ましく、その中でも、他の元素に比べて配向成長を最も強く引き起こさせるバリウムが特に好ましい。結晶化促進剤がバリウムである場合、前記ルツボ本体の前記内面における前記バリウムの濃度は3.9×1016atoms/cm2以上であることが好ましい。これによれば、短時間のうちにルツボ表面に無数の結晶核を発生させてできるだけ早い段階から柱状配向の結晶成長を促進させることができる。
本発明による石英ガラスルツボは、前記引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の外面の表層部にドーム状又は柱状の結晶粒の集合からなる外側結晶層が形成されるように前記外面に形成された第2の結晶化促進剤含有塗布膜をさらに備えることが好ましい。この構成によれば、外側結晶層の結晶構造に配向性を持たせることで結晶化を促進し、ルツボ壁に変形が生じない厚みを持った結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。また引き上げ時間に合わせて外側結晶層に適度な厚みを持たせることができるので、外側結晶層の石英ガラス界面からの発泡剥離を防止することができる。
本発明において、前記外側結晶層が形成された前記ルツボ本体の前記外面をX線回折法で分析することにより得られる回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの比A/Bは0.4以上7以下であることが好ましい。X線回折法の分析結果が上記条件を満たす場合には外側結晶層がドーム状配向の結晶構造であると判断することができる。
本発明において、前記第2の結晶化促進剤含有塗布膜に含まれる結晶化促進剤はバリウムであり、前記ルツボ本体の前記外面における前記バリウムの濃度は4.9×1015atoms/cm2以上3.9×1016atoms/cm2未満であることが好ましい。これによれば、ドーム状配向の結晶成長を促進させることができる。
また、本発明の第6の側面による石英ガラスルツボは、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げに用いられるものであって、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体と、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の外面の表層部にドーム状又は柱状の結晶粒の集合からなる外側結晶層が形成されるように前記外面に形成された第2の結晶化促進剤含有塗布膜とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、外側結晶層の結晶構造に配向性を持たせることで結晶化を促進し、ルツボ壁に変形が生じない厚みを持った結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。また引き上げ時間に合わせて外側結晶層に適度な厚みを持たせることができるので、外側結晶層の石英ガラス界面からの発泡剥離を防止することができる。
前記外側結晶層が形成された前記ルツボ本体の前記外面をX線回折法で分析することにより得られる回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの比A/Bは7以下であることが好ましく、0.4以上7以下であることが特に好ましい。X線回折法の分析結果からA/Bは7以下である場合には外側結晶層がドーム状配向又は柱状配向の結晶構造であると判断することができ、特に0.4以上7以下である場合にはドーム状配向であると判断することができる。
また、本発明の第7の側面による石英ガラスルツボの製造方法は、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体を製造する工程と、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の内面及び外面の少なくとも一方の表面近傍に結晶化促進剤濃縮層が形成されるように、前記ルツボ本体の前記内面又は前記外面に結晶化促進剤含有塗布膜を形成する工程とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、石英ガラスの結晶化が促進されるので、ドーム状又は柱状の結晶粒の集合からなる結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。また、結晶層とガラス層との間に結晶化促進剤濃縮層が液相として介在することにより応力が緩和され、結晶化促進剤濃縮層が適度な厚さを有することでその部分の流動性が高すぎず、結晶層とガラス層のずれが生じにくく、結晶層の表面に皺やクラックが発生せず、結晶層が剥離することもない。したがって、シリコン単結晶の製造歩留まりを高めることができる。
また、本発明の第8の側面による石英ガラスルツボの製造方法は、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体を製造する工程と、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の内面に内側結晶層が形成されるように前記内面に第1の結晶化促進剤含有塗布膜を形成する工程と、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の外面に厚みtoの外側結晶層が形成されるように、前記外面に第2の結晶化促進剤含有塗布膜を形成する工程とを備え、前記第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜を形成する工程は、前記外側結晶層の厚みtoに対する前記内側結晶層の厚みtiの比ti/toが0.3以上5以下となるように結晶化促進剤の濃度が調整された結晶化促進剤を塗布する工程を含むことを特徴とする。
本発明によれば、加熱中の結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあってもルツボの内面と外面の両方からのガラス層の引っ張り応力がバランスするため、結晶層の皺、クラックの発生が防止される。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に変形しにくいルツボを製造することができる。
また、本発明の第9の側面による石英ガラスルツボの製造方法は、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体を製造する工程と、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の内面に内側結晶層が形成されるように前記ルツボ本体の前記内面に結晶化促進剤含有塗布膜を形成する工程とを備え、前記ルツボ本体を製造する工程は、原料石英粉を回転モールド内でアーク溶融する工程を含み、前記引き上げ工程中の加熱温度での前記ルツボ本体の内面側のガラス粘度ηiに対する前記ルツボ本体の外面側のガラス粘度ηoの比ηo/ηiが0.5以上10以下となるように前記ルツボ本体の内面側を構成する原料石英粉と外面側を構成する原料石英粉の種類を変えることを特徴とする。
本発明によれば、ルツボ本体の外面側の表層部が結晶化して収縮したとしても変形しにくい石英ガラスルツボを製造することができる。
また、本発明の第10の側面による石英ガラスルツボの製造方法は、石英ガラスからなる有底円筒状のルツボ本体を製造する工程と、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記ルツボ本体の外面に外側結晶層が形成されるように前記ルツボ本体の前記外面に結晶化促進剤含有塗布膜を形成する工程とを備え、前記ルツボ本体を製造する工程は、原料石英粉を回転モールド内でアーク溶融する工程を含み、前記引き上げ工程中の加熱温度での前記ルツボ本体の外面側のガラス粘度ηoに対する前記ルツボ本体の内面側のガラス粘度ηiの比ηi/ηoが0.5以上となるように前記ルツボ本体の内面側を構成する原料石英粉と外面側を構成する原料石英粉の種類を変えることを特徴とする。
本発明によれば、ルツボ本体の内面側の表層部が結晶化して収縮したとしても変形しにくい石英ガラスルツボを製造することができる。
また、本発明の第11の側面による石英ガラスルツボの製造方法は、増粘剤を含む第1の結晶化促進剤塗布液を石英ガラスルツボの内面に塗布して、当該内面における結晶化促進剤の濃度を3.9×1016atoms/cm2以上にすることを特徴とする。さらに、本発明による石英ガラスルツボの製造方法は、前記増粘剤を含む第2の結晶化促進剤塗布液を前記石英ガラスルツボの外面に塗布して、当該外面における前記結晶化促進剤の濃度を4.9×1015atoms/cm2以上3.9×1016atoms/cm2未満にすることが好ましい。このようにすることで、ルツボの内面に柱状配向の内側結晶層を形成することができ、またルツボの外面のドーム状配向の外側結晶層を形成することができる。
また本発明の第12の側面による石英ガラスルツボの製造方法は、石英ガラス基材の表面に結晶化促進剤塗布液を塗布し、1400℃以上の評価熱処理によって前記石英ガラス基材の前記表面の表層部に結晶層を形成し、前記石英ガラス基材の前記表面の結晶化状態をX線回折法によって分析し、当該分析結果に基づいて前記結晶化促進剤塗布液中の前記結晶化促進剤の濃度を調整し、調整後の前記結晶化促進剤塗布液を石英ガラスルツボの表面に塗布することを特徴とする。
ドーム状配向や柱状配向の結晶粒は、石英ガラスと結晶粒との界面に結晶化促進剤が高密度に存在することで成長させることができるが、石英ガラスルツボの表面に結晶化促進剤塗布液を塗布することによって結晶化促進剤がどの程度高密度に存在するかは明らかでない。しかし、予め石英ガラス基材を用いて結晶化促進剤塗布液の作用を確認することで、実際の引き上げ工程での石英ガラスルツボの変形等の問題を未然に防止することができる。
さらに本発明の第13の側面は、石英ガラスルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げるチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、前記石英ガラスルツボの内面に第1の結晶化促進剤塗布液を塗布し、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記石英ガラスルツボの前記内面の表層部にドーム状の結晶粒の集合からなるドーム状結晶層及び前記ドーム状結晶層の直下に柱状の結晶粒の集合からなる柱状結晶層の積層構造からなる内側結晶層を形成し、前記内側結晶層の成長を持続させながら前記シリコン単結晶の引き上げを行うことを特徴とする。
本発明によれば、内側結晶層の結晶構造に配向性を持たせることで結晶化を促進し、ルツボ壁に変形が生じない厚みを持った結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。またルツボ内壁面からの結晶粒(クリストバライト)の剥離によるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
本発明において、前記内側結晶層が形成された前記ルツボ本体の前記内面をX線回折法で分析することにより得られる回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの比A/Bは0.4未満であることが好ましい。X線回折法の分析結果が上記条件を満たす場合には内側結晶層が主として柱状配向の結晶構造であると判断することができる。
本発明において、前記第1の結晶化促進剤塗布液に含まれる結晶化促進剤はバリウムであり、前記内面に塗布された前記バリウムの濃度が3.9×1016atoms/cm2以上であることが好ましい。これによれば、短時間のうちにルツボ表面に無数の結晶核を発生させてできるだけ早い段階から柱状配向の結晶成長を促進させることができる。
本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、前記石英ガラスルツボの外面に第2の結晶化促進剤塗布液を塗布し、前記シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって前記石英ガラスルツボの前記外面の表層部にドーム状の結晶粒の集合からなる外側結晶層を形成し、前記外側結晶層の成長を持続させることなく前記シリコン単結晶の引き上げを行うことが好ましい。
これによれば、外側結晶層の結晶構造に配向性を持たせることで結晶化を促進し、ルツボ壁に変形が生じない厚みを持った結晶層を形成することができる。したがって、マルチ引き上げなどの非常に長時間の引き上げ工程中に生じるルツボの変形を防止することができる。また引き上げ時間に合わせて外側結晶層に適度な厚みを持たせることができるので、外側結晶層の石英ガラス界面からの発泡剥離を防止することができる。
本発明において、前記外側結晶層が形成された前記石英ガラスルツボの前記内面のX線回折法で分析するにより得られる回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの比A/Bは0.4以上7以下であることが好ましい。X線回折法の分析結果が上記条件を満たす場合には外側結晶層がドーム状配向の結晶構造であると判断することができる。
本発明において、前記第2の結晶化促進剤塗布液に含まれる前記結晶化促進剤はバリウムであり、前記外面に塗布された前記バリウムの濃度は4.9×1015atoms/cm2以上3.9×1016atoms/cm2未満であることが好ましい。これによれば、ドーム状配向の結晶成長を促進させることができる。
本発明において、前記第1及び第2の結晶化促進剤塗布液は増粘剤をさらに含むことが好ましい。これによれば、塗布液の粘性を高めることができ、ルツボに塗布したときに重力等で流れて不均一になることを防止することができる。また、結晶化促進剤が塗布液中で凝集せず分散するので、ルツボ表面に均一に塗布することが可能となる。したがってルツボ壁面に高濃度の結晶化促進剤を均一かつ高密度に定着させることができ、柱状配向又はドーム状配向の結晶粒の成長を促進させることができる。
本発明において、前記ルツボ本体の前記内面及び前記外面のリム上端から下方に一定幅の領域は、前記結晶化促進剤含有塗布膜が形成されていない結晶化促進剤未塗布領域であることが好ましい。これにより、リム上端での結晶小片のパーティクルの発生を抑えてシリコン単結晶の歩留りの低下を防止することができる。結晶化促進剤未塗布領域は、リム上端から下方に一定幅の領域をマスキングした状態で、結晶化促進剤塗布液をスプレー法により塗布することが好ましい。
本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、前記引き上げ工程中の加熱によって形成された前記内側結晶層の結晶化状態を分析し、当該分析結果に基づいて、次のシリコン単結晶の引き上げ工程で使用する新たな石英ガラスルツボの内面に塗布する前記第1の結晶化促進剤塗布液中の前記結晶化促進剤の濃度を調整することが好ましい。これによれば、使用済みルツボの内面の結晶化状態を評価してその後の石英ガラスルツボの品質にフィードバックすることができ、ルツボの耐久性及び信頼性を向上させることができる。
本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、前記引き上げ工程中の加熱によって形成された前記外側結晶層の結晶化状態を分析し、当該分析結果に基づいて、次のシリコン単結晶の引き上げ工程で使用する新たな石英ガラスルツボの外面に塗布する前記第2の結晶化促進剤塗布液中の前記結晶化促進剤の濃度を調整することが好ましい。これによれば、使用済みルツボの外面の結晶化状態を評価してその後の石英ガラスルツボの品質にフィードバックすることができ、ルツボの耐久性及び信頼性を向上させることができる。
本発明によれば、マルチ引き上げなどの非常に長時間の単結晶引き上げ工程に耐えることができる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。また本発明によれば、そのような石英ガラスルツボを用いたシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略断面図である。
図1に示すように、石英ガラスルツボ1は、シリコン融液を支持するための有底円筒状の容器であり、円筒状の直胴部1aと、緩やかに湾曲した底部1bと、底部1bよりも大きな曲率を有し、直胴部1aと底部1bとを繋ぐコーナー部1cとを有している。
石英ガラスルツボ1の直径D(口径)は24インチ(約600mm)以上であり、32インチ(約800mm)以上であることが好ましい。このような大口径のルツボは直径300mm以上の大型のシリコン単結晶インゴットの引き上げに用いられ、長時間使用しても変形しにくいことが求められるからである。近年、シリコン単結晶の大型化に伴うルツボの大型化、引き上げ工程の長時間化に伴い、ルツボの熱環境が厳しくなっており、大型ルツボでは耐久性の向上が極めて重要な課題である。ルツボの肉厚はその部位によって多少異なるが、24インチ以上のルツボの直胴部1aの肉厚は8mm以上であることが好ましく、32インチ以上の大型ルツボの直胴部1aの肉厚は10mm以上であることが好ましく、40インチ(約1000mm)以上の大型ルツボの直胴部1aの肉厚は13mm以上であることがより好ましい。
石英ガラスルツボ1は二層構造であって、多数の微小な気泡を含む石英ガラスからなる不透明層11(気泡層)と、実質的に気泡を含まない石英ガラスからなる透明層12(無気泡層)とを備えている。
不透明層11は、単結晶引き上げ装置のヒーターからの輻射熱がルツボ壁を透過することなくルツボ内のシリコン融液をできるだけ均一に加熱するために設けられている。そのため、不透明層11はルツボの直胴部1aから底部1bまでのルツボ全体に設けられている。不透明層11の厚さは、ルツボ壁の厚さから透明層12の厚さを差し引いた値であり、ルツボの部位によって異なる。
不透明層11を構成する石英ガラス中の気泡含有率は0.8%以上であり、1~5%であることが好ましい。不透明層11の気泡含有率は、比重測定(アルキメデス法)により求めることができる。ルツボから単位体積(1cm3)の不透明石英ガラス片を切り出し、その質量をAとし、気泡を含まない石英ガラスの比重(石英ガラスの真密度)B=2.2g/cm3とするとき、気泡含有率P(%)は、P=(B-A)/B×100となる。
透明層12は、シリコン融液と接するルツボ壁の内面を構成する層であって、シリコン融液の汚染を防止するため高純度であることが要求され、また気泡を内包していると気泡が破裂したときのルツボ破片などで単結晶が有転位化することを防止するために設けられている。透明層12の厚さは0.5~10mmであることが好ましく、単結晶の引き上げ工程中の溶損によって完全に消失して不透明層11が露出することがないよう、ルツボの部位ごとに適切な厚さに設定される。不透明層11と同様、透明層12はルツボの直胴部1aから底部1bまでのルツボ全体に設けられていることが好ましいが、シリコン融液と接触しないルツボの上端部(リム部)において透明層12の形成を省略することも可能である。
透明層12が「実質的に気泡を含まない」とは、気泡が破裂したときのルツボ破片が原因で単結晶収率が低下しない程度の気泡含有率を有することを意味し、気泡含有率は0.8%未満であり、気泡の平均直径は100μm以下であることをいう。不透明層11と透明層12との境界において気泡含有率の変化は急峻であり、両者の境界は肉眼で明確である。
透明層12の気泡含有率は、光学的検出手段を用いて非破壊的に測定することができる。光学的検出手段は、検査対象のルツボの内面に照射した光の反射光を受光する受光装置を備える。照射光の発光手段は内蔵されたものでもよく、また外部の発光手段を利用するものでもよい。また、光学的検出手段は、石英ガラスルツボの内面に沿って回動操作できるものが好ましく用いられる。照射光としては、可視光、紫外線及び赤外線のほか、X線もしくはレーザ光などを利用でき、反射して気泡を検出できるものであれば何れも適用できる。受光装置は照射光の種類に応じて選択されるが、例えば受光レンズ及び撮像部を含む光学カメラを用いることができる。
上記光学検出手段による測定結果は画像処理装置に取り込まれ、気泡含有率が算出される。詳細には、光学カメラを用いてルツボの内面の画像を撮像し、ルツボの内面を一定面積ごとに区分して基準面積S1とし、この基準面積S1ごとに気泡の占有面積S2を求め、P=(S2/S1)×100により気泡含有率P(%)が算出される。石英ガラスの表面から一定の深さに存在する気泡を検出するには、受光レンズの焦点を表面から深さ方向に走査すればよく、こうして複数の画像を撮影し、各画像の気泡含有率に基づいて空間内の気泡含有率を求めればよい。
本実施形態による石英ガラスルツボ1は、石英ガラスからなるルツボ本体10と、ルツボ本体10の内面10a及び外面10bにそれぞれ形成された第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bとを備えている。これらの塗布膜は、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によってルツボ本体10の表層部の結晶化を促進させる役割を果たすものである。通常、ルツボ本体10の内面10aが透明層12の表面、外面10bが不透明層11の表面となっており、透明層12上に第1の結晶化促進剤含有塗布膜13A、不透明層11上に第2の結晶化促進剤含有塗布膜13Bがそれぞれ形成される。結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bは、増粘剤として作用する水溶性高分子を含んでおり、これによりルツボ本体10の表面には堅い膜が形成される。
結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bの厚さは0.3~100μmであることが好ましい。これにより、ルツボ本体10に塗布されるバリウムの濃度は結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bの厚さを変えることにより制御される。なお、石英ガラスで構成されるルツボ本体10には結晶化促進剤になり得る元素が意図的に添加されておらず、例えば、ルツボ本体10を天然石英粉で構成する場合、ルツボ本体10に含まれるバリウムの濃度は0.10ppm未満、マグネシウムの濃度は0.10ppm未満、カルシウムの濃度は2.0ppm未満であることが好ましい。またルツボ本体10の内表面の構成原料に合成石英粉を使用する場合、ルツボ本体10に含まれるマグネシウム及びカルシウムの濃度は共に0.02ppm未満であることが好ましい。
結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bに含まれる結晶化促進剤は2a族の元素であり、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)などを挙げることができるが、シリコンへの偏析係数が小さく、また結晶化速度が結晶化と共に減衰せず、他の元素に比べて配向成長を最も強く引き起こすなどの特徴から、バリウムが特に好ましい。またバリウムは常温で安定していて取り扱いが容易であり、原子核の半径がガラス(Si)と同じくらいであるため、後述する結晶化促進剤濃縮層が形成されやすいという利点もある。結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bは、バリウムを含む塗布液をルツボ壁面に塗布することによって形成することができる。結晶化促進剤としては2a族の元素の他にも、リチウム(Li)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)などを挙げることができる。
バリウムを含む塗布液としては、バリウム化合物と水からなる塗布液であってもよく、水を含まず無水エタノールとバリウム化合物とを含む塗布液であってもよい。バリウム化合物としては炭酸バリウム、塩化バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、シュウ酸バリウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。なお、バリウム元素の表面濃度(atoms/cm2)が同じであれば、不溶か水溶かに関わらず結晶化促進効果は同じであるが、水に不溶のバリウムの方が人体に取り込まれ難いので、安全性が高く、取り扱いの面で有利である。
バリウムを含む塗布液はカルボキシビニルポリマー等の粘性が高い水溶性高分子(増粘剤)をさらに含むことが好ましい。増粘剤を含まない塗布液を用いる場合にはルツボ壁面へのバリウムの定着が不安定であるため、バリウムを定着させるための熱処理が必要とされ、このような熱処理を施すとバリウムが石英ガラスの内部に拡散浸透し、後述する結晶のランダム成長を促進させる要因となる。しかし、バリウムと共に増粘剤を含む塗布液を用いる場合には、塗布液の粘性が高くなるためルツボに塗布したときに重力等で流れて不均一になることを防止することができる。また、炭酸バリウム等のバリウム化合物は、塗布液が水溶性高分子を含む場合には、バリウム化合物が塗布液中で凝集せず分散し、ルツボ表面に均一に塗布することが可能となる。したがってルツボ壁面に高濃度のバリウムを均一かつ高密度に定着させることができ、後述する柱状配向又はドーム状配向の結晶粒の成長を促進させることができる。
増粘剤としては、ポリビニルアルコール、セルロース系増粘剤、高純度グルコマンナン、アクリルポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の金属不純物が少ない水溶性高分子をあげることができる。また、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニルカルボン酸アミド、ビニルカルボン酸アミド等を増粘剤として用いてもよい。バリウムを含む塗布液の粘度は、100~10000mPa・sの範囲であることが好ましく、溶剤の沸点は50~100℃であることが好ましい。
例えば、32インチルツボの外面塗布用の結晶化促進剤塗布液は、炭酸バリウム:0.0012g/mL及びカルボキシビニルポリマー:0.0008g/mLをそれぞれ含み、エタノールと純水との割合を調整し、それらを混合・攪拌することにより作製することができる。
ルツボの表面への結晶化促進剤塗布液の塗布は、刷毛及びスプレーにより行うことができる。塗布後は水等が蒸発し、増粘剤による堅い膜が形成される。なお従来の方法では、炭酸バリウムを含む水あるいはアルコール類を塗布した後、剥離抑制の目的で、200~300℃まで加熱していた。この加熱により、表面のバリウムが内部に拡散し、結晶核が同時多発的に発生し、必ずランダム成長になっていたことから、塗布後であって引き上げ前に塗布膜を加熱してはならない。
結晶化促進剤含有塗布膜が形成されるルツボ本体10の表層部の結晶化促進剤の濃度は低いことが好ましい。ルツボ本体10中の結晶化促進剤の濃度が高い場合、ルツボ本体10の表層部でランダム成長がおき、結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤も結晶界面にトラップされるため、結晶化促進剤濃縮層が形成されにくい。しかし、ルツボ本体10の表面に結晶化促進剤含有塗布膜を形成した場合、ルツボ本体10の表面に結晶化促進剤を均一な濃度で局在させることができる。特に、石英ガラス中の結晶化促進剤の濃度が低い場合、ルツボ本体10の表面に高濃度の結晶化促進剤が均一に局在するため、その後の結晶引き上げによって加わる熱によって結晶化が進むときランダム成長にはならず、結晶化促進剤濃縮層が形成されやすい。
本実施形態において、第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bは、ルツボ本体10の内面及び外面それぞれの実質全面に形成されているが、少なくとも直胴部1aに形成されていればよい。結晶化促進剤濃縮層が少なくとも直胴部1aに形成されていることにより、直胴部1aの内倒れを防止することができる。
第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bは、直胴部1a及びコーナー部1cに形成されていることが好ましい。第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bは、少なくとも直胴部1a及びコーナー部1cに形成されていてもよいが、直胴部及びコーナー部のみに形成されていてもよい。結晶化促進剤濃縮層が直胴部及びコーナー部に形成されていることにより、直胴部の内倒れを防止できるだけでなく、ルツボの下部の肉厚が厚くなる沈み込みや座屈(隆起)を防止することができる。結晶化促進剤含有塗布膜は底部1bにもあった方がよいが、無くてもよい。ルツボの底部1bは隆起するように変形が起きる場合があり、底部1bに結晶層があればそのような隆起を防止することができる。
また詳細は後述するが、結晶化促進剤含有塗布膜は、ルツボ本体10の内面10a側にのみ形成されていてもよく、外面10b側にのみ形成されていてもよい。ただしこの場合、ルツボ本体10の表面が結晶化促進剤含有塗布膜の作用によって結晶化したときの収縮応力によって変形しないように配慮する必要がある。
本実施形態において、第2の結晶化促進剤含有塗布膜13B中の結晶化促進剤の濃度coに対する第1の結晶化促進剤含有塗布膜13A中の結晶化促進剤の濃度ciの比ci/coは、0.3以上20以下であることが好ましい。結晶化促進剤の濃度の比ci/coが0.3~20の範囲であることにより、後述する内側結晶層14Aと外側結晶層14Bとの厚み比(ti/to)を0.3~5の範囲内に収めることができる。
本実施形態において、引き上げ工程中の加熱温度でのルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoに対する内面10a側のガラス粘度ηiの比ηi/ηoは0.2以上5以下であることが好ましい。ガラス粘度の比ηi/ηoが0.2~5の範囲であることにより、後述する内側結晶層14Aと外側結晶層14Bとの厚み比(ti/to)を0.3~5の範囲内に収めることができる。
本実施形態において、第1の結晶化促進剤含有塗布膜13A中の結晶化促進剤の濃度ciと、第2の結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤13Bの濃度coは異なっており、ルツボ本体10の内面10a及び外面10bのうち、結晶化促進剤の濃度が高い方の結晶化促進剤含有塗布膜と接する面側のガラス粘度は、結晶化促進剤の濃度が低い方の結晶化促進剤含有塗布膜と接する面側のガラス粘度よりも高いことが好ましい。例えば、ci>coの場合には、ルツボ本体10の内面10a側のガラス粘度ηiは外面10b側のガラス粘度ηoよりも高いことが好ましい。逆にci<coの場合には、ルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoは内面10a側のガラス粘度ηiよりも高いことが好ましい。結晶化促進剤の濃度が高い方の結晶化促進剤含有塗布膜と接するガラス面の粘度を高くすることにより、結晶化速度を遅くすることができ、これにより内側結晶層と外側結晶層との厚み比ti/toを0.3~5の範囲内に収めることができる。
図2は、加熱によって表面が結晶化した状態の石英ガラスルツボ1の構造を示す略断面図である。
図2に示すように、結晶化促進剤が塗布された石英ガラスルツボの表面は、シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱によって石英ガラスの結晶化が促進され、ルツボ本体10の内面10a及び外面10bには内側結晶層14A及び外側結晶層14Bがそれぞれ形成される。シリコン単結晶の引き上げ工程中の加熱は、シリコンの融点(約1400℃)以上の温度で数十時間以上にもなるが、ルツボ本体10の表層部に結晶層がどのように形成されるかは、実際にシリコン単結晶の引き上げ工程を行って評価する以外に、1400℃以上シリカガラス軟化点以下の温度で1.5時間以上の熱処理を行って評価することができる。より好ましくは、加熱温度を1500℃、加熱時間を15時間以上とし、実際の結晶引き上げ条件(Ar等の雰囲気成分、減圧レベル等)に合わせて加熱することが好ましい。
内側結晶層14Aの結晶化の状態は、ドーム状結晶層の単層、あるいはドーム状結晶層及び柱状結晶層の2層構造(以下、ドーム状+柱状結晶層という)であることが好ましい。特に、ルツボの使用時間が非常に長い場合には内側結晶層14Aがドーム状+柱状結晶層であることが好ましく、ルツボの使用時間が比較的短い場合には内側結晶層14Aがドーム状結晶層のみからなる単層構造であってもよい。ここで、ドーム状結晶層とは、ドーム状の結晶粒の集合からなる結晶層のことを言い、柱状結晶層とは、柱状の結晶粒の集合からなる結晶層のことを言う。
ルツボの変形を抑制できる内側結晶層14Aの厚さは200μm以上であり、400μm以上であることが好ましい。単結晶引き上げ中にシリコン融液と接触する内側結晶層14Aは徐々に溶損するが、柱状結晶層が徐々に成長することにより、内側結晶層14Aの厚さを400μm以上に維持することも可能である。また、内側結晶層14Aの厚さがどの程度であればルツボの変形を抑制できるかは、結晶層を形成した石英ガラスルツボ片を用いていわゆるビームベンディング法により容易に評価することができる。
外側結晶層14Bの結晶化の状態は、ドーム状結晶層の単層構造とすることが好ましい。詳細は後述するが、ドーム状+柱状結晶層では結晶成長が持続することにより外側結晶層14Bの厚さが増し、結晶層と石英ガラス層との界面で発泡剥離が生じやすくなるからである。ただしルツボの使用時間が比較的短く、外側結晶層が過度に厚くならない場合には、外側結晶層14Bがドーム状+柱状結晶層からなる構造であってもよい。
内側結晶層14Aの厚みtiと外側結晶層14Bの厚みtoとの比ti/toは0.3以上5以下であることが好ましい。厚み比ti/to>5の場合には、ルツボ本体10の内面10a側の収縮応力が強くなることにより、ルツボ本体10の外面10b側に皺やクラックが発生し、ルツボが変形するおそれがある。また、厚み比ti/to<0.3の場合には、ルツボ本体10の外面10b側の収縮応力が強くなることにより、内面10a側に皺やクラックが発生し、内側結晶層14Aが剥離することにより、単結晶収率が低下するおそれがある。しかし、内側結晶層14Aと外側結晶層14Bとの厚み比ti/toが0.3~5の範囲内であることにより、加熱中の結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあっても内面と外面の両方からの引っ張り応力がバランスするため、結晶層の皺やクラックの発生を防止することができる。
このようにルツボ内面が結晶層に覆われることにより、ルツボの溶損を抑え、また結晶粒の剥離によるシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。さらにルツボ外面を結晶化させることにより、ルツボの強度を高めることができ、座屈や内倒れなどのルツボの変形を抑えることができる。
図3(a)~(c)は、結晶化促進剤によるルツボ表層部の結晶化のメカニズムを説明するための模式図である。
図3(a)に示すように、ルツボ表面(石英ガラス界面)に結晶化促進剤であるバリウム(Ba)が存在し、それがイオン化したBaイオン(Ba2+)の濃度がSiイオン(Si4+)の濃度よりも低い場合には、ルツボ表面に最初に発生する結晶核が少ないことにより、結晶核を起点にランダムな結晶成長が生じる。このときBaイオンが結晶粒界にトラップされ、石英ガラスと結晶粒との界面に存在してルツボの厚み方向の結晶成長に寄与するBaイオンの減少により結晶成長は徐々に弱まり、いずれ停止する。
しかし、図3(b)に示すように、Baイオンの濃度がSiイオンの濃度以上である場合には、ルツボ表面に多くの結晶核が発生し、これらの結晶核を起点にして結晶が競争的に成長することにより、ドーム状配向の結晶粒が形成される。結晶化がさらに進むと、その競争過程で垂直配向の結晶のみが生き残ることになるが、このときBaイオンが結晶粒界にトラップされ、石英ガラスと結晶粒との界面に存在するBaイオンの減少により結晶成長は徐々に弱まり、いずれ停止する。しかし、このようなドーム状配向の結晶層によれば、ランダム配向の結晶層よりも十分に厚い結晶層の形成が可能である。
また従来のガラスマトリックス中にBaイオンを存在させておく構造では、Baイオンが結晶核を同時多発的に発生させるものの、結晶がランダム成長になり、厚み方向の結晶成長に寄与するBaイオンが減少するため、結晶層を厚くすることができない。これに対し、図3(b)に示すようにガラス表面から深さ方向に一律に結晶核が成長を開始するモデルでは、垂直配向の結晶が相殺されることはないので、厚い結晶層の形成が可能である。
さらに、図3(c)に示すように、Baイオンの濃度が非常に高く、特に石英ガラス表面のSiイオンの濃度の50倍以上である場合には、短時間のうちにルツボ表面に無数の結晶核が発生し、より早く垂直方向の選択的な結晶成長が起きることにより、柱状配向の結晶粒が形成される。この結晶粒が成長することにより、Baイオンは結晶粒界にトラップされにくくなり、Baイオンの減少が抑制され、結晶化速度の低下が抑制される。このように、石英ガラスの極表面にBaイオンを高濃度に存在させてガラス内部に向かって一気に結晶化を進めることにより、結晶構造をドーム状配向から柱状配向に持っていくことが可能となる。柱状配向の結晶層によれば、ルツボ表層部の結晶成長を持続させることができ、ドーム状配向の結晶層よりもさらに厚い結晶層の形成が可能である。
ルツボ内面の結晶層は、シリコン融液との反応により融解するので、石英ガラスの結晶化が加熱初期で止まるランダム成長では、ルツボ内面の結晶層が消失し、長時間の用途に適切ではない。また、ルツボ外面の結晶層もカーボンサセプタとの反応によりその厚さが薄くなるので、結晶化が加熱初期で止まるランダム成長では、外面の結晶層が消失するおそれがある。しかし、ドーム状成長であれば結晶成長期間を長くすることができ、結晶層の厚さを十分に確保することができる。また柱状成長であれば結晶成長期間をさらに長くすることができ、持続的な結晶成長を実現することができる。
ドーム状又は柱状配向の結晶成長が継続した場合、結晶層14と結晶化していないガラス層10Gとの界面には結晶化促進剤濃縮層10P(Ba濃縮層)が形成される。本発明において「結晶化促進剤濃縮層」とは、ルツボ表面にBa等の結晶化促進剤を塗布して加熱した場合に、結晶層14とガラス層10Gとの界面に発生する、結晶化促進剤が高密度で存在する層のことを言う。この結晶化促進剤濃縮層10P中の結晶化促進剤の濃度は、結晶層14中の結晶化促進剤の濃度の5倍以上と高濃度である。
図4(a)及び(b)は、図2に示した使用後の石英ガラスルツボ1の表面近傍の断面図であって、(a)は光学顕微鏡を通して撮影した画像、(b)はTOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間型二次イオン質量分析法)の分析結果である結晶ガラス界面のBaイオン像マップである。
図4(a)に示すように、石英ガラスルツボ1の表面には結晶層が形成され、その下方には結晶化しなかったガラス層が存在しており、2つの層の境界ははっきりしている。なお図中の大きな黒い塊は気泡である。
図4(b)に示すように、結晶ガラス界面近傍をエッチングした後、TOF-SIMSで表面分析すると、結晶ガラス界面近傍にはBaイオンが高密度な領域である結晶化促進剤濃縮層が発生していることが分かる。この図の結晶化促進剤濃縮層は8~10μm程度の厚さを有している。
結晶化促進剤濃縮層10Pの厚みは0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。結晶化促進剤濃縮層10Pが厚すぎる場合には流動性が高くなり、結晶層14とガラス層10Gの位置にずれが生じ、結晶層14の表面に皺やクラックが発生する。また結晶化促進剤濃縮層10Pが無いか或いは薄すぎる場合には、加熱中であっても結晶化速度の極端な低下が生じ、十分な厚みを持つ結晶層14を形成できない。また加熱中の結晶層14とガラス層10Gとの間の熱膨張係数又は密度の違いによる応力のため結晶層14の分離が起きやすい。このような応力はクラックの要因にもなり、クラックはルツボの変形につながる。
図5(a)~(e)は、結晶化したルツボ表面の撮影画像であり、(a)はルツボ表面に皺が発生した状態、(b)はルツボ表面に皺及びクラックがない状態、(c)はルツボ表面に皺のみが発生しクラックは発生していない状態、(d)はルツボ表面に皺及びクラックが発生した状態、(e)はルツボ表面に皺及びクラックが発生しさらに結晶層の剥離が生じた状態を示している。
図5(a)に示すように、結晶化促進剤濃縮層が厚すぎる場合には流動性が高くなるため、結晶層とガラス層の位置にずれが生じやすく、結晶層の表面に皺が発生する。図5(b)に示すように、皺が発生していない結晶層の表面は非常に滑らかである。一方、結晶層とガラス層の位置ずれの程度が小さければ、図5(c)に示すようにルツボ表面に皺のみが発生し、クラックは発生しない。皺は、結晶層の一部分が寄せられて表面に細い筋目がある状態である。ガラス層は露出していないが、筋目からは結晶の小片(パーティクル)が微量に発生する。そのためルツボの内面10a側で皺が発生した場合、単結晶収率が低下する。ルツボの外面10b側で皺が発生しても単結晶収率への直接的な影響はないと考えられる。
結晶層とガラス層の位置ずれが大きくなると、皺のみならずクラックも発生する。図5(d)は、結晶層の表面にクラックが発生した状態を示している。クラックは結晶層の一部分が裂け、ひび割れが発生してガラス層の断面が露出した状態である。図示のようにクラックからは結晶の小片(パーティクル)が多量に発生するため、ルツボの内面10a側でクラックが発生するとシリコン単結晶収率が著しく低下する。また皺やクラックがルツボ本体の内面10a側で発生すると、図5(e)に示すように結晶層の剥離が起き、単結晶収率にさらなる影響を及ぼす。ルツボの外面10b側で皺が発生しても単結晶収率への直接的な影響はないが、クラックの発生はルツボの強度を著しく低下させる要因となり、ルツボの変形につながる。
しかし、結晶化促進剤濃縮層が適度な厚さを有する場合にはその部分の流動性が高すぎず、結晶層とガラス層のずれが生じにくく、結晶層に皺やクラックが発生しないため結晶層が剥離することもない。
ルツボ表層部の結晶化状態はSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)を用いて観察することができるが、表面X線回折法により評価することも可能である。
図6(a)~(c)は、表面X線回折法によるルツボ表層部の測定結果を示すグラフであり、図6(a)はランダム配向、図6(b)はドーム状配向、図6(c)は柱状配向の結晶層をそれぞれ示している。
結晶層がランダム配向の場合には、図6(a)に示すように、(100)の結晶方位に起因する回折角度2θが20~25°におけるピーク強度(counts)の最大値Aが非常に大きく、(200)の結晶方位に起因する回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bが非常に小さくなり、ピーク強度比A/Bは7よりも大きくなる。
これに対し、結晶層がドーム状配向の場合には、図6(b)に示すように、回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aと回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bとの差が小さくなり、ピーク強度比A/Bは0.4以上7以下となる。
さらに、結晶層が柱状配向の場合には、図6(c)に示すように、回折角度2θが20~25°におけるピーク強度の最大値Aが非常に小さく、回折角度2θが33~40°におけるピーク強度の最大値Bが非常に大きくなり、ピーク強度比A/Bは0.4未満となる。
図7は、内側結晶層14A及び外側結晶層14Bの適切な結晶構造を部位ごとに示す表であり、各部位における好ましい結晶構造を「○」、より好ましい結晶構造を「◎」で示している。
図7に示すように、ルツボ本体10の内面10aについては、直胴部(W部)1aから底部(B部)1bまでの内面全体をドーム状+柱状結晶層(A/Bが0.4未満)としてもよい。また、コーナー部(R部)1c及び底部1bのみをドーム状+柱状結晶層とし、直胴部1aの内面をドーム状結晶層(A/Bが0.4以上~7未満)とすることも可能である。直胴部1aの内面は、コーナー部1cや底部1bに比べてシリコン融液との接触時間が短いので、ドーム状結晶層を形成すれば足りる場合があるからである。結晶引き上げ時間が比較的短い場合には、ルツボ本体10の直胴部1aの内面がドーム状結晶層となる条件を採用することもまた好ましい。直胴部1aで結晶化促進剤含有塗布膜13Aの厚さを薄くすることができ、これにより塗布膜中に含まれる不純物のシリコン融液への取り込みを低減することができる。
ルツボ本体10の外面10bについては、ルツボの部位によらず直胴部1aから底部1bまでの外面全体がドーム状+柱状結晶層であってもよく、あるいはドーム状結晶層であってもよいが、ドーム状結晶層であることが特に好ましい。外側結晶層14Bにある程度の厚みを持たせることでルツボの強度を高めることができるが、外側結晶層14Bの厚さが厚くなると、結晶化した石英ガラス気泡層中にあった気泡が凝集・膨張することでルツボの変形や結晶層の剥離が起きやすくなるからである。外側結晶層14Bの厚さが1.5mm以上になると、外側結晶層14Bの剥離が特に起きやすくなる。したがって、外側結晶層14Bの結晶成長速度はその結晶成長の進行とともに鈍化することが好ましく、外側結晶層14Bの厚さは1.5mm未満に抑えられることが好ましい。
結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bの形成に用いる塗布液は、石英ガラス板などの基材に対して予め結晶化状態のテストを行った後、実際の石英ガラスルツボに使用することが好ましい。結晶化状態のテストでは、石英ガラス基材の表面に所定濃度の結晶化促進剤塗布液を塗布した後、1400℃以上の評価熱処理によって石英ガラス基材の表面の表層部に結晶層を形成する。次に、石英ガラス基材の表面の結晶化状態をX線回折法によって分析し、分析結果に基づいて結晶化促進剤塗布液中の結晶化促進剤の濃度を調整する。そして濃度調整後の結晶化促進剤塗布液を石英ガラスルツボ(ルツボ本体10)の表面に塗布し、これにより石英ガラスルツボ1を完成させる。このようにすることで、結晶化促進剤塗布液の濃度、組成、塗布条件等のわずかな条件の違いによらず確実に所望の結晶化状態を再現することができ、信頼性の高い石英ガラスルツボを実現することができる。
図8は、本実施形態による石英ガラスルツボ1を用いたシリコン単結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図8に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造では、第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bが形成された石英ガラスルツボを用いる。そのため、結晶化促進剤が塗布されていない(未コートの)石英ガラスルツボ(ルツボ本体10)を用意し、その内面及び外面に適切な濃度のバリウム化合物塗布液をそれぞれ塗布する(ステップS11)。
次に、第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bが形成された石英ガラスルツボ1を用いてシリコン単結晶の引き上げ工程を実施する(ステップS12)。引き上げ工程は、同一のルツボから複数本のシリコン単結晶を引き上げるマルチ引き上げであってもよく、1本のシリコン単結晶のみを引き上げるシングル引き上げであってもよい。
次に、引き上げ工程終了後の使用済みルツボの表面をX線回折法で分析し、結晶層の結晶化状態を評価する(ステップS13)。上記のように、ピーク強度比A/Bが7よりも大きければランダム配向、ピーク強度比A/Bが0.4以上7以下であればドーム状配向、ピーク強度比A/Bが0.4未満であれば柱状配向の結晶層と評価することができる。
次に、分析・評価結果をバリウム化合物塗布液の濃度調整にフィードバックする(ステップS14)。例えば、外側結晶層14Bの結晶化状態が柱状配向となっており、結晶層が過度に厚くなっている場合には、使用するバリウム化合物塗布液中のバリウム濃度がもう少し低くなるように調整すればよい。また、内側結晶層14Aの結晶化状態がドーム状配向となっている場合であって柱状配向を希望する場合には、使用するバリウム化合物塗布液中のバリウム濃度がもう少し高くなるように調整すればよい。
分析・評価結果としては、結晶の配向度(X線回折による評価結果:ピーク比)、結晶層の厚み、厚み勾配、厚み分布、結晶の粒径、結晶層の発泡・剥離の有無、結晶化促進剤濃縮層の厚みなどを挙げることができる。また調整項目としては、濃度(部位別)、塗布膜厚(部位別)、増粘剤配合、炭酸バリウムの粒径などを挙げることができる。項目調整方法としては、結晶引き上げ条件によってルツボの部位ごとに熱負荷が変わるため、最初はバリウム濃度をルツボの部位によらず均一に塗布して引き上げを行い、その使用後のルツボの結晶層の厚み分布等を分析し、結晶層が均一になるように、部位別に上記項目を調整すればよい。
その後、新たな未コートの石英ガラスルツボを用意し、その表面に濃度調整後のバリウム化合物塗布液を塗布し(ステップS15)、この石英ガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げ工程を新たに実施する(ステップS16)。こうして行った引き上げ工程では、石英ガラスルツボ1の表面の結晶層がその部位ごとに最適な結晶化状態となっているので、ルツボ本体10の内面10aでは結晶粒の剥離が生じることなく面内に一様な結晶層を形成することができ、柱状結晶を持続的に成長させることで常に強度を保つことができる。またルツボ本体10の外面10bでは一定の強度を保ちながら発泡剥離等の不具合を防止することができる。
図9は、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げ工程を説明するための模式図である。
図9に示すように、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げ工程では、単結晶引き上げ装置20が使用される。単結晶引き上げ装置20は、水冷式のチャンバー21と、チャンバー21内においてシリコン融液4を保持する石英ガラスルツボ1と、石英ガラスルツボ1を保持するカーボンサセプタ22と、カーボンサセプタ22を支持する回転シャフト23と、回転シャフト23を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構24と、カーボンサセプタ22の周囲に配置されたヒーター25と、ヒーター25の外側であってチャンバー21の内面に沿って配置された断熱材26と、石英ガラスルツボ1の上方に配置された熱遮蔽体27と、石英ガラスルツボ1の上方であって回転シャフト23と同軸上に配置された結晶引き上げ用ワイヤー28と、チャンバー21の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構29とを備えている。
チャンバー21は、メインチャンバー21aと、メインチャンバー21aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー21bとで構成されており、石英ガラスルツボ1、カーボンサセプタ22、ヒーター25及び熱遮蔽体27はメインチャンバー21a内に設けられている。プルチャンバー21bの上部にはチャンバー21内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口21cが設けられており、メインチャンバー21aの下部にはチャンバー21内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口21dが設けられている。また、メインチャンバー21aの上部には覗き窓21eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓21eから観察可能である。
カーボンサセプタ22は、加熱によって軟化した石英ガラスルツボ1の形状を維持するために用いられるものであり、石英ガラスルツボ1の外面に密着して石英ガラスルツボ1を包むように保持する。石英ガラスルツボ1及びカーボンサセプタ22はチャンバー21内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
カーボンサセプタ22は回転シャフト23の上端部に固定されており、回転シャフト23の下端部はチャンバー21の底部を貫通してチャンバー21の外側に設けられたシャフト駆動機構24に接続されている。回転シャフト23及びシャフト駆動機構24は石英ガラスルツボ1及びカーボンサセプタ22の回転機構及び昇降機構を構成している。
ヒーター25は、石英ガラスルツボ1内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液4を生成すると共に、シリコン融液4の溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター25は抵抗加熱式のカーボンヒーターであり、カーボンサセプタ22内の石英ガラスルツボ1を取り囲むように設けられている。さらにヒーター25の外側には断熱材26がヒーター25を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー21内の保温性が高められている。
熱遮蔽体27は、シリコン融液4の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切なホットゾーンを形成するとともに、ヒーター25及び石英ガラスルツボ1からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体27は、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液4の上方の領域を覆う黒鉛製の部材であり、例えば下端から上端に向かって開口サイズが大きくなる逆円錐台形状を有している。
熱遮蔽体27の下端の開口27aの直径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。熱遮蔽体27の開口27aの直径は石英ガラスルツボ1の口径よりも小さく、熱遮蔽体27の下端部は石英ガラスルツボ1の内側に位置するので、石英ガラスルツボ1のリム上端を熱遮蔽体27の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体27が石英ガラスルツボ1と干渉することはない。
シリコン単結晶3の成長と共に石英ガラスルツボ1内の融液量は減少するが、融液面と熱遮蔽体27の下端との間のギャップが一定になるように石英ガラスルツボ1を上昇させることにより、シリコン融液4の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液4からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、シリコン単結晶3の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
石英ガラスルツボ1の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー28と、ワイヤー28を巻き取るワイヤー巻き取り機構29が設けられている。ワイヤー巻き取り機構29はワイヤー28と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構29はプルチャンバー21bの上方に配置されており、ワイヤー28はワイヤー巻き取り機構29からプルチャンバー21b内を通って下方に延びており、ワイヤー28の先端部はメインチャンバー21aの内部空間まで達している。図9には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー28に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶3の引き上げ時には石英ガラスルツボ1とシリコン単結晶3とをそれぞれ回転させながらワイヤー28を徐々に引き上げることによりシリコン単結晶3を成長させる。
CCDカメラ30は覗き窓21eの外側に設置されている。単結晶引き上げ工程中、CCDカメラ30は覗き窓21eから熱遮蔽体27の開口27aを通して見えるシリコン単結晶3とシリコン融液4との境界部を斜め上方から撮影する。CCDカメラ30による撮影画像は画像処理部31で処理され、処理結果は制御部32において引き上げ条件の制御に用いられる。
シリコン単結晶の引き上げ工程中、シリコン融液4との反応により石英ガラスルツボ1の内面が溶損するが、ルツボの内面及び外面に塗布した結晶化促進剤の作用により内面及び外面の結晶化が進むので、内面の結晶層が消失することがなく、結晶層の厚みをある程度確保することによってルツボの強度を維持して変形を抑制することができる。したがって、ルツボが変形することにより熱遮蔽体27等の炉内部材と接触したり、ルツボ内容積が変化してシリコン融液4の液面位置が変動したりすることを防止することができる。
また、石英ガラスルツボ1の内面から剥離した結晶片がシリコン融液4の対流に乗って固液界面に到達すると、シリコン単結晶3に取り込まれて転位が発生するおそれがある。しかし、本実施形態によれば、ルツボ内面からの結晶片の剥離を防止することができ、これにより単結晶の有転位化を防止することができる。
以上説明したように、本実施形態による石英ガラスルツボ1は、引き上げ工程中の加熱によってルツボ本体10の内面10aにドーム状+柱状結晶層、あるいはドーム状結晶層からなる内側結晶層14Aが形成されるので、内側結晶層14Aに十分な厚みを持たせることができる。したがって、ルツボの強度を高めてその変形を防止することができる。またルツボ内面の溶損によって内側結晶層14Aが完全に消失することを防止することができる。
また、内側結晶層14Aがドーム状+柱状結晶層である場合には、ドーム状の結晶層が溶損しても柱状結晶層の配向方向がルツボ壁の厚み方向であるため、柱状の結晶粒の剥離を防止することができ、また柱状配向させることで結晶成長をルツボ壁の厚み方向に集中させて結晶成長速度を大きくすることができる。
また本実施形態による石英ガラスルツボ1は、引き上げ工程中の加熱によってルツボ本体10の外面10bにドーム状結晶層からなる外側結晶層14Bが形成されるので、外側結晶層14Bに十分な厚みを持たせることができる。したがって、ルツボの強度を高めてその変形を防止することができる。また、ルツボ本体10の外面10bにドーム状結晶層を形成することで、結晶粒界を緻密にしてルツボ外面からの衝撃等によるクラックがルツボ内部まで到達することを防ぐことができる。
また、外側結晶層14Bを柱状結晶層ではなくドーム状結晶層とすることで、結晶成長が持続することはなく、外側結晶層14Bが過度に厚くなることはない。したがって、厚い結晶層と石英ガラスとの界面での気泡の膨張による結晶層の剥離を防止することができ、さらにこの気泡から柱状結晶の粒界を伝わってクラックが発生することを防止することができる。
また本実施形態によれば、ルツボ表面(内面及び外面)の結晶層の結晶化状態をX線回折法で簡便に評価することができる。したがって、この評価結果に基づいて、結晶化促進剤の塗布条件を選択することができ、シリコン単結晶の引き上げ条件やルツボの部位に合った結晶化構造を持った石英ガラスルツボ1を製造することができる。
結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bは、必ずしもルツボ本体10の内面10a及び外面10bの両方に形成する必要はなく、ルツボ本体10の内面10aにのみ形成してもよく、外面10bにのみ形成してもよい。ただしルツボの内面10aはシリコン融液に接触して溶損量が多いので、ルツボの外面10bよりも結晶化の効果も大きく、ルツボの外面よりも内面に結晶層を形成することのほうが重要である。
図10(a)及び(b)は、本発明の第2の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略断面図である。また図11(a)及び(b)は、ルツボのガラス粘度と結晶層との関係を説明する模式図である。
図10(a)及び(b)に示すように、この石英ガラスルツボ2Aは、図1の石英ガラスルツボ1においてルツボ本体10の内面10a側にのみ第1の結晶化促進剤含有塗布膜13Aを形成し、外面10b側の第2の結晶化促進剤含有塗布膜13Bを省略したものである。
石英ガラスルツボ2Aにおいて、引き上げ工程中の加熱温度でのルツボ本体10の内面10a側のガラス粘度ηiに対する外面10b側のガラス粘度ηoの比ηo/ηiは0.5以上10以下であることが好ましい。ルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoが低すぎる場合(ηo/ηi<0.5)には、引き上げ工程の比較的早い段階でルツボの内面10a側が結晶化して強度が増すことにより内面10aが自立する一方で、外面10b側のガラスがサセプタになじむことができず、これにより図11(a)に示すように外側ガラス層が下降分離して変形し、壁厚が薄くなるため、ルツボの強度が下がる。一方、ルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoが高すぎる場合(ηo/ηi>10)には、図11(b)に示すように内側ガラス層と外側ガラス層との境界において内側ガラス層が外側ガラス層から分離して変形し、ルツボ強度が下がる。しかし、ルツボ本体10の外面10b側と内面10a側とのガラス粘度の比ηo/ηiが0.5~10の範囲内であることにより、ルツボ本体10の内面10a側の表層部が結晶化して収縮したとしても、収縮応力を緩和してルツボの変形を防止することができる。
引き上げ工程中の加熱温度でのルツボ本体10の内面10a側のガラス粘度ηiに対する外面10b側のガラス粘度ηoの比ηo/ηiが0.5以上10以下となるようにするためには、原料石英粉を回転モールド内でアーク溶融してルツボ本体10を製造する際に、ルツボ本体10の内面10a側を構成する原料石英粉と外面10b側を構成する原料石英粉の種類を変えることにより実現できる。具体的には、不純物濃度、粒度、結晶化度合い等が異なる石英粉を使用することにより実現できる。
石英ガラスルツボの製造では、ルツボの内面側を構成する原料石英粉と外面側を構成する原料石英粉の種類を変えることが多い。例えば、ルツボの内面側ではできるだけ不純物が少ない高純度な原料石英粉を用い、またルツボの外面側では純度よりもコストを重視し、低純度で原価の安い原料石英粉を用いる場合がある。高純度原料によって構成される内側層の厚みは、ルツボ内面がシリコン融液に溶損する厚みよりも厚く、約1~3mm程度に設定される。内側層の厚さがルツボ全体の肉厚に占める割合は5~30%程度である。このような場合、ルツボの内面側と外面側とでガラス粘度が異なる態様となるが、上記のようにガラス粘度比を制御することで内側結晶層の形成に伴うルツボの変形を抑えることができる。
図12(a)及び(b)は、本発明の第3の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略断面図である。また図13(a)及び(b)は、ルツボのガラス粘度と結晶層との関係を説明する模式図である。
図12(a)及び(b)に示すように、この石英ガラスルツボ2Bは、図1の石英ガラスルツボ1においてルツボ本体10の外面10b側にのみ第2の結晶化促進剤含有塗布膜13Bを形成し、内面10a側の第1の結晶化促進剤含有塗布膜13Aを省略したものである。
石英ガラスルツボ2Bにおいて、引き上げ工程中の加熱温度でのルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoに対する内面10a側のガラス粘度ηiの比ηi/ηoは0.5以上であることが好ましい。ルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoが高すぎる場合(ηi/ηo<0.5)、図13(a)に示すように内側ガラス層が下降分離して変形するため、ルツボの強度が下がる。一方、ルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoが低くても(ηi/ηo>10)、図13(b)に示すように外側ガラス層はCZ炉内のカーボンサセプタに保持されており、また自重及びシリコン融液の重さでサセプタに押さえつけられるため外側ガラス層の分離は起こらない。したがって、ルツボ本体10の内面10a側と外面10b側とのガラス粘度の比ηi/ηoが0.5以上であることにより、ルツボ本体10の外面10b側の表層部が結晶化して収縮したとしても、収縮応力を緩和してルツボの変形を防止することができる。
引き上げ工程中の加熱温度でのルツボ本体10の外面10b側のガラス粘度ηoに対する内面10a側のガラス粘度ηiの比ηi/ηoが0.5以上となるようにするためには、原料石英粉を回転モールド内でアーク溶融してルツボ本体10を製造する際に、ルツボ本体10の内面10a側を構成する原料石英粉と外面10b側を構成する原料石英粉の種類を変えることにより実現できる。
石英ガラスルツボ2A,2Bにおいて、内側結晶層14A及び外側結晶層14Bの厚みの面内勾配は0.5以上1.5以下であることが好ましい。これによれば、加熱中の結晶層とガラス層との間の熱膨張係数又は密度の違いによる収縮応力の違いがあっても、結晶層の厚みが面内で均一であれば皺やクラックなどの結晶層の変形の起点がなく、結晶層の皺やクラックを発生し難くすることができる。また、第1及び第2の結晶化促進剤含有塗布膜13A,13B中の結晶化促進剤の面内の濃度勾配は40%以上150%以下であることが好ましい。結晶化促進剤含有塗布膜中の結晶化促進剤の面内の濃度勾配が40~150%であることにより、引き上げ工程中における結晶層の厚みの面内勾配を0.5~1.5の範囲内に収めることができる。
図14は、本発明の第4の実施の形態による石英ガラスルツボの構造を示す略断面図である。
図14に示すように、本実施形態による石英ガラスルツボ5の特徴は、ルツボ本体10の内面10a及び外面10bにそれぞれ形成される結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bがルツボ本体10のリム上端まで形成されない点にある。すなわち、ルツボ本体10の内面10aのリム上端から下方に一定幅の帯状領域は、結晶化促進剤含有塗布膜13Aが形成されていない結晶化促進剤未塗布領域15A(以下、単に「未塗布領域15A」という)であり、外面10bのリム上端から下方に一定幅の帯状領域は、結晶化促進剤含有塗布膜13Bが形成されていない結晶化促進剤未塗布領域15B(以下、単に「未塗布領域15B」という)である。
ルツボ本体10の内面10a又は外面10bのリム上端まで結晶化促進剤含有塗布膜13A,13Bをそれぞれ形成する場合には、リム上端部(リム上端面及びリム上端付近の内面10a及び外面10b)も結晶化し、この結晶化領域から発塵した結晶小片のパーティクルがルツボ内のシリコン融液に混入してシリコン単結晶の歩留まりが低下するおそれがある。しかし、未塗布領域15A,15Bを設ける場合にはリム上端部の結晶化を抑制することができ、リム上端部で結晶小片のパーティクルが発生することによるシリコン単結晶の歩留まりの低下を防止することができる。
未塗布領域15A,15Bは、リム上端から下方に2mm以上40mm以下の範囲内であることが好ましい。未塗布領域15A,15Bの幅が2mmよりも小さい場合には、未塗布領域15A,15Bを設けることによる効果が十分でないからである。また未塗布領域15A,15Bの幅が40mmよりも大きい場合には、結晶化促進剤含有塗布膜と未塗布領域との境界位置がシリコン融液中に存在することになる可能性があり、結晶層とガラス層との境界がシリコン融液に浸かると境界領域における応力集中によりクラックが発生し、結晶小片のパーティクルが発生する可能性が高くなるからである。
また図9に示すように、結晶引き上げ工程中の石英ガラスルツボ1はカーボンサセプタ22内に収容されているが、石英ガラスルツボ1のリム上端部はカーボンサセプタ22の上端よりも上方に突出しており、そのためカーボンサセプタ22によって支持されることなく常に自立状態である。未塗布領域15A,15Bは、このようなカーボンサセプタ22の上端よりも上方に突出する領域に設けられることが好ましい。このように、カーボンサセプタ22と接触しない石英ガラスルツボ1のリム上端部を未塗布領域とすることにより、シリコン単結晶の歩留まりを改善すると共に、結晶層の発泡・剥離によるルツボの変形を防止することができる。
未塗布領域15A,15Bの幅の範囲は、ルツボの直胴部1aの長さの0.02倍~0.1倍であることが好ましい。未塗布領域15A,15Bの幅がルツボの直胴部1aの長さの0.02倍よりも小さい場合には、未塗布領域15A,15Bを設けることによる効果が十分でないからである。また、未塗布領域15A,15Bの幅がルツボの直胴部1aの長さの0.1倍よりも大きい場合には、カーボンサセプタ22によって支持される領域まで未塗布領域を形成することになり、結晶層の発泡・剥離によるルツボの変形やシリコン単結晶の歩留まりの悪化のおそれがあるからである。
図15は、図14に示した石英ガラスルツボ5の外面に結晶化促進剤含有塗布膜13Bと共に未塗布領域15Bを形成する方法の一例を説明するための模式図である。
図15に示すように、ルツボ本体10の外面10bに結晶化促進剤含有塗布膜13Bを形成する場合、スプレー法により形成することができる。ここで、リム上端部に未塗布領域15Bを設ける場合には、まずルツボ本体10の開口部10dにポリエチレンシート(PEシート)41を被せて開口部10dを覆った後、開口部10dの口元のPEシート41をポリプロピレンバンド(PPバンド)42で固定して開口部10dを封止する。
その後、図示のようにルツボ本体10の開口部10dを下向きの状態にして回転ステージ40上に載置し、PPバンド42による固定位置よりも外側に広がるPEシート41の端部41eを裏返して下向きの状態にし、このPEシート41の端部41eを回転ステージ40の外周面にゴムバンド43で固定する。
こうしてルツボ本体10の外面10bのリム上端から下方に一定幅(2~40mm)の領域をPEシート41及びPPバンド42でマスキングした後、スプレー45を用いてルツボ本体10の外面10bの全体に結晶化促進剤含有塗布液を塗布することにより、結晶化促進剤含有塗布膜13Bを形成すると共に、ルツボ本体10の外面10bのリム上端付近に未塗布領域15Bを形成することができる。
以上は、石英ガラスルツボ5の外面に結晶化促進剤含有塗布膜13Bと共に未塗布領域15Bを形成する方法の一例であるが、石英ガラスルツボ5の内面に結晶化促進剤含有塗布膜13Aと共に未塗布領域15Aを形成する場合も同様に行うことができる。すなわち、ルツボ本体10の内面10aのうち、リム上端から下方に一定幅の領域をマスキングした状態で、結晶化促進剤塗布液をスプレー法により塗布すればよい。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
また、上記実施形態において、内側結晶層14Aをドーム状結晶層の単層構造とし、外側結晶層14Bをランダム結晶層又はドーム状結晶層としてもよい。
また、上記実施形態においては、先行の結晶引き上げ工程で使用したルツボの結晶化状態を後続の結晶引き上げ工程に使用するルツボにフィードバックする場合を例に挙げたが、本発明はこのような場合に限定されない。したがって、例えば、所定の結晶引き上げ条件に基づいて石英片による模擬試験の条件を決定し、この条件下で石英片の評価を行い、評価結果をもとに塗布条件を決定してもよい。すなわち、結晶引き上げ工程を模した模擬試験中の加熱によって石英片の表層に形成された結晶層の結晶化状態を分析し、当該分析結果に基づいて、実際のシリコン単結晶の引き上げ工程で使用する石英ガラスルツボの内面に塗布する結晶化促進剤塗布液中の結晶化促進剤の濃度を調整してもよい。
また、ルツボの表面への結晶化促進剤塗布液の塗布方法としては、刷毛による方法のほか、スプレー式、ディップ式、カーテンコートなどを採用してもよい。
バリウム化合物塗布液の濃度が結晶層の結晶化状態に与える影響について評価した。この評価試験では、まず酢酸バリウム(金属イオン0.02M)に50g/Lのポリビニルアルコール(増粘剤)を溶解した基準濃度の水溶液を用意し、この水溶液中の酢酸バリウムの濃度を0.01倍、0.031倍、0.063倍、0.125倍、0.5倍、2倍にそれぞれ調整した6種類の塗布液を用意した。次に、12枚の石英ガラス板を用意し、濃度調整後の6種類の塗布液にそれぞれ2枚一組ずつ一定時間浸漬させることにより塗布した。
次に、石英ガラス板の表面のバリウム濃度を求めた。バリウム濃度の算出では、石英ガラス板を浸漬させたことで減少した酢酸バリウム水溶液の重量からバリウムのモル数を求め、このモル数及びアボガドロ定数からバリウムの原子数を計算し、この原子数及び酢酸バリウム水溶液が付着した石英ガラス板の表面積からバリウム濃度を求めた。
次に、12枚の石英ガラス板を1450℃の試験炉内で加熱した。加熱時間は、同一の水溶液を塗布した2枚の石英ガラス板のうちの一方を30分とし、他方を90分とした。
次に、熱処理後の12枚の石英ガラス板の表層部の結晶化状態をSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で観察した。さらに12枚の石英ガラス板のうち、濃度倍率が0.031倍、0.125倍、0.5倍、及び2倍の塗布液で90分熱処理した石英ガラス板の表面をX線回折法で分析し、上述のピーク強度比A/Bを求めた。石英ガラス板のX線回折法による評価では、株式会社リガク製のX線回折装置RINT2500を用い、ターゲット:Cu(λ=1.5418nm)、走査軸:2θ、測定方法:連続、2θ角走査範囲:10~70°、受光スリット:0.15mm、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:10°/minとした。X線で評価している表面からの深さ(検出深さ)はX線の入射角により可変であるが、ここでは数nm~数十μmとした。
表1は、石英ガラス板の評価試験結果の一覧表である。
表1に示すように、基準濃度に対する濃度倍率が0.01倍である酢酸バリウム水溶液を塗布した石英ガラス板サンプルA1の表面のバリウム濃度(表面バリウム濃度)は7.8×1014atoms/cm2となり、また濃度倍率が0.031倍である酢酸バリウム水溶液を塗布した石英ガラス板サンプルA2の表面のバリウム濃度は2.4×1015atoms/cm2となり、いずれもランダム配向のクリストバライトの結晶成長であった。
また濃度倍率が0.063倍である酢酸バリウム水溶液を塗布した石英ガラス板サンプルA3の表面のバリウム濃度は4.9×1015atoms/cm2となり、また濃度倍率が0.125倍である酢酸バリウム水溶液を塗布した石英ガラス板サンプルA4の表面のバリウム濃度は9.7×1015atoms/cm2となり、いずれもドーム状配向のクリストバライトの結晶成長であった。
また濃度倍率が0.5倍である酢酸バリウム水溶液を塗布した石英ガラス板サンプルA5の表面のバリウム濃度は3.9×1016atoms/cm2となり、また濃度倍率が2倍である酢酸バリウム水溶液を塗布した石英ガラス板サンプルA6の表面のバリウム濃度は1.6×1017atoms/cm2となり、いずれも柱状配向のクリストバライトの結晶成長であった。
図16(a)はSEMによる結晶層の観察結果を示す画像である。また、図16(b)は石英ガラス板の加熱時間と石英ガラス板の表層部に形成された結晶層の厚さとの関係を示すグラフであり、横軸が加熱時間、縦軸が結晶層の厚さをそれぞれ示している。
図16(a)に示すように、基準濃度の0.031倍に希釈した酢酸バリウム水溶液を石英ガラス板に塗布した場合には、加熱開始から30分経過後における結晶層の厚さは約200μmであり、また90分経過後においても約200μmであり、加熱開始から30分経過後は結晶層がほとんど成長していなかった。すなわち、加熱開始から30分経過後の結晶成長速度はほぼ0μm/hであった。また図16(b)に示すように、SEM画像から結晶層はランダム配向のクリストバライトの結晶成長であった。さらに結晶層の結晶構造をX線回折法で分析したところ、図6(a)のようなピークパターンとなり、上述のピーク強度比A/Bは8であった。
基準濃度の0.125倍に希釈した酢酸バリウム水溶液を石英ガラス板に塗布した場合には、30分経過後における結晶層の厚さは約250μmであり、90分経過後には約400μmとなり、加熱開始から30分経過後の結晶成長速度はおおよそ150μm/hであった。また図16(b)に示すように、SEM画像から結晶層はドーム状配向のクリストバライトの結晶成長であった。ドーム状結晶粒の幅及び長さは共に5~30μm程度であった。さらに結晶層の結晶構造をX線回折法で分析したところ、図6(b)のようなピークパターンとなり、上述のピーク強度比A/Bは0.64であった。
基準濃度の0.5倍に希釈した酢酸バリウム水溶液を石英ガラス板に塗布した場合には、30分経過後における結晶層の厚さは約190μmであったが、90分経過後においては約600μmであり、加熱開始から30分経過後の結晶成長速度はおおよそ450μm/hであった。また図16(b)に示すように、SEM画像から結晶層はドーム状配向から柱状配向の結晶成長に変化していた。柱状結晶粒の幅は10~50μm程度、長さは50μm以上であり、50~100μm程度のものが多かった。さらに結晶層の結晶構造をX線回折法で分析したところ、図6(c)のようなピークパターンとなり、上述のピーク強度比A/Bは0.16であった。
基準濃度の2倍に調整した酢酸バリウム水溶液を石英ガラス板に塗布した場合には、基準濃度の0.5倍の酢酸バリウム水溶液を用いたときと同様の結果となった。また図16(b)に示すように、SEM画像から結晶層はドーム状配向から柱状配向の結晶成長に変化していたが、ドーム状配向の結晶成長期間が非常に短く、早い段階でドーム状配向から柱状配向に変化することが分かった。
以上の結果から、酢酸バリウム水溶液の濃度を高くすることで結晶層の結晶化状態がランダム配向→ドーム状配向→柱状配向へと順に変化していき、ドーム配向の成長するときの濃度の4倍以上であれば、結晶層がドーム状配向成長から柱状配向成長に確実に変化することが分かった。したがって結晶層が柱状配向であれば、表面のバリウム濃度は3.9×1016atoms/cm2以上であることが分かる。なお表面のバリウム濃度は蛍光X線による解析等でも求めることもできる。
次に、バリウムを含む塗布液を塗布した石英ガラスルツボを実際の結晶引き上げ工程で使用したときのルツボの表面の結晶化状態及び変形について評価試験を行った。結晶引き上げ工程では32インチの石英ガラスルツボを用いて直径約300mmのシリコン単結晶インゴットを育成した。石英ガラスルツボに塗布する塗布液としては炭酸バリウム塗布液を用いた。炭酸バリウム塗布液としては、炭酸バリウム:0.0012g/mL及びカルボキシビニルポリマー:0.0008g/mLを含み、エタノールと純水との割合を調整したものを用いた。ルツボの表面への塗布は刷毛により行った。
この評価試験では3種類のルツボサンプルを用意した。サンプル#1は、ルツボの外面に塗布液を1回塗布したものであり、サンプル#2は、ルツボの内面に塗布液を6回塗布したものであり、サンプル#3は、ルツボの内面に塗布液を5回塗布したものである。塗布後は、水が10分程度、またエタノールが30分程度でそれぞれ蒸発し、増粘剤による堅い膜が形成されていた。塗布後、塗布液の使用量からルツボの表面のバリウム濃度を求めた。
その後、石英ガラスルツボのサンプル#1~#3を用いてシリコン単結晶インゴットをCZ法により引き上げた。引き上げ工程終了後、使用済みのルツボサンプル#1~#3の形状を目視で確認したところ、いずれも変形は見られなかった。また使用済みのルツボサンプル#1~#3の断面のSEM画像からルツボの結晶化状態を評価し、さらに結晶層の結晶構造をX線回折法で分析した。
表2は、石英ガラスルツボの評価試験結果を示す表である。
また図17~図19は、各ルツボサンプル#1~#3の結晶層のSEM画像及びX線回折スペクトルのグラフである。
ルツボ外面に塗布液を1回塗布した石英ガラスルツボのサンプル#1の外面のバリウム濃度は1.1×1016atoms/cm2となり、図17(a)に示すSEM画像からドーム状配向のクリストバライトの結晶成長であることを確認できた。また外側結晶層の厚さはおおよそ360μm程度となった。さらに外側結晶層のX線回折スペクトルは図17(b)のようにピーク強度A(2θが20~25°の左側ピーク)よりもピーク強度B(2θが33~40°の右側ピーク)のほうが小さいピークパターンとなり、上述のピーク強度比A/Bは1.7であった。
また、ルツボ内面に塗布液を6回塗布したルツボサンプル#2の内面のバリウム濃度は6.6×1016atoms/cm2となり、図18(a)に示すSEM画像から柱状配向のクリストバライトの結晶成長であることを確認できた。また内側結晶層の厚さはおおよそ380μmとなった。さらに内側結晶層のX線回折スペクトルは図18(b)のようにピーク強度Aよりもピーク強度Bの方が大きいピークパターンとなり、上述のピーク強度比A/Bは0.14であった。
また、ルツボ内面に塗布液を5回塗布したルツボサンプル#3の内面のバリウム濃度は5.5×1016atoms/cm2となり、図19(a)に示すSEM画像から柱状配向のクリストバライトの結晶成長であることを確認できた。また内側結晶層の厚さはおおよそ350μmとなった。さらに内側結晶層のX線回折スペクトルは図19(b)のようにピーク強度Aよりもピーク強度Bのほうが大きいピークパターンとなり、上述のピーク強度比A/Bは0.23であった。
次に、上記ルツボサンプル#1~#3の評価結果に基づいて、さらに多くのルツボサンプル(X1~X24、Y1~Y6)を用意し、それらを実際のCZ引き上げに使用した後、ルツボ変形、皺やクラックの発生の有無等の評価を行った。評価試験の条件及び結果をまとめた表を図20~図24に示す。
このうち、石英ガラスルツボのサンプルX1~X11,Y1,Y2は、ルツボ本体10の内面10aと外面10bの両方に結晶化促進剤含有塗布膜を形成したものであり、サンプルX12~X18,Y3,Y4は内面10aにのみ結晶化促進剤含有塗布膜を形成したものであり、サンプルX19~X24,Y5,Y6は外面10bにのみ結晶化促進剤含有塗布膜を形成したものである。
(ルツボサンプルX1)
石英ガラスルツボのサンプルX1では、結晶層の厚さが内側結晶層>外側結晶層となるように結晶化促進剤含有塗布膜の条件を設定した。詳細には、内面に塗布する塗布液中のBa濃度を1×1017atoms/cm2とし、外面に塗布する塗布液中のBa濃度を8×1015atoms/cm2とした。これらの塗布液を塗布して形成した外面塗布膜中のBa濃度に対する内面塗布膜中のBa濃度の比(Ba濃度比(内面/外面))は12.5であった。また、内面塗布膜及び外面塗布膜中のBa濃度勾配はともに70~130%の範囲内であった。なお、Ba濃度勾配は、上下あるいは左右方向に1cm離れた位置において変化する塗布膜中のBa濃度の変化量であって、特にルツボの底部中心から直胴部の上部までの範囲を1cm間隔で測定したときの全体値である。未コートの石英ガラスルツボ(ルツボ本体)のガラス粘度比(内側/外側)は0.8のものを用いた。なおガラス粘度の測定はルツボから切り出したガラス片の3点曲げ検査(ビームベンディング)により行い、破壊検査であるため、実際のルツボサンプルは破壊検査したルツボと同じ条件で製造したものである。
このような石英ガラスルツボのサンプルX1を用いて300mmシリコン単結晶インゴットの引き上げを行ったところ、単結晶歩留まり(単結晶インゴット重量/多結晶原料投入重量)は89%となり、良好な結果となった。また使用後のルツボの外観を目視で観察したところ、変形はなく、表面に皺やクラックもなく、結晶層の剥離も見当たらなかった。
次に使用後のルツボサンプルX1を切断し、その断面をSEMで観察したところ、内側結晶層はドーム状+柱状配向、外側結晶層はドーム状配向であった。また外側結晶層に対する内側結晶層の厚み比(結晶層厚比)は4.5となり、内側結晶層及び外側結晶層の厚み勾配はともに0.8~1.2の範囲内であった。なお、厚み勾配は、Ba濃度勾配と同様に、上下あるいは左右方向に1cm離れた位置において変化する結晶層厚みの変化量であって、特にルツボの底部中心から直胴部の上部までの範囲を1cm間隔で測定したときの全体値である。例えば結晶層の厚みが100μmである位置から面方向に1cm移動して測定したときの厚みが110μmであるとき、厚み勾配は110/100=1.1となり、また100μmである位置から1cm移動して測定したときの厚みが160μmであるとき、厚み勾配は160/100=1.6となる。
さらに内面側及び外面側の結晶ガラス界面をTOF-SIMSで分析したところ、Ba濃縮層の存在が確認された。Ba濃縮層の厚さは内面側及び外面側ともに約6μmであった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX1では結晶層がドーム状配向又は柱状配向となり、内面ガラス粘度が若干低いので結晶化速度が速く、内面側の塗布膜中のBa濃度も高いので、内側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形もなく、結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX2)
石英ガラスルツボのサンプルX2では、結晶層の厚さが内側結晶層<外側結晶層となるように結晶化促進剤含有塗布膜の条件を設定した。詳細には、内面に塗布する塗布液中のBa濃度を8×1015atoms/cm2とし、外面に塗布する塗布液中のBa濃度も8×1015atoms/cm2とした。これらの塗布液を塗布してルツボの内面及び外面にそれぞれ形成した塗布膜のBa濃度比(内面/外面)は1であった。また、内面塗布膜及び外面塗布膜中のBa濃度勾配はともに70~130%の範囲内であった。未コートの石英ガラスルツボ(ルツボ本体)のガラス粘度比(内側/外側)は2.0のものを用いた。
このような石英ガラスルツボのサンプルX2を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留まりは88%となり、良好な結果となった。また使用後のルツボの外観を目視で観察したところ、変形はなく、表面に皺やクラックもなく、結晶層の剥離も見当たらなかった。
次に使用後のルツボサンプルX2の切断面をSEMで観察したところ、内側結晶層及び外側結晶層は共にドーム状配向であった。また結晶層厚比(内面/外面)は0.6となり、内側結晶層及び外側結晶層の厚み勾配はともに0.8~1.2の範囲内であった。
さらに結晶ガラス界面をTOF-SIMSで分析したところ、Ba濃縮層の存在が確認された。Ba濃縮層の厚さは内面側及び外面側ともに約6μmであった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX2では、結晶層がドーム状配向又は柱状配向となり、内面ガラス粘度が若干高いので結晶化速度が遅くなり、外側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形もなく、結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX3)
ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が6.5である点以外はルツボサンプルX1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX3を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは86%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向、外側結晶層がドーム状配向となり、結晶層厚比は1.5となり、内面側及び外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在がそれぞれ確認された。その他の評価結果もサンプルX1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX3では、内面ガラス粘度が高いので結晶化速度は遅いが、内面側のBa塗布濃度が高いので、内側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形もなく、結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX4)
ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が0.1である点以外はルツボサンプルX2と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX4を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは87%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層及び外側結晶層がともにドーム状配向となり、結晶層厚比(内面/外面)は1.2となり、内面側及び外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在がそれぞれ確認された。その他の評価結果もサンプルX2と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX4では、サンプルX2に比べて内面ガラス粘度が低いので結晶化速度が速くなり、内側結晶層が若干厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形もなく、結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX5)
内面に塗布する塗布液中のBa濃度を2.4×1017atoms/cm2とし、塗布膜のBa濃度比(内面/外面)が30であり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が2である点以外はルツボサンプルX1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX5を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは85%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向、外側結晶層がドーム状配向となり、結晶層厚比(内面/外面)は2.5となった。また内面側の結晶ガラス界面に厚さ7μm、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層がそれぞれ存在することが確認された。その他の評価結果もサンプルX1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX5では、サンプルX1に比べて内面側のBa塗布濃度が高すぎるが、内面ガラス粘度が高いので結晶化速度が遅くなり、内側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形もなく、結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX6)
内面に塗布する塗布液中のBa濃度を6.0×1015atoms/cm2とし、外面に塗布する塗布液中のBa濃度を3.0×1016atoms/cm2とし、塗布膜のBa濃度比(内面/外面)が0.2であり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が0.8である点以外はルツボサンプルX2と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX6を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは85%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層及び外側結晶層がともにドーム状配向となり、結晶層厚比(内面/外面)は0.6となった。また内面側の結晶ガラス界面に厚さ5μm、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層がそれぞれ存在することが確認された。その他の評価結果もサンプルX2と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX6では、サンプルX2に比べて内面側のBa塗布濃度が低く且つ外面側のBa塗布濃度が高いが、内面ガラス粘度が低いので結晶化速度が速くなり、外側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形もなく、結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX7)
内側結晶層及び外側結晶層の厚み勾配がともに0.2となる箇所があり、内面塗布膜及び外面塗布膜中のBa濃度勾配がともに30%となる箇所があった点以外はルツボサンプルX1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX7を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは81%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、ルツボの内面及び外面に若干の皺が見られたが、ルツボの変形はなく、クラックや結晶層の剥離も見当たらなかった。また内側結晶層及び外側結晶層の厚み勾配がともに0.2となる箇所があった。その他の評価結果はサンプルX1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX7では、内面ガラス粘度が若干低いが内面側のBa塗布濃度が高いので、内側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形はなかった。結晶層の剥離やクラックはなかったが、結晶層の厚さは面内不均一で若干の皺が見られた。
(ルツボサンプルX8)
内面塗布膜及び外面塗布膜中のBa濃度勾配がともに30%となる箇所があり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が6.5である点以外はルツボサンプルX7と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX8を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは79%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、ルツボの内面及び外面に若干の皺が見られたが、ルツボの変形はなく、クラックや結晶層の剥離も見当たらなかった。また内面塗布膜及び外面塗布膜の厚み勾配はともに0.2となる箇所があった。内側結晶層がドーム状+柱状配向、外側結晶層がドーム状配向となり、結晶層厚比(内面/外面)は1.5となった。その他の評価結果はサンプルX7と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX8では、サンプルX1に比べて内面ガラス粘度が高いので結晶化速度が遅くなるが、内面側のBa塗布濃度が高いので、内側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボの変形はなかった。結晶層の剥離やクラックはなかったが、結晶層の厚さは面内不均一で若干の皺が見られた。
(ルツボサンプルX9)
内面に塗布する塗布液中のBa濃度を2.4×1017atoms/cm2とし、塗布膜のBa濃度比(内側/外側)が30であり、内面塗布膜及び外面塗布膜中のBa濃度勾配がともに30%となる箇所があり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が2である点以外はルツボサンプルX7と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX9を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは80%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、ルツボの内面及び外面に若干の皺が見られたが、ルツボの変形はなく、クラックや結晶層の剥離も見当たらなかった。また内側結晶層及び外側結晶層の厚み勾配はともに0.2となる箇所があった。内側結晶層がドーム状+柱状配向、外側結晶層がドーム状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約7μm、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層がそれぞれ存在することが確認された。その他の評価結果もサンプルX7と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX9では、サンプルX1に比べて内面ガラス粘度が高いので結晶化速度が遅くなるが、内面側のBa塗布濃度がさらに高いので、内側結晶層が厚くなった。しかし、内外の応力がバランスする範囲内であるためルツボは変形もなかった。結晶層の剥離やクラックはなかったが、結晶層の厚さは面内不均一で若干の皺が見られた。
(ルツボサンプルX10)
内面に塗布する塗布液中のBa濃度を2.4×1017atoms/cm2とし、結晶層厚比(内面/外面)が6.5であり、塗布膜のBa濃度比(内側/外側)が30であり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が7.5である点以外はルツボサンプルX1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX10を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは80%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、ルツボの内面に若干の皺が見られたが、ルツボの変形はなく、クラックや結晶層の剥離も見当たらなかった。内側結晶層がドーム状+柱状配向、外側結晶層がドーム状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約7μm、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層がそれぞれ存在することが確認された。その他の評価結果もサンプルX1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX10では、サンプルX1に比べて内面ガラス粘度が高いので結晶化速度が遅くなるが、内面側のBa塗布濃度がさらに高いので、内側結晶層が厚くなった。また、内外の応力バランスが適正範囲から少し外れるくらいでルツボの変形はなかった。結晶層の剥離やクラックはなく、結晶層の厚さは面内均一であったが、内側結晶層に若干の皺が見られた。
(ルツボサンプルX11)
ルツボ本体の外面に塗布する塗布液中のBa濃度を1.0×1017atoms/cm2とし、塗布膜のBa濃度比(内側/外側)が0.08であり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が0.1である点以外はルツボサンプルX2と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX11を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは86%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、ルツボの外面に若干の皺が見られたが、ルツボの変形はなく、クラックや結晶層の剥離も見当たらなかった。また内側結晶層がドーム状配向、外側結晶層がドーム状+柱状配向となり、結晶層厚比(内側/外側)は0.1となった。さらに結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在が確認された。その他の評価結果はサンプルX2と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX11では、内面ガラス粘度が低いので結晶化速度が速くなるが、外面側のBa塗布濃度が高いので、外側結晶層が厚くなった。また、内外の応力バランスが適正範囲から少し外れるくらいでルツボの変形はなかった。結晶層の剥離やクラックはなく、結晶層の厚さは面内均一であったが、外側結晶層に若干の皺が見られた。
(ルツボサンプルX12)
結晶化促進剤含有塗布膜をルツボ本体10の外面10bには形成せず、内面10aにのみ形成し、さらにルツボ本体のガラス粘度比(外側/内側)が3.0である点以外はルツボサンプルX1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX12を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは89%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約0.6μmのBa濃縮層の存在が確認された。その他の評価結果もサンプルX1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX12では、結晶配向が範囲内でルツボの変形もなく、ガラス粘度も適正範囲内でガラス分離がなく、内側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX13)
ルツボサンプルX12と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX13を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは93%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約18μmのBa濃縮層の存在が確認された。その他の評価結果もサンプルX12と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX13では、結晶配向が範囲内でルツボの変形もなく、ガラス粘度も適正範囲内でガラス分離がなく、内側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX14)
ルツボ本体のガラス粘度比(外側/内側)が0.3である点以外はルツボサンプルX12と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX14を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは81%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在が確認された。
さらに石英ガラスルツボのサンプルX14では、外側ガラス粘度が低いため外側ガラスが下降分離してルツボが若干変形したが、内側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離はなかった。
(ルツボサンプルX15)
ルツボ本体のガラス粘度比(外側/内側)が12である点以外はルツボサンプルX12と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX15を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは81%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在が確認された。
さらに石英ガラスルツボのサンプルX15では、外側ガラス粘度が高く内面と外面のガラス分離のためルツボが若干変形したが、内側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離はなかった。
(ルツボサンプルX16)
内面塗布膜中のBa濃度勾配が30%となる箇所があった点以外はルツボサンプルX12と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX16を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは80%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在が確認された。また内側結晶層の厚み勾配は0.2となる箇所があった。
さらに石英ガラスルツボのサンプルX16では、ガラス粘度が適正範囲内でガラス分離がないためルツボの変形もなく、クラックや結晶層の剥離も見られなかった。ただし、内側結晶層の厚さが面内不均一で若干の皺が発生していた。
(ルツボサンプルX17)
ルツボサンプルX12と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX17を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは83%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約50μmのBa濃縮層の存在が確認された。
このように、石英ガラスルツボのサンプルX17ではBa濃縮層が少し厚いので内側結晶層の表面に若干の皺が発生したが、単結晶歩留りへの影響はなかった。またガラス粘度は適正範囲内でガラス分離がないためルツボの変形もなく、クラックや結晶層の剥離も見られなかった。
(ルツボサンプルX18)
ルツボサンプルX12と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX18を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは72%となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がドーム状+柱状配向となり、内面側の結晶ガラス界面に厚さ約80μmのBa濃縮層の存在が確認された。
このように、石英ガラスルツボのサンプルX18ではBa濃縮層が厚すぎるので内側結晶層の表面に皺及びクラックが発生し、ルツボサンプルX17のときよりも単結晶歩留りが低下した。ただしガラス粘度は適正範囲内でガラス分離がないためルツボの変形もなく、結晶層の剥離も見られなかった。
(ルツボサンプルX19)
結晶化促進剤含有塗布膜をルツボ本体10の内面10aには形成せず、外面10bにのみ形成し、さらにルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が2.0である点以外はルツボサンプルX1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX19を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは88%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がドーム状配向となり、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約0.6μmのBa濃縮層の存在が確認された。その他の評価結果もサンプルX1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX19では、結晶配向が適正範囲内でルツボの変形もなく、ガラス粘度も適正範囲内でガラス分離がなく、外側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX20)
ルツボサンプルX19と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX20を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは93%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がドーム状配向となり、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約18μmのBa濃縮層の存在が確認された。その他の評価結果もサンプルX19と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルX20では、結晶配向が適正範囲内でルツボの変形もなく、ガラス粘度も適正範囲内でガラス分離がなく、外側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離もなく、良好な結果となった。
(ルツボサンプルX21)
ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が0.3である点以外はルツボサンプルX19と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX21を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは80%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がドーム状配向となり、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在が確認された。
さらに石英ガラスルツボのサンプルX21では、内側ガラス粘度が低いため内側ガラスが下降分離してルツボが若干変形したが、外側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離はなかった。
(ルツボサンプルX22)
外面塗布膜中のBa濃度勾配が30%となる箇所があった点以外はルツボサンプルX19と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX22を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは79%となり、概ね良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がドーム状配向となり、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約6μmのBa濃縮層の存在が確認された。また外側結晶層の厚み勾配は0.2となる個所があった。
さらに石英ガラスルツボのサンプルX22では、ガラス粘度が適正範囲内でガラス分離がないためルツボの変形もなく、クラックや結晶層の剥離も見られなかった。ただし、外側結晶層の厚さが面内不均一で若干の皺が発生していた。
(ルツボサンプルX23)
ルツボ本体の外面に塗布する塗布液中のBa濃度を4.0×1017atoms/cm2とした点以外はルツボサンプルX19と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX23を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは88%となり、良好な結果となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がドーム状+柱状配向となり、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約50μmのBa濃縮層の存在が確認された。
このように、石英ガラスルツボのサンプルX23ではBa濃縮層が少し厚いので外側結晶層の表面に若干の皺が発生したが、単結晶歩留りへの影響はなかった。またガラス粘度は適正範囲内でガラス分離がないためルツボの変形もなく、クラックや結晶層の剥離も見られなかった。
(ルツボサンプルX24)
ルツボ本体の外面に塗布する塗布液中のBa濃度を8.0×1017atoms/cm2とした点以外はルツボサンプルX19と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルX24を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは72%となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がドーム状+柱状配向となり、外面側の結晶ガラス界面に厚さ約80μmのBa濃縮層の存在が確認された。
このように、石英ガラスルツボのサンプルX24ではBa濃縮層が厚すぎるので外側結晶層の表面に皺及びクラックが発生し、ルツボサンプルX23のときよりも単結晶歩留りが低下した。ガラス粘度は適正範囲内でガラス分離がなく、結晶層の剥離もなかったが、ルツボが若干変形していた。
(ルツボサンプルY1)
石英ガラスルツボのサンプルY1では、内面に塗布する塗布液中のBa濃度を3×1015atoms/cm2とし、また外面に塗布する塗布液中のBa濃度を1×1014atoms/cm2とした。塗布膜のBa濃度比(内面/外面)は30であった。また、内面塗布膜及び外面塗布膜中のBa濃度勾配はともに30%となる箇所があった。未コートの石英ガラスルツボ(ルツボ本体)のガラス粘度比(内側/外側)は30のものを用いた。
このような石英ガラスルツボのサンプルY1を用いて300mmシリコン単結晶インゴットの引き上げを行ったところ、単結晶歩留まりは53%となった。また使用後のルツボの外観を目視で観察したところ、ルツボは明らかに変形し、表面には皺やクラックが発生しており、結晶層の剥離も発生していた。
次に使用後のルツボサンプルY1の切断面をSEMで観察したところ、内側結晶層及び外側結晶層はともにランダム配向であった。また結晶層厚比(内面/外面)は6.5となり、内側結晶層及び外側結晶層の厚み勾配はともに0.2となる箇所があった。
さらに結晶ガラス界面をTOF-SIMSで分析したところ、Ba濃縮層の厚さは検出限界以下(≦0.1μm)となり、Ba濃縮層の存在を確認できなかった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルY1では結晶層がランダム配向となり、Ba濃縮層も判別が困難であった。また内面側のBa塗布濃度が高すぎ、内面ガラス粘度が高いので結晶化速度が遅く、内側結晶層が厚すぎるので、内外の応力バランスが悪く、結晶層の厚さが面内不均一で皺が発生し、結晶層の剥離も発生した。
(ルツボサンプルY2)
内面に塗布する塗布液中のBa濃度を1×1014atoms/cm2とし、また外面に塗布する塗布液中のBa濃度を1×1015atoms/cm2とし、結晶層の厚み比(内側/外側)が0.1であり、塗布膜中のBa濃度比(内側/外側)が0.1であり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が0.1である点以外はルツボサンプルY1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルY2を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは53%となった。その他の評価結果もサンプルY1と同様となった。
以上のように、石英ガラスルツボのサンプルY2では結晶層がランダム配向となり、Ba濃縮層も判別が困難であった。また外面側のBa塗布濃度が高すぎ、外面ガラス粘度が高いので結晶化速度が遅く、外側結晶層が厚すぎるので、内外の応力バランスが悪く、結晶層の厚さが面内不均一で皺が発生、結晶層の剥離も発生した。
(ルツボサンプルY3)
結晶化促進剤含有塗布膜をルツボ本体10の外面10bには形成せず、内面10aにのみ形成し、内面に塗布する塗布液中のBa濃度を1×1014atoms/cm2とし、内面塗布膜中のBa濃度勾配が40~150%の範囲内であり、さらにルツボ本体のガラス粘度比(外側/内側)が3.0である点以外はルツボサンプルY1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルY3を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは59%となった。
また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がランダム配向となり、内面側の結晶ガラス界面にBa濃縮層の存在を確認できなかった(<0.1μm)。また内側結晶層の厚み勾配は0.5~1.5の範囲内となった。内側結晶層が薄いことでルツボが変形したが、ガラス粘度は適正範囲内でガラス分離がなく、内側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離はなかった。
(ルツボサンプルY4)
内面塗布膜中のBa濃度勾配が30%となる箇所があり、ルツボ本体のガラス粘度比(外側/内側)が12である点以外はルツボサンプルY3と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルY4を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは48%となった。また、使用後のルツボを評価したところ、内側結晶層がランダム配向となり、内面側の結晶ガラス界面にBa濃縮層の存在を確認できなかった(<0.1μm)。また外側ガラス粘度が高く内面と外面のガラス分離のためルツボが変形していた。内側結晶層の厚さは面内不均一で皺及びクラックが発生し、さらに結晶層の剥離も見られた。
(ルツボサンプルY5)
結晶化促進剤含有塗布膜をルツボ本体10の内面10aには形成せず、外面10bにのみ形成し、外面塗布膜中のBa濃度勾配が70~130%の範囲内であり、さらにルツボ本体のガラス粘度比(外側/内側)が3.0である点以外はルツボサンプルY1と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルY5を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは60%となった。
また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がランダム配向となり、外面側の結晶ガラス界面にBa濃縮層の存在を確認できなかった(<0.1μm)。また外側結晶層の厚み勾配は0.8~1.2の範囲内となった。外側結晶層が薄いことでルツボが変形したが、ガラス粘度は適正範囲内でガラス分離がなく、外側結晶層の厚さは面内均一で皺や剥離はなかった。
(ルツボサンプルY6)
外面塗布膜中のBa濃度勾配が30%となる個所があり、ルツボ本体のガラス粘度比(内側/外側)が0.3である点以外はルツボサンプルY5と同一条件で製造した石英ガラスルツボのサンプルY6を用いて結晶引き上げを行ったところ、単結晶歩留りは49%となった。また、使用後のルツボを評価したところ、外側結晶層がランダム配向となり、外面側の結晶ガラス界面にBa濃縮層の存在を確認できなかった(<0.1μm)。また外側結晶層の厚み勾配は0.2となる箇所があった。また内側ガラス粘度が低く内側ガラス下降分離のためルツボが変形していた。外側結晶層の厚さは面内不均一で皺及びクラックが発生し、さらに結晶層の剥離も見られた。