[トナーの構成]
トナーは、一成分現像剤であってもよいし、二成分現像剤であってもよい。一成分現像剤のトナーは、トナー粒子から構成される。また、二成分現像剤のトナーは、トナー粒子およびキャリア粒子から構成される。トナー粒子は、トナー母体粒子と、トナー母体粒子の表面に付着した外添剤と、を有する。
キャリア粒子の例には、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子が含まれる。キャリア粒子の例には、磁性体からなる芯材粒子と、その表面を被覆する被覆材の層とを有する被覆型キャリア粒子と、樹脂中に磁性体の微粉末が分散されてなる樹脂分散型のキャリア粒子とが含まれる。キャリア粒子は、後述の感光体へのキャリア粒子の付着を抑制する観点から、被覆型キャリア粒子が好ましい。
芯材粒子は、例えば、磁場によってその方向に強く磁化する磁性体である。磁性体は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。磁性体の例には、鉄、ニッケルおよびコバルトなどの強磁性を示す金属、これらの金属を含む合金もしくは化合物および熱処理することにより強磁性を示す合金が含まれる。
強磁性を示す金属またはそれを含む化合物の例には、鉄と、下記式(a)で表わされるフェライトと、下記式(b)で表わされるマグネタイトとが含まれる。式(a)および式(b)中のMは、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Mg、Zn、CdおよびLiの群からなる群から選ばれる1以上の1価または2価の金属を表す。
式(a):MO・Fe2O3
式(b):MFe2O4
強磁性を示す合金の例には、マンガン-銅-アルミニウム、マンガン-銅-錫などのホイスラー合金と、二酸化クロムとが含まれる。
芯材粒子は、各種フェライトが好ましい。被覆型キャリア粒子の比重は、芯材粒子を構成する金属の比重よりも小さい。よって、各種フェライトは、現像器内における撹拌の衝撃力をより小さくできる。
被覆材は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。被覆材は、キャリア粒子における芯材粒子の被覆に利用される公知の樹脂を使用できる。被覆材は、キャリア粒子の水分吸着性を低減させる観点と、被覆層における芯材粒子との密着性を高める観点とから、シクロアルキル基を有する樹脂が好ましい。シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基およびシクロデシル基が含まれる。シクロアルキル基は、シクロヘキシル基またはシクロペンチル基が好ましく、被覆層とフェライト粒子との密着性の観点から、シクロへキシル基がさらに好ましい。
シクロアルキル基を有する樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10,000~800,000が好ましく、100,000~750,000がより好ましい。樹脂におけるシクロアルキル基の含有量は、例えば10~90質量%である。樹脂中のシクロアルキル基の含有量は、例えば、P-GC/MSや1H-NMRなどの公知の機器分析法により求めることができる。
キャリア粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で20~100μmが好ましく、25~80μmがより好ましい。キャリア粒子の体積基準のメジアン径は、例えば、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(HELOS;SYMPATEC社)で測定できる。
トナー粒子とキャリア粒子との混合比(質量比)は、特に限定されないが、帯電性、保存性の観点から、トナー粒子:キャリア粒子=1:100~30:100が好ましく、3:100~20:100がより好ましい。
(結着樹脂)
結着樹脂は、非晶性樹脂および結晶性樹脂を含む。
非晶性樹脂は、結晶性を実質的に有しておらず、例えばその樹脂中に非晶部を含む。非晶性樹脂の例には、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、非晶性のポリエステル樹脂および一部が変性された変性ポリエステル樹脂が含まれる。非晶性樹脂は、例えば公知の方法によって合成できる。非晶性樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。非晶性樹脂は、ビニル系樹脂を含有することが好ましい。
ビニル系樹脂は、ビニル基を有する化合物またはその誘導体を含むモノマーの重合によって生成する樹脂である。ビニル系樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。ビニル系樹脂の例には、スチレン-(メタ)アクリル系樹脂が含まれる。
スチレン-(メタ)アクリル系樹脂は、ラジカル重合性の不飽和結合を有する化合物のラジカル重合体の分子構造を有する。スチレン-(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、ラジカル重合性の不飽和結合を有する化合物のラジカル重合によって合成できる。ラジカル重合性の不飽和結合を有する化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。ラジカル重合性の不飽和結合を有する化合物の例には、スチレンおよびその誘導体と、(メタ)アクリル酸およびその誘導体とが含まれる。
スチレンおよびその誘導体の例には、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレンおよび3,4-ジクロロスチレンが含まれる。
(メタ)アクリル酸およびその誘導体の例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、β-ヒドロキシアクリル酸エチル、γ-アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびメタクリル酸ジエチルアミノエチルが含まれる。
非晶性樹脂中におけるビニル系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。詳細は後述するが、本実施の形態では非晶性樹脂と結晶性樹脂の相溶性が低い場合に効果が大きい。特に、ビニル系樹脂を非晶性樹脂の主成分として含有し、その樹脂中に結晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂)を分散させる場合に効果が大きい。また、水系溶媒中で結着樹脂を凝集させて粒子を形成する工程において、非晶性樹脂中の結晶性樹脂の分散状態が不十分になることを防止できる。
結晶性樹脂は、結晶性を有する樹脂である。ここで、「結晶性」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することを意味する。「明確な吸熱ピーク」とは、具体的には、DSCにおいて、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。なお、吸熱ピークの半値幅が小さいほど結晶化度が高い。
結晶性樹脂は、低温定着性を良好にできる観点から、結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点は、トナーを十分に軟化させて十分な低温定着性を確保する観点から、50~85℃が好ましく、さらに種々の特性をバランスよく向上させる観点から、60~80℃がより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成(例えばモノマーの種類)によって制御できる。結晶性ポリエステル樹脂は、1種類で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの脱水縮合反応による公知の合成方法によって製造できる。
多価カルボン酸の例には、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;それらの酸無水物;およびそれらの炭素数が1~3のアルキルエステル;が含まれる。多価カルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;および、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上のアルコール;が含まれる。多価アルコールは、脂肪族ジオールが好ましい。
結晶性樹脂は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂がより好ましい。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂ユニットおよび非晶性樹脂ユニットが化学的に結合した構造を有する。
「結晶性ポリエステル樹脂ユニット」とは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を示す。「非晶性樹脂ユニット」とは、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における、結晶性を有さない樹脂(非晶性樹脂)に由来する部分を示す。
結晶性ポリエステル樹脂は、前述の結晶性ポリエステル樹脂を使用できる。また、非晶性樹脂は、前述の非晶性樹脂を使用できる。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂において、結晶性ポリエステル樹脂ユニットおよび非晶性樹脂ユニットは、結晶性ポリエステル樹脂ユニット同士、非晶性樹脂ユニット同士、あるいはこれらの樹脂同士が化学的に結合している範囲において、いずれも、連続して配置されていても、ランダムに配置されていてもよい。また、両ユニットは、鎖状に連結されていてもよいし、一方の鎖に他方がグラフト結合していてもよい。
なお、化学的な結合は、例えばエステル結合であり、あるいは不飽和基の付加反応による共有結合である。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、化学的な結合によって結晶性ポリエステル樹脂ユニットおよび非晶性樹脂ユニットを結合させる公知の方法によって入手できる。
さらに、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂には、スルホン酸基、カルボキシル基、ウレタン基などの置換基をさらに導入できる。置換基の導入箇所は、結晶性ポリエステル樹脂ユニットでもよいし、非晶性樹脂ユニットでもよい。
得られた樹脂における主鎖および側鎖の構造および量は、例えば、結着樹脂またはその加水分解物を核磁気共鳴(NMR)やエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)などの公知の機器分析法を利用して確認または推定できる。
また、上記した樹脂ユニットの合成では、得られる樹脂の分子量を調整するための連鎖移動剤が当該樹脂ユニットのモノマーなどの原料にさらに含まれていてもよい。連鎖移動剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。連鎖移動剤の例には、2-クロロエタノール、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン、およびスチレンダイマーが含まれる。
ここで、「グラフト結合」とは、幹となるポリマーと、枝となる異なる種類のポリマー(またはモノマー)との化学的な結合を意味する。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、トナーの所期の特性を総合的に高める観点から、非晶性樹脂ユニットに結晶性ポリエステル樹脂ユニットがグラフト結合した構造を有することが好ましい。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における結晶性ポリエステル樹脂ユニットおよび非晶性樹脂ユニットの含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができる。例えば、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における非晶性樹脂ユニットの含有量は、低すぎるとトナー母体粒子中へのハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の分散が不十分となることがあり、多すぎると低温安定性が不十分となることがある。このような観点から、当該含有量は、5~30質量%が好ましく、高温保存性および帯電均一性を高める観点から、5~20質量%がより好ましい。
同様の観点から、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂における結晶性ポリエステル樹脂ユニットの含有量は、65~95質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。また、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、本実施形態の効果が得られる範囲において、両ユニット以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、他の樹脂ユニットおよびトナー母体粒子へ添加されるべき各種添加剤が含まれる。
(着色剤)
着色剤は、着色剤粒子と、着色剤粒子の表面に配置された結晶核剤部と、を有する。着色剤の少なくとも一部は、結晶核剤部を有する結晶核剤で修飾されている。着色剤粒子は、カラートナーの着色剤粒子として使用される公知の無機または有機着色剤を使用できる。着色剤粒子の例には、カーボンブラック、磁性体、顔料および染料が含まれる。着色剤粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックが含まれる。上記磁性体の例には、鉄やニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、および、フェライトやマグネタイトなどの強磁性金属の化合物が含まれる。
顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、および、中心金属が亜鉛やチタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料が含まれる。
染料の例には、C.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93および同95が含まれる。
前述したように、着色剤の少なくとも一部は、結晶核剤部を有する結晶核剤で修飾されている。ここで、「結晶核剤で修飾されている」とは、着色剤粒子の表面に結晶核剤が吸着した状態と、着色剤粒子の表面に結晶核剤部が化学的に結合した状態と、着色剤粒子が結晶核剤部で被覆されている状態とを含む概念である。
結晶核剤部は、着色剤粒子の表面に配置されている。結晶核剤部は、結晶核剤の少なくとも一部であり、結晶化する作用を有する領域である。結晶核剤は、着色剤粒子の表面へ吸着でき、結晶性樹脂よりも結晶化しやすい物質である。すなわち、結晶核剤は、結晶化速度が速く、結晶性樹脂と相互作用できる構造を持つ化合物であれば特に制限されない。結晶核剤の例には、無機化合物、有機化合物が含まれる。結晶核剤は、顔料の表面を均一に修飾できる観点から、有機化合物が好ましい。
結晶核剤に用いられる無機化合物の例には、酸化錫、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、シリカなどの金属酸化物;炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの第2族元素化合物;タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、マイカ、セピオライト、ウォラストナイト、ゾノトライトなどの粘土鉱物;グラファイト、カーボンブラックなどの炭素が含まれる。
結晶核剤に用いられる無機化合物は、結晶性ポリエステル樹脂への核剤としての有効性が高いことから、炭酸カルシウム、酸化錫、酸化マグネシウム、シリカ、タルク、水酸化マグネシウム、セピオライト、ウォラストナイトおよびゾノトライトからなる群から選ばれる少なくとも1種類を主成分として含むことが好ましく、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、水酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類を主成分として含むことがより好ましい。ここで、「主成分として含む」とは、無機化合物100質量%中、80質量%以上含むことを意味する。なお、結晶核剤に用いられる無機化合物は、無機化合物100質量%中、90質量%以上が好ましく、100質量%がさらに好ましい。無機化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
無機化合物の形状は、特に限定されない。無機化合物の形状は、粒子状、板状、針状が含まれる。
結晶核剤に用いられる有機化合物は、特に限定されない。結晶核剤に用いられる有機化合物の例には、芳香族カルボン酸または芳香族ジカルボン酸、脂肪族カルボン酸または脂肪族ジカルボン酸、あるいはこれらの金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩など、好ましくは、ナトリウム塩、カルシウム塩);リン酸化合物;サリチル酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩など)、脂肪族アルコールが含まれる。
芳香族カルボン酸の例には、炭素数が7~30の芳香族カルボン酸が含まれる。芳香族カルボン酸の炭素数は、7~11がより好ましい。炭素数が7~30の芳香族カルボン酸の例には、安息香酸、トルイル酸が含まれる。
芳香族ジカルボン酸の例には、炭素数が8~30の芳香族ジカルボン酸が含まれる。芳香族ジカルボン酸の炭素数は、8~12がより好ましい。炭素数が8~30の芳香族ジカルボン酸に例には、テレフタル酸が含まれる。
脂肪族カルボン酸の例には、炭素数が12~30の直鎖または分岐鎖脂肪族カルボン酸が含まれる。炭素数が12~30の脂肪族カルボン酸の例には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、オクタコサン酸が含まれる。脂肪族カルボン酸は、結晶核剤の結晶化度が高くなり核剤としての機能が高まる観点から、炭素数が18~30の脂肪族カルボン酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸は、炭素数2~30の直鎖または分岐鎖脂肪族ジカルボン酸が好ましい。炭素数2~30の脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸が含まれる。
カルボン酸の金属塩の例には、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、トルイル酸ナトリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、シュウ酸カルシウムが含まれる。
リン酸化合物の例には、ナトリウムビス(4-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジtert-ブチルフェニル)ホスフェート、リチウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジtert-ブチルフェニル)ホスフェートなどのリン酸エステル金属塩が含まれる。
脂肪族アルコールの例には、炭素数12~30の直鎖または分岐鎖脂肪族アルコールが含まれる。炭素数12~30の脂肪族アルコールの例には、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、1-ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、1-テトラコサノールが含まれる。脂肪族アルコールの炭素数は、結晶核剤の結晶化度が高くなり核剤としての機能が高まる観点から、18~30が好ましい。
有機化合物は、着色剤粒子への吸着性が高いという観点と、結晶化速度が速いという観点とから、主鎖として、炭化水素系部位を含むことが好ましい。また、有機化合物は、結晶性樹脂と相互作用できるという観点から、トナー中の結晶性樹脂が持つ官能基と少なくとも1種類の同一の官能基を有することが好ましい。
結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を用いる場合、結晶核剤は、炭化水素系部位と、エステル基、水酸基、カルボン酸から選ばれる少なくとも1種類の官能基と、をもつことが好ましい。さらに、融点の制御を容易にする観点から、末端に水酸基およびカルボン酸の一方または両方を有することが好ましい。
よって、トナー中に結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を用いた場合、結晶化しやすい長鎖の炭化水素系部位と、結晶性ポリエステル樹脂に含有される少なくとも1種類の同一の官能基を含む化合物と、の両方を含む結晶核剤で着色剤を修飾することで、着色剤表面の結晶核剤部を起点として、結晶性樹脂が速やかに結晶化するため、低温定着性と耐熱保管性が両立でき、さらに、着色剤の分散状態と同じ均一な状態に結晶性樹脂を分散できるため、HH環境における耐久性も達成できるトナーを得ることができる。
結晶核剤に用いられる有機化合物は、上記の観点から、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸塩、リン酸化合物、脂肪族エステル化合物および脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類を主成分として含むことが好ましく、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸塩および脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類を主成分として含むことがより好ましい。ここで、「主成分として含む」とは、有機化合物100質量%中、80質量%以上含むことを意味する。結晶核剤は、有機化合物100質量%中、90質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
結晶核剤の融点は、結晶性樹脂の融点よりも高いことが好ましい。これは、結晶性樹脂が溶融状態から結晶化する際に、結晶核剤が先に結晶化することで、結晶性樹脂を適切に結晶化させるためである。
着色剤粒子100質量部に対する結晶核剤の含有量は、結晶化速度を上げるという観点から、1~30質量部が好ましい。上記の範囲内であれば、トナー中における着色剤の分散を均一に保ったまま、結晶性樹脂の結晶化速度を向上できる。着色剤粒子100質量部に対する結晶核剤の含有量が1質量部より少ない場合、結晶性樹脂の結晶化度を十分に高めることができず、耐熱保管性を十分に保持できないおそれがある。一方、着色剤粒子100質量部に対する結晶核剤の含有量が30質量部超の場合、結晶核剤同士の相互作用が大きくなり、トナー中での顔料分散を均一に保持することができず、結果的に、結晶性樹脂の分散性が悪化し、HH環境での飛散が悪くなるおそれがある。
また、本実施の形態のように、着色剤粒子の表面に結晶核剤部を配置することで、着色剤の表面積を利用して結晶核剤の均一性を向上できるため、トナー中に分散液として結晶核剤を添加する場合と比較して、少量の結晶核剤で効果を発現できる。また、本実施の形態のような融点の高い結晶核剤を有する着色剤を使用することで、定着性への影響をうけにくい。
着色剤は、着色剤粒子の表面に結晶核剤を吸着させる方法や、着色剤粒子および結晶核剤を化学反応させる方法や、結晶核剤部を有するモノマーおよび着色剤粒子を混合し、重合反応により着色剤粒子を結晶核剤部で被覆する方法などによって得られる。着色剤粒子の表面に結晶核剤を吸着させる方法は、例えば、着色剤粒子が濡れやすい溶媒に結晶核剤を溶解させ、得られた溶液に着色剤を分散させた後、溶媒を除去する方法がある。着色剤は、着色剤粒子が濡れやすいトルエンなどの溶媒に結晶核剤を溶解させ、得られた溶液に着色剤を分散させた後、溶媒を除去する方法によって得られたものが好ましい。これは、疎水性の高い結晶核剤が着色剤の芳香環など疎水性部分に吸着されていると考えられ、溶媒を除去する工程でその吸着がより強固になると考えられるためである。
着色剤粒子の表面に結晶核剤を吸着させると、着色剤粒子の表面に結晶核剤が配置される。着色剤粒子および結晶核剤を化学反応させると、着色剤粒子の表面に結晶核剤部が配置される。また、結晶核剤部を有するモノマーおよび着色剤粒子を混合して重合反応させると、着色剤粒子が結晶核剤部で被覆される。
結晶核剤が表面に配置された着色剤粒子は、トナー中に含まれる全着色剤粒子の70個数%以上が好ましく、80個数%以上がより好ましい。
結着樹脂における上記の各樹脂あるいは各ユニットの含有量は、例えば、NMRやメチル化反応熱分解-ガスクロマトグラフ/質量分析(P-GC/MS)などの公知の機器分析法を利用して特定し、または推定できる。また、結晶核剤の種類および含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフ質量分析計やガスクロマトグラフ質量分析計などの公知の機器分析法を利用して特定し、または推定できる。
(他の成分)
前述したように、トナーは、結着樹脂および結晶核剤を含有するトナー母体粒子を有する。トナー母体粒子は、いずれも、本実施形態の効果を奏する範囲において、結着樹脂以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、離型剤および帯電制御剤が含まれる。他の成分は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
離型剤(ワックス)の例には、炭化水素系ワックスおよびエステルワックスが含まれる。炭化水素系ワックスの例には、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびパラフィンワックスが含まれる。また、上記エステルワックスの例には、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニルおよびクエン酸ベヘニルが含まれる。
帯電制御剤の例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、および、サリチル酸金属塩あるいはその金属錯体が含まれる。
トナー母体粒子は、その粒径および円形度の適切な制御の観点から、粉砕トナーよりも、水系媒体中で調製される重合トナーであることが好ましく、乳化会合凝集法によるトナー母体粒子であることがより好ましい。
前述したように、トナー粒子は、トナー母体粒子と、その表面に存在する外添剤とを有する。トナー粒子が外添剤を含有することは、トナー粒子の流動性や帯電性などを制御する観点から好ましい。外添剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。外添剤の例には、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子および酸化ホウ素粒子が含まれる。
外添剤は、その表面が疎水化処理されていることが好ましい。疎水化処理には、公知の表面処理剤が用いられる。表面処理剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。表面処理剤の例には、シランカップリング剤、シリコーンオイル、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、そのエステル化物およびロジン酸が含まれる。
シランカップリング剤の例には、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシランおよびデシルトリメトキシシランが含まれる。上記シリコーンオイルの例には、環状化合物や、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンなどが含まれ、より具体的には、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、および、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンが含まれる。
また、シリコーンオイルの例には、側鎖または片末端や両末端、側鎖片末端、側鎖両末端などに変性基を導入した反応性の高い、少なくとも末端を変性したシリコーンオイルが含まれ、変性基の種類は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、アルコキシ、カルボキシル、カルビノール、高級脂肪酸変性、フェノール、エポキシ、メタクリルおよびアミノが含まれる。
外添剤の添加量は、トナー粒子全体に対して0.1~10.0質量%が好ましく、1.0~3.0質量%がより好ましい。
トナーは、一成分現像剤であればトナー粒子そのものにより構成され、二成分現像剤であればトナー粒子およびキャリア粒子により構成される。二成分現像剤におけるトナー粒子の含有量(トナー濃度)は、通常の二成分現像剤と同様でよく、例えば4.0~8.0質量%である。
[トナーの特性]
二成分現像剤は、トナー粒子とキャリア粒子とを適量混合することによって製造することができる。当該混合に用いられる混合装置の例には、ナウターミキサー、WコーンおよびV型混合機が含まれる。
トナー粒子の大きさおよび形状は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができる。例えば、トナー粒子の体積平均粒径は、3.0~8.0μmであり、トナー粒子の平均円形度は、0.920~1.000である。
トナー粒子の個数平均粒径は、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピューターシステムを接続した装置を用いて測定、算出できる。また、上記トナー粒子の個数平均粒径は、例えば、トナー粒子の製造における温度や攪拌の条件、トナー粒子の分級、トナー粒子の分級品の混合などによって調整できる。
トナー粒子の平均円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用い、所定数のトナー粒子における、粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長L1と、粒子投影像の周囲長L2とから、下記式(c)から算出した円形度Cの総和を、当該所定数で除することにより求められる。トナー粒子の平均円形度は、例えば、トナー粒子の製造における樹脂粒子の熟成の程度や、トナー粒子の熱処理、異なる円形度のトナー粒子の混合、などによって調整できる。
式(c):C=L1/L2
また、キャリア粒子の大きさおよび形状も、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決定できる。例えば、キャリア粒子の体積平均粒径は、15~100μmである。キャリア粒子の体積平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置「HELOS KA」(日本レーザー株式会社製)を用いて湿式で測定できる。また、キャリア粒子の体積平均粒径は、例えば、芯材粒子の製造条件による芯材粒子の粒径を制御する方法や、キャリア粒子の分級、キャリア粒子の分級品の混合などによって調整できる。
トナーは、例えば、結着樹脂の粒子と着色剤の粒子とを水系媒体中で凝集させて生成する粒子を成長させる工程を含む方法で製造できる。この場合、トナー製造前に結晶核剤部を持つ結晶核剤で修飾された着色剤をトナー製造時に使用する。
この製造方法は、前述した他の成分を適当な形態で水系媒体に分散、凝集、融着させる工程をさらに含んでいてもよい。例えば、製造方法は、いずれも、着色剤などの他の成分が樹脂成分中に分散されているさらなる樹脂微粒子を水系媒体中にさらに分散させる工程と、水系媒体中の樹脂微粒子に上記したさらなる樹脂微粒子を凝集、融着させる工程と、をさらに含んでいてもよい。
さらに、製造方法は、いずれも、トナーの形態に応じた適当な工程をさらに含んでいてもよい。例えば、製造方法は、いずれも、トナー母体粒子に上記外添剤を混合する工程と、キャリア粒子にトナー粒子を混合する工程との一方または両方をさらに含んでいてもよい。
[トナー粒子の断面の観察方法]
トナー粒子の断面は、透過型電子顕微鏡、電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡(SPM)などなどで観察できる。以下に、その一例をあげるが、同等の観察ができれば、これに限定されるわけではない。
(観察条件)
以下のような、観察条件により、トナー粒子の断面を観察できる。
装置:電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO4)によって染色したトナー粒子の切片(切片の厚さ:60~100nm)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍、明視野像
(トナー粒子の切片の作製方法)
まず、作製したトナーを3質量部、ポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2%水溶液35質量部に添加して分散させた後、超音波(株式会社日本精機製作所製、US-1200T)により25℃で5分間処理を行い、外添剤をトナー表面から取り除き、観察用のトナー粒子を得る。
次いで、得られたトナー粒子1~2mgを10mLサンプル瓶に広げるように入れ、下記に示す四酸化ルテニウム(RuO4)蒸気染色条件下で染色後、光硬化性樹脂「D-800」(日本電子社製)中に分散させ、光硬化させてブロックを形成する。次いで、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて、当該ブロックから厚さ60~100nmの超薄片状のサンプルを切り出す。
(四酸化ルテニウム染色条件)
染色は、真空電子染色装置VSC1R1(フィルジェン株式会社製)を用いて行う。装置手順に従い、染色装置本体に四酸化ルテニウムが入った昇華室を設置し、作製した上記超薄切片を染色チャンバー内に導入後、四酸化ルテニウムによる染色条件として、室温(24~25℃)、濃度3(300Pa)、時間10分の条件下で染色する。
(結晶構造の観察)
染色後、24時間以内に電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)を用いて透過電子検出器にて観察する。ここで、四酸化ルテニウムによって染色されたコントラストの差によって、トナー粒子中のドメインを判別することができる。観察されるドメインの内、より薄く染色されたドメイン部分を離型剤のドメイン、より濃く染色されたドメイン部分を結晶性樹脂のドメインとして観察する。
(結晶性樹脂ドメインの測定方法)
結晶性樹脂の平均ドメイン径は、例えば、上記のような方法で観察した画像を市販の画像処理ソフトを利用して算出することができる。具体的には、上記と同様にして作製したトナー粒子の断面を撮影した写真画像を、スキャナーにより取り込み、画像処理解析装置LUZEX AP(ニレコ社製)を用いて、結晶性樹脂のドメイン(RuO4で濃く染色されているドメイン)の円相当径を求めた。測定は、トナー粒子100個について行い、測定した100個のトナー粒子の算術平均値として算出する。ここで、測定の際に選ぶトナー粒子の断面は、トナー粒子の体積平均粒子径の±10%(例えば、6.3μm±0.63μm)となるトナー粒子の断面を選択する。
以上のように製造されたトナーを用いることによって、低温定着性および耐熱保管性を両立し、高画質の画像を提供できる理由は、以下のように考えられる。
まず、発明者らは、トナー母体粒子内部における結晶性樹脂の結晶化挙動を調べた。そして、発明者らは、同じ化学組成を持つ樹脂材料を用いて製造したトナー母体粒子において、着色剤粒子の有無により、結晶性樹脂における結晶化の挙動が大きく異なることを見出した。具体的には、トナー母体粒子内に着色剤が存在しない場合、結晶性樹脂の結晶化速度が著しく遅く、かつ結晶性が低いことを見出した。このことから、結晶性樹脂は、トナー母体粒子中の着色剤を起点として結晶化を進行させていると考えられた。なお、一般に使用されている着色剤分散液を使用した場合、結晶性樹脂の結晶化は十分ではなく、結晶性樹脂と非晶性樹脂が相溶した部分が存在し、トナーの耐熱保存性が低下することがある。
前述したように、本発明の特徴は、結晶核剤で修飾された着色剤を用いることである。一般に、結晶は、結晶核ができた後、結晶成長し、結晶部位が完成することが知られている。すなわち、結晶性樹脂を適切に結晶化させるためには、結晶核を速やかに、かつ均一に生成する必要がある。そのためには、この結晶核は結晶性樹脂が溶融状態から結晶化する際に、(1)既に結晶核(固体)として存在していること、(2)トナー粒子の中で均一に分散していること、が必要である。さらに、(1)を満たすための要件として、温度に関係なく結着樹脂に相溶しないことが必要だと考えられる。着色剤は、トナー中に均一に分散することができ、かつ結着樹脂に相溶することなく、粒子として存在する。よって、トナー中の結晶性樹脂は、着色剤を結晶核として結晶成長しているものと推測される。
さらに、上記(1)および(2)に加えて、着色剤として、結晶性樹脂よりも結晶化しやすく、結晶性樹脂と相互作用できる構造を有する化合物(以下、結晶核剤)で修飾した着色剤を用い、(3)着色剤が結晶性樹脂と相互作用できること、を満たすことで、本発明の効果を得ることができたものと推測された。
[画像形成装置の構成]
なお、上記トナーは、通常の電子写真方式の画像形成方法に適用することが可能である。例えば、図1に示される画像形成装置に収容され、記録媒体上でのトナー像の形成に供される。
図1に示す画像形成装置1は、画像読取部110、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50および定着装置60を有する。
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41Cおよび41Kを有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、転写装置に相当する。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。感光体ドラム413は、例えば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム413の表面は、光導電性を有する。感光体ドラム413は、感光体に相当する。帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば、光源としての半導体レーザーと、形成すべき画像に応じたレーザー光を感光体ドラム413に向けて照射する光偏向装置(ポリゴンモータ)とを含む。
現像装置412は、二成分現像方式の現像装置である。現像装置412は、例えば、二成分現像剤を収容する現像容器と、当該現像容器の開口部に回転自在に配置されている現像ローラー(磁性ローラー)と、二成分現像剤が連通可能に現像容器内を仕切る隔壁と、現像容器における開口部側の二成分現像剤を現像ローラーに向けて搬送するための搬送ローラーと、現像容器内の二成分現像剤を撹拌するための撹拌ローラーと、を有する。上記現像容器には、二成分現像剤としての上記トナーが収容されている。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、中間転写ベルト421を感光体ドラム413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト421は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
定着装置60は、例えば、定着ローラー62と、定着ローラー62の外周面を覆い、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解するための無端状の発熱ベルト63と、用紙Sを定着ローラー62および発熱ベルト63に向けて押圧する加圧ローラー64と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
画像形成装置1は、さらに、画像読取部110、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部110は、給紙装置111およびスキャナー112を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する三つの給紙トレイユニット51a~51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
画像形成装置1による画像の形成を説明する。
スキャナー112は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー112aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
感光体ドラム413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411では、ポリゴンモータのポリゴンミラーが高速で回転し、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光が、感光体ドラム413の軸方向に沿って展開し、当該軸方向に沿って感光体ドラム413の外周面に照射される。こうして感光体ドラム413の表面には、静電潜像が形成される。
現像装置412では、上記現像容器内の二成分現像剤の撹拌、搬送によってトナー粒子が帯電し、二成分現像剤は上記現像ローラーに搬送され、当該現像ローラーの表面で磁性ブラシを形成する。帯電したトナー粒子は、上記磁性ブラシから感光体ドラム413における静電潜像の部分に静電的に付着する。こうして、感光体ドラム413の表面の静電潜像が可視化され、感光体ドラム413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。
感光体ドラム413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト421に転写される。転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム413の表面に摺接するドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接することにより、感光体ドラム413と中間転写ベルト421とによって、一次転写ニップが感光体ドラムごとに形成される。当該一次転写ニップにおいて、各色のトナー画像が中間転写ベルト421に順次重なって転写される。
一方、二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト421および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、中間転写ベルト421と二次転写ベルト432とによって、二次転写ニップが形成される。当該二次転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sは、用紙搬送部50によって二次転写ニップへ搬送される。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
上記二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
定着装置60は、発熱ベルト63と加圧ローラー64とによって、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを当該定着ニップ部で加熱、加圧する。用紙S上のトナー画像を構成するトナー粒子は、加熱され、その内部で結晶核剤およびハイブリッド結晶性樹脂が速やかに融け、その結果、比較的少ない熱量で速やかにトナー粒子全体が融解し、トナー成分が用紙Sに付着する。付着している溶融トナー成分では、結晶核剤およびその周辺部が速やかに結晶化し、当該成分全体が速やかに固化する。こうして、比較的少ない熱量で速やかにトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。こうして、高画質の画像が形成される。
なお、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト421の表面に摺接するベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。
本実施の形態では、結晶核剤部が結晶性樹脂および非晶性樹脂を有するトナー母体粒子の表面に配置されているため結晶性樹脂はトナー母体粒子中で微細かつ均一な結晶を形成する。このため、低温定着性および耐熱保管性が向上するとともに、いずれの印刷環境下であっても、白抜けおよびかじりが生じない。その結果、トナーは、エンボス紙など表面に凹凸のある記録媒体に対しても低温定着性を十分に発揮する。このように、本実施の形態によれば、凹凸のある記録媒体に対しても十分な低温定着性および十分な高温保管性を有し、良好な印刷画像が得られる静電潜像現像用トナーを提供できる。
以下、本発明について、実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
[着色剤の製造]
(Cy-C1)
トルエン1000質量部に、1-ヘキサデカノール(結晶核剤)10質量部を80℃で溶解させた後、銅フタロシアニンを100質量部加え、超音波分散機を用いて顔料を均一に分散させた。その後、混合液を減圧下80℃で溶媒除去し、1-ヘキサデカノール(結晶核剤)で表面処理した銅フタロシアニン(Cy-C1)を得た。
(Cy-C2~Cy-C13)
Cy-C1の製造において、1-ヘキサデカノールをステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、1-テトラコサノール、1-ヘキサコノール、オクタコサノール、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ベヘン酸ベヘニル、リグノセリン酸メチル、アデカスタブNA-11にそれぞれ変更したこと以外は、Cy-C1と同様にしてCy-C2~Cy-C13を得た。
(Cy-C14)
Cy-C1の製造において、1-ヘキサデカノール10質量部をアラキジルアルコール1質量部に変更したこと以外は、Cy-C1と同様にしてCy-C14を得た。
(Cy-C15)
Cy-C1の製造において、1-ヘキサデカノール10質量部をアラキジルアルコール30質量部に変更したこと以外は、Cy-C1と同様にしてCy-C15を得た。
[着色剤分散液の調製]
(Dcy-C1)
ドデシル硫酸ナトリウム20質量部をイオン交換水400質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、Cy-C1 90質量部(固形分)を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の水系分散液Dcy-C1を調製した。Dcy-C1における着色剤微粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は、115nmであった。
(Dcy-C2~Dcy-C15)
Dcy-C1の調製において、Cy-C1をCy-C2~Cy-C15にそれぞれ変更したこと以外は、Dcy-C1と同様にしてDcy-C2~Dcy-C15をそれぞれ得た。
(Dcy-C16)
ドデシル硫酸ナトリウム20質量部をイオン交換水400質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン90質量部(固形分)を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、結晶核剤で修飾していない着色剤微粒子の水系分散液Dcy-C16を調製した。分散液Dcy-C16における着色剤微粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は、110nmであった。
着色剤分散液の組成と、着色剤の平均粒径を表1に示す。
[結晶性樹脂の水系分散液の製造]
(ハイブリッド結晶性樹脂CPES-1の製造)
下記の付加重合系樹脂(スチレンアクリル樹脂:StAc)ユニットの原料モノマー、両反応性モノマーおよびラジカル重合開始剤を含有する溶液Ma1を滴下ロートに入れた。
スチレン 35質量部
ブチルアクリレート 9質量部
アクリル酸 4質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイド 7質量部
また、下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs)ユニットの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させ、溶液Mb1を得た。
アジピン酸 91質量部
1,9-ノナンジオール 101質量部
次いで、攪拌下で溶液Mb1に溶液Ma1を90分間かけて滴下し、60分間熟成を行ったのち、減圧下(8kPa)にてMa1中の未反応成分を除去した。次いで、得られた反応液に、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、得られた反応液を200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより、スチレンアクリル樹脂を主鎖とし、側鎖に結晶性ポリエステル樹脂がグラフトした形状のハイブリッド結晶性樹脂CPES-1を得た。ハイブリッド結晶性樹脂CPES-1の重量平均分子量Mwは14,500であり、融点Tcは62℃であった。
(ハイブリッド結晶性樹脂CPES-1の水系分散液DCpes-1の調整)
200質量部のCPES-1を酢酸エチル200質量部に溶解し、この溶液を撹拌しながら、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液を上記溶液にゆっくりと滴下した。得られた溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、アンモニアでpHを8.5に調製した。その後、固形分濃度を30質量%となるように調整した。こうして、水系媒体中にハイブリッド結晶性樹脂CPES-1による微粒子が分散された水系分散液DCpes-1を調製した。水系分散液DCpes-1に含まれる粒子の体積基準のメジアン径は、200nmであった。
(結晶性樹脂CPES-2の調整)
窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに、アジピン酸137質量部と、1,9-ノナンジオール152質量部を投入し、170℃に加熱し溶解後、触媒としてTi(OBu)4 1.2質量部、を投入し、窒素ガス雰囲気下、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。次いで、得られた反応液を200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより結晶性樹脂CPES-2を得た。CPES-2の重量平均分子量Mwは、14,500であり、融点Tcは62℃であった。
(結晶性樹脂CPES-2の水系分散液DCpes-2の調整)
200質量部のCPES-2を酢酸エチル200質量部に溶解し、この溶液を撹拌しながら、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液を上記溶液にゆっくりと滴下した。得られた溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、アンモニアでpHを8.5に調製した。その後、固形分濃度を30質量%に調整した。こうして、水系媒体中にハイブリッド結晶性樹脂CPES-2による微粒子が分散された水系分散液DCpes-2を調製した。水系分散液DCpes-2に含まれる粒子の体積基準のメジアン径は、200nmであった。
[結晶核剤の水系分散液の調整]
(ステアリン酸(結晶核剤)の水系分散液Dsteの調製)
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。得られた溶液を撹拌しながら、当該溶液にステアリン酸420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、ステアリン酸の水系分散液Dsteを調製した。水系分散液Dsteにおける結晶核剤(ステアリン酸)の平均粒径(体積基準のメジアン径)は、110nmであった。
[離型剤の水系分散液の調整]
(離型剤の水系分散液Dwaxの調製)
離型剤としてのベヘン酸ベヘネート(融点73℃)60質量部と、イオン性界面活性剤「ネオゲン RK」(第一工業製薬株式会社製)5質量部と、イオン交換水240質量部とを混合した溶液を95℃に加熱し、ホモジナイザー「ウルトラタックスT50」(IKA社製)を用いて十分に分散した後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーを用いて分散処理することにより、離型剤粒子の固形分量が20質量部の水系分散液Dwaxを調製した。この水系分散液Dwax中の粒子の体積平均粒径は、240nmであった。
[非晶性樹脂の水系分散液の調整]
(非晶性樹脂X1の合成および水系分散液DX1の調整)
(第1段重合)
装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。次いで、得られた溶液に、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させたものを添加し、再度液温80℃とし、得られた溶液に、下記からなる単量体混合液を1時間かけて滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液x1を調製した。
スチレン 480質量部
n-ブチルアクリレート 250質量部
メタクリル酸 68質量部
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、当該溶液に、樹脂微粒子の分散液x1260質量部と、下記からなる単量体および離型剤を90℃にて溶解させた溶液とを添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック株式会社製、「CLEARMIX(クレアミックス)」は同社の登録商標)により、1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。上記離型剤は、ベヘン酸ベヘネート(融点73℃)である。
スチレン 284質量部
n-ブチルアクリレート 92質量部
メタクリル酸 13質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 1.5質量部
ベヘン酸ベヘネート 190質量部
次いで、上記分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、得られた分散液を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液x2を調製した。
(第3段重合)
さらに、樹脂微粒子の分散液x2にイオン交換水400質量部を添加し、よく混合したのち、得られた混合液に、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加し、得られた分散液に、82℃の温度条件下で、下記からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン 350質量部
n-ブチルアクリレート 215質量部
アクリル酸 30質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、得られた反応液を28℃まで冷却し、ビニル樹脂からなる非晶性樹脂X1およびその微粒子が水系媒体に分散した水系分散液DX1を得た。
水系分散液DX1に含まれる微粒子の体積基準のメジアン径は、220nmであった。また、非晶性樹脂X1のガラス転移温度Tg1は55℃であり、Mwは32,000であった。
(非晶性樹脂X2の合成および水系分散液DX2の調製)
下記の重縮合系樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)ユニットの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部
次いで、得られた溶液に、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.4質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、得られた反応液を200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて所望の軟化点に達するまで反応を行った。次いで、脱溶剤を行い、非晶性樹脂X2を得た。非晶性樹脂X2のガラス転移温度Tg1は61℃であり、Mwは19,000であった。
100質量部の非晶性樹脂X2を400質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解し、得られた溶液を、予め作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US-150T」(株式会社日本精機製作所製)でV-LEVEL 300μAで30分間超音波分散後した。次いで、40℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去した。こうして、固形分量が13.5質量%の非晶性樹脂X2の微粒子が水系媒体中に分散してなる水系分散液DX2を調製した。水系分散液DX2に含まれる粒子の体積基準のメジアン径は、190nmであった。
[トナーの製造]
(シアントナー1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、水系分散液DX1 180質量部(固形分換算)、水系分散液DCPES-1 20質量部(固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入した後、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
次いで、得られた分散液に、着色剤分散液Dcy-C1 33質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて上記分散液に添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、得られた分散液を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。
この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、当該会合粒子の体積基準のメジアン径が6.4μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を上記反応容器中の分散液に添加して粒子成長を停止させた。
さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、平均円形度の測定装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個とする)平均円形度が0.945になった時点で上記反応容器中の分散液を2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。
次いで、上記分散液を固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、シアントナー母体粒子1を得た。シアントナー母体粒子1の微細構造を前述したようにSTEMによって観察したところ、結晶性樹脂の分散は良好で、その平均分散径は、150nmであった。
次いで、100質量部のシアントナー母体粒子1に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(日本コークス工業株式会社製)により、回転翼周速35mm/sec、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去した。このような外添剤処理を施し、シアントナー1を製造した。また、シアントナー母体粒子1およびシアントナー1の体積平均粒径は、いずれも6.3μmであった。
(シアントナー2~13)
シアントナー1の製造において、Dcy-C1を、Dcy-C2~Dcy-C13にそれぞれ変更した以外は、シアントナー1と同様にして、シアントナー2~13をそれぞれ作製した。
(シアントナー14)
シアントナー1の製造において、Dcy-C1を、Dcy-C14に変更し、添加量を30.5質量部(固形分換算)に変更した以外は、シアントナー1と同様にして、シアントナー14を作製した。
(シアントナー15)
シアントナー1の製造において、Dcy-C1を、Dcy-C15に変更し、添加量を39質量部(固形分換算)に変更した以外は、シアントナー1と同様にして、シアントナー15を作製した。
(シアントナー16)
シアントナー3の製造において、DCpes-1をDCpes-2に変更し、添加量を20質量部から16質量部に変更した以外は、シアントナー3と同様にして、シアントナー16を作製した。
(シアントナー17)
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、水系分散液DX2 162質量部(固形分換算)、水系分散液DCpes-2 16質量部(固形分換算)、分散液Dwax 18質量部(固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入した後、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
次いで、得られた分散液に、水系分散液Dcy-C3 33質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて上記分散液に添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、得られた分散液を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。
この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、当該会合粒子の体積基準のメジアン径が6.4μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を上記反応容器中の分散液に添加して粒子成長を停止させた。
さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、平均円形度の測定装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個とする)平均円形度が0.945になった時点で上記反応容器中の分散液を2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。
次いで、上記分散液を固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、シアントナー母体粒子1を得た。シアントナー母体粒子17の微細構造を前述したようにSTEMによって観察したところ、結晶性樹脂の分散は良好で、その平均分散径は、150nmであった。
次いで、100質量部のシアントナー母体粒子17に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(日本コークス工業株式会社製)により、回転翼周速35mm/sec、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去した。このような外添剤処理を施し、シアントナー17を製造した。また、シアントナー母体粒子17およびシアントナー17の体積平均粒径は、いずれも6.3μmであった。
(シアントナー18)
シアントナー1の製造において、着色剤分散液Dcy-C1をDcy-C16(結晶核剤で処理していない着色剤)に変更し、添加量を33質量部から30質量部に変更した以外は、シアントナー1と同様にして、シアントナー18を作製した。シアントナー18の母体粒子における微細構造を前述したSTEMによって観察したところ、結晶性樹脂の分散は悪く、その平均分散径は、800nmであった。
(シアントナー19)
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を取り付けた反応容器に、水系分散液DX1 180質量部(固形分換算)、水系分散液DCpes-1 20質量部(固形分換算)、イオン交換水2000質量部を投入した後、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。
次いで、得られた分散液に、水系分散液Dcy-C16 30質量部(固形分換算)を投入し、次いで、分散液Dste10質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて上記分散液に添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、得られた分散液を60分間かけて80℃まで昇温し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。
この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、当該会合粒子の体積基準のメジアン径が6.4μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を上記反応容器中の分散液に添加して粒子成長を停止させた。
さらに、昇温を行い、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、平均円形度の測定装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個とする)平均円形度が0.945になった時点で上記反応容器中の分散液を2.5℃/minの冷却速度で30℃に冷却した。
次いで、上記分散液を固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、シアントナー母体粒子1Xを得た。シアントナー母体粒子1Xの微細構造を前述したようにSTEMによって観察したところ、CPESおよび結晶核剤が分散相(ドメイン)、非晶性樹脂が連続相(マトリックス)を構成する海島構造が確認されたものの、その平均分散径は、500nmであった。
次いで、100質量部のシアントナー母体粒子19に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(日本コークス工業株式会社製)により、回転翼周速35mm/sec、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去した。このような外添剤処理を施し、シアントナー19を製造した。また、シアントナー母体粒子19およびシアントナー19の体積平均粒径は、いずれも6.3μmであった。
[現像剤の製造]
(現像剤1~19の製造)
シアントナー1に対して、アクリル樹脂を被覆した体積平均粒径35μmのフェライトキャリアをシアントナー1の濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、二成分現像剤である現像剤1を製造した。また、現像剤1の製造において、シアントナー1をシアントナー2~19にそれぞれ変更した以外は、現像剤1と同様にして、それぞれ現像剤2~19を製造した。
製造した各シアントナーおよび各現像剤の組成を表2に示す。
[評価]
画像出力には、bizhub PRESS C1100(コニカミノルタ(株)製)の定着用ヒートローラーの表面温度を80~140℃の範囲で変更できるように改造した評価装置を用い、上記のように調整した各トナーと各現像剤とを、それぞれトナーカートリッジと現像機とに充填し、評価用の画像形成装置とした。
(低温定着性の評価)
常温常湿環境(温度20℃、湿度50%RH;NN環境)において、A4サイズのOKトップコート+(127.9g/m2)(王子製紙社製)を用いて評価を行った。トナー付着量11g/m2のベタ画像を定着させる定着実験を、定着下ローラーの温度を定着上ベルトよりも20℃低く設定し、定着上ベルトの表面温度を80℃から5℃刻みで増加させるように変更しながら140℃まで繰り返し行った。
次いで、上記実験において得られた印刷物を、折り機で上記ベタ画像に荷重をかけるように折り、これに0.35MPaの圧縮空気を吹き付け、折り目を下記の評価基準に示す5段階にランク付けし、ランク3以上となる定着実験のうち最も定着温度の低い定着実験における定着温度を、下限定着温度として評価した。上記下限定着温度が低ければ低い程、低温定着性に優れることを意味し、120℃以下であれば実用上問題なく、合格とした。
ランク5:全く折れ目なし
ランク4:一部折れ目に従った剥離あり
ランク3:折れ目に従った細かい線状の剥離あり
ランク2:折れ目に従った太い線状の剥離あり
ランク1:大きな剥離あり
(耐熱保管性の評価)
シアントナー1~19について、それぞれ0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めて、タップデンサーKYT-2000(株式会社セイシン企業製)で室温にて600回振盪した後、蓋を取った状態で55℃、35%RHの環境下に2時間放置した。
次いで、放置後の上記現像剤を48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、現像剤の凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存した現像剤量の比率(トナー凝集率At、質量%)を測定した。Atは下記式により算出した。
At(質量%)=(篩上の残存現像剤質量(g))/0.5(g)×100
求められたAtから、下記の基準により現像剤の耐熱保管性の評価を行った。◎、○および△であれば実用上問題ないとして合格とした。
◎:トナー凝集率が15質量%未満(現像剤の耐熱保管性が極めて良好)
○:トナー凝集率が15質量%以上20質量%未満(現像剤の耐熱保管性が良好)
△:トナー凝集率が20質量%以上25質量%未満(現像剤の耐熱保管性がやや悪い)
×:トナー凝集率が25質量%以上(現像剤の耐熱保管性が悪く、使用不可)
(画像品質の評価)
画質評価は、常温常湿環境(温度20℃、湿度50%RH;NN環境)と、高温高湿環境(温度30℃、湿度80%RH;HH環境)とのそれぞれで実施した。
(白抜けの評価)
画像支持体としてA4サイズの普通紙を用いて、1枚目に反射濃度0.50のハーフトーン画像と白紙画像(以下「初期画像」という)を印字し、次いで、印字率5%の画像を1枚間欠モードで30万枚印字し、その後、初期と同様にハーフトーン画像と白紙画像(以下「30万枚後画像」という。)を出力した。
上記で得られた「初期画像」および「30万枚後画像」のハーフトーン画像について、トナー凝集による白抜けについて目視評価を行った。ここで白抜けの発生箇所数は、評価画像の全面を観察し、紙面に対し10cm離れた位置から目視にて検知できる大きさのものを個数として数えた。白抜けの評価は、下記評価基準によって評価し、◎、○および△であれば、実用上問題ないとして合格とした。
◎:白抜けの発生なし
○:白抜けの発生箇所数の合計が1箇所
△:白抜けの発生箇所数が2箇所又は3箇所
×:白抜けの発生箇所数が4箇所以上
(かぶりの評価)
上記で得られた「30万枚後画像」の白紙画像の濃度を測定することで、トナーかぶりの評価を実施した。通紙していない紙でゼロ点をとり、「白紙画像」における20か所の濃度を測定し、その平均値を白紙濃度とする。濃度測定は反射濃度計「RD-918」(マクベス社製)を用いて行った。かぶりの評価は、下記評価基準によって評価し、◎、○および△(白紙濃度が0.01以下)であれば、実用上問題ないとして合格とした。
◎:白紙画像の濃度が0.002以下
○:白紙画像の濃度が0.005以下で0.002より大きい
△:白紙画像の濃度が0.01以下で0.005より大きい
×:白紙画像の濃度が0.02以下で0.01より大きい
××:白紙画像の濃度が0.02より大きい
各評価結果を表3に示す。
表3に示されるように、結晶核剤を含有していない比較例1では、耐熱保管性と、白抜けの評価(NN環境およびHH環境)と、かぶりの評価(NN環境およびHH環境)とが十分でなかった。これは、トナーが結晶核剤を含んでいないため、トナー中において、結晶性樹脂および非晶性樹脂が相溶したためと考えられる。また、結晶核剤を有しているが着色剤粒子の表面に配置されていない比較例2では、HH環境におけるかぶりの評価が十分でなかった。これは、トナー母体粒子中において結晶性樹脂のドメイン径が大きく不均一に分散されていたためと考えられる。
一方、着色剤粒子の表面に結晶核剤部が配置された実施例1~17では、耐熱保管性と、白抜けの評価(NN環境およびHH環境)と、かぶりの評価(NN環境およびHH環境)とのいずれもが十分であった。これは、着色剤表面の結晶核剤が起点となり、結晶性樹脂が速やかに結晶化したためと考えられる。
特に、結晶核剤の炭素数が18~30であって、かつ結晶核剤の融点が結晶性樹脂の融点よりも高い実施例3~10では、耐熱保管性と、白抜けの評価(NN環境およびHH環境)と、かぶりの評価(NN環境およびHH環境)と結果がさらに十分であった。これは、上記の構成を有するため、結晶核剤部分の結晶化速度が早く、かつ結晶性樹脂と相互作用できることで、トナー母体粒子内において結晶性樹脂が均一に分散し、かつ結晶性樹脂がさらに速やかに結晶化したためと考えられる。