本発明の一態様に係る蓄電素子の製造方法は、複数の正極板及び負極板を、加熱により粘着性を発現する接着層を両面に有するセパレータを介して交互に積層することと、前記複数の正極板、負極板及びセパレータの積層体を加熱空間で加熱することと、前記加熱空間で前記積層体を積層方向に加圧することとを備える。
当該蓄電素子の製造方法は、複数の正極板、負極板及びセパレータを積層してから、この積層体を加熱することによって正極板及び負極板の活物質層を乾燥すると共にセパレータの接着層の粘着性を発現させ、加熱状態の積層体を積層方向に加圧することでセパレータを正極板及び負極板に接着接合する。このため、当該蓄電素子の製造方法は、1回の加熱処理で正極板、負極板の乾燥及びセパレータとの接合を行うことができるので、エネルギー密度が大きい蓄電素子を効率よく製造することができる。
当該蓄電素子の製造方法において、前記加熱空間で加熱する際、加熱空間内を減圧してもよい。この方法によれば、加熱空間の減圧により正極板、負極板の活物質層の乾燥を促進することができるので、積層電極体の製造効率をより向上すると共に、熱による集電体等の酸化を抑制することができる。
当該蓄電素子の製造方法において、前記加熱空間で加熱する際、一定温度以上に前記積層体を加熱してから加熱空間内を減圧してもよい。この方法によれば、熱による集電体等の酸化をより確実に抑制することができる。
当該蓄電素子の製造方法は、前記加熱空間で加熱する前に加熱空間内の空気を不活性ガスで置換することをさらに備えてもよい。この方法によっても、熱による集電体等の酸化を抑制することができる。
当該蓄電素子の製造方法において、前記積層体の加圧を前記接着層が粘着性を喪失する温度に冷却されるまで行ってもよい。この方法によれば、加圧終了後に外力が作用してセパレータが正極板及び負極板正から剥離することを防止できる。
当該蓄電素子の製造方法において、前記積層体をケースに収容してから前記加熱空間で加熱してもよい。この方法によれば、ケースを介して積層体を加圧することができるので、加圧時に積層体を損傷させることを防止できる。
当該蓄電素子の製造方法において、前記ケースが弾性力により前記積層体を積層方向に加圧する加圧構造を有し、前記積層体を前記ケースによって加圧した状態で加熱してもよい。この方法によれば、ケースに加圧構造を設けることで、加熱空間内に加圧のための装置を配置する必要がなく、蓄電素子の製造がより簡単となる。
前記加圧構造が前記ケースの前記積層体に対向する壁を内側に凹ませた凹部であってもよい。この構成によれば、簡素な構成で効率よく積層体を加圧することができるため、比較的安価に蓄電素子を製造することができる。
なお、「不活性ガス」とは、加熱しても金属と反応しないガスを意味する。
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、図1に例示するように、積層電極体1と、この積層電極体1を収容するケース2とを備え、ケース2の中に積層電極体1と共に電解液が封入される蓄電素子を製造するため適用することができる。
積層電極体1は、図2に示すように、複数の正極板3及び負極板4を、セパレータ5を介して交互に積層して形成される。この積層電極体1が、セパレータ5が正極板3及び負極板4にそれぞれ接着されることにより、正極板3、負極板4及びセパレータ5が相対的に面方向に位置ずれしないようになっている。また、積層電極体1は、複数の正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体の外周を覆う絶縁性を有する樹脂フィルム6を有することが好ましい。
正極板3は、図3に示すように、導電性を有する箔状乃至シート状の正極集電体7と、この正極集電体7の表面に積層される正極活物質層8とを有する構成とすることができる。より具体的には、正極板3は、図4に示すように、正極集電体7の表面に正極活物質層8が積層される平面視矩形状の活物質領域と、この活物質領域から正極集電体7が活物質領域よりも幅の小さい帯状に延出する正極タブ9とを有する構成とすることができる。
負極板4は、図3に示すように、導電性を有する箔状乃至シート状の負極集電体10と、この負極集電体10の表面に積層される負極活物質層11とを有する構成とすることができる。より具体的には、負極板4は、図4に示すように、負極集電体10の表面に活物質層が積層される平面視矩形状の活物質領域と、この活物質領域から活物質領域よりも幅の小さい帯状に、正極タブ9と間隔を空けて正極タブ9と同じ方向に延出する負極タブ12とを有する構成とすることができる。
セパレータ5は、正極板3と負極板4との間に介在して正極板3と負極板4とが直接接触することを防止すると共に、その内部に電解液が含浸して、正極板3と負極板4との間でイオンを介した電荷の受け渡しを可能にする。
セパレータ5は、図3に示すように、シート状の多孔質樹脂層13と、この多孔質樹脂層13の少なくとも正極板3に対向する面に積層された耐酸化層14と、この多孔質樹脂層13及び耐酸化層14の積層体の両面にそれぞれ形成され、加熱により粘着性を発現する一対の接着層15とを有する。
ケース2は、図1に示すように、有底四角筒状のケース本体16と、このケース本体16の開口を封止する板状の蓋体17とを有する構成とすることができる。
前記蓋体17には、正極板3の正極タブ9に電気的に接続される正極外部端子18と、負極板4の負極タブ12に電気的に接続される負極外部端子19とが配設されてもよい。具体的には、正極外部端子18及び負極外部端子19は、蓋体17を貫通するよう設けられる。
ケース2は、弾性力により積層電極体1を積層方向に加圧する加圧構造20を有することが好ましい。
蓄電素子は、ケース2の内側で正極外部端子18及び負極外部端子19に取り付けられ、積層電極体1の正極タブ9及び負極タブ12が接続される正極接続部材21及び負極接続部材22をさらに有してもよい。
当該蓄電素子の製造方法は、図5に示すように、複数の正極板3及び負極板4を、セパレータ5を介して交互に積層すること(ステップS1:積層工程)と、複数の正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体を加熱空間に配置して加熱空間内の空気を不活性ガスで置換する工程(ステップS2:置換工程)と、複数の正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体を加熱空間で加熱すること(ステップS3:加熱工程)と、加熱空間で積層体を積層方向に加圧すること(ステップS4:加圧工程)とを備える。さらに、当該蓄電素子の製造方法は、正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体を収容したケース2内に電解液を充填すること(ステップS5:充填工程)と、ケース2を封止すること(ステップS6:封止工程)とを備える。
ステップS1の積層工程では、十分に乾燥されておらず、水分を含んだ正極板3及び負極板4を使用することができる。
積層工程では、正極板3、負極板4及びセパレータ5を1枚ずつ積層してもよいが、図6に示すようにセパレータ5、正極板3、セパレータ5及び負極板4がこの順に積層されて貼り合されたサブユニットPを形成する工程(サブユニット形成工程)と、複数のサブユニットPを積層してn枚(nは自然数)の正極板3及び負極板4と2n枚のセパレータ5とから形成される複数の電極ユニットQを形成する工程(電極ユニット形成工程)と、複数の電極ユニットQとさらなる1枚の負極板4とを積層する工程(電極ユニット積層工程)とを有してもよい。
サブユニットPは、2枚のセパレータ5と、この2枚のセパレータ5の間に配置されて接着固定された1枚の正極板3と、2枚のセパレータ5のうちの一方の正極板3と反対側の面に接着固定された1枚の負極板4とを備える。サブユニットPにおいて、2枚のセパレータ5は、その端部が正極板3及び負極板4の端部から突出している。
サブユニット形成工程は、2枚のセパレータ5の間に1枚の正極板3を配置すると共に2枚のセパレータ5のうちの一方のセパレータ5上に1枚の負極板4を配置する工程(配置工程)と、1枚の負極板4、2枚のセパレータ5の一方、1枚の正極板3及び2枚のセパレータ5の他方をこの順番に積層した状態で加熱及び加圧して熱接着する工程(熱接着工程)とを有することができる。
サブユニット形成工程は、最初に切断工程を行って予めサブユニットPにおける寸法に切断されたセパレータ5を用いて行ってもよいが、セパレータ5が一方向に切れ目なく繋がった長尺シート状のセパレータ母材を用いて連続的に配置工程及び熱接着工程を行った後に切断工程を行ってもよい。
具体的に説明すると、配置工程では、2枚のセパレータ母材を連続的に供給して長手方向に搬送し、この搬送状態の2つのセパレータ母材の間に最終製品における寸法に切断された正極板3を等間隔(サブユニットの幅と等しいピッチ)で順次挿入すると共に、一方のセパレータ母材の外側に正極板3と対向するよう最終製品における寸法に切断された負極板4を順次配置する。
熱接着工程では、この長尺の積層体を連続搬送しつつ加熱及び加圧する。加熱と加圧とは、同時に行ってもよく、加熱後にセパレータ5の接着層15の温度が接着力を喪失する温度まで低下する前に積層体を加圧してもよい。
また、セパレータ母材、正極板3及び負極板4の積層体の連続搬送は、例えば離型性を有する搬送ベルト等を用いて行うことができる。
熱接着工程における積層体の加熱は、例えば前記積層体を挟み込むよう配置されるプレートヒータを用いて行うことができる。また、熱接着工程における加圧は、例えば前記積層体を挟み込む一対の加圧ローラを用いて行うことができる。代替的に、前記積層体を挟み込んで発熱する一対の加熱ローラを用いて加熱と加圧とを同時に行ってもよい。
熱接着工程における加熱温度としては、セパレータ5の接着層15が接着力を発現する温度以上、かつ樹脂層4のシャットダウン温度未満とされ、例えば80℃以上120℃以下とすることができる。
熱接着工程における加圧圧力としては、加圧ローラの単位長さ当たりの荷重で、例えば0.1N/cm以上10.0N/cm以下とすることができる。
切断工程では、カッタによりセパレータ母材を切断して所定の長さのセパレータ5とすることによって、サブユニットPを順次分離する。
電極ユニット形成工程は、サブユニットPを複数積層する工程(サブユニット積層工程)と、積層した複数のサブユニットPそれぞれの正極板3及び負極板4の端部から突出するセパレータ5同士を溶着する工程(溶着工程)とを有することができる。また、電極ユニット形成工程は、溶着した複数のセパレータ5の外側部分をトリミングする工程(トリミング工程)と、複数のセパレータ5の溶着部分を正極板3及び負極板4の側縁に沿って折り曲げる工程(折り曲げ工程)とをさらに有してもよい。
サブユニット積層工程では、複数のサブユニットPを同じ向きに配向して積層する。これにより、複数の正極板3と複数の負極板4とがセパレータ5を介して交互に配置され、最も外側の正極板3のさらに外側にセパレータ5が配置される積層体が形成される。
複数のサブユニットPの積層は、例えばセパレータ5の四方の外縁に当接するガイド等を用いて、前記サブユニット形成工程で形成されたサブユニットPを順番にガイド内に投入して重力によりサブユニットPを積み重ねることで、比較的迅速かつ正確に行うことができる。
積層するサブユニットPの数としては、例えば5以上15以下とすることができる。サブユニットPの積層数をこの範囲とすることによって、両外側のセパレータ5間の距離が大きくなり過ぎない、これにより、各サブユニットPの正極板3及び負極板4の端部から突出するセパレータ5の長さを小さくしても、セパレータ5の端部同士を束ねて溶着し、複数のサブユニットPを一体化することができるので、セパレータ5の使用量を低減することができる。
溶着工程では、全てのセパレータ5の端部を互いに密着させるよう束ねて溶着する。具体的には、セパレータ5の耐酸化層14を破壊して樹脂層4同士を溶着させる。このため、セパレータ5の溶着は、超音波振動圧子(ホーン)を用いて行うことが好ましい。また、超音波振動圧子として、当接面に例えば多数の微細な突起が形成されたものを使用することで、耐酸化層14を破壊し、耐酸化層14の破片を掻き分けるようにして樹脂層4同士を効率よく溶着することができる。
トリミング工程では、セパレータ5の溶着領域の外側に突出する部分を切り落とす。セパレータ5は、溶着領域を形成できる最小限の大きさに設計されるが、溶着工程で複数のセパレータ5を互いに密着するよう束ねたことによって、正極板3及び負極板4の厚さによりセパレータ5の端部が階段状に位置ずれするため、全てのセパレータ5が積層される部分に形成される溶着領域の外側にセパレータ5が突出することになる。従って、このトリミング工程では、溶着領域の外側に階段状に突出する部分を主に切除する。これにより、積層電極体1を形成したときに溶着領域の外側のセパレータ5が占有するデッドスペースを小さくして、積層電極体1のエネルギー密度を大きくすることができる。
折り曲げ工程では、セパレータ5の正極板3及び負極板4から突出する部分を、正極板3及び負極板4の側縁に沿って折り曲げる。これにより、積層電極体1を形成したときにセパレータ5の正極板3及び負極板4から突出する部分が占有するデッドスペースを小さくして、積層電極体1のエネルギー密度を大きくすることができる。
電極ユニット積層工程では、電極ユニットQを複数積層すると共に、最も外層に配置されるセパレータ5上に1枚の負極板4を配置する。また、電極ユニット積層工程では、後工程において電極ユニットQが位置ずれすることを防止するために、複数の電極ユニット及び1枚の負極板4の積層体の外周を樹脂フィルム6で覆う工程をさらに有することが好ましい。
電極ユニット積層工程では、複数の電極ユニットQを同じ向きに配向して積層する。つまり、隣接する2つの電極ユニットQ間では、一方の電極ユニットQの負極板4に他方の電極ユニットQのセパレータ5が当接する。これにより、複数の正極板3及び負極板4がセパレータ5を介して積層された積層体を形成する。
負極板配置工程では、最も外層に配置されるセパレータ5の外側にさらなる負極板4を積層することで、両外側に負極板4が配置され、複数の正極板3と負極板4とがそれぞれセパレータ5を介して交互に積層された積層体を形成する。
なお、「セパレータ上に1枚の負極板を配置する」とは、複数の電極ユニットQとさらなる負極板4との上下関係を限定することは意図せず、最も外側に積層される2つの電極ユニットQのうち隣接する電極ユニットQのセパレータ5に負極板4を当接させている方の電極ユニットQの負極板4と反対側のセパレータ5のさらに外側にさらなる負極板4を積層することを意味する。従って、1枚の負極板4を最初に配置し、その上に複数の電極ユニットを積層してもよい。
ステップS2の置換工程における前記加熱空間、つまり加熱手段としては、例えば加熱炉、ヒーター付き断熱室等を挙げることができ、中でも気密性を有し、内部をガス置換できる、減圧可能なガス循環加熱炉を用いることが好ましい。
この置換工程では、正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体を加熱空間(加熱することができる空間)内に配置して、加熱空間内の空気を不活性ガスで置換してもよい。このように、正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体の雰囲気を不活性ガスとすることによって、次の加熱工程において、負極集電体10等が雰囲気中の酸素と反応して酸化することを抑制できる。
加熱空間内の空気を置換する不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素等を用いることができ、中でも安価で安全性が高い窒素ガスが特に好適に用いられる。
また、置換工程では、加熱空間内を減圧してもよい。加熱空間内を減圧することによっても、前記積層体の雰囲気中の酸素量を低減して負極集電体10等の酸化をより確実に抑制することができる。また、加熱空間内を減圧することによって、水分の蒸発を促進することができる。
また、置換工程では、加熱空間内の空気を不活性ガスで置換するための準備として、加熱空間内を減圧してもよい。具体的には、先ず、加熱空間内を減圧(真空引き)することにより加熱空間内の酸素濃度を低減し、続いて、加熱空間内に不活性ガスを導入することによって加熱空間内の空気を効率よく不活性ガスに置換することができる。
置換後の加熱空間の酸素濃度の下限としては5ppmが好ましい。上限としては、100体積ppmが好ましく、20体積ppmがより好ましい。不活性ガスによる置換後の加熱空間の酸素濃度を前記下限以上とすることによって、不活性ガスによる置換のための時間及び費用の増大を抑制することができる。また、前記上限以下とすることによって、負極集電体10等の酸化を十分に抑制することができる。
ステップS3の加熱工程では、正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体を加熱することによって、正極板3の正極活物質層8及び負極板4の負極活物質層11に含まれる水分を蒸発させて乾燥すると共に、セパレータ5の接着層15の粘着性を発現させる。
加熱工程は、前記積層体をケース2に収容してから行ってもよい。つまり、前記積層体をケース2に収容した状態で加熱空間内に配置し、加熱することによって、ケース2内の正極板3及び負極板4を乾燥すると共に、接着層15に粘着性を発現させてもよい。前記積層体をケース2内に収容し、ケース2の外壁によって前記積層体を均等に加圧することで、前記積層体の損傷を防止することができる。
加熱工程における加熱温度(到達温度)の下限としては、60℃が好ましく、80℃がより好ましい。一方、加熱工程における加熱温度の上限としては、120℃が好ましく、110℃がより好ましい。加熱工程における加熱温度を前記下限以上とすることによって、正極板3及び負極板4を比較的短時間で乾燥することができる。また、加熱工程における加熱温度を前記上限以下とすることによって、例えば多孔質樹脂層11等の他の構成要素にダメージを与えることなく、正極板3及び負極板4の乾燥並びに正極板3及び負極板4のセパレータ5への接着を行うことができる。
加熱工程における加熱時間は、加熱温度、加熱空間内の圧力等の他の条件を考慮して、正極板3及び負極板4を十分に乾燥できるよう選択される。具体例として、加熱時間は、例えば100℃で1時間以上5時間以下とすることができる。
減圧後の加熱空間内の圧力の下限としては、5Paが好ましく、10Paがより好ましい。上限としては、100Paが好ましく、50Paがより好ましい。減圧後の加熱空間内の圧力を減圧後の加熱空間内の圧力を前記下限以上とすることによって、減圧のための設備費用を抑制することができる。また、前記上限以下とすることによって、負極集電体10等の酸化を効果的に抑制することができる。
加熱空間の減圧は、加熱工程の前に行ってもよいが、加熱工程で最終到達温度より低い一定温度以上に前記積層体を加熱してから行うことが好ましい。比較的温度が低く、負極集電体10等の酸化が進行しにくい間は、前記積層体の周囲に気体が存在することによって前記積層体の加熱を促進することができる。一方、比較的温度が高くなった後は、前記積層体の雰囲気を減圧することで負極集電体10等の酸化を抑制することができる。
加熱空間内の減圧を開始する温度の下限としては、30℃が好ましく、35℃がより好ましい。一方、加熱空間内の減圧を開始する温度の上限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。加熱空間内の減圧を開始する温度を前記下限以上とすることによって、積層体の温度を効率よく上昇させて正極板3及び負極板4の乾燥を促進することができる。また、加熱空間内の減圧を開始する温度を前記上限以下とすることによって負極集電体10等の酸化を効果的に抑制することができる。
ステップS4の加圧工程では、前記加熱工程で粘着性を発現したセパレータ5の接着層15を正極板3及び負極板4に圧接することにより、セパレータ5を正極板3及び負極板4に接着する。
この加圧工程は、前記加熱工程でセパレータ5の接着層15が粘着性を発現した後にプレス装置等を用いて行ってもよいが、前記加熱工程と並行して行うことができる。具体的には、正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体を治具等で加圧した状態で加熱空間内に配置することで、加圧工程を加熱工程と並行して行うことができる。
また、加圧工程は、セパレータ5が正極板3及び負極板4に対して位置ずれすることを防止するために、加熱工程後にセパレータ5の接着層15が粘着性を喪失する温度に冷却されるまで行うことが好ましい。つまり、接着層15が粘着性を発現している間は前記積層体を加圧し続けることが好ましい。
このセパレータ5の冷却を促進するために、加熱空間内のガスを循環冷却することが好ましい。
加圧工程における前記積層体の加圧は、ケース2の加圧構造20によって行ってもよい。前記積層体の加圧を後で詳述する加圧構造20によって行うことによって、加熱空間内に加圧治具等を配置する必要がないため、加熱工程で一度により多くの前記積層体を加熱することができ、蓄電素子の製造効率をより向上することができる。
ステップS5の充填工程では、ケース2の中に電解液を充填し、積層電極体1に電解液を含浸させる。電解液の充填は、蓋体17で封止する前にケース本体16の開口から行ってもよいが、ケース本体16又は蓋体17に設けた封止可能な注入口から行うことが簡便である。つまり、ケース本体16に蓋体17を取り付けてから前記加熱工程を行ってもよい。
ステップS6の封止工程では、ケース本体16の開口部を蓋体17で封止、又はケース2に設けられた注入口を封止することで、ケース2を密閉状態とする。これにより、ケース2内に積層電極体1を電解液と共に封入した蓄電素子を得ることができる。
以下、当該製造方法によって製造される蓄電素子の限定ではなく例示的な構成を説明する。
正極板3の正極集電体7の材質としては、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、導電性の高さとコストとのバランスからアルミニウム、アルミニウム合金、銅及び銅合金が好ましく、アルミニウム及びアルミニウム合金がより好ましい。また、正極集電体7の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極集電体7としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
正極集電体7の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、正極集電体7の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。正極集電体7の平均厚さを前記下限以上とすることによって、正極集電体7に十分な強度を付与することができる。また、正極集電体7の平均厚さを前記上限以下とすることによって、積層電極体1のエネルギー密度を大きくすることができる。
正極活物質層8は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層8を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
前記正極活物質としては、例えばLixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、LixMnO3、LixNiαCo(1-α)O2、LixNiαMnβCo(1-α-β)O2、LixNiαMn(2-α)O4等)、LiwMex(XOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層8においては、これら化合物の一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。また、正極活物質の結晶構造は、層状構造又はスピネル構造であることが好ましい。
正極活物質層8における正極活物質の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。一方、正極活物質の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、94質量%がより好ましい。正極活物質の含有量を前記下限以上とすることによって、積層電極体1のエネルギー密度を大きくすることができる。また、正極活物質の含有量を前記上限以下とすることによって、正極活物質層8の強度を確保することができる。
前記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
正極活物質層8における導電剤の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。導電剤の含有量を前記範囲内とすることで、積層電極体1ひいては蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
前記バインダとしては、例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂、例えばエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム等のエラストマー、多糖類高分子などが挙げられる。
正極活物質層8におけるバインダの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、バインダの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。バインダの含有量を前記範囲内とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
前記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
前記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素などが挙げられる。
正極活物質層8の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、正極活物質層8の平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましい。正極活物質層8の平均厚さを前記下限以上とすることによって、正極反応を十分に活性化することができる。また、正極活物質層8の平均厚さを前記上限以下とすることによって、積層電極体1ひいては蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
負極板4の負極集電体10は、上述の正極集電体7と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極板4の負極集電体10としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
負極活物質層11は、負極活物質を含むいわゆる負極板合材から形成される。また、負極活物質層11を形成する負極板合材は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層8と同様のものを用いることができる。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が好適に用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばリチウム、リチウム合金等の金属、金属酸化物、ポリリン酸化合物、例えば黒鉛、非晶質炭素(易黒鉛化炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
前記負極活物質の中でも、正極板3と負極板4との単位対向面積当たりの放電容量を好適な範囲内とする観点から、Si、Si酸化物、Sn、Sn酸化物又はこれらの組み合わせを用いることが好ましく、Si酸化物を用いることが特に好ましい。なお、SiとSnとは、酸化物にした際に、黒鉛の3倍程度の放電容量を持つことができる。
負極活物質としてSi酸化物を用いる場合、Si酸化物に含まれるOのSiに対する原子数の比としては0超2未満が好ましい。つまり、Si酸化物としては、SiOx(0<x<2)で表される化合物が好ましい。また、前記原子数の比としては、0.5以上1.5以下がより好ましい。
なお、負極活物質は上述したものを一種単体で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。例えば、Si酸化物と他の負極活物質とを混合して用いることで、正極板3と負極板4との単位対向面積当たりの放電容量及び後述する負極活物質の質量に対する前記正極活物質の質量の比が共に好適な値となるように調整できる。Si酸化物と混合して用いる他の負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、コークス類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、フラーレン、活性炭等の炭素材料が挙げられる。これらの炭素材料は、一種のみをSi酸化物と混合してもよいし、二種以上を任意の組み合わせ及び比率でSi酸化物と混合してもよい。これらの他の負極活物質の中でも、充放電電位が比較的卑である黒鉛が好ましく、黒鉛を用いることで高いエネルギー密度の二次電池素子が得られる。Si酸化物と混合して用いる黒鉛としては、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、充放電を繰り返してもSi酸化物粒子表面との接触を維持し易い鱗片状黒鉛が好ましい。
さらに、負極活物質層11は、Si酸化物に加えて少量のB、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
前記Si酸化物(一般式SiOxで表される物質)として、SiO2及びSiの両相を含むものを使用することが好ましい。このようなSi酸化物は、SiO2のマトリックス中のSiにリチウムが吸蔵及び放出されるため、体積変化が小さく、且つ充放電サイクル特性に優れる。
また、前記Si酸化物の平均粒子径は、1μm以上15μm以下が好ましい。Si酸化物の平均粒子径を前記上限以下とすることで、積層電極体1の充放電サイクル特性を向上することができる。
前記Si酸化物は、高結晶性のものからアモルファスのものまで使用することができる。さらに、Si酸化物としては、フッ化水素、硫酸などの酸で洗浄されているものや水素で還元されているものを使用してもよい。
負極活物質におけるSi酸化物の含有量の下限としては、30質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。一方、Si酸化物の含有量の上限としては、通常100質量%であり、90質量%が好ましい。負極活物質におけるSi酸化物の含有量を前記範囲内とすることで、積層電極体1の放電サイクル特性を向上することができる。
負極活物質層11における負極活物質の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、負極活物質の含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。負極活物質の含有量を前記範囲内とすることで、積層電極体1ひいては蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
負極活物質層11におけるバインダの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、バインダの含有量の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。バインダの含有量を前記範囲内とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
負極活物質層11の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、負極活物質層11の平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましい。負極活物質層11の平均厚さを前記下限以上とすることによって、負極反応を十分に活性化することができる。また、負極活物質層11の平均厚さを前記上限以下とすることによって、積層電極体1ひいては蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
セパレータ5の多孔質樹脂層13は、主に電解液を保持する層であり、多孔質樹脂フィルムから形成される。
この多孔質樹脂層13の主成分としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のポリオレフィン誘導体、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートや共重合ポリエステル等のポリエステルなどを採用することができる。中でも、多孔質樹脂層13の主成分としては、耐電解液性及び耐久性に優れるポリエチレン及びポリプロピレンが好適に用いられる。なお、「主成分」とは、最も質量含有率が大きい成分を意味する。
多孔質樹脂層13の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、多孔質樹脂層13の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。多孔質樹脂層13の平均厚さを前記下限以上とすることによって、セパレータ5の十分な強度を確保することができる。また、多孔質樹脂層13の平均厚さを前記上限以下とすることによって、積層電極体1のエネルギー密度を大きくすることができる。
セパレータ5の耐酸化層14は、多孔質樹脂層13が酸化して劣化することを抑制するために設けられる層であり、多数の無機粒子とこの無機粒子間を接続するバインダとを含む。
無機粒子の主成分としては、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレイ、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。中でも、耐酸化層14の無機粒子の主成分としては、アルミナ、シリカ及びチタニアが特に好ましい。
耐酸化層14の無機粒子の平均粒子径の下限としては、1nmが好ましく、7nmがより好ましい。一方、無機粒子の平均粒子径の上限としては、5μmが好ましく、1μmがより好ましい。無機粒子の平均粒子径を前記下限以上とすることによって、耐酸化層14中のバインダの比率を小さくして、耐酸化層14の耐熱性を大きくすることができる。また、無機粒子の平均粒子径を前記上限以下とすることによって、均質な耐酸化層14を形成することができる。なお、「平均粒子径」とは、透過電子顕微鏡(TEM)又は走査電子顕微鏡(SEM)を用いてJIS-670に準じて測定される値である。
耐酸化層14のバインダの主成分としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体等の合成ゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩等のセルロース誘導体、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド及びその前駆体(ポリアミック酸等)等のポリイミド、エチレン-エチルアクリレート共重合体等のエチレン-アクリル酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステルなどが挙げられる。
耐酸化層14の平均厚さの下限としては、2μmが好ましく、4μmがより好ましい。一方、耐酸化層14の平均厚さの上限としては、6μmが好ましく、5μmがより好ましい。耐酸化層14の平均厚さを前記下限以上とすることによって、耐酸化層14がセパレータ5の接着固定時に破断することを防止できる。また、耐酸化層14の平均厚さを前記上限以下とすることによって、セパレータ5の厚さが不必要に大きくなることを抑制して積層電極体1ひいては蓄電素子のエネルギー密度を大きくすることができる。
セパレータ5の接着層15は、セパレータ5を正極板3及び負極板4に接着可能とするために形成される層であるが、正極板3及び負極板4における電極反応を可能にするためにイオン伝導性を有する。
接着層15は、常温を超え、且つセパレータ5のシャットダウン温度未満の温度に晒されたときに粘着性を発現することが好ましい。具体的には、接着層15が粘着性を発現する温度の下限としては、60℃が好ましく、80℃がより好ましい。一方、接着層15が粘着性を発現する温度の上限としては、120℃が好ましく、110℃がより好ましい。接着層15が粘着性を発現する温度を前記下限以上とすることによって、一度接着したセパレータ5が正極板3及び負極板4に対して位置ずれすることを防止できる。また、接着層15が粘着性を発現する温度を前記上限以下とすることによって、加熱工程における加熱温度を低く設定することができるので、他の構成要素に対するダメージを防止できると共に、蓄電素子を安価且つ容易に製造することができる。
接着層15は、イオン伝導性を発現する粒子と、バインダとを含む混合材料から形成することができる。具体的には、接着層15は、電解液を含んでイオン伝導性を担保する固体電解質粒子と、例えば加熱、超音波振動等により粘着性を発現するバインダとを含む材料から形成することができる。接着層15は、液体及び気体が通過できるよう、連続気孔を有することが好ましい。
接着層15の平均厚さの下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましく、0.4μmがさらに好ましい。一方、接着層15の平均厚さの上限としては、5μmが好ましく、3μmがより好ましく、1.2μmがさらに好ましい。接着層15の平均厚さを前記下限以上とすることによって、十分な粘着性を得ることができる。また、接着層15の平均厚さを前記上限以下とすることによって、十分なイオン伝導性を得ることができる。
接着層15の固体電解質粒子の材質としては、例えば無機固体電解質、純正固体高分子電解液、高分子ゲル電解液(Gel Polymer Electrolyte)等が挙げられるが、中でもイオン伝導度を大きくできると共に均質で粒子径を調節し易い高分子ゲル電解液が特に好適に用いられる。
高分子ゲル電解液は、電解液を高分子によってゲル化することによって取り扱いを容易化したものである。電解液をゲル化する高分子としては、例えばフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリメチルメタクリル酸、ポリアクリロニトリル等を挙げることができる。
高分子ゲル電解液の電解液としては、有機溶媒に支持電解液を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解液としては、リチウム塩が好適に用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、例えばLiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLi等が挙げられる。中でも、有機溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが特に好ましい。
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解液を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類、例えばγ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類、例えば1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類など一種又は複数種を組み合わせて用いることができる。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いカーボネート類が特に好適に用いられる。
電解液中における支持電解液の濃度の下限としては、1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、電解液中における支持電解液の濃度の上限としては、30質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。電解液中における支持電解液の濃度を前記範囲内とすることによって、比較的大きいイオン伝導性を得ることができる。
固体電解質粒子の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。一方、固体電解質粒子の平均粒子径の上限としては、2μmが好ましく、1μmがより好ましい。固体電解質粒子の平均粒子径を前記下限以上とすることによって、固体電解質粒子同士を接触させて接着層15にイオン伝導性を付与することが容易となる。また、固体電解質粒子の平均粒子径を前記上限以下とすることによって、接着層15を均一な膜状に形成することが容易となる。
固体電解質粒子の形状としては、固体電解質粒子同士の接触を促進してイオン伝導性を大きくできるよう、例えば棒状、錐状、板状等の真球度が小さい形状が好ましい。
接着層15のバインダとしては、加熱により、固体電解質粒子及び正極活物質層8及び負極活物質層11に対して粘着性を発現できるものであればよいが、比較的低い温度で加熱することによって正極活物質層8及び負極活物質層11に対して粘着可能な樹脂、つまり比較的低いガラス転移点を有し、粘着性を発現する高分子材料が好適に用いられる。
バインダのガラス転移点の下限としては、-50℃が好ましく、-45℃がより好ましい。一方、バインダのガラス転移点の上限としては、50℃が好ましく、45℃がより好ましい。バインダのガラス転移点を前記下限以上とすることによって、接着層15の強度を確保できる。また、バインダのガラス転移点を前記上限以下とすることによって、多孔質樹脂層13を損傷しない温度でセパレータ5を正極板3又は負極板4並びに正極板3又は負極板4を挟んで対向するセパレータ5の外縁部に接着することができる。
バインダの主成分としては、例えばアクリル系重合体等が挙げられる。アクリル重合体としては、ニトリル基を有する単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むニトリル基含有アクリル重合体が好適に用いられる。ここで、ニトリル基を有する単量体単位とは、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル等を重合して得られる構造単位であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とは、CH2=CR1-COOR2(式中、R1は水素原子又はメチル基を、R2はアルキル基又はシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体単位である。ニトリル基含有アクリル重合体は、ニトリル基を有する単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に加えて、エチレン性不飽和酸単量体を重合して形成されるエチレン性不飽和酸単量体単位を含んでいてもよい。また、ニトリル基含有アクリル重合体は、架橋されていてもよい。
接着層15における固体電解質粒子の割合の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましい。一方、接着層15における固体電解質粒子の割合の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。接着層15における固体電解質粒子の割合を前記下限以上とすることによって、接着層15に十分なイオン伝導性を付与することができる。また、接着層15における固体電解質粒子の割合を前記上限以下とすることによって、相対的にバインダの割合を一定以上として接着層15に十分な粘着性を付与することができる。
樹脂フィルム6の主成分としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。中でも、樹脂フィルム6の主成分としては、ヒートシール性が良好なポリプロピレンが特に好適である。
樹脂フィルム6の平均厚さの下限としては、20μmが好ましく、50μmがより好ましい。一方、樹脂フィルム6の平均厚さの上限としては、150μmが好ましく、100μmがより好ましい。樹脂フィルム6の平均厚さを前記下限以上とすることによって、破れることなく複数の電極ユニットQ及び負極板4の位置ずれを防止すると共に負極板4を保護することができる。また、樹脂フィルム6の平均厚さを前記上限以下にすることによって、複数の電極ユニットQ及び負極板4の積層体を容易かつ隙間なくタイトに被覆することができるので、電極ユニットQ及び負極板4の位置ずれを防止する効果を確実にすることができ、積層電極体1のエネルギー密度向上に貢献する。
ケース2は、積層電極体1を収容し、内部に電解液が封入される密閉容器である。
ケース2の材質としては、電解液を封入できるシール性と、積層電極体1を保護できる強度とを備えるものであれば、例えば樹脂等であってもよいが、金属が好適に用いられる。換言すると、ケース2としては、例えばラミネートフィルムから形成され、可撓性を有する袋体等であってもよいが、積層電極体1をより確実に保護でき、比較的容易に加圧構造20を設けることができる金属ケースを用いることが好ましい。
ケース2の加圧構造20は、積層電極体1を常に積層方向に加圧するよう構成される。加圧構造20を有するケース2の中に積層電極体1を配置した状態で加熱空間に配置することで、ステップS3の加熱工程とステップS4の加圧工程とを同時に行うことができる。また、ケース2が加圧構造20を有することにより、積層電極体1を加圧する装置を加熱空間内に配置する必要がないため、限られた加熱空間内により多くの積層電極体1を配置して効率よく蓄電素子を製造することが可能となる。
加圧構造20は、ケース2の弾性力により、複数の正極板3、負極板4及びセパレータ5の積層体(最終的には積層電極体1)を積層方向に加圧するよう構成することができる。具体例として、加圧構造20は、ケース本体16の前記積層体に積層方向に対向する壁を内側に凹ませた凹部とすることができる。加圧構造20をこのような凹部とすることで、構成が簡素でありながら前記積層体を加圧することができるため、比較的安価に蓄電素子を製造することができる。
ケース2に積層電極体1と共に封入される電解液としては、蓄電素子に通常用いられる公知の電解液が使用でき、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、又はジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネートを含有する溶媒に、リチウムヘキサフルオロホスフェート等を溶解した溶液を用いることができる。
以上のように、当該蓄電素子の製造方法は、加熱工程において、複数の正極板3、負極板4及びセパレータ5を積層してから、この積層体を加熱することによって正極板3及び負極板4を乾燥すると共にセパレータ5の接着層15の粘着性を発現させ、加圧工程において、加熱状態の前記積層体を積層方向に加圧することでセパレータ5を正極板3及び負極板4に接合する。このため、当該蓄電素子の製造方法は、1回の加熱処理で正極板3、負極板4の乾燥と、正極板3及び負極板4へのセパレータ5の接着を同時に行うことができるので、エネルギー密度が大きい蓄電素子を効率よく製造できる。
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
当該蓄電素子の製造方法は、置換工程を有しない方法であってもよい。
当該蓄電素子の製造方法で用いるセパレータは、耐酸化層を有しないものであってもよい。