JP7069494B2 - 脱アセチル化キチンの製造方法 - Google Patents
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Description
キチンは、N-アセチル-D-グルコサミンのβ-1,4結合よりなる多糖類であって、化学的に極めて安定なため、穏和な条件では殆どの試薬とは反応しない。また、これまでキチンをそのままの形で溶かす適当な溶剤も見出されておらず、極めて取り扱いにくいものとされてきた。
また、特許文献2には、水溶性有機溶剤と水との混合反応媒体中において、アルカリの存在下、キトサンをアルキレンオキシドでエーテル化する、水溶性キトサン誘導体の製造方法が記載されている。
また、特許文献2に記載された水溶性キトサンの製造方法では、多量の有機溶剤を使用しており、また、長い反応時間が必要であるという問題がある。
本発明は、穏和な条件かつ短時間であっても、脱アセチル化することができる、脱アセチル化キチンの製造方法、及び該脱アセチル化キチンを用いた誘導体の製造方法に関する。
本発明は、結晶化指数が50%以下であるキチンを、塩基性触媒の存在下、脱アセチル化する工程を有する、脱アセチル化キチンの製造方法、及び該脱アセチル化キチンとアルキレンオキシドとを反応させる、キチン誘導体の製造方法を提供する。
本発明の脱アセチル化キチンの製造方法は、結晶化指数が50%以下であるキチンを、塩基性触媒の存在下で、脱アセチル化する工程を有する。
上述したように、キチンは反応性が低く、「キチン、キトサンハンドブック」(キチン、キトサン研究会編、技報堂出版、1995年)によれば、キチンの脱アセチル化を、キチンに対して10倍質量の50.9%NaOHを添加し、100℃で行うことが記載されている。
本発明者等は、結晶化指数が50%以下であるキチンを使用することにより、塩基性触媒の存在下で、穏和な条件かつ短時間の反応によって、キチンを脱アセチル化することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。結晶化指数が50%以下であるキチンは、結晶構造が低下しており、その結果、塩基性触媒がキチンの内部にまで浸透し易くなり、結果として反応性が向上したものと推定される。
本発明において、反応原料であるキチンとして、結晶化指数が50%以下であるキチン(以下、「低結晶性キチン」ともいう。)を使用する。ここで、低結晶性キチンは、キチン含有原料を非晶化処理して得られる。
前記キチン含有原料としては、特に制限がなく、本来的にはキチン類含有生物中のキチン類のいずれも本発明に使用することができるが、例えば、かに、えび等の甲殻類の甲殻、微生物の細胞壁、キノコ等を例示することができる。これらの中で、資源が豊富であり、収穫がしやすい等の理由から、かに、えび、シャコ等の甲殻、あるいはイカの甲を好ましく使用することができる。
本発明において、脱アセチル化キチンを効率的に得る観点から、キチン含有原料は、該原料から水を取り除いた残余成分中のチキンの含有量が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上である。
なお、市販のキチンの場合、水を取り除いた残余成分中のキチン含有量は、一般には85~99質量%であり、他の成分としてタンパク質、炭酸カルシウム等の無機物等を含む。本発明において、タンパク質、炭酸カルシウム等を含有する状態で、使用してもよく、また、これらのキチン以外の他の成分を除去した状態で使用してもよく、特に限定されない。これらの中でも、キチン以外の他の成分を除去した状態で使用することが、反応効率の観点から好ましい。
天然由来のキチン含有原料に含まれるキチンには、α及びβの2種の結晶形が知られている。α-キチンは、かに、えび等の甲殻類の甲殻に多く含有されている。β-キチンは、イカ等の軟体動物の軟骨に多く含有されている。本発明に用いるキチン含有原料に含まれるキチンとしては、入手の容易さの観点から、α-キチンが好ましい。
本発明において、結晶化指数が50%以下であるキチンを、原料として使用する。
ここで、結晶化指数とは、X線結晶解析法による回折強度値から算出し、下記計算式(1)により定義される。
結晶化指数(%)=[(I0-Iam)/I0]×100 (1)
式(1)中、I0は、キチン質の第1ピークの散乱強度(高さ)、Iamは、アモルファス部(回折角2θ=16°)の回折強度を示す。
本発明において、キチンの結晶化指数は、脱アセチル化の反応性の観点から、50%以下であり、低結晶性キチンの生産効率の観点から、好ましくは0%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは30%以上である。
-キチン含有原料の前処理-
本発明では、キチン含有原料として、嵩密度が50kg/m3以上、及び平均粒径が1mm以下であるものを使用することが好ましい。嵩密度が50kg/m3未満又は平均粒径が1mmを超えるものを用いる場合、キチン含有原料を前処理することが好ましい。前処理としては、例えば、一般的な粉砕機や押出機等が例示される。衝撃式の粉砕機や押出機を用いて、キチン含有原料を処理することで、キチン含有原料の嵩密度及び平均粒径を所望の範囲にすることが好ましい。
前記キチン含有原料を、好ましくは衝撃式の粉砕機や押出機で処理することにより、圧縮せん断力を作用させ、キチンの結晶構造を破壊して、キチンの含有原料を粉末化させ、所望の平均粒径及び嵩密度を有する粉砕原料が得られ、後述する粉砕処理における取扱い性を向上させることができる。
本発明では、キチン含有原料を粉砕処理することにより、該原料中のキチンの結晶化指数を効率的に低減させる観点から粉砕機として媒体式粉砕機を用いることが好ましい。媒体式粉砕機には容器駆動式粉砕機と媒体撹拌式粉砕機とがある。
容器駆動式粉砕機としては転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられる。この中で、粉砕効率が高く、生産性の観点から、振動ミルが好ましい。
本発明で用いられる振動ミルとしては、中央化工機株式会社製の振動ミル、ユーラステクノ株式会社製のバイブロミル、株式会社吉田製作所製の小型振動ロッドミル1045型、ドイツのフリッチュ社製の振動カップミルP-9型、日陶科学株式会社製の小型振動ミルNB-O型等を用いることができる。媒体としてロッド又はボールを振動ミルに充填することが好ましい。
粉砕機の種類は「化学工学の進歩 第30集 微粒子制御」(社団法人 化学工学会東海支部編、1996年10月10日発行、槇書店)を参照することができる。
振動ミル等の容器駆動式粉砕機又は媒体撹拌式粉砕機の処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでもよい。
媒体の材質としては、特に制限がなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、ガラス等が挙げられる。
ロッドとは、棒状の媒体であり、ロッドの断面が四角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等のものを用いることができる。
本発明における粉砕処理としては、キチンの結晶化指数を効率よく低下させる観点から、ロッドを充填した振動ミルを用いて処理することが好ましい。
振動ミル等の容器駆動式粉砕機又は媒体撹拌式粉砕機による処理において、媒体がロッドの場合には、ロッドの外径としては、好もしくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは5mm以上であり、そして、好ましくは200mm以下、より好ましくは100mm以下、更に好ましくは50mm以下である。ロッドの長さとしては、粉砕機の容器の長さよりも短いものであれば特に限定されない。ロッドの大きさが上記の範囲であれば、十分な粉砕力が得られると共に、ロッドのかけら等が混入してキチン含有原料が汚染されることなく効率的にキチンを非晶化させることができる。
ロッドの充填率は、粉砕機の機種により好適な範囲が異なるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上であり、そして、好ましくは97%以下、より好ましくは95%以下である。充填率がこの範囲内であれば、キチンとロッドとの接触頻度が向上すると共に、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで、充填率とは、粉砕機の容積に対するロッドのみかけの体積をいう。
得られる低結晶性キチンの平均粒径は、脱アセチル化の反応性及び取扱い性の観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上であり、そして、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。特に平均粒径が20μm以上であれば、低結晶性キチンを水等の液体と接触させたときに「ママコ」になることを抑えることができる。
本発明において、低結晶性キチンの脱アセチル化は、塩基性触媒の存在下に行われる。
塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。これらの中ではアルカリ金属水酸化物、又はアルカリ土類金属水酸化物が好ましく、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが更に好ましい。これらの塩基性触媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、後述するように、脱アセチル化工程を固相反応で行う場合には、塩基性触媒の使用量を劇的に減少させることが可能である。脱アセチル化工程を固相反応で行う場合、脱アセチル化の反応性の観点から、塩基性触媒の量は、反応原料である低結晶性キチンの単糖単位あたり、好ましくは0.01当量以上、0.05当量以上であり、そして、塩基性触媒を除去する効率の観点から、好ましくは5当量以下、より好ましくは3当量以下、更に好ましくは2当量以下である。
塩基性触媒が固体の状態である場合、粉末状であることが好ましい。塩基性触媒が粉末状である場合、そのメジアン径は、塩基性触媒をキチン中に均一に分散させる観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは50μm以上であり、そして、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。
粉末状塩基性触媒としては、前記メジアン径を有する市販の塩基性化合物粉末をそのまま用いることもできるし、ペレット状塩基性化合物を公知の方法で粉砕し、そのメジアン径を前記範囲に調整したものを用いてもよい。
また、塩基性触媒を水溶液として添加する場合、該塩基性触媒水溶液中の塩基性化合物の濃度は、水の使用量を少なくすると共に、キチン中に均一に分散させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下である。塩基性触媒を水溶液として添加する場合、キチン中に均一に分散させる観点から、噴霧添加することも好ましい。
撹拌及び混合を行う装置としては、塩基性触媒をキチン中に分散可能な装置であれば特に限定はない。例えば、リボン型混合機、パドル型混合機、円錐遊星スクリュー型混合機、粉体、高粘度物質、樹脂等の混錬に用いられるニーダー等の混合機が挙げられる。これらの中では、水平軸型パドル型混合機がより好ましく、具体的には、チョッパー翼を有する水平軸型のパドル型混合機であるレディゲミキサー(特徴的なスキ状ショベルを用いる混合機、チョッパー翼を設置可能)、プロシェアミキサー(独自形状のショベル翼による浮遊拡散混合と多段式チョッパー翼による高速剪断分散の2つの機能を備えた混合機)が特に好ましい。
脱アセチル化工程における温度は、脱アセチル化の反応性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、キチンの着色を抑制する観点、及び生産効率の観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
本発明においては、従来のキチンを使用した脱アセチル化に比べて、低結晶性キチンを使用することにより、低い反応温度によっても脱アセチル化を進行させることが可能である。
具体的には、生産効率及び脱アセチル化の反応性の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.3時間以上、更に好ましくは0.5時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは8時間以下、より更に好ましくは5時間以下、より更に好ましくは3時間以下である。
固相にて脱アセチル化を行う場合、脱アセチルの反応性の観点から、原料であるキチン(低結晶性キチン)100質量部に対する水の含有量(水分含有量)は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、より更に好ましくは55質量部以下であり、そして、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、より更に好ましくは20質量部以上、より更に好ましくは40質量部以上である。なお、低結晶性キチン100質量部に対する水の含有量(水分含有量)は、水を除く低結晶性キチン100質量部に対する水の含有量であり、以下、同様である。
非水溶媒としては、水との相溶性の観点から、イソプロパノールやtert-ブタノール等の2級又は3級の炭素数3~4の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの中でも、イソプロパノールやテトラヒドロフランがより好ましい。
なお、脱アセチル化を固相で行うとは、原料であるキチン(低結晶性キチン)100質量部に対する、水及び非水溶媒の合計含有量の上限が、上記のものをいう。
また、脱アセチル化を液相にて行う場合、上述した非水溶媒を含有していてもよいが、非水溶媒の含有量は、脱アセチル化の反応効率の観点から、原料であるキチン(低結晶性キチン)100質量部に対して、好ましくは1,000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、より更に好ましくは200質量部以下であり、0質量部であってもよい。
更に、脱アセチル化を液相にて行う場合、原料であるキチン(低結晶性キチン)100質量部に対する、水及び非水溶媒の合計含有量(全溶媒含有量)は、脱アセチル化の反応効率を向上させ、塩基性触媒の使用量を低減する観点から、好ましくは3,000質量部以下、より好ましくは2,000質量部以下、更に好ましくは1,500質量部以下、より更に好ましくは1,000質量部以下であり、生産性の観点から、好ましくは300質量部以上、より好ましくは400質量部以上、更に好ましくは500質量部以上、より更に好ましくは600質量部以上、より更に好ましくは700質量部以上である。
更に、脱アセチル化工程を液相で行う場合、脱アセチル化の反応性の観点から、塩基性触媒の濃度は、2.5N/L以上、より好ましくは5N/L以上、更に好ましくは7.5N/以上であり、そして、好ましくは15N/L以下、より好ましくは14N/L以下、更に好ましくは12.5N/L以下である。
脱アセチル化度は、実施例に記載の方法により測定される。
洗浄工程では、水にて洗浄、濾過を行うことが好ましく、洗浄工程は濾液が中性となるまで、繰り返し行うことが好ましい。
中和に用いる酸化合物としては、特に限定されず、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸;有機酸を用いることができる。これらの中でも、脱アセチル化キチンのハンドリング性の観点から、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、多価カルボン酸が更に好ましい。有機酸の具体例としては酢酸、プロピオン酸等の低級脂肪族の1価カルボン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸等の1価のヒドロキシカルボン酸、酒石酸、リンゴ酸等の2価のヒドロキシカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、クエン酸等の飽和の多価カルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和の2価カルボン酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸の他、アスパラギン酸、グルタミン酸、アセト酢酸、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、又はこれらの混合物が挙げられる。
本発明のキチン誘導体の製造方法は、下記工程1及び工程2を有する。
工程1:本発明の脱アセチル化キチンの製造方法により脱アセチル化キチンを製造する工程
工程2:工程1で得られた脱アセチル化キチンと、アルキレンオキシドとを反応させる工程
工程1は、上述した脱アセチル化キチンの製造方法であり、好ましい範囲も同様である。従って、工程1は固相にて行うことが好ましい。
本発明において、工程2は、固相にて行うことが好ましく、工程1及び工程2の双方を固相にて行うことが好ましい。なお、工程2を固相にて行う場合、工程1の原料である低結晶性キチン100質量部に対する、水の含有量(水分含有量)は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、より更に好ましくは55質量部以下であり、そして、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、より更に好ましくは20質量部以上、より更に好ましくは40質量部以上である。
なお、工程1及び工程2を連続で行うことを想定して、工程1の原料である低結晶性キチンに対する水の好ましい含有量を規定している。脱アセチル化キチンの脱アセチル化度から工程1の原料である低結晶性キチンの量は算出可能であり、工程1において得られた脱アセチル化キチンを分離後に工程2を固相にて行う場合には、上記の工程1の原料であるキチン100質量部に対する水の量を算出すればよい。以下、同様である。
また、工程2において、工程1の原料である低結晶性キチン100質量部に対する非水溶媒の含有量、及び低結晶性キチン100質量部に対する水と非水溶媒との合計含有量の好ましい範囲は、工程1における低結晶性キチン100質量部に対する好ましい量と同様である。
塩基性化合物及びアルキレンオキシドの添加順序には特に制限はないが、脱アセチル化キチンと塩基性化合物とを混合した後に、アルキレンオキシドを添加して反応させることが好ましい。
ここで、工程1を固相反応で行った場合、工程1から精製工程を行わずに、工程2を固相にて行うことが好ましい。このように、工程1及び工程2を、精製工程を経ずに行うことにより、洗浄、中和工程等を短縮することが可能である。更に、工程1で使用した塩基性触媒が残存しているため、工程2での塩基性化合物の添加を省略することが可能である。
工程2を固相にて行う場合、工程2における塩基性化合物の存在量は、反応効率及び反応後の塩基性化合物の除去の観点から、脱アセチル化キチンの単糖単位に対して、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは0.7当量以上、更に好ましくは0.8当量以上であり、そして、好ましくは3当量以下、より好ましくは2当量以下、更に好ましくは1.5当量以下である。
また、工程2を液相にて行う場合、工程2における塩基性化合物の存在量は、反応効率及び反応後の塩基性化合物の除去の観点から、脱アセチル化キチンの単糖単位に対して、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1当量以上、更に好ましくは5当量以上であり、そして、好ましくは20当量以下、より好ましくは18当量以下である。
上記の中でも、アルキレンオキシドとしては、炭素数2以上5以下のアルキレンオキシドが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、プロピレンオキシドが更に好ましい。
カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウム、グリシジルトリエチルアンモニウム、グリシジルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ塩化物、臭化物又はヨウ化物や、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ塩化物、3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3-ブロモ-2-ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれ臭化物や、3-ヨード-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3-ヨード-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3-ヨード-2-ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウムのそれぞれヨウ化物などが挙げられる。
反応時間は、反応収率の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.3時間以上であり、生産性の観点からは、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。なお、工程2の反応時間とは、アルキレンオキシドの添加開始から反応終了までの経過時間をいう。
工程2により得られたキチン誘導体は、親水性が向上しており、凝集剤、シャンプー・リンス等の毛髪化粧料用の成分等として有用である。
(1)水分量の測定
原料の水分量は、赤外線水分計(株式会社島津製作所製「MOC-120H」)を用いて測定した。測定1回あたり試料5gを用い、試料を平らにならして温度120℃にて測定を行い、30秒間の質量変化率が0.05%以下となる点を測定の終点とした。測定された水分量をキチンに対する質量%に換算し、各水分量とした。
試料のX線回折強度を、X線回折装置(株式会社リガク製「MiniFlexII」)を用いて以下の条件で測定し、前記計算式(1)に基づいて結晶化指数を算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:30kV、管電流:15mA、測定範囲:回折角2θ=5~35°、X線のスキャンスピードは40°/minで測定した。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。
体積中位粒径(D50)は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、「LS13 320」)を用い、乾式法(トルネード方式)にて測定した。具体的には試料20mLをセルに仕込み、吸引して測定を行った。
脱アセチル化キチンの脱アセチル化度は、「キチン、キトサンハンドブック」(キチン、キトサン研究会編、技報堂出版、1995年)に記載のコロイド滴定法により測定した。
脱アセチル化キチン粉末0.50gを5%酢酸に溶解し、正確に100gとした。溶解液1.00gとイオン交換水30mLを加えよく撹拌した。指示薬として0.1%トルイジンブルー溶液2~3滴を加え、N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液で滴定し、脱アセチル化度は計算式(2)~(4)に基づいて算出した。
v:N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液滴定値(mL)
f:N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液のファクター
嵩密度は、ホソカワミクロン株式会社製の「パウダーテスター」を用いて測定した。測定は、ふるいを振動させて、サンプルをシュートを通じ落下させ、規定の容器(容量100mL)に受け、該容器中のサンプルの質量を測定することにより算出した。
キチン含有原料として、結晶性キチン(和光純薬工業株式会社製、キチン、1級、キチン中の含有水分量:2.0質量%、キチンの結晶化指数:91%、平均粒径:73μm、ゆるめ嵩密度:180kg/m3)80gを振動ミル(中央化工機株式会社製、「MB-1」、容器全量3.5L)に投入し、ロッド(断面形状:円形、直径30mm、長さ:218mm、材質:ステンレス)13本を振動ミルに充填して、振幅8mm、回転数1,200rpmの条件で1時間処理を行った。得られた低結晶性キチンの結晶化指数は42%、平均粒径は28μmであった。
乳鉢に製造例1で得られた低結晶性キチン10g(水分含量:2質量%)及び32.5%NaOH水溶液(8.1N/L NaOH水溶液)7.2g(キチンの単糖単位あたり1.2当量)を加え混合した。直径10mm、長さ150mmのステンレス管に混合物5gを入れ密閉し、70℃の恒温槽で2時間保持し、脱アセチル化キチンを得た。脱アセチル化キチンにイオン交換水を加え、濾過した。この操作を5回繰り返し、濾液のpHが中性であることを確認した。その後、真空乾燥器に入れ、50℃、16時間乾燥し、脱アセチル化キチン精製物を得た。得られた脱アセチル化キチン精製物の脱アセチル化度は27%であった。
500mLセパラブルフラスコに30%NaOH水溶液300g(キチンの単糖単位あたり15.2当量)を入れ、70℃に加熱した。その後、製造例1で得られた低結晶性キチン30gを加え、アンカー翼で2時間撹拌し、脱アセチル化キチンを得た。脱アセチル化キチンにイオン交換水を加え、濾過した。濾液のpHが中性となるまで、この操作を繰り返した。その後真空乾燥器に入れ、50℃、16時間乾燥し、脱アセチル化キチン精製物を得た。得られた脱アセチル化キチン精製物の脱アセチル化度は31%であった。
原料に結晶性キチン(和光純薬工業株式会社製、キチン、1級、キチン中の含有水分量:2.0質量%、キチンの結晶化指数:91%、平均粒径:73μm)を用いた以外は、実施例1と同じ条件で脱アセチル化キチン精製物を得た。得られた脱アセチル化キチン精製物の脱アセチル化度は4%であった。
原料に結晶性キチン(和光純薬工業株式会社製、キチン、1級、キチン中の含有水分量:2.0質量%、キチンの結晶化指数:91%、平均粒径:73μm)を用いた以外は、実施例2と同じ条件で、脱アセチル化キチン精製物を得た。得られた脱アセチル化キチン精製物の脱アセチル化度は5%であった。
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の結果を下記表1に示す。
乳鉢に製造例1で得られた低結晶性キチン10g(水分含量:2質量%)及び32.5%NaOH水溶液7.2g(低結晶性キチンの単糖単位あたり1.2当量)を加え混合した。直径10mm、長さ150mmのステンレス管に混合物5gを入れ密閉し、70℃の恒温槽で2時間保持し、脱アセチル化キチンを得た。この脱アセチル化キチンを精製することなく次のアルキレンオキシド付加反応に用いた。具体的には、耐圧容器に、この脱アセチル化キチン3.0g及びプロピレンオキシド(PO)2.0g(低結晶性キチンの単糖単位あたり4.0当量)を加え、密閉した。耐圧容器を60℃の温浴槽中で0.5時間加熱した後、耐圧容器を温浴槽から取り出して40℃まで冷却した。該反応物を3分間大気に開放することで、未反応のプロピレンオキシドを除去した。十分にPOが除去されたことを、質量変化がなくなったことから確認した後、反応物の質量を記録し、反応前後の質量変化量からプロピレンオキシドの消費量は、プロピレンオキシドの付加量であるとみなし、プロピレンオキシドの付加量を算出した。プロピレンオキシド(PO)の付加量は、原料の単糖単位あたり1.9当量であった。
原料に結晶性キチンを用いた以外は実施例3と同じ条件で、反応物を得た。プロピレンオキシド(PO)付加量は原料の単糖単位あたり1.5当量であった。
実施例3及び比較例3の結果を下記表2に示す。
また、表2に示すように、本発明のキチン誘導体の製造方法では、結晶性キチンを原料とした場合に比べて、プロピレンオキシドの付加量が有意に高く、プロピレンオキシドの付加に関しても、低結晶性キチンを原料とした脱アセチル化物を使用することの優位性が示された。また、実施例3に示すように、低結晶性キチンを原料として、固相反応にて脱アセチル化反応と、アルキレンオキシドの付加反応を、精製工程を行わずに行うことができた。この方法によれば、脱アセチル化工程で使用した塩基性触媒を、アルキレン付加反応における塩基性化合物として使用することができ、精製工程の省略、塩基性化合物の使用量の削減という効果も得られた。
Claims (7)
- 結晶化指数が50%以下であるキチンを、塩基性触媒の存在下で、脱アセチル化する工程を有する、脱アセチル化キチンの製造方法であって、前記脱アセチル化が固相で行われ、脱アセチル化における水分含有量が、キチン100質量部に対して80質量部以下であり、前記塩基性触媒の添加量が、キチンを構成する単糖単位あたり、0.01当量以上5当量以下である、脱アセチル化キチンの製造方法。
- 前記脱アセチル化における温度が40℃以上90℃以下である、請求項1に記載の脱アセチル化キチンの製造方法。
- 結晶化指数が50%以下であるキチンが、媒体式粉砕機によって調製される、請求項1又は2に記載の脱アセチル化キチンの製造方法。
- 下記工程1及び工程2を有する、キチン誘導体の製造方法。
工程1:結晶化指数が50%以下であるキチンを、塩基性触媒の存在下で、脱アセチル化する工程を有する、脱アセチル化キチンを製造する工程であって、前記脱アセチル化が固相で行われ、脱アセチル化における水分含有量が、キチン100質量部に対して80質量部以下であり、前記塩基性触媒の添加量が、キチンを構成する単糖単位あたり、0.01当量以上5当量以下である、脱アセチル化キチンを製造する工程
工程2:工程1で得られた脱アセチル化キチンと、アルキレンオキシドとを反応させる工程 - 工程2が固相にて行われ、工程2における水分含有量が、キチン100質量部に対して80質量部以下である、請求項4に記載のキチン誘導体の製造方法。
- 前記脱アセチル化における温度が40℃以上90℃以下である、請求項4又は5に記載のキチン誘導体の製造方法。
- 結晶化指数が50%以下であるキチンが、媒体式粉砕機によって調製される、請求項4~6のいずれかに記載のキチン誘導体の製造方法。
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