本発明の実施形態に係る半導体装置の一種である電界効果トランジスタの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法によって製造される電界効果トランジスタ(以下、単にトランジスタという)の一例を示す断面図である。図1に示されるように、トランジスタ1は、基板2、半導体積層体7、第1のSiN膜11、第2のSiN膜12、ソース電極21、ドレイン電極22、及びゲート電極23を備える。半導体積層体7は、基板2から順に、バッファ層3、チャネル層4、バリア層5、及びキャップ層6を含む半導体層である。トランジスタ1は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。チャネル層4内であってチャネル層4とバリア層5との界面近傍には、2次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)が生じる。これにより、チャネル層4内にチャネル領域が形成される。
基板2は、結晶成長用の基板である。基板2として、例えばSiC基板、GaN基板、又はサファイア(Al2O3)基板が挙げられる。一実施例では、基板2はSiC基板である。バッファ層3は、チャネル層4及びバリア層5を基板2上にエピタキシャル成長するための緩衝層である。バッファ層3は、窒化物半導体から構成され、例えばAlN層である。バッファ層3の厚さは、例えば10nm以上100nm以下である。チャネル層4は、バッファ層3上にエピタキシャル成長した半導体層である。チャネル層4は、窒化物半導体から構成され、例えばGaN層である。チャネル層4の厚さは、例えば400nm以上2000nm以下である。
バリア層5は、チャネル層4上にエピタキシャル成長した半導体層である。バリア層5は、チャネル層4よりも電子親和力が大きい窒化物半導体から構成され、例えばAlGaN層、InAlN層、あるいはInAlGaN層を含む。バリア層5はn型の導電性を示してもよい。バリア層5の厚さは、例えば5nm以上30nm以下である。キャップ層6は、バリア層5上にエピタキシャル成長した半導体層である。キャップ層6は、窒化物半導体から構成され、例えばGaN層である。キャップ層6も不純物を含んでもよい。キャップ層6の厚さの下限値は、例えば1nmである。キャップ層6の厚さの上限値は、例えば5nmである。一実施例では、バリア層5はn型のAlGaN層であり、キャップ層6はn型GaN層である。
第1のSiN膜11は、キャップ層6上に設けられた絶縁性の保護膜である。第1のSiN膜11は、半導体積層体7の表面(特に、キャップ層6の表面6a)を保護するために設けられる。後述するように、第2のSiN膜12よりもエッチング耐性を高めるために、第1のSiN膜11は減圧CVD法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition;LPCVD)、もしくは有機金属気相成長法(Metal OrganicChemical Vapor Deposition;MOCVD)によって形成される。LPCVD法は、成膜圧力を下げ、成膜温度を高くすることによって、緻密な膜を形成する方法である。また、第1のSiN膜11は、ストイキオメトリな組成よりもSiの割合が大きい、いわゆるSiリッチな膜である。第1のSiN膜11の屈折率は例えば2.05以上である。MOCVD法を用いる場合、半導体積層体7を成長した装置にて第1のSiN膜11を形成してもよい。すなわち、MOCVD法を用いる場合、半導体積層体7が成長した基板2を上記装置から取り出すことなく、第1のSiN膜11を形成してもよい。この場合、基板2及び半導体積層体7を空気等に曝すことなく第1のSiN膜11を形成できる。
第1のSiN膜11の厚さの下限値は例えば10nmであり、上限値は例えば50nmである。第1のSiN膜11の厚さは、15nm以上25nm以下でもよい。第1のSiN膜11には、ゲート開口11a(第5の開口)と、ソース開口11bと、ドレイン開口11cとが形成されている。ゲート開口11aは、ソース開口11bとドレイン開口11cとの間に位置する。ゲート開口11a内では、キャップ層6が露出している。ゲート開口11aの開口縁は、ゲート開口11aの開口幅が半導体積層体7から離れるほど徐々に拡がり、半導体積層体7の積層方向に対して傾斜している。ゲート開口11aの開口幅は、例えば50nm以上600nm以下である。ソース開口11b及びドレイン開口11c内ではキャップ層6が除去されており、バリア層5が露出している。
ソース電極21は、ソース開口11bを塞ぎ、かつ、半導体積層体7上に設けられる。ソース電極21は、ソース開口11bを介してバリア層5と接している。ドレイン電極22は、ドレイン開口11cを塞ぎ、かつ、半導体積層体7上に設けられる。ドレイン電極22は、ドレイン開口11cを介してバリア層5と接している。ソース電極21及びドレイン電極22は、オーミック電極であり、例えば互いに重なるチタン(Ti)層とアルミニウム(Al)層との合金である。例えば、Ti層の厚さは20nm以下であり、Al層の厚さは100nm程度である。ソース電極21及びドレイン電極22は、Ti層、Al層、及びAl層の上に位置する他のTi層との合金でもよい。また、タンタル(Ta)層をTi層に代えて採用することもできる。
第2のSiN膜12は、第1のSiN膜11上に設けられる。後述するように、第1のSiN膜11よりもエッチング耐性を低くするために、第2のSiN膜12はプラズマCVD法によって形成される。プラズマCVD法では成膜温度が比較的低温(例えば300℃~350℃)に設定される。このため、第2のSiN膜12の膜質は、第1のSiN膜11よりも疎である。第2のSiN膜12のSi組成は、第1のSiN膜11のSi組成よりも小さい。また、第2のSiN膜12の屈折率は、第1のSiN膜11の屈折率よりも小さい。第2のSiN膜12の屈折率は、例えば2.0程度、もしくはそれ以下である。第2のSiN膜12の厚さの下限値は例えば30nmであり、その上限値は例えば200nmである。
第2のSiN膜12には、開口12a,12b及び12cが形成されている。開口12a(第6の開口)は、第1のSiN膜11のゲート開口11a上に位置し、第1のSiN膜11のうちゲート開口11a及びその周辺部を露出させる。開口12aの開口幅は、例えば100nm以上600nm以下である。このため、ゲート開口11aの開口幅は、開口12aの開口幅よりも狭い。開口12aの開口縁は、ゲート開口11aと同様に、半導体積層体7の積層方向に対して傾斜している。ゲート開口11aの開口縁とキャップ層6の表面6aとがなす角度θ11は、開口12aの開口縁とキャップ層6の表面6a(図1では、表面6aに略平行となっている第2のSiN膜12の上表面)とがなす角度θ12よりも小さい。角度θ11は、例えば45°~75°である。開口12bは、第2のSiN膜12のうちソース電極21を覆う部分に形成されており、ソース電極21の上面を露出する。ソース電極21は、開口12bを介して、図示しないソース電極パッドと接している。開口12cは、第2のSiN膜12のうちドレイン電極22を覆う部分に形成されており、ドレイン電極22の上面を露出する。ドレイン電極22は、開口12cを介して、図示しないドレイン電極パッドと接している。
ゲート電極23は、半導体積層体7においてソース電極21とドレイン電極22との間に位置する領域上に設けられ、ゲート開口11aを介してキャップ層6に接している。具体的には、ゲート電極23は、少なくともゲート開口11aを埋め込んでいる。ゲート電極23は、キャップ層6とショットキ接触する材料を含み、例えばニッケル(Ni)層と金(Au)層との積層構造を有する。この場合、Ni層がキャップ層6にショットキ接触する。なお、キャップ層6とショットキ接触できる材料としては、Niの他にPt(白金)等が挙げられる。Ni層の厚さは例えば200nmであり、Au層の厚さは例えば700nmである。
ゲート電極23は、キャップ層6及び第1のSiN膜11に接する第1の部分23aと、第1の部分23a上に位置する第2の部分23bとを有する。第2の部分23bの幅は、第1の部分23aの幅よりも大きい。このため、ゲート電極23の断面形状は、略T字形状を呈する。第1の部分23aは、少なくともゲート開口11aから露出するキャップ層6と、ゲート開口11aの開口縁とに接触している。このため、第1の部分23aにおいてキャップ層6に接触する端部である電極端23cは、断面略五角形状を呈する。電極端23cは、開口12a内にて露出する第1のSiN膜11の表面と、第2のSiN膜12の表面のうち開口12aの周辺部とに接してもよい。この場合、電極端23cの断面形状は、五角よりも多い角を有する多角形状を呈する。
次に、図2~図6を参照しながら本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する。図2(a),(b)、図3(a),(b)、図4(a),(b)、図5(a),(b)及び図6(a),(b)は、本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法を説明する図である。なお、図4(a),(b)、図5(a),(b)、及び図6(a),(b)は、トランジスタ1のうちゲート電極23付近の製造方法を拡大した図である。
まず、図2(a)に示されるように、バッファ層3、チャネル層4、バリア層5、及びキャップ層6を含む半導体積層体7を基板2上に形成する。例えば、MOCVD法を用いて、バッファ層3として機能するAlN層、チャネル層4として機能するGaN層、バリア層5として機能するAlGaN層、及びキャップ層6として機能するGaN層を、SiC基板上に順にエピタキシャル成長する。
続いて、図2(b)に示されるように、半導体積層体7の表面(キャップ層6の表面6a)を覆う第1のSiN膜11を成膜する。この工程では、ジクロロシランガス及びアンモニアガスを原料とする減圧CVD法もしくはMOCVD法により、第1のSiN膜11をキャップ層6上に形成する。第1のSiN膜11の厚さは、例えば20nmである。第1のSiN膜11を成膜する工程において、第1のSiN膜11の成膜温度の下限値は例えば800℃であり、上限値は例えば900℃である。これは、プラズマCVD法における成膜温度よりも極めて高い温度である。但し、この温度は、半導体積層体7の成長温度よりも低い。また、第1のSiN膜11の成膜圧力の下限値は例えば10Paであり、上限値は例えば100Paである。また、ジクロロシランの流量F1とアンモニアガスの流量F2との比(F1/F2)を例えば0.3以上とする。このジクロロシランの流量比は、ストイキオメトリとなるジクロロシランの流量比よりも大きいため、Siリッチな膜が形成される。ジクロロシランの流量F1は例えば10sccm~100sccmの範囲内であり、アンモニアガスの流量F2は例えば200sccm~2000sccmの範囲内である。なお、単位sccmは、標準状態での立方センチメートル毎分を意味する。1sccmは、1.69×10-4Pa・m3・sec-1に相当する。
一実施例では、ジクロロシランの流量F1は40sccmであり、アンモニアガスの流量F2は90sccmであり、成膜圧力は50Paであり、成膜温度は850℃である。このような成膜条件によれば、屈折率がおよそ2.1のSiリッチな第1のSiN膜11を得られる。なお、ジクロロシランの流量F1をさらに大きくすることによって、よりSiリッチな第1のSiN膜11を形成してもよい。
続いて、図3(a)に示されるように、第1のSiN膜11の一部を選択的にエッチングし、ソース開口11b及びドレイン開口11cを形成する。例えば、レジストマスクを介する選択的ドライエッチングにより、第1のSiN膜11にソース開口11b及びドレイン開口11cを形成する。さらに、ソース開口11b及びドレイン開口11c内のキャップ層6を、塩素系ガスを反応ガスとするドライエッチングにより除去する。これにより、ソース開口11b及びドレイン開口11c内においてバリア層5が露出する。その後、ソース開口11b内にソース電極21を形成し、ドレイン開口11c内にドレイン電極22を形成する。この工程では、ソース電極21及びドレイン電極22のための金属(例えば、Ti層及びAl層)を、例えば真空蒸着法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition;PVD)及びリフトオフにより形成する。その後、これらをオーミック電極とするため、例えば500℃~600℃の熱処理によって上記金属を合金化する。
続いて、図3(b)に示されるように、第1のSiN膜11上に第2のSiN膜12を成膜する。第2のSiN膜12は、第1のSiN膜11、ソース電極21及びドレイン電極22を覆う。この工程では、シランガス及びアンモニアガスを原料とするプラズマCVD法により、第2のSiN膜12を形成する。本実施形態では、第2のSiN膜12の厚さは、40nmである。この工程において、第2のSiN膜12の成膜温度の下限値は例えば320℃であり、その上限値は例えば350℃である。このように成膜温度を低くできるのは、シラン及びアンモニアの分解過程をプラズマが補助するからである。第2のSiN膜12の成膜圧力の下限値は例えば50Paであり、上限値は例えば200Paである。シランの流量F3は10sccm~50sccmの範囲内であり、アンモニアガスの流量F4は100sccm~500sccmの範囲内である。
一実施例では、シランの流量F3は20sccmであり、アンモニアガスの流量F4は200sccmであり、成膜圧力は133Paであり、成膜温度は320℃~350℃である成膜条件が採用される。このような成膜条件によれば、屈折率がおよそ1.8の第2のSiN膜12を得られる。
続いて、図4(a)に示されるように、第2のSiN膜12上に積層レジスト30を形成する。積層レジスト30は、第2のSiN膜12上にレジスト31~33を順に積層することによって形成される。このため、レジスト31(最下層レジスト)が第2のSiN膜12に接しており、レジスト32(中間層レジスト)がレジスト31とレジスト33(最上層レジスト)との間に位置する。レジスト31~33のそれぞれの厚さは、例えば150nm以上800nm以下である。本実施形態では、レジスト31と33のそれぞれの厚さが実質的に等しく形成されているが、これに限られない。また、レジスト32が最も厚く形成されているが、これに限られない。一実施例では、レジスト31~33のそれぞれの厚さは300/400/300nmである。
レジスト31~33のそれぞれは、電子線レジストである。電子線レジストは、電子線によって露光されるレジストである。レジスト31,33は、例えば、α-クロロアクリレートとα-メチルスチレンとの共重合体である。一実施例では、レジスト31,33として、日本ゼオン株式会社製のZEP520A-7が用いられる。また、レジスト32は、レジスト31,33とは異なる物質から構成される。レジスト32は、レジスト31,33と異なりアルカリ性溶液に対して可溶性を示す。一実施例では、レジスト32として、ポリメチルグルタルイミド(PMGI)が用いられる。
続いて、図4(b)に示されるように、積層レジスト30に開口30aを形成する。この工程では、まず、レジスト33に開口33a(第3の開口)を形成する。具体的には、開口33aの開口幅W1に対応する第1の幅でレジスト33を露光する(第1の露光)。第1の露光時にレジスト33に照射される電子線は、レジスト31に到達しないように調節される。これにより、トランジスタ1のT型ゲートの上部、T字の幅を精度よく設定できる。一実施例では、第1の露光時における電子線のドーズ量は、60μC/cm2である。なお、第1の幅(すなわち、開口幅W1)は、例えば500nmである。そして、レジスト33において露光された箇所を現像して開口33aをレジスト33に形成する。当該現像では、メチルイソブチルケトン(MIBK)及びメチルエチルケトン(MEK)の少なくとも一方を含む溶液によって、レジスト33の上記箇所をエッチングする。一実施例では、MIBKとMEKとの比(MIBK/MEK)を6/4以上に設定した溶液が用いられる。
レジスト33に開口33aを形成した後、開口33aに重なる開口32a(第2の開口)をレジスト32に形成する。具体的には、開口33aを介してレジスト32をウェットエッチングする。当該ウェットエッチングでは、例えばアルカリ性溶液を用いて、レジスト32に開口32aを形成する。アルカリ性溶液は、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液である。なお、開口32aの開口幅は、開口33aの開口幅よりも大きい。このため、レジスト33の一部は、レジスト32に対して庇として機能する。
レジスト32に開口32aを形成した後、開口32a,33aに重なる開口31a(第1の開口)をレジスト31に形成する。具体的には、開口32a,33aを介して、開口31aの開口幅W2に対応する第2の幅でレジスト31を露光する(第2の露光)。第2の露光時にレジスト31に照射される電子線のドーズ量は、上記第1の露光時における電子線のドーズ量よりも大きい。これにより、開口31aを確実に形成でき、かつ、その開口31aの幅を再現性よく制御できる。一実施例では、第2の露光時における電子線のドーズ量は、800μC/cm2である。第2の幅(すなわち、開口幅W2)は、上記第1の幅よりも小さく、例えば70nmである。開口31aの形成時に開口32a,33aの形状変更を防止する観点から、第2の露光時においてレジスト31に照射される電子線は、レジスト32,33には直接照射されない。そして、レジスト31において露光された箇所を現像して開口31aをレジスト31に形成する。当該現像では、レジスト33の現像に用いた溶液よりも弱い現像液が用いられる。これにより、レジスト31の現像時にレジスト33がエッチングされることを防止もしくは抑制できる。すなわち、開口33aの開口幅W1の広がりを防止もしくは抑制できる。一実施例では、レジスト31の現像液は、MIBKとイソプロピルアルコール(IPA)との混合液である。
以上のように露光及び現像、並びにエッチングを実施することによって、開口31aを有するレジスト31、開口32aを有するレジスト32、及び開口33aを有するレジスト33を含む積層レジスト30を形成する。開口31a~33aは、互いに重なっており、且つ、開口30aを構成する。開口31a~33aにおいて、開口31aの開口幅W2が最も小さく、開口32aの開口幅が最も大きい。このため、開口33aの開口幅W1は、開口31aの開口幅W1よりも大きく、開口32aの開口幅よりも小さい。
続いて、図5(a)に示されるように、積層レジスト30をマスクとし、プラズマエッチングにより第2のSiN膜12及び第1のSiN膜11に開口O(第4の開口)を形成する。この工程では、プラズマエッチングによって、第2のSiN膜12に開口12aを形成し、さらに、第1のSiN膜11にゲート開口11aを形成する。すなわち、開口Oは、ゲート開口11a及び開口12aを有する。キャップ層6においてゲート開口11aから露出する部分の幅は、開口31aの開口幅W2と等しいかもしくは実質的に等しい。この工程では、第1のSiN膜11に対するエッチング条件をそのまま第2のSiN膜12に対しても適用する。これにより、第2のSiN膜12に有意なサイドエッチが生ずるので、第2のSiN膜12に設けられる開口12aの開口幅は、ゲート開口11aの開口幅よりも大きくなる。プラズマエッチングは、例えば反応性イオンエッチング(ReactiveIon Etching;RIE)である。エッチングガスとしては、例えばフッ素系ガスが用いられる。フッ素系ガスとしては、例えば、SF6,CF4,CHF3,C3F6,及びC2F6からなる群から1つ以上が選択される。フッ素系ガスを用いる場合のエッチング条件としては、例えば、エッチングガスがSF6、反応圧力が2.0Pa、RFパワーが100Wにそれぞれ設定される。この工程では、RFパワーと同様に、反応炉内圧力も反応性ガスに由来するイオンの平均自由行程に影響するので、エッチングの異方性を左右する。なお、この工程にて、レジスト31のレジスト32側を向く表面31bの一部、すなわち、レジスト31の表面のうち、レジスト33の開口内に露出する部分もエッチングされる。これにより、表面31bには段差31cが形成される。
図7は、第1のSiN膜11のゲート開口11aの開口縁、及び第2のSiN膜12の開口12aの開口縁がエッチングにより後退する様子を概念的に示す図である。図7(a)は、エッチング深さと第2のSiN膜12の厚さとが互いに等しい状態(すなわちエッチングが第1のSiN膜11の上面に達した状態)を示している。図7(b),(c)は、第1のSiN膜11,12に対するエッチングが徐々に進行する様子を示している。図7(d)は、エッチング深さと第1のSiN膜11,12の厚さの和とが互いに等しい状態(すなわちエッチングがキャップ層6の上面に達して完了した状態)を示している。また、図中に示された破線の長方形D2は、第2のSiN膜12に対する深さ方向のエッチングレートa2と横方向のエッチングレートb2とのアスペクト比A2(A2=a2/b2)を表している。破線の長方形D1は、レジスト31と重複する領域の第1のSiN膜11が上方からはエッチングされないと仮定した場合の、第1のSiN膜11に対する深さ方向のエッチングレートa1と横方向のエッチングレートb1とのアスペクト比A1(A1=a1/b1)を表している。
本実施形態では、第2のSiN膜12がプラズマCVD法によって形成され、第1のSiN膜11が減圧CVD法によって形成される。前述したように、プラズマCVD法によって形成されたSiNは、減圧CVD法によって形成されたSiNよりも疎である。このため、プラズマCVD法によって形成されたSiNにおいて、RIE等のドライエッチングに対する耐性は、相対的に小さい。従って、第2のSiN膜12は化学的な反応主体で等方的にエッチングされるので、横方向のエッチングレートは比較的大きくなり、深さ方向のエッチングレートに近づく。一方、減圧CVD法によって形成されたSiNは緻密であり、RIE等のドライエッチングに対する耐性が相対的に大きい。従って、第1のSiN膜11においては化学的な反応が後退し、イオンのスパッタリング作用が相対的に大きくなり、横方向のエッチングレートは深さ方向のエッチングレートよりも十分に小さくなる。
上記のような第1のSiN膜11,12のエッチング特性の違いは、これらのエッチングレートに現れる。すなわち、第1のSiN膜11の深さ方向のエッチングレートa1は第2のSiN膜12の深さ方向のエッチングレートa2よりも遅くなり、また、第1のSiN膜11の横方向のエッチングレートb1は第2のSiN膜12の横方向のエッチングレートb2よりも遅くなる。更に、第1のSiN膜11のアスペクト比A1は、第2のSiN膜12のアスペクト比A2よりも大きくなる傾向がある。一例では、エッチングレートa1は4nm/minであり、エッチングレートa2は20nm/minであり、比(a2/a1)は5程度である。また、エッチングレートb1は0.5nm/minであり、エッチングレートb2は8nm/minであり、比(b2/b1)は16程度である。この場合、これらのアスペクト比A1,A2の比(A1/A2)は16/5となる。なお、成膜条件及びエッチング条件を変更することにより、比(A1/A2)を16/5より大きくすることもできる。
図7(a)~(d)に示されるように、第1のSiN膜11に対する深さ方向のエッチングが進む際、第2のSiN膜12に対する横方向のエッチングが同時に進み、開口12aの開口端が次第に後退する。従って、ゲート開口11aの周囲に位置する第1のSiN膜11の上面が次第に露出する。このとき、レジスト31の開口31aから半導体積層体7の表面に垂直な方向に沿ってのみエッチングガスが吹き付けられると仮定すると、第1のSiN膜11の上面はエッチングされない。従って、この場合、ゲート開口11aの開口端は図中のWaとなり、半導体積層体7の表面に対する開口端Waの傾斜角はアスペクト比A1のみに従う。しかし、多くの場合エッチングガスの進行方向は半導体積層体7の表面に垂直な方向に対して傾斜した成分を含んでおり、本工程では第1のSiN膜11の角部分(エッジ)のスパッタ作用によるエッチングが同時に進行する。図中のWbは、第1のSiN膜11の露出部分がレジスト31に覆われておらず第1のSiN膜11の角部分のエッチングが十分に進行したと仮定した場合のゲート開口11aの開口端形状を表している。この場合、ゲート開口11aの開口端は、ゲート開口11aの下縁から開口12aの下縁まで直線状に延びる。実際には、ゲート開口11aの開口端の形状はWaとWbとの中間、例えばWcの辺りになる。従って、半導体積層体7の表面に対する第1のSiN膜11のゲート開口11aの開口端の傾斜角θは、θ=tan-1(4/0.5)=tan-1(8)未満、θ=tan-1(t11/((t11/4)×8))=tan-1(0.5)以上となる。上限は、第1のSiN膜11をエッチングする間第2のSiN膜12のサイドエッチングが一切生じないとした場合(Waに相当)、下限は、第2のSiN膜のサイドエッチングが等方的に進行する場合(Wbに相当)を示す。ここでt11は第1のSiN膜11の厚みを示す。
第1のSiN膜11のゲート開口11aの下縁を基準とする第2のSiN膜12の後退量Bは、第2のSiN膜12が厚くなるほど大きくなる。一例として、第1のSiN膜11の厚さを20nmとし、第2のSiN膜12の厚さを40nmとした場合、後退量Bは70nmとなる。このとき、傾斜角θは75°となる。また、別の例として、第1のSiN膜11の厚さを20nmとし、第2のSiN膜12の厚さを120nmとした場合、後退量Bは100nmとなる。このとき、傾斜角θは70°となる。なお、後退量Bは、開口12aの開口端とゲート開口11aの開口端との間隔に相当する。
第2のSiN膜12が厚くなるに従って傾斜角θは小さくなるが、第2のSiN膜12の厚さが300nm以上になると、傾斜角θは60°程度で飽和する。傾斜角θが飽和する理由は、第1のSiN膜11の角部分だけでなくゲート開口11aの開口端部分もエッチングが進むからである。
また、エッチング時の圧力の増大(例えば、1Paから5Paへの増大)は、傾斜角θを小さくする方向に作用する。これは、イオンの平均自由行程が小さくなり、また、イオンの進行方向が等方的になるからである。すなわち、圧力増大によってエッチングの等方性が強まる傾向にあるからである。但し、圧力が増大した場合であっても、第2のSiN膜12の膜厚が厚くなると傾斜角θは飽和する。しかしながら、その傾斜角θの飽和角度は45°程度であり、圧力が高いほど飽和角度は小さくなる。
引き続き製造方法を説明すると、図5(b)に示されるように、レジスト31に設けられる開口31aを広げる。この工程では、積層レジスト30を電子線レジストの現像液に浸す。当該現像液は、例えばMIBK及びMEKの少なくとも一方を含む。開口Oを形成するとき、レジスト31の表面31b等にはプラズマが照射される(炭化処理)。このとき、レジスト31においてプラズマが照射された部分に含まれる分子が変性する。これにより、レジスト31におけるプラズマ被照射部分は、上記現像液によってエッチングされやすくなる。したがって、上記プラズマエッチングの実施中にレジスト31においてプラズマが照射された部分は、上記現像液によって除去される。この工程では、レジスト31の表面が後退するので、開口31aの開口幅W2が、ゲート開口11aの開口幅以上である開口幅W3まで広がる。開口幅W3は、開口12aの開口幅以上でもよいし、開口12aの開口幅より小さくてもよい。開口幅W3は、例えば開口幅W2を100nmと仮定すると140nm以上300nm以下である。なお、この工程では、レジスト31の表面31bに設けられる段差31cが深くなる。
一実施例では、MIBKとIPAとの比(MIBK/IPA)が89/11に設定された現像液に積層レジスト30を90秒間浸す。この場合、レジスト31は両側で約40nm後退し、開口31aの開口幅が広がる。上記現像液におけるMIBKの濃度を高める、もしくは当該現像液に積層レジスト30を浸す時間を延ばすことによって、レジストの後退量が大きくなる。なお、現像液がMIBKの代わりにMEKを含む場合であっても、同様の結果が得られる。
レジスト31に設けられる開口31aを広げる工程では、レジスト33においてプラズマが照射された部分も除去される。したがって上記工程では、レジスト33の開口幅W1が開口幅W4まで拡がる。また、レジスト33の表面の全体にプラズマが照射されるため、レジスト33が薄くなる。
続いて、図6(a)に示されるように、開口31a~33a及び開口Oを介して、開口Oから露出するキャップ層6上に、金属を堆積する。金属の堆積は、例えばPVD法によって実施される。この工程では、まず、積層レジスト30をマスクとして、開口31aの開口幅W3に相当する幅を有し、ゲート開口11aの開口幅でキャップ層6に接触する第1の部分23aを堆積する。上述したように開口31aの開口幅が広げられたことから、ゲート開口11aは、キャップ層6だけでなく第1のSiN膜11、及びレジスト31上にも設けられる。次に、積層レジスト30をマスクとして、第1の部分23aよりも大きい幅を有する第2の部分23bを、第1の部分23a上及びレジスト31上に堆積する。ここで、段差31cの幅は、例えば開口33aが広がる前の開口幅W1に相当する。
続いて、図6(b)に示されるように、積層レジスト30を除去する。この工程では、例えばリフトオフによって積層レジスト30を除去する。これにより、図6(a)に示されているレジスト33上に堆積した金属41を、レジスト31~33と同時に除去できる。以上の工程により、図1に示されるトランジスタ1が形成される。なお、ゲート電極23等を保護する観点から、積層レジスト30の除去後に保護膜が形成されてもよい。この保護膜は、例えば、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition;ALD)による酸化アルミニウム膜、プラズマCVD法による窒化ケイ素膜等である。ゲート電極23の表面を保護膜によって良好に覆う観点から、当該保護膜は、ALD法によって形成される酸化アルミニウム膜でもよい。
以上に説明した本実施形態による半導体装置の製造方法によって得られる作用効果について、図8を参照しながら説明する。図8は、従来のゲート電極の形成工程を示す図である。図8に示されるように、従来においては、レジスト131の開口131aを広げることなくゲート電極123が形成されている。この場合、ゲート電極123の第1部分123aの幅は、第1のSiN膜11のゲート開口11aの開口幅(すなわち、開口幅W2)と同一になる。加えて、第1部分123aにおいてキャップ層6に接触する端部(電極端123c)は、断面矩形状を呈する。この場合、電極端23cにおいてキャップ層6に接する角部には電界が集中しその強度が高められ、トランジスタの電流コラプスが悪化する傾向にある。
これに対して本実施形態に係るトランジスタ1の製造方法によれば、レジスト31の開口31aを広げた後、T型形状を呈するゲート電極23の第1の部分23aが形成されている。これにより、第1の部分23aの電極端23cは、キャップ層6だけでなく第1のSiN膜11の開口縁に接する。このため、電極端23cの断面形状は、従来とは異なり、五角以上を有する多角形状を呈する。ここで、ゲート開口11aの開口縁は、ゲート開口11aの幅が半導体積層体7から離れるほど徐々に拡がるように、半導体積層体7の積層方向に対して傾斜している。これにより、電極端23cにおいてキャップ層6と第1のSiN膜11とに接する角部がなす角度は鈍角になる。すなわち、電極端23cの当該角部がなす角度は、上記従来の電極端123cの角部よりも大きくなる。このため、本実施形態に係る製造方法によって製造されるトランジスタ1の電極端23c(特に、その上記角部)には、従来のゲート電極123の電極端123cよりも電界が集中し難くなる。したがって、本実施形態によれば、従来よりもトランジスタの電流コラプスが改善される。
本実施形態のように、レジスト31~33のそれぞれは、電子線レジストであり、積層レジスト30を形成する工程は、レジスト33を開口33aに対応する第1の幅で露光する工程と、レジスト33を現像して開口33aをレジスト33に形成する工程と、レジスト32に開口32aを形成する工程と、レジスト31を開口31aに対応する第2の幅で露光する工程と、レジスト31を現像して開口31aをレジスト31に形成する工程と、を含んでもよい。この場合、開口31a,33aの開口幅を良好に制御できる。
本実施形態のように、開口31aを広げる工程は、積層レジスト30をMIBK及びMEKの少なくとも一方を含む溶液に浸す工程を含んでもよい。この場合、レジスト31を良好に後退できるので、容易に開口31aを広げられる。
本実施形態のように、開口Oは、第1のSiN膜11に形成されるゲート開口11aと、第2のSiN膜12に形成される開口12aとを有し、ゲート開口11aの開口幅は、開口12aの開口幅よりも狭く、ゲート開口11aの開口縁とキャップ層6の表面6aとがなす角度θ11は、開口12aの開口縁とキャップ層6の表面6aとがなす角度θ12よりも小さく、開口31aを広げる工程では、開口31aの開口幅を、ゲート開口11aの開口幅以上にしてもよい。この場合、電極端23cの断面形状は、確実に五角以上を有する多角形状を呈する。
本実施形態のように、キャップ層6上に金属を堆積する工程は、開口31aの開口幅W3に相当する幅を有し、ゲート開口11aの開口幅でキャップ層6に接触する第1の部分23a、および、第1の部分23aよりも大きい幅を有する第2の部分23bを、連続して堆積する工程と、を含んでもよい。この場合、T型のゲート電極23を良好に形成できる。
本実施形態のように、開口31aを広げる工程では、プラズマエッチングの実施中にレジスト31においてプラズマが照射された部分を炭化処理により除去してもよい。この場合、レジスト31の濡れ性の向上によって均一性を向上できる。
本実施形態のように、積層レジスト30を形成する工程では、レジスト31~33のそれぞれの厚さが実質的に等しく形成されてもよい。
本発明による半導体装置の製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではオーミック電極(ソース電極及びドレイン電極)を形成した後に第2のSiN膜を形成しているが、第2のSiN膜を先に形成し、その後にオーミック電極を形成してもよい。この場合、オーミック電極の熱処理(合金化)の際に金属が第2のSiN膜に触れないことが好ましい。その場合、第2のSiN膜への金属の拡散を回避できる。但し、第1のSiN膜は緻密な膜質を有するので、金属は第1のSiN膜には触れてもよい。
上記実施形態では、第2のSiN膜が形成された後、第1及び第2のSiN膜が大気に曝されることなくエッチングされてもよい。この場合、ゲート電圧の電界が及ぶ絶縁膜の内部に、イオン及び炭素原子等の不純物が混入することを防止できる。従って、当該不純物に起因するトランジスタの特性の変動や信頼性の低下を回避できる。