JP7062961B2 - 焼鈍鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
図2中、白く見える針状の部位はベイナイトである。ベイナイトは、オーステナイト結晶粒界を越えて隣の結晶粒へは成長できないため、ベイナイト組織の「針」の長さで焼入れ時のオーステナイト結晶粒(焼入れ後の組織観察においては旧オーステナイト結晶粒、とも呼ぶ)のサイズが推定できる。黒く現出されている線は旧オーステナイト結晶粒界であり、確かにベイナイト組織の「針」が目立つ領域では旧オーステナイト結晶粒(焼入れ時のオーステナイト結晶粒)が粗大であることが判る。より広い視野で評価したところ、1つの粗大粒のサイズは100μmを超えていた。
なお、結晶粒を成長させないため、焼入れの加熱温度を引き下げ(例えば1010℃)、また焼入れの保持時間を非常に短く(例えば15分)しても、図2のような粗大なオーステナイト結晶粒が発生することがある。このことから,粗大なオーステナイト結晶粒は焼入れ加熱時の粒成長によって発生したのではないと推定される。
しかしメモリー効果は、焼鈍が(Ac3変態点-20℃)を超えれば発現せず、焼鈍された素材は焼入れ時に微細粒になるはずである。実際、図2の焼入れに用いた焼鈍材は、900℃で球状化焼鈍(600℃までを時速15℃で冷却)されており、JIS SKD61のAc3変態点である890℃を越えて処理されていた。したがって、これ以上の対策を講じることは現状では難しい。
特に対策が難しいのは、図2のような粗大粒が「常に」および「金型の断面内の全部位に」発生する訳ではないことである。早期に割れた金型を調査すると、割れた部位付近のみに粗大粒部が観察され、他のほとんどの領域は微細粒組織ということもある。
このように、ダイカスト金型の焼入れ時のオーステナイト組織を安定して微細粒状態とし、それによって焼入れ焼戻し後の衝撃値を確保し、金型の使用中の割れを回避することは、従来十分には出来ていない。そして粗大粒による早期割れの問題は、特に大きな金型において顕在化している。
上記の手法でフェライト結晶粒界を明確にした焼鈍鋼材の組織を広い視野(鋼材の断面全体または断面の中の代表的な部位)で観察し、その中で最大のフェライト結晶粒を選ぶ。フェライト結晶粒は真円ではなく、多角形あるいは不定形をしている。選定した最大のフェライト結晶粒の面積を画像処理などで求め、そのフェライト結晶粒の面積と等しい面積を有する円の直径(真円相当径)を算出する。これが真円に換算した場合のフェライト結晶粒の直径である。
P≦0.05,S≦0.008,Cu≦0.30,Ni≦0.30,Al≦0.10,O≦0.01,W≦0.30,Co≦0.30,Nb≦0.004,Ta≦0.004,Ti≦0.004,Zr≦0.004,B≦0.0001,Ca≦0.0005,Se≦0.03,Te≦0.005,Bi≦0.01,Pb≦0.03,Mg≦0.02,REM≦0.10などである。
(1)焼鈍された鋼材に粗大粒があると、焼入れ時のオーステナイト組織を整細粒化できない、
(2)焼鈍前組織(熱間塑性加工後の組織)が粗大だと、焼鈍が1回では焼鈍された鋼材に粗大粒が発生する、
(3)上記の傾向は、焼鈍がAc3変態点より低い場合に顕著である、ことを突き止めた。これらの知見を逆に利用し、焼入れ材の組織を安定して微細粒にすることに成功したのが本発明である。
すなわち、焼鈍前組織(熱間塑性加工後の組織)が粗大であっても、Ac3変態点直下またはAc3変態点超の温度領域での焼鈍を複数回繰り返すことによって、焼鈍された鋼材に観察される最大のフェライト結晶粒径を120μm(1つの結晶粒を真円に換算した場合の直径)以下とし,これによって焼入れ時に100μmを超えるオーステナイト結晶粒が発生しないようにするのである。
焼鈍温度は、Ac3変態点-20℃<焼鈍温度≦Ac3変態点+60℃とする。焼鈍温度が過度に低いと,図5に示した現象が発現し易くなる。焼鈍温度が過度に高いと、未固溶炭化物(炭化物が球状化する際の核になる未固溶炭化物)が減少して軟質化が困難になり、所定温度(例えば600℃)への冷却速度を非常に小さくしなければならず、非効率的である。JIS SKD61の場合、焼鈍温度は880~930℃が望ましい。JIS SKD61よりも低Siや高Mnの鋼はAc3変態点が低くなるため、このような鋼の望ましい焼鈍温度は830~910℃となる。なお、本発明で扱うAc3変態点は100~200℃/Hrの速度で加熱した場合の値を指す。
焼鈍前の組織状態によっては、焼鈍が2回でも充分な効果(焼入れ時に100μmを超える粗大なオーステナイト結晶粒が発生しないこと)を得られるが、効果を安定的に発現させるための好ましい焼鈍回数は3回以上である。
「請求項1の化学成分について」
0.28≦C<0.42
C<0.28では、焼入れ速度が小さく、かつ焼戻し温度が高い場合に金型として必要な硬度を安定して得にくい。C<0.28では、焼入れ時のオーステナイト粒界をピン止めする未固溶VCが過少になり、オーステナイト結晶粒を微細に維持できない。
0.42≦Cでは粗大な炭化物が増加し,それが亀裂の起点となるため衝撃値が低下する。また、0.42≦Cでは溶接性が低下する。好適な範囲は、諸特性のバランスに優れた0.29≦C≦0.41、更に好ましくは0.30≦C≦0.40である。
Si<0.01では、機械加工時の被削性が著しく劣化する。1.50<Siでは、熱伝導率の低下が大きい。1.50<Siでは、Ac3変態点が高くなり過ぎ、焼鈍の加熱温度も高くせざるを得ず、焼鈍温度への加熱や終止温度への冷却に時間がかかって生産効率が低下する。1.50<Siでは、炭化物が大きくなり過ぎ、焼入れ時のオーステナイトの粒成長を抑制する効果が不十分となる。好適な範囲は、諸特性のバランスに優れた0.02≦Si≦1.35、更に好ましくは0.03≦Si≦1.20である。
素材の主成分は、0.38C-0.45Mn-5.20Cr-1.19Mo-0.91V-0.020Nであり、この基本成分に対してSiを変化させた。素材は室温から915℃への加熱後に600℃までを時速15℃で冷却する焼鈍を受けている。この焼鈍組織に均一分散する球状炭化物の平均サイズを画像処理で求め、Si量に対して示したものが図6である。これらの炭化物は焼入れ時に一部が未固溶炭化物として残存し、その分散によってオーステナイト結晶粒の粒成長を抑制する。
粒成長の抑制効果には、炭化物サイズの影響が大きい。炭化物の面積率が同じ場合、小さな炭化物の方がオーステナイトの粒成長を抑制する効果が強い。従ってSiが過度で炭化物が大きくなり過ぎた場合には、焼入れ時のオーステナイトの粒成長を抑制し切れなくなる。このためSiの上限規定は重要となる。
Mn<0.20では焼入れ性が不足し、ベイナイトの混入による衝撃値の低下を招く。1.20<Mnでは焼鈍性が非常に劣化し、軟質化させる熱処理が複雑かつ長時間となって製造コストを増加させる。また、1.20<Mnでは熱伝導率の低下も大きい。好適な範囲は、諸特性のバランスに優れた0.25≦Mn≦1.10、更に好ましくは0.35≦Mn≦1.00である。
Cr<4.80では、焼入れ性と耐食性が不足する。ダイカストや熱間鍛造の大きな金型では、焼入れ速度が小さくなる金型の内部まで完全に焼きを入れ(マルテンサイト単相化し)、高衝撃値を確保しなければならないが、この必達要件を、焼入れ性が不足するCr<4.80では満たせない。また、Cr<4.80では焼鈍性が非常に劣化し、ダイカストや熱間鍛造の金型用素材として求められる良好な焼鈍性が得られない。
一方、6.00<Crでは、軟化抵抗と熱伝導率の低下が大きい。ダイカストや熱間鍛造の金型では、高温の被加工材と接触して加熱されても強度が低下しないよう高い軟化抵抗が必須となるが、この必達要件を6.00<Crでは満たせない。また、金型の熱疲労軽減のために要求される高熱伝導率も6.00<Crでは満たせない。
Crの請求範囲は1~8%と広い特許が一般的であるが、上記の理由から、金型の実際の使用状況に則した4.80≦Cr≦6.00の狭い範囲を本発明では規定する。好適な範囲は、諸特性のバランスに優れた4.90≦Cr≦5.90、更に好ましくは5.00≦Cr≦5.85である。
Mo<0.80では2次硬化の寄与が小さく、焼戻し温度が高い場合に高硬度を安定して得ることが困難となる。3.20<Moでは焼鈍性が著しく悪くなる。また、3.20<Moでは破壊靭性の低下が顕著で、金型の割れが懸念される。3.20<Moでは素材コストの上昇も著しい。3.20<MoではAc3変態点が高くなり過ぎ、焼鈍の加熱温度も高くせざるを得ず、焼鈍温度への加熱や終止温度への冷却に時間がかかって生産効率が低下する。好適な範囲は,諸特性のバランスに優れた0.90≦Mo≦3.15、更に好ましくは1.00≦Mo≦3.10である。
粒成長の抑制効果には、炭化物の面積率の影響が大きい。炭化物のサイズが同じ場合、面積率の大きい方がオーステナイトの粒成長を抑制する効果が強い。従って微細粒維持の観点からMoは多い方が好ましい。一方、炭化物の面積率を大きくするような成分系にすると、5μm以上の粗大な炭化物が凝固時に晶出しやすくなり、これが衝撃値を著しく低下させる。微細粒維持と粗大炭化物回避のためにMoの上限規定は重要となる。
V<0.40では焼入れ時のVCが少なくなるため、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果に乏しい。1.20<Vでは微細結晶粒を維持する効果が飽和するだけでなくコスト増を招く。また、1.20<Vでは5μm以上の粗大な晶出炭化物(凝固時に析出するもの)が増加し、それが亀裂の起点となるため衝撃値が低下する。好適な範囲は、諸特性のバランスに優れた0.44≦V≦1.15、更に好ましくは0.48≦V≦1.10である。
N<0.002では、焼入れ時のVCが少なくなるため、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果に乏しい。焼入れ時の未固溶VC量に及ぼすNの影響は、CやMoやVと同様に大きく、焼入れ時のオーステナイト粒径を考える場合にNは無視できない重要な要素である。
一方、0.080<NではN添加に要する精錬の時間とコストが増加し、素材コストの上昇を招く。さらに、0.080<Nでは粗大な窒化物が増加し、それが亀裂の起点となるため靭性が低下する。好適な範囲は、諸特性のバランスに優れた0.005≦N≦0.060、更に好ましくは0.008≦N≦0.045である。
本発明の焼鈍鋼材は、大きな金型を対象とするため断面サイズが大きい。本発明の特徴の1つは、断面サイズが大きくても真円相当径で120μmを超える粗大なフェライト結晶粒が存在しないことである。
図8は、焼鈍鋼材の最大フェライト結晶粒径に及ぼす焼鈍鋼材の厚さの影響を示している。この焼鈍鋼材は、本発明の請求項8とは異なる通常の工程で製造した。同図によればフェライト結晶粒径には鋼材の幅Wも影響するが、鋼材の厚さHの影響が大きい。大きな金型を作るには、厚さH200mm以上、且つ幅W250mm以上が必要であるが、この領域においては最大のフェライト結晶粒径が120μmを超えてしまう。図9はその一例を示したもので、厚さHおよび幅Wがともに500mmの焼鈍鋼材での組織を示す。なおこの鋼材の成分は、0.34C-0.09Si-1.04Mn-5.11Cr-1.83Mo-0.52V-0.015Nである。
なお、「厚さ」及び「幅」の方向は、素材を熱間で塑性加工した際に最終的に長さが伸びた方向(いわゆる、ファイバー方向)に対して直交する方向をいう。そして、2つの方向のうち小さい方を「厚さ」、大きい方を「幅」として扱う。非常に大きな素材あるいは長い素材から切り出され、ファイバー方向が不明な場合であっても、ファイバー方向は組織から判定できる。具体的には、偏析の向き、介在物の分布、介在物の伸長方向などを評価すれば良い。
本発明の焼鈍鋼材は、その後、機械加工が施されるため、機械加工が可能な状態にまで軟質化されていることが要求される。そこで本発明は、硬さを100HRB以下とする。
炭化物の平均粒径:0.18μm以上、0.29μm以下
上記したように、炭化物は焼入れ時にその一部が未固溶炭化物として残存し、その分散によってオーステナイト結晶粒の粒成長を抑制する。このような効果を得るため焼鈍組織における炭化物の平均粒径は0.18μm以上とする。一方、粗大な炭化物は衝撃値を低下させる要因となることからその上限を0.29μmとする。炭化物の平均粒径の好ましい範囲は、0.185μm以上、0.280μm以下である。
また、炭化物の面積率は大きい方が粒成長抑制効果は大きいものの、炭化物の面積率が過度に大きくなると粗大な炭化物が生じ易くなり、衝撃値を低下させる要因となることから炭化物の面積率は3.0%以上、10.5%未満とする。炭化物の面積率の好ましい範囲は、3.2%以上、10.0%以下である。
焼入れ性を向上させるため、質量%で、
0.30<Cu≦1.00
0.30<Ni≦1.50
の少なくとも1元素を含有させる。これらの元素が過度に多いと,焼鈍性が劣化し熱伝導率も低下する。また、Cuが1.00%超では、熱間塑性加工での割れが問題になる。
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には、
0.0001<B≦0.0050
を含有させる。
BはBNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、請求項5に掲げる元素が挙げられる。請求項5の元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては請求項5に規定する範囲で添加する場合もある。Bが鋼中のNと結合してBNが形成されても、余剰のBが鋼中に単独で存在すればそれが焼入れ性を高める。
Bはまた被削性の改善にも有効である。被削性を改善する場合にはBNを形成させれば良い。BNは性質が黒鉛に類似しており、切削抵抗を下げると同時に切屑破砕性を改善する。尚、鋼中にBとBNがある場合には焼入れ性と被削性が同時に改善される。
Cを増すことなく、WやCoを選択的に添加して強度確保を図ることが出来る。Wは,炭化物の析出によって強度を上げる。Coは,母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。具体的には、
0.30<W≦5.00
0.30<Co≦4.00
の少なくとも1種(1元素)を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。
予期せぬ設備トラブルなどによって、焼入れ加熱温度が高くなったり焼入れ加熱時間が長くなれば、結晶粒の粗大化による各種特性の劣化が懸念される。そのような場合に備え、Nb-Ta-Ti-Zrを選択的に添加し、これらの元素が形成する微細な析出物でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが出来る。具体的には、
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
オーステナイト結晶粒の成長を抑制するために、Nと結合してAlNを形成するAlを添加しても良い。また、AlはNとの親和力が高く、鋼中へのNの侵入を加速する。このためAlを含有する鋼材を窒化処理すると、表面硬さが高くなりやすい。より高い耐摩耗性を求めて窒化処理をする金型には、Alを含む鋼材を使う事が有効である。具体的には、
0.10<Al≦1.50
を含有させることが出来る。
但し、Alが所定量を超えると、熱伝導率や靭性の低下を招く。
ダイカスト金型は非常に複雑な形状をしているため、被削性の良さが求められる。本発明鋼のSi量のレベルでも実用的な被削性は有しているが、更なる被削性の向上のために快削元素を添加しても良い。具体的には、
0.008<S≦0.200
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は被削性の飽和と熱間加工性の劣化、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
本発明の焼鈍鋼材は、ダイカストや熱間鍛造の大きな金型用の材料として用いることを想定している。そのような用途では焼入れ性や軟化抵抗や熱伝導率の観点から、4.80≦Cr≦6.00の狭い範囲が必須である。そこで、その実情に則し4.80≦Cr≦6.00の鋼材を対象に効果を検証する。表1において、鋼種A~N,R,Sは、各元素の添加量が本発明の請求範囲内である。一方、鋼種O~Qは、少なくとも1元素が本発明の請求範囲を外れている。
焼戻し材の中心部(インゴットのトップ側)から、Ac3変態点測定用の試験片と、10mm×10mm×20mmの小ブロック(熱処理テスト用)と、11mm×11mm×55mmの角棒(衝撃試験片用)を作成した。これらに対して、焼鈍条件の異なる3通りの熱処理テストを行った。なお、焼鈍による組織変化を調査するテストは幅450mm×厚さ200mmのブロックをそのまま使うと大掛かりになるため、上記の小ブロックで「大断面材を模擬した温度履歴」を与える工夫を取り入れ効率的に行うようにした。もちろん、実際の大断面材を正確に模擬した温度履歴を与えるのであるから、実際の大断面材で起こる現象が再現される。
まず、室温から時速200℃で1100℃まで加熱する間の試験片の寸法変化からAc3変態点を判定した。次に、10mm×10mm×20mmの小ブロックを焼鈍した。焼鈍に先立ち、実生産での熱間加工を模擬した1240℃での1時間の加熱を行い、結晶粒を粗大化させ、加熱後は室温まで冷却した。その後この小ブロックに焼鈍を施した。焼鈍は、鋼材(小ブロック)を(Ac3変態点-20℃)<焼鈍温度≦(Ac3変態点+60℃)に加熱し、焼鈍温度で2時間保持した後、600℃まで時速20℃で冷却し、以降は放冷する工程とした。焼鈍処理の回数は1回のみである。焼鈍後はHRB硬さを測定し、酸で腐食後に最大のフェライト結晶粒径(真円相当径)、炭化物の面積率、炭化物の平均粒径を評価した。なお、最大のフェライト結晶粒径(真円相当径)の求め方は段落[0016]に示した通りである。
以上の結果を表2に示す。
また焼鈍された鋼材01~19の組織は、何れも粗大であり、観察面に存在する最大のフェライト結晶粒径は、本発明の規定である120μm以下を満たせなかった。焼鈍状態は図3(b)のような組織であり、熱間加工を模擬した1240℃加熱時の粗大な結晶粒の影響が強く残っている。
炭化物の面積率は、鋼材16以外は本発明の規定を満たした。炭化物の平均粒径は、全ての鋼材が本発明の規定を満たした。
以上のように、化学成分や焼鈍温度が本発明の範囲にあっても、焼鈍回数が1回では本発明が規定する焼鈍組織を得ることが出来ず、従って焼入れ後の組織や衝撃値も望ましい状態ではない。
次に、化学成分や焼鈍温度が本発明の範囲で、且つ焼鈍を3回繰り返した場合を検証した。工程としては1240℃加熱を1回与えた後に、表2の場合と同じ温度の焼鈍をここでは3回行い、その後1030℃焼入れを行なった。焼鈍回数以外の条件は表2と同じである。その結果を表3に示す。
焼鈍された各鋼材21~39の組織は、鋼材37以外は微細化し、最大のフェライト結晶粒径は本発明の規定である120μm以下を満たした。鋼材37以外の焼鈍状態は図4(b)のような組織であり、熱間加工を模擬した1240℃加熱時の粗大な結晶粒の影響は残っていない。炭化物の面積率は、鋼材36以外は本発明の規定を満たした。また、炭化物の平均粒径は全ての水準が本発明の規定を満たした。
鋼材35と鋼材37以外の焼入れ状態は、図4(c),(d)のような組織であり、全面が細粒化していた。このように組織が微細であるため、焼戻し後において金型として慣例的に求められている25J/cm2を超える衝撃値が得られた。実際に金型になった場合には、早期破壊しないことが期待される。ただし、炭化物形成元素の量が多い鋼材36は、5μm以上の粗大な炭化物を密集して晶出しやすく、これが残存して破壊の起点となるため、結晶粒が微細でも衝撃値は低い。
以上より、焼入れ時のオーステナイト結晶粒を微細に維持するには、焼鈍状態が軟質かつ細粒であること、焼入れ時に炭化物を多く分散させることが必要と分かる。鋼材21~34,38,39(何れも実施例)のように、化学組成と焼鈍温度が本発明の範囲であれば、複数回の焼鈍を行うことで本発明が規定する焼鈍組織を得ることができ、従って焼入れ後の組織や衝撃値が望ましい状態となる。
焼鈍時の加熱温度が(Ac3変態点-20℃)以下の場合を検証した。この焼鈍条件は、本発明の範囲から外れるが、鋼材の化学成分が本発明の範囲内であっても、焼鈍条件が不適切だと充分な効果が得られないことを確認するために行った。
表4に示す鋼材41~56(何れも比較例)は、表1に示した鋼種A~N,R,Sを用いている。これらの鋼種は、化学成分が本発明の範囲内である。鋼材41~56に対しては、熱間加工を模擬した1240℃での1時間の加熱を与えた後に、焼鈍を3回繰り返した。それぞれの焼鈍は、焼鈍温度が(Ac3変態点-20℃)以下となるよう加熱し、焼鈍温度で2時間保持した後、600℃までを時速20℃で冷却し、以降は放冷する工程とした。焼鈍された鋼材の評価は表2の検証に準じた。
11mm×11mm×55mmの角棒(衝撃試験片用)に対しても、熱間加工を模擬した1240℃加熱を1回と、焼鈍温度≦(Ac3変態点-20℃)の焼鈍3回と、1030℃の焼入れを施し、焼戻しで46HRCに調質した後、表2の検証に準じて衝撃値を評価した。
以上の結果を表4に示す。
Claims (8)
- 質量%で、
0.28≦C<0.42
0.01≦Si≦1.50
0.20≦Mn≦1.20
4.80≦Cr≦6.00
0.80≦Mo≦3.20
0.40≦V≦1.20
0.002≦N≦0.080
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有し、
断面サイズが厚さ200mm以上、且つ幅250mm以上であり、
硬さが100HRB以下、組織中に観察される最大のフェライト結晶粒を真円に換算した場合の直径が120μm以下で、
炭化物の面積率が3.0%以上、10.5%未満で、炭化物の平均粒径が0.18μm以上、0.29μm以下であることを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1において、質量%で、
0.30<Cu≦1.00
0.30<Ni≦1.50
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で、
0.0001<B≦0.0050
を更に含有することを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1~3の何れかにおいて、質量%で、
0.30<W≦5.00
0.30<Co≦4.00
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1~4の何れかにおいて、質量%で、
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1~5の何れかにおいて、質量%で、
0.10<Al≦1.50
を更に含有することを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1~6の何れかにおいて、質量%で、
0.008<S≦0.200
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする焼鈍鋼材。 - 請求項1~7の何れかに記載の焼鈍鋼材を製造するに際して、
鋼材を、Ac3変態点-20℃を超え、Ac3変態点+60℃以下の温度に加熱する焼鈍を、該鋼材に対し複数回行うことを特徴とする焼鈍鋼材の製造方法。
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