JP7061777B2 - 油性インキ組成物 - Google Patents
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一方、上記課題を解決するために、ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸誘導体などの吸湿性が少ない油性溶剤のみを混合した溶剤を使用した場合、前記溶剤系には水溶性のクエン酸が溶解しない為、金属石鹸が良好に分散せず、和紙などの易吸収性用紙に対して印影が滲むなどの不具合が発生していた。
本発明の油性インキ組成物は、配合された金属石鹸によってチキソトロピー性(塑性)が与えられるので、静止状態では粘度が比較的高く、流動状態では粘性が低下する性質を持っている。よって、押印時のインキを振動させて流動化した直後の印影は、吸収性用紙に素早く浸透し、短時間での乾燥を達成する。また、押印直後から印影は静止状態に移行し、用紙の繊維を溶剤や顔料が伝っていくことを防止するので、上質紙やPPC用紙などの普通吸収性用紙だけでなく、和紙などの易吸収性用紙に対しても滲むことなく、きれいで鮮明な印影が得られる。また、マイクロメーター以下のナノオーダーサイズの極小顔料でもインキ組成物中に良分散させることができ、和紙等の薄い紙において滲みを生じること無く鮮明捺印が可能である。
また、インキ補充時は通常容器からインキを補充するために、インキが振動して低粘度化し、インクパッドに速やかに浸透することでインキ含浸時間を短縮できる。
更に、前記リン酸エステルはクエン酸に比べて酸性が弱く、同量配合した場合、リン酸エステル配合インキの方が酸性が弱い為、紙に浸透しても紙の繊維を酸化する虞がない。その為、リン酸エステルは金属石鹸分散の為の配合量の自由度がクエン酸に比べて高い。
本発明に用いる溶剤は、ヒマシ油とヒマシ油脂肪酸誘導体を混合してなる油性溶剤である。
ヒマシ油脂肪酸誘導体としては、アルキレンオキサイドによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルや、1価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキルエステル、2価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルなどのヒマシ油脂肪酸誘導体であって、通常市販されているものを用いることができる。
アルキレンオキサイドによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルとは、プロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドによりヒマシ油の一部又は全部を変性して得られるヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルをいい、変性度10~100%のものが好ましく用いられる。ヒマシ油の主成分がリシノール酸であるのでヒマシ油脂肪酸多価アルコールエーテルの大部分は、リシノール酸多価アルコールエーテルである。
1価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキルエステルとは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1価及び2価のアルコールによりヒマシ油の一部又は全部を変性したヒマシ油脂肪酸アルキルエステルをいい、変性度10~100%のものが好ましく用いられる。ヒマシ油脂肪酸アルキルエステルの大部分は、リシノール酸アルキルエステルである。具体的には、CO-FAブチルエステル(伊藤製油(株)製)が挙げられる。
2価アルコールによりヒマシ油を変性したヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルとは、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコールによりヒマシ油の一部又は全部を変性したヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルをいい、変性度10~100%のものが好ましく用いられる。ヒマシ油脂肪酸アルキレングリコールエステルの大部分は、リシノール酸アルキレングリコールエステルである。具体的には、MINERASOL S-74(伊藤製油(株)製)が挙げられる。
また詳細は非開示であるが、ヒマシ油脂肪酸エステルとして、リックサイザーC-88(伊藤製油(株)製)等が挙げられる。
上記溶剤は、粘度、他の物質の溶解力、使用用途、対象押印物の性質、インキ吸蔵体や容器等の侵食等を勘案して任意に混同して使用することができるが、溶剤総量はインキ全量に対して30~99重量%が使用され、インキ全量に対して40~95重量%を用いるのが好ましい。
これらの顔料は通常、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどの公知の樹脂などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。
また、着色剤として染料を配合することを許容する。染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の油溶性染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
その中でもステアリン酸アルミニウムが、顔料の分散安定性を損なわないため、特に好ましい。
また、本発明に用いる金属石鹸としては、0.1μm~100μmのものが使用でき、特に、0.1μm~75μmのものが好ましく用いられる。また、粉状のもの、エマルジョン状のものどちらも使用できる。
本発明に用いる金属石鹸は、インキ全量に対して0.9~1.7重量%が使用され、1.3重量%が特に好ましい。
また、リン酸エステルのHLBを適切にすることでヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸誘導体などの油性有機溶剤中においてリン酸エステルが溶解しやすく、金属石鹸の分散剤として良好に働く。その為、前記金属石鹸が経時的に凝集することなく、経時安定性に優れている。好適なHLBの範囲としては5.2~5.7である。
ここで、「HLB値」とは、親水性親油性バランス(Hydrophile-Lipophile-Balance)を意味するものである。より具体的には、親水基を持たない物質をHLB値0とし、親油基を持たず親水基のみを持つ物質をHLB値20として等分したものである(グリフィン法)。
金属石鹸:0.9重量%、リン酸エステル:0.4重量%(比率:0.5)
金属石鹸:0.9重量%、リン酸エステル:0.9重量%(比率:1.0)
金属石鹸:1.3重量%、リン酸エステル:0.4重量%(比率:0.3)
金属石鹸:1.3重量%、リン酸エステル:0.6重量%(比率:0.5)
金属石鹸:1.3重量%、リン酸エステル:1.3重量%(比率:1.0)
金属石鹸:1.7重量%、リン酸エステル:0.9重量%(比率:0.5)
以上、具体的な配合例をいくつか示したが、金属石鹸及びリン酸エステルの適切な配合量の範囲内で、金属石鹸に対するリン酸エステルの配合比率が0.3~1.0であれば上記配合例に限定されず、様々な配合が考えられる。
表中のヒマシ油脂肪酸エステルAは、商品名:MINERASOL S-74(伊藤製油(株)製)、ヒマシ油脂肪酸エステルBは、商品名:CO-FAブチルエステル(伊藤製油(株)製)、ヒマシ油脂肪酸エステルCは、商品名:リックサイザーC-88(伊藤製油(株)製)である。
表中のリン酸エステルA~Gは、水酸基を有するエーテル型非イオン界面活性剤や高級アルコール等をリン酸エステル化することによって得られるアニオン界面活性剤であり、リン酸エステルAは、商品名:フォスファノールRA-600(HLB:11.7)(東邦化学工業(株)製)、リン酸エステルBは、商品名:SM-172(HLB:10.5)(東邦化学工業(株)製)、リン酸エステルCは、商品名:GF-185(HLB:5.2)(東邦化学工業(株)製)、リン酸エステルDは、商品名:フォスファノールRL-210(HLB:5.4)(東邦化学工業(株)製)、リン酸エステルEは、商品名:GF-199(HLB:5.5)(東邦化学工業(株)製)、リン酸エステルFは、商品名:フォスファノールRL-310(HLB:5.7)(東邦化学工業(株)製)、リン酸エステルGは、商品名:フォスファノールRS-410(HLB:9.0)(東邦化学工業(株)製)である。
表中の高分子分散剤A、B,Cはポリオキシアルキレン基をもつ高分子分散剤であり、高分子分散剤Aは、商品名:マリアリムAEM-3511(日油(株)製)、高分子分散剤Bは、商品名:マリアリムAFB-1521(日油(株)製)、高分子分散剤Cは、商品名:マリアリムAWS-0851(日油(株)製)である。
A.印影濃度試験
(試験方法)
シヤチハタ株式会社製塗布用スタンプ台(品番:HGU-1EU)に各インキを含浸させ、PPC用紙に押印した印影を初期印影とする。次に、各インキを含浸させたスタンプ台を高温多湿の環境下(温度:30℃、湿度:80%)で60日間放置した後、PPC用紙に押印した印影を経時印影とし、前記初期印影と前記経時印影を比較観察し、色濃度を目視で3段階評価した。
(試験確認方法)
○:経時印影が初期印影と同等の色濃度である。
△:経時印影が初期印影より色濃度がやや低下している。
×:経時印影が初期印影より色濃度が著しく低下している
B.凝集試験
(試験方法)
濾紙(アドバンテック製、No.7)に各インキを数滴滴下した際のインキの拡がりから金属石鹸の分散性(凝集性)を確認する。尚、試験としては、まず作製後のインキについて滴下試験を行う(初期)。その後、作製した各インキを3つの条件下(5℃、20℃(室温)、50℃)で7日間放置し、初期と同様に滴下試験を行い、初期状態と経時状態を確認する。金属石鹸が良好に分散せず、凝集していた場合は濾紙の繊維で目詰まりが生じ、外郭線内側にリング状の斑点(2重斑点)が観察される。前記2重斑点から金属石鹸の凝集度を3段階評価した。
(試験確認方法)
○:凝集なし
△:僅かに凝集あり
×:凝集あり
尚、実施例及び比較例のインキの粘度は、BL型粘度計のNo.3ロータにて25℃・6rpm、60rpmの条件で測定した。
比較例4~9より、前記溶剤系において、リン酸エステル以外の分散剤(高分子分散剤A~C)を配合した場合、ステアリン酸アルミニウムとの相性が悪く、初期・経時分散性が著しく低下している。一方、実施例1~4より、前記溶剤系において、リン酸エステルを配合した場合、ステアリン酸アルミニウムの初期・経時分散性が向上しており、ステアリン酸アルミニウムの分散剤として優れていることがわかる。
実施例1~4より、リン酸エステルのHLBが5.2~5.7の範囲では、リン酸エステルが前記溶剤系において良好に溶解している為、ステアリン酸アルミニウムの初期・経時分散性は良好である。比較例4~6より、リン酸エステルのHLBが5.7よりも上回ると、ステアリン酸アルミニウムの初期・経時分散性が低下し、凝集が生じているのがわかる。以上より、HLBが5.2~5.7の範囲において、特にステアリン酸アルミニウムの初期・経時分散安定性に優れている。
実施例5、比較例2より、ステアリン酸アルミニウムに対するリン酸エステルの配合比率(リン酸エステル/ステアリン酸アルミニウム)が0.3より下回った場合、ステアリン酸アルミニウムの分散性が著しく低下し、初期状態の凝集試験で2重斑点が確認された。また、実施例6、7、比較例3より、ステアリン酸アルミニウムに対するリン酸エステルの配合比率が1.0より上回った場合、凝集試験の高温(50℃)7日経時において、ステアリン酸アルミニウムが凝集し、2重斑点が確認された。以上の試験結果から、ステアリン酸アルミニウムに対するリン酸エステルの配合比率が、0.3~1.0の範囲内のときにステアリン酸アルミニウムの未分散及び、高温(50℃)経時による凝集を確実に防止できていることがわかる。
よって、ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸誘導体などの吸湿性を有さない油性溶剤のみを混合した溶剤を使用した場合でもリン酸エステルを配合する事で、金属石鹸を良好に分散させることができる。更に、前記リン酸エステルのHLBを5.2~5.7の範囲に限定し、且つ、前記金属石鹸に対するリン酸エステルの配合比率を0.3~1.0に設定する事で前記金属石鹸の初期・経時分散安定性をより高めることができる。
Claims (1)
- ヒマシ油及びヒマシ油脂肪酸誘導体を混合してなる溶剤と、着色剤と、前記溶剤に可溶な樹脂と、前記溶剤に不溶な金属石鹸と、リン酸エステルとを配合し、前記リン酸エステルは、水酸基を有するエーテル型非イオン界面活性剤又は高級アルコールをリン酸エステル化することによって得られるアニオン界面活性剤であり、HLBが、5.2~5.7であり、前記金属石鹸に対する前記リン酸エステルの配合比率が0.3~1.0であることを特徴とする油性インキ組成物。
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