以下、実施形態の電力変換装置の制御装置、制御方法、及び電動機駆動システムを、図面を参照して説明する。以下の説明の電力変換装置及び電動機駆動システムは、電動機に所望の交流電力を供給する。
以下の説明において、実施形態の電動機駆動システムを離散時間系モデルとして同定する。演算サイクルを識別するための時刻歴を示す変数として、k、(k+1)、(k+2)を利用する。演算サイクルの起点になるk時点を1つ進めた時点を(k+1)で示し、さらに1つ進めた時点を(k+2)で示す。なお、(k+1)時点と(k+2)時点の間の特定の時点(第3時点)を(k+α)と示すことがある。αは1から2までの実数であって良く、1.5がその代表値である。実施形態では、(k+1)時点(第1時点)を起点にして、(k+1)時点の次の(k+2)時点(第2時点)までに割り当てられた演算サイクルにおいて、(k+α)時点の状態を予測した推定値を利用することがある。(k+1)時点を起点にする演算サイクルを今回と呼び、k時点を起点とする演算サイクルを前回と呼び、(k+2)時点を起点とするサイクルを次回と呼ぶ。
例えば、k時点に切り替えられた制御サイクルにおける電動機2の稼働状態に基づいた状態量を、(k+1)時点においてサンプリングして、このサンプリングの結果のデータと、サンプリング結果から生成される指令値などのデータを時刻歴データと呼ぶ。
(第1の実施形態)
次に、電動機駆動システム1の構成例について説明する。図1は、実施形態の電動機駆動システム1のブロック図である。
電動機駆動システム1は、例えば、電動機2と、電力変換装置3と、電流検出器9aと電流検出器9bと、制御装置10とを備える。図1中の電動機駆動システム1は、交流電源5(G)から電力の供給を受ける。電動機駆動システム1において、電力変換装置3を制御する制御装置10が適用される。
電動機2は、例えば三相の誘導電動機(IM:Induction motor)である。電動機2の軸は、図示されない負荷の軸に機械的に連結される。電動機2の回転子は、例えば、固定子巻線に供給される三相交流電力により回転して、負荷の軸を回転させる。電動機2の軸には、センサ2Aが設けられている。センサ2Aは、例えば、レゾルバ、速度センサなどを有する。センサ2Aは、電動機2の軸の回転を検出し、軸の角度(位相)又は角速度を出力する。電動機2には、トルクセンサが設けられていない。
電力変換装置3は、例えば、整流器6と、コンデンサ7と、電力変換ユニット8とを備える。整流器6は、交流電源5から、整流器6の交流入力に供給される交流を整流する。整流器6の直流出力には直流リンクが接続されている。コンデンサ7は、上記の直流リンクに設けられている。コンデンサ7は、直流リンクに印加される電圧を平滑化する。
電力変換ユニット8の直流入力は、直流リンクに接続されている。電力変換ユニット8は、直流リンクを経て供給される直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流電力を電力変換ユニット8の交流出力から電動機2に供給する。電力変換ユニット8は、電圧型インバータである。例えば、電力変換ユニット8は、後述する制御装置10からのPWM(Pulse Wide Modulation)制御により駆動される。電力変換ユニット8は、制御装置10によってVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御されて、電動機2の速度などを調整する。
電力変換ユニット8は、交流出力の三相に対応する電力変換回路を有する。電力変換回路は、相ごとに上アームと下アームを有する。上アームと下アームは、各々少なくとも1つのスイッチング素子を備える。
電流検出器9aは、電力変換ユニット8の出力側のv相に設けられる。電流検出器9aは、v相固定子電流Ivsを検出する。電流検出器9bは、電力変換ユニット8の出力側のw相に設けられる。電流検出器9bは、w相固定子電流Iwsを検出する。図示する電流検出器9a、9bは、二相に設けられているが、電流検出器を三相にそれぞれ設けてもよい。
制御装置10は、上位装置からの指令値と電流検出器9a、9bの検出結果とに基づいて、電力変換装置3を制御する。
ここで、制御装置10で利用される座標系について説明する。
制御装置10における制御では、複数の座標系、例えば第1から第3の複数の座標系を目的により適宜使い分けて利用する。
第1の座標系として、三相座標系がある。三相座標系は、電動機2の固定子巻線の電圧(固定子電圧)に基づいた三相の成分を含む。例えば、電動機2の固定子電圧は、u相、v相、w相の三相の成分(三相信号成分)で表すことができる。電動機2の固定子電圧を所定の平面上に原点を基準にしてベクトル表記した場合、各相の電圧ベクトルが2π/3の角度差を有して原点(中心)から放射状に描かれる。
第2の座標系として、dqs軸座標系がある。dqs軸座標系は、互いに直交するds軸とqs軸を含む。例えば、dqs軸座標系の原点を基準にdqs軸座標系のqs軸の方向を、固定子のu相の電圧ベクトルの方向に一致させて、三相座標系とdqs軸座標系が所定の平面上に配置される。三相座標系の三相信号成分をdqs軸座標系のds軸とqs軸の二相信号成分に変換する演算を、「dqs軸変換」と呼ぶ。「dqs軸変換」によって、三相信号成分は、ds軸とqs軸の二相信号成分に変換される。dqs軸座標系のds軸とqs軸の二相信号成分を三相座標系の三相信号成分に変換する演算を、「dqs軸逆変換」と呼ぶ。「dqs軸逆変換」によって、ds軸とqs軸の二相信号成分は、三相信号成分に変換される。例えば、dqs軸座標系の原点は、固定子磁束に基づいて規定される。
第3の座標系として、再調整座標系がある。再調整座標系は、上記の第2の座標系(固定子側座標系)と同様に、互いに直交するds軸とqs軸を含む。固定子側座標系のds軸とqs軸の二相信号成分を、再調整座標系のds軸とqs軸の二相信号成分に変換する演算を、「ras軸変換」と呼ぶ。「ras軸変換」によって、固定子側座標系のds軸とqs軸の二相信号成分は、再調整座標系のds軸とqs軸の二相信号成分に変換される。再調整座標系のds軸とqs軸の二相信号成分を固定子側座標系のds軸とqs軸の二相信号成分に変換する演算を、「ras軸逆変換」と呼ぶ。「ras軸逆変換」によって、再調整座標系のds軸とqs軸の二相信号成分は、固定子側座標系のds軸とqs軸の二相信号成分に変換される。再調整座標系は、後述するDB-DTFCで利用される。実施形態では再調整座標系の軸の方向を規定する方法に、固定子磁束を基準にする手法と回転子磁束を基準にする手法の2通りの手法を使い分ける。再調整座標系の詳細については、後述する。例えば、再調整座標系の原点は、固定子磁束に基づいて規定される。
図19から図21に、実施形態を例示する図と式において使用される変数について説明する。図19は、実施形態の変数のうち複素ベクトルの変数を例示する図である。図20と図21は、実施形態の変数のうちスカラーの変数を例示する図である。
例えば、dqs軸座標系における固定子磁束の推定値のことを、本実施形態において固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estと記す。「λ」は磁束を示す。これに続くサフィックスの第1パートのqdsがdqs軸座標のqs軸成分とds軸成分を示す。サフィックスの第2パートのsが固定子側の静止座標系(以下、固定子側座標系という。)を示す。固定子qds軸磁束λqds_sは、dqs軸座標の2相成分纏めて表したものである。上記の場合の2相成分は、固定子qs軸磁束λqs_sと固定子ds軸磁束λds_sの2つである。固定子qs軸磁束λqs_sは、固定子磁束の固定子側dqs軸座標系におけるq軸成分を示す。固定子ds軸磁束λds_sは、固定子磁束の固定子側dqs軸座標系におけるd軸成分を示す。なお、2相成分で表した情報を纏めて、複素ベクトル空間のベクトル値として扱うことがある。サフィックスの第3パートのestが推定値を示す。第3パートに続く小括弧内に時系列情報を識別する情報を記載する。第3パートに示すものとして、上記のほかに指令値(com)、微分値(dot)、検出値(det)、平均値(ave)などがある。
また、後述する演算式及び図面の中では、本文中の表記と異なる表記をとる。例えば、上記の固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estについては、式(1)に示すように表記する。
上記の式(1)に示す「λ」の右下付き文字のqdsは、dqs軸座標の2相成分の情報であることを示す。「λ」の右上付き文字のsは、固定子側座標系の情報であることを示す。「λ」の上に示す(^)は、推定値を示す。文字の上に示す記号には、上記のほかに微分値を示す(・)がある。指令値については右上付き文字の*を用いて示す。複素ベクトルを示す変数には、上記の磁束λと、電圧Vと、電流iとがある。その他の詳細は、図19から図21を参照する。
図1に戻り、制御装置10について説明する。
制御装置10は、例えば、モーションコントローラ12と、速度/位相推定ユニット13と、DB-DTFC演算ユニット14(駆動量調整ユニット)と、第1座標変換ユニット15と、PWMコントローラ16(駆動制御ユニット)と、第2座標変換ユニット17と、滑り周波数推定ユニット18と、加算器ユニット19と、電流磁束推定ユニット20と、遅延演算ユニット23と、遅延演算ユニット26と、乗算ユニット27と、平均補正ユニット30とを備える。
モーションコントローラ12は、回転子角速度指令値(機械角)ωrm_com(k+1)と、回転子角速度推定値(機械角)ωrm_est(k+1)とに基づいて、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)を算出する。例えば、回転子角速度指令値(機械角)ωrm_com(k+1)は、制御装置10の外部の装置(上位装置)から供給されてもよい。回転子角速度推定値(機械角)ωrm_est(k+1)は、後述の速度/位相推定ユニット13から供給される。以下、回転子角速度推定値(機械角)ωrm_estのことを、単に回転子角速度推定値ωrm_estと呼ぶ。モーションコントローラ12は、回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)を、回転子角速度指令値(機械角)ωrm_com(k+1)に追従させるようなエアギャップトルク指令値Te_com(k+1)を算出する。エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)は、後述するDB-DTFC演算ユニット14に対する指令値になる。
速度/位相推定ユニット13は、例えば、センサ2Aから供給される回転子機械角θrm(k)に基づいて、回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)と、回転子角度推定値(電気角)θr_est(k+1)とを算出する。以下、回転子角度推定値(電気角)θr_estのことを、単に回転子角度推定値θr_estと呼ぶ。
例えば、速度/位相推定ユニット13は、電動機2の回転状態を推定するモーションオブザーバを有する。上記のモーションオブザーバは、ゼロラグフィルタ(zero lag filter)と等価であり、一般的に用いられる1次遅れフィルタよりも、入力信号に対する出力信号の遅延を少なくする。つまり、速度/位相推定ユニット13は、回転子機械角θrm(k)に対する、回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)と、回転子角度推定値θr_est(k+1)との遅延を少なくする。速度/位相推定ユニット13は、センサ2Aによる検出遅延を含んだ過去の時点、例えばk時点の状態量から1サンプリング進んだ(k+1)時点の状態量の値を推定する。回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)と、回転子角度推定値θr_est(k+1)は、それぞれの現在の状態量の値の推定値になる。速度/位相推定ユニット13は、このようなモーションオブザーバを用いることで、出力信号に含まれるノイズ成分の少ない出力信号を得ることを可能にする。
例えば、速度/位相推定ユニット13は、回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)を、モーションコントローラ12と、乗算ユニット27とに供給する。乗算ユニット27によって変換された回転子角速度推定値ωr_est(k+1)は、DB-DTFC演算ユニット14と加算器ユニット19と電流磁束推定ユニット20とに供給される。速度/位相推定ユニット13は、回転子角度推定値θr_est(k+1)を、遅延演算ユニット26に供給する。遅延演算ユニット26によって遅延された回転子角度推定値θr_est(k)は、電流磁束推定ユニット20に供給される。
なお、上記のモーションオブザーバへの入力は、位相と角速度の何れであっても良い。速度/位相推定ユニット13の入力信号は、例えば、センサ2Aに位相センサを用いる場合には位相θrm(k)であってよく、センサ2Aに速度センサを用いる場合には角速度ωr(k)であってよい。PLG(Pulse Generator)は、速度センサの一例である。
なお、センサ2Aなどの物理的なセンサを用いない場合には、速度/位相推定ユニット13として、ポジショントラッキングオブザーバ(position tracking observer)を用いてよい。この場合のポジショントラッキングオブザーバの入力信号には、電流、電圧、及び磁束の何れを用いてもよい。ポジショントラッキングオブザーバの構成例については、Yang Xu他、"Extending Low Speed Self-Sensing via Flux Tracking with Volt-Second Sensing", [online], 2018年, IEEE, [2018年9月13日検索]、インターネット(URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/8344841/)などを参照してもよい。
DB-DTFC演算ユニット14(図中の記載はDB-DTFC。)は、DB-DTFC(Deadbeat, Direct Torque and Flux Control)方式に従い電動機2を制御するコントローラである。DB-DTFC演算ユニット14は、少なくとも電動機2に対するトルク指令と電動機2の固定子磁束の推定値と電動機2の固定子磁束の基準値とに基づいて電動機2の駆動量を規定する駆動量指令値を算出する。
例えば、DB-DTFC演算ユニット14は、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+2)とを入力変数に含み、上記の各入力変数に基づいて固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を算出する。エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)は、モーションコントローラ12から供給される。固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)は、後述の平均補正ユニット30から供給される。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)は、後述の電流磁束推定ユニット20から供給される。固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+2)は、例えば、上位装置から供給されてもよく、あるいは制御装置10の内部で演算してもよい。エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)は、電動機2に対するトルク指令の一例である。固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)は、電動機2の固定子電流の第2の推定値の一例である。固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)は、電動機2の固定子電流の推定値の一例である。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)は、電動機2の固定子磁束の推定値の一例である。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)は、電動機2の固定子磁束の推定値の一例である。回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)は、電動機2の回転子磁束の推定値の一例である。回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)は、電動機2の回転子磁束の推定値の一例である。固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+2)は、電動機2の固定子磁束の基準値の一例である。エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)は、例えば、(k+1)時点に取得される。
DB-DTFC演算ユニット14は、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を算出する際に、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)を基準にしたRAS座標変換と逆RAS座標変換を実施する。これについては後述する。
DB-DTFC演算ユニット14は、算出した固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を、第1座標変換ユニット15と遅延演算ユニット23に出力する。DB-DTFC演算ユニット14は、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)に基づいて、電力変換装置3を制御する。
第1座標変換ユニット15は、固定子qds軸座標系における電圧指令値である固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を、三相固定子座標系(静止座標系)における電圧指令値である三相固定子電圧指令値Vus_s_com(k+1)、Vvs_s_com(k+1)、Vws_s_com(k+1)に変換する。第1座標変換ユニット15による変換は、「dqs軸逆変換」である。
PWMコントローラ16は、電動機2の駆動量を規定する駆動量指令値に基づいた制御信号を、電動機2を駆動する電力変換装置3に出力する。PWMコントローラ16は、例えば、第1座標変換ユニット15によって変換された三相固定子電圧指令値Vus_s_com(k+1)、Vvs_s_com(k+1)、Vws_s_com(k+1)と、キャリア信号とを比較しPWM(Pulse Width Modulation)により、電力変換ユニット8に対するゲートパルスGPを生成する。図1に示すPWMコントローラ16は、電力変換ユニット8の各スイッチング素子に対して、スイッチング素子に対応するゲートパルスGPを出力している。
第2座標変換ユニット17は、電流検出器9a、9bから供給される固定子電流Ivs、Iwsを、離散時間変換するとともに、固定子qds軸座標系における固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)に変換する。第2座標変換ユニット17による変換は、「dqs軸変換」である。
dqs軸変換は、例えば、以下の式による。固定子電流Ivs、Iwsに基づいて固定子電流Iusが算出される。三相の固定子電流Ius、Ivs、Iwsと、二相変換後の固定子電流Iqs_s、Ids_sとの関係を下記の式(2)に示す。下記の式(2)に示す変換は、一般的なクラーク変換とは異なる。なお、dqs軸逆変換は、式(2)に示す変換の逆である。
滑り周波数推定ユニット18は、後述する演算ブロック1410(推定トルク演算ユニット)で算出されるエアギャップトルク推定値Te_est(k+1)と、磁束オブザーバ22によって算出される回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)の振幅値と、回転子巻線抵抗抵抗Rrとに基づいて、電動機2の滑りに関わる滑り角周波数推定値ωsl_est(k+1)を算出する。あるいは、滑り周波数推定ユニット18は、一般的に用いられる滑り角周波数推定演算方法を利用して滑り角周波数推定値ωsl_est(k+1)を算出してもよい。
加算器ユニット19は、回転子角速度推定値ωr_est(k+1)に、滑り周波数推定ユニット18によって算出された滑り角周波数推定値ωsl_est(k+1)を加算して、電動機2の同期角周波数推定値ωe_est(k+1)を算出する。
電流磁束推定ユニット20は、例えば、電流オブザーバ21と、磁束オブザーバ22とを備える。
電流オブザーバ21は、少なくとも、駆動量指令値と固定子磁束の推定値とに基づいて、電動機2の固定子巻線に流れる電流の推定値を算出する。上記の駆動量指令値は、例えば、DB-DTFC演算ユニット14によって算出された固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_comである。
電流オブザーバ21は、上記の演算処理の中で、後述する磁束オブザーバ22によって算出される固定子磁束の推定値の時刻歴データに基づいて変動を軽減させた固定子電流の推定値を出力する。上記の固定子磁束の推定値は、例えば時系列情報としての固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estである。
例えば、電流オブザーバ21は、遅延演算ユニット23によって保持されている固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)と、磁束オブザーバ22によって算出された固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、第2座標変換ユニット17によって変換された固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)と、乗算ユニット27によって算出された回転子角速度推定値ωr_est(k+1)とを入力変数とし、上記の各入力変数に基づいて固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を算出する。
上記の固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)は、固定子磁束の第1推定値の一例である。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)は、固定子磁束の前回推定値の一例である。電流オブザーバ21は、(k+1)時点に対応する今回の演算処理よりも過去の回にあたる前回の演算処理において、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)(過去推定値)を入力変数にした演算を実施している。電流オブザーバ21は、上記の固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)を今回の演算処理に利用する。電流オブザーバ21は、演算ブロック218を含む。演算ブロック218は、例えば0次ホールド回路を含む。電流オブザーバ21の詳細については後述する。
磁束オブザーバ22は、少なくともDB-DTFC演算ユニット14によって算出された駆動量指令値と電力変換装置3の出力電流とに基づいて、少なくとも電動機2の固定子磁束の推定値を算出する。磁束オブザーバ22は、電動機2の固定子巻線に流れる電流の推定値を、電動機2の回転子磁束の推定値を算出する演算の変数に含めて、電動機2の回転子磁束の推定値を算出してもよい。磁束オブザーバ22は、さらに回転子角度推定値θr_est(k)(単に、回転子角度θr(k)という。)を用いて、上記の電動機2の固定子磁束の推定値を算出してもよい。磁束オブザーバ22は、さらに回転子角度θr(k)を用いて少なくとも電動機2の固定子磁束の推定値を算出してもよい。磁束オブザーバ22は、電動機2の固定子磁束の推定値を用いて電動機2の回転子磁束の推定値を算出する。上記の電力変換装置3の出力電流とは、電力変換装置3の出力電流の測定値及び電力変換装置3の出力電流に基づいて生成されたデータのことである。
例えば、磁束オブザーバ22は、遅延演算ユニット23によって保持されている固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)と、第2座標変換ユニット17によって変換された固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)と、電流オブザーバ21によって算出された固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と、回転子角度推定値θr_est(k)とを入力変数に含み、上記の各入力変数に基づいて固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)とを算出する。固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)は、DB-DTFC演算ユニット14によって算出された駆動量指令値の一例である。固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)は、電力変換装置3の出力電流の一例である。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)は、電動機2の固定子磁束の推定値(第1推定値)の一例である。磁束オブザーバ22の詳細については後述する。
遅延演算ユニット23は、DB-DTFC演算ユニット14よって算出された固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を、次回の演算まで記憶部に保持させる。遅延演算ユニット23は、後段の各ユニットにおける今回の演算用に、記憶部に保持させている固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)を電流磁束推定ユニット20に出力する。固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)は、電動機2の駆動量に基づいて算出された推定値(第2の推定値)の一例である。
遅延演算ユニット26は、速度/位相推定ユニット13よって算出された回転子角度推定値θr_est(k+1)を、次回の演算まで記憶部に保持させる。遅延演算ユニット26は、後段の各ユニットにおける今回の演算用に、先に保持していた回転子角度推定値θr_est(k)を出力する。
乗算ユニット27は、速度/位相推定ユニット13よって算出された回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)に、極対数である(P/2)を乗じて、回転子角速度推定値ωr_est(k+1)を算出する。大文字のPは、極数である。
平均補正ユニット30は、電流磁束推定ユニット20によって算出された固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)とを入力変数に含み、加算器ユニット19によって算出された同期角周波数推定値ωe_est(k+1)に基づいて補正した固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、を生成する。平均補正ユニット30は、例えば、第1変換処理ユニット31と、第2変換処理ユニット32と、第3変換処理ユニット33とを備える。平均補正ユニット30の演算結果は、後段のDB-DTFC演算ユニット14の演算で利用される。平均補正ユニット30の詳細については、後述する。
ここで、実施形態の制御装置10の概要について説明する。
制御装置10は、例えば電流磁束推定ユニット20を下記のように利用することにより電流推定の精度向上及び磁束推定の精度向上を図る。
その1:電流オブザーバ21は、固定子電流を推定するための入力情報として、固定子磁束の推定値を利用すること。
その2:電流オブザーバ21は、固定子磁束の入力情報を離散時間系の時系列情報に変換して、上記の入力情報に対応する電流値を推定する。上記の演算処理の過程において、上記の時系列情報として連続する入力情報を平滑化する演算を含めて実施すること。
電流磁束推定ユニット20は、固定子電流の推定精度をより高めることで、回転子磁束の推定精度の向上を図る。上記の通り、DB-DTFC演算ユニット14は、少なくとも、電動機2の固定子磁束の推定値を用いて電動機2の駆動量を規定する駆動量指令値を算出する。磁束推定の精度をより高めることが、磁束に基づいて算出されるトルクの推定精度を高めることに寄与することがある。DB-DTFC演算ユニット14は、トルクの推定値を算出し、その結果をトルク制御に用いるため、上記の固定子電流の推定精度がトルク制御の精度の向上に寄与することがある。
さらに、制御装置10は、例えばDB-DTFC演算ユニット14の入力情報として、離散時間処理に係るサンプリング時点とは異なる時点の、電動機2の状態推定量に関する情報を利用することにより、トルク推定の精度向上及び電動機2に対する電圧指令の精度向上を図る。
DB-DTFC演算ユニット14の入力情報は、上記のサンプリング時点とは時間軸方向に異なる時点が定められ、その定められた時点の情報になる。例えば、電流磁束推定ユニット20によって推定された情報は、上記のサンプリング時点の情報であるが、その情報を、平均補正ユニット30が、サンプリング時点とは時間軸方向に異なる時点の情報に補正する。
以下、これらの詳細について順に説明する。
図2は、実施形態の電流磁束推定ユニット20のブロック図である。
電流磁束推定ユニット20は、電流オブザーバ21と磁束オブザーバ22とを含む。
電流オブザーバ21は、例えば、演算ブロック210と、演算ブロック211(平均値算出ユニット)と、演算ブロック212と、演算ブロック213と、演算ブロック214と、演算ブロック215と、演算ブロック216と、演算ブロック217と、演算ブロック218とを備える。
演算ブロック211は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estの時刻歴データを用いて移動平均値を算出することで、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estを平滑化する。例えば、演算ブロック211は、電流オブザーバ21のサンプラーであり、取得した値の平均値を導出してよい。より具体的な一例では、演算ブロック211は、前回(k)の演算サイクルにおいて磁束オブザーバ22によって算出された固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)(固定子磁束の前回推定値)を記憶部に保持している。演算ブロック211は、後述の平均値演算を終えたのちに、記憶部に保持する値を、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)から固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に更新する。演算ブロック211は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を、次回(k+2)の演算サイクルにおける演算で利用されるまで一時的に保持させる。演算ブロック211は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を次回(k+2)の演算サイクルにおける演算に利用する。
演算ブロック211は、記憶部によって保持されていた固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)(固定子磁束の前回推定値)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)(固定子磁束の第1推定値)とに基づいて、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の平均値である移動時間平均値λqds_s_ave(k)(単に、移動時間平均値λaveという。)を算出する。上記の固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)は、磁束オブザーバ22により算出された電動機2の回転子磁束の推定値の一例である。
上記の通り、演算ブロック211は、移動平均を計算するのに、例えば、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k)(回転子磁束の前回推定値)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)とを2つのサンプルに用いるとよい。演算ブロック211は、上記の2つのサンプルを用いることで、実システムに対しての遅れがない移動時間平均値λaveを算出することができる。例えば、移動平均を利用しないで固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を算出すると、その結果が進み位相になる。2つよりも多くのサンプルを利用して移動平均を算出すると、その結果が遅れ位相になる。それゆえ、演算ブロック211は、移動平均の演算に2つのサンプルに用いることが好ましい。基本周波数f1(同期角周波数ωe)に対しサンプリング周波数fs(fsは、サンプリング周期tsの逆数。)が十分に早い場合には、電流オブザーバ21によって形成される算術モデルの正確性が保たれる。しかし、基本周波数f1に対しサンプリング周波数fsを十分に早くできない場合には、電流オブザーバ21によって形成される算術モデルの正確性が保たれず、以下に説明するようなリミットサイクルが生じることがある。これについては後述する。
なお、離散時間システムにはリミットサイクルが生じる場合がある。リミットサイクルとは、サンプリング周波数fsに同期した、出力値の周期的な振動を生じる現象のことである。リミットサイクルは、基本周波数f1に対するサンプリング周波数fsの比(fs/f1)が大きくなるほど振幅が小さくなる傾向がある。例えば、上記の比(fs/f1)が小さくなる場合には、演算周期(サンプリング周期ts)が長くなった場合、あるいは基本周波数f1が高くなった場合などが含まれる。
演算ブロック211は、連続する2つのサンプルの移動時間平均をとることで、サンプリング周波数fsの半分の周波数成分を抑圧する効果を有する。仮に、上記の比(fs/f1)が大きくなり、サンプリング対象の信号にこのリミットサイクルが生じる場合においても、演算ブロック211は、移動時間平均をとることによりその振動性の雑音の影響を軽減させている。
演算ブロック212は、移動時間平均値λaveと回転子速度ωrとに基づいて、電圧補正値Vqds_s_comp1(k)(単に、電圧補正値Vcomp1という。)を算出する。例えば、演算ブロック212は、回転子巻線抵抗Rrと回転子巻線の自己インダクタンスLrと回転子速度ωrとを変数に含む式(3)で表される伝達関数を、移動時間平均値λaveに乗じて、電圧補正値Vcomp1を算出する。
なお、上記の式(3)は、回転子速度ωrの値を定数とした場合の近似式である。これに代えて、例えば、上記の回転子速度ωrの値に、回転子角速度推定値ωr_est(k)と回転子角速度推定値ωr_est(k+1)の何れかの値を適用してもよく、あるいは、上記の何れかの値に基づいて所定の変換則に従い変換した値を適用してもよく、回転子角速度推定値ωr_est(k)と回転子角速度推定値ωr_est(k+1)の両方の値に基づいて規定される値であってもよい。上記の場合、回転子速度ωrの値を、更新させることができる。
演算ブロック213は、加算器である。演算ブロック213は、演算ブロック212によって算出された電圧補正値Vcomp1と、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_comと、演算ブロック215の演算結果と、演算ブロック216の演算結果とを加算して、その和である電圧合計値Vqds_s_sum(k+1)(単に、電圧合計値Vqds_sumという。)を出力する。
例えば、演算ブロック213は、少なくとも演算ブロック212によって算出された電圧補正値Vcomp1と、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)とを加算して、その和を電圧合計値Vqds_s_tot(単に、電圧合計値Vtotという。)としてもよい。演算ブロック212によって算出された電圧補正値Vcomp1は、移動時間平均値に基づいて算定される第1値の一例である。固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_comは、駆動量指令値の一例である。
演算ブロック210は、遅延演算回路である。演算ブロック210は、前回の演算サイクルにおいて電流オブザーバ21によって算出された推定結果を保持する。例えば、演算ブロック210によって保持されている値は、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k)である。
演算ブロック214は、減算器である。演算ブロック214は、第2座標変換ユニット17によって算出された固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)から、電流オブザーバ21の前回の演算サイクルの推定結果である固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k)を減算して、その差(偏差ΔIqds)を出力する。演算ブロック215は、演算ブロック214によって算出された偏差ΔIqdsに、ゲインK3を乗じて増幅する。演算ブロック216は、前述の偏差ΔIqdsに対して、ゲインK4の積分演算を実施する。演算ブロック215と演算ブロック216は、電流オブザーバ21に関する比例積分型の補償器を形成する。演算ブロック215と演算ブロック216は、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k)が、固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)に追従するような補正量を生成する。演算ブロック215と演算ブロック216の演算結果は、上述の演算ブロック213において加算される。
演算ブロック217は、演算ブロック213によって算出された電圧合計値Vqds_sumを、(χσLs)で除算して、その商を出力する。ここで、χは、次の式(4)に示すように定義される。σは、漏れ係数である。Lsは、固定子巻線の自己インダクタンスである。
演算ブロック218は、ラッチインタフェースの特性を含むゲイン特性を有する。ラッチインタフェースの特性とは、入力される信号を0次ホールドする特性のことである。演算ブロック218は、演算ブロック217の演算結果を0次ホールドし、0次ホールドした結果に基づいて、電動機2の固定子巻線に流れる電流の固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)(電動機の固定子巻線に流れる電流の第1推定値)を算出する。演算ブロック217の演算結果は、上記の移動時間平均値λaveに基づいて算定される値の一例である。例えば、演算ブロック218は、変数A1を変数に持つ式(5-1)に表された伝達関数を、演算ブロック217の演算結果に乗じて、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を算出する。変数A1の一例を、式(5-2)に示す。
電流オブザーバ21の構成についての説明を続ける。
以下の説明では、演算ブロック210と演算ブロック214から演算ブロック216を除いた電流オブザーバ21の基本範囲について説明する。
電流オブザーバ21は、連続系から離散系への変換に、演算ブロック218のラッチインタフェースを利用する。このラッチインタフェースは、0次ホールド関数として機能する。電流オブザーバ21の電圧入力の固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_comは、指令値に基づくものであり、定常動作中の変動は比較的少ない。一方で磁束入力の固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estについては、測定値(固定子qds軸電流測定値Iqds_s_det(k))の成分が含まれることがある。そのため、電流オブザーバ21は、電圧入力については比較的正確な値を取得できるが、磁束入力については外乱などの影響を受けることがある。そこで、電流オブザーバ21は、磁束入力については、例えば、比(fs/f1)の値が小さいときでさえ、位相進みや位相遅れにならない磁束推定値を得るために、今回取得した値と前回取得した値の平均値をとる。
連続時間系で規定した電流オブザーバの式を、次の式(6)に示す。小文字のpは、微分演算子である。
上記の式(6)における固定子電圧の項(第1項)と固定子磁束の項(第2項)の和Vtotを、次の式(7)に定義する。これを、平均値演算を含めた離散時間系の式に変換すると、式(8)になる。
上記の式(7)を用いて式(6)を式(9)に書き直す。
式(9)にラプラス変換を適用して、式(10)を得る。式中のsは、ラプラス演算子である。
ここで、次の式(11)を初期条件にするラッチインタフェースが適用される。
これにより上記の式(10)は、次の式(12)に変換される。
上記の式(12)におけるχは、次の式(13)に示すように定義される。
逆ラプラス変換によりs領域の式(12)は、時間領域の式(14)に変換される。
上記の式(14)は、離散時間系の式(15)に変換される。この式(15)は、電流オブザーバ21の基本特性を示す式の一例である。
上記の演算ブロック210と、演算ブロック212と、演算ブロック213と、演算ブロック214と、演算ブロック215と、演算ブロック216と、演算ブロック217と、演算ブロック218は、電流推定値算出ユニットの一例である。
演算ブロック210と、演算ブロック212と、演算ブロック213と、演算ブロック214と、演算ブロック215と、演算ブロック216と、演算ブロック217と、演算ブロック218は、少なくとも電動機2の固定子磁束の平均値である移動時間平均値λaveに基づいて電動機2の固定子巻線に流れる電流の推定値(電動機の固定子巻線に流れる電流の第1推定値)を算出する。
演算ブロック218は、離散時間制御において連続する前記オブザーバの出力値を平滑化させる平滑化演算ユニットの一例である。電流オブザーバ21は、演算ブロック218によって、演算ブロック218によって平滑化された固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を出力する。電流磁束推定ユニット20と電流オブザーバ21は、演算ブロック218を含むオブザーバの一例である。
このような電流オブザーバ21は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を離散時間モデルの平均値に変換する近似演算処理に、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の移動平均演算を含めて実施することで、簡素な処理で固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)の推定精度を高めることができる。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)は、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を推定するための入力情報の一例である。
なお、図2における演算ブロック215のゲインK3と演算ブロック216のゲインK4とに電動機2の特性に適した定数を規定することにより、電流オブザーバ21の特性を、さらに実際の電動機2の特性に近づけたり、外乱に対する影響を低減させたりすることができる。上記の場合には、ゲインK3とゲインK4の少なくとも何れかを含む式に、上記の式(15)を変形してもよい。演算ブロック210と演算ブロック214から演算ブロック216の一部又は全部を省略してもよい。
次に、磁束オブザーバ22について説明する。図2に示す磁束オブザーバ22は、例えば、第1磁束推定ユニット221と、第2磁束推定ユニット222とを備える。
第1磁束推定ユニット221について説明する。
第1磁束推定ユニット221は、測定値の固定子qds軸電流測定値Iqds_s_det(k)と回転子角度θr(k)と、所定のモデルに対応して定められた演算式とに基づいて、電動機2の固定子巻線により生成される磁束の推定値(回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_cmest(k))を算出する。第1磁束推定ユニット221は、回転子角度θr(k)を基準位相にする回転座標系を利用する。
例えば、第1磁束推定ユニット221は、座標変換ブロック2211と、演算ブロック2212と、座標変換ブロック2213とを備える。
座標変換ブロック2211は、回転子角度θr(k)を基準位相にして、固定子qds軸電流測定値Iqds_s_det(k)を、回転子座標系の変数である固定子qdr軸電流測定値Iqds_r_det(k)に変換する。
演算ブロック2212は、次の式(16)で表される伝達関数を、座標変換ブロック2211によって算出された固定子qds軸電流測定値Iqds_r_det(k)に乗じて、回転子qdr軸磁束推定値λqdr_r_est(k)を算出する。演算ブロック2212における伝達関数は、電動機2の磁束オブザーバを、電動機2の電流モデル(Current Model)を用いて離散時間系の式で表したものである。
座標変換ブロック2213は、回転子角度θr(k)を基準位相にして、演算ブロック2212によって算出された回転子qdr軸磁束推定値λqdr_r_est(k)を、静止座標系の変数の磁束推定値に変換する。この演算結果の磁束推定値は、電流モデルに基づいて算出されたものである。座標変換ブロック2213は、上記の変換により、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_cmest(k)を得る。
第2磁束推定ユニット222について説明する。
第2磁束推定ユニット222は、固定子qds軸電流測定値Iqds_s_det(k)と、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_cmest(k)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)とに基づいて、電動機2の固定子巻線により生成される磁束の推定値(固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k))と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k)とを算出する。第2磁束推定ユニット222は、電動機2の電圧モデル(Voltage Model)に対応して定められた演算式を上記の演算に利用する。
第2磁束推定ユニット222は、例えば、演算ブロック2221と、演算ブロック2222と、演算ブロック2223と、演算ブロック2224と、演算ブロック2225と、演算ブロック2226と、演算ブロック2227と、演算ブロック2228と、演算ブロック2229と、演算ブロック2230と、演算ブロック2231とを備える。
演算ブロック2221は、固定子巻線抵抗Rsを、測定値の固定子qds軸電流測定値Iqds_s_det(k)に乗じて、固定子qds軸電流測定値Iqds_s_det(k)に対応する固定子qds軸電圧測定値Vqds_s_det(k)を算出する。
演算ブロック2222は、減算器である。演算ブロック2222は、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k)から、演算ブロック2221の演算結果である固定子qds軸電圧測定値Vqds_s_det(k)を減算して、その差である偏差ΔVqds1を出力する。
演算ブロック2223は、減算器である。演算ブロック2223は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_cmest(k)から回転子qdr軸磁束推定値λqdr_s_est(k)を減算して、その差である偏差Δλqds2を出力する。演算ブロック2224は、演算ブロック2223によって算出された偏差Δλqds2に、ゲインKpを乗じて増幅する。演算ブロック2225は、前述の偏差Δλqds2に対して、ゲインKiの積分演算を実施する。演算ブロック2224と演算ブロック2225は、電流オブザーバ21に関する比例積分型の補償器を形成する。演算ブロック2224と演算ブロック2225は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_cmest(k)に、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k)が追従するような補正量を生成する。演算ブロック2224と演算ブロック2225の演算結果は、上述の演算ブロック2226において加算される。
演算ブロック2226は、加算器である。演算ブロック2226は、演算ブロック2222によって算出された偏差ΔVqds1と、演算ブロック2224の演算結果と、演算ブロック2225の演算結果とを加算して、その和を電圧調整値Vqds_vsumとして出力する。
演算ブロック2227は、演算ブロック2226によって算出された電圧調整値Vqds_vsumを積分し、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を算出する。
演算ブロック2228は、電流オブザーバ21によって算出された固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)に、ゲイン(σLs)を乗じる。
演算ブロック2229は、減算器である。演算ブロック2229は、演算ブロック2227によって算出された固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)から演算ブロック2228の演算結果を減算して、その差である回転子磁束調整値を出力する。
演算ブロック2230は、演算ブロック2229の演算結果の回転子磁束調整値に、(Lr/Lm)を乗じて回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)を出力する。Lmは、巻線間の相互インダクタンスである。
演算ブロック2231は、遅延演算回路である。演算ブロック2231は、前回の演算サイクルにおいて演算ブロック2230によって算出された推定結果である回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k)を保持している。演算ブロック2231は、今回の演算サイクルにおいて、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)を保持する。
なお、磁束オブザーバ22に関する細部の説明は、例えば、R.D.Lorenz、"The Emerging Role of Dead-beat, Direct Torque and Flux Control in the Future of Indication Machine Drives", [online],2008年, IEEE, [2018年9月13日検索]、インターネット(URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/4602331/)などの文献を参照してよい。
電流磁束推定ユニット20は、電流オブザーバ21と磁束オブザーバ22との組み合わせを含むことにより、電流磁束オブザーバとしての特性を、電動機2の特性により適したものとして規定することができる。電流磁束推定ユニット20の電流オブザーバ21は、入力変数に固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を用いる。これにより、磁束オブザーバ22との緩衝を軽減させることができる。
前述の図1を参照して、平均補正ユニット30による平均補正について説明する。
平均補正ユニット30の第1変換処理ユニット31は、電動機2の同期角周波数ωeに基づいた第1の所定の変換則に従い、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)(電動機2の固定子磁束の第1推定値)に対する固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)(電動機2の固定子磁束の第2推定値)を算出する。
第2変換処理ユニット32は、電動機2の同期角周波数ωeに基づいた第2の所定の変換則に従い、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)(電動機2の回転子磁束の第1推定値)に対する回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)(電動機2の回転子磁束の第2推定値)を算出する。
第3変換処理ユニット33は、電動機2の同期角周波数ωeに基づいた第3の所定の変換則に従い、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)(電動機2の固定子電流の第1推定値)に対する固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)(電動機2の固定子電流の第2推定値)を算出する。第1の所定の変換則と、第2の所定の変換則と、第3の所定の変換則は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記の平均補正ユニット30は、次に説明する所定の変換則に従った演算処理により、演算サイクルの周期では生成できない時点の推定値を利用して、連続系から離散時間系に式を変換した際の近似精度を高める。上記の推定値は、同期角周波数ωeに基づいた所定の変換則に従い算出される。平均補正ユニット30は、電動機2の同期角周波数ωeの大きさに応じて、所定の変換則による補正係数を調整する。
例えば、平均補正ユニット30は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)との位相を、上記の所定角分進ませることによって、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)を算出する。これにより、定量の位相を調整する演算により、上記の各信号を生成することができる。
上記の電動機2の同期角周波数ωeに対応する所定角は、駆動量調整ユニットが駆動量指令値を算出する周期と、同期角周波数ωeとに基づいて規定される。サンプリング周期tsは、上記の駆動量調整ユニットが駆動量指令値を算出する周期の一例である。
上記の電動機2の同期角周波数ωeは、電動機の制御状態の推定値の一例である。平均補正ユニット30は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を、電動機2の制御状態の推定値に基づいて調整して、DB-DTFC演算ユニット14に対するフィードバック制御の帰還量を算出する。
図3と図4を参照して、実施形態の同期角周波数ωeに基づいた所定の変換則について説明する。図3は、実施形態の所定の変換則について説明するための図である。図に示されるdqs座標系には、図の下方向に向かうds軸と、ds軸に直交するqs軸とが描かれている。qs軸は、ds軸とqs軸の交点、すなわちdqs座標系の原点を基準にして、ds軸から反時計方向に(2/π)(ラジアン)回転した位置にある。dqs座標系の原点を起点にした矢印が複数記載されている。この矢印は、dqs座標系における磁束λの大きさと方向を示す複素ベクトルである。例えば、磁束の複素ベクトルの始点をdqs座標系の原点に合わせた場合には、dqs座標系の原点を中心にして、反時計回りに磁束λ(k+1)と、磁束λ(k+1.5)と、磁束λ(k+2)の順に回転する。図に示す磁束λ(k+1)は、上記の固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)の一例である。
原点を中心にして磁束λ(k+1)を起点に(ωe・ts)ほど回転すると、磁束λ(k+2)に到達する。例えば、磁束λ(k+1)を起点に(ωe・ts)/2ほど回転すると、磁束λ(k+1.5)に到達する。磁束λ(k+1.5)は、磁束λ(k+1)と磁束λ(k+2)の平均に近い値をとることが見込まれる。上記が、電動機2の同期角周波数ωeに基づいた所定の変換則の基本になる。なお、磁束の複素ベクトルの始点をdqs座標系の原点に合わせた場合を例示して説明したが、磁束の複素ベクトルの終点をdqs座標系の原点に合わせることを制限するものではない。
ところで、(k+1)時点から(k+2)時点までの期間に、(k+1)時点を起点にした演算サイクルが存在するが、(k+1)時点と(k+2)時点の間の時点を起点にする演算サイクルは存在しない。そこで、実施形態では、磁束λ(k+1)に基づいて、磁束λ(k+1.5)を推定する。磁束λ(k+1.5)は、磁束λ(k+1)を回転子の回答方向に所定の角度回転させることにより導出できる。
磁束λ(k+1)を、(ωe・ts)/2ほど回転させる変換を、次の式(17)に示す。
上記の式(17)中のKeは、次の式(18)で規定される。
図4は、実施形態の電動機2の同期角周波数ωeに基づいた所定の変換則を適用する利点について説明するための図である。図4に示されるグラフには、時間(秒)の経過に対応するエアギャップトルク(Nm)が示される。
DB-DTFCでは、トルク制御のために1サンプリング間のトルク変化率を必要とする。ここで、トルクの変化率を実エアギャップトルクTe_actに基づいて算出する方法について説明する。
実エアギャップトルクTe_actは、トルクセンサを用いることで測定できるがコストが増加し、その値に1サンプリング周期の遅延が生じる。そのため、トルクセンサを用いた測定に代えて、(k+1)時点の値として(k+1)時点の推定値と、(k+2)時点の値として、(k+2)時点の値を指令する指令値である(k+1)時点の指令値を、実エアギャップトルクTe_actの近似値として利用する。
これが成り立つ理由はデッドビート制御によって1サンプリングでトルク応答がトルク基準に追従するためである。(k+1)時点のトルクを、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)で示し、(k+2)時点のトルクを、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)で示す。
(k+1)時点から(k+2)時点まで時間が経過する間に、エアギャップトルクTeは、実エアギャップトルクTe_act(k+1)から実エアギャップトルクTe_act(k+2)に変化する。説明を簡略化するために、(k+1)時点の実エアギャップトルクTe_act(k+1)と、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)とが一致し、及び(k+2)時点のエアギャップトルクTeとエアギャップトルク指令値Te_cmd(k+1) とが一致しているものと仮定する。図4に示す曲線Te(k)は、(k+1)時点で想定した実エアギャップトルクTe_actを示す。
は
実施形態では、エアギャップトルクTeの変化率を得る手法として第1の解法と第2の解法との2通りの解法を示す。何れの方法も、(k+1)時点のエアギャップトルクTeの変化率(Te_dot(k+1))を、エアギャップトルクTeの単位時間あたりの変化率(ΔTe_est(k+1)/ts)として近似する。
第1の解法は、(k+1)から(k+2)までの区間のエアギャップトルクTeの変化率を(k+1)時点の状態量を使用して計算するものである。上記の第1の解法では、(k+1)時点のエアギャップトルクTeの変化率(Te_dot(k+1))を、次の式(19)に従い規定する。
第1の解法の場合、上記の式(19)に示すように、エアギャップトルクTeの変化率(Te_dot(k+1))は、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)と、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)と、サンプリング周期tsとを変数に含む関数として規定される。サンプリング周期tsが定数であるから、実エアギャップトルクTe_actの変化の状況によらずに上記の式を規定できる。上記の式(19)の場合、エアギャップトルクTeの変化率は、(k+1)時点の状態量から算出される。上記に関連するオイラー近似の手法がある。オイラー近似の手法は、(k+1)時点のエアギャップトルクTeの傾きからエアギャップトルク推定値Te_est(k+2)を算出する。第1の解法は、所謂オイラー近似の方法とは異なる。
第2の解法では、(k+1)から(k+2)までの区間のトルクの変化率を(k+α)時点の状態量を使用して計算するものである。
例えば、(k+1)から(k+2)までの区間でトルクが、時間の経過に対して1次関数で示されるように直線状に増加する場合には、トルクを示す線が曲線になる。そのような場合には、(k+1)から(k+2)までの区間のトルクの変化率を、その中央値である(k+1.5)時点の変化率として算出することが望ましい。以下、(k+1.5)を(1+α)と呼ぶ。
(k+1)から(k+2)までの区間の制御周期の間に、電力変換装置3が出力する電圧は、一定である。その制御周期の間の回転速度の変化率は、電流や磁束の変化率に比べて極めて小さい。よって、電圧と回転速度については、(k+1)から(k+2)までの区間のトルクの変化率の算出に、(k+1)時点の状態量を用いる。
ただし、磁束と電流の波形は、正弦波であり、その瞬時値が時間の経過とともに変化する。(k+1)から(k+2)までの区間のトルクの変化率の算出に、磁束と電流の(k+1)時点の状態量を用いて近似すると、(k+1)時点以降に値が変化することにより、トルクの変化率に含まれる近似誤差が大きくなる。
そこで、磁束と電流については、(k+1)時点の値に代えて、(k+α)時点の推定値を用いる。これを図4に模式化して示す。直線Tsol1が、(k+1)時点の状態量を用いて近似したトルクの変化率を示す線である。直線Tsol2が、(k+α)時点の状態量を用いて近似したトルクの変化率を示す線である。
上記の第2の解法では、(k+α)時点のエアギャップトルクTeの変化率を、次の式(20)に従い規定する。
以下の実施形態では、上記の第2の解法を例示して、その動作について説明する。
図5は、実施形態のDB-DTFCを説明するためのタイミングチャートである。図に示されるタイミングチャートは、その横軸に時間(秒)が割り付けられ、縦軸に第1から第3のステップに分けて各ステップの処理が示される。k、(k+1)、(k+2)は、離散時間制御における演算サイクルの起点の時刻を示す。
この図5に示されるタイミングチャートには、その縦軸の上段の第1のステップ(STEP1)にサンプリング処理が示され、中段の第2のステップ(STEP2)に演算処理が示され、下段の第3のステップ(STEP3)に出力制御処理が示される。
以下、(k+1)時点を起点とする演算サイクルを例に挙げて説明する。
第1のステップ(STEP1)のサンプリング処理において、速度/位相推定ユニット13は、回転子機械角θrmを取得する。例えば、回転子機械角θrmは、センサ2Aによってが検出されたものである。また、第2座標変換ユニット17は、k時点を起点とする演算サイクルの指令値により動作している電動機2のv相固定子電流Ivsとw相固定子電流Iwsに基づいて固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)を生成する。v相固定子電流Ivsとw相固定子電流Iwsは、電流検出器9a、9bから取得される。回転子機械角θrmとv相固定子電流Ivsとw相固定子電流Iwsと固定子qds軸電流検出値Iqds_s_det(k)は、電動機2の制御状態を示す状態量の一例である。
上記の第1のステップでは、制御装置10は、少なくとも電動機2の制御状態を示す状態量を取得する。さらに、制御装置10は、エアギャップトルクTe(k)を取得してもよく、回転子角速度指令値(機械角)ωrm_com(k+1)に基づいてエアギャップトルクTe(k+1)を算出してもよい。
第2のステップ(STEP2)は、第1のステップにおけるサンプリング処理の結果に基づいて実施される。第2のステップにおいて、電流磁束推定ユニット20と、平均補正ユニット30と、DB-DTFC演算ユニット14と、第1座標変換ユニット15の演算処理が実施され、電動機2に対する駆動量指令値である固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)が算出される。
まず、電流磁束推定ユニット20が、前述した通り回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)とを算出する。演算サイクルの中で、電流磁束推定ユニット20は、最初に固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を算出し、次に固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を算出し、最後に回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)を算出する。
次に、平均補正ユニット30が、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)とに基づいて、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)とを算出する。
次に、DB-DTFC演算ユニット14が、少なくとも回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)とを入力変数に用いて、ΔTe_est(k+1)と固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)とを算出する。
次に、第1座標変換ユニット15が、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)に対するdqs軸逆変換を実施して、電圧基準である三相固定子電圧指令値Vuvws_com(k+1)を生成する。
上記の第2のステップでは、少なくとも第1のステップで取得された状態量と電動機2の固定子磁束の推定値と電動機2の固定子巻線に流れる電流の推定値と電動機2の回転子磁束の推定値に基づいて駆動量指令値が、制御装置10によって算出される。
第3のステップ(STEP3)において、駆動量指令値に基づいた制御信号を前記電力変換装置に供給する出力処理が制御装置10によって実施される。
第3のステップは、第2のステップにおける検出結果に基づいて実施される。(k+1)の演算開始時点ではPWMコントローラ16は、三相固定子電圧指令値Vuvws_com(k)とキャリア信号とを比較した結果に基づいて、Duty(k)のゲートパルスを出力している。演算サイクルにおける第1座標変換ユニット15の演算が完了すると、PWMコントローラ16は、三相固定子電圧指令値をVuvws_com(k+1)に更新し、キャリア信号とを比較した結果に基づいて、Duty(k+1)のゲートパルスGPを生成する。よって(k+2)の演算開始時点で、PWMコントローラ16は、Duty(k+1)のゲートパルスGPを電力変換装置3に供給する。
(k+2)時点以降も、(k+1)の演算サイクルと同様の処理が繰り返される。
図6Aと図6Bを参照して、実施形態の電圧・トルク制御について説明する。図6Aと図6Bは、実施形態の電圧・トルク制御について説明するための図である。
図6Aに、固定子側座標系の磁束平面の一例を示す。図6Bに、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)を基準に調整された再調整座標系の磁束平面の一例を示す。図6Aと図6Bのそれぞれに、図の下向きにds軸が配置され、図の右向きにqs軸が配置されている。図6Bの再調整座標系では、図6Aの回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)のベクトル(矢印)の方向がds軸の方向に一致するように調整され、回転子qds軸磁束推定値λqdr_ras_est(k+α)として示されている。それぞれの磁束平面に、電動機2の物理モデルから導出されたトルクラインTe(k+2)と、指示される固定子磁束の強度を示す磁束円λc(k+2)と、次の制御サイクルに出力可能な固定子磁束の範囲とが描かれている。図6Bの例は、図6Aに示す固定子側座標系の状態を再調整座標系に変換したものである。
先に図6Aについて説明する。
DB-DTFCで用いる制御変数は、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)と、固定子磁束指令値λqds_s_com(k+2)を含む。磁束円λc(k+2)の半径は、固定子磁束指令値λqds_s_com(k+2)の大きさによって規定される。
ここで、電力変換ユニット8は、上アーム及び下アームがそれぞれ1つのスイッチング素子で構成されているものとする。このとき、電力変換ユニット8は、6つのスイッチング素子で構成される。6つのスイッチング素子のスイッチングパターンは、全部で8通りである。この8通りのスイッチングパターンで、電力変換ユニット8から出力可能な電圧ベクトルは、図6Aに示すように、六角形になる。従って、電力変換ユニット8から出力可能な範囲は、この六角形の内側になる。この六角形の中心に一致するように固定子側座標系の原点を配置する。図6Bの再調整座標系においても同様に、六角形の中心に一致するように再調整座標系の原点を配置する。
トルクラインとは、トルクの変化量が一定になる条件を示す点の集合である。固定子qds軸座標系の磁束平面上に射影されたトルクラインTe(k+2)は、上記の各点が互いに連なった直線として描かれる。トルクラインTe(k+2)は、次の制御サイクルにおいて所望のトルクを得るための固定子qds軸磁束指令値qds_s_com(k+2)を規定する。このトルクラインTe(k+2)は、エアギャップトルクTe_com(k+1)、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)とにより決定される。
ここで、解析を容易にするために、図6Bの再調整座標系の磁束平面を利用する。座標系に依存する変数は、座標変換により変換される。例えば、固定子磁束座標系の回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)は、再調整座標系の回転子qds軸磁束推定値λqdr_ras_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+α)に変換される。図6Bに示すように、回転子qds軸磁束推定値λqdr_ras_est(k+α)をds軸に平行になるように調整すると、トルクラインTe(k+2)は、ds軸に平行になる。この図は、後述の解法2に対応するものである。
要求されるトルクに達するには、電力変換装置3が固定子qds軸電圧指令値Vqds_ras_com(k+1)に対応する電圧を、1制御サイクルの期間(サンプリング周期ts)発生することが必要である。ある期間における固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)の矢印の先端がトルクラインTe(k+2)上に位置すれば、サンプリング周期の後に要求トルクに達する。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、サンプリング周期の固定子qds軸電圧指令値Vqds_ras_com(k+1)に対応する電圧との加算の結果が、サンプリング周期の後の固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+2)の値になる。
前述の通り、指示される固定子磁束の強度は、磁束円λc(k+2)として規定されている。トルクラインTe(k+2)と磁束円λc(k+2)の交点は、必要とされるトルクを示す点になる。トルクラインTe(k+2)と磁束円λc(k+2)の交点は、2つ存在する。このうち、制御により原点から到達可能な六角形の内側の点が、必要とされるトルクを示す点として抽出される。DB-DTFC演算ユニット14は、固定子qds軸電圧指令値Vqds_ras_com(k+1)を示す原点に始点が置かれた矢印(ベクトル)の先端(終点)が、上記の交点に到達するように、固定子qds軸電圧指令値Vqds_ras_com(k+1)xtsを決定するとよい。
図7を参照して、DB-DTFC演算ユニット14について説明する。図7は、実施形態のDB-DTFC演算ユニット14のブロック図である。
DB-DTFC演算ユニット14は、例えば、トルクライン処理ユニット141と、磁束円処理ユニット142と、電圧変換ユニット143、144と、逆RAS座標変換ユニット145とを備える。
トルクライン処理ユニット141は、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)に対するトルクラインを特定するための演算処理を実施して、電圧時間積指令値を算出する。電圧時間積指令値Vqds_ras_com(k+1)×tsは、電圧時間積指令値の一例である。
例えば、トルクライン処理ユニット141は、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、回転子角速度推定値ωr_est(k+1)とを含む入力変数を受けて、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)に対応する電圧時間積指令値Vqds_ras_com(k+1)×tsを算出する。
磁束円処理ユニット142は、電動機2の磁束の大きさと方向とを規定する電圧時間積を決定するための演算処理を、再調整座標系を用いて実施する。
例えば、磁束円処理ユニット142は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+2)と、電圧時間積指令値Vqds_ras_com(k+1)×tsとをを含む入力変数を受けて、再調整座標系の磁束平面上の磁束円λcと、上記のトルクラインTeとに基づいて、所望の電圧時間積指令値Vds_ras_com(k+1)×tsを導出する。
電圧変換ユニット143は、トルクライン処理ユニット141によって算出された電圧時間積指令値Vqds_ras_com(k+1)×tsを、サンプリング周期tsで除算して、少なくともq軸成分の電圧時間積指令値Vqs_ras_com(k+1)を算出する。
電圧変換ユニット144は、磁束円処理ユニット142によって算出された電圧時間積指令値Vqds_ras_com(k+1)×tsを、サンプリング周期tsで除算して、d軸成分の電圧時間積指令値Vds_ras_com(k+1)を算出する。
逆RAS座標変換ユニット145は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)に基づいて、電圧変換ユニット143によって算出された電圧時間積指令値Vqs_ras_com(k+1)と、電圧変換ユニット144によって算出された電圧時間積指令値Vds_ras_com(k+1)とに対する、逆RAS変換を実施して、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を算出する。
例えば、RAS変換は、次の式(21)を用いて規定される。
例えば、上記に対応する逆RAS変換は、次の式(22)を用いて規定される。
DB-DTFC演算ユニット14の各部のより具体的な一例について説明する。
トルクライン処理ユニット141は、例えば、演算ブロック1410と、演算ブロック1411Aと、演算ブロック1411Bと、演算ブロック1412と、演算ブロック1413と、演算ブロック1414と、演算ブロック1415と、演算ブロック1416と、演算ブロック1417と、演算ブロック1418と、演算ブロック1419とを備える。
演算ブロック1410は、推定トルク演算ユニットの一例である。例えば、演算ブロック1410は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)とを含む入力変数を受けて、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)(トルク推定値)を算出する。演算ブロック1410は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)とを2つのベクトルとし、それらの内積を算出し、その結果に所定の係数Kを乗じて、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)を算出する。上記の処理を式(23)に示す。
演算ブロック1412は、次の式(24)に示す係数を、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)に乗じる。
演算ブロック1411Aは、減算器である。演算ブロック1411Aは、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)から、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)を減算し、その差をΔTe_est(k+1)と呼ぶ。上記の演算を式(25)に示す。
演算ブロック1411Bは、減算器である。演算ブロック1411Bは、演算ブロック1411Aによって算出されたΔTe_est(k+1)と、演算ブロック1412によって算出された結果とを加算する。
演算ブロック1413は、次の式(26)を、演算ブロック1411Bによって算出された結果に乗じる。
演算ブロック1414は、演算ブロック1413によって算出された結果を、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)に基づいて規格化する。例えば、演算ブロック1414は、演算ブロック1413によって算出された結果を、演算ブロック1415によって算出された結果で除算する。演算ブロック1414の出力は、再調整座標系におけるトルク基準を示すものになる。
演算ブロック1415は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)に基づいて回転子qds軸磁束推定値λqdr_ras_est(k+α)の絶対値(ノルム)を算出する。演算ブロック1415によって算出された結果を利用することで、再調整座標系を固定子側座標系に整合させることができる。
演算ブロック1416は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)を基準にして、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)をRAS座標変換する。
演算ブロック1417は、回転子角速度推定値ωr_est(k+1)に、サンプリング周期tsを乗じる。演算ブロック1418は、演算ブロック1416によって算出された結果が示すベクトルと、演算ブロック1417によって算出された結果が示すベクトルの内積を算出する。
演算ブロック1419は、演算ブロック1414によって算出された結果と、演算ブロック1418によって算出された結果とを加算することで、その結果から、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)に対応する電圧時間積指令値Vqs_ras_com(k+1)×tsを得る。
上記の演算ブロック1411Aと、演算ブロック1411Bと、演算ブロック1412と、演算ブロック1413と、演算ブロック1414と、演算ブロック1415と、演算ブロック1416と、演算ブロック1417と、演算ブロック1418と、演算ブロック1419とは、トルクライン処理ユニットの一例である。
上記の通り、トルクライン処理ユニット141は、少なくともエアギャップトルク指令値Te_com(k+1)(電動機2に対するトルク指令)と、エアギャップトルク推定値Te_est(k+1)(電動機2に対するトルク推定値)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)(電動機2の固定子磁束の前記第2推定値)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)(電動機2の回転子磁束の前記第2推定値)と、電動機2の回転子磁束の回転速度ωrとに基づいて、平均電圧と制御周期の積にあたる電圧時間積を算出する。
磁束円処理ユニット142は、例えば、演算ブロック1420と、演算ブロック1421と、演算ブロック1422と、演算ブロック1423と、演算ブロック1424と、演算ブロック1425と、演算ブロック1426とを備える。
演算ブロック1420は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)を基準にして、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)をRAS座標変換して、固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)を算出する。
演算ブロック1422は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)を基準にして、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)をRAS座標変換して、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)を算出する。演算ブロック1423は、固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+α)に、(ts×Rs)を乗じる。演算ブロック1421は、減算器である。演算ブロック1421は、回転子qds軸磁束推定値λqdr_ras_est(k+1)から、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)と(ts×Rs)との積を減算する。上記の演算結果により、磁束円の中心が、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)の大きさと固定子巻線抵抗Rsの積により補正され、磁束円λcの位置の精度が高まる。なお、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)の大きさと固定子巻線抵抗Rsの積が磁束円の半径に対して十分に小さい場合には、この磁束円の中心の補正処理を省略してもよい。
上記の演算ブロック1420から演算ブロック1423の各演算ブロックの処理により、再調整座標において、固定子巻線抵抗Rsに流れる固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)による電圧降下分の電圧時間積を、固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)から減算して補正して、固定子巻線抵抗Rsの影響を反映させた結果の固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)βを得る。固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)βは、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)の大きさに依存する。
演算ブロック1424は、トルクライン処理ユニット141によって算出された結果と、演算ブロック1421によって算出された結果と、を加算する。
演算ブロック1425は、D軸座標演算ユニットを含む。例えば、演算ブロック1425は、D軸座標演算ユニットとして、固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+2)と、演算ブロック1424によって算出された結果とに基づいて、トルクラインと磁束円λcとの交点の位置を算出する。この詳細については後述する。
演算ブロック1426は、演算ブロック1425によって算出された結果から、演算ブロック1421によって算出された結果を減算する。
上記の磁束円処理ユニット142は、電動機2の回転子磁束の指令値に基づいて磁束円の半径を決定する。磁束円処理ユニット142は、電動機2の固定子磁束の固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+α)(第2推定値)と固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)(第1推定値)に基づいて磁束円λcの中心の位置を決定する。磁束円処理ユニット142は、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)(第2推定値)と、固定子巻線の抵抗値Rsとに基づいて、磁束円λcの中心の位置を調整する。これにより、固定子qds軸電流推定値Iqds_ras_est(k+α)(第2推定値)による、固定子巻線の抵抗値Rs成分によって生じる電圧降下の影響を軽減し、制御の精度を向上させることができる。
DB-DTFCの詳細について説明する。
まず、任意の座標系における誘導電動機の等価方程式を式(27-1)から式(27-4)に示す。
上記の式(27-3)と式(27-4)を解いて、次の式(28-1)と式(28-2)を用いて固定子電流と回転子電流を得る。
ここで、漏れ係数σを、次の式(29)に示すように定義する。
式(27-1)と式(27-2)に、式(28-1)と式(28-2)と式(29)を代入して、次の式(30-1)と式(30-2)とを得る。
次の式(30-1)と式(30-2)とを変換して、次の式(31-1)と式(31-2)とが算出される。
上記の式(31-1)と式(31-2)において、RAS座標変換による回転座標系の特徴を利用してωeに0を代入することで、次の式(32-1)と式(32-2)とが算出される。
次の式(33)は、電動機2のトルクの算出に利用される式である。
上記の式(33)を微分することにより、トルクの変化率を示す次の式(34)が算出される。
上記の式(31-1)と式(31-2)をスカラーで表記すると、式(35-1)から式(35-4)に変換できる。
式(35-1)から式(35-4)を上記の式(34)に代入すると、次の式(36)のように記述できる。
連続系で記述された式(36)を離散時間系で記述すると、次の式(37)のように記述できる。
トルクの変化率について記述された式(37)を変換して、式(38)が算出される。
上記の式(38)は、トルクラインを示す式になる。変数mを式(39-2)に、変数bを式(39-3)に示すように定義することにより、式(38)を式(39-1)のように簡略化できる。
上記の通り、解法2の場合、mは図6Bにおけるds軸に対する傾きに相当するので、m=0である。mを0とすれば、再調整座標系における電圧指令値のqs軸成分Vqs_ras_com(k+1)は、下記の式(40)から算出される。
次に、磁束円λcに関する処理について説明する。
固定子qds軸磁束λqdsの微分値を次の式(41)のように記述できる。
上記の式(41)は、離散時間系の式(42)に変換される。
上記の式(42)のqs軸成分とds軸成分とを分けることで、式(43)に変換される。
上記の式(43)において、固定子静止座標系における電圧指令値のqs軸成分Vqs_s_com(k+1)は、式(42)を用いて得ることができ、既知の変数になる。上記の式(43)を解くことにより、電圧指令値のds軸成分Vds_s_com(k+1)が算出される。
上記の説明では、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+2)を用いて説明したが、これを、固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+1)に代えることができることは、先に説明した通りである。
なお、上記の説明は、固定子静止座標系を例示するものであるが、再調整座標系においても同様である。電圧指令値のqs軸成分Vqs_ras_com(k+1)は、式(42)から変換された再調整座標系の式を用いて得ることができ、既知の変数になる。上記の式(43)から変換された再調整座標系の式を解いて、電圧指令値のds軸成分Vds_ras_com(k+1)を得ることができる。
上記の実施形態によれば、電流磁束推定ユニット20は、推定精度を高めた固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)とを生成する。平均補正ユニット30は、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)と固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)とに基づいて、固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+α)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)と、を生成する。DB-DTFC演算ユニット14は、少なくとも固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)とを用いて、固定子dqs軸電圧指令値Vdqs_ras_com(k+1)を生成する。これにより、制御装置10は、電動機2の制御の精度を高めることができる。
電流オブザーバ21の演算における遅延量を補償することで、制御の精度が高まる場合がある。これについて、図22を参照して説明する。図22は、実施形態の電流オブザーバ21の演算における遅延量を補償する利点について説明するための図である。図22に示されるグラフには、時間(秒)の経過に対応する固定子磁束λqds_sが太い実線で、固定子電流Iqds_sが細い実線で示され、回転子磁束λqdr_sが二重線で示されている。各線は、k時点から(k+1)時点までは、実際の変化を示し、(k+2)時点も含めて(k+1)時点から先は(k+1)時点で推定される電動機2の挙動を示す。
電流オブザーバ21が(k+1)時点で固定子磁束測定値λqds_s_est(k)と固定子磁束測定値λqds_s_est(k+1)の平均である固定子磁束の移動時間平均値λaveを算出する。図22中の点G11が示す値は、固定子磁束の移動時間平均値λaveである。移動時間平均値λaveの値を示す点G11を配置する。図22に示すように点G11は固定子磁束λの線上から離れている。点G11と同じ値を示す固定子磁束λの線上の点G12は、(k+1)時点よりも(ts/2)ほど過去になる。
電流オブザーバ21は、上記の通り固定子磁束の移動平均値λaveを用いて固定子電流推定値Iqds_s_est(k+1)を算出する。図22中の点G21が示す値は、固定子電流推定値Iqds_s_est(k+1)である。ただし、図22中の点G21は、固定子磁束λqds_sの場合と同様に、(k+1)時点で固定子電流Iqds_sの線上から離れている。点G21と同じ大きさを示す固定子電流Iの線上の点G22は、(k+1)時点よりも(ts/2)ほど過去になる。
磁束オブザーバ22は、回転子磁束推定値λqdr_s_est(k+1)を算出する過程で、上記の固定子電流推定値Iqds_s_est(k+1)を用いる。回転子磁束推定値λqdr_s_est(k+1)には、固定子電流推定値Iqds_s_est(k+1)の成分が含まれる。回転子磁束推定値λqdr_s_est(k+1)には、上記の通り(ts/2)ほどの実質的な遅延が生じることがある。
電流オブザーバ21と磁束オブザーバ22が算出する電動機2の状態変数の値には、上記の遅延が含まれることがある。
k時点から(k+2)時点までの状態は、時間の経過により変化する。ただし、同期角周波数ωeの値の変動を定数とみなし、k時点から(k+2)時点までの状態の変化の傾向は連続すると仮定することで、状態の変化を予測することができる。平均補正ユニット30は、同期角周波数ωeを用いて、(k+1)時点の状態変数の値を用いて(k+α)時点の状態量を算出する。これにより、DB-DTFC演算ユニット14は、(k+1)時点の状態変数の値として、(k+α)時点の状態量の予測値を利用することが可能になる。例えば、(k+α)時点が(k+1)時点よりも(ts/2)ほど将来になるように調整されていれば、電流オブザーバ21の演算過程で生じる遅延と、(k+1)時点から(k+α)時点までの期間が整合し、それぞれの影響が相殺される。
例えば、図22の中段のグラフにおいて、点G22の時点から(ts/2)ほど経過すれば、(k+1)時点になる。この間に、点G22の時点の状態は、固定子電流Iqds_sの線に沿って変化して、固定子電流測定値Iqds_s_det(k+1)として検出される。固定子電流測定値Iqds_s_det(k+1)には、ノイズが多く含まれるため、これに代えて電流オブザーバ21によって算出される固定子電流推定値Iqds_s_est(k+1)が制御に利用される。
そこで、平均補正ユニット30は、点G21に対応する固定子電流推定値Iqds_s_est(k+1)に基づいて、同期角周波数ωeを用いて固定子電流推定値Iqds_s_est(k+α)を推定することで、(k+α)時点の点G23の位置の状態量を得る。点G23の位置の状態量は、固定子電流推定値Iqds_s_est(k+α)になる。この値を(k+1)時点の状態量として利用すれば、あたかも(k+1)時点の状態量として固定子電流推定値Iqds_s_est(k+α)を利用することができる。点G24は、(k+1)時点の状態量として利用する固定子電流推定値Iqds_s_est(k+α)を示す。
上記の固定子磁束λqds_sと回転子磁束λqdr_sとについても、固定子電流Iqds_sの場合と同様である。固定子磁束λqds_sにおける点G11、点G13、点G14は、固定子電流Iqds_sにおける点G21、点G23、点G24にそれぞれ対応する。回転子磁束λqdr_sにおける点G31、点G33、点G34は、固定子電流Iqds_sにおける点G21、点G23、点G24にそれぞれ対応する。
平均補正ユニット30は、上記のように電流磁束推定ユニット20の演算処理により生じる遅延を相殺するように所定の変換則を用いて各状態量を示す変数の値を補正する。これによりDB-DTFC演算ユニット14が基準にする固定子qdr軸磁束推定値λqdr_s_estの位相が、上記の遅延を打ち消すように調整されることにより、DB-DTFC演算ユニット14によって生成される固定子dqs軸電圧指令値Vdqs_ras_com(k+1)の位相の正確性が高まる。
実施形態によれば、固定子巻線抵抗Rsのインピーダンス成分による電圧降下の影響を軽減させて、DB-DTFCによる制御の精度を高めることができる。
なお、固定子巻線抵抗Rsのインピーダンス成分による電圧降下の影響が少ない場合には、上記の式(42)の第2項を省略してもよい。
(第1の実施形態の第1変形例)
図を参照して、実施形態の第1変形例について説明する。
第1の実施形態では、DB-DTFC制御における第2の解法に関する事例について説明した。本変形例では、これに代えて、DB-DTFC制御における第1の解法に関する事例について説明する。
図8は、実施形態のDB-DTFC制御における第1の解法を説明するための図である。図8は、磁束座標系の磁束平面の一例を示す。この図8に示す磁束座標系は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)を基準に調整された再調整座標系である。図の下向きにds軸が配置され、図の右向きにqs軸が配置されている。
図8は、前述の図6Bとは以下の点が異なり、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)が、ds軸の方向に沿うように調整されている。この場合、トルクラインTe(k+2)は、ds軸に平行にならない。
そこで、第1の解法では、磁束円を示す式とトルクラインを示す式とを連立させて、磁束円とトルクラインとの交点を2次式の解を得る方法により導出する。
説明を簡略化するため、磁束円λcを示す前述の式(43)を、式(44)のように変換する。この式(44)は、固定子巻線抵抗Rsの影響が無視できるものとして簡略化したものである。
磁束円とトルクラインの各式を連立させると、次の式(45)に変換できる。これを解くことにより、電圧指令値のqs軸成分Vqs_ras_com(k+1)を式(46)から、電圧指令値のds軸成分Vds_ras_com(k+1)を式(45-3)から得ることができる。
上記の変形例によれば、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+α)を基準に調整された再調整座標系を利用する。上記の変形例の場合も、実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第1の実施形態の第2変形例)
図を参照して、実施形態の第2変形例について説明する。
第1の実施形態では、電流オブザーバ21における処理に、固定子磁束をラッチインタフェースを利用する事例について説明した。本変形例では、これに代えて、固定子磁束をランプインタフェースを利用する事例について説明する。このランプインタフェースは、1次ホールド関数として機能する。
図9を参照して、電流オブザーバ21の変形例について説明する。
図9は、第1の実施形態の第2変形例における電流オブザーバ21Aのブロック図である。電流オブザーバ21Aは、前述の図1の電流オブザーバ21に代わり、駆動量指令値と前記算出された固定子磁束の推定値とに基づいて、前記電動機の固定子巻線に流れる電流の推定値を算出する。例えば、電流オブザーバ21Aは、電流オブザーバ21の演算ブロック211と、演算ブロック212と、演算ブロック213と、演算ブロック218とに代えて、演算ブロック212Aと、演算ブロック213Aと、演算ブロック213Bと、演算ブロック218Aと、演算ブロック218Bと、演算ブロック219とを備える。
演算ブロック212Aは、回転子巻線抵抗Rrと回転子巻線の自己インダクタンスLrと回転子速度ωrとを変数に含む式(48)で表される伝達関数を、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に乗じて、電圧V2を算出する。
演算ブロック219は、演算ブロック212Aの演算結果を、(χσLs)で除算して、その商を出力する。
演算ブロック218Bは、ランプインタフェースを含む。演算ブロック218Bは、演算ブロック219の演算結果を1次ホールドし、1次ホールドした結果の電圧補正値Vcomp1を算出する。演算ブロック218Bは、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estの時刻歴データを用いて、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_estを平滑化する。
例えば、演算ブロック218Bは、演算ブロック218Bは、A1、B0と、B1とを変数に持つ式(49)で表される伝達関数を、演算ブロック219の演算結果に乗じて、電圧補正値Vcomp1を算出する。
上記の式(49)において、A1、B0と、B1は、下記の式(50)によって規定される。なおχは、任意の変数である。
上記の通り、少なくとも演算ブロック218Bは、回転子磁束の推定値に基づく値を1次ホールドするランプ演算ユニットを含む。
上記の演算ブロック212Aと演算ブロック219と演算ブロック218Bは、電流推定値算出ユニットの一例である。演算ブロック212Aと演算ブロック219と演算ブロック218Bは、磁束オブザーバ22により算出された電動機2の固定子磁束の推定値に基づいて電動機2の固定子巻線に流れる電流の推定値(第1推定値)を算出する。演算ブロック218Bは、電動機2の固定子磁束の推定値から電動機2の固定子巻線に流れる電流の第1推定値を算出する演算処理において、固定子磁束の推定値に基づく値を1次ホールドする。
演算ブロック213Aは、加算器である。演算ブロック213Aは、固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_comと、演算ブロック215の演算結果と、演算ブロック216の演算結果とを加算して、その和である電圧合計値Vqds_sum1を出力する。電圧合計値Vqds_ sum1には、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に基づく成分は含まれない。演算ブロック217は、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の成分を含まない電圧合計値Vqds_ sum1を(χσLs)で除算する。なお、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に基づく成分は、後段の演算ブロック213Bにおいて加算される。
演算ブロック218Aは、前述の演算ブロック218と同じものであってよい。演算ブロック218Aは、演算ブロック217の演算結果に基づいて所定の演算処理をして、その結果(Iqds_sum2)を出力する。Iqds_sum2には、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に基づいた成分が含まれない。
演算ブロック213Bは、加算器である。演算ブロック213Bは、演算ブロック218Aの演算結果と、演算ブロック218Bの演算結果とを加算して、その和である固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を出力する。変形例における演算ブロック210は、演算ブロック213Bの演算結果である固定子qds軸電流推定値Iqds_s_est(k+1)を保持する。
電流オブザーバ21Aの構成についての説明を続ける。
電流オブザーバ21Aは、連続系から離散系への変換において、電圧入力についてはラッチインタフェースを、磁束入力についてはランプインタフェースを適用する。
上記の式(51)において、式(52)を定義する。
上記の式(51)に示すように線形システムであるから、重ね合わせの原理を適用することにより、次の式(53)が得られる。
上記の式(53)におけるχは、次の式(54)に示すように定義される。
上記の通り、固定子電圧についてはラッチインタフェースを適用し、固定子磁束についてはランプインタフェースを適用して、式(54)を離散時間系の式に変換することにより、式(55)と式(56)とが得られる。Z[・]は、Z変換を示す。
ここで、前述したように、A1と、B0と、B1とを定義して、式(55)と式(56)とを整理することにより式(57)が得られる。
上記の変形例によれば、電流オブザーバ21Aが磁束推定値をラッチインタフェースで受けたとしても、実施形態と同様の効果を奏する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電動機駆動システム1Aについて、DB-DTFC演算ユニット14Aを中心に説明する。第1の実施形態では、例えば、オブザーバによって電流と磁束の推定精度を向上させ、さらに平均補正により、DB-DTFC制御における状態変数の値(状態量)を補正する事例について説明した。本実施形態では、これに代えて、オブザーバによって電流と磁束の推定精度を向上させたDT-DTFC制御の事例について説明する。なお、この実施形態の場合、上記の平均補正により状態変数の値を補正することによる効果は得られない。
図10は、第2の実施形態の電動機駆動システム1Aのブロック図である。
電動機駆動システム1Aの制御装置10Aは、前述の電動機駆動システム1の制御装置10に対して、DB-DTFC演算ユニット14に代えてDB-DTFC演算ユニット14Aを備える点、平均補正ユニット30を備えていない点、滑り周波数推定ユニット18と加算器ユニット19とを省略可能な点等が異なる。同図10において、滑り周波数推定ユニット18と加算器ユニット19の記載を省略する。
DB-DTFC演算ユニット14Aは、エアギャップトルク指令値Te_com(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束指令値λqds_s_com(k+2)とを含む入力変数を受けて、上記の各入力変数に基づいて固定子qds軸電圧指令値Vqds_s_com(k+1)を算出する。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)と、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)は、電流磁束推定ユニット20から供給される。固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)は、電動機2の固定子磁束の推定値の一例である。回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)は、電動機2の回転子磁束の推定値の一例である。
前述のDB-DTFC演算ユニット14が回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+α)を基準にしたRAS座標変換と逆RAS座標変換を実施するのに対して、DB-DTFC演算ユニット14Aは、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を基準にしたRAS座標変換と逆RAS座標変換を実施する。
図11は、実施形態のDB-DTFC演算ユニット14Aのブロック図である。
DB-DTFC演算ユニット14Aは、前述のDB-DTFC演算ユニット14に対して、トルクライン処理ユニット141と、磁束円処理ユニット142と、逆RAS座標変換ユニット145とに代えて、トルクライン処理ユニット141Aと、磁束円処理ユニット142Aと、逆RAS座標変換ユニット145Aとを備える。
トルクライン処理ユニット141Aは、トルクライン処理ユニット141の演算ブロック1415と、演算ブロック1416とに代えて、演算ブロック1415Aと、演算ブロック1416Aとを備える。
演算ブロック1415Aは、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の大きさ(ノルム)を算出する。
演算ブロック1416Aは、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を基準にして、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)をRAS座標変換して、固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)する。上記の演算の結果、固定子qs軸磁束推定値λqs_ras_est(k+1)が0になり、固定子ds軸磁束推定値λds_ras_est(k+1)が、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の大きさになる。
磁束円処理ユニット142Aは、磁束円処理ユニット142に対して、演算ブロック1421と、演算ブロック1422と、演算ブロック1423とを備えていない点と、演算ブロック1420に代えて演算ブロック1420Aを備える点が異なる。
演算ブロック1420Aは、上記の演算ブロック1416Aの構成と同じ構成を有する。演算ブロック1420Aは、例えば、演算結果の固定子qds軸磁束推定値λqds_ras_est(k+1)を、後段の演算ブロック1424と、演算ブロック1426とに供給する。
上記の通り、本実施形態は、第1の実施形態の電動機駆動システム1の一部の機能を縮退して簡素に構成することができる。DB-DTFC演算ユニット14Aは、解法1の手法により、所望の解を得ることができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態の電動機駆動システム1Bについて説明する。
上記の実施形態では、電圧指令値を生成するために、デッドビート直接トルク制御(DB-DTFC)方式を用いた事例について説明した。本実施形態では、これに代えて、磁界方向制御(Field Oriebnted Control)方式を用いた事例について説明する。以下、磁界方向制御方式を、FOC方式と呼ぶ。
FOC方式とは、トルク(回転力)を発生する電流成分と磁束を発生する電流成分とを互いに分解し、それぞれの電流成分を直流量として独立に制御する方式である。
FOC方式の一つは、DFOC(Direct Field Oriebnted Control)方式である。DFOC方式は、磁束ベクトルを磁束センサあるいは磁束オブザーバにて直接推定して制御する方式である。
図12は、実施形態の電動機駆動システム1Bのブロック図である。この図に示す電動機駆動システム1Bは、前述の電動機駆動システム1の制御装置10に代えて、FOC方式の制御を適用した制御装置10Bを備える。電動機2には、位置又は速度を検出するセンサが設けられていない。
FOC方式には、IFOC(Indirect Field Oriented Control)方式とDFOC(Direct Field Oriented Control)方式がある。IFOC方式は、磁束推定あるいは検出によらず電動誘導機の滑りを制御する間接型ベクトル制御(滑り周波数型ベクトル制御とも呼ぶ。)を用いる方式である。DFOC方式は、磁束推定あるいは検出結果に基づいて電動機2の滑りを制御する直接型ベクトル制御を用いる方式である。
図12に示すDFOC演算ユニット40は、後者のDFOC方式を適用した一例である。制御装置10Bには、DB-DTFC演算ユニット14に代えてDFOC演算ユニット40が設けられており、第1座標変換ユニット15に代えて第6座標変換ユニット15Aが設けられており、速度/位相推定ユニット13に代えて速度/位相推定ユニット13Aが設けられており、滑り周波数推定ユニット18に代えて滑り周波数推定ユニット18Aが設けられている。
制御装置10Bは、第7座標変換ユニット17Aと、第8座標変換ユニット17Bとを備えている。第7座標変換ユニット17Aには、v相固定子電流Ivs(k)とw相固定子電流Iws(k)とが供給される。第8座標変換ユニット17Bには、第6座標変換ユニット15Aの出力である三相固定子電圧指令値Vus_com(k+1)、Vvs_com(k+1)、Vws_com(k+1)が供給される。
DFOC演算ユニット40には、モーションコントローラ12によって算出されたトルク指令値Te_com(k+1)が供給される。DFOC演算ユニット40には、磁束指令として、定格固定子磁束の定子磁束指令値λs_comが供給されている。
速度/位相推定ユニット13Aは、例えば、モーションコントローラ12によって算出されたトルク指令値Te_com(k+1)と、滑り周波数推定ユニット18Aによって算定された滑り角周波数推定値ωsl_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に基づいて、回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)と、回転子角度推定値θr_est(k+1)と、固定子電源位相推定値θe_est(k+1)を算出する。
速度/位相推定ユニット13Aは、例えば、ポジショントラッキングオブザーバ(position tracking observer)を含む。上記のポジショントラッキングオブザーバは、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)を位相を抽出するための基準信号にする。
例えば、速度/位相推定ユニット13Aは、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)に基づいて基本成分(同期角度θe)を抽出し、これを滑り角周波数推定値ωsl_est(k+1)に基づき補正して回転子角度θrを生成する。速度/位相推定ユニット13Aは、回転子角度θrと回転子角度推定値θr_est(k)とを比較して、位相が一致するように調整した回転子角度推定値θr_est(k+1)を生成する。速度/位相推定ユニット13Aは、上記の回転子角度推定値θr_est(k+1)に合わせて回転子角速度推定値ωrm_est(k+1)を生成する。
滑り周波数推定ユニット18Aは、例えば、モーションコントローラ12によって算出されたトルク指令値Te_com(k+1)と、磁束オブザーバ22によって算出された固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)とに基づいて、電動機2の滑りに関わる滑り角周波数推定値ωsl_est(k+1)を算出する。
また、速度/位相推定ユニット13Aは、固定子電源位相推定値θe_est(k+1)を基準信号として第7座標変換ユニット17A及び第6座標変換ユニット15Aに出力している。第7座標変換ユニット17Aは、基準信号に基づいて、入力信号を互いに直交するγ成分とδ成分の回転座標系の信号に変換する。
基準信号の位相を適切に選択することにより、第7座標変換ユニット17Aは、基準位相と同相成分をγ成分とし、基準位相に直交する成分をδ成分とすることができる。第7座標変換ユニット17Aは、座標変換したγ軸固定子電流Iγ(k+1)とδ軸固定子電流Iδ(k+1)をDFOC演算ユニット40に供給する。
第6座標変換ユニット15Aは、上記とは逆に、DFOC演算ユニット40からの出力であるγ成分の電圧指令値Vγ_com(k+1)とδ成分の電圧指令値Vδ_com(k+1)とを固定座標系の三相固定子電圧指令値Vus_com(k+1)、Vvs_com(k+1)、Vws_com(k+1)に変換する。第6座標変換ユニット15Aの演算結果は、PWMコントローラ16と第8座標変換ユニット17Bととに供給される。
第8座標変換ユニット17Bとは、三相固定子電圧指令値Vus_com(k+1)、Vvs_com(k+1)、Vws_com(k+1)をdqs軸の2軸成分の電圧指令値Vqds_s_com(k+1)に変換する。第8座標変換ユニット17Bとで変換された値は、電流磁束推定ユニット20に供給される。
電流磁束推定ユニット20によって推定された回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)は、DFOC演算ユニット40に供給される。
DFOC演算ユニット40は、供給された信号に基づいて、その内部で、γ成分の固定子電流指令値Iγ_com(k+1)とδ成分の固定子電流指令値Iδ_com(k+1)を生成し、γ軸固定子電流Iγ(k+1)とδ軸固定子電流Iδ(k+1)とが指令値に追従するように、固定子電圧指令値Vγ_com(k+1)と固定子電圧指令値Vδ_com(k+1)を生成する。
γ成分の電圧指令値Vγ_com(k+1)とδ成分の電圧指令値Vδ_com(k+1)は、第6座標変換ユニット15Aに供給され、さらにPWMコントローラ16を経由して、ゲートパルスGPとして電力変換装置3に与えられる。
上記の第3の実施形態では、前述の第1と第2の実施形態とは制御方式が異なるが、制御装置に電流磁束推定ユニット20が設けられていること、且つ電流磁束推定ユニット20から供給される回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)が制御に用いられることは、前述の第2の実施形態と同様である。電流磁束推定ユニット20によって、回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の推定精度が高まるという効果が得られる。
制御装置10Bは、電流磁束推定ユニット20により推定される回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)と、固定子qds軸磁束推定値λqds_s_est(k+1)の推定精度を利用することができるため、FOC方式による制御の精度をより高めることができる。
実施形態における制御方式は、FOCである。このFOCの場合、電流のフィードバック信号(電流FBK)が、DFOC演算ユニット40による制御に用いられる。ここで用いられる電流FBK、例えば電流オブザーバ21による固定子電流Idqs_estの推定精度が理想的である場合、測定値に基づく電流FBKの代わりに、(k+1)時点の推定電流(固定子電流Idqs_est)を用いて制御することが可能なる。これに合わせて、DFOC演算ユニット40によるゼロラグ電流制御が可能になる。
実施形態における電動機2には、物理的な速度センサが設けられていない。実施形態の事例では、磁束オブザーバ22による推定磁束を用いた速度センサレス制御が実施される。速度センサレス制御の場合、電流推定精度の改善が磁束推定精度の改善に関係し、さらに推定位相・速度の精度改善に関係し、制御精度が改善される。FOCの場合の制御精度とは、電流制御・速度制御の精度ことである。
なお、速度センサレス制御は、前述のDB-DTFCに適用すること可能である。速度センサレス制御をDB-DTFCに適用した場合の制御精度とは、速度制御、磁束制御、トルク制御の精度のことである。
(第3の実施形態の変形例)
第3の実施形態では、平均補正ユニット30を備えない事例を示したが、これに制限されることなく平均補正ユニット30を備えてもよい。この場合、第3の実施形態に比べてさらに、磁束と電流の推定精度を高めることができる場合がある。サンプリング周期tsが比較的長くなる場合に、平均補正ユニット30を設けすことによる制御の精度向上が見込まれる。
(実施形態の制御装置)
実施形態の制御装置10について説明する。図13は、実施形態の制御装置10のブロック図である。制御装置10は、処理回路100を備える。図13に示す処理回路100は、CPU101と、記憶部102と、駆動部103とを備える。CPU101と、記憶部102と、駆動部103は、BUSで接続されている。処理回路100は、制御装置10の一例である。CPU101は、ソフトウェアプログラムに従い、所望の処理を実行するプロセッサを含む。記憶部102は、半導体メモリを含む。駆動部103は、CPU101の制御に従い、電力変換装置3の制御信号を生成する。実施形態において、CPU101と駆動部103が実行する処理を纏めて、単に制御装置10の処理として説明する。例えば、制御装置10は、電流検出器9a、9bなどの検出結果に基づいて、電力変換装置3を制御する。
(実施例について)
図14から図18を参照して、実施例の評価結果について説明する。
図14と図15は、実施形態の電動機駆動システム1の評価結果を示す図である。図14に、第1の実施形態に示した制御装置10において、図2に示す電流オブザーバ21を適用した場合の評価結果(実施例1)を示す。図15に、第1の実施形態に示した制御装置10Aにおいて、図2に示す電流オブザーバ21を適用した場合の評価結果(実施例2)を示す。
これに対し、図16は、比較例の電動機駆動システムの評価結果を示す図である。図16の比較例では、第1の実施形態に示した制御装置10Aに比較例の電流オブザーバを適用させた。比較例の電流オブザーバは、下記の点が電流オブザーバ21とは異なる。第1の相違点は、入力変数として、磁束オブザーバにより生成される回転子qds軸磁束推定値λqdr_s_est(k+1)を用いることである。第2の相違点は、磁束入力に対する移動時間平均を実施するものではなく、かつ、ランプインタフェースを有するものでもない点である。上記の通り比較例の電流オブザーバは、磁束入力に対する平滑化処理を行うものではない。
図14から図16の各図に示す評価結果は、スイッチング周波数fsを240ヘルツ(Hz)に設定し、定格速度で電動機2を駆動している状態で、トルクのステップ応答試験を実施した際の評価結果である。以下、これらを対比して説明する。
図14に示す実施例1の評価結果から、制御装置10による制御によってトルクの指令値と、測定値と、推定値とが所望の範囲で一致することが読み取れる。
図15に示す実施例2の評価結果から、制御装置10Aによる制御では、トルクの指令値に対し、測定値と推定値が解離していることが読みとれる。ただし、上記のトルク指令値に対し解離があるものの、測定値と推定値は、トルクのステップ状の変化に応答している。制御装置10Aによる上記の評価結果は、実際のトルクの値を推定していると判断しうるものであった。
図16に示す比較例の評価結果において、トルクの指令値と、測定値と、推定値とがそれぞれ独立している。それぞれの値の段階的な変化が同期していることを確認できたが、実施例1、2のような、値同士の相関性を確認することはできなかった。
上記から、このような試験条件では、比較例を適用することに困難な場合があること、及び、実施例1の構成が有効な結果を示したことが確認できた。
トルクのステップ応答試験の結果について説明する。図17は、トルクのステップ応答試験の評価結果を示す図である。図17に示すグラフは、トルクのステップ応答試験の結果を解析的に示すものである。縦軸はトルク誤差の大きさを示し、横軸は回転子の速度を示し、奥行きはトルクの大きさを示している。
トルクのステップ応答試験では、サンプリング周波数fsとして、2000ヘルツ(Hz)と240ヘルツ(Hz)の2つの条件について実施した。試験の際の状態として、電動機2を定常状態で駆動させ、トルクと負荷を所定の範囲で変化させている。その際のトルク推定値と測定値との誤差が3次元状のグラフに示されている。トルクと負荷を所定の範囲としては、トルクを無負荷から定格負荷までの範囲で変化させ、速度を停止から定格速度までの範囲で変化させたものである。
2000ヘルツ(Hz)と240ヘルツ(Hz)の何れの場合も、実施形態の電動機駆動システム1は、比較例のものよりも誤差が少ないという結果が得られた。特に、240ヘルツ(Hz)の場合には、その差が顕著に表れた。240ヘルツ(Hz)の評価結果から、電動機駆動システム1は、電動機2の速度を高めても、トルク誤差が増大することなく制御可能であることが読み取れる。
前述の評価結果を検証するため、電流磁束推定ユニット20について評価を実施した。
図18は、電流磁束推定ユニットの評価結果を示す図である。図18に示す評価結果は、電流磁束推定ユニット20の評価結果と、比較例の電流磁束推定ユニットの評価結果とである。電流磁束推定ユニット20の評価結果(A:実施例2)は、第2の実施形態に示した制御装置10Aに電流オブザーバ21(図2)を適用して評価した時のものである。比較例の電流磁束推定ユニットの評価結果(B:比較例)は、上記の制御装置10Aにおいて、電流オブザーバ21に代えて、前述の比較例の電流オブザーバを適用して評価した時のものである。
図18の最上段に固定子磁束λqs_sと固定子磁束推定値λqs_s_estとの対比結果と、最上段から第2段目に固定子電流Iqs_sと固定子電流推定値Iqs_s_estとの対比結果と、最上段から第3段目に回転子磁束λqr_sと回転子磁束推定値λqr_s_estとの対比結果と、最下段にトルク指令値Te_comとトルク測定値Te_detとトルク推定値Te_estの3つの対比結果とを順に示す。試験の条件は、サンプリング周波数fsを500Hz(ヘルツ)とし、電動機2の負荷を無負荷にして、所定の速度制限をかけて実施した。上記のサンプリング周波数fsは、基本周波数の10倍程度に設定した。
以下、図18に示すこれらの評価結果を対比して説明する。
実施例2の場合、固定子磁束と、固定子電流と、回転子磁束と、トルクの何れもが、推定値には階段状の量子化歪がみられるが、入力波形に対する再現性は高く、追従していると判定しうる。
一方、比較例の場合、固定子電流と、回転子磁束とについては入力波形に対する再現性は低い。また、トルクについては、トルク指令値Te_comに対してトルク測定値Te_detとトルク推定値Te_estが離間した結果が得られた。比較例の場合、上記のように追従しないことがある。
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、電力変換装置3の制御装置10は、DB-DTFC演算ユニット14と、PWMコントローラ16と、磁束オブザーバ22と、電流オブザーバ21と、を備えることにより、PWMコントローラ16は、電動機2の駆動量を規定する駆動量指令値に基づいた制御信号を、電動機2を駆動する電力変換装置3に出力する。DB-DTFC演算ユニット14は、少なくとも電動機2に対するトルク指令と電動機2の固定子磁束の推定値と電動機2の固定子磁束の基準値とに基づいて電動機2の駆動量を規定する駆動量指令値を算出し、前記算出された駆動量指令値をPWMコントローラ16に供給する。磁束オブザーバ22は、少なくとも算出された駆動量指令値と電力変換装置3の出力電流とに基づいて、少なくとも電動機2の固定子磁束の推定値を算出する。電流オブザーバ21は、算出された固定子磁束の推定値の時刻歴データに基づいて固定子磁束の推定値を平滑化し、少なくとも算出された駆動量指令値と平滑化された固定子磁束の推定値とに基づいて、電力変換装置3の出力電流に関わる電動機2の固定子巻線に流れる電流の推定値を算出する。これにより、誘導電動機を高精度で制御することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。