JP7055050B2 - フェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材 - Google Patents
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更に、このような高温運転下の燃料電池において、多量の水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素に加え、多量の水素や、炭化水素系燃料由来の硫化水素を微量含んだ雰囲気(以下、浸炭性/還元性/硫化性環境、という。)の下に曝されることとなる。このような雰囲気中に、例えば鋼材料が曝されると、材料表面の浸炭、硫化による腐食が進行する状況になり、動作環境としては過酷な状況となる。
また、SOFCシステムやPEFCシステムの場合、燃料電池の運転温度が高温となるため、高温強度のさらなる向上が求められる。
さらには、燃料電池用部材として溶接構造を採用する場合には、475℃脆性やσ脆性に起因した溶接部の脆性破壊が回避可能な溶接構造であることも求められる。
これらのことから、近年では、Al含有のフェライト系ステンレス鋼を溶接溶加材を用いて溶接する場合、従来よりも耐酸化性、高温強度、耐脆化特性に優れたフェライト系ステンレス鋼溶接金属を得ることができる溶接溶加材が切望されている。
[1]溶加材全質量に対する質量%で、
Cr:12.0~16.0%、
C:0.020%以下、
Si:0.65~2.50%、
Mn:0.30%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0030%以下、
Al:1.00~2.50%、
Nb:0.001~1.00%、
N:0.030%以下、
O:0.010%以下、
B:0~0.0100%、
Sn:0~0.20%、
Ga:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
Ca:0~0.0100%、
Ni:0~1.0%、
Cu:0~1.0%、
Mo:0~1.0%、
Sb:0~0.5%、
W:0~1.0%、
Co:0~0.5%、
V:0~0.5%、
Ti:0~0.5%、
Zr:0~0.10%、
Y:0~0.10%、
La:0~0.10%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
[2]溶加材全質量に対する質量%にて、B:0.0002~0.0200%、Sn:0.005~0.20%、Ga:0.0002~0.0200%以下、Mg:0.0005~0.0200%以下、Ca:0.0005~0.0100%以下の1種以上を含み、かつ下記式(1)を満たすことを特徴とする上記[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020 ・・・(1)
なお、式(1)中の各元素記号は、溶加材中の各元素の含有量(質量%)を示す。
[3] 溶加材全質量に対する質量%にて、更に、Ni:0.10~1.0%、Cu:0.10~1.0%、Mo:0.10~1.0%、Sb:0.01~0.5%、W:0.10~1.0%、Co:0.10~0.5%、V:0.10~0.5%、Ti:0.01~0.5%、Zr:0.0001~0.10%、Y:0.0001~0.10%、La:0.0001~0.10%、Hf:0.0001~0.10%、REM:0.001~0.10%の1種または2種以上含有していることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
以下に本発明で得られた知見について説明する。
(a)通常、Al含有フェライト系ステンレス鋼の溶接金属部は柱状晶の成長により構成されるため、Alを含有していないフェライト系ステンレス鋼に対して粗大となる傾向にある。溶接金属部の結晶粒が粗大化すると、475℃脆性およびσ脆性起因の破壊を招くおそれがある。しかしながら、溶接金属中の化学成分の制御により、Nb(C,N)から成る炭窒化物を生成させることで等軸晶の形成が助長され、溶接組織の微細化が可能となることがわかった。
(d)通常、750~800℃付近の高温域で運転中の構造体で課題となる変形を抑止するには、材料であるフェライト系ステンレス鋼ならびに溶接部の高温強度、特に750℃付近における0.2%耐力を高め、かつ800℃付近における0.2%耐力の低下を抑制することが有効である。
(i)また、前述した水素および硫化成分を含む改質ガス環境下の溶接金属部の耐酸化性を高めるには、溶加材中のSi、Al、Nb、Mnの含有量を所定の範囲内に調整することで、Al系酸化皮膜の形成の促進と、当該皮膜の保護性を高めることが効果的である。さらに、フェライト系ステンレス鋼溶加材におけるB、Nb、Sn、Mg、Ca、Gaの添加は、改質ガス環境下の耐酸化性を損なわせるおそれはなく、むしろMg、Snの微量添加はAl系酸化皮膜の保護性をより高め耐酸化性の効果も奏する。なお、SiはAlと同様に、溶接組織の柱状晶化を促進させる元素でもあるため、Al系酸化皮膜の形成促進の観点からSi量を高めると、一方で溶接金属部の粗大化が懸念される。しかし、Nb、Sn、Mg、Ca、Gaの微量添加によって、溶接組織の柱状晶化を十分に抑制できることから、本実施形態のように、Si量の比較的高い場合でも、Al系酸化皮膜の形成促進と、溶接金属部の粗大化の抑制を両立させることが可能となる。ここで、本実施形態においては、高温の改質ガス環境下に曝される前の表面皮膜を「不働態皮膜」、高温の改質ガス環境下に曝され不働態皮膜が種々の反応によって組成が変化したものを「Al系酸化皮膜」と区別し説明する。
Crは、ステンレス溶接金属に必要な耐食性を向上する。またCrは、溶接金属表面のAl系酸化皮膜の密着性を良好なものにして耐酸化性を向上させる効果がある上、高温強度の向上にも寄与する元素でもある。これら効果を得るためには12.0%以上のCr量が必要である。好ましくは13.0%以上である。一方、過度にCrを含有させることは、475℃脆性起因の著しい材料硬化に加え、高温雰囲気に曝された際、脆化相であるσ相の生成を助長する。また、合金コストの上昇とCr蒸発を助長する場合があるため上限は16.0%以下とする。好ましくは、15.0%以下とする。
Cは、溶加材中に不可避に含まれ、溶接金属中のフェライト相に固溶あるいはCr炭化物を形成して耐酸化性を阻害する。また、C量が過剰になると溶接金属に高温割れが生じやすくなるとともに、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。このため、C量は少ないほどよく、上限を0.020%以下とする。好ましくは0.015%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、C量の下限は0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.002%以上である。
Siは、溶接金属と母材とのなじみを良好にするとともに、耐酸化性を確保する上で重要な元素である。Siは、Al系酸化皮膜中へ僅かに固溶するとともに、酸化皮膜直下/鋼界面にも濃化し、改質ガス環境下の耐酸化性を向上させる。これら効果を得るために下限は0.60%以上とする。好ましくは0.70%以上である。一方、Siを過度に含有させることは、耐475℃脆性を低下させたり、接時に剥離性が不良なスラグが生成したりするおそれがある。また、鋼の靭性や加工性の低下ならびにAl系酸化皮膜の形成を阻害する場合もあるため、Si量の上限は2.50%以下とする。好ましい上限は2.00%以下である。
Mnは、改質ガス環境下でSiとともにAl系酸化皮膜中またはその直下に固溶して保護性を高め耐酸化性の向上に寄与しうる。また、溶接金属の耐高温割れ性を良好にする効果がある。これら効果を得るために下限は0.05%とすることが好ましい。一方、過度に含有させることは、鋼の耐食性やAl系酸化皮膜の形成を阻害するほか、溶接時に剥離性が不良なスラグが生成するため、上限は0.30%以下とする。好ましくは0.2%以下とする。
Alは、改質ガス雰囲気下で溶接金属表面にAl系酸化皮膜を形成して耐酸化性の向上に寄与する元素である。本実施形態においては、Al量が1.00%未満ではこれら効果が得られないため、下限は1.00%以上とする。好ましくは1.20%以上である。しかし、過度にAlを含有させることは、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となり、さらに溶接部における脆性破壊を助長するため、上限は、2.50%以下とする。好ましくは2.30%以下である。
Nbは、溶接金属中のC,Nを固定する安定化元素であり、溶接時のCr炭化物生成抑制、Al系酸化皮膜の密着性の向上に寄与する。さらに、σ脆性と475℃脆性の要因となる金属間化合物は、主に結晶粒界を生成サイトとして析出が進行するが、Nbが結晶粒界へ偏析することによってこの生成サイトが低減されるため、組織の安定性が増し、結果、溶接金属のσ脆性と475℃脆性を抑制することができる。これら効果を得るためにNbの下限は0.001%以上とし、0.15%以上とすることが好ましい。一方、Nbを過度に含有させることは合金コストの上昇に加え、溶接金属の延性を低下して加工性が不良となる上、脆性破壊を助長するため、Nbの上限は1.00%以下とする。好ましくは0.6%以下とする。
Pは、製造性や溶接性を阻害し、溶接部における粒界強度を低下させる元素である。その含有量は少ないほどよいため、上限は0.020%以下とする。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.003%以上とすることが好ましい。製造性と溶接性の点から、好ましい範囲は0.005~0.015%である。
Sは、鋼中に不可避に含まれる不純物元素であり、Al系酸化皮膜の保護性を低下させる。特に、Mn系介在物や固溶Sの存在は、高温・長時間使用におけるAl系酸化皮膜の破壊起点としても作用する。また、溶接部における粒界強度を低下させる元素でもある。従って、S量は低いほどよいため、上限は0.0030%以下とする。但し、過度の低減は原料や精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.0001%以上とすることが好ましい。製造性と耐酸化性、耐475℃脆性の観点から、好ましい範囲は0.0001~0.0010%である。
Oは、不可避に混入する不純物であるが、O含有量が0.010%を超えると溶接時にSi、Mn、Alを酸化して、剥離性が不良なスラグを生成する。したがって、Oは0.010%以下とする。
Nは、Cと同様に耐酸化性を阻害する元素である。また、溶接金属の延性を低下して加工性の劣化を招く元素でもある。これらのことから、N量は少ないほどよく、上限を0.030%以下とする。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.001%以上とすることが好ましい。耐酸化性と製造性の点から、好ましい範囲は0.002~0.020%である。
なお、本実施形態における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であり、不可避的に混入する成分も含む。
B、Sn、Ga、Mg、Caは、上述したように、高温強度を高める効果をより発現させることができる元素である。さらにこれらの元素は、Al系酸化皮膜の形成を促進して耐酸化性の向上に寄与する元素でもある。また、Sn、Ga、Mg、Caは、表面近傍に濃化してAlの選択酸化を促進する作用がある。そのため、上記成分組成に加え、B、Sn、Ga、Mg、Caのうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
Bは、粒界偏析することによって粒界すべりを遅延させるとともに、結晶粒内において転位密度の上昇に伴う内部応力を高め0.2%耐力を向上させることができる。Mg、Caは鋼の清浄度や熱間加工性を高めるのに有効な元素である。また、溶接時にMgO、CaOなどから成る介在物を生成させることで等軸晶の形成が助長され、溶接組織の微細化に寄与する元素でもある。これら効果を得るため、Snは0.005%以上、B、Ga、Mg、Caはそれぞれ0.0002%以上含むことが好ましい。一方、これらの元素を過度に含有させることは、鋼の精錬コスト上昇を招くほか、製造性の低下を招くため、Snは0.20%以下、B、Ga、Mgは0.0200%以下、Caは0.0100%以下とすることが好ましい。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020% ・・・式(1)
なお、式(1)中の各元素記号は、溶加材中の各元素の含有量(質量%)を示す。
また、本実施形態に係る溶加材を用いてAl含有フェライト系ステンレス鋼を溶接すると、高い耐酸化性と優れた高温強度、ならびに優れた脆性特性を兼備した溶接金属を得ることができる。そのため、本実施形態の溶加材は、都市ガス、メタン、天然ガス、プロパン、灯油、ガソリン等の炭化水素系燃料を水素に改質する際に使用される燃料改質器、熱交換器などの燃料電池部材を製造する際の溶接時に好適に使用でき、特に、運転温度が高温となる固体酸化物型燃料電池(SOFC)や固体高分子型燃料電池(PEFC)の高温部材の製造(溶接)時に好適である。さらに、燃料電池の周辺部材、例えばバーナーや当該バーナーを格納する燃焼器等、改質ガスに接しかつ高温の環境下で使用される部材全般の製造時において好適に用いることができる。
なお、下記にて示す表中の下線は、本発明の範囲から外れているものを示す。
酸化試験は、まず、溶接部から、幅20mm、長さ25mmの酸化試験片を切り出した。このとき、酸化試験片の幅中央に溶接線が配置されるよう、すなわち試験片長手方向とビード方向が平行となるよう切り出した。なお、溶接部のビードは研磨除去せず、ビードまま(余盛つき)として次の酸化試験に供した。次に、都市ガスを燃料とした改質ガスを想定し、28体積%H2O-10%体積%CO-8体積%CO2-0.01%H2S-bal.H2の雰囲気において、酸化試験片を650℃に加熱し、1000時間保持した後に室温まで冷却し、酸化増量ΔW(mg/cm2)を測定した。
耐酸化性の評価は以下の通りとした。
◎:重量増加ΔWが0.2mg/cm2未満。
〇:重量増加ΔWが0.2~0.3mg/cm2。
×:重量増加ΔWが0.3mg/cm2超。
なお、耐酸化性は「◎」および「〇」の場合を合格とした。
高温引張試験は、まず、溶接部の余盛を除去した上で、継手から板状の高温引張試験片(板厚:1.5mm、平行部幅:10.5mm、平行部長さ:35mm)を切り出した。このとき、引張試験片の長手方向中央(平行部中央)に溶接金属部が配置されるよう切り出した。次に、750℃、および800℃それぞれにて、ひずみ速度は、0.2%耐力まで0.3%/min、以降3mm/minとして高温引張試験を行い、各温度における0.2%耐力(750℃耐力、800℃耐力)を測定した(JIS G 0567に準拠)。
高温強度の評価は、750℃耐力が120MPa超、かつ800℃耐力が40MPa超の場合を合格(「〇」)として評価し、いずか一方でも満たさない場合は不合格(「×」)として評価した。なお、750℃耐力が150MPa超、かつ800℃耐力が60MPa超の場合は高温強度が特に優れているものとして評価した(表中で「◎」表記)。
溶接金属部から、板面と垂直な断面上の中心(板厚中心部:t/2付近)を観察できるよう試料を2つ採取して、一方は、500℃×1000時間の熱処理(500℃熱処理)、もう一方は650℃×1000時間の熱処理(600℃熱処理)を行った。これら熱処理の雰囲気はともに大気中とした。次に、熱処理後の各試料を樹脂に埋め研磨した後、500℃熱処理後のビッカース硬さHv500℃、650℃熱処理後のビッカース硬さHv650℃それぞれをJIS Z 2244に準拠して荷重9.8Nで測定し、熱処理前に予め測定しておいた熱処理前ビッカース硬さからの硬さ上昇量ΔHv500℃、ΔHv650℃を算出した。
組織安定性(σ脆性/475℃脆性)の評価は、ΔHv500℃、ΔHv650℃ともに20未満のものを合格(「〇」)として評価し、いずか一方でも20以上であった場合は熱処理後の硬さ上昇が大きく組織が不安定であるとして不合格(「×」)とした。
Claims (3)
- 溶加材全質量に対する質量%で、
Cr:12.0~16.0%、
C:0.020%以下、
Si:0.65~2.50%、
Mn:0.30%以下、
P:0.020%以下、
S:0.0030%以下、
Al:1.00~2.50%、
Nb:0.001~1.00%、
N:0.030%以下、
O:0.010%以下、
B:0~0.0100%、
Sn:0~0.20%、
Ga:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
Ca:0~0.0100%、
Ni:0~1.0%、
Cu:0~1.0%、
Mo:0~1.0%、
Sb:0~0.5%、
W:0~1.0%、
Co:0~0.5%、
V:0~0.5%、
Ti:0~0.5%、
Zr:0~0.10%、
Y:0~0.10%、
La:0~0.10%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。 - 溶加材全質量に対する質量%にて、B:0.0002~0.0200%、Sn:0.005~0.20%、Ga:0.0002~0.0200%以下、Mg:0.0005~0.0200%以下、Ca:0.0005~0.0100%以下の1種以上を含み、かつ下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020 ・・・(1)
なお、式(1)中の各元素記号は、溶加材中の各元素の含有量(質量%)を示す。 - 溶加材全質量に対する質量%にて、更に、Ni:0.10~1.0%、Cu:0.10~1.0%、Mo:0.10~1.0%、Sb:0.01~0.5%、W:0.10~1.0%、Co:0.10~0.5%、V:0.10~0.5%、Ti:0.01~0.5%、Zr:0.0001~0.10%、Y:0.0001~0.10%、La:0.0001~0.10%、Hf:0.0001~0.10%、REM:0.001~0.10%の1種または2種以上含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
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