JP6937717B2 - フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法、ならびに燃料電池用部材 - Google Patents
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Description
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法、ならびに燃料電池用部材に関する。
最近、石油を代表とする化石燃料の枯渇化、CO2排出による地球温暖化現象等の問題から、従来の発電システムに替わる新しいシステムの普及が加速している。その1つとして、分散電源,自動車の動力源としても実用的価値が高い「燃料電池」が注目されている。燃料電池にはいくつかの種類があるが、その中でも固体高分子型燃料電池(PEFC)や固体酸化物型燃料電池(SOFC)はエネルギー効率が高く、将来の普及拡大が有望視されている。
燃料電池は、水の電気分解と逆の反応過程を経て電力を発生する装置であり、燃料となる水素(燃料水素)を必要とする。燃料水素は、都市ガス(LNG)、メタン、天然ガス、プロパン、灯油、ガソリン等の炭化水素系燃料を触媒の存在下で改質反応させることにより製造される。中でも都市ガスを原燃料とする燃料電池は、都市ガス配管が整備された地区において水素を製造できる利点がある。
燃料改質器は、水素の改質反応に必要な熱量を確保するため、通常、200〜900℃の高温で運転される。また、燃料改質器以外でも、改質器を加熱する燃焼器や、熱交換器、電池本体部等も運転温度が非常に高温となる。
更に、このような高温運転下の燃料電池においては、多量の水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素に加え、多量の水素や、炭化水素系燃料由来の硫化水素を微量含んだ雰囲気(以下、浸炭性/還元性/硫化性環境、という。)の下に曝されることとなる。このような雰囲気中に、例えば鋼材料が曝されると、材料表面の浸炭、硫化による腐食が進行する状況になり、動作環境としては過酷な状況となる。
更に、このような高温運転下の燃料電池においては、多量の水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素に加え、多量の水素や、炭化水素系燃料由来の硫化水素を微量含んだ雰囲気(以下、浸炭性/還元性/硫化性環境、という。)の下に曝されることとなる。このような雰囲気中に、例えば鋼材料が曝されると、材料表面の浸炭、硫化による腐食が進行する状況になり、動作環境としては過酷な状況となる。
これまで、このような過酷な環境下において十分な耐久性を有する実用材料として、SUS310S(25Cr−20Ni)に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼が使用されてきた。しかし、将来、燃料電池システムの普及拡大に向けて、コスト低減は必要不可欠であり、使用材料の最適化による合金コストの低減は重要な課題である。
上述した背景から、燃料電池を構成する鋼材として、前述のような高温かつ浸炭性/還元性/硫化性環境といった過酷な環境下においても良好な耐久性を発揮できるフェライト系ステンレス鋼が各種検討されている。
特許文献1には、Cr:13〜20%、C:0.02%未満、N:0.02%以下、Si:0.15超〜0.7%、Mn:0.3%以下、Al:1.5〜6%、Ti:0.03〜0.5%、Nb:0.6%以下を含み、固溶Ti量と固溶Nb量を調整することにより耐酸化性とクリープ破断寿命に良好な燃料電池用Al含有フェライト系ステンレス鋼が開示されている。これらステンレス鋼は、1050℃、大気中の加速酸化試験により良好な耐酸化性が得られることを示している。
特許文献2には、Cr:11〜25%、C:0.03%以下、Si:2%以下、Mn:2%以下、Al:0.5〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、N:0.03%以下、Ti:1%以下を含み、水素ガスを50体積%以上含み、酸化皮膜中および酸化皮膜直下の鋼表面へTiやAlを濃縮させるとともに、Mg、Ga、Sn、Sbを微量添加することにより、改質ガス環境下の耐酸化性を向上させた燃料電池用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献3には、Cr:11.0〜25.0%、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、Al:0.90〜4.00%、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、N:0.030%以下、Ti:0.500%以下を含み、B、Mg、Caの微量添加ならびにSnとの複合添加により、改質ガス環境下の耐酸化性および耐クリープ強さを向上させた燃料電池用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献4には、Cr:11〜25%、C:0.03%以下、Si:2%以下、Mn:2%以下、Al:0.5〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、N:0.03%以下、Ti:0.5%以下を含み、更にGa:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Zn:0.05%以下の1種または2種以上を含み、Mg、Ga、Zn、更にはSn、Sbの微量添加によってTi及び/又はAlを濃縮させた表面皮膜を形成することで、耐酸化性を向上させたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
前記した都市ガス等を原燃料とした燃料電池の改質ガスは、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素に加えて、多量の水素、ならびに不純物もしくは付臭剤として添加された硫化成分を含む場合がある。しかし従来では、フェライト系ステンレス鋼の耐酸化性について、水蒸気と二酸化炭素を主成分とする雰囲気、あるいは水蒸気と酸素を主成分とする雰囲気、または大気中といった環境下でしか評価・検討されていない。すなわち、二酸化炭素、一酸化炭素、多量の水素、ならびに硫化成分を含む過酷な環境(浸炭性/還元性/硫化性環境)の下でのフェライト系ステンレス鋼の酸化特性については不明である。
更に、SOFCシステムやPEFCシステムの場合、燃料電池の運転温度が高温となるため、前記の酸化特性に加え、高温強度のさらなる向上も求められる。
更に、SOFCシステムやPEFCシステムの場合、燃料電池の運転温度が高温となるため、前記の酸化特性に加え、高温強度のさらなる向上も求められる。
特許文献1〜4のフェライト系ステンレス鋼は、酸化性環境下の耐久性について検討されているものの、多量の水素、硫化水素を含む浸炭性/還元性/硫化性環境といったさらに厳しい環境下における耐久性については何ら言及されていない。
本発明は、上述した課題を解消すべく案出されたものであり、二酸化炭素、一酸化炭素、多量の水素、ならびに硫化成分を含む環境(浸炭性/還元性/硫化性環境)下であっても、高い耐酸化性と優れた高温強度を兼備したフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供するものである。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]質量%にて、
Cr:12.0〜16.0%、
C:0.020%以下、
Si:2.50%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0030%以下、
Al:2.50%以下、
N:0.030%以下、
Nb:0.001〜1.00%、
Ni:0〜1.0%、
Cu:0〜1.0%、
Mo:0〜1.0%、
Sb:0〜0.5%、
W:0〜1.0%、
Co:0〜0.5%、
V:0〜0.5%、
Ti:0〜0.5%、
Zr:0〜0.5%、
La:0〜0.1%、
Y:0〜0.1%、
Hf:0〜0.1%、
REM:0〜0.1%
を含み、さらに
B:0.0200%以下、
Sn:0.20%以下、
Ga:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下、
Ca:0.0100%以下
の2種以上を含み、かつ下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不純物からなり、
鋼板表面から深さ30nmまで領域であって不働態皮膜を含む表層部における、Cr、AlおよびSiの各最大濃度Crm、Alm、Sim(質量%)が、下記式(2)および下記式(3)を満たし、
板厚中心部の集合組織が下記の条件(A)および(B)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020 ・・・(1)
15.0<Crm(質量%)<55.0 ・・・(2)
3.0<Alm+Sim(質量%)<30.0 ・・・(3)
(A)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である{111}±10°方位粒の面積率が20%超60%未満。
(B)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{110}面方位との角度差が10°以内である{110}±10°方位粒の面積率が0.5%超5%未満。
なお、上記式(1)中の各元素記号は、鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
[2]質量%にて、前記B:0.0002%以上であることを特徴とする上記[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[3]質量%にて、前記Si:0.5%以上、前記Al:1%以上、前記Nb:0.15%以上であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4]質量%にて、更に、Ni:0.10〜1.0%、Cu:0.10〜1.0%、Mo:0.10〜1.0%、Sb:0.01〜0.5%、W:0.10〜1.0%、Co:0.10〜0.5%、V:0.10〜0.5%、Ti:0.01〜0.5%、Zr:0.01〜0.5%、La:0.001〜0.1%以下、Y:0.001〜0.1%、Hf:0.001〜0.1%、REM:0.001〜0.1%の1種または2種以上含有していることを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[5]7939eVの硬X線を用いた硬X線光電子分光法で測定したとき、
Al1s軌道の光電子スペクトルにおいて、前記不働態皮膜中における酸化物ピークと、前記不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl(eV)が1.5<ΔEAl<3.0であり、
Si1s軌道の光電子スペクトルにおいて、前記不働態皮膜における酸化物ピークと、前記不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔESi(eV)が1.0<ΔESi<4.0であり、
前記Al1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークの半価幅が2.5eV未満であり、
前記Si1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークの半価幅が2.5eV未満であることを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[6]燃料改質器、熱交換器あるいは燃料電池部材に適用されること特徴とする上記[1]〜[5]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[7]燃焼器、あるいはバーナーの部材に適用されること特徴とする上記[1]〜[6]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[1]質量%にて、
Cr:12.0〜16.0%、
C:0.020%以下、
Si:2.50%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0030%以下、
Al:2.50%以下、
N:0.030%以下、
Nb:0.001〜1.00%、
Ni:0〜1.0%、
Cu:0〜1.0%、
Mo:0〜1.0%、
Sb:0〜0.5%、
W:0〜1.0%、
Co:0〜0.5%、
V:0〜0.5%、
Ti:0〜0.5%、
Zr:0〜0.5%、
La:0〜0.1%、
Y:0〜0.1%、
Hf:0〜0.1%、
REM:0〜0.1%
を含み、さらに
B:0.0200%以下、
Sn:0.20%以下、
Ga:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下、
Ca:0.0100%以下
の2種以上を含み、かつ下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不純物からなり、
鋼板表面から深さ30nmまで領域であって不働態皮膜を含む表層部における、Cr、AlおよびSiの各最大濃度Crm、Alm、Sim(質量%)が、下記式(2)および下記式(3)を満たし、
板厚中心部の集合組織が下記の条件(A)および(B)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020 ・・・(1)
15.0<Crm(質量%)<55.0 ・・・(2)
3.0<Alm+Sim(質量%)<30.0 ・・・(3)
(A)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である{111}±10°方位粒の面積率が20%超60%未満。
(B)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{110}面方位との角度差が10°以内である{110}±10°方位粒の面積率が0.5%超5%未満。
なお、上記式(1)中の各元素記号は、鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
[2]質量%にて、前記B:0.0002%以上であることを特徴とする上記[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[3]質量%にて、前記Si:0.5%以上、前記Al:1%以上、前記Nb:0.15%以上であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4]質量%にて、更に、Ni:0.10〜1.0%、Cu:0.10〜1.0%、Mo:0.10〜1.0%、Sb:0.01〜0.5%、W:0.10〜1.0%、Co:0.10〜0.5%、V:0.10〜0.5%、Ti:0.01〜0.5%、Zr:0.01〜0.5%、La:0.001〜0.1%以下、Y:0.001〜0.1%、Hf:0.001〜0.1%、REM:0.001〜0.1%の1種または2種以上含有していることを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[5]7939eVの硬X線を用いた硬X線光電子分光法で測定したとき、
Al1s軌道の光電子スペクトルにおいて、前記不働態皮膜中における酸化物ピークと、前記不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl(eV)が1.5<ΔEAl<3.0であり、
Si1s軌道の光電子スペクトルにおいて、前記不働態皮膜における酸化物ピークと、前記不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔESi(eV)が1.0<ΔESi<4.0であり、
前記Al1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークの半価幅が2.5eV未満であり、
前記Si1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークの半価幅が2.5eV未満であることを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[6]燃料改質器、熱交換器あるいは燃料電池部材に適用されること特徴とする上記[1]〜[5]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[7]燃焼器、あるいはバーナーの部材に適用されること特徴とする上記[1]〜[6]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[8]上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の組成を有するステンレス鋼材を熱間圧延した後、熱処理を省略もしくは700℃以下で熱処理し、その後に圧延率30〜80%の冷間圧延と仕上げ焼鈍を順次行い、引き続き、♯100以下の研磨材で研磨を施し、次いで、下記の処理(A)または処理(B)の少なくとも一方を実施することを特徴とする上記[1]〜[7]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
処理(A):10〜50質量%のH2SO4を含む90℃以下の硫酸水溶液中への浸漬
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHF含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬
[9]前記仕上げ焼鈍を700〜1100℃で行うことを特徴とする上記[8]に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
処理(A):10〜50質量%のH2SO4を含む90℃以下の硫酸水溶液中への浸漬
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHF含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬
[9]前記仕上げ焼鈍を700〜1100℃で行うことを特徴とする上記[8]に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
[10]上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた燃料電池用部材。
本発明によれば、二酸化炭素、一酸化炭素、多量の水素、ならびに硫化成分を含む環境(浸炭性/還元性/硫化性環境)下であっても、高い耐酸化性と優れた高温強度を兼備したフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法、ならびに燃料電池用部材を提供することができる。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、高温強度、耐酸化性を兼備するAl含有フェライト系ステンレス鋼について鋭意実験と検討を重ね、本発明を完成させた。なお、本実施形態でいう「高温強度」とは、750〜800℃付近の高温域においても優れた0.2%耐力を発揮できる特性であり、「耐酸化性」とは二酸化炭素、一酸化炭素、多量の水素、ならびに硫化成分を含む改質ガス環境(浸炭性/還元性/硫化性環境)下における酸化特性を意味する。
以下に本発明で得られた知見について説明する。
以下に本発明で得られた知見について説明する。
(a)通常、750〜800℃付近の高温域で運転中の構造体で課題となる変形を抑止するには、材料であるフェライト系ステンレス鋼の高温強度、特に750℃付近における0.2%耐力を高め、かつ800℃付近における0.2%耐力の低下を抑制することが有効である。
(b)上述した高温域での0.2%耐力の向上および低下の抑制は、Alの過度な添加や、固溶・析出強化に寄与するMo、Cu等の添加によらず、B、Nb、Sn、Mg、Ca、Gaの微量添加およびその添加量の調整により著しく向上することを見出した。すなわち、フェライト系ステンレス鋼において、750℃付近における0.2%耐力を高め、かつ800℃付近における0.2%耐力の低下を抑制するという特性は、これら微量元素の添加により達成できるという新たな知見が得られた。このような高温強度の向上作用については未だ不明な点も多いが、実験事実に基づいて以下に述べるような作用機構を推察している。
(c)Bの微量添加は、750〜800℃での耐力や引張強度の上昇に対して少なからず寄与し、特に0.2%耐力を大幅に向上させる作用効果を持つ。Bの微量添加は、Bが粒界偏析することによって、結晶粒界を起点に発生するキャビティ(ナノサイズの隙間)の生成を抑制して粒界すべりを遅延させるとともに、結晶粒内において転位密度の上昇に伴う内部応力を高める作用効果がある。またこれらBの作用効果は、Nb添加鋼で顕著となる新規な知見を見出した。
(d)Nbの添加は、固溶強化により750℃までの温度域における強度上昇に有効であることはよく知られている。Nbの析出は750〜800℃においてラーベス相(Fe2Nb)と呼ばれる金属間化合物などを形成して開始するが、NbとBは結晶粒界において共偏析することで前記(c)のBの作用効果を顕在化させることができる。
(e)また上述したNb添加鋼で顕著となるBの作用効果は、Mg、Ca、Gaの複合添加により重畳する。Mg、Caは非金属介在物や硫化物を生成し、結晶粒界の清浄度を高めてBの粒界偏析を促進して、前記したBの作用効果をより効率的に発現させる。またGaも鋼の清浄度を向上させるため、Bとの複合添加により前記したBの作用効果を効率的に発現させることができる。
(f)更に、前記(c)で述べた、粒内の転位密度の上昇に伴う内部応力を高める作用効果をより発揮させるためには、Snとの複合添加が効果的である。Snは粒界偏析元素ではあるものの、Bとの複合添加において、結晶粒内の固溶強化元素としての作用も大きくなり、内部応力の上昇に伴う高温強度を高めることに効果的である。
(g)また、前述した水素および硫化成分を含む改質ガス環境下の耐酸化性を高めるにはSi、Al、Nb、Mnの含有量を所定の範囲内に調整することで、高温かつ改質ガス環境下におけるAl系酸化皮膜の形成の促進と、当該皮膜の保護性を高めることが効果的である。さらに、フェライト系ステンレス鋼におけるB、Nb、Sn、Mg、Ca、Gaの添加は、改質ガス環境下の耐酸化性を損なわせるおそれはなく、むしろMg、Snの微量添加はAl系酸化皮膜の保護性をより高め耐酸化性の効果も奏する。なお本実施形態において、高温の改質ガス環境下に曝される前の表面皮膜を「不働態皮膜」、高温の改質ガス環境下に曝され不働態皮膜が種々の反応(下記(i)参照)によって組成が変化したものを「Al系酸化皮膜」と区別し説明する。
(h)前記した改質ガス環境(浸炭性/還元性/硫化性環境)は、大気や水素を含まない水蒸気酸化環境と比較して、フェライト系ステンレス鋼におけるAl系酸化皮膜の欠陥を生成し易い。改質ガス環境が酸化皮膜の欠陥生成を容易とする原因は明らかではないが、硫化成分を含む改質ガス下で生成される硫化物が、酸化皮膜に何らかの悪影響を及ぼしていると推測される。改質ガス環境下でAl系酸化皮膜に欠陥が生じると、露出された母材ではCrやFeの酸化が進行するおそれがある。このような改質ガス中における酸化促進に対して、MgはAl系酸化皮膜への固溶、Snは母材表面への偏析作用によりCrやFeの外方拡散を遅延させることにより、Al系酸化皮膜の保護性をより高めることができる。その結果、フェライト系ステンレス鋼の耐酸化性を向上させることができる。
(i)上述した改質ガス環境下における耐酸化性は、フェライト系ステンレス鋼板に形成した不働態皮膜に大きく影響される。通常、酸洗や研磨後には、Fe−Crを主体とする不働態皮膜が表面に形成される。Crの酸化は、このような不働態皮膜が表面に形成されている場合に促進しやすい。本発明者らの検討の結果、不働態皮膜中及び不働態皮膜直下の領域(鋼板表面から30nm深さまでの領域)へCr、Al、Siを予め濃縮させておくことにより、当該環境下に曝された際における耐酸化性の劣化をより効率的に抑制できる新規な知見が得られた。Crは酸化すると、初期にCr2O3として存在するが、このCr2O3はFeの酸化を抑制するとともに、同じ価数であるAl3+がCrと置換してAl2O3(Al系酸化皮膜)へと変化していくため、結果、Al系酸化皮膜の形成を促進させる。すなわち、不働態皮膜中及び不働態皮膜直下に、Cr、Al、Siを予め濃縮させることにより、改質ガス環境下におけるCrやFeの酸化を抑制でき、Al系酸化皮膜の生成を促進できたものと推認される。
(j)また、不働態皮膜中及び不働態皮膜直下に、Cr、Al、Siを予め濃縮させるには、冷延板焼鈍(仕上げ焼鈍)後に研磨工程を行い、次いで、硫酸浸漬工程または硝フッ酸浸漬工程の少なくとも一方の浸漬工程を実施することが有効である。
(k)さらに、不働態皮膜中におけるAlとSiの存在状態、すなわち両元素の酸化物の価数を制御することにより、Al系酸化皮膜の生成促進および耐酸化性の向上をさらに効率よく達成できることを見出した。酸化物の価数は酸化物ピークと金属ピークそれぞれの結合エネルギーの差(ΔE)によって求めることができる。本発明者の検討の結果、Ai1s、Si1sそれぞれのΔEを所定の範囲に制御することによって、耐酸化性をより高めることができる新たな知見を得られた。
(l)またさらに、上述した高温域における0.2%耐力の向上に対し、鋼板中心部における集合組織、具体的には再結晶集合組織のうち{111}±10°方位粒と{110}±10°方位粒の面積率を制御することが非常に効果的であることを知見した。すなわち、フェライト系ステンレス鋼において、750℃付近における0.2%耐力を高め、かつ800℃付近における0.2%耐力の低下を抑制するためには、上述したような微量元素の添加に加え、鋼板中の再結晶集合組織の面積率を適正範囲に制御することが非常に有効に作用する、という新たな知見が得られた。
(m)また、従来のAl、Si添加ステンレス鋼の欠点であった、高温での金属間化合物σ相の析出(σ脆性)と475℃脆性については、成分組成において、Cr、Si、Nb、Alの含有量を調整することが効果的であることが分かった。σ脆性と475℃脆性は、Crを主体としてSiやAlを含む金属間化合物の生成に由来し、その生成サイトは結晶粒界であることが多い。すなわち、σ脆性と475℃脆性を抑制するには、金属間化合物自体の生成を抑制するとともに、その生成サイトを低減することが効果的といえる。これらについて本発明者らがさらに検討したところ、Cr量の制限によって金属間化合物の生成自体を抑制するとともに、Nbの結晶粒界への偏析によって生成サイトを抑制することで組織を安定化させることができ、その結果、σ脆性と475℃脆性が抑制可能であることを見出した。さらに、Cr量の制限とNbの添加により、SiやAlを含む金属間化合物の生成を抑制できることから、前記(h)で述べた耐酸化性に寄与するSiとAl量を確保できるため、耐酸化性と組織安定性を両立することもできる。
上述したように、フェライト系ステンレス鋼板において、B、Ga、Mg、Ca、Snの複合添加、不働態皮膜中及び不働態皮膜直下の鋼板表層部におけるCr、Al、Siの濃縮、ならびに再結晶集合組織の面積率を適正範囲に制御することにより、浸炭性/還元性/硫化性環境下の耐久性として重要な高温強度と改質ガス中の耐酸化性を兼備できる、という新たな知見が得られた。さらにフェライト系ステンレス鋼において、Cr、Nb、Si、Alの含有量の適正化によって、組織安定性の向上によるσ脆性と475℃脆性の抑制が可能となる上、耐酸化性の両立も達成できる、という知見も新たに得られた。
以下、本発明のフェライト系ステンレス鋼の一実施形態について説明する。
<成分組成>
まず、成分の限定理由を以下に説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
まず、成分の限定理由を以下に説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
Crは、耐食性に加えて、高温強度を確保する上で基本となる構成元素である。本実施形態においては、12.0%未満では目標とする高温強度と耐酸化性が十分に確保されない。従って、Cr含有量の下限は12.0%以上とする。好ましくは13.0%以上である。しかし、過度にCrを含有することは高温雰囲気に曝された際、脆化相であるσ相(Fe−Crの金属間化合物)の生成を促進して製造時の割れを助長する場合がある。したがってCr含有量の上限は、基本特性や製造性の視点から16.0%以下とする。好ましくは15.0%以下である。
Cは、フェライト相に固溶あるいはCr炭化物を形成して耐酸化性を阻害する。このため、C量の上限が0.020%以下とする。好ましくは0.015%以下である。但し、C量の過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.001%以上とすることが好ましい。耐酸化性と製造性の点から、さらに好ましくは0.005%以上である。
Siは、耐酸化性を確保する上で重要な元素である。Siは、Al系酸化皮膜中へ僅かに固溶するとともに、Al系酸化皮膜直下/鋼界面にも濃化し、改質ガス環境下の耐酸化性を向上させる。これら効果を得るために下限は0.50%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.70%以上である。一方、Siを過度に含有させることは、鋼の靭性や加工性の低下ならびにAl系酸化皮膜の形成を阻害する場合もあるため、上限は2.50%以下%とする。耐酸化性と基本特性の点から、1.70%以下が好ましい。
Mnは、改質ガス環境下でSiとともにAl系酸化皮膜中またはその直下に固溶して当該皮膜の保護性を高め耐酸化性の向上に寄与しうる。これら効果を得るために下限は0.10%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.20%以上である。一方、Mnを過度に含有させることは、鋼の耐食性やTiやAl系酸化皮膜の形成を阻害するため、上限は1.00%以下とする。耐酸化性と基本特性の点から、0.90%以下が好ましい。
Alは、脱酸元素であることに加えて、本実施形態においては、改質ガス中でAl系酸化皮膜を形成して耐酸化性の向上に寄与する必須の元素である。本実施形態において、良好な耐酸化性を得るには1.00%以上とすることが好ましく、より好ましくは1.50%以上である。しかし、過度にAlを含有させることは、鋼の靭性や溶接性の低下を招き生産性を阻害するため、合金コストの上昇とともに経済性にも課題がある。そのためAl量の上限は、基本特性と経済性の視点から2.50%以下とする。より好ましくは、2.30%以下である。
Pは、製造性や溶接性を阻害する元素であり、その含有量は少ないほどよいため上限は0.050%以下とする。但し、Pの過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.003%とすることが好ましい。製造性と溶接性の点から、好ましい範囲は0.005〜0.040%、より好ましくは0.010〜0.030%である。
Sは、鋼中に不可避に含まれる不純物元素であり、高温強度および耐酸化性を低下させる。特に、Sの粒界偏析やMn系介在物や固溶Sの存在は、高温強度と耐酸化性を低下させる作用を持つ。従って、S量は低いほどよいため、上限は0.0030%以下とする。但し、Sの過度の低減は原料や精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.0001%以上とすることが好ましい。製造性と耐酸化性の点から、好ましい範囲は0.0001〜0.0020%、より好ましくは0.0002〜0.0010%である。
Nは、Cと同様に耐酸化性を阻害する元素である。このため、N量は少ないほどよく、上限を0.030%以下とする。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.002%以上とすることが好ましい。耐酸化性と製造性の点から、好ましい範囲は0.005〜0.020%である。
Nbは、C,Nを固定する安定化元素であって、この作用による鋼の高純度化を通じて耐酸化性や耐食性を向上させることができる。また本実施形態においては、集合組織を制御して高温強度を高めるのにも有効に作用する元素である。さらに、σ脆性と475℃脆性の要因となる金属間化合物は、主に結晶粒界を生成サイトとして析出が進行するが、Nbが結晶粒界へ偏析することによってこの生成サイトが低減されるため、組織の安定性が増し、結果、σ脆性と475℃脆性を抑制することができる。これら効果を得るためにNb量の下限は0.001%以上とし、好ましくは0.15%以上とする。一方、Nbを過度に含有させることは合金コストの上昇や製造性を阻害することに繋がるため、Nb量の上限は1.00%以下とする。好ましくは0.60%以下とする。
B、Sn、Ga、Mg、Caは、上記の知見(e)および(f)でも述べたように、高温強度を高める効果をより発現させることができる元素である。さらにこれらの元素は、Al系酸化皮膜の形成を促進して耐酸化性の向上に寄与する元素でもある。そのため、上記成分組成に加え、B、Sn、Ga、Mg、Caのうちの1種または2種以上を含有する。
Bは、粒界偏析することによって粒界すべりを遅延させるとともに、結晶粒内において転位密度の上昇に伴う内部応力を高め0.2%耐力を向上させることができる。Sn、Ga、Mg、Caは、表面近傍に濃化してAlの選択酸化を促進する作用がある。このような効果を得るために、B、Ga、Mg、Caそれぞれの含有量の下限は0.0002%以上、Snの下限は0.005%以上とすることが好ましい。一方、これら元素を過度に含有させることは、鋼の精錬コスト上昇を招くほか、製造性と鋼の耐食性を低下させる。このため、Caの含有量の上限は0.0100%以下、Snの上限は0.20%以下、B、Ga、Mgの上限はいずれも0.0200%以下とする。
Bは、粒界偏析することによって粒界すべりを遅延させるとともに、結晶粒内において転位密度の上昇に伴う内部応力を高め0.2%耐力を向上させることができる。Sn、Ga、Mg、Caは、表面近傍に濃化してAlの選択酸化を促進する作用がある。このような効果を得るために、B、Ga、Mg、Caそれぞれの含有量の下限は0.0002%以上、Snの下限は0.005%以上とすることが好ましい。一方、これら元素を過度に含有させることは、鋼の精錬コスト上昇を招くほか、製造性と鋼の耐食性を低下させる。このため、Caの含有量の上限は0.0100%以下、Snの上限は0.20%以下、B、Ga、Mgの上限はいずれも0.0200%以下とする。
さらに、本実施形態の成分組成では、以下の式(1)を満たすものとする。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020% ・・・式(1)
なお、式(1)中の各元素記号は、鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020% ・・・式(1)
なお、式(1)中の各元素記号は、鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
高温強度および耐酸化性を向上させる視点から、式(1)は、0.025%以上が好ましく、より好ましくは0.035%以上とする。なお、式(1)の上限は、B、Sn、Ga、Mg、Caの上限値で特に規定するものでないが、高温強度と製造性の視点から0.2%とすることが好ましい。
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼は、上述してきた元素以外(残部)は、Fe及び不純物からなるが、後述する任意元素についても含有させることができる。よって、Ni、Cu、Mo、Sb、W、Co、V、Ti、Zr、La、Y、Hf、REMの含有量の下限は0%以上である。
なお、本実施形態における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であり、不可避的に混入する成分も含む。
なお、本実施形態における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であり、不可避的に混入する成分も含む。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼は、必要に応じて、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Sb:0.5%以下、W:1.0%以下、Co:0.5%以下、V:0.5%以下、Ti:0.5%以下、Zr:0.5%以下、La:0.1%以下、Y:0.1%以下、Hf:0.1%以下、REM:0.1%以下の1種または2種以上を含有しているものであってもよい。
Ni、Cu、Mo、Sb、W、Co、V、Tiは、鋼の高温強度と耐食性を高めるのに有効な元素であり、必要に応じて含有してよい。但し、過度に含有させると合金コストの上昇や製造性を阻害することに繋がるため、Ni、Cu、Wの上限は1.0%以下とする。Moは熱膨張係数の低下による高温変形の抑制にも有効な元素であることから、上限は1.0%以下とした上で含有することが好ましい。Sbは、鋼表面近傍に濃化してAlの選択酸化を促進し耐食性の向上効果を持つ元素であるため、上限は0.5%以下とした上で含有することが好ましい。Co、Ti、Vの上限は0.5%以下とする。Ni、Cu、Mo、W、Co、Vのいずれの元素も好ましい含有量の下限は0.10%以上とする。Sb、Tiの好ましい含有量の下限は0.01%以上とする。
Zr、La、Y、Hf、REMは、熱間加工性や鋼の清浄度を向上ならびに耐酸化性改善に対しても、従来から有効な元素であり、必要に応じて添加しても良い。但し、本発明の技術思想と合金コストの低減から、これら元素の添加効果に頼るものではい。添加する場合、Zrの上限は0.5%、La、Y、Hf、REMの上限はそれぞれ0.1%とする。Zrのより好ましい下限は0.01%、La、Y、Hf、REMの好ましい下限は0.001%とする。ここで、REMはLa、Yを除く原子番号58〜71に帰属する元素およびSc(スカンジウム)とし、例えば、Ce、Pr、Nd等である。また本実施形態でいうREMとは、原子番号58〜71に帰属する元素およびScから選択される1種以上で構成されるものであり、REM量とは、これらの合計量である。
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼は、上述してきた元素以外は、Fe及び不純物(不可避的不純物を含む)からなるが、以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。一般的な不純物元素である前述のP、Sを始め、Bi、Se等は可能な限り低減することが好ましい。一方、これらの元素は、本発明の課題を解決する限度において、その含有割合が制御され、必要に応じて、Bi≦100ppm、Se≦100ppmの1種以上を含有してもよい。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の金属組織はフェライト単相組織よりなる。これはオーステナイト相やマルテンサイト組織を含まないことを意味している。オーステナイト相やマルテンサイト組織を含む場合は、原料コストが高くなることに加えて、製造時に耳割れ等の歩留まり低下が起こりやすくなるため、金属組織はフェライト単相組織とする。なお鋼中に炭窒化物等の析出物が存在するが、本発明の効果を大きく左右するものではないためこれらは考慮せず、上記は主相の組織について述べている。
<鋼板表層部におけるCr、Al、Si最大濃度>
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、Al系酸化皮膜の生成促進を図り耐酸化性を高めるべく、鋼板表層部に、Cr、Al、Siを予め濃縮させるものとする。具体的には、鋼板表面から深さ30nmまでの領域(不働態皮膜および不働態皮膜直下を含む領域)である鋼板表層部において、Cr、Al、Siの濃度(カチオン分率)分布における各最大値(最大濃度)Crm、Alm、Simが、下記式(2)および下記式(3)を満たすものとする。
15.0<Crm(質量%)<55.0 ・・・(2)
3.0<Alm+Sim(質量%)<30.0 ・・・(3)
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、Al系酸化皮膜の生成促進を図り耐酸化性を高めるべく、鋼板表層部に、Cr、Al、Siを予め濃縮させるものとする。具体的には、鋼板表面から深さ30nmまでの領域(不働態皮膜および不働態皮膜直下を含む領域)である鋼板表層部において、Cr、Al、Siの濃度(カチオン分率)分布における各最大値(最大濃度)Crm、Alm、Simが、下記式(2)および下記式(3)を満たすものとする。
15.0<Crm(質量%)<55.0 ・・・(2)
3.0<Alm+Sim(質量%)<30.0 ・・・(3)
改質ガス環境下における酸化性は、フェライト系ステンレス鋼板に形成した不働態皮膜に大きく影響される。通常、酸洗や研磨後には、鋼板表面におよそ2nm〜20nm程度の不働態皮膜が形成される。Cr酸化は、Fe−Crを主体とするこの不働態皮膜が表面に形成されている場合に促進しやすい。そのため、本実施形態では、不働態皮膜中および不働態皮膜直下の領域において、耐酸化性の向上に有効に作用するAl系酸化皮膜の生成促進を図るべく、Cr、Al、Siを予め濃縮させたものとする。なお、Cr、Al、Siの濃縮を図る対象領域を、鋼板表面から深さ30nmまでの領域と限定した理由は、深さ30nmであれば、一般的な不働態皮膜の厚さ2〜20nm+皮膜直下領域を十分に捉えていると判断できるためである。
鋼板表面から30nm深さまでの領域の組成は、Al2O3皮膜の形成を促進するために、Cr濃度の最大値Crmが15.0質量%超、55.0質量%未満、Al濃度とSi濃度の合計の最大値(Alm+Sim)が3.0質量%超、30.0質量%未満の範囲とする。
Crmが15%以下の場合、当該領域中のFe濃度が上昇してAl系酸化皮膜の生成を阻害するおそれがあるため、Crmは15.0%超とし、好ましくは、20.0%以上とする。一方、Crmが55.0%以上の場合、Crの選択酸化によりAl系酸化皮膜の生成が阻害されるおそれがあるため、Crmは55.0%未満とし、好ましくは、50.0%以下とする。
またSiは、Alとともに濃縮させることで、FeとCrの酸化を抑制し、Al系酸化皮膜の形成に対して有効に作用する。しかし、Alm+Simが3.0%以下の場合、FeとCrの酸化が進行して、Al系酸化皮膜の生成を阻害するおそれがあるため、Alm+Simは3.0%超とし、好ましくは5.0%以上とする。一方、Al系酸化皮膜の形成促進には、AlとSi濃度を高めることが効果的ではあるものの、Alm+Simを30.0%以上とした場合、改質ガス環境下での耐酸化性が飽和することに加え、生産性が劣化するおそれもある。よって、AlF+SiFの上限は、コスト対効果の観点から30.0%未満とし、好ましくは25.0%以下とする。
Crmが15%以下の場合、当該領域中のFe濃度が上昇してAl系酸化皮膜の生成を阻害するおそれがあるため、Crmは15.0%超とし、好ましくは、20.0%以上とする。一方、Crmが55.0%以上の場合、Crの選択酸化によりAl系酸化皮膜の生成が阻害されるおそれがあるため、Crmは55.0%未満とし、好ましくは、50.0%以下とする。
またSiは、Alとともに濃縮させることで、FeとCrの酸化を抑制し、Al系酸化皮膜の形成に対して有効に作用する。しかし、Alm+Simが3.0%以下の場合、FeとCrの酸化が進行して、Al系酸化皮膜の生成を阻害するおそれがあるため、Alm+Simは3.0%超とし、好ましくは5.0%以上とする。一方、Al系酸化皮膜の形成促進には、AlとSi濃度を高めることが効果的ではあるものの、Alm+Simを30.0%以上とした場合、改質ガス環境下での耐酸化性が飽和することに加え、生産性が劣化するおそれもある。よって、AlF+SiFの上限は、コスト対効果の観点から30.0%未満とし、好ましくは25.0%以下とする。
鋼板表面から深さ30nmまでの領域(表層部)におけるCr、Al、Siの最大濃度(Crm、Alm、Sim)はグロー放電発光分光法(GDS分析法)により求めることができる。OやC、Nなどの軽元素とともに同時に検出が可能であり、鋼板表面からの深さ方向への各元素の濃度プロファイルを測定することができる。検出元素について詳細は、後に述べる。本実施形態においては、GDS分析により求められる表層部Crの濃度は、Fe,Cr,Mn,Si,Al,Ti,Nb,C,N,Oのうち、C,N,Oを除いた合計量に対するCrの濃度で表される。Al、Siの濃度も同様である。そして表層部のうち、Cr、Al、Si濃度が最大となる濃度をCrm、Alm、Simとする。具体的には、Fe,Cr,Mn,Si,Al,Ti,Nb,C,N,Oのうち、C,N,Oを除いた各元素プロファイルを作成した上で、鋼板表面から30nm深さまでの領域の範囲内でCr、Al、Si濃度が最大値を示す位置の値を採用することによってCrm、Alm、Simを求めることができる。
GDS分析における検出元素であるが、Fe,Cr,Mn,Si,Al,Ti,Nbは、鋼板表面に濃化する元素や酸化物を構成する元素なので、Crm、Alm、Simを算出するために用いた。
なお、Nは表面に濃化することが無いため、またC,Oは汚染元素であるため、GDS分析で検出した後、これら3元素を除いてCr、Al、Si濃度を算出することにする。
なお、Nは表面に濃化することが無いため、またC,Oは汚染元素であるため、GDS分析で検出した後、これら3元素を除いてCr、Al、Si濃度を算出することにする。
<集合組織>
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、高温強度を高めるべく、再結晶集合組織について、下記(A)および(B)を満たすものとする。
(A)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である{111}±10°方位粒の面積率が20.0%超60.0%未満。
(B)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{110}面方位との角度差が10°以内である{110}±10°方位粒の面積率が0.5%超5.0%未満。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、高温強度を高めるべく、再結晶集合組織について、下記(A)および(B)を満たすものとする。
(A)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である{111}±10°方位粒の面積率が20.0%超60.0%未満。
(B)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{110}面方位との角度差が10°以内である{110}±10°方位粒の面積率が0.5%超5.0%未満。
{111}±10°方位粒は再結晶集合組織の中でも主要な集合組織であるが、高温強度、特に0.2%耐力を高めるには、{111}±10°方位粒よりも微小な集合組織である{110}±10°方位粒を所定量確保することが効果的であることを知見した。すなわち、板厚中心部において、{110}±10°方位粒の面積率を0.5%超5%未満含むことにより{111}±10°方位粒の結晶粒界のすべりを遅延させて、結晶粒界近傍の転位密度の上昇に寄与し、結果、0.2%耐力を向上させることができると推察している。
{110}±10°方位粒の面積率は、高温強度を高める観点から、0.5%超とし、好ましくは0.7%以上とする。{110}±10°方位粒の生成を促進するためには、冷間圧延時の圧下率を高めことが効果的であるが、過度に{110}±10°方位粒の生成促進を図ると当該圧下率が上昇し製造性が劣化するおそれがある。また、{110}±10°方位粒の面積率を過度に高めても高温強度の向上効果は飽和する。これらのことから、{110}±10°方位粒の面積率の上限を5.0%未満とし、4.0%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは2.0%以下である。
{111}±10°方位粒の面積率は、加工性の低下を防ぐために下限は20.0%超とし、一方、製造性の低下を防ぐためには上限は60.0%未満とする。加工性と製造性を両立させる観点から、好ましい範囲は30.0〜55.0%、より好ましい範囲は35.0〜50.0%である。
ここで、「{111}±10°方位粒」とは、板厚中心部における鋼板表面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内(角度許容範囲が0°〜10°)である結晶方位を持つ結晶粒のことを表し、「{110}±10°方位粒」とは、板厚中心部における鋼板表面の法線方向と{110}面方位との角度差が10°以内(角度許容範囲が0°〜10°)である結晶方位を持つ結晶粒を表す。
また「板厚中心部」とは、鋼板の板厚tの中心、すなわち、(1/2)tの位置を含む領域であり、好ましくは鋼板の板厚tの中心から当該鋼板の両表面に向かって1/8tの厚さまでの領域をいう。
{111}±10°方位粒ならびに{110}±10°方位粒の面積率については、電子線後方散乱回折法(以下、EBSD法)を用いて解析することができる。EBSD法は、試料表面のミクロ領域における結晶粒毎の結晶方位を高速に測定・解析するものである。
例えば、板厚中心部における鋼板表面に平行な面(L断面)において、走査型電子顕微鏡とEBSD検出器で構成された装置を用い、板幅方向850μm、圧延方向2250μmの測定領域で倍率100としてEBSDの測定を行う。次いで、EBSDの測定データを、EBSD解析ソフトウェアであるOIM−Analysis(TSL社製)を用いて、鋼板表面に平行な面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である結晶粒(すなわち{111}±10°方位粒)の結晶方位マップを表示させてその面積率を算出することができる。なお、{110}±10°方位粒の面積率についても同様の手法によって求めることができる。
例えば、板厚中心部における鋼板表面に平行な面(L断面)において、走査型電子顕微鏡とEBSD検出器で構成された装置を用い、板幅方向850μm、圧延方向2250μmの測定領域で倍率100としてEBSDの測定を行う。次いで、EBSDの測定データを、EBSD解析ソフトウェアであるOIM−Analysis(TSL社製)を用いて、鋼板表面に平行な面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である結晶粒(すなわち{111}±10°方位粒)の結晶方位マップを表示させてその面積率を算出することができる。なお、{110}±10°方位粒の面積率についても同様の手法によって求めることができる。
<不働態皮膜中のAlとSiの存在状態(酸化物の価数)>
さらに、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板において、Al系酸化皮膜(Al2O3皮膜)の生成促進ならびに耐酸化性を高めるために、不働態皮膜中のAlとSiの存在状態(酸化物の価数)を制御することが好ましい。なお、「酸化物の価数」は酸化物ピークと金属ピークの結合エネルギーの差(eV、以下ΔEとする。)により求めることができる。
本実施形態では、硬X線を用いた硬X線光電子分光法で鋼板表面を測定したとき、Al1s軌道の光電子スペクトルにおいて、不働態皮膜中における酸化物ピークと、不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl(eV)を、1.5<ΔEAl<3.0とすることが好ましい。同様に、Si1s軌道の光電子スペクトルにおいては、不働態皮膜中における酸化物ピークと、不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔESi(eV)を1.0<ΔESi<4.0とすることが好ましい。
さらに、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板において、Al系酸化皮膜(Al2O3皮膜)の生成促進ならびに耐酸化性を高めるために、不働態皮膜中のAlとSiの存在状態(酸化物の価数)を制御することが好ましい。なお、「酸化物の価数」は酸化物ピークと金属ピークの結合エネルギーの差(eV、以下ΔEとする。)により求めることができる。
本実施形態では、硬X線を用いた硬X線光電子分光法で鋼板表面を測定したとき、Al1s軌道の光電子スペクトルにおいて、不働態皮膜中における酸化物ピークと、不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl(eV)を、1.5<ΔEAl<3.0とすることが好ましい。同様に、Si1s軌道の光電子スペクトルにおいては、不働態皮膜中における酸化物ピークと、不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔESi(eV)を1.0<ΔESi<4.0とすることが好ましい。
Al1s軌道のΔEAlが1.5eV超、3.0eV未満の場合において、不働態皮膜中のAlが安定な3価のAl2O3として存在する状態となり、改質ガス環境下で耐酸化性に有効なAl2O3の形成がより促進される。しかし、ΔEAlが1.5eV以下または3.0eV以上の場合、Alは2価または4価の酸化物、あるいは複合酸化物として存在することを意味しており、安定なAl2O3として存在できないため好ましくない。これらのことから、Al1s軌道のΔEAlは1.7〜2.8eVがより好ましく、1.9〜2.6eVがさらに好ましい。なお、Al1s軌道の酸化物ピークの半価幅は2.5eV未満であり、標準物質である純Al2O3の半価幅よりも広がりを持ってよい。好ましくは、Al1s軌道の酸化物ピークの半価幅は2.3eV未満であり、2.0eV未満がより好ましい。
Si1s軌道のΔESiが1.0eV超、4.0eV未満の場合において、不働態皮膜中のSiが1〜3価が混合した化学結合状態を有し、安定な4価のSiO2よりも低価数の状態で存在する状態となる。Siは低価数の酸化物を形成することで、改質ガス環境下においてSiは選択酸化してFe、Crの酸化を抑制するため、Si酸化物の直下でAl2O3皮膜の形成を促進させることができる。しかし、ΔESiが1.0eV以下または4.0eV以上の場合、Siは複酸化物の状態で安定となっている可能性があるため好ましくない。これらのことから、Si1s軌道のΔESiは1.5〜3.8eVがより好ましく、1.8〜3.5eVがさらに好ましい。なお、Si1s軌道の酸化物ピークの半価幅は2.5eV未満であり、標準物質である純SiO2の半価幅よりも広がりを持ってよい。半価幅が前述の範囲を超える場合は耐酸化性を高めるのに効果的な存在比率が小さくなる。このことから、好ましくは、Si1s軌道の酸化物ピークの半価幅は2.3eV未満であり、2.0eV未満がより好ましい。
上記のAlおよびSiの存在状態は、硬X線を用いた硬X線光電子分光法(HArd X−ray Photoelectron Spectroscopy;HAXPES法)によって感度よく分析することができる。このような高エネルギーX線を使用する場合、O、Fe、Cr等の干渉を受けない内殻準位の電子軌道を分析することが有効である。さらに、内殻準位であるAl1s軌道、およびSi1s軌道それぞれの光電子スペクトルは、高エネルギーX線によって光電子の運動エネルギーが大きくなり、深い検出深さを得ることができる。本実施形態における不働態皮膜は数nm程度であることから、検出深さは母材まで到達可能であるため、Al1s軌道およびSi1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークと金属ピークを同時に得ることができる。なお、結合エネルギーの差ΔE(eV)および酸化物ピークの半価幅は、データ解析ソフト(アルバック・ファイ社製、「Multi Pack」)を用いたピークフィッティング(フィッティング関数;ガウス関数、ローレンツ関数)より求めることができる。なお、HAXPES法における、Al1s軌道とSi1s軌道の光電子スペクトルにおいて、酸化物ピークと金属ピークともに、次の結合エネルギー領域で検出することができる。
・Al1s軌道:1555.0〜1565.0eV
・Si1s軌道:1835.0〜1850.0eV
・Al1s軌道:1555.0〜1565.0eV
・Si1s軌道:1835.0〜1850.0eV
本実施形態における硬X線光電子分光法(HAXPES法)の測定は、硬X線光電子分光装置(Scienta Omicron社製「R−4000」)を用い、以下の条件にて行うことができる。
・励起X線のエネルギー:7939eV
・光電子取り出し角度(TOA):80°
・アナライザースリット:curved0.5mm
・アナライザーパスエネルギー:200eV
・励起X線のエネルギー:7939eV
・光電子取り出し角度(TOA):80°
・アナライザースリット:curved0.5mm
・アナライザーパスエネルギー:200eV
<製造方法>
次に、上述してきた本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であるが、熱間加工、冷間加工及び各熱処理(焼鈍)を組み合わせることで製造でき、必要に応じて、適宜、研磨や酸浸漬によるデスケーリングを行ってよい。製造方法の一例として、製鋼−熱間圧延−焼鈍−冷間圧延−焼鈍(仕上げ焼鈍)−機械研磨−酸浸漬の各工程を有する製法を採用でき、熱間圧延後の熱処理は省略してもよいし、実施する場合には700℃以下とする。例えば、熱間圧延後の熱処理を省略してデスケ−リングの後冷間圧延し,続いて仕上げ焼鈍とデスケ−リングした冷延焼鈍板としてもよい。また、冷間圧延の圧延率は30〜80%の範囲内とする。
さらに、鋼板表層部のCr濃度、Al濃度およびSi濃度を上記範囲内に制御するためには、仕上げ焼鈍後に施す機械研磨、ならびに酸浸漬工程が重要であり、具体的には、仕上げ焼鈍後、♯100以下の研磨材で研磨を施し、次いで、下記の処理(A)または処理(B)の少なくとも一方からなる酸浸漬工程を実施する。
処理(A):10〜50質量%のH2SO4を含む90℃以下の硫酸水溶液中への浸漬
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHFを含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬
また、ガス配管の用途に適用する場合は、鋼板から製造した溶接管も含まれるが、配管は、溶接管に限定するものでなく,熱間加工により製造した継ぎ目無し管でもよい。
次に、上述してきた本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であるが、熱間加工、冷間加工及び各熱処理(焼鈍)を組み合わせることで製造でき、必要に応じて、適宜、研磨や酸浸漬によるデスケーリングを行ってよい。製造方法の一例として、製鋼−熱間圧延−焼鈍−冷間圧延−焼鈍(仕上げ焼鈍)−機械研磨−酸浸漬の各工程を有する製法を採用でき、熱間圧延後の熱処理は省略してもよいし、実施する場合には700℃以下とする。例えば、熱間圧延後の熱処理を省略してデスケ−リングの後冷間圧延し,続いて仕上げ焼鈍とデスケ−リングした冷延焼鈍板としてもよい。また、冷間圧延の圧延率は30〜80%の範囲内とする。
さらに、鋼板表層部のCr濃度、Al濃度およびSi濃度を上記範囲内に制御するためには、仕上げ焼鈍後に施す機械研磨、ならびに酸浸漬工程が重要であり、具体的には、仕上げ焼鈍後、♯100以下の研磨材で研磨を施し、次いで、下記の処理(A)または処理(B)の少なくとも一方からなる酸浸漬工程を実施する。
処理(A):10〜50質量%のH2SO4を含む90℃以下の硫酸水溶液中への浸漬
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHFを含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬
また、ガス配管の用途に適用する場合は、鋼板から製造した溶接管も含まれるが、配管は、溶接管に限定するものでなく,熱間加工により製造した継ぎ目無し管でもよい。
熱間圧延後の熱処理(熱延板焼鈍)を700℃超の温度で実施すると、{111}±10°方位粒が過度に生成される一方、{110}±10°方位粒を十分に確保できない場合がある。特に{110}±10°方位粒は歪エネルギーの高い結晶粒界から再結晶しやすい。したがって、{110}±10°方位粒を所定量確保するためには、熱間圧延後の熱処理を省略もしくは熱間圧延時の歪エネルギーが解消しない700℃以下で熱処理をした後、冷間圧延を施す。
また、冷間圧延率が30%未満であると、{110}±10°方位粒の生成が進行せず、十分な量を確保することが難しいことに加え、仕上げ焼鈍後に異常粒成長を生じて結晶粒が粗大化する場合もある。また冷間圧延率が80%超の場合は{110}±10°方位粒の生成を促進できるものの、鋼の加工性を阻害する場合もある。冷間圧延の生産性及び材料特性を考慮すると冷間圧延率は40%〜75%の範囲がより好ましい。
また冷間圧延後の仕上げ焼鈍温度は、特には規定しないが850℃〜1000℃の範囲が好ましい。
なお、本実施形態において熱延板焼鈍や仕上げ焼鈍時の雰囲気は特に規定するものではないが、大気中、LNG燃料雰囲気、水素や窒素、アルゴン等を用いた無酸化性雰囲気(光輝焼鈍)であることが好ましい。
なお、本実施形態において熱延板焼鈍や仕上げ焼鈍時の雰囲気は特に規定するものではないが、大気中、LNG燃料雰囲気、水素や窒素、アルゴン等を用いた無酸化性雰囲気(光輝焼鈍)であることが好ましい。
仕上げ焼鈍後に機械研磨を実施することで鋼板表面に転位が導入されて原子の拡散が促進される。その結果、その後の大気放置もしくは酸浸漬工程において形成される不働態皮膜中においてCrだけではなくAl、Siの濃度も高めることができる。好ましくは冷間圧延および仕上げ焼鈍後に機械研磨を実施し、さらに酸浸漬工程を実施する。
機械研磨は、100番以下の番手の研磨材を用い、例えばコイルグラインダーを1パス実施する。転位をより導入し、不働態皮膜中のCrやAl、Siの濃度を高める観点から、研磨材の番手は♯80以下が好ましく、♯30以下がより好ましい。
機械研磨は、100番以下の番手の研磨材を用い、例えばコイルグラインダーを1パス実施する。転位をより導入し、不働態皮膜中のCrやAl、Siの濃度を高める観点から、研磨材の番手は♯80以下が好ましく、♯30以下がより好ましい。
機械研磨後の酸浸漬工程は、上記処置(A)または処理(B)の少なくとも一方を実施する。すなわち、機械研磨後、上記処置(A)または処理(B)の何れか一方でもよく、両方実施してもよい。処置(A)、処理(B)ともに実施する場合の順序は問わず、例えば処理(A)に次いで処理(B)を実施してよい。なお、硫酸水溶液および硝フッ酸水溶液の温度は40〜90℃としてよい。また、硝フッ酸水溶液中のHNO3の濃度は、1〜20質量%、HFの濃度は0.5〜10質量%としてもよい。
なお、機械研磨をせずに、上記処理(A)、(B)を実施しただけでは、上述した
原子の拡散促進効果を得られないまま酸浸漬を行うことなるため、不働態皮膜中のCr、AlおよびSiの濃化は達成できない。
なお、機械研磨をせずに、上記処理(A)、(B)を実施しただけでは、上述した
原子の拡散促進効果を得られないまま酸浸漬を行うことなるため、不働態皮膜中のCr、AlおよびSiの濃化は達成できない。
以上説明した製造方法により、本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
本実施形態によれば、二酸化炭素、一酸化炭素、多量の水素、ならびに硫化成分を含む環境(浸炭性/還元性/硫化性環境)下であっても、高い耐酸化性と優れた高温強度を兼備したフェライト系ステンレス鋼板を提供することができる。特に、再結晶集合組織を適正に制御することによって、より優れた高温強度を享受することができ、不働態皮膜中及び不働態皮膜直下の鋼板表層部において、Cr、Al、Siの各濃度を制御することによって、より優れた耐酸化性を享受することができる。
さらに、本実施形態によれば、成分組成の適正化を図ることで、σ相析出や475℃脆性を抑制可能とする優れた組織安定性をも享受することが可能となる。
そのため、都市ガス、メタン、天然ガス、プロパン、灯油、ガソリン等の炭化水素系燃料を水素に改質する際に使用される燃料改質器、熱交換器などの燃料電池部材に好適であり、特に、運転温度が高温となる固体酸化物型燃料電池(SOFC)や固体高分子型燃料電池(PEFC)の高温部材に好適である。さらに、燃料電池の周辺部材、例えばバーナーや当該バーナーを格納する燃焼器等、改質ガスに接しかつ高温の環境下で使用される部材全般において好適に用いることができる。
さらに、本実施形態によれば、成分組成の適正化を図ることで、σ相析出や475℃脆性を抑制可能とする優れた組織安定性をも享受することが可能となる。
そのため、都市ガス、メタン、天然ガス、プロパン、灯油、ガソリン等の炭化水素系燃料を水素に改質する際に使用される燃料改質器、熱交換器などの燃料電池部材に好適であり、特に、運転温度が高温となる固体酸化物型燃料電池(SOFC)や固体高分子型燃料電池(PEFC)の高温部材に好適である。さらに、燃料電池の周辺部材、例えばバーナーや当該バーナーを格納する燃焼器等、改質ガスに接しかつ高温の環境下で使用される部材全般において好適に用いることができる。
次に本発明の実施例を示すが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
なお、下記にて示す表中の下線は、本発明の範囲から外れているものを示す。
なお、下記にて示す表中の下線は、本発明の範囲から外れているものを示す。
表1に成分を示す各種フェライト系ステンレス鋼を溶製し(鋼A〜O)、熱間圧延によって2.0〜4.0mm厚の熱延板とした後、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延を行い板厚0.8mm〜1.5mmの冷延鋼板を製造した。熱延板焼鈍の処理温度、冷間圧延時の圧下率(冷延圧下率)は、表2に示すとおりとした。
冷間圧延後、900〜1000℃で仕上げ焼鈍を行い、得られた冷延鋼板に対し、表2に示す条件にて、機械研磨(♯80)ならびに酸浸漬工程(処理(A)、処理(B))を行い仕上げ鋼板(No.1〜21)とした。
得られた仕上げ鋼板について、集合組織、鋼板表層部の組成、不働態皮膜における、Al1s軌道のΔEAl、Si1s軌道のΔESi、Alの酸化物ピークの半価幅(AlFWHM)、Si酸化物ピークの半価幅(SiFWHM)のそれぞれについて測定し、さらに各種特性について評価した。
冷間圧延後、900〜1000℃で仕上げ焼鈍を行い、得られた冷延鋼板に対し、表2に示す条件にて、機械研磨(♯80)ならびに酸浸漬工程(処理(A)、処理(B))を行い仕上げ鋼板(No.1〜21)とした。
得られた仕上げ鋼板について、集合組織、鋼板表層部の組成、不働態皮膜における、Al1s軌道のΔEAl、Si1s軌道のΔESi、Alの酸化物ピークの半価幅(AlFWHM)、Si酸化物ピークの半価幅(SiFWHM)のそれぞれについて測定し、さらに各種特性について評価した。
処理(A):10〜50質量%のH2SO4を含む90℃以下の硫酸水溶液中への浸漬
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHFを含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬
なお、表2において「〇」は各処理を実施したこと、「−」は実施しなかったことを表している。
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHFを含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬
なお、表2において「〇」は各処理を実施したこと、「−」は実施しなかったことを表している。
[集合組織]
{111}±10°方位粒ならびに{110}±10°方位粒の面積率については、電子線後方散乱回折法(以下、EBSD法)を用いて解析を行った。
まず、板厚中心部における鋼板表面に平行な面(L断面)において、走査型電子顕微鏡とEBSD検出器で構成された装置を用い、板幅方向850μm、圧延方向2250μmの測定領域で倍率100として測定を行った。次いで、測定データを、EBSD解析ソフトウェアであるOIM−Analysis(TSL社製)を用いて、鋼板表面に平行な面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である結晶粒(すなわち{111}±10°方位粒)の結晶方位マップを表示させてその面積率を算出し。なお、{110}±10°方位粒の面積率についても同様の手法によって算出した。
表2では{111}±10°方位粒の面積率を「{111}%」、{110}±10°方位粒の面積率を「{110}%」と表記している。
{111}±10°方位粒ならびに{110}±10°方位粒の面積率については、電子線後方散乱回折法(以下、EBSD法)を用いて解析を行った。
まず、板厚中心部における鋼板表面に平行な面(L断面)において、走査型電子顕微鏡とEBSD検出器で構成された装置を用い、板幅方向850μm、圧延方向2250μmの測定領域で倍率100として測定を行った。次いで、測定データを、EBSD解析ソフトウェアであるOIM−Analysis(TSL社製)を用いて、鋼板表面に平行な面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である結晶粒(すなわち{111}±10°方位粒)の結晶方位マップを表示させてその面積率を算出し。なお、{110}±10°方位粒の面積率についても同様の手法によって算出した。
表2では{111}±10°方位粒の面積率を「{111}%」、{110}±10°方位粒の面積率を「{110}%」と表記している。
[鋼板表層部の組成(Cr、Al、Si最大濃度)]
鋼板表層部(鋼板表面から深さ30nmまでの領域)におけるCr、Al、Siの最大濃度(Crm、Alm、Sim)は、グロー放電発光分光法(GDS分析法)によって、鋼板表面から深さ30nmまで、深さ方向への各元素の濃度プロファイルを測定して求めた。具体的には、まず、GDS分析によって検出したFe,Cr,Mn,Si,Al,Ti,Nb,C,N,Oのうち、C,N,Oを除いた各元素プロファイルを作成した。その上で、鋼板表面から30nm深さまでの領域の範囲内でCr、Al、Si濃度が最大値を示すそれぞれの各位置の値を「Cr最大濃度(Crm)」、「Al最大濃度(Alm)」、「Si最大濃度(Sim)」とした。
鋼板表層部(鋼板表面から深さ30nmまでの領域)におけるCr、Al、Siの最大濃度(Crm、Alm、Sim)は、グロー放電発光分光法(GDS分析法)によって、鋼板表面から深さ30nmまで、深さ方向への各元素の濃度プロファイルを測定して求めた。具体的には、まず、GDS分析によって検出したFe,Cr,Mn,Si,Al,Ti,Nb,C,N,Oのうち、C,N,Oを除いた各元素プロファイルを作成した。その上で、鋼板表面から30nm深さまでの領域の範囲内でCr、Al、Si濃度が最大値を示すそれぞれの各位置の値を「Cr最大濃度(Crm)」、「Al最大濃度(Alm)」、「Si最大濃度(Sim)」とした。
[ΔEAl、ΔESi、Al、Siの酸化物ピークの半価幅(AlFWHM、SiFWHM)]
不働態皮膜における、AlとSiの存在状態を調べるべく、硬X線光電子分光法によって不働態皮膜を測定した。硬X線光電子分光法の測定は、硬X線光電子分光装置(Scienta Omicron社製「R−4000」)を用い、以下の条件にて行った。
得られたAl1s軌道とSi1s軌道それぞれの光電子スペクトルにおいて、不働態皮膜中における酸化物ピークと、不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl、ΔESi(eV)を求めた。具体的には、得られる光電子スペクトルにおいてピークを分離し、金属ピークと酸化物ピークの頂点(ピークトップ)のエネルギー差を求めることでΔEAl、ΔESi(eV)を算出できる。
また、Al1s軌道の酸化物ピークの半価幅(AlFWHM)、Si1s軌道の酸化物ピークの半価幅(SiFWHM)についてピークフィッティングにより求めた。ピークフィッティング(フィッティング関数;ガウス関数、ローレンツ関数)には、データ解析ソフト(アルバック・ファイ社社製、「Multi Pack」)を用いた。
不働態皮膜における、AlとSiの存在状態を調べるべく、硬X線光電子分光法によって不働態皮膜を測定した。硬X線光電子分光法の測定は、硬X線光電子分光装置(Scienta Omicron社製「R−4000」)を用い、以下の条件にて行った。
得られたAl1s軌道とSi1s軌道それぞれの光電子スペクトルにおいて、不働態皮膜中における酸化物ピークと、不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl、ΔESi(eV)を求めた。具体的には、得られる光電子スペクトルにおいてピークを分離し、金属ピークと酸化物ピークの頂点(ピークトップ)のエネルギー差を求めることでΔEAl、ΔESi(eV)を算出できる。
また、Al1s軌道の酸化物ピークの半価幅(AlFWHM)、Si1s軌道の酸化物ピークの半価幅(SiFWHM)についてピークフィッティングにより求めた。ピークフィッティング(フィッティング関数;ガウス関数、ローレンツ関数)には、データ解析ソフト(アルバック・ファイ社社製、「Multi Pack」)を用いた。
Al1s軌道とSi1s軌道の光電子スペクトルの例として、図1、2にそれぞれ、本発明例No.6における、Al1s軌道の光電子スペクトル、Si1s軌道の光電子スペクトルを示す。本実施例では、図1、2に示すような光電子スペクトルから、ΔEAl、ΔESi(eV)ならびに各半価幅を求めた。なお、図1、2の縦軸の「E+05」は「×105」であることを意味する。
<硬X線光電子分光法の測定条件>
・励起X線のエネルギー:7939.06eV
・光電子取り出し角度(TOA):80°
・アナライザースリット:curved0.5mm
・アナライザーパスエネルギー:200eV
・励起X線のエネルギー:7939.06eV
・光電子取り出し角度(TOA):80°
・アナライザースリット:curved0.5mm
・アナライザーパスエネルギー:200eV
[耐酸化性]
まず仕上げ鋼板から幅20mm、長さ25mmの酸化試験片を切り出し酸化試験に供した。酸化試験の雰囲気は、都市ガスを燃料とした改質ガスを想定した28体積%H2O−10%体積%CO−8体積%CO2−0.01H2S−bal.H2の雰囲気とした。当該雰囲気において、酸化試験片を800℃に加熱し、1000時間保持した後に室温まで冷却し、酸化増量ΔW(mg/cm2)を測定した。
耐酸化性の評価は以下の通りとした。
◎:重量増加ΔWが0.2mg/cm2未満。
〇:重量増加ΔWが0.2〜0.3mg/cm2。
×:重量増加ΔWが0.3mg/cm2超。
なお、耐酸化性は「◎」および「〇」の場合を合格とした。
まず仕上げ鋼板から幅20mm、長さ25mmの酸化試験片を切り出し酸化試験に供した。酸化試験の雰囲気は、都市ガスを燃料とした改質ガスを想定した28体積%H2O−10%体積%CO−8体積%CO2−0.01H2S−bal.H2の雰囲気とした。当該雰囲気において、酸化試験片を800℃に加熱し、1000時間保持した後に室温まで冷却し、酸化増量ΔW(mg/cm2)を測定した。
耐酸化性の評価は以下の通りとした。
◎:重量増加ΔWが0.2mg/cm2未満。
〇:重量増加ΔWが0.2〜0.3mg/cm2。
×:重量増加ΔWが0.3mg/cm2超。
なお、耐酸化性は「◎」および「〇」の場合を合格とした。
[高温強度]
仕上げ鋼板から、圧延方向を長手方向とする板状の高温引張試験片(板厚0.8〜1.5mm、平行部幅:10.5mm、平行部長さ:35mm)を作製し、750℃、および800℃それぞれにて高温引張試験を行った。具体的には、ひずみ速度は、0.2%耐力まで0.3%/min、以降3mm/minとして高温引張試験を行い、各温度における0.2%耐力(750℃耐力、800℃耐力)を測定した(JIS G 0567に準拠)。
高温強度の評価は、750℃耐力が130MPa超、かつ800℃耐力が45MPa超の場合を合格(「〇」)として評価し、いずか一方でも満たさない場合は不合格(「×」)として評価した。なお、750℃耐力が150MPa超、かつ800℃耐力が60MPa超の場合は高温強度が特に優れているものとして評価した(表2中で「◎」表記)。
仕上げ鋼板から、圧延方向を長手方向とする板状の高温引張試験片(板厚0.8〜1.5mm、平行部幅:10.5mm、平行部長さ:35mm)を作製し、750℃、および800℃それぞれにて高温引張試験を行った。具体的には、ひずみ速度は、0.2%耐力まで0.3%/min、以降3mm/minとして高温引張試験を行い、各温度における0.2%耐力(750℃耐力、800℃耐力)を測定した(JIS G 0567に準拠)。
高温強度の評価は、750℃耐力が130MPa超、かつ800℃耐力が45MPa超の場合を合格(「〇」)として評価し、いずか一方でも満たさない場合は不合格(「×」)として評価した。なお、750℃耐力が150MPa超、かつ800℃耐力が60MPa超の場合は高温強度が特に優れているものとして評価した(表2中で「◎」表記)。
[組織安定性(σ脆性/475℃脆性)]
仕上げ鋼板から、板面と垂直な断面上の中心(板厚中心部:t/2付近)を観察できるよう試料を2つ採取して、一方は、500℃×1000時間の熱処理(500℃熱処理)、もう一方は650℃×1000時間の熱処理(600℃熱処理)を行った。これら熱処理の雰囲気はともに大気中とした。次に、熱処理後の各試料を樹脂に埋め研磨した後、500℃熱処理後のビッカース硬さHv500℃、650℃熱処理後のビッカース硬さHv650℃それぞれをJIS Z 2244に準拠して荷重9.8Nで測定し、熱処理前に予め測定しておいた熱処理前ビッカース硬さからの硬さ上昇量ΔHv500℃、ΔHv650℃を算出した。
組織安定性(σ脆性/475℃脆性)の評価は、ΔHv500℃、ΔHv650℃ともに20未満のものを合格(「〇」)として評価し、いずか一方でも20以上であった場合は熱処理後の硬さ上昇が大きく組織が不安定であるとして不合格(「×」)とした。
仕上げ鋼板から、板面と垂直な断面上の中心(板厚中心部:t/2付近)を観察できるよう試料を2つ採取して、一方は、500℃×1000時間の熱処理(500℃熱処理)、もう一方は650℃×1000時間の熱処理(600℃熱処理)を行った。これら熱処理の雰囲気はともに大気中とした。次に、熱処理後の各試料を樹脂に埋め研磨した後、500℃熱処理後のビッカース硬さHv500℃、650℃熱処理後のビッカース硬さHv650℃それぞれをJIS Z 2244に準拠して荷重9.8Nで測定し、熱処理前に予め測定しておいた熱処理前ビッカース硬さからの硬さ上昇量ΔHv500℃、ΔHv650℃を算出した。
組織安定性(σ脆性/475℃脆性)の評価は、ΔHv500℃、ΔHv650℃ともに20未満のものを合格(「〇」)として評価し、いずか一方でも20以上であった場合は熱処理後の硬さ上昇が大きく組織が不安定であるとして不合格(「×」)とした。
得られた評価結果は表2の通りである。
No.1、4、5、7〜9、11〜14は、本発明で規定する成分、集合組織および表層部の組成を満たし、すべての特性の評価は「○」あるいは「◎」となったものである。中でも、No.5、11、13は、表層部の組成に加え、不働態皮膜における、AlとSiの存在状態(ΔEAl、ΔESi、各半価幅)が本発明の好適な範囲内である場合であり、耐酸化性の向上効果を顕著に発現でき、その評価は「◎」となった。
No.1、4、5、7〜9、11〜14は、本発明で規定する成分、集合組織および表層部の組成を満たし、すべての特性の評価は「○」あるいは「◎」となったものである。中でも、No.5、11、13は、表層部の組成に加え、不働態皮膜における、AlとSiの存在状態(ΔEAl、ΔESi、各半価幅)が本発明の好適な範囲内である場合であり、耐酸化性の向上効果を顕著に発現でき、その評価は「◎」となった。
一方、No.2、3、6、10、15は、本発明で規定する製造条件から外れ、本発明の目標とする表層部組成を満足できなかった例であり、耐酸化性(800℃)の評価が「×」となった。また、鋼No,16〜21は、本発明で規定する鋼成分から外れるものであり、本発明の目標とする各特性を両立することができず、いずれかの評価が「×」となった。
Claims (10)
- 質量%にて、
Cr:12.0〜16.0%、
C:0.020%以下、
Si:2.50%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0030%以下、
Al:2.50%以下、
N:0.030%以下、
Nb:0.001〜1.00%、
Ni:0〜1.0%、
Cu:0〜1.0%、
Mo:0〜1.0%、
Sb:0〜0.5%、
W:0〜1.0%、
Co:0〜0.5%、
V:0〜0.5%、
Ti:0〜0.5%、
Zr:0〜0.5%、
La:0〜0.1%、
Y:0〜0.1%、
Hf:0〜0.1%、
REM:0〜0.1%
を含み、さらに
B:0.0200%以下、
Sn:0.20%以下、
Ga:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下、
Ca:0.0100%以下
の2種以上を含み、かつ下記式(1)を満たし、残部がFeおよび不純物からなり、
鋼板表面から深さ30nmまで領域であって不働態皮膜を含む表層部における、Cr、AlおよびSiの各最大濃度Crm、Alm、Sim(質量%)が、下記式(2)および下記式(3)を満たし、
板厚中心部の集合組織が下記の条件(A)および(B)を満たすことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
10(B+Ga)+Sn+Mg+Ca>0.020 ・・・(1)
15.0<Crm(質量%)<55.0 ・・・(2)
3.0<Alm+Sim(質量%)<30.0 ・・・(3)
(A)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{111}面方位との角度差が10°以内である{111}±10°方位粒の面積率が20%超60%未満。
(B)板厚中心部において、鋼板表面の法線方向と{110}面方位との角度差が10°以内である{110}±10°方位粒の面積率が0.5%超5%未満。
なお、上記式(1)中の各元素記号は、鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。 - 質量%にて、前記B:0.0002%以上であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 質量%にて、前記Si:0.5%以上、前記Al:1%以上、前記Nb:0.15%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 質量%にて、更に、Ni:0.10〜1.0%、Cu:0.10〜1.0%、Mo:0.10〜1.0%、Sb:0.01〜0.5%、W:0.10〜1.0%、Co:0.10〜0.5%、V:0.10〜0.5%、Ti:0.01〜0.5%、Zr:0.01〜0.5%、La:0.001〜0.1%以下、Y:0.001〜0.1%、Hf:0.001〜0.1%、REM:0.001〜0.1%の1種または2種以上含有していることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 7939eVの硬X線を用いた硬X線光電子分光法で測定したとき、
Al1s軌道の光電子スペクトルにおいて、前記不働態皮膜中における酸化物ピークと、前記不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔEAl(eV)が1.5<ΔEAl<3.0であり、
Si1s軌道の光電子スペクトルにおいて、前記不働態皮膜における酸化物ピークと、前記不働態皮膜下の母材中における金属ピークとの結合エネルギーの差ΔESi(eV)が1.0<ΔESi<4.0であり、
前記Al1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークの半価幅が2.5eV未満であり、
前記Si1s軌道の光電子スペクトルの酸化物ピークの半価幅が2.5eV未満であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 - 燃料改質器、熱交換器あるいは燃料電池部材に適用されること特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 燃焼器、あるいはバーナーの部材に適用されること特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成を有するステンレス鋼材を熱間圧延した後、熱処理を省略もしくは700℃以下で熱処理し、その後に圧延率30〜80%の冷間圧延と仕上げ焼鈍を順次行い、引き続き、♯100以下の研磨材で研磨を施し、次いで、下記の処理(A)または処理(B)の少なくとも一方を実施することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
処理(A):10〜50質量%のH2SO4を含む90℃以下の硫酸水溶液中への浸漬
処理(B):1質量%以上のHNO3および0.5質量%以上のHF含む90℃以下の硝フッ酸水溶液中への浸漬 - 前記仕上げ焼鈍を700〜1100℃で行うことを特徴とする請求項8に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板を用いた燃料電池用部材。
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